27-5 航空機リースの現状 2015 ~LCC を育ててきた航空機リース~

(公財)航空機国際共同開発促進基金
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27-5
航空機リースの現状
2015
~ LCC を育ててきた航空機リース~
1.概要
大型の民間輸送機の航空機リースについて、概括的な理解を進めることを目的とし
て航空機リースの現状をご紹介いたします。その中で、航空機リースが LCC(Low Cost
Carrier:格安航空会社)の興隆にどのように役立ってきたのかご紹介するとともに、
現状の課題についてもご説明します。
2.民間航空の発達
航空機リースの話に入る前に、民間航空の発達の歴史について少しご説明したいと
思います。民間航空は実質的に第 2 次世界大戦後、ジェット旅客機の登場ととともに
始まりました。その後四半世紀を経た 1970 年は象徴的な年です。この年は大型旅客
機 747 型機が初就航した年ですが、それまでは一部の人々の利用に限られていた民間
航空が大 衆化を始 めた 年と
いえます 。世界銀 行が 発表
している 世界の長 期の 航空
旅客数のデータ(注 1)があ
りますので、1970 年から現
在までの 成長の様 子を 図1
のグラフ に表しま した 。比
較のために実質 GDP の伸
びを示し てありま す。 経済
成長の中 心は時代 とと もに
先進国か ら新興国 へと 移っ
てきてい ますが、 この 期間
の世界全体の実質 GDP の
成長は年平均 3.0%でした。それに対し航空旅客数の伸びは毎年 5.5%と経済成長を年
平均 2.5 ポイント上回り、この 44 年間で約 10 倍の規模になりました。
民間航空の成長の要因は、経済成長により人々の収入が増えたことの外に、2 つの
要因を上げることができます。一つ目は航空機の技術革新、二つ目は民間航空の自由
化 で す 。 技 術 革 新 は 生 産 性 の 向 上 を 招 き 、 IATA(International Air Transport
Association :国際航空輸送協会)の報告(注 2)によれば、この 44 年間に実質運賃レベ
ルは当初の 1/3 の水準に下がりました。また、世界各地で国内線、国際線を問わず業
界参入ならびに路線便数、運賃の自由化が進んだ結果、現在では新しい業態である
LCC(Low Cost Carrier:格安航空会社)の設立が進むなど航空ビジネスが拡大する
とともに、世界各地で航空ネットワークの充実が進んでいます。
さて、この民間航空の発展と航空機リースはどういった関わりを持つのでしょうか。
民間航空のスタート時点では航空会社のほとんどはナショナル・フラッグ・キャリア
と呼ばれた国際線を運航する国策航空会社であり、当時の経済では航空機調達の所要
1
資金は莫大でしたので、融資は主に政府系金融機関に頼っていました。その後、民間
航空の大衆化が始まるとともに、純民間の航空会社が数多く起業し、民営化も進みま
したので、民間航空を担う会社は純民間企業が大宗を占める時代に入りました。それ
と軌を一にして、航空機調達の場でも資金調達の多様化が進み、調達先が民間の金融
機関に広がるとともに、航空機リースも調達手段の一つとして大いに活用されるよう
になったわけです。
(注 1) : Air transport, passengers carried, The World Bank
http://data.worldbank.org/indicator/IS.AIR.PSGR
GDP (current US$), The World Bank
http://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.CDrld
(注 2) :IATA Vision 2050, P10, IATA
3.世界の航空機数とリース機
図2は 2015 年 8 月 1 日時点で、民間輸送
機を分類し、それぞれの機数をまとめたもの
です(注 3)。全体で見ますと、現在、2 万 5
千余機の民間輸送機が各国で登録され就航し
ています。ジェット輸送機はその内 88%を占
め、ターボプロップが 12%を占めています。
ジェット輸送機の内訳は広胴機(2 本通路の
ワイドボディ機)22%、狭胴機(1 本通路の
ナローボディ機)62%、リージョナル機(横 5
列以下の地域航空用) 16%となります。
この、全体の 2 万 5 千余機を運航者が所有
するものとリースの貸し手が所有するものに
分類したものが図3です。現在では、リース
機の比率は全体の 45%、機数で 11,708 機に
及んでいます。
(注 3)
CAPA:国際的な民間航空コンサルタント。
在オーストラリア、シドニー
