Vol.72 Supplement III(4.34 MB)

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昭和30年4月23日第三種郵便物認可 平成20年10月20日発行(毎月一回20日発行)第72巻 増刊
Circulation
Journal
Official Journal of the Japanese Circulation Society
Circ J
ISSN-1346-9843
Vol.72 Supplement III
第 207 回 日 本 循 環 器 学 会 関 東 甲 信 越 地 方 会
2008 年 2 月 9 日 学士会館
会長:田 邉 晃 久(東海大学循環器内科)
1) 後壁の急性心筋梗塞でありながら前乳頭筋断
裂を合併した1例
(心臓血管研究所付属病院循環器内科)
朝田一生・平野景子・上嶋徳久・及川裕二・
矢嶋純二・桐ケ谷肇・小笠原憲・澤田 準・
相澤忠範
3) 特徴的な臨床像を呈したPure RV infarctionの
2症例
(東京女子医科大学循環器内科) 貫 敏章・
東谷迪昭・長嶋道貴・谷崎剛平・内田吉枝・
亀山欽一・森 文章・高木 厚・鶴見由起夫・
萩原誠久・笠貫 宏
5) 巨大血栓による急性心筋梗塞に対してplain old
balloon angioplasty+抗凝固療法が有効であった
1例
(河北総合病院) 菊池篤志・大島祥男・
樋口誉則・河原崎千晶・佐藤由里子・
柿原備子・水村泰祐・玉村年健・杉村洋一
91歳男性.急性心筋梗塞を発症し16時間後に当院
へ救急搬送された.緊急冠動脈造影の結果,責任
病変は回旋枝#13の99%狭窄であり,IABP補助
下に経皮的バルーン拡張術を施行した.来院時に
は,既に前乳頭筋断裂による急性僧帽弁閉鎖不全
を合併しており,亜急性期に僧帽弁形成術を施行
した.術中に,middle scallopの前交連寄りに腱
索をのばす前乳頭筋の一部が断裂していたのを確
認した.断裂した乳頭筋は脆弱ではなかった.乳
頭筋を切除し,人工腱索を用いて僧帽弁形成術を
行った.以後順調な経過をたどり退院した.非梗
塞部の乳頭筋が断裂し,外科的治療を行い救命し
えた一例を経験したので報告する.
症例1は78歳男性.冠動脈バイパス術後,前壁心
筋梗塞の既往.徐脈を伴った気分不良,意識レベ
ル低下を主訴に当院に緊急入院.入院時採血で心
筋逸脱酵素の上昇はなく,洞不全症候群の診断で
一時ペースメーカーを留置.翌日胸部症状及び心
筋逸脱酵素の上昇を認め冠動脈造影検査を施行.
低形成の右冠動脈が近位部で100%閉塞していた.
引き続き冠動脈形成術を行い成功,洞不全は軽快
し改善し退院となった.症例2は78歳女性.洞性
徐脈を伴う胸痛で入院.心電図と心エコー図所見
から右室梗塞を疑い緊急冠動脈造影検査を施行.
低形成の右冠動脈が近位部に100%閉塞を認めた.
引き続き冠動脈形成術を行い成功.徐脈は軽快し
退院となった.特徴的な臨床像を呈したPure RV
infarctionの2症例を経験したため,若干の考察
を加えて報告する.
【症例】67歳,男性.2007年8月22日発症の急性
心筋梗塞のため,翌23日入院.緊急冠動脈造影で
著明に拡張した左冠動脈回旋枝近位部に巨大な血
栓を示唆する透亮像と中間部に完全閉塞を認め
た.2mm+4mmバルーンによるhugging inflation
により血栓部を拡張し再灌流を得た.大量の冠動
脈内残存血栓に対し,ヘパリン,ワーファリンに
よる抗凝固療法を施行,入院13病日の冠動脈造影
では血栓は消失,回旋枝の良好な血流を認めた.
Plan old balloon angioplasty+抗凝固療法が有効
であった冠動脈拡張症に合併した巨大血栓による
急性心筋梗塞を経験したので報告する.
2) CT上プラークの破綻を予測できなかった急
性冠症候群の1症例
(高崎病院循環器科) 中原健裕・福田延昭・
新島 桂・静 毅人・間仁田守・今成哲朗・
山内康彦・佐々木豊志・金澤紀雄
4) 下壁梗塞にて左室内血栓が生じ全身性塞栓症
をきたした1例
(聖路加国際病院ハートセンター内科)
神野 泰・安齋 均・増田慶太・大井邦臣・
野口達哉・西原崇創・西裕太郎・高尾信廣・
林田憲明
6) クロピドグレル耐性が疑われた再発性亜急性
ステント血栓症(SAT)の1例
(東邦大学医療センター大橋病院循環器内科)
徳江政英・高木拓郎・長島義宣・山崎健司・
小野 剛・山本正也・伊藤信吾・根本尚彦・
横内 到・原 英彦・原 久男・中村正人・
杉 薫
症例は67歳男性.糖尿病,高血圧,心房細動で
近医通院中,胸痛を認め,狭心症が疑われ当院
紹介受診.CT上LADに石灰化プラークの沈着を
認めた.CAG上,狭窄を認めたが有意とは判断
できず,ワーファリゼーションを行い退院.そ
の2日後の胸痛を認め,救急外来受診.心電図上
II・III・aVFのST低下,V4-V6のST上昇認め為,
CAGを施行.LMTの完全閉塞を認め,PCI施行.
IABP・PCPS併用し,人工呼吸器管理とした.今
回責任病変と考えられた#6にはCT上石灰化プラ
ークの沈着とその表面に点状のlow density area
を認めた.Vulnerable plaqueの特徴として,偏心
性・positive remodeling・spotty calcification・
lipid rich等が挙げられているが,今回の症例はこ
のいずれにも一致しなかった.プラークの破綻を
予測する上で,示唆に富む症例と考えられた.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
症例は69歳女性.突然右下肢運動・感覚障害出現
し急性下肢動脈閉塞疑いで緊急搬送.来院時右下
肢冷感,疼痛著明.その他急性下壁心筋梗塞と造
影CTで肝内多発性巨大腫瘤合併に加え高度貧血
(Hb 5.1g/dl)を認めた.下肢動脈および冠動脈
造影検査緊急施行し右冠動脈と右総腸骨動脈閉塞
を確認.救肢優先し腸骨動脈血栓の外科的摘除術
に成功も直後に多発性脳塞栓発症し心エコーで下
壁基部の壁運動低下部位に一致し長径10mm大浮
遊性球状血栓を確認.抗凝固療法開始するも4日
後に意識レベル低下を伴う広範脳塞栓再発し直後
の心エコーで左室内血栓は消失していた.後日施
行した内視鏡で進行直腸癌を認めた.極めて稀だ
が,担癌などの凝固亢進状態,再灌流未施行例な
どには下壁梗塞にも左室内血栓を生じる可能性が
あり注意を要する.
安静時胸痛を呈する不安定狭心症を発症した52歳
男性.プラークラプチャー像を伴う病変に対し
PCIを施行した際ステント留置後ステント内に血
栓像が生じ急性冠閉塞を呈した.IABP挿入,血栓
溶解,ステント内ステント留置等を行ないTIMI3
の血流が得られた.抗血小板療法は術前のアスピ
リン投与に加え術中にクロピドグレルをloading,
術後はこれらの維持量投与に加えヘパリンの持続
点滴を行った.1週間後の造影で血栓像が消失し
ていたためヘパリン静注を中止したところ翌日SAT
を発症し再PCIを要した.プレタール,ワーファ
リンの内服を追加したが1週間後SATの再々発を
認めた.HIT抗体や血栓性素因のチェックを行っ
たがいずれも陰性であった.繰り返すSATの原因
としてプラビックス耐性が疑われたためパナルジ
ンに変更後SATの再発は認めていない.
学士会館(2008 年 2 月) 1009
7) チエノピリジン誘導体で増悪するITPに合併
した急性冠症候群の1例
(NTT東日本関東病院循環器科)
松下匡史郎・大西 哲・板井 勉・嵐 弘之・
生富公康
(同血液内科) 仲宗根秀樹
10) 高度石灰化を伴う狭窄病変に対して,PCI
にて治療し得た右胸心の3症例
(帝京大学循環器科) 西 竜一・興野寛幸・
上妻 謙・上野泰也・長岡健介・石川秀一・
白鳥宜孝・渡邉英憲・宮澤完義・山川 健・
横山直之・一色高明
症例は71歳の男性.2006年3月に前壁のAMIで他
院にてPCIを施行し,チクロピジン200mg/day開
始.同年10月頃から血小板数の低下を認め,2007
年1月に前壁のAMIで再入院.CAG上,有意狭
窄を認めず.血小板数が1.2×104/μLのため,チ
クロピジンおよびアスピリンを中止.ITPの診断
で当院血液内科へ転院.ステロイド療法で改善を
みとめたが,2月2日に下壁の急性心筋梗塞を発
症.緊急CAG上,RCA近位部から多量の血栓性
閉塞を認めた.distal protection下にPCIを施行し,
再灌流に成功.治療後クロピトグレル75mg/day
を開始し,退院時の血小板数は11.0×104/μLで
あったものの,投与開始後再び1.8×104/μLと再
増悪,クロピトグレルの中止により改善を認めた.
本症例の様に複数のチエノピリジン誘導体で増悪
するITP症例は稀であるためここに報告する.
【目的】PCIで治療し得た右胸心の3例につき検討
した.【症例】1例目は80歳女性.2001年,狭心
症にてCAG施行,解剖学的左前下行枝の高度石灰
化病変に対しRotablator + Bare metal stent留置を
行った.2004年,左前下行枝ステント遠位部の新
規病変に対しCypher stentを留置した.2例目は
77歳男性.2005年,狭心症にてCAG施行.高度石
灰化を伴う3枝病変で,解剖学的左前下行枝と回
旋枝,続いて右冠動脈に対し,2期的にRotablator
+ Cypher stent留置を施行した.2007年,左回旋
枝の新規病変に対しCypher stent留置を行った.
3例目は79歳女性.不安定狭心症にて冠動脈CTを
施行.解剖学的左前下行枝に石灰化を伴う狭窄病
変を認め,同部位にTaxus stentを留置した.
【結語】
右胸心に対するPCI3例を報告する.高度石灰化
のため,2例はRotablatorを要した.
8) Cypher留置後再狭窄を認めた稀なSingle
coronary arteryの1例
(東京ハートセンター) 池生京子・
細川丈二・薄葉文彦・長嶋浩貴・上松瀬勝男・
遠藤真弘
11) Directional Coronary Atherectomy(DCA)
およびCypher留置後1年で再狭窄を認めた1例
(川崎社会保険病院) 池生京子・菊池 正・
吉田博史・山本文洋・塚越正樹
症例は40歳男性.2007年2月5日より労作時の胸
痛を認めていた.同年2月14日安静時にも胸部症
状出現し入院した.64列MDCTにてLADに有意
狭窄を認めた.翌日心臓カテーテル検査(CAG)
にて#6に99%の狭窄を認め,同日経皮的冠動脈
形成術(PCI)(Cypher 3.5×18mm留置)を施行
した.同年8月29日フォローアップCAGを施行
し,#6 Cypherステント近位部に90%と再狭窄を
認め,同日PCI(Driver 4×15mm留置)を施行し
た.Single coronary arteryは先天性奇形であり,
他の重篤な心奇形との合併が多い.本例のような,
右冠動脈が左回旋枝末梢に由来する独立した心奇
形は稀であり,報告も少ない.今回,稀なSingle
coronary artery患者にCypherを留置し,その後
proximal edgeに再狭窄を認め,再PCIを施行した
一例を経験したので報告する.
症例は66歳男性.2006年10月29日より労作時の胸
痛を認めていた.運動負荷試験陽性,同年11月8
日心臓カテーテル検査(CAG)目的にて入院し同
日施行のところ,#6に90%狭窄を認め,翌日DCA
お よ びCypher 3.5×23mmを 留 置 し た.2006年11
月8日フォローアップCAGでは再狭窄を認めなか
った.しかし,2007年10月2日より労作時胸痛を
認め,同12日受診および入院し,同日CAG施行
した.#6Cypherステント近位部に90%と再狭窄
を認め,同日経皮的冠動脈形成術(TAXUS 3.5×
12mm留置)を施行した.本患者では,パナルジ
ン中止およびLDL高値などがリスクファクターと
して考慮される.DCA時の病理所見を含め,文
献的考察を加えて報告する.
9) Cypher留置後,遠隔期positive remodelingを
伴うstent malappositionを来しstent内血栓症を発
症した1例
(群馬県立心臓血管センター循環器内科)
柳沢三朗・星崎 洋・山下英治・関 秀格・
鶴谷英樹・村上 淳・安達 仁・外山卓二・
大島 茂・谷口興一
12) 順行性,逆行性アプローチで成功しえた,
慢性完全閉塞病変(CTO)に対する経皮的冠動
脈形成術(PCI)の1例
(湘南鎌倉総合病院循環器科) 松実純也・
齋藤 滋・宮下裕介・塩野方明・高橋佐枝子・
竹谷善雄・堂前 洋・松本徳昭・岡村暢大・
水野真吾
68歳女性.労作性狭心症にてCAGを行いLCX#PL
に90%狭窄を認めPCI施行した.2.5×15mmのballoonにて前拡張後,Cypher stent 2.5×23mmを16atm
で留置した.この際IVUSは未施行.6ヶ月後の
CAGにてlate successを確認し,チクロピジン内服
を中止した.PCI1年9ヶ月後に急性冠症候群を発
症し来院した.緊急CAGにてstent内血栓による99
%狭窄を認めたためPCI施行した.血栓吸引後の
IVUS上血管径4.5mmとpositive remodelingを来し
ており,270度のstent malappositionを認め,stent
内血栓症の原因と考えた.3.5×15mmのballoonで
拡張し,IVUSにてcomplete appositionを確認し終
了した.今回遅発性stent内血栓症の原因として注
目されている遠隔期positive remodelingによるstent
malappositionがIVUSにより確認し得た貴重な症
例を経験したので報告する.
【症例】72歳,男性【主訴】歩行時胸痛冠【危険
因子】高脂血症【現病歴】右冠動脈のCTOに対
し2003年に他院で,2004年に当院でPCI施行され
たが不成功であった.歩行時胸痛を訴えたため,
冠動脈造影を施行したが,右冠動脈のCTOを認
めたため,同病変に対して再PCIを施行した.【治
療経過】前回と同様に順行性,逆行性アプローチ
を施行したが,いずれもガイドワイヤーは閉塞部
を通過出来なかった.逆行性アプローチのバルー
ンで閉塞部の遠位部を拡張し,その拡張部を順行
性 にconquest-pro 12gが 通 過 し,Cypher stent3
本を留置し,良好な拡張を得た.
【考察】前回と
同様の順行性,逆行性アプローチにて成功しえた
が,今回の症例では,手技上の進歩が,手技成功
に大きく寄与したと思われる.また,逆行性アプ
ローチは,安全に再施行可能であると思われた.
1010 第 207 回関東甲信越地方会
13) 複雑病変に対し,0.010″ガイドワイヤーシ
ステムでPCIを施行した1症例
(東京慈恵会医科大学柏病院循環器内科)
藤崎雅実・弓野邦彦・井上康憲・中江佐八郎・
東 吉志・伊藤高史・上原良樹・日下雅文・
蓮田聡雄・清水光行
(東京慈恵会医科大学循環器内科) 吉村道博
症例は61歳,男性.一年前より労作性狭心症が出
現.冠動脈造影を施行したところ,左前下行枝#6,
#9にそれぞれ完全閉塞,90%狭窄の分岐部病変を
認め,PCIを施行することとなった.右橈骨動脈
アプローチにて5Frガイディング(IL4.0)を使用.
対側造影は左橈骨動脈より行なった.Decillion FL
(0.010″ソフトワイヤー)で#6を通過できず,#9
にクロスした.次にDecillion MD(インターメデ
ィエイトワイヤー)を用いて,#6の病変を穿通す
ることができた.Ikazuchi X 2.5/15mmで#6を拡
張後,同2.0/15mmを#9に用いてKBTを施行した.
次に#6にCypher 2.5/18mmを留置.ワイヤーリク
ロス後,KBTを追加して終了とした.0.010″ガイ
ドワイヤーシステムは低侵襲であるのみならず,
その優れたプロファイルにより複雑病変に対する
PCIにも有用と考えられた.
14) ス テ ン ト 内 再 狭 窄 病 変 遠 位 部 に 認 め た
squeezingが再PCI(stent-in-stent)時,消失した
1症例
(東邦大学医療センター大森病院循環器センター心血管インターベンション室)
内田靖人・我妻賢司・冠木敬之・新居秀郎・
天野英夫・戸田幹人
(同循環器センター内科) 山崎純一
症例は67才,男性.2007年2月24日,早朝より持
続する胸痛が出現したため当院を受診,急性心筋
梗塞を疑われ緊急心臓カテーテル検査を施行して
いる.検査ではLAD#7の完全閉塞を認め,同部
位を責任病変と考えPCIを施行.Driver 3.0×18
mmを留置した.その時,stent distalから#8にか
けて収縮期にほぼ完全閉塞となるようなsqueezing
を認めている.6月13日に確認の心臓カテーテル
検査を施行したところステント内再狭窄を認め
た.同部位に対しPCIをstent-in-stentにて施行.
術直後には前回よりも軽度のsqueezingを認めた.
術後4ヶ月のフォロー心臓カテーテル検査を施行
したが再狭窄は認めず,squeezingも消失してい
た.今回ステント内再狭窄病変遠位部に認めた
squeezingがPCI(stent-in-stent) に よ り 消 失 し
た一症例を経験したので報告する.
15) 急性心筋梗塞,心不全で来院し,その後も
狭心症を繰り返した難治性冠攣縮性狭心症の1例
(東京慈恵会医科大学) 武本知之・
稲田慶一・小菅玄晴・小川和男・南井孝介・
小川崇之・八木秀憲・吉村道博
(同柏病院) 弓野邦彦
症例は64歳女性.平成19年8月19日夕方より安静
時胸痛,呼吸苦が出現,増悪するため当院受診.
心電図上I,II,aVF,V3-6誘導のST低下,血液
検査上心筋逸脱酵素の上昇および胸部レントゲン
上肺うっ血像が認められ,急性心筋梗塞に伴う急
性心不全の診断で緊急入院となった.翌日CAG
を施行しRCA#3,LCX#12に有意狭窄が認められ
た.症状は消失しておりPCIは施行せず経過観察
とした.3日後に再度安静時胸痛が出現.広範な
ST低下が認められ,薬物治療を行うも改善せず
血圧低下,意識消失を来たしたため緊急CAGを
施行.LAD#6,RCA#3ともに完全閉塞の所見が
認められ,冠拡張薬の冠動脈内投与により改善.
冠攣縮が病因と考えられた.その後も胸痛を繰り
返し治療に難渋したが,多剤併用療法により症状
は消失した.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
16) 治療抵抗性心室細動(Vf)を繰り返した若
年者冠攣縮性狭心症(VSA)の1例
(日本医科大学多摩永山病院内科・循環器内科)
宗像 亮・小谷英太郎・西城由之・岡田 薫・
渋井俊之・細川雄亮・吉川雅智・堀江 格・
松本 真・上村竜太・中込明裕・草間芳樹・
新 博次
症例は29歳男性.以前より安静時胸部違和感の自
覚あり.自宅で昼寝中に意識消失,家人が心臓
マッサージを行い救急車要請.救急隊到着時はVf
で,除細動後に無脈性電気活動となり心肺蘇生を
行いながら当院救命センターへ搬送された.収容
後も治療抵抗性のVfを繰り返し血行動態維持に補
助循環(PCPS,IABP)を要したが順次離脱でき
た.洞調律復帰後の心電図でST下降を認めたた
め冠動脈造影を施行.有意狭窄はなかったがアセ
チルコリン負荷試験で左冠動脈に心電図変化を伴
う99%の冠攣縮を認めた.諸検査で他に基礎疾患
を認めずVSAによるVfと診断した.カルシウム拮
抗薬の投与後発作なく後遺症を残さず退院した.
Vf例では救命することに加え原疾患の診断が重要
であり,若年者のVf例で原因診断と社会復帰をし
得た貴重な一例を経験したので報告する.
17) 心室細動を来たしバイスタンダーCPRに
より完全社会復帰し得た冠攣縮性狭心症の1例
(東京医療センター) 中根登喜子・
坂本宗久・石井 聡・小野智彦・池上幸憲・
前淵大輔・布施 淳・樅山幸彦
【症例】34歳男性【主訴】心肺停止【現病歴・経過】
2007/3/10運動中に心肺停止となり,居合わせた
医師がCPRを開始し6分後救急隊により除細動施
行され自己心拍再開し当院へ搬送された.搬入時
JCS300であったが低体温療法導入し終了後には
意識清明となり,入院後重篤な不整脈を認めず経
過しCAGでは有意狭窄なくAch負荷陽性であった
ため冠攣縮性狭心症と診断した.電気生理学的検
査では致死的不整脈は誘発されずその後も投薬に
より症状なく経過し完全社会復帰している.【考
察・結語】冠攣縮性狭心症は一般に予後良好とさ
れるが高リスク例も存在しその管理にはリスク階
層化が必要と思われる.また本例が社会復帰し得
た要因としてバイスタンダーCPRと早期除細動に
より脳虚血時間が短かったことが考えられAED
や救命処置普及の重要性が示唆された.
18) 脊髄損傷と冠攣縮性狭心症が合併した1例
(昭和大学第三内科) 金子堯一・小貫龍也・
櫻井将之・三好史人・箕浦慶乃・河村光晴・
浅野 拓・濱嵜裕司・丹野 郁・有賀 徹・
小林洋一
症例は59歳男性.主訴は意識消失.2007年6月,
路上で意識消失し,救急隊到着時に意識混濁と血
圧低下を認め入院.入院後,徐脈と血圧低下が持
続し四肢麻痺を認めた.MRIでC3/4に頚髄損傷
があり,血圧低下は交感神経遮断による神経原性
ショックと診断され,カテコラミン投与を開始し
た.カテコラミンとアトロピン投与中にも関わら
ず,第16病日に意識消失を伴う洞停止を認めた.
心電図でV1∼V3でのST上昇があり冠動脈造影を
施行.右冠動脈のアセチルコリン負荷試験陽性で
あった.第49病日,冠拡張薬投与後も意識消失を
伴う徐脈を頻回に認め,薬物難治性と判断しペー
スメーカー移植術を施行した.脊髄損傷により交
感神経遮断後の高度の副交感神経緊張によると思
われる冠攣縮性狭心症と意識消失を伴う徐脈が合
併した1例を経験した.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
19) 初発症状にて心肺停止状態となった冠攣縮
性狭心症の1例
(東邦大学医療センター大森病院)
木下利雄・久武真二・藤野紀之・高村和久・
岡野喜史・中野 元・並木 温・山崎純一
68歳男性.平成19年3月3日救急隊による心肺
蘇生にて心拍再開し,意識レベル3-200にて来院.
人工呼吸管理後に,完全寛解まで回復.今まで失
神歴や胸痛の臨床経過もなかった.来院時心肺蘇
生されていたため,緊急心臓カテーテル検査施行
するも冠動脈に異常なく,心電図もRI検査でも
虚血性変化は認めず,トレッドミル検査(Stage4
までの負荷)にて異常がないことを確認し,2週
間後に退院.外来経過観察中に夜間,明け方に胸
部違和感が出現し,運動負荷RIを施行し運動中
に下壁誘導にてST上昇を伴い,同領域の欠損像
を認めた.Ach負荷心臓カテーテル検査を施行し,
冠攣縮性狭心症と診断した.初発の症状にて,心
肺停止状態となった1例を経験したので報告す
る.
22) HOCM,MR,Costello症候群に対しMVR,
Myectomyを施行した1治験例
(千葉県こども病院心臓血管外科)
杉本晃一・青木 満・内藤祐次・藤原 直
(同循環器科) 本間 順・山澤弘州・
犬塚 亮・中島弘道
症例は12歳男児.Costello症候群の診断にて当院
にてフォロー.経過中,HOCMの診断となった.
心エコー上moderate MR,LA径56mmと拡大,左
室内圧較差83mmHg,mild Ar,ホルター上PVC
の頻度増加し,アミオダロン,βブロッカー等内
科的治療でもHOCM所見進行したため,手術適
応となった.手術は左側左房切開にてアプローチ.
MVR(On-X valve 27mm)+ myectomyを行った.
左室内圧較差は解除され,PVCは減少した.経過
良好にて外来フォロー中である.
20) 重症多枝冠攣縮の不安定狭心症の診断に12
誘導心電図連続モニタリングが有用であった1例
(横浜市立大学附属病院市民総合医療センター心臓血管センター)
南 一敏・小菅雅美・海老名俊明・日比 潔・
塚原健吾・奥田 純・岩橋徳明・木村一雄
(横浜市立大学病態制御内科学) 梅村 敏
23) 心尖部心室瘤の形成に冠攣縮による虚血の
関与が疑われた心室中部閉塞性肥大型心筋症の1例
(災害医療センター) 清岡崇彦・田原敬典・
稲葉 理・萬野智子・伊藤順子・大下 哲・
小川 亨・櫻井 馨・横山泰廣・佐藤康弘
(東京医科歯科大学循環器内科) 磯部光章
症例は58歳,男性.不安定狭心症の診断で精査入
院となる.狭心発作の持続時間は60秒程度と短時
間であり,狭心発作時に12誘導心電図を記録する
ことは出来なかった.心電図モニターでは発作時
に明らかなST変化は認めず,胸部症状改善後の
12誘導心電図でも明らかな虚血性ST変化は認め
なかった.連続12誘導心電図モニタリングにより
狭心発作時のV1-V4誘導のST上昇発作が捉えられ
た.この他に,12誘導心電図記録では同日に無症
候性に同様の心電図変化を頻回に認めた.冠動脈
造影では器質的有意狭窄は認めず,アセチルコリ
ンを用いた冠攣縮誘発試験では多枝冠攣縮を認
め,心室細動の出現も認めた.本症例のような冠
攣縮による不安定狭心症患者では,12誘導心電
図の連続モニタリング・記録の有用性が示唆され
た.
症例は73歳男.10年前に近医で肥大型心筋症
(HCM)
と診断され,atenolol,verapamil,dysopiramide
の投薬を受けていた.2007年7月24日,安静時胸
痛にて当院に救急搬送され,I・aVL・II・III・
aVF・V4-6にQ波,I・aVL・V4-6にST上昇を認め
たためAMIを疑い,緊急CAGを施行したが,両冠
動脈ともに肺動脈瘻(QP/QS=1.1)を認めたもの
の有意狭窄はなかった.UCG上,心室中部壁厚は
25mmと肥厚し心尖部はボール状に膨らんでおり,
壁も菲薄化していた.上記3剤を中止しACh負荷
試験を施行したところ,前下行枝#7で完全閉塞
となり自然発作と同じ症状も出現,VSAと診断し
た.左室造影では心尖部心室瘤を認め,hinge部に
20mmHgの圧較差を認めた.心尖部心室瘤の成因
として,HCMの自然経過による心筋の線維化に加
え冠攣縮に伴う虚血の関与が考えられた.
21) 運動負荷直後に著明なST上昇を認めた狭
心症の1例
(防衛医科大学校防衛医学研究センター異常環境衛生研究部門)
渡辺 智・鈴木信哉
(同防衛医学研究センター医療工学部門)
高瀬凡平
(同第一内科) 薬師寺忠幸・木村一生・
荒川 宏・宮崎浩司・楠原正俊・大鈴文孝
24) 心室細動で発症した不整脈源性右室心筋症
の1例
(旭中央病院) 安倍紘嗣・佐藤寿俊・
石垣和慶・安部敬亮・伊藤良浩・鈴木洋輝・
小寺 聡・宮地浩太郎・櫛田俊一・神田順二・
鈴木 勝
症例は65歳男性.平成18年5月,労作時の胸部
圧迫感を主訴に近医受診.初診時心電図は,II,
III,aVf,V4-V6における軽度のST変化を認める
のみであった.運動負荷心電図をBruce法にて
stage 2まで実施するが,運動負荷中に症状や心
電図変化は認めなかった.しかし,運動負荷終了
直後よりV2-V6でSTが上昇し始め,3分で5mm
まで上昇した.回復期2分においてニトロペン
を舌下投与し,4分にはSTは基線まで回復した.
また,回復期においても症状はなかった.その後,
直ちに当院に搬送され,緊急心臓カテーテル検査
を実施した.#6に75%の狭窄を認めた.本症例は,
運動負荷中に,血栓形成か血管攣縮により#6の
閉塞が生じたため,著明なST上昇を認めたもの
と考えられた.
症例は52歳女性.特に既往歴はなく,心疾患・突
然死の家族歴はなかった.平成19年4月26日夕食
後に数回の嘔吐を認めていた.翌日未明に四肢
の脱力感を主訴に救急車にて救急外来を受診し
た.救急外来到着後心室細動を繰り返し,電気的
除細動にて停止した.心電図上完全右脚ブロッ
ク,V1∼V3に陰性T波,ε波を認め,血液検査
上低カリウム血症を認めた.心臓超音波検査上右
室壁心尖部に壁運動低下を認めたため,不整脈源
性右室心筋症が疑われた.第5病日にICD植え込
みを施行.右室からの心筋生検にて脂肪変性を認
め,右室造影上の右室心尖部の壁運動低下,late
potential陽性から不整脈源性右室心筋症と診断さ
れた.低カリウム血症に伴い心室細動にて発症し
た不整脈源性右室心筋症の一例を経験したため報
告する.
学士会館(2008 年 2 月) 1011
25) 急速に進行した拡張型心筋症にアミオダロ
ンが著効した1例
(東京都老人医療センター循環器内科)
牧 尚孝・久保田芳明・蔵町里恵・石川 妙・
油井慶晃・齋藤友紀雄・内田 文・小川雅史・
坪光雄介・武田和大・原田和昌・桑島 巌
(東京大学循環器内科) 絹川弘一郎
症例は61歳男性.2006年3月発熱にて近医入院し
肺炎として加療.6月に労作時息切れと呼吸困難
にて当院受診,心房細動にワルファリン,ジギタ
リス,ベラパミルを投与された.9月起座呼吸に
て入院,LVEFは6月の59%より35%に低下した.
アミロイドーシス等も否定的で拡張型心筋症と診
断した.カルベジロールを含む心不全治療に抵抗
性で,冠動脈造影にて前下行枝#7に75%狭窄の
1枝病変を認めステント留置したが,心不全の寛
解と増悪を繰返し2007年1月にはEFは18%まで
低下した.しかし,アミオダロン200mg導入にて
洞調律に復帰,UCG上左室左房径は縮小しEFは
37%まで回復しBNPも正常化した.心筋炎後と考
えられる急速増悪型の拡張型心筋症にアミオダロ
ンが著効した一例を経験したので報告する.
26) 下垂体前葉機能低下症を合併した拡張型心
筋症の1例
(東京医科大学循環器内科) 杉浦美緒・
椎名一紀・松本知沙・目時知美・臼井幹雄・
山科 章
(同糖尿病・代謝・内分泌内科) 永井義幸・
大野光代・鈴木孝典
症例は49歳男性.平成19年4月より拡張型心筋症
の診断にて経過観察中であった.6月下旬より脱
水に起因する腎機能増悪認め緊急入院となった.
入院後無尿の状態で,緊急CHDF施行した.その
後腎不全は速やかに改善,第2病日にはCHDFを
離脱した.しかし,低Na血症(123mEq/L)が持
続したため,内分泌学的精査を施行した結果,TSH
以外の全ての下垂体前葉ホルモンが低反応であっ
た.頭部MRI上ラトケのう胞認めたことから,こ
れによる汎下垂体前葉機能低下症と診断し,ステ
ロイドおよび成長ホルモン補充療法を開始したと
ころ,低Na血症は速やかに改善,心機能も改善
傾向で現在経過観察中である.拡張型心筋症を合
併した下垂体前葉機能低下症に対するGH補充療
法の効果について文献的考察を含めて報告する.
27) Batista手術を行った若年拡張型心筋症の1例
(筑波大学循環器内科) 南場陽一・
渡辺重行・武安法之・瀬尾由広・樋口甚彦・
町野智子・町野 毅・村越伸行・小山 崇・
馬場雅子・河野 了・山本昌良・青沼和隆
(葉山ハートセンター心臓血管外科)
星野丈二・野村文一・磯村 正
症例は16歳女子.12歳の時心電図異常により精
査を受け,EF29%,拡張型心筋症と診断された.
左室は全汎性の収縮低下を示したが,後壁の障害
が強度であった.ベータ遮断薬が開始されたが,
翌年EFの低下(22%)とともに労作時の呼吸困
難が出現,ACE-I,ARBを併用した.しかし2006
年8月(15歳)労作時呼吸困難が増強し非持続性
心室頻拍も出現,同年9月15日左室後壁を切除す
るBatista手術,僧帽弁形成術,左室内クライオ
アブレーションを施行した.術後左室は縮小し
(77mmから61mmへ),EFも増加(17%から22%へ)
し,症状も軽快した.しかし,2007年8月頃より
呼吸困難感と動悸が出現,多源性心室期外収縮が
多発した.本例は左心機能とともに不整脈の管理
が重要であり,アブレーション,CRT,ICDなど
のデバイス治療を含め,その後の経過を報告する.
1012 第 207 回関東甲信越地方会
28) 低血圧の精査入院中に突然死をきたし,病
理解剖にてアミロイドーシスと判明した1例
(公立昭和病院) 佐藤純一・田中茂博・
山田朋幸・小阪明仁・石原有希子・定 利勝・
吉良有二
31) 左冠動脈回旋枝起始異常,川崎病,感染性
心内膜炎を合併したMarfan症候群の1例
(長野赤十字病院循環器科) 加藤太門・
浦澤延幸・臼井達也・宮澤 泉・戸塚信之・
赤羽邦夫・吉岡二郎
78歳男性.2006年11月1日意識消失にて入院,心
電図モニター上心停止を認めたため心肺蘇生を受
けた.心拍再開後も高度の徐脈と約10秒の洞停止
を認めたため11月6日にペースメーカ植え込み術
が実施された.その後徐々に血圧低下と全身倦怠
感を認め外来を受診,血圧は60mmHg台と低下し
2007年7月17日精査加療目的に入院.輸液で若干
血圧の改善を認めたが7月24日の早朝に心肺停止
をきたし死亡の転帰となる.血液検査や心エコー
上特異的な所見を認めず確定診断に苦慮した.病
理解剖にて多発性骨髄腫(Ig-A,λtype)
,AL型
アミロイドーシスと診断された.突然死の原因と
して心アミロイドーシスの関与が疑われ,若干の
考察を加え報告する.
左冠動脈回旋枝起始異常,川崎病,感染性心内膜
炎(IE)を合併したMarfan症候群の一例を経験
したので文献的考察を含め報告する.症例は28歳
男性で,1980年より川崎病,Marfan症候群にて
加療,経過観察されていた.1990年の冠動脈造
影(CAG)では左前下行枝分岐部に4mm大の冠
動脈瘤を指摘されたのみだった.2006年に冠動脈
CT検査を施行され冠動脈瘤に変化がないことが
確認されている.2007年5月14日IEにて当科入院
となった.血液培養ではα-storeptococcus が分離
された.僧帽弁閉鎖不全症の増悪を認めたため待
機的僧帽弁置換術を行う方針となった.術前精査
としてCAGを施行したところ左回旋枝は#11#12
は正常解剖だったが#13#14は右Valsalva洞から
起始していた.9月11日弁置換術が施行され術後
は良好に経過中である.
29) 急性糸球体腎炎加療中に感染性心内膜炎と
診断された心室中隔欠損症の1例
(土浦協同病院循環器センター内科)
鈴木麻美・角田恒和・米津太志・李 哲民・
飯田啓太・小松雄樹・上林拓男・谷口宏史・
大友 潔・永田恭敏・鵜野起久也・家坂義人・
藤原秀臣
(東京医科歯科大学循環制御学) 磯部光章
32) 閉塞性肥大型心筋症に感染性心内膜炎を合
併した1例
(船橋市立医療センター) 内山貴史・
福澤 茂・沖野晋一・稲垣雅行・杉岡充爾・
池田篤史・前川潤平・市川壮一郎・小澤 俊
43歳男性.5歳時にVSDを指摘され経過観察.肉
眼的血尿を主訴に6月26日当院受診し,Cr 13.1
mg/dl,急性腎不全で緊急入院となった.腎生検
は管内増殖性糸球体腎炎像を呈し血漿交換と血液
透析を施行.経過中発熱と炎症反応高値,血液培
養でα溶連菌が検出されCMZとMINOにて軽快,
心エコーで疣贅を認めず9月8日退院した.退院
直後より発熱持続,9月26日Cre 7.7mg/dl,WBC
16170/μl,CRP 11.5mg/dlで再入院した.心エコ
ーで肺動脈弁と三尖弁に疣贅を認め感染性心内膜
炎と診断.再入院時の血液培養は陰性,透析下で
PCG1200万単位/day使用し軽快傾向となった.肺
動脈弁のIEの報告は少なく血液透析に至る急性
糸球体腎炎の合併もまれであり示唆に富む症例と
考え報告した.
30) A.actinomycetemcomitansによるC-ANCA陽
性感染性心内膜炎の1例
(防衛医科大学校内科学一) 堀井俊平・
井出雄一郎・滝口俊一・薬師寺忠幸・
綾織誠人・宮崎浩司・楠原正俊・大鈴文孝
大動脈弁置換術の既往のある78歳男性.6ヶ月持
続する不明熱で入院.経食道心エコーで明らか
な疣贅・人工弁不全を認めなかったものの,異
なる3日全ての血液培養でHACEK群に属する
A.actinomycetemcomitans(Aa)陽性,および進
行する腎不全と糸球体腎炎を示唆する尿沈渣所見
から,感染性心内膜炎(IE)と診断.C-ANCA陽
性のため,抗生剤に加え,ステロイドパルス,免
疫グロブリン投与,血漿交換施行.腎不全に対
し持続血液透析濾過開始.その後,胸水・浸潤
影を伴う呼吸不全が出現,ANCA関連血管炎によ
るものと示唆された.C-ANCA力価の低下にもか
かわらず全身状態悪化し永眠された.Aaによる
ANCA陽性IEの報告はこれまで1例のみであり,
他の細菌によるANCA陽性IEを含め,文献的考察
を加え報告する.
症例は62歳,男性.息切れがあり,収縮期雑音指
摘され当科外来受診.ECG上LVH認め,心エコー
上MR3度,LVOTPG 38mmHgであった.ドブタ
ミン負荷エコー施行した所,LVOTPG 94mmHg
と著明な上昇を認め,HOCM+MRと診断,僧帽
弁置換術施行予定とし,入院となった.入院後す
ぐに38.9℃の発熱と息苦しさの増強あり.心エコ
ー上MRの増悪・僧帽弁前尖に巨大疣贅認めた.
血培にてStreptococcus(+)であり,IE合併と
診断し,PCG投与開始.準緊急的に僧帽弁置換術
施行となった.術後,PCGによると思われる白血
球減少あったものの,その他経過良好であり,術
後37病日に退院となった.今回我々は,HOCM
にIEを合併した一例を経験したため,若干の文
献的考察を加え,これを報告する.
33) 弁瘤を伴った感染性心内膜炎の1例
(東京医科大学循環器内科) 長井 瞳・
石山泰三・森田綾乃・正田朋子・宮城 学・
山科 章
(同心臓外科) 高田宗尚・菊池祐二郎・
西田 聡・渡邊 剛
症例は76歳男性.61歳時に特発性血小板増多症の
診断を受け当院血液内科通院中であった.H19年
5月頃より倦怠感自覚,貧血の進行及び脾腫,炎
症反応高値を認め精査中であった.6月,38℃の
発熱あり,食欲低下,全身倦怠感強く入院となっ
た.スクリーニングにて施行した心エコー図検査
にて大動脈弁に付着する可動性エコーを認めた.
血液培養は陰性であったが経過より感染性心内膜
炎と診断し治療開始したところ,炎症反応は速や
かに改善した.心エコー図検査でも可動性エコー
は消失したが,偏位した大動脈弁逆流と僧帽弁前
尖に弁瘤を形成していたため外科的手術施行し
た.大動脈弁性状は保たれていたため,瘤閉鎖及
び大動脈弁形成術施行した.弁瘤を伴った感染性
心内膜炎の一例を経験したため報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
34) 大動脈弁左冠尖に付着した疣腫の観察に
3D心エコーが有用であった1例
(伊勢原協同病院) 高木俊介・石川尚子・
大橋成孝
37) イベント記録型携帯心電計が診断に有用
だった発作性上室性頻拍症の1例
(国立国際医療センター循環器科)
石川浩雅・岡崎 修・門脇 拓・山崎智弘・
上村宗弘・藤田健太郎・大野邦彦・副島洋行・
田中由利子・樫田光夫・廣江道昭
40) 発作性心房細動を伴う心房中隔欠損症に対
してカテーテルアブレーションとamplatzer閉鎖
術を施行した1例
(埼玉医科大学国際医療センター循環器内科)
上西正洋・松本万夫・加藤律史・須賀 幾・
飛梅 威・堀田ゆりか・石田仁志・西村重敬
症例は,42歳女性.動悸を主訴に平成15年某大学
病院より紹介され外来経過観察中,ここ4年間で
標準12誘導心電図を42回,Holter心電図3回,ト
レッドミル負荷心電図2回,心エコー図2回施
行したが,Holter心電図で症状に一致しない5連
の非持続性心室頻拍が記録されただけで,この
頻脈性不整脈に対しベプリジル150mgで経過観察
した.平成18年よりイベント記録型携帯心電計
(HCG-801)を用い心電図を記録したところ,発
作時にNarrow QRS Tachycardiaを記録した.1
週間ベプリジルを中止し電気生理学的検査を施行
した.最早期逆行性心房興奮電位は,冠静脈洞周
辺に認めるlong RP 型の非通常型房室結節性回帰
性頻拍と診断できたので,逆行性緩徐伝導部位で
の焼灼で頻拍抑制に成功した.イベント記録型携
帯心電計は,不整脈の診療に有用であった.
症例は70歳女性,4−5年前より脈の不整を自覚.
2006年6月に一過性脳虚血発作にて近医入院とな
った.入院時に心電図上,発作性心房細粗細動を
認め,又心臓超音波にてASDを指摘され,中隔の
奇異性運動,推定右室圧54mmHgと肺高血圧を伴
っていた.当院にてAmplatzer閉鎖を予定したが,
心房細動は一過性脳虚血発作の既往より塞栓症の
high risk群であり,Amplatzer閉鎖前に発作性心
房粗細動に対してカテーテルアブレーションを
予定.2006年11月PV isolation 及びcavotricuspid
isthmusの焼灼を行った.術後は洞調律を維持し
ていたため,2月後ASDに対してAmplatzer閉鎖
術施行,術後心臓超音波にて中隔の奇異性運動,
肺高血圧改善が認められた.
35) 心室頻拍に対して静注用アミオダロンが有
効であった4例
(日本医科大学集中治療室) 岩崎雄樹・
中田 淳・吉田明日香・村井綱児・上野 亮・
時田祐吉・加藤浩司・平澤泰宏・山本 剛・
佐藤直樹・田中啓治
(同第一内科) 小林義典・加藤貴雄・
水野杏一
38) 心室性期外収縮を標的とし,アブレーショ
ンに成功した誘発困難な僧帽弁輪起源心室頻拍の
1例
(東邦大学医療センター大橋病院)
久次米真吾・野呂眞人・森山明義・沼田綾香・
手塚尚紀・諸井雅男・鈴木真事・中村正人・
杉 薫
41) 高齢者の偽性心室頻拍に対し小児用アブ
レーションカテーテルを使用し根治し得た経験例
(旭中央病院内科) 阿部浩幸・佐藤寿俊・
小寺 聡・宮地浩太郎・櫛田俊一・神田順二・
鈴木 勝
2007年6月より本邦でも心室細動・心室頻拍(VT)
に対して静注用アミオダロン(AMD)の使用が
可能になった.しかし,その適応症例は多くなく
使用経験の蓄積が必要である.今回当院で静注用
AMDを投与した4例について報告する.症例の
内訳は,【症例1】末端肥大症性心筋症43歳,【症
例2】心サルコイドーシス56歳,【症例3】大動
脈弁狭窄症85歳,
【症例4】急性心筋梗塞66歳で
あり,左室駆出率は平均30.0±5.8%であった.全
例でVTに対して静注用AMDを投与した.症例1
から症例3では初期急速投与後にVTの頻度が漸
減し維持投与中にVTは消失した.症例4では急
速投与終了時に消失した.全症例でVT抑制に有
効であった.静注用AMD投与中,症例3で2秒
の洞停止が認められたが,低血圧やQT延長はみ
られず安全に使用可能であった.
症例は67歳の男性.透析中にwide QRS tachycardia
が認められ,当院に紹介入院となった.電気生理
学的検査でwide QRS tachycardiaが一度だけ誘発
された.頻拍中に房室解離を認め,心室頻拍(VT)
と診断した.しかし,その後はいかなる刺激にお
いても誘発されることはなかった.しかし心室早
期刺激後に再現性を持って一発の心室興奮(PVC)
を生じ,そのQRS波形はVTと同一であった.こ
のためPVCを標的に僧帽弁輪前側壁をmappingし
た.11/12のpace mappingと早期性のある部位で
アブレーションを施行したところ,PVCおよび頻
拍は認められなくなった.誘発困難な僧帽弁輪起
源心室頻拍をアブレーションにより根治できた症
例を経験したので報告する.
36) Fabry病に合併した左室リエントリー性頻
拍の1例
(川崎市立多摩病院) 中野恵美・原田智雄・
脇本博文・田中 修・佐々木俊雄・水野幸一・
藤田禎規
(聖マリアンナ医科大学) 三宅良彦
39) カテーテル操作によるbumpにて完全房室
ブロックをきたした房室結節回帰性頻拍の1例
(社会保険中央総合病院心臓病センター循環器内科)
大西貴士・野田 誠・藤波竜也・山本康人・
村上 輔・古河 瞳・吉川俊治・田代宏徳・
薄井宙男・市川健一郎
(同心臓病センター心臓血管外科)
恵木康壮・高澤賢次
(都立豊島病院循環器内科) 松原清二・
岩上昌義
(東京医科歯科大学循環制御内科学)
磯部光章
72歳男性.感染性心内膜炎が疑われ,入院となっ
た.血液培養にてStreptococcus gordoniiが3回
連続して検出され,経胸壁心エコー(TTE)に
て大動脈弁左冠尖近傍より重度の閉鎖不全が認め
られた.TTEにて,大動脈弁左冠尖に付着した
疣腫の存在が疑われ,続いて施行した経食道心エ
コー(TEE)にても同様な所見が認められたが,
疣腫の同定および全体像の把握には至らなかっ
た.そこで3D心エコーにて観察を試みたところ,
疣腫の同定,全体像の把握が可能であった.抗菌
療法にて解熱し,炎症反応も改善したため退院と
なった.大動脈弁左冠尖に付着した疣腫の観察は,
他の2尖の場合と比較して,TTE,TEEともに
全体像の把握に苦慮することが多く,そういった
症例においては,3D心エコーが有用であると考
えられた.
症例は51歳男性.H14年にFabry病と診断.心拍
数194/分,右脚ブロック型,右軸偏位の持続性
心室頻拍(VT)にて来院.心臓電気生理検査時,
右室期外刺激にてVT誘発,右室ペーシングにて
entrainment現 象 を 認 めreentryが 機 序 と し て 考
えられた.Electro-anatomicalマッピングシステ
ムにて左室心尖部前壁側壁よりに低電位領域を
認めた.Entrainment mappingにて必須緩徐伝導
路は同定できず,低電位領域近傍でfusionを伴い
post pacing intervalがVT周 期 と 一 致,QRS波 に
−45ms先行する局所電位を認めた.通電にて一
過性に停止するも完全なVT停止には至らなかっ
た.VT回路exitは心内膜側に同定することはでき
ず心筋内あるいは心外膜側に存在する可能性が示
唆された.アミオダロンにてVTは抑制されてい
る.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
症例は26歳女性.主訴は動悸,既往歴にwrist cutを有す.
2005年8月12日に動悸を主訴に当院救急外来を受診時,
冷汗を伴い血圧は85/70mmHgで144bpmのnarrow QRS
regular tachycardiaを認めた.頻拍はATP10mgの投与で
停止した.症状を伴う動悸発作の出現頻度が増加しため
カテーテルアブレーション目的で当院入院となる.EPS
にて房室結節の二重伝導路を有するAVNRTが再現性を
持って誘発され,洞調律時に通常のslow pathway電位を
検索中,先端4mmのアブレーションカテーテルの一回
のbumpによりcomplete AV blockをきたした.その後,
房室伝導の回復を期待してステロイドの投与を継続する
もblockと毎分40回程度の接合部補充調律は一年以上持
続した.カテーテル操作のみにてpermanentのAV block
をきたす例は稀であり貴重な症例として報告する.
症例はADLが自立した83歳男性.突然の呼吸困
難を主訴に当院を受診,pre-shock stateで心拍数
約250/分のwide QRS tachycardiaを認めた.電気
的除細動施行直前に自然に洞調律となり心電図で
デルタ波を認めたため,偽性心室頻拍を合併した
ハイリスクWPW症候群と診断し,カテーテルア
ブレーションを施行した.アブレーションは右大
腿動脈アプローチで行われた.しかし腹部大動脈
の蛇行が著明でありブロッケンブローが困難なた
め,安全を考慮し5Frの小児用カテーテルを使用
してアブレーションは成功した.高齢者は動脈硬
化や血管蛇行を高率に合併するため,カテーテル
アブレーション施行に際し特別な配慮を必要とす
る.血管の蛇行が著しい患者において小児用の細
いカテーテルが安全面で有用と考えられたので,
ここに報告する.
42) 有効な経静脈アプローチが得られなかった
症例に心外膜ペーシングが著効した拡張型心筋症
の1例
(聖マリアンナ医科大学循環器内科)
下郷卓史・明石嘉浩・林 明生・西尾 智・
渡邉義之・井上康二・長田圭三・長田尚彦・
三宅良彦
症例は56歳女性.H15年に拡張型心筋症と診断さ
れ,以降4年間で計6回の心不全入院歴がある.
H17年に両心室同時ペーシング療法を施行する
も,後側壁にリードが挿入できず前壁枝に挿入さ
れていた.今回は労作時の呼吸苦を主訴に来院.
心不全の増悪が疑われ即日入院となった.入院後
は安静と利尿剤で自覚症状は軽減するも低心拍出
症候群を主体とする心不全の増悪を繰り返し,薬
物療法の強化が困難であったため非薬物療法を再
検討した.経静脈アプローチでは不十分であった
Dyssynchronyの改善を期待し心外膜リードを留
置した結果,著明に改善し退院となった.心外膜
ペーシングは比較的低侵襲で施行でき,経静脈ア
プローチが困難な重症心不全では検討されるべき
非薬物療法と考えられたため報告する.
学士会館(2008 年 2 月) 1013
43) 原発性胆汁性肝硬変,多発性筋炎に心不全
を併発し,血清中に抗annexin A6自己抗体を認め
た拡張型心筋症の1例
(東京大学循環器内科) 久保田奈実・
藤生克仁・世古義規・筒井健太・大関敦子・
安喰恒輔・山下尋史・平田恭信・永井良三
多発筋炎と原発性胆汁性肝硬変を合併する患者が
心筋障害を併発し,ステロイド内服で経過観察さ
れていた.その後,心機能低下が進行し拡張型心
筋症と診断された.血清中にannexin A6に対する
自己抗体を認め,心筋細胞膜上のannexin A6を刺
激することにより心筋障害を惹起している可能性
が考えられた.さらに最近,洞不全症候群(III型),
非持続性心室頻拍を認め入院となった.電気生理
学的検査で洞機能と房室伝導の低下および多形性
持続性心室頻拍が誘発された.心室遅延電位陽性
であり,植え込み型除細動器の適応となった.ス
テロイド治療により自己免疫性の原疾患はコント
ロールされていたにもかかわらず,心病変の進行
と洞機能不全を発症したことから,その機序とし
て自己抗体を介する心筋障害の関与が考えられ興
味深いので報告する.
46) 難 治 性 肺 炎 と の 鑑 別 に 造 影CTが 有 用 で
あった肺梗塞合併大動脈炎症候群の1例
(東京女子医科大学東医療センター放射線科)
町田治彦・上野惠子・藤村幹彦・鈴木一史・
森田 賢
大動脈炎症候群で肺動脈病変の合併はよく知られ
ているが,肺梗塞合併の報告はまれである.今
回,我々は難治性肺炎との鑑別に造影CTが有用
であった肺梗塞合併大動脈炎症候群の一例を経験
したので報告する.症例は27歳女性.約7週間持
続の感冒様症状を主訴に当院内科受診.炎症反応
上昇と胸部単純写真で右中肺野外側に浸潤影を認
めた.肺炎と診断され,同科入院,抗生剤治療を
されたが,約1ヶ月間改善を認めず.造影CT施
行され,大動脈弓,頸部動脈起始部,肺動脈幹,
両側肺内分枝に壁肥厚,狭窄や拡張が多発し,大
動脈炎症候群と診断された.特に右肺動脈A4お
よび右肺S4浸潤影の造影不良を認め,肺梗塞の
合併が示唆された.肺血流シンチでも右肺優位に
多発欠損像を認めた.ステロイド治療に変更され,
症状および画像所見の改善を認めた.
