2011 No.1 JAN - 公益社団法人 日本航空機操縦士協会

PILOT
Pilotが作る隔月誌
No.324
2011 No.1
2011 No.1 JAN
JAN
JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOCIATION
JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOCIATION
ISSN 0389-5254
『日本航空機操縦士協会のめざすもの』
1.私達の活動の目的は、定款に定められた通り「航空技術の向上を図り、航空の安全確保
につとめ航空知識の普及と諸般の調査研究を行い、もって我が国航空の健全な発展を促
進する」ことです。
2.私達は、定款の目的を踏まえ、将来のあるべき姿として「安全で誰からも信頼され、愛
される航空を実現する」というビジョンを描いています。
3.私達は、目的・ビジョンを達成するために下記を基本的指針に掲げて活動して行きます。
⑴ 航空の安全文化を構築する。
(組織と個人が安全を最優先する気風や習慣を育て、社
会全体で安全意識を高めて行くこと)
⑵ 地球環境と航空の発展との調和を図る。
⑶ 航空に携わるものどうしが心を通わせ共存共栄を図る。
第46期(平成22年度)重点施策
本協会は、引き続き航空の安全に資する事業を推進し、航空関係者の知識と能力を育
み、大きな変化が顕在化してきた状況の下、事業の公益性を一段と高め、移行認定(公
益認定)の手続きを進めます。あわせて財政の安定化を図り、事業に要するコストの効
率化を進めます。
本協会が行なっている事業は、公共性を有していると判断できます。操縦士としての
経験と知識を活かし、日本の空の安全と発展に資するために活動を続けています。安全
情報の提供、制度の解説、知識の普及は空の安全に役立っています。行政との関わりは、
安全講習会の開催や、安全関連検討会への委員の派遣、専門書の監修依頼など多岐に亘っ
ています。今後も公益社団法人の役割を担う事と考えます。
この様な環境を踏まえ、私たちは航空機の運航と空中における豊富な経験と培った知
見を活かし、次の事業を行ないます。
航空の安全文化の普及と啓発
安全対策(制度と運用)
情報伝達と提供
技能習熟の支援
情報収集及び調査研究
その他、本協会の運営に必要な事項
操縦士協会は会員を募集しています。
JAPA は公益法人として国土交通大臣の認可を受けた日本唯一の操縦士団体です。
目的 本協会は、航空技術の向上を図り、航空の安全確保につとめ航空知識の普及と諸般の調査研究
を行い、もってわが国航空の健全な発展を促進することを目的としています。
協会の会員は、下記のように分かれます。
正 会 員;協会の目的に賛同して入会された方で、原則として操縦士技能証明をお持ちの方です。
賛助会員;協会の事業を賛助するため入会した個人または法人です。個人賛助会員は、満16歳以上
の操縦士技能証明を持たない方で、法人賛助会員の資格は、特に定めはありません。
正会員の会費;月 額 1,500円:協会運営費
個人賛助会員;月 額 1,500円:協会運営費
法人賛助会員:一口年額 50,000円:協会運営費
入会すると?
①協会機関誌(AIM・PILOT 誌など)の無償入手
②航空関連商品(書籍等)の割引購入
③会員向け、空港施設見学や講習会への参加
④協会契約割引施設の利用
お申し込みは別途「入会申込書」をお送り致しますので、事務局までご連絡下さい。
皆様のご入会をお待ち致しております!
社団法人 日本航空機操縦士協会 JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOSIATION
TEL03-3501-0433 FAX03-3501-0435 E-Mail [email protected]
Home page URL http://www.japa.or.jp/
●航空会館 りそな銀行
●JTB
●
日石三菱●
歩道橋
至銀座
NTTドコモ
■汽車
● みずほ銀行
JR
新橋
駅
●八洲電気
●森ビル
カフェ・
ベローチェ
●
烏森通り
ニュー新橋ビル
赤レンガ通り
三菱東京UFJ銀行●
日本酸素●
小里会館
西高楼飯店
20
外堀通り
●
●三井住友
そばや●
●
日本航空機操縦士協会事務所
入口はこちら側にあります
西新橋1・2丁目交差点
内幸町駅
至虎ノ門
至東京
烏森口
至品川
CONTENTS
No.324 2011 No.1 JAN
4
新年のご挨拶
6
年頭の辞
8
第5回 航空気象シンポジウム
14
19
26
32
38
会長 大内 学
国土交通省航空局長 本田 勝
寄稿
54
58
65
STOL 実験機(飛鳥)と
XC-2(次期輸送機)の開発
長谷部 聡
再掲載
航空機設計における信頼性解析(中)
遠藤 信介
航空史曼陀羅
その39. 日中航空戦と
フライング・タイガーズ
徳田 忠成
66
70
75
安全の分水領
76
役立つ! 運航・技術講座
77
アクシデント・インシデント概要
連載・飛行力学物語 その10
柴田 眞
連載・ヘリコプター飛行安全よもやま噺
冨尾 武
47
Aviation Café
全員で飛んだ? 単独飛行
試験官「釜焚け!」
ヨーソロ、、、テッ!
52
駆出しパイロット
ロートルパイロット
湧井カレン
第2回 全日本曲技飛行競技会
「誌上ジャッジスクール⑴」
髙木 雄一
83
85
FT 委員会・M分科会研修実施報告
川崎重工・航空宇宙カンパニー 工場施設見学
航空自衛隊 岐阜基地 施設/航空機研修(XC-2)
岩瀬 健祐
GA:ジェネアビ情報
ヘリコプターの事故
奥貫 博
FAI ニュース
奥貫 博
GA 部会活動報告
FAI 方式着陸競技の試行(第4回)
奥貫 博
2010年 FAI-CIVA 総会参加報告
植田 展生
オススメ! 情報ボックス
書籍 & Goods 紹介
開催予告
第2回 全日本曲技飛行競技会 開催案内(予定)
開催報告
嘉手納基地見学会を終えて
沖縄支部主催 航空教室開催報告
西日本支部だより
岩国基地訪問記
「親子で楽しむ、広島西飛行場まつり」
JAPA 通信
JAPA で飛行訓練を!
Flight Training Device
FTD 訓練室
86
JAPA Aerial Photo Exhibition
88
編集後記
社団
法人
日本航空機操縦士協会
JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOCIATION
新年のご挨拶
社団法人 日本航空機操縦士協会会長
大 内 学
新年明けましておめでとうございます。
皆様には良き新年をお迎えになられたことと
お慶び申し上げます。そして、旧年中に皆様方
から、当協会に賜りましたご支援に対しまして、
厚く御礼申し上げます。又 我々交通機関を支
える者としての宿命ではありますが、年末年始
にも休みなく勤務され空の安全を支えてくださっ
た皆様方に、改めてご慰労申し上げます。
る日本の空を実現すべく、努力していきたいと
思います。
昨年航空界は、本当に100年に一度と言えるよ
うな、大きな変革に見舞われた年でした。その
ような環境の中で、我々の平成22年度体制がス
タートし約半年が経ちましたので、この場をお
借りしてこの半年間の我々の活動についてお知
らせし、今後の課題等についてご理解をお願い
することに致しました。5月末の総会で私自身
や副会長、専務理事も含めて半数近くの理事が
交代して新体制がスタートし、手探りの中で今
期が始まりました。私達は最初に新任の副会長
や専務理事の方達と手分けをして、色々な委員
さて皆様ご承知のように、一昨年には政権交
代があり、そしてその後、事業仕分けが始まり、
昨年の一月には日本航空の破綻の申請がありま
した。期が始まった当初から、会員の減少等相
当厳しい財務状況になると予想はしていました
が、現実は、その予想をはるかに超える厳しい
ものでした。我々の予測を超える、多くの会員
の方々が退会されたことや、それに伴っての書
籍販売の落ち込み、又 受託事業の廃止や縮小
もあったこと等々で、今期の収支は、かなり大
幅な赤字になることが予想されています。
会員の退会は予想されたことでもあり、我々
も期の始めからその対策として色々な収支の改
善策に取り組んできました。具体的には、航空
100年記念入会キャンペーンとして正会員や法人
会員の獲得、パイロット誌への広告掲載の勧誘
や経費の削減等に努めてきました。しかしこれ
会や講習会、シンポジウム等に出来るだけ出席
し、その中の会員や関係者の方々とのコミュニ
ケーションの機会を持ちながら協会活動の実態
把握に努めました。そこで自分の時間を使いボ
らについては、一定度の効果はありましたが、
収支の改善に大きく寄与する迄には至っていな
いのも事実です。
ここ数年、公益法人化に向けた内部留保の適
ランティアで参加して活動して下さっている方
達と接する中で、これらの活動が“操縦士協会
正化や組織の活性化の目的もあって、赤字決算
が続いていますが、これらの目的を達成した今、
のめざすもの”という協会の設立目的の実現に
大いに貢献していることを確信し、大変頼もし
くかつ嬉しく感じました。いつも言っているこ
とですが、協会は会員の皆様の会費で成り立っ
このまま赤字決算を続けて行くことは出来ませ
ん。来年度は是非とも収支の均衡が取れた、正
常な組織運営に戻したいと考えています。その
為には、相当大幅な収支の改善が必要ですので、
ている会員の皆様のための組織です。なるべく
多くの皆様方に積極的にこれらの活動に参加し
協会活動の根本から見直して精査しこの目的に
合致する施策を見出し実施していこうと考えて
て頂いて、一緒に安全で社会の誰からも愛され
います。
4
2011 JAN
しかし、このような大きな見直しを実施する
に当たっては、多くの皆様方にご負担やご不便
次に公益法人化についてですが、平成22年度
は最初に、前年度の方針を踏襲して公益法人化
をお掛けすることになることもあろうかと思い
ます。何卒、現在の厳しい状況をご理解頂きご
協力、ご支援を頂きたくお願い申し上げます。
を目指すことを再確認し、申請に向けた準備を
継続して行っていくこととしました。そして公
益認定委員会と数回の交渉を行って来ましたが、
又、昨年は首都圏空港の新たな幕開けとして
内外から大いに期待されていた羽田空港のD滑
まだあと数回の交渉が必要とされています。今
期としては、その交渉を着実に積み重ねながら
申請に向けて準備を整えていく予定です。又 申
走路の供用が開始され、それに伴って空港容量
も拡大されました。それと同時に新国際線ター
ミナルがオープンするという明るい話題もあり
請のタイミングについては、その状況を勘案し
ながら、公益認定委員会や主務官庁との情報交
換を行ない、関連諸団体とも連携を取りながら
ました。ここに至るまでの、多くの関係者の方々
の並々ならぬご努力と周到な準備に対し敬意を
表すると共に、感謝申し上げたいと思います。
そして今後は、この4本の滑走路を有効に活用
し、パイロットや航空管制官を始め関係する皆
で力を合わせて、この羽田空港を安全で、効率
的な、使いやすい空港にしていく努力をしていっ
て欲しいと願っています。
決定していきます。
最後に 新しき年が皆様方にとって、希望に
溢れた良き年になりますように、そして日本の
航空界が安全で活力に満ち溢れた年になります
ように祈念して新年のご挨拶といたします。
2011 JAN
5
年 頭 の 辞
国土交通省航空局長
本 田 勝
あけましておめでとうございます。
平成23年の新春を迎えるにあたり、一言新年
のご挨拶を申し上げます。
昨年は、1910(明治43年)年に徳川、日野両
陸軍大尉が当時の代々木練兵場で我が国初の動
力飛行を行って以来百年目となる節目の年であ
りました。
航空政策に関しては、国土交通省成長戦略会
議において、徹底的なオープンスカイの推進、
首都圏の都市間競争力アップにつながる羽田・
成田強化、
「民間の知恵と資金」を活用した空港
経営の抜本的効率化等を内容とする報告書が五
月に取りまとめられ、こうした内容は六月に閣
議決定された政府の「新成長戦略」にも位置付
けられることとなり、今後の航空行政のあり方
について新しい方向性が示されることとなりま
した。
首都圏空港である羽田空港や成田空港につき
着実に進めてまいります。こうした取組みを通
じ、昼間においてもアジア長距離や欧米を含む
高需要・ビジネス路線を展開することで、旺盛
な首都圏の国際航空需要に対応するとともに、
充実した国内線ネットワークを活用した内・際
ハブ機能を強化してまいります。
成田空港につきましては、昨年10月13日に地
元との間で、22万回から30万回への容量拡大に
関する合意がなされました。こうした合意がな
されたことは、地元住民の皆様、千葉県及び関
係市町の皆様のご理解とご協力の賜であり、改
めて深く感謝申し上げます。これを踏まえ、今
後、段階的に容量拡大を行い、更なる国際航空
ネットワークの強化を実現しつつ、専用ターミ
ナル整備等により LCC・ビジネスジェットへの
対応強化を行うとともに、国内フィーダー路線
の拡充を図ることで内・際ハブ機能を強化し、
アジアのハブ空港としての地位を確立してまい
ましては、ともに新しく容量拡大がスタートし、
我が国が「国を開く」ための航空分野の基盤作
ります。
関西国際空港につきましては、巨額の負債に
りの第一歩を記す年となりました。
具体的には、羽田空港につきましては、昨年
10月21日に四本目の滑走路及び新国際線ターミ
ナル地区が供用開始され、同31日からは32年振
よる極端なバランスシートの悪化が経営の足か
せになって本来の優位性を活かせない結果を招
いていることから、抜本的にバランスシートを
改善し、首都圏空港と並ぶ国際拠点空港として
りとなる本格的な国際定期便が就航し、24時間
国際拠点空港化の第一歩を踏み出したところで
再生することが必要です。そのため、平成24年
度に関西国際空港と大阪国際空港を経営統合す
す。
今後は、
「新成長戦略」等に基づき、国際線九
万回への増枠に必要な国際線旅客ターミナルの
拡充を推進するとともに、更なる機能向上のた
るとともに、両空港の事業価値の最大化を図る
こととしており、その手法としては、
「民間の知
恵と資金」を活用することが望ましく、両空港
の事業運営権を一体で民間にアウトソース(い
めのエプロン等の整備、C滑走路延伸事業等を
わゆるコンセッション契約)する手法を基本と
6
2011 JAN
することとしております。これらの措置を実施
するため、本年の通常国会に関連法案を提出す
しては、昨年1月、企業再生支援機構が支援の
決定を行うとともに、裁判所が会社更生法に基
る予定です。
中部国際空港につきましては、国際拠点空港
として、より一層の需要拡大・利用促進に向け
づく更生手続開始の決定を行い、11月には8月
に提出した更生計画の認可を受けたところです。
これにより、日本航空の再生のための具体的な
て取組みを進めてまいります。
一般空港等につきましては、既存空港の機能
を保持するための更新・改良を着実に実施する
計画内容が定まりました。今後は、更生計画に
定められた事業・財務の再構築や経営管理体制
の確立等に真摯に取り組み、業績目標を着実に
とともに、那覇・福岡空港における抜本的な空
港能力向上のための検討を進めてまいります。
また、空港と周辺地域との調和ある発展を図
達成していただきたいと考えており、国土交通
省としましても確実な再建が図られるよう引き
続き指導、監督を行っていく所存です。
るため、引き続き必要な騒音対策を行ってまい
ります。
我が国の空港運営のあり方につきましては、
国土交通省成長戦略会議において、空港経営の
抜本的効率化のため、空港関連企業と空港との
経営一体化、空港の民間への経営委託・民営化
といった方針が示され、その実務的な方法の検
討のため、昨年12月3日に、学識経験者等から
なる検討会を立ち上げたところです。今後、関
係者へのヒアリングや論点整理等を行い、具体
的手法について、本年夏を目処に取りまとめを
お願いし、その取りまとめ結果に沿って施策へ
の反映を進めてまいります。
国際航空分野においては、昨年10月の成田空
港の発着容量の拡大に関する地元合意及び羽田
空港の国際化を踏まえ、首都圏空港を含めたオー
プンスカイの実現を図ってまいります。我が国
との関係で最大の輸送需要を持つ米国との間に
おいては、昨年10月25日の日米両国間の了解覚
航空の安全につきましては、航空行政の最重
要課題であり、本年4月からは、これまでの定
期航空会社に加え、小規模航空会社や整備事業
者等に対しても新たに安全管理体制の構築を義
務付けることとするとともに、安全監査等を通
じた航空会社に対する監視・監督を適確に実施
し、予防的安全対策を推進してまいります。ま
た、オープンスカイ政策の推進による外国航空
会社の乗り入れの増加等を踏まえ、外国航空機
の安全対策を強化してまいります。国産旅客機
開発プロジェクトにつきましては、平成24年度
の初飛行に向け昨年9月に試作機の製造を開始
したところですが、製造国政府として、その安
全性を確保するため、型式証明の審査を着実に
実施してまいります。
さらに、航空会社や空港管理者等の安全管理
の取組みとその安全達成度合を国が継続的に監
視・評価し、安全監督を行う仕組みである国家
安全プログラム(SSP)の導入を段階的に図っ
書により、首都圏空港を含めたオープンスカイ
が実現したところですが、今後は、航空市場の
てまいります。これに併せて、安全に関する情
報の収集促進のため、自発的な安全報告のため
成長が著しく LCC を含めた新規参入・増便が最
も期待される東アジア・ASEAN 諸国に重点を
置きつつ、各国との間で積極的かつ戦略的に交
渉を進めてまいります。
の環境整備に向けた検討を進めてまいります。
最後になりましたが、国土交通省といたしま
しては、航空の安全・安心の確保を前提としつ
つ、航空企業の国際競争力の向上や地域の活性
我が国航空企業の競争力強化のための取組み
としては、平成23年度から25年度までの三年間、
航空機燃料税を現行の2万6千円/㌔㍑から1
化による我が国経済社会の成長を図るため、よ
り一層質の高い航空輸送サービスの実現を目指
して、様々な施策の推進に取り組んでまいる所
万8千円/㌔㍑へ引き下げることとしたところ
であります。
企業再建に取り組んでいる日本航空につきま
存でありますので、本年も引き続き、航空関係
者の皆様のご理解とご協力をお願い申し上げ、
年頭のご挨拶といたします。
2011 JAN
7
第5回
航空気象シンポジウム
平成22年11月29日(日)
会場:ANA 講堂
(東京国際空港第一旅客ターミナル)
主催:社団法人 日本航空機操縦士協会・財団法人 航空交通管制協会
後援:気象庁
航空気象委員会は、恒例の航空気象シンポジ
ウムを開催し、気象庁41名、パイロット35名、
運航管理者15名、航空気象に熱心に取り組んで
いる管制官9名の方々を含めた148名の方々にご
参加頂きました。
開会の挨拶で、
大内学日本航空機
操縦士協会会長
は、今回のテーマ
「低層のウインド
シアー」では、昨
年の成田空港での
貨物機の事故もあ
り、未だ確固たる
対策が確立されていない中、航空気象委員会で
気象庁、JAXA、航空会社パイロット、運航管
理者の方々が研究を続けている意義は大きく、
また昨今の厳しい経営環境にある航空業界にお
いて、これまで以上に安全に対する取組みの重
要性を述べられました。
●基調講演
気象庁における低層ウインドシアーの
対策について
基調講演は、ご自身のことを「気象屋」と呼
ばれる気象庁の田畑明氏の「気象庁における低
層ウインドシアーの対策について」からスター
トしました。氏は、「気象屋が出す情報はユー
ザーに使ってもらって初めて有効な情報になる。
8
2011 JAN
気象の立場の人間
と、ユーザーが共
通の理解をもつこ
とによって、初め
て有効な使い方が
出来る」と熱き想
いを述べられ、低
層ウインドシアー
に対する日本の取
り組みを紹介されました。1975年ケネディー空
港の事故データーから、強い下降流を down
burst と名づけたのが日本人の藤田博士でした。
現在、ドップラーレーダー、ライダーの開発で
は日本がリードしているとも述べられています。
●乱気流検知技術の研究:レーダー/ラ
イダーによる地形性乱気流、晴天乱気
流の検知
次は、気象委員
会の有力メンバー
JAXA 又吉直樹氏
によるドップラー
ライダーの紹介で
す。タービュラン
スの人身事故はパ
イロットの職を失
いかねません。強
い揺れを伴う活発な積乱雲は、目視やレーダー
で探知出来ますが、晴天乱気流(CAT: Clear
Air Turbulence)はレーダーにも映りません。
●空港気象ドップラーライダーを用いた
低層ウインドシアー検出手法の検討
大気中のエアロゾル
による散乱光
気流
引続く講演は、
気象庁観測部観測
レーザ光
又吉氏が紹介した機上搭載型のドップラーラ
課の山本健太郎氏
によるドップラー
ライダーによる低
イダーは、大気中のエアロゾル(空気のちり)
を検知し、雲がない CAT を捕らえることが出
来ます。初めて機上搭載型ライダーのことを聞
層ウインドシアー
の検出方法でした。
ライダーの第一
いたパイロットには、望ましい装置であり、関
心の高い内容だったに違いありません。もし
CAT が検知されたら、離着陸や、負傷事故に直
結する巡航中の対策ともなります。航空機が巡
航する高高度では、エアロゾルは少なく、時速
1000キロの速度で飛んでいる飛行機では、せい
ぜい20~30秒前に揺れを検知するのがやっとで
す。そこで JAXA はボーイングと共同で、揺れ
を検知した時、速やかな客室への情報伝達や、
オートパイロットのロジック変更など、乱気流
中の機体振動の軽減を研究しているそうです。
人者の山本氏は、
パイロットや管制官にも分かるように、羽田、
成田のライダーの紹介や、分かり易くライダー
画面の見方を教えられました。現在、各航空会
社のディスパッチや、管制塔で見ることが出来
るドップラーライダーの画面の情報をまだまだ
まだ有効に使えていないと実感させられました。
日本が世界に誇るレーダー、ライダーを有効に
航空機の運航に活かせるように、航空に携わる
我々一体となって知識を深め、協調していく必
要性を感じました。
●パネルディスカッション 低層ウインドシアー発生時の運航と情報提供
パネリスト:
全日本空輸
日本航空
国土交通省 東京空港事務所
国土交通省 成田空港事務所
気象庁 東京航空地方気象台 予報課
気象庁 観測部観測課観測システム運用室
独立行政法人 宇宙航空研究開発機構
B777操縦士 真下 和之
元 B747-400操縦士 福元 俊雄
航空管制官 堀井不二夫
航空管制官 戸島 靖人
予報官 前鹿川勇明
氏
氏
氏
氏
氏
技官 山本健太郎 氏
主任研究員 又吉 直樹 氏
日本航空
運航管理者 林田 厚志 氏
日本航空
運航管理者 八尋 久美 氏
パネルディスカッション コーディネーター:日本航空機操縦士協会 航空気象委員長
山本 秀生(日本貨物航空 B747-400操縦士)
※各当日の講演やディスカッションの内容について詳しく知りたい方は、[email protected] ま
でご連絡下さい。講演内容のダイジェストも PILOT 誌に掲載します。
※パネルディスカッションでは、パイロット、管制官、気象庁、JAXA、ディスパッチャー
等の様々な経歴と職場の総勢10名の方々にご協力頂きました。
2011 JAN
9
昨年同様、司会は、フ
ライトの合間に企画、準
されました。現在、羽田空港のレーダールーム
で成田のレーダーを管制していますが、成田の
備にご尽力頂いた航空気
象委員長の山本秀生氏で
す。
管制塔にいる戸島氏たちが見た成田の気象状況
を電話で羽田に伝えているそうです。管制官の
安全に対する想いが伝わってきます。
もう1人の司会は操縦
士協会理事で、どちらから
読んでも大村大(おおむら
最近テレビに出演され
た羽田管制官の堀井氏か
らは、
「最近、パイロット
だい)氏。アメリカでの小
型機操縦教官の経験と、現
在は国際線の767機長。
も管制官も刹那的な仕事
をしているのではない
か?自分の仕事をこなすだけではなく体験した
現在全日空で777のキャ
プテンで A320の経験もあ
る真下氏が参加され、ボー
イング、エアバスの設計
思想の違いなど、興味深
い内容を披露されました。
日本航空からは最近ラ
ストフライトを終えられ
た B747-400福元キャプ
テン。AIM-J の編集委
員長です。
今回、若い女性で運航
管理者の資格を持ち日本
航空で羽田空港の運航管
理補助業務をされている
八尋久美さんも参加され
ました。
林田氏からは、
「それぞ
れの分野の専門家の皆さん
こと。自分が遭遇したウインドシアーを次に伝
える。パイロットがどういう中で飛んでいるの
かを知らなければ、管制官も良い仕事を出来な
い。」と夜勤明けで一睡もせずに駆けつけ熱き想
いを語られました。
東京航空地方気象台
(羽田)の前鹿川勇明氏か
らは、
「パイロットを支え
る 管 制 官 を 支 え た い」
と!「Good Mission は
Good Team Work から」
最後に気象庁の原氏。
今回裏方として、資料作
成、技術指導、パワーポ
イントの操作等々。気象
に対する情熱は委員会の
宝物。
は、航空機を安全に飛ばす
という共通のミッションを
頃つぼみだったツバキが、
執筆中の12月10日、東京
さて、シンポジウムの
担っているのに、なかなか
他部門の人たちとお互いの仕事を話し理解し合え
る場がありません。しかし、このパネルディスカッ
ションで、それぞれの仕事の内容や想いを知るこ
では綺麗に咲きました。
今年の夏は記録的な猛暑
で、清水寺で発表された今年の漢字も「暑」。気
候変動が懸念され、地球上の生物、人間にとっ
とが出来たのは大きな意味がありました」と。
航空気象に興味がある
成田管制官の戸島氏は、
ても重要な環境問題の国際的な会議が開かれて
います。航空関係の仕事も気象と非常に密接に
関わり、来年もツバキの季節にシンポジウムを
管制塔から見た風の変化
をもたらす前線の動きを、
実際の画像を用いて紹介
10
2011 JAN
開く予定です。気象に興味のある方は毎月第4
土曜日に開催している気象委員会に是非、お参
加下さい。
低層ウインドシアー発生時の運航と情報提供
今回のシンポジウムでは、表記タイトルで約2時間に亘りパネルディスカッションを行い、パネ
リストと会場を巻き込んで活発な意見が交換された。このテーマは、昨年の第4回航空気象シンポ
ジウムのアンケートの回答で多くの方が「低層ウインドシアー」
「空港周辺の悪天候」に高い関心を
示していたこと、2009年3月22日に成田空港で起こった MD-11F 事故に関する経過報告書が公表さ
れ、記憶がまだ鮮明なこと、その後も着陸時のインシデントや事例が続いていることなどから選択
された。尚、低層ウインドシアーについては、第1回航空気象シンポジウム(2005年6月30日)-
悪天時の運航を考える-において取上げたが、HND, NRT でのドップラーライダーの運用開始、民
間空港9空港、共用空港6空港へのドップラーレーダーの展開や新管制卓の運用開始で環境はかな
り変化した。今回は情報を PILOT はどう入手し、どう伝えるべきか、予報官は管制官に何を知ら
せ、管制官は PILOT にどう伝えるべきかを中心に討議した。
1.ウインドシアー事故事例
ウインドシアーが影響したと思われる事故や報道されたインシデントを配布資料にまとめ、代
表的なものを紹介した。ウインドシアーが直接の原因ではなくても、パイロットにとって大きな
スレット(脅威:エラーを招く原因となるもの)であったことは事実である。自然に存在し、努
力ではなくすことのできないハザードに対しては、しっかりしたセーフティ・バリアを構築して
航空の安全を高めていきたい。
事例1 那覇空港 DC-8-62
1984年4月19日 00UTC
ROAH 190325Z VRB05KT 0800M R18/1100
+SHRA BKN007CU BKN010CU 24/23
Q1006/A2969
事例4 成田空港 L-1011
1990年3月24日 00UTC
RJAA 240500Z 23022G38/11KT 200V270
3200M BLDU R16/1200 FEW030CU SCT080AC
BKN120AC 20/12 Q1003/A2962 RMK 0448
WS 20KT LOSS 700FT ON FNA RWY16 B747
2.低層ウインドシアーは何故起こるか
・ウインドシアーの起こる原因について解説
・アメリカでは対流性のストームによるものが大多数を占めているが、日本では山岳波や局地前
線など、地形の影響を受けたものが少なくない。
2011 JAN
11
事例5 花巻空港 DC-9-41
1993年4月18日 00UTC
RJSI 180345Z 28020G41/07KT 240V350
25KM FEW040CU 14/M01 Q0996/A2941
事例12 成田空港 MD-11F
2009年3月23日 00UTC
RJAA 222150Z 32027G39/16KT 30KM
FEW020CU 12/M02 Q1000/A2956 RMK P/RR
・ドップラーライダーでウインドシアー警報を出しているのは日本だけ。ライダーに関する研究
では日本は世界の最先端といえる。
3.低層 Windshear は航空機にどのような影響を与えるか
・進入中(着陸直前)速度が20kt 変わったとき、
IAS 20kt 減ると 揚力は25%低下
IAS 20kt 増えると 揚力は28%増加 (B747 Approach Speed 150kt の場合)
・実際の PILOT の操作は?