4.旅客機の価格とリースの規模
次に大型民間輸送機の価格を見ることにしま
す。ジェット輸送機の 2 大メーカーであるボー
イング社とエアバス社はホームページ上で標準
型の価格を公開しています(注 4)。表1はその
中から数機種を抜き出したものです。価格表示
の単位は百万米ドルです。1 ドル 120 円で換算
しますと、安い機種でも 115 億円、高額の機種
2
になると 490 億円もすることがわかります。大手航空会社にとっても航空機の調達に
必要な資金は大金であり、航空会社の資金需要がいかに大きく、航空機リースが活用
される背景が理解できます。
これを使って、新造機リースビジ
ネスの規模を見てみます。統計があ
りませんので、上述のデータを基に
規模を推計しました。図4は過去 10
年間に就航した大手メーカー2 社の
737 クラス以上の民間ジェット輸送
機の内、リースされている機体夫々
に標準機体価格(2015 年)を掛け合
わせて集計し、全体の金額を計算し
たものです。合計で 76 兆円あります。
半分が減価償却済とすると、融資残高に相当する金額は 38 兆円、毎年新たに 7.6 兆
円が新規の融資金額となる計算です。金融機関にとっても、航空機市場は金額のまと
まった大きな融資先だということがわかります。もちろん、この他に、金額や規模は
小さくなりますが、機令が 10 年を超えた航空機のリース市場やリージョナルジェッ
トやターボプロップのリース市場があります。
(注 4):About Boeing Commercial Airplanes – Prices, , The Boeing Company
http://www.boeing.com/company/about-bca/
New Airbus aircraft list prices for 2015, Airbus SAS
http://www.airbus.com/presscentre/pressreleases/press-release-detail/det
ail/new-airbus-aircraft-list-prices-for-2015/
5.主要なリース会社
表2は、世界の主要航空機
リース会社 10 社をリストにし
たものです。世界最大の航空
機 リ ー ス 会 社 は 米 国 の
GECAS(GE Capital Aviation
Services)で、この会社の機体
が全体のリース機数の 12%を
占めています。この会社はも
ともと大型ジェット輸送機の
エンジンを製造する大手電機
メーカーGeneral Electric グ
ループの 1 社です。リース会社、上位 10 社で全体の 43%のシェアを占めています。
10 位以内では、SMBC Aviation Capital(4 位)と Nomura
Company Ltd(8 位)の日系企業 2 社が顔を出しています。
3
Babcock & Brown
6.航空機リースの基本と実際
さて、ここからは、リースの仕組みについてご説明
します。リースのもっともシンプルな整理は図5のと
おりです。あたり前の説明になり恐縮ですが、貸し手
(レッサー:lessor)が借り手(レッシー:lessee)
に航空機を貸し与え、その対価として賃借料(リース
料)を受け取る関係をいいます。通常の賃借とリース
の違いは、予め終了まで長期の期間を定めて貸し借り
を行うところにあります。リースは賃貸の一形態であ
るというのが法の原則で、この点は重要ですので、あ
えてご説明しました。どんな複雑な形態のリースであ
れ、係争時の司法判断の前提は賃借となります。
ところが、航空機分野ではリースを利用する顧客ニーズの本音は融資です。借り手
としては、航空機を購入するための資金を貸してくれるところはないか、有利に借り
ることができないかと考えるものです。上述のとおり新しい航空機は最低でも 100 億
円程度はする高額な買い物であるため、銀行融資を受けるのは容易ではありません。
そういう背景の中で、航空機リースが活用されてきました。広い視野で見ると、世界
的な航空ビジネスの発達の過程で、航空会社の大量な航空機調達を可能としたリース
の役割は極めて大きいといえます。
航空機リースのしくみはファイナンス・リースとオペレーティング・リースの違い
を見るとよく理解できます。表3は両者の違いを表にしたものです。これを見ますと、
ファイナンス・リースがリース物件のすべての価値を契約期間のリース料の総額に組
み込む一方、オペレーティング・リースはファイナンス・リースとは対照的にリース
物件の一部の価値だけをリース料の総額に組み込んでいると見ることができます。日
本では 2008 年 4 月にリース会計基準の見直し(注 5)が行われ、これが現在も通用し
