Bulletin Vol40 整形外科学

クラブVCJ/AMC
August 2012 Vol.40
www.club-vcj.com
救急医療
病院長 渡辺 泰章
私は静岡の田舎に生まれ、少年期を過ごし
ました。母は体が弱く、私が10歳の時体調
を崩し、突然吐血を繰り返してしまいました。
多量の吐血の為、青白くなった顔の母の姿を
みて、私はこれが母との別れなのかと感じ、
急に寂しくなり強い不安に陥りました。
そこに私の叔父にあたり、隣町で開業して
いた望月武治医師(昨年亡くなりました)に、
夜中にも関わらず往診に来て頂きました。望
月医師は私たち子供に対し、心配はいらない
と優しく声をかけて下さり、その事によって
私たちの不安は和らぎ、母は必ず元気になる
と強く望む事が出来ました。望月医師は、田
舎の人々にも厚い人望があり、昼夜問わず、
天気の悪い台風のときでも、スクーターに乗り、背広とネクタイ姿で365日往診をし、昼は
診療所で近所の多くの人々の診療にあたっておりました。
そんな姿を見て常に尊敬の気持ちを持ち(何故か私は叔父に対して父と同じく<武治>と呼
び捨てにしておりました)、将来は休みと無関係に人の為に働く人間になろうと心に決めたの
が、現在の私の原点です。
その後、動物医療の道に入りましたが、日本には動物病院が24時間診療をしている体制は
無く、ノウハウが分からず悩んでおりましたところ、米国においてエマージェンシークリティ
カルソサイティーの、第1回世界大会が開催される事を知り、出席致しました。そこで知った
のは、アメリカの大都市では既にスタートしているという事で、それらの病院を訪問し、多く
の友人を作る事が出来ました。多くの経験からノウハウを学び、帰国後病院スタッフたちとの
話し合いを持つ事が出来た結果、日本で初めて24時間の病院をスタートする事が出来ました。
確かに体力的にも大変厳しいところもありますが、医療者として、人の助けになる仕事が出来
たことに、大変満足致しております。今後につきましても、救急医療を必要としている動物た
ち、ご家族の方々の為に、より良き医療を提供して参りたいと思っております。
クラブVCJ/AMCは、動物病院を利用する人々の為に、その施設、管理、知識、技術、倫理のより高い水準を
設けています。スタッフはその基準を達成する為に常に世界の獣医学を学び、実践し、さらに地域社会の理解
を深めるとともに、獣医学および社会科学、自然科学を通じて、人と動物双方の生活の質の向上と福祉ならび
に人と動物と環境との調和に貢献する事を目的としています。
犬における関節疾患
センター病院 院長 中村 睦
関節の健康状態は犬の生活の質に大きな
影響を与えます。とくに前肢、後肢の関節
は犬の運動機能を支えるために重要な部位
と言えます。
前肢に発生する関節疾患の代表的なもの
には肩・肘関節の離断性骨軟骨症、肩関節
脱臼、肘関節形成不全などがあり、また後
肢に発生する関節疾患には股関節形成不全
症、股関節脱臼、膝関節脱臼、前十字靭帯
断裂、半月板損傷、膝・足根関節の離断性
骨軟骨症などがあります。
大型あるいは超大型の若齢犬では肩・
「ラブちゃんと一緒に」
肘・膝・足根関節の離断性骨軟骨症が認め
られることがあります。この疾患は若齢(6から10カ月)で見られ、雌に比べ雄のほうが罹
患しやすい傾向があります。また肘関節形成不全もラブラドール・レトリバーやゴールデン・
レトリバー、バーニーズ・マウンテンドックなどの大型犬で認められます。この疾患も若齢
(5から7か月齢)で見られます。さらに股関節形成不全症や膝蓋骨脱臼(外方)、前十字靭
帯断裂、半月板損傷も大型犬に発生が多いとされます。股関節形成不全がある場合には、軽度
の外傷でも股関節脱臼を起こすことがあります。前十字靭帯断裂は若く活動的な、大型品種に
多く認められ、半月板損傷は前十字靭帯損傷の症例の20∼80%で見られると報告されてい
ます。
小型犬においては、先天性の肩関節脱臼、膝蓋骨脱臼(内方)が多く認められます。先天性
の肩関節脱臼はトイ・プードル、シェットランド・シープドック、ミニチュア種などに発生し、
歩行異常は若齢時に観察されることが多いです。
さらに高齢犬においては変性性関節疾患も多く認められます。痛みが伴うので、動作を始め
るとき(たとえば、立ち上がるときや段差を乗り越えるときなど)に躊躇したり、歩行異常が
見られたりすることがあります。
このように、犬種、年齢により発生しやすい関節疾患は多くあります。代表的な疾患を述べ
ましたが、飼い主様が病気を見つける手助けになればと思います。
猫の関節疾患
獣医師 武田 絢子
12歳以上の高齢猫の90%がある疾患を
患い、日々苦しんでいる事を御存知でしょう
か?