4.パイロットや管制官は、ウィンドシアーの発生可能性をどうやって知ることができるのか
・TAF ではウィンドシアーの発生可能性は報じられない
・
「飛行場気象情報」は地形性のウィンドシアーについては精度が高いが、対流雲から発生するマ
イクロバースト等のウィンドシアーについてはピンポイントでの予想は難しく、雷雲の実況監
視が有効である。
・運航管理部門では FBTT(狭域悪天予想図)を有効に活用している。ただし、3時間予報と短
い予報しかないので、飛行中の航空機に対するアドバイスが中心。
・ヨーロッパ、アメリカでは、
“PROB40”または“PROB30”を前置して、低い可能性の現象も
予報されている
・10月21日から RJTT においても TREND 報が出されるようになったがあまり活用されていな
い。なぜなら、殆どの場合パイロットは上空で ATIS から Weather を入手するが、ATIS には
TREND が含まれていない。日本航空機操縦士協会(JAPA)では、ATIS に TREND を含める
ように要請している。
5.低層ウインドシアー発生時の運航
・実際に低層ウインドシアーが発生している時、管制塔では何が見え、どのような仕事をしてい
るのか?
・以前の管制卓では、空港周辺のレーダーエコー等は離れた場所に表示されていたが、新型では
同じディスプレイに表示できるようになった。
12
2011 JAN
・それでも、事前に気象台から情報があると、あらかじめ情報を表示させたり、Runway Change
や Missed Approach に備える管制間隔を取るなど対応が容易になる。
・PILOT も進入速度や離陸推力、FLAP の変更、Late Rotation の採用など Precaution を行って
いる。
・PWS(Predictive Windshear System), W/S System の紹介
6.Airbus と Boeing の最終進入速度について
・Managed Speed 使用の利点
・Head Wind 成分が大きく変化しても、大きな Thrust Control が不要。ただし欠点もある。
7.ウインドシアーが発生しているという情報をどうやって伝えるか
・Shear Line などが Display に表示され、気付いたとしても管制官には通報の義務はない。
・また、通報要領も決まっていないので、PILOT が正しく認識できように伝えられるか不明。
・近傍に TS(雷雨)や Windshear Alert が迫っている場合の伝え方はどうあるべきか?
・そのような時こそ Company(社用無線)が有効だが、121.5MHz の常時聴取との関係
・Company(社用無線)のサポートを受けられない外国機は管制からの情報が全てである。
・ウインドシアー接近中の情報を伝えたつもりが、Microburst Alert と誤解され、進入を取りや
めた事態があった
8.PIREP をどう伝えるか
・PILOT は CAS の変化を見てウィンドシアーと Report している。この場合、瞬間的な CAS の
変動も含まれるが、これは”Shear”とは違うのではないか?
・PILOT と気象、管制官の間で認識が異なっているようである。技術者としては、Loss または
gain して、続く場合が性能上影響が大きい。気象関係者も同じ認識。
・AIM-J 894にある通り、ウィンドシアーを通報する用語は未だ確立されていない。AIM-J の
表記は US AIM 7-1-24とほぼ同じである。
・
“Rough Air”
“Up wash / Down wash”だと管制官が次に伝えられないため、役に立たない。
人によって表現が違う。
・PIREP の通報は型にはまることなく、パイロット自身が次のパイロットに対して有益だと感じ
たもの、
「何があったから」
・
「どうした」
・
「これが必要だった」等をパイロット目線(クルー同
士の会話)で通報すれば良い。
・飛行中の航空機の飛行状況は管制官には分からない。管制官も知りたがっている。管制官から
催促される前に、情報共有のための Report をしよう。
パネルディスカッションのまとめ
・気象情報のやりとりは現状では管制間隔の維持の次であり、あまり積極的ではない管制官もいる。
・将来技術、ADS-B 等リアルタイムで PILOT に伝える技術を開発すべきで、JAPA も協力したい。
・それまでの期間は Company または管制官が伝える必要がある。
・PIREP を ATC 周波数を使っていかに有効に伝えるか?
・急激な変化が起こりそうなときは気象が管制に積極的に情報提供すべき。
・地上支援、Company では伝えられることは限られている。伝え方をどうするか。今後の見通し
が大切
他にも、①情報を飛行中の飛行機に送り表示する ADS-B 等のツールについて②ドップラーライ
ダーの今後の発展について③機上ライダーを使った検知装置についてなどの意見交換を行う予定で
したが、議論が白熱し、予定時間をオーバーしたため、残念ながら時間切れとなってしまいました。
2011 JAN
13
◦ 寄 稿
STOL 実験機(飛鳥)と
XC-2(次期輸送機)の開発
川崎重工業株式会社 主席操縦士
長谷部 聡
XC-2の話に入る前に、いろいろと紹介したい
●はじめに
次期輸送機(以下 XC-2という)の初飛行パ
イロットとして、PILOT 誌への寄稿を依頼され
ましたので、駄文で恐縮ですが投稿致します。
*少し、自己紹介を!
私は、S48年3月に17回後期生として航空大学
校を卒業し、川崎重工へ入社しました。航空大
学生苦難の始まりの最初の卒業生です。社内で
は、P-2J か ら 始 ま り、P-2V7、C-1、P-3C、
C-130H、STOL 飛鳥、E-2C、E-767(AWACS)
の各固定翼機の飛行試験を担当してきました。
C-130H はロッキード社、E-767は ANA での訓
練でした。また、その間に回転翼機も、とのこ
とで OH-6、KV107も担当しました。更に、固定
翼・回転翼の両機種の教育証明も取得しました。
飛鳥の開発時期には、約5年に亘り科学技術
庁航空宇宙技術研究所(現 JAXA)へ、シミュ
レーション試験を実施するために出張をくり返
機体があります。しかし、紙面の都合上もあり
STOL 飛鳥に限定して少し話をさせていただき
ます。なぜかというと、飛鳥はその後の US-1A
改や XP-1/XC-2の制御則(SCAS)の礎となっ
たものだと信じているからです。フルオーソリ
ティーではなかったですが、弊社の SCAS 制御
則の出発点が飛鳥だったのです。
● STOL(飛鳥)
勉強嫌いの私にとって、この機体との出会い
がなければ、XP-1/XC-2の開発担当パイロット
にはなれなかったと思っています。特に、原田
パイロット(航空自衛隊出身で弊社の先輩)に
は盗ませていただいたものが多く、感謝し切れ
ません。また、弊社の技術者の小林さんや航空
宇宙技術研究所の坂東さんや渡辺さんにも本当
に勉強させてもらいました。
この機体は、ENG 開発が先で、その ENG を
し、かなり忙しい日々を経験しました。
今回の XC-2の開発では、社内研究時代を含
めると12年程前から制御則等を決めるための開
発シミュレーションを実施してきました。MCET
乗せるための機体設計を各社に提案させるとい
うのが始まりでした。結果、C-1を母機とした
提案が採用され、弊社のプロジェクトが発足し
ました。しかしながら、エンジンの性能が当初
という開発チームが発足し、初飛行の詳細日程
が決まるころまでは、技術屋さん達と一緒になっ
の予定通り発揮されず、飛行重量を軽くする為
に、燃料を減らして飛ぶこととなり、飛行可能
て制御則のゲイン・スケジュール等を探究し続
けてきました。一方、10年程前の2000年2月に
は、P-3C の現有機を改修した FBL 機の評価試
験も担当しました。この機体で、制御則を実機
時間が短くなったのが試験をより困難とさせま
した。現実には、この開発は機体とエンジンの
ほぼ同時進行であり、非常に難しく大変なプロ
ジェクトでありました。
その飛鳥当時の経験が XC-2等の開発に生かさ
評価できたことで、XP-1/XC-2の成功を当時か
らほぼ確信することができたといっても過言で
はありません。
14
2011 JAN
れるチャンスがやってくるとは、当時の若造に
は夢にも想像がつきませんでした。
“若いころの
の最大操舵量に対して、初期値は10%程度のオー
ソリティーに抑えていました。
(暴走をケア)⇒
試験の進捗と地面効果の大きさから、3舵とも
に段階的に引き上げました。
(ピッチは、最終的
に80%?)
*飛鳥での一番の思い出
地面効果が大きく6度の進入パスからの、
STOL 着陸は不可能との結論となりかかったと
き、ヘリの経験もある私に意見を求められまし
STOL 飛鳥(着陸)
苦労は買ってでもしなさい”とはよく言ったも
のですね! (当の本人は、人の技能を盗むだけ
でまったく努力していなかったのですが……笑)
しかし、飛鳥では現在でも役に立つと思われ
る色々な勉強をさせてもらいました。以下に少
し紹介します。
● ピッチ CWS:ATT タイプは、どこかで実用
機に搭載して欲しいと考えている優れものです。
DDC による SPD HLD と組み合わせると PWR
を増減しても、姿勢も速度も全く変化せず、昇
降率だけが変化します。⇒着陸には最適と思い
ませんか? ただ、ハードの SYS が複雑になり
すぎますが……。
RATE タイプの CWS は、現状の世に出てい
る A/P 制御のメインです! (飛鳥では、切り
替えでどちらも使用可能でした!)
● FPC レバー:これも優れものでした。1本の
レバーで4本のスロットルレバーをドライブす
るのです。
(セミ・オートスロットルとでもいう
のでしょうか?)
● DLC・DDC:USB FLAP により、リフトと
ドラッグを制御しました。
● EFC:非常に有効ですが、全く ENG FAIL に
気づかず対処遅れとなる危険があるため、少しア
ンダー・コンペンセーションへと変更しました。
● BLC:前・後縁共に装備し、低速安定性の確
保に貢献しました。
● GA モード:FPC 上の GA SW のみで、GA 形
態へ自動的に形態を変更する。
(副操縦士のアシ
ストが不要!)
● SCAS の SSA のオーソリティー:パイロット
た。
「一気に STOL 着陸とせず、2段階アプロー
チを計画し順次 STOL 着陸に近づけるべきであ
る。また、それは可能と思う」とコメントした
ことで、私にトライせよとの指示が出て、実施
することになりました。その結果、地面効果の
量も計算でき、NASA のパイロットが来て飛行
したときには、進入時のままで何もしなくても、
地面効果で沈下率が減りスムースな STOL 着陸
が可能となるまでになりました。
勿論、私の試験実施後にオーソリティーを UP
させ、姿勢変化を打ち消すことができるように
なったために、このような着陸が可能となった
のです。
色々と、大変なプロジェクトでしたが、30~
35歳の若さでこの飛鳥を経験できたことが、そ
の後の色々な機種の導入から、XP-1/XC-2の開
発試験へと繋ぐことができたのだと確信してい
ます。その点では、飛鳥プロジェクトに参加で
きたことには非常に有意義でした。
●将来大型機としての社内研究時代!
12年間を遡ると何を書けばいいものやら ???
*将来大型機への夢の操縦システム(?)
● デジタル制御:私には理想がありました。デ
ジタル制御なら飛行制御の自由度が広がり、速
度エンベロープ・高度エンベロープのみならず
操舵量に応じた最適ゲインがどのようにも設定
可能だと!⇒夢でした! そんな複雑な制御則
は、不具合を誘発するだけとのことで却下!
● 縦型計器の PFD:最初から、縦型計器は大嫌
いでしたので、全面 AI の中に丸型計器を埋め
込んだ PFD を、ある技術屋さんを困らせなが
らも全力で開発しました。⇒ユーザーから選択
2011 JAN
15
XC-2の各担当パイロットをアサインすべきとい
うことになり、私は過去の流れからも当然 XC-2
を担当するということになりました。また、そ
れぞれの機種にパイロットがアサインされまし
た。ところが、いざ予定日が近づいてくると色々
な事由により XP-1が先にフライトし、XC-2は
それに遅れること3年程となってしまいました。
正直言って、心中穏やかではありませんでした
E-767(AWACS)
されず、ボツとなりました。
● センター・スティック:社内研究で同時期に
研究をしていたものですが、機動性が良くなる
ため戦術輸送機はこうあるべきと、大きくバルー
ンをあげました。⇒これも不採用でした。
● E-767(B767)訓練での FMS:ANA にお世
話になったとき、FMS 訓練に悩まされました。
パイロットにヘッドダウンを強要させる FMS
なんかダメだと断言し、カーソル・デバイスと
かタッチ・パネルにて操作できるようにせよと
声を大にして叫びました。⇒これは、社内技術
者からほぼ無視されました。
大まかに、こんなものが私の夢でした。個人
的には、今でもほぼ正しいと考えています。
HUD には丸型計器も出てきましたし、タッチパ
ネルなどは車にドンドン採用されています。
(あ
の頃は、パネルに傷がつくという理由だったと
思います?→取り替えればいい……?)また、
カーソル・デバイスは搭載されましたが、機能
は非常に限定され寂しい限りです。⇒これらは、
将来の拡張を期待しています。
何はともあれ、デジタル制御による飛行制御
は、大舵と小舵といったすみ分けで XP-1/XC-2
も同様に入れ込んでいます。また、XC-2の HUD
には当初から丸型速度計と丸型高度計が入りま
した。
● XP-1の初飛行
当初計画では、ほぼ同時期に XP-1/XC-2が初
飛行をするということでした。フライト・スケ
ジュールがカウントダウンされる頃には、XP-1/
16
2011 JAN
が、周りの方の暖かい気遣いもあり、モチベー
ションを維持することができました。
● XC-2の初飛行前
さまざまな苦難を乗り越えて、やっと初飛行に
こぎつけたのは、2010年1月26日のことでした。
年末年始の慌ただしいなか、現場は忘年会ま
で取りやめて、エンジン運転やらタクシー試験
に最大限の支援をしてくれました。
このスケジュールを確保するため、我々クルー
も出来る限りの努力をしようと誓い合いました。
しかし、好事魔多しで、初飛行前日の予報官の
風の予想は最悪でした。前夜はなかなか寝つか
れず、キャンセル時の影響等を考えると、ます
ます目が冴えパソコン上でウエザーとにらめっ
こすることとなってしまいました。06:00にウエ
ザー判断するため、05:30に会社到着し予報官に
電話をしたのですが返事は芳しくありませんで
した。再度、06:00に最終確認の電話をいれたと
ころ、制限風ぎりぎりの予想で、即 GO の指示
を出しました。担当機長として、ウエザーキャ
ンセル等によるスケジュールへの影響も考慮し
ないわけにはいかず、この点の葛藤と孤独さは、
身にしみて実感させていただきました。
結局、XC-2は社内試験の間を通じても、天候
にはあまり恵まれず、小生の行いの問題でもあっ
たのかと自省するばかりです。
● XC-2初飛行
機内外点検終了後、慌てることなく落ち着い
て指示に従って行動するよう機内ブリーフィン
グを行い、各担当を配置につかせました。
副操縦士の石田操縦士と、タクシー試験時と
同様にチェックリストによって作業を手順どお
り進めました。テイクオフ・ブリーフィングも
終わり、チェイサーにエアボーン・ピックアッ
プされるべく、計画どおりの離陸を行いました。
しかし、予想以上に気流が悪く、HUD のシン
ボルは跳びまくっており、体感としての乗り心
地も最悪! 着陸で恥をかきそうだというのが
最初に浮かんだイメージでした。小心者の小生
ですが、内心をクルーに悟られることのないよ
うに、その点はしっかり対処できたと思います! 7,000ft を越えた辺りから、ステディー風となり
安定した飛行が確保でき、一息つくことができ
ました。スケジュールがタイトなため、初飛行
から飛行性等のデータ取りを計画しました。そ
のために、空中で初飛行の余韻に浸る時間もな
く、メニュー遂行に没頭しました。
試験エリアでのメニューを全てこなして、岐
阜基地へ帰投しつつ高度を下げると、また最悪
な気流が襲い掛かってきました! 計画は、10ft
AGL でローパスを実施後、着陸するというもの
でした。ローパス実施時にも、速度計は飛びま
くり、姿勢の上下変動は激しく、汗のかきっぱ
なしでした。ただ、トラックが予想以上に安定
している、とは感じていました。初飛行後に、
納得したのですが、ロールの安定が非常に良い
のと、ヨーのロール・カップルが小さく(SCAS
の安定制御にて)、着陸操作そのものは非常に容
易でした。
実際の着陸においては進入姿勢がやや低く、
スレッシュホールド手前で PWR はアイドルに
したのですが、速度余裕をとりすぎていたのか、
なかなか沈んでくれませんでした。副操縦士と
XC-2 初飛行(着陸)
事前のブリーフィングで、5,000ft マーカまでに
接地しないときは GA しようと打ち合わせてい
ましたが、そのマーカが刻々と近づいてきまし
た。焦りからか、さらに汗が噴き出してきまし
た。結果的には、6,000ft マーカ辺りで接地しま
した。地上で見ていた人達からは、きれいな着
陸であったと着陸後に言われ少し安堵したので
すが、HOT な着陸であり正直にいって誉められ
たものではありませんでした。
その後も、天候に悩まされながらも予定の試
験項目を消化し、納入期限に間に合うよう機体
を納入することができました。
● XC-2納入
基本離陸重量120トンの純国産機としては最大
の機体です。操縦システムは、FBW システム
を採用した非常に先進性のある機体です。
生みの苦しみを味わいましたが、2010年3月
末に無事、技術研究本部に納入させていただき
ました。これは、社内飛行試験終了後も引き続
いて関係者の皆様が納入に向けてご苦労をされ
たおかげです。今現在、1号機は岐阜基地にお
いて、技術研究本部及び飛行開発実験団により
試験が継続されています。今後は、2号機も社
内飛行試験の予定で、本年度末には技術研究本
部殿へ納入された後は2機体制で技術実用試験
が行われる予定です。その成果は量産機に反映
され、近い将来には日本の空のみならず、世界
XC-2 初飛行(離陸)
の空へとその勇姿を羽ばたかせることでしょう。
今から、その日が来るのが待ち遠しく、楽しみ
で仕方ありません!
2011 JAN
17
の何物でもありません。また、多数の機種の近
●最後に
個人的な話ですが、来年6月末を持って定年
退職を迎えます。ぎりぎりの最後まで、XC-2に
代化改修等の技術試験も担当でき、運用のみの
パイロットとは違った世界を体験できたことは、
本当に幸せ者だと思っております。
関われたことも喜びですが、生涯で2度の大き
な開発プロジェクトに関われたことは幸運以外
最後に、航空界のますますの発展と、関係諸
氏のご健勝を祈念しております。
略語並びに用語解説
・CWS:Control Wheel Steering ・ATT:Attitude ・GA:Go Around
・FPC:Flight Path Control
・DLC:Direct Lift Control ・DDC:Direct Drag Control
・USB:Upper Surface Blow ・EFC:Engine Failure Compensator
・BLC:Boundary Layer Control ・SSA:Series Servo Actuator
・FBW:Fly By Wire・FBL:Fly By Light ・PFD:Primary Flight Display
・AGL:Above Ground Level ・AI:Attitude Indicator
・HUD:Head Up Display ・SCAS:Stability and Control Augmentation System
・AWACS:B767を改修した、航空自衛隊の早期警戒機
飛鳥にて(撮影時期不明)
筆者
XC-2初飛行後の集合写真
18
2011 JAN
航空技術
航空機設計における
信頼性解析(中)
航空局 検査課 遠藤 信介
4.信頼性設計の基準
航空機設計における信頼性解析においては、
信頼性の目標をどのように設定するか、という
ことがまず問題となります。
航空機の安全性、信頼性は、これ以上であれ
ば十分であるということはないのですから、理
想論を言えば、運航中の航空機の機能を損なう
ような故障の発生確率は、限りなく零に近づけ
られるべきでしょう。そうであるならば、設計
における信頼性の目標も故障確率零とすればい
いではないか、とおっしゃる方がいらっしゃる
かもしれませんが、現実には、どのような部品
でも、多数製作されたものが長期間にわたって
様々な環境条件の下で使用されても全く故障が
発生しないことを保証するのは、技術的に不可
能なことですので、そのような部品が多数集まっ
て構成される航空機の各システムの故障発生確
率も零とすることはできないのです。
では、故障であればその影響が重大なものも
軽微なものも、全て一率に技術的に可能な限り
発生確率を引き下げるべきかと言えば、これも
必ずしもそうとは言えません。例えば、全ての
故障モードについて、その発生確率を極小とす
るため、全ての構成部品を最高の精度で製作し、
かつ全てのシステムを三重化、四重化したとし
たら、航空輸送が経済的に成り立たなくなる程
航空機は複雑で重く、かつ高価になってしまう
でしょう。また、経済的に不効率なばかりでは
なく、このような複雑な航空機は、設計上での
計算はともかく、現実には、かえって安全性、
信頼性が低下するおそれすらあります。なぜな
ら、システムが複雑化すればするほど、そこに
は予期せざる要因(例えば、ヒューマン・エ
ラー)が介在する危険性が高くなる可能性があ
り、しかもこのような要因は発生する確率が比
較的高いにもかかわらず、数値的評価が困難な
ため、信頼性解析においては無視(発生確率が
零と見做される)されがちだからです。従って、
故障モードがそれ程重大なものでない場合は、
その発生確率を過度に極小化することは不必要
であると考えられます。
そこで、航空機の設計基準では、システムの
設計においては、安全運航に支障のない軽微な
故障の発生確率は一定水準までは許容するが、
安全運航を阻害する可能性のある重大故障の発
生確率はできるだけ小さくしなければならない
というように、故障の重大度に応じてその許容
される発生確率を規定しています。
表1は、民間の大型飛行機のシステムの信頼
性の基準を示したものですが、この表からわか
るように、故障の影響が重大になればなる程、
その発生確率の許容値は小さくなっています。
表1の最下段に示されている故障の許容発生
-3
-7
確率は、10 /hr とか10 /hr とかいう値で示さ
れていますが、この値がどの程度の大きさかピ
ンとこない方も多いのではないかと思いますの
で、簡単な例でご説明してみましょう。仮に、
1機の飛行機が1日に8 hr、年間300日以上稼
動するとすれば、年間2,500hr 使用されることに
なります。もしこの飛行機の寿命が20年である
とすれば、この飛行機は運用寿命中に50,000hr、
5
即ち0.5×10 hr 飛行することになります。従っ
-6
て、10 /hr の発生確率である故障は、1機の運
用寿命中では発生する可能性は低いことになり
ますが(故障発生過程がポアソン・プロセスに
従うとすれば、一寿命中の故障の発生回数の期
-6
5
待値は、10 ×0.5×10 =0.05回/寿命)、もし同
2011 JAN
19
表1 故障の重大度と許容発生確率(FAA AC 25.1309-1 及び JAR25.1309 ACJ No.1)
型機が200機あったとすれば、同型機全機の全運
7
5
航寿命は10 hr(200×0.5×10 )となり、このフ
リートでは10回程度この故障が起こってもおか
-6
7
しくないことになります。
(10 ×10 =10回/フ
リート・寿命)表1では、最も重大な故障の発
-9
生確率は10 /hr 程度またはそれ以下となるよう
に規定されていますが、この確率は、フリート
全体の全寿命においても発生する可能性が極め
-9
7
て低くなるような極微なものです。
(10 ×10 =
-2
10 /フリート・寿命)
このように、表1の基準の基本的な考え方は、
大惨事につながるような重大な故障については、
ある型式機の全フリート全寿命においてもその
発生は事実上あり得ないほど発生確率は極微で
なくてはならないが、重大性が低下すれば、即
ち故障の影響が軽微になれば、発生確率の許容
値は高くなるというものです。
この基準に従って、現代の旅客機の設計にお
いては、FMS や EFIS のような重要なシステム
の信頼性の評価が実施されています。但し、必
20
2011 JAN
ずしも全てのシステムについて、この故障モー
-5
-10
ドの発生確率は10 /hr であるとか、10 /hr で
あるとかいった数値的(定量的)信頼性解析が
行われる訳ではなく、システムによっては数値
計算を行わず定性的な評価のみを行う場合もあ
ります。
次に、表1の故障の許容発生確率と現実の航
空輸送の安全性の実績との関係についても簡単
にご説明しましょう。
安全性や信頼性の目標を立てるときよくとら
れる方法の一つに、まず最初に、全原因による
事故率や故障率を設定し、それを個々の原因別
の事故率、故障率に振り分け、原因別の事故率
や故障率の削減目標を立て、その対策を講じる
ことによって、最終的に全原因の事故率、故障
率を設定された目標値以下にするという方法が
あります。表1の故障許容発生率の一部もこの
ような考え方に基づいて設定されています。
表2は最近10年間の世界の定期航空の死亡事
故統計ですが、これを見ると定期航空の死亡事
表2 世界の定期航空の死亡事故統計(ソ連を除く、1986年は速報値)
年
1977
1978
1979
1980
1981
1982
1983
1984
1985
1986
24
25
31
21
21
26
20
16
22
16
死亡乗客数
516
754
877
812
362
764
809
223
1,066
330
1億人キロ当たり死
亡乗客数
0.07
0.09
0.10
0.09
0.04
0.08
0.08
0.02
0.09
0.03
1億飛行キロ当たり
死亡事故件数
0.30
0.29
0.34
0.22
0.23
0.29
0.21
0.16
0.21
0.14
10万飛行時間当たり
死亡事故件数
0.18
0.18
0.21
0.14
0.14
0.18
0.13
0.10
0.13
0.09
区分
死亡事故件数
図5 死亡事故率のブレーク・ダウン
故率の世界的平均値は、飛行時間当たりの率で
は近年はほぼ一定していて、10万時間当たり0.1
-6
件前後、即ち10 /hr 程度になっていることがわ
かります。これを原因別に見ると、最大原因は
操縦ミス等の人的過誤ですが、航空機システム
の問題によるものはそのうちの約10%となって
-7
おり、これによる死亡事故率は10 /hr 程度にな
ります。従って、もし航空機システムに起因す
る重大事故の発生率を現在の水準並みまたはそ
れ以下に抑えようとすれば、重大事故に至るよ
うなシステムの全ての重大故障の発生確率の総
-7
和は10 /hr 以下となるように航空機を設計する
必要があります。次に問題となるのは、全ての
-7
重大故障の発生確率の総和を10 /hr 以下にする
ためには、個々の重大故障の発生確率をどこま
で抑えなければならないかということですが、
表1の基準を作成した人達は、過去の統計等か
ら、このような重大故障は一つの型式の航空機
に100程度あると仮定しました。これにより、個
-7
別の故障による死亡事故率を、10 /hr の1/100、
即ち10 /hr 以下に抑えれば、システム故障によ
る死亡事故率を現在の水準以下にすることがで
-9
きます。
(図5参照)このようにして、表1の最
-9
右側の重大故障の許容発生確率である10 /hr が
得られたのです。故障の重大度がより低いもの
の許容発生確率は、これに基づき、重大度が下
