Ⅰ−④ 気中有害化学物質の分析法の検討 1)気中塩素濃度の測定

Ⅰ−④ 気中有害化学物質の分析法の検討
気中有害物による中毒事故発生時に物質を同定する場合,GC-MS による測定と同時に,
GC-MS では測定できないケースを想定して,数種類の検知管で簡易的に測定を行なう。こ
の時,検知管測定で反応があれば確認検査が必要になる。今年度は,1)塩素ガス,および,
2)シアン化水素の確認検査についてマニュアル化するとともに試薬の保存性について検討
を行なった。また併せて,3)気中の揮発性有機化合物(VOC)の一斉分析法について検討
した。なお,有害ガス・蒸気の捕集とその安全対策(防護具類)の検討については,Ⅰ−⑤
に記述する。
1)気中塩素濃度の測定(ABTS 法)
塩素の測定には,①オルト-トリジン法,②
ABTS 法,③メチルオレンジ法がある。ここで
は,作業環境測定に用いられている ABTS 法
を使用することとした。
この溶液の有効塩素濃度を下記の方法で
標定する。
5) 標準液 : 標準原液を精製水で希釈し,
塩素濃度を 10µg/ml とする。
6) 指示薬 : でん粉1g に水 100ml を加え,
煮沸して溶かす。
1.試 薬
・2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリ
ン-6-スルホン酸)
(ABTS)
3.標準原液の標定
1) 標準原液 10.0ml を共栓三角フラスコ
・中性リン酸塩標準液(pH6.86/25℃)
(100ml)にとり,ヨウ化カリウム 0.2g
・硫酸
および 20%塩酸 1ml を加えて栓をして
・次亜塩素酸ナリリウム溶液(アンチホル
5分間程度放置する。
2) ビューレットを用いて 0.01M チオ硫酸
ミン)
・ヨウ化カリウム
ナトリウム溶液で滴定する。指示薬はで
・塩酸
ん粉溶液であり,ヨードでん粉色が消失
・でん粉(溶性)
した時点のチオ硫酸ナトリウム溶液量
・0.01M チオ硫酸ナトリウム(力価を測定
Vml を求める。
したもの)
3) 次式で有効塩素濃度を算出する。
2.試薬の調製
1) ABTS 溶液
: ABTS0.1g を秤量し,中
性リン酸塩標準液で 100ml に溶解する。
2) 0.25M 硫酸: 硫酸 1.4ml を精製水で
有効塩素濃度(mg/ml)=
35.46×0.01×(V-V0)×f /10
(但し V0=ブランク試験値,f =力価)
100ml にする。
3) 吸収液 : ABTS 溶液 10ml と 0.25M 硫
酸 1ml を精製水で 100ml にする。
4) 標準原液 : 次亜塩素酸ナリリウム溶液
0.5ml を精製水で 100ml にする。
4.試料のサンプリング
吸収液 10ml を入れたバブラーを2本連結し,
1ml/min 以下の一定流量で空気を吸引する。
5.定 量
塩素の検量線
1) 以 下 の よ うな 標 準 系 列 を 作 り , 波 長
0.8
410nm で吸光度を測定する。
濃度(µg/ml)
0
0.1
0.2
0.5
1.0
標準液(ml)
0
0.2
0.4
1.0
2.0
吸収液(ml) 20.0
19.8
19.6 19.0 18.0
2) サンプリングしたバブラー中の吸収液を
試料液とし,吸光度を2本,別々に測定す
る。
3) 次式により,気中塩素濃度を算出する。
吸光度
0.7
当日
1週間後
2週間後
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
最終溶液中塩素濃度(mg/ml)
1.2
検量線は,直線性はあるが,傾きが大きく異な
る。したがって,試薬作成後,1週間以内に測
定する必要がある。
C=
10 c1 1 24.47
× ×
Q
ε 70.91
但し C: 気中塩素濃度(ppm)
c1: 1本目の試料液中塩素濃度
2)気中シアン化水素濃度の測定(ピリ
ジン−ピラゾロン法)
(µg/ml)
ε : 捕集率 1−c2/c1 ( c2 : 2本目の
サンプル中塩素濃度(µg/ml))
Q: 吸引空気量(l)
シアン化水素の測定には,①ピリジン-ピラ
ゾロン法,②バルビツル酸-ピリジン法,③イ
オン電極法がある。ここでは,作業環境測定に
用いられているピリジン-ピラゾロン法を使用
することとした。
6.注意事項
臭素,ヨウ素,二酸化塩素,オゾンなどの酸
化性ガスが混在すると着色され,正確な測定が
妨害される。
1.試 薬
・シアン化カリウム
・水酸化ナトリウム
・酢 酸
7.気中塩素濃度の測定(ABTS 法)における
試薬の保存性の検討
・中性リン酸塩標準液(pH6.86/25℃)
・クロラミン T
1)検討方法
・1-フェニル-3-メチル-5-ピラゾロン
試薬を作成した当日,およびその後 1 週間ご
・ビス(1-フェニル-3-メチル-5-ピラゾロン)
とに,上記マニュアルに従って標準系列を測定
・ピリジン
し,試薬の保存性を検討した。なお,試薬は冷
・ヨウ化カリウム
蔵庫で保存した。
・0.1M 硝酸銀溶液(力価を測定したもの)
2)検討結果
結果を図に示す。試薬作成当日および1週間
後の検量線はいずれも直線性があり,かつ傾き
も同程度である。しかし,試薬作成2週間後の
2.試薬の調製
1) 吸収液
: 水酸化ナトリウム 4g を精製
水で 1 L とする。
2) 3%酢酸 : 酢酸 3ml を精製水で 100ml
とする。
3) クロラミン T 溶液: クロラミン T 0.25g
5.定 量
1) 以下のような標準系列を共栓試験管に作
る。
を精製水で 20ml とする。
4) ビス(1-フェニル-3-メチル-5-ピラゾロ
CN−濃度(µg/ml) 0
0.2
