砂浜は誰のもの! - 鹿児島大学水産学部海岸環境工学研究室(西研究

上屋久町永田地区の海ガメ協力金に関する海岸保全専門家としての私見
(H15.6.24)
−砂浜は誰のもの!−
西 隆一郎
(国家公務員)
平成 15 年 6 月 22 日付の南日本新聞で、
「上屋久・永田地区のウミガメ協力金 観光客らとトラブル
続出」と題する記事を読んだ。当該団体とトラブルに巻き込まれた当事者の一人として、また、海岸保
全に関わる研究者の一人として、記事の行間を補足する責任があると痛感した。まず、以下の 3 点を指
摘したい。
(1)永田区周辺の海岸は国有海浜地であり、その管理者は鹿児島県である。よって、任意団体の永田
区および永田区ウミガメ連絡会が主張する海岸所有権および管理権は、永田区にはない。加えて、ウミ
ガメ保護監視員が従うべき鹿児島県ウミガメ保護条例でも、ウミガメ監視員に海岸の管理権を付与して
いない。したがって、永田区の前浜および田舎浜が自分たちの物であり海岸立ち入りには地元の許可が
要るとの主張、およびその主張に基づき国民の共有財産であるべき国有海浜地を排他的に占有し、海岸
に立ち入ろうとする国民から協力金名目で強制的に料金を徴収する行為は、永田区区長、区議会および
永田区ウミガメ連絡会による悪質な違法行為である。また、国有海浜地に自由に立ち入る国民固有の基
本的人権を侵害するものである。確かに海岸法には、海岸でお金を徴収してはならないという条文はな
いが、国有海浜地の所有権を任意団体が勝手に主張し、そこで一般の海岸利用者の活動を制限し排他的
に利益をあげてよいと薦めているわけではない。例えば、国道の通る地元区民が関所(受付)を勝手に設
け通行料金を道路利用者から強制的に徴収する行為と、永田区および永田区ウミガメ連絡会の行為は基
本的に同じである。このような例えであれば、上屋久町永田区が海岸法に関する明確な違法行為を行っ
ていることを理解できよう。
(2)鹿児島県環境生活部環境保護課の発行する冊子「ウミガメ」には、ウミガメ観察に当たり幾つか
の注意事項が記載されている。当然、ウミガメ監視員および排他的な観察業務に携わる観察指導員(観光
指導員)といえども、
この注意事項を遵守する義務がある。
ところが、
2001年 6月 25 日付のDaily Yomiuri
に、永田区のウミガメ観察会では、(i)産卵中のカメに近づき光を当てている、(ii)カメに観光客がむやみ
に触っている、(iii)卵を見たいとの観光客からの要望に対し産卵中に卵を数個取り出し観光客に触らせ
ている等の注意事項に抵触する行為を行っていた旨が、Bill Bradley 記者の実体験に基づき記載されて
いる。加えて、車のライトを含めた灯火がカメの上陸・産卵活動を阻害することは監視員の常識である
にも関わらず、永田区ウミガメ連絡会は、今まであった海岸の遮光林を切り倒し観光客向けの駐車場を
造成し、光が直接産卵地海浜に入るような状況を作り出し、ウミガメ監視業務を委託する団体としての
適格性が疑われる。さらに、
「受付けをせずに海岸へ入る人は、
・・・・泥酔者もおり、感情的な話にな
ることもある」との永田区長の説明に関して付け加えれば、永田地区の海浜で調査を行っていた当研究
室の(元)学生は、夜間調査中に泥酔状態の永田区ウミガメ連絡会のメンバ−から脅迫とも取れる威嚇を
受けた。その言動については、文書記録が残されている。また、永田区ウミガメ連絡会の観察指導員か
らお金を払え、払わなければ 30 万円の罰金が課される等の暴言を受けた観光客もいるなど、永田区ウ
ミガメ連絡会の資質に関する問題点は、少なくとも 2001 年度から関係行政当局者の耳に達しているは
ずである。県環境保護課および上屋久町が、このような団体にウミガメ監視業務を委託し、また、排他
的および強制的なウミガメ観察会をよしとしその行為を黙認するのであれば、県ならびに町担当者は、