がれば許容発生確率は高くなってもよいとする
考え方に従って決定され、表1全体が作成され
ました。
なお、上記の基準は航空機のシステムの信頼
性の基準であり、航空機の構造に対してはこの
基準は適用されず、構造の信頼性は強度基準に
2011 JAN
21
より保証されています。構造の強度基準には静
強度基準と疲労強度基準があり、静強度基準は、
うち、FMEA/FMECA と FTA について、内容
を簡単にご紹介しましょう。
運航中の予想最大荷重を定め、構造がそれに耐
え得ることを求めるものですが、疲労強度基準
は、運航中に発生する繰り返し荷重に構造が耐
まず、FMEA またはそれに故障の重大度の評
価を加えた FMECA ですが、これは、重要部品
について、考えられる全ての故障モードを洗い
出し、その原因、重大度、発生確率等を評価し、
え得ることを求めるものです。これらの基準は、
前述のシステムの信頼性の基準とは異なり、確
率的リスク評価を求めている訳ではありません
が、運航中の航空機の信頼性を保証するという
目的については、前述の基準と同様です。また、
強度基準への適合性を証明する過程においては、
疲労のセーフ・ライフ設計や疲労亀裂の進行に
対する検査の間隔の設定などにおいては、統計、
確率論的な評価が行われる場合もあります。
5.信頼性解析の手法
航空機を設計する際には、その信頼性が前述
の基準に適合することを証明することが要求さ
れます。システムの信頼性については、まず基
準に従って信頼性の目標値が設定され、システ
ム全体が目標とする信頼性を達成するように細
部の設計が行われますが、初期設計ができあがっ
たところで、設計に問題がないかチェックがな
されます。このために故障解折が行われますが、
故 障 解 析 に は、FMEA(Failure Mode and
Effects Analysis)、CA(Criticality Analysis)、
FMECA(Failure Mode Effect and Criticality
Analysis)
、FTA(Fault Tree Analysis)、WCA
(Worst Case Analysis)等、目的に応じた様々
な手法があります。次に、システムの信頼性解
析の手法の代表例として、これらの故障解析の
その結果、設計変更等の改善案を立てるための
ものです。FMEA/FMECA の様式は設計者に
よって異なってきますが、その一例を表3に示
します。
表3は、FMECA の一例に過ぎませんので、
この他の様式が使われることも多いと考えられ
ますが、一応、表3の例に従って、FMECA を
説明しますと、まず、対象とするシステムの重
要部品を列挙して、それらについて、第1項に
考えられる全故障モードを書き出します。これ
には、取り付けミス、調整ミス等のヒューマン・
エラーも考慮します。ヒューマン・エラーの典
型的なものには、スイッチを作動させない、調
整ミス、締め付け不良、取り付けミス等があり
ます。ヒューマン・エラーは、一般的に考えら
れるより発生確率が高いようで、米国のある統
計によれば、指示書の読み間違いは1,000回に65
回、計器の誤読は1,000回に5回、Oリングの取
り付けミスは1,000回に67回、リンケージの調整
不良は1,000回に17回もあるそうです。従って、
故障モードを考慮する上では、ヒューマン・エ
ラーは無視できないのです。
第2項には、電気関係の部品なら接触不良と
か、機械部品なら疲労による破断とかいった故
障原因を書き、第3項には、地上滑走、離陸滑
走、上昇といった運航区分を記入しますが、記
表3 FMECA の例
22
2011 JAN
入に当たっては、その故障モードが最も悪影響
を及ぼすものから考慮していきます。
どうであるか、誤った対応をし易くないか、も
し誤った対応をしたらどうなるかなどが分析さ
第4項の故障の影響の欄には、故障が発生し
た場合どういう事態になるのか、例えば、この
部品が故障するとこれこれのシステムは作動不
れ、記入されます。
最後の第8項には、その故障の発生確率が記
入されます。
能になるが予備のシステムが作動し始めるといっ
たような、故障発生時の一連の現象を記入しま
す。
FMEA/FMECA には、この表の他、関連す
る図面、ワイヤリング等を添付して、故障モー
ドの分析に活用します。
第5項の重大度の欄には、システムに対する
故障の影響の重大性を評価し、その結果を記入
します。重大度の評価の仕方の一例としては、
このような FMEA/FMECA は、個々の故障
モードがシステムにどういう影響を与えるかを
評価するボトム・アップ的な信頼性解析の手法
致命的(人命にかかわるか、またはシステムが
破壊する)
、重大(人が負傷するか、または主要
システムが損傷するか、もしくは直ちに対応措
置を要する)、軽微(人が負傷したり、主要シス
テムが損傷したりすることなく、対応すること
が可能)
、微小(人身傷害やシステムの損傷に至
らない)といったような区分の仕方があります。
故障の重大度の評価の方法には、この他にも、
いくつかの類似の区分方法があるようです。
第6項には、その部品が不作動でも出発が可
能であるかどうかを記入します。
第7項には、その故障が発生した場合、それ
が乗員に誤りなく正しく認知され、適切な措置
がとられ得るものであるかどうかなどが記入さ
れます。ここには、乗員がその故障を他の故障
と誤ってしまう可能性のある類似の表示がなさ
れる他の故障があるか、故障を確認する方法は
であるのに対し、次にご紹介する FTA は、シ
ステムの大きな不具合から始めて、サブシステ
ム、個々の部品の故障まで追求するトップ・ダ
ウン的な手法です。
図6は FTA の概念を示した図ですが、これ
では、エレベーターが故障する原因を分析して
います。図の例では、電源ロス、ドア故障、モー
ター故障のどれか一つだけでも発生するとエレ
ベーターが故障するので、FTA 上で、これらの
3つの事象とその直上の事象(エレベーター故
障)とは OR ゲートで結ばれています。OR ゲー
トは、このように、下位の複数の事象のどれか
1つでも発生した時に上の事象が発生するとい
う条件を表わしています。
OR ゲートとは対照的な条件を表示するもの
は AND ゲートといわれ、下位の複数の事象の
全てが発生した場合に上位の事象が発生すると
図6 FTA の概念図
2011 JAN
23
(注)・t は時間
・下段は発生確率。式の意味については前号付録を参照
図7 OR ゲートの確率計算例
いう条件の場合に、下位の事象と上位の事象を
結びます。図6の例では、電源ロスの事象と停
電及び緊急発電機故障の2つの事象とを結んで
いますが、これは、停電が発生しかつ緊急発電
機が故障した場合にのみ電源ロスとなり、停電
だが緊急発電機が正常である場合やその逆の場
合には電源ロスとはならないことを示していま
す。
FTA は、図6のように、最上位のトップ事象
に、解析すべき事象、例えば、飛行機が離陸滑
走中に滑走路を逸脱し機体が損壊するといった
ような事故とか重要システム不作動といった重
大事象を置き、このトップ事象から始めて、上
位の事象の原因となる下位の事象を次々と挙げ、
大システムからサブシステム、部品の故障へと
掘り下げます。
掘り下げが一番下の個々の部品の故障まで到
達し、FTA の図の全体が完成したら、次に、問
題となるトップ事象の発生確率はどの程度にな
るかの分析を行います。このためには、まず、
各部品の故障に関するデータ・ベース等から、
個々の部品の故障等の最下の事象にその発生確
率を割り当てます。次に、確率計算式を用い、
一段ずつ上の事象の発生確率を計算します。図
6の例で説明しますと、例えば、変電所の事故
-9
の発生確率は5.0×10 /hr、送電線の断線の発生
-8
確率は1.0×10 /hr だったとしますと、これら
24
2011 JAN
は OR ゲートで結ばれているので、どちらかが
発生すれば、停電が発生することになり、停電
の発生確率は近似的に、変電所事故の発生確率
-9
-8
5.0×10 /hr と送電線断の発生確率1.0×10 /hr
の和の1.5×10 /hr になります。なお、これは
近似的な計算で、厳密には、図7のような確率
計算となります。
停電の発生確率が求められたら、更に次の上
の事象の発生確率を求めます。図6の例では、
停電と緊急発電機故障が同時に発生した時に上
の電源ロスが発生するので、電源ロスの発生確
-8
率は、停電の発生確率1.5×10 /hr と緊急発電
-8
-16
機故障の発生確率2.0×10 /hr の積の3.0×10 /
-8
hr となります。
このようにして、下の事象の発生確率から順々
に上の事象の発生確率を求め、最後に問題とな
る最上位のトップ事象の発生確率を求めます。
図6の例では、下位の事象の発生確率から、トッ
プ事象であるエレベーター故障の発生確率は3.0
-7
×10 /hr と計算されています。
上記の例は、FTA をごく簡略化したものの説
明ですが、現実の FTA は、図6のような簡単
なものではなく、事象の数、段数が多く、ゲー
トも OR と AND ばかりでなく、より複雑なロ
ジックのゲートも使われます。FTA の結果は、
トップ事象の重大性を考慮し、その発生確率が
過大であれば、何らかの設計改善を図るといっ
たようなことに活用されます。
以上は、信頼性解析に用いられる故障解析の
すべての故障モードの組み合わせが解析される
はずなのですが、現実には、ほとんど無限にあ
代表例としての FMEA/FMECA と FTA です
が、これらの手法は、主としてシステムの信頼
性解析に用いられ、航空機構造の信頼性解析に
る事故発生のシーケンスの組み合わせを列挙す
るのは不可能な話です。従って故障モードを列
挙する時は、解析者の総合的な技術判断が頼り
は、軍用機の構造の整備方式の決定に FMEA が
用いられる場合等を除いて、一般にはあまり適
用されていないようです。ただし、航空機構造
になるのですが、過去に経験のないような故障
は、解析時に見落とされるか、発生確率が微小
と見なされがちです。
の解析は、強度解析が中心であり、静強度及び
疲労強度を中心に解析が行われますが、構造の
検査手法及び検査間隔を決定する際などには、
さらにもう一つの大きな問題点は、事故ある
いは重大故障の発生確率を評価するには、発生
のシーケンスを正しく評価するとともに、基本
損傷の進行速度、残留強度、検査による損傷の
発見確率などをパラメーターとした一種の信頼
性解析が近年実施されるようになってきました。
また、疲労強度において、フェール・セーフ設
計が適用できないためにセーフ・ライフ設計が
行われる部材(ランディング・ギアが代表例)
については、従来から、確率・統計理論を用い、
破断の確率が一定以下の微小な値になるように
寿命の算定が行われています。
さて、設計過程においてこのような信頼性解
析を行い、不具合箇所を是正すれば安全対策は
万全であるかと言えば、残念ながら、現実の運
航では設計時には予想もつかなかったような事
が発生したりして時折事故が発生するのはよく
ご存知のとおりです。
現実に事故が発生した時には、安全には十分
配慮していたが、このような問題は全く予測外
であったというようなことがよく言われます。
これは、ある意味で当然のことで、もし設計時
となる個々のサブシステム、部品の故障発生確
率を適正に算定しなければなりませんが、現実
には個々の部品等の故障発生に関するデータ・
ベースが必ずしも満足できるものではないこと
です。過去、米国の宇宙船の信頼性評価に FTA
が用いられ、その結果はあまり芳しくなかった
ようですが、その理由は基礎的データ・ベース
が薄弱であったためと言われています。
このように設計における信頼性解析には一定
の限界があり、解析時に前提とされた仮定を十
分理解しないと、その結果の数値だけが一人歩
きしてしまう危険性はあるものの、システムを
熟知した解析者が行う信頼性解析は航空機シス
テム全体の安全性、信頼性向上に大いに貢献す
るものであると考えられます。
(以下次号)
にその事故の発生シーケンスが故障解析等で予
測されていれば何らかの防止策が講じられてい
*この技術論文(中)は、前号に続くもので
す。表や図の番号は(上)からの通し番号に
なっています。
(運航技術委員会)
たはずです。故障解析では、事故に至るような
2011 JAN
25
連 載
その39. 日
中航空戦と
フライング・タイガーズ
徳田 忠成
機首に凶暴な歯を露わにした鮫の顔を派手に
描き、中国空軍のマークをつけたカーチス P40
を知っている人は多いが、『フライング・タイ
ガーズ』を知る人は以外に少ない。ましてや戦
後、フライング・タイガーズの流れをくむエア・
アメリカ社が、CIA(米中央情報局)の指令に
よって、世界各地の反共勢力を支援して飛びま
わった事実を知る人は少ない。わずか7ヶ月間
に満たない期間ながら、有能な指揮官によって
編成された、中国での米義勇兵航空隊(AVG)、
通称、フライング・タイガーズ航空隊(以下、
タイガーズ)が、日本軍に痛打を浴びせたこと
を中心に、話をすすめたい。
●太平洋戦争までの日中航空戦
昭和6年(1931年)9月に満州事変が勃発し
たころの日本陸海軍航空部隊は、まだまだ組織
増強の途上にあって、その航空兵力が軍部の中
で疑問視されていた時期だった。従って、中国
戦線での我が航空部隊は、航空兵器の実験場の
ような感が強い。昭和7年1月には第一次上海
ドン海軍々縮会議(1930年)による艦艇制限の
締結が大きく影響していた。
盧溝橋事件の1カ月後、第二次上海事変勃発、
戦域はますます広がり、日本陸軍は新設された
事変、その翌月22日、3機の三式艦戦によって、
アメリカ人パイロット、ロバート・ショート予
支那駐屯軍隷下に臨時航空兵団を編成、関東軍
航空兵力の一部も、その指揮下におかれた。日
備役中尉搭乗のボーイング P12戦闘機が落とさ
れた。彼は飛行教官として国民政府軍入りした
直後であり、日本海軍初の撃墜であった。
9年3月に満州国建国、3年後の盧溝橋事件
本海軍は上海ないし南京攻撃のため、空母3隻
からなる機動部隊を出動させている。しかし、
昭和12年8月の台風シーズンに強行した世界初
の渡洋爆撃は、日本海軍に多大な犠牲を強いた
を契機に、再び日中は戦火(日華事変)を交え
たが、日中両政府の思惑とは裏腹に、全面戦争
が、世界初の戦略爆撃として、その名を世界に
とどろかせた。
へと展開したから、日本陸海軍航空部隊の増強
は、加速度的に上昇していった。その背景には、
ワシントン海軍々縮会議(1922年)、ついでロン
一方、蒋介石率いる中国々民党政府は、泥縄
式に米、独、伊から航空軍事顧問を招聘するな
26
2011 JAN
海軍三式艦上戦闘機(上)とボーイング P-12戦闘機
ど、空軍創設に力を注いだ。例えばイタリアか
らは150人という大がかりな顧問団を迎えてみた
が、物見遊山のような気持ちで中国へ乗りこん
できた彼らは、お話にならなかった。その上、
もともと中国は航空工業基盤がないから、各国
から輸入した雑多な機種約300機と、経験の浅い
パイロット数百名が配備される程度で、その補
給や整備能力が欠落している未熟な空軍組織で
しかなかった。これを補うために、どうしても
義勇兵パイロットなどの外人部隊の投入を余儀
なくされた。
開戦当初の彼我の航空戦力は、共に消耗が激
しかったが、増強に増強を重ねる日本陸海軍航
空部隊に対して、中国空軍は次第に後退していっ
た。そして決定的になったのは、日本海軍が投
入したゼロ戦だった。96艦戦に比べて、航続力
の長大なゼロ戦の登場は、昭和15年8月、爆撃
機による重慶ないし成都上空の護衛が可能にな
り、たちまちにして航空優勢を確保していった。
といっても広大な中国と国民政府を完全に支配
するまでにはいかない。結局、日中戦争の長期
化が懸念される中で、太平洋戦争が始まったの
である。
●フライング・タイガーズ誕生
逡巡する蒋介石は、1人の強力な指導者と巡
りあった。クレア・L・シェンノート退役大尉
である。彼は1893年9月にテキサス州で生まれ、
ルイジアナ州で
幼年期をすごし
た。第一次大戦
シェンノート少将(退役時)
としての
飛行機運
用につい
て独自の
研究に自
信をもっ
ていた彼
は、よく
上官と衝
P40とフライング・タイガーズの面々
突した。
慢性気管支炎による聴力不足によって、47才で
米陸軍航空隊を退いた彼が著した『防衛的追撃
飛行の役割』は、飛行技術を裏づける先進的見
解として高い評価をえている。
日中が衝突する前から、大佐待遇で中国軍々
事顧問(航空参謀長)として中国に滞在してい
たシェンノートは、やがて蒋介石が全幅の信頼
をおくようになった。以来、その類まれな指導
力と、天才的ともいえる戦闘方法によって、優
れた戦略家ないし戦術家として名をなした。
1937年夏には、すでに日華事変が勃発して、
風雲急を告げていた。中国空軍に対して絶対的
な指導権を握りつつあったシェンノートは、こ
の戦いで、未熟な中国人パロットを鍛えあげ、
前掲した日本海軍による渡洋爆撃で、上海、南
京、抗州上空で、信じられないような戦果をあ
げた。
日本海軍の犠牲は大きく、米顧問団の正式記
録の中では、3日間で爆撃機54機を撃墜してい
る。皮肉にも日本軍は、この被害によって戦闘
機の護衛のない爆撃機が、如何に無益であるか
後に念願の陸軍
航空隊パイロッ
を悟った。それでも日本側記録によると、約450
機を撃墜ないし地上撃破している。
トになり、現役
中は、P-12F 戦
闘機による航空
隊最高のアクロ
1941年に入って米国は、中国空軍に対する物
資の供給に拍車をかけていた。ルーズベルト大
統領の暗黙の承認によって、それまでも軍事物
資を補給路線であるビルマ・ルートを経由して
バット・チーム
のリーダーとし
中国へ送りこんでいた。軍用機もすでに雑多な
機体約500機を送りこんでいたが、飛行可能な飛
て名をなしてい
た。
しかし、武器
行機は100機に満たない。しかも、今までの空戦
によってパイロットの消耗は激しく、その上、
物的な損耗もあって、鍛え抜かれた日本軍航空
2011 JAN
27
部隊に対抗するためには、落差が大きすぎた。
欧州で第二次大戦に突入し、ドイツと死闘を
繰り広げている英国は、米国へ航空機産業、つ
まり戦闘機、爆撃機、輸送機、練習機を大量発
注している最中であったが、米国は利害関係か
ら、中国を無視する訳にはいかない。
米国政府は中国に、やや時代遅れの機体では
あったが、追加の練習機と戦闘機約300機の提供
と並行して、中国軍パイロットの米本土での訓
練が企画された。この急を要する計画の穴埋め
として生まれたのが、俗称、フライング・タイ
ガーズである。
すでに中国空軍を指導していたシェンノート
大佐と、中国空軍作戦部長の毛邦初少将は、急
きょ、蒋介石の親書を携えてアメリカへ渡った。
昭和15年9月のことである。それは中国空軍建
設のための必要な訓練をアメリカ国内で実施す
ることと、その機材を求める大規模なものであっ
た。しかし、ナチスと戦っている友好国イギリ
スへの軍事援助に手いっぱいの米政府は、なか
なか首を立てに振らなかったが、シェンノート
の地道で粘り強い行動によって、ついにルーズ
ベルト大統領の同意をとりつけた。米国議会に
よる武器貸与法が可決したのは16年3月であり、
実際に貸与された飛行機が海を渡ったのは、日
本海軍による真珠湾攻撃から数カ月後のことで
ある。
国民政府は、英国への輸出が決まっていたカー
チス P40戦闘機100機と必要な装備品の買収に成
功した。そして相当数の米陸軍航空隊、海軍、
海兵隊からの操縦志願兵、および義勇兵として
地上支援する隊員の募集が、秘密裏にすすめら
れた。日米関係は一触即発の状態にあったが、
まだ米国は中立の立場にあった。なお、正規の
訓練を受けた現役パイロットを期待することは
無理だったから、飛行機を操縦できるというこ
とだけで、浮浪者やアルコール中毒者までも集
められた。
最初は尻込みしていた彼らも、厚遇の魅力や
帰国後の身分の保障を知るにおよんで、ようや
く39州からパイロット要員100名(海軍50名、陸
軍35名、海兵隊15名)をかき集めた。といって
28
2011 JAN
中国空軍のマークをつけたカーチス P40
も、彼らのほとんどは爆撃機経験者であり、し
かも実戦の経験はなく、戦闘機での即戦力にな
るのは1/3に満たなかった。加えて地上勤務者
200名が集められ、急ぎ中国へ渡った。機体は
カーチス P40B 型「トマホーク」とE型「キティ
ホーク」計100機が中国へ送りこまれた。
●シェンノートの空戦術
昭和16年7月末、戦地から遠く離れたビルマ
(現・ミヤンマー)のラングーン(現・ヤンゴ
ン)に到着した彼らは、その北方約175マイルに
ある、英軍のキエドー訓練飛行場を借用して、
早速、空戦のための猛訓練にはいった。猛暑で
湿度のたかい、不衛生極まりない生活環境で、
マラリアや赤痢による脱落者もでたが、1941年
11月までには、タイガーズは総計174名のパイ
ロットと整備員を擁するまでになっていた。
タイガーズは秘密組織であるために彼らの正
式の身分はなく、中国国民政府とは単に金銭上
の契約を結んでいるだけで、個人的には、いか
なる宣誓もおこなっていない。ペンタゴンは、
彼らに職業を詐称した特別旅券を交付して中国
へ送りこんだ。従って、いつ除隊して帰国して
も、
『不名誉除隊』というレッテルはつけられた
が、誰もとがめ立てしなかった。事実、10人に
ちかい者が、原始的な生活にウンザリして去っ
ていった。
彼らの給料は破格で、月給は事務員で最低で
も150ドル、地上勤務員幹部で400ドル、パイロッ
トは600ドル、分隊長で650ドル、中隊長で750ド
ルが与えられ、その他、数々の特典があった。
例えばパイロットならば、1機撃墜するごとに
国民政府から報奨金として500ドルが支払われた
から、破格である。当時の平均的日本軍パイロッ
トの10倍に近い。
しかし、パイロットの資質といえば、その厚
遇につられて参加した者がほとんどだったから、
士気は低く、なによりも経験が浅く、即戦力と
しては話にならなかった。やむなくシェンノー
トは、戦闘機による空戦の初歩から教えなけれ
ばならなかった。幸いに彼は、爆撃機優先論が
幅をきかしていた時代にあって、先見の明をもっ
ていた。それは爆撃機を護衛することができる
長距離飛行が可能で、強力に武装された戦闘機
の必要性だった。同時に、チームワークを強調
し、個々の英雄的な行動を厳にいましめた。
彼の空戦術は、かならずペアで行動すること
を強調した。この戦法は、ドイツのロッテ戦法
から学んでいる。彼は経験の浅い未熟なパイロッ
トたちに、根気よく講義し、空中では少なくと
も60時間のペアによる模擬空戦の訓練を徹底し
て教えこんだ。しかし、訓練とはいえ装備品の
損耗が激しかったから、交換するパーツ不足か
ら、実働数は100機よりかなり下回っていた。し
たがって太平洋戦争勃発当初、戦闘可能な飛行
機は約50%でしかなかった。
して圧倒的勝利をおさめたのが緒戦であり、1941
年12月20日のことであった。
この日、第一中隊と第二中隊が、昆明飛行場
上空で護衛のない日本陸軍の99軽爆10機を迎撃
して戦果をあげた。自信過剰になっていた日本
陸軍航空隊は、予期しない多勢の P40トマホー
クに迎撃されて3機を失っている。3日後には
第三中隊として、イギリス空軍と共同で出撃し、
ラングーンとその周辺で、日本の爆撃機と戦闘
機からなる戦爆連合を迎撃し、互角ないし優勢
な空中戦をくりひろげた。有名な加藤隼戦闘隊
との空戦も展開されている。
彼らのほとんどは昆明の防衛とラングーン地
方であり、迎撃が主任務であった。ラングーン
での戦いは、外部と中国を結ぶ唯一の重要な陸
路を確保せんがためだったが、これが日本軍に
●フライング・タイガーズの戦果
1941年12月8日、日本海軍による真珠湾攻撃
以来、破竹の勢いでアジア全域を席巻していた
日本陸海軍は、すでに中国の大都市を制圧し、
よって叩かれると、インドと中国を結ぶ、有名
中国本土の1/4を占領していた。中国空軍はほと
んど壊滅状態になり、カーチス P40型という老
朽機と空戦経験のないパイロットを擁するタイ
ガーズには、相当の被害がおよんだ。この時、
な『ハンプ(ヒマラヤ)越え』という援蒋航空
補給ルートが設けられた。この大胆且つ危険な
作戦は、中国軍と米第14航空軍を著しく強化し
たが、世界の屋根であるヒマラヤ越えは、C-46
シェンノートは、零戦の驚異的な性能に関する
詳細な報告をワシントンへ送り続けたが、無視
や C-47(DC-3の軍用型)に過酷な飛行を強い
たことで、多くの輸送機が犠牲になった。
されている。ペンタゴンの反応では、有りもし
ない高性能の飛行機をデッチあげて、自分たち
の無能ぶりを湖塗していると考えていたのだ。
米国の対日参戦を契機に、義勇軍としてのタ
タイガーズのパイロットたちは、シェンノー
トの指導よろしきをえて勇敢に戦い、着実に戦
果をあげ、多くのエースを排出している。ラン
グーン防衛作戦に従事したパイロットたちは、
イガーズは米陸軍航空隊に編入されたから、彼
らの活躍は約7ヵ月間でしかない。日本軍が中
劣悪な生活環境の中でよく頑張った。しかし、
満足な食糧もないジャングルの中の原始的な生
国の昆明を攻撃したときに、タイガーズが参戦
活は、心身共に疲弊し、これに我慢できなくて、
ヒマラヤ山脈上空を飛行する C-46型輸送機
2011 JAN
29
不名誉な除隊を申し出た者もいる。
しかし、彼らのある者にとっては、ことさら
不名誉ではなかったようだ。というのは本国へ
帰って、世に知られざるタイガーズの勇猛果敢
な行動を共にした内容を、冒険記事として小説
を書き、ベスト・セラーになったり、戦闘記録
を映画の脚本として空想的に描いて、評判をとっ
たチャッカリ者もでてきたらしい。
軍隊ではあるが、義勇兵の集まりであるタイ
ガーズでは、上官の命令は絶対的ではない。必
然的に彼らは、自殺的で危険な地上攻撃への出
撃をいやがった。頑丈ではあるが、整備能力不
十分な、この時代の老朽機カーチス P40に乗っ
て、激しい地上砲火を受けながら、日本軍を爆
撃したり、銃撃したりする任務を拒否して、シェ
ンノートを怒らせたこともある。
あるとき、日本軍の飛行場を爆撃する英航空
隊のブレンハイム爆撃機の援護任務を命令され、
性能の悪い機体とともに飛行するのを拒否した
ことがある。指名された20数名は、脱退届を出
して辞表を申しでた。「臆病風に吹かれてる奴
は、勝手に辞めてしまえ!」、シェンノートの言
葉に彼らは激昂し、反発した。そして、最後に
は冷静さを取りもどして任務についた。彼の指
揮官としての苦悩がうかがえる。
彼らの働きは中国軍高官の目にとまり、ある
ときは、中国兵の士気を高めるために、自分た
ちのいるところでタイガーズ飛行隊を飛ばして
ほしいと執拗に要求したが、シェンノートは「そ
んな目的で飛行機を飛ばしているのではない」
本機撃破数は、確認されただけでも153機にの
ぼった。しかもこの数字は、山中や海中に墜落
した数は含まれていない。
空中戦での犠牲者9名、行方不明4名、日本
軍の銃撃によって13名が戦死した。また隊員の
うち2名は爆弾によって死亡し、9名が訓練飛
行中の事故や、飛行機の輸送中に亡くなってい
る。
タイガーズは戦闘可能機数が、常に55機を超
えたことが無かったにもかかわらず、航空戦史
に残る活躍をして、第一段の幕をとじた。チャー
リー・オールダーは、エース第1号となった。
ボッブ・エールは16機を撃墜してトリプル・エー
ス(15機)以上の日本機を撃墜し、ついでデー
ビッド・ヒルが12機、ビル・リードが11機、そ
してダブル・エース(10機)は6名を数えた。
変わり種もいた。すでに6機を撃墜していた
グレゴリー・ボイントンは、仲間との不和によ
り、途中でタイガーズへ辞表を提出して本国へ
帰ってしまった。しかし、そこで再び海兵隊に
入隊、パイロットとして活躍し、22機を撃墜、
計28機を撃墜して米議会名誉勲章が授与されて
いる。シェンノートは、その功績が評価されて、
引き続きアメリカ正規軍に編入され、18年3月、
少将に進級すると同時に、新設された第14航空
軍司令官として中国・ビルマ戦線で指揮をとっ
た。さらに、国府軍最高勲章である青天白日章
を蒋介石総統から授与されている。
しかし、日中戦の去就を熟知しているシェン
と、にべもなく断っている。