0.8
2.0
ン)溶液: ビス(1-フェニル-3-メチル-5-
標準液(ml)
0
0.25
1.0
ピラゾロン)0.04g をピリジンで 40ml
吸収液(ml)
5.0
4.75
4.0 2.5
4.0
2.5 5.0
0
とする(温浴中で加熱すれば完全に溶け
る)。
5) ピリジン−ピラゾロン溶液: 1-フェニル
-3-メチル-5-ピラゾロン 0.2g を精製水
80ml に入れ,70℃の温浴中で加熱して
2) ミ ゼ ッ ト イン ピ ン ジ ャ ー 中 の 吸 収 液
10ml から 5ml を共栓試験管に移し試料
液とする。
3) 標準系列および試料液に,3%酢酸 1ml,
溶かした後(完全に溶けなくてもよい),
中性リン酸塩標準液 4ml を加えて混合し
室温にもどす。これにビス(1-フェニル
た後,クロラミン T 溶液 0.2ml を加えて,
-3-メチル-5-ピラゾロン)溶液 16ml を加
直ちに栓をして静かに混合し2∼3分間
える。
放置する。これにピリジン−ピラゾロン
6) 標準原液: シアン化カリウム 0.1g を精
製水で 100ml とする。
7) 標準液 : 標準原液を吸収液で希釈して
CN−濃度が 4.0µg/ml とする。
溶液 5ml を加えて混合し,20∼25℃で
50 分間放置する。
4) 波長 620nm で,標準系列および試料液の
吸光度を測定する。
5) 次式により,気中シアン化水素濃度を算
3.標準原液の標定
出する。
1) 標準原液 10.0ml を共栓三角フラスコ
C=
(100ml)にとり,5%ヨウ化カリウム
0.2ml および 28%アンモニア水 0.5ml を
10 c 24.47
×
Q
26.03
C: 気中シアン化水素濃度(ppm)
加える。
c : 試料液中 CN−濃度(µg/ml)
2) ビューレットを用いて 0.1M 硝酸銀溶液
Q: 吸引空気量(l)
で滴定する。沈殿が消失しなくなった時
点の硝酸銀溶液 Vml を求める。
3) 次式でシアン濃度(CN−濃度)を算出す
る。
CN−濃度(mg/ml)=5.206×(V-V0)×f/10
6.注意事項
塩素,臭素などの酸化性ガス,および硫化水
素が共存すると妨害がある。
(但し V0=ブランク試験値, f =力価)
7.気中シアン化水素濃度の測定(ピリジン−
ピラゾロン法)における試薬の保存性の検
4.試料のサンプリング
吸収液 10ml を入れたミゼットインピンジャ
ーに 0.5∼1ml/min 以下の一定流量で空気を
吸引する。
討
1)検討方法
試薬を作成した当日,およびその後 1 週間ご
とに,上記マニュアルに従って標準系列を測定
し,試薬の保存性を検討した。なお,試薬は冷
蔵庫で保存した。ただし,ピリジン-ピラゾロ
ン液は室温で保存した。
について検討した。
以下に,(1)方法(1.試薬・器具,2.VOC の捕
集,3.対象物質と定量法),(2)結果・考察(1.
2)検討結果
クロマトグラフィ出力,2.検量線の直線性,3.
結果を図に示す。試薬作成当日および1週間
ブランク試験,4.破過試験,5.再現性試験,6.
後の検量線はいずれも直線性があるが,傾きが
保存性試験,7.脱着率試験),(3)まとめ,およ
大きく異なる。したがって,試薬作成当日に測
び,文献を示す。
定する必要がある。
(1)方 法
吸光度
シアン化水素の検量線
1.
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
試薬および器具
空気中 VOC の捕集には柴田科学器械工業製
当日
1週間後
活性炭チューブ
(Organic gas sampler
precutting,JUMBO,20-40 メッシュ,第 1 層
400 mg ,第2層 200 mg) およびデュポン製
P-2500 型携帯用小型吸引ポンプを用いた。二
硫化炭素は,和光純薬工業製作業環境測定用を
用いた。標準には関東化学製室内環境測定用
0
1
2
3
4
5
最終溶液中シアンイオン濃度(mg/ml)
VOCs 混合標準原液 (45 物質混合,各1mg/ml 二
硫化炭素溶液。ただし m-キシレンおよび p-キ
シレンは 0.5 mg/ml。) を使用した。器具はす
べてイオン交換水で洗浄後,アセトンで洗浄し,
乾燥したものを使用した。定容量の二硫化炭素
3)空気中揮発性有機化合物(VOC)の分析
--- GC-MS による一斉分析 ---
の分取には,ガラス製パスツールピペットを接
続したソコレックス製分注器 (0.5∼5.0 ml
用) を使用した。内部標準物質として用いるト
化学物質を製造・使用する工場等の労働現
場では,室内空気を媒介して高濃度の化学物質
に曝露される可能性が高い。また,近年,社会
的に話題となっている「シックハウス症候群」
の発症も室内空気中の化学物質が一つの要因
として考えられている。したがって,曝露され
る空気中化学物質を再現性良く定量する技術
が必要である。
厚生省が 1997∼1998 年度に行った「居住環
境内における揮発性有機化合物の全国実態調
査」1)で用いた方法を参考にして,室内空気中
ルエン-d8 (純度:>99.95%,比重:0.943) は
アルドリッチから供した。
2. VOC の捕集
測定する室内の床上 1.2 ∼ 1.5 m において,
携帯用小型吸引ポンプに連結した活性炭チュ
ーブを用いて,流速 0.1 L/min で 24 時間空気
中 VOC を採取した。捕集後,チューブの両端に
付属のキャップを付けて密栓し,アルミホイル
等で遮光して分析までの期間冷蔵庫に保管し
た。
における 42 種の揮発性有機化合物 (Volatile
3.