44) 持続性心室頻拍の原因が心尖部肥大型心筋
症に合併した心尖部心室瘤起源と考えられた1症例
(獨協医科大学越谷病院循環器内科)
藤掛彰則・田中数彦・瀧澤 圭・市原美知子・
清野正典・虎渓則孝・黒柳享義・新健太郎・
由布哲夫・酒井良彦・高柳 寛
47) 炎症性大動脈瘤を合併したMarfan症候群
の1例
(東京女子医科大学心臓病センター心臓外科)
野口 玲・斎藤 聡・根本 慧・渕上 泰・
梅津健太郎・山崎 暁・西中知博・青見茂之・
黒澤博身
症例は65歳男性.平成5年に心尖部肥大型心筋症
(APH)と診断されるが通院自己中断.平成19年
6月,ゴルフ中に激しい動悸を自覚し近医受診.
心電図上,右脚ブロック上方軸の持続性心室頻拍
(VT)を認め緊急入院.左室造影と心臓超音波
検査上,APHに心尖部心室瘤の合併と診断され,
ABL,ICDの適応について精査加療目的に当院転
院となった.MRIにて瘤の一部は菲薄化を伴って
いた.心室瘤の境界心尖部自由壁側において,ペ
ースマップの一致とNSVTに先行する先鋭なP波
の認める部位に対してABL施行しclinicalなVTは
消失した.しかしマッピング中に非持続性多源性
VTも認めたため,後日,ICD植込み施行し退院
となった.今回我々は,APHに心室瘤を合併し,
VTを認めた症例を経験したので報告した.
症例は44歳男性.33歳時にMarfan症候群を指摘
されるも放置.2004年3月に呼吸苦出現により他
院受診したところ,AAE,AR(III)と診断され,
当科でBentall術(SJM 23mm+Hemashield 26mm)
施行.その後,経過良好であったが,2007年3月
に突如腹痛が出現.当院救急外来受診したところ,
造影CTで径48mmの腹部大動脈瘤を認めた.大
動 脈 瘤 の 周 囲 にlow density areaを 伴 っ て お り,
切迫破裂の可能性が高かったため,緊急で人工血
管置換術(UBE 16×8mm)を施行した.術中所
見上,活動性炎症を示唆する瘤壁の赤変と著明な
肥厚を認め,炎症性大動脈瘤が強く疑われた.病
理所見も炎症を強く示すものであった.Marfan
症候群の患者に発症した炎症性大動脈瘤は稀であ
り,若干の文献的考察を加え報告する.
45) S字状中隔により著明な流出路圧較差を生
じたたこつぼ型心筋症で,圧較差が薬剤負荷によ
り再現された1例
(関東中央病院循環器内科) 牧元久樹・
小栗 岳・藤田大司・明城正博・杉下靖之・
田部井史子・伊藤敦彦・早川 宏・池ノ内浩・
野崎 彰・羽田勝征・杉本恒明
48) 上腸間膜動脈の細菌性動脈瘤破裂に対し,
コイル塞栓術が有効であった感染性心内膜炎の1例
(北里大学循環器内科学) 品川弥人・
猪又孝元・西成真琴・成毛 崇・和泉 徹
(同救命救急医学) 西巻 博
症例は75歳女性.朝の満員電車車中で突然強い胸
部圧迫感を自覚.近医受診.心電図上前・下壁領
域ST上昇,TropT陽性のため当院へ救急搬送され
た.胸骨左縁第4肋間にLevine4/6の収縮期雑音
を聴取,心エコーにて心基部過収縮,S字状中隔
を認めた.緊急冠動脈造影にて有意狭窄なし,左
室造影から たこつぼ型心筋症 と診断.左室流
出路に80mmHgの圧較差を認めた.保存的加療に
より2週間で壁運動は正常化,流出路圧較差も低
減.慢性期に薬物負荷心エコー検査を施行.イソ
プロテレノール,ドブタミン,ジルチアゼム投与
により流出路圧較差が増加,ジソピラミド,プロ
プラノロール投与で低下した.S字状中隔は病的
意義が少ないとされるが,本症例から有意な流出
路圧較差を生ずる一因となることが示唆された.
1014 第 207 回関東甲信越地方会
症例は29歳男性.黄色ブドウ球菌を原因菌とした
僧帽弁置換術後の感染性心内膜炎にて入院.高感
受性の抗生剤投与にても感染コントロールは当初
不十分であり,無症候性の脾梗塞と小脳梗塞を発
症した.第6病日に腹部の激痛を訴え,緊急腹部
造影CTにて上腸間膜動脈の細菌性動脈瘤破裂が
疑われた.腹部血管造影にて瘤破裂を確認し,緊
急コイル塞栓術とセファゾリン動注を行った.術
後は腸管虚血徴候もなく,抗生剤の継続により炎
症反応と疣腫の消失が得られた.上腸間膜動脈の
細菌性動脈瘤破裂に対し,コイル塞栓術にて対応
した報告はない.同手法はカテーテルアプローチ
が可能であり,全身状態が比較的安定し,かつ塞
栓による疎血範囲が小範囲で済む場合は低侵襲か
つ有効な手法と考えられた.
49) Color KinesisによるDiastolic stunningの評
価が有用であった1例
(群馬大学臓器病態内科学) 小野洋平・
根岸一明・太田昌樹・高松寛人・八木宏明・
高橋利絵子・齋藤章宏・奥村 渉・富田智之・
中野明彦・金古善明・新井昌史・長谷川昭・
倉林正彦
症例は74歳,女性.歩行中に胸部圧迫感が出現し
不安定狭心症を疑われ当院紹介入院となった.来
院時胸痛は消失しており,心電図もII,III誘導に
Q波を認めるものの明らかなST-T変化を認めな
かった.心エコー図にて心尖部に軽度の壁運動異
常を認めたのみであった.しかし,color kinesis
では三枝病変が疑われ,しかも下壁領域が他の
領域に比しさらに遅れていることから,今朝の
culprit lesionとしてRCA病変を疑った.同日施行
した緊急カテーテル検査では,三枝病変であった.
PCI後にcolor kinesisを再検したところ,第一病
日に認められた下壁領域のdiastolic stunningは認
めず,改善したと考えられた.本症例の虚血診断
およびPCIのstrategyの選択,そして経過followに
おいてcolor kinesisは有効であったと考えられた
ので報告する.
50) 鎖骨下動脈狭窄によるバイパス血流減少に
て発症した狭心症の1例
(東海大学循環器内科) 伊藤大起・
増田尚己・松陰 崇・森野禎浩・椎名 豊・
伊苅裕二・田邉晃久
66歳男性.維持透析中.過去に狭心症と診断され,
CABGを施行(LITA-SVG-LAD#8).透析中の胸
痛にて来院.来院時症状,心電図変化なし.不安
定狭心症の疑いにて入院し,後日CAG,バイパ
ス造影施行.バイパスに狭窄は認めないが,左鎖
骨下動脈に90%狭窄を認め,これによりLITAの
flowが減少,またシャントが左前腕であり,透析
中に特にバイパスへの血流が減少し胸痛が出現し
たものと示唆された.鎖骨下動脈狭窄へ後日PTA
を施行し改善,透析中の胸痛も消失した.左鎖
骨下動脈狭窄によりバイパスへのflowが減少した
ことによって生じた狭心症を経験したので報告す
る.
51) 冠動脈に有意病変を伴わぬ心室中隔穿孔
(横浜労災病院心臓血管外科) 古川 浩・
小西敏雄・深田 睦・森住 誠
77歳女性,特に既往なし.来院3日前より,めま
い・嘔吐出現し,数回失神したため救急受診.血
圧50台のショック状態で完全房室ブロック,心エ
コーにて心室中隔基部にシャントを認めたため一
時的ペースメーカー挿入,冠動脈造影施行も有意
狭窄はなかった.責任病変不明の心筋梗塞後心室
中隔穿孔と診断,気管内挿管,IABP補助し,待
期的にパッチ閉鎖術施行した.術後に恒久的ペー
スメーカーを植え込み,長期リハビリを要したが
退院できた.当院ではこれ以外にも冠動脈病変を
認めないVSPを2例経験しており,文献的考察も
含めて報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
52) 66歳初発の心不全にて発見されたPDA(動
脈管開存症)の1例
(国際親善総合病院循環器内科) 根本正則・
有馬瑞浩・吉田圭子・清水 誠
(横浜労災病院心臓血管外科) 小西敏雄
55) 無症状で発見された先天性僧帽弁疾患の1例
(東京慈恵会医科大学第三病院循環器内科)
堤 穣志・芝田貴裕・藤井拓朗・梶原秀俊・
古賀 純・栗須 崇・妹尾篤史・谷口正幸
(東京慈恵会医科大学循環器内科) 吉村道博
【症例】は,66歳男性.【主訴】は,労作時呼吸苦.
3年前に心雑音の指摘を健診にて受けたことがあ
った.3ヶ月前から,動悸の自覚あり,1ヶ月前
より,労作時の息切れが出現し,徐々に増悪.近
医にて胸水貯留を認め,当初がんセンターへの紹
介を受けたが,心房細動と心不全のため当院へ紹
介.胸部CTにてPDAを認め,精査加療目的入院.
心不全改善後の心臓カテーテル検査Qp/Qs 2.51,
SVR 2245,PVR 514.このため,横浜労災心臓外
科にて手術:PDA閉鎖+AVR(大動脈弁置換)+
高周波ablationを受けた.【結語】高齢初発の心不
全として発症したPDA症例の報告は少なく,考
察を加えて報告する.
症例は19歳男性.出生時より異常所見は指摘され
なかった.高校入学時の検診では収縮期雑音を指
摘されていたが放置していた.今回精査目的にて
当科受診した.胸部レントゲン写真,心電図とも
有意な所見は認められなかった.心エコーにて
EF=67%であり,弁逆流は認められなかった.短
軸像にて僧帽弁は弁中心部で接合し∞の形状を呈
していた.僧帽弁逆流は認められず,僧帽弁の
狭窄所見も認められなかった.心エコー所見よ
りdouble orifice mitral valveと診断した.本疾患
は心内膜床欠損症などの心奇形を合併すること
が多いと報告されており,本症例のようにdouble
orifice mitral valveのみの症例は比較的まれであ
る.今回我々はdouble orifice mitral valveという
まれな僧帽弁奇形を経験した.若干の文献的考察
を行い報告する.
53) 手術により失神が改善した高齢者心房中隔
欠損・心室中隔欠損・肺動脈弁狭窄の1例
(新潟大学医歯学総合病院循環器学分野)
飛田一樹・小澤拓也・大倉裕二・加藤公則・
塙 晴雄・小玉 誠・相澤義房
(同呼吸循環外科学分野) 溝内直子・
武内 愛・高橋 昌・渡辺 弘・林 純一
症例は79歳男性.78歳頃から軽労作による失神を
繰り返したため,当院紹介入院となった.常時酸
素飽和度70%台であり,心エコーでは心房中隔
欠損(ASD)・心室中隔欠損(VSD)・肺動脈弁
狭窄(PS)を認め,推定右室収縮期圧(RVSP)
108mmHg, 肺 動 脈 収 縮 期 圧(sPA)38mmHgで
あった.PSによる失神と考え,ASD,VSDパッ
チ閉鎖術,肺動脈弁置換術を行った.右室はびま
ん性に壁運動低下を認めたが,問題なく人工心肺
を離脱し経過良好であった.術後の心エコーでは
RVSP 22mmHgに改善し,軽労作による失神は消
失した.今回の失神の原因はPSのため労作時の
心拍出量増加が不十分であるにも関わらず右室圧
の上昇に対する反応として末梢動脈が拡張,動脈
圧が低下したことによるものと考えられた.
54) 高齢で発見された左冠動脈肺動脈起始症
(Bland-White-Garland症候群)の1症例
(東名厚木病院医務部) 中根志保・
薄葉文彦・沖 淳義・桐山誠一
左冠動脈肺動脈起始症は先天性心奇形の0.3∼0.5
%を占める極めて稀な病態である.予後は非常に
悪く,生後1年以内に約90%が心筋虚血や致死的
心室性不整脈などにより突然死すると報告されて
いる.今回,70歳で心不全を契機に発見されたB
WG症候群を経験したので報告する.【症例】70
歳女性.労作時息切れにて当院循環器受診した.
心エコーでは左心系の拡張,EFの低下,左室壁
運動の低下,僧帽弁逆流症が認められた.冠動脈
造影では,右冠動脈は約8mmと著明に拡張し発
達した側副血行路を介して左前下行枝が逆行性に
造影された後,肺動脈への造影剤の流入を認めた.
以上より左冠動脈は肺動脈より起始している事が
判明した.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
56) Alagille Syndromeの1例
(千葉大学循環器内科) 野島愛佳・
宮内秀行・李 光浩・長谷川洋・船橋伸禎・
高野博之・永井敏雄・小室一成
症例は23歳男性.幼少期に部分肺静脈還流異常を
指摘されていた.胸痛の主訴と職場検診での心
雑音の指摘から当院紹介され,精査入院となっ
た.経胸壁および経食道心臓超音波検査,心臓造
影CT,心臓カテーテル検査にて部分肺静脈還流
異常,左上大静脈遺残を認めた.他に左房‐上
大静脈シャントがありsinus venosus ASDと考え
られたが,画像診断上は管状構造物を認めたた
め,異常血管の存在が示唆された.これらの先天
性心血管異常に加え,特徴的顔貌と肝葉・総胆管
低形成の所見および兄弟がAlagille Syndromeで
あるという家族歴から,Alagille Syndromeと診
断した.成人後に先天性心疾患を契機にAlagille
Syndromeの診断に至った稀有な症例であり報告
する.
57) ボセンタンが著効した慢性肺動脈血栓症を
伴う心房中隔二次孔欠損+Eisenmenger症候群の
1症例
(東京女子医科大学循環器内科) 宮崎 香・
芹澤直紀・尾崎友美・櫻林佐知子・鈴木 豪・
佐藤高栄・大森久子・谷本京美・志賀 剛・
萩原誠久・笠貫 宏
症例は42歳女性.25歳時に心房中隔欠損症と診断
されたが,既にEisenmenger化していたため保存
的に治療されていた.徐々に低酸素血症が増悪し
2003年CT上肺動脈血栓塞栓症(PTE)と診断し
た.低容量のワルファリンと在宅酸素療法で症状
は軽快していたが,2006年8月より労作時呼吸困
難が悪化し2007年3月に入院した.ボセンタンを
開始し125mg/日で自覚症状(NYHA3→2)と酸
素化(PaO240→50Torr)の改善を認めた.近年
Eisenmenger症候群に対するボセンタンの有用性
が報告されているが,PTE合併例はその予後が不
良であり治療法も確立されていない.今回PTEを
合併したEisenmenger症候群に対するボセンタン
の有用例を経験したため貴重な症例と考え報告す
る.
58) エポプロステノール持続静注療法の偶発的
中断により可逆性左室壁運動低下を認めた肺高血
圧症の1例
(東京都済生会中央病院臨床研修室)
谷山大輔
(同循環器科) 長谷川祐・庄司容子・
河田 宏・平田直己・國廣 崇・中川 晋・
宇井 進・三田村秀雄
66歳女性.心房中隔欠損による二次性肺高血圧に
対しエポプロステノール持続静注療法中.寝返り
をうった際にカテーテルが断裂,直ちに来院し中
断1時間で持続静注を再開した.来院時の心電図
でV3-6のT波は平坦化しており,翌日に巨大陰性
T波が出現,QTは延長した.心エコーで左室中
間部から心尖部の重度壁運動低下,BMIPPシン
チで同部位に欠損を認め,トロポニンTは陽性で
あった.冠動脈CTは正常であったため経過観察
としたところ,1ヶ月後に心電図上のT波陰転化,
QT延長は消失し,壁運動も改善した.エポプロ
ステノール持続静注療法の突然の中断では,リバ
ウンドによる肺高血圧の急激な悪化は知られてい
るが,左室壁運動異常出現の報告はない.教訓的
な症例と考え報告する.
59) 急性心筋梗塞に伴う重症心不全例の急性期
呼吸管理として非侵襲性持続的陽圧換気(NPPV)
を用いた1例
(川口市立医療センター循環器科)
河内謙次・榎本光信・須永大介・須田 伸・
鷲尾武彦・佐藤喜洋・小張 力・野本和幹・
大場富哉
80歳女性.胸痛と呼吸困難感を訴え近医受診し,
急 性 心 筋 梗 塞(AMI) お よ び う っ 血 性 心 不 全
(CHF)を疑われ当院搬送された.入院時ECG上
広範囲ST変化あり,トロポニンT陽性,心エコー
は広範囲前壁の壁運動低下,胸部レントゲン上肺
うっ血著明.血圧低下あり,AMI・CHF合併プ
レショック状態と判断.NPPVにて呼吸状態の改
善見られたため,NPPV下にIABP挿入の上CAG
を施行した.CAG上LAD#6:99%,LCx#13:99%,
RCA#1:90%で あ っ た. 責 任 病 変 と 考 え ら れ た
LADにPOBA,RCAか らLADへ 側 副 血 行 路 あ り
RCAへもPCIを行った.その後,慢性期にLADに
改めてPCIを行い軽快退院した.AMIに伴ううっ
血性心不全例にNPPVによる呼吸サポート下に急
性期治療を行った症例を経験したので報告する.
60) 心不全症状を契機に診断された偽性アルド
ステロン症の1例
(日本赤十字社医療センター循環器内科)
柳澤 毅・加茂雄大・高田宗典・瀧澤雅隆・
魚住博記・福島和之・小早川直・竹内弘明・
青柳昭彦
81歳男性.増悪する全身の浮腫を主訴に入院した.
心エコーにて重度の大動脈弁狭窄症を認め,心不
全による症状と考えられた.フロセミド投与にて
浮腫は軽減したが,その後全身倦怠感と筋力低下
が出現し,入院時から存在した高血圧,低K血症,
代謝性アルカローシスの所見が悪化した.グリチ
ルリチンと甘草抽出物を含む薬剤を長期服用して
いたことから,薬剤による偽性アルドステロン症
と診断した.血漿アルドステロン濃度正常範囲,
血漿レニン活性低値であり診断に矛盾しない所見
であった.原因薬剤の中止,スピロノラクトン投
与とK補充にて治療を開始したところ,症状は改
善し検査所見は正常化した.大動脈弁狭窄症によ
る心不全の治療中に,偽性アルドステロン症と診
断された一例を経験したので報告する.
学士会館(2008 年 2 月) 1015
61) 腎不全を合併した慢性心不全の急性増悪例
にα型ヒト心房性ナトリウム利尿ポリペプチドが
有効であった2例
(さいたま赤十字病院循環器科) 矢野博子・
佐藤 明・小西裕二・村松賢一・田島弘隆・
大和恒博・松村 穣・武居一康・新田順一・
淺川喜裕
α型ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(hANP)
は急性心不全の治療としてIIaの有効性がある.し
かし,腎障害を合併した症例に対するhANPの有
効性は確立されていない.今回我々は腎障害を合
併した肺水腫に対しhANPが有効であった2例を
報告する.症例1は52歳男性.数十年前から心房
細動,慢性心不全を指摘されるも放置.熱中症を
機に急性肝腎不全を合併し,慢性心不全が急性増
悪.Furosemideの静注にて反応なく,hANP0.05γ
に変更し,心肝腎不全は改善した.症例2は59歳
男性.10年前からの高血圧性心疾患および慢性腎
疾患で通院中に,心房細動を合併し肺水腫で入院.
Furosemideの静注は無効.hANP0.05γに変更し,
肺水腫は軽快傾向となるも寛解に至らず,Furosemideの追加投与をしたところ同薬剤への反応
性が改善し病状が寛解した.
62) 約4年半に渡りHANPの持続投与を行なっ
た重症僧帽弁閉鎖不全の1例
(新潟こばり病院循環器内科) 樋口浩太郎・
大塚英明・阿部 暁
症例は72歳女性,54歳時に左房粘液腫の手術を受
けた.68歳時に僧帽弁閉鎖不全(MR)による心
不全で入院.以後,心不全を繰り返し,今回は5
回目の心不全で入院した.心エコーは左房と左室
の拡大(LA=8.5cm,LV=6.0/4.0)
,多量のMRを
認めた.利尿剤の反応が不良だったが,HANPの
持続投与を開始後,尿量が増加し呼吸困難が軽減
した.HANPが効果的と判断し,持続投与を継続
した.経過中,HANPの減量を試みたが,尿量が
低下し,維持量に戻した.外科的治療を検討した
が,肝不全リスクが高く,手術は困難と診断され
た.長期におよぶ入院期間中に心不全が悪化し,
患者は亡くなったが,外科的に治療困難な重症
MRによる慢性心不全に対して,HANPの持続投
与が自覚症状の改善と尿量維持に有効で,効果が
長期間持続した症例として報告する.
63) 心臓MRIにより心筋浮腫と左室内血栓を経
時的に観察した,たこつぼ型心筋症の1例
(埼玉医科大学国際センター心臓内科)
仲神宏子・横田 元・石田仁志・井上 明・
小川晴美・茆原るり・菊谷敏彦・小泉智三・
松村 誠・小宮山伸之・松本万夫・西村重敬
(同放射線科) 木村文子
62歳女性.自宅の納屋が炎上したというエピソー
ドの後,安静時胸痛が出現し,4時間後に胸痛は
軽快.その後症状なく,10日後に他院を受診,心
エコーで心尖部無収縮と心基部過収縮,および左
室心尖部に可動性の血栓を認めた.同日当センタ
ー紹介受診.左室内血栓を合併した,たこつぼ型
心筋症を疑われ,入院した上,安静・抗凝固療法
を開始した.入院後の心臓MRI上でエコー所見と
同様の壁運動の低下と血栓像を認めたが,加えて
Black Blood法によるT2強調画像にて,壁運動低
下部位に一致して高信号域を認めた.約2週間後
の心臓MRIでは壁運動の改善,mass lesionの消
失とともに,高信号域の消失を認めた.心臓MRI
にて心筋浮腫が認められた,たこつぼ型心筋症を
経験したため報告する.
1016 第 207 回関東甲信越地方会
64) たこつぼ型心筋症の再発を認めた2例
(自治医科大学循環器内科) 齋藤俊信・
星出 聡・桂田 健一・富澤英紀・都留利恵・
水野 修・村田光延・勝木孝明・三橋武司・
苅尾七臣・島田和幸
【症例1】47歳時に,初めて飛行機に乗った後,
胸痛を自覚し当院受診.心電図上広範囲陰性T波,
心臓カテーテル検査にて有意狭窄なく,心尖部壁
運動低下を認め,後日壁運動は改善,たこつぼ型
心筋症と診断した.50歳時,再度胸痛自覚し当院
受診,心電図および心臓カテーテル検査にて前回
同様の所見を認めた.【症例2】70歳時に,めま
いを主訴に近医受診.心電図上広範囲ST上昇を
認め,当院紹介受診,心エコーにて心尖部壁運動
低下を認めたが,後日壁運動は改善した.73歳時,
通勤ラッシュの電車に乗った翌朝,胸部不快感を
自覚し当院受診.心電図上広範囲陰性T波を認め,
心臓カテーテル検査にて,有意狭窄なく壁運動低
下を認め,たこつぼ型心筋症の再発が考えられた.
たこつぼ心筋症の再発はまれであり,貴重な症例
と考え報告する.
67) 当院における下肢深部静脈血栓症23症例の
検討
(秦野赤十字病院内科) 小西正紹・
藤井信一郎・澤田玲民・宮崎咲江
【背景】深部静脈血栓症では,合併する悪性腫瘍
などで死亡する症例が少なくない.
【方法】2006
年4月より2007年9月までに当院で診断された深
部静脈血栓症症例23例について検討した.【結果】
内訳は男性10例,女性13例.肺塞栓の合併7例(30
%),悪性腫瘍の合併は10例(43%)で認められた.
61%が下肢浮腫を主訴に受診しており,外科(22
%),整形外科(35%),等内科以外の診療科で初
診する場合が多く見られた.【考察】深部静脈血
栓症は,肺塞栓症や悪性腫瘍など生命予後を左右
する疾患の合併が見られるが,主訴は下肢に限局
しており整形外科や一般外科を受診する割合が高
い.そのような合併症を適切に診断,治療するに
は整形外科や一般外科から内科,循環器科へと綿
密に連携することが望ましい.
65) 生前たこつぼ心筋症と診断された急性ウイ
ルス性心筋炎の1剖検例
(千葉県救急医療センター循環器科)
久保健一郎・石橋 巌・宮崎義也・酒井芳昭・
松野公紀・浪川 進・佐野雅則・山岡智樹・
大野雅樹
68) 妊娠中に深部静脈血栓症を発症し,出産後
カテーテルインターベンションにて再疎通できた
1例
(水戸済生会総合病院循環器内科)
前川恵美・村田 実・大平晃司・山下文男・
福永 博・千葉義郎
症例は64歳,女性.2007年1月下旬より感冒様症
状を認め,2月10日に意識障害の精査のため入院.
心電図で四肢誘導・胸部誘導で広範囲にST上昇
を認め,心エコーで心尖部の無収縮・心基部の過
収縮(たこつぼ様)を認めた.冠動脈造影では右
冠動脈・左前下行枝にそれぞれ75%狭窄を認めた
が,心筋梗塞を起こす程の高度狭窄でなく,左室
造影は心エコーと同様にたこつぼ様であった.保
存的に加療していたが,第6病日に突然心タンポ
ナーデによる心肺停止となった.剖検所見では心
尖部に約1cmの裂創を認めた.病理所見では心
尖部に強い炎症細胞浸潤と核内封入体の存在を認
め,急性ウイルス性心筋炎と診断された.
症例は血栓素因のない27歳女性.妊娠23週左下肢
の浮腫,疼痛を主訴に当院産科に入院した.下肢
静脈エコーにて左大腿静脈のDVTと診断.ヘパ
リン不応性の血栓に対して妊娠37週一時留置型
IVCフィルターを腎静脈上に留置の後帝王切開に
て出産した.出産後フィルターを抜去したが左腸
骨静脈から大腿静脈にかけての血栓が同様に認め
られたため再度腎静脈下にフィルターを挿入し閉
塞静脈を開通させる方針とした.経カテーテル的
に血栓吸引後Wall stentを留置した.1週間後左
腸骨静脈が開通しているのを確認してフィルター
を抜去した.その後症状の再発はない.【まとめ】
妊娠に合併した抗凝固療法無効のDVTに対して
IVCフィルター下に出産し,その後インターベン
ションにて軽快できた症例を報告した.
66) 一時フィルター抜去後に遊離血栓がL1まで
移動し,一時,永久フィルターを併用して溶解し
たDVTの1例
(佐野厚生総合病院循環器内科) 小室哲哉・
渡辺慎太郎・磯部直樹
69) 本態性血小板血症に加えて,経口ピル投与
を誘因として発症した深部静脈血栓症の1例
(芳賀赤十字病院循環器科) 河又典文・
村上善昭
【症例】51歳女性【現病歴】平成11年から子宮内
膜症の治療でピルを服用開始.平成18年末より左
下肢の違和感あり,左下肢の腫脹・疼痛出現し2
月7日初診.造影CTとMRVにて左腸骨静脈の血
栓閉塞あり入院.
【経過】同日一時フィルター留
置,左腸骨静脈血栓吸引術施行するも血栓吸引困
難.2月20日一時フィルターの抜去.抜去後造影
CT施行,L4レベルまでの長大な壁在血栓と,L
1レベルにも10×10mm程度の遊離血栓が認めら
れた.L2~3に永久フィルターを,Th12に一時
フィルターを留置して血栓溶解療法施行.3月7
日L1の血栓は3×3mm程度に器質化し,一時
フィルター抜去し退院となった.【結語】腸骨静
脈血栓は除去術後などは剥離し下大静脈に遊離し
やすいため,経過を造影CTで注意深く追う必要
があると思われた.
47歳女性.平成14年本態性血小板血症(ET)と
診断.平成15年門脈血栓閉塞症を発症.その後ア
スピリンとヒドロキシカルバミドを内服.子宮筋
腫による過多月経のため,平成19年6月21日よ
り経口ピル(ロ・リンデオール)を開始された.
7月2日から右大腿腫脹を生じ,CT上右深部静
脈血栓症(DVT)と少量の肺動脈血栓を認めた.
一時的下大静脈フィルタ(tIVCf)を留置し,ヘ
パリン,ワーファリンで加療した.7月20日輸液
閉塞でtIVCfの屈折が見つかり,フィルタ付近の
血栓形成が疑われたが,屈曲解除とヘパリン再開
でその後血栓再発なく,抜去し退院した.ETに
経口ピルを投与してDVTを発症した例は本邦で
報告はなく,報告するとともに,血栓症のリスク
としての経口ピル,ETそれぞれについての考察,
さらにtIVCfのトラブルについて考察する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
70) 先天性プロテインC欠損症(II型)による
肺高血圧合併慢性肺血栓塞栓症にボセンタンが有
効であった1例
(大森赤十字病院循環器科) 常松尚志・
持田泰行・神原かおり・邑山美奈子
47歳女性,労作時息切れ,浮腫,低酸素血症に
て入院.心エコー上三尖弁逆流圧較差154mmHg.
胸部CTにて左肺動脈閉塞および右肺動脈内血栓
を,肺血流シンチグラムにて左上下葉および右中
葉欠損を認めた.D-dimerは2.14μg/mlと軽度上
昇,その他の凝固系は正常,プロテインC抗原量
は77%と正常であったが活性は52%と低下してい
た.ヘパリン持続点滴後永久下大静脈フィルタ
ーを留置し,ワーファリン内服へ移行した.3
週間後ボセンタン125mgの内服を開始し7週間後
250mgへ増量した.三尖弁逆流圧較差は97mmHg
まで低下した.10週間後の右心カテーテル検査
では肺動脈収縮期圧66mmHg,肺動脈楔入圧3
mmHgであり,左肺動脈は描出されなかった.在
宅酸素療法にて自宅退院となった.
71) 亜広汎型肺動脈血栓塞栓症に対する一時的
大静脈フィルター留置および血栓溶解療法が有用
であった1例
(神奈川県立循環器呼吸器病センター)
加藤真吾・細田順也・尾崎弘幸・大楠泰生・
中戸川知頼・中川 毅・福井和樹・遠山慎一
症例は61歳男性,2007年6月20日に呼吸苦,胸痛
を主訴に当センター初診となった.来院時に頻脈
および酸素飽和度88%と低酸素血症を呈し,血圧
は110/60mmHg,身体所見では二音肺動脈成分の
亢進,心臓超音波検査で右心系の拡大,肺高血圧
を認めたため胸部造影CTを施行したところ,左
右肺動脈本幹に血栓を認め亜広汎型肺動脈血栓塞
栓症の診断で入院となった.下肢静脈エコーにて
右浅大腿静脈に浮遊血栓を認めたため,下大静脈
フィルターを留置し,抗凝固療法を開始した.し
かし臨床症状の改善を認めず,入院6日目にモン
テプラーゼ80万単位による血栓溶解療法を施行し
た.血栓溶解療法試行後にすみやかに臨床症状は
改善し,両側肺動脈および下腿の血栓は著明に減
少したため下大静脈フィルターを抜去した.出血
性の合併症は認めなかった.
72) 発症機序の異なる重症の左心機能障害を
伴った急性広汎性肺血栓塞栓症の2剖検例
(筑波学園病院循環器内科) 尾崎俊介・
坂根みち子・藤枝一司・牛山和憲
【目的】急性広汎性肺血栓塞栓症にて死亡した2剖
検例を報告する.【症例1】62歳女性 呼吸困難
にて来院.来院時心肺停止.救急外来での心エコ
ーにて高度の左心機能障害を伴った著明な右心系
の拡大を認めた.約2時間後死亡確認.【症例2】
60歳女性 呼吸困難にて救急搬送.症例1と同様
に高度の左心機能障害を伴った著明な右心系の拡
大を認めた.バイタル安定後も高度の左心機能障
害は残存し,2週間後に死亡した.臨床経過と剖
検所見から,症例1については肺血栓塞栓症に伴
う左心機能障害,症例2については肺血栓塞栓症
発症以前から左心機能障害が存在していた可能性
が疑われた.【結論】救急受診時の心エコー所見
は極めて類似していたが,左心機能障害の原因に
ついては,機序が異なる場合があり注意を要する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
73) バイパス手術後グラフトとステント内血栓
を繰り返し治療に難渋した2型ヘパリン起因性血
小板減少症の1例
(武蔵野赤十字病院循環器科) 成川研介・
川崎まり子・杉山知代・嘉納寛人・高村千智・
橋本敬史・久佐茂樹・鈴木 篤・岡田寛之・
山内康照・宮本貴庸・尾林 徹
(東京医科歯科大学循環器内科) 磯部光章
症例は57歳男性.三枝病変の狭心症に対し冠動脈
バイパス手術を施行した.術後9日に血小板数は
23万/mm3より5.9万/mm3まで減少し,CTにて右
房,肺動脈,下肢深部静脈に血栓を認めた.術後
28日には,ST上昇を伴う胸痛発作が出現し,緊
急冠動脈造影でRITA閉塞,#1に99%狭窄を認め
たため#1にステントを留置した.翌日抗血小板
第四因子ヘパリン複合体抗体陽性と判明し,2型
ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)であること
が確定した.その後2回にわたりステント内血栓
閉塞を繰り返したが,アルガトロバン0.7μg/kg/
minの連続投与開始後再発は抑制され右房内血栓
も消失した.冠動脈バイパス手術後のHITに対し
充分量のアルガトロバン投与が有効であった症例
について報告する.
76) 拘束型心筋症様病態を呈した自己免疫疾患
の1例
(JR東京総合病院循環器内科) 下村昭彦・
梅舟仰胤・杉下和郎・浅川雅子・碓井伸一・
佐藤倫彦・高橋利之
症例は56歳女性.36歳より関節リウマチ,シェー
グレン症候群,54歳より自己免疫性肝炎(AIH)
の診断にて,PSL内服中.AIHの増悪に伴い,労
作時息切れが増強したため,2006年9月当科受
診.心エコー図上,左室後下壁に壁運動低下(EF
55%)を認め,BNP濃度が649pg/mlと上昇してい
たため,11月に心カテ施行.血行動態上は,M型
の心房圧とdip and plateau型の心室圧(圧レベル
は左>右)並びに心拍出量低下,左室造影上は,
前側壁と後下壁に壁運動低下(EF 41%)を認めた.
冠動脈造影正常.左室心内膜下心筋生検上は,心
筋の変性と軽度の線維化を認めたが,有意の細胞
浸潤やアミロイド沈着はなし.現在も外来フォロ
ー中で,心不全の経過は比較的良好(BNP 239).
拘束型心筋症様病態の形成に自己免疫的機序の関
与が示唆された一例を報告する.
74) 急性冠症候群の発症を契機に特発性血小板
減少性紫斑病が顕性化した1例
(相模原病院) 福岡 拓・森田有紀子・
下津順子・西尾真紀・前島信彦・川口悟史・
井口公平
77) 腰椎椎間板ヘルニアの手術後に溶血性貧血
になった左総腸骨動静脈瘻の1例
(埼玉医科大学国際医療センター心臓血管外科)
石川雅透・朝倉利久・田畑美弥子・石田 徹・
上部一彦・新浪 博
症例は73歳.男性.労作時胸痛を主訴に来院し採
血,心電図検査より急性冠症候群が疑われた.血
小板が2万6千であり,また硝酸剤,抗血小板薬
投与により症状は消失,心電図所見は改善したこ
とから来院日当日の心臓カテーテル検査は保留と
した.保存的に経過観察し,血小板が8万4千ま
で増加した入院病日9日目に心臓カテーテル検査
を施行,前下行枝の99%狭窄を認め同部位に冠動
脈インターベンションを施行した.各種検査の結
果から特発性血小板減少性紫斑病が疑われ,プレ
ドニゾロンの内服を開始.以降徐々に血小板は増
加した.急性冠症候群の発症を契機に特発性血小
板減少性紫斑病が顕性化したと考えられ文献的考
察を加え報告する.
症例は17才,女性.近医整形外科にて右腰椎椎間
板ヘルニアに対して内視鏡下ヘルニア摘出術を受
け,その2日後に突然の溶血性貧血となり,前医
血液内科へ転院となった.末梢血塗抹標本より
血管内破壊性溶血が疑われ,腹部血管雑音から
MRAや血管エコーを行うも診断がつかず,当セ
ンターへ紹介となり,造影CTにて左総腸骨動静
脈瘻と診断された.前医よりステロイド治療がな
されていたので,ステロイドの治療を終えた後,
開腹手術にて瘻孔閉鎖を行った.術後,溶血性貧
血の改善を認め,術後9日目に退院した.腰椎椎
間板ヘルニアの合併症として稀ではあるが,左総
腸骨動静脈の損傷の報告がされている.症状の多
くは動静脈瘻による右心不全や出血による血圧低
下であり,溶血性貧血の報告例は少ない.
75) 心機能低下を来たした限局性強皮症の1例
(東海大学循環器内科) 藤林大輔
(平塚市民病院循環器内科) 栗田康生・
柳澤亮爾・永井利幸・柴田 勝・松原 隆
(同皮膚科) 林 裕嘉・木花いづみ
78) 高Ca血症による腎不全からジギタリス中
毒及び心肺停止を来たした原発性副甲状腺機能亢
進症の1例
(前橋赤十字病院循環器科) 押田裕喜・
丹下正一・宇居吾郎・庭前野菊・西村 茂
完全房室ブロックに対しペースメーカー植え込み
後2年経過し,ペースメーカー植え込み時には良
好であった心機能の著明な低下に伴い心不全を発
症した症例を経験した.入院時に頭部,背部,大
腿に認められた皮疹より多発性の限局性強皮症の
診断に至った.一般的に全身性強皮症で心病変を
合併する率は19%程度,限局性強皮症での心病変
の合併は一般的ではないとされている.完全房室
ブロック,特異的な皮疹,心機能低下を一元的に
説明できるのは全身性強皮症であるが完全房室ブ
ロック出現から2年が経過した時点でも全身性強
皮症の診断基準を満たさず,心病変を合併した限
局性強皮症と考えられた.限局性強皮症であって
も新たな心病変の出現の可能性を考慮しなければ
ならない貴重な症例と考え報告する.
症例は75歳男性.胃癌術後に転院したが,血圧が
低下し呼びかけへの反応が悪いため平成19年3
月11日に当院に救急搬送された.腎不全(Cr 2.8
mg/dl)
,低K血症(K 2.6mEq/l),高Ca血症(補
正Ca 17.3mg/dl)を認め,torsade de pointesから
VTを来した.第2病日より脈拍30台の徐脈を呈
し,突然心静止となったためCPRを施行,6分後
に心拍再開した.ジギタリス血中濃度2.2ng/mlで
あり,ジギタリス中毒から心静止に至ったと考え
た.一次的体外ペーシングを挿入しCHDFを開始
した.血清Intact PTHの上昇及びエコーで副甲状
腺腺腫を認め,原発性副甲状腺機能亢進症と診断,
第9病日に手術を施行した.術後経過は良好で第
12病日にICU退室となった.
学士会館(2008 年 2 月) 1017
79) QT延長を契機に診断された特発性副甲状
腺機能低下症の1例
(東京警察病院循環器センター) 野崎みほ・
西前伊起子・金子光伸・鈴木将敏・笠尾昌史・
白井徹郎
症例は65歳男性.2007年6月26日停車中の車へ突
入し他院救急搬送,来院時意識障害,痙攣を認め,
気管内挿管,中心静脈栄養管理,抗てんかん薬に
て加療.経過中の心電図で著明なQT延長,ホル
ター心電図で非持続性心室頻拍を認め,7月26日
精査目的に当院転院.血液検査所見で低カルシウ
ム高リン血症を認め,内分泌学的検索により特発
性副甲状腺機能低下症を診断した.カルシウム補
正により意識障害は改善,QT時間も短縮し,非
持続性心室頻拍も消退した.本例はQT延長を契
機に診断された特発性副甲状腺機能低下症の一例
であり,稀と思われたためここに報告する.
80) 睡眠時無呼吸を合併した高血圧患者に対し
て薬物学的治療せずにCPAPが奏功した1例
(池上総合病院ハートセンター循環器内科)
榊原 守・坂田芳人・葉山泰史・臼井和胤・
長岡優多・円谷斉子・田代晃子
(東海大学循環器内科) 田邉晃久
【目的】高血圧の治療は,食事,運動療法が基本
であるが奏功しない患者も少なくない.その患者
に睡眠時無呼吸(SAS)が見つかりCPAP療法の
みで血圧が安定化した例を報告する.【経過】55
歳男性.BMI22.6,ウエスト80cm.3年前から,
拡張期血圧100mmHg以上のため他院受診.一年
間食事,運動療法を施行するも改善せず.投薬薦
められたがセカンドオピニオンを求め来院.食事
療法は塩分7g,1600kcal/日.3回/週の500kcal/
回の有酸素運動を施行も,BP140/100mmHgであ
った.冠リスクファクターなし.問診上,夜間い
びきあり,日中傾眠傾向とのことでSASを評価し
た.AHI:42,閉塞性:293回/日と閉塞性SASを
認めた.CPAPを導入し,AHI:4及びBP110/80
まで改善した.
【結論】高血圧の原因の一つにSAS
が隠れている可能性がありCPAPは有用である.
81) 肺動脈圧排により呼吸困難を来たした上行
大動脈仮性動脈瘤の1例
(慶應義塾大学循環器内科) 佐藤誠治・
大野洋平・河野隆志・高橋寿由樹・伯野大彦・
三好俊一郎・安斉俊久・岩永史郎・吉川 勉・
小川 聡
(同心臓血管外科) 志水秀行・四津良平
【症例】71歳男性.
【主訴】労作時呼吸困難.
【既往歴】
1983年解離性大動脈瘤(DeBakey I型)に対し上
行大動脈置換術.【現病歴】2005年より労作時呼
吸困難,易疲労感を自覚し,2006年8月より下肢
脱力発作を時折認めた.2007月2月胸部違和感と
ともに労作時呼吸困難が増悪したため入院.胸部
CTでは大動脈弁輪から尾側に約4cm大の仮性動
脈瘤を認め,右肺動脈を圧排していた.肺血流シ
ンチグラムでは右肺の血流を認めなかった.2007
年3月3日上行弓部大動脈置換術を施行.右肺動
脈閉塞は解除され,肺血流は著明に改善した.本
例は上行大動脈置換術後20年以上経過観察されて
いたが,仮性動脈瘤合併により右肺動脈の圧排を
来たし緊急手術を要した.肺血栓塞栓症類似の症
状を呈し,貴重な症例と考え報告する.
1018 第 207 回関東甲信越地方会
82) CABG術後の僧帽弁閉鎖不全症に対し右開
胸心拍動下に僧帽弁置換術を施行した1例
(さいたま市立病院心臓血管外科)
木村直行・林 一郎
(同循環器科) 村山 晃・石川士郎・
高橋暁行・神吉秀明
(同外科) 秋吉沢林
60歳女性.2001年下壁梗塞発症,右冠動脈にステ
ント挿入し,併存病変(#6:75%,#7:90%,#9:75%,
#13:90%)に対しCABG手術(LITA-LAD,SV-D1,
SV-SV-OM)を実施した.その後内科外来に通院
していたが,2007年3月にNYHAIV度の心不全で
入院.UCG所見はLVDd/Ds55/44,EF35%で,左
室後下壁は菲薄化しtetheringによるIV度のMRを
認めた.CAG上SVG-OMは閉塞していたが,LITALAD,SVG-D1は開存し,LITAは胸骨裏面に癒着
していた.本症例に対しIABP補助下に手術を実施
した.開胸時のLITA損傷の可能性を考慮し,右第
四肋間開胸,大腿動脈送血,SVC・IVC2本脱血
で体外循環を確立し,右側左房切開で僧帽弁置換
術(ATS27,両尖温存)を心拍動下に施行した.術
後2日目に心室細動となりPCPS補助を要したが
離脱し,現在退院に向けたリハビリ訓練中である.
83) 若年男性左鎖骨下動脈閉塞症の1例
(昭和大学横浜市北部病院循環器センター)
荒木 浩・斎藤重男・星本剛一・御子柴幸・
磯村直栄・芦田和博・小原千明・落合正彦
症例は30代男性.喫煙歴以外に特記すべき既往
なし.職業トラック運転手で,ギアチェンジ時
の左上肢しびれが悪化,安静時冷感も加わり当
院を紹介受診.血圧右上肢120/69mmHg,左上肢
86/57mmHgと左右差あり.造影CTにて左鎖骨下
動脈の閉塞が疑われ血管造影で診断確定した.同
部に対して経皮的カテーテルインターベンション
を計画.左上腕動脈と大腿動脈の両方向性アプロ
ーチを行い,逆行性からガイドワイヤ通過に成功.
4.0mmバルーンで前拡張し,8.0mm×30mmのバ
ルーン拡張型ステントを起始部に,その末梢に自
己拡張型ステントを留置.8.0mm balloonにて後
拡張を行い,良好に拡張し,以後症状も改善した.
若年男性の鎖骨下動脈閉塞は比較的稀であり,病
因として動脈硬化以外に,胸郭出口症候群,過去
の外傷等の可能性が考えられた.
84) 経皮的僧帽弁交連切開術(PTMC)により
改善した僧帽弁狭窄症(MS)に伴う重症肺高血
圧(PH)の1例
(東京都立広尾病院循環器科) 小田切史徳・
櫻田春水・手島 保・山口博明・深水誠二・
大塚信一郎・小松宏貴・田辺康宏・水澤有香・
辰本明子・小宮山浩大・弓場隆生・仲井 盛・
高野 誠・北條林太郎
【はじめに】近年,リウマチ熱患者発生の減少に
伴い,国内では若年者のMS患者に遭遇する機会
は少ない.【症例と経過】37歳のフィリピン人女
性.2006年に労作時呼吸困難を継起に当院を受診
し,MSとそれに伴うPHと診断された.その後は
心不全の増悪を繰り返し,2007年5月にPTMCを
施行した.術前の収縮期肺動脈圧(SPAP)は86
mmHg,肺動脈楔入圧は23mmHg,僧帽弁口面積
(MVA)は0.55cm2であった.イノウエバルーンで
22mm,24mm,26mmと段階的に拡張し,術後の
SPAPは78mmHg,MVAは1.2cm2,交連部の裂開を
確認し手技を終了した.3日後の心エコーでは推
定SPAPは46mmHg,MVAは1.44cm2(トレース法)
となり,退院後には自覚症状は著明に改善した.
本症例を若干の文献的考察をふまえて報告する.
85) 3度の心臓手術後に偶然発見された原因不
明の左室瘤
(石心会狭山病院心臓血管外科) 木山 宏・
垣 伸明・齊藤政仁
症例は61歳,女性.昭和49年OMC,昭和50年MVR,
平 成16年AVR+TVRと 3 回 の 心 臓 手 術 の 既 往 を
有する.うつ病のために入院していた前医での
造影CTで左室瘤と診断された.CT上瘤径は38×
28mmで嚢状に突出しており,冠動脈造影では冠
動脈病変はなかった.平成19年6月28日に手術は
大腿動静脈送脱血,Vf下に瘤切除を行った.術後
経過は順調で第24病日にうつ病の治療目的に前医
に転院した.病理や手術所見から仮性瘤と診断さ
れた.左室瘤形成のはっきりとした原因は不明で
あるが,3回の心臓手術が関与している可能性も
ある.
86) コルヒチンが有効であった難治性再発性心
膜炎の1例
(東京医科歯科大学医学部附属病院循環器内科)
根木 謙・浅野充寿・渡部真吾・林 達哉・
上石哲生・李 哲民・樋口晃司・佐々木毅・
櫻井 馨・前嶋康浩・原口 剛・稲垣 裕・
川端美穂子・蜂谷 仁・鈴木淳一・平尾見三・
磯部光章
症例は53歳男性.主訴は発熱,前胸部痛.胸部
X-P上,心拡大,肺うっ血を認め,ECGでST上昇,
心エコーで著明な心嚢水貯留,左室壁運動低下を
認めたため,左心不全を伴う急性心膜心筋炎と診
断.利尿剤,カルペリチドにより肺うっ血は改善
し,心嚢水も減少傾向であったが,前胸部痛が再
発.再度心嚢水の貯留を認め,再発性心膜炎と考
えられた.アスピリン無効のためコルヒチン投与
を開始したところ,心嚢水は消失したが,左胸水
貯留を認めた.CAGで左回旋枝の完全閉塞を認
め,Dressler症候群に伴う心嚢水,胸水貯留も考
えられた.コルヒチン内服継続し,心嚢水,胸水
の再貯留が無いことを確認後,回旋枝CTO病変
に対しPCIを施行した.以上,Dressler症候群が
疑われる再発性心膜炎にコルヒチンが有効であっ
た貴重な症例を経験したため報告する.
87) 肺動脈原発肉腫の1剖検例
(東京厚生年金病院) 山川元太・内田梨沙・
楢崎容史・関口浩司・寺沢公仁子・倉沢忠弘
51歳の男性.月単位で悪化する呼吸苦を主訴に当
院を受診した.著明な右心不全所見を認め,症状
が進行性に増悪するため当初は慢性肺血栓塞栓症
が疑われたが,胸部造影CTにて肺動脈本幹から
左右肺動脈内腔にまたがる一塊の腫瘤性病変を認
め,悪性腫瘍が考えられたが確定診断には至らず,
入院後9日目に右心不全の増悪で死亡した.剖検
により肺動脈原発肉腫と判明した1例を経験した
ので,若干の文献的考察を加えて報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
88) 乳頭状線維弾性腫の1例
(聖マリアンナ医科大学心臓血管外科)
千葉 清・幕内晴朗・小林俊也・近田正英・
柴田 講・村上 浩・安藤 敬・大野 真・
永田徳一郎・遠藤 仁
症例は36歳の男性.会社の健診で高血圧を指摘さ
れ,近医を受診.この際高血圧性心肥大と僧帽弁
前尖辺縁に10.6mm×14.3mmの腫瘤陰影が見つか
り,精査加療目的にて当科紹介.腫瘤の可動性は
あるが僧帽弁逆流はなく,明らかな塞栓症状もみ
られなかった.増大傾向はあったが無症状であり
治療方針として意見が分かれたが,左心系の腫瘤
で可動性があることから腫瘤摘出術施行した.腫
瘤は迅速病理診断で乳頭状繊維弾性腫と判明し,
マージンの追加切除は行わず,僧帽弁前尖に心膜
パッチを逢着して形成した.術後経過は順調であ
った.文献的考察を加えて報告する.
89) 心不全により発見された左室流出路papillary fibroelastomaの1例
(小諸厚生総合病院循環器科) 伊藤健一・
甲斐龍一・疋田博之・古田豪記・山下重幸・
小山正道
症例67歳女性.平成19年6月16日労作時呼吸困難
を主訴に近医を受診し,心不全を疑われたが心エ
コーにて左室流出路に異常な腫瘤を認めた.精
査・加療目的に6月27日当科受診し心不全の診断
で入院となった.心エコーでは左室流出路に有茎
性で可動性のある腫瘤を認めた.利尿剤,血管拡
張剤にて心不全改善後に,心臓カテーテル検査を
施行し冠動脈には有意狭窄なく,心内圧測定も
異常を認めなかった.準緊急的に7月9日腫瘤
切除術を施行した.人工心肺下で経大動脈的に
腫瘍茎の根部で切除し,病理組織から,papillary
fibroelastomaと診断した.左室流出路原発の乳頭
状弾性線維腫は稀であり,文献的考察を加え報告
する.
91) 下肢静脈血栓を血栓源とし卵円孔に陥頓し
た左房内血栓が疑われた左房内粘液種の1例
(榊原記念病院循環器内科) 瀧井 暢・
関 敦・井上完起・高見澤格・相川 大・
井口信雄・桃原哲也・渡辺弘之・三須一彦・
浅野竜太・長山雅俊・梅村 純・住吉徹哉
症例は,81歳女性.左房内腫瘤精査目的で当院入
院となった.経食道心エコー上,卵円孔に陥頓し
たようにみえる長さ約4cmの帯状の腫瘤をみと
め,輝度は高く先端に一部輝度の低い部分がみら
れ血栓の可能性が疑われた.また下肢静脈エコー
で血栓像を認め,これらを血栓源としたものと考
えた.左房内腫瘤の一部は可動性に富み左室内に
落ち込んでいたため塞栓症の可能性が高いと判断
し,同日,可及的に一時的下大静脈フィルター留
置後,準緊急的に左房内腫瘤摘出術を施行した.
手術所見は心房中隔に茎を持つ,一部に石灰化を
伴った約4cmの腫瘤であり,病理診断は,高度
に硝子化した粘液腫であった.また,卵円孔は認
められなかった.下肢静脈に血栓を認め,エコー
上血栓様にみえた左房内粘液腫の一例を経験した
ので報告する.
92) 確定診断困難な心臓原発腫瘍に化学療法が
著効した1例
(昭和大学藤が丘病院) 太田 圭・
本田雄気・河内恵介・若林公平・清水信行・
下島 桐・浅野冬樹・佐藤督忠・堤 健・
東 祐圭・鈴木 洋・嶽山陽一
【症例】58歳,男性【主訴】呼吸苦【経過】DMで
pioglitazone内服中.健診でCTR拡大を指摘され
心膜液の貯留(PE)を認めた.PEの原因は不明で,
pioglitazone中止によりPEは改善.しかし再度RV
前方:7mm,LV後方:35mmとPEを認めた.CT,
UCGでRA,RV前方及び下大静脈付近に腫瘤影を
認め,心膜液穿刺施行するも確定診断つかず.全
身精査行うも異常所見認めず心臓原発腫瘍と診
断.悪性リンパ腫を疑い開胸下腫瘍生検予定中に
心室頻拍からCPAとなり緊急入院.心臓腫瘍が原
因と考え診断的治療として化学療法開始.現在心
臓腫瘤影は縮小傾向にある.【結語】今回,確定
診断に苦慮する症例を経験した.診断困難な場合
には診断的治療として化学療法も有効な手段であ
ると考えられた.