●エースの誕生
タイガーズは1942年7月4日に事実上の解散
をしている。しかし、引き続き米第10航空軍隷
下に入って、シェンノート率いる中国航空特別
任務部隊(CATF;China Air Task Force)が、
中国軍の一部として活躍した。しかし、ほとん
どの者が契約金を受け取って帰国ないし輸送機
パイロットに転じ、シェンノートと行動を共に
したのはわずか5名であった。しかし米軍資料
によると、この約7ヵ月間で、空中戦による日
30
2011 JAN
蒋介石(左)が開いたシェンノート少将の送別会
ノートは、後任の軍司令官やペンタゴンとの摩
擦を広げ、最後の勝利を見届けることなく、8
年間の作戦任務を終えて解任された。強烈な個
性故の、必然の結果だったかも知れない。
『退役
願い』という形で米陸軍を去ったのは、終戦直
前の昭和20年7月のことだった。
●大戦後の去就
が流れ、その規模も拡大し、ピーク時には社員
5,600人、航空機167機を所有していたという。
エア・アメリカは、『秘密の空の宅急便』とし
て、危険な輸送任務にたずさわった。コメから
亡命者、武装兵から、ブタなどの食糧用動物、
そして最新兵器と、あらゆるモノが空輸された。
機種も C-123プロバイダー、C-130ハーキュ
大戦後の中国大陸は、国共内戦が日増しに拡
大していった。1945年8月、米陸軍を退役した
リーズや各種ヘリコプターなどが加わり、1961
年のキューバ進攻作戦では、B-26爆撃機による
爆撃まで敢行している。さらに1962年以降のラ
シェンノートは、戦いに敗れた蒋介石および国
民政府と行動を共にすべく、台湾へ飛んだ。こ
こでシェンノートは、いち早く民航空運公司
(CAT;Civil Air Transport)を立ち上げた。と
いっても、かつての戦闘集団ではない。今度は、
米軍から払い下げられたカーチス C-46およびダ
グラス C-47輸送機20機を使って、毛沢東率いる
中国本土の共産党軍から、中国本土各地で孤立
しようとしている国民党政府軍兵士の台湾への
輸送や、弾薬、軍事物資の輸送に明け暮れた。
1950年に勃発した朝鮮戦争では、国連にチャー
ターされて、国連軍と韓国への支援活動をして
いる。そして1954年には、極東最大の航空網を
有する規模に拡大し、日本や沖縄へも煩雑に飛
来するようになっていた。那覇を中心とする琉
球諸島の航空網は、この時にほぼ確立された。
時代の流れは、米政府によるレッド・パージ
の嵐が世界を駆けめぐり、アメリカ政府機関で
オス内戦、ベトナム戦争、ニカラグア内戦など
に大車輪の活躍をした。そしてエア・アメリカ
は1976年6月30日、インドシナ半島の戦火が終
焉するとともに、その役割を終え、フライング・
タイガーズを源とする、およそ40年の歴史に幕
を閉じたのである。
しかも、エア・アメリカの存在が、BBC(英
国放送協会)のある敏腕記者によって、その実
態が明かにされてもなお、米政府は、公式にも
非公式にも、これを認めていない。
その過程で、エア・アメリカ社が運航してい
た琉球列島内の路線は、1966年6月に運航廃止
となり、替わって日本航空の子会社である南西
航空(現、日本トランス・オーシャン航空)が、
この路線を継承したのである。
なお、米国の貨物航空会社フライング・タイ
ガーは、元タイガーズのパイロット約10名によっ
て設立され、順調に業績を伸ばしていったが、
ある CIA(米中央情報局)は、そのための輸送
手段の確保を必要としていた。CAT に目をつけ
た CIA は、当然のように接触を図った。CIA か
らの潤沢な資金提供を受けながら、CAT は輸送
1988年12月、フェデラル・イクスプレスに吸収
された。
異国の地で、しかもそのほとんどを裏街道で
過ごす宿命を強いられたクレア・L・シェンノー
任務を活発化させていった。
CAT は1948年、必然的に CIA の管理下で、
トは、1958年7月27日死去、享年65歳、遺体は
ワシントン D.C. のアーリントン国立墓地に埋葬
1959年にエア・アメリカと改称して会社組織に
改めたが、実際には CIA 指揮下の航空会社とし
て、反共産主義勢力への支援輸送任務を科せら
れたのである。したがって、軍事行動上の制約
された。
なお、次回を最終回とさせていただきます。
(参考文献:M・ケーディン著「日米航空戦
史」、「歴史群像」2006.6月号、W・ボイン著「戦
を受けることなく、公然と輸送をつづけた。
CAT はカリブ海や南アメリカ方面へも路線網を
う荒鷲たち・上」、C・ルメイ著「超・空の要
塞:B-29」、R・ハイファーン「Flying Tigers
ひろげ、共産勢力の排除につとめた。
エア・アメリカへは CIA を通じて莫大な資金
in China」)
2011 JAN
31
“安全の分水領 ”
アクシデント ・ インシデント概要
フライト・ セイフティ・ファウンデーション(FSF)2010年9月号より
訳 佐藤 裕
ここに示す文書は、読者の皆さんが飛行中に遭遇するかもしれない困難な状態を切り抜ける、何
らかの手助けになれば、と思い掲載し続けています。
なお、この文書は各国の運輸安全委員会の発行した正式な報告書をもとに、まとめてあります。
:FSF 編集部
ジェット
着陸した機体の全エンジンがフレーム・
アウトしてしまった。
ブリティッシュ・エアロスペース146-200:損傷なし、 負傷者なし。
この後キャプテンはエンジンを MTOP にし、
TMS を作動させてシンクロナイズさせ、アプ
ローチと着陸状態を想定して操作し、次にスラ
スト・レバーを絞ってみる。
TMS の作動状態は正常だった”と報告書。
2009年3月19日の朝、南アフリカのジョージ
にこの機体は着陸したが、No1エンジンはフ
レームアウトしてしまい、この直後、高圧ター
ビン通常のグランド・アイドル以下に低下して
しまい、No3エンジンも停止してしまった。
エプロンまでタクシーしたクルーは、通常は
点灯しない No1および No3エンジンのスラス
この航空機は通常の運航に戻され、乗客19名
を乗せ、ジョージの東400km(216NM)にある
ケープタウンへと向かった。
巡航中キャプテンは No2エンジンの TMS が
正常に作動していないことに気付く。
ケープタウン空港のダウン・ウインドでスラ
スト・レバーをフライト・アイドル位置にセッ
トすると、No2エンジンの高圧タービン・ロー
ター回転数(N2)は50%で安定するが、他の
ト・モジュレーション・システム(TMS)警報
灯の点灯に気付いた、と南アフリカ民間航空局
エンジンは3発とも、正常値である60%で安定
していた。
の報告書は書く。
クルーは同社の整備士に、エンジン回転数を
トリム、あるいはシンクロナイズさせる TMS
の異常を告げ、整備士も原因を突き止めるため、
接地直後グランド・アイドルにセットすると、
エンジンは4発ともフレーム・アウトしてし
まった。
“まだ機体には大きな運動エネルギーが残って
点検を行った。
“点検を終えた後、フライト・クルーは地上で
いたので、ランウェイ上を滑走し続け、タクシー
ウェイに入る”と報告書。
エンジンを運転し、異常のないことを確認する。
エンジン始動時、4発とも正常で、この後最
大離陸出力(MTOP)まで加速して見たが、特
に異常は見られない。
同社の整備士は、エンジンを再始動させ、
BAe146航空機をエプロンまで進めては、とアド
バイスした。
報告書は“アドバイスに従いエンジンを再始
32
2011 JAN
動させたキャプテンは、全エンジンを始動させ
たものの、わずか17%までしか加速できなかっ
この後管制官は草刈機を備えたトラクターに
対し、アプローチ・スレッシュホールドから2,600
た”と書いている。
“エンジンへ燃料が供給されていない”と考え
たキャプテンは全エンジンを停止させ、機体を
フィート(792m)ほど離れた位置にあるイン
ターセクションまで、現在使用されている長さ
6,350フィート(1,935m)のランウェイを横断す
エプロンまで牽引してもらい、乗客を降ろした。
事故調査官は、この航空機で2日前に飛行し
たクルーが、飛行後 TMS の作動不良に関する
る 許 可 を 出 し た、 と 合 衆 国 運 輸 安 全 委 員 会
(NTSB)の報告書。
グランド及びタワー業務を行っていた管制官
報告書を提出していることに気付く。
この報告を受けた整備士は、最小装備品リス
ト(MEL)の作業指示に従い、TMS を作動し
は、格納庫に向かってタクシーしている別の機
体に注意を取られてしまい、先ほどのサイテー
ションの着陸、そしてアプローチ・エンドから
ない状態にした。
このシステムを不作動状態にするため、3つ
あるプライマリー・サーキット・ブレーカーを
引き出すとともに、TMS のアクチュエーターの
センタリング用サーキット・ブレーカー4つも
引き出したが、航空機の整備規程によると、こ
の操作は禁止されている。
このインシデントが発生する前、TMS コン
ピューター及びコントロール・ディスプレイ・
ユニットは交換され、3つのプライマリー・サー
キット・ブレーカーも押し込みリセットされ、
MEL の指示通り復旧作業が行われた。
しかしこの時、アクチュエーターのセンタリ
ング用サーキット・ブレーカーはリセットされ
ず、ジョージで受けた整備時にもリセットされ
なかった。
この結果、ファイナル・アプローチ中、TMS
自動的に解除されるように設計されているが、
どのアクチュエーターも自動的にセンター位置
見てランウェイを右から左に横切ろうとしてい
るトラクターが通過し終えたかどうか視認して
いない。
に戻らず、グラインド・アイドル位置にセット
した途端、エンジン回転数を正常範囲以下に低
イのセンター・ラインから幾分左に寄った位置
であった。
下させてしまったことが判明した。
この衝突事故で主翼は翼端から10フィート(3
m)ほど千切れてしまう。
パイロットとトラクターの運転手は無事だっ
た。
ビジネス・ジェット、トラクターと衝突。
セスナ サイテーション550:中破、負傷者なし。
トラクターがインターセクションに近づいた
時、なぜか車体の左側に取り付けてある草刈装
置は下に動き始めてしまう。
“操作用のレバーを握った運転手は上げ位置に
操作し、車体の左にある同装置がラッチに固定
されたか、を確認する。まだランウェイ上にい
た運転手はアプローチ・エンドを見た”
そして汚れたトラクターの窓に白い物体を見
た、と事故調査官に話している。
このサイテーションはスレッシュホールドか
ら1,000フィート(305m)の位置に接地した。
キャプテンは、トラクターが前方を走ってい
ることに気付き、右に避けようとしたがぶつかっ
てしまった、と話している。
左主翼がトラクターと衝突した時、機体はす
でに80ノットほどまで減速していて、ランウェ
2008年8月3日の午後、合衆国ペンシルバニ
報告書はこの事故の原因について“管制官は
ランウェイの使用状態を正確に掌握していなかっ
ア州リーディング空港のランウェイにアプロー
チしていたこのサイテーションに対し、管制官
はファイナル約8NM(15km)の地点で着陸許
可を発出する。
たのでは”と推定し、
“事故に結びついた要因”
について、
“現在使用されているランウェイを通
過する前、トラクターの運転手がランウェイを
よく見なかったため”と書いている。
2011 JAN
33
報告書は“連邦航空規則には、地上で作業す
る車両の運転者に、管制官の許可を受け、使用
中のランウェイを横切る場合、ランウェイ上及
びアプローチ・エリアを確認すること”を強調
している。
始動させる際、高温になっているタービンによ
るホット・スタートを防止する。
このパイロットの総飛行時間2,485時間で、441
航空機で1,473時間飛行している。
パイロットは、不注意により左プロペラのス
タート・ロックをエンゲージさせたまま離陸し
ようとしたため、非対称推力にしてしまった。
ターボプロップ
見逃されたプロペラのスタート・ロック。
セスナ441:中破、負傷者なし。
2008年8月20日午後、ボルチモア州スルー
グッド・マーシャル空港の長さ5,000フィート
(1,524m)あるランウェイから、この航空機は
離陸しようとしていた。
風向バリアブル、風速は3ノットである。
加速するにつれ機体は左にドリフトし始めた
ため、パイロットは左エンジンの出力を増加さ
せた、と話している。
しかし441航空機は左にドリフトし続け、機体
のメイン・ランディング・ギアがランウェイの
端から飛び出してしまったため、パイロットは
離陸を中断する。
“しかし、この後も機体はドリフトし続け、舗
装したランウェイを飛び出してしまい、草の生
えた盛り土に衝突する。
ノーズ・ランディング・ギアは折れ、機体も
離陸操作を開始した地点から2,500フィート
(762m)ほどの位置で停止した”と NTSB の報
告書。441航空機内の4名は全員無事。
機体を調査した結果、左エンジンのプロペラ・
スタート・ロックは離陸前に解除されていない
ことが判明した。このスタート・ロックは、エ
ンジンを停止させると自動的にエンゲージされ、
プロペラ・レバーがリバース位置にならないよ
うに防いでいる。
このストップは、エンジン停止時プロペラ・
ブレードがフェザリング位置にならないよう、
低ピッチに保ってプロペラ・ブレードに加わる
抗力を最小に抑えるとともに、次にエンジンを
34
2011 JAN
“スタート・ロックがエンゲージされているこ
とを警告するアナンシエーターは装備されてい
ないものの、航空機のインフォメーションマニュ
アルには、タクシー開始前、そして離陸前には
必ずディスエンゲージされていることを確認し、
エンゲージされているなら必ずディスエンゲー
ジしなければならない、と書いてある”と報告
書。
ギアのドア、地上作業員を挟み込んでしまう。
ボンバルディア Q400:損傷なし、1名軽傷。
2009年9月3日朝、マン島空港のスタンドか
らプッシュバックされている最中、ATC から出
発の遅延が出る旨の連絡を受けたため、機長は
エンジンを始動させない。
地上作業員からパーキング・ブレーキをセッ
トしてください、との連絡があり、この連絡と
ほぼ同時に ATC から、遅延はない旨の送信が
ある。
“パーキング・ブレーキのセットを確認した機
長は地上作業員に、トウ・バーを外すように指
示し、地上作業員のチーフから、右エンジンを
始動するように、との指示を受けた。
コーパイロットに右エンジンを始動するよう
に、と指示するが、右エンジンを始動するとノー
ズ・ホイールの前方ドアは閉じてしまい、トウ・
バーを外そうとしていた作業員1名はドアに挟
まれてしまった……作業員がはさまれたことを
知った機長は、右エンジンを停止させ、ランディ
ング・ギア解除用ハンドルを引き、エレベーター
を操作し系統内から油圧を抜く。
挟まれてしまった作業員は仲間の助けを受け、
自力で脱出し、軽傷を受けた右腕と胸の部分の
治療を受けるため、病院へ向かった”と AAIB
の報告書。
当日飛行を開始する前、この航空機の飛行前
点検を行った整備士の話によると、ノーズ・ホ
イールの前方ドアは開いたままになっていた、
という。
このドアは、通常プッシュバック中に行われ
るエンジン始動時、No.2ハイドロリック・シス
テムに油圧が加わるまで開いている、とも書い
ている。
このインシデント発生を受け、同社は、エン
ジン始動は、ノーズホイール収納部周辺に人の
いないことを確認してから行うこと、という指
示文書を同社パイロットに配布するとともに、
整備士にも、トウ・バーを外す場合、ノーズ・
ホイールの前方ドアが完全に閉じていることを
確認すること、という内容の文書を配布した。
ノーズ・ギア、 収納室内で引っ掛かってしまう。
デハビランド・ダッシュ8-300:中破、 負傷者無し。
2008年11月16日の朝、フィラデルフィア国際
空港にアプローチしていたクルーは、ランディ
ング・ギアを下げたが、ライトを確認した彼ら
は、ノーズ・ランディング・ギアが正しい位置
に下りていないことを知る。
ゴーアラウンドしたクルーは、このダッシュ
8を、トラブル解決に適した場所の上空へ飛行
させる。
“操縦を担当していたファースト・オフィサー
させた後、キャプテンは速度が低下してしまう
まで、機体のノーズをランウェイに接地させな
いように操縦した。
ノーズ部分がランウェイに接地した状態のま
ま、機体は525フィート(160m)ほどスライド
し、停止した。火災は発生しなかった。
35名の全乗客はメイン・キャビンのドアから
降り、その後バスでターミナルへ向った”と報
告書。
ダッシュ8航空機を調査した結果、ノーズホ
イールのステアリング・リンクが破損し、フィ
ラデルフィア空港にアプローチしている最中に
回転してしまい、収納室内に引っ掛かってしまっ
たことが判明する。
“製造会社で定めている、厳しい強度検査の要
求事項を全て満たしていて、なぜ脚下げ操作時
に過大な加重が加わってしまったのか、その原
因はいまだ判明していない”と報告書は書いて
いる。
ピストン航空機
最少操縦速度、エアー・タンカーを墜落させてしまう。
ロッキード P2V-7:大破、3名死亡。
原野の火災消火に向おうと、2008年9月1日
の午後、このネプチューン航空機は2,070gal
は操縦をキャプテンに替わってもらい、緊急脚 (7,835リットル)の消火剤を搭載し、合衆国ネ
バダ州リノを離陸。
下げチェックリストに従い、操作を行う。
しかし異常を示すライトは点灯し続けていて、 地上にいた目撃者の話によると、すでにギア
を上げ地上から200フィートほどの高度に達した
ノーズ・ランディング・ギアも引き込まれた状
時、左補助ジェット・エンジンが火を吹いた、
態のままであった”と報告書。
空港に戻ったクルーは管制塔の近くを飛行し、 という。
管制官に確認してもらうが、ノーズ・ギアのド
アは開いているものの、ギア本体は見えない、
との送信を受けた。
所属する会社の整備士と相談し、何回かギア
下げ操作を行ったがギアは降りず、クルーはこ
キャプテンは操縦を担当していたコーパイロッ
トに“火災が発生した!”と告げている。
これに対し、エルロンを右側一杯に操作して
います、とコーパイロットは答えている。
の状態で着陸しよう、と決める。
緊急時には消火剤を放出すること、という規
定を守らなかったばかりか、補助ジェット・エ
“着陸時、メイン・ランディング・ギアを接地
ンジン故障時の緊急操作チェックリストも読み
2011 JAN
35
上げられていない。
記録されていたデータを見ると、航空機の速
度は最少操縦速度(VMC)を下回っていたと
NTSB の報告書。
機体は左に大きく傾いたまま急降下し墜落、
パイロット2名、航空機関士1名が死亡。
このエアー・タンカー機を調査した結果、左
ジェット・エンジンの11ステージ・コンプレッ
サー・ディスクに疲労による破壊が発生し、こ
の破損によりコンプレッサー・セクションは爆
発した、という事実が判明した。
捻じ曲がった配線、トリム装置を暴走
させてしまう。
パイパー・セネカⅡ:中破、 負傷者無し。
2009 年 11 月 17 日 の 朝、 合 衆 国 テ キ サ ス 州
フォートワースを離陸した直後、上昇姿勢に調
整しようと、操縦桿に付いている電動ピッチ・
トリム・スイッチを操作した途端、セネカ機は
急に頭下げの姿勢になってしまった、とパイロッ
トは話している。
“何とか降下を停止させようとエレベーターを
一杯に操作するが、機体は降下し続けてしまう。
パイロットは、何とか空き地に不時着させた”
と NTSB の報告書。
機体を調査した結果、ピッチ・トリムは機首
下げ方向一杯の位置になっていたうえ、オート
パイロットをオーバーホールしている間、オリ
ジナルのトリム・スイッチも交換されているこ
とが分かる。
“スイッチの配線はオリジナルの配線と異なっ
ている上、配線の色分けも違っていた。
配線のうち1本は捻じ曲がった上、スイッチ
のウエハー・スタックを押し込んでいた。スイッ
チ製造会社の責任者はこの状態について、電気
配線のショート及びトリム装置の暴走原因にな
る、と話してくれた”と NTSB の事故報告書は
書いている。
短く、濡れた砂利のストリップをオー
バーランしてしまう。
セスナ207A:中破、2名軽傷。
2008年8月22日の午後、いつも通りベスルに
向かうため、合衆国アラスカ州コンギガングを
離陸しようとしていたコミューター単発機のパ
イロットは、離陸前に離陸重量、重心位置の計
算をしなかった。
パイロットは事故調査官に、乗客5名を乗せ、
数多くの荷物を積み込んだため、機体の尾部は
地面に触れてしまったので、仕方なく大男の乗
客に前方のシートへ移動してもらった所、機体
の尾部は地面から離れた、と話している。
“このパイロットは、機体の重量が最大重量近
くになっていることを気にしていたものの、離
陸前に正確に計算することは無かった”と報告
書は書く。
セ ス ナ 機 の 加 速 は 鈍 い 上、1,885 フ ィ ー ト
(575m)ある砂利のストリップ上に出来た水溜
りを通過するたび、減速を繰り返していた。
“ストリップを3/4ほど滑走した機体は何とか
浮上したが、上昇しなかった。
地面効果により機体はストリップのエンドを
通過したが、機体は降下してしまう。
パイロットはさらにフラップを10度降ろして
20度まで下げたが、このときパイロットが手前
に引いていた操縦桿はストップに当たっていて、
機体もツンドラの大地に落着してしまった”と
も書いている。
この事故で、乗客のうち2名は軽傷を負った。
ヘリコプター
破損したテイル・ローターのピッチ・リンク。
ユーロコプター AS350-BA:中破、負傷者なし。
2008年9月19の午後、乗客6名をフィッツロ
イ・フォールズまで送ったパイロットはニュー
サウスウェールズ州ローズヒルへ戻ろうと飛行
36
2011 JAN
していたが、飛行中アンチ・トルク・ペダルに
軽い振動を感じる。
“この振動を感じた5分ほど後、振動はかなり
激しくなってしまった。パイロットはオートロー
テーションを開始し、緊急状態に陥っているこ
と、これからカスラ高校の運動場に滑空着陸す
る旨を送信した”とオーストラリア運輸安全委
員会(Australian Transport Safety Bureau)の
報告書。
ヘリコプターを調査すると、2,130時間ほど使
用されたテイル・ローターのピッチ・チェンジ・
リンクが破損し、テイル・ローターの水平面の
動きはコントロールできなくなっていた上、テ
イル・ブームを破損していた。
“スフェリカル・ベアリングの磨耗がひどく、
大きな遊びが生じてしまったためリンクに大き
な応力が加わり、このため金属疲労によるクラッ
クが発生し、この原因によりピッチ・リンクが
破損してしまった。
おそらくベアリングの磨耗は、メインテナン
ス・マニュアルに示す限界値以上になっていた
ものの、毎回行われる飛行後点検で発見されな
かったものと思われる”とまとめている。
蜂の巣、燃料を止めてしまう。
ベル47G-2A:中破、負傷者無し。
2009年8月11日の午後、このパイロットは私
用のため合衆国インディアナ州レンセラーから
ミシガン州グリーンビルへ向うため、燃料を満
載して飛行していた。2時間ほど後、エンジン
は突然停止してしまい、ミシガン州コバート近
くの空き地にオートローテーション着陸した。
着陸する際、テイル・ローターを木の杭にぶつ
けたため、テイル・ブームを破損してしまう。
てしまったため、と NTSB の報告書。
“ヘリコプターを調査した結果、左のタンクは
空だったが、右のタンク内には燃料が満載され
ている状態だった。右側タンクの通気口は層に
なった土のような蜂の巣で完全に塞がれていて、
しかもその巣は2層になっていた。左側タンク
の通気口も、似たような土のような蜂の巣で一
部塞がれていた。
両方のタンクは配管で結ばれていて、この中
央部からエンジンに燃料が供給されるようになっ
ている”とも書いている。
クリアリング・ターン中、大きな石に
ぶつかってしまう。
アエロスパシャル AS350-B2:中破、負傷者無し。
2009年8月27日の朝、コロラド・リバー近く
のヘリ・パッドで乗客6名を降ろし、トレイル
の入り口まで案内したこのパイロットは、合衆
国アリゾナ州グランド・キャニオンの頂上付近
で待つ外の乗客を乗せるため、エンジンを始動
させる。
“ヘリ・パッドの周辺斜面には大きな石が点在
しているため、ヘリ・パッドの管理者はその石
の位置を図に示していた。
次の飛行に向おうとホバリングを開始したパ
イロットは、離陸しようとしている地点で左に
クリアリング・ターンをしたが、この時ヘリコ
プターのテイル・ブームを周辺の傾斜地にある
石にぶつけてしまう。
ヘリコプターのノーズは下がり、激しく振動
し、そのまま機首を右に振ってしまう。
パイロットはすぐホバリングから、機体の尾
部を大きく上げたまま着陸した”と報告書。
エンジン停止の原因は燃料が供給されなくなっ
2011 JAN
37
再発見! そんな技
ࢫᇌếὲẅᢃᑋ Ὁ ২ᘐᜒࡈ
我々パイロットは飛行機の Manual に従って運航しています。しかし、それ以外に先輩・同輩
に加え後輩からの「技術の伝承」で培われた部分が大きいのも否定できません。一人前の刀鍛冶
になるのは、少なくとも5年はかかります。炎に照らされた鉄の色合いなどを見て判断する名工
の一挙一投足から、技術を盗む「技術の伝承」で一人前になります。
この新企画は、刀鍛冶とまではいきませんが、「技術の伝承」「技術の研究」を目指す読者のサ
ロンのコーナーです。運航の現場などからお寄せ頂くお役立ち情報や知識を集約したコラムです。
皆様からの「技術に関する情報」等々、その他有益な投稿をお待ちします。
連載・飛行力学物語 その10
プロペラ、そしてオープンローターの物語(後編)
JAXA 風洞技術開発センター
国産旅客機チーム客員 柴田 眞
前編の終わりに、ボーイング B727-100型機にオープンローター GE36を搭載した機体の尾部平面
形を示しました。とくに違和感のないイメージと書きましたが、イメージはそうとしても新技術で
すので、克服していかねばならない課題がいくつかあります。まずは構造に関する課題、音響疲労
の話から始めることにしましょう。
音のエネルギーで機体が壊れる
音響疲労とは、非常に強い音のエネルギーによって、音源近くにある構造が疲労破壊してしまう
現象をいいます。何にでも起こりうる現象ですが、とくに航空機や宇宙機の場合には軽量化のため
に薄板構造があちこちにあり、それなりに気をつけて設計しなければなりません。仮にこの現象が
起きるとすれば、ふつうは試作機がロールアウトしエンジンを運転しだした時点ですぐ判ることに
なります。原因が音響なので繰返し数が多く、すぐ疲労破壊の限界に達してクラックが発生してし
まうからです。ところがオープンローター機の場合は、高速巡航時の音源の性質が地上付近とは異
なるため、エンジン地上運転で問題がなくとも、それだけでは安心できません。
B727/GE36にみる音響疲労対策
図4に B727/GE36飛行試験機の右側面図を示しました。垂直尾翼やエンジン近くの胴体部分に
1.65” とか7plies などと記入してあるのは、その場所の音響疲労対策を表しています。この機体の
音響疲労対策は、図の右下に断面を示したようなハニカムを外付けすることで実施しました。さき
38
2011 JAN
の1.65” とは、ハニカムコアの
高さが1.65インチ(41.9mm)
であること、7plies とはガラ
ス繊維でできているハニカム
の外表面板が7層重ねである
ことを表しています。なんと
もすさまじい音響疲労対策で
す。しかしこの辺りは水平尾
翼の操縦系統や中央エンジン
のある場所ですから、未知の
現象に対して万全を期した
かったからに違いありません。
ありがたいことに飛行試験
が 進 ん で い く と、 オ ー プ ン
ローターが発生する音圧レベ
ルは、高速巡航時でもローター回転面から離れると急速に小さくなることが判ってきました。それ
で後述する MD-90/GE36旅客機の計画設計例などでは、音響疲労対策はずっと簡単なもので成立す
るとしています。ただローター回転面は、もともと構造疲労が問題となる与圧区画とずらして配置
する、この原則は守ったほうがよさそうです。
図4 B727/GE36飛行試験機の右側面図と音響疲労対策
旅客機のフライトエンベロープとオープンローター
前節で未知の現象と書きま
したが、なぜ未知なのか説明
