建設請負業の法的手引メモ - Pinsent Masons

建設請負業の
建設請負業の法的手引メモ
法的手引メモ
2007 年夏
建設請負業者の
建設請負業者の法的手引き
法的手引きメモ
始めに
建設請負業者の法的手引きメモのサマーエディションでは、海外諸国で契
約を締結する時に、日本の建設会社と重機サプライヤーにとって非常に重
要なテーマを検討してみたい 即ちパクタ・ズント・セルヴァンダ(合意
は拘束する)の原則である。
ラテン語でパクタ・ズント・セルヴァンダとして知られている契約の神聖
の原則ほど深く広い影響を持つ商法原則は殆どない。この原則は、契約と
は相互にその法的関係を制御することに合意した当事者の法律であること
を示唆しており 各々
の契約当事者がその約束を履行する義務の出典のみな
らず、それを誠意を持って履行する義務の出典でもある。同時に契約はし
ばしば将来に履行されるべく締結され、従って本質的に時として生じる不
測の及び克服できない出来事を免れない。その様な状況でのパクタ・ズン
ト・セルヴァンダの原則の厳密な適用は不公平な結果を招く可能性があ
る。
文明化した法制度はパクタ・ズント・セルヴァンダの原則におけるこの欠点を認めており、
当事者の過失や故意の行為でない場合には、不測の及び克服不能な出来事の結果に対する当
事者の責任に関して、法律制度の間で多少の意見の一致が存在している。この意見の一致は
様な法律理論における法的表現となっている。この建設請負業者の法的手引きでは、国際的
々
に活動している請負業者に大いに関連する法律グループ、即ち英国慣習法グループ、フラン
ス ラテングループ、ゲルマン スカンディナビアグループ、及びイスラムグループを考慮
して、どの様にパクタ・ズント・セルヴァンダの神聖な原則からの逸脱が正当化されるかを
抜粋する観点から、それらの法律理論のいくつかを簡単に概説する。読者には、建設請負業
者の法的手引きメモの 2007 年スプリングエディションにある、国際的な法律制度グル-プ
とその基本的特徴を参照しながら読んで戴くと分かり易いかも知れない。
不可能性と
不可能性と履行不能の
履行不能の慣習法原理
契約違反に対する弁護としての履行不可能性の原理は、パクタ・ズント・セルヴァンダの原
則の義務によって「窒息した」原理と説明されている。英国慣習法は、当事者達は実質的に不
可能なことを相手方が行なうことを要求する契約を締結できると認めることに何の困難もな
い。約 300 年以上前のソーンボロー対ウィテカーの判例では、イングランド及びウェール
ズの首席裁判官によれば:
人間が高価な報酬で不可能な事を行なうことを引き受けた場合には、それは履行さ
れることはできない。それでもその人物は損害に責任を負うものとする。
サーシス硫黄&銅社対マッケロイの良く知られている判例は、この断固とした姿勢を浮き彫
りにしている。事実は土木工事請負業者が一括金価格で、ビルに必要な鉄工事と雑工事を行
なうことに合意した。しかしながら請負会社は指定のけたの一部を組み立てることができな
かった。なぜならばエンジニアの設計は薄すぎる金属を取り入れていたため、けたがねじれ
がちであったからである。エンジニアは請負業者が、より厚い金属のけたを組み立てること
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に同意した。しかしながら発注者はその一括金を固守した。上院は請負業者が指定された寸
法のけたを製作することができるというリスクを取ったと裁定した。エンジニアからの書面
での指示がないまま、請負業者は追加コストを回収することができなかった。
20 世紀初期の香港&ワンポアドック対ネザートン・シッピング有限公司の判例では、裁判
所は契約が履行されることがもはや商業的に可能ではなくなったということは、口実とはな
らないとした。1915 年のエッティンガー(又はエリンガー)対チャガンダス&Co.のインドの