国民固有の基本的人権とも考えられる海岸利用の権利を侵害し続ける行為から生ずるトラブルに対す
る結果責任を負うべきである。
(3)ウミガメの研究を行う上で必要なウミガメ捕獲等許可証発行に関する町商工観光課の業務遂行形
式は、不透明で恣意的である。浜で当研究室の(元)学生が、永田区ウミガメ連絡会メンバ−から脅迫行
為と受け取れる威嚇を受けた事を契機に、学生に対する永田区および永田区ウミガメ連絡会からの恣意
的行動を避けるための教育的配慮から、砂浜調査に限れば必ずしも必要でないウミガメ捕獲等許可証を、
上屋久町商工観光課に国立大学所属の研究者名で依頼した。その後、町当局から、許可証発行に当たり
地元永田区の了解を受けることが要求された。ただし、地元永田区の解釈では地元の許可が必要との事
であった。また、永田区区長および区議会議員に対する当方の調査内容の説明会を行うことも要求され
た。加えて、地元説明会を行うに当たり、当方の履歴書を提出するようにとの指導も加わった。永田区
での説明会は、平成 13 年 6 月 29 日夜および 6 月 30 日午前に 2 回行われた。29 日は何故か説明会を設
定した町担当者は立ち会わず、当方がどのような調査研究を行うかの説明を基本的に行った。また、永
田区ウミガメ連絡会のウミガメ監視員から当方の学生が脅迫行為を受けた事実があると、永田区区長お
よび区議に対して行った。ただし、永田区側の都合で説明会は 20 分程度で打ち切られた。30 日午前の
説明会前に、町担当者が当方の宿舎を来訪し、永田区に謝罪するようにとの強い依頼(行政指導)があっ
た。理由は、永田区で行われている国有海浜地の排他的利用および強制的な入浜料の徴収は違法であり、
速やかに改善されるべきであろうとの指摘等が永田区側として納得できなかったためと理解した。永田
区の同意がなければ、当方への許可証の発行はできないので謝罪するようにとの行政指導が数回にわた
りその場で繰り返された。ところが役場担当者を詰問すると、6 月 20 日付で上屋久町長の公印が押さ
れた許可証をすでに携行していることが分かった。その後、30 日午前中の永田区区長および区議から当
方への説明では、当方の調査に対して永田区は反対しない。ただし、屋久島ウミガメ館の某氏とは付き
合うなという、踏み絵を迫る内容であった。日本国憲法を遵守すべき公務中の研究者に対し、村八分と
も取れる基本的人権の侵害行為を強要する態度はあまりにも愚劣である。しかも、基本的人権を遵守す
べき役場職員が区議の立場で、また、許認可権限を持つ町役場の商工観光課担当者もその場に同席して
いたにも関わらず、そのような発言を容認する職業倫理感を疑わざるを得ない次第であった。さて、こ
のような永田区を相手に調査の同意を要求する商工観光課の許認可権限の業務遂行手順は、まことに透
明感に欠け、しかも行政当局に対する信頼感を損ねるものであった。このような経緯もあり、ウミガメ
保護監視条例本来の精神を行政当局が具備するためには、観光業務優先の商工観光課から、屋久町のよ
うに環境課に許認可権限を委譲すべきと考える。
当方の(元)学生は、永田区から課された踏絵を私が踏まなかったことも一因となり、博士課程への進
学を取りやめざるを得ず研究者としての夢を断ち切る結果となった。一方、ほぼ同じ時期に、論文を書
くためにこの踏絵を踏んだ他大学の若手研究者がいたことも事実である。どちらにしても次世代を担う
べき若者がウミガメの調査研究で理不尽な踏絵を課される状況を、教育者として防ぎきれなかったこと
に関しては無責任のそしりを受けても仕方ない。実際、上屋久町助役、担当課長、そして永田区区長に
対しては、複数回にわたり現況改善の要望を説明した。しかし、現実としてそれが全く役立たなかった
ことを深く自戒せざるを得ない。そこで再度、以下の 2 点を強く指摘し、県民だけでなく国民全体への
アドバイスとして利用されることを期待する。