90) 緊急手術の必要性を術前に判断し得た左房
粘液腫の1例
(榊原記念病院) 増田太一・相川 大・
井上完起・高見澤格・関 敦・三須一彦・
井口信雄・渡辺弘之・浅野竜太・長山雅俊・
梅村 純・住吉徹哉
症例は55歳女性.2007年3月31日,発作性上室性
頻拍の発作で近医受診となり,その後に施行した
心エコーで可動性に富む約4cm大の左房内腫瘤
を認め,5月10日当院に紹介入院となった.心雑
音・tumor plop音・塞栓症状などは認めず,血行
動態も安定していた.その他の画像所見上におい
て塞栓症の所見は認めなったが,エコー上腫瘤は
辺縁が不整で可動性に富む形態であり塞栓症の
riskが高いと判断し,5月11日緊急で左房内腫瘤
摘出術を施行した.部位は左房中隔に位置してお
り,性状は赤褐色で,崩れ易いゼリー状の形態で
あった.血栓症のriskの高い左房粘液腫について
文献的考察を含め報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
学士会館(2008 年 2 月) 1019
第 145 回 日 本 循 環 器 学 会 東 北 地 方 会
2008 年 2 月 23 日 フォレスト仙台
会長:下 川 宏 明(東北大学循環器病態学)
1) CTOに対するDESとBMSの比較
(仙台厚生病院循環器内科) 槇田俊生・
井上直人・滝澤 要・密岡幹夫・大友達志・
藤原里美・本多 卓・秋山英之・目黒泰一郎
3) 当院における冠攣縮誘発試験陽性症例の検討
(山形県立中央病院循環器科) 松井幹之・
玉田芳明・福井昭男・高橋健太郎・高橋克明・
佐々木真太郎・矢作友保・後藤敏和
2003年1月から2007年4月までに当院にて施行され
た,慢性完全閉塞病変(CTO)に対するPCI連続
128例を対象として,薬剤溶出性ステント(DES)
留置例とベアメタルステント(BMS)留置例の,
6ヶ月後におけるステント内再狭窄(ISR),標
的病変再血行再建(TLR),標的病変枝再血行再
建(TVR)について比較検討した.【結果】初期
成功率は79%.計100例でステント留置が行われ,
DESが52例,BMSが48例 で あ っ た.DESのISR,
TLR,TVRは そ れ ぞ れ8.5%,5.7%,5.7%.BMS
はそれぞれ32.4%,27.0%,29.7%であった.【結論】
CTOに対するDESの使用はBMSに比較し,ISR,
TLR,TVRを減少させた.
平成16年から3年間に心臓カテ時に冠攣縮誘発試
験を施行した413名中,陽性例70名(男59名,女
11名)について検討.冠攣縮誘発試験はエルゴタ
ミンを冠注して施行し,AHA分類上90%以上狭
窄出現を陽性とした.胸部症状での検査施行62名,
検診異常等で施行が8名.発作状況が明らかな57
名中,安静時症状30名.症状出現時が明らかな54
名中,早朝∼午前中の症状出現34名.運動負荷試
験施行30名中,21名が異常所見.緊急心カテ時に
誘発試験施行17名.使用エルゴタミン量は4,8,
16,32μgが5,20,24,21名であり,比較的少量
でも冠攣縮が誘発された.冠攣縮狭心症例でも早
朝・安静時以外に症状を呈し,負荷試験異常例も
あり,狭心症疑患者に積極的に冠攣縮誘発試験を
施行すべきと考えられた.
2) サイファー留置後にincomplete stent apposition
を合併しlate stent thrombosisを来した2症例の経験
(東北大学循環器病態学) 鈴木秀明・
越田亮司・伊藤健太・中山雅晴・多田智洋・
國生泰範・高橋 潤・安田 聡・加賀谷豊・
下川宏明
4) filter wire device ParachuteTM が有効であっ
た症例
(仙台厚生病院循環器内科) 堀江和紀・
井上直人・本多 卓・滝澤 要・密岡幹夫・
藤原里美・大友達志・目黒泰一郎
late stent thrombosis(LST) はDES特 有 の 重 要
な致死的合併症である.その原因の一つとして,
incomplete stent apposition(ISA)の関与が指摘
されている.当科で経験したサイファー留置後に
LISAを合併するLSTを生じた2例について文献的
考察を含め報告する.【症例1】42歳.男性.平成
16年9月, #6(75%狭 窄 ) に サ イ フ ァ ー3.5×18
mmを留置.パナルジンは3ヶ月間投与後に中止.
アスピ リ ン は 継続. 翌年6月 のCAGで再 狭 窄な
し.平成19年8月,急性心筋梗塞を発症.ステン
ト内血栓閉塞を認めた.【症例2】71歳.男性.平
成17年12月,#6(90%狭窄)にサイファー3.5×
23mmを留置.翌年8月のCAGで再狭窄なし.そ
の後もアスピリン,パナルジンともに継続.平成
19年11月胸痛を生じるようになり,不安定狭心症
と診断.ステント内に99%狭窄を認めた.
1020 第 145 回東北地方会
当院では経皮的冠動脈インターベンション(PCI)
時に発生する末梢塞栓の予防のため,フィルター
型末梢保護ワイヤー ParachuteTM を使用して
いる.ParachuteTMが有効であったと考えられる
症例を報告する.対象血管は固有冠動脈が3症例,
大伏在静脈グラフトが1症例,橈骨動脈グラフト
が1症例で,診断は不安定狭心症が2症例,安定狭
心症が2症例,冠動脈狭窄症および冠動脈解離が
1症例である.いずれの症例もPCI終了後に回収
したフィルター内に肉眼的にdebrisの貯留を認め
た.Debrisの病理学的所見は不安定狭心症症例で
は新鮮血栓を混じた粥腫内容物を,バイパスグラ
フト症例では線維芽細胞や白血球を,冠動脈解離
を生じた症例では新鮮血栓を認めた.
5) ヨードアレルギー症例に対するガドリニウム
造影剤を用いた冠動脈造影
(東北大学循環器病態学) 伊藤健太・
安田 聡・高橋 潤・越田亮司・中山雅晴・
國生泰範・多田智洋・加賀谷豊・下川宏明
【背景】重症ヨードアレルギー患者では,CAGや
CTを行えず虚血性心疾患の診断治療に苦慮する.
【症例】78歳男性.PCI既往の狭心症症例(#2,
#7,#9,#13にステント留置).75歳時のCAGで
#13に再狭窄を認めたが造影中にショックとなり
中止.ステロイド投与下のCAGでもショックと
なった.以降,薬物療法強化の方針としたが,胸
痛が散発するため2007年6月当科紹介.負荷シン
チと負荷MRIにて下壁の虚血が疑われ,MRAに
て#3,#13の狭窄が示唆された.ステント内の
情報を得るため,MRI用ガドリニウム(Gd)造
影剤を用いたDSAによるCAGを施行.Gd造影剤
36mlを用いて4x2方向の撮影を行い,#3,#4PD,
#4AV,#7,#13に有意狭窄を認めたためCABG
の方針となった.【考察】重症ヨードアレルギー
患者において,Gd造影剤を用いたCAGは冠動脈
疾患の診断に有用と考えられた.
6) 非 心 臓 手 術 前 に 低 肺 機 能 の た めPCI・OPCABによるハイブリット完全冠血行再建を施行し
た1例
(東北大学循環器病態学) 高橋 潤・
安田 聡・越田亮司・中山雅晴・伊藤健太・
國生泰範・多田智洋・加賀谷豊・下川宏明
非心臓手術前に低肺機能のためPCI・OPCABに
よるハイブリット完全冠血行再建を施行した1例
を経験した.症例は75歳男性.労作時胸痛のた
め冠動脈造影を施行.左冠動脈主幹部75%,前
下行枝入口部99%,右冠動脈近位部90%を認め,
CABG目的で当院心臓血管外科入院.しかしなが
ら術前検査で両側肺はびまん性繊維化による重度
拘束性障害(%VC 62%)を呈し,約60mmの腹
部大動脈瘤と右総腸骨動脈瘤が合併していた.肺
機能保持のため極力短時間での人工呼吸器管理が
望ましいと考え,まず左内胸動脈−前下行枝1枝
OPCABを施行し,その上で左主幹部と右冠動脈
残存狭窄に対しベアメタルステントを留置し完全
冠血行再建を果たした.PCI施行から1ヵ月後にY
型人工血管置換術を施行したが,循環・呼吸状態
の増悪無く良好に経過した.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
7) 腹部大動脈超屈曲症例に対するIABP下緊急
PCI
(三友堂病院循環器科) 川島 理・阿部秀樹
【症例】70歳代,男性【臨床経過】2007年11月8
日感冒罹患後呼吸苦あり.11月12日より胸苦頻回
となり11月13日当科外来受診.起座呼吸を認めう
っ血性心不全,不安定狭心症と診断.即日当科入
院となった.冠危険因子)高脂血症,痛風【入院
後臨床経過】2007年11月13日11:00,当科緊急入
院.CPK 93 IU/l同日14:00∼胸痛持続するように
なり,徐脈,心源性ショック状態となった為救命
のため緊急PCIを施行した.腹部大動脈の蛇行高
度のため,Seesaw techniqueを用いて,右大腿動
脈よりIABPをようやく挿入.thrombusterにて血
栓吸引後,緊急Stenting施行.(6F-TRI)
;右冠
動 脈( # 1)100%閉 塞 → 0%へ(Driverφ4.0×
30mm)その後は血行動態も安定し,翌日IABP
も抜去した.peak CPK 931 IU/l)
10) 右冠動脈左室瘻に急性冠症候群を合併した
一例
(平鹿総合病院第二内科) 深堀耕平・
関口展代・浅海泰栄・武田 智・菅井義尚・
伏見悦子・高橋俊明・林 雅人
(町立羽後病院内科) 安田 修・松田健一
症例は53歳男性.主訴は右側胸部痛.ACS疑い
で当科紹介となった.心電図にて下壁誘導で軽度
ST上昇.トロポニンT陽性にて緊急的に冠動脈造
影検査を施行.左冠動脈異常なし.右冠動脈は太
く蛇行しており,#1に造影遅延を伴う99%狭窄
を認めた.同部位にて血栓吸引術を施行したのち
IABPを挿入してCCU入室となった.CPKは受診
時の357 IU/Lが最高.心臓超音波にて壁運動異常
は認めなかった.慢性期に施行した冠動脈造影検
査では病変部の狭窄は改善しており,右冠動脈の
遠位部は左室に連絡していた.その血流は非常に
遅延しており,このため血栓が形成されACSを発
症したものと考えられた.予防的に抗凝固療法を
開始した.右冠動脈左室瘻がACSの発症原因にな
ったと推測される稀な症例を経験したので報告す
る.
8) Hed-up Tilt試験時のイソプロテレノール負荷
で冠攣縮が誘発された一例
(秋田大学循環器内科学分野・呼吸器内科学分野)
真壁 伸・石田 大・池田 研・高橋陽一郎・
野堀 潔・飯野健二・小坂俊光・渡邊博之・
長谷川仁志・伊藤 宏
11) 長期にわたる大動脈バルーンパンピング
(IABP)を要した急性心筋梗塞の一例
(市立秋田総合病院) 柴原 徹・池田 研・
藤原敏弥・中川正康
(秋田大学循環器内科学分野・呼吸器内科学分野)
伊藤 宏
症例は54歳男性.既往歴に特記事項なし.平成19
年9月某日深夜,嘔気と心窩部痛を自覚しトイレ
に向かったところで意識消失.救急隊到着時にシ
ョック状態であったが,速やかに循環動態改善し
当院へ救急搬送された.来院後の採血,ホルター,
心エコーで異常なく,運動負荷心電図でも異常を
認めなかった.そのため神経調節性失神を疑い
Hed-up Tilt試験を施行.その結果,controlでは
著変無かったものの,イソプロテレノール負荷で
心電図上ST上昇を伴う胸痛が生じ,徐脈と失神
前駆症状も認められた.後日施行した冠動脈造影
検査でも右冠動脈近位部の冠攣縮を認めたため,
本症例は神経調節性失神に冠攣縮性狭心症が合併
したものと考えた.このような報告は稀であると
考えられるため,文献的考察も加えて報告する.
症例は60歳代男性,平成19年9月某日急性心筋梗
塞の診断で当科に入院.緊急冠動脈造影上3枝病
変で,IABPを挿入し,culprit lesionの左前下行
枝Seg.6の閉塞に対し,冠動脈インターベンショ
ンを行った.経過は良好で,術後3日目にIABP抜
去も,徐々に心不全出現し,ショック状態とな
り,抜去後5日目にIABPを再挿入した.挿入後は
大量のカテコラミン持続静注併用にて血圧を維持
し,途中持続性心室頻拍の発作を繰り返したが,
塩酸ニフェカラントの持続静注で対応した.徐々
に心不全,ショック状態が改善,再挿入33日目で
IABPを抜去した.抜去後,心不全の再発なくリ
ハビリを行った.1ヶ月以上の長期間IABPを留置
した症例は当院では経験がなく,若干の考察を加
えて報告する.
9) 超高齢心筋梗塞患者の予後の検討
(金山町立病院内科) 青木竜男
(山形県立中央病院循環器科) 福井昭男・
佐々木真太郎・羽尾清貴・近江晃樹・
高橋克明・高橋健太郎・玉田芳明・松井幹之・
矢作友保・後藤敏和
(山形県結核成人病予防協会) 荒木隆夫
12) 側副血行路のレシピエント動脈のPCI中に
ドナー動脈灌流域まで再灌流傷害が及んだ一例
(弘前大学循環呼吸腎臓内科学) 相樂繁樹・
樋熊拓未・伊藤太平・泉山 圭・佐々木憲一・
横田貴志・阿部直樹・及川広一・木村正臣・
佐々木真吾・横山 仁・花田裕之・長内智宏・
奥村 謙
【背景】超高齢心筋梗塞患者の治療を行う機会が
増えているが,その予後に関する報告は少ない.
【方法】1996年10月から2006年7月までの間に急性
心筋梗塞で当院を受診した85歳以上の患者,54名
を対象とし後ろ向きに予後と予後予測因子につい
て検討した.【結果】30日死亡率は14.8%,3年生
存率は52.9%,3年間の心臓死回避率は72.8%であ
った.単変量解析では心不全の存在,クレアチニ
ン値の上昇,PCI施行の有無が30日死亡率と,心
筋梗塞のタイプ(ST上昇の有無)とPCI施行の有
無が3年生存率と関連を示していた.しかし,こ
れらはいずれも多変量解析では有意差を認めなか
った.PCIは多変量解析において唯一心臓死を減
少させる因子であった(HR 5.31,p=0.035).【考
察】超高齢者であっても可能な限りPCIを行うこ
とで心臓死が減少する可能性がある.
症例は76歳,男性.CAGではRCA#3 99%造影遅
延を伴う狭窄,LAD#7 90%び漫性狭窄を認め,
RCAへはLADから心尖部を介して#4PDまで至る
epicardial collateral arteryを 認 め た.RCA#3に
対するPCI施行時に,RCA#3から#4までバルー
ン形成術を行ったところslow flowの出現と伴に
下壁誘導のST上昇,心室頻拍を認めた.さらに
胸部誘導のST上昇を認め,LCAを造影したとこ
ろ#7より末梢がno flowとなっていた.IABP作動
下にRCAの病変に対してステント留置後,LAD
病変にもステントを留置し手技を終了した.側副
血行路のレシピエント動脈のPCI中にドナー動脈
灌流域まで再灌流傷害が及んだ稀な例として報告
する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
13) BNP,H-FABP,PTX3による心不全患者の
リスク層別化について
(山形大学循環・呼吸・腎臓内科学分野)
石野光則・竹石恭知・新関武史・鈴木 聡・
野崎直樹・広野 摂・渡邉 哲・二藤部丈司・
宮本卓也・宮下武彦・北原辰郎・佐々木敏樹・
久保田功
【背景】脳性利尿ペプチド(BNP),ヒト心臓型脂
肪酸結合蛋白(H-FABP)
,ペントラキシン3(PTX3)
は,それぞれ心不全患者において優れた予後予測
因子であることが報告されている.しかし,こ
れらの3つのマーカーを組み合わせた検討は行わ
れていない.【方法・結果】当院に入院した連続
164人 の 心 不 全 患 者 に お い て,BNP,H-FABP,
PTX3の測定を行い,異常値の数をスコア化し(0
−3点),予後を追跡調査した.単変量Cox比例ハ
ザード解析の結果,スコアが高いグループは最も
心イベント発症のリスクが高く,Kaplan-Meier法
による検討の結果でも,スコアが高くなるにつれ
て予後が不良であった.【結論】3つのマーカーを
組み合わせることにより,心不全患者をより詳細
にリスク分類し得る可能性が示唆された.
14) ICD植え込み後に自家末梢血幹細胞移植を
施行し,心筋拡張障害の改善を確認し得た心アミ
ロイドーシスの一例
(福島県立医科大学第一内科) 大竹秀樹・
矢尾板裕幸・小川一英・鈴木 均・高野真澄・
阿久津和子・野地秀義・石川和信・石橋敏幸・
丸山幸夫・大戸 斉
【症例】64歳,女性.某病院に心不全のため入院.
入院後精査にて多発性骨髄腫と診断された.心不
全,重篤な不整脈(心室細動),左室肥大,拡張
障害を認め,心アミロイドーシス疑いにて当科入
院となった.入院後に行った心筋生検にて心アミ
ロイドーシスと診断した.その後,ICD植え込み
を行った後,末梢血幹細胞移植を施行した.移植
後,順調に経過し,移植35日後に退院した.退院
後,心不全の増悪は認めず経過,7ヶ月目の心エ
コーでは拡張障害の消失を確認した.【総括】今
回,心アミロイドーシスを合併した多発性骨髄
腫症例にICD植え込みの上で造血幹細胞移植を施
行した結果,突然死を回避し左室の拡張障害の
reversalを証明し得た.本症例は心アミロイドー
シスの治療を考える上で,新しい方向性を提示し
ていると考える.
15) うっ血性心不全症例における栄養状態と入
院日数についての検討
(仙台オープン病院循環器内科) 浪打成人・
高橋務子・杉江 正・加藤 敦・金澤正晴
心不全患者において栄養状態不良な患者の予後は
不良であるが,心不全入院中に栄養状態が治療経
過に影響するかどうかは不明である.拡張型心筋
症による心不全で入院加療を要し生存退院した連
続50症例について入院時栄養状態,入院中の栄養
状態の変化と入院日数を検討した.平均年齢67±
12歳,入院時BNP濃度1270±1470pg/ml,平均入
院日数は31±18日だった.入院時アルブミン濃度,
リンパ球数は入院日数と相関を認めなかったが,
いずれも入院中の最低値が低いほど,また入院後
の減少の程度が強いほど有意に入院日数は長かっ
た(p<0.05).年齢,貧血,左室駆出率,BNP濃
度は入院日数に影響しなかった.うっ血性心不全
の入院治療において栄養状態を維持することが早
期退院に有利にはたらく可能性がある.
フォレスト仙台(2008 年 2 月) 1021
16) 左心室・右心房内血栓を生じた心不全の一
例 ∼うっ血肝による凝固能異常の関与∼
(仙台医療センター循環器科) 深澤紗紀・
尾上紀子・清水 亨・田中光昭・馬場恵夫・
谷川俊了・篠崎 毅
【背景】心不全は塞栓症の危険因子であることが
知られているが,その機序は明らかでない.我々
は,心不全とうっ血肝を介した凝固能異常が心内
血栓形成と関連したと考えられる一例を経験した
ので報告する.【症例】45歳男性.呼吸困難,下
腿浮腫にて来院.高血圧,発作性上室性頻脈,胸
腹水貯留,及び収縮能低下(LVEF18%)より心
不全と診断した.同時に著明なうっ血肝,凝固能
異常,及び左室と右房内の壁在血栓を伴っていた.
治療による心機能改善と平行して,うっ血肝と凝
固能は正常化し壁在血栓も消失した.後に試行し
た心カテーテル検査により,心不全の原因は高血
圧性心肥大と長期間持続した発作性上室性頻脈で
あると考えられた.【考察】重症心不全に伴い凝
固能異常と壁在血栓が生じうる.その機序の一つ
がうっ血肝であるかもしれない.
17) 重症うっ血性心不全を合併した睡眠時無呼
吸症候群の患者にAdaptive servoventilation(ASV)
を導入した一例
(みやぎ県南中核病院循環器科) 小山二郎・
瀧井 暢・塩入裕樹・堀口 聡・井上寛一
【症例】63歳 男性【既往歴】脳梗塞,高血圧,
糖尿病【現病歴】2007年1月より歩行時の息切れ
を自覚,当院を紹介された.心エコーにて左室肥
大と心収縮力の低下を認めた.心臓カテーテル検
査では冠動脈に有意狭窄はみとめなかった.入院
後睡眠時無呼吸をみとめ心収縮力低下の原因との
関連が考えられた.夜間のみCPAPを導入し心不
全増悪せず経過した.ポリソムノグラフィーでは
AHIは37.2回/時で中枢型無呼吸と閉塞型無呼吸
が混在していた.中枢型無呼吸では漸増漸減様の
呼吸を周期的に繰り返すチェーン・ストークス
呼吸をみとめ,覚醒状態でもみとめた.CPAPタ
イトレーション施行.漸増漸減様のチェーン・ス
トークス呼吸はほぼ消失し大部分は安定した呼吸
がみとめられ,AHIは3.6回/時に減少した.現在
ASVを導入しQOLの改善が得られている.
18) 下垂体腫瘍摘出術後の外来経過観察中に心
不全を発症した末端肥大症の一症例
(山形大学循環・呼吸・腎臓内科学分野)
玉渕智昭・二藤部丈司・田村晴俊・奥山英伸・
西山悟史・宮下武彦・宮本卓也・渡邉 哲・
広野 摂・野崎直樹・竹石恭知・久保田功
症例は55歳男性.52歳に末端肥大症の診断.初
診時の成長ホルモン(GH)41.3ng/ml,インスリ
ン様成長因子-1(IGF-1)610ng/mlと高値.ドパ
ミン受容体刺激薬の開始後GH 7.25ng/ml,IGF-1
490ng/mlまで改善したが効果不十分のため下垂
体腫瘍摘出術を施行した.術後GH/IGF-1はほぼ
正常化していたが,術後8ヶ月に心不全を発症し
入院となった(NYHA III°).心エコーでは軽度
の左室肥大,左室内腔の拡大及び全周性の壁運動
の低下を認めた(左室収縮末期径67mm,左室駆
出率33%).冠動脈造影では有意狭窄を認めず.
心筋組織所見は心筋細胞の肥大と配列異常を認め
たが繊維化は認められず.今回我々は下垂体腫瘍
摘出後にGH/IGF-1はほぼ正常化したにもかかわ
らず拡張型心筋症様の形態を呈し心不全に至った
一症例を経験したので報告する.
1022 第 145 回東北地方会
19) PCPSが有効であった降圧剤大量服薬によ
る薬剤抵抗性ショックの一例
(山形大学循環・呼吸・腎臓内科学分野)
西山悟史・宮本卓也・二藤部丈司・玉渕智昭・
奥山英伸・田村晴俊・宮下武彦・渡邉 哲・
広野 摂・野崎直樹・竹石恭知・久保田功
症例は39歳男性.高血圧にて当科外来受診して
い た が, 不 定 期 通 院 で あ っ た. ア ム ロ ジ ピ ン
850mg,ビソプロロール150mgを内服,2時間経
過した後当院へ搬送.来院時意識は傾眠傾向で収
縮期血圧54mmHg,脈拍60/分.ドパミン,ドブ
タミン,エピネフリン,ノルエピネフリンを持続
静注したが,収縮期血圧40-50mmHgとショック
が遷延.人工呼吸器管理下にPCPSを用いて循環
動態を維持した.その後ショック腎からSCr上昇
(max5.4mg/dl)と乏尿を認め,利尿剤に反応せ
ず肺うっ血,胸水が出現したためCHDFを施行.
徐々に血圧は上昇,PCPS,CHDFともに離脱可
能となり,腎不全も改善を認め,精神科転科後に
退院可能となった.降圧剤大量服薬後の遷延する
薬剤抵抗性ショックに対して,PCPSを用いて重
篤な後遺症無く救命し得た症例を経験したので,
ここに報告する.
20) 若年者に発症した肺塞栓症の一例
(仙台厚生病院循環器内科) 松本 崇・
鈴木健之・井上直人・密岡幹夫・大友達志・
藤原里美・滝澤 要・本多 卓・目黒泰一郎
症例は20歳の男性.平成19年4月27日,左胸痛お
よび血痰あり前医を受診した.体温は37.5℃,胸
部レントゲン写真にて左下肺野に浸潤影を認め,
肺炎,胸膜炎の疑いにて当院呼吸器内科に入院
となった.CZOP 2mg/dayを開始後,CRP 3.17→
0.72mg/dlと低下し胸痛も改善した.しかし,血
痰が改善せず精査を進めたところFDP 21.8μg/
ml,胸部CTにて肺動脈および内腸骨静脈に多量
の血栓像を認め,5月9日に肺塞栓症の診断にて当
科へ転科となった.ヘパリン,ワーファリンの投
与を開始後,自覚症状は軽快し,血栓の消失を認
めた.また,スクリーニングにてプロテインS 12
%と著明な低下を認めた.今回,プロテインS欠
損症を基礎疾患に持つ若年者に発症した肺塞栓症
を経験したため,考察を交え報告する.
22) 脳梗塞急性期にHITを発症した一例
(秋田赤十字病院循環器科) 関 勝仁・
勝田光明・青木 勇・照井 元・伊藤 宏
(秋田大学循環器内科学分野・呼吸器内科学分野)
伊藤 宏
症例は63歳男性.右片麻痺の脳梗塞にて,前医入
院.脳梗塞発症約2時間後にt-PA静注施行し,翌
日よりオザグレルNa開始.軽度麻痺の進行あり,
エダラボン,ヘパリンの追加投与開始.第6病日
よりSpO2が著名に低下,第7病日肝機能障害にて,
エダラボン・ヘパリン中止.その後SpO2低下が
遷延するため,下肢エコー・肺血流シンチ・CT
施行し,肺塞栓症と診断され,さらに血小板 2.6
/μLと著明な低下していたため,当院へ転院と
なった.ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)を
疑い,アルガトロバンの投与を開始.その後,肺
塞栓の消失と血小板数の改善を認めた.脳梗塞治
療中にHIT発症した例を経験したので報告する.
23) 脳梗塞急性期における高BNP血症は左心
耳機能低下を示唆する
(山形大学循環・呼吸・腎臓内科学分野)
田村晴俊・広野 摂・奥山英伸・西山悟史・
竹石恭知・久保田功
【背景】BNPは脳梗塞急性期において上昇するこ
とが知られている.【目的】急性期脳梗塞患者に
おいて血漿BNP値と左心耳機能低下の関連性を
検討した.【方法】発症1週間以内の急性期脳梗塞
患者連続103例に対し経食道心エコーを施行し,
BNPを測定した(男性,n=64,67±13歳;女性,
n=39,74±8歳)
.器質的心疾患を有する症例は
除外した.【結果】BNPは左心耳血栓を有する群
(n=11,240±204pg/ml)と左心耳血栓はないが
左心耳血流速度が低下した群(n=9,154±100
pg/ml)で,血流速度正常群(n=83,70±93pg/ml)
に比し有意に高値であった(P<0.0001).BNPは
左心耳血流速度と負の相関関係を認め(R=-0.425,
P<0.0001),洞調律症例においても結果は同様で
あった.【結論】脳梗塞急性期におけるBNPの上
昇は左心耳の機能低下と血栓形成を鋭敏に反映す
る.
21) 感冒様症状に続発した甲状腺機能亢進症を
契機に増悪した肺高血圧症の一例
(東北大学循環器病態学) 三浦 裕・
福本義弘・福井重文・杉村宏一郎・縄田 淳・
下川宏明
24) 冠微小循環における血管平滑筋の収縮に
は,心筋細胞からの血管収縮/拡張作動物質の産
生が関与する
(福島県立医科大学第一内科) 山口 修・
斎藤修一・金城貴士・石橋敏幸
症例は特発性肺動脈性肺高血圧症の24歳女性.
2004年7月に労作時息切れが出現し,2005年7月
に診断,9月よりフローラン治療を開始・漸増す
るも症状増悪,右心不全を繰り返すため,2007
年4月に当科再入院した.カテコラミン投与によ
り,右心不全が改善したものの,フローランを
35ng/kg/分まで増量しても労作時息切れが悪化
してきており,肺循環血行動態も改善せず,容易
に右心不全が出現するため,内科治療の限界と考
え,同年8月脳死肺移植登録を行った.9月下旬,
軽度の感冒様症状を契機に甲状腺機能亢進症(最
大FT4 7.68,FT3 13.22)を呈し,コントロール
不能な右心不全状態となった.家族の申し出によ
り生体肺移植を施行することとなったが,甲状腺
クリーゼの高リスクと考え,抗甲状腺薬にて甲状
腺機能を安定化させ,生体肺移植を施行した.
【目的】心筋におけるα刺激が冠微小循環を収縮
させる現象を解明すること【方法】ラットから心
臓を摘出し心筋細胞を採取.心筋をphenylephrine
(PH)で刺激し,得られた上清をラットの心臓か
ら単離した冠動脈中隔枝に加え血管径を測定.心
筋細胞のROS活性をDHE,DCF染色で判定.【結
果】中隔枝はPHにより刺激した上清を加えると
収縮したが,NADPH oxidase阻害薬 apocyninを
血管側に加えると解除された.また,ミトコンド
リア電子伝達系complex 1 blockerであるrotenone
を加えると拡張した.PH刺激により心筋細胞に
おけるROS活性は亢進しrotenoneによる増強を認
めた.【結論】冠微小循環にはalpha-adrenergicangiotensin-endothelin-axisが存在し血管平滑筋
を収縮させ,活性酸素種を介する心筋細胞からの
血管収縮/拡張作動物質の産生が関与する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
25) 拡張型心筋症に合併した薬剤抵抗性心室頻
拍に対しCARTOシステムが有用であった一例
(山形大学循環・呼吸・腎臓内科学分野)
大瀧陽一郎・宮下武彦・玉渕智昭・奥山英伸・
田村晴俊・西山悟史・宮本卓也・二藤部丈司・
渡邉 哲・広野 摂・野崎直樹・竹石恭知・
久保田功
28) 陳旧性心筋梗塞と大動脈弁閉鎖不全症によ
る心不全に房室結節アブレーションと心臓再同期
療法が著効した一例
(山形県立中央病院循環器科)
佐々木真太郎・羽尾清貴・近江晃樹・
高橋克明・高橋健太郎・福井昭男・玉田芳明・
松井幹之・矢作友保・後藤敏和
55歳,男性.1999年に拡張型心筋症と診断.2004
年7月に心室頻拍(VT)によるめまいが出現し心
臓電気生理学検査(EPS)を施行したところVT
が誘発されたため植込み型除細動器(ICD)植込
み術と薬物治療を行った.2006年5月よりVTが頻
回となり近医に入院.薬剤抵抗性VTのためカテ
ーテルアブレーション(ABL)目的に当院へ紹介.
EPSではペーシングで容易に誘発・停止が可能な
右脚ブロック,I,aVL陽性,II,III,aVF陰性の
リエントリー性VTを認めプルキンエ電位を指標
にABLを行ったところVTは誘発されなくなった.
しかし焼灼翌日から再びVTが多発.再度EPSを
行ったところ前回とは波形の異なる2種類のVTを
認めCARTO mapとpace mapを併用し左室基部前
壁と左室側壁を起源とするfocal VTに対し焼灼を
行い成功.以後VTの再発は認めていない.
【症例】40歳代後半 男性【現病歴と経過】2006
年広範前壁梗塞を発症し左前下行枝に冠動脈形成
術を施行.急性期に心室細動となりアミオダロン
導入.心室細動を繰り返すためICD移植術を施行.
その後大動脈弁閉鎖不全症と大動脈弁輪拡張症に
対し大動脈基部置換術+左室形成術を施行.経過
中に間質性肺炎と心不全を発症,心室頻拍,心室
細動のコントロール困難で心原性ショックとな
り,緊急房室結節アブレーションを施行し頻拍を
コントロール,CRT-Dにアップグレードし,心
不全のコントロールが可能となった.房室結節ア
ブレーション及び心臓再同期療法が著効し,心不
全のコントロールが可能になった一例を経験した
ので報告する.
26) 通常型心房粗動における右心房伝導速度の
検討
(東北大学循環器病態学) 山口展寛・
熊谷浩司・福田浩二・若山裕司・菅井義尚・
広瀬尚徳・下川宏明
29) VF停止後の側壁誘導にてST上昇を認めた
冠動脈攣縮合併Brugada症候群の1例
(東北大学循環器病態学) 福田浩二・
熊谷浩司・若山裕司・広瀬尚徳・山口展寛・
菅井義尚
(仙台市オープン病院循環器内科) 浪打成人
(東北大学循環器病態学) 下川宏明
【背景】心房粗動(AFL)において,分界陵や静
脈洞のような機能的障壁の部位やその横断的伝
導によりAFL回路の多様性が知られている.ま
た,AFL中の伝導遅延部位も同定されていないた
め,AFL中の伝導速度について検討した.【方法】
AFL8例を対象とし,AFL時にCARTOシステムを
用いてマッピングを行い,中隔,後壁と自由壁そ
れぞれにおいて,垂直方向と水平方向の近位の2
点間の伝導速度を計測した.【結果】垂直方向に
おける中隔の伝導速度は,自由壁の伝導速度に比
し有意に遅く(p<0.01),水平方向においても中
隔側は,自由壁より有意に遅かった(p<0.01)
.
【結
論】AFLにおいて,右心房自由壁に比べ中隔側で
伝導遅延を認めた.中隔側の伝導速度遅延がAFL
の回路に影響を与えることが示唆された.
症例は57歳男性.2006年11月夜間に心肺停止.救
急隊到着時VFを認め除細動施行し,近隣の病院
に搬送入院となる.入院初日の夜間にVF発作あ
り,除細動施行.その直後の12誘導心電図でI,
aVL,V3-V6誘導にてST上昇を認め,緊急冠動脈
造影行われたが有意狭窄なし.後日冠動脈スパズ
ム誘発試験で右冠動脈攣縮が誘発された.またサ
ンリズム負荷にてBrugada ECG出現し,Brugada
症候群との鑑別・ICD適応に関して当院紹介とな
る.転院後,タンボコール負荷にてCoved typeの
ST上昇出現.EPSにてRVOTからの2連刺激で
VFが誘発され,Brugada症候群の存在が示唆さ
れ,ICD植え込みとなる.VFへの冠動脈攣縮の
関与も否定はできず,カルシウム拮抗薬内服下に
外来フォローとなり,再発なく経過している.
27) 発作性上室性頻拍を有した産褥性心筋症の
1例
(仙台市立病院循環器科) 住吉剛忠・
八木哲夫・石田明彦・滑川明男・田渕晴名・
山科順裕・佐藤弘和・中川 孝・櫻本万治郎
30) 室房解離を呈した通常型房室結節回帰性頻
拍の一例
(仙台市立病院循環器科) 中川 孝・
八木哲夫・滑川明男・石田明彦・山科順裕・
田渕晴名・住吉剛忠・佐藤弘和・櫻本万治郎
症例は28歳女性.学童期より動悸発作があった.
平成19年1月に第2子を満期産で経膣分娩した.
約3ヵ月後の4月15日頃より下腿浮腫,労作時息
切れ,夜間発作性呼吸困難が出現したが様子を見
ていたところ,4月22日頃より動悸が持続し26日
に呼吸苦が増悪したため前医受診しうっ血性心不
全,発作性上室性頻拍(PSVT)の診断で精査加
療目的に当院紹介となった.hANPやカテコラミ
ン,利尿剤等により急性期を脱し,ACE阻害薬
やβブロッカーを導入した.心機能は徐々に改善,
PSVTに対してはverapamil内服で経過を見ていた
が散発し約1ヵ月半後に心臓電気生理学的検査を
施行し左側副伝導路に対するカテーテルアブレー
ションを試行した.以後再発なく経過し,心機能
もほぼ正常化している.心筋炎や二次性心筋症は
諸検査と臨床経過より否定的で,産褥性心筋症が
考えられた.
25歳女性.PSVTの診断で心臓電気生理学検査を
施行.Control studyでは,心室刺激(VP)によ
る室房電導が弱いながらも存在し,最早期心房興
奮部位はHis束であった.また,房室結節は順行
性の二重伝導路であった.誘発された140bpm前
後のnarrow QRS tachycardiaは室房解離∼2:1の
HAブロックを呈し,心房に電導した際の興奮順
序はVPの時と同一であった.イソプロテレノー
ルの負荷で頻拍は1:1で心房に電導し,通常型房
室結節回帰性頻拍と診断した.Slow pathwayの
焼灼後,あらゆる刺激で誘発は不可能となった.
この結果はupper common pathway(UCP)の存
在とUCPが通常型AVNRTの頻拍回路に関与して
いない事を示唆している.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
31) 高位右房後壁からのカテーテルアブレー
ションが有効であった心房頻拍の一例
(福島県立医科大学第一内科) 金城貴士・
鈴木 均・上北洋徳・神山美之・山田慎哉・
大竹秀樹・義久精臣・国井浩行・斎藤修一・
石川和信・石橋敏幸
症例は83歳女性.2007年7月に心拍数132/分の心
房頻拍を指摘され当科紹介となった.胸部X線上
肺うっ血を伴う心拡大,心エコー上EF40%台の
低下があり頻拍誘発性心筋症としてカテーテルア
ブレーションを施行した.CARTO system下にマ
ッピングを施行し,頻拍中の心房最早期興奮部位
を高位右房後壁に認めた.同部位ではfragmentし
た複数の電位を認め,造影上右上肺静脈の対側で
あったため左房起源の可能性も考えられた.しか
し,同部位でのペーシングでpost pacing interval
は頻拍周期にほぼ一致し,同部位への通電にて頻
拍は停止した.その後のプログラム刺激でも再発
を認めず,頻拍根治後の心機能は改善した.カテ
ーテルアブレーションにて高位右房後壁起源の心
房頻拍を根治し,頻拍誘発性心筋症の改善を認め
た一例を経験したので報告する.
32) 心房粗動例に対するHigh voltage mapping
によるカテーテルアブレーション
(仙台市立病院循環器科) 佐藤英二・
八木哲夫・石田明彦・住吉剛忠・滑川明男・
田渕晴名・山科順裕・佐藤弘和・中川 孝・
櫻本万治郎
通常型心房粗動に対するカテーテルアブレーショ
ン(RFCA)は,三尖弁輪下大静脈間の解剖学的
峡部の線状焼灼が一般的に確立されている.近年,
三尖弁輪下大静脈間峡部(CTI)が数本の伝導線
維束から成るとし,その中で最も高電位の束を指
標に焼灼することで,両方向性ブロックを作成可
能と報告された.当科では59歳男性の通常型心
房粗動例で,CARTOを用いてCTIのhigh voltage
bundleを可視化し,同部位の最も高電位部位で
120秒間1回のみの通電を行うことで両方向性ブロ
ックを作成し得た.High voltage mappingによる
RFCAは,CTIの両方向性ブロック作成時間,通
電回数とも短縮できる有用な手技と考えられ報告
する.
33) 右室起源リエントリー性心室頻拍を合併し
た心サルコイドーシスの一例
(福島県立医科大学第一内科) 山田慎哉・
鈴木 均・金城貴士・上北洋徳・神山美之・
小林 淳・八巻尚洋・泉田次郎・石川和信・
石橋敏幸
症例は61歳女性.2007年7月眼前暗黒感を訴え,
心室頻拍の為近医救急搬送され,精査目的に当科
紹介入院となった.心エコーにて心室中隔基部の
菲薄化と左室瘤を認め,BAL所見を含め心サル
コイドーシスと診断した.EPSでは右室心尖部刺
激で上方軸の左脚ブロック型心室頻拍が誘発され
た.CARTO併用下で右室マッピングでは後中隔
に広範な低電位領域を認め,頻拍中に同部で拡張
中期電位が記録された.低電位領域内の緩徐伝導
路を共通路とした右室内をfigure eightに旋回す
るリエントリー性頻拍と考えられた.拡張中期電
位記録部位を指標とし緩徐伝導路を横断的に線状
焼灼し頻拍を停止し得た.
フォレスト仙台(2008 年 2 月) 1023
34) Ensite systemを使用してアブレーション
を施行した右室流出路起源心室性期外収縮の一例
(東北大学循環器病態学) 広瀬尚徳・
熊谷浩司・福田浩二・若山裕司・山口展寛・
下川宏明
37) incessant VTに対してアミオダロン注を使
用した慢性腎不全,虚血性心筋症の1例
(岩手県立中央病院循環器科) 小田彩乃・
花田晃一・伊藤貴久代・後岡広太郎・
近藤正輝・三浦正暢・遠藤秀晃・八木卓也・
高橋 徹・中村明浩・野崎英二・田巻健治
40) Extended superior septal approachで の 僧
帽弁置換術後の難治性心房頻拍に対しablationを
施行した1例
(太田綜合病院附属太田西ノ内病院循環器センター)
武田寛人・石田悟朗・関口祐子・白岩 理・
遠藤教子・新妻健夫・三浦英介・小松宣夫・
坪井栄俊・佐藤善之・丹治雅博
(太田綜合病院附属太田記念病院)
大和田憲司
症例は56歳女性.単形性の心室性期外収縮(PVC)
の頻発あり,アブレーション目的に紹介となっ
た.アブレーションの際には従来の方法に加えて,
non-contact 3D mapping system(Ensite)を使用
した.Ensiteカテーテルを右室流出路に留置し
PVCをmappingしたところ,右室流出路中隔後壁
寄りに最早期興奮部位を同定でき,同部位にて通
電を行なった.通電後も同波形のPVCが持続した
が,再度のmappingで最早期興奮部位は約10mm
後壁寄りに移動しており,2回目の通電したと
ころPVCの波形が変化した.2回目の通電で最早
期興奮部位は約10mm上方に移動し,同部位で3
回目の通電を行いPVCは完全に消失した.Ensite
systemを用いることにより最早期興奮部位の移
動を速やかに同定でき,少ない通電回数での治癒
に成功した.
症例は70歳代女性.平成18年4月から7月うっ血性
心不全の入院歴あり.その後,徐々に腎機能の増
悪し平成19年10月中旬に透析導入となった.11
月上旬,透析中に意識消失,持続性VTあり当院
転院となった.うっ血性心不全あり,エコー上
EF20%であった.キシロカイン点滴を開始した
がVT再発を繰り返したため,アミオダロン点滴
を開始.その後VTなく経過した.しかし,第18
病日透析後にVT再発したため,心臓カテーテル
検査施行.#1 90%,#6 prox 90%に対してPCIを
行い,0%に改善した.PCI後VTなく経過したが,
第20病日突然心停止,永眠された.虚血性心筋症
の透析患者におきたincessant VTに対してアミオ
ダロン注を使用した症例を経験したので,剖検の
結果をふまえ報告する.
35) アミオダロン静注が有効であった発作性心
房細動(Paf)の2例
(仙台医療センター循環器科) 池田尚平・
尾上紀子・渡會有希子・清水 亨・田中光昭・
谷川俊了・馬場恵夫・篠崎 毅
38) 広範に瘢痕化した右心房の残存心筋内にリ
エントリー回路を認めた心房頻拍の一例
(弘前大学循環呼吸腎臓内科学) 伊藤太平・
佐々木真吾・木村正臣・大和田真玄・
佐々木憲一・堀内大輔・奥村 謙
41) 正常型,右脚ならびに左脚ブロック型QRS
波形を呈した房室結節回帰性頻拍の1例
(岩手医科大学第二内科循環器医療センター)
折居 誠・小松 隆・橘 英明・佐藤嘉洋・
小澤真人・岸 杏子・中村元行
【症例1】87歳,男性.心筋梗塞と脳塞栓症の既往
有り.慢性腎不全(Cre 8.4)に急性心不全を合
併した.発作性心房細動(Paf)の発症に伴い血
圧が低下した.アミオダロン静注によって薬物除
細動に成功した.【症例2】58歳,女性.急性心不
全による入院中にPafを発症した.血行動態の悪
化を来したため4回の直流除細動を行ったが無効
であった.アミオダロン静注後に再度直流除細動
を行い洞調律化に成功した.【まとめ】心不全急
性期においてPafに伴う血行動態悪化が生じた時
には,アミオダロン静注は洞調律化に有効である
のみならず,電気的除細動の除細動閾値を低下さ
せる.アミオダロンは致命的心室性不整脈ばかり
でなく,血行動態を悪化させるPaf治療にも有効
である.
症例は冠動脈バイパス術の既往を有する低左心機
能の虚血性心筋症例.洞機能不全のためペースメ
ーカー移植術が施行されたが,心房リモデリン
グが著明であり,心房ペーシングは不能であっ
た.レート約100拍/分のP波が不明瞭な持続性頻
拍を認め,治療目的に当科紹介となった.電気生
理検査では心房頻拍(AT)と診断され,CARTO
systemによる検討では,心房は広範に瘢痕化し,
P波は低電位差を示した.興奮マッピングでは,
右房自由壁に残存心筋を認め,その中心の島状の
scarを旋回するscar-related ATと診断された.ア
ブレーションとしてはscar間を結ぶblock lineを
作成し,ATは停止,誘発不能となった.自由壁
の残存心筋内でのリエントリーによるATであり,
診断と治療にCARTO systemが有用であった.
症例は58歳,女性.主訴は動悸発作.無投薬下に
おける基本周期600msecの右房早期刺激法では1
回のjumping-up現象を認め,右室早期刺激法で
は逆行性心房内最早期興奮部位が冠静脈洞入口部
に存在し減衰伝導を認めた.イソプロテレノール
負荷では,自然に出現した上室性期外収縮から
jumping-up現象を伴わずに頻拍周期330msecの正
常QRS 型longR P頻拍が誘発された.さらに,頻
拍周期245msecの右脚ブロック型頻拍ならびに
頻拍周期255msecの左脚ブロック型頻拍も誘発さ
れた.傍ヒス束ペーシングではNarrow QRS出現
時の逆伝導時間がWide QRS出現時のそれに比し
50msec短縮しており,いずれの頻拍時も逆行性
心房興奮様式は右室心尖部早期刺激法のそれと一
致していた.正常型,右脚ならびに左脚ブロック
型QRS波形を呈した頻拍の1例を経験した.
36) 発作性心房細動に対し左上肺静脈開口部通
電中に16秒の房室ブロックを起こした1例
(仙台市立病院循環器科) 櫻本万治郎・
八木哲夫・石田明彦・滑川明男・山科順裕・
田渕晴名・住吉剛忠・佐藤弘和・中川 孝
39) 超高齢者に対するアミオダロン静注の使用
経験
(青森県立中央病院循環器科) 坂本幸則・
會田悦久・丹野倫宏・工藤丈明・吉町文暢・
福士智久・藤野安弘
(弘前大学循環呼吸腎臓内科学) 奥村 謙
42) 高度徐脈により高カリウム血症を来たし徐
脈を悪化させた糖尿病と軽度腎障害の2例
(弘前大学循環呼吸腎臓内科学) 泉山 圭・
阿部直樹・相樂繁樹・伊藤太平・横田貴志・
佐々木憲一・大和田真玄・及川広一・
木村正臣・樋熊拓未・佐々木真吾・横山 仁・
花田裕之・長内智宏・奥村 謙
症例は57歳男性.H13年より発作性心房細動のた
め,薬剤にて加療されていたが,発作のコントロ
ールが不良とのことでカテーテルアブレーション
による根治を目的とし当科紹介となる.経心房中
隔穿刺法にて左房に到達し,Lassoカテーテルを
左上肺静脈(LSPV),左下肺静脈(LIPV)に留置し,
左房後壁の線状焼灼により,LIPVは隔離された.
次にLassoカテーテルを指標としLSPV開口部を
通電したところ,後壁側の通電中に最長16秒間の
完全房室ブロックが出現した.通電中止によりま
もなく洞調律に復帰した.その後も通電を繰り返
したが,LSPVは隔離されなかった.左房後壁の
通電により房室ブロックが生じた報告は散見され
るが,16秒という長時間の房室ブロックは稀であ
り報告する.
1024 第 145 回東北地方会
症例は91歳女性.2007年10月,胸痛を訴え当院に
搬送された.血圧は100/60mmHgと保たれていた
が心電図は洞停止+補充収縮を示し心拍数は35拍
/分.II,III,aVFでST上昇を認めた.まもなく
心室細動(Vf)を呈し電気的除細動により心停止
を来たした.気管挿管による換気と胸骨圧迫で再
びVfとなり,その後も除細動→心停止→胸骨圧迫
→Vfを繰り返した.家族は治療の継続を希望され
た.心肺蘇生を継続しアミオダロンを静注使用
(125mg/12分)したところ,徐細動後の胸骨圧迫
中に洞調律に復した.冠動脈造影を行い右冠動脈
近位の完全閉塞病変にステントを留置した.術後
は大きな合併症なく経過しリハビリ目的に独歩に
て転院した.超高齢者の急性心筋梗塞に伴う悪性
不整脈へのアミオダロンの使用経験は貴重と思わ
れ,若干の文献的考察を加え報告する.
症例は30歳台,女性.感染性心内膜炎後の僧帽
弁閉鎖不全症のためExtended superior septal approachにて僧帽弁置換術が施行.術後3ヶ月目で
動悸,胸苦を自覚し,7月30日当センター入院.
心房頻拍の持続を認めた.頻拍中の心内マッピン
グでは右房自由壁から天蓋部,心室中隔にかけて
line状にdouble potentialが記録され,手術時の切
開線部に相当した.心房頻拍は頻拍周期240msで
切開線と下大静脈カニュレーション部間を緩徐伝
導部位とし,切開線を旋回する頻拍であると考え
られ,緩徐伝導部位でのablationにより加療した.
以後,頻拍の再発は認めていない.術後の難治性
心房頻拍に対しablationにて加療したので報告する.
症例1は77歳,女性.意識消失,心肺停止にて蘇
生後に,心拍数10台の完全房室ブロックを来たし
た.一時ペーシングを開始し,高カリウム血症に
対し持続的血液濾過透析を行い循環動態は安定し
たが,2枝ブロックのため,恒久的ペースメーカ
ー移植術を行った.症例2は75歳,男性.ふらつ
き,めまいを自覚し,心拍数20台の徐脈を来たし
た.一時ペースシングを開始し,高カリウム血症
に対し持続的血液濾過透析を施行した.カリウム
正常化後も徐脈が改善しないため,恒久的ペース
メーカー移植術を施行した.2症例とも糖尿病と
軽度腎障害を有し,徐脈・ショックから代謝性ア
シドーシス・高カリウム血症となり,さらに病態
を悪化させたことが示唆された.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
43) 完全断裂により右室内へ落ち込んだ心房
リードの2例
(岩手県立中央病院循環器科) 高橋 徹・
伊藤喜久代・三浦正暢・近藤正輝・
後岡広太郎・遠藤秀晃・花田晃一・中村明浩・
八木卓也・野崎英二・田巻健治
ペースメーカーリード挿入時は鎖骨と第一肋骨間
の狭小部を避けるため胸郭外穿刺が推奨される.
今回鎖骨と第一肋骨間の圧迫により断裂したと推
測される心房リードの断端が右心室内へ落ち込ん
だ症例を2例経験したので報告する.2例ともペー
スメーカー外来で胸部XP上心房リードの断端が
右心室内へ落ち込でいるのを認めた.1例目は右
室内に落ち込んだリードをスネアでつかむことは
可能であったが,心室内のリード断端は固定され
ており回収不能であった.2例目は右室内に落ち
込んだリードをスネアで把持し,右鎖骨下静脈か
ら出してスタイレット挿入し抜去を試みたが抜去
困難であったため,右鎖骨下皮下に断端を縫合し
手技終了した.断端が右室内へ落ち込み回収困難
であった心房リードの2例を経験したので報告す
る.
44) 抗不整脈薬投与で徐伯化してしまい治療に
難渋した持続性心室頻拍の一例
(いわき市立総合磐城共立病院循環器科)
塙健一郎・戸田 直・柏原彩曜・高木祐介・
湊谷 豊・山本義人・朴沢英成・杉 正文・
油井 満・市原利勝
(筑波大学病態制御医学循環器内科)
青沼和隆
症例は60代男性.2001年に僧帽弁閉鎖不全症に対
して僧帽弁置換術を施行した.2003年に持続性
心室頻拍(VT)を認めアミオダロンを導入した.
低心機能でありアミオダロンの導入後もVTを認
めたため,2006年に植込み型除細動器(ICD)の
植込みを行った.2007年9月に肺障害が出現しア
ミオダロンの投与を中止した後に,数時間の動悸
の自覚後にICDが作動したとして来院した.VT
時の心拍数が105BPMと治療設定域に届かずICD
が不適切作動となっていた.カルベジロールとニ
フェカラントを投与したがICDが頻回作動する状
況になった.リドカイン,ソタロールを追加して
VTの頻度は減少したが,VT時心拍数が100BPM
以下となり検出不可能となった.薬物治療とICD
の設定変更では対処不可能となり,他施設へ転院
の上,カテーテルアブレーションを行い根治に成
功した.