ていますが、この見直しをきっかけに日本の航空機リースはファイナンス・リースか
らオペレーティング・リースに移行しました。
ファイナンス・リースは融資色の強いリースです。表の各項目を見ると、固定資産
税、保険などは貸し手側で処理しますが、残りの項目はあたかも借り手側の資産のよ
うに扱われています。一方、オペレーティング・リースは賃借色の強いリースです。
表の各項目を見ると、固定資産税や保険以外にも、維持管理を貸し手が受け持つなど、
貸し手側の資産であることを前提に貸し手、借り手双方の役割分担が行われます。
両者の運用の一番の違いは、航空機資産の貸借対照表への計上と損益計算書へのそ
の減価償却費の計上の受け持ちの違いです。ファイナンス・リースでは借り手側で、
オペレーティング・リースでは貸し手側で会計処理を行います。オペレーティング・
リースでは、航空会社の貸借対照表中でリース機の資産計上は行わず、損益計算書の
中でリース料として計上されるだけになります。これをオフバランスと呼んでいます。
(注 5):国税庁「 リース取引についての取扱いの概要(平成 20 年 4 月 1 日以後契約分)」
https://www.nta.go.jp/taxanswer/hojin/5702.htm
4
日本においては、後述のとおり、資産計上と減価償却費の発生を貸し手側に残し
ておきたいという意思が強く働いていますので、このことが、現在、日本でオペレー
ティング・リースが主流となった理由です。
表3 ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの違い
5
欧米では、リース会社はエアバス A320 やボーイング 737 など狭胴型のジェット旅
客機をリース先が決まる前に大量にまとめて購入し、様々な航空会社に声をかけてオ
ペレーティング・リースをしています。貸し出し先の決まらない機体を抱えるリスク
は生じますが、大量購入をすることにより、大きな値引きを手に入れています。小規
模航空会社に低額のリース料金を提示しリース会社間の競争で優位に立つとともに、
リース会社の新たな利益原資を獲得しました。このことが、銀行の信用の低い新興航
空会社、とりわけ LCC の起業時の航空機の購入をスムーズにし、航空業界活況の一
因になったと思われます。
7.航空機リースの具体的なしくみ(貸し手側から見た航空機リースビジネス)
図6は日本における代表的なリース・スキームを例示したものです。ここには 7 者
が登場します。まず、中央にある匿名組合が航空機メーカー(左)から新造機を買い求
めます。オペレーティング・リースなので、一定期間リースされた後には中古機市場
(左上)で売却されます。さて、リース会社(右下)は 1 件のリース案件ごとに匿名組合
(中央)を創設します。この組合は名目的な会社組織で、社員もおらず、リース会社が
運営しますが、法的に有効な組織です。一方、リース会社は航空会社(右)との間で契
約準備を進めます。また、同時に 10 人程度の投資家(右上)を募り、航空機の 20%+α
(α:リース会社の手数料)の資金を投資家から集め、残る航空機の 80%の代金は金
融機関(左下)から融資を受けます。これで、すべての関係者が登場します。
≪このしくみが成立する基本的な構図≫
リース会社は投資家が支払
う+α を収入とします。また、
投資家が出資する匿名組合が
銀行融資を受け、航空機の所
有者となります。航空会社が
匿名組合に払うリース料は当
初、全額を銀行返済にあてま
す。また、航空機は銀行融資
の担保とします。リースにト
ラブルが起こった場合は、銀
行は独占的な担保の航空機を
売却することで、融資額の全部、もしくは一部を回収します。銀行にとって、匿名組
合への融資は大口であると同時に、航空会社に直接融資するよりも、返済が早く回収
が確実な担保を得ることになるため、リスクの小さな融資であるといえます。
投資家の投資は、リース後半、または終了まで回収しません。匿名組合はリース収
入と航空機の減価償却費用から収支を計算しますが、当初は費用が収入を上回り赤字
になります。最終的には資産売却収入も含めて投資額を上回る収入があるので、もち
ろん利益を出します。それぞれの投資家は匿名組合から出る赤字を自らの本業の収支
と合算し、本業の利益を圧縮させます。期間通算では納税額は変わりませんが、リー
6
ス投資による初期の損金計上で法人税の後送りが可能となり、投資家はここに大きな
メリットを見出しています。
投資家にとってのリスクは、リース期間の 5~8 年程度は途中解約ができないこと、
トラブルが生じた際に銀行が優先的に資金回収するしくみになっていること、経済状
況や為替によってはリース終了時の機体の売却価格が当初計画を下回り、売却益が得
られない危険性があるというものです。ただし、機体が高く売れた分は投資家の収入