(1) 上屋久町永田区で行われている国有海浜地の排他的な占有行為および立ち入り料(観察料)徴収
は、海岸法違反である。また、観察料と題する入浜料を払わない海岸利用者に対して、ウミガ
メ監視員および観察指導員が恫喝等を行うことは違法である。観察会に参加するか、あるいは
強制的な観察会名目の海浜立ち入り料を払うかどうかは、国民個人が決めることである。
(2) 永田区で行われている排他的な海岸占有行為、および、観察会名目の強制的な入浜料の徴収は、
国民の基本的人権の侵害であり、地元の海岸利用者だけでなく全国から来島する海岸利用者に
関わる根源的な問題である。
蛇足ではあるが、新聞紙上での県環境保護課と上屋久町のコメント「(排他的な)観察会は監視の延長
線上にあり、協力金を求めるのはやむを得ない」は、一海岸研究者としてはいとも簡単にルビコン川を
行政当局が渡ったものと感じられる。是非、法的な根拠を示して頂きたい。また、海岸法の基本精神お
よび国民の基本的人権に関する明確な違反例と考えられる事案に対しこのようなコメントを出すこと
は、今後とも永田区の行為を黙認することの行政側の意思表明なのか紙面を借りてお聞きしたい。さら
に、県河川課は「海岸法で『海はみんなのもの』とされているが、お金を徴収してはならないという条
文はない」という見解を出している。まさしく、正答である。ただし、当局としては永田区で国有地海
浜を自分のものだと主張する任意団体が強制的に海岸利用の制限行為および海岸利用料の徴収を行っ
ている事実を数年も知りながら、海岸管理者としての管理責任を実質的に果たさないのは、国民共有の
財産を私する行為を助長していると受け取れる。国有海浜地の管理者として、改善策を講じないのは如
何なる理由によるものかご説明願いたい。そして、環境省屋久島自然保護官事務所では「現状が正常と
はいえない。何らかの対策が必要」という認識をお持ちであれば、具体的なプランをお聞かせ願いたい。
最後になったが、本トラブルはウミガメ監視業務あるいは観察業務の美名の下に、永田区および永田
区ウミガメ連絡会が国有海浜地の所有権を何らの法的根拠なしに主張し始め、利用料を払う必要のない
海岸利用者から強制的に入浜料(観察料)を徴収するというある種の詐欺的な暴走行為であり、それをど
の行政当局も抑止しようとしなかった(あるいはできなかった)というのが、本案件の概観と考える。保
全を目的とした(旧)海岸法は、次世代へ素晴らしい海岸環境を残すために、2001 年 4 月から「保全・環
境・利用」の調和をキ−ワ−ドにした新海岸法へと移行した。鹿児島県では、新海岸法の基本精神に基
づく海岸保全基本計画の策定が県当局により進行中のはずである。筆者は、自然海岸を保護する上で新
海岸法に期待すること大であった。しかし、地方分権の影響で海岸法に関する許認可権限が県レベルか
ら市町村レベルに委譲された場合に、適切な知識と経験を持たない行政側の担当者と声の大きな悪意を
持つ海岸利用者が偶然接点を持てば、海岸環境に悲惨な結末を引き起こす事態が生じるのではないかと
危惧したものであった。今回、海岸保全および海岸法の研究者として冷静に考えれば、永田区および永
田区ウミガメ連絡会がウミガメ観察会の美名のもと国有海浜地を私する排他的な海岸占有行為は、海岸
法の基本精神から逸脱した全国でも非常に稀なものであり、しかも、その団体に税金を使い監視業務を
委託している県・町当局とも積極的に行政指導を行わないだけでなく、逆にその行為を黙認あるいは推
奨するという前代未聞の結末を呈している。海岸に関わる一研究者として言わせてもらえば、被害者で
あるウミガメと国民を守ろうと関係行政機関が積極的に行動しないのは、まさに何でだろう!
さて、全国規模で考えれば、アカウミガメが絶滅危惧種であることを理解し、かつ、観光資源として
ウミガメに接しないウミガメ保護監視員および団体が大多数を占めていることを希望の灯りとし、関係
者からの回答を期待する次第である。