45) WPW症候群と中枢性睡眠時無呼吸症候群
を合併した若年性心室細動の一例
(福島県立医科大学第一内科) 上北洋徳・
鈴木 均・山田慎哉・佐藤崇匡・金城貴士・
神山美之・小林 淳・泉田次郎・八巻尚洋・
石川和信・石橋敏幸
症例は17歳男性.検診でWPW症候群を指摘され
ていたが症状なく精査は受けていなかった.2007
年6月,朝就寝中に心室細動を発症し電気的除細
動で蘇生され当科入院となった.EPSでは左側側
壁副伝導路を介する正方向性房室回帰性頻拍が誘
発されたが,右室心尖部と流出路からの期外刺激
では心室頻拍,心室細動とも誘発されなかった.
就寝中の呼吸停止が家人により確認されていた
ためポリソムノグラフィーを施行したところAHI
25.6/h,最長86秒の呼吸停止を伴う中枢性無呼吸
症候群が判明した.治療は副伝導路の焼灼術を行
うとともに,BIPAPを導入し夜間の呼吸補助を行
った.WPW症候群と中枢性無呼吸症候群を合併
した若年者心室細動は興味深い症例と思われ文献
的考察をふまえて報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
46) 僧帽弁形成術の早期∼中期成績の検討
(福島県立医科大学心臓血管外科)
三澤幸辰・佐戸川弘之・佐藤洋一・高瀬信弥・
若松大樹・村松賢一・黒澤博之・籠島彰人・
山部剛史・横山 斉
49) 日本人におけるメタボリックシンドローム
診断の至適ウエスト周囲径とは? −CHART-2
研究からの中間報告−
(東北大学循環器病態学) 多田智洋・
柴 信行・松木美香・高橋 潤・下川宏明
【目的】僧帽弁閉鎖不全症(MR)に対する僧帽弁
形成術(MVP)の早期∼中期成績を検討.【対象】
MVPを施行したMR症例63例.平均年齢62歳.男
性40例,女性23例.成因は59例が変性.逸脱部位
は前尖16例,後尖33例,交連部3例.弁輪拡大の
み17例.【結果】MVPを39例に施行.人工腱索使
用8例,矩形切除24例,edge to edge法8例で,全
例に弁輪縫縮術(MAP)を併用.MAP単独は28例.
1例(1.6%)が術後12日目に再手術(MVR)へ移
行.入院死亡なし.術後観察期間は4∼77(平均
30)月.術後12ヶ月に非心臓死1例.遺残MRの
増強(trivial→mild)を6例で認めた.MRが原因
の心不全による再入院・再手術はなかった.【結
語】各術式の選択または組み合わせと弁輪縫縮術
追加により,多様な病変に対応可能であった.
【背景】メタボリックシンドローム(Mets)は心
血管疾患のリスクとされているが,日本人の至
適ウエスト周囲径は議論の余地がある.【方法】
現在進行中の心不全登録観察研究(CHART-2,
10000人 登 録 予 定 ) か ら3529人 に つ い て,Mets
診断基準である高血圧,脂質代謝異常,耐糖能
異常の数を検討した.【結果】平均数は男性2.01
個,女性1.97個で,2個以上を有する割合は男性
73.0%,女性73.2%だった.特に冠動脈疾患,高
血圧性心疾患をもつ患者の82.2%が2個以上を
有した.ROC curveによると2個以上のリスク
を持つ患者ウエスト周囲径のカットオフ点は男
性85.6cm,女性79.1cmであった.【結論】日本人
におけるMets診断の至適ウエスト周囲径は男性
85cm,女性80cmと思われた.
47) 左冠動脈主患部を含む多枝病変に対する心
拍動下冠動脈バイパス術の長期成績
(福島県立医科大学心臓血管外科)
高瀬信弥・横山 斉・佐戸川弘之・佐藤洋一・
三澤幸辰・若松大樹・黒澤博之・村松賢一・
籠島彰人・山部剛史・山本晃裕
50) 慢性腎臓病と血清CRP値との関連性;地
域住民での横断研究
(岩手医科大学第二内科循環器医療センター)
肥田頼彦・高橋智弘・瀬川利恵・佐藤権裕・
田中文隆
(同衛生学公衆衛生学) 小野田敏行・
坂井一好・大澤正樹・丹野高三・坂田清美・
川村和子
(国立循環器病センター集団検診部)
岡山 明
(岩手医科大学第二内科循環器医療センター)
中村元行
左冠動脈主幹部病変(LMT)を含む多枝病変に
対する心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)の
安全性と有用性について検討した.2006年までに
施行された連続350症例のOPCABをLMT病変を
含んだLMT群と,含まなかったnonLMT群に分け
て検討した.両群間において手術時間,ICU滞在
日数,手術後入院日数に有意差はなかった.入院
中 脳 梗 塞(0.9%)
, 術 中 心 筋 梗 塞(0.6%),LOS
(0.3%)が発生し,2例が死亡した(0.6%).しかし,
両群間に差はなかった.心臓関連事故回避率に
は有意差はなかった(5-year : 95.6% vs 91.7%).
また,心臓死回避率(98% vs 97.3%),および全
死亡回避率(94.2% vs 91.3%)にも有意差はなか
った.左主幹部病変を含んだ多枝病変に対する
OPCABは安全性,有効性について許容でき,第
一選択とすべき治療と考えられた.
48) オープンステントグラフト法で弓部全置換
術を行ったB型大動脈解離を合併した遠位弓部大
動脈瘤の2手術例
(総合南東北病院心臓血管外科) 石川和徳・
緑川博文・菅野 恵
【目的】B型大動脈解離を合併した弓部大動脈瘤
に対し,オープンステントグラフト法(OSG法)
で弓部全置換術(TAR)を施行した2症例を報告
す る.
【 症 例1】65歳, 男 性. 最 大 径50mmの 遠
位弓部大動脈瘤及びその末梢から総腸骨動脈分
岐部に及ぶ血栓閉塞したB型大動脈解離を認め
た.Matsui-KitamuraステントとUBEグラフトに
よるステントグラフト(SG)を用いたOSG法で
のTARを施行した.【症例2】72歳,女性.B型大
動脈解離及び最大径45mmの嚢状弓部大動脈瘤を
認めた.Gianturco Z-stentとUBEグラフトによる
SGを用いたOSG法でのTARを施行した.【結語】
OSG法によるTARは,複数の大動脈病変を合併
した症例には有用な手術手技となり得ると考えら
れた.
慢性腎臓病(CKD)は,心血管病(CVD)の危険
因子であるとされている.また,炎症はアテロー
ム性動脈硬化症および腎機能障害に関与すると考
えられている.しかし,一般地域住民での血清
CRP値と糸球体濾過値(GFR)との関連性はよく
分かっていない.今回,我々は岩手県北地域住民
(n=26,332,age=62)を対象に血清CRP値とGFR
あるいはCKDとの関連を検討した.血清CRP値
の上昇とGFRの低下は従来からの危険因子で調整
しても関連性がみられ(P<0.02),CKDとの間に
も明らかな関連性がみられた(P<0.0001).結論
として,炎症はGFR低下とCKDへの進行に寄与
する重要な因子である事が示唆された.
51) 壊死性虫垂炎から汎発性腹膜炎・後腹膜膿
瘍を併発し,炎症性心膜炎に至った一例
(岩手県立中央病院循環器科) 梁川志保・
八木卓也・伊藤喜久代・後岡広太郎・
近藤正輝・三浦正暢・遠藤秀晃・花田晃一・
高橋 徹・中村明浩・野崎英二・田巻健治
(同消化器外科) 鈴木 洋・望月 泉
20歳代男性.39℃の発熱と排尿時痛を自覚,一時
解熱するも再度39℃台の発熱があり当院救急外来
を受診した.右腰痛を訴え,筋性防御を認めた.
体温39.2℃,心拍数169/分,白血球数17450/μl,
CRP 25.9mg/dlと強い炎症を認めた.腹部CTで膿
瘍形成虫垂炎の穿孔が疑われ,緊急に回盲部切除
と腹腔ドレナージを施行した.後腹膜には血腫を
伴う膿瘍を認めた.第2病日には膿胸を認め,第
4病日には心電図で広範なST上昇を認めた.心エ
コー上全周性に心嚢液の貯留を認めた.第14病日
には心嚢液は心エコー上2層性に描出された.心
嚢穿刺を行ったが,心嚢液は採取されなかったた
め,心嚢ドレナージを施行,漿液性の廃液があ
り,培養では陰性であった.壊死性虫垂炎から腹
膜炎・後腹膜膿瘍を併発し,炎症性心膜炎に至っ
た一例を経験したので報告する.
フォレスト仙台(2008 年 2 月) 1025
52) 血性心嚢液を認めたeffusive constrictive
pericarditisの一例
(東北大学循環器病態学) 福井重文・
福本義弘・杉村宏一郎・縄田 淳・佐治賢哉・
三浦 裕・加賀谷豊・下川宏明
55) 左室緻密化障害様の所見を呈した拡張相肥
大型心筋症の一例
(東北大学循環器病態学) 若山裕司・
熊谷浩司・福田浩二・広瀬尚徳・山口展寛・
下川宏明
58) 蘇生術後にBrugada様心電図を呈し,心筋
生検で慢性心筋炎の所見を認めた女性の1例
(岩手医科大学第二内科循環器医療センター)
小澤真人・小松 隆・橘 英明・佐藤嘉洋・
肥田頼彦・佐藤 衛・中村元行
【症例】79歳男性【主訴】浮腫【既往歴】高血圧
と5年前に交通外傷【現病歴】2007年6月頃より全
身浮腫出現し,胸部X線上心拡大あり精査加療に
て心嚢液の貯留による右心不全の診断となった
が,心嚢液の原因は不明であった.更なる精査加
療のため当科紹介入院.【検査所見と経過】入院
時NYHA 4度の状態であった.心嚢穿刺排液を行
った所,血性であったが細胞診と抗酸菌検査では
全て陰性であった.診断と治療のため心膜切除
術を施行した.心膜はびまん性に肥厚し術後心
膜組織でも悪性腫瘍等は否定されウイルス性心膜
炎と考えられた.しかし術後の心臓カテーテル検
査でもdip and plateauの所見が残り,臓側心膜の
constrictionは残存していると考えられた.
【結語】
NYHA 4度の収縮性心膜炎は手術を施行しても予
後不良である可能性が考えられた.
【症例】40歳女性【主訴】動悸/胸部不快【家族歴】
弟:同様の病態で突然死【現病歴】幼少時から閉
塞型肥大型心筋症で加療.19才時心臓カテーテル
検査で左室流出路に45mmHgの圧較差(+).最
近の心エコーで拡張相への移行を認め,今回弟の
突然死を契機に植え込み型除細動器(ICD)検討
のため入院.【検査所見と経過】心エコー/左室造
影/MRIで左室側壁の緻密化障害様変化有り.カ
テーテル検査で左室駆出率低下(44%)
,流出路
圧較差無し.造影MRIで広範な遅延造影有り.ホ
ルター心電図は心室性期外収縮2連,レートポテ
ンシャル陽性.電気生理学的検査で右室心尖部期
外刺激で心室細動が誘発された.以上から,一次
予防のICD植え込みを施行.【結語】左室緻密化
障害様所見を呈した家族歴性拡張相肥大型心筋症
のICD一次予防植え込み症例を経験した.
症例は49歳女性.主訴は意識消失発作.平成19年
4月に感冒様症状が出現.8月7日午後19時40分に
職場で急に意識消失発作のために転倒し,救急隊
現着時に体外式除細動器で心室細動を認め電気的
除細動を受けた.当院搬送後の心電図ではSaddle
back型ST上昇を右側胸部誘導で認め,心臓超音
波検査では左室機能ならびに弁構造物に異常を認
めず,冠動脈造影も有意狭窄を認めなかった.右
室心内膜生検では,healing stageの心筋炎が示唆
された.Brugada様心電図を呈する症例の中に,
潜在する心筋病変を有する興味深い1症例と思わ
れ報告する.
53) 診断に苦慮したnutritionally variant streptococciによる感染性心内膜炎の一例
(福島県立医科大学第一内科) 佐藤崇匡・
高野真澄・大杉 拓・上北洋徳・八巻尚洋・
三次 実・石川和信・石橋敏幸
56) 悪性症候群を契機に発症したカテコラミン
心筋症の一例
(福島県立医科大学第一内科) 星野寧人・
坂本信雄・待井宏文・上北洋徳・大杉 拓・
中里和彦・鈴木 均・斎藤修一・石川和信・
石橋敏幸
(同神経内科) 吉原章王・松田 希
59) 左室内腔狭小化と僧帽弁収縮期前方運動に
伴いdynamic LVOT obstructionを来した一例
(秋田大学循環器内科学分野・呼吸器内科学分野)
佐藤貴子
(秋田組合総合病院) 阿部 元・土佐慎也・
松岡 悟・田村芳一・斉藤 崇
(秋田大学循環器内科学分野・呼吸器内科学分野)
伊藤 宏
49歳男性.肺炎,腎炎にて腎臓内科入院.全身性
感染症を疑い,心エコー施行するも疣贅の存在は
認めなかった.抗生剤点滴等で炎症陳旧化し外来
加療していたが,再度発熱が持続し,心エコーに
て三尖弁に疣贅を認め感染性心内膜炎(IE)に
て当科転科となった.抗生剤多剤併用にても改
善せず,繰り返し施行した血培にてnutritionally
variant streptococciを 疑 わ れ,RT-PCR法 に て
A.Defectivesの標準株と相同であることが判明し
た.その後も炎症持続し,疣贅の増大を認めたた
め,僧帽弁及び三尖弁置換術を施行した.多臓器
感染症を呈し,初期からIEを疑いながらも,確
定診断に至らなかった.しかし繰り返す心エコー
と血培(PCR法含む)でA.DefectivusによるIEと
診断に至った貴重な症例であり報告する.
54) 収縮性心膜炎の1例
(医療生協わたり病院内科循環器科)
渡部朋幸・杉山正樹・佐藤 武・五十嵐聡明
収縮性心膜炎は慢性に心膜肥厚と拘縮を来し,右
心不全症状を呈する比較的まれな疾患である.原
因を特定できない特発性が最も多いとされてい
る.症例は64歳男性.2週間前より易疲労感,下
腿浮腫を自覚し当院を受診した.身体所見では肝
腫大,頸静脈怒張を認めた.胸部X線では両側の
胸水を認めたが心膜の石灰化を認めなかった.心
エコー検査では心室中隔の拡張期dip,右室流入
血流波形の40%以上の呼吸性変動を認めた.右室
圧曲線では典型的なdip & plateauパターンを認め
た.胸部CTでは右室心尖部から左室側壁基部に
わたる心膜肥厚と心基部の軽度の石灰化を認め
た.心膜感染を示唆する既往や悪性腫瘍,膠原病
は否定され,特発性収縮性心膜炎と診断した.今
後症状を観察しながら心膜剥離術の時期を検討す
る予定である.
1026 第 145 回東北地方会
カテコラミン心筋症は比較的稀な疾患であり,褐
色細胞腫や脳血管疾患との合併報告は散見される
が,これまで悪性症候群との関連報告を認めない.
今回我々は悪性症候群を契機に発症したと思われ
るカテコラミン心筋症の一例を経験したので報告
する.症例は60代女性,パーキンソン病にて40代
より加療を受けていた.徐々に飲水摂取困難とな
っていたが発熱,更に胸部不快感が出現したため
当院を受診した.受診時現症及び血液検査から著
明な脱水と悪性症候群を考えたが,心電図変化や
CPK,TropIの上昇などから虚血性心疾患の精査
目的に緊急カテーテル検査を施行した所,冠動脈
造影で有意狭窄を認めず,左室造影で全周性の壁
運動低下を認めた.入院時のカテコラミンの著明
上昇や,1週間後に心機能の改善を認めた事から,
カテコラミン心筋症と考えた.
57) 心臓MRIにて左室緻密化障害が疑われた一例
(太田綜合病院附属太田西ノ内病院循環器センター)
佐藤裕樹・武田寛人・小松宣夫・三浦英介・
新妻健夫・白岩 理・遠藤教子・関口祐子・
石田悟朗
【症例】63歳男性【既往歴】脳梗塞【病歴】H18.
10月,動悸時に近医受診しverapamilにて停止す
る頻脈発作を指摘された.11月8日精査目的に当
院入院.入院後の心エコーにてび慢性の壁運動低
下を認めた(EF32%).基礎疾患にとしては,心
臓カテーテル検査で有意な冠動脈狭窄を認めず,
心臓MRIでは左室壁内に多数の肉柱を認め,左室
緻密化障害が疑われた.不整脈は心臓電気生理学
検査(EPS)にてAVNRTと診断しablationにて消
失した.多発していた心室性期外収縮もablation
により減少を認めたが,EPSにて持続性心室頻拍
が誘発され,低心機能もありICDの適応とした.
今回心エコーにて左室緻密化障害を指摘できず,
心臓MRIにて疑われた症例を経験したので報告す
る.
【症例】80歳男性.平成19年10月,運動中に前胸
部痛と眼前暗黒感を自覚し,当院に救急搬送され
た.来院時,胸痛は消失するも,血圧70mmHg,
胸骨右縁第二肋間に収縮期雑音を聴取した.心電
図にてV4-6のST上昇を認めたため,冠動脈造影
施行するも冠動脈病変は認めなかった.心エコー
検査では,左室壁厚,収縮能は正常であったが,
左室内腔狭小化と僧帽弁収縮期前方運動それに
伴う左室流出路閉塞(約5m/sの加速血流)を認
めた.以上より左室流出路閉塞(dynamic LVOT
obstruction)が血圧低下の原因と考えられたた
め,補液を開始.1時間後に血圧は上昇に転じた.
左室肥大は認めないが脱水などを契機に左室内腔
の狭小化を来たし,dynamic LVOT obstructionを
来した一例を経験したので報告する.
60) 非ステロイド系消炎鎮痛薬により炎症所見
が消褪後,手術を行った炎症性腹部大動脈瘤の一例
(山形県立中央病院循環器科) 矢作友保・
近江晃樹・佐々木真太郎・羽尾清貴・
高橋克明・高橋健太郎・福井昭男・玉田芳明・
松井幹之・後藤敏和
【症例】70歳代,男性.【主訴】下腹部痛.【既往
歴】1年前より高血圧加療中.【現病歴】2007年秋,
下腹部痛にて注腸造影予定の所,症状増強および
腹部超音波検査上,腹部大動脈瘤(AAA)疑い
にて,当科紹介.【入院後経過】CTでは腎動脈分
岐下に径50mm弱のAAAを認めた.(切迫)破裂
を示唆する所見なく,亜急性の発症経過・来院時
のCRP高値から炎症性AAAに合致する所見と判
断.Gaシンチで瘤に一致して集積あり.炎症は
非特異的と診断.降圧のみでは下腹部痛コントロ
ールが不充分で,非ステロイド系消炎鎮痛剤を追
加して徐々に軽快,CRP陰性化.近い将来,径が
50mmを超えるのは確実にて,本人・家族の同意
の上で手術を予定して退院.【結語】炎症性AAA
の一例を経験.手術/病理所見を含め,発表予定.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
61) 経皮的トロンビン注入療法が奏功した医原
性大腿動脈仮性動脈瘤の一例
(仙台厚生病院循環器内科) 櫻井美恵・
滝澤 要・本多 卓・密岡幹夫・大友達志・
藤原里美・井上直人・目黒泰一郎
大動脈バルーンポンプ(IABP)抜去後に右大腿
動脈に仮性動脈瘤を来した症例にエコー下トロン
ビン注入を施行した症例を報告する. 症例は71
歳男性.既往歴で2000年に狭心症のため冠動脈形
成術(PCI)施行.2007年4月21日急性下壁梗塞
のため,PCI施行.術後造影でslow flowとなり右
大腿動脈よりIABPを挿入し手技終了した.第3病
日にIABPを抜去したが,第4病日に血腫の形成お
よび同部位にシャント音を認めた.下肢血管エコ
ー検査より,仮性動脈瘤と診断されエコープロー
ブで2時間圧迫するもシャントは消失せず.トロ
ンビン注入療法を選択した.エコーガイド下に動
脈瘤内にトロンビンを注入.直後より動脈瘤内の
血流は消失し,疼痛も軽減した.
62) 当院におけるperipheral vascular intervention
の初期成績
(三友堂病院循環器科) 川島 理・阿部秀樹
【目的】2007.4月∼11月に当院で施行した末梢動
脈interventionの初期成績を検討.【対象と方法】
対象は12症例(男性8例,平均年齢80±4歳)14病
変(腸骨動脈4大腿動脈2内頚動脈4鎖骨下動脈2腎
動脈1上腕静脈1)初期成績;14病変全例成功.5
症例6病変が下肢動脈の治療であるが,うち1症例
は左橈骨動脈からのアプローチで良好な血行再建
に成功した.
【結論】1.橈骨動脈からの末梢動脈
インターベンションは鼠径部,大腿動脈領域など
ステント留置不適領域にはきわめて有用と思われ
た.2.総腸骨動脈完全閉塞の2例は再疎通に成功
するも下腿領域の阻血は免れず最終的には大腿切
断術を余儀なくされた.しかし創傷治癒の経過が
良好であり治療が一部有効と思われた.3.今後末
梢血管用DCA,末梢血管プロテクションデバイ
ス,吸引デバイスの開発が望まれる.
63) 巨大な大腿動脈仮性瘤などを呈した血管型
ベーチェット病の1例
(岩手医科大学第二内科循環器医療センター)
長沼雄二郎・蒔田真司・安孫子明彦・中村元行
3歳の女性.平成19年7月頃から歩行時の右大腿
部痛と腫脹が出現し近医を受診した.下肢CT検
査で右浅大腿動脈に91×85mmの巨大な仮性瘤を
認め,当科に紹介された.下肢静脈エコー検査で
は右膝窩静脈に血栓症が確認された.仮性瘤の早
期手術が必要と考え,術前検査と全身の血管病変
を検索したところ,冠動脈CT血管造影で右冠動
脈#1に14mm大の瘤形成が見られた.ぶどう膜
炎,陰部潰瘍の既往があり,HLA-B51が陽性で
あった.入院時に炎症所見があり,直ちにステロ
イド内服治療を開始した.一時的下大静脈フィル
ターを留置して,翌9月21日に右浅大腿動脈瘤切
除および右膝窩動脈バイパス術を行った.術後は
良好に経過した.多彩な血管病変を呈した血管型
Behcet病の一例を経験したので報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
64) 50歳代で右心不全症状を呈したEbstein奇
形に根治術を施行した一例
(岩手県立中央病院循環器科) 三浦正暢・
後岡広太郎・近藤正輝・遠藤秀晃・花田晃一・
八木卓也・高橋 徹・中村明浩・野崎英二・
田巻健治
(同心臓血管外科) 永谷公一
症例は50代女性.13歳の時にEbstein奇形,心房
中隔欠損症(ASD)
,心室中隔欠損症(VSD)を
指摘され,VSDに対して手術を施行された.平
成18年4月頃より右心不全症状が出現し,同年5月
に心臓カテーテル検査を施行した.サンプリング
試験では右房レベルでL-R shunt 15%・R-L shunt
30%であった.また,酸素負荷試験ではPA圧の
低下を認めた.同年9月に当院心臓血管外科にて
ASD閉鎖,三尖弁置換術,右房化右室形成術を
施行し経過良好にて退院となった.Ebstein奇形
症例で50歳まで生存するのは全体の5%であるが,
この度我々は50代でEbstein奇形に対する手術を
施行し,術後良好な経過をたどっている一例を経
験したので報告する.
65) 高齢者心内膜床欠損症の一例
(本荘第一病院循環器科) 鈴木 泰・
大楽英明
(秋田県成人病医療センター心臓血管外科)
関 啓二
(秋田大学循環器・呼吸器内科学分野)
伊藤 宏
高齢者心内膜床欠損症の一例を経験したので報告
する.症例は,67歳女性.幼少時より弁膜症指摘,
37歳頃より近医で心臓病の治療を受けるも途中で
自己中断,9年前より胸部不快,動悸,息切れあり,
1週前より増悪し改善しないため当科初診,胸部
Xp上心胸比63%と心拡大,心電図上不完全右足
ブロック,左軸偏位で,心エコー上,右心系拡大
し推定肺動脈圧47mmHg,径3.4cmの一次孔欠損,
左→右短絡,Qp/Qs 3.84を呈する不完全型心内膜
床欠損症の所見で心不全状態のため入院治療,安
定期外科治療を行った.一次孔欠損の他二次孔欠
損も認め,パッチ閉鎖術及び直接閉鎖術を施行し
た.術後高度ブロック出現しペースメーカー移植
術施行したほかは,経過良好で現在に至っている.
66) Dual Energy Source CTでの下肢動脈評価
(宮城県立循環器・呼吸器病センター)
柴田宗一・大沢 上・三引義明・渡邉 誠
07年4月医療法改正により2管球CTの使用が認可
され,2管球それぞれに異なるX線電圧を設定し
たDual Energy撮影も可能となった.1回のスキ
ャンで2組の異なるデータを同時に取得すること
により,血管または骨の直接サブトラクションや
新しい組織コントラストを得る事が可能となっ
た.従来の造影CTでの下肢動脈評価では,近接
する骨の除去に解析と技術が必要であり,石灰化
病変が内腔評価を困難にすることもあった.今回,
Dual Energyでの下肢動脈撮影に関し検討を行っ
た.骨および石灰化除去においては,CT値を利
用した直接処理が可能となり,短時間でより鮮明
な画像を得ることができた.一方被曝量はDual
とnon-DualとのDLP値での比較を行ったが,大き
な差は認めなかった.ステント内腔の描出も良好
であり,下肢動脈評価にDual Energy撮影は有用
であると考えられた.
67) 当院におけるMRIを用いた包括的心臓検査
の試み
(町立羽後病院内科) 安田 修・松田健一
【目的】包括的心臓MRI検査の現状と課題を考察.
【対象と方法】1.5T MRI機器を用いて心臓MRI 95
例(男性41例,平均年齢70.8歳)を施行.内訳は
陳旧性心筋梗塞(OMI)18例,狭心症(AP)28
例,慢性心不全20例,虚血性心疾患(IHD)疑い
16例,不整脈6例,他7例.左室駆出率(EF)・壁
運動,心筋虚血,梗塞心筋,冠動脈の評価を行った.
【結果】MRIのEFは心エコーのEFの約90%で相関
性が見られた.OMI,AP,IHD疑い例の心筋虚
血陽性例は,ジピリダモール負荷30例中7例,ニ
コランジル負荷32例中2例であった.OMI例の遅
延造影の壁深達度50%超であることが不可逆的な
梗塞心筋である感度は100.0%,特異度は50.0%,
正診率は88.9%であった.冠動脈評価はpoor例が
47.4%を占めた.【結語】冠動脈描出に課題はある
が,心臓MRIは包括的検査として有用である.
68) 冠動脈CTによる冠動脈狭窄病変診断と推
算糸球体濾過量の比較検討
(町立羽後病院内科) 安田 修・松田健一
【目的】慢性腎臓病の診断指標の一つである糸
球体濾過量と冠動脈CTの冠動脈狭窄病変の関連
について検討.【対象と方法】対象は,16列や64
列CTを用いて行われた冠動脈CT連続413例(男
性204例,女性209例,平均年齢67.9歳).主要冠
動脈病変の程度により,正常冠動脈(狭窄率0
∼25%未 満 ), 軽 度 病 変( 同25∼50%未 満 ), 中
間病変(同50∼75%未満),高度病変(同75%以
上)に分類,推算糸球体濾過量(eGFR)との関
連を検討した.
【結果】正常冠動脈163例,軽度
病変72例,中間病変52例,高度病変83例のeGFR
[ml/min/1.73m2] の 平 均 値 は, そ れ ぞ れ83.02,
77.95,71.20,67.21で,中間病変例,高度病変例
のeGFRで正常冠動脈例のeGFRと間に有意差が見
られた(p=0.00033,1.2×10-9)
.【結語】eGFRが
低値であるほど冠動脈狭窄病変は高度化する.
69) 非心臓手術術前負荷心電図異常症例に対す
る64列MDCTの使用経験
(酒田市立酒田病院内科) 金子一善
【目的】術前負荷心電図異常症例に対する冠動脈
MDCTの有用性につき検討.【方法】対象は全身
麻酔待機的予定手術患者連続593例.全例負荷心
電図検査を予定し検査異常症例に対しMDCTお
よびATP負荷心筋シンチグラムを用いて評価.検
査異常例に対し直接冠動脈造影を施行していた期
間の連続患者(AG群,611例)と比較検討.【結
果 】SC群 に お い て 追 加 検 査 施 行 は33例(5%),
うちMDCTのみで有意冠動脈病変を除外できた
のは17例で,負荷シンチグラムとの併用では27例
とMDCT単独に比し高値であった(52% vs. 82%,
P=0.0052).SC群はAG群に比し術前冠動脈疾患
治療数及び週術期心血管イベント発生数に差は無
かった【結論】非心臓手術術前負荷心電図異常症
例に対するMDCT使用は冠動脈疾患の除外に有
用であるが,単独の評価では約半数の除外にとど
まった.
フォレスト仙台(2008 年 2 月) 1027
70) うっ血性心不全における3D-UCGを用いた
左房容積変化
(仙台医療センター循環器科) 清水 亨・
谷川俊了・馬場恵夫・田中光昭・尾上紀子・
篠崎 毅
【はじめに】心臓は3次元空間を拍動し,従来の
2D-UCGでは正確な評価に限界がある.近年3DUCGが登場し,新たな心機能の評価法が提案さ
れ,我々は既にMDCTでのSimpson法と3D-UCG
の左房容積が良好な相関を示すことを確認してい
る.【目的】左房容積は,左室の拡張能を反映し,
心不全の重症度や予後と関連している.今回,
3D-UCGを用いて,心不全患者における左房容積
の変化を検討した.【方法】当院で急性心不全と
診断された症例(n=3)を対象とし,治療前後で,
3D-UCGによって左房容積を測定し,心不全の諸
指標と検討した.【結果】治療前後で,平均BNP
は1451から154へ改善し,それに伴い,平均最大
左房容積は81mlから48mlへ有意に減少した.【結
論】3D-UCGによる左房容積変化は,治療効果な
らびに左室拡張能の新しい指標となる可能性があ
る.
1028 第 145 回東北地方会
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
第 92 回 日 本 循 環 器 学 会 中 国 ・ 四 国 合 同 地 方 会
2008 年 6 月 6 ・ 7 日 海峡メッセ下関
会長:小 田 達 郎(済生会山口総合病院院長)
1) DES留置11ヵ月後にうろこ状のmalapposition
をOCTで確認した一症例
(山口大学器官病態内科学) 藤村達大・
廣 高史・岡村誉之・山田寿太郎・藤井崇史・
松h益‡
3) 急性心筋梗塞治療後3ヵ月でステント内再狭
窄をきたした1症例
(市立宇和島病院) 大島清孝・山根健一・
大島弘世・石橋 堅・青野 潤・泉 直樹・
池田俊太郎・濱田希臣
5) Cypherステント留置3年後に,ステント内
再狭窄を来たした1例
(高知大学老年病科・循環器科) 坂本知代・
濱田知幸・田村親史郎・谷岡克敏・人見信彦・
山崎直仁・北岡裕章・土居義典
62歳,男性.狭心症の疑いでCAGを行った.CAG
の結果,#1入口部に90%,#2に95%の有意狭窄を
認めこれに対してproximalにBMS(3.5×12mm)を
distalにSES(3.0×33mm・3.0×28mm)をそれぞ
れ留置した.その11ヵ月後確認のため造影検査を
行ったところ#1に95%の再狭窄を呈し,また#2
に多数の微小粒状陰影をステントの外側に沿って
認めた.その部位をIVUSで確認したことろmalappositionを呈していた.血管新生内膜を正確に評
価するため同時にOCTを施行したところ,stentの
金属の部分には完全に内皮化されていたものの,
stent strutの間隙ごとに微小瘤状となっている箇
所が多数確認された.DES留置後のstentは内皮化
していたものの,strut間隙に一致したうろこ様瘤
状変化を呈した一症例を経験したので報告する.
【症例】81歳女性.
【既往歴】79歳 急性胆嚢炎手術.
【現病歴】H19年5月2日,急性心筋梗塞の診断
にて近医より当院に紹介され緊急カテーテル検査
にて#6に99%病変を認め同部位にBMS(3.5mm)
を留置し終了した.退院後経過良好であったが7
月下旬頃より労作時に肩から背中への放散痛を自
覚するようになり8月14日安静時胸痛を自覚し
たため救急車にて当院に搬送された.同月16日
CAGを施行したところステント内に99%造影遅延
を伴う狭窄を認め,組織学的には血栓,器質化血
栓,肥厚した血管内膜であった.血管内視鏡等の
所見を含め報告する.
症例は73歳男性.冠危険因子として高血圧,高
脂血症,喫煙を有する.2004年11月,右冠動脈
Seg2 100%,左回旋枝Seg11 99%,Seg13 100%に
対して他院でPCIを施行.右冠動脈にCypherを
計4本留置された.さらに,左回旋枝Seg11に
Cypher 2.5×18mm,Seg13にMicrodriver2.25×
24mmを留置された.2006年7月の冠動脈造影で
は,右冠動脈,左回旋枝ともにステント再狭窄は
認めなかった.その後,胸部症状なく経過してい
たが,2007年10下旬より胸部違和感の増悪を認
め,不安定狭心症の疑いで2007年11月入院.冠動
脈造影で,前回再狭窄を認めなかった左回旋枝
Seg11のDESに90%狭窄を認めた.今回,我々は
Cypherステント留置後3年目に,遅発性再狭窄
を来たした1例を経験したので,若干の文献的考
察を加えて報告する.
2) Bare Metal Stent種類別のlate lossの検討
(倉敷中央病院循環器内科) 羽原誠二・
光藤和明・井上勝美・後藤 剛・門田一繁・
藤井理樹・山本浩之・加藤晴美・岡 直樹・
福 康志・細木信吾・廣野明寿・川上 徹・
丸尾 健・田中裕之・長谷川大爾・田坂浩嗣・
今井逸雄・山田千夏・岡本陽地・大鶴 優・
宮本真和・齋藤直樹・柴山謙太郎
4) ステント留置後9年を経過し同部位に不安定
狭心症を発症した1症例
(市立宇和島病院) 大島清孝・山根健一・
大島弘世・石橋 堅・青野 潤・泉 直樹・
池田俊太郎・濱田希臣
6) Cypher stent留置後VLST(very late stent thrombosis)を来たした2症例
(福山循環器病院) 木村 光・竹林秀雄・
赤沼 博・末丸俊二・久留島秀治・佐藤克政・
菊田雄悦・川副 宏・永井正浩・治田精一
【症例】82歳男性.【既往歴】60歳より糖尿病
を指摘される.平成12年某病院にてPCI(3枝
にステント留置)施行される.
【現病歴】平成19
年6月,胸痛にて当院救急外来を受診(II・III・
aVF上昇).ニトロペン舌下にて軽快し本人の強
い希望で帰宅した.その後も胸痛を頻回に自覚し
精査加療のため入院した.冠動脈造影の結果ステ
ント内#1,#3にスリットを認め,#7に新た
な90%狭窄を認めた.BMSは留置後2−3年
で最も安定する.しかし,経過とともに新たなプ
ラークを生じ不安定化する報告が散見されてい
る.本症例もBMS留置後7年を経過しステント
内プラークが不安定化したと考えられた.
症 例 1 は51歳 男 性.LAD#6にSESを 留 置 後 チ
クロピジンを3ヶ月で中止.アスピリンのみ継
続し14ヶ月目にAMIを発症.SES近位端で完全
閉塞,IVUSではlate acquired incomplete stent
apposition(LISA)および血栓形成を認めた.症
例2は45歳男性.RCA#4PDにSESを留置.6ヶ
月でチクロピジン,アスピリンが自己中止され,
17ヶ月目にAMIを発症.SES近位端で完全閉塞,
IVUSでは豊富な血栓とステント近位および遠位
にLISA,中間部でstent fractureを認めた.いず
れの症例もLISAおよび抗血小板薬の継続不十分
がVLSTに関与したと考えられ,IVUS画像と併せ
て症例提示する.
Bare Metal Stent(BMS)は6ヵ月後を超えると
新生内膜が徐々に菲薄化すると言われているが,
ステント種類別の経過については明らかにされて
いない.当院において2001年10月∼2006年9月の
間にBMSを留置し,6ヵ月後,18ヵ月後のフォロ
ーアップを行った2632病変(lesion length 16.2mm,
Reference diameter 2.94mm)について,検討を
行った.BMS全体では6ヵ月後のlate lossは0.80
±0.48mmであったが,18ヵ月後には0.68±0.47
mmと改善を認めた.Stent種類別に検討しても,
ほとんどのstentでlate lossの改善を認めた.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
海峡メッセ下関(2008 年 6 月) 1029
7) Cypher留置後に超遅発性ステント内血栓症
をきたした2症例
(川崎医科大学附属病院循環器内科)
林 秀行・川元隆弘・土谷哲生・和田希望・
林田晃寛・根石陽二・豊田英嗣・大倉宏之・
吉田 清
症例1は73歳男性.2005年1月不安定狭心症にて
seg6にCypher3.0×28mm留置.12か月後の確認
造影では再狭窄は認めなかったが,36か月後に超
遅発性ステント内血栓症(VLST)を発症した.
血栓吸引後にPOBAにて治療し,その1ヶ月後の
確認造影の際に光干渉画像断層法(OCT)を施
行したが,Cypherのmal appositionは認めなかっ
た.症例2は48歳男性.2006年4月急性心筋梗
塞にてseg7にCypher3.0×23mm留置.12か月後
の確認造影ではステント内再狭窄は認めなかった
が,20か月後にVLSTを発症した.血栓吸引後に
Bare Metal Stentを留置し,その1か月後の確認
造影の際にOCTを施行したところ,Cypherのmal
appositionを認めた.今回,我々はVLSTの2症
例を経験したので,文献的考察を加え報告する.
10) マルチスライスCT(MSCT)によりPCI施
行時の末梢塞栓を予測し,distal protectionを施行
した一症例
(広島大学循環器内科) 國田英司・
土肥由裕・北川知郎・蓼原 太・岡田武規・
西岡健司・荘川知己・中野由紀子・寺川宏樹・
山本秀也・石田隆史・木原康樹
症例は57歳,男性.2年前に急性冠症候群を発症
し右冠動脈99%狭窄にPCIを試行した際,末梢塞
栓を生じ心筋梗塞を合併した.以後外来通院中で
あったが,2008年3月5日,冷汗を伴う胸痛が出現
し当院に救急搬送された.来院時,胸痛は消失し
心電図変化は認めなかったが,血中トロポ二ンI
が上昇し,急性冠症候群と診断し緊急入院した.
翌日,MSCT冠動脈造影を施行し,左前下行枝近
位部に責任病変と考えられる75%狭窄および同部
のpositive remodelingを呈するlipid-richなプラー
クが描出された.CT画像におけるプラーク性状
診断より,狭窄病変拡張後の末梢塞栓発生が予想
された.そこで,PCI時にフィルターワイヤーを
用いたdistal protectionを施行した症例を経験し
たので報告する.
8) Heparin起因性血小板減少症(HIT)により
ステント血栓症を来たした1例
(厚生連廣島総合病院循環器科) 対馬 浩・
卜部洋司・藤井 隆・前田幸治・三玉敦子・
関口善孝・辻山修司
11) 血栓塞栓が原因と考えられた急性冠症候群
の1例
(市立宇和島病院循環器内科) 大島弘世・
池田俊太郎・山根健一・青野 潤・石橋 堅・
大島清孝・濱田希臣・泉 直樹
55歳男性.AMI(LAD #7:90%,#9:90%)に
対してHeparin投与下にPCI施行,ステントによ
り0%と改善した.術後17日目,夜間呼吸困難
で来院,心電図よりSATを疑いHeparin投与下に
CAG施行,ステント接合部で閉塞を認めPCIとな
った.その際,呼吸・循環動態の悪化を認め,気
管挿管・IABP下にPCIを継続し,LADステント
内とLCX病変にステント留置を施行した.2回目
PCI後にCHDFを施行したが,透析カラムの凝固
を繰り返した.後日,本例はHIT抗体検査におい
て陽性でHITと診断された.以降,抗凝固療法剤
としてArgatrobanを使用した.PCI後の重篤な血
栓塞栓症の一因としてHITを考慮し,早期診断お
よび適切な対応が必要とされる.
症例は70歳,男性.慢性心房細動のため近医より
バイアスピリンを処方されていた.冷汗を伴う胸
痛が1時間持続したため当院へ搬送された.来院
時には胸痛は改善しており,心電図では明らかな
ST-T変化はなく,心エコー上も明らかな壁運動
異常は認めなかった.翌日にも同様の胸痛が出現
し,急性冠症候群が疑われたため緊急冠動脈造
影を施行した.その結果左前下行枝Seg 8に99%
狭窄を認めた.同部に対して血栓吸引を行った
ところ,赤色血栓が吸引され,狭窄は消失した.
IVUS,血管内視鏡を施行したが,明らかなプラ
ークびらん,破綻は認めなかった.後日施行した
経食道心エコーにて左心耳内に血栓を認め,今回
のイベントは血栓塞栓の可能性が示唆された.血
栓塞栓が原因と考えられた急性冠症候群の1例を
経験したので報告する.
9) 当 院 に お け る シ ロ リ ム ス 溶 出 性 ス テ ン ト
(SES)留置症例におけるステント血栓症(ST)
の検討
(倉敷中央病院循環器内科) 今井逸雄・
門田一繁・柴山謙太郎・齋藤直樹・宮本真和・
大鶴 優・岡本陽地・山田千夏・長谷川大爾・
羽原誠二・田中裕之・廣野明寿・細木信吾・
福 康志・岡 直樹・加藤晴美・山本浩之・
藤井理樹・後藤 剛・井上勝美・光藤和明
12) 多枝に及ぶ塞栓性閉塞病変が原因と思われ
た若年者急性心筋梗塞の1例
(喜多医師会病院循環器内科) 吉井豊史・
井上勝次・日浅 豪・山田忠克・住元 巧
2002年11月から2006年11月までに当院にて施行さ
れたSESのみ留置した症例におけるSTに関して
検討した.計3500症例に対してSESが留置され,
9例{1ヶ月以内:2例 1ヶ月以降1年以内:4例
1年以降:3例}にARC definiteのSTを認めた.そ
のうち,抗血小板薬2剤の内服を中止していた症
例は1例,アスピリン1剤のみの内服は2例だった.
更に,4例はステントフラクチャーを生じていた.
ステント血栓症は致死的であり,要因として抗血
小板薬の中断のみでなくステントフラクチャーと
の関連性についても考慮する必要がある.
1030 第 92 回中国・四国合同地方会
症例は42歳,男性.検診にて糖尿病,肥満等を指
摘されたが放置していた.平成20年3月7日深夜
まで飲酒し翌朝に胸部圧迫感が出現,昼頃に胸痛
が増悪したため救急病院を受診した.心電図にて
左室下側壁誘導にてST上昇を,血液検査にて心
筋逸脱酵素の上昇を認め急性心筋梗塞と診断され
同日当科に転院した.緊急冠動脈造影検査を行い,
右冠動脈seg.4AVと左冠動脈高位側壁枝に血栓性
の閉塞病変を認めた.両病変に対して血栓吸引術
と血栓溶解療法(pulse infusion thrombolysis)を
行った.血流が改善した後,IVUSにて両病変部
位から近位部の観察を行ったが明らかな責任病変
は認められなかった.多枝に及ぶ塞栓性閉塞病変
が原因と思われた若年者急性心筋梗塞の1例を経
験したので報告する.
13) 静脈グラフトが2枝ほぼ同時に閉塞した急
性心筋梗塞の1例
(徳島県立中央病院) 奥村宇信・藤永裕之・
斎藤彰浩・蔭山徳人・原田顕治・山本 隆・
河原啓治
我々は静脈グラフトの2枝がほぼ同時に閉塞を来
した稀な急性心筋梗塞の1例を経験したので若干
の文献的考察を含めて報告する.症例は,79歳,
女性,胸痛を主訴に受診された.来院時,ショ
ック状態,血液検査でCK上昇,心電図で完全房
室ブロックとII・III・aVfでSTの上昇を認めた.
まず血行動態の維持のために一時ペーシングと
IABPを留置した.冠動脈造影にて左主幹部と右
冠動脈#2の完全閉塞を認めた.左回旋枝の静脈
グラフトは開存,左前下行枝と右冠動脈への静脈
グラフトに完全閉塞を認めた.心電図変化から責
任病変は右へのグラフトと考えて,同部位に対し
てインターベンションを施行した.しかし,再灌
流後に前胸部誘導でSTが上昇し,左前下行枝へ
のグラフトの閉塞も同時に来していると考え,イ
ンターベンションを施行し再灌流に成功した.
14) 右バルサルバ洞に発生した血栓による間欠
的右冠動脈閉塞が原因と考えられた急性冠症候群
の1例
(喜多医師会病院循環器内科) 日浅 豪・
山田忠克・吉井豊史・井上勝次・住元 巧
(よつば循環器科クリニック心臓血管外科)
佐藤晴瑞・横山雄一郎
症例は76歳,男性.胸痛のため近医を受診し,心
電図にて下壁誘導のST上昇が認められたため当
院に搬送された.経胸壁心エコーでは右バルサ
ルバ洞内に長径1.3cmの塊状エコーを認めた.冠
動脈造影では有意狭窄は認められなかったが,
造影後速やかにカテーテル抜去すると右冠動脈
(RCA)に造影剤の停滞を認めた.右バルサルバ
洞の構造物がRCA入口部に蓋をし,心筋虚血を
誘発したものと考え,血流維持目的で多数の側孔
を作成した7FrガイディングカテーテルをRCAに
エンゲージさせた状態で心臓外科施設に搬送し
た.同部位から血栓が摘出されたが,大動脈弁,
大動脈壁はintactであった.バルサルバ洞内に発
生した血栓が急性冠症候群の原因となった興味深
い1例を経験したので報告する.
15) 急性心筋梗塞を発症し亜急性期に心尖部心
腔内血栓を認めた進行性膵癌の1例
(善通寺病院循環器科・臨床研究部)
福田大和・福田信夫・篠原尚典・森下智文・
酒部宏一・田村禎通
症例は56歳女性.平成19年6月頃より全身倦怠感
を感じていたが放置していた.平成20年2月19日
胸痛を主訴に当院へ救急搬送され,冠動脈造影
検査にて左前下降枝に血栓性の完全閉塞を認め,
緊急PCIを施行した.その後入院6日目に施行し
た心エコー検査にて心尖部に25mm大の血栓を疑
わせる構造物を認め,造影CTを施行したところ,
膵体尾部癌と多発性肝転移を認めた.進行性癌患
者は易血栓性のため,Trousseau症候群などを起
こすとされているが,急性心筋梗塞の発症の報告
は少ない.リスクファクターの少ない若年者の心
筋梗塞発症には,悪性腫瘍の検索が重要であると
ともに,進行性癌患者の心筋梗塞後には,心腔内
血栓を始めとする血栓塞栓症の発症に注意が必要
と思われた.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
16) 冠動脈塞栓が疑われた脳塞栓症とほぼ同時
期に発症した急性冠症候群の1例
(市立三次中央病院内科) 小林賢悟・
三上慎祐・藤原 舞・田中幸一
19) 冠スパスムは心不全も引き起こす冠攣縮性
心不全(Vasospastic Heart Failure)
(愛媛県立新居浜病院循環器科)
三根生和明・坂上智城・末田章三
症例は84歳の女性.頭痛,嘔吐を主訴に救急外来
を受診した.来院時,左共同偏視を認めたが胸
部症状の訴えはなかった.頭部CTで左後大脳動
脈領域に低吸収域を認め脳塞栓症として入院と
なったが入院時のECGで洞調律,II,III,aVFで
ST上昇を認めたため急性冠症候群として当科に
紹介された.緊急冠動脈造影を行ったところ#3
が完全閉塞しており,カテーテル治療を行った.
Thrombuster(Kaneka, Japan)を用いて,血栓
吸引を試みた.数回行ったところで赤色の新鮮血
栓を認め冠動脈は再開通し,有意狭窄は認めなか
った.この症例は,後に発作性心房細動を有して
いることがわかり,冠動脈に有意狭窄がなく,脳
塞栓と時期を同じくして急性冠症候群を発症して
いることから冠動脈塞栓が疑われた.比較的稀な
症例であり,若干の文献的考察を含めて報告する.
【目的】心不全症例における冠攣縮の関与を後ろ
向きに検討.【対象と方法】過去7年間に,201例
の心不全患者を入院加療した.心不全改善後の退
院前に,心臓カテーテル検査と観血的冠攣縮誘発
負荷試験が施行可能であった37例(M:22例,67
±11歳)が対象.DCMが9例,HHDが4例,Valが
3例,その他が21症例(afが13例)であった.
【結
果】冠攣縮は12症例(32%)に認め,多枝冠攣縮
が10例(3枝:5例,
2枝:5例)で,DCMが11%(1/9),
Valが33%(1/3),
その他の心不全例が48%(10/21),
afが38%(5/13)であった.冠攣縮陽性群と陰性
群で,退院前のLVEF/LVEDPには差異は認めら
れなかったが,治療後には冠攣縮陽性群が有意の
左室機能改善効果を認めた.【結論】我が国の心
不全症例の原因として,冠攣縮が関与している可
能性がある.
17) メタボ増加は誘発冠攣縮頻度を増加させる?
(愛媛県立新居浜病院循環器科) 末田章三・
坂上智城・三根生和明
20) 冠動脈CTは冠攣縮性狭心症例(CSA)の
follow upに有用か?
(愛媛県立新居浜病院循環器科)
三根生和明・坂上智城・末田章三
【目的】過去17年間のAch負荷試験施行症例の冠
危険因子と誘発冠攣縮頻度の推移を検討した.
【方
法】対象は,1991年から2007年末までに施行した
薬剤を用いた冠攣縮誘発負荷試験連続1198例であ
る.血管造影上,少なくとも90%以上の一過性の
冠動脈異常収縮を冠攣縮陽性と定義した.過去17
年間を前期(1991-2000)と後期(2001-2007)ま
での2期に分けて,冠危険因子と誘発冠攣縮頻度
を解析した.【結果】誘発冠攣縮頻度は,2001年
以降は増加傾向を示し,前期:34%から後期:60
%と有意の増加を認めた(p<0.01)
.前期に比し
て,後期で,高血圧・高脂血症・糖尿病は有意に
増加した.TC/TG/HDL/BSは有意の増加を認め
た.【結論】日本人において,メタボリック症候
群の増加が血管内皮機能障害をもたらし,誘発冠
攣縮頻度を増加させている可能性がある.
18) 強力なスパズムを起こした部位に慢性期に
器質的閉塞を来した一例
(広島市立安佐市民病院循環器科)
長沼 亨・土手慶五・加藤雅也・佐々木正太・
上田健太郎・中野良規・渡邉義和
57歳,男性,大病歴なし.喫煙40本/37年間.平
成18年8月,数日前から早朝に胸部不快感あり,
職場で心肺停止状態となり当院救急搬送された.
CAGで右冠動脈のスパズムを認め,異型狭心症に
よる心原性ショックと診断した.PCPSで急性期
管理し,ニトログリセリン,Ca拮抗薬投与にて
循環動態は改善し,神経学的所見なく独歩退院し
た.退院後禁煙に成功したが,体重55kgが69kg,
ウエスト85cmが90cmに増加した.19年12月,寒
冷刺激で増悪する冷汗を伴う胸痛あり.CAGで
以前スパズムを起こしていた部位に器質的閉塞を
認め,IVUSで石灰化に乏しい全周性のfibrofatty
plaqueを認めた.スパズムには血管拡張薬,禁煙
が有効であるが,他の動脈硬化因子への積極的な
介入もやはり必要である.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
22) 手術のタイミングに苦慮した急性心筋梗塞
に伴う心室中隔穿孔の一例
(高知赤十字病院循環器科) 宮川和也・
西野 潔・竹中奈苗・高橋純一・森本啓介・
木村 勝
(高知大学老年病科循環器科) 土居義典
症例は80歳女性.AMIでLADにPCIを施行し,良
好な血行再建を得た.Peak CPK:9100,血圧は
DOA併用で110-120.第6病日のTTEで前壁中隔
∼心尖部でakinesisと軽度心嚢液貯留あり.夜間
より心不全増悪,翌日に新たな心雑音聴取.TTE
でQp/Qs=1.9のVSPを診断,翌日手術となるが
心不全は増悪.SGカテでの術前のQp/Qs=1.0.
術所見は血性心嚢液貯留,右室中部にスリルあ
り,左室心尖部は浮腫状で瘤状化,表面にうっ血
所見を認めた.SVCとPAのO2 step upは37→42%
で,Qp/Qs=1.09.TEEでモザイクを描出できず,
シャント量は僅かで左室切開は術後の心機能悪化
を生じると判断し閉胸.しかし術後にPA圧上昇・
血圧低下・不整脈を認め,Qp/Qs=4.24にて再開
胸となった.VSPについて若干の考察を含め報告
する.