しなければなりません。図5
に 示 し た の は、 い わ ゆ る ナ
ローボディ150席級旅客機の平
均的なフライトエンベロープ
です。横軸は TAS(True Air
Speed、真対気速度)で表し
た速度、縦軸は高度です。こ
のおなじみの図にブレード先
端マッハ数が1.0になる線を記
入してみました。この線より
も左下側はブレード先端マッ
ハ数が亜音速の領域で、ふつ
うのプロペラと原理的には変
図5 150席級機の飛行高度速度範囲、プロップファン試験点
わりません。したがって離着陸時の環境騒音低減に関しては、プロペラ機の騒音低減技術がそのま
ま役立つことになります。
右上側はブレード先端マッハ数が超音速になる領域で、ここではブレードまわりの超音速流から
2011 JAN
39
新たな音が発生するようになります。正しい表現ではないかもしれませんが、超音速流がつぶれる
ときの音とでも思ってください。この音が、音響疲労の原因になり得るわけです。ただこの音は比
較的早く減衰するので、巡航時に地上に到達する音はターボファン機と同じ程度で済みます。この
ことは B727や MD-80の GE36搭載機での飛行試験で確認されました。なお厳密には、ブレードまわ
りの流れの局所流速が音速を超えれば、先端マッハ数が1.0になる前から超音速流の音が発生しはじ
めることになります。
オープンローター機の速度記録
このクラスの旅客機の設計巡航条件としては、速度はマッハ数で0.75~0.80、そのときの高度は
36,089ft(11km、標準大気で対流圏と成層圏の圏界面)前後を考えるのが一般的なところです。図
5では、巡航目標ボックスと表現しておきました。このときブレード先端マッハ数は1.15程度にな
るので、どうしても青竜刀のように反らして空力的に後退角を与える必要が生じるわけです。とこ
ろで今までのオープンローター機の速度記録は、マッハ0.865で、高度は35,000ft でした。これは
MD-80/GE36搭載機が記録したもので、厳密にいうと片側のエンジンは JT8D-209のままでしたか
ら、混合動力機の記録というべきかもしれません。ただマッハ0.865ともなると、エンジン取付けパ
イロンも衝撃剥離を起こしています。その後流中でもブレード応力が許容値以下であることを確認
できたわけで、この MD-80/GE36が保持する速度記録の技術的な意義は認めるべきでしょう。
GE36の基本構成
オープンローター推進シス
テムとしては、今までに GE36
の他にアリソン578-DX など
が飛行試験まで実施しました。
ここではフライト時間が一番
長い GE36を例にとり、その
概要を紹介しておきましょう。
図6に GE36の基本構成を示
しました。前方がガスジェネ
レーター部分で、後方がロー
タ ー 部 分 で す。 ガ ス ジ ェ ネ
レーターは F404-GE-400、こ
れはアメリカ海軍の F/A-18
戦闘/攻撃機のD型までのエ
ンジンからアフターバーナー
図6 GE36の基本構成
部分を取り外したものです。
ボーイング、もとをただせばノースロップの F/A-18ホーネットは、双発で重量は20トン前後の空
母艦載機です。すなわち GE36の構成をみれば、重量20トンの戦闘機を飛ばすガスジェネレーター
は、旅客機なら70トンの機体を飛ばせることが判ります。高機動を考える戦闘機と経済巡航を考え
る旅客機では、飛ばすためのエネルギーからみた場合、こんなにも大きな違いがあります。
40
2011 JAN
ガスジェネレーターで発生したコア流とファン流は混合されて、後方のパワータービン部に流入
しローターブレードを駆動します。このパワータービンは前方と後方のブレードに直結するそれぞ
れの6段が、交互に交差して反転しあう合計12段で、極めてユニークな構成になっています。ブレー
ドがパワータービンに直結しているので、減速ギアはありません。可変ピッチ機構がブレードの付
根に組み込まれていて、ブレードを定速回転させます。そしてフェザー、リバースなどの機能もプ
ロペラ機と同じです。試験の大部分は前後とも8枚ずつのブレードでしたが、前方だけ10枚に変更
した場合の飛行試験も実施しました。前後のブレード枚数を変えると、発生する音が静かになるこ
とが判ったからです。
MD-90の姉妹機、オープンローター旅客機の計画設計例
MD-90はダグラス DC-9の血筋を引く旅客機で、1993年に初飛行した尾部双発の機体です。日本
も参加している V2500中型ターボファンエンジンを装備し、経営統合前の日本エアシステム(JAS)
が16機導入しました。1996年から JAS の国内線に就航したので、搭乗経験のある方も多いかと思い
ます。この MD-90には、オープンローターを装備する姉妹機の計画がありましたが、残念ながら実
現しませんでした。図7の下側はこの計画設計までで終わったオープンローター機の平面形を示し、
上側は現在も日本航空が飛ばしている MD-90ターボファン機の平面形を比較する形で示しました。
このように比較してみると、両機に大きな基本構成上の差はありません。ただ設計思想としてター
ボファン型の MD-90は、MD-80シリーズからの改造程度を低く抑え、手堅くまとめる方針だった
ようです。それに対してオープンローター型の MD-90は、新しい推進システムにあわせ改造の範囲
を拡げ、機体としても可能な限り新世代機にしようという意思が感じられます。たとえば前方タン
クへの燃料移送を組み込んだ重心管理システムを新設し、主翼の取り付け位置を19inch(483mm)
前方にずらしたレイアウトになっています。これは縦安定緩和、すなわち RSS(Reduced Static Stability)技術の導入に他なりません。
図7 MD-90、ターボファン型とオープンローター型
2011 JAN
41
このオープンローター型の MD-90は、エアラインからの発注があれば開発可能なところまで進ん
でいました。しかし結局のところ発注が得られず、計画設計までで終わることになりました。その
ころ燃料価格が安定してきたこと、オープンローターの信頼性にまだ疑問があったこと、これらが
原因だったといわれています。MD-90のターボファン型のほうは、デルタ航空から大量に発注を受
け1989年にローンチされ実現しました。
オープンローター機の実現性、二酸化炭素か静かさか
オープンローターは一般に思われているより、かなり実用化に近づいた技術です。1987年から88
年にかけて、カリフォルニアで飛行試験していた MD-80/GE36搭載機は、エアラインや軍民の関係
者を22回のフライトで延184名試乗させ、その性能の一端を披露しました。快適性、とくに客室が
ターボファン機なみに静かであることも体験してもらったことでしょう。さらにアメリカ大陸と大
西洋を横断し、ファンボローのエアーショウにも参加しました。
オープンローター機が本当に実現するかどうか、これは今後の地球環境問題にかかっています。
ターボファン機は環境騒音には有利ですが、いま以上にバイパス比を上げるのが難しいところがあ
り、燃費向上が頭打ちになる可能性があります。それに対しオープンローター機は、環境騒音につ
いてはターボファン機を越えられないけど、燃費向上に関しては大きなポテンシャルがあります。
今後どちらが重視されていくか判りませんが、航空技術、航空業界として双方の可能性を追求せね
ばならないのは明らかでしょう。
おわりに、おもな参考資料
このところ雑誌などで、オープンローター旅客機の完成想像図をときどき見かけます。それらは
進歩したコンピューター・グラフィックスのおかげで、洗練された将来の旅客機のイメージを与え
てくれます。ここではオープンローター旅客機についてバラ色的に説明することは避け、その背後
にある技術的な流れについてまとめてみました。何れにしろ目標は「ターボプロップ機なみの経済
性で、ターボファン機と同等の快適性と巡航速度を実現する」ところにあります。技術的にはそれ
ほど困難な目標ではないことを結論として、この小文を終わりたいと思います。後編で参考にした
主な資料は次のとおりです。
5)AIAA-89-2023, MD-90 Transport Aircraft Design, P. A. Henne, Douglas
(H22.12.9、記)
42
2011 JAN
連載・ヘリコプター飛行安全よもやま噺
その2 何時でも何処にでも思う存分に飛ぶために
JAXA プログラムグループ
運航・安全技術チーム 客員研究員
冨尾 武
前号までの経緯
第一回ではヘリコプターが『飛ぶことができる
ようになるまで』と『安定して飛べるようになる
まで』の経緯を振り返ってみました。
実用に供することのできるヘリコプターへの第
一歩、すなわち、
『飛ぶことができる』ようになっ
た 最 も 重 要 な Key-Technology は、
“flapping
hinge”と“cyclically controlled rotor”でした。
この2つの発明によって、大きな重量のもの(ロー
ター)が高速で回転することによって作りだされ
図1 シコルスキー VS-300
ている巨大なエネルギーをパイロットがなんとか
(1941年末の最終形態)
操ることができるようになり、実用ヘリコプター
の先駆けであるイゴール・シコルスキーの VS-300が1940年5月13日に初飛行した経緯を紹介しま
したが(前号図3)、1941年末の最終形態の写真がみつかりましたので図1に示します。
また、
『安定して飛ぶことができる』ために安定増大装置の発明が大きな役割を果たし、現在のヘ
リコプターは、視程が良好で“姿勢を制御するための基準情報(水平線など)”を目視から十分に得
ることができる場合には、前進・後進・横進ができ、幅広い飛行領域を安全に飛び、また空中停止
もできるようになっていること、更に夜間や天候
現用機の飛行可能領域
不良時のような、目視情報が欠落してきた場合に
VMC(昼間)
は飛行可能領域が狭まってしまうとの課題が残っ
IMCや
IMCや夜間
夜間で
ていることも紹介しました。
この課題の解消(図2)は、大規模自然災害の
多発や医療問題に対処してヘリコプターが夜間や
天候不良時の運航を拡大していかなければならな
いことに照らすと非常に重要な事柄となってきて
VNE
の飛行
性の向
上が求
められ
る領域
上
昇
0
降
下
います。
今回は、上記の安定増大装置の発展経緯につい
てもう少し具体的に見た上で、その技術が更に発
展を果たした結果、この課題の解消が技術的には
可能になっていることを、筆者が行った技術研究
開発の成果をもとに概観します。
VMINI
(計器飛行最低速度)
後進
0
対気速度
前進
図2 ヘリの飛行性向上(飛行領域拡大)
2011 JAN
43
何時でも何処にでも思う存分に飛ぶために
安定増大装置の発明と発展
“飛べるようになった”後、ヘリコプターは2つ
の主要な不安定性の問題を解決しなければなりま
せんでした。それらは、①ホバリング中のピッチ
とロールの過度な不安定、②前進飛行時のピッチ
とヨーの不安定でした。
これらの原因はローターのピッチとロールの低
ダンピング(収れんしにくい)にあり、サイクリッ
クステイックの小さな動きがピッチとロールの過
敏な動きを引き起こしたことです。これを解決し
た代表的な技術の一つが図3の BELL 社のアー
ジ
ャ
イ
ロ
・
バ
|
モデル30
図3 BELL 社のジャイロ・バー
サー・ヤング発明のジャイロ・バー(スタビライ
ザー・バー)です。これはバーがジャイロとして
働き回転面が安定維持されることによって、それ
サーボローター
に繋がっているローターに、機体のピッチとロー
ルの動きと反対方向にサイクリックピッチを与え
るものです。これを導入した BELL モデル30が
1943年中ごろに初飛行しました。もう一つが図4
のスタンレー・ヒラーのローターマテイックです。
これは、パイロットはメインローターと同軸に取
り付けられた小翼(サーボローター)を動かし、
図4 ヒラー360
このサーボローターがブレードを動かすというも
ので、安定性に非常に優れていました。これを搭載したヒラー360が1947年に初飛行しています。
安定増大装置は、1950年代に入って電子式のシステム(SAS:Stability Augmentation System)
が開発され、また運動応答性をも最適化する SCAS(Stability and Control Augmentation System)
としても実用されています(出展1、出展2)。
なお、ローターシステムそのものも飛行成功前の“リジッド式ローターの原型”から、飛行を可
能に導いた“全関節型ローター”を経て、今や小型機では再び“リジッド式ローター”に回帰して
おり技術発展の象徴的経緯を示しています。
更に高度な飛行制御技術の実現(Fly-By-Wire
(FBW)技術の利用)
上記の SAS 等(図5)はセンサーや計算機が故
障して暴走した際にも重大事故を防止するために
その作動範囲は10%から20%に制限されています。
この制限は、ヘリコプターに更に高度な飛行能力、
すなわち、障害物の多い地形での低空での安全飛
行能力や、夜間や天候不良時での安全な飛行能力
を与えることに限界をもたらします。前者に必要
なものは高度な機敏性であり、後者には非常に高
い安定性が必要です。この相反する要求を両立さ
44
2011 JAN
図5 電子式安定増大装置と自動操縦装置
せるためには FBW 技術の利用が必要となり、そ
の実用開発と実証飛行が1970年代と1980年代に行
われ(出展1)
、現在は欧州の NH-90型機で実用
されています。
図6は FBW 方式操縦系統の概念図です。
日本においても、1989年から1992年に行った研
究開発で“ヘリコプターに FBW 技術を導入でき
る可能性”を実証しました。引き続いて、1994年
から2001年に、天候不良時や夜間での飛行安全の
向上と確保を主な目標に定めて、FBW 技術を利
用しての計器飛行に関わる研究開発を“飛行制御
図6 FBW 操縦システムの概念
技術”と“飛行誘導技術“の両分野にわたって行
い、飛行実証によってその実用が可能であること
を証明しました。なお、FBW 技術は American Helicopter Society(AHS)が1990年代半ばにアン
ケートによって決めた TOP-TECHNOLOGY 40の第23位にランキングされています。
夜間でも悪天候でも何処にでも思う存分に飛べるようになるために
この命題を解くために先ず行ったことは、視程
不良時に飛行可能領域が昼間 VMC 時に較べて狭
姿勢ドリフトの認知
姿勢の確保が困難
困難
められること、の解消でした。狭められる原因は
目視で得ることのできる“姿勢を制御するための
飛
基準情報(水平線など)”の劣化と低速領域でのヘ
行
低速(バックサイ
リコプターの安定性の劣化の相乗作用にあります。
ド)では安定性
コックピット情報を改善 性
劣化
その解消には、
“コックピット情報の高度化”と
を
必
要
改
馬
“飛行性の改善(操縦応答性の機敏化と操縦安定性
力
善
の強化、の双方)
”が必要です(図7参照)。
速度
操縦困難
約65kt
後者に関しては、この研究開発でパイロットの
操舵入力に対して機体姿勢があらかじめ決められ
図7 飛行可能領域が狭められる原因と対策
た理想的な応答形式で反応する“姿勢応答モード”
と“方位保持機能”および“高度保持機能”を組
必要
馬力
増大
み合わせた技術を実用レベルで開発しました。
この技術の利用によって、図8に示すように、
IMC時や夜間の飛行可能領域の拡大
低視程時や夜間であっても減速し安定して空中停 上
昇
止できるレベルにまで、ヘリコプターに操縦性と
安定性を与えることが可能となっています。なお、 0
図8はパイロット4名による飛行試験での評価結
果でありパイロット評価指標(10点法)の2から
3.5を得ています。これは“良好”との評価です。
この研究開発では高機動性を得るために適したレー
ト応答モード(操縦入力に対して機体姿勢の変化
率が理想的に応答するモード)や速度安定モード
も開発しており、飛行形態に合わせて最適な操縦・
降
下
P.R. 良
P.R.
P.R. 悪
P.R:PILOT
RATING
飛行性の向上によりVMINIの低減を実現(=0kt)
図8 低視程時(IMC)の低速飛行可能領域の拡大
(飛行試験パイロット評価結果)
2011 JAN
45
飛行特性を選択することが可能となっています。更に、この飛行制御技術と有機的にカップリング
された“飛行誘導技術”も開発し進入着陸時に急角度(12度)で減速降下して機外騒音を抑制する
飛行方式も開発しています。
ヘリコプターの“空飛ぶ機械”としての飛行能力
本稿では、誌面の関係上、この研究開発で確立した“ヘリコプターの飛行安全を向上し確保する
ための技術”のほんの一端しか紹介できませんでしたが、ヘリコプターの“空飛ぶ機械”としての
“飛行能力”は、今や、飛行機(固定翼機)に劣らないもの、と、自信をもって言うことができま
す。
おわりに
ヘリコプターの“安全に飛ぶ機械”としての能力は、実用ヘリコプターの先駆けであるシコルス
キー V-300が1940年に初飛行して以来の四分の三(3/4)世紀にわたる先達のたゆみない努力の
結果、今や有視界気象状態での飛行ではほぼ確立され、いろいろな飛行シーンで活躍しています。
飛行安全を今後とも確保し続けるためには、今こそ“夜間飛行”や“天候不良時(視程不良など)
の飛行”を加えることが非常に重要になってきていることは前述の通りです。その理由は、近年、
安心・安全社会の維持と構築のための公共活動(防災や救助、医療搬送等)が、夜間や天候不良の
制約なしに飛べるようになるのが必須なことだからです(図9参照)。
現用のヘリコプターの飛行能力には、不十分さが残っていましたが、それも解決の目処は立って
おり、製品開発を待つのみとなっています。それが一日も早く実現することを願いつつ、ヘリコプ
ターの“空飛ぶ機械としての誕生”から“夜間でも悪天候(視程不良)でも何処にでも思う存分に
飛べる機械になる”までの歴史を紐解きながら「ヘリコプター飛行安全よもやま噺」の纏めとしま
す。
出展文献
1 from da Vinci to Today and Beyond:The Top
Technology Achievements, AHS
2 機械仕掛けの神―ヘリコプター全史― ジェイムスRチャイルス著 早川書房
図9 ヘリコプターの公共目的運航の増大
(出展:消防白書(H21年版)&厚労省資料)
46
2011 JAN
航空に携わる方々の、チョットした一コマなどを紹介する、皆さまからの投稿で成り立つ、
Café で気楽に読める様な投稿コーナーです。日常的な事ごとや思い出など、色々なジャンルの
読物をお寄せ下さい。
全員で飛んだ? 単独飛行
駆出しパイロット
ふと眼を覚ますと、八人部屋には月明かりが
満ちていた。時折、雲が月明かりを薄めていた。
寝静まった七人を起こさない様に、ベッドの
毛布を静かにはがし、音を立てない様にトイレ
に立った。
翌日、彼一人を残し、ソロフライトを終えた
者は、次の訓練ステップの野外飛行に飛び出し
て行った。
飛行場回りの場周経路から、美しい島並みの
瀬戸内海や山陰の海岸線上空を飛ぶ野外訓練飛
行となったのである。
明日の訓練は?と思いつつトイレから月明か
りと雲の陰りを眺めていた。そして来た時と同
じ様に、足音をたてず部屋にもどった。
眼下に広がる景色に目を奪われるフライトと
なり、
「パイロットを目指して良かった!」との
思いと訓練の楽しさが垣間見えた瞬間であった。
ベッドの毛布に潜り込もうとした時、ふと窓
の方を見やると、月明かりと雲の陰りの中に、
窓際のベッドに上半身を起こし窓外を見やる人
影が見えた。
訓練飛行から飛行場に戻ると、ただ一機、場
周経路を飛ぶ訓練機が見えた。最後の一人、彼
の乗機である。
「眠れないの?」と声をかけようとしたが、そ
れをはばかれる様な雰囲気が漂っていた。
ブリーフィングルームに戻ると、次々に訓練
生が戻ってきた。その中に肩が落ちた彼もいた。
「今日もだめだったか!」
その人影は、単独飛行“ソロフライト”に出れ
ない最後の一人、真夜中に何処を見るでもなく
月明かりの窓外を静かに見入る彼の姿であった。
彼に許された訓練時間は、ブリーフィングルー
ムに掲げられたボードに、残す所あと一回の訓
私は、彼に声をかけるのをとまどい、毛布に
練飛行時間しかない事を表していた。明日であ
る。
潜りこみ目を閉じると、やがて夢の中に引きず
り込まれ、そして夢もかき消され寝入ってしまっ
た。
次の日、我々は、長いブリーフィングを受け
ている彼を残し、野外訓練飛行に飛び立っていっ
2011 JAN
47
た。
パイロット訓練生は、既定の時間内にソロフ
のが見えた。
そして、教官が見守る中、彼の乗機に、ソロ
ライトに出る事が出来なければ、訓練中止とな
り、同期と外れ、退社と同時にパイロットの道
は閉ざされる。その瀬戸際に彼はいた。
フライトの目印の赤い吹流しが付けられた。
野外訓練飛行から飛行場に戻ると、昨日と同
じ様に、場周経路に彼の乗機が飛んでいた。
いに教官と同期が見守る中、プロペラの回転を
あげ、赤い吹流しを引きずりながら滑走路に向
かって行った。
飛行後のブリーフィングを受けている時、彼
が戻ってきた。そして教官から彼にブリーフィ
ングが始まった。
私は、教官からブリーフィングを受けつつも、
耳をそばだたせ彼の教官の言葉に気を取られて
いた。
「芳しくない!」
「もう一回飛ぶぞ!」の教官の声に弾かれた様
に彼はヘルメットを抱え、ブリーフィングルー
ムから飛び出し、教官がゆっくり後を追った。
ブリーフィングを終えた我々は、訓練指揮所
の屋上に上がり、場周経路を飛ぶ彼の乗機を見
入っていた。
場周経路を数回飛んだ後、彼の乗機は、訓練
指揮所の前に戻って来た。そして、同期の皆が
注視する中、プロペラを回したままで後部のキャ
ノピーが開き、教官だけが降りたのだ。そして
屋上の我々に大きく手を振った。
彼の乗機は、そこに暫く留まっていたが、つ
これまで、知らぬ者同士が学生気分でパイロッ
トを目指し、基礎訓練課程から飛行訓練まで寝
食を共にし、厳しさを乗り越えてきた。
屋上から見ていた我々も、その長い期間を思
い出し、全員そろって今後を歩むことができる
感激に浸っていた。
そして、皆が見守る中、まるで全員でソロフ
ライトをしているかの様な思いを乗せて、彼の
乗機は離陸し、場周経路を飛行し着陸、そして
また離陸と三回の飛行を終えた。
我々は、訓練指揮所前に戻りプロペラを止め
た彼の乗機に駆け寄り、彼が姿を現すのを待っ
た。
しかし、彼はキャノピーに影を映すばかりで
暫くは降りてこなかった。
あの時は、感涙で、気持ちが落ち着くまで出
発できず、そしてまた乗機から降りれなかった、
という彼の後日談である。
皆の声が奇しくも一致した。「ヤッター!」
同期の一人が屋上から飛ぶ様に階段を降り、
赤い吹流しを持って彼の乗機に駆け寄っていく
二十代前半で大学生活から訓練と言う厳しさ
の中に投げ込まれた若者たちの一場面である。
試験官「釜焚け!」
ロートルパイロット
今回もまた大昔の話である。昭和40年代の半
当時の教官には第2次大戦の猛者が多かった。
ば、調布飛行場のオンボロ長屋には、空を目指
す人達の熱気があふれていた。
何しろ前輪式のセスナやチェロキーを前に、
「こ
れ、どうやって降ろすの?」と言った話もあっ
たほどである。無理は無い、それまでの飛行経
48
2011 JAN
験の全てを尾輪式で過ごした身にあっては、尾
輪が無い飛行機など見たことも無いし、横に二
カーの大教官殿は豪傑だった。何しろ、すぐ寝
てしまうのである。
人分並んだ操縦席も初めてであったのだから。
それでも先輩格の教官いわく、
「カギはそこに
ぶら下がってるから、行ってきな。わかるから」
と言った具合である。
それでブーンと飛んできて、「こりゃ簡単だ、
練習にならんワ」と言った具合である。そんな
輩が素人にヒコーキを教えようと言うのだから、
色々と事件はあった。
単発の小型機は、教官と練習生が乗り込めば、
肩も触れ合うほどである。そこに、元戦闘機の
猛者と、うら若き女性が乗り込んで、空の上の
密室となるのである。
当時はセクハラなどの概念は無かったが、ス
ロットルを操作する手を、上からやんわりと握
られた等、際どい話もあった。それは「手袋す
ればいいのに」で何とかなったが、ある日とん
でもないことが起こった。
離陸前に「どこそこでエアワークを実施して、
R飛行場でエアポートワークの後着陸。帰りは
航法で△△を経由して調布へ帰投」と言い、離
陸したら「寝てますから。ヤバければ起きます
から」と言うなり、寝てしまうのである。
気持ちよさそうに寝ている大教官殿を起こさ
ないよう、ていねいにエアワークを行い、ショッ
クが無いようにR飛行場に着陸して、エンジン
を切ると、ウーンと起き上がって、「ああ、良く
寝た」である。
とある女性練習生と飛びあがった機体が、予
定より早く降りてきたと思ったら、真っ青な顔
をして、何やら様子がおかしい。
R飛行場では、大教官殿は、もと戦友の教官
仲間と昔話。帰りもグッスリお休みで、調布へ
戻ってみれば「問題ありません」で、最終チェッ
クは終了と言うわけである。
「変な飛び方をすれば起きますから」の一言の
指導のみで、実地試験前の最終チェックは終了
したのであるが、不思議な自信になったのも事
実である。さすがは太っ腹の大教官殿と、感心
したのであった。
教官がもと戦闘機乗りなら、試験官も同様と
言った状況であった。
声をかけるのもはばかる雰囲気であったが、
やがて上空で何が起こったかは明らかになった。
細かい事は省略するが、エアワークの途中で、
さて、ある晩秋、優等生Yさんの実地試験で
ある。その日は前夜からの雨が急速に回復し、
午後は晴れとの予報であった。朝の連絡で、試
教官の指導に練習生の女性がキレてしまい「も
ういいです」というなり安全ベルトを外し、ド
験は実施と決まり、応援の私達も、雨の中を朝
から駆けつけた。
アロックも外してしまったというのである。
地上2000Ft、パラシュートもなしである。教
官が慌てたのは言うまでもない。風圧でドアが
開かなかったことに助けられ、最悪の事態には
ならなかったものの、気が気ではなく、教官殿
は無言で飛行場に帰り着いたとのこと。
そのようなこともあるぐらいで、教官の個性
は様々であった。私の試験前の、最後のチェッ
午前中は飛べないので、オーラルがゆっくり
と進行した。優等生のYさんは、そつなく応え、
まずまずである。皆で、気象通報から天気図を
作成したりしているうちに雨は上り、午後から
フライトとなった。
エアワークと離着陸は難なくクリア。続いて
航法計算をまとめ、出発である。空の上のこと
はわからないにしても、優等生のYさんだから
2011 JAN
49
先ず問題は無かろうということで、どこで合格
祝いの飲み会をするか、といった話をしている
日没を切って着陸したらどうしたものかと思い
つつ、最終レグでは「釜焚け!」と念じていた
と、晩秋の日は短く、陽が低くなってきた。
とのこと。それが通じたのか、もう飛行場が見
えるあたりであったが、パワーを入れて速度を
上げたので、ほっと一息ついたとのこと。
日没まで30分を切り、そろそろ無線が入る頃
と思ったが、何時までたっても、無線は沈黙し
たままである。皆、心配になってきた。
さて、機体は、日没ギリギリに調布に帰り着
いて、Yさんは晴れて合格となったのだが、試
その頃、空の上では、Yさんは、最終レグを
調布に向かい、最後のチェックポイントで「調
布到着○○:○○」とやったが、その時、航法
験官いわく「アンタねぇ、飛行場が見えてから
釜焚いたってねぇ、遅いんだよ。まあ、間に合っ
たから合格にするが、もう少し考えてくれなく
計算書の片隅の、日没時刻に目が行った。
ちゃ」であった。
「しまった、日没だ」と思い、改めて外を見る
と、陽は低く沈んでいる。頭が白くなりかけた。
しかし、そこは優等生。
「日没が迫っていますの
で、速度を上げます」と大声で言い、パワーを
入れた。
後席の教官も、地上の応援団も、本当に心配
したが、飛行場が見えるあたりまで来てから日
没時刻に気が付き、大慌てでパワーを入れたY
さんの様子、それと、蒸気機関車ではあるまい
に、試験官の「釜焚け!」の言い方に大笑いし
て、その夜はたいそう盛り上がったのであった。
一方試験官は、それまでの出来は良いとして、
ヨーソロ、
、
、テッ!
