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第 2 章 目次
2. 本技術開発作業の位置づけ ...........................................................................................................2-1
2. 本技術開発作業の位置づけ
ヒートアイランド現象は、緑地の減少や地表面の不透水地化や人工排熱の増加にともなっ
て高温化した都市部と郊外部の地表面温度差により局地風系が形成され、自然冷気の都市部
への侵入が阻害されることで都市気温が上昇するメソスケール(数 km~数百 km)の現象と、
建物が密集化した市街地で閉鎖的な街区空間が形成され、換気効率が低下した上に人工排熱
やコンクリート等の人工素材からの夜間の放熱などが加わって発生する街区スケール(数
10m~数 100m)の高温化現象が絡み合って起きる複雑な現象である。
その対策のための予測シミュレーションとして、従来提唱・実用化されてきたモデルの代
表として、メソスケールモデルと都市キャノピーモデルがあげられる。
メソスケールモデルは、地表面を粗度を持つ平板地表として近似した上で、1km 以上の比
較的粗いメッシュで気象を予測するものである。そのため、例えば関東地方・中部地方とい
った広域スケールにわたりシミュレーションを行うことが可能である。それに対して都市キ
ャノピーモデルでは、メソスケール気象モデルによる上空気象場の予測結果を上端境界条件
とし、街区空間(都市キャノピー層)の気象予測を行うモデルである。本モデルは街区空間
を鉛直方向にメッシュ分割した一次元的なもので、
数 100m 水平スケールの各街区格子内で、
建物による風速低減効果や日陰・日射反射などの放射環境を考慮した詳細な計算が可能であ
る。
衛星データはこのようなシミュレーションモデルに対する入力データとして同時性や広域
性、最新性などにおいて有用であり、実用化が望まれている。そこで、第一に現在実利用可
能なアプローチとして衛星データと既存地理情報を組合せ、土地被覆の高度化に取り組んだ
(第 3 章~第 6 章)。表 2-1 に平成 18 年度の開発作業における土地被覆項目の一覧表を示す。
第二にリモートセンシング技術の現状のニーズをまとめるとともに都市の熱を直接把握でき
る熱環境マップを作成した(第 7 章)。
土地被覆については、シミュレーションモデルに対する土地被覆情報の入力データとして、
分類項目と地表面パラメータが一意に対応することが望ましい。このため、平成 18 年度はメ
ソスケールモデルへの入力要件となる土地被覆データの整備を主眼とし、都市キャノピーモ
デルへの適用の可能性も鑑みつつ、平成 17 年度に開発した分類手法に対して、特に交通用地
や建物データの細分化など、熱環境への適用を念頭にした改良などを加えることで、土地被
覆データと地表面パラメータの対応関係がより良好になるような改善を検討することとした。
なお、ヒートアイランドの研究が進んできた現在、シミュレーションの流れはマクロ的な
メソスケールモデルから、街区スケールの気象の再現性の高い CFD(計算流体力学,
Comuterized Fluid Dynamics)モデルに向かっている。現状では CFD モデルに必要な 5m 解像
度で、総合的な観点で土地被覆分類において実利用可能な衛星データが存在しないため、衛
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星データによる土地被覆データを直接的に CFD モデルに適用することは困難である。今後、
適切な衛星データが利用可能になった際には、本開発作業で開発された手法をベースとして、
解像度の違いなどに関する手法の調整を加えるなど、CFD モデルへのインプットデータを作
成する手法を検討する必要がある。
リモートセンシング技術の現状については、ヒートアイランド対策のための都市圏レベル