Organic Compounds: VOC) のガスクロマトグラ
a) 分析対象物質
フィー/質量分析 (GC/MS) による一斉分析法
対象物質と VOC の定量
以下の 42 物質を測定の対象とした。ただし,
m-キシレンと p-キシレンは混合物として測定
内部標準溶液で 10 倍に希釈した液をマイクロ
した。
シリンジでそれぞれ 0,2,5,10,20 および
脂肪族炭化水素類:n-ヘキサン,2,4-ジメチ
50μl づつ内部標準溶液1ml に添加した。各標
ルペンタン,2,2,4-トリメチルペンタン,
準溶液中の正確な各 VOC 濃度は,それぞれ 0,
n-ヘプタン,n-オクタン,n-ノナン,n-デ
0.20,0.50,0.99,1.96 および 4.76μg/ml と
カン,n-ウンデカン,n-ドデカン,n-トリ
なった。調製は全て冷却下で行った。
デカン,n-テトラデカン,n-ペンタデカン,
n-ヘキサデカン
芳香族炭化水素類:ベンゼン,トルエン,エ
チルベンゼン,m-キシレン,p-キシレン,
o-キシレン,スチレン,1,3,5-トリメチル
ベンゼン,1,2,4- トリメチルベンゼン,
1,2,3-トリメチルベンゼン,1,2,4,5-テト
ラメチルベンゼン
テルペン類:α-ピネン,リモネン
ハロゲン化物
:クロロホルム,1,1,1-トリ
クロロエタン,四塩化炭素,1,2-ジクロロ
エタン,トリクロロエチレン,1,2-ジクロ
ロプロパン,テトラクロロエチレン,クロ
ロジブロモメタン,p-ジクロロベンゼン
d) 試料の調製
活性炭チューブから第1層および第2層に
充填されている活性炭をそれぞれ別々に4ml
の褐色バイアルビンに取り出し,冷却下で 15
分間放置した。内部標準溶液2ml および1ml
をそれぞれ第1層,第2層に加え,ローリン
グミキサーで1時間攪拌し,VOC を抽出した。
その上清を試料溶液とした。分析の際,同じ
製造ロットの未使用のチューブ中の活性炭を
新たに取り出し,同様に処理してブランクと
して用いた。
e) ガスクロマトグラフィ/質量分析(GC/MS)
調製さ れた標 準溶 液およ び試 料溶 液は
エステル類:酢酸エチル,酢酸ブチル
GC/MS に よ り 測 定 し た 。 島 津 製 作 所 製
カルボニル化合物:メチルエチルケトン,メ
GCMS-QP5050A により,下記の条件のもと試料
チルイソブチルケトン,ノナナール,デカ
中の各 VOC を定量した。
ナール
(GC)
GC)カラム:J&W 社製 DB-1 (長さ 60 m×内
アルコール類:1-ブタノール
b) 内部標準溶液の調製
内部標準入り二硫化炭素(内部標準溶液)は,
径 0.25 mm,膜厚 1μm),キャリアーガス:ヘ
リウム,キャリアーガス圧力:111 kPa,全流
量:14.5 ml/min,注入口温度:250℃,注入モ
トルエン-d8 原液 10μl を二硫化炭素 100 ml
ード:スプリットレス (サンプリング 0.5 分,
で希釈し,さらにこの液 0.1ml を二硫化炭素
スプリット比 1:10),カラムオーブン温度:
100 ml に希釈して調製した。内部標準溶液中
40℃(5 分保持)-10℃/分-280℃(5 分保持),イ
のトルエン-d8 の濃度は 0.0943μg/ml となる。
ンターフェイス温度:250℃,注入量:1.0μl。
調製は全て冷却下で行った。
(MS)
MS)イオン化方式:EI,電子電圧:70eV,電
c) 標準溶液の調製
冷却した VOCs 混合標準原液を内部標準溶液
で希釈し,各 VOC 0,0.2,0.5,1.0,2.0 およ
び 5.0μg/ml の濃度 (m-キシレンおよび p-キ
シレンは 2.5μg/ml) の溶液を,テフロンパッ
キンを付属した 4 ml の褐色バイアルビンに調
製し,標準溶液とした。実際には,標準原液を
子電流:60μA,イオン源温度: 190℃,測定
時間:34 min,分析モード:SIM (Selective Ion
Monitoring), サンプリングレート: 0.2 sec,
イオンセット:7 (9.0 min∼11.2,11.2∼12.9,
12.9∼15.0,15.0∼17.6,17.6∼19.8,19.8
∼22.8,22.8∼34.00 min),定量用イオンおよ
び確認用イオン:次頁の表 1 に示す。
f) 定量
試料中の各 VOC 量は内部標準法に
表 1. GC/MSにおける
GC/MSにおける各VOCの定量用イオン
各VOCの定量用イオン
および確認用イオン
より定量した。標準溶液を分析した際
V O C
Methylethylketone
得られる各 VOC の検量線([各 VOC 濃
度(μg/ml) / 内部標準濃度(μg/ml)] Ethylacetate
n-Hexane
(x) −[各 VOC ピーク面積 / 内部標
Chloroform
準ピーク面積] (y))の回帰直線式を 1,2-Dichloroethane
算出した。下式により,試料中の各 2,4-Dimethylpentane
1,1,1-Trichloroethane
VOC 量(ng)を求めた。
Butanol
Benzene
第1層中の各 VOC 量(ng)=[{(試料 Carbon Tetrachloride
中各 VOC のピーク面積/内部標準 1,2-Dichloropropane
のピーク面積)/検量線傾き}×内 Trichloroethylene
2,2,4-Trimethylpentane
部標準の濃度(μg/ml)]×2×1000
n-Heptane
Methylisobutylketone
第2層中の各 VOC 量(ng)=[{(試料 Toluene
中各 VOC のピーク面積/内部標準 Chlorodibromomethane
の ピ ー ク 面 積 ) / 検 量 線 傾 き } Butylacetate
×内部標準の濃度(μg/ml)]×1000 n-Octane
Tetrachloroethylene
Ethylbenzene
第1層と第2層の各 VOC 量の和か m/p-Xylene
ら,試料中の各 VOC 量を算出し,下式 Styrene
により各 VOC の気中濃度 (μg/m3) を o-Xylene
n-Nonane
求めた。
α-pinene
1,3,5-Trimethylbenzene
3
各 VOC 気中濃度(μg/m )=(試料中 1,2,4-Trimethylbenzene
n-Decane
の各 VOC 量−ブランク中の各 VOC
p -Dichlorobenzene
量)/(ポンプの流速(L/min) ×捕 1,2,3-Trimethylbenzene
Limonene