判例では、裁判所は行為が不可能となったとの根拠で契約が破棄されることができる前に、
裁判所はそれが物理的に不可能であると確信しなければならない;また被告は単なる困難性
や法外な価格を支払う必要性の証明よりも更に踏み込まなければならないとした。
この一見して柔軟性を欠く姿勢に直面して慣習法裁判所は、例えば諾約者の死亡や重病な
ど、契約履行能力が突発要素によって不利な影響を受けた契約当事者に対して救済を提供す
るいくつかの試みを行なった。
慣習法は契約のテーマの崩壊、合意した履行方法の不可能性、及びその後の法的制限の強制
を含む、広範な不測の変化に対処するための法的枠組を提供するべく更に発展した。やが
て、その後の変化の影響が余りに深刻なため、義務の実際の実施は文字通りに可能であって
も、大半の場合義務の履行は当事者にとって無駄であると英国の裁判所によって認められる
ようになった。しかしながら「不能」原理を基礎とした当事者の契約義務からの解放の理論
的可能性に関わりなく、今日に至るまで慣習法裁判所側はその原理を本能的に行使したがら
ないことが見てとれる。
それは不能の主張が認められた場合には、契約は単に当事者の選択で履行不可能となるのみ
ならず:それが直ちに且つ自動的に終止符を打たれるという慣習法独特の性格である。しか
しながら、これはこれから履行されるべき義務のみに影響を与えるが、出来事の発生以前に
既に履行された義務には影響を与えない。以前に発生したコストの問題を解決するために、
大半の慣習法管轄権はこれらのコスト計算に対する法定枠組を提供する法律を制定(又は導
入)しており、例えば英国の法律改正(不能契約)法などである。
不可抗力と
不可抗力とインプレビジョンの
インプレビジョンのフランス法原理
フランス法原理
フランスーラテン法律学の下では、義務の中心内容は特定の行動手順の実施(合理的勤勉の
義務)か、又は特定の成果の達成(厳密な責任)のどちらかを伴う可能性がある。勤勉の義
務に関しては、債務者は道理をわきまえた人間として履行の手順を完了することを要求され
る。厳密な責任に関しては、債務者には合意した目標または成果を実施し且つ達成する責任
があり、適切な勤勉の問題は第二である。いずれにせよ、かかる責任は絶対ではなく、時に
例外を認める可能性があり、例えば当事者の過失ではなく外部の力が契約の履行を妨げた場
合である。この状況では不履行の債務者は、彼の最善の努力にも関わらず外部の力(コーズ
・エトランジェ)が彼が義務を履行することを妨げたとの答弁を利用できる可能性がある。
ナポレオン法典の 1147 条と 1148 条に沿って、フランスの裁判所は不可抗力を、履行を不
可能にする予測不可能な、克服できない、外来の出来事と定義した。不可抗力の出来事とし
て適格となるために、フランスの法律は下記の資格を満たすことを要求している:
1.
予測不可能性(大事件)- 申し立てられている事件は契約締結時点で当事者により
予測不可能でなければならない。
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2.
克服不可能性- 申し立てられている事件はまた合理的注意をする通常の人間にと
って不可避でなければならない。実例のためフランスの裁判所は、生産に必要な材
料を異なった複数のサプライヤーから調達した業者は、他のサプライヤーからの材
料という別の供給源の選択肢を探ることができることから、サプライヤーの 1 社が
充分な材料を提供しなかったことには、不可抗力の条件として依拠できないとし
た。
3.
外部性- 申し立てられている事件は債務者自身の自業自得であってはならな
い。この規則は不履行債務者の自業自得だけではなく、彼の従業員等、彼の抑制下
にあるとみなされる人物の行為にもまた適用される。従って業者の従業員による私
的なストライキ行為では不充分である。
4.