となりますし、また、トラブルの金額が担保とする航空機の売却価格を上回った場合
でも、銀行ローンの返済に関して、投資家からの追加的な資金拠出は不要となる特約
を付けるのが一般的です(リミテッド・リコース・ローン)。
レバレッジ(てこ)の意味は、投資家の出資は航空機資産額の 2 割ですが、減価償
却の対象は資産の全額となり、5 倍の効果があることに由来します。また、匿名組合
と呼んでいるのは、投資家の名前を関係先に秘匿するために名づけられましたが、加
えて株主総会での議決が必要な、投資家の会社の定款へのリース業の追加が不要であ
るという利点もあります。
歴史的にはファイナンス・リースも貸し手側で減価償却することが認められた時代
があり、国内の低金利とも相まって、日本型レバレッジ・リースとして世界中で利用
され、一世を風靡しました。国税当局はこの税抑制効果が当面の税収減になることか
ら、しばしばリース税制を見直したようです。
8.航空法と航空機リース(借り手側から見た航空機リース)
日本における借り手側から見た影響を考えますと、主な影響はもっぱら運航の安全
管理の仕組みに関わることになります。航空法は運航の安全を保つために、航空会社
が整備規程を定め、航空機の安全の最終責任を持つこと、すなわち航空会社の最終的
な責任で航空機の維持管理を正しく行うことを求めています。リース機を利用しても、
この法の要求に変化はありません。高額資産を所有して資産価値を保つ責任の所在と
航空安全を果たすための整備責任の所在という、分離できない同じ責任がリースの制
度により 2 つに分離しました。過去、行われていたファイナンス・リースでは匿名組
合が資産の所有者であっても、最終的に資産が借り手の航空会社に移管されることが
前提になっていたため、航空会社があたかも自らの財産のように自然に航空機を維持
管理していました。それが、リース会計基準の見直しにより、オペレーティング・リ
ースに移行したことで、契約終了後の第 3 者への転売が可能になり、より賃借色が濃
くなりました。この形態でも航空機の整備について契約で航空会社に委託することは
可能ですが、航空機の維持管理には航空会社全体の 10%程度のコストが必要です。安
全意識とは安全にコストをかけるということですので、昨今の航空局から中小航空会
社への指導事例などを見ると、きちんとコストをかけているのか、安全管理が形式に
走っていないかなど、リースが航空の安全に悪影響を与えていないか、不安を残して
います。
その他、日本の航空会社に使用する航空機は日本国の登録機である必要があります。
このことは、日本国の法律で航空会社を管理するために必要なことですが、航空機リ
ースは国境をまたがって取引されるビジネスですので、外国リース会社が日本の航空
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会社に航空機をリースしようとする場合には、その機体の所有権だけを持たせる日本
国籍の特別目的会社(名義保有代理人)を設立します。これは形式的な会社です。こ
のことに実害はありませんが、リース満了後に外国籍に変更となる可能性が大きく、
リース終了時の返却条件により、標準仕様に戻す客室改修や、FAA 認定の PMA(Parts
Manufacturer Approval)部品を OEM(Original Equipment Manufacturer)部品す
なわち純正部品へ戻す要求のほか、米国や欧州政府の認定工場での機体の再整備が求
められるなど、リース契約から逸脱した場合は借り手側の航空会社に多大なコストが
生じるリスクを抱えています。
最後に、ウェット・リースについて説明を加えます。航空機のみのリースをドライ・
リース、それと対照的にパイロットを乗務させてリースするものをウェット・リース
と呼んでいたことがあります。一時は貨物定期便で運航委託(他社に運航を行わせ、
委託者が最終的な運航管理責任を持つ形態)という仕組みでウェット・リースが行わ
れていましたが、現在ではウェット・リースは他社と共同で航空運送事業を営む、共
同運航(運航提供側)/共同運送(運航享受側)のしくみの一形態として扱います。
パイロットの流動化は航空自由化や国際的な労働の流動化が進む過程で、将来、新た
なビジネスの展開がありうる分野であると思われます。
9.LCC と航空機リース
前述のように就航機全体に占めるリース機の割合は 45%ですが、LCC がリースを
どう活用しているか、もう少し詳しく見ることにします。図7は世界の航空会社が過
去 10 年間にボーイング社、エアバス社から購入した新造機について、FSA(Full
Service Airlines:在来型航空会社)と LCC ごとに保有機とリース機の比率をグラフ