集時間(h) ×60)
Nonanal
n-Undecane
(2)結果および考察
1,2,4,5-Tetramethylbenzene
Decanal
1. クロマトグラフィー
n-Dodecane
標準溶液を測定した際に得られた
n-Tridecane
ト ー タ ル イ オ ン ク ロ マ ト グ ラ ム n-Tetradecane
(TIC) を次頁の図 1 に示した。42 種 n-Pentadecane
n-Hexadecane
の VOC は約 35 分で全て溶出した。TIC
Toluene-d8 (内部標準)
定量用イオン
43
61
57
83
62
43
97
56
78
117
63
130
57
43
43
91
127
43
43
166
91
91
104
91
43
93
105
105
43
146
105
68
57
43
119
43
71
57
43
57
57
98
確認用イオン
72
43
56
85
64
57
99
43
77
119
62
132
41
41
58
92
129
56
57
164
106
106
103
106
57
92
120
120
57
148
120
67
98
57
134
55
85
71
57
71
71
-
ではトリクロロエチレン (定量用イ
オン 130,確認用イオン 132) と 2,2,4-
デカン (同 43 および 57) のピークがそれぞれ
トリメチルペンタン (同 57 および 41)、1,2,4-
重なった。しかし,定量用イオンおよび確認用
トリメチルベンゼン (同 105 および 120) と n-
イオンはいずれも妨害となる物質のフラグメ
ントには存在せず,互いに影響を及ぼすことな
く定量可能であった。
図 1. 標準溶液 (1.0 µg/ml) のトータルイオンクロマトグラム (TIC)
No. 保持時間 VOC
No. 保持時間 VOC
1
10.00
Methylethylketone
21
18.45
m/p-Xylene
2
10.61
Ethylacetate
22
18.91
Styrene
3
10.71
n-Hexane
23
19.06
o-Xylene
4
10.78
Chloroform
24
19.23
n-Nonane
5
11.58
1,2-Dichloroethane
25
20.38
α-pinene
6
11.65
2,4-Dimethylpentane
26
20.81
1,3,5-Trimethylbenzene
7
11.89
1,1,1-Trichloroethane
28
21.47
1,2,4-Trimethylbenzene + n-Decane
8
12.10
Butanol
29
21.81
p-Dichlorobenzene
9
12.39
Benzene
30
22.11
1,2,3-Trimethylbenzene
10
12.56
Carbon Tetrachloride
31
22.30
Limonene
11
13.27
1,2-Dichloropropane
32
23.29
Nonanal
12
13.57
Trichloroethylene + 2,2,4-Trimethylpentane
33
23.50
n-Undecane
13
13.80
n-Heptane
34
24.01
1,2,4,5-Tetramethylbenzene
14
14.43
Methylisobutylketone
35
25.21
Decanal
15
15.62
Toluene
36
25.34
n-Dodecane
16
16.12
Chlorodibromomethane
37
27.04
n-Tridecane
17
16.49
Butylacetate
38
28.62
n-Tetradecane
18
16.69
n-Octane
39
30.13
n-Pentadecane
19
16.98
Tetrachloroethylene
40
31.63
n-Hexadecane
20
18.24
Ethylbenzene
※
15.50
Toluene-d8
2. 検量線の直線性
標準溶液の測定により得られた各 VOC の検
0.14∼1.88 となった。酢酸エチルおよびクロ
量線 の傾きおよび切片の値 を表 2 に示した。
ロジブロモメタンの感度は最も低く,最も感度
いずれも 0∼5.0 μg/ml の濃度,すなわち,空
の高い 2,2,4-トリメチルペンタンの 10 分の 1
3
気中濃度として 0∼約 70 μg/m において良好
以下であった。
な直線性を示した。各 VOC の検量線の傾きは
表 2.各 VOC の検量線の傾きおよび切片
VOC
Methylethylketone
Ethylacetate
n-Hexane
Chloroform
1,2-Dichloroethane
2,4-Dimethylpentane
1,1,1-Trichloroethane
Butanol
Benzene
Carbon Tetrachloride
1,2-Dichloropropane
Trichloroethylene
2,2,4-Trimethylpentane
n-Heptane
Methylisobutylketone
Toluene
Chlorodibromomethane
Butylacetate
n-Octane
Tetrachloroethylene
Ethylbenzene
m/p-Xylene
Styrene
o-Xylene
n-Nonane
α-pinene
1,3,5-Trimethylbenzene
1,2,4-Trimethylbenzene
n-Decane
p-Dichlorobenzene
1,2,3-Trimethylbenzene
Limonene
Nonanal
n-Undecane
1,2,4,5-Tetramethylbenzene
Decanal
n-Dodecane
n-Tridecane
n-Tetradecane
n-Pentadecane
n-Hexadecane
*: 回帰直線式の相関係数 (n=6)
傾き
切片
相関係数 *
1.05
0.14
0.68
0.41
0.35
0.93
0.30
0.32
1.45
0.20
0.42
0.21
1.88
0.90
1.13
1.37
0.14
1.31
1.18
0.23
1.56
1.22
0.93
1.25
1.11
0.85
1.20
1.22
1.06
0.59
1.11
0.67
0.22
1.02
1.15
0.18
0.58
1.18
0.96
1.23
1.22
-0.21
-0.04
0.14
0.00
-0.01
0.04