不可能性- 履行が事実上可能である場合には、不可抗力の弁護は利用可能ではな
い。不可抗力の条件は、履行を本当に不可能にする出来事をカバーするのであり、
それを単に厄介にする出来事はカバーしない。従って履行コストの急激な上昇は、
それ自体では不可抗力の条件を満たさない。この点では、不可抗力は慣習法の不可
能性と同じ目的を果たしている。この姿勢は他の西欧の法制度によって導入されて
いるもの、例えばドイツ法とは違っており、ドイツ法は後で述べるが、経済的苦難
の主張を行ないやすくしている。
不可抗力の法的効力は、不能の慣習法原則下のそれとは同じではない。不可抗力の主張の成
功は、当該契約義務の不履行に対する責任から債務者を解放するが、影響を受けた契約への
かかる主張の成功の影響は、申し立てられた事件の性格と結果次第で場合により異なる。
あまり一般的ではないフランス法のインプレビジョンの原則下では、政府当局と私営企業と
の間の契約において、経済的困窮が理論的には当該契約義務の履行からの救済の充分な根拠
を構成することができる。インプレビジョンの必要性の主な考え方は、影響を受けた契約の
適応を通じて不履行当事者が行政契約を履行することを援助し、それによって社会が必要と
する公共サービスの継続を確実にすることである。
ドイツ法原理
ドイツ法原理の
法原理の Wegfal der gschaftsgrundlage
状況変化の場合においてドイツの法律制度によって取られている姿勢は、慣習法及びフラン
ス法によって取られている姿勢よりも成熟しており、特に経済的困窮の場合がそうである。
フランス法と同様に当事者の履行義務は、誠意(treu und glauben)の原則を含む他の法律
原則を条件とする。例えばドイツ民法(Burgerliches Gesetzbuch)の第 232 条は、当事者
が誠意と公平取引に従ってその義務を果たすことを要求している。誠意はドイツ法特有の概
念ではない。しかし誠意の原則のドイツ法律学による理解方法は、それを他の法律制度から
区別させる。ドイツ法では誠意で行動する義務は常に第一の義務である 換言すると、権利
の行使と全ての法的義務の履行はこの基本的規則を条件とする。それだけに不履行当事者に
契約義務を強制することが非常に不合理であり誠意と矛盾する場合には、裁判所は当事者に
よって元々
意図されていなかった方式で当事者の権利と義務を行使するように当事者に求める
可能性がある。
民法第 275 条下で不履行当事者は、予期せぬ力が履行を全く不可能にしたと申し立てるこ
と に よ っ て 救 済 を 求 め る こ と が で き る 。 困 窮 の 場 合 に 関 し て は Wegfal der
gschaftsgrundlage の原理は、政府当局と私営企業の間の契約のみに適用するインプレビ
ジョンよりも、運用の範囲が広いように見受けられる。
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Wegfal der gschaftsgrundlage の主張が成功した場合には、一般的に契約は両当事者の正
当な利益を公平に評価するために、変化した状況へと調整される。影響を受けた契約の終了
や解約等の極端な解決は稀であり非常に例外的である。ドイツ法では裁判所は当事者の利益
間の適切なバランスを取ることにより、影響を受けた契約を保つべく最善を尽くす。
Quwa Qahira のイスラム法原理
イスラム法原理
イスラム諸国(即ちアフガニスタン、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウ
ジアラビア、イエメン)の法律の主な源泉及びいくつかの他の管轄権の源泉であるシャリア
もまた、どの様に突発事件が商契約に影響を与える可能性があるかについての独自の原則を
発展させてきている。フランス ラテン及びドイツ スカンディナビアのグループの場合と
同じく、シャリアも当事者の契約義務の履行能力を損なう予期せぬ出来事、例えば天災(Aft
al-amaviiah)や不可避の災害(Jayehah)の場合には、責任からの救済を与えている。し
かしながら、シャリアの一般的規則は、各国の長期にわたる(しばしば植民地の)歴史と社