高齢になるにつれ、運動量が減り、眠る場
所が変化し、トイレを失敗する等の行動変化
が見られるようになってきてはいませんか?
また、このような変化が見られていても、
“加齢”
としてとらえ、特に病院で相談されて
いないのではないでしょうか?実はこのよう
にして、多くの猫の変形性関節症は見過ごさ
れています。
変形性関節症とは、体中のあらゆる関節に
「ニッキーちゃんと一緒に」
起こる疼痛の激しい関節炎の事であり、一般
的には加齢に伴って関節が変化し、発症する場合が多いですが、スコティッシュフォールドや
メイクーン等の特定の品種で先天的な四肢の変形に伴って生じる場合や、骨・関節・腱の外傷
に続発して生じる場合には若齢でも認められます。
関節炎を患うと、激しい疼痛の為、ジャンプができず、眠る場所を変えたり、トイレが乗り
越えられず、いつもと違う所でしてしまったりします。また、飼い主や他の動物に対し突然攻
撃的になったり、グルーミングの頻度が減少する事でフケや毛玉が出来てしまったり、運動や
爪とぎ行動が減少する事で爪が伸びすぎてしまうこともあります。猫という動物は痛みを隠し、
明確な症状を出しません。また、多くの猫は病院では緊張により体が固まってしまい、歩き方
を見ることすらままなりません。よって、前述のようなわずかな変化が関節炎を疑う重要な手
掛かりとなり、最終的に麻酔をかけ、力を抜いた状態で詳しい触診とレントゲン撮影を行い評
価する事で確定的な診断をつけます。
この疾患は治癒する事はなく、徐々に進行し、突発的な疼痛を引き起こします。よって治療
としては、①内服薬による疼痛管理、②軟骨保護の関節用サプリメント(コンドロイチンやグ
ルコサミン)投与、③肥満であればダイエット(関節への負荷軽減)、④スロープや階段を設
置し猫が好む高い場所に登りやすくする等の環境改善が挙げられます。
近年獣医療も進歩し、猫の平均寿命も延びてきております。飼い主と動物が少しでも長く一
緒に過ごせるようにする事はもちろんですが、より快適に、クオリティーオブライフにも考慮
した医療を心がけて参りたいと思います。
犬・猫の脊髄疾患
獣医師 中谷 早希
脊髄疾患とは、背骨(脊椎)の中を通る脊
髄神経が障害をうけ、痛み、四肢のふらつき、
痛覚の消失が症状として現れ、進行すると起
立困難や自力排尿困難をきたす疾患です。原
因は様々で、外傷による脊椎の骨折や脱臼、
脊髄腫瘍(リンパ腫、骨肉腫など)、感染に
よる椎間板脊椎炎、血栓や軟骨物質の閉塞に
よる脊髄梗塞、なかには脊髄軟化症とよばれ
数日の間に亡くなってしまう疾患もあります。
代表的なものの一つとして椎間板ヘルニア
がありますが、これは椎体円板(脊椎と脊椎
の間にある軟骨物質)の変性により脊髄神経
が圧迫されてしまう疾患です。好発犬種とし
ては軟骨異栄養種(若齢時に軟骨の変性を起こしやすい犬種)であるダックス、ビーグル、
コーギー等が挙げられます。また、レトリーバーやパピヨン、プードルは加齢性変化として起
きやすい犬種として挙げられます。加えて、αシンドローム(飼い主よりも犬が優位にある)
や攻撃的な性格、肥満もリスク要因となります。
鑑別診断には通常の全身検査に加え、病変部位や神経の変性の評価、手術適応の脊髄疾患で
あるかの判断の為に、神経学検査・脊髄造影検査・CT検査を行います。
椎間板ヘルニアの場合、症状の初期‘痛み’の段階であれば、絶対安静が第一となります。
ソファーに飛び乗ったり、興奮しないようご家族の協力が必要となります。しかし症状が進行
したり、気が付いた時には起立困難である場合には手術の検討が必要となります。当院の手術
症例においても痛覚まで麻痺していたダックスが2か月後には自力で走り回るまで改善したと
いうのも珍しくありません。
また、肥満予防の為の体重管理、フローリングなどの滑りやすい床を避けた環境管理、攻撃