湧井 カレン
「テストパイロットをしていました」と言えば
何か派手でカッコイイ商売、とのイメージをお
持ちの方がほとんどでしょう。新しい飛行機を
開発するのに十数年かかる日本では、そんな飛
めて未知との遭遇と言える程度でした。しかし
そのような仕事の結果の反映が、設計技術者の
求めているものであり、新たに開発する飛行機
の基礎データの提供や Simulator 評価などでお
行機に出逢えるテストパイロットは両指で数え
るほどしかいません。
役に立てることも多かったのです。
昔話をしますが、筆者を含め、飛行機製造会
社に勤めるほとんどのパイロットたちは量産飛
行機のテストを担当する、つまり Production
実際に日常のフライトは決まり切ったパター
ンばかりでした。そして同じことの繰り返しで
した。例えば電子装備品のアンテナ位置を少し
変えるだけで、送受信の感度を調べるため、同
Test Pilot なのです。その仕事はそれなりに誇
りあるものですが。さて、筆者はある会社で38
年間その職種に就いていましたが、まったく新
じ地点上空を12から24の異なる方位で飛んで到
来電波の強弱を測定する(antenna pattern)、
地味な仕事ですね。
しい飛行機をテストする機会に恵まれませんで
した。エンジンや装備品の換装、大改造や特殊
研究機のテストや評価などに携わった事が、せ
ご存じ、上空の風から受ける偏流は各方位で
異なります。一般の航法では風上に修正角を取
るのがテクニックですが、我々の仕事に偏流修
50
2011 JAN
正角は許されません。エルロンとラダーを反対
方向に突っ張って飛ぶ(Wing Low)のですね。
を得ない、今は「Stand by」、、、「 Mark !」
に取って代わられてしまいました。微妙なアナ
Auto pilot にもこんなモードは付いていないか
ら手動で頑張りました。
ログ的コントロールは伝わらなくなり、ディジ
タルなやり取りになったようです。
今はデータポイントにランドマークなど要ら
データとなるポイントは正確に on set しなけ
ればならない。このデータポイントにアプロー
チし、ポイントするテクニックが「ヨーソロ、
ない、INS か GPS をプリセットし、機首方位を
指示すれば auto pilot が偏流修正後の機首方位
で on top してくれます。
テッ!」なのです。若い方には「何のこっちゃ」
と思われるでしょう。正しく言えば「宜しい
候」
、
、
「撃て」の現場訛りなのです。大日本帝国
中島みゆきという歌手がいます。ネクラと言
われようが筆者はこの人の歌が好きです。
陸海軍の用語だったそうです。爆撃機機長と爆
撃手、ペリスコープを覗く艦長とオーディナン
ス(魚雷担当員)とのやり取りに、こんな符牒
が交わされたのでしょう。
女人の年齢を詮索する気はありませんが、良
く言って40年代半ばでしょうか。この人のある
楽曲の歌詞によ~うそろ、、よ~うそろ、、とい
うクダリのあるのを聞いて驚きました。
お爺様、あるいは曾爺様が帝国海軍で活躍さ
筆者が若い時に一緒に飛んだ先輩たちは多く
れたのか? あるいはみゆきさんの優れた言葉
旧軍出身者で、機内での用語には上記のような
の感性がそんな歌詞を創生したのか、普段から
符牒が飛び交っていました。
「エンカンヨロシ」
歌詞を吟味し、深い意味を込めたシンガーソン
はお分かりですか? 「たばこを許可する」ある グライターなので、
「ようそろ」は音符に載せや
いは descend check list では「灰皿の始末完了」
すいのか、情緒の場面に用いた彼女の才覚に脱
です。
帽の思いがしています。
前述の antenna pattern の試験を例にとれば、
分かりやすいランドマーク、例えば○○岬灯台
をデータポイントに選んで、その上空を機軸が
正しいコンパス方位で on top させる。目視で誘
導する ordinance と機長が ICS で掛け合う、
「よーそろ、
、ようそろ、、てえ~!」という具合
に。この「よ~う~そろ」の声と抑揚、間の取
り方で機長は機をポイントに巧く誘導して行く
のです。まさにアナログ的な世界ですね。
後年になって旧軍出身の先輩たちが居なくな
ります。外国で飛んだり、外国人と一緒に仕事
をするようになると、こんなローカルな符牒は
通用しないので、必然的に国際慣習に従わざる
帝国陸海軍の話を持ち出す旧 Airman の出幕
には読者も up set でしょうか、
「ヨーソロ、、テ
エ!」の合図で off set されるべきでしょう。
本誌 XX ページの記事に関連して加筆させ
てください。
もともと優秀な技量・識見をお持ちだった
ことから記事の執筆者長谷部 聡氏は STOL
「あすか」や XC-2などに Experimental Test
Pilot として功績を積まれました。Production
Test Pilot とは異なる才能が求められる職種
です。筆者は昔年、長く一緒に飛行試験を担
当した者として、氏の業績を共に誇らしく思
います。加えて共に本誌の紙面に載せて頂く
ことの至福を感じています。
2011 JAN
51
第2回 全日本曲技飛行競技会
「誌上ジャッジスクール⑴」
髙木 雄一
●ジャッジスクールにようこそ
昨年10月、ふくしまスカイパークで開催され
た第1回全日本曲技飛行競技会は、初開催なが
らも非常に完成度の高い、素晴らしい競技会と
なりました。これには、実行委員会による入念
な準備と統制の取れた運営、集まったボランティ
アの方々の団結、そして地元福島市の皆様の航
空スポーツに対する深い理解があったからに他
なりません。私は審判団を統括する主審として
参加させて頂き、日本の曲技飛行競技の飛躍の
お手伝いができたことは大きな喜びです。
この競技会では画期的なことがいくつかあり
ました。それらは、十分な技量を持つ曲技飛行
競技者の参加。曲技飛行機の存在。マーカーが
置かれた競技ボックス。更に、この競技会が正
しく成立できたのは、ルールの存在と、ルール
を基に公正に評価する複数の審判が存在したか
らではないでしょうか。日本での曲技飛行競技
の普及を願う私としては、競技の要となる審判
の養成過程を確立し、その審判たちが競技者の
技量向上を支援できる環境を作りたいと考えて
います。今回から5回に渡って連載予定の「誌
上ジャッジスクール」が、現役競技者の方々に
は評価基準の再確認に、また他の皆様には曲技
飛行競技へのお誘いとなることを願います。
●なぜ曲技飛行なのか
FAA によると、曲技飛行の見解は「通常の
飛行に用いられない、急激な航空機の飛行姿勢
の変化、異常な飛行姿勢、急激な加速と減速を
行う飛行」としています。日常では得られない
52
2011 JAN
興奮を求めての曲技飛行もあるでしょうが、お
そらく本来の目的は、操縦技術の向上、航空力
学の研究、そして異常姿勢に陥ってしまったと
きにも冷静に、効率的に回復する操縦技術を得
ることなどでしょう。曲技飛行訓練は飛行の可
能性を広げ、安全性の向上へと繋がります。使
用する機種と技量の範囲内で、基礎曲技飛行の
要素を訓練に導入してはいかがでしょうか。
●曲技飛行と曲芸飛行
曲技飛行はまれに曲芸飛行とも伝えられます
が、曲技飛行という言葉を大切にしたいと思い
ます。一般的に馴染みの深いのは曲芸飛行でしょ
うか。曲芸飛行とはスタントやエアショーなど
の飛行で、観客が存在し、魅力ある飛行で人々
を楽しませることが目的です。対して、曲技飛
行はエアロバティクス、飛行技術の錬成を目的
に、得られた技術を駆使し、スポーツとして飛
行の正確さを競うものを指します。スタントや
エアショーの飛行に飛行技術を表現する要素が
あるとしても、それは観客を主体に構成されま
す。主体となるものは飛行士本人、そして自分
自身に挑戦を求める、それが曲技飛行です。
●競技としての曲技飛行
曲技飛行の経験はあるが、競技としての飛行
は未経験という方は多くいらっしゃることで
しょう。競技を目的としないレクレーショナル
の曲技飛行では、飛行の評価は飛行士の視線で
行われます。例えば、ループ(宙返り)は「360
度の縦の旋回」であり、これに合致する飛行で
あれば、縦長のループや、終了高度を大きく下
げた、通称「eループ」であっても可となりま
す。加えて、飛行がコーディネイトされ円滑で
あれば、それは優と評価されることでしょう。
終日を終えることです。そして、一貫してルー
ルに公正であることと、競技者が誰であれ常に
公平であることが尊重されます。
しかし、競技としてのループは、
「開始と終了
が同高度、機体の重心が真円を描き、風の影響
飛行を評価する上で、競技者の経歴や評判が
を考慮してあること……」等、細かな規定がさ
れています。飛行を評価するのは地上にいる審
判。極端な言い方をすれば、それがどんな操縦
加味されたり、飛行性能に劣る参加機に自動的
に高い評価を与えることは絶対に避けなければ
なりません。しかし、実際に審判として活動し
であっても、地上から評価基準に則ったループ
が確認できれば、評価基準からの逸脱がないも
のとして満点である10点が与えられます。正確
ていると、これはとても難しいことだと気付か
されます。過去にも、著名な曲技飛行士が競技
会に参加し、そこでの飛行が疑問に残るものだっ
な飛行で10点の獲得を目標に、競技者は可能な
限りの努力をする。これが曲技飛行競技です。
たにも関わらず、出席した審判たちは一律に高
得点を与えてしまい、大きな問題になったこと
がありました。このようなことを避けるため、
競技者は、評価基準を含めたルールを理解す
ることはもちろんのことですが、高得点のため
には審判からの視点を考えて飛行することが求
められます。フィギュアの判定が審判にとって
的確なところはどこか。ループを例にすれば、
飛行の場所が審判席に近すぎては、審判に対し
て真円を正確に表現できず、逆に遠すぎると判
定が難しく、印象もよくありません。仮に失敗
した場合、ルールの範囲内でその失敗をどう克
服するかということも技術の一つです。つまり
競技会では、審判と競技者の間で、常に駆け引
きが行われていると言ってもよいでしょう。
審判にはあえて競技者の名前を見ないよう努力
する人もいるようです。
レクレーショナルとしての曲技飛行を行う
方々も、単にロール(横転)やループ、スピン
などを行うのではなく、高度管理や進行方向の
維持など、常に何かしらのターゲットを持って
練習を行えば、競技会の参加も難しいものでは
ありません。異なるのはその視点の変更と微調
整です。曲技飛行競技に関する訓練を受け、い
つか競技会に参加されてはいかがでしょうか。
●公正性と公平性
競技会に限ることではありませんが、飛行に
は安全が第一に尊重されます。目標は競技会を
遂行することではなく、事故を防ぎ、安全に最
参加機が低出力の Piper J-3 Cub であるから
高評価、又は高い飛行性能を有する Extra 300L
であるから厳しく評価するようなことも避けな
くてはいけません。機種に関わらず、常に評価
基準に則った一貫した評価が求められます。
曲技飛行競技は最高速度や終了までの時間を
競うレースではありませんから、仮に低出力の
参加機であっても、技量次第で最新鋭機を相手
に勝利を得ることは十分可能です。搭乗機種の
飛行性能ではなく、あくまで競技者間の技量の
勝負。これこそが、曲技飛行競技の醍醐味です。
髙木 雄一(たかぎゆういち)
1971年、長崎県生。神奈川県出身。カリフォル
ニア州リバモア市在住。
94年に日本航空学園千歳校(当時)を卒業後、渡
米し操縦士、航空整備士、教育証明等を取得。
2004年から米国の曲技飛行競技会に参戦、08年
に IAC の審判資格を取得。現在は West Air, Inc.
にて近距離貨物便(FedEx Feeder)の操縦士、
Attitude Aviation, Inc. にて飛行機整備士および
曲技飛行教官として勤務。
第1回全日本曲技飛行競技会主審として活躍。
2011 JAN
53
FT 委員会・M分科会研修実施報告
川崎重工・航空宇宙カンパニー 工場施設見学
航空自衛隊 岐阜基地 施設/航空機研修(XC-2)
JAPA Flight Test 委員会
岩瀬 健祐
台風14号の日本列島接近の時期、運よく天候に恵まれ、FT 委員会では下記のような研修と委員
会を実施したので報告いたします。
1.日時:2010年10月29日(金)
1030~1200 川崎重工 航空宇宙カンパニー 工場施設見学
1300~1500 航空自衛隊 岐阜基地 施設/航空機(XC-2)研修
1510~1620 FT 委員会
2.研修目的:
メーカーでの工場施設見学、および航空自衛隊飛行開発実験団での研修を通じて、航空機開発・
製造・飛行試験等に従事する試験飛行操縦士としての見識を深めるとともに、今後の業務及び飛行
安全に資する。
3.参加者:計16名;全日空(2)、三菱重工(7)、富士重工(1)、川崎重工(5:懇親会のみ参加1
名)、JAPA(1)
4.研修概要:
⑴ 午前の部@川崎重工:北工場/南工場
① はじめに北工場内の BK117組立ラインと
ERJ のフラップ製造ラインの見学等を実施
した。
(右写真)
BK117の組み立てラインでは、ユーロコ
プタードイツ社向けの分担品生産を行って
いるため、予想より多くの製品がライン生
産されているという印象を受けた。ただ、
組立作業は人手に頼る、航空機製造の宿命
かという印象であった。
② 航空機開発の過程で欠かせない、各種シ
ミュレーションのためのフライト・シミュ
レーション・センターを訪れ概要の説明を受けた。航空会社のようなモーション・システムは
無く、ビジュアルと操縦室および付属設備で構成され、飛行機と回転翼航空機の研究開発や評
価に使用されている。(次頁参照)
54
2011 JAN
③ その後南工場の大型機修理工場や組立工場を見学した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
⑵ 午後の部@航空自衛隊岐阜基地:飛行開発実験団
① 団司令表敬
研修参加各社の代表者と FT 委員会委員長の6名が団司令および副司令を表敬訪問。
② 飛行試験概況説明
団司令部の総務班長より飛行開発実験団の概要と最新の機材の飛行試験計画、および進捗状
況につき説明を受けた。
現在 XC-2は、防衛省技術研究本部が実施する技術試験と航空自衛隊が実施する実用試験を
同時実施しており、飛行開発実験団のテストパイロットが飛行を担当している。
*飛行開発実験団がこれまでに実施した主な飛行試験機種を以下に示す。半世紀を超える間の航空
自衛隊の使用機材の変遷をみることができる。(パンフレットより)
*以下2組別れ、次頁③ / ④の施設研修を実施した。それぞれの担当責任者から判り易い説明を受
けた。
(写真は飛行開発実験団パンフレットより転載)
2011 JAN
55
③ FTCS(Flight Test Control System);飛行試験の効率的かつ安全な実施のため、飛行試験を
リアルタイムでモニターするための装置(左概念図、右管制室)
④ ACES(Aircraft Capability Evaluation System):航空機の操縦装置の評価や、操作手順の確
認等をする装置
航空自衛隊飛行開発実験団提供
⑤ XC-2研修:飛行試験実施後ハンガーインしていた XC-2を見学した。
飛行開発実験団に
は、試験飛行操縦士課
程(TPC:Test Pilot
Course)もあり、FT
委員会会員の中に多く
の卒業生(左の写真中
6名)がいる。彼らに
とっては、懐かしの母
校?を訪れた感があっ
たに違いない。
56
2011 JAN
5.H22年度第1回 FT 委員会(1510~1620)@川崎重工フライトビル会議室
⑴ 委員会活動計画等
・JAPA の新公益法人化にむけて FT 委員会の在り方について
・L分科会研修予定:今年度は特殊事情で中止
・次回 FT 委員会:来年2月ごろ
平成23年度活動計画策定(総会・シンポジウム、分科会活動予定)
⑵ KHI 飛行試験概要
・KHI 飛行課紹介
・KHI の試作、製造航空機について(下表参照:KHI パンフレットより)
・飛行試験の安全への取り組み
・
「負の遺産」と「ヒヤリハット」
・飛行試験映像の紹介
* FT 委員会終了後、懇親会を実施した。参加者11名(1630~1800)
主要製品の生産状況
(平成21年4月1日現在)
TPC の思い出
1972年、日本航空で運航
技術部試験飛行室に勤務し
ている時期に、当時の運航
本部長の決断で、防衛庁航
空自衛隊に出向し、試験飛
行操縦士課程に入校した。
大阪府立大学で航空工学を
専攻し、航空大学校でパイ
ロット訓練を受け、日本航
空に入社し、B-727で機長
になった。試験飛行操縦士
課程で、3度目の飛行機の
勉強となったが、この時ほ
ど勉強に明け暮れた期間は
無かった。TPC 卒ゆえに、
その後のパイロット人生が
実り多いものとなったと実
感している。
(文責:FT 委員会
岩瀬 健祐)
2011 JAN
57
GA:ジェネアビ情報(第51回)
ヘリコプターの事故
奥貫 博
前回のジェネアビ情報で小型飛行機の事故を
取り上げましたので、今回はヘリコプターの事
故を分析してみました。
航空事故調査委員会の航空事故統計情報が公
表されるようになった1974年から2009年までの
36年間のヘリコプターの事故件数を見ますと、
件数の減少傾向は見られるものの、最近の数年
間の事故件数は横ばい又は、若干の増加の傾向
にあります。
この間、ヘリコプターの運用には、薬剤空中
散布の大幅な減少、防災他公共活動飛行増大等
の変化があり、また自家用機として運用される
ロビンソンヘリコプターの大幅な増加等もあり
ました。それらの状況の変化を踏まえ、本稿で
は最近10年間の事故を分析してみましたが、ヘ
リコプター特有の事故として繰り返し発生して
いるものも多く、要注意の状況が続いているも
のと判断されます。
事故の要因別の現状
先ずは事故の原因を操縦者、機材、その他に
分け、また運用者を使用事業会社、官公庁、個
人に分けて見ますと、以下のような状況です。
機材
9%
官庁
9%
その他
操縦者及び
個人
事業会社
33%
気象判断等
29%
62%
58%
原因別割合
運用者別割合
原因別の割合では「その他」が多くを占めて
いますが、これはヘリコプター特有のメカニズ
ム、運用、特性、操縦等の様々な要素による複
合要因が存在し、単一の事故原因とすることが
適さない事によるものと判断されます。
2009年の後半から昨年にかけても、ヘリコプ
ターに関わる重大事故が何件か発生しています
が、現時点ではまだ調査中で結果が出ていませ
ん。それらのものは今回の分析には含めていま
せんが、事故の形態としては、山岳救助中のも
の、人員、物件等吊上中のもの、あるいは送電
線との接触等で、従来の事故と類似のものと見
られます。これらの結果から見ましても、ヘリ
ヘリコプターの航空事故件数
58
2011 JAN
コプターの事故の防止については、一層の努力
が必要な状況と判断されます。
ヘリコプターの事故の傾向
物輸・荷吊り関係の事故の内容
ヘリコプターの事故は前述のように、操縦者
に起因するとされているもの(気象判断を含む)
物輸・荷吊り関係の事故には、乗員の死傷、
機体の損傷及び地上作業員等の死傷に関わるも
が58%、その他が33%で、これらの合計は91%
にもなります。
その内容には、様々なものがあります。最近
のがあります。その内容は以下の通りです。
の10年間について、その原因を分析してみます
と、以下の通りです。
最近10年の事故の内容
物輸・荷吊り関係
防災・捜索・救難等
ホバリング関係
送電線等への接触
機材の故障
視程不良、雲中等
離着陸関係
ヘリ特有の特性に起因するもの
オートローテーション
燃料欠乏に起因するもの
機材の故障と操縦者の複合
同乗者に起因するもの
空中衝突
飛行前の確認不良
空中操作不良
計
件数
9
7
7
6
6
6
4
4
4
4
2
2
1
1
1
66
%
14%
11%
11%
9%
9%
9%
6%
6%
6%
6%
3%
3%
2%
2%
2%
全事故の原因別割合(2000年以降)
内容別の件数
荷下ろし作業中に地上作業員が負傷
件数
3
荷吊り場へ進入中下降気流で墜落
吊荷が飛散しテールローターに絡み墜落
機体側ワイヤーがクレーンに絡み墜落
1
1
1
木材吊上げ中の衝撃で姿勢が乱れ墜落
木材を無理に抜こうとして姿勢が乱れ墜落
荷吊りの際雪面にローターが接触し墜落
計
1
1
1
9
物輸・荷吊り関係事故の内容(2000年以降)
このように、物輸・荷吊り事故の要因は多岐
に渡り、国土交通省の「小型航空機の安全確保」
では、以下の対策の徹底が必要としています。
・気象、技量、性能を反映した無理の無い計画
・風向風速等の気象状況による作業可否の判断
・物輸・吊上資材の品質管理と実施要領の設定
・材木ロギング要領等手順書の設定とその遵守
・地上作業員の安全教育と手順書の遵守の徹底
・荷降ろし場の障害物件等の事前確認等の徹底
・手順書に従った作業前の安全確認の徹底
・所定の手順の遵守と安全意識向上教育の徹底
・操縦者に対する不安全行為防止教育の徹底
ヘリコプターの事故では、同じ原因であって
も、事故として扱われる場合とそうではない場
合があります。例えば、飛行中にエンジンが停
止した場合、人員の死傷、機体の大破等がある
と航空事故になりますが、オートローションで
無事に着陸できた場合はインシデントの扱いで
事故にはなりません。
また、同じエンジンの故障であっても、操縦
者の対処が関わって事故に至ったものについて
は、原因別分析では、その他の項で集計されま
すので、ここでは、機材の故障と操縦者の複合
として記載してあります。
提供:アカギヘリコプター
荷吊り作業中のヘリコプター
2011 JAN
59
者は2000人以上と言われる伝説的な方です。そ
れでも悪天候の中での救難活動で、命綱の固定
が不十分のまま離陸して、墜死してしまったも
のです。
どのような場面であっても、命を守るために
は、基本に忠実な行動が必要なことが、改めて
認識される事例でした。
ホバリング関係の事故の内容
救助訓練作業中のヘリコプター
防災・捜索・救難等の事故の内容
防災・捜索・救難等の活動においては、低高
度の吊上げ作業等が実施されるため、救助作業
員、地上作業員に関わる事故が発生しています。
これらは、内容的には、前項と同様な要因に
よる事故として見るべきものも多いのですが、
ホイスト(ワイヤーとウインチ)を使って救難
員が降下し、遭難者を救出してホイストで機内
に収容等の、救難ヘリコプターならではの独自
の目的や運用の形態があるので、本稿では、別
の項として扱っています。防災・捜索・救難等
での事故の内容別件数は以下の通りです。
内容別の件数
件数
救難員の降下訓練中誤って落下し死亡 2
山岳救助中救難員が落下し死亡
1
遭難者吊上げ中片エンジンが停止し墜落
救難員吊上げの際体勢が崩れて負傷
洋上訓練中に対海面高度の判定を誤り、着水
低速、低高度、高出力の捜索中、山に衝突
計
1
1
1
1
7
ホバリング関係の事故は、物輸・荷吊り関係、
又は、防災・捜索・救難等の場面でも発生して
いるのですが、ここでは、単機でのホバリング
関係の事故のみを扱うことにします。また、ホ
バリングに起因する事故の中でも、セットリン
グ・ウイズ・パワーとして報告されているもの
は、別項の「ヘリ特有の特性に起因するもの」
として扱うこととします。
ホバリング事故の件数は、計7件と多く要注
意であることが認識されます。
内容別の件数
件数
離陸のホバリングが不適切で地面に接触
2
船の周囲をホバリング中、尾部が船に接触
1
OGE 限度近くからの過重量の離陸で墜落 1
着陸のホバリングが不適切で横滑りし転倒 1
着陸後のホバータクシーが不適切で大破
1
着陸後のホバリングで格納庫に接触
1
計
7
ホバリング関係事故の内容(2000年以降)
送電線等への接触事故の内容
防災・捜索・救難関係事故の内容(2000年以降)
送電線等への接触事故は、計6件発生してい
ます。薬剤散布中のものが最も多い状況です。
この表の「山岳救助中救難員が落下し死亡」
昼間障害標識が設置されていない送電線自体
を飛行中に視認することは、極めて困難な場合
が多いため、送電線等に関わる飛行前の情報確
の救難員は、山岳救助を請負う日本国内では唯
一の民間ヘリ会社の方で、軽快なエアロスパシ
アル315B、アルウェットⅢ/ラマ型ヘリコプ
ターにより出動回数は約1700回、救助した遭難
60
2011 JAN
認と、現地での鉄塔等の確認による送電線の存
在の認識が特に重要とされています。
視程不良・雲中等での事故の内容
視程不良・雲中等での事故は、計6件発生し
ています。ヘリコプターの場合、その基本的な
安定性、操縦性等の特性から、視界情報を失う
ことが機体の姿勢の乱れと動きに直結し、事故
に至る恐れが大きいので、注意が必要とされて
提供:アカギヘリコプター
送電線作業中のヘリコプター
内容別の件数
薬剤散布中送電線に接触
報道取材飛行中送電線に接触
送電線巡視飛行中送電線に接触
計
件数
4
1
1
6
送電線等への接触事故の内容(2000年以降)
機材の故障による事故の内容
います。
気象状況、地形、操縦者の飛行経験、技量等
を考慮し、有視界飛行の継続が困難と判断され
る場合は、飛行を継続することなく、早期に引
き返すか、近隣の飛行場に着陸する、又は安全
な河原や平地に予防着陸する等の手段が必要で
す。
内容別の件数
濃霧等で視界を失って墜落又は大破
雲中飛行になり空間識失調に陥って墜落
雲中飛行になり飛行を続けて山に衝突
計
件数
3
2
1
6
視程不良・雲中等での事故の内容(2000年以降)
機材の故障による事故は計6件発生していま
す。ヘリコプターでは、低高度、低速度でのエ
ンジン故障時の危険領域等には特に注意が必要
です。
また、テールローターの故障は、充分な高度及
び前進速度のあるうちに、テールローター故障対
処の降下に入れ、緊急滑り込み着陸をする等の手
順が定められているとしても、実際の場面におい
ては、発生した事態を認識するための一瞬の間に
旋転が始まってしまったら、対処する手段は無い
とされていますので、注意が必要です。
内容別の件数
テールローターの故障で墜落
件数
2
離陸直後のエンジン故障で大破
低速・低高度でのエンジン故障で大破
1
1
進入中のエンジン故障で大破
オルタネータ故障による不時着で発火焼損
計
1
1
6
機材の故障による事故の内容(2000年以降)
離着陸関係の事故の内容
離着陸関係の事故は計4件発生していますが、
いずれも着陸時のものです。着陸操作不良の3件
には、コレクティブ・ピッチ・レバー操作が関与
しており、ヘリコプターの接地に際しては、安定
したホバリング状態からの、慎重なコレクティ
ブ・ピッチ・レバーの操作が必要とされています。
また、着陸場所の傾斜、障害物、飛散物等は、
着陸事故を誘引することがあるため、着陸場所
の適切な管理と、パイロットの確実な視認が求
められます。
内容別の件数
着陸接地操作不良により落着破損
件数
3
着陸時飛散物がローターに絡まり墜落
計
1
4
離着陸関係の事故の内容(2000年以降)
2011 JAN
61
ヘリコプター特有の特性に起因する
事故
オートローテーション事故の内容
ヘリコプター特有の特性に起因する事故とし
ては、様々なものがあります。ここでは、事故
オートローテーション事故には、訓練中のも
のと、実際のエンジントラブル等で、オートロー
調査報告書に事故原因として、それらの特性の
記載があるものに限っていますが、他の項の事
故においてもヘリコプター特有の特性の関与の
テーションを余儀なくされた場合のものがあり
ます。
また燃料欠乏の項にも、オートローテーショ
可能性が考えられる等の例が多く見られます。
ン不良に関わるものが3件ありますので、それ
を合せると7件になり、更にエンジン停止等の
場面において、オートローテーションに入れる
内容別の件数
件数
浮揚時にダイナミックロールオーバー大破
1
斜面でコレクティブバウンスになり横転大破
1
ホバー中にセットリングウイズパワーで墜落
1
飛行中にマストバンピングが発生して墜落 1
計
4
ヘリ特有の特性に起因する事故(2000年以降)
ここに記載したヘリコプター特有の特性は、
いずれもその罠に捕らえられてしまうと、脱出
は極めて困難とされています。従って、予めこ
れらの特性の危険性とその領域を良く認識し、
危険領域に近づかないような操作が必要です。
また、圧雪された場所への接地においては、
コレクティブ・レバーを特に慎重に操作し、機
体を安定させると共に、コレクティブ・バウン
ス又はそれに類似した異常振動を発生させない
よう、十分な注意が必要です。
ことが出来ずに事故に至った例もあります。
オートローテーション練習には、目標地点へ
の進入と、コレクティブ・レバーの操作のタイ
ミングに十分な注意が必要とされています。ま
た、エンジン故障等において、実際のオートロー
テーション着陸を余儀なくされる場合には、迷
うことなくローターの回転速度があるうちに、
速やかにオートローテーションの諸元に入れる
ことが特に重要とされています。
内容別の件数
件数
旋回及びリカバリー操作不良で横転大破
1
目標地点の手前にハードランディング大破 1
キャブアイスでエンジンが停止不時着大破 1
リカバリー中エンジンが停止し機体損傷
1
計
4
オートローテーション事故の内容(2000年以降)
燃料欠乏に起因する事故の内容
燃料を使い切って飛行継続不可能となった事
故は計4件発生しています。そのうち3件は、
前項でも述べましたように、オートローテーショ
ンの不良、もしくは、オートローテーション入
れることが出来ずに、事故に至っています。オー
トローテーション入らなかった例では、技量に
よるものと、対地高度が不足して事故に至った
ヘリコプターでは基本に従った操縦が特に重要
62
2011 JAN
ものがあります。また、低燃料警報が点灯して
いるにもかかわらず、飛行を継続して燃料を使
い切り、事故に至った例もあります。
ヘリコプターが、飛行中に燃料を使い切って
しまったのでは、オートローテーション着陸以
外に選択肢は無いわけですが、直下の地形、対
地高度によっては、安全な着陸が無理な場合が
あります。
従って、燃料残量には常に十分な注意を払っ
て飛行することが基本中の基本であることは言
うまでもありません。
内容別の件数
燃料を使い切りオートロ着陸時機体損傷
件数
2
燃料を使い切りオートロにならず墜落
薬剤散布で燃料を使い切り山中に墜落
計
1
1
4
燃料欠乏に起因する事故の内容(2000年以降)
機材と操縦者の複合事故
機材と操縦者の複合事故は、ここでは2件の
みの記載ですが、実際にはオートローテーショ
ン事故の多くがエンジン停止とオートローテー
ション不良の複合であるように、他の項にも数
多く存在しています。
ローター低回転警報で降下中接触墜落事故の
件では、警報点灯後、フライト・マニュアルの
警報点灯に対応する非常操作を確実に実施すべ
きであったとの記述があります。
また、エンジンチップ点灯で帰投中のエンジ
ン停止事故の件は、エンジンチップが点灯した
時点で、制限高度-速度包囲線図を考慮して、
安全な進入及び着陸が可能な最寄りの適当な場
所へ出来るだけすみやかに着陸していれば、飛
行中のエンジン停止によるハード・ランデイン
グは回避できたものと考えられるとの指摘があ
ります。
内容別の件数
ローター低回転警報で降下中接触墜落
件数
1
エンジンチップ点灯で帰投中エンジン停止
計
1
2
機材と操縦者の複合事故の内容(2000年以降)
ホバリングにも細心の注意が必要
同乗者に起因する事故
同乗者に起因する事故は2件あります。最初の
例は、夏の日の離陸上昇中に、同乗の整備士が外
気取入ノブを操作しようとして、誤って燃料
シャットオフ・バルブ・ノブを引いてしまい、低
高度でエンジンが停止して墜落というものです。
機長に伝えることなく、勝手に操作したことで事
故に至ったとされています。もう1件は、同乗者
が離陸の際に不安を感じてサイクリック・スティッ
クにつかまり、姿勢の制御が困難となって、尾部
が接地して横転し大破というものです。同乗者と
の意思の伝達には十分な注意が必要です。
内容別の件数
同乗整備士が燃料をシャットオフし墜落
同乗者がサイクリックスティックを掴み大破
件数
1
1
計
2
同乗者に起因する事故の内容(2000年以降)
その他の事故
その他の事故の3件は、いずれも操縦者自身
の意識が関与しています。飛行中の見張りの重
要性は言うまでも無く、またロックピンを付け
たまま離陸して墜落では、たまったものではあ
りません。ペダルターン上昇反転の接地損傷事
故の件は、十分な高度余裕での実施が基本中の
基本です。
2011 JAN
63
内容別の件数
訓練中見張不良でセスナと空中衝突
ペダルロックピンを付けたまま離陸し墜落
ペダルターン上昇反転で接地損傷
計
件数
1
1
1
3
その他の事故(2000年以降)
ヘリコプターの事故の防止(私見)
以上のように列記してみますと、最近10年間
のヘリコプター事故の状況が再認識されます。
事故の内容は様々ですが、ヘリコプター特有の
物輸・荷吊り関係、防災・捜索・救難等、ホバ
リング関係、送電線等への接触、オートローテー
ション等が目立ちます。
その他、飛行機と同様なものとしては、視程
不良、離着陸関係、燃料欠乏、空中衝突、機材
故障と操縦者の複合等があります。
対策としては飛行規程等に従った基本を中心
に、ヘリコプター特有の物輸・荷吊り関係等の
作業標準の設定とその遵守が重要となるでしょ
う。その意味からも、ヘリコプターの運用にお
いては、特に、SHELL モデルによる危機管理の
視点が重要となります。
各種情報(Software)
各種機材(Hardware)
環境要素(Environment)
操縦士(Liveware)
関係者(Liveware)
またヘリコプターでは、何らかの異常が生じ
た場合に、急激にワークロードが増大する傾向
があります。機体の固有安定性が飛行機のよう
には備わっていませんから、両手両足を使って
機体を安定させながら状況を見極め、
「待ったな
おわりに
事故の面からヘリコプターを見て、その操縦
及び運用の過酷さには認識を新たにしました。
いくつかの事故は性能限界高度近くで、その機
材の性能と飛行環境および性能上の余裕が少な
い時に起きています。当然ですが、山岳地の飛
行で性能上は500FPM の上昇率があっても、たっ
た2.5m/s の下降気流があれば上昇率はゼロに
なってしまいます。地形を読み、風を読み、乱
気流、上昇 / 下降気流のエリア、湧き出る雲の
エリア等々、全てを知り尽くしていなければ仕
事はできません。
さて、今回も事故の内容を並べてみましたが、
これが事故防止を考える上で何らかの役に立て
ばと思います。具体的には「人間はミスをする
もの」との前提に立ち、事故の罠から逃れる方
策を考えなければなりません。そのためには
CRM(Cockpit Resource Management)の考え
による、異常事態等への想定シナリオによる対
処訓練も必要でしょう。
ポイントとしては、ヘリコプター特有の、悪
い環境条件、ワークロードが増大した状況、注
意力がそらされ、判断に迷う悩ましい状況等の
シナリオが必要でしょう。そのようにして「現
状認識(判断)と対処方法(行動)」とを、自己
の技量や、機内装備の活用、無線による援助等
を広く考えて、最良の答えを得る訓練です。
その訓練を考える際に、本稿の事故の事例が
参考になればと願っています。
落ちついて対処すれば、問題は解決できるの
に、それが実行できずに事故に至ってしまうの
は、日頃からの備えが不足している事によるも
のです。ヘリコプター特有の飛行における危険
の要素をきちんと認識し、確実な認識と行動で、
安全な空を心がけることが必要です。
し」の判断と実行が求められます。
その一方では、空中で停止、眼下の平地に予
参考資料:
防着陸といった奥の手もあります。要は、ヘリ
コプターとしての特性を理解した上で、その運
用を考えることが必要になるのでしょう。
1.運輸安全委員会「航空事故調査報告書」
2.国土交通省資料「小型航空機の安全確保」
3.空飛ぶ山岳救助隊(山と渓谷社)
64
2011 JAN
奥貫 博
エアロバティックス関係では、昨年に引き続
き、今年も10月に第2回全日本曲技飛行競技会
量が向上し、驚かされます。接地点の目標は前
後2mの幅なのですが、昨年の大会では3位ま
の開催が計画されています。これは、将来的に
は FAI の国際曲技飛行競技会等への、日本から
の代表を選考する場とすることも視野に入れて
でが僅か数メートルの逸脱と、大変な接戦でし
た。
その更に上には精密飛行競技があります。こ
の開催です。先ずは実行してみることで、様々
な知識と経験の集約と、人の輪の形成が実現し