会的ならわしの結果であるところの、現在イスラム諸国で効力を有する特定の宗教法と規制
とは注意深く区別されるべきである。
契約義務に対する将来の変更の影響に関しては、最初の近代イスラム法典であるアル・メジ
ェッレは、文字通りの不可能性の影響のみならず、商業的実行困難性や目的の達成不能にも
対処している。シャリアと近代ヨーロッパ法典を合成する試みで、実際にはフランスのナポ
レオン法典 1147 条と 1148 条のアラビア語翻訳であるところの、1948 年エジプト民法の
第一法案の 165 条もまた契約義務に対する突発力の影響に対処している。それは下記の通
り述べている:
「債務者が突発事件、不可抗力(Quwa Wahira)、及び債権者や第三者の過失
等、彼の抑制外の外部要因(Sabab Ajnabi)から発した損害であることを証明した
時には、債務者は補償の必要はない。」
他のイスラム法では契約義務への予期せぬ出来事の影響は、概してアル・メジェッレ、エジ
プト民法、又は他のヨーロッパ法を意識して対処されてきている 例えばアラブ首長国連邦
の商取引法 181 条、チュニジアの契約義務法 1022 条、及びエジプトの民法 147 条であ
る。
終わりに
今日では大半の諸国の法制度で、当事者の抑制外の出来事が履行能力を損なった場合には、
当事者を履行義務から解放することについてコンセンサスが存在する。当事者の義務からの
解放の基礎をなす考えは、外部偶発事件によって生じた不履行の場合には、パクタ・ズント
・セルヴァンダの厳密な適用は、それよりも高い水準の規範、例えば正義及び公益と明らか
に矛盾するということである。突発事件の問題に関する限り、異なった国家の法制度間の相
違が生じるが、それは大体において他の法律原則と比べての、パクタ・ズント・セルヴァン
ダの原則の重要性と地位についての、各国の理解から来ている。
突発事件のケースを実際に解決する目的でこの矛盾を解決するために、大半の法制度はパク
タ・ズント・セルヴァンダの基本規則からの逸脱を正当化する法律理論を展開した(又は導
入した)。これらの理論は異なってはいるものの、既に述べたようにいくつかの共通する基
本的側面を持っている。
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ありとあらゆる相似にもかかわらず、これらの法律原理間の理論的及び実用的な特性と相違
を考慮するべきである。不可能性など基本的な概念に与えられている解釈は、問題の法律制
度の特性のために法制度毎に違っている。また経済的困窮のケースについても、多種多様な
姿勢が存在している。一見すると、ドイツの様に長期間の経済不安を経験したことのある管
轄権は、経済的困窮の主張に対して理解があるようである。
最後に免責原理の適用は既に検討した通り、終了や停止から変化した状況への契約の適合ま
で、広範な異種の結果につながる可能性がある。
この広範な相違は法選択の規定の重要性を浮き彫りにしており、それは紛争の場合にはその
紛争がどの様に解決されるかにつき大きな意味を持つ。それはまた FIDIC の土木工事の契約
条項第 4 版の準条項 13.1 項等の、偶発事件条項の実用的有用性を示しており、それは契約
当事者によって当事者の要件を基礎として将来のリスクをコントロールするための効率的で
柔軟なツールとして用いられることができる。
上記の論考を考慮して、国際建設プロジェクトに従事している日本の請負業者は、主張され
る予期せぬ出来事の本質的特性、契約義務に対するその影響、そして最後にかかる出来事の
場合の当事者の義務を、平易で明白な言葉で明確に定義するために、その契約に詳細な偶発
事件条項を 困窮、「不可抗力」、コスト増大、及び通貨変動等 入れるように充分アドバ
イスしたい。
上記の問題につき更に詳しい情報をお求めの場合には、いつでもニコラス A.ブラ
ウン ([email protected] 電話 852-2521-5621) か又は
貴社担当のピンセントメイソン弁護士までご連絡ください。
© Pinsent Masons 2007
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