23) 心室中隔穿孔(VSP)の一治験例
(広島大学病院心臓血管外科) 高橋信也・
岡田健志・高崎泰一・佐藤克敏・黒崎達也・
今井克彦・渡橋和政・末田泰二郎
【目的】CSA例における冠動脈CTの有用性を後ろ
向きに検討.【対象と方法】CSA例のfollow upで
冠動脈CTを施行し得た32例(男性:26例,63±
10歳)である.CAGから冠動脈CTまでの期間は
62±27ヶ月間である.AHA分類の2grade以上の
動脈硬化進行を有意とした.【結果】冠動脈CT上,
34%(11/32)に動脈硬化進行を認め,6例がPCI
を受け,1例はPCI待機中に突然死した.胸部症
状の持続していた群は,消失していた群に比して
動脈硬化進行が多かった(50% vs. 22%,ns).新
規発症の胸部症状を呈した6例は全例,明らかな
動脈硬化を認めた.誘発冠スパスム陽性血管と動
脈硬化進行は73%(8/11)の血管で一致を認めた.
【結論】CSA例の胸部症状持続例・治療中に新規
胸部症状発症例では,動脈硬化進行を認める可能
性があり,冠動脈CT精査が有用と思われる.
症例は71才,男性.急性発症した胸部圧迫感に
て近医受診.ECGにて前壁梗塞を疑われUCGに
て心筋梗塞と心室中隔穿孔(VSP)を診断.wide
QRS tachycardiaを起こし循環動態不安定なた
め紹介.CAGでは#2 75%,#7 100%.LVGにて
ApexにVSPを認めQpQsは1.8.CTにても同様の
所見.IABP挿入.利尿剤にて尿流出あり.不穏
となり循環動態不安定となるも,挿管鎮静する
ことより改善.2週間後に手術(VSP closureと
Infarct exclusion,#8へのCABG)施行.術後3
日目にIABP抜去.4日目に抜管.術後LVGにて
QpQsはほぼ1.0.集学的治療にて自立歩行可能と
なり転院.VSPの治療について,考察を加えて報
告する.
21) ACEI/ARBの普及が異型狭心症(Va)の再
燃に関与?
(愛媛県立新居浜病院) 坂上智城・
末田章三・三根生和明
24) 小開腹による心拍動下再冠動脈バイパス術
の一例
(徳山中央病院) 池永 茂・高橋雅弥・
岡田治彦
【背景】Caの普及がVaの減少に関与していること
を我々は報告した(Chest 2003; 124: 2074-78)が,
現在は,ARB万能時代である.
【目的】CSAと診
断した症例における心カテ前に服用していた薬を
調査した.【方法】対象は,1991-2005年末までに
最終診断したCSA連続456例である.15年間を3年
毎に分類し,2003-2005年までのデータを,過去
の成績と対比した.【結果】Vaは2002年まで減少
していたが,2003-2005年に微増した(28/33/9/4/
9).Caは,2002年 ま で は 徐 々 に 増 加 し た が,
2003-2005年は減少した(32.6%/27.5%/47.6%/49.4
%/36.4%).硝酸薬は変化なく,スタチンは徐々
に増加した.ACEI/ARBは有意に増加した(1.1%
/1.7%/1.6%/7.8%/11.2%).【結論】ARB旋風によ
るCa拮抗薬処方減少が,Va再燃に関与している
可能性がある.
症例は,69歳女性.平成16年より慢性時不全に
対 し て 血 液 透 析 が 行 わ れ て い る. 平 成17年 に
CABG(LITA-LADとY composite graftのLITARITA-D1)が行われており,この際,胸骨骨髄炎
を併発した.約1年後より透析中に胸痛を来すよ
うになり,#1,#2に対してPCIが施行されてい
る.平成19年1月に再度胸痛が出現しおこなわれ
たCAGでは,#1,#2のstent内狭窄が生じていい
たために,当科へ再CABGの目的に紹介された.
CAGでは,LITAは良好に開存しており,#1およ
び#2のstent内に90%狭窄を認めていた.また,
術前のCTでは,胸骨と右心系の癒着が示唆され
た.手術は上腹部正中切開から経横隔膜的に下壁
に到達するSubXiphoid approachによるMIDCAB
で4PDに対して行った.術後の3DCTでは,グラ
フトは良好に開存していた.
海峡メッセ下関(2008 年 6 月) 1031
25) OPCAB後急性期に冠動脈3枝に高度攣縮
をきたし治療に難渋した1例
(山口県済生会下関総合病院) 藏澄宏之・
伊東博史・阪田健介・小林百合雄
28) 心筋梗塞・脳卒中予報
(広島県医師会心筋梗塞予報委員会)
松村 誠・井上一郎・上田浩徳・岡本光師・
川本俊治・田中幸一・山田信行
31) 若年かつ姉妹で発症したAMIの2症例
(三豊総合病院内科) 中野由加里・
高石篤志・高谷陽一・旦 一宏・大西伸彦・
上枝正幸・今井正信
症例は57歳男性,安静時の胸痛を主訴に当院を受
診,心臓カテーテル検査を行われLMT90%病変で
あった.準緊急でOPCAB 3枝(LITA to 14PL,
15PL,RITA to LAD)を施行した.術当日深夜
に血圧の低下をきたしその後Vfとなった.徐細動
を行うも心拍動は再開せず心臓マッサージのもと
にIABP挿入,次いでPCPSを装着した.その後心
拍動はかろうじて再開した.緊急CAGを施行し
たところ,バイパスグラフトと吻合部は良好に開
存していたが冠動脈は3枝とも広範囲に攣縮を呈
していた.冠動脈の攣縮による全心筋虚血のため
のショックであった.冠拡張剤を使用しつつ心機
能の回復を待ち,術後3日目にPCPSを抜去した
がIABPの補助は術後22日間要した.OPCAB後広
範囲の冠動脈攣縮により治療に難渋した症例を経
験したので報告する.
広島県医師会では,急性心筋梗塞の発症と冬の気
象条件の関連に着目し,県内の心筋梗塞症例・救
急搬送状況と気象条件の関連につき調査研究し
た.その結果,心筋梗塞は一日の平均気温6℃未
満・平均気圧1013hPa未満の日と寒冷前線通過の
日に多発しており「警戒/危険大」,次いで平均気
温6℃未満・平均気圧1013hPa以上の日と帯状高
気圧の日に多くみられ「注意/危険中」,それら以
外の日を「普通/危険小」とし,2004年11月より
当会ホームページ上で『心筋梗塞予報』を開始し
ている.さらに2006年12月よりは,一日の平均気
温が9℃未満の日に心不全と脳卒中が多発してい
るというデータに基づき『心不全・脳卒中予報』
も開始している.この予報をマスメディア等で県
民に広報し,病気の予防と早期受診,早期診断・
治療の推進を目指している.
症例は42才と44歳の姉妹.姉は平成14年に頻発す
る胸痛発作を自覚し,Ach負荷冠動脈造影から異
型狭心症と診断され,内服加療を続けていたが,
平成16年12月に心室細動を伴う急性下壁心筋梗塞
を発症,右冠動脈2番にステントを留置された.
妹は平成19年10月に急性広範前壁心筋梗塞を発症
し,緊急冠動脈造影にて左冠動脈前下行枝6番の
完全閉塞を確認,同部にステントを留置された.
両者の冠危険因子はいずれも喫煙のみであった
が,ともに血液中の脂肪酸分画においてアラキド
ン酸とエイコサペンタエン酸の比率が著明に高値
であった.若年女性のAMI発症は比較的まれであ
り,さらに姉妹での発症例を経験したので,発症
の成因につき考察し報告する.
26) 心原性ショックをきたした左冠動脈起始異
常の一例
(福山市民病院心臓血管外科) 田辺 敦・
喜岡幸央・栗山充仁
(同循環器内科) 山田信行・中濱 一・
橋本克史・渡辺敦之・河合勇介・杉山弘恭
29) リポプロテイン(a)
[Lp(a)]とメタボリッ
ク症候群
(山陰労災病院循環器科) 笠原 尚・
遠藤 哲・松原剛一・尾崎就一・太田原顕
32) 若年で急性心筋梗塞を再発した1例
(福山市民病院循環器科) 杉山弘恭・
川合晴朗・河合勇介・渡辺敦之・橋本克史・
中濱 一・山田信行
【背景】われわれは非糖尿病冠動脈疾患患者にお
いてメタボリック症候群に関連する臨床所見を有
さない患者に高Lp
(a)血症を高率に合併すること
を報告した.【目的】今回糖尿病症例も含め同様
な検討を行った.
【対象】冠動脈に有意な狭窄病
変を有する男性699例.【方法】メタボリック症候
群の診断基準を満たす症例をMS群,メタボリッ
ク症候群の診断基準の臨床所見を全て有さない症
例を非MS群,その他を中間群に分類した.3群間
で高Lp
(a)
血症(≧30mg/dl)の頻度を比較検討し
た.【結果】高Lp
(a)
血症の合併は非MS群(46.8%)
で,MS群(27.2%)
,中間群(25.2%)に比較し有
意に高率であった.【総括】メタボリック症候群
に関連する臨床所見を有さない冠動脈疾患患者に
おいては,高Lp
(a)血症の存在に注意をはらう必
要があることが示唆された.
症例は30歳男性.既往歴・家族歴は特記すべきこ
となし.喫煙歴あり.現病歴は2005年12月(28歳時)
と2007年12月に急性心筋梗塞(AMI)を発症し当
院へ緊急入院.いずれも緊急心臓カテーテル検査
を施行,責任枝は左冠動脈前下行枝近位部と遠位
部のほぼ同一部位であった.器質的狭窄は軽微な
血栓性閉塞であったため,血栓吸引のみで再潅流
(TIMI 3)が得られた.慢性期に冠攣縮誘発試験
を行ったところ,アセチルコリン負荷にて遠位部
に冠攣縮が誘発された.ともに早朝安静時の発症
であり,原因として冠攣縮や内皮障害が疑われた
(2007年12月は約1ヶ月前から治療中断となって
いた)
.若年のAMI再発はまれであり,若干の文
献的考察を加え報告する.
27) Off pumpかon pumpか?びまん性前下行枝
病変に対するlong onlay patch grafting
(岩国医療センター心臓血管外科)
錦みちる・村上貴志・大谷 悟・山本 剛・
小山 裕
30) VH-IVUSによる非責任病変での冠動脈プ
ラーク組成と多価不飽和脂肪酸との検討
(三豊総合病院循環器科) 高谷陽一・
上枝正幸・中野由加里・旦 一宏・大西伸彦・
高石篤志
33) 急性腎炎症候群と心筋炎を合併した一例
(愛媛県立中央病院循環器内科) 武智和子・
高木弥栄美・鈴木 誠・羽原宏和・中村陽一・
佐々木康浩・三好章仁・垣下幹夫・松中 豪・
風谷幸男・泉 直樹
(同腎臓内科) 西村誠明
冠動脈前下行枝のびまん性病変に対して,左内胸
動脈を用いたlong onlay patch graftingを行って
きた.当初,心停止下で行ってきたが,6例目以
降,血行動態の破綻を来した緊急例を除いて,offpumpで行うことを原則としてきた.前下行枝の
吻合想定部位の中枢側及び中間点にスネアーを置
き,文節遮断を行うことで,出血量の軽減,広範
な心筋虚血の回避を心がけた.時に,外シャント
チューブを用いて末梢側の潅流を行った.しかし
ながら,中間位に確認可能な内腔が認められない
場合,また,著しい石灰化のために中枢側のスネ
アーが効かない場合など,心停止下の吻合が好ま
しい症例を認めた.
【背景および目的】我々は,多価不飽和脂肪酸n6/n3
比がMDCTで急性心筋梗塞患者の冠動脈プラー
ク量,またVH-IVUSで安定狭心症患者の責任病
変プラークの不安定化と相関すること報告して
きた.今回,ACS患者における非責任病変のプ
ラーク組成をVH-IVUSで評価し多価不飽和脂肪
酸との関連について検討した.【方法】ACS患者
連続9例の非責任病変をVH-IVUSで解析.プラー
ク組成と多価不飽和脂肪酸との相関を検討した.
【結果】EPAは不安定化の指標となる% Necrotic
Coreと逆相関(p<0.01)を示し,AA/EPA比は%
Necrotic Core正相関(p<0.05)を示した.【結果】
EPA,AA/EPA比は冠動脈プラークの不安定化と
関連する可能性がある.
58歳男性.突然の呼吸困難にて発症し救急搬送.
ショック状態で肺水腫を認め人工呼吸器管理下に
心不全コントロールを行った.左室駆出率28%.
改善に伴い下壁の壁運動低下を認め第13病日に
CAGを施行,RCAに90%狭窄を認めPCIを施行.
このときLMTの50%狭窄も認めた.冠動脈CTで
は,LCAが右バルサルバ洞より起始し大動脈と
肺動脈の間を走行していた.RCA領域のAMIに
よる肺動脈圧上昇→LMT圧迫が今回の原因と考
えられた.治療は手術を選択,冠動脈バイパス術
(右内胸動脈−左前下行枝,左内胸動脈−左回旋
枝)を施行,以後発作は起こしていない.【考察】
左冠動脈起始異常は両大血管による圧迫が原因と
考えられる突然死の報告も認める.治療方法も含
め若干の文献的考察を含め報告する.
1032 第 92 回中国・四国合同地方会
症例は16歳女性.【主訴】呼吸困難.入院1週間前
より感冒様症状出現,呼吸困難の増悪し,近医受
診.肺水腫と診断され当院に救急搬送された.来
院時の体温39度,両側肺水腫を伴う左室駆出率
40%のびまん性収縮能の低下ならび胸膜炎や肉眼
的血尿を認めため,カルペリチドを用い肺水腫の
治療を行った.白血球の増加・補体の低下・抗核
抗体陽性であり,自己免疫疾患や感染症による心
筋胸膜炎ならび急性腎炎を疑い,第3病日よりス
テロイド治療を開始した.ACE阻害薬も併用し
第21病日にはほぼ正常の心機能に改善した.腎生
検では管内増殖性腎炎の所見を得た.腎機能改善
し,ステロイド減量中止後も炎症の沈静化を認め
ている.感染症により急性腎炎症候群と心筋炎を
合併した稀な症例を経験したので,文献的考察を
合わせて報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
34) 高齢となって繰り返す心室頻拍を契機に発
見された不整脈源性右室異形成の一例
(市立宇和島病院) 山根健一・池田俊太郎・
泉 直樹・大島弘世・石橋 堅・青野 潤・
大島清孝・濱田希臣
症例は76歳,男性.平成19年12月10日食欲不振を
主訴に近医を受診し入院した.受診時の心電図に
て左脚ブロック型心室頻拍を認め,キシロカイン
静注にて洞調律化した.以後も心室頻拍発作を繰
り返していた.繰り返す心室頻拍精査のため,平
成20年1月8日当院紹介入院となった.心電図で
V1-4陰性T波を認め,心エコーでは右室拡張,右
室収縮能低下を認めた.右心室中隔部の心筋生検
より右室心筋の脂肪変性を認めた.以上より不整
脈源性右室異形成と診断した.後日心室頻拍に対
してICD植込みを行った.今回,高齢となって繰
り返す心室頻拍を契機に発見された不整脈源性右
室異形成の一例を経験したので,若干の文献的考
察を加えて報告する.
35) アミオダロンの静注により劇症肝炎を発症
した肥大型心筋症の1例
(西条中央病院循環器科) 中村真胤・
松本有司・佐藤澄子・森 英城・太宰康伸・
高田泰治
肥大型心筋症において持続性頻拍や非持続性頻拍
でも突然死の危険性がある場合はアミオダロンが
使用される.しかし,アミオダロンは肺線維症,
肝障害,甲状腺機能異常など多彩な副作用が高頻
度に出現し,かつ致死的なこともあり,慎重に投
与すべき薬剤である.本例は43歳男性で突然死の
家族歴を有する肥大型心筋症であり,心室頻拍発
作にて外来を受診した.除細動後に心室頻拍の再
発予防目的にアミオダロンの静注を行ったが,翌
日より劇症肝炎を発症したため,アミオダロンの
静注を直ちに中止し,血漿交換および血液透析濾
過を行った.アミオダロンの静注により劇症肝炎
を発症した症例を経験したので報告する.
36) 左室壁運動異常を伴う心嚢液貯留の一症例
(岩国医療センター循環器科) 片山祐介・
河野晋久・岩崎 淳・高橋夏来・竹内一文・
大澤和宏・吉田雅言・田中屋真智子・
白木照夫・斎藤大治
症例は82歳女性.2007年6月中旬に持続する胸背
部痛を自覚し,8月上旬に近医より当院へ紹介入
院となった.初診時のUCGで中等度心嚢液貯留
と心尖部の壁運動低下を認めた.炎症所見,心筋
逸脱酵素上昇なし.準緊急的冠動脈造影では有意
狭窄なし.Tl/BMIPP心筋シンチではBMIPP優位
の心尖部取り込み欠損を認め,Gaシンチでは異
常集積なし.たこつぼ型心筋症と考えたが,切迫
心破裂合併を否定できず.安静と慎重な心臓リハ
ビリの後に,心嚢液減少,心尖部壁運動の改善を
確認したが,退院前の冠動脈造影再検では心尖部
を回り込む左前下行枝は冠攣縮陽性であった.以
上により冠攣縮による心筋梗塞と,心嚢液貯留の
遷延した症例と考えられたが,心嚢液が炎症性か,
切迫心破裂か,疑問が残るところである.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
37) 左室形成術を必要とした左室緻密化障害の
1例
(市立宇和島病院循環器内科) 濱田希臣・
山根健一・泉 直樹・青野 潤・石橋 堅・
大島清孝・池田俊太郎
(香川大学心臓血管外科) 堀川康浩
患者は30歳女性.18歳まで定期的な検診で心電図
異常を指摘されていた.高校卒業後(18歳)から
平成17年までは自覚症状も無かったため放置して
いた.平成17年秋くらいから,軽労作でのしんど
さ,胸部絞扼感,胸痛が出現し始めた.症状が増
悪するため,検診を受けていた病院を受診し,心
雑音の増強を指摘された.地元の病院での精査を
勧められ平成18年8月29日当院内科を受診した.
心肥大と左室内圧較差を指摘され精査目的で11月
14日に入院した.約90mmHgの左室内圧較差を認
め,内服薬が有効であったが低血糖発作が出現す
るため内服は中止した.MRI検査で心尖部を中心
に腫瘍状病変が確認された.心エコー所見から左
室緻密化障害が疑われた.外科的摘出のためには
左室形成術(SAVE型手術)が必要であった.
38) 肥大型心筋症における心臓MRIの遅延造影
像とRadial strainの関連
(愛媛大学病態情報内科学) 齋藤 実・
岡山英樹・西村和久・井上勝次・鈴木 純・
大木元明義・大塚知明
(同生体画像応用医学) 井上祐馬・
倉田 聖・東野 博・望月輝一
(貞本病院循環器科) 本田俊雄・貞本和彦
(愛媛大学病態情報内科学) 重松裕二・
檜垣實男
【目的】肥大型心筋症(HCM)の心臓MRI遅延造影部
位における局所壁運動を検討すること.
【方法】HCM
患者30名に心臓造影MRIと心エコーを施行した.画像
の合致する短軸3断面の各断面を6分割し,各領域にお
ける遅延造影の広がり(%DE)と壁厚を測定し,2D
speckle tracking法で同領域のRadialおよびCircumferential方向のストレイン(RS,CS)とストレインレ
ート(RSr,CSr)を求めた.
【結果】全540領域のう
ち131領域(24%)で遅延造影像を認めた.RS,RSr
は遅延造影のある領域で有意に低値であったが(各々
p<0.0001)
,CS,CSrには有意差を認めなかった.
%DEの規定因子に関する多変量解析では,RSと壁厚
が有意な独立規定因子であった(各々p<0.0001)
.
【結
果】HCMにおける局所RSの低下は遅延造影像の広が
りに関与する事が示唆された.
39) 肥大型心筋症と高血圧性心肥大の心筋特性
の差異 −Radial strainによる鑑別−
(愛媛大学病態情報内科学) 西村和久
(喜多医師会病院循環器内科) 齋藤 実
(愛媛大学病態情報内科学) 永井啓行
(喜多医師会病院循環器内科) 吉井豊史
(愛媛大学病態情報内科学) 井上勝次・
鈴木 純・大木元明義
(喜多医師会病院循環器内科) 日浅 豪
(愛媛大学病態情報内科学) 大塚知明・
岡山英樹
(喜多医師会病院循環器内科) 住元 巧
(愛媛大学病態情報内科学) 檜垣實男
【目的】心筋radial strainを用いて,肥大型心筋症(HCM)と
高血圧性心肥大(HHD)を鑑別すること.
【方法】29名の
HCM患者(平均年齢61±14歳)と年齢,性別をマッチさせ
た22名のHHD患者(平均年齢61±13歳)を対象とし,Vivid 7
Dimension(GE)を用いて心エコー検査を施行した.傍胸骨
短軸像からradial strain
(εrad)
とcircumferential strain
(εcirc)
を算出した.
【成績】HCM群における心室中隔のεradと
εcircはHHD群に比し,それぞれ有意に低値であった(P
<0.01)
.HCM群における中隔と自由壁のεradの比(S/F
ratio)は,HHD群に比し有意に低値であった(P<0.0001)
.
S/F ratioの至適cutoff値0.92とすると感度82%,特異度 76%で
HCMとHHDの鑑別が可能であった.
【結論】心筋radial strain
によって心筋特性の差異を鑑別できる可能性がある.
40) 肥大型心筋症における左室捻れ運動の特徴
に関する検討
(愛媛大学病態情報内科学) 佐々木香織・
西村和久・井上勝次・鈴木 純・大木元明義・
大塚知明・岡山英樹
(喜多医師会病院循環器科) 齋藤 実・
吉井豊史・日浅 豪・住元 巧
(愛媛大学病態情報内科学) 檜垣實男
【目的】肥大型心筋症(HCM)の左室捻れ運動の
特徴を解明すること.【方法】対象はHCM患者29
名(H群:平均年齢62歳)と健常人21名(N群:平均
年齢61歳)である.両群で通常の心エコーに加え,
心基部と心尖部の短軸像から2D speckle tracking
法で,捻れの最大回転角度(Tor)とほどけの最
大回転速度(PUR)を算出した.【結果】TorはH
群でN群に比し有意に大であったが(p<0.05),
PURは有意差を認めなかった.QRSからPURま
での時間は,H群でN群に比し有意に遅延してい
た(p<0.0001).PURをTorで補正したPUR/Tor
はH群でN群に比し有意に小であった(p<0.05).
【結語】HCM患者では健常人に比し,有意に左室
の捻れが大であるにも関わらずほどけは同等であ
り,遅延していた.
41) 閉塞性肥大型心筋症におけるPressure guide
wireを用いた左室内圧較差評価: Fluid-filled method
との比較
(愛媛大学病態情報内科学) 井上勝次・
岡山英樹・西村和久・永井啓行・鈴木 純・
大木元明義・大塚知明・檜垣實男
(喜多医師会病院循環器内科) 齋藤 実・
日浅 豪・吉井豊史・山田忠克・住元 巧
心臓カテーテル検査において閉塞性肥大型心筋症
症例での左室内圧較差(LVPG)の測定は通常Fluidfilled methodを用いて行われるが,左室内へのカ
テーテル挿入時に左室狭小化に伴い正確な観血的
LVPG測定は困難であることがよく経験される.
我々は冠動脈血流予備能評価に用いられるPressure
guide wireを用いてLVPGの評価を行った閉塞型
肥大型心筋症2症例を経験した.症例1は66歳,
男性(閉塞性肥大型心筋症:心室中部閉塞型),
症例2は53歳,女性(閉塞性肥大型心筋症:左室
流出路+心室中部閉塞型)である.今回我々は
Pressure guide wireを用いたLVPG測定の有用性
をFluid-filled methodとの比較検討に基づき行っ
たため報告する.
42) 肥大型心筋症の経過中に拘束性の血行動態
を呈した一例
(山口大学器官病態内科学) 木原千景
(山口大学医学部附属病院検査部) 村田和也
(山口大学器官病態内科学) 藤村達大・
和田靖明・國近英樹・大草知子
(同器官病態外科学) 村上雅憲・小林俊郎・
美甘章仁
(同器官病態内科学) 松h益‡
症例は60歳女性.1990年から肥大型心筋症および
慢性心房細動に対して外来加療を行われていた
が,徐々に三尖弁および僧帽弁閉鎖不全症の増悪
をきたし,2008年1月に右心不全の状態で入院と
なった.心エコー検査では重度の三尖弁および僧
帽弁閉鎖不全症に加えて巨大右房,巨大左房を認
めた.利尿剤投与にて水分管理を行ったが,頚静
脈の怒張や下大静脈の拡大,胸水貯留などの右心
不全状態が続いたため,右心カテーテル検査にて
血行動態の評価を行った.右室の圧波形はdip &
plateauを呈し,拘束性の血行動態であった.右
心不全に対する内科的コントロールは困難であ
り,外科的治療として三尖弁および僧帽弁の弁形
成術および,両心房形成術を行った.肥大型心筋
症の経過中に拘束性の血行動態を呈し治療に難渋
した一例を経験したので報告する.
海峡メッセ下関(2008 年 6 月) 1033
43) 心臓再同期療法の左室ペーシング部位の変
更により著明に心機能が改善した1症例
(愛媛大学病態情報内科学) 阪田麻友美・
西村和久・齋藤 実・永井啓行・井上勝次・
鈴木 純・大木元明義・大塚知明・岡山英樹・
檜垣實男
症例は67歳の男性.平成16年2月より心不全が増
悪し,精査加療目的で当科に紹介入院した.精査
の結果,特発性拡張型心筋症,完全左脚ブロック,
徐脈性心房細動と診断し,心臓再同期療法(CRT)
の適応と判断し,胸腔鏡下の左室リード装着によ
るCRTを施行された.術後は当科外来にてfollow
されていたが,平成19年4月に右室リードの断線
が認められ,CRTの再手術目的で平成19年5月に
当科に入院した.さらに左室リード先端も左室側
壁心尖部側であったため,右室リードに加えて経
静脈的に左室リードを新たに挿入し,CRTを終
了した.術後の左室dyssynchronyや心機能は著
明に改善し,左室のreverse remodelingを認めた.
心臓再同期療法の左室ペーシング部位の変更によ
り著明に心機能が改善した1症例を経験したので
報告する.
44) 心臓再同期療法の新しい左室リードSTAR
FIXが有用であった2症例
(愛媛大学病態情報内科学) 大下宗亮・
西村和久
(喜多医師会病院循環器内科) 齋藤 実
(愛媛大学病態情報内科学) 永井啓行
(喜多医師会病院循環器内科) 吉井豊史
(愛媛大学病態情報内科学) 井上勝次
(喜多医師会病院循環器内科) 日浅 豪・
山田忠克・住元 巧
(愛媛大学病態情報内科学) 鈴木 純・
大木元明義・大塚知明・岡山英樹・檜垣實男
心臓再同期療法は,慢性心不全患者の予後や心機能の
改善に有効であるが,リード脱落,横隔神経刺激など
で至適部位に左室リードを留置することが困難な場合
がある.今回我々は,通常の左室リードでは留置が不可
能であった症例に対して新しい左室リードSTARFIXTM
を用いて手技に成功した2症例を報告する.症例1は,
68歳の男性.右室心尖部ペーシングによる心不全に対
してCRT upgradeを行った.Attain 4194を留置したが
dislocationを生じたため,STARFIXTMに変更し手技に成
功した.症例2は,79歳の男性.徐脈性心房細動に対
してVVIpacingを行っている慢性心不全患者に対して,
CRT upgradeを行った.Attain4193を留置したが,術後
左室リードのdislocationに伴う横隔神経刺激が出現し,
後日STARFIXTMによる再手術を施行し手技に成功した.
45) 心臓再同期療法が著効した高齢者拡張型心
筋症の1例
(市立宇和島病院) 石橋 堅・池田俊太郎・
山根健一・泉 直樹・大島弘世・青野 潤・
大島清孝・濱田希臣
症例はうっ血性心不全にて入院した77歳の男性.
左室駆出率は20%程度で高度の僧帽弁閉鎖不全を
認めた.冠動脈に有意狭窄無く,アセチルコリン
負荷にて冠攣縮を生じた.薬物療法にて心不全症
状改善し,高齢で認知症もあるため保存的治療に
て経過観察とした.6月に心不全増悪のため再入
院した.PDE阻害薬の長期持続静注にてうっ血は
改善したが,βブロッカー導入するも心機能は全
く改善無くむしろ左室径の拡大を認めた.心エコ
ー,心MRI等にて左室のdyssynchronyと側壁の
viability残存を確認し,8月24日に除細動機能付
き心臓再同期療法(CRT-D)を行い,約半年の
経過で左室径の縮小(拡張末期径70mm→50mm)
と左室駆出率の増大(40%程度),臨床症状の改
善を認めた.高齢者のCRTの成功例を経験したの
で若干の文献的考察を加え報告する.
1034 第 92 回中国・四国合同地方会
46) 当院における心臓再同期療法の初期成績
(市立宇和島病院循環器科) 池田俊太郎
(広島大学分子内科学) 山根健一
(市立宇和島病院循環器科) 泉 直樹・
大島弘世
(広島大学分子内科学) 石橋 堅
(市立宇和島病院循環器科) 大島清孝・
濱田希臣
心臓再同期療法(CRT)は左室dyssynchronyを有
する心不全に有効なデバイスである.今回当院に
おけるCRTの初期の成績を検討した.対象は2007
年4月以降CRTの植え込みを施行した7例(女性
2例,男性5例,平均年齢68±8才).基礎心疾
患は虚血性心不全が2例,拡張型心筋症が3例,
弁膜症が1例であった.全例で手技成功が得られ
た.植え込み前のNYHA心機能分類はIII度以上
で,術前の心電図は前例左脚ブロックであった.
CRT植え込み後,全例でNYHAの1度以上の改善
が認められた.また5%以上の左室駆出率の増加
は5症例(71%)
,15%以上のEnd-Systolic Volume
の縮小は4症例(57%)に認められた.またCRT-D
植え込み例では除細動機能の作動は認めなかった.
CRTは心不全治療の有効なoptionの一つと考えら
れる.
47) Upgrade CRTの植込み手技の問題点
(心臓病センター榊原病院内科)
川村比呂志・大河啓介・石澤 真・佐藤慎二・
広瀬英軌・廣畑 敦・山地博介・村上正明・
村上 充・山本桂三・清水明徳・日名一誠・
喜多利正
(いしま病院) 津島義正
当院では12例のupgrade CRT症例を経験した.12
例のうち以前植え込まれていたペースメーカー本
体側の鎖骨下静脈が閉塞もしくは高度狭窄を来し
ていたものが4例あり,開存していたが追加の穿
刺が困難であったり狭窄によりCSガイディング
シースの挿入が困難であったものが4例であった.
鎖骨下静脈の閉塞があってもCRTPへのupgrade
の場合反対側への植込みで対処可能であるが,
CRTDへのupgrade症例では除細動閾値に有利な
左側に本体をおくべきであり,皮下トンネルを用
いたリード延長を考慮する.症例を呈示しそれぞ
れの手技上の問題点を検討する.
48) 肥大型閉塞性心筋症のICD植込み術におい
て右室心尖部ペーシングが左室内圧較差の軽減に
有効であった症例
(愛媛県立中央病院循環器内科) 泉 直樹・
松中 豪・三好章仁・佐々木康浩・川田好高・
高木弥栄美・羽原宏和・垣下幹夫・中村陽一・
鈴木 誠・風谷幸男
(北上整形外科・放射線科クリニック)
日野一郎
症例は76歳女性.肥大型閉塞性心筋症のため当科
に通院中であった.平成19年11月に近医より持続
性心室頻拍のため当科へ紹介された.電気生理学
的検査で右室心尖部からのペーシングにより容易
に持続性心室頻拍が誘発されたためICDの適応と
診断した.心室ペーシング部位の違いによる左室
内圧較差について検討したところ右室心尖部ペー
シングで圧較差は78mmHgから26mmHgと著明に
低下したため心室リードは右室心尖部に留置し
た.また,術後にAV delayの設定を調節すること
で更に圧較差の減少を認めた.慢性期においても
圧較差の上昇を認めず経過良好である.肥大型閉
塞性心筋症のICD植込み術において右室心尖部ペ
ーシングが左室内圧較差の軽減に有効であった症
例を経験した.
49) 閉塞性肥大型心筋症に感染性心内膜炎を合
併した1例
(徳島赤十字病院循環器科) 福永直人・
日浅芳一・鈴木直紀・當別當洋平・陳 博敏・
宮崎晋一郎・馬原啓太郎・小倉理代・
宮島 等・弓場健一郎・高橋健文・細川 忍・
岸 宏一・大谷龍治
(同心臓血管外科) 福村好晃・大谷享史・
来島敦史・菅野幹雄
症例は72歳,男性.2007年1月に閉塞性肥大型心
筋症と診断され内服治療を行っていた.2007年7
月に敗血症性ショックで入院となった.心エコー
検査で僧帽弁と大動脈弁に尤贅を認め,血液培養
からはStreptococcus mutansが検出され感染性心
内膜炎と診断,抗生剤を開始した.入院後,心不
全症状は生じなかったが約12週間の抗生剤治療に
も関わらず炎症反応の改善を認めなかった.その
ため,同年9月僧帽弁と大動脈弁置換術を施行し
た.術中所見では,僧帽弁前・後尖,弁下部と大
動脈弁右冠尖に尤贅を認めた.主に僧帽弁下部
病変が炎症の中心と考えられた.退院後も炎症
反応の再燃は認めていない.成因としてsystolic
anterior movementが炎症に関与したと思われる
1例を経験したので報告する.
50) 両心不全の原因が全身性硬化症による二次
性心筋症であると考えられた一症例
(岡山大学循環器内科学) 野坂和正・
草野研吾・尾上 豪・福家聡一郎・永瀬 聡・
中村一文・森田 宏・武田賢治・岡 岳文・
大江 透
53歳男性.全身性硬化症に対して当院皮膚科入
院中であった.心臓超音波検査では左室EF 43
%,右室拡大と右室壁運動の低下を認め,心臓カ
テーテル検査ではCI 1.6と重度の両心不全であっ
た.心不全に対してβ-blockerを導入したが,臨
床症状の悪化とBNPの上昇を認めたため導入不
可能であった.心臓カテーテル検査時に同時に
心筋生検を施行しており,生検所見と合わせて,
β-blocker投与により悪化する全身性硬化症によ
る二次性心筋症と考えられた重症両心不全の一症
例を経験したので報告する.
51) 産褥心筋症の2症例
(三豊総合病院内科) 篠井尚子・高石篤志・
中野由加里・高谷陽一・旦 一宏・大西伸彦・
上枝正幸・今井正信
周産期に重症心不全を合併した2症例を報告す
る.1例目は26歳女性.双胎児のため帝王切開に
て2児を出産したが,翌日呼吸困難が出現,次
第に増悪した.胸部X写真にて著明な肺うっ血,
UCG検査にてびまん性の左心機能低下が確認さ
れたため,利尿剤等による心不全加療を行い約2
週間の経過で状態は改善,退院となった.退院時
軽度の心機能低下が残存していた.2例目は38歳
女性.妊娠29週目で突然呼吸困難が出現し,胸部
X線,UCGより急性心不全と考えられたため,帝
王切開にて児の娩出後,レスピレータ管理下で心
不全の加療をおこなった.産褥心筋症はまれに遭
遇する疾患であるが,出産後も心機能低下が残存
する例は予後不良との報告もあることから,厳重
かつ長期的な心機能のフォローアップが必要であ
ると考えられた.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
52) 失神で受診され左室憩室症が疑われた一例
(高松赤十字病院循環器科) 津島 翔・
末澤知聡・田原達哉・多田典弘・松原一志・
十河泰司
55) 胸痛の経過観察中にたこつぼ様の左室心尖
部収縮異常を認めた一例
(福山循環器病院循環器内科) 川副 宏・
竹林秀雄・赤沼 博・末丸俊二・久留島秀治・
佐藤克政・木村 光・菊田雄悦・永井正浩・
治田精一
58) CPK持続高値とIgE・好酸球増加が再燃の
指標となりステロイド投与により寛解したレフレ
ル心筋炎の1例
(広島市立安佐市民病院循環器科)
渡辺義和・長沼 亨・中野良則・上田健太郎・
佐々木正太・加藤雅也・土手慶五
症例は60歳,男性.2008年1月17日,飲酒後に胸
痛があり,1月23日に当院初診.心エコーで後下
壁の壁運動低下を認めたため冠動脈造影を施行し
た.冠動脈に有意狭窄を認めず,アセチルコリ
ン・エルゴノビン負荷でスパスムも誘発されなか
った.左室造影では後側壁の軽度壁運動低下を認
めるものの心収縮は良好であった.一硝酸イソソ
ルビドとアムロジピンを開始し経過観察していた
が,2月2日,飲酒後に再び胸痛があり当院受診.
心エコーで心尖部の無収縮を認めたために緊急冠
動脈造影を施行した.有意狭窄を認めず,左室造
影で心尖部の無収縮と心基部の過収縮を認めた.
壁運動異常は1週間でほぼ正常化した.本症例は
心臓カテーテル検査後,一週間で一過性左室心尖
部収縮異常をきたした一例であり,文献的考察を
加えて報告する.
【症例】30歳男性.感冒症状に続発する呼吸困難
にて当院受診.胸部レントゲンにてうっ血を認め,
心エコーで心筋浮腫と左室内血栓を認めたことか
ら心筋炎を疑い加療開始した.抗凝固療法とステ
ロイドパルスにより血栓は消失し心筋浮腫も改善
したが,第9病日より再度心筋浮腫が増悪した.
心筋生検にて心筋への好酸球浸潤を認めたことか
らレフレル心筋炎と診断し,再度ステロイドパル
スとプレドニン内服を開始した.しかしプレド
ニン漸減に伴い好酸球・IgEの増加とCPK漸増を
認め,ショックとなったため第52病日-第70病日
までPCPS,IABPで補助循環を行った.離脱後は
徐々にプレドニンを漸減し,再燃なく第173病日
に独歩退院となった.レフレル心筋炎ではCPK・
IgE・好酸球上昇を再燃・治療効果の指標とし,
プレドニン漸減を慎重に行う必要がある.
53) 急性心不全を契機に診断された多発性骨髄
腫に伴う全身性アミロイドーシスの一例
(鳴門病院循環器科) 長樂雅仁・廣野 明・
山口普史・高森信行・田村克也
56) 上部消化管内視鏡を契機に無症候性のたこ
つぼ型心筋症様左室壁運動低下を再発した1例
(愛媛病院循環器科) 舩田淳一・藤井 昭・
橋田英俊
73歳男性.2年前から易疲労感,体重減少,便秘,
顎下腺腫脹が出現.近医で消化管,顎下腺生検,
PET-CTなど施行されるも異常を認めなかった.
数日前より夜間呼吸困難が出現増悪し救急搬送さ
れた.胸部X線で著明な心拡大,肺うっ血を認め,
心電図で低電位,心臓超音波検査で全周性の心肥
大及び低収縮を認めた.アミロイドーシスを疑い
施行した消化管,皮膚生検では異常を認めなかっ
たが,理学的に巨舌を認め,舌生検でアミロイド
沈着を認めた.更に血中,尿中のBence Jones蛋
白-κ型陽性であり,骨髄穿刺にて未熟な形質細
胞を41.6%に認めた.以上より多発性骨髄腫に伴
う全身性アミロイドーシスと診断した.心不全の
原因としてアミロイドーシスを疑う際には,繰り
返しの生検など積極的な検索が必要と思われた.
【症例】70歳女性.【臨床経過】平成15年10月,急
性冠症候群の疑いで当院に入院した.冠動脈造影
ではLAD#7に90%狭窄を認めたが,心筋逸脱酵
素の上昇を認めず,特徴的な左室造影形態及び心
電図変化からたこつぼ型心筋症と診断した.左心
機能は正常範囲内に回復し,以降内服加療を継続
していた.平成19年9月,上部消化管内視鏡施行
後,約2日間食事摂取が困難であった.定期外来
での心電図にてQT延長を伴う広範囲の陰性T波
及び心エコーにて心基部を除くびまん性左室壁運
動の低下を認め入院した.第2病日には心電図所
見の軽快を認め,左心機能も速やかに回復した.
一方,MIBGの取り込みは平成15年の初発時に比
し低下しており,慢性の心臓交感神経機能障害と
の関連が示唆された.
59) 三心房心の3症例
(岡山大学循環器科) 森下陽子・谷口 学・
杜 徳尚
(岡山大学病院循環器疾患治療部) 赤木禎治
(岡山大学循環器科) 草野研吾・大江 透
(同中央検査部生理検査室) 田辺康治・
渡辺修久
54) 軽鎖蓄積病による心アミロイドーシスの一
症例
(島根大学医学部附属病院) 小谷暢啓・
島田俊夫・安達和子・伊藤早希・徳丸 睦・
菅森 峰・國澤良嗣・高橋伸幸・坂根健志・
佐藤秀俊・吉冨裕之・公受伸之・村上 陽・
石橋 豊
57) Torsade de Pointes(TdP)を合併したた
こつぼ型心筋症の一例
(徳島大学病院循環器内科) 小柴邦彦・
添木 武・仁木敏之・楠瀬賢也・山口浩司・
八木秀介・岩瀬 俊・山田博胤・若槻哲三・
赤池雅史
症例は59歳男性で失神精査にて入院となった.入
院時の心電図にてHR30台の洞性徐脈が認められ
た.心エコーでは心尖部と左室後下壁に肉柱様
のエコー像と後下壁には深い陥凹が認められた.
CAGでは有意狭窄を認めなかったが,LVGにて後
下壁に心室瘤状の像と壁運動の低下も見られて,
またVT誘発テストにてVT,Vfが誘発された.心
室瘤様に見られた部位では造影MRIにて遅延造影
が認められた.左室緻密化障害は心尖部優位に好
発が見られて徐脈性不整脈の合併も知られている
が,本例は後下壁に憩室様所見が見られ,その形
状より左室憩室症が疑われた.今回,われわれは
左室緻密化障害と鑑別に苦慮した左室憩室症と思
われる一例を経験したために報告する.
症例は47歳の男性.入院6ヶ月前から労作時呼吸
困難を自覚し次第に増強した.また,入院2ヶ月
前から味覚異常も出現した.心電図で肢誘導低電
位と胸部誘導でpoor R progressionを認め,心臓
超音波検査で左室の全周性肥大を伴う収縮低下
と,僧房弁血流速波形で拘束性パターンを認めた.
また,テクネチウム99mピロリン酸(Tc99m-PYP)
心筋シンチグラフィーで心臓に集積を認め,生検
組織コンゴレッド染色で複屈折を認めた.さらに
血清・尿免疫電気泳動では軽度異常,骨髄穿刺
液の形質細胞は約7%程度であったが,血中free
light chain測定でκ49.3mg/l,λ4367mg/lと著し
くλ型有意の軽鎖を認めた.以上から軽鎖蓄積病
(light chain deposition disease)によるALアミロ
イドーシスの診断に至ったので報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
症例は45歳男性.Ebstein奇形にて三尖弁置換術,
完全房室ブロックにてペースメーカー植込,心房
粗動に対してアブレーションの既往がある.自宅
で意識消失があり救急来院した.来院後も意識
消失があり心電図にてTorsade de Pointes(TdP)
が記録され,電気的除細動を行い救命した.また,
心エコー上以前にはなかった心尖部壁運動の著明
な低下があり,たこつぼ型心筋症と診断した.食
事を摂らずに飲酒を続けており,電解質異常(低
K,低Ca血症)からQT延長を来たしTdPに至っ
たものと考えられた.輸液,電解質補正,抗不整
脈薬投与などを行ったところ,TdPは速やかに消
失したが,たこつぼ型心筋症は数週間の経過によ
り改善した.一般に,たこつぼ型心筋症にTdPが
併発することは稀であり,若干の文献的考察を加
え報告する.
【症例1】56歳女性.健診で心電図異常指摘され,
近医受診.心エコー図で三心房心を疑われ,当院
紹介.経胸壁心エコー図にて左房内隔壁を認め,
交通孔では14.5mmHgの圧較差を認めた.
【症例
2】40歳女性.幼児期にASDを指摘されるも無
症状であり経過観察されていた.H19年8月心不
全を来たし,ASD治療目的に当院紹介.経食道
心エコー図にて左房内隔壁を認めた.交通孔の血
流加速は認めなかった.【症例3】45歳女性.特
に症状はなかったが,胸部Xp上肺動脈拡張を認
め心エコー図施行.ASDを指摘され,治療目的
に当院紹介.経胸壁心エコー図で左房内隔壁を認
めた.交通孔の血流加速は認めなかった.本症例
では3Dエコーにても観察を行い,解剖学的評価
に有用であった.非常に稀な心奇形とされる三心
房心の3症例を経験したため報告する.
60) 冠動脈瘤術後7年のフォローアップ
(近森病院心臓血管外科) 樽井 俊・
池淵正彦・藤田康文・入江博之
嚢状動脈瘤を伴った冠動脈肺動脈瘻に対し冠動脈
瘤縫縮術及び冠動静脈瘻結紮術を施行した1例の
遠隔期フォローアップを経験した.症例は77歳女
性.冠動脈瘤,冠動脈肺動脈瘻にて1994年から当
院でフォローアップされていた.CT上,瘤径が
3cmから4.5cmへ拡大したので手術施行した.冠
動静脈瘻は,左右冠動脈から起始し肺動脈主幹部
へ流入していた.冠動脈瘤は左前下行枝に存在し
3つの内腔を有する嚢状瘤であった.術後13日目
の冠動脈造影検査では冠動静脈瘻は消失してお
り,術後3ヶ月目のCTでは冠動脈瘤の再発はな
かった.しかし,術後3年目のCTでは,左冠動
脈近位部に冠動静脈瘻の再発が疑われ,経過観察
とした.再発の可能性も考慮の上,慎重にフォロ
ーアップする予定である.
海峡メッセ下関(2008 年 6 月) 1035
61) 修正大血管転位症に心臓再同期療法を施行
した1例
(愛媛大学病態情報内科学) 清水秀晃・
西村和久
(喜多医師会病院循環器科) 吉井豊史・
齋藤 実・日浅 豪・山田忠克・住元 巧
(愛媛大学病態情報内科学) 永井啓行・
井上勝次・鈴木 純・大木元明義・大塚知明・
岡山英樹・檜垣實男
症例は36歳,男性.出生時に修正大血管転位症
(corrected TGA)と診断され,合併奇形の心室中
隔欠損症に対し6歳時にパッチ閉鎖術を受けた.
平成19年8月より心不全の増悪を認め,心精査目
的で当院に紹介され平成20年1月に入院した.左
室駆出率34%の低心機能とwide QRS,NYHA III,
薬剤抵抗性心不全であり,更に除脈性心房細動も
合併していたため心臓再同期療法(CRT)を施行
した.解剖学的右室の冠静脈に冠静脈洞経由で左
室リードを留置し,解剖学的左室に右室リードを
留置し手技を終了した.corrected TGAに対する
経静脈的CRTは可能であり,有効な治療の一つと
なる可能性があると思われたので報告する.
64) 感染性心内膜炎に合併した感染性上行弓部
大動脈瘤の1手術例
(香川県立中央病院心臓血管外科) 青木 淳
(松山市民病院心臓血管外科) 寒川顕治
(住友別子病院循環器内科) 土井正行・
坂根弘祐・加地容子
症例は,68歳女性,2006年2月10日から発熱し,
2月16日 WBC 16300 CRP 27.2となり,血液培養
でStreptococcusが検出された.2月27日,心エ
コーにて大動脈弁の疣贅,AR MRを認め,当院
へ転院.炎症反応の改善後手術を行う予定であっ
たが,3月18日急性左心不全・肺水腫を生じ,翌
日緊急手術を行った.術中所見で,腕頭静脈のす
ぐ中枢側に約2.5cmの仮性瘤を認め,右冠動脈入
口部は疣贅様の塞栓で閉塞し,入口部近くに内膜
欠損部を認めた為,僧帽弁形成術,大動脈基部置
換術,上行弓部小湾側人工血管置換術,右冠動脈
へのバイパス術を行った.術後経過は良好で,2
日目に呼吸器より離脱し,術後4日目に一般病棟
へ帰棟,術後22日目に転院した.この様な症例は
稀であり報告する.
62) 奇異性脳塞栓症再発予防を目的とした心房
レベル右左短絡に対するカテーテル閉鎖術の初期
成績
(岡山大学医歯薬総合研究科) 中川晃志・
谷口 学・赤木禎治・草野研吾・大月審一・
岡本吉生・佐野俊二・大江 透
65) 大動脈弁二尖弁症に併発した上行大動脈瘤
に対する手術経験
(愛媛県立中央病院心臓血管外科)
黒部裕嗣・米沢数馬・石戸谷浩
(同病理部) 前田智治
(同心臓血管外科) 堀 隆樹
心房レベルの右左短絡による脳梗塞(いわゆる奇
異性脳塞栓)の存在は以前より知られていたが,
その治療は抗血栓療法が主体であった.2005年よ
り開始した心房中隔欠損症のカテーテル閉鎖術
160例中,現在までに経験した奇異性脳塞栓症合
併7例について初期成績を検討した.患者の平均
年齢41.3才(17才∼68才),全例洞調律で心房性
不整脈の既往はなかった.経食道エコーにより全
例で心房レベルでの右左短絡を確認,4例に心房
中隔瘤の合併を認めた.カテーテル治療は全例成
功し,平均フォローアップ期間4.3±3.5ヶ月にお
いて脳血管イベントの再発はなかった.留置後3
ヶ月の心エコー評価がされている6例中5例(86%)
において右左短絡の完全閉塞が確認された.今
後,本症に対する新しい治療技術となる可能性が
ある.
【症例】57歳男性.検診で胸部X-p異常あり,CT
で精査.右肺癌,上行大動脈瘤(最大径6cm)を
診断され,右肺切除を施行.その後再発なく1年
経過し,上行大動脈瘤に対し外科治療のため当科
受診.【術前検査】術前エコーで大動脈二尖弁を
指摘されるもAR/ASなし.【手術】上行大動脈人
工血管置換術を施行し,大動脈弁は術前問題認め
ないため温存した.【組織】大動脈組織解析では,
中膜壊死を認め,その部分はAlcian blue染色陽性
であった.【術後経過】術後経過は良好で,一週
間後・半年後のエコー検査でもAR/AS所見は認
めていない.【まとめ】二尖弁を温存した人工血
管置換術を経験したので報告する
63) 繰り返す脳梗塞を契機に診断されたファロ
ー四徴症の成人症例
(岡山医療センター循環器科) 戸嶋俊明・
宗政 充・池田悦子・木島康文・溝口博喜・
浦川茂美・木村英夫・久松研一・宮地克維・
藤本良久・松原広己
66) 拡大側方開胸(前側方開胸・胸骨下部部分
切開:ALPS)による弓部大動脈∼下行置換+冠
動脈バイパス術
(広島市立広島市民病院心臓血管外科)
鈴木登士彦・柚木継二・吉田英生・久持邦和・
加藤秀之・徳永宣之・大庭 治
症例は51歳女性.生下時に心室中隔欠損症を指摘
されていたが精査を受けることなく放置,その後,
1子を出産している.2007年,2008年と脳梗塞を
発症し,近医へ入院.浮腫を主訴として,精査加
療目的にて,当科へ紹介入院となった.入院時,
心エコー上,右室肥大,右心系拡大,肺動脈狭窄,
心室中隔欠損を認め,ファロー四徴症と診断し
た.心臓カテーテル検査にてO2 step upは認めず,
動脈管開存も認めていない.PA 17/5(10)mmHg,
RV 104(EDP 10)mmHg,Qp/Qs=1.08であり,手
術適応とし,手術予定である.成年となるまで診
断加療されていなかったファロー四徴症の一例を
経験した.貴重な症例と考えられ報告した.
【はじめに】当科では2000年より広範囲胸部大動
脈瘤や正中アプローチでは末梢側吻合に難渋する
症例に対して拡大側方開胸(前側方開胸・胸骨下
部部分切開:ALPS)を用い,出来うる限り一期
的人工血管置換術を施行してきた.今回,弓部∼
下行大動脈(Th8)人工血管置換+冠動脈バイパ
ス術を一期的に施行した症例を経験したので報告
する.【症例】60歳,
男性.冠動脈病変(#7 100%)
+遠位弓部大動脈∼下行大動脈瘤症例であった.
拡大側方開胸・30℃脳分離体外循環・下半身潅流
下にて一期的手術を施行した.術後1日目に呼
吸器より離脱し,問題なく経過した.【まとめ】
TEVAR・PCIの組み合わせによる手術の報告もあ
るが,開胸可能な症例においては有効なアプロー
チと考える.
1036 第 92 回中国・四国合同地方会
67) 80歳以上高齢者に対する全弓部置換術の経験
(鳥取大学医学部附属病院心臓血管外科)
丸本明彬・原田真吾・佐伯宗弘・西村謙吾・
中村嘉伸・金岡 保・西村元延
近年,高齢者に対する開心術も積極的に施行され
ている.胸部大動脈瘤に対する全弓部置換術につ
いてはQOLの低下が懸念されるため躊躇される
こともある.2006年9月から2008年1月までに施行
した選択的脳灌流法(SCP)を用いた待機的全弓
部置換術10例のうち80歳以上の2例について報告
する.【症例1】82歳男性.胸部CT上最大径68mm
の弓部大動脈瘤を認め,弓部全置換術を施行した.
術後,人工呼吸器管理,喉頭形成術を必要とした.