0.02
0.13
1.69
0.03
0.05
0.05
0.23
0.11
-0.01
0.57
0.05
-0.21
0.14
0.09
0.07
-0.06
-0.19
0.04
-0.09
0.15
-0.09
-0.12
-0.12
-0.06
-0.07
-0.03
-0.13
-0.18
-0.16
-0.21
-0.15
-0.30
-0.39
-0.56
-0.82
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
1.000
0.999
1.000
0.999
0.999
0.999
0.998
3. ブランク試験
4 本の未使用のチューブから活性炭を取り出し,それ
表 3.ブランク試験において検出された
各VOC量 (ng)
ぞれ直ちに分析した。検出された VOC の重量を表 3 に示
V O C
した。ベンゼンの他,n-ヘキサン,トルエン,エチルベ Methylethylketone
ンゼン,m/p-キシレンおよび o-キシレンが微量検出さ Ethylacetate
n-Hexane
れた。VOC の抽出に使用する作業環境測定用の二硫化炭
Chloroform
素は,分光分析用や特級等に比較して VOC の含有量は少 1,2-Dichloroethane
なかったが,用いた全てのロットの二硫化炭素に微量の 2,4-Dimethylpentane
ベンゼンが含まれていた。ブランク試験においてこれら 1,1,1-Trichloroethane
Butanol
の VOC が検出される原因として,使用する二硫化炭素の
Benzene
汚染の他に,チューブ製造時における活性炭の汚染,分 Carbon Tetrachloride
析処理操作の際の汚染等が考えられる。しかし,VOC の 1,2-Dichloropropane
検出量はいずれも少なく,試料の定量値に大きな影響を Trichloroethylene
2,2,4-Trimethylpentane
及ぼさないと判断された。より正確に空気中の VOC 濃度
n-Heptane
を算出するためには,捕集に用いた活性炭チューブと同 Methylisobutylketone
じ製造ロットの未使用のチューブをブランクとして用 Toluene
い,試料と同様に処理,定量し,試料の定量値から差引 Chlorodibromomethane
Butylacetate
くことが必要であると考えられた。
n-Octane
Tetrachloroethylene
4. 破過試験
Ethylbenzene
VOC 捕集における活性炭チューブの破過の有無につ m/p-Xylene
いて検討した。一般住宅内の一室において4本の活性炭 Styrene
チューブを設置し,本法に従い同一時間空気中 VOC を捕 o-Xylene
n-Nonane
集した。ただしポンプの流速は 10 倍の 1.0 L/min とし
α-pinene
た。第2層の捕集量が第1層の捕集量の半量 (50%) を 1,3,5-Trimethylbenzene
超えていれば明らかに破過しており,25%以内であれば 1,2,4-Trimethylbenzene
n-Decane
破過していないと判断した。
p-Dichlorobenzene
試験の結果を次頁の表 4 に示した。大部分の VOC は第 1,2,3-Trimethylbenzene
1層のみから検出された。酢酸エチル,n-ヘキサン,ク Limonene
ロロホルム,ベンゼン,n-ヘプタン,トルエン,エチル Nonanal
n-Undecane
ベンゼン,キシレン類および数種の高分子脂肪族炭化水
1,2,4,5-Tetramethylbenzene
素などが第 1 層と第 2 層の両層から検出された。しかし, Decanal
第 1 層捕集量に対する第 2 層捕集量の割合はベンゼンが n-Dodecane
最も大きく 5∼8%であったが,いずれの VOC においても n-Tridecane
n-Tetradecane
25%以下であり,捕集時における各 VOC の破過はなかっ
n-Pentadecane
たと判断された。この試験ではポンプの流速を 1.0 n-Hexadecane
L/min に設定して 24 時間空気を捕集している。したが
って,通常の環境下における流速 0.1 L/min での 24 時
間の捕集では,各 VOC の捕集において破過はおこらない
と考えられた。
- : 検出されず
数値は 4 本の測定値の平均値
-
-
16
-
-
-
-
-
233
-
-
-
-
-
-
46
-
-
-
-
5
2
-
1
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
表 4.破過試験における各チューブのVOC捕集量 (ng)
チ ュ ー ブ
V O C
Methylethylketone
Ethylacetate
n-Hexane
Chloroform
1,2-Dichloroethane
2,4-Dimethylpentane
1,1,1-Trichloroethane
Butanol
Benzene
Carbon Tetrachloride
1,2-Dichloropropane
Trichloroethylene
2,2,4-Trimethylpentane
n-Heptane
Methylisobutylketone
Toluene
Chlorodibromomethane
Butylacetate
n-Octane
Tetrachloroethylene
Ethylbenzene
m/p-Xylene
Styrene
o-Xylene
n-Nonane
α-pinene
1,3,5-Trimethylbenzene
1,2,4-Trimethylbenzene
n-Decane
p-Dichlorobenzene
1,2,3-Trimethylbenzene
Limonene
Nonanal
n-Undecane
1,2,4,5-Tetramethylbenzene
Decanal
n-Dodecane
n-Tridecane
n-Tetradecane
n-Pentadecane
n-Hexadecane
1
チ ュ ー ブ
2
チ ュ ー ブ
第 1 層 第 2 層 合計 2/1 層* 第 1 層 第 2 層 合計 2/1 層* 第 1 層 第 2 層
5078 - 5078
5638 - 5638
5375 -
5513 26 5539 0.5 6284 - 6284
6064
1
4529
6 4535 0.1 5132 16 5148 0.3 5087 30
792
9
801 1.1