的な性格やマウンティングの改善の為の去勢手術等が予防医療の面では重要となります。
初期の症状はわかりづらく、抱き上げた時にキャンと鳴いた、震えていて元気がない、歩き
たがらないという主訴で来院される事が多いです。「うちの子なんとなくいつもと違う」、そ
う感じられた際にはお気軽にご相談下さい。
骨の腫瘍について
手術・癌センター長 野口 美加
今回は、犬と猫の腫瘍の中でも〈骨〉に
できる腫瘍についてお話致します。
まず犬で多いのは〈骨肉種〉です。続い
て〈軟骨肉腫〉〈繊維肉腫〉などですが、
今回は骨にできる原発腫瘍の約85%を占
める〈骨肉種〉についてお話致します。
世界では毎年8,000∼10,000頭の犬
が罹患されているといわれていて、大型犬
や超大型犬に多く発生します。発生部位と
しては、前足の橈骨の遠位(先端の方)と
上腕骨近位(上の方)に発生が多く、
〈肘か
ら遠く、膝に近い場所〉と言われています。
何故大型犬で肢にできやすいのかという
と、体重の過大な負荷によって誘発される
と言われております。また、過去に外傷な
ど(骨折)を受けた個所も発生しやすいとも言われております。
レントゲン、CT検査で典型的な所見が認められる事もありますが、確定診断は骨の組織生
検を行う事です。そして治療を行うに当たって一番考慮すべき点は、〈痛みのコントロール〉
です。骨が融解・破壊されてしまう腫瘍ですので、非常に強い痛みを伴います。ですから、そ
の部分を摘出してしまう例えば肢であれば〈断脚〉を行うのが、一番の痛みの緩和になります。
また、その後化学療法を行っていけば、転移する事を低められる可能性があります。また、手
術後2週間もすれば元気に走れる場合も多く、生活の質を非常に高める事が出来ます。しかし、
手術を望まれない場合は骨の融解・破壊のスピードを遅くする薬や、併せて鎮痛剤を投与する
治療となります。
次に猫ですが、猫では骨の原発腫瘍は少なく、その中で一番多いのはやはり〈骨肉腫〉です。
しかし、それでも猫がかかる全腫瘍の中でもわずか1.5∼6.0%にしかすぎません。〈線維肉
腫〉や〈扁平上皮癌〉等も、顎などの骨を融解・破壊する腫瘍としてありますが、これは二次
的に骨を融解:破壊してしまうタイプの腫瘍です。いずれにしても診断は犬と同様に行います
が、犬と違って、猫での骨肉腫は比較的予後が良く、外科的に完全に切除が行えれば、肺など
の転移が少ないと言われています。
今回は骨に特異性のある腫瘍をご紹介致しましたが、このように腫瘍のタイプも多々あり、
それぞれ性質や治療法なども異なります。ですから、しこりがある!!=癌ではなく、確定診
断をつけて腫瘍のタイプを知って、それに基つく治療を行う事が重要です。そして早期発見・
早期治療が腫瘍治療の鉄則です。私達も日々の診療においても、もう少し早ければ・・・と思う
事も多々あります。ですから何か小さな事でも、気になることがあればすぐご相談ください。
骨折の救急治療について
獣医師 寺前 紀子 “骨折”
は高所からの落下や交通事故など、大
きなダメージが加わった場合に多く見られます
が、実は室内生活でも発生する危険があり、例
えば、抱っこをしていて飛び降りたり、ソファ
から飛び降りたりなどの、日常の些細なきっか
けで生じる事があります。
骨折は、骨折部位あるいは骨折の状態によっ
ては周囲の組織(筋肉・血管・神経)にも損傷
を起こしたり、強い痛みが引き起こされたりす
る事が大きな問題です。痛みは傷の回復に悪影
響を及ぼす為、できる限り軽減しなくてはいけません。
ですから骨折に対する救急治療としては、第一に強い痛みに対するケア=ペイン・コント
ロールを行い、そして骨折部位を動かないように固定し、損傷を最小限に保つことが重要で
す。不安が強く、暴れてしまう場合には鎮静治療を行い、動きを抑えてあげる事も必要になり