3ヵ月後自宅で生活している.【症例2】80歳男性.
弓部大動脈瘤が65mmに拡大を来たし,弓部全置
換術を施行した.術後合併症なく経過した.【ま
とめ】80歳以上の高齢者に対する全弓部置換術の
2例を経験した.高齢者に対してもSCPを用いて
安全に弓部全置換術を行うことが可能であり,術
後のQOLも満足ゆくものであった.
68) 偽腔閉塞型A型急性大動脈解離についての
検討
(県立広島病院胸部心臓血管外科)
松浦陽介・濱中喜晴・三井法真・平井伸司・
佐藤克敏
偽腔閉塞型A型急性大動脈解離に対する治療戦略
について,自験例を元に検討した.平成10年4月
∼平成20年3月まで,当科で経験したA型急性大
動脈解離18例を対象とした.平均年齢は,67±
17.4歳.男性8例.8例が血栓閉塞型であり,緊急
手術は行わず,全例にまず内科的治療を行った.
保存的治療が可能であったものが5例,慢性期に
大動脈径の拡大が認められ手術を施行したものが
2例,経過中再解離を発症し死亡したものが1例で
あった.偽腔閉塞型A型急性大動脈解離に対する
治療方針については,未だ明確なものがない.自
験例を元に,若干の画像的考察・文献的考察を加
え,報告する.
69) 右鎖骨下動脈起始異常を伴う胸部大動脈瘤
(Kommerell憩室)の食道穿破の一救命例
(広島大学病院心臓血管外科) 高橋信也・
岡田健志・高崎泰一・佐藤克敏・黒崎達也・
今井克彦・渡橋和政・末田泰二郎
症例は63歳,男性.4ヶ月前から嚥下困難.吐血
し来院.CTにて右鎖骨下動脈起始異常(ARSA),
Kommerell憩室瘤,動脈瘤食道穿破と診断,緊急
手術となった.まず右上腕動脈より大腿動脈用
PTAバルーンを挿入し出血コントロール.常温
部分体外循環補助下に左第3肋間開胸にて下行
大動脈をリファンピシン浸漬人工血管にて置換.
ARSA起始部と人工血管の間に大網充填施行.胸
腔を閉鎖した後に胃瘻造設した.術後抗生剤投与
と食道の減圧・安静,後に経腸栄養管理を行い,
食道潰瘍は治癒.経口摂取可能となり,独歩退院
した.文献的考察を加えて報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
70) 腹部大動脈瘤術後10年目に腰動脈出血を来
たし手術を施行した1例
(済生会山口総合病院外科) 福本剛之・
池田宜孝・郷良秀典・古川昭一・小田達郎
【症例】78歳男性.68歳時9cmの腹部大動脈瘤に
対し人工血管置換術を施行.術後10年目に腹部拍
動性腫瘤のため近医受診した.CTで人工血管周
囲に比較的新しい多量の血腫を認められたため当
施設に紹介となった.【既往歴】左内頸動脈内膜
剥離術.
【検査】血腫は人工血管をwrappingした
瘤壁内に存在し,かつ造影CTで血腫内に造影効
果が認められた.瘤径62mm.仮性瘤を考慮し手
術を施行した.【手術】前回同様に経腹膜アプロ
ーチで到達しwrappingした瘤壁の右側を切開し
た.瘤壁内に多量の赤色血栓が存在した.出血源
は腰動脈で同動脈を結紮した.現在外来経過観察
中であるがCT上,再出血の兆候は認めていない.
【結語】腹部大動脈術後経過観察の際,腰動脈の
遠隔期再出血にも注意する必要があると思われ
た.
73) ASO術後中枢側吻合部動脈瘤に対して経
カテーテル的ステントグラフト内挿術を施行した
1例
(愛媛大学臓器再生外科学) 流郷昌裕・
今川 弘・塩崎隆博・鹿田文昭・河内寛治
症例は80歳男性.平成元年に他院にてASOに
対し,開腹アプローチで腹部大動脈-両側大腿動
脈バイパス術を施行された(Y型グラフトで中枢
側は端々吻合).平成18年9月に施行した腹部
CTにて中枢側吻合部に径2cm大の吻合部動脈瘤
を認め,当科紹介された.合併症として,脳梗塞
既往,閉塞性肺障害(一秒率60%)あり.通常
の開腹アプローチでは腹腔内癒着のため手術困難
と考えられたため,経カテーテル的ステントグ
ラフト内挿術(TPEG)を行う方針とした.平成
19年3月30日,TPEG施行(自作ステント:
UBE 30mm+Gianturco stent 40mm×3連を
使用).前回手術時のグラフト右脚を露出し,こ
れをアクセス血管とした.術後経過良好にて術後
8日目に退院した.術後1年目の現在,動脈瘤の
再発なく経過良好である.
71) ステントグラフト留置を行った腹部悪性腫
瘍に合併した腹部大動脈瘤の3例
(香川県立中央病院心臓血管外科) 青木 淳
(松山市民病院心臓血管外科) 寒川顕治
74) Candida albicansによる感染性腹部大動脈
瘤の1手術例
(高知赤十字病院心臓血管外科) 市川洋一・
田埜和利
3例の腹部悪性腫瘍に合併した大きい腹部大動脈
瘤(AAA)に対してステントグラフトを留置し
たので報告する.症例1は80歳男性で,肝癌破裂
の際,7cmのAAAを指摘された.コイル塞栓に
て肝出血をコントロールした後,自作ステントグ
ラフトを留置し,20日後に肝切除が行なわれた.
症例2は86歳男性で胃癌の術前検査にて5cmの
嚢状AAAを指摘され,Zenithを留置し18日後に胃
全摘術が行なわれた.症例3は71歳男性で,胃癌
の術前検査にて6cmのAAAを指摘され,Zenith
を留置した.胃癌からの出血の為2日後に胃部分
切除術が行なわれた.3例とも術後大きい合併症
を生じる事無く経過した.ステントグラフトはそ
の低侵襲性からこの様な症例に対して有用と思わ
れた.
症例は76歳の男性.平成19年8月に急性心筋梗塞
にて心肺停止となり当院に搬送.治療中に中心静
脈カテーテルから真菌血症となり,抗真菌剤を投
与され転院となった.平成19年11月頃より腹痛が
出現し,CTを施行したが前回40mmであった腹
部大動脈瘤が60mmと拡大していたために当科に
紹介となり,待機的に腹部大動脈人工血管置換術
を施行した.術中所見では感染性動脈瘤様であり,
動脈瘤壁と壁在血栓をできる限り切除した.病
理学検査で壁在血栓からCandida albicansを認め,
抗真菌剤の投与を行い退院となった.外来にて経
過観察しているが,感染徴候なく経過している.
今回,Candida albicansによる感染性腹部大動脈
瘤となった症例を経験したが比較的稀であり,若
干の文献的考察を加え報告する.
72) 馬蹄腎と骨盤内動静脈奇形を伴った腹部大
動脈瘤の1例
(近森病院心臓血管外科) 池淵正彦・
藤田康文・樽井 俊・入江博之
75) 腹部大動脈瘤に合併したDICの1例
(鳥取県立厚生病院外科) 浜崎尚文・
澤口正彦・森 正剛・石井裕繁
馬蹄腎と骨盤内動静脈奇形(AVM)を伴った腹
部大動脈瘤(AAA)の手術を経験した.症例は
75歳女性.CTで直径4.5cmのAAAを認め,前面
に馬蹄腎峡部が約7cmにわたって存在し,異常
腎動脈がAAAより分岐していた.また,左尿管
近傍から卵巣,子宮周辺にかけてAVMを認め,
その一部が拡張した左総腸骨動脈および内外腸骨
動脈中枢部の前面に分布した.手術は腹部正中切
開で行った.AAAを切開後に瘤前壁と馬蹄腎を
一緒に受動して腰動脈の処理を行った.異常腎動
脈には冷却した腎保護液を注入し,人工血管に再
建した.AVMと腸骨動脈との間は容易に剥離で
き,手術の妨げとはならなかった.術後のクレア
チニン値は0.5から0.6mg/dlで推移し,腎機能障
害は認めなかった.腎保護液の使用と異常腎動脈
の再建は有用であったと思われる.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
症例は81歳,男性.平成19年7月22日前胸部全
体の皮下出血のため,受診.検査所見は,出血
時間5分,血小板数10×104 /mm3,fibrinogen
108mg/dl,FDP 49.1μg/mlであった.腹部大動脈
瘤は直径60mm,瘤内に大量の血栓を認め,瘤に
よるDICと診断した.ヘパリン10000単位/日を
8日間,アンチトロンビン1500単位/日を3日間
投与し,止血が得られた.心不全,腎不全のため,
手術は断念した.ワーファリン,アスピリンの内
服を行ったが効果が得られず,メシル酸カモスタ
ットの内服に変更し効果を認めた.その後,通院
困難なため,内服ができず,12月23日腹部大動脈
瘤破裂のため死亡した.動脈瘤に伴うDICに対す
る薬物療法は,一定の効果が得られ,試みるべき
と思われた.
76) 両側水腎症による腎不全で死亡した腹部大
動脈瘤の剖検例
(近森病院循環器科) 葉梨喬芳・要 致嘉・
川井和哉・古谷敏昭・南 大揮・今井龍一郎・
深沢琢也・西田幸司・中岡洋子・關 秀一・
深谷眞彦・浜重直久
(同心臓血管外科) 池淵正彦・入江博之
(同病理部) 円山英昭
症例は79歳男性.2001年2月5日前壁心筋梗塞のた
め入院し,PCI(LAD)を施行した.入院中に右
水腎症と5m大の右内腸骨動脈瘤を認め,2001年
3月14日に右内腸骨動脈瘤切除術を試みた.しか
し,右内腸骨動脈瘤は骨盤内で強く癒着していた
ため,瘤の切除ができず右内腸骨動脈結紮術と右
総腸骨−外腸骨動脈吻合術を行い終了した.以
後,血圧をコントロールしながら経過観察してい
たが,瘤は徐々に拡大(∼14cm大).2007年より
切迫破裂や膀胱圧迫による尿路感染症,虚血性腸
炎などを合併し,2008年1月24日,腎後性腎不全
にて永眠された.本例は動脈瘤周囲の癒着が強く
炎症性動脈瘤が疑われた.剖検所見と若干の文献
的考察を加えて報告する.
77) 急性心筋梗塞にて発症した大動脈弁位感染
性心内膜炎の1例
(高知医療センター心臓血管外科)
大上賢祐・岡部 学・三宅陽一郎・宮川弘之・
金光真治・田邊佐和香
【症例】63才男性.持続する胸痛を主訴に近医受診.
急性心筋梗塞が疑われ当院紹介.心エコー検査に
て左室壁運動異常及び大動脈弁に可動性を有する
腫瘤及び中等度の大動脈弁逆流を認め,緊急冠動
脈造影施行.左冠動脈前下行枝#7の閉塞を認め
ステント留置術施行.抗菌化学療法開始したが心
不全の進行認め3日目に手術を施行した.術中所
見では左室心尖部は赤色に変性し左室破裂様であ
り,タココンブ塗布,大動脈弁及び左冠動脈入口
部直上には疣贅の付着を認め,生体弁による大動
脈弁置換術を施行した.術後抗菌化学療法施行後,
軽快退院となった.心不全にて再入院となり,冠
動脈造影検査にてステント留置部位に仮性動脈瘤
形成を認めた.現在感染所見認めず経過観察中で
ある.治療方針の再検討を含め若干の文献的考察
を加えて報告する.
78) 咳嗽を主訴とした若年亜急性,慢性大動脈
解離の一例
(高松赤十字病院心臓血管外科) 黒川俊嗣・
西村和修・大仲玄明
症例は38歳男性.2週間前から強い席があり,縦
隔異常陰影を指摘されCTにて解離性大動脈瘤
が判明した.解離は上行87mm,下行60mmに拡
大しており準緊急手術となった.上行大動脈が
胸骨に接しており,F-Fバイパス下に胸骨切開.
循環停止,脳分離灌流下に上行弓部置換(末梢
elephant trunk)を行なった.上行には一部新鮮
血栓あり,解離のentryは第3枝直下に存在し慢性
解離の所見であった.2ヶ月後に下行から腎動脈
下までの胸腹部置換を行い,結果は良好であった.
本症例はよく問診すると咳は2年前から自覚して
おり,咳の発症と同時期に原因不明のイレウスの
既往があった.イレウス発症時にDe Bakey 3型逆
行性解離を生じており,これが慢性A型解離とし
て経過,今回新たに上行に解離を生じたとものと
推測した.
海峡メッセ下関(2008 年 6 月) 1037
79) Bentall手術後に左主幹部(LMT)が完全閉
塞を来たした一例
(山口県済生会山口総合病院循環器内科)
河原慎司・末永成之・渋谷正樹・塩見浩太郎・
小野史朗
(同心臓血管外科) 池田宜孝・郷良秀典・
古川昭一・小田達郎
82) 肺血栓塞栓症と鑑別を要した肺血管肉腫に
よる肺高血圧症の一例
(鳥取大学附属病院循環器内科) 杉原志伸・
平井雅之・柳原清孝・衣笠良治・加藤雅彦・
井川 修
(鳥取大学再生医療学分野) 久留一郎
(鳥取大学附属病院循環器内科) 重政千秋
症例は66歳女性.大動脈弁輪拡張症(AAE),大
動脈弁閉鎖不全症(AR)に対して,平成19年7月
24日にBentall手術を施行した.術前の冠動脈造
影では狭窄病変を認めず,術後の大動脈造影にて
も人工血管−native coronary吻合部の狭窄は認め
なかった.以後,定期的に外来通院していたが,
11月17日の未明に激しい背部痛が出現し当院を救
急受診した.心電図上では左脚ブロックを呈し,
心エコーでは左心室のびまん性の壁運動低下を
認めた.胸部CTにて大動脈解離は否定的であり,
虚血性心疾患のrule outのため心臓カテーテル検
査を施行したところ,LMTが100%閉塞していた
ため引き続きPCIを施行し救命することができ
た.本症例は術後,約4ヶ月が経過しており,慢
性期にLMT閉塞を来たした興味深い症例を経験
したため報告する.
症例は26歳女性,半年前より徐々に増強する呼吸
苦を主訴に他院を受診.胸部X線にて両側の多発
性結節陰影と心臓超音波にて肺高血圧症を指摘さ
れ,さらに造影CTで多発性の肺動脈の瘤状拡張,
左右肺動脈中枢での陰影欠損をみとめ,肺血栓塞
栓症,肺高血圧症,肺動脈瘤と診断された.治療
目的で当院に転院後,造影CT,MRIにて肺血管
肉腫を疑い,さらにCTガイド下生検による病理
組織検査で肺血管内膜肉腫と確定診断した.肺動
脈肉腫は極めてまれな疾患であるが,造影CT所
見,貧血や赤沈亢進などの検査所見,下肢静脈血
栓や凝固異常が存在しないこと,抗凝固療法への
反応が見られない等の点で肺血栓塞栓症との鑑別
が可能である.今回,我々は肺血栓塞栓症と鑑別
を要した肺血管肉腫による肺高血圧症の一例を経
験したので報告する.
80) 多発性動脈瘤および動脈解離の一例
(高知大学老年病科・循環器科) 川北友梨・
田村親史郎・濱田知幸・谷岡克敏・大川真理・
山崎直仁・松村敬久・北岡裕章・矢部敏和・
土居義典
83) 救命し得たPTTM(pulmonary tumor thrombotic angiopathy)の1例
(岡山医療センター循環器科) 萱谷紘枝・
池田悦子・木島康文・溝口博喜・浦川秀美・
木村英夫・久松研一・宮地克維・宗政 充・
藤本良久・松原広己
(愛媛県立中央病院) 鈴木 誠・高木弥栄美
症例は66歳男性.高血圧の既往歴はない.腹腔内
の血管破裂による開腹止血術(41歳)
,上腸間膜
動脈瘤破裂(52歳),左中結腸動脈コイル塞栓術(55
歳)の既往がある.2007年CTにて最大短径44mm
の鎖骨下動脈瘤および上腸間膜動脈解離,右外腸
骨動脈解離を指摘された.ともに無症状であるが,
鎖骨下動脈瘤は破裂の危険性を考慮し,動脈瘤空
置術及び左右腋窩動脈バイパス術を施行した.本
例の原因検索として膠原病,血管炎,結合織異常
などの鑑別を行ったが,いずれも確定診断には至
らなかった.鎖骨下動脈瘤は,動脈瘤の中でも報
告は少なく,さらに本例は大動脈分枝血管の多発
性の動脈瘤および解離を合併した非常に稀な症例
と考えられ,若干の文献的考察を加えて報告する.
81) 急性胸痛症候群の一症例
(美祢市立病院内科) 李 博文・弘中克己・
柴田正彦
今回私達は,急性期に陽性所見を確認できず,慢
性期に遠位弓部嚢状大動脈瘤の出現を認めた急
性胸痛症候群症例を経験した.症例は56歳男性.
07年4月,胸痛を訴え当科緊急入院.血液検査・
心電図・胸写・心エコー・CT検査にて有意所見
乏しく,退院.しかしながら,外来経過観察中
に遠位弓部嚢状大動脈瘤の出現・進展を認めた.
病歴・臨床経過から嚢状動脈瘤の原因は弓部の
限局性解離と推定した.急性胸痛症候群の鑑別
診断において,CT検査は有効なmodalityである.
しかしながら,接線方向の解像性に限界があり,
弓部解離の除外にはMRI・経食道心エコー検査
(TEE)等の矢状断々面による追加検査を検討す
べきと考えた.
1038 第 92 回中国・四国合同地方会
46歳女性.主訴は急性発症の呼吸苦.近医で肺高
血圧と診断され加療されていたが,難治性であっ
たため当院に緊急入院となった.来院時右心カテ
ーテル検査ではPA70/36/(47)であった.カテコ
ラミン補助下にPGI2持続療法を開始するも改善
なかったため,人工呼吸管理下にPCPSを挿入し,
イマチニブの内服を開始した.経過中肺胞出血,
感染,DIC併発したが第20病日にPCPSの離脱に
成功.約3ヵ月後にはPA39/14/(24)と明らかに
改善した.肺胞出血後器質化肺炎を合併したがプ
レドニン内服で一旦改善.しかし,再増悪したた
め,TBLBを施行.低分化腺癌を認めた.精査の
結果,胃,十二指腸より同様の細胞が認められた.
以上の結果から,PTTMと診断した.本症例以外
にはPTTMの長期生存例は報告されておらず大変
貴重な症例である.
84) 肺高血圧症に対しPGI2誘導体徐放製剤が
有効であった一例
(東広島医療センター循環器科) 佐田良治・
松浦 渉・小野裕二郎・柳原 薫
症例は70歳女性数ヶ月前からの全身倦怠感を主訴
に来院.低酸素血症,肺高血圧を認め,血液検査
にて抗セントロメア抗体上昇あり皮膚生検等にて
強皮症と診断,また肝酵素上昇も認め肝生検等施
行し原発性胆汁性肝硬変と診断した.現在PGI2
誘導体徐放製剤投与にて臨床症状,BNP,エコ
ー所見改善を認めているため報告する.
85) SLEに伴う重症二次性肺高血圧が正常化し
た一例
(岡山大学循環器内科) 廣田 稔・
草野研吾・赤木 達・福家聡一郎・永瀬 聡・
中村一文・森田 宏・岡 岳文・大江 透
症例は36歳女性.昭和62年よりSLE,大腿骨頭壊
死にて当院膠原病内科外来でプレドニゾロンによ
る加療で経過観察されていた.平成9年(26歳時)
二次性肺高血圧を合併し当科紹介,肺高血圧症
に対しベラプロスト(240μg/日)を投与開始し
た.以後もMRSA菌血症等,感染を契機に肺高血
圧・心不全の増悪を繰り返し平成17年ボセンタン
を導入した.(導入前PA圧91/30/50mmHg,PVR
1150)2006年10月BNP220.5と右心不全増悪をき
たし,利尿剤増量等で加療を継続した.2006年
12月PA圧 60/20/32,PVR 611,症状経過も安定
しており今回2008年1月再評価のため入院.PA圧
34/16/23とほぼ正常化,PVR 481と改善しており
内服を減量し退院.経過中,SLEの増悪は認めな
かった.今回我々は,SLEによる重症二次性肺高
血圧がほぼ正常化した一例を経験したので報告す
る.
86) 術後夜間肺高血圧に夜間陽圧呼吸療法が奏
効した睡眠時無呼吸合併心房中隔欠損症の一例
(岩国医療センター循環器内科)
田中屋真智子・河野晋久・吉田雅言・
大澤和宏・竹内一文・高橋夏来・岩崎 淳・
片山祐介・白木照夫・斎藤大治
(同心臓血管外科) 小山 裕・山本 剛・
大谷 悟・村上貴志
症例は74歳女性.労作時呼吸困難増悪し,精査加
療目的に当科入院となった.心エコーより肺高血
圧合併心房中隔欠損症と診断し心臓カテーテル検
査にて平均肺動脈圧(PA)55mmHg,Qp/Qs4.0
であり,手術適応と判断し心膜パッチによる心
房中隔欠損孔閉窓術を行った.術直後のPAは
40mmHg前後であったが,夜間に60∼70mmHgの
上昇がみられ睡眠時無呼吸症候群による影響を疑
い,夜間のみ持続陽圧呼吸療法を併用した.その
後肺動脈圧は低下し順調に改善した.術後第15病
日,終夜ポリソノグラフを施行した結果AHI67.9
の重症閉塞性睡眠時無呼吸を認めた.術後の夜間
肺高血圧に睡眠時無呼吸に対する治療が奏効した
症例を経験した.
87) Heparin-Induced Thrombocytopeniaにより
肺塞栓症と右室内血栓を生じた1例
(川崎医科大学循環器内科) 福原健三・
根石陽二・林 秀行・飯野 譲・古山輝將・
土谷哲生・久米輝善・和田希美・林田晃寛・
川元隆弘・大倉宏之・吉田 清
66歳 女性.2007年8月4日に右小脳梗塞にて当
院入院.エダラボン・マンニトールおよびヘパリ
ン投与にて加療し,第13病日にリハビリから帰室
後に突然呼吸困難および血圧低下を認めた.心エ
コー図で著明な右室拡大を認めたため肺塞栓症を
疑った.肺動脈造影で右主肺動脈および左肺動脈
下葉枝の閉塞を認め肺塞栓症と診断し血栓吸引術
を施行後にヘパリンの持続投与を開始した.第16
病日の胸部造影CT検査で新たに右室自由壁に血
栓を認め同時に急速に血小板減少を認めHeparinInduced Thrombocytopenia(HIT)を強く疑い,
ヘパリンを中止しアルガトロバンを開始した.以
降血小板は徐々に増加し胸部造影CT検査にて右
室自由壁の血栓は消失した.今回我々は,HITに
より肺塞栓症と右室内血栓を生じた一症例を経験
したので文献的考察を加えて報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
88) 診断に苦慮した肺塞栓症の一例
(広島市民病院循環器科) 臺 和興・
臺 和興・井上一郎・河越卓司・石原正治・
嶋谷祐二・栗栖 智・中間泰晴・丸橋達也・
香川英介・松下純一・池永寛樹
症例は40歳代,女性.平成19年12月上旬より労作
時息切れ,下腿浮腫が出現したため近医を受診.
精査目的にて当院紹介受診.深部静脈血栓症,肺
塞栓症疑いにて緊急カテーテル検査を施行した.
下大静脈造影検査では明らかな血栓を認めず.両
側肺動脈造影検査にて3次分枝以下に多数の血栓
像を認め,またPA圧の上昇を認めた.肺塞栓症
と診断し,temporary IVC filterを留置後,血栓
溶解療法を施行した.術後,PA圧は徐々に改善
した.術後のCTにて子宮筋腫による右下肢静脈
圧迫により深部静脈血栓症が出現したものと判明
したため,子宮全摘出術を施行した.PA圧の低
下を認めIVC filter抜去し退院となった.経過の
中で右室内に異常影を認め診断に苦慮した.詳細
については発表当日報告する.
89) 外科治療が奏功した急性肺動脈血栓塞栓症
の一例
(三豊総合病院循環器科) 旦 一宏・
上枝正幸・中野由加里・高谷陽一・大西伸彦・
高石篤志
(同心臓血管外科) 曽我部長徳
【症例】80歳,女性.【主訴】呼吸困難.【既往歴,
家族歴】特記すべきことなし.【現病歴】平成19
年12月31日,肺炎のため当院内科入院.平成20年
1月4日,肺炎は軽快しつつあったが,わずかな体
動で生じる著明な呼吸苦が突発した.血圧低下,
低酸素血症を合併しており,循環器科紹介となっ
た.胸部造影CTにて両側肺動脈に塞栓像を認め,
心エコーでは肺高血圧所見と右房内浮遊血栓を認
めたため,心腔内血栓を伴う急性肺動脈血栓塞栓
症と診断した.緊急手術の適応と判断し,同日当
院心臓血管外科にて血栓摘出術を施行した.高齢
ではあったものの術後経過は順調であった.肺高
血圧所見もほぼ消失し,独歩で退院することがで
きた.今回,外科治療が奏功した急性肺動脈血栓
塞栓症の一例を経験したので報告する.
90) 術後慢性期に発症した急性肺血栓塞栓症の
一例
(愛媛労災病院循環器科) 沢 映良・
見上俊輔・佐藤 晃
症例は70歳女性.整形外科にて頚椎手術を施行後
にリハビリを行っていた.術後43日(リハビリ開
始1月以上経過)リハビリ室で車椅子から移動し
たときに突然の失神・ショック状態となったため
心肺蘇生処置を施行されながら救急室へ搬送され
た.処置後速やかに意識レベルの改善を得たが心
電図胸部誘導のST-T異常が認められ,心臓超音
波で右心負荷所見を認めたため肺血栓塞栓症を
疑った.造影CTを行い左右主幹肺動脈に血栓を
認めたため急性肺血栓塞栓症と診断し,tPAを投
与したところ速やかな循環動態の改善が得られ,
CTでも血栓の縮小が認められた.以後抗凝固療
法を継続したが症状の再燃を認めなかった.また
明らかな深部静脈血栓も指摘されなかった.術後
1月以上経過したにもかかわらず,急性肺血栓塞
栓症を呈した症例を経験したので報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
91) 長時間の心室細動にもかかわらず社会復帰
しえたBrugada症候群の一例
(愛媛県立中央病院) 藤田慎平・松中 豪・
風谷幸男・濱見 原・鈴木 誠・中村陽一・
垣下幹夫・羽原宏和・高木弥栄美・川田好高・
泉 直樹・佐々木康浩・三好章仁・西山明子・
森実岳史・橘 直人・田中光一
【症例】33歳,男性.
【主訴】意識消失.
【既往歴】
中学生時より完全右脚ブロック.【現病歴】平成
19年某日,講習会で突然意識消失した.Bystander
CPRは行われず9分後に救急隊が到着した.CPR
開始後,モニター上心室細動のため電気的除細動
を3回施行するも除細動不能であった.当院到着
後,意識レベルはJCS 300であった.電気的除細
動3回,各種抗不整脈薬にも反応しないためPCPS
を導入したところ自己心拍再開した.ピルジカイ
ニド負荷試験にて特異的なST上昇を認めたこと
からBrugada症候群による心室細動と診断した.
低体温療法を行い第7病日には意識回復し,第30
病日にICD植え込み術を施行した.その後リハビ
リを行い,高次機能障害なく第41病日に独歩退院
した.約1時間の心室細動にもかかわらず社会復
帰しえたBrugada症候群の1例を経験した.
92) Narrow QRS頻拍により心室細動が惹起さ
れたBrugada症候群の1例
(愛媛大学病態情報内科学) 清家史靖・
永井啓行・大木元明義・西村和久・倉田 聖・
鈴木 純・大塚知明
(済生会西条病院循環器科) 野本高彦・
末田章三
(国立循環器病センター心臓血管内科)
清水 渉・鎌倉史郎
(愛媛大学病態情報内科学) 岡山英樹・
檜垣實男
症例は50歳,女性.発作性心房細動の精査のため
ホルター心電図を装着し歩行中に,突然動悸とふ
らつきを自覚し,間もなく心肺停止となった.直
ちに前医へ救急搬送され心室細動(VF)が確認
され,直流除細動を施行された.その後,後遺
症を残さず速やかに回復し,VFの精査目的で当
科に転院した.種々の心精査により器質的心疾患
の存在は除外され,高位肋間において記録した
V1-V3誘導においてcoved typeのST上昇を認めた
ためBrugada症候群と診断した.ホルター心電図
の解析結果によるとVFに先行して240bpmの規則
的なnarrow QRS頻拍が記録されており,同頻拍
は心房細動から移行していた.Brugada症候群に
おいてnarrow QRS頻拍がVFに先行した報告はな
く,まれな症例と考えられるので報告する.
93) PCI中RVbranch閉塞によりブルガーダー様
心電図を呈した一例
(下関厚生病院) 徳久隆弘・領家 勉・
久松裕二・佐田孝治
(山口大学器官病態内科学) 明石晋太郎
83歳女性.家族歴にて突然死はなく,いままでに
失神の既往はない.平成17年12月狭心症に対して
PCI(#8)を施行した.平成18年3月確認カテー
テル検査にて#8再狭窄および#11新規病変に対し
てPCIを施行した.平成19年12月労作時胸痛出現
し精査目的にて入院となった.冠動脈造影にて右
冠動脈に有意狭窄をみとめたため,#4PL,#2に
PCI施行した.ステント留置時にRVbranch閉塞
をきたすと同時にV1,2にてBrugada様心電図変
化をきたし,その後血流が回復すると同時にST
変化は戻った.後日施行したホルター心電図,ピ
ルジナイニド負荷試験では異常は指摘されなかっ
た.Brugada症候群の心電図変化にRVbranchが
関与していることを示唆する一症例を経験したの
で報告する.
94) 心外膜側にケント束を有するWPW症候群
に対してカテーテルアブレーションを施行した1例
(喜多医師会病院循環器内科) 吉井豊史・
山田忠克・井上勝次・日浅 豪・住元 巧
症例は64歳,女性.平成18年にWPW症候群と診
断されていたが無症状のため放置していた.平成
19年1月17日スーパーに買い物に行った際,突然
動悸,気分不良を生じた.路上で倒れたため当院
に搬送された.入院時はショック状態であり心拍
数約200/分のpseudo VTを認めたため直流除細動
を行い洞調律に復帰した.同年1月23日カテーテ
ルアブレーションを施行した.冠状静脈洞(CS)
では入口部付近に心室最早期興奮部位を認め,右
室ペーシングでも逆行性心房最早期興奮部位は
CS入口部であった.ケント束は心外膜側にある
middle cardiac vein(MCV)に存在し憩室を伴っ
ていた.憩室頚部の通電にてアブレーションに
成功した.後中隔のケント束ではMCV内のマッ
ピングを要することがあり注意が必要と考えられ
た.
95) 同一の心房興奮順位を認めたにも関わらず
複数の興奮周期を有したリエントリー性心房頻拍
の一症例
(鳥取大学医学部附属病院循環器内科)
飯塚 和彦・井川 修・足立正光・矢野暁生・
三明淳一朗・井上義明・小倉一能・加藤 克
(鳥取大学再生医療学分野) 久留一郎
症例は73歳女性.心房頻拍(AT)の精査加療の
ため当科入院となった.心臓電気生理検査では心
房プログラム刺激にて頻拍周期の異なるATが4つ
誘発され,周期はいずれも安定していた.AT中
に心房内各所より行った連続刺激でentrainment
現象が観察された.またAT中に行った心房早期
刺激では,その連結期とreturn cycleが逆相関を
示した.以上より頻拍機序はリエントリーである
ことが示唆された.心房内興奮順位はいずれの
ATでも同一であり,心房最早期興奮部位(EAS)
は常に三尖弁輪12時付近であった.Electroanatomical mappingでは,ATの心房内興奮patternは
EASから放射状に広がるfocal patternを示した.
EASに対しAT中に焼灼を加えたところATは停止
し,以後誘発されなくなった.この頻拍の機序に
つき,文献的考察を含め報告する.
96) 心尖部瘤を起源とする心室頻拍に対しカ
テーテルアブレーションが有効であった拡張相肥
大型心筋症の1例
(岡山大学循環器科) 川田哲史・武田賢治・
岡 岳文・多田 毅・村上正人・宮地晃平・
平松茂樹・西井伸洋・永瀬 聡・草野研吾・
大江 透
【症例】43歳男性.2004年,心尖部瘤を伴う拡張
相肥大型心筋症,心室頻拍(VT)にて植込み型
除細動器(ICD)植込術を施行.VT予防目的で
Amiodaroneを投与するもKL-6上昇にて中止し,
Sotalolは心不全が出現して中止.2007年11月,
ICDの頻回作動で入院.VTはNifekalantおよび
Lidocaineの持続投与で抑制できず,Aprindine投
与で逆にVTが頻回に出現.鎮静・人工呼吸器管
理でかろうじて抑制可能であった.電気生理検査
では心尖部瘤に一致して低電位領域を認め,VT
中の詳細なマッピングの結果,瘤側壁部の心内膜
側がVTの必須緩徐伝導路の下流である所見を得
た.同部での通電でVTは停止.以後Mexiletine
を追加してICDの作動は認めていない.
海峡メッセ下関(2008 年 6 月) 1039
97) 心房頻拍に対するアブレーションにEnsite
が有用であった1例
(徳山中央病院循環器内科) 木村征靖・
小川 宏・分山隆敏・岩見孝景・波多野靖幸・
望月 守・平塚淳史
(山口大学保健学科) 清水昭彦
症例は58歳,女性.4年前より動悸,眼前暗黒感
を認めるようになった.持続時間は短いものの症
状が強いため近医を受診した.抗不整脈薬投与に
より加療を受けるも改善しないため当院に紹介と
なった.発作時の心電図では心房頻拍が疑われた
ため心臓電気生理検査を施行することとした.心
房頻拍は容易に誘発され最早期興奮部位は高位右
房であったが,頻拍の持続時間が短いためEnsite
を用いてmappingを施行した.頻拍の起源は洞結
節上方であったが,同部位からのペーシングにて
横隔神経刺激を認めるため通電は困難であった.
興奮が前壁側へ向かうため,頻拍起源よりも前方
で横隔神経刺激を認めない部位にて通電すること
により,頻拍は誘発されなくなった.Ensiteにて
心房頻拍の興奮伝播様式を解析することにより頻
拍の根治に至った症例を経験した.
100) アブレーション中に一過性房室ブロックを
来たした通常型心房粗動の1例
(市立宇和島病院) 石橋 堅・池田俊太郎・
山根健一・泉 直樹・大島弘世・青野 潤・
大島清孝・濱田希臣
症例は56歳の男性.通常型心房粗動が持続し,左
室駆出率50%程度と軽度心機能低下を認めたた
め,高周波カテーテルアブレーションを施行した.
isthmusの線状焼灼中に高度房室ブロックを生
じ,心停止を来たしたため,一時的に心臓マッサ
ージを必要とした.アブレーションカテはHisカ
テから離れた位置にあり,房室結節を焼灼した可
能性は低いと考えられた.さらに焼灼を続けたと
ころ再現性をもって房室ブロックとなるため,ラ
インを外側に変更し,両方向性のブロック作成に
成功した.術直後はPQ間隔の延長が持続し,一
時Wenckebach型2度房室ブロックも出現したが,
PQは数日の経過で徐々に短縮した.アブレーシ
ョン中に自律神経の関与を疑う房室ブロックが出
現した心房粗動症例を経験した.若干の文献的考
察を加え報告する.
98) 先天性心疾患に合併した心房頻拍の一例
(倉敷中央病院循環器内科) 川上 徹・
光藤和明・井上勝美・後藤 剛・門田一繁・
藤井理樹・山本浩之・加藤晴美・岡 直樹・
福 康志・細木信吾・廣野明寿・丸尾 健・
田中裕之・羽原誠二・長谷川大爾・田坂浩嗣・
今井逸雄・山田千夏・岡本陽地・大鶴 優・
宮本和正・齋藤直樹・柴山謙太郎
101) ペースメーカー植え込み術を行った嚥下性
失神の1症例
(徳島赤十字病院循環器科) 陳 博敏・
日浅芳一・村上尚嗣・當別當洋平・
宮崎晋一郎・馬原啓太郎・小倉理代・
宮島 等・鈴木直紀・弓場健一郎・高橋健文・
細川 忍・岸 宏一・大谷龍治
症例は39歳男性.心室中隔欠損,大動脈弁下狭搾,
動脈幹開存,アイゼンメンジャー症候群で5歳時
に手術適応のない状態と診断されていた.平成19
年5月頃から週2-3回の自然停止する動悸発作を自
覚,発作時にめまいを自覚することがあり,ホル
ター心電図でnarrow QRS tachycardiaを認め同年
8月精査加療目的に入院.HRAを最早期とする頻
拍(130bpm)がincessantに認められた.頻拍中
にCARTOでmappingした.focal ATと診断し最
早期興奮部位に通電.ISP負荷しHRA burstをす
るとV1のP波の極性が変化したATが誘発された.
異常電位が記録される部位に対して通電すると
頻拍はaccelerationして洞調律に戻ることを繰り
返した.計30回ほど通電した時点でHRA burstで
ATは誘発されなくなったため手技を終了た.術
後,頻拍発作の再発なく経過している.
症例は46歳女性.失神を主訴として近医受診し
た.初回は芋を食べていた際に失神し飲み物をこ
ぼしていることに気がついた.2回目は昼食中に
失神し転倒,顔面を打撲した.Holter心電図で最
大6.5秒の心停止を伴う発作性房室ブロックを指
摘されて当院紹介受診となった.入院後モニター
監視下で経過観察を行い,食事中に一致した発作
性の完全房室ブロックを認めた.食道透視,胸腹
部CTでは器質的疾患は認めなかった.嚥下性失
神と考えたが,失神発作をくりかえしていたこと,
外傷あり入院中も発作をおこしていたことなどか
らペースメーカーの適応と考えペースメーカー植
え込み術を行った.嚥下性失神は比較的まれな症
例であり,若干の文献的考察を加えて報告する.
99) 右房低電位領域内にfigure of eight型リエン
トリー性心房頻拍を認めた僧帽弁置換術後の1例
(山口大学器官病態内科学) 大野 誠・
吉賀康裕・吉田雅昭・大宮俊秀・杉 直樹・
鈴木慎介
(同保健系学域) 清水昭彦
(同器官病態内科学) 松h益‡
102) 血痰で発症したアミオダロンによる肺障害
の1例
(尾道総合病院循環器科) 中野良規・
三浦史晴・松本武史・森島信行
症例は77才,女性.心房頻拍(AT)による心不
全をきたすため心臓電気生理学的検査およびカテ
ーテルアブレーションを施行した.低位右房側
壁に低電位領域があり,AT1は低電位領域内で旋
回していた.AT1(200bpm)中に低電位領域内
のfragmentation電位に対して通電したところ周
期長は変化せずにAT2へと変化した.AT2も低電
位領域内で旋回していたためCARTOのactivation
mapを指標に通電を行い,頻拍は誘発不能となっ
た.AT中のCARTOのactivation mapおよびpost
pacing intervalによる検討から,本症例は比較的
限局した低電位領域内に共通路をもつfigure of
eight型リエントリー性ATを有していたと考えら
れた.
1040 第 92 回中国・四国合同地方会
【症例】75歳,男性.【現病歴】1998年ASでAVR.
AFとDMでinsulin治療とワーファリン内服.2004
/6/1 #13領域のAMI.6/2 VTを認め,リドカイ
ン・メキシレチン・アプリジンは無効で,アミオ
ダロン(AMD)を開始.初期量400mg,維持量
200mg.その後もVTが出現し,9/9 EPSを行い,
VFが誘発され,9/10 single chamber ICDを植え
込み.その後,殆どのVTはATPで停止するため,
2006/10/4 AMDを150mgまで減量.しかし,再び
VTが頻回となり,2007/2/7からAMD200mgに増
量.KL-6は,325∼364U/mlを推移.2007/12/6血
痰で来院し,胸部CTで間質影と肺胞出血を認め,
AMD・ワーファリンを中止し,プレドニンによ
る治療を開始.12/20 BALでアミオダロン肺と診
断.その後,治療に奏効し,血痰も消失し,胸部
CTも改善した.肺胞出血発症時もSP-D,KL-6と
も上昇は認めなかった.
103) 慢性透析患者開心術後に出現した難治性心
室頻拍に対して塩酸ニフェカラントが奏効した一例
(岡山中央病院循環器センター心臓血管外科)
古川博史
(同循環器内科) 青野 準・寒川昌信・
岩崎孝一朗
症例は78歳,男性.約10年の透析歴.術前メキシ
チール内服中.低心機能(LVEF31%)を合併した
ARに対してAVRを施行.術後翌日よりHR120~130
のslow VTが出現し,キシロカイン及びメキシチ
ール投与するも改善しなかった.透析患者にて持
続血液透析(CHDF)を行っていたが,塩酸ニフ
ェカラント(シンビット)を通常の半量から投与
してVTを抑制することができた.しかしQTcが
0.57と延長を認めたため投与中止.塩酸ニフェカ
ラントは尿中排泄率約30%で透析膜を通過しない
と言われ,慢性透析患者に対する投与には注意が
必要である.今回の症例では投与量を通常の半量
とし,厳重にQTcを測定しながらVTをコントロ
ールすることができたが,QTcの延長を認めた.
慢性透析患者に対する塩酸ニフェカラントの投与
に関して,若干の文献的考察を加え報告する.
104) 甲状腺機能亢進症でTorsades de pointes
を呈した症例
(三豊総合病院) 河野吉泰・大西伸彦・
中野由加里・旦 一宏・高石篤志・上枝正幸・
今井正信
甲状腺機能亢進症では循環器所見として頻脈(洞
性頻脈や頻脈性心房細動)がよく観察される.原
疾患である甲状腺の薬物治療に加えて,頻脈に対
してはβ遮断薬などでrate controlが必要とされ
る.しかし致死性不整脈の合併を経験することは
少ない.今回,我々が経験した症例は,甲状腺亢
進症で入院した77歳女性.入院加療中にTorsades
de pointesを合併し急変した.その際,ホルター
心電図を装着中で,頻発する心室性期外収縮やそ
の連発,またQT延長などの所見が捕らえられて
おり,治療管理上の反省点も多々あると思われる.
今後の治療に役立てる必要もあり文献的な考察を
加えて症例提示する.
105) 心臓手術後の閉塞性肥大型心筋症に出現し
た心室頻拍に対してCRTが著効した一例
(香川大学循環器・腎臓・脳卒中内科)
大倉亮一・雪入一志・吉田潤史・岡本尚子・
石原靖大・瀧波裕之・北泉顕二・岩藤泰慶・
石川かおり・野間貴久・舛形 尚・大森浩二・
河野雅和
HOCM,MR,TR,Afに対して手術施行後,外来
内服治療中,sustain VTが出現した.以前より,
VPC,NSVTは出現し,アミオダロン,ベータブ
ロッカーの内服を開始したが,副作用で中止し,
その他の抗不整脈薬の使用も困難と考えた.入院
後,電気的除細動を必要とするsustain VTが頻回
に出現した.このため,Ablation施行目的で,EPS
を施行した.3連早期刺激により,2種類のsustain
VT(155bpm,163bpm)が出現し,血圧は急速に
低下した.Carto mappingにより,中隔の最早期
部位にアブレーションを施行したが,VT2は誘発
により容易に出現した.ICDの適応と考えたが,
QRS幅157msと同期不全も示唆されたため,CRT
によるペーシングを施行したところ,以後,sustain
VTの出現は消失した.難治性VTに対して,CRT
が有効であった症例と考えられた.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
106) PJRTに対してカテーテルアブレーション
を行った一例
(岡山大学循環器科) 川田哲史・武田賢治・
岡 岳文・多田 毅・村上正人・宮地晃平・
平松茂樹・西井伸洋・永瀬 聡・草野研吾・
大江 透
【症例】35歳男性.18歳頃より動悸発作が出現.
発作は出現・停止を数時間繰り返す場合もあっ
た.1年前より発作頻度が増加し,近医でlong
RP tachycardiaが記録され,精査目的で当院入
院.電気生理検査では入室時より繰り返し頻拍が
出現.右室ペーシング時の最早期心房興奮部位は
冠静脈洞入口部で,この時の心房興奮伝播様式
は頻拍中と同様であった.この伝導はAdenosine
triphosphateでブロックされ,傍ヒス束ペーシン
グではヒス束∼右脚の捕捉の有無に関わらず心房
興奮伝播に著変なく,頻拍中の右室基部からの単
発刺激で奇異性心房捕捉を認め,後中隔のslow
Kentを介する房室回帰性頻拍と診断した.高周
波アブレーションでKent束は離断され,以後頻
拍の再発を認めていない.
107) 発作性心房細動患者におけるBNPレベル
の上昇とAugmentation indexとの関連
(住友別子病院循環器科) 坂根弘祐
(岡山大学分子医化学) 上川 滋・
三好 亨・廣畑 聡
(住友別子病院循環器科) 土井正行
【目的】発作性心房細動(PAF)の患者においては,
BNPが上昇することが報告されているが,その
機序は十分解明されていない.我々はPAF患者に
おけるBNPとAugmentation index(AI)の関係
を調べた.【方法】対象はPAFの既往のある65人
の外来患者(72±8歳,男性40例).【成績】BNP
によって患者を3分位に分割し,BNPの上昇して
いる群の患者背景を検討した.BNP最高位群は,
下位2群に比較してAI値は有意に増加していた.
心エコー指標との単回帰分析において,BNPレ
ベルはLAVI,LVMI,e/e と有意な相関があった.
さらに,BNP上昇に関係する因子をステップワ
イズ回帰分析にて検討したところ,AI(p<0.01)
とLAVI(p<0.01)が独立因子に選ばれた.【結論】
AIの増加は,PAFの患者においてBNPの上昇に
最も関連する独立因子であることが示された.
108) 両心室再同期のみならず房室再同期により
心不全の改善を認めた一例
(鳥取大学循環器内科) 松岡佑樹・
井川 修・足立正光・矢野暁生・三明淳一朗・
井上義明・小倉一能・加藤 克・飯塚和彦
(鳥取大学遺伝子再生医療学分野) 久留一郎
症例は88歳男性.主訴は顔面浮腫.2002年,房室
ブロックにてVDDペースメーカ(PM)植込を施
行されたが,心房細動(Af)や心房感知不全で
VVI作動であった.2008年1月,顔面浮腫を指摘
され当科受診.胸部レ線上両側胸水,CTR68%,
またBNP4400pg/mlを認め心不全急性増悪として
入院となった.薬剤加療にて胸水は消失したが左
室駆出率は35%で,心房感知不全の改善はないた
め,左室・心房リード追加による両心室(BiV)
・
房室(AV)再同期療法(CRT)を施行した.術
後7日目までAf調律(Af/BiVp)で経過しCTR58
%,BNP510であったが,自然に心房pacing調律
(ApBiVp)復帰後はCTR53%,BNP183へ改善し
退院となった.PM患者のCRT upgradeによる心
不全加療例は散見されるが,今回はBiVに加えAV
再同期が心不全加療に有用であることを確認でき
た症例であり報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
109) 多価不飽和脂肪酸の抗不整脈作用機序に関
する研究
(鳥取大学再生医療学) 越田俊也・
廣田 裕
(鳥取大学循環器内科) 水田栄之助・
三明淳一朗
(鳥取大学再生医療学) 山本康孝
(鳥取大学循環器内科) 浜田紀宏・
井川 修・久留一郎
多価不飽和脂肪酸(EPAやDHA)はイオンチャ
ンネルに作用して抗不整脈作用がある.近年多価
不飽和脂肪酸の慢性投与が細胞内のチャンネルの
合成過程に影響することが示唆された.今回は発
現培養細胞を用いて外向き遅延整流Kチャンネル
であるKv1.5チャンネルへの多価不飽和脂肪酸の
慢性効果を検討した.1)EPAならびにPUFAは
用量依存性に急性効果としてKv1.5によりコード
されるIkurを抑制した.2)高濃度のEPAならび
にPUFAは慢性効果としてKv1.5チャンネルの蛋
白発現を減少させた.3)低濃度のEPAは慢性効
果としてKv1.5チャンネル蛋白発現と活性を増加
させた.4)このEPAの作用は小胞体やゴルジ体
でのチャンネル蛋白を安定化して蛋白の半減期を
延長させることで生じる.多価不飽和脂肪酸は濃
度によりチャンネルへの作用が異なる.
110) カテコラミン誘発性心室頻拍(CPVT)の
発生機序としての筋小胞体Ca2+放出チャネル機能
異常
(山口大学器官病態内科学) 内海仁志・
矢野雅文・末冨 建・大野 誠・徐 暁娟・
立石裕樹・小林茂樹・山本 健・池田安宏・
松h益‡
一部のCPVT患者では,筋小胞体Ca2+放出チャネ
ル(リアノジン受容体 RyR2)の点突然変異が報
告されている.RyR2変異がCPVT発生に関わる
機序を解明するため,RyR2の点突然変異を有す
るKnock-in mouse(RyR2R2474S/+:KI)を作成し
た.KIの心臓には器質的異常を認めず心機能も
正常であったが,カテコラミン投与や運動により,
両方向性心室頻拍が誘発された.KIの単離心筋
細胞では,カテコラミン濃度上昇に反応しCa2+
Spark(SpF),Ca2+ Waveの頻度が著明に増加し,
SpFと筋小胞内Ca2+濃度との関係曲線が左方移動
していた.以上より,CPVTの発生にはRyR2変異
に伴うチャネル開閉異常が関与していることが示
唆された.
111) 頻脈発作中の心臓自律神経支配に関する検討
(金子循環器科内科) 金子 仁
頻脈発作中の心臓自律神経活性を知ることは,薬
物治療による発作の制御に重要な手掛かりを与え
てくれる.臨床上これを評価するのに線形スペク
トル解析は複雑な計算を要し,CVRRは副交感神
経のみの情報であり,不整脈の評価に適さない.
非線形モデルであるLorenz plotは視覚的に発作の
状態を捉えることが可能で,比較的簡単な計算に
より交感・副交感の自律神経活性を個々に評価出
来る有用な方法である.演者はこれを用いて各種
の頻脈発作の分析を行い,それぞれの自律神経支
配を明らかにした.さらに心房細動における心室
波形(QRS)の出現頻度と自律神経活性との相関
を求め,QRS出現頻度(OFQRS)を目的変数と
し自律神経活性を説明変数とする重回帰分析によ
ってQRS出現頻度の予測式を求めることが出来
た.今回これらについて報告する.
112) 化学療法に伴って心室頻拍を繰り返した転
移性心臓腫瘍の一例
(下関市立中央病院循環器科) 鈴木 哲・
浦野 久・岡本研一・板家直樹
(同呼吸器科) 石丸俊之
74歳男性,肺がんの再燃にて化学療法を開始,2
週間後より持続性のVT(右脚ブロック・下方軸
型)を繰り返した.リドカイン,ベラパミル,
ATP,プロプラノロールは無効で,カルジオバー
ションでも停止しなかった.アミオダロンの静脈
内投与にてVTは停止し,以後アミオダロンの内
服下でVTの再発を認めなかった.心エコーとCT
にて心室中隔に腫瘤の浸潤と心内への突出を認
め,心臓転移巣と考えられた.3ヵ月後に化学療
法を再度行ったところ,10日目にVT(左脚ブロ
ック型)が出現しカルジオバージョンで停止した.
VTはコントロール出来たが,肺炎・敗血性ショ
ックにて死亡された.繰り返し化学療法後の効果
発現時期に一致してVTが出現したことより,転
移巣へのダメージが心室性不整脈のトリガーとな
ったと考えられた.
113) 卵 巣 癌 に 伴 う 非 細 菌 性 血 栓 性 心 内 膜 炎
(NBTE)の1例
(高知大学医学部附属病院老年病・循環器・神経内科学)
川田泰正・北岡裕章・谷岡克敏・大川真理・
山崎直仁・松村敬久・矢部敏和・土居義典
症例は46歳女性.2007年8月31日頭痛,眩暈,嘔
吐出現,9/2に左半身脱力を呈しMRIにて多発
性脳梗塞と診断された.原因精査の為9/3心エ
コー施行したが特記所見を認めなかった.同日よ
り37度台の発熱を認めたため経食道心エコーを施
行したところ,僧帽弁前尖に付着する疣腫,およ
び軽度の僧帽弁逆流を認めた.感染性心内膜炎を
疑い抗生剤加療を開始した.血液培養を計6回施
行したが何れも陰性であった.経過中肝機能異常
を認めたため腹部エコー,CTを施行したところ
多量の腹水と共に左卵巣腫瘤を認めた.卵巣癌が
疑われ11/7試験開腹し明細胞腺癌と診断され最
終的に上記疣腫は非細菌性血栓性心内膜炎が考え
られた.卵巣癌に伴うNBTEの1例を経験したの
で若干の文献的考察を加えて報告する.
114) 洞不全症候群を呈し,経食道心エコーが診
断に有用であった心臓悪性リンパ腫の一例
(広島赤十字・原爆病院循環器科)
静川寛子・塩見哲也・栗林祥子・門田欣也・
重松秀明・吉田知己・加世田俊一
症例は66歳女性.左下顎腫瘍の生検目的で入院中
に発作性心房細動を発症,洞調律へ復帰する際に,
めまい感とともに約12秒の洞停止を認め,洞不全
症候群としてDDD永久ペースメーカー植込み術
を施行した.経胸壁心エコーでは明らかな腫瘍を
確定し得なかったが,経食道心エコーにて,大動
脈基部周囲から心房中隔,三尖弁輪から右房に浸
潤する低エコーの充実性腫瘍を認め,腫瘍浸潤が
洞不全症候群の原因である可能性が考えられた.