931
6
937 0.6
857
-
1297 - 1297
1614 - 1614
1576 -
429
- 429
467
- 467
461
-
692
- 692
777
- 777
765
-
3563 - 3563
3464 - 3464
3659 -
4073 254 4327 6.2 4291 264 4555 6.2 4082 334
1020 - 1020
1130 - 1130
1154 -
42
-
42
45
-
45
46
-
1134
3 1137 0.3 1246 - 1246
1263
4
780
- 780
830
- 830
880
-
4276 10 4286 0.2 4609 12 4621 0.3 4595 11
1031 - 1031
1057 - 1057
1077 -
20783 10 20793 0 21782 43 21825 0.2 22082 1
347
- 347
356
- 356
376
-
1685 - 1685
1726 - 1726
1767 -
5589 - 5589
5838 - 5838
5870 -
982
- 982
1027 - 1027
1006 -
5804 49 5853 0.8 6239 322 6561 5.2 5860 -
10065 33 10098 0.3 10467 182 10649 1.7 10264 -
156
- 156
130
- 130
134
-
4460
6 4466 0.1 4572 42 4614 0.9 4505 -
28510 - 28510
29020 - 29020
29343 -
11407 - 11407
11680 - 11680
12016 -
2848 - 2848
2914 - 2914
2939 -
8047 - 8047
8178 - 8178
8219 -
26132 - 26132
26424 - 26424
26762 -
15799 1 15800 0 15715 - 15715
15410 -
2310 - 2310
2322 - 2322
2315 -
7600 - 7600
7690 - 7690
7793 -
23294 - 23294
22100 - 22100
21868 -
15043 - 15043
15311 - 15311
15226 -
415
- 415
400
- 400
403
-
6667 - 6667
6901 - 6901
6950 -
8515 - 8515
8581 - 8581
8481 -
5582 45 5627 0.8 5555 40 5595 0.7 5435 32
4047 - 4047
3876 144 4020 3.7 3776 -
1583 - 1583
1529 - 1529
1492 -
1240 11 1251 0.9 1126 33 1159 2.9 1025 -
合計
5375
6065
5117
857
1576
461
765
3659
4415
1154
46
1267
880
4606
1077
22083
376
1767
5870
1006
5860
10264
134
4505
29343
12016
2939
8219
26762
15410
2315
7793
21868
15226
403
6950
8481
5467
3776
1492
1025
3
チ ュ ー ブ
2/1 層* 第
0
0.6
8.2
0.3
0.2
0
0.6
1 層第2層
5501 -
6208
5
5225 35
878
2
1589 -
472
-
757
-
3550 -
4429 200
1097 -
53
-
1154 -
766
-
4530 -
1046 -
21626 13
339
-
1739 -
5822 -
974
-
6153 145
10603 77
129
-
4640 17
29960 -
12062 -
3044 -
8616 -
27568 -
16204 2
2416 -
8109 -
23799 -
15949 -
436
-
7630 -
8985 -
5789 -
3990 -
1551 -
1087 -
合計
5501
6213
5260
880
1589
472
757
3550
4629
1097
53
1154
766
4530
1046
21639
339
1739
5822
974
6298
10680
129
4657
29960
12062
3044
8616
27568
16206
2416
8109
23799
15949
436
7630
8985
5789
3990
1551
1087
4
2/1 層*
0.1
0.7
0.2
4.5
0.1
2.4
0.7
0.4
0
- : 検出されず
*
: 第 1 層捕集量に対する第 2 層捕集量の割合(%)
5. 再現性試験
ジメチルペンタン,ベンゼン,1,2-ジクロロプ
捕集から定量における測定値の再現性を検
ロパン,スチレン,ノナナール,デカナールお
討した。一般住宅内の一室に 5 本の活性炭チュ
よび n-ペンタデカンの測定値の変動係数が大
ーブを設置し,本法に従い同一時間空気中 VOC
きく,定量値の再現性が乏しかった。1,2-ジク
を捕集した。捕集の翌日に定量した。
ロロプロパンおよび n-ペンタデカンは気中濃
各チューブの分析結果から算出した各 VOC
度が低い (0.1μg/m3 以下) ため検出されたピ
の室内気中濃度を次頁の表 5 に示した。2,4-
ークのベースラインの引き方により定量値が
大きく変化すること,アルデヒド類およびスチ
た。従って,スチレン,ノナナール,デカナー
レンは二硫化炭素による活性炭からの脱着率
ルを除く他の VOC は概ね 1μg/m3 以上の濃度に
が低いこと (後述の脱着率試験参照),ベンゼ
おいて捕集から測定までの再現性は良好であ
ンは気中濃度が低くブランク値が高いこと,な
ることが示唆された。ただし,1,2-ジクロロエ
どがそれぞれの原因として考えられる。その他
タンおよび n-ヘキサデカンは検出されなかっ
の VOC における変動係数は概ね 10%以下であっ
たため,それらの再現性は明らかではない。
表 5.再現性試験において算出された各VOCの気中濃度(
再現性試験において算出された各VOCの気中濃度(µg/m3)
V O C
Methylethylketone
Ethylacetate
n-Hexane
Chloroform
1,2-Dichloroethane
2,4-Dimethylpentane
1,1,1-Trichloroethane
Butanol
Benzene
Carbon Tetrachloride