(10-100km 四方スケール)の環境データベースの現状と将来の動向について整理するとと
もに、環境データベースを構成する地理情報の取得に関するリモートセンシング技術の現状
について既往研究のとりまとめを行い、さらにこれらの検討結果を踏まえて今後のリモート
センシング技術の課題について整理し、方向性をまとめることとした。
また、リモートセンシングによるヒートアイランドの解析事例として、昼夜二時期の
ASTER データ(熱画像)を用いて都市の規模、形成過程、構造の違いによるヒートアイラン
ド現象の違いを可視化するマップの作成を行うこととした。
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表 2-1 平成 18 年度地球観測衛星データによる広域熱環境把握技術の開発作業・土地被覆項目一覧表
土地被覆分類項目
定義
森林
ヒートアイランドの見地から見た土地被覆の特性
(参考)国土数値情報の定義
(5 森林)
・広葉樹林、針葉樹林、竹林、しゅろ科樹林:高さ2m以上の多年生植物の密生じている地域。ただし、植林地帯等においては、
樹高が2m以下であっても森林とする。
・はい松地:はい松またはわい松の生育している土地
(3 果樹園)りんご、梨、桃、ブドウ等の果樹を栽培する土地。
(4 その他の樹木畑)
・桑畑・茶畑:桑または茶を栽培している土地。
・その他の樹木畑:桐、はぜ、こうぞ、しゅろ等を栽培する土地および苗木畑。
(6 荒地)
・しの地:高さ2m以下の竹、笹の密生している土地。
・荒地:雑草地、裸地等をいい、湿地、沼地等で水草が点々と生えている地域を含む。
常緑樹林
年間を通して葉をつける木、すなわち常緑樹が樹高 2m
以上で密生している森林。
植生の蒸散と樹葉による緑陰の作用による気候の緩和効果を有してお
りクールスポットとなる。常緑樹は冬季においても樹葉を保つため放射
冷却が起きにくい。
落葉樹林
一定の季節(通常冬)に一斉に葉を落とす木、すなわち
落葉樹が樹高 2m 以上で密生している森林。
植生の蒸散と樹葉による緑陰の作用による気候の緩和効果を有してお
りクールスポットとなる。落葉樹は冬季は常緑樹に比べ放射冷却が起き
やすい。
高さ 2m 以下の植生が卓越する土地。放牧地、牧草地、
原野、レクレーション用地を含む。
森林に比べて蒸散量は少ないため気候の緩和効果は比較的少ないと考
えられる。また夜間は森林に比べ放射冷却効果が大きい。
畑
麦、陸稲、野菜等を栽培する土地。
森林に比べて蒸散量は少ないため気候の緩和効果は比較的少ないと考
えられる。また夜間は森林に比べ放射冷却効果が大きい。植生が少ない
あるいは無い期間もありこの場合は裸地となる。
田
水稲、蓮、い草、わさび、せり等を栽培している土地、 地域により差があるが 5 月頃から 9 月頃にかけて湛水し、水面からの蒸
季節により畑作物を栽培する土地を含む。
発と植生の蒸散により気候の緩和効果を有する。秋冬は裸地となる。
草地
(2 畑)
・畑:麦、陸稲、野菜等を栽培する土地をいい、牧草を栽培する草地、芝地を含む。
・空地(一部):家屋周辺の樹木その他の植物の存しない土地(明確に空地と判断できるものは畑としない)。
(1 田)湿田、乾田、沼田、蓮田および田をいい、季節により畑作物を栽培するものを含む。
不透水地
道路
自動車等の交通のために設けた地上の通路。
アスファルト道路は日射蓄熱量が大きく、ヒートアイランド効果を高め
る。自動車からの排熱はヒートアイランド効果を高める。
(9 幹線交通用地)
・道路:幅員 11m以上の記号道路、幅員 25m以上の真幅道路、幹線道路に附随するインターチェンジ、駐車場等の用地。"
鉄道
車両の走行のため、レールを設けた軌道及び索道。
鉄道敷は日射蓄熱量が大きく、ヒートアイランド効果を高める。鉄道車
両からの排熱はヒートアイランド効果を高める。
(9 幹線交通用地)
・鉄道:鉄道、駅舎、操車場、側線等の鉄道に関連する用地。
低層建物
高さ 10m 未満の居住その他の目的を持って構築された
建築物及び総描建物。国土地理院 1:25,000 地形図の図
式では独立建物(大)、建物類似の構造物、総描建物