にしたものです。期間を 10 年と限ったのは、オペレーティング・リースの契約期間
が、日本における税法上の航空機の耐用年数(減価償却の最短年数)の 10 年より短
く設定される中で、航空会社が新造機の利用を開始する際に所有とリースのどちらを
選択しているのか、その傾向を見る
ためです。
グラフを見ると、リースの活用で
既存航空会社と LCC の間にはほとん
ど有意差はありません。面白い結果
は、グラフの右端に LCC の輸送規模
上位 3 社、ライアン航空(アイルラン
ド)、サウスウエスト(米)、イージー
ジェット(英)の合計のリース機比率
を示してありますが、業界平均
(50%)の半分しかないことです。大手に成長し経営成績の良い 3 社がリースを利用し
ていません。航空機の調達資金を得るのは、自己資金以外では銀行融資や社債発行な
どが考えられます。3 社がリースを選択しない理由は調達コスト(金利)の安い資金
を選択しているということのようです。3 社の場合、購入機数が大きいため調達価格
も大手のリース会社の調達価格と変わらぬ価格で調達しているものと思われます。
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この解説概要に対するアンケートにご協力くだ
LCC の経営の立ち上げの後、小規模な間は銀行融資が難しく、金利も高く、また航
空機メーカーから直接購入しても値引きは期待できないことから、リースを選択しま
す。リースが中小航空会社向けであるということは LCC ビジネスが世界的に普及す
る中で、業界参入のハードルを下げ、産業の拡大に大いに役立っているものと思われ
ます。
10.航空機リースの将来と安全課題
毎年 7 月にボーイング社、エアバス社はそれぞれ、これから 20 年間の民間航空市
場の展望を公表しています。報告書は両社ともにほぼ類似した内容になっています。
ボーイング社の最新の報告書(注 6)では旅客需要、年 4.5%増を前提として、航空機の
増加率は年平均 3.8%、リージョナルジェット、ターボプロップを含まない大型民間輸
送機の 20 年後の総機数は現状のほぼ 2 倍、4 万余機になると予測し、20 年間の新造
機需要は 3 万 8 千機、その資金需要が 670 兆円で、年平均にすると 1,900 機、34 兆
円あると予測しています。レポートの冒頭でも見ましたように、航空ビジネスは経済
とともに今後とも暫くは成長が続くことが期待されます。
このレポートで見てきたとおり、航空機リースが調達の場で受け入れられ、結果と
してリース機が総機数の半数近くを占めるに至った大きな要因は、一つには金融機関
と航空会社の間に匿名会社を置いて担保を金融機関が独占できる仕組みを作り、融資
側のリスクを分散・軽減することにより融資のハードルを低くしたこと、もう一つが
中小規模の調達を束ねることにより調達価格の低減を実現したことであろうと思わ
れます。結果として、航空機リースは航空業界の参入増と育成に大きく貢献しました。
さて、日本では 2008 年に航空機リースはオペレーティング・リースに集約しまし
たが、これは結果として起こったことです。その原点は税の後送りを避けるために、
ファイナンス・リースで行われていた貸し手側の減価償却を認めない制度変更を行っ
たことです。現実のビジネスの場では投資家の節税効果の温存が優先され、リースの
仕組みのほうがオペレーティング・リースに変化しました。
この結果、航空業界では航空機を財産保全するための維持管理と航空安全を保つた
めの整備のそれぞれの責任の所在が分離しました。二つの行為は実際には同じもので、
片側は委託により処理する必要があります。航空機を所有しないものが大金をかけて
航空機を整備するのか、航空安全意識が薄まり、いわゆる手抜きを生む、形式に走る
怖さを残しているのではないかと危惧されます。
「角を矯めて牛を殺す」という諺がありますが、会計の完璧さが航空の安全を歪め
ないよう気遣うことは重要です。航空機リース事業は経済に影響を与えると同時に、
大切な航空の安全にも影響を与えます。会計と安全を繋ぐことに唐突な感じを抱かれ
る方もおられるでしょうが、そういった観点からの両者のバランスが望まれるところ
です。
(注 6) :Current Market Outlook 2015-2034, The Boeing Company
http://www.boeing.com/resources/boeingdotcom/commercial/about-our-marke
t/assets/downloads/Boeing_Current_Market_Outlook_2015.pdf
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