ます。
徐々にではあっても、航空スポーツ競技の先
進国から情報を得て、前進を続けて行きたいと
考えます。では今月の情報です。
ちらは1m単位での接地点計測が求められます。
また障害物越えの着陸精度競技もあって、進入
側の滑走路端の近くに高さ2mの障害を設置す
ることになりますので、競技の練習環境や、実
施環境が問題になります。少しずつ、出来る所
から前進を図って生きたいと考えます。競技の
詳細につきましては、JAPA の FAI ジェネラ
ル・アビエーション担当に御照会下さい。
◉
ロータークラフト(ヘリコプター)
FAI の各部門の総会は、11月頃に終るのです
が、ロータークラフト部門は年が明けてからの
開催になります。2011年の総会は、スイスの FAI
本部のあるローザンヌで、3月3日-4日の開
催とされています。例年の議題は、前回総会議
事録の承認、役員関係、会計関係、競技会の報
告と開催計画、競技規定、ビジネス関係等々で
す。
実際に競技に参加、あるいは、競技の練習等
がありませんと、議事の内容は聞くだけといっ
た状況になってしまうのですが、その一方、競
技に参加する機体は、従来のロシア機に代表さ
れる大型で無骨なヘリコプターの時代から、
R22,R44と言った軽快なヘリコプターの活躍が
目立つような時代へと変化してきましたので、
新しい情報の収集には良い場ということも出来
ます。詳細につきましては、JAPA の FAI ロー
タークラフト担当に御照会下さい。
◉
GAC:ジェネラル・アビエーション(飛行機)
日本でも FAI ジェネラル・アビエーション部
門のラリー飛行競技の着陸競技を数年前から試
行的に実施していますが、回を重ねるごとに技
◉
エアロバティックス(FAA-CIVA)
今年の CIVA(FAI エアロバティック委員会)
の年次総会には、日本の代表として初めて正デ
リゲートが出席しました。これまでは、オブザー
バーやアルタネーター(副デリゲート)が代表
権を持つ者として出席していましたが、他の国
の出席者は全員が正デリゲートであり、選手権
に毎年選手を送り込む国でありながら、総会に
はいつも代理の者が出席するというのではイン
パクトが弱いという印象がありました。今回の
正デリゲートの出席で、日本も CIVA の一員と
してやっと世界の仲間入りを果たしたという感
じです。
会議の内容については別途詳細な報告があり
ますが、日本の代表として様々な情報の収集が
できたことは大きな成果だと思います。国内で
も、試行を経ての第1回全日本曲技飛行競技会
が開催され、多くの選手が真剣に勝敗を競いま
したが、同時に経験豊富な米国 IAC 公認ジャッ
ジによるジャッジスクールが初めて開催され、
競技会におけるジャッジの重要性について広く
アピールできたのはとても有意義でした。
2011 JAN
65
GA 部会活動報告
FAI 方式着陸競技の試行(第4回)
奥貫 博
FAI 方式着陸競技の第4回の試行が、昨年11
月27日に枕崎空港で実施されました。
上の写真は優勝した古閑さんの、ターゲット
の先、僅か40cm への着陸です。
今回唯一のターゲットへの着陸は、第一飛行
クラブ広島支部から PA28で参加した大畑さん
のものでした。初参加ながら滑空着陸はターゲッ
トに着陸、通常着陸では約7m手前でしたが、
ショート側はペナルティが大きく、3位の結果
でした。
僅か計7mの誤差で3位となる激戦でしたが、
この厳しさが技量向上につながるもので、今回
も、非常に有意義な大会となりました。着陸競
技の内容は、以下のものです。
①パワーアイドルによる360°滑空着陸
②パワーを使用したノーマル着陸
800FT
FAI 方式 の ノーマル 着 陸
( 通常の パ ワーを使 用 )
1500FT
エンジン
ブレーク
アイドル
競技の採点
接地点の目標は下図の52m×12mのものです。
その中が前後5~10mの幅に区切られ、それぞ
れにペナルティ点数が設定されています。
この目標は進入中の機体からは非常に小さく
見えます。その中の前後幅2mのターゲットを
狙うのですから、容易ではありません。
枠の外は 200 penalties
12m
10m
Area "F"
70 penalties
10m
Area "E"
60 penalties
5m
Area "D"
40 penalties
5m
Area "C"
30 penalties
5m
Area "B"
20 penalties
5m
Area "A"
10 penalties
5m
Area "G"
40 penalties
5m
Area "H"
60 penalties
2m
0 penalties
360 度オー バーヘッ ド 滑空着陸
着陸精度競技の飛行パターン
(高度は対地高度)
66
2011 JAN
着陸区域と接地位置のペナルティ
滑走路マーキングのテープ貼り作業
着陸競技の準備
この着陸競技は九州南端の枕崎飛行場で実施
しました。滑走路は800m×幅25m、方向は
18/36、標高は171Ft です。枕崎空港は市が管理
する飛行場ですが、定期便の運航はありません
ので着陸競技の実施が可能となるものです。
競技に先立ち、気象データから判断して滑走
路を決め、白いテープでマーキングをします。
ペナルティゼロのターゲットは、進入中に良く
見えるよう、前後幅2mの白い帯にします。
マーキングが完了したら、滑走路脇に接地位
置の判定員を配置します。ペナルティゼロの基
準位置の横には審査委員長が陣取ります。
第一飛行クラブ広島の大畑さんの着陸
競技は2名のパイロットの互乗で行います。
これは外部の見張り、機内での操作等、正しい
着陸操作の監視のためのものです。
さて、毎回繰り返して言うのですが、この競
技で良い得点を得ることは、飛行機をどのよう
な場面でも、狙った場所に接地させることが出
来ることを意味するものです。単発機は、上空
でエンジンが故障した場合、滑空で安全な場所
に着陸させるしかないのですから、常に狙った
場所に着陸させる技量を身に付けていることは、
極めて重要なことです。この競技の着陸区域は、
前後幅52mと小さく、勝つことは容易ではあり
ませんが、競技には、安全上の大きな意義があ
ります。
また、主催の Super Wings の教育証明所有者
がセーフティ・パイロットとなって、安全に離
着陸の経験を積むこともできますので、日頃、
飛行環境が得られない方も含め、より多くの方
に、この競技への参加をお勧めしたいと思いま
す。
ターゲットの手前20cm への接地
上の写真は優勝した古閑さんのものです。
2回の着陸はターゲット外40cm と20cm、合
計60cm でした。FAI の公式競技では2台のビ
デオで判定とのことですが、そろそろ写真判定
が必要な領域に近づいてきたようです。
ターゲットを狙う FA200の着陸
2011 JAN
67
SuperWingsFAI 方式試行着陸競技結果
実施日時
H22.11. 27
実施場所
枕崎空港
滑走路
36
順
位
氏 名
機 体
1
2
古閑 司
管 聖
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
大畑 周三*
児玉 伸裕
原田 茂
荒牧 和弘
高見 厚徳
選手T
岩木由佳理
三好 恒紀
選手K
峯崎 達也
柳澤 克嘉
選手M
鐘尾みや子
FA-200
FA-200
PA28
FA-200
FA-200
FA-200
C-172
FA-200
FA-200
FA-200
FA-200
C-172
FA-200
FA-200
FA-200
12m
QNH
3010
風向風速
330/4
ペナルティ(接地 Area)
360度
通常着陸 その他
合 計
滑空着陸
*
10(A)
50
40(G)
20(B) 30(C)
50
0
60(H)
60
*
80
10(A) 70(F)
60(H) 20(B)
80
40(G) 70(F)
110
200
20(B)
220
30(C)
200
230
40(G)
200
240
200
40(G)
240
*
250
200
40(G)
10
*
250
200
30(C)
20
200
200
400
200
200
400
200
200
400
横風条件
非該当
降水等
なし
特記事項
*右車輪がG区域に接地
*第一飛行クラブ広島支部
*A区域接地後Fに再接地
着陸区域外 +5m
着陸区域外 -100m
*着陸操作ペナルティ10
*着陸操作ペナルティ20
着陸区域外 -100m /-5m
着陸区域外 -80m /-50m
GA / 着陸区域外 -10m
GA:Go Around
ペナルティ
10m
Area "F"
70
10m
Area "E"
60
5m
Area "D"
40
5m
Area "C"
30
5m
Area "B"
20
5m
Area "A"
10
5m
Area "G"
40
5m
Area "H"
60
2m
視程
10km+
0
枠の外は
ペナルティ
200
備考:
1.ノーマル着陸競技は FAI ジェネラルアビエーション・ラ
リー飛行競技の、着陸テストの要領と採点基準で実施した。
2.360°滑空着陸競技は、独自の要領を使用し、採点のみ、FAI
ラリー飛行競技の、着陸テストの方式で実施した。
3.危険操作、不正操作等監視のため、競技は、セーフティ・
パイロット同乗にて実施した。
4.接地位置は、滑走路横に配置した判定員の目視で判定した。
主審と判定員の目視での判定結果が別れた場合は、写真判
定を併用して最終決定とした。(1件該当…今後の課題)
5.危険又は無理な着陸操作と判断した場合は、異常な着陸と
してのペナルティを程度に応じて適用した。(2件該当)
6.採点においては、バウンシングの後、良い位置に再接地し
た場合、及び、良い位置に接地した後、バウンシングでペ
ナルティ点の大きいエリア外に再接地した場合は、ペナル
ティの異なるエリアにまたがる着陸として、大きい方のペ
ナルティを適用した。
7.同点の場合は、枠からの逸脱距離が近い方を上位とした。
着陸区域と接地位置のペナルティ
審査及び記録
68
2011 JAN
H22.11. 27 競技委員長 奥貫 博
FA200曲技飛行競技会・結果報告
IAC 曲技飛行競技採点方式準拠
着陸競技の翌日に、FA200による曲技飛行競
技会が実施されました。
結果は、荒牧さんが全ての演技をきちんとま
とめ、優勝を飾りました。2位の三好さん、3
この競技の規則及び課目は、昨年の第1回全
日本曲技飛行競技会のクラス1(Primary Class)
のものを利用し、採点も FAI ジャッジの資格を
位の管さんも良い演技で、得点に殆ど差はあり
ません。姿勢、角度、方向、軌跡等の僅かな差
が勝敗を分けることになりました。
持つ鐘尾さん、室屋さんの他、計4名、補助者
各1名の陣容で IAC(International Aerobatic
Club)のスコアシートを使用して、正式な方法
今回は、4人の選手の内3名が第1回全日本
曲技飛行競技会の参加選手でしたが、技量は確
実に向上していて、次回の全日本曲技飛行競技
で実施しました。
会が楽しみな結果になってきました。
これまで、FA200のようにパワーが少なく、
ロール率が低い機体で良い得点を得るのは難し
いと考えられていたこともありましたが、個々
の課目をていねいに実施すれば、エクストラの
ような、曲技飛行専用の機体にも劣らない得点
が見えてきました。
またこの曲技飛行競技会は、ジャッジ席を正
規の位置に配置し、ジャッジの訓練も兼ねて実
施しましたので、競技選手も、ジャッジも、充
実した成果を得ることが出来ました。
ジャッジの鐘尾さん、福島から駆けつけて下
さった室屋さん、ありがとうございました。
2
①
3
5
4
6
曲技飛行競技課目 K = 63(60+3)
また競技ボックスについては、マーカーの設
置は省略しましたが、長さ約1 km の枕崎空港
東側境界を基準として設定しました。
順位
1
2
3
4
選手
荒牧 和弘
三好 恒紀
管 聖
原田 茂
得点
492.8
426.2
395.3
294.5
%率
78.2
67.7
62.7
46.7
FA200曲技飛行競技の結果
枕崎空港
枕崎空港
200m
200m
ジャッジ席
ジャッジ
500m
500m
500m
500m
地 図 出 所 : Google 日 本
枕崎空港の曲技飛行競技ボックス
正規の位置に配置されたジャッジ席
2011 JAN
69
2010年
FAI-CIVA 総会参加報告
FAI-CIVA 日本デリゲート
航空スポーツの国際組織 FAI(Fédération
Aéronautique Internationale)の曲技委員会
CIVA(Commission Internationale de Voltige
Aerienne)2010年総会が、ドイツ Oberhausen
で、11月6日から7日にかけて開催されました。
Oberhausen は Düsseldorf 空港の約20km 北
に位置し、近郊には曲技飛行機メーカーとして
有名な Extra Aircraft があります。
会議では主に曲技世界選手権(1km 四方の
曲技ボックス内で曲技フィギュアを飛行し、地
上のジャッジが判定する競技)の運営、安全管
理、ルールの改定等が話し合われます。会議の
概要は以下のようになります。
2010年 CIVA 総会議事
http://www.fai.org/aerobatics/meetings/2010
CIVA 登録国42カ国中、デリゲート参加21カ
国、委任状4カ国、オブザーブ参加2カ国。
1.昨年の総会議事録の承認(米国 Oshkosh)
2.新任 FAI Secretary General 挨拶
Stéphane Desprez 氏の出身は航空界ではなく
スポーツ界で、FAI にスポーツ界の仕組みを取
り入れ活性化を図りたいという表明があった。
3.CIVA 委員長報告(Michael Heuer 氏)
競技審査の透明化、ジャッジ能力査定に関し、
Nick Buckman 氏(UK)による「ACRO」プロ
グラムを導入し、http://www.civa-results.com
70
2011 JAN
植田 展生
にてプログラムを公開。
安全に関し、http://www.civa-news.com、
http://www.civa-safety.com/TechWatch を立
ち上げた。
2010年の選手権参加者数は以下のようになり、
2008年の154名、2009年の177名から増加傾向に
ある。これは Advanced 選手権を新設し、参加
者が増えたことが要因にあげられる。
4.会計報告
2010年の AWAC の参加者増による増収は、
今後の選手権の運営費等で還元していく予定。
2011年は特別イベント、WEAF、China Aerobatic Challenge により増収が見込まれる。
5.2010年選手権の報告
1st WAGAC(滑空機アドバンスト曲技世界選手
権)、10th EGAC(滑空機曲技欧州選手権)
[開催地:Jämijärvi Finland]
今回が第1回となる WAGAC で、スウェーデ
ンの19歳の選手が
Pilatus B4で優勝
した。
※ Pilatus B4はか
つて日本飛行機で
もライセンス生産
されていたオールラウンド単座グライダー。
曳航機で GPS を利用したため、ボックス中央
に向けて正確な曳航ができた。
競技会では経済的理由から HMD(高度測定装
置)を搭載しなかった。
9th WAAC(アドバンスト曲技世界選手権)
[開催地:Radom Poland]
Flight Director のミスにより、曲技ボックス
に2機同時進入するというインシデントがあっ
た。これは、フランスのパイロットが演技の途
4min-Free で音楽は必要か? 演技とシンク
ロさせるために VHF 周波数を占有し流してよ
いのか?
曲技ボックス付近の騒音苦情があったが、地
元スタッフの仲裁により解決。
温泉地のため一人部屋の確保が難しく、参加
者からの苦情が多かった。
6.ルール改正案と小委員会からの報告
今後、ラインジャッジ廃止に向けた検討を行う。
グライダーでは、EAC、EGAC の代わりに今
後、WAC と WGAC を毎年同時開催する。
中、リポジションのためにブレイクしたところ、
ルール変更点の詳細は1月頃に改訂される
他の米国のパイロットが離陸して、ボックスに
CIVA Regulation を参照。
侵入し曲技を行ってしまった。緊急周波数は現
国際ジャッジリストの Power と Glider の別
地のポーランド語で話されていて、両パイロッ
をなくし、ジャッジの Rank Index により適切
トに緊急指示が届かなかった。英語が話せ、ト
なジャッジを選出する。Power と Glider の差に
ラフィックコントロールができる適切な Flight
ついては、ジャッジブリーフィング等で周知さ
Director を選任する必要がある。
せる。
※この WAAC に参加した内海氏から、競技者
緊急時の用語で、“Break、Break、Break”
数が多すぎるという意見があったので、他国の
に加え、“Land、Land、Land”を追加。
関係者に聞いたところ、やはり競技者は同様な
曲技ボックス進入前に Chief Judge からの
感想を持ったようで、天候による競技中断も影
“Radio Check”に返信できない場合は、演技開
響したようである。しかしながら、25カ国から
始できない。
83名の選手が集まったということで、主催者側
からすると参加者増が歓迎されていた。
7.2011年 CIVA KNOWN Q プログラム
th
http://www.fai.org/aerobatics/CIVAQseq 参照
17 EAC(曲技欧州選手権)の報告
[開催地:Touzim Czech Republic]
芝地滑走路に大雨が降ったため着陸不適地が
あり、誤って着陸した機体が損傷して、その後
の Program4がキャンセルとなった。
演技中にローカル機が曲技ボックス内に侵入
するというインシデントがあった。
最初の2種目の得点の平均点が60%に満たな
い場合、その後の競技飛行資格は剥奪となる。
Free Program において、選手が提出した演目
図の書き方が悪く、誤審への意義申立てがあった。
Program2で新ルールの Free Unknown は良
好であった。
競技期間中携帯電話の SMS による情報伝達
は有用であった。ネットでのストーリーミング
ビデオ放映の試行も行った。
2011 Power Unlimited Known Q
2011 JAN
71
8.曲技選手権開催地の選考
2011年 WAC(曲技世界選手権)開催地は米
また、China Aerobatic Challenge の CIVA 担
当者はスェーデンの L. G. Arividsson 氏で、ア
国とイタリアで投票が行われ、14票を獲得した
イタリア Ravenna、Cervia Airport(8/31-9/10
予定)が選定された。
ジアでの曲技競技会の可能性を探りたいので、
日本の関係者も中国に来られないか、との非公
式な打診があった。
米国は、North Texas Airport を動画と PPT
で紹介し、日本を含む10得票があった。設備等
は全く問題ないものの、開催時期を夏休みでボ
11.役員、小委員会委員の選挙
委員となっても、継続的に委員会に出席して
ランティアが集まりやすい6月最終週で提案し
たところ、欧州勢には時期が早すぎて練習期間
を十分にとれないこと、機体輸送に約1ヶ月か
いない委員は立候補リストから外された。
小委員会は、世界選手権時に共催されること
が多く、日本からは委員は選出されていない。
かりさらに厳しくなるといった意見があり、ま
た FAA ライセンスへの書き換えが煩わしいと
いう意見があった。
滑 空 機 の 2 0 1 1 年 WGAC、WAGAC は
TORUN、Poland で7/26-8/6に予定。
12.選手権オフィシャルスタッフの認定
予 定 さ れ て い る 各 選 手 権 の International
Jury、Chief Judges、Contest Directors 等を選
任した。
9.INTERNATIONAL JUDGES のリスト
日本からは、鐘尾氏、室屋氏がリストに掲載
されているが、国際競技会での実務には、ジャッ
ジ経歴を充足する必要がある。
10.その他
総会への提案方法として、以下の3通りを設
定。
Normal Proposal:デリゲートが提出し、小委員
会で検討後、総会にかけられる。
Safety Proposal:安全に関するもので、直近の
総会で検討する。
Expedited Proposal:選手権実施の結果、直近
13.2011年の CIVA 総会
11/5-6 Krakow Poland を予定。新築された航
空博物館。
他国の曲技事情
会議期間中、以下のような他国の曲技事情を
知り得ることができました。
EURO 圏では、飛行ライセンスは共用されて
おり、ICAO 英語証明レベル4以上が必要。
曲技飛行を行うための曲技飛行証明制度の有
無は国により異なり、EURO 圏では2012年まで
の総会で検討する意義があるもの。
CIVA の競技会認定料は、世界選手権、大陸
にライセンス制度を統一化する動きがある。
(JAR-FCL 1、EASA NPA No 2008-17A 関連)
選手権とも選手一人あたり、150ユーロとする。
2010年の Leon Biancotto Diploma は、Claude
‘Coco’Bessiere、France に授与。
2011年の特別イベント、World Elite Aero-
ノルウェーの場合、飛行機曲技を行うには、
10時間の訓練が必要で、訓練実施後、曲技教官
が署名する。認定曲技教官になるには、CAB 試
験を実施。(チェコ、ドイツも同様)
batic Formula(WEAF) に つ い て、Jurgis
Kairys 氏から説明があり、FAI イベントとする
かどうか検討。Mamaia Romania 7/28-31、Riga
スウェーデンのグライダー曲技訓練では4時
間(12回)+4時間(12回)の曲技訓練で、2
Latvia 8/18-21に予定されており、これは、ク
ラシックな曲技ルールではなく、エアショー的
な要素を含むルールを採用。
72
2011 JAN
段階で曲技飛行許可の難易度を上げている。グ
ライダーパイロット人口約5000人のうち、1割
の約500人が(緊急回復訓練目的で)曲技飛行訓
練を受け、そのうち1割の約50人が競技曲技パ
イロット。
スウェーデンでは、1980年代、毎年3件程度、
ネス機 EA-500の EASA 型式証明を得ています。
EA-500の仕様は、6人乗り Carbon fiber fuse-
計20件ぐらいの重大事故が、エアショーで発生
した。共通原因としては、高い高度で練習をせ
ずに、本番で低い高度で実施したということが
lage、Lightning protection、Carbon fiber wing
あげられる。曲技競技会では事故は起こってい
ない。
曲技協会組織に関しては、各国の事情により
異なり、グライダーと飛行機で単一の曲技組織
であったり、NAC(航空協会)の内部組織であっ
たりする。
FAI スポーティングライセンスは、
“Glider”
で、CIVA(曲技)、IGC(速度)の FAI 競技両
方に適用できるようである。
英国、ドイツ等では、エアショーライセンス
の有効期限は1年(英国 CAP403、米国 AC9145C、AC91-48関連)。
曲技競技に関して、他国でも初中級クラスに
関しては、米国 IAC の競技ルールを流用してい
る国が多い。
米国副デリゲート Harvey 氏に、日本の曲技
パイロットが曲技訓練のため米国で世話になっ
ていることに謝意を伝え、また、IAC の競技
ルールを他国が流用することに関して特に許可
は必要ないことを確認した。
assembly with integral tank、Pressurized
cabin(5.5psi)、Certified FL 250、Rolls-Royce
model 250-B17F/2となっており、主翼や胴体構
造にカーボンファイバーが多用されています。
ドイツでは以前からグライダー製造も盛んで
あり、コンポジット機製造技術が培われている
ことが推察されます。
EA-500
Extra Aircraft 工場見学
総会前日の5日午後に、Oberhausen 近郊の
Dinslaken、Schwarze Heide Airport(EDLD)
に隣接した Extra Aircraft の工場見学会が催さ
れ、CIVA デリゲート一行は、創業者でありチー
フデザイナーの Walter Extra 氏の歓迎を受けま
した。
Extra 氏は、改造した Pitts Special(米国製複
カーボンファイバー製胴体の組み立て工程
葉曲技機)で1980年の曲技世界選手権に出場し、
より高性能な単葉曲技機の開発を決意しました。
曲技機シリーズ EA-200、-300、-330も同様
に、主翼はカーボンファイバー、胴体構造には
そして翌年、最初の EXTRA 230(木製翼4気
筒 ENG、230HP)で競技に参戦しました。
Experimental の小さな会社から起業し、現在
では国際的な成功を収めており、曲技機だけで
クロモリ鋼を用い、高強度と軽量化が図られて
います。
なく、2004年には単発ターボプロップ与圧ビジ
2011 JAN
73
れた全日本曲技競技会の模様を話したところ、
多くのデリゲートに興味を持ってもらい、アジ
アにおける曲技競技の展開を期待されました。
各国のデリゲートには、フライトスクールの
教官やエアラインパイロットも多く、委員長の
Heuer 氏も B767の Captain と聞いています。日
本において、曲技競技が曲芸飛行ではなく、航
空スポーツとして認知されるには、まだ時間が
かかることと思いますが、航空関係者や航空ファ
ンの皆様の力を借りて、皆が曲技スポーツを楽
曲技機組み立て工程
おわりに
近年、日本人選手が世界選手権に継続的に参
加するようになり、日本人選手や世界選手権の
運営を支援するためにも、この総会に日本デリ
ゲートが出席して、意見交換や情報収集を行う
ことは、非常に有益であり、インターネットが
発達しても、直に会って最新の情報を得ること
の重要性を実感しました。
CIVA 総会参加にあたっては、事前に会議資
料に目を通し、各報告書、Proposal に対する国
内の意見をまとめておく必要があり、またある
程度ルールに精通していないと、会議の内容に
ついていけない場合があります。この会議を通
し、各国の代表が、曲技競技の公正な審判、安
全運航に真摯に取り組んでいることがよく分かっ
たということを、Heuer 氏に伝えたところ、委
員長であっても、時に競技規則に関する高度な
内容は、話についていくのが大変なこともある
と言われ、初参加の私も少し安堵しました。
また、会議の合間に2010年10月に福島で行わ
しめるようになればと思います。
欧米では、曲技飛行証明や展示飛行証明の制
度がある国が多く、日本でも今後の曲技飛行の
安全確保と普及のために、導入を検討してもよ
いと思いました。
曲技競技会の運営に関しても、今後参考にす
べき興味深い情報が得られ、このような機会を
与えて下さった㈶日本航空協会及び関係者の皆
様にお礼申し上げます。
最初に開発された EXTRA 230
EA-330SC(世界チャンピオン同型機)
74
2011 JAN
オススメ! 情報ボックス
書籍&Goods紹介
編集委員会
このコーナーでは、書籍紹介を始めとして航空に関するお勧めグッズ等を紹介しています。読者の皆
さんも、是非、フライトで使用している便利グッズや、パイロット仲間に紹介したいグッズ、書籍など
の情報を、編集委員会までお知らせください。もちろん、ステイ先などでの飲食店情報なども大歓迎です。
られたのは、1900年代に入ってのことであっ
た。
古代からの垂直飛行への挑戦、そして
ヘリコプターの未来
「安全・安心な社会」の構築に向けて
著者:河野 実
発行:鳳文書林出版販売株式会社
〒105-0004 東京都港区新橋3-7-3
TEL :03-3591-0909
FAX :03-3591-0709
E-Mail:[email protected]
しかし、回転翼で揚力を発生しつつ、安定し
た飛行と操縦性を確立するためには、空力的あ
るいは、機構的な多くの課題が存在し、それら
の解決には多くの年月が必要であった。そうし
て1939年のシコルスキー VS-300型の初飛行
により、ヘリコプターが、現代の姿のように、
地上から垂直に離陸し、水平に自由に移動した
後、垂直に着陸する飛行が実現したのであった。
その後の70年余でヘリコプターは急速な進化
を遂げ、現在に至るのだが、災害救援活動等の
現場で求められているような、ヘリコプターの
「365日24時間運用体制」の構築には、まだま
だ多くの課題が存在する。
本書は、その表題が『古代からの垂直飛行へ
の挑戦、そしてヘリコプターの未来「安全・安
心な社会」の構築に向けて』というものであり、
本書の目的は、以下のように述べられている。
ISBN 978-4-89279-297-7 C3053 Y4100E
定価:4,100円+税
「大空の夢」に挑戦したパイオニアたちの「想
い」を含めたヘリコプターの歴史を俯瞰し、
「安
全・安心な社会」の実現に係わるヘリコプター
の論点を明らかにしておこうと言うのが本書の
人類の大空に対する憧れは1783年の有人飛
行船(熱気球)から始まり、グライダー、飛行
狙いである。
(中略)本書が、自分の「夢」に向
かって溌剌として挑戦しようとしている多くの
青少年たちにとって、何らかの動機付けとなれ
機、そしてヘリコプターの順を経て実現してき
た。
ヘリコプターの構想は、古くは1400年代の、
ば幸いである。
技術的な歴史、及び、新技術等の調査は緻密
で、多くの引用文献とともに、本書を、非常に
レオナルド・ダ・ヴィンチのエア・スクリュー
まで遡るものの、何とか浮揚すべく実験が進め
価値のある存在のものとしている。興味のある
方には御一読をお勧めしたい。
2011 JAN
75
開催予告
第2回 全日本曲技飛行競技会 開催案内(予定)
昨年に引き続き、今年も第2回全日本曲技飛行競技会を計画しています。この競技会は、曲技飛
行競技の要領、安全確保、技量向上、審判・採点要領等の講習を含むものとし、曲技飛行競技の安
全で公正な実行とその普及を目指すものです。
競技規定課目(Intermediate, Sportsman, Primary の各クラス)を掲載しましたので、競技参加
予定者は、練習の参考にして下さい。
1.日 時:平成23年10月8日(土)、9(日)、10(月)(予定)(競技は10分/1スロットで実施)
第1日 AM フライイン/ブリーフィング/公式練習/ PM 競技会
第2日 競技会
第3日 AM 競技会/ PM 競技会(予備)ディブリーフィング&表彰式/フライアウト
2.場 所:福島県 ふくしまスカイパーク
3.競技の内容:Primary(Known)
Sportsman(Known, Free)Sportsman Class の Free は Known 課目の実施でも良い。
Intermediate(Known, Unknown, Free)Unknown 課目は競技会の現地にて公表。
本誌に、誌上ジャッジスクール、実施上の注意事項等を掲載の予定。
4.参加機体:曲技飛行競技への参加は、曲技飛行の実施が承認された飛行機とする。
5.安全対策:飛行開始前にパイロットブリーフィングを実施し、安全対策確認の署名を得る。
6.主催・後援:主催:全日本曲技飛行競技会実行委員会(予定) 大会名誉会長:福島市長(予定)
共催:福島市 スカイパーク新観光事業
実行委員会(予定)
後援:(未定)
7.連絡先等:有限会社パスファインダー 福島市北沢又日行壇7-48
TEL 024-558-8318 担当:青島信介
URL:http://teamdeepblues.jp/championship/
曲技飛行競技規定科目(予定)
Primary Class
Sportsman Class
Intermediate Class
K = 63(60+3)
競技は IAC(International Aerobatic Club)の2011年の Known
(規定)競技科目及び、IAC のルール
に準拠して実施する。
76
2011 JAN
K = 133(127+6)
K = 201(193+8)
開催報告
嘉手納基地見学会を終えて
JAPA 沖縄支部委員
原嶋 利光
2010年7月7日、多方面の皆様のご協力のも
と、JAPA 沖縄支部主催の嘉手納基地見学会が
の航空機をもとに飛行経路や管制間隔について
の説明をして頂きました。こちらからは、W-174
実施されました。参加者は、航空会社の機長、
副操縦士、ディスパッチャー等総勢15名でした。
エアラインでは、通常那覇空港を目的地にす
る場合天候にもよりますが、ほぼ嘉手納を ALTN
APO として選定します。路線教育で嘉手納につ
いての座学が行なわれますが、実際に行った事
があるパイロットは数名です。ここ数年でも那
覇空港の天候の急変や、自衛隊機のタイヤバー
ストに伴う那覇空港の RWY CLOSE により、
数機が嘉手納へ DIVERT しています。
当日まず案内されたのが、嘉手納エアロクラ
ブでした。ここでは主に米軍関係者が、福利厚
生の一環として小型機のライセンスを取得する
為のクラブです。訓練生がその日、飛ぶまでの
手続きについて聞きました。クラブでは、前日
の勤務終了時刻や、体調、睡眠時間などを入力
する項目があり、これをコンピューターが不適
合と判断するとその日は飛べないようです。例
(演習区域)ではどういった飛行機が訓練してい
る の か? RANGE の 運 用 に つ い て、OKA
RWY36 ARR 時の旅客機と嘉手納 DEP 機との
管制間隔はどう取っているのか?(しばしば沖
縄本島の東海上で TCAS 発生あり)などの質問
をしました。
次に管制塔に登り、DIVERT して L/D 後ど
ういった TAXI WAY を通るのか、そしてどこ
の SPOT に入る予定かなど、MAP ではなく実
際の RWY と TAXI WAY を見ながら説明して
頂き、こちらからは、VFR 機が嘉手納を OVER
THE FIELD していいのか? 飛行機の大きさ
によって駐機する場所は異なるのか? 等の質
問がありました。
最後に見学したのが、旅客ターミナルとディ
スパッチルームでした。実際に DIVERT した
後、お客様への食事や水などの提供の可否や、
再度出発まで長時間かかるようならターミナル
えば、前日仕事が長引き睡眠時間が3時間で本
人が OK と思っていても、客観的に十分休養が
取れてないと判断されます。エアラインでは勤
務間のインターバルは、法律で決められていま
で の 休 憩 の 可 否 等 を 聞 き ま し た。 ま た FLT
PLAN の提出場所や天気を確認するウェザー部
門も見学できました。
ROUTE MANUAL などに嘉手納 DIVERT 要
すが、クラブでもプライベートパイロットに対
しても同様しっかりとした規則があるようです。
領はありますが実際に行って、見て、基地の方
と意見交換を行うことができ、今後のライン運
また嘉手納基地の管制官により、アプローチ
のタイプによる優先順位や、DEP・ARR 機の飛
行経路、飛行場管制内における小型機や戦闘機
とのセパレーションについて、地図などを用い
航に大いに役立ちました。これを機にできれば
数年に一回は、この嘉手納基地見学会を実施し、
嘉手納を代替飛行場にとるパイロットのお役に
立てばと思います。
て詳しく説明を受けました。
次に見学したのがレーダー室で主に嘉手納の
※嘉手納基地渉外部より見学中の写真撮影の許
出発と到着を管理する DEP・APCH CONTROL
でした。レーダーに表示されている現在飛行中
可が下りませんでした。
2011 JAN
77
開催報告
沖縄支部主催 航空教室開催報告
沖縄支部長
原嶋 利光
沖縄支部では、子供たちに大空のすばらしさ
や楽しさを伝え、航空界の底辺を広げることを
目的に毎年支部主催の航空教室を開催しており
ます。
本年度は、7月10日土曜日に空港の南東約3
NM に位置し、日頃騒音等でご迷惑を掛けてい
る豊見城市立座安小学校(佐久川俊英校長)で
開催し、同校の児童や保護者約60名の参加があ
りました。
当日は、支部長以下4名の支部役員と特別ゲ
ストに JTA 社で CA として乗務されている斉藤
さんを迎え計6名で教室を開きました。
●飛行機はなぜ飛ぶの?