下顎腫瘍生検よりdiffuse large B-cell lymphoma
と診断,FDG-PETにて左下顎骨,心臓などに強
い集積が認められた.心臓腫瘍も悪性リンパ腫で
ある可能性が高いと考えられ,R-CHOP様化学療
法(R-THP-CVP)を開始した.洞不全症候群を
呈した心臓悪性リンパ腫の一例を経験したため,
若干の文献的考察を加えて報告する.
海峡メッセ下関(2008 年 6 月) 1041
115) 経カテーテル的生検にて診断しえた心臓原
発悪性リンパ腫の1例
(岡山医療センター循環器科) 宗政 充・
池田悦子・木島康文・溝口博喜・浦川茂美・
木村英夫・久松研一・宮地克維・藤本良久・
松原広己・三河内弘
(同血液内科) 津島瑞穂・角南一貴
(同代謝内科) 片山晶博
118) 複数の左房内腫瘍を認めた心臓腫瘍の1例
(徳島赤十字病院循環器科) 古川尊子・
日浅芳一・細川 忍・當別當洋平・陳 博敏・
宮崎晋一郎・馬原啓太郎・小倉理代・
宮島 等・鈴木直紀・弓場健一郎・高橋健文・
岸 宏一・大谷龍治
(同心臓血管外科) 菅野幹雄・来島敦史・
大谷享史・福村好晃
症例は84才の男性.顔面浮腫と労作時息切れにて
当院紹介受診.胸部レントゲン上心拡大あり,経
胸壁心エコーにて心臓腫瘍が疑われたため精査目
的にて入院した.経食道心エコーにて右室から左
室後壁房室間溝に沿った部分と心尖部にかけ腫瘍
が認められ,また右房内への浸潤も認められた.
胸腹部CTでは上記腫瘍の他上大静脈をほぼ閉塞
する様に右方へ突出し,縦隔リンパ節の腫大と脾
臓に占拠性病変を認めた.診断確定のため,経カ
テーテル的に右室腔内腫瘍の生検を施行した.組
織片から悪性リンパ腫(瀰漫性大細胞型,B細胞
性)と確定診断し,R-THP-COP療法を開始した.
心臓腫瘍に対し,経カテーテル的に注射器を用い
て吸引生検を行うことにより低侵襲的に確定診断
し得た1例を経験出来たため,文献的考察を加え
て報告する.
症例は64歳,女性.心不全症状あり加療されるも
軽快しないため,2007年8月当院へ紹介された.
心エコー検査にて左房内に2つの腫瘍を認めた.
ひとつは左房内の前尖の弁輪部に付着する5.5×
3.4cmの腫瘍であり,僧帽弁狭窄症の血行動態を
示していた.もうひとつは心房中隔に茎を有する
1.8×1.6cmの腫瘍であった.第6病日に腫瘍摘出
術を施行した.腫瘍は2つとも広基性であった.
肉眼および迅速病理所見でも肉腫の診断であった
ため,腫瘍の摘出のみを行った.術後に施行した
胸部造影CTでは左房内に明らかな腫瘍性病変を
認めなかったが,2008年1月に左房内に再発を認
め放射線治療を行っている.複数の心臓腫瘍を認
める症例は稀と考えられるので文献的考察を加え
て報告する.
116) 僧帽弁に発生した乳頭状線維弾性腫の1例
(山口大学器官病態外科学心臓外科)
村上雅憲・鈴木 亮・小林俊郎・白澤文吾・
美甘章仁・濱野公一
症例は85歳男性.4年前より認めていた発作性心
房細動に対する精査加療目的で近医を受診した.
加療後心房細動は改善したが,左心室内に腫瘍を
認めたため,当科紹介となった.心臓エコー検査
で腫瘍は可動性を有し,僧帽弁前尖の腱索と心房
中隔に付着していると思われた.大きさは18×
25mm,辺縁明瞭,内部不均一であり,粘液腫が
疑われた.腫瘍へのアプローチは経僧帽弁的に行
うこととし,右側左房切開で左房へ到達した.腫
瘍は経僧帽弁的に観察することができた.腫瘍は
後乳頭筋からの腱索を巻き込むように存在してお
り,腫瘍部分のみの切除は不可能であった.僧帽
弁前尖を腫瘍を含む腱索と共に切除し,僧帽弁置
換術を施行した.病理組織診断は乳頭状線維弾性
腫であった.本症例を若干の文献的考察と共に報
告する.
119) 右房内に巨大血栓を認めた一例
(岡山大学循環器内科) 森あい子・
川田哲史・永瀬 聡・中村一文・森田 宏・
武田賢治・岡 岳文・草野研吾・大江 透
(同心臓血管外科) 佐野俊二
(香川県済生会病院循環器科) 豊永慎二
【症例】44歳,女性.22歳,32歳時に心内膜床欠
損症,右室低形成,肺動脈狭窄症に対して手術を
行った.心房粗細動もあり,抗凝固療法を継続し
ていた.平成20年1月17日,半年毎の経過観察の
心エコー図検査にて,右房内に約43×45mmの巨
大な腫瘤を認めた.肺血流シンチを行ったが,以
前のものと比較し新たな肺塞栓は認めなかった.
1月21日に当院へ転院し,25日に外科的切除術を
行った.術中所見にて右房内の腫瘤は巨大血栓で
あることが分かった.血栓除去術,心房粗動に対
するアブレーション,心房細動に対する肺静脈隔
離術を行った.右房内に巨大血栓を認めた一例を
経験したので報告する.
117) 僧帽弁置換を要した左房内腫瘍の1例
(徳島赤十字病院循環器科) 村上尚嗣・
日浅芳一・細川 忍・當別當洋平・陳 博敏・
宮崎晋一郎・馬原啓太郎・小倉理代・
宮島 等・鈴木直紀・弓場健一郎・高橋健文・
岸 宏一・大谷龍治
(同心臓血管外科) 福村好晃・菅野幹雄・
来島敦史・大谷享史
120) 心外膜炎・心筋炎経過中に左室内血栓症を
発症,左室内血栓摘除術施行した一例
(岩国医療センター循環器内科) 吉田雅言・
河野晋久・大澤和宏・竹内一文・高橋夏来・
岩崎 淳・片山祐介・田中屋真智子・
白木照夫・斎藤大治
(同心臓血管外科) 村上貴志・大谷 悟・
山本 剛・小山 裕・錦みちる
今回我々は左房内腫瘍が僧帽弁後尖にまで付着し
ていたため弁置換を要した一例を経験したので報
告する.症例は59歳女性.咳嗽の出現,労作時の
息切れを主訴に当院を受診.心エコー上左房内
に充満し,拡張期に左室へ突出する腫瘤を認め
た.2007年9月に左房内腫瘍摘出術を施行した.
腫瘍は僧帽弁後尖から左房壁に広く付着してい
た.肉眼的な所見としては粘液腫とは異なってい
た.術中迅速病理では悪性所見の可能性が高く,
左房内腫瘍と後尖を切除し生体弁にて弁置換を施
行した.病理組織診断ではMalignant epithelioid
tumorと診断された.転移性腫瘍の検索のため,
PET-CTを施行したが原発を疑われる集積はなか
った.
症例は52歳男性.平成19年12月上旬より急性心外
膜炎・心筋炎にて入院・加療,第6病日心臓超音
波検査で偶発的に左室内血栓を認め,準緊急で左
室内血栓摘除術施行した症例を経験した.左室内
血栓症発覚時,左室収縮能はEF25%程度と著し
く低下しており,抗凝固療法は施行されていなか
った.全身塞栓症を発症する前に開心術施行し,
血栓を除去,合併症を残さず退院可能であった.
開心術に至ったことから得られた病理結果と合わ
せて,文献的考察を含め報告する.
1042 第 92 回中国・四国合同地方会
121) 総腸骨動脈瘤を有する重症3枝病変・急性
心筋梗塞症例
(岩国医療センター循環器科) 大澤和宏・
河野晋久・吉田雅言・田中屋真智子・
竹内一文・高橋夏来・岩崎 淳・片山祐介・
白木照夫
症例は76歳男性.狭心症,左総腸骨動脈瘤の既往
あったが精査は拒否していた.平成19年10月安静
時胸痛を自覚し,当院へ救急搬送となり,ACS
と診断.冠動脈造影ではLAD#6 100%,RCA#3
100%,LCX#13 90%で,LAD,RCAのdouble culpritである可能性が考えられた.IABP補助下に
LAD,RCAに対してそれぞれPCI施行したがLAD
はdiffuseな病変であったためCTOと判断しPOBA
のみで終了し,RCAにはBMS留置して良好な血
流を確保できた.重症3枝病変であり早急な完全
血行再建が必要と考え同日心臓血管外科により,
LAD・LCXに対し2枝バイパス手術が行われた.
術後経過は良好であったが第10病日,左総腸骨動
脈瘤の破裂と考えられるショックにより院内CPA
となり,救命し得なかった.
122) LAD中等度狭窄病変を確認し,至適薬物治
療中にACSを発症しPCIを必要とした2症例
(岩国医療センター) 岩崎 淳・河野晋久・
吉田雅言・大澤和宏・高橋夏来・竹内一文・
片山祐介・田中屋真智子・白木照夫・斎藤大治
【症例1】81歳男性.主訴は安静時胸痛.CAGに
てLADの中等度狭窄病変を認め,薬物療法を選択
した.1ヶ月後に胸痛発作が再燃し,CAGにて
病変部の進行を認め,待機的PCIを施行した.血
栓吸引にて赤色血栓を認め,ACSと診断しBMS
を留置した.【症例2】72歳男性.CAGにてLAD
およびLcxに中等度狭窄病変を認め,薬物療法を
選択した.翌日に安静時胸痛発作があり.LAD
に緊急PCIを施行した.血栓吸引にて赤色血栓を
認め,ACSと診断しBMSを留置した.LAD中等
度狭窄病変を確認し,至適薬物療法中にACSを発
症し,PCIを必要とした2症例を経験したので報
告する.
123) 当施設における5Fr PCIの検討
(広島市立広島市民病院) 池永寛樹・
井上一郎・河越卓司・石原正治・嶋谷祐二・
栗栖 智・中間泰晴・丸橋達也・香川英介・
臺 和興・松下純一
0.010ワイヤー,0.010対応バルンの登場により,よ
り低侵襲で安全性の高いPCI(percutanious coronary intervention)が可能となってきている.【目
的】当施設における5Fr PCIの有用性に関して検
討する.【方法】2007-2008年3月までに当施設で
行った5Fr PCI50症例に関し,患者背景,病変,手
技等をretrospectiveに解析を行った.【結論】病
変,患者背景をうまく選択すれば5Fr PCIは有用
な治療法となりうることが示唆された.今後5Fr
PCI対応のdeviceの更なる開発により,より低侵
襲で安全性が高いPCIが行え,入院期間の短縮が
期待されることが示唆された.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
124) ガイディングカテーテルの形状を変えるこ
とによりインターベンションに成功し得た右冠動
脈起始異常の1例
(愛媛県立今治病院循環器科) 河野珠美・
松岡 宏・川上秀生・大下 晃・重見 晋
症例は53歳男性.平成19年11月12日にAMI発症,
急性期PCI治療のゴールデンタイムを過ぎて来院
したため保存的に加療し11月29日にCAGを施行
した.AMIの責任病変であるLAD#6に90%狭窄
があり,RCAは左Valsalva洞より起始し#1に90%
狭窄を認めた.12月6日にLADに対するPCIを施
行しLiberte 4.0×16mmを留置,平成20年1月15
日にRCAに対するPCIを行った.いろいろな市販
のGCを使用するもRCA入口部にうまくエンゲー
ジすることができずPCIを断念した.3月14日に
再度RCAに対するPCIを施行,GC先端の形状を
3次元的に変形することでエンゲージに成功し
PCIに成功した.右冠動脈起始異常に対するPCI
で市販のGCのままではうまくエンゲージできず
PCI不成功であったが,GC先端の形状を少し3
次元的に変形することで容易にPCIを施行し得た
症例を経験したので報告する.
125) PES(TAXUS)stentにおけるstent fracture
に関して
(倉敷中央病院循環器内科) 宮本真和・
光藤和明・井上勝美・後藤 剛・門田一繁・
藤井理樹・山本浩之・加藤晴美・岡 直樹・
福 康志・細木信吾・廣野明寿・川上 徹・
丸尾 健・田中裕之・羽原誠二・長谷川大爾・
田坂浩嗣・今井逸雄・山田千夏・岡本陽地・
大鶴 優・齋藤直樹・柴山謙太郎
【背景】本邦でもH19.4月よりPaclitaxel-Eluting stent
(TAXUS stent)が使用可能となった.当院でもSES
(CYPHER stent)再狭窄病変や高度屈曲病変に
対してPES留置を行っている.以前よりstent再狭
窄と関連してstent fractureが注目されているが,
TAXUS stentにおいてもstent fractureを認めたの
で報告する.
【結果】当院にてTAXUS stent留置し
8ヵ月後のfollow CAGで2症例にstent fractureを認
めた.両症例とも右冠動脈近位部の病変で,SES
再狭窄病変に対してTAXUS stentを留置した症例
であった.うち1症例は再狭窄きたしており追加
でPCIを施行した.【総括】PESの場合もSESでの
stent fractureの好発部位である右冠動脈近位部で
stent fructureをきたす症例が認められた.今後
PESにおいても多数例での検討が必要である.
127) 末梢保護デバイス(Filtrap)により冠動脈
損傷をきたした症例
(津山中央病院) 梶谷昌史・河野康之・
清藤哲司・吉川昌樹・小松原一正
症例は67歳男性.胸痛にて救急受診.心電図上前
胸部誘導のST上昇あり,緊急冠動脈造影を施行.
前下行枝#6の完全閉塞が認められ,同部にPCIを
行った.2mmのバルンによる拡張,血栓吸引を
施行後,末梢保護のためFiltrapを挿入し,3.5×
28mmのS-stentを留置.3.5mmのノンコンバルン
で後拡張を加え,良好な拡張を得た.Filtrap回
収deviceがステント部を通過し難く,Filtrap抜去
が困難であった.確認造影にて#8に解離が形成
しており,またFiltrapに破損を認めたことより,
Filtrapによる冠動脈損傷と判断した.翌日に確認
造影を行ったが,解離は改善傾向にあり,第14病
日の造影ではほぼ治癒した.Filtrapによる冠動脈
損傷の症例を経験したためここに報告する.
128) PCIにおける末梢保護デバイス(Filtrap)使
用の際に注意が必要と考えられた症例
(周東総合病院循環器内科) 福本優作・
山田倫生・田中正和・弘本光幸
症例は左冠動脈前下行枝を責任病変とする急性冠
症候群二症例で,病変部の冠動脈造影所見,血管
内超音波所見などから末梢塞栓のリスクが高いと
考え,末梢保護デバイス:Filtrapを用いて冠動
脈インターベンション治療を行った.いずれの症
例においても,冠動脈ステント留置後に明らかな
末梢塞栓,Slow flow/no-reflow現象は生じなかっ
たが,Filtrap回収直後に,フィルターを留置し
ていた部分にスパスムや血管損傷の合併が認めら
れた.本デバイスはフィルター部分が自己拡張型
であり,2.5∼4.5mmの血管径に対応しているが,
左前下行枝,左回旋枝へ留置する際にはややオー
バーサイズとなる症例も多いと考えられ,その使
用には十分な注意が必要である.
126) 薬剤溶出性ステント留置後の冠動脈壁が
MRIのT1強調画像で高信号を呈した1例
(西条中央病院循環器科) 中村真胤・
松本有司・佐藤澄子・森 英城・太宰康伸・
高田泰治・川上秀生
(愛媛県立今治病院循環器科) 松岡 宏
129) 急性心筋梗塞(AMI)におけるFILTRAP®の
有効性の検討 ∼RCA病変∼
(山口県立総合医療センター) 小田哲郎
(同臨床検査科) 田中伸明
(山口県立総合医療センター) 山縣俊彦・
藤井章久・中尾文昭・福田聖子
薬剤溶出性ステント(DES)の長所は高率に再狭
窄を予防しうることである.しかし,ベアメタル
ステント(BMS)に比べ留置部位にフィブリン
沈着が持続し,再内皮化の遅延が問題になってい
る.当院ではMRIを用いた冠動脈プラークのスク
リーニングを行っているが今回DES留置症例に
おいてDES留置後の冠動脈壁がT1強調画像で高
信号を呈した症例を経験したので報告する.症例
は74歳女性.不安定狭心症にて左前下行枝近位部
にTAXUS 3.0×32mmを留置した.約6ヵ月後に
施行したMRIでのT1強調画像でステント留置部
位の冠動脈壁に高信号所見を認めた.冠動脈CT
および冠動脈造影時に同時に施行した血管内エコ
ー,血管内視鏡所見を呈示し,高信号所見との関
連について考察する.
AMIは,不安定プラークの破綻により血栓形成が
生じることが原因とされているため,再灌流治療
に伴って冠動脈末梢に塞栓を合併し良好な再灌流
が得られないことがある.PCIに合併する末梢塞
栓を防止するため,血栓除去デバイスや末梢保護
デバイスがある.血栓吸引を施行した群(FIL(–))
と血栓吸引+末梢保護を施行した群(FIL(+))に
おいて,coronary flow,心筋ダメージに差がない
かを検討した.【症例】AMIでRCA病変である
FIL
(+)8例,FIL
(–)8例.【結果】FIL(+)は
F I L(–)に 比 し S T 回 復 率,M yo c a r d i a l b l u s h
score,に有意に差があった.
【結語】RCA病変の
AMIに対するPCIにおいてFILTRAP®は末梢塞栓
を予防および減少させる可能性が示唆された.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
130) 当 院 に お け る 高 度 石 灰 化 病 変 に 対 す る
rotablator後薬剤溶出性ステントの初期及び遠隔
期成績
(市立宇和島病院循環器科) 池田俊太郎
(広島大学分子内科学) 山根健一
(市立宇和島病院循環器科) 大島弘世
(広島大学分子内科学) 石橋 堅
(市立宇和島病院循環器科) 泉 直樹・
大島清孝・濱田希臣
当院におけるrotablator後薬剤溶出性ステント留
置術の初期及び遠隔期成績をrotablator後ベアメ
タルステントを留置した群と比較検討した.対象
は2003年2月以降rotablatorを施行しベアメタルス
テントを留置したRota-BMS群32例及びDESを留
置したRota-DES群50例,計82症例である.両群
ともほぼ全例で手技成功が得られ院内死亡,Q波
MI,緊急CABGを含む初期合併症は両群に有意差
はなかった.遠隔期死亡,非致死性心血管イベン
トは両群間で有意差は認めなかった.QCAでは手
技後最小血管径に有意差は認めなかったが,再狭
窄率は薬剤溶出性ステント群で低値であった
(RotaDES群9.4%,Rota-BMS群13.8%)
.rotablatorを要
する高度石灰化病変に対し,より再狭窄率が低い
薬剤溶出性ステント留置の有効性が示唆された.
131) Myocardial bridgeにDESを留置した一症例
(福山循環器病院循環器内科) 永井正浩・
竹林秀雄・赤沼 博・末丸俊二・久留島秀治・
佐藤克政・菊田雄悦・木村 光・川副 宏・
治田精一
61歳男性.冠危険因子は高脂血症.労作時胸痛で
H19/01に左前下行枝近位部の動脈硬化性病変に薬
剤溶出ステント(DES)を留置.その際,左前下
行枝遠位部にMyocardial bridge(MB)を認めた.
再度労作時胸痛の出現を認め,H20/02冠動脈造影
検査を施行.DES内再狭窄は認めなかったが,MB
部位に造影上狭窄の進行を認め,PCIの適応と判
断.血管内超音波では, ハーフムーン現象 と
negative remodelingを認め,術前のpressure wire
でFFR 0.53と高度圧較差を認め,Taxus stentを留
置しFFR 0.87と改善を認めた.症候性Myocardial
bridgeに対するDES留置の報告は少なく文献的考
察を加えて報告する.
132) Saphenous vein graftに発生した動脈瘤に
対してステント2枚重ね留置術を施行した1例
(愛媛県立今治病院) 重見 晋・松岡 宏・
川上秀生・大下 晃・河野珠美
症例は66歳の男性.昭和63年某院で心臓カテー
テル検査施行され,RCA #1 99%狭窄,LAD #6
75%狭窄,#9 90%狭窄,LCX #11 99%狭窄であ
ったため,冠動脈バイパス術(LITA-LAD,SVGLCX,SVG-RCA)施行された.以後,当院外来に
通院していたが,2008年3月9日午前11時頃急性
冠症候群を発症し,緊急心臓カテーテル検査で
対角枝が責任病変と考えPCIを施行した.3月14
日より再度胸痛が出現し,改善しないため,3
月15日に再度心臓カテーテル検査施行した.SVG
(-LCX)が完全閉塞であり,近位部に動脈瘤形成
を認めた.責任病変に対して血栓吸引とフィルト
ラップ下にステント植込み術を施行し,瘤部位に
対してはベアメタルステントの2枚重ねを行い良
好な結果を得たので報告する.
海峡メッセ下関(2008 年 6 月) 1043
133) LVADを要した左主幹部急性心筋梗塞の一例
(広島市民病院循環器科) 臺 和興・
井上一郎・河越卓司・石原正治・嶋谷祐二・
栗栖 智・中間泰晴・丸橋達也・香川英介・
松下純一・池永寛樹
症例は60歳代,男性.平成19年12月19日午前2時
30分突然の胸痛にて当院救急外来を受診.来院時
Pre-shockで,心電図上側壁・胸部誘導でST上昇
を認め,心エコー上下壁以外はakinesisであり,
左主幹部急性心筋梗塞と診断した.救急外来に
て心肺停止となりACLSを施行しながら心カテ室
へ移動し,PCPS開始し緊急冠動脈造影検査を施
行した.左主幹部90%狭窄を認めPrimary PCIを
施行した.CCU帰室時のC.I.は1.3L/min/m2,EF
10-20%,胸部単純XP上著明な肺うっ血を認めた.
心原性ショック・心肺停止を合併した左主幹部
急性心筋梗塞,低心機能症例であり,同日夕方
LVADを装着した.LVAD装着後の経過は発表当
日ご報告する.心原性ショックを伴った左主幹部
急性心筋梗塞に対してLVADを使用した症例を経
験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
134) 当院で経験した,PCPSを必要とした使用
したAMI症例の報告
(岩国医療センター循環器科) 高橋夏来・
白木照夫・河野晋久・田中屋真智子・
片山祐介・岩崎 淳・竹内一文・大澤和宏・
吉田雅言
2006年9月から2008年2月までの期間に,当院にて
PCPSを必要としたAMIの7症例について考察す
る.患者の平均年齢は45∼83歳(67±12歳),在
院日数は2∼52日(18±18日),PCPS留置期間は2
∼14日(5.9日±5.0日)であった.病変は1VDが1例,
2VDが2例,LMT+2VDが2例,3VDが2例,また
最大CKは8738±6621 IU/L,最大CK-MBは618±
392 IU/Lであった.7例とも死亡退院と残念な結
果であった.3例はPCPSからの離脱も不可能であ
った.直接死因の内訳は5例がポンプ失調による
心不全,1例は心臓破裂,1例は発症時心室細動に
陥り転倒したことによる外傷性くも膜下出血であ
った.各々の症例を振り返ってその問題点などを
考察する.
135) LAD病変により心停止を来たした2症例
(マツダ株式会社マツダ病院) 住居晃太郎・
五明幸彦・清水嘉人・折田裕一
【症例1】49歳男性,自衛隊員.訓練で10kmマラ
ソン後卒倒.CPRは施行されず6分後に医師によ
りAED作動させるとVf→PEAとなった.その後
救急隊到着し当院に搬送.Asys状態でACLS施行
し心拍再開後のECGで前壁AMIと診断しカテ室
へ直行.PCPS,IABP下にCAG施行しLAD#7に
75%狭窄を認めカッティングバルーン3.5×10mm
で拡張し手技終了.心機能回復せず死亡した.
【症
例2】26歳男性.激しい胸痛で当院へ緊急搬送さ
れた.前壁AMIと診断し緊急CAG施行.LAD#6
に99%狭窄(TIMI2)を認めた.IABP準備中VF
発生し,速やかにCPR開始.DCにても自己心拍
再開せず,10分後IABP,30分後PCPS挿入.LAD
をPOBA後血流回復しDCにて心拍再開し1分後
に開眼し問いかけに返答した.LADにDriver4.0
×15mm+POBA4.5×13mmで手技終了.高次脳
機能は正常で18日後に退院した.
1044 第 92 回中国・四国合同地方会
136) 糖尿病が心停止後に低体温療法を導入した
患者の短期予後に及ぼす影響
(広島市立広島市民病院循環器科)
香川英介・井上一郎・河越卓司・石原正治・
嶋谷祐二・栗栖 智・中間泰晴・丸橋達也・
臺 和興・松下純一・池永寛樹
【目的】糖尿病の心停止後に脳保護目的で低体温
療法を導入した患者の短期予後に及ぼす影響に
ついて検討した.【方法】2003年9月から2008年2
月まで,心停止後,当院循環器科で低体温療法
を行った68人中,23人(34%)に糖尿病の既往を
認めた.退院時神経学的所見,生存退院につい
て検討した.【結果】糖尿病の既往があるものは
退院時神経学的良好なものが優位に少なく(17%
vs 51%,P<0.01),また生存退院が少ない傾向を
認めたが,統計学的有意差は認めなかった(30%
vs 53%,P=0.07).糖尿病は退院時神経学的所
見の独立した予後因子であった(OR 8.9; 95%CI
1.6-71.4,P=0.02).
【結語】糖尿病は退院時神経
学的所見の独立した予後因子であった.
137) 64列CTによる心機能評価が有用であった
冠動脈バイパス+Dor手術の1症例
(愛媛大学生体画像応用医学) 倉田 聖
(よつば循環器クリニック心臓血管外科)
佐藤晴瑞・横山雄一郎
(市立宇和島病院循環器内科) 濱田希臣
(愛媛大学生体画像応用医学) 井上祐馬・
城戸輝仁・東野 博
(同病態情報内科学) 岡山英樹・檜垣實男
(同生体画像応用医学) 望月輝一
症例は60歳代,男性.
【基礎疾患】高血圧,慢性腎不
全(維持透析)
,陳旧性心筋梗塞(左回旋枝)
.2007年
11月下旬に心不全(NYHA4)の増悪にて入院加療し,
心臓カテーテル検査で2枝病変+左心室瘤と診断され
た.冠動脈バイパス術と左室形成術の適応と考え,術
前に64列心臓CTを施行した.CT-angiograhyでは,右
冠動脈の低形成と左前下行枝の狭窄が描出された.多
時相容量データによる心機能評価では,無症候性心筋
梗塞による心尖部の左心室瘤を伴う前壁中隔の壁運動
低下と後下壁の壁運動低下を認め,心室瘤の菲薄化部
位の詳細な評価に有用であった.左内胸動脈-左前下
行枝バイパス+Dor手術を施行し,第12病日の術後CT
ではバイパスの開存と心機能の改善(左室拡張末期容
量:228ml→114ml,駆出率:39%→55%)を確認する
ことができた.
138) 急性心筋梗塞による心原性ショックに対し
て一期的に3枝PCI施行し救命し得た一症例
(周東総合病院循環器内科) 田中正和・
福本優作・山田倫生・弘本光幸
症例は81歳女性.独居および軽度認知症あるため
介護施設入所中.発症約5時間の急性心筋梗塞で
当院救急搬送となり,来院後心原性ショック状態
となり緊急心臓カテーテル検査を施行した.冠動
脈造影では右冠動脈#2に99%,#3に90%,#4PL
に99%,左前下行枝#7に100%,左回旋枝#13に99
%と重症3枝病変であることが判明した.IABP
サポート下にて右冠動脈,左回旋枝,左前下行枝
と順次血行再建を施行することでショック状態か
ら離脱できた.最大CPKは939IU/Lで経過し,第
2病日にIABPから離脱し,心機能も徐々に改善
した.その後リハビリテーションに時間を要した
が,第37病日に軽快退院となった.重度の複雑
多枝冠動脈病変による心原性ショック症例であっ
たが,一期的に完全血行再建を行うことで良好な
転帰を得ることができた一症例だったと考えられ
る.
139) 若年女性が冠動脈左主幹部完全閉塞のため
心室細動を引き起こした一例
(山口大学器官病態内科学) 安藤みゆき・
山本 健・内海仁志・山田寿太郎・岡村誉之
(同器官病態外科学) 村上雅憲・小林俊郎・
美甘章仁
(同器官病態内科学) 藤井崇史
(同器官病態外科学) 濱野公一
(同器官病態内科学) 松h益‡
症例は生来健康な32歳女性.通勤中,心肺停止と
なり心室細動に対し自動体外式除細動器(AED)
にて除細動され心拍再開した.低体温療法後,
意識清明となった.心臓エコー検査では異常な
く,心臓カテーテル検査では左冠動脈は左主幹部
(LMT)に閉塞を認めた.右冠動脈(RCA)には
有意狭窄はなく,RCAからの側副血行路を介し
て左前下行枝および左回旋枝は造影された.ま
た,血液検査にて血管炎や感染症を疑う所見は
なく,冠動脈解離に伴うLMT閉塞と考えられた.
LMT病変に対し,MID-CABを施行し独歩で退院
した.今回,冠動脈危険因子を有さない若年女性
がLMT閉塞を原因として心室細動を引き起こし
た1例を経験し,原因は特発性冠動脈解離と考え
られる稀な症例であり報告する.
140) 心筋梗塞を繰り返した冠動脈拡張症の一例
(津山中央病院循環器科) 吉川昌樹・
梶谷昌史・河野康之・清藤哲司・小松原一正
症例は57歳の男性で主訴は胸痛です.2007年1月
17日午前1時ころテレビを視ていて胸痛出現しミ
オコールスプレーを使用するも改善しないために
当院を救急受診されました.冠動脈造影検査にて
左右とも入口部から瀰漫性の拡張病変を認め,右
冠動脈は近位部にて完全閉塞をきたしており同部
位に対し,血栓吸引,血栓溶解剤投与,バルーン
による拡張を繰り返すも最終的にわずかに遠位部
の血流を改善する状態で終了しました.なおこの
患者様は2003年におよび2006年に下壁の急性心筋
梗塞にて加療癧があります.今回心筋梗塞を繰り
返す冠動脈拡張症を経験しましたので報告させて
いただきます.
141) 経皮的心肺補助を用いた心肺蘇生例におけ
る自己心拍再開についての検討
(広島市立広島市民病院循環器科)
香川英介・井上一郎・河越卓司・石原正治・
嶋谷祐二・栗栖 智・中間泰晴・丸橋達也・
臺 和興・松下純一・池永寛樹
【目的】経皮的心肺補助(PCPS)を用いた心肺
蘇生で,自己心拍再開について検討した.【方法】
2006年1月から2008年2月まで,当院循環器科で
PCPSを用いて蘇生を行った心肺停止患者43人を
対象とした.心拍再開群,非心拍再開群にわけて
検討した.【結果】36人(84%)で心拍再開が得
られた.心拍再開群では非心拍再開群と比較し,
心停止から心肺蘇生の開始までの時間(2分vs11
分,P=0.01),心停止からPCPS開始までの時間
(42分vs63分,P=0.05)が有意に短かった.また
43人中,22人が急性心筋梗塞による心停止と考え
られ,うち17人に再灌流療法が試みられ,成功し,
17人とも心拍再開した.【結語】急性心筋梗塞に
よる心停止患者では,補助循環下の再灌流療法が
有用である可能性が示唆された.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
142) 当院におけるtPA-Facilitated PCIの検討
(心臓病センター榊原病院循環器科)
大河啓介・石澤 真・佐藤慎二・広瀬英軌・
廣畑 敦・川村比呂志・山地博介・村上正明・
村上 充・山本桂三・日名一誠・喜多利正
【背景】Facilitated PCIは出血性合併症が多いた
め,発症早期でPCIまでに長時間要す場合に限
って推奨されている.本邦では早期のPrimary
PCIが可能な施設が多いためか,Facilitated PCI
の報告は少ない.【方法】発症3時間以内の若年
性ST上昇型AMI患者52人を対象とした.入院後
Pamiteplaseを投与した後,PCIを行った.【結果】
年齢は56±10歳,発症から投与までは1.68±0.90
時間,投与量は359±103万単位だった.TIMI 2
以上が得られていたのは35人(66.3%)だった.
出血性合併症は3人(5.8%)で,いずれも小出
血だった.90日後までの心血管イベント発生率は
心不全3人(5.8%),心室細動1人(1.9%)だった.
【結論】Facilitated PCIは,早期再灌流が期待でき,
出血性合併症および心血管イベント発生率も低い
ことから,有用な治療法と考えられた.
143) 冠動脈造影にて血栓様透亮像を呈た病変を
血管内視鏡および血管内超音波で観察し得た一症例
(岩国医療センター) 田渕幹康・岩崎 淳・
河野晋久・吉田雅言・大澤和宏・竹内一文・
高橋夏来・片山祐介・田中屋真智子・
白木照夫・斎藤大治
症例は66歳男性.主訴は胸痛で,既往歴として平
成12年に冠動脈バイパス術を施行されている.心
臓カテーテル検査時に,右冠動脈に可動性を有す
る血栓様透亮像を認めた.急性冠症候群(ACS)
の可能性を考え経皮的冠動脈形成術(PCI)を直
ちに施行した.病変部の血管内超音波(IVUS)
にては壁不整および表面の石灰化を認め,血管内
視鏡にては可動性を有するポリープ状の白色血栓
を認めた.ACSを疑いPCIを施行したが,予想し
た赤色血栓は認められなかった.若干の文献的考
察を含め報告する.
144) Saphenous vein graftをOCTで観察し得た
一例
(愛媛県立今治病院循環器科) 大下 晃・
松岡 宏・川上秀生・河野珠美・重見 晋
症例は77歳,男性.主訴は胸痛.昭和61年に3枝
病変でCABG(SVG to LAD,SVG to RCA,SVG
to LCX)を施行されている.SVG to RCA,LCX
は 閉 塞 し て お り,RCA #1,SVG to LAD midportionに対してPCIを施行された.今回は胸痛精
査のため,冠動脈造影目的で入院した.冠動脈造
影では#3に新規病変を認めた.十分なinformed
consentの上,LADに吻合されているSVGを血管
内視鏡,OCTで観察した.観察した部位は血管
造影上,正常と思われた.血管内視鏡では一部に
白色及び混合血栓の付着した破綻したと思われる
黄色プラークを認めた.同部位をOCTで観察す
ると,プラーク破綻像とそれに伴う血栓の付着像
を明瞭に観察し得た.造影上正常と思われるSVG
でもOCTで観察すると血管内視鏡と同様にACS
を思わせる所見を観察し得たのでOCT所見を中
心に報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
145) Saphenous vein graft狭窄部における血管
内超音波と血管内視鏡所見の比較
(愛媛県立今治病院循環器科) 川上秀生・
大下 晃・河野珠美・重見 晋・松岡 宏
【目的】Saphenous vein graft(SVG)狭窄部にお
ける血管内超音波(IVUS)と血管内視鏡(ICAS)
所見を比較検討.【方法】対象はSVG狭窄5病変.
PCI前にIVUSとICASを施行し,以下の所見を比較
検討した.IVUSの指標;remodelingの有無,プラ
ークの輝度,脂質コアの有無.ICASの指標;プ
ラーク黄色度,付着血栓の有無.【成績】IVUSで
は4病変で著明なpositive remodelingを認めた.
positive remodelingの強い症例ほど,プラークの
輝度は低く,脂質コアの存在を認めた.また,
ICASではIVUSでpositive remodelingの強い症例
ほど,黄色度が強く,血管に付着する血栓量も多
かった.
【結論】SVGにおいてもプラークの進展
に血管remodelingが関与しており,positive remodelingが強い症例ほど,プラークの黄色度が
強く,血栓付着が多いと思われた.
146) 64列MDCTを用いた冠動脈狭窄病変の診断
(鳥取大学医学部附属病院循環器内科)
嘉悦泰博・水田栄之助・井上義明・浜田紀宏・
古瀬祥之・矢野暁生・井川 修
(鳥取大学再生医療学) 久留一郎
(鳥取大学医学部附属病院循環器内科)
重政千秋
【背景】64列MDCTの登場によりCTによる冠動脈
評価が実用的になった.【方法】当院外来・入院
中患者を対象に東芝製64列MDCTを用いて冠動脈
CTを撮像した.β遮断薬投与後,造影剤約60ml+
生食25mlをボーラストラッキング法を用いて投
与した.解析にはAmin社ZioStationを用いた.
【結
果】2008年3月まで計62名の撮像を行った.冠動
脈石灰化著明につき描出不良の症例は6例あった.
有意狭窄の感度は96%,特異度は98%であった.
PCI施行例に対しIVUS:(Virtual Histology)を用
いてプラーク性状評価を行ったところ平均CT値
が低いプラークほどIVUS上ソフトプラークと考
えられた.【考察・結語】64列MDCTによる冠動
脈評価は冠動脈有意狭窄の有無だけでなくプラー
ク性状の評価にも有用であると考えられた.
147) ステント留置術後の核医学検査の有用性に
ついて
(倉敷中央病院循環器内科) 山田千夏・
山本浩之・光藤和明・井上勝美・後藤 剛・
門田一繁・藤井理樹・加藤晴美・岡 直樹・
福 康志・細木信吾・廣野明寿・山本干城・
川上 徹・丸尾 健・田中裕之・羽原誠二・
長谷川大爾・田坂浩嗣・今井逸雄・岡本陽地
ステント留置術を行った403症例について,平均
926日経過した時点で心筋シンチグラフィーを
用いた経過観察を行った.全症例のうち,Drug
Eluting Stent単独留置が84例,Bare Metal Stent
単独留置が95例,両者混合が224例であった.再
分布を認めた27症例については,後日冠動脈造影
検査を行った.このうち8例でステント内再狭窄
を認めた.再狭窄,新規病変や心原性イベントの
出現を検討し,心筋シンチグラフィーによる非侵
襲検査の有用性について,検討した.
148) 胸部外傷により急性心筋梗塞を発症した冠
動脈起始異常の一例
(愛媛県立中央病院) 尾藤安奈・松中 豪・
大野美香・三好章仁・佐々木康浩・泉 直樹・
川田好高・高木弥栄美・羽原宏和・垣下幹夫・
中村陽一・鈴木 誠・風谷幸男
(神南診療所) 清水英範
症例は77歳,男性.自家用車での事故により胸部
打撲をおこし救急病院に入院した.翌日ショック
状態となり,心電図より右冠動脈の急性心筋梗塞
と診断され当院に転院した.緊急心臓カテーテル
検査にて,左冠動脈に狭窄を認めなかったが,右
冠動脈は造影が困難であった.上行大動脈壁に造
影剤のpoolingを認め,上行大動脈解離とそれによ
る右冠動脈起始部の閉塞が疑われたため血行再建
を行わず保存的に加療を行った.後日,心臓造影
CT検査にて右冠動脈起始部は左冠尖の左冠動脈
近傍より起始しており,Seg.1に90%狭窄を認め
今回の責任病変と判断した.本症例の急性心筋梗
塞の機序として,ハンドル外傷により右冠動脈が
肺動脈と大動脈の間で圧迫されたことを契機とし
て急性心筋梗塞を発症した可能性が示唆された.
149) 産褥期に急性心筋梗塞を発症した原発性冠
動脈解離の1例
(徳山中央病院循環器内科) 平塚淳史・
小川 宏・分山隆敏・岩見孝景・木村征靖・
波多野靖幸・望月 守
(山口大学器官病態内科学) 松h益‡
若年女性が急性心筋梗塞を発症することは稀であ
るが,今回産褥期に発症した若年急性心筋梗塞の
症例を経験し,原発性冠動脈解離が原因と考えら
れたため報告する.症例は31歳女性.2008年1月
19日突然意識消失を来した.救急隊がVFを確認
し,AEDでVFを停止し当院へ搬送された.患者
は同年1月5日に第二子を出産した産後14日の産
褥婦であった.検査所見から急性心筋梗塞が疑わ
れ,緊急冠動脈造影を施行したところ左冠動脈前
下行枝に完全閉塞を認めた.同部位に冠動脈ステ
ント留置術を施行し経過は良好であった.患者は
特に冠危険因子を持たず心筋梗塞の原因が不明で
あったが,退院前に施行した血管内超音波でステ
ント留置部及びその遠位部,近位部に冠動脈解離
像を認めた.周産期に発症した冠動脈解離が急性
心筋梗塞の原因と考えられた.
150) 急性心筋梗塞を発症した冠動脈瘤の一例
(徳島県立中央病院循環器科) 高木俊人・
藤永裕之・斎藤彰浩・奥村宇信・蔭山徳人・
原田顕治・山本 隆・河原啓治
症例は66歳女性,主訴は胸痛.2007年8月23日午
前1時ごろ就寝中に突然の胸痛を自覚し冷汗を伴
った.近医受診し,心電図上V1からV3のST上昇
および陰性T波を認めたために,急性前壁心筋梗
塞の診断にて当院救命救急センターへ紹介搬送と
なる.緊急冠動脈造影上,左冠動脈前下行枝近
位部に冠動脈瘤を伴う,99%狭窄を認めた.同部
位が責任病変と判断し,血管内エコーを施行し
たところプラーク破裂の後と考えられる瘤状変
化を確認した.Distal protection下にDriver(18)
3.0mmを留置し0%へと改善した.術後経過は良
好で,退院前の確認造影でも再狭窄は認めず,
第16病日軽快退院した.急性心筋梗塞を発症し
た冠動脈瘤の一例を経験したので,慢性期の心臓
MDCTの検査結果および若干の文献的考察も含
め報告する.
海峡メッセ下関(2008 年 6 月) 1045
151) 冠動脈造影における側副血行の心筋虚血の
程度に及ぼす影響
(広島大学循環器内科学) 奥原宏一郎・
寺川宏樹・西岡健司・蓼原 太・槇田祐子・
藤村憲崇・光波直也・中野由紀子・岡田武規・
荘川知己・山本秀也・石田隆史・木原康樹
【目的】冠動脈造影における側副血行の虚血の程
度に及ぼす影響について検討した.
【方法】冠動
脈造影検査にて心筋梗塞の既往のない慢性完全閉
塞の1枝病変を有し,3ヶ月以内に薬物負荷Tl-201
心筋SPECTを施行した14例を対象とした.冠動
脈造影上の側副血行の程度をRentrop分類にて評
価.SPECTより心筋虚血の程度としてSummed
stress score(SSS),Summed rest score(SRS),
Summed difference score(SDS)およびQGSより
負荷・安静時のLVEFを求めた.胸部症状の有無
によりI群(胸痛あり,6例),II群(胸痛なし,8例)
に分類した.
【結果】2群間のLVEFおよびRentrop
分類(2.9±0.2,2.7±0.2)は有意差を認めなかっ
たが,SSS,SRSはI群で有意に大であった.【結
論】冠動脈造影上良好な側副血行を有しても機能
的には十分でないことがある.
152) 同 一 患 者 に お け る 冠 動 脈 ス テ ン ト 3 種
(CYPHER,TAXUS,DRIVER)の慢性期病理組
織所見の比較
(徳島大学循環器内科) 仁木敏之・
若槻哲三・楠瀬賢也・山口浩司・八木秀介・
小柴邦彦・岩瀬 俊・山田博胤・添木 武・
赤池雅史
症例は73歳女性.安定狭心症に対して07年1月か
ら3月にかけて右冠動脈中位部にDRIVERステン
ト,左前下行枝近位部にCYPHERステント,お
よび左回旋枝近位部にTAXUSステントの植え込
み術が施行された.以後,狭心症状は改善し07年
9月の慢性期造影にても各々の病変に再狭窄は認
めず経過は良好であった.しかしながら,同年11
月に余病のリウマチ肺による間質性肺炎の増悪の
ため永眠された.病理解剖の結果,薬剤溶出ステ
ントとベアメタルステントのstrut周囲の内膜肥
厚や炎症細胞の浸潤程度には明らかな差があり,
CYPHER,TAXUSの間でも差異が認められた.今
回我々は,同一患者に3種の冠動脈ステントを植
込み,その慢性期に病理所見を確認し得た症例を
経験したので,
若干の文献的考察を加えて報告する.
153) 当院におけるラピチェックの救急患者にた
いする運用について
(鳥取県立中央病院) 那須博司・吉田泰之・
菅 敏光・遠藤昭博
【背景】救急患者にたいするACSの診断は,現病
歴,心電図判読だけ困難な場合も経験される.【目
的】ラピチェックの運用がACS診断にたいして実
際の臨床運用でどの程度寄与しているかを明らか
にすること.
【方法】2006年度の救急対応患者の
中でラピチェックを使用した患者にたいして,臨
床的な診断,CAGへの導入率,PCIに至ったかど
うかの経緯について詳細に吟味した.【結果】使
用頻度は2006年度で198例.男性121例,女性77例.
そのうちラピチェック陽性例40例,陰性例158例.
陽性例でCAGに至った症例は13/40例.PCIに至
った症例は11/13例.陰性例でCAGに至った症例
は23/149例.PCIに至った症例は15/23例であっ
た.【総括】ラピチェックの臨床的な運用は,他
の検査所見,症状等の経過を加味することにより
生診率に寄与するものと考えられる.
1046 第 92 回中国・四国合同地方会
154) 除細動抵抗性のVfに対し,救命士によるエ
ピネフリン投与後に除細動に成功し社会復帰した
一例
(広島大学循環器内科) 山里 亮・
荘川知己・平位有恒・山本秀也・蓼原 太・
岡田武規・土肥由裕・北川知郎・大橋紀彦・
宇都宮裕人・國田英司・木原康樹
症例は44才男性.朝,自宅で入浴中に心肺停止(Vf)
に陥った.除細動抵抗性のVfであり,初回の除細
動及びその後数回の除細動では洞調律へ復帰しな
かった.救急隊によるエピネフリン静脈内投与後
に施行した除細動で洞調律へ復帰した.当院へ救
急搬送後,低体温療法を施行.その後,後遺症な
く意識を回復し社会復帰が可能であった.本症例
は院外心肺停止に対し救急隊がエピネフリンを投
与した症例の中で社会復帰した広島県初の症例で
ある.今回のVfの原因と併せて本症例でエピネフ
リン投与が有効であった理由などについて若干の
文献的考察を加えて報告する.
155) 一般市民が使用したAEDにより救急車内
で心拍再開し社会復帰した1例
(香川大学医学部附属病院卒後臨床研修センター)
河野由美子
(同救命救急センター) 鳥越奈都代・
山下 進・河北賢哉・山下史朗・阿部祐子・
黒田泰弘
(香川大学循環器・腎臓・脳卒中内科)
大原美奈子・北泉顕二・吉田潤史・瀧波裕之・
岡本尚子・野間貴久・雪入一志・大森浩二・
河野雅和
【背景】一般市民がAEDを使用し社会復帰できた1例
を検証する.
【症例】46歳男.仕事中に倒れ,同僚が
救急車を要請しながら回復体位,気道確保を行った.
当初脈拍触知していたが,次第に触れなくなったため
胸骨圧迫開始.AEDで1回ショックを行った.救急
車内で心拍再開を確認し,補助呼吸しながら当院救
命救急センターに搬入された.到着時Glasgow Coma
Scaleスコア3(E1V1M1)で痙攣がみられた.頭部
CTでは明らかな異常所見はなく,24時間の低体温療
法を施行した.その後意識清明となり第27病日に独歩
で退院,社会復帰した.
【考察】AEDの記憶内容の解
析を含めて現場事後検証を行った.県内初の一般人に
よるAED使用事例であり,PAD普及へのインパクト
は大きく,また救急隊員の病院前心肺蘇生プロトコー
ル改訂に非常に参考となる事例であった.
157) AED(自動体外式除細動器)の有効性と限界
(岡山大学循環器内科) 尾上 豪・
森田 宏・永瀬 聡・中村一文・岡 岳文・
草野研吾・大江 透
(同救急医学科) 氏家良人
【目的】AEDの普及に伴い救命,社会復帰された
心肺停止患者が増加している.わが国では2003年
に,救命救急士の使用が認められ,2004年7月よ
り医療従事者ではない一般市民でも使用できるよ
うになった.今回我々はAEDの有効性と限界に
関して検討する.【対象】当院で経験したAEDで
の蘇生患者28例に関して基礎疾患,患者背景,治
療,予後等に関し検討した.【結果】予後に関し
てはAEDにて蘇生された28例の患者のうち,25
例の患者(89%)が生存退院した.退院できなか
った3例のうち,2例は末期癌,1例は脳死状態の
患者であった.蘇生後脳症の有無に関しては24例
の患者(86%)は重篤な後遺症は認めなかった.
【結語】AEDにて蘇生された患者の予後は良好で
あると考えた.また,多くの患者が社会復帰可能
であった.
158) BLSにおいて伝わりにくく,忘れやすい項
目は?
(高松医療センター循環器科) 辻 哲平・
陸 新・村上和司・近藤 功・友廣敦文・
水重克文
蘇生現場の遭遇が少ない病棟スタッフは,時間と
ともに知識が消失することは避けられない.当院
では平成17∼18年まで1回2時間のミニBLSコース
を行い,約90%の看護師が受講済みであった.19
年度よりさらなる発展形として認定ICLSコース
を月に一度行ってきた.【目的】BLSでどの項目
が忘れやすいのかを評価した.【方法】既にミニ
BLSコースを受講済みである看護師42名に対し,
19年4月より12月まで行ったICLSコースの前に,
アンケートおよびプレテストにて評価した.【結
果】通報,呼吸・循環の確認および放電前の安全
確認が最も多く(28,26,22人),胸骨圧迫およ
びAEDの電源・パッドの使用(2,2人)は少な
かった.
【結論】胸骨圧迫の重要性は伝えられて
いた.指導内容の簡素化すること,繰り返し再講
習を行うことが重要であると思われた.
156) 胸骨圧迫だけの心肺蘇生法を採用した,市
民のためのAED救命講習会…実施1年間を振り
返って
(心臓病センター榊原病院心臓血管外科)
津島義正・都津川敏範・杭ノ瀬昌彦・吉鷹秀範
159) 山口県東部での心肺蘇生普及活動(第2報)
(JA山口厚生連周東総合病院循環器内科)
弘本光幸・田中正和・山田倫生・福本優作
(山口大学救急・生体侵襲制御医学)
笠岡俊志
BystanderによるCPR実施率は低い.2007年に,
SOS-KANTOや大阪ウツタインプロジェクトの報
告により,人工呼吸なしの心肺蘇生法でも救命率
に差がないことが示された.SOS-KANTOの報告
を受けて,2007年3月から胸骨圧迫だけの心肺蘇
生法を採用した市民のためのAED救命講習会開
始した.2008年2月までの1年間で15回,147名
が受講した.1時間程度で習得が容易であり,受
講後のアンケートでは98%の受講者が実施できる
と答えている.2007年8月には,受講者の一人が
心停止に遭遇し,10分間の胸骨圧迫の後,救急隊
のAEDで障害なく救命された.普及のためには,
より多くの団体が講習に取り入れることが望まれ
る.
2004年迄,当地には標準的な心肺蘇生法を勉強
する環境がなかったが,複数のAHAインストラ
クターが出てきて,2005年12月からAHAコース
開催開始.当院でもBLSプロバイダーは2008年3
月で158名になった.AED未配備でも,看護師の
ほとんどがBLSプロバイダーならば適切な患者評
価,救急コール,2人法の心肺蘇生法が24時間体
制で可能.医師が来るまで,質の高い心肺蘇生を
継続してくれている.次のステップとして一般市
民対象の普及活動が必要.AHAにはHeartsaver
AED,Family and Friends CPRという2つの市民
向けコースがある.当院では2007年11月に開催以
後,ACLSを含めたAHA4種のコース開催が可能
になった.一般市民による心肺蘇生を増やすには,
人口の10%以上の方々が知識をもつ必要あり.消
防の普通救命講習とも連携して,努力が必要であ
る.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
160) 岡山県でのAHA ECCプログラムの現状
(岡山赤十字病院ICU) 藤田知幸
(同循環器科) 齋藤博則
(心臓病センター榊原病院心臓血管外科・救急部)
津島義正
2003年10月,我が国初のAHA(米国心臓協会)
公認のECC(緊急心臓血管治療)プログラムが
開始された.岡山県では2005年9月にACLS協会
ITC(国際トレーニングセンター)のトレーニン
グサイトを設立し,これまでにBLSコース42回,
ACLSコース13回,HeartsaverAEDコース12回を
開催した.一方,日本循環器学会は2007年3月に
AHAと契約しITCとなり,心肺蘇生法委員会の
中の教育部門としてECCプログラムを独自に推
進させていく事になった.中国支部ではこれま
でに岡山県でBLSコース2回,ACLSコース2回,
HeartsaverAEDコース1回を開催し,今後は中国
支部全域でコースを展開していく必要がある.地
域での救命連鎖の確立のため,所属するITC,支
部あるいは職種に関係なくインストラクター,機
材,情報を共有し,効率良く質の高いコースを展
開していく必要がある.