1,2-Dichloropropane
Trichloroethylene
2,2,4-Trimethylpentane
n-Heptane
Methylisobutylketone
Toluene
Chlorodibromomethane
Butylacetate
n-Octane
Tetrachloroethylene
Ethylbenzene
m/p-Xylene
Styrene
o-Xylene
n-Nonane
α-pinene
1,3,5-Trimethylbenzene
1,2,4-Trimethylbenzene
n-Decane
p-Dichlorobenzene
1,2,3-Trimethylbenzene
Limonene
Nonanal
n-Undecane
1,2,4,5-Tetramethylbenzene
Decanal
n-Dodecane
n-Tridecane
n-Tetradecane
n-Pentadecane
n-Hexadecane
- : 検出されず
チューブ チューブ
チューブ チューブ チューブ チューブ
1
2
3
4
5
平均
3.75
3.63
3.55
3.92
3.67
3.70
9.82
9.70
10.18
10.77
9.30
9.96
3.80
3.39
4.04
3.72
3.51
3.69
0.74
0.75
0.82
0.87
0.72
0.78
-
-
-
-
-
0.25
0.25
0.33
0.27
0.30
0.28
0.54
0.53
0.61
0.53
0.45
0.53
2.07
2.40
2.21
2.20
1.89
2.15
0.22
0.27
0.20
0.31
0.28
0.26
0.72
0.71
0.80
0.83
0.72
0.76
0.05
0.08
0.11
0.08
0.08
0.08
2.83
2.84
3.19
3.24
2.85
2.99
0.42
0.39
0.45
0.49
0.42
0.43
3.78
3.73
4.11
4.25
4.05
3.98
0.98
0.91
1.11
1.07
0.95
1.00
31.96
30.78
31.10
32.40
32.56
31.76
0.74
0.74
0.70
0.70
0.63
0.70
1.37
1.58
1.55
1.63
1.53
1.53
4.10
4.89
4.88
5.07
4.81
4.75
1.28
1.42
1.45
1.47
1.40
1.40
4.58
5.19
4.99
5.31
5.30
5.07
7.26
8.23
7.82
8.30
8.23
7.97
0.08
0.07
0.08
0.04
0.02
0.06
3.13
3.57
3.37
3.56
3.54
3.43
20.99
24.23
22.98
24.18
23.48
23.17
6.86
7.75
7.38
7.82
7.67
7.50
1.90
2.17
2.01
2.18
2.06
2.07
5.01
5.66
5.22
5.53
5.40
5.37
17.06
19.60
17.81
19.15
18.49
18.42
5.68
6.43
5.77
6.12
5.89
5.98
1.26
1.49
1.32
1.42
1.38
1.37
5.50
6.30
5.90
6.15
5.88
5.95
11.65
12.05
7.66
14.20
9.97
11.11
7.60
8.55
7.76
8.10
7.26
7.86
0.16
0.20
0.18
0.20
0.17
0.18
1.49
1.30
0.87
2.11
1.11
1.37
2.84
2.50
2.76
2.75
2.31
2.63
0.94
1.00
0.75
0.86
0.86
0.88
0.77
0.83
0.89
0.74
0.85
0.82
0.10
0.12
0.08
0.08
0.09
0.09
-
-
-
-
-
標準 変動係
偏差 数 (%)
0.14
3.8
0.55
5.6
0.25
6.9
0.06
7.9
0.04
0.06
0.19
0.05
0.06
0.02
0.21
0.04
0.22
0.08
0.79
0.04
0.10
0.37
0.07
0.31
0.44
0.03
0.19
1.33
0.39
0.12
0.26
1.02
0.30
0.09
0.30
2.45
0.49
0.02
0.47
0.22
0.09
0.06
0.02
13.1
10.4
8.8
17.6
7.3
23.2
6.9
9.1
5.6
8.2
2.5
6.2
6.4
7.9
5.3
6.0
5.5
47.8
5.6
5.7
5.3
5.6
4.8
5.5
5.0
6.5
5.1
22.0
6.3
9.8
34.2
8.4
10.7
7.5
17.8
6. 保存性試験
て試料とした。同様に,活性炭入りのバイヤル
活性炭チューブ中の各 VOC の保存に対する
ビン3本と活性炭を含まないバイヤルビン3
安定性について検討した。一般住宅内の一室に
本にそれぞれ二硫化炭素を2ml づつ分注し,
おいて複数の活性炭チューブを設置し,本法に
各々のブランクとして用いた。試料およびブラ
従い空気中 VOC を捕集した。各試料中の VOC
ンクを本法に従い分析し,下式により二硫化炭
は,捕集翌日,1週間後,2週間後,3週間後
素による各 VOC の活性炭からの脱着率を算出
および4週間後においてそれぞれ定量した。各
した。
試料は分析までの期間冷蔵庫(4℃)で保管し
た。試験の結果を次頁の表 6 に示した。
各 VOC の脱着率(%) ={(活性炭入り試料中
捕集翌日に分析したチューブ中の各 VOC 量
の各 VOC ピーク面積* − 活性炭入りブラン
を 100%とし,一定期間保存後の各チューブ中
ク中の各 VOC ピーク面積*)/(活性炭無し
の各 VOC 量を相対量で示した。
試料中の各 VOC ピーク面積* − 活性炭無し
ノナナール,ブタノールおよびα-ピネンは
ブランク中の各 VOC ピーク面積*)}× 100
保存期間中に徐々に減少し,4 週間後にはそれ
ぞれ捕集翌日の 19%,54%および 73%になっ
*:すべて3本の平均値
た。特にノナナールおよびブタノールは保存 1
週間後における残存率も低く,保存に対する安
試験の結果は前述した表 6 に示した。大部
定性が乏しいと考えられた。これら 3 物質を除
分の VOC の脱着率は 85%以上であり,ほぼ完
く他の VOC はいずれも保存期間内で大幅な減
全に活性炭から脱着されるものと考えられる。
少を示さなかった。VOC を捕集した活性炭チュ
ただし,ブタノール (46%),スチレン (49%),
ーブは,大部分の VOC の定量に際してほぼ一ヶ