スライドを使い簡単な飛行原理を説明後、手
作りの翼の模型と扇風機使って翼が風を受け止
め揚力を得る仕組みを実演!
●シミュレーター体験
今回は簡易シミュレーターを会場に持ち込み、
操縦を体験してもらいました。最初は飛行機を
安定して飛ばすことができませんでしたが、さ
すがゲームで鍛えた現代子、直ぐに勘をつかみ
見事に着陸させました。
●緊急脱出の実演
CA の斉藤さんには、緊急脱出時のアナウン
スを実演頂き、サービス要員から保安要員へ変
身を目の当たりにした児童達は、その迫力に驚
きを隠しきれませんでした。
●○×クイズ
素敵な賞品を賭けて、児童全員で○×クイズ
に挑戦しました。
●小さいパイロットの出来上がり!
エアラインパイロットの一日に続き、フライ
トバックの中身、機長と副操縦士の制服の違い、
乗務に使用する備品等の説明をしながらそれら
を児童の代表に実際に身に着けてもらいました。
78
2011 JAN
問い「飛行機の操縦には車の免許はいるか?」、
「飛行機には雷は落ちるか」等大変盛り上がりま
した。
最後に以下の問いを出題しました。読者の皆
さんも答えを考えてください。
3択問題です。
問い「飛行機が飛ぶのはなぜ?」
①翼があるから
続けていきたいと思います。
最後に今回このような機会を与えて頂いた、
②エンジンがあるから
③夢があるから
答えは……!
豊見城市立座安小学校及び同校 PTA、また、趣
旨に賛同し多くの賞品をご提供いただきました
JTA 社並びに ANA 沖縄空港支店ステーション
沖縄支部では、これからも将来の航空界を担
う子供たちに「夢」を与えられるような活動を
コントロール課にこの誌面を借りてお礼を申し
上げます。
◦ 西日本支部だより
西日本支部
●近畿地区管制・情報懇談会報告
JAPA 西日本支部と八尾空港協議会共催の第23回近畿地区管制・情報懇談会が、11月26日、八尾
空港総合ビルで開催されました。
懇談会には58名が参加。平山 JAPA 理事のあいさつの後、講師にお招きした舞洲ヘリポート管理
事務所片山礼二所長から「大阪フライトサービスとコンタクトし安全運航を」について、学校法人
ヒラタ学園の植野廣園操縦教官から「TCAS の運用について」お話がありました。更に関西空港事
務所水本亮一主幹管制官と佐藤亜由実管制官から「関西ターミナル管制業務の概要」について、八
尾空港事務所中本公徳主幹管制官から「八尾空港の現状について」のお話しを伺い、参加者一同安
全への意識をあらたにしました。
懇親会では空港や会社等の枠を越えて会員同士の交流・情報交換・親睦が図られました。
懇談会のダイジェストは西日本支部 HP http://japawest.exblog.jp/ に掲載しております。講師の
方からのメッセージや近畿地区を飛行する際の注意事項、問題とされている事項の対応策等がいっ
ぱい詰まっております。ぜひご覧いただき、ご協力いただきますようお願いいたします。
●小型航空機安全セミナー・支部総会のご案内
西日本支部では第54回小型航空機安全セミナーと支部総会、懇親会を下記のとおり開催いたしま
す。
日 時:平成23年3月6日(日) 13時30分からセミナー 16時30分から総会 17時から懇親会
場 所:ドーンセンター 大阪市中央区大手町1-3-49
京阪天満橋駅・地下鉄谷町線天満橋駅、1番出口より東へ徒歩5分
JR 東西線大阪城北詰駅、2番出口より西へ徒歩8分
セミナー講師等の詳細は、後日書面や西日本支部 HP でご案内いたします。
2011 JAN
79
開催報告
岩国基地訪問記
第一飛行クラブ広島支部
●岩国飛行場見学会
2010年11月6日、JAPA 関係者のご尽力によ
り岩国米軍基地の見学会が実現しました。第一
飛行クラブ広島支部のメンバーとしても、岩国
レーダーエリアは頻繁に通過する空域であり、
空港施設の見学、管制官との交流は念願のイベ
ントでありました。
今回参加したのは JAPA 本部から2名、第一
飛行クラブ広島支部の JAPA 会員10名、他の
JAPA 会員が2名の計14人です。ゲートで、パス
ポートなどの身分証・車の車検証などをチェック
され、ビジター用のネームタグを受け取り、入場
しました。案内は、管制官教官の Mr. Roman で
す。最初の目的地はレーダールームのある建物。
岩国基地は沖合約1キロに新設された新滑走路の
運用が始まっています。会議室に通され、Mr.
Roman のレーダー管制空域の説明からはじまり、
新滑走路の運用・進入離脱方法、周辺空域を飛行
する小型 VFR 機に対する注意点等を細かく聞く
事ができたのは実に有意義な時間でした。
また、地形的条件からレーダーに映らない空
域があること、松山空港への進入機に伴う注意
升本 徹
ロールタワーへ。旧滑走路脇の古いタワーがみ
すぼらしく見える高さ約60メートルの新タワー
に、エレベーターでいっきに上ります。自衛隊
機等の離発着と、沖合での水上機の TGL を見
学。好奇心に駆られ「水上機での着陸許可は何
と言うのか?」との質問に「“cleared to land”
だ」との返答。タワーから見る水上機の着陸は、
まるでホバリングしているのでは、と思わせる
くらい見事なものでした。
その後は、基地内のフードコートで遅めの昼
食。巨大ハンバーガーをドル紙幣と交換。食後
のアイスクリームは迷わずキッズサイズを注文
しました。ビジターが入れるスペースは限られ
ていましたが、メンバーそれぞれ Mr. Roman と
かたく握手を交わし、本日の見学会は終了とな
りました。
国籍を超え、人間同士のコミュニケーション
が安全かつスムーズな運行をサポートしてくれ
ている。人と人との繋がりの大切さを実感する
ことができた一日でありました。
事項などの説明を受け、更なる質疑応答へ。最
近追加された新しい周波数(131.4MHz)に関す
る事項も、ここで解決することができました。
会議室を出て、レーダールームへ。土曜日と
いうことで、航空機がいなかったためか、中に
いた管制官はとてもフレンドリー。おだやかな
雰囲気の中、管制官の一人から「我々の英語は
速すぎるか?」との一言には一同で苦笑い。今
後、コンタクトするであろう管制官の方々の顔
は、しっかりと覚えてまいりましたよ。(笑)
建物を出て新滑走路脇にある真新しいコント
80
2011 JAN
高さ60mの新コントロールタワー
開催報告
「親子で楽しむ、広島西飛行場まつり」
第一飛行クラブ広島支部・訓練生
林 靖博
●
「こんなの初めて!」
大人も子供もキラキラ
秋晴れの11月21日(日)
、広島市西区の広島西
飛行場では『広島西飛行場まつり』
(広島市等主
催)が開催され、広島市内をはじめ県内県外か
らも大勢の皆様にご来場いただきました。午前
10時の開場を控えた入場門の向こうには、帽子
をかぶりカメラと紙ヒコーキを手にした親子連
れの長蛇の列。また各地からは数々の小型機や
ビジネスジェットが飛来し、10月30日を最後に
定期路線がゼロとなった同飛行場は、さながら
ハブ空港のような久々の活気に包まれました。
この日のために遠方からご来訪いただいたクラ
ブ・団体・オーナーの皆様には、この場を借り
て厚く御礼申し上げます。
開場後まもなく、WACO Classic と extra300
によるアクロバットが披露され、会場からは絶
えず大歓声が上がっておりました。スモークを
吐いて機敏に急上昇やループを繰り返し、果敢
な騎士の風格を見せる extra300に対し、全身に
と思い切りの笑顔でバイバイしてくれる子供た
ちを見て、彼らが空への大きな夢を持ち、いつ
かはパイロットや航空従事者になってくれる子
たちがいるのかな?と考えながら、自分自身の
国際線パイロットになりたかった中高生時代を
思い返して、いつの間にか今度は夢を与える側
の立場になったことを実感しました。
響く重厚なエンジン音を上げて王者のように優
雅な威厳を漂わせる WACO Classic、滅多に見
られない両機のコンビネーションを間近で体験
することができました。
また一部の機体では操縦席が一般公開されま
した。スタッフの説明を受けながら、ホンモノ
の操縦桿を動かすと「見て見て!しっぽが動い
たよ!」と、大人も子供も目を輝かせ、中には
「コックピットに座るのが夢だった、一生涯忘れ
ない思い出になる」と、順番の交代を名残惜し
みながら数々の計器類を見つめる男性や、まだ
背の届かない操縦桿に一生懸命しがみ付く男の
子の姿もあり、
「こんなの初めて!ありがとう!」
午後からは、当協会の大内学会長とご子息を
お招きし、両氏による「航空トークショー」が
2011 JAN
81
行われました。広島県出身の大内会長は当時の
広島空港(現広島西飛行場)について、
「ジェッ
ト機乗り入れ時の初便に乗務した思い入れのあ
る空港、離着陸もしやすい。市民球場でカープ
の試合がある日は、着陸コースの良い目印になっ
ていた。
」と現役時代を振り返り、また現役キャ
プテンでもある息子さんからは「パイロットに
なるための門戸は広がりつつある、ぜひとも多
くの方にチャレンジしてもらいたい」とのエー
ルが送られました。
終了の時間になり会場を後にされた両氏は場
外でも大勢の観客に囲まれ、サインまで求めら
れる場面も。航空界への関心の高さが窺えまし
た。
旅客定期便の完全撤退により存続か廃港かで
揺れる同飛行場。当日主催者側により行われた
会場でのアンケートでは「東京便の復活」を望
む声が多く聞かれたようです。
市内中心部に近く、ビジネスや観光など利用
者側にもメリットが大きく、操縦者側からも「離
着陸のしやすい安全な飛行場」と評判の広島西
飛行場。多くの皆様に愛され、子供たちに夢を
与えられる飛行場。この恵まれた環境、いわば
「広島の宝」を全力で守って行くことこそが、
「夢」を与える立場としてのひとつの責任だと実
感した1日でした。
末筆ながら、今回ご協力・ご参加いただいた
皆様方には、心より御礼申し上げます。本当に
ありがとうございました。
- PRE INFORMATION -
JAPA 販売書籍類の価格改定について
かねてより航空業界発展のため JAPA 販売の書籍類を低価格に据置き提供してまいりましたが、こ
のたび、航空業界や JAPA を取巻く環境の変革等が重なり、書籍類の一部を値上げせざるを得ない状
況となりました。
平成23年度4月1日から次の書籍類の価格を改定いたしますのでご理解をお願いいたします。
・AIM 日本語版(前期版・後期版)
・AIM 英語版
・学科試験スタディーガイド
・パイロットガイダンス
・TAKE-OFF 安全飛行への招待
・ヘリコプター操縦教本 第2版
・PILOT 誌
・パイロット手帳
・手袋
・ライセンスケース
なお、会員特典(AIM 日本語版・PILOT 誌・パイロット手帳・ライセンスケースの無償配布)は
従来どおりです。
82
2011 JAN
『講師になりませんか?貴方の知識と経験を生かしませんか?』
日本航空機操縦士協会では、過去から現在も多くの優秀なパイロットや航空関係者が会員として所
臆しています。その貴方の経験や知識を生かし、航空業界の発展やパイロットの地位向上のため、後
輩のパイロットや航空に興味ある一般の方々に公開し、航空に関心ある方々の輪を広げるために『JAPA
出張講座』を開設いたします。
『JAPA 出張講座』
講演は、プレゼンテーション(Power Point)形式で行い、質疑応答や休憩を含む90分で構成します。
登録開始:2011年1月1日より
登録方法:①講演内容を1~1時間半程度に Power Point で作成し CD ROM に保存します。
②講演内容の Power Point または概要ををA4版にプリントアウトします。
③ JAPA 事務局に、CD ROM とA4版の講演内容のプリントアウト資料を送付します。
JAPA 事務局は、送付された CD ROM とプリントアウト資料を委員会等の担当部署に依頼し、精
査した後に『JAPA 出張講座』に登録します。また、その概要をパイロット誌に適宜公開します。
JAPA では、航空業界や一般の方々からの講演依頼を受け、
『JAPA 出張講座』の講師として派遣い
たします。なお講演料・交通費・宿泊費は JAPA の規程に従って支払われます。
『来たれ!そして、貴方の知識と経験が生きる!』
JAPA 出張講座
(所要
時間
)
(日
付)
講座名
2011/MAY/01
Copy Right 作者名
※ JAPA が CD ラベルを用意し、JAPA 出張講座文庫を設置します。
協会活動スケジュール
[活動報告]
-平成22年12月-
12月2日 航空保安大学校講義(レーダー管制専門
研修)
12月3日
12月4日
第2回 CARATS 企画調整会議
第16回スカイスポーツシンポジウム
2011 JAN
83
12月5日
12月6日
12月7日
12月8日
12月9日
12月10日
12月11日
12月13日
12月14日
航空安全講習会(東京)
夢は叶う Yes, I can(航空教室)福岡
(航空局)航空保安防災職員特別研修
航空身体検査証明審査会
第8回航空安全情報分析委員会
ヘリコプター操縦教本 WG
技量維持連絡会
航空医学委員会
スカイレジャーに関する委員会
ATS 委員会
航空安全講習会
ビジネス航空委員会
月次会計検査
公益法人認定 WG
[活動計画]
-平成23年1月-
1月4日 仕事始め
新年賀詞交歓会
1月5日 編集委員会
1月8日 ATS 委員会
航空安全講習会
1月11日 航空身体検査証明審査会
1月12日 ビジネス航空委員会
1月13日 技量維持連絡会
1月14日 第46期臨時理事会
第206回常務理事会
1月15日 航空安全セミナー(気象)
1月18日 乗員養成検討委員会
法務委員会
1月20日 機長養成講習会(福岡)
-平成23年2月-
2月2日 航空スポーツ運営連絡会議
2月5日 航空安全講習会(山梨)
2月6日 夢は叶う Yes, I can(航空教室)東京
2月10日 第207回常務理事会
2月12日 ATS 委員会
2月17日 機長養成講習会(大阪)予定
第8回小型航空機セーフティーセミナー
(18日まで)
GA 委員会
-平成23年3月-
3月1日 編集委員会
3月5日 東日本支部総会
3月12日 ATS 委員会
3月13日 夢は叶う Yes, I can(航空教室)北九州
84
2011 JAN
12月16日
12月17日
12月18日
12月19日
12月20日
12月21日
12月22日
12月25日
12月28日
1月21日
1月22日
1月23日
1月26日
1月27日
1月28日
1月29日
1月30日
2月19日
2月21日
2月22日
2月24日
ASI-NET 運営委員会
GA 委員会
CARATS 推進協議会
第205回常務理事会
航空安全講習会(長野)
航空安全講習会(山口)
編集委員会
ヘリコプター IFR 等飛行安全研究会
航空保安業務運用連絡会議
ビジネス航空委員会
経理委員会
三役運営会議
航空気象委員会
仕事納め
航空保安大学校講義(システム統制官課
程特別研修)
航空気象委員会
航空安全講習会(大分)
航空安全講習会(東京)
CARATS 第4回小型航空機 WG
経理委員会
三役運営会議
航空安全委員会
関西ブロック合同管制技術交流会
運航技術委員会
沖縄支部総会・記念講演
夢は叶う Yes, I can(航空教室)鹿児島
2月27日
航空安全セミナー(気象)
編集委員会
ASI-NET 会議
経理委員会
三役運営会議
航空気象委員会
北海道支部総会
中部支部セミナー
3月15日
3月19日
3月25日
3月26日
航空機安全運航センター理事会・評議員会
航空安全セミナー
第260回理事会
航空気象委員会
2月26日
当協会の FTD は国土交通省の「模擬飛行装置等認定要領」の規定による
<飛行訓練装置レベル3>に認定されています。
当機による訓練で Flight Log Book への飛行時間の記入が可能です。
FTD訓練を体験して
エアーセントラル株式会社
乗員部
神保 航一
JAPA FTD では大変お世
話になりました。
訓練では知識や技術だけ
でなくエアラインの考え方など幅広く教えて
いただきとても勉強になりました。
お蔭様で志望していた航空会社に入社する
ことができました。
学んだ事を活かして今後の訓練を頑張って
いきたいと思っております。
ありがとうございました。
≪訓練A≫ Flight Log Book へ飛行時間の記入が可能です(技能証明が必要)。
メニュー
技量維持訓練
計器飛行(180日)
計器飛行訓練
会員
12,000
10,000
12,000
一般
16,000
14,000
16,000
訓練時間
FTD80分
FTD60分
FTD80分
※計器飛行(180日)の訓練は
60分からです。
追加は30分単位 5,000円です。
・技量維持訓練
航空局乗員課通達国空乗第2077号(自家用操縦士の飛行の安全確保について)にて推奨されている技量維持を行う訓練
・計器飛行(180日)
航空法施行規則第161条(計器飛行を行うために必要な最近180日の飛行経験)を満たすための訓練
・計器飛行訓練
全15回の訓練
≪訓練B≫ Flight Log Book へ飛行時間の記入は致しません。
メニュー
ポイントレッスン1(飛行経験充足)
ポイントレッスン2(計器飛行訓練)
試験前訓練
体験搭乗
会員
8,000
10,000
8,000
4,000
一般
11,000
14,000
11,000
6,000
訓練時間
FTD60分
FTD80分
FTD60分
FTD30分
2011 JAN
85
シコルスキー S-76C JA11CJ
アグスタ AW139 JA92NH
新鋭の高性能ヘリコプター2機をアップで捉えて見ました
生産国は、米国とイタリアですが、ローターヘッド、エンジンフェア リングの整形、引込脚等
に類似点が見られ、興味深いものがあります。
(奥貫氏撮影)
86
2011 JAN
編集委員会では、PILOT 誌の表紙を飾る皆様からの航空機の写真を募
集しています。
尚、応募写真は編集委員会で審査の上、掲載いたします。
下記応募要領をご了承の上、ふるってご応募ください。
・写真はカラー・白黒・Digital Data を問いませんが、投稿者が撮
影されたものに限ります。撮影日時・場所・説明等の添書きも添
付してください。
尚、Digital 写真の場合はできるだけ大きな画素数で撮影したもの
として下さい。
・応募写真の取り扱いは日本航空機操縦士協会に属し、お返しでき
ませんのでご了承ください。
・PILOT 誌の表紙に採用させて頂いた場合、謝礼として2万円
(複数写真で表紙構成となった場合は分割)、表紙に掲載とならな
かった場合でも優秀な写真は本誌に掲載し薄謝を進呈いたします。
・住所、氏名、年齢、職業、電話番号、E-Mail Address 等を明記
してください。
※個人情報に関しては当協会で厳重な秘守扱いと致します。
送付・お問合せ先
社団法人 日本航空機操縦士協会 編集委員会
〒1050003 東京都港区西新橋1-18-14
TEL 03(3501)0433 FAX 03(3501)0435
E-mail:[email protected]
2011 JAN
87
編集後記
No.324 2011 No.1 JAN
ている。日本人は「笑顔でも喜んでいる訳で
はないし、怒ったときでも、ほほえんでいる」
と評価。没個性的現状をよく分析している?
PILOT
●2012年オリンピックはロンドンで開催、英観
光当局は PR 用として各国人の性格分析をし
Pilotが作る隔月誌
ISSN 0389-5254
2011 No.1 JAN
(徳田)
●昨年が日本における初飛行100周年でしたが、
残念なことに日本国内での航空事故数は増加
●去年は、本厄に関らず、個人的には大事に至
(H.Y)
らず。後厄もこの調子で!
JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOCIATION
傾向を示しています。これは、過去の事故事
例からの教訓が生かされていない結果だと
言っても過言ではありません。新人に貴重な
教訓を伝える努力が足りないのではと危惧し
ています。PILOT 誌がその情報伝達の大切な
役割を担っているという認識のもと、編集子
一同がんばっています。
(KEN)
●自家用操縦士の良い所は、自己管理が出来て
いれば何歳までも飛べること。自己管理とは、
健康、知識、技能、そして意識となるのだろ
う。新年にあたり、また新たな気持ちで自分
自身をチェックしなければと思う。(奥貫)
●何才になっても自分を老人と思わず明るく楽
しく生き生きと暮らしていきたいものです。
但し無理は禁物。
(RYU)
●新年早々の編集委員会はきつい。アジアでは
旧正月で祝う国が多く、日本は少数派と聞い
た事がある。
(T.A)
JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOCIATION
今月の表紙は羽田空港の新管制塔を背景に進入
する JAL B747-400の浮島公園からの遠望で
す。羽田空港も新しい時代になりました。撮影
は新進気鋭の若手、上河聡様です。 (奥貫)
●新年明けましておめでとうございます。
航空界の激変の年が暮れ、新たな年を迎えま
した。
今年は、皆さまと共に兎のように飛び跳ねて、
より飛躍の年とならんことを願ってやみません。
本年も JAPA ならびに編集委員会ををご愛顧
願いますよう、宜しくお願い申し上げます。
(編集長 蔵岡)
No.324 2011年 1 月号/平成23年1月発行
発行 社団法人 日本航空機操縦士協会
(Japan Aircraft Pilot Association)
〒105-0003 東京都港区西新橋1-18-14
落丁・乱丁本がありましたら
お取替えいたします
編集人 蔵 岡 賢 治
TEL 03-3501-0433(代) ホームページ URL http://www.japa.or.jp/
発行人 中 村 俊 治
FAX 03-3501-0435 E-Mail:[email protected] JAPAWEB:20110101
定価 800円(税込)
振替口座/00180-9-88490
88
禁無断転載
2011 JAN
印 刷 株式会社プリカ
PILOT
No.324
2011 No.1
JAN
JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOCIATION