公民科「現代社会」学習指導案

公民科「現代社会」学習指導案
広島県立忠海高等学校
1
日
時
2
ク ラ ス
3年1組
3
教
教科書
4
大単元名
現代の民主政治と私たちの生活
5
小単元名
平和主義と日本の安全(配当2時間)
6
指導計画
1時間目
日本国憲法第9条を読もう(本時)
2時間目
自衛隊をめぐる今日的な問題
材
7
単元目標
8
評価規準
教諭
大石秀邦
10月28日(土)2時限目
33名(南401号教室)
第一学習社「高等学校現代社会」
副教材
浜島書店「最新図説現社」
憲法第9条の制定過程を読解することによって,憲法第9条の改正に係る議論の争点を理解する。
評価の観点
関心・意欲・態度
思考・判断
技能・表現
小単元の評価規準
本時の評価規準
今日の国際情勢から,日本ならびに国際社会
憲法第9条の解釈をめぐって様々な論議が
の平和を維持していくうえでの課題に関心
存在することに関心を持つとともに,憲法第
を持ち,課題解決の道筋を考えている。
9条に対する自分自身の意見を持っている。
憲法制定当時から今日の国際社会への移行
憲法第9条の制定過程における語句の加
の中で,日本の安全保障と自衛隊がどう変遷
筆・修正部分を読み取り,その目的や理由を
してきたかを多角的に考察できる。
論理的に組み立てられる。
資料や記事の読解ならびに協議を通じて組
憲法第9条の条文や制定過程における関係
み立てた論理をワークシートにまとめ,わか
資料を的確に読み取り,ワークシートにまと
りやすく発表できる。
めるとともにわかりやすく発表できる。
憲法前文および憲法第9条の争点について, 憲法第9条の文理を解釈できる。また憲法の
知識・理解
その争点のポイントと国際情勢の変遷を知
制定過程ならびに用語の意味や政府見解の
識として理解できている。
内容を理解している。
評価の4観点のうち,本時の展開においては,
「思考・判断」ならびに「技能・表現」
(網掛け部分)に重きをおき,資
料や協議をもとに論理を組み立てる力ならびに自らの考えに根拠を加えてわかりやすく表現する力の向上をめざす。
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教材観
近年,憲法をめぐる議論が活発である。とりわけ,国際テロリストによる破壊活動が頻発し,東アジアの緊張が高まる
中,安全保障の礎をなしてきたといわれる「憲法第9条」の改正ないしは解釈改憲の議論が政治的に高まっている。一方
で,戦後 60 年余りにわたって日本の平和を維持し,経済的な繁栄をもたらしたとされる「憲法第9条」への再評価も高
まりを見せている。
本時の学習単元である「平和主義と日本の安全」ならびに「憲法第9条」は,次代を担う高校生にとって極めて重要な
学習テーマである。しかし,人類の生命・財産の保持に関わる重要な問題でありながら,高度な政治性も合わせ持つゆえ
に,身近な問題としての関心が高まりにくいのも事実である。
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生徒観
クラスとしては,落ち着いた雰囲気の中で授業が展開できている。しかし,学習テーマに対して主体的に興味・関心を
持って考えようといった状況からは程遠い。したがって,授業の導入において,自ら「考えよう」とする興味・関心のモ
チベーションをどう引き出すかが課題である。したがって,北朝鮮の核実験といったタイムリーな国際情勢などを効果的
に教材化しつつ,ワークシートを活用した作業・発問・協議・発表などを盛り込むことによって生徒の主体的な学習を支
援していく必要がある。
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指導観
上記,教材観・生徒観を踏まえた場合,講義中心の授業では,生徒の好奇心や意欲の喚起は困難といえる。したがって,
本授業では生徒への発問や生徒間の協議・作業などを中心に展開することでその改善を試みる。また,発問においては,
明解でわかりやすい表現を心がける。さらに,生徒の回答が単発に終わらないよう,回答に対する「切り返し」をおこな
うことによって,生徒自身が思考し,問題の核心に触れていけるように展開していくことが重要であると考える。
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本時の授業展開における言語技術の活用について
本授業では,
「ことばの力」を高め,論理的に思考・表現する手段としての「言語技術」を次の点で活用する。
(1)問
答
発問に対する応答において,結論を先行させつつ根拠に基づく自分の考えを述べさせる。
(2)視
点
憲法第9条をめぐる賛否両論に対し,両論の立場のそれぞれの根拠を考えさせる。
(3)分
析
憲法第9条の制定過程における各案の加筆・削除部分を正確に読み取り,その結果を分析させる。
(4)説
明
憲法第9条の文理をわかりやすく書き換えて伝えさせる。
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本時の学習内容に係る学習指導要領上の留意点
高等学校学習指導要領の展開(公民科編)
『明治図書
大杉昭英・七條正典編著』によれば,
「日本国憲法の基本的原則
を条文の解釈を中心に理解を深めさせることも可能だが,「現代社会」の科目の特徴を考えれば,生徒の身の回りで起こ
った出来事などから・・(中略)・・安全な生活と防衛問題や平和などについて理解を深めさせていくなかで,日本国憲法
の基本的原則についての認識を深めさせていくことが大切である。
・・(中略)・・なお,日本国憲法に関する問題には様々
な見方や考え方,異なる意見が存在するが,これは両論並記として,その判断は生徒自身に委ねるべきものであろう」と
述べられている。
本授業においても,近隣の東アジア情勢や身近なテレビタレントの対談文を提示することによって生徒の関心や理解を
深めさせる。また,「憲法第9条」をめぐっては,改正・解釈改憲・再評価・保持など多くの議論が展開されている点に
留意し,それらの多様な意見やこれまでの国際情勢の変遷をもとに,生徒自身が判断していけるよう授業を展開していく。
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参考文献
『憲法第9条を世界遺産に』
(集英社新書
『憲法第9条』
(岩波新書
『平和憲法』
(岩波新書
太田光・中沢新一著)
小林直樹著)
杉原泰雄著)
『芦田均日記』
(岩波書店)
『憲法を変えて戦争へ行こう という世の中にしないための 18 人の発言』
(岩波ブックレット NO657)
『憲法第9条について∼自衛隊の海外派遣をめぐる憲法的諸問題に関する基礎的資料∼』(衆議院憲法調査会事務局)
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学習資料
新聞記事
北朝鮮ミサイル発射・核実験・集団的自衛権・核開発関連新聞記事(中国新聞)
資料
①
日本国憲法第9条・自由民主党憲法改正草案
資料
②
各新聞社世論調査結果
資料
③
憲法第9条ワークシート
資料
④
マッカーサー・ノート第2原則・GHQ原案・政府原案ワークシート
資料
⑤
平和祈念式(平和記念式典)における「平和の誓い」
(中国新聞社)
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授業展開
教師の指導過程
Q1
資料
東アジアにおける国際情勢で気になることはないか。
生徒の学習・思考過程
A1
留意点
評価方法
北朝鮮によるミサイル発射・核保有宣言・核実験の強行。 客 観 的 事 実 と し て 提
新聞記事
■集団的自衛権や核兵器保有に係る最近の記事を紹介。
□日本の安全保障に対する漠然とした不安・脅威・無関心。
導
Q2
A2
入
■今日の1年前自民党による憲法改正草案が発表された。
ところで,11月3日は何の日か。
文化の日・日本国憲法公布日(今年で満60年)である。 憲 法 第 9 条 に 係 る
発問・回答
(知識・理解)
□政府与党の改正草案(第9条を中心)を知識として理解。
様々な議論の存在を
□国際情勢や東アジアの緊張状態の中,日本の安全保障やその
意識させるために世
基礎となる憲法第9条への関心を持つ。
論調査を活用。
■改めて,憲法第9条を読んでみよう。
□第9条の戦争放棄の内容に係る文理を解釈しようとする。
音読生徒を指名する。
Q3
新書の P61 の「もう一つ素晴らしいのは,憲法第九条
A3 (予測①)無回答ないしは筆者の考える通りであるとす
回答の状況をみなが
って,読んでみると,本当にわかりやすいですよね。あの文
る回答。ないしは語句の意味に関する質問(国権・威嚇・交戦
ら,必要に応じて協議
言は,中学一年生が読んでもわかる。
」
「誰が読んでも誤解し
権等)
。
をさせて発表させる。
発問・回答
■大田光(共著)の「憲法第9条を世界遺産に」を紹介。
■本時の内容(目的)の提示
配付資料②
新書
(関心・意欲)
ないように書かれている。
」
「誤解しようがないし,わかりに
配布資料③
(予測②)「国際紛争を解決する手段」の国際紛争とはどのよ
回答の内容に応じて
協議・発表
くかったり,難しいところがない・・・」の部分を,みんな
新書
うな状況をさすのか。「前項の目的を達するため」の前項の目
「パリ不戦条約」等に
(思考・判断)
的とは何をさすのか。
「武力」と「戦力」の違いは。
簡単に触れる。
(技能・表現)
A4
辞書・電子辞書の活用
はどう思う?
Q4
展
配布資料①
示する。
誤解や難しいところがあるとすればどこ?
(A3予測②)を発問
一例として「武力」と「戦力」の違いはどうだろう?
開
守りのイメージと攻めのイメージ?
「武力」=
武勇の力,また軍隊の力,兵力
「戦力」=
戦争を遂行しうる力
= FORCE
= WAR POTENTIAL
解釈上はほぼ同じ意
味あることを抑える。
■では,すこし憲法の歴史を振り返ってみよう。次の「マッ
□三つの条文案を視覚的に読み比べて,その相違する部分を抜
マッカーサー・GHQ
カーサー・ノート第2原則」(1946.2.3)と「GHQ原案」さ
きだす。
の説明には深入りし
らには「日本政府原案」を読み比べその相違を見つけよう。
ない。書き込みをさせ
Q5 「マッカーサー・ノート第2原則」と「日本政府原案」
を比べると何が加筆され,何が削除されているか?
A5
配布資料④
主な加筆部分は「武力による威嚇又は武力の行使は」で
ながら比較させ,整理
あり,主な削除部分は「及び自己の安全を保持するための手段
された発言ができる
としての戦争」である。
よう発問を切り返す。
A6
攻撃と防御(防衛)に
発問・回答
協議・発表
(思考・判断)
(技能・表現)
Q6
とくに削除された部分にはどんな理由が考えられる
だろう?
自己の安全を保持(自衛)する力は放棄しないため。武
力攻撃などを受けた場合に防御しなければならないから。
ついて具体例から生
徒の回答を引き出す。
教師の指導過程
資料
生徒の学習・思考過程
留意点
Q7 「日本政府原案」と制定された憲法9条を比べると何
A7
主な加筆部分は第 1 項の「日本国民は,正義と秩序を基
帝国議会での審議過
が加筆されているか?
調とする国際平和を誠実に希求」と第2項の「前項の目的を達
程における「芦田修
するため」である。
正」ならびに憲法前文
Q8
配布資料④
加筆にはどんな背景が考えられるだろう?
A8
国際社会へ日本の立場をアピールするため?
第1項
について触れる。
評価方法
発問・回答
協議・発表
(思考・判断)
の「国際紛争を解決するための手段」に関連づけるため?
(技能・表現)
展
開
■憲法第9条は,無条件に武力を捨てるのか,一定の条件で
□成立過程の特異性について理解する。その後に誕生する自衛
成立過程の是非論に
捨てるのかにおいて,曖昧な部分を持ちながら成立。
隊さらには自民党の改正草案を想起する。
は深入りしない。
■ここで憲法第9条の論理を整理してみよう。
□主語(主体)を意識し,簡潔に表現してみる。
主
語:
(
)は
主 語:日本国民は
述
語:永久に(
目
的:
(
)と(
理
由:
(
)を誠実に求めるため
手
段:
(
)をもたない、国の(
)する
)による(
述 語:永久に放棄する
)又は(
)を
目 的:戦争と武力による威嚇または行使を
理
)を認めない
配付資料③
由:国際平和を誠実に求めるため
手 段:戦力をもたない、国家の交戦権を認めない
言語技術を活用し,主
語・結論・根拠・手段
等の順で表記させ。発
表させる。ここで,欠
発問・回答
落した「国際紛争を解
(技能・表現)
決する手段としては」
■第1項・第2項をまとめて,簡潔な文章にしてみよう。
□日本国民は,次のものを永久に放棄する。それは国家による
ならびに「前項の目的
戦争と武力による威嚇又はその行使である。理由は,日本国民
を達するために」を説
が,国際平和を誠実に求めているからである。そのために,
明で補完する。
日本(日本国民)は,戦力を持たず,国の交戦権を認めない。
■今年の平和祈念式における「平和の誓い」を読んでみよう。
終
結
□理想的な表現ではあるが,児童の視点からの純粋かつ明快な
■ところで自衛隊は憲法の禁止する戦力にあたらないのだ
配布資料⑤
表現である。
憲法前文の平和主義
ろうか。自衛隊の海外派遣は憲法上問題とならないのだろう
配付資料①
□自衛隊のイラク派遣等を想起
や国際協調の精神に
か。次回は自衛権と自衛隊をめぐる問題について考えよう。
配付資料②
発問・回答
(関心・意欲)
ついてふれる。
学習資料①
自由民主党憲法改正草案(一部)
(2005.10.28
発表)
第2章 安全保障
(平和主義)
第9条 日本国民は,正義と秩序を基調と
する国際平和を誠実に希求し,国権の発動
たる戦争と,武力による威嚇又は武力の行
使は,国際紛争を解決する手段としては,
永久にこれを放棄する。
(自衛軍)
第9の二 我が国の平和と独立並びに国
及び国民の安全を確保するため,内閣総理
大臣を最高指揮権者とする自衛軍を保持
する。
2 自衛軍は,前項の規定による任務を遂
行するための活動を行うにつき,法律の定
めるところにより,国会の承認その他の統
制に服する。
3 自衛軍は,第一項の規定による任務を
遂行するための活動のほか,法律の定める
ところにより,国際社会の平和と安全を確
保するために国際的に協調して行われる
活動及び緊急事態における公の秩序を維
持し,又は国民の生命若しくは自由を守る
ための活動を行うことができる。
4 前二項に定めるもののほか,自衛軍の
組織及び統制に関する事項は,法律で定め
る。
民主党憲法提言(一部)
(2005.10.31
発表)
民主党の基本的考え
多角的かつ自由闊達な憲法論議を通じ
て,①「自衛権」に関する曖昧かつご都合
主義的な憲法解釈を認めず,国際法の枠組
みに対応したより厳格な「制約された自衛
権」を明確にし,②国際貢献のための枠組
みをより確かなものとし,時の政府の恣意
的な解釈による憲法運用に歯止めをかけ
て,わが国における憲法の定着に取り組ん
でいく。
併せて,今日の国際社会が求めている
「人間の安全保障」についても,わが国の
積極的な役割を明確にしていく。
学習資料②
毎日新聞 平成18年2月10日∼11日 1,115人から回答
■ 憲法9条は第1項で戦争の放棄を、第2項で戦力の不保持を定めています。9条改正についてど
う考えますか。
全体
男性
女性
41%
35%
46%
8%
8%
8%
戦力の不保持を定めた第2項だけ改めるべきだ
21%
23%
19%
1項、2項とも改めるべきだ
20%
26%
15%
2項とも改めるべきではない
戦争放棄を定めた第1項だけ改めるべきだ
読売新聞 平成18年3月11日∼12日 1,812人から回答
■ 戦争を放棄し、戦力を持たないとした憲法第9条をめぐる問題について、政府はこれまで、その
解釈と運用のよって対応してきました。あなたは、憲法第9条について、今後、どうすればよいと
思いますか。次の中から、1つだけあげて下さい。
これまで通り、解釈や運用で対応する
32.6%
解釈や運用で対応するのは限界なので、憲法第9条を改正する
39.3%
憲法第9条を厳密に守り、解釈や運用では対応しない
20.9%
その他
0.2%
答えない
0.7%
朝日新聞 平成18年4月15日∼16日 1,730人から回答
■ 第 9 条は戦争放棄をうたった 1 項と、戦力を保持しないとする2項から成っています。この第 9
条は、日本の平和と繁栄にどの程度役立ってきたと思いますか。
(択一)
■
大いに役立ってきた
25%
ある程度役立ってきた
49%
あまり役立ってこなかった
18%
まったく役立ってこなかった
2%
その他・答えない
8%
憲法第 9 条について、あらためてカードをご覧下さい。第9条の改正についてどのように考えま
すか。
1 項、2 項とも変えない
42%
1 項だけを変える
9%
2 項だけを変える
16%
1 項、2 項とも変える
18%
その他・答えない
15%
学習資料③
第2章 戦争の放棄
第9条 日本国民は,正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し,
国権の発動たる戦争と,武力による威嚇又は武力の行使は,国際紛争を解
決する手段としては,永久にこれを放棄する。
前項の目的を達するため,陸海空軍その他の戦力は,これを保持しない。
国の交戦権は,これを認めない。
【主体を意識して,明快に表現してみよう】
①主語
(
)は,次のものを(
③具体
それは国による(
)と(
又はその行使である。④根拠 その理由は,⑤主語(
)に②述語 (
)による(
)する。
)
)が,国際平和を誠実
に求めているからである。その目的を達成するために,⑦主語 日本(日本国民)は,
⑧手段(
)を持たず,国の(
)を認めない。
学習資料④
マッカーサー三原則提示
(1946.2.3)
第2原則
国家の主権的権利としての戦争は
GHQ憲法草案提示
(1946.2.13)
日本政府「憲法改正草案」発表
第8条(カナ変換)
国民の一主権としての戦争は之を
(1946.4.17)
第9条
国の主権の発動たる戦争と,武力に
廃止される。日本は,紛争解決の手段 廃棄す他の国民との紛争解決の手段 よる威嚇又は武力の行使は,他国との
としての戦争及び自己の安全を保持 としての武力の威嚇又は使用は永久 間の紛争の解決の手段としては,永久
にこれを放棄する。
するための手段としての戦争をも放 に之を廃棄す
棄する。日本はその防衛及び保護を今
陸軍,海軍又は其の他の戦力は決し
陸海空軍その他の戦力の保持は,許
や世界を動かしつつある崇高な理念 て許諾せらるること無かるへく又交 されない。国の交戦権は,認められな
にゆだねる。
戦状態の権利は決して国家に授与せ い。
いかなる日本陸海空軍も認められ らるること無かるへし
ず,また,いかなる交戦権も日本軍に
与えられない。
加筆:
加筆:
削除:
削除:
学習資料⑤
中国新聞 2006.8.7