「適宜増減」「適宜減量」「適宜増量」

添付文書に聴く(3)
「適宜増減」
「適宜減量」
「適宜増量」
山村 重雄
城西国際大学薬学部教授
多くの医薬品の用法・用量には、
「通常成人1回○○mgを
1日○回経口投与する。なお、年齢、症状に応じ適宜増減す
る」などと記載されています。今回はこの「適宜増減」の
意味を考えてみたいと思います。
ています。200mg投与ではクラリスロマイシン耐性菌の除菌
率が低いことと、海外では500mg投与が一般的であり、投与
量を下げると除菌率が低下するので「適宜増減」ではなく「適
宜増量」となっています。いくつかの糖尿病薬にも「適宜増
量」の記載が見られます。いずれも薬効を得るには最低限の
量以上が必要で、かつ、患者ごとに維持用量を決定する薬剤
です。ただし、患者の忍容性が問題となるため、増量した後
の副作用モニターは入念に行う必要があります。
表3は「適宜減量」の記載例です。ベザフィブラートは腎
●記載のない医薬品は用法用量厳守
障害、肝障害の患者では横紋筋融解症を起こしやすく、最大
添付文書についての解説書は、
「適宜増減」の適宜とは、
「お
用量が決められ、
「適宜減量」になっています。ピロキシカム
おむね通常用量の半量から倍量」と説明しています。
「適宜増
も、胃腸障害や皮膚障害の発現率が高いために最大用量が決
減」は患者の年齢や重症度によって用量が変わる可能性のあ
められています。
る医薬品に記載されます。その範囲で投与量依存的に作用が
増量、減量どちらも検査データや問診によって医師が判断
強くなると考えてよいでしょう。
「適宜増減」の範囲を超えた
するものですが、患者が医師に言えず薬剤師に症状を訴える
処方量は医師の裁量に任されていると考えられます。通常用
場合には、それを薬剤師から医師に伝える必要が生じること
量を超えた処方せんを受け取ったときは、患者さんの背景を
もあります。安全のためにチェックは怠れません。
よく考えて、用量が適切かどうか照会する必要があります。
医薬品によって「適宜減量」や「適宜増量」の記載、さらに
はこれらの記載がない例もあります。
表1は「適宜増減」が書かれていない医薬品の例です。ア
ジスロマイシンのように特殊な用法で投与される場合は「適
宜増減」の記載はありません。また、カルシウム拮抗薬の多
くは「適宜増減」の表示がありません。これは、投与後血圧
を速やかに低下させ、投与量依存的に副作用発現率(顔面紅
潮、めまいなど)が高まるためと考えられます。一方、ACE
阻害薬では、最大用量の制限はあるものの「適宜増減」とあ
ります。これは作用発現が緩徐で、めまいなどの投与量依存
的な副作用の発現率が低いためと理解できます。
適宜増減の記載がない医薬品は厳密に用法用量を守る必要
があり、添付文書に記載された用法用量以外、特に用量を超
えた処方は、直ちに疑義照会となる例です。
●増量、減量にも薬剤師のチェックを
表2に「適宜増量」の例を挙げました。ピロリ除菌の3剤
療法例では、クラリスロマイシンに「適宜増量」が表示され
10
No.3
表1 適宜増減の記載がない医薬品例
一般名
アジスロマイシン
ニルバジピン
塩酸ニカルジピン
添付文書記載内容
500mg(力価)を1日1回、3日間合計1.5g(力価)
を経口投与する
1回2〜4mgを1日2回経口投与する
1回10〜20mgを1日3回経口投与する
表2 適宜増量の記載がある医薬品例
一般名
添付文書記載内容
成人にはクラリスロマイシンとして1回200mg(力
価)、アモキシシリンとして1回750mg(力価)及び
クラリスロマイシ
ランソプラゾールとして1回30mgの3剤を同時に1日
ン( ヘ リコ バ ク タ
2回、7日間経口投与する。なお、クラリスロマイシン
ー・ピロリ除菌例)
は、必要に応じて適宜増量することができる。ただし、
1回400mg(力価)1日2回を上限とする
1日量1.25mg〜2.5mgを経口投与し、必要に応じ適
グリベンクラミド 宜増量して維持量を決定する。ただし、1日最高投与量
は10mgとする
通常、1日量トルブタミドとして0.5〜1.0gを経口投
与し、必要に応じ適宜増量して維持量を決定する。た
トルブタミド
だし、1日最高投与量は2.0gとする
表3 適宜減量の記載がある医薬品例
一般名
ベザフィブラート
ピロキシカム
添付文書記載内容
1日400mgを2回に分けて朝夕食後に経口投与する。
なお,腎機能障害を有する患者及び高齢者に対しては
適宜減量すること
20mgを1日1回食後に経口投与する。なお、年齢、症
状により適宜減量する
No.3
11