デカナール (68%),ノナナール (74%) およ
月間冷蔵庫での保存が可能であると判断され
びメチルエチルケトン (77%)
た。
かった。多田ら
の脱着率は低
2)
もスチレンおよびメチルエ
ただし,1,2-ジクロロエタン,1,2-ジクロロ
チルケトンの活性炭からの回収率が低いこと
プロパン,スチレン,1,2,4,5-テトラメチルベ
を指摘している。いずれも溶媒脱着が不完全で
ンゼン,デカナール,n-テトラデカン,n-ペン
あることがその原因であると考察している。
タデカンおよび n-ヘキサデカンは捕集翌日に
また,芦田ら
3,4)
はブタノールを含むアル
分析したチューブをはじめいずれのチューブ
コール類やケトン類の二硫化炭素による活性
からも検出されなかったため,これらの物質の
炭からの回収率は低く,これら極性の強い物質
保存に対する安定性は明らかではない。
には無極性の二硫化炭素による脱着は不適当
であることを報告している。活性炭に捕集され
7. 脱着率試験
たノナナールおよびデカナール等のアルデヒ
捕集した各 VOC の二硫化炭素による脱着率
ド類の脱着率に関する報告は過去にほとんど
について検討した。VOCs 混合標準原液を二硫
見あたらないが,その極性の強さが二硫化炭素
化炭素で希釈し,各 VOC 濃度1μg/ml の溶液
による脱着率の低さに関連していると推測さ
20 ml を調製した。3本の未使用チューブから
れた。これら脱着率の低い VOC の定量に際して,
第1層活性炭をそれぞれ別々に褐色バイヤル
活性炭を含んだ二硫化炭素中で標準を調製す
ビンに取り出した。これらのバイヤルビンおよ
るなど標準溶液の調製方法,他の捕集剤の使用,
び活性炭を含まない3本の褐色バイヤルビン
二硫化炭素以外の溶媒による VOC の脱着等を
に,調製した溶液をそれぞれ2ml づつ分注し
再検討する必要があると考えられた。
表 6.各VOCの保存に対する安定性および二硫化炭素による活性炭からの脱着率
.各VOCの保存に対する安定性および二硫化炭素による活性炭からの脱着率
V O C
Methylethylketone
Ethylacetate
n-Hexane
Chloroform
1,2-Dichloroethane
2,4-Dimethylpentane
1,1,1-Trichloroethane
Butanol
Benzene
Carbon Tetrachloride
1,2-Dichloropropane
Trichloroethylene
2,2,4-Trimethylpentane
n-Heptane
Methylisobutylketone
Toluene
Chlorodibromomethane
Butylacetate
n-Octane
Tetrachloroethylene
Ethylbenzene
m/p-Xylene
Styrene
o-Xylene
n-Nonane
α-pinene
1,3,5-Trimethylbenzene
1,2,4-Trimethylbenzene
n-Decane
p-Dichlorobenzene
1,2,3-Trimethylbenzene
Limonene
Nonanal
n-Undecane
1,2,4,5-Tetramethylbenzene
Decanal
n-Dodecane
n-Tridecane
n-Tetradecane
n-Pentadecane
n-Hexadecane
*
保存に対する安定性
1 週間後
2 週間後
99
94
117
106
84
101
87
113
86
90
107
98
62
63
98
93
87
93
92
101
89
97
95
104
91
107
83
97
104
115
100
108
110
113
89
96
96
118
99
115
104
114
104
109
85
95
97
111
102
112
100
108
98
112
98
110
108
107
30
40
107
110
88
92
83
105
-
*
3 週間後
80
91
80
96
77
85
59
90
78
85
78
85
86
86
92
88
100
78
94
104
103
97
76
98
102
97
95
100
96
16
99
96
96
-
: 捕集翌日に分析したチューブ中の各VOC量を 100%とし、一定期間保存後の
各チューブ中の各VOC量を相対量(%)で示す。
4 週間後
90
105
89
85
84
88
54
94
86
100
88
95
97
97
91
93
107
85
98
107
105
102
73
98
100
98
95
94
89
19
98
85
121
-
脱着率
(%)
77
94
112
103
103
112
106
46
96
105
105
103
112
109
88
99
98
95
109
100
103
98
49
92
108
106
102
95
107
80
85
103
74
105
89
68
105
101
102
96
99
文
(3)まとめ
今回対象とした 42 種の VOC のうち,ブタノ
ール,ノナナール,デカナール,α-ピネン,
メチルエチルケトンおよびスチレンを除く 36
3
献
1)厚生省:居住環境内における揮発性有機化
合物の全国実態調査
2)多田 治,蔡 世雄:活性炭管およびシリカ
物質は,本分析法により概ね 1∼100μg/m の
ゲル管を用いる有機溶剤濃度の測定につい
空気中濃度において再現性よく定量すること
て,労働科学,56,453-467 (1980)
が可能であり,捕集後約 1 ヶ月間は冷蔵庫で保
3)芦田敏文,小池慎也,大森 薫:活性炭管を
存可能であると考えられた。本法において空気
用いる有機溶剤蒸気の測定法に関する研究
中 VOC の捕集に使用した携帯用小型吸引ポン
(第1報)二硫化炭素による脱着条件と脱
プは,吸引空気の積算流量を記録する機能を搭
着率との検討,作業環境,2,53-59(1981)
載していないが,近年開発されたポンプには同
4)芦田敏文,小池慎也,大森 薫:活性炭管を
機能が搭載されているものもあり,利便性に優
用いる有機溶剤蒸気の測定法に関する研究
れている。また,本法では低濃度の VOC の分析
(第2報)相平衡法を用いる脱着率の検討,
を考慮し,流速 0.1 L/min で 24 時間の捕集を
作業環境,4,52-57(1983)
行ったが,予想される空気中濃度により吸引速
度および捕集時間を調整することが必要であ
る。VOC は高揮発性であるため,正確に再現性
よく定量するためには,試料の調製を低温下で
行うことが重要である。