ます。そのように救急的治療を行ってから骨折自体を整復する為の手術を行うことが、最も体
への負担が少ない、安全な方法です。
中には折れた骨が皮膚の外に出てしまう状態(開放骨折)もあります。この場合は感染の悪
化などのデメリットもある為、全身状態にもよりますが、できる限り早急に手術を行うことが
望ましいでしょう。
実際には、頭部や胸部の外傷など、骨折以外により重篤な問題が見られる場合、生命を守る
為にその治療が骨折の手術よりも優先されることがあります。頭部をぶつけた可能性があるな
ら、脳圧を上げない為に、頭部を体幹部よりも高く保ちながら受診いただくことも必要です。
もしも皆様の御自宅で骨折を疑うような症状が見られたら、二次的に起きる損傷を最小限に
保つために骨折部分をできる限り動かないように保ち(例えば、可能なら新聞紙で包むなども
一つの方法です)、安静の状態で早めに御来院されることをお勧めいたします。
秋に多い疾患
獣医師 檀 華子
紅葉の秋、山や川など自然が豊かな場所に動物
達を連れて出かけることも増えるかと思います。
この時期注意していただきたいことの一つに、植
物やキノコ類の中毒があります。摂取後特に問題
はないように見えても、帰りの車中や帰宅後に急
に症状が出始める場合があります。中毒症状は、
消化器症状、神経症状、呼吸器症状など多岐に渡
り、最悪の場合命を落とす危険性もあります。
また直接摂取せずとも、ブタクサなどの植物に
よるアレルギーもあり、目の充血や鼻汁、全身の
発赤や痒みの原因になります。さらに秋でもまだ
ノミやダニの寄生虫による疾患も多いので、予防はきちんと行いましょう。いくら秋になった
からとはいえ、まだまだ暑い日が続くこの時期は、熱中症にも要注意です。呼吸が荒く、ぐっ
たりしていて熱が高いなどの症状が特徴です。
気になる症状がある場合はすぐに病院に来院し、診察を受けられることをお勧め致します。
健診ドックのすすめ
予防医療センター 獣医師 中村 美奈
獣医療の進歩により動物も寿命が延び高齢にな
ると、人と同じように癌や心臓病などの慢性疾患
を患うケースが多く見られるようになってきまし
た。動物達は健康そうに見えても、言葉を話せず、
また人より早いスピードで歳をとっていき、症状
が出始めた時には病気がかなり進行しているとい
うことが多いです。症状がなくても、病気の早期
発見・早期治療のためには、定期的にドックを受
けることお勧め致します。今秋の9月から11月
の平日において、会員の方々には無料健診ドック
「クロ太ちゃんと一緒に」
を実地致します。検査項目は身体一般検査をはじ
め、血液検査、レントゲン検査、尿検査、便検査です。得られたデータを基に、結果の説明と
食事のアドバイスを含めた今後の生活指導を致します。ご自分の動物の今の健康状態を知りた
い、ドックを受けさせたことがないという方も、年に一度のこの機会にぜひお考えください。
予約制ですのでご希望の日がありましたら、お早めにご連絡ください。
クラブVCJ/AMC事務局より
和田 育子
健診ドック券のご利用について
会員の皆様におかれましては、予防医療の重要性についてご理解して頂いております。
そこで動物の健康をサポートする為、本年度も会員の皆様へ「健診ドック券」を同封させ
て頂きました。詳細はドック券裏面にてご確認くださいますようお願い申し上げます。尚、
原則として再発行できませんので、受診時まで大切に保管下さい。
動物カレンダー申込みについて
2013年度動物カレンダーをご希望の会員様は、同封の葉書にてお申し込み下さい。
子供たちの職業体験
当院では、これから社会で羽ばた
く子供達の為に、職業体験に協力致
しております。病院見学を通して命
の大切さや、働くことへの意味を少
しでも感じてもらう為の活動を行っ
ています。