(大)、独立建物(小)、総描建物(小)が属する。
低層建物には木造といった熱容量の小さい建材が比較的多く使われ、建
物外壁に使われる日射の蓄熱がコンクリートといた建材と比較し熱容
量が少ない。建物におけるエネルギー消費は排熱の原因となる。
中高層建物
高さ 10m 以上の居住その他の目的を持って構築された
建築物。国土地理院 1:25,000 地形図の図式では中高層
建物、中高層建物街が属する。
高中層建物は RC 構造を主体とし、コンクリートといった熱容量の大き
な建材が比較多く使われる。建物外側に使われると日射の蓄熱が大き
く、夜間も表面温度が下がりにくい。建物におけるエネルギー消費は排
熱の原因となる。
(7 建物用地 A)
・総描建物:住宅街、市街地等で建物が密集していて個々の区別がつきにくい場合、これを総描して表示した建物。
・独立建物(大):工場、学校等個々の区別がつけられるもの又区別する必要のある建物(長辺 50m以上)。
・高層建物:3階以上の独立建物。
・住宅団地:住宅団地(長辺 50m以上)は街区全域を計上。
・建物類似の構築物:飛行場の格納庫、倉庫、市場、競技場の観覧席、畜舎、温室、側壁のない建物、鉄道道路の雪おおい場等
の建物。
(8 建物用地 B)
・独立建物(小):長辺 50m以下の独立建物。
・2戸以上の家屋:2戸以上の独立建物(小)が近接(相互間隔 13m未満)しているときは、総描して計上する。
・樹林に囲まれた居住地:建物およびその周囲にある防風林、屋敷、森林等を含む地区で他の地区と区別できる地区。
その他
道路、鉄道、低層建物、中高層建物に属さないアスフ
アスファルト、コンクリート等は日射蓄熱量が大きく、ヒートアイラン
ァルト、コンクリート等の不透水地、例えば、駐車場、
ド効果を高める。
コンクリート敷のテラスなど。
裸地
植生が存在しないか、年間を通じて殆どない箇所のう
ち、水域、不透水地のいずれでもない土地。海浜、荒
れ地、砂礫地、岩など。
エネルギー消費が顕著に行われておらず人工排熱はないと考えられる
が、植生の有する気候緩和効果も有しない。
湿地
常に水を含み、土地が軟弱で湿地性の植生が生育して
いる土地。
水面の蒸発及び植生の蒸散による気候の緩和効果を有する。
水面
陸地内に存在する水の部分及び海。
水面の蒸発による気候の緩和効果を有する。
備考
・国土数値情報・平成 14 年 2 万5千分 1 地形図図式等
を参考に作成。
・ヒートアイランドの対策と技術(森山正和編・学芸出版社)等を参考に
作成。
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(6 荒地)
・がけ(土・岩):土砂の崩壊等によって出来た急斜面をいい、人工的につくられた急斜面を含む。
・岩:その一部を地表に露出する岩石および地上に散在する岩石等。
・万年雪:平年なみの気候状態にあっても積雪が残雪もしくは氷塊として越年するもの。
・採鉱地:常に水を含んだじめしめした土地で雨期には水をたたえるところをいい、沼地等を含む。
(10 その他の用地)
・空地:屋敷の周辺の樹林、その他の植物等の存しない土地をいい、学校や工場の敷地、港湾地区、人工造成地等の空地を含む。
・その他:ゴルフ場、運動競技場、空港、競馬場、野球場等の特定地区で建物および水部を除く部分。
(12 河川地(A))
・河川敷(人工利用地は除く):河川区域の河川敷(低水・高水敷、堤防、河川管理施設等)および地形図による河川敷。人工
利用地は含めない。
(13 河川地(B))
・河川敷内の人工利用地:河川敷内にある区分1〜4、7、8である区域および 10 のうち荒地および用途が判定できない空地を
除く区域。
(14 海浜)
・海浜:海岸に接する砂、れき、岩の区域。
(6 荒地)
・湿地:常に水を含んだじめしめした土地で雨期には水をたたえるところをいい、沼地等を含む。
(11 湖沼)
・湖沼・池:自然湖、人造湖、池、養魚場等で平水時において常に水をたたえているところ(河川区域内の人工湖は含まない)。
(15 海水域)
・海水域:隠顕岩、干潟、水面利用、シーバースも含める。