161) 僧帽弁感染性心内膜炎術後再発逆流に対し
再僧帽弁形成術を施行した一例
(津山中央病院心臓血管外科) 末廣晃太郎・
久保陽司・松本三明
2002年4月18歳男性の感染性心内膜炎による僧帽
弁閉鎖不全に対し疣贅付着部を含む前尖三角切
除,Kay法による後交連部の弁輪縫縮を施行し
た.術後より中等度の遺残逆流がみられたが経時
的に逆流,労作時息切れの増悪がみられるように
なり,2005年7月再手術となった.前回手術で修
復した後交連部縫合糸の破錠,A3,P3の腱索異
常が逆流の主体であり,A3-P3および後交連部の
edge-to-edge repairとリングによる弁輪縫縮で逆
流が消失した.2007年6月までにごく少量の逆流
が観察されるのみである.近年僧帽弁感染性心内
膜炎に対する形成術は成功率が向上しており,ま
た長期生存率は弁置換に対して良好であるとされ
る.本症例のような若年者では積極的に形成を行
うべきであると考えられた.
162) 興味深い感染性心膜炎の2手術例
(川崎医科大学胸部心臓血管外科)
湯川拓郎・濱中荘平・南 一司・稲垣英一郎・
久保裕司・正木久男・種本和雄
最近,当施設で経験した,興味深い感染性心膜炎
の2手術例について,若干の文献的考察を加えて
報告する.症例1は72歳女性.平成20年2月中旬
ごろから背部痛が出現し,発熱.徐々に心不全症
状が出現し増悪.心エコー上,大動脈左冠尖に弁
輪部膿瘍を認め,準緊急に手術を行った.弁輪部
は仮性瘤を形成し,心のう内に出血を認めた.症
例2は,57歳男性.約1年前から不明熱にて,近
医で加療を行われていた.平成20年2月,心エコ
ー上僧帽弁にvegetationが認められ,当院に紹介
入院となった.血液培養にて緑連菌を検出.感受
性を有する抗生剤を投与するも解熱せず.準緊急
に手術を行った.僧帽弁後尖は広範にvegetation
を認め,前尖にはperforationが認められた.術後,
発熱を認めず,経過良好である.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
163) 肺動脈弁下狭窄に三尖弁位感染性心内膜炎
を合併した一例
(広島市立安佐市民病院循環器内科)
倉岡正嗣・土手慶五・加藤雅也・佐々木正太・
上田健太郎・中野良規・長沼 亨・渡邊義和
(同心臓血管外科) 内田直里・柴村英典・
片山 暁・須藤三和・愛新啓志
【症例】58歳,女性【既往歴】小児期に心雑音を
指摘されている【現病歴】当科受診1ヶ月前に,
背部痛を主訴に近医受診.抗生剤にて一時的に軽
快したが増悪寛解を繰り返した.同時期より弛張
熱を認め,感染性心内膜炎を疑われ当科紹介受診
となった.心臓超音波検査にて,三尖弁に輝度の
高い疣贅,肺動脈弁下部に流出路狭窄を認めた.
血液培養よりMSSAが検出された.弛張熱の持続,
三尖弁の疣贅の増大傾向を認め,内科的治療に抵
抗性であり,手術目的に当院心臓血管外科転科.
疣贅摘出,三尖弁形成,肺動脈下流出路狭窄切除
術施行した.術後経過良好であり第40病日退院し
た.【結語】三尖弁位感染性心内膜炎は欧米と比
べて本邦ではまれな疾患である.今回,肺動脈弁
下狭窄に三尖弁位感染性心内膜炎を合併した一例
を経験したので報告した.
164) 活動期感染性心内膜炎による三尖弁病変に
対する外科治療
(徳島大学心臓血管外科) 元木達夫・
吉田 誉・浦田将久・黒部裕嗣・神原 保・
北市 隆・北川哲也
【背景】活動期感染性心内膜炎(AIE)に対する手
術は慎重な検討を要するが,三尖弁病変について
の報告は少ない.【対象】AIEの三尖弁手術5例.
年齢35(2∼59)歳,男女比3:2,ペースメーカー
リード(PML)感染2例,歯科治療後1例,TVR
後1例,VSD閉鎖術後1例.起炎菌はブドウ球菌類
4例(表皮ブドウ球菌1例,MSSA1例,MRSA2例),
不明1例.3/5例に肺塞栓症を合併.手術は,TVR
後の再弁置換以外は弁形成術を行った.PML感染
に対してはリード除去と心筋電極への変更を行っ
た.【結果】MRSA2症例に縦隔炎を合併し1例を
失ったが,他の症例では感染の再発なく,TRも問
題はない.
【結語】AIEの三尖弁病変に対して弁形
成術は弁機能の温存と感染制御において有効であ
る.ブドウ球菌群の感染が多く,急激な経過をた
どるものもあり,迅速な診断と対処を要する.
165) 服薬自己中断により人工弁機能不全,急性
肺水腫をきたした大動脈弁置換術後患者の1例
(近森病院循環器内科) 中岡洋子・
窪川渉一・古谷敏昭・南 大揮・葉梨喬芳・
深沢琢也・今井龍一郎・西田幸司・要 致嘉・
關 秀一・川井和哉・深谷眞彦・浜重直久
(同心臓血管外科) 池淵正彦・樽井 俊・
藤田康文・入江博之
症例は73歳男性.2004年に大動脈弁狭窄症に対
し大動脈弁置換術(SJM#23)を施行している.
2008年1月中旬より通院が不規則となり,その
頃から呼吸困難感が出現,増悪し2008年1月28
日起座呼吸の状態で救急搬送となった.胸部X線
写真でうっ血を,心エコー図では重症大動脈弁
逆流症と血流速度の増大を認めた(最大圧較差
55mmHg).血液検査ではWBC 12100/μL,CRP
6.8mg/dl,INR 1.13であった.透視で二葉弁の可
動性低下を認め血栓弁と診断し,緊急大動脈弁置
換術(CE#21)を施行した.大動脈機械弁の血
栓弁により心不全を来たし,緊急手術で救命でき
た症例を経験したので文献的考察を加え報告す
る.
166) ポートアクセス手術47例の検討
(心臓病センター榊原病院心臓血管外科)
杭ノ瀬昌彦・吉鷹秀範・都津川敏範・
津島義正・畝 大・山澤隆彦・衛藤弘城・
平岡有努
2005年よりポートアクセス手術を取り入れ本年3
月までに47例を経験したので検討した.【適応症
例】当初は美容目的に若年女性ASDに適応を限
定していたが,男性症例も適応とした.年齢制限
も無くし高齢者にも適応可能とした.次に僧帽弁
疾患に取り組み人工弁置換術から始め容易と考え
られる形成術にまで適応を拡大し成績が安定した
ところで前尖の病変に対する形成術も行うように
なった.大動脈弁疾患にも準備を進め2007年5月
に本邦第1例目を成功させた.【結果】男性29例,
女性18例であった.ASDは15例,僧帽弁は26例,
大動脈弁は6例.体外循環時間は通常より若干長
めになるが手術時間は差が無く術後入院期間は有
意に短縮された.【結論】適応症例の選択を厳密
に行えばポートアクセス手術は安全で患者に負担
の少ない低侵襲手術と考えられた.
167) Closed mini-circuit CPBを用いた開心術
(岩国医療センター心臓血管外科)
村上貴志・大谷 悟・山本 剛・小山 裕・
錦みちる
我々は,従来closed-circuit CPBを主にon-pump
beating CABGに用いてきたが,静脈フィルター
やair trapの開発により安全性が向上したと判断
し,MICS-AVR5例を中心として,僧帽弁形成術,
弓部置換術など計9例にその適応を拡大してき
た.ポンプシステムはMedtronic社のResting-heart
systemを4例に,AICS(岩国型閉鎖式小型回路)
を5例に用いた.いずれのシステムも,脱血管か
らの空気に対しては安全に対処できたが,Restingheart systemでは,空気と一緒に排出された血液
は捨てられてしまうため,適応となる術式を選ぶ
必要があった.今後,MICS AVRとclosed minicircuitの組み合わせによる低侵襲性に期待が寄せ
られる.
168) 僧帽弁閉鎖不全症に対する弁形成術の検討
(山口大学心臓外科) 鈴木 亮・村上雅憲・
小林俊郎・白澤文吾・美甘章仁・濱野公一
【目的】僧帽弁閉鎖不全症(MR)に対する僧帽弁
形成術(MVP)の中期成績を検討した.【対象】
過去5年間の僧帽弁単独および合併疾患(CABG
併施症例を除く)を含む40症例.平均64.0±11.7歳,
男性18例,女性22例.病変部位は前尖8,後尖23,
前・後尖3,弁輪拡大6例であった.【結果】平均
観察期間は24.9±14.7ヶ月.高度弁輪石灰化を認
めた1例が術中の左室破裂のため手術死亡,4例が
非心臓疾患で遠隔期に死亡した.1例が人工弁輪
のdehiscenceのためMRの再発を来たしMVRを行
った.術前・術後遠隔期のNYHA分類は2.5±0.8
から1.1±0.3へと有意に改善し,心エコー上の
MRの程度は3.1±0.6から0.3±0.6へと有意に改善
した(p<0.0001).術後3年の心事故回避率は
97.4%と良好な成績であった.【結語】当科にお
けるMVPの中期成績は満足のいく結果であった.
海峡メッセ下関(2008 年 6 月) 1047
169) 僧帽弁後尖の広範囲逸脱に対する弁形成術
(徳山中央病院) 高橋雅弥・池永 茂・
岡田治彦
後尖逸脱に対しては矩形切除が広く行われている
が,逸脱範囲が広い場合は矩形切除のみでは対応
は困難である.腱索断裂により広範囲の逸脱を生
じた症例に人工腱索を用いた腱索再建と人工弁輪
による弁輪形成を行い良好な結果が得られたの
で報告する.【症例1】82歳女性.急性心不全の
ため入院.腱索断裂によるMRIV°でP2,P3の広
範囲の逸脱.一本の人工腱索(CV-4)と30mmの
Phisio ringで再建.術後MRなし.【症例2】70歳
男性.腱索断裂によるMRIV°でP1,P2,P3の広
範囲の逸脱.慢性心不全で心房細動を合併.IRF
(Cardioblate)を用いてradial手術を行い,3本の
人工腱索(CV-4)と30mmのPhisio ringで再建.
術後MRなく,洞リズムであった.
170) 僧帽弁逸脱に重症僧帽弁逆流を伴う高齢者
の予後についての検討
(川崎医科大学循環器内科学) 宮本欣倫・
大倉宏之・山田亮太郎・今井孝一郎・
尾長谷喜久子・久米輝善・林田晃寛・
根石陽二・渡邉 望
(ベルランド総合病院) 戸田爲久・田口晴之
(川崎医科大学循環器内科学) 川元隆弘
(大阪市立大学附属病院) 葭山 稔
(大阪掖済会病院) 吉川純一
(川崎医科大学循環器内科学) 吉田 清
【背景】僧帽弁逸脱に伴う重症僧帽弁逆流を合併した
高齢者では手術適応があっても内科的に経過観察する
ことが多い.今回我々は僧帽弁逸脱に伴う重症僧帽弁
逆流を伴った高齢者症例の臨床的予後を検討した.
【方
法と結果】対象は2002年4月から2007年3月までに経胸
壁心エコー図でMVPと診断された75歳以上の83症例.
心血管イベント発生(心臓死,心不全)について後ろ
向き調査を行いKaplan-Meier法を用いて検討した.平
均観察期間は639日.心血管イベントは26症例に起こ
った.心血管イベントの発生率はEF50%未満の群で
有意に高かった(p<0.01)
.
【結論】僧帽弁逸脱に重症
僧帽弁逆流を合併した高齢者症例において左室収縮能
低下している症例では左室収縮能が保たれている症例
に比べて心血管イベントが有意に高かった.
171) Pergolide投与中に僧帽弁閉鎖不全による心
不全を呈した1例
(岡山大学循環器内科) 杉山洋樹・
武田賢治・永瀬 聡・中村一文・岡 岳文・
草野研吾・大江 透
症例は77歳女性.パーキンソン病に対し2003年よ
りPergolide(ペルマックス®)投与にて加療中で
あった.2007年5月の心エコーにて軽度の僧帽
弁閉鎖不全を認めたがPergolideは継続投与され
ていた.2008年1月,全身浮腫および呼吸困難
を主訴に当院を受診.胸部レントゲンにてうっ
血,胸水を認め心不全と診断し入院となった.心
エコーにて重度の僧帽弁閉鎖不全を認めたため
Pergolideの副作用を疑い投与中止.利尿剤にて
加療を行ったところ,2週間後の心エコーにて僧
帽弁閉鎖不全は著しく改善していた.Pergolide
の長期投与により僧帽弁膜症をきたし投与中止に
て改善する症例が文献的に報告されており,本例
もこれに該当する可能性が考えられた.
1048 第 92 回中国・四国合同地方会
172) 循環器科医が治療した重症虚血下肢症例
(愛媛県立新居浜病院循環器科) 坂上智城・
末田章三・三根生和明
(済生会西条病院) 杉 豪輔・青野卓也・
和田有加・藤田佳寿美・太田憲章
175) 外傷性両側腸骨動脈限局性解離に対してス
テント治療を行い救肢できた一例
(広島市立安佐市民病院心臓血管外科)
倉岡正嗣・内田直里・柴村英典・片山 暁・
須藤三和・愛新啓志
【目的】循環器科医が施行した重症虚血下肢症例
(SIL)の治療成績をまとめた.【方法】対象は,
2000年から2008年2月末までに施行したPI 155病
変,108症例中,SILの6例(男性:4例,75±9歳)
である.6例全例Rutherford IIIを認めた.初期
100病変までは,膝上病変治療のみに留め,100病
変以降は膝下病変にも可能な場合には治療範囲を
拡大した.【結果】半数の症例が糖尿病合併例で
あった.全手技の10.3%(16/155)がSILに関す
る治療であった.初期100病変の4例中,2例は
膝下切断となったが,1例は創が完治し,残りの
1例は坦癌症例であったが,治癒傾向を認めた.
100病変以降の2例中,1例はminor切断のみで
大切断を逃れ,残りの1例は,治癒傾向を認めて
いる.【結論】SIL症例は,積極的に膝下病変の
改善を得なければ切断を余儀なくされる.
【症例】84歳,男性.バイクで走行中に胸腹部打
撲した.右肋骨骨折があり,近医に経過観察入院
となった.翌日,左下肢の冷感・感覚鈍化があり
ドプラーにて足背動脈の血流を確認できず,CT
にて左総腸骨動脈の閉塞を認めたため,当科を紹
介受診した.来院時,左総大腿動脈触知せず,左
下腿には著明な冷感とチアノーゼがあり,下腿以
下の完全麻痺を認めた.左腸骨動脈急性閉塞の診
断にて受傷23時間後に手術施行した.左大腿動脈
より血栓除去を行ったが除去できず,術中造影に
て左総腸骨動脈の解離を確認したため,ステント
留置した.血流再開後,コンパートメント症候群
をきたしたため左下腿減張切開を施行した.現在,
リハビリ継続中である.【結語】外傷性腸骨動脈
解離に対して血管内治療を行い救肢できた一例を
経験したので報告した.
173) 大腿膝窩動脈領域の慢性完全閉塞病変に対
するステント治療の初期および慢性期成績
(徳島赤十字病院循環器科) 弓場健一郎・
日浅芳一・村上尚嗣・當別當洋平・陳 博敏・
宮崎晋一郎・馬原啓太郎・小倉理代・
宮島 等・鈴木直紀・高橋健文・細川 忍・
岸 宏一・大谷龍治
【目的】大腿膝窩動脈領域の慢性完全閉塞病変に
対するステント治療の初期および慢性期成績を評
価すること.
【方法と結果】2005年5月から2008
年1月までに,31人(男性81.6%),31病変に対し
て,nitinol製自己拡張型ステントで治療を行っ
た.6ヵ月以降に末梢エコーで評価を行った.平
均使用ステント本数は1.75本,平均バルーン径は
5.0mm,平均ステント長は157.9mmであった.初
期成功率90.3%で,3例(9.7%)に合併症がみら
れた.ABIは0.58±0.18から0.86±0.17と改善がみ
られた.6ヶ月以上の期間観察されたのは31例で,
再狭窄率は10.5%,再血行再建率は5.3%であった.
【結論】大腿膝窩動脈領域の慢性完全閉塞に対す
るステント治療は,成功率も高くかつ安全に行う
ことができた.11.9ヶ月で再狭窄率10.5%,再血
行再建率5.3%と許容しうる成績であった.
174) 腸骨動脈ステント留置後の仮性瘤に対しス
テントグラフト内挿術を行った1例
(松山市民病院心臓血管外科) 寒川顕治・
青木 淳
症例は66歳,女性.2007年9月25日左総∼外腸骨
動脈の著明な石灰化を伴う完全閉塞に対し他院で
PTA(SMART 8×40mm,8×100mm)施行.術
後貧血となったが経過観察中.10月初めから腰痛
が出現し,11月6日イレウスとなった.CTでステ
ント接合部のずれと左腸腰筋内の仮性瘤
(径52mm)
を指摘され,当院に紹介搬送された.11月7日イ
レウス管挿入後,左大腿動脈をcut downし,PALMAZ
6×39mmとGore-Tex 4mm人工血管で作成した
ステントグラフトを前回のステント接合部に留置
した.術中軽度のendoleakを認めたが,術後の造
影CTでendoleakは消失し,仮性瘤は縮小した.腸
骨動脈に対するPTAは有用であるが,このような
合併症に注意すべきである.
176) 右内腸骨動脈慢性完全閉塞の一例
(心臓病センター榊原病院循環器内科)
石澤 真・山本桂三・大河啓介・佐藤慎二
症例は80歳,男性.
【既往歴】陳旧性心筋梗塞,
高血圧.【現病歴】平成19年3月頃より100m歩行
にて右腰部∼右大腿背側の痛みが生じるように
なり,9月に下肢造影MRAにて右内腸骨動脈が
CTO,末梢は側副血行で造影.内科外科合同カ
ンファレンスにて,CTOへのPPI適応がはっきり
しないこと,危険性も大きいことが指摘された
が,ご本人の強い希望にてPPIを施行.AOGにて
右内腸骨動脈は起始部1cmからCTOであり,腰
動脈その他から側副血行にて末梢が造影,上殿
動脈,下殿動脈は側副血行から遅延造影された.
RDC1と18ワイヤにて慎重に病変をクロス,3mm
SUBMARINE(monorail)にてバルン拡張を施行.
術後跛行症状は消失.PPI適応の有無も含め,問
題提起,指導いただく意味で症例を呈示する.
177) ボセンタンにより救肢できた強皮症に伴う
重症虚血性肢の1例
(徳島大学病院循環器内科) 八木秀介・
岩瀬 俊・伊勢孝之・住友由佳・楠瀬賢也・
仁木敏之・山口浩司・小柴邦彦・山田博胤・
添木 武
(同内分泌・代謝内科) 粟飯原賢一
(同循環器内科) 若槻哲三・赤池雅史
(同内分泌・代謝内科) 松本俊夫
症例は74歳,女性.高血圧,脳梗塞,糖尿病の既
往あり.喫煙歴なし.1996年にレイノー症状が出
現し強皮症と診断.2007年右足趾に潰瘍を認め,
薬物治療を受けるも改善せず.造影CTでは両側
下肢動脈末梢病変を認め,強皮症による重症虚血
性肢と診断.血行再建術の適応はなく,自己末梢
血幹細胞移植による血管新生療法を右下肢に施行
したが効果に乏しく,右下腿標準切断術・左第足
趾関節離断術を施行.術後左踵部の虚血増悪所見
を認め壊死の危険性があり,下肢虚血に対してエ
ンドセリン受容体拮抗剤であるボセンタンを開
始.ボセンタン投与後,自覚症状と肉眼的色調の
改善,サーモグラフィでの左下肢の皮膚温の上昇
が認められ,残存下肢切断を免れた.他の代替治
療がない重症虚血性肢例に対してボセンタンが有
効な治療手段となる可能性がある.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
178) 医原性末梢血管損傷に対する外科治療経験
(県立広島病院胸部外科) 三井法真・
浜中喜晴・平井伸司・上神慎之介・松浦陽介
最近9年間に経験した医原性末梢血管損傷に対し
ての外科治療症例について検討した.症例は1999
年4月から2008年2月の間に当科にて外科治療を行
った11例,うち男性は6例であった.原因として
心臓カテーテル検査もしくは治療後が10例,中心
静脈カテーテル留置後が1例であった.損傷の形
態としては仮性動脈瘤が5例,動静脈ろう形成が3
例,これら両者の合併が2例,穿刺部からの出血
が1例であった.部位としてはソケイ部が7例,肘
部が4例であった.出血の1例を除き,診断確定の
翌日以降に手術を行った.術式としてはいずれの
症例においても損傷部位の単純縫合閉鎖が可能で
あった.術後合併症を認めた症例はなかった.
181) 下肢深部静脈血栓症から静脈破裂を来した
1症例
(倉敷中央病院循環器内科) 齋藤直樹・
光藤和明・井上勝美・後藤 剛・門田一繁・
藤井理樹・山本浩之・加藤晴美・岡 直樹・
福 康志・細木信吾・廣野明寿・山本干城・
川上 徹・丸尾 健・田中裕之・羽原誠二・
長谷川大爾・田坂浩嗣・今井逸雄・山田千夏
生来健康な73歳女性.全身倦怠感と左下腿腫脹を
自覚した後,意識レベル低下にて近医へ救急搬
送.下腹部膨満を伴った出血性ショック(Hb 3.0
g/dl)と診断され,当院へ搬送となった.胸腹部
造影CTにて,右下肺動脈血栓塞栓,左後腹膜巨
大血腫(10×13×21cm),下大静脈から左大腿静
脈にかけて血栓を認めたため,IVC filterを留置
した.後腹膜血腫の原因として左内・外腸骨動脈
もしくは静脈からの特発性出血を疑い,血管造影
を施行したところ,左外腸骨静脈から大量出血所
見を認め,左外腸骨静脈破裂と診断した.外科的
に緊急静脈止血術を行い,亀裂部の縫合のみで止
血しえた.下肢静脈血栓症が原因となり,静脈破
裂を来すことが報告されており,認識しておく必
要があると思われる.
179) カテーテル後止血デバイスに合併した合併
症の3例
(川崎医科大学胸部心臓血管外科)
柚木靖弘・正木久男・田淵 篤・前田 愛・
湯川拓郎・久保裕司・稲垣英一郎・南 一司・
浜中荘平・種本和雄
182) 難治性鎖骨下静脈閉塞症に対しSmart stent
留置を行い奏功した1例
(広島市立広島市民病院) 池永寛樹・
井上一郎・河越卓司・石原正治・嶋谷祐二・
栗栖 智・中間泰晴・丸橋達也・香川英介・
臺 和興・松下純一
カテーテルを用いた診断・治療法の発達に伴い動
脈穿刺を行う機会が増えている.穿刺部に止血デ
バイスを用いることは止血や安静時間の短縮・患
者の苦痛の軽減などの有用性が強調されている
が,安全性に関しては未だ多くの議論がある.今
回われわれは他施設より当科に紹介受診となった
止血デバイスに関連した合併症の3症例を報告す
る.PercloseとAngioseal使用による大腿動脈の
感染に伴う出血をそれぞれ1例経験した.人工血
管を用いて非解剖学的血行再建(閉鎖孔バイパス)
を行うとともに,感染した大腿動脈を切除する必
要があった.Percloseによる浅大腿動脈閉塞の1
例を経験した.後壁の動脈硬化病巣を吊り上げて
いた.血栓内膜摘除術を行い血流再開を得た.止
血デバイスの使用に際しては合併症の発現に十分
念頭に置く必要がある.
【症例】30歳男性3年前交通事故にてハンドル
で前胸部打撲の既往があり,その3ヵ月後に右鎖
骨下静脈閉塞となり,他院で治療を受けた(詳細
不明)
.平成20年3月右上肢の腫脹を主訴に紹
介受診.右鎖骨下静脈閉塞の診断でカテーテル検
査を施行した.右鎖骨下静脈完全閉塞にてバルン
拡張,モンテプラーゼ80万単位の注入を施行し
た.その後ヘパリン15000単位,ウロキナー
ゼ24万単位の静注を施行した.しかし翌日再び
右上肢の腫脹出現したためカテーテル検査施行.
右鎖骨下静脈完全閉塞を認めたためSmart stent
の留置を行った.以後経過良好で再発を認めてい
ない.難治性鎖骨下静脈閉塞に対しステント留置
が著効した1例を経験したので若干の文献的考察
を加えて報告する.
180) 下肢末梢動脈閉塞を合併した好酸球増多症
候群の一例
(徳島赤十字病院循環器科) 當別當洋平・
日浅芳一・村上尚嗣・陳 博敏・宮崎晋一郎・
馬原啓太郎・小倉理代・宮島 等・鈴木直紀・
弓場健一郎・高橋健文・細川 忍・岸 宏一・
大谷龍治
183) 70歳以上の高齢者における心エコーと大脳
白質病変の関係の検討
(香川大学医学部附属病院総合診療部)
舛形 尚・千田彰一・山上あゆむ・奥山浩之・
河野武章・合田文則
(かがわ総合リハビリテーションセンター)
今井正信
(香川大学循環器・腎臓・脳卒中内科)
雪入一志・河野雅和
症例は60歳女性.2008年2月より左下肢痛が出現
し,ときどき胸痛が生じるようになった.徐々に
増悪傾向にあったため来院.来院時の心電図や心
エコーでは明らかな虚血性心疾患や肺塞栓症を疑
う所見なし.下肢血管エコーで左後脛骨動脈の閉
塞を認め,左下肢痛の原因と考えられた.入院1
週間後の血液検査でWBCは上昇しており,好酸
球が82%と著明な好酸球増多を認めた.好酸球増
多症候群には深部静脈血栓症を合併することがあ
るが,本例ではDダイマーの軽度上昇を認めるも
のの下肢血管エコーでは明らかな深部静脈血栓は
認めず,造影CTでも肺塞栓は検出できなかった.
胸痛の原因は肺塞栓症が疑われたが確定診断はで
きなかった.好酸球増多症候群は比較的稀な疾患
であり,文献的考察を加えて報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
高血圧,糖尿病,脂質異常症のいずれかを有し,
頭痛,目眩などの症状のため頭部MRI検査を行っ
た70歳以上の高齢者を対象として心エコーの左
室肥大,心機能指標と頭部MRIの側脳室周囲白
質病変(PVH)の関係について検討した.PVH
の重症度にしたがってGrade 1:6例,Grade 2:8
例,Grade 3:8例に分類した.年齢,左室心筋重
量係数には差がなかったが,僧帽弁輪移動速度E'
(Grade 1:5.6±1.0,Grade 2:4.1±0.9,Grade 3:
3.9±0.6cm/s)はGrade 3がGrade 1に比して有意
に小であった(p<0.05)
.大脳白質病変が高度な
高齢者は左室拡張障害も高度であることが示唆さ
れた.
184) Vascular Lab 確立の意味
(愛媛県立新居浜病院循環器科) 末田章三・
坂上智城・三根生和明
(済生会西条病院) 杉 豪輔・青野卓也・
和田有加・藤田佳寿美・太田憲章
【目的】Vasclar Lab確立に伴う末梢血管インター
ベンション(PI)数の変化を後ろ向きにまとめた.
【方法】対象は,2000年から2007年末までに施行
した末梢血管エコー検査(頚動脈・下肢動脈・腎
動脈)とPI数の推移を比較した.2002年から頚動
脈・下肢動脈エコーを循環器科医が開始し,2005
年からは専門の技師が1名配属され,2007年には
3名に増えた.腎動脈エコーは2005年から開始し
た.2007年4月からは,Vascular Labが始動した.
【結果】末梢血管エコー検査件数は徐々に増加し,
2007年には2001年の約4倍に急増した.PI数は,
年間平均20件程度であったが,Vascular Lab確立
後の2007年には52件と2.5倍に増えた(2000/01/02
/03/04/05/06/2007: 0/6/9/15/20/21/18/52).
【結
論】Vascular Lab 確立が末梢血管病変検索の鍵を
握る.
185) 頸動脈エコー図検査が無症候性心筋虚血の
診断のきっかけとなった2症例
(山口県立総合医療センター循環器内科)
福田聖子
(同臨床検査科) 田中伸明
(同循環器内科) 山縣俊彦・藤井章久・
中尾文昭・小田哲郎
無症候性心筋虚血(SMI)は痛みを伴わない虚血
発作と定義される.今回,我々は高血圧を主訴に
来院した患者に頸動脈エコー検査を施行し,SMI
を予測しえたので報告する.69歳,男性.
【現病歴】
高血圧があり加療目的にて当院外来を受診.頸
動脈エコーにて総頸動脈にMax-IMT:2.6mmのプ
ラークがあり,CAGを施行したところ,RCA#2,
LCX#13に狭窄がみつかった.59歳,男性.【現
病歴】高血圧の加療目的にて来院.頸動脈エコー
にて総頸動脈にMax-IMT:2.5mmのプラークあり.
CAGを施行したところ,RCA#2,LAD#7に狭窄
があった.【結語】冠動脈危険因子を有している
が,胸部症状のない患者に頸動脈エコー検査を施
行し,SMIの診断の手助けとなった症例を経験し
たので報告した.
186) 心血管手術における術中リアルタイム3D
−TEEの使用経験
(広島大学病院心臓血管外科) 渡橋和政・
末田泰二郎・岡田健志・今井克彦・黒崎達也・
佐藤克敏・高崎泰一・高橋信也
【目的】我々は心血管手術中にTEEをルーチン
に用いてきたが,今回3D−TEEを用いる機会
を得たので,その利点,得られた知見を報告する.
【方法】対象は,心血管手術症例29例(男性15例,
年齢27∼86歳).疾患は大動脈手術12例,冠動脈
バイパス術8例,弁膜手術6例,その他3例であ
る.【成績】2D−TEEと比較し3D−TEE
のメリットと考えられた点は,弁形成術,心房(房
室)中隔欠損症で外科医の視点に大きく近づき体
外循環前に修復法をデザインしやすいことであっ
た.自在な視点からの表示がこのメリットをより
大きくした.一方,大動脈のような管腔構造では
視野が妨げられ,3Dのメリットが活かしづらい
印象があった.【結論】3D−TEEは,TEE
の利点を部分的ではあるが増大させる可能性が示
唆された.
海峡メッセ下関(2008 年 6 月) 1049
187) 僧帽弁形成術直後に一過性の僧帽弁前尖収
縮期前方運動出現により僧帽弁逆流を生じた一例
(山口大学器官病態内科学) 末冨 建
(山口大学医学部附属病院検査部) 村田和也
(山口大学器官病態内科学) 田中健雄・
吉野敬子・野瀬善夫・深川靖浩・須佐建央・
和田靖明・國近英樹・小林茂樹・矢野雅文
(同器官病態外科学) 小林俊郎・美甘章仁・
濱野公一
(山口大学器官病態内科学) 松h益‡
症例は69歳女性.腱索断裂による僧帽弁前尖中央
部の逸脱で重症僧帽弁閉鎖不全症(MR)を来し
急性心不全を発症したため,人工腱索を用いた僧
帽弁形成術および左心耳縫縮術が施行された.術
中経食道心エコー(IOTEE)にて一旦MRは消失
したが,人工心肺離脱時に重症MRが出現した.
人工弁置換術への変更も考慮されたが,IOTEEに
て左室流出路に加速血流を生じており,僧帽弁前
尖の収縮期前方運動(SAM)が認められたため,
強心薬の減量および循環血液量の至適化を行った
ところ,MRは消失し人工心肺からの離脱が可能
であった.術後もMRの再発はない.今回IOTEE
の有用性を再認識させられた症例を経験したの
で,SAM発生の機序について若干の考察を加え
報告する.
188) 心房性期外収縮の抑制にバルサルタンが有
用であった高血圧症の2例
(高松市民病院) 藤村光則・多田真理枝・
加藤みどり・小島章裕
【症例1】72歳男性,主訴は動悸.ホルター心電
図でPACが1037/日(総心拍数の1.2%),3漣発以
上を9回/日認めた.血圧が高値であり,バルサ
ルタン(Val)80mg/日を開始.血圧の安定とと
もに症状は軽減し,PACも200/日(0.2%)と減
少,連発は消失した.【症例2】67歳男性,動悸
があり,PACを5143/日(6%)認めた.すでに
血圧は治療にて安定しており,Valを少量(40mg)
にて併用.血圧は不変であったが,症状は軽快,
PACも26/日(0.03%)と減少した.いずれの例も
心エコー上左房径の縮小,左室心筋重量の減少が
みられた.PAC抑制の機序として血圧安定のみな
らず,左室・左房のリモデリング抑制が考えられ,
ValがAfのアップストリーム治療として有用であ
ると考えられた.
189) 高血圧を合併したメタボリックシンドロー
ムの血管弾性に及ぼすアンジオテンシン受容体拮
抗薬の影響
(市立宇和島病院循環器科) 池田俊太郎
(広島大学分子内科学) 山根健一
(市立宇和島病院循環器科) 泉 直樹・
大島弘世
(広島大学分子内科学) 石橋 堅
(市立宇和島病院循環器科) 大島清孝・
濱田希臣
メタボリックシンドロームは高率に心血管イベントへ
と進展する.今回,ARBの左室肥大,炎症,血管弾
性に及ぼす影響をCa拮抗薬と比較検討した.対象は
無治療の高血圧を合併したメタボリックシンドローム
42名.患者をValsaltan 80-160mg/日のARB群(n=19)
とamlodipine 2.5-5.0mg/日のCa拮抗薬群(n=23)に
無作為に振り分けた.投与前と投与6ヶ月後に,心
エコーによる左室心筋重量係数,BNP,高感度CRP,
HOMA-IR,ba-PWV,stiffness parameterβを検討した.
治療後の左室心筋重量係数及びBNPはARB群で有意
に低値であり,またCa拮抗薬群に比し,ARB群では
HOMA-IR,hs-CRP,ba-PWV,siffness parameter βの
各指標も有意に改善した.高血圧を合併したメタボリ
ックシンドロームにはARBが有効である可能性が示唆
された.
1050 第 92 回中国・四国合同地方会
190) 10年の経過で明らかとなったアルドステロ
ン産生腫瘍による原発性アルドステロン症の1例
(愛媛大学病態情報内科学) 城徳昌典・
大藏隆文・倉田美恵・入田 純・三好賢一・
榎本大次郎・福岡富和・檜垣實男
症例は,29歳,男性.平成9年に血圧高値,低カ
リウム血症を指摘された.平成10年3月当科を受
診し,原発性アルドステロン症を疑われ入院した.
腹部CTでは両側副腎に腫瘍は認められず,副腎
静脈サンプリングで,両側副腎からアルドステロ
ン(ALD)の過剰分泌が認められた.以上より
両側のmicroadenomaもしくは特発性ALD症と診
断し,スピロノラクトンの投与を開始した.その
後近医で,経過観察されていたが,徐々に低カリ
ウム血症,血圧コントロールが不良となった.こ
のため平成19年12月に腹部CTを再検したところ,
左副腎に径1cmの腫瘍が認められた.このため,
再度副腎静脈サンプリングを施行し,右副腎に比
し左副腎よりALDの過剰分泌が認められ,腹腔
鏡下左副腎摘出術を施行した.10年後に明らかと
なったALD産生腫瘍の1例を報告する.
191) Angiotensin II負荷高血圧マウスにおける
Toll-Like Receptor 4の血管リモデリングに対する
役割
(山口大学器官病態内科学) 吉野敬子
(山口大学医学部附属病院臨床試験支援センター)
梅本誠治
(山口大学器官病態内科学) 伊藤真一・
松田 晋
(同分子脈管病態学講座) 青木浩樹・
吉村耕一
(山口大学総合科学実験センター) 村田智昭
(山口大学器官病態内科学) 松h益‡
【背景・目的】高血圧におけるToll-Like Receptor 4
(TLR4)の血管リモデリングに対する役割を検討す
る.
【方法・結果】wild type(WT)マウスとTLR4-/マウスにおいて,Angiotensin II(Ang II)とNorepinephrine(NE)投与による血圧上昇と心拍数,腹部
大動脈中膜壁細胞数に有意差はなかった.Ang II投与
によりWTマウスでは腹部大動脈壁厚内腔比,血管周
囲線維化率,DHE染色で評価したsuperoxide含量は
TLR4-/-マウスと比べて有意に高値であったが,NEは
これらの指標に影響を与えなかった.
【結論】Ang II
負荷高血圧において,TLR4は酸化ストレス増加を介
して腹部大動脈の血管リモデリングに関与する可能性
が示唆された.
192) 血漿ウリジン濃度と高血圧・インスリン抵
抗性との関連について
(鳥取大学医学部附属病院循環器内科)
水田栄之助・浜田紀宏・井川 修
(鳥取大学再生医療学) 久留一郎
(鳥取大学医学部附属病院循環器内科)
重政千秋
【背景・目的】高血圧患者ではプリン代謝が亢進
し,またプリン代謝亢進するとUTP分解が亢進す
る.そこで我々はUTP代謝産物ウリジンの血中
濃度と高血圧との関係を調べた.【方法】対象は
当院高血圧外来通院患者37名.空腹時採血で血液
生化学検査および血漿ウリジン濃度を測定した.
【結果】高血圧患者では正常群に比べて血漿ウリ
ジン濃度が有意に高かった(p<0.01).またプリ
ン代謝亢進に伴い血漿ウリジン濃度は上昇した
(p=0.02)
.さらに血漿ウリジン濃度はHOMA-IR
(p=0.012)と有意な関連を有した.【考察・結語】
結果より血漿ウリジン濃度は高血圧およびインス
リン抵抗性と有意に関連することがわかった.ウ
リジンは細胞内への糖取り込みおよびグリコーゲ
ン合成に関与と言われており,こうした糖代謝へ
の関与が本結果に影響したと考えられた.
193) CHFに合併したCSR-CSAに対する長期
ASV治療における心機能の評価
(中川循環器科内科OSASセンター)
中川真吾・中川晴夫
近年欧米を中心に慢性心不全に合併するチェーン
ストークス様SAS(CSR-CSA)が話題になって
きている.当センターでも安定期慢性心不全に対
しフルポリグラフ(アリス5)にて検査を実施し
た.何らかの睡眠障害を7割の患者に罹患してい
た.(28名/40名)内訳は35.8%(10名)がOSAS
42.8%(12名)がCSR-CSA 45%(18名)が混合型
睡眠障害を示している.その中でもCSR-CSAを
優位とする患者に対し,2006年の4月よりASVの
治療に対し保険適応ができた.当センターでは7
台のASV治療を在宅で行っている.ASVは,いわ
ゆるAuto-IPAPであり人工呼吸器の分類に入る.
そのためCPAP治療の5倍以上の費用がかかる.
今回当センターで慢性心不全にCSR-CSAを合併
した患者に対しASVとCPAPを選択した患者によ
る1年後の心機能を比較評価したので報告する.
194) 当院における心不全治療としてのHOTの検討
(高松赤十字病院循環器科) 末澤知聡・
十河泰司・多田典弘・田原達哉
(同内科) 畠添敏光
(同循環器科) 津島 翔・松原一志
対象は2004年1月から2007年12月の間,心不全に
て当院に入院となった男性99名,女性55名,計
154名(33∼94歳,平均71.9歳).基礎疾患は,虚
血26%,高血圧17%,心筋症21%,弁膜症23%,そ
の他8%,不明5%であった.当科では非薬物療
法として慢性心不全患者の約40%に合併するの中
枢性睡眠時無呼吸(CSA)に対する在宅酸素療法
(HOT)を薬物治療行った上で検討している.退
院前にポリソムノグラフィーは56症例で施行され
た.HOT適応群(n=23)と非適応群(n=33)の
2群間においてHOTの適応となる患者はどのよ
うな傾向があるかを体格,心機能,血圧,BNP
などの指標で検討した.体格,血圧では有意差な
かったが,HOT適応群では退院時のBNPが高か
った.薬物治療に加えて積極的に退院時にPSG施
行してHOTを検討するべきと考えられた.
195) 慢性腎不全管理の変更により心機能の改善
を認めた慢性期感染性心内膜炎の1手術例
(愛媛県立中央病院心臓血管外科)
堀 隆樹・黒部裕嗣・石戸谷浩・米沢数馬
(愛媛県立今治病院心臓血管外科)
旗 厚・中井康成
(愛媛県立中央病院心臓血管外科)
高野信二・長嶋光樹
症例は,71歳男性.慢性腎不全にて生体腎移植目
的に入院.術前検査にて,低左心機能(LVEF 25
%),右心房腫瘍を指摘される.10年前に左冠動
脈前下行枝閉塞のために,経皮的冠動脈形成術を
行われていた.冠動脈造影では,有意狭窄認めず.
術前行われていた腹膜透析を血液透析に変更し,
左心機能の推移を観察した.血液透析に変更後10
日,LVEF 45%,変更後50日,LVEF 60%と著明
な改善を認めた.血液透析変更後60日に,人工心
肺下に右心房腫瘍摘出術を安全に行った.右心房
腫瘍は,摘出病変より,慢性期の尤贅と診断され
た.右心房腫瘍摘出後6ヶ月後,目的の生体腎移
植が行われた.左心機能は良好なまま経過してい
る.腎不全と心機能について,文献的考察を加え,
報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
196) 当科における心肺蘇生後の低体温療法の成績
(倉敷中央病院循環器内科) 廣野明寿・
光藤和明・井上勝美・後藤 剛・門田一繁・
藤井理樹・山本浩之・加藤晴美・岡 直樹・
福 康志・細木信吾・川上 徹・丸尾 健・
田中裕之・羽原誠二・長谷川大爾・田坂浩嗣・
今井逸雄・山田千夏・岡本陽地・大鶴 優・
宮本真和・齋藤直樹・柴山謙太郎
199) 血液透析患者に発症し治療に難渋した感染
性心内膜炎の1例
(徳島赤十字病院循環器科) 中井 陽・
日浅芳一・村上尚嗣・當別當洋平・陳 博敏・
宮崎晋一郎・馬原啓太郎・小倉理代・
宮島 等・鈴木直紀・弓場健一郎・高橋健文・
細川 忍・岸 宏一・大谷龍治
【目的】心肺蘇生後の低体温療法の成績を報告す
る.【方法】2002年3月以降に低体温療法を施行し
た58例の予後と,30日以上生存例における神経学
的予後に影響する因子を調べた.
【結果】30日以
上生存例は34例で,A)後遺症なし,B)意思疎
通回復あり,C)意思疎通回復なし,がそれぞれ
11例(19.0%),6例(10.3%),17例(29.3%)で
あった.A)B)とC)の2群に分け比較すると,
前者はより若年(52.7歳 vs 70.5歳,p=0.0018)で,
心肺蘇生術開始までの時間が短かった(2.7分 vs
7.3分,p=0.0481).12時間以内の目標体温(34.0
±0.3℃)到達率に差はなく,いずれもやや低か
った(64.7% vs 82.4%,p=NS).【総括】予後良
好群ではより早期に心肺蘇生術が開始されてい
た.目標体温到達率には改善の余地があり,冷却
方法の見直しが必要と考えられた.
症例は67歳女性.既往に大動脈弁置換術を受けて
いる.慢性透析中で骨髄異形成症候群のため定期
的に輸血をしていた.誘因なく39度の発熱を認
め,血液培養でメチシリン感受性ブドウ球菌陽性
の為,精査目的で紹介された.第2病日の心エコ
ーでは明らかな病変を認めなかったが,第8病日
に再検した心エコーでは僧帽弁後尖の弁輪部の石
灰化に可動性のある6.4×3.9mmの疣贅を認めた.
弁破壊は認めず,骨髄異形成症候群もあることか
ら薬物療法で治療開始した.経過中,人工弁感染
も認めたが,沈静化でき,現在外来観察中である.
腎不全患者に対する感染性心内膜炎の治療につい
て文献的考察を加え報告する.
197) 高齢高脂血症患者の血中酸化低比重リポ蛋
白コレステロールに対するロスバスタチンの影響
(因島医師会病院) 小野広一・高石雅敏
200) 心室細動で緊急入院した偽性アルドステロ
ン症の1例
(近森病院循環器内科) 西田幸司・
川井和哉・古谷敏昭・南 大揮・葉梨喬芳・
今井龍一郎・深沢琢也・中岡洋子・要 致嘉・
關 秀一・窪川渉一・深谷眞彦・浜重直久
酸化変性低比重リポ蛋白(酸化LDL)は動脈硬化
を進展させ,中年期の高脂血症は心血管疾患を増
加させるが,老年期の高脂血症の影響は明らか
ではない.平均年齢80.9歳の高脂血症患者8人に,
ロスバスタチンを12週間投与し,スモール・デン
スLDL(sdLDL),マロン酸ジアルデヒド化LDL
(MDA-LDL),酸化ホスファチジルコリンLDL,
アポリポ蛋白,高感度CRP等の血中濃度を測定し
た.治療後に血中の総及びLDLコレステロール,
MDA-LDL,アポC-II,アポE,アポB/A-I及びア
ポB/A-IIの比は有意に減少した.MDA-LDLは,
LDLコレステロールやsdLDLと相関を認めた.高
齢者のロスバスタチン内服は,血中酸化LDLを減
少させ,動脈硬化の進行に好影響を与える可能性
が示唆された.
198) 蛋白ホスファターゼ1βは,心筋培養細胞
系においてホスホランバン脱リン酸化の主要なホ
スファターゼである
(山口大学分子脈管病態学) 青山英和・
池田安宏・吉村耕一
(同器官病態内科学) 矢野雅文
(同分子脈管病態学) 青木浩樹
(同器官病態内科学) 松h益‡
【背景】不全心では,蛋白ホスファターゼ1(PP1)
活性の異常亢進によりホスホランバン(PLN)
のリン酸化が低下し,筋小胞体Ca2+ 制御が破綻
し心機能低下の一因となる.我々の以前の研究
で,心不全モデルでは心機能の悪化とともにPP1
触媒subunit(PP1C α,β,γ)のうちPP1βの発
現が亢進することが明らかになったが,各PP1C
subunitの心筋細胞内での役割は未だ解明されて
いない.そこでRNAiを用いて各PP1C subunitの
PLN脱リン酸化における機能を検討した.
【方法】
各PP1C subunitを特異的にノックダウン可能な
RNAiベクターを作成し,正常ラット単離心筋培
養細胞系に感染させ,PLNリン酸化について評価
した.
【結果】Control群と比べ,どのPP1-RNAi
群でもSer16/Thr17部位のPLNのリン酸化亢進と
細胞収縮増強効果がみられ,特にPP1β-RNAi群
で顕著であった.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
症例は82歳女性.2008年1月28日,意識消失発作
のため近医へ救急搬送の際に救急車乗車後まも
なくして心室細動となり電気的除細動で心房細
動へ復帰した.近医へ搬送後に心筋梗塞が疑わ
れたため当院紹介となった.低カリウム血症(K
2.0mEq/L),心電図でQT延長を認め,虚血性心
疾患の除外のため冠動脈造影を施行したが有意病
変は認められなかった.甘草含有の漢方薬,利尿
剤,副作用にQT延長のあるスルペリドを内服中
であった.偽アルドステロン症と診断し,原因薬
剤中止の上でカリウム補正と杭アルドステロン
薬を開始しQT延長,カリウム値ともに軽快した.
本症例は利尿剤,偽アルドステロン症による低カ
リウム血症にスルペリドによるQT延長も加わり
心室細動を呈したものと思われた.若干の文献的
考察も加え報告する.
202) 巨大左房内血栓を生じたへパリン起因性減
少症の一例
(松江赤十字病院) 北村郁代・塩出宣雄・
城田欣也・福田幸弘・冨永晃一・加藤康子
例は65歳男性.2008年1月17日脳梗塞を発症し心
房細動を認めたため近医にてへパリンが投与され
ていた.数日後出血性脳梗塞を発症したためへパ
リン中止.その後肝機能悪化,心不全出現し当院
紹介.入院時心不全の原因検索として心エコー施
行.左房内に巨大血栓を認め,経食道エコーで左
心耳内に約1cmの可動性血栓も認めた.外科的加
療が望ましいと考えたが,徐々に血小板減少し出
血のリスクが高く手術は出来なかった.血小板減
少の原因としてDICが疑われメシル酸ガベキサー
ト投与開始.その後抗PF4・へパリン複合体抗体
が検出されヘパリン起因性血小板減少症と診断で
きた.欧米ではヘパリン投与患者の3−5%に発症
するといわれているが診断には時間を要し,それ
までの治療についても考慮する必要がある一症例
でありここに報告する.
203) CRT-D移植術後の皮膚圧迫壊死を契機に
血栓性血小板減少性紫斑病を発症した一例
(呉医療センター循環器科) 西本織絵・
山下泰史・西山浩彦・田村 律・川本俊治
55歳男性.43歳時に特発性拡張型心筋症と診断さ
れSSSを合併しペースメーカー移植術を受けてい
る.徐々に心不全が増悪し,CRT-D移植術を施
行した.術後2ヶ月後に皮膚圧迫壊死が出現,ペ
ースメーカー本体が露出しており,直ちに抗菌薬
の投与を開始し,ペースメーカー交換術を施行し
た.以後抗菌薬投与を継続し創部の経過は良好で
あったが,術後7日目に急性腎不全,血小板減少,
紫斑,発熱が出現.破砕赤血球を認め血栓性血小
板減少性紫斑病(TTP)と診断し血液透析および
血漿交換を行った.治療が奏功し,術後47日後に
軽快退院した.植え込み型除細動器は本体のサイ
ズが大きく,皮膚圧迫壊死が問題となるが,これ
を契機にTTPを発症した症例を経験したので報告
する.
201) 多発性筋炎に完全房室ブロックを合併した
一例
(鳴門病院循環器科) 芳川敬功・山口普史・
距口恵理・長樂雅仁・廣野 明・高森信行・
田村克也
(同内科) 藤本浩史
204) カテーテル検査,治療中に一過性全健忘を
認めた2例
(心臓病センター榊原病院) 広瀬英軌・
大河啓介・石澤 真・佐藤慎二・廣畑 敦・
川村比呂志・山地博介・村上正明・村上 充・
山本桂三・清水明徳・日名一誠・喜多利正
症例は67歳,男性.1996年に四肢筋力低下,CK
の上昇,筋電図で筋原性変化,筋生検で筋線維の
変性と血管周囲の細胞浸潤を認め,多発性筋炎と
診断された.以後当院内科でプレドニゾロン,ア
ザチオプリンを処方し加療されていた.2008年2
月5日に意識障害で救急搬送され,心拍数30台後
半の完全房室ブロックを認め,徐脈が誘因と考え
られる非持続性心室頻拍を繰り返したため,一時
ペーシング挿入を行った.同時に行った冠動脈造
影では有意狭窄を認めなかった.2月12日に永久
ペースメーカー装着術(VDD)施行.以後は心
室性不整脈を認めなかった.多発性筋炎は有病率
10万人あたり約6人で心合併症として稀に心室内
伝導障害を引きおこす.本例は多発性筋炎の経過
中に完全房室ブロックを認めた貴重な症例と考え
られるため文献的考察も含めて報告する.
【症例1】73歳女性.H19年10月31日に胸痛精査
目的にCAG施行.LAD#6:75%,LCX#11:100%で
あり,12月12日にPCIを施行した.開始から約30
分経過した頃から,「私,なんでここにいるんだ
ろう?」などの質問が聞かれ,その後は何度説明
しても,繰り返し同じような質問をするように
なった.安静を保つのが困難となってきたため,
LCXへのPCIを断念し,速やかにLAD#6に対する
PCIを行った.その後に行った頭部MRI検査では
明らかなfreshな病巣は認められず,また約5時
間後には健忘症状も消失した.【症例2】74歳男
性.H19年8月,CABGを施行.H20年2月1日,
胸背部痛の精査のためCAG施行.検査中は特に
問題なかったが,検査直後より「ワシは,なんで
ここに来ているのかな?」などの発言があり,そ
の後は約2時間にわたり,一過性の健忘症状が認
められた.
海峡メッセ下関(2008 年 6 月) 1051
第 146 回 日 本 循 環 器 学 会 東 北 地 方 会
2008 年 6 月 7 日 岩手医科大学附属循環器医療センター
会長:中 村 元 行(岩手医科大学内科学第二講座)
1) 心臓MRIで心筋虚血は評価できるか?
(町立羽後病院内科) 松田健一・安田 修
【目的】心臓MRIによる心筋虚血評価は,RIと同等
以上との報告があるが,自検例をもとにその診断
精度を考察する.
【方法】心臓CT(64列,Toshiba)
で冠動脈有意狭窄が疑われた例に対し,引き続き
心臓MRI(1.5T,Philips)で薬物負荷心筋パーフ
ュージョンを行った狭心症37例を対象とした.心
筋虚血と心イベントの有無について,感度,特異
度,正診率,陽性適中率,陰性適中率を解析した.
【成績】虚血陽性は10例,心イベントは6例(PCI4
例,UAP1例,突然死1例)であった.感度40.0%,
特異度92.6%,正診率78.4%,陽性適中率66.7%,
陰性適中率80.6%であった.【結論】現在のとこ
ろ心臓MRIのみで心筋虚血の評価を行うことは診
断精度から見ると妥当ではないと思われる.虚血
診断に苦慮した例や虚血陰性でも有症状例では積
極的にCAGを行うことが肝要である.
2) 当院における冠動脈CTによる冠動脈ステン
ト内腔の視認性評価の検討
(町立羽後病院内科) 安田 修・松田健一
【目的】冠動脈CT(CTA)による冠動脈ステント
内腔の視認性評価が可能な条件を検討.【対象と
方法】対象は2005年3月22日より2008年3月13日ま
でに64列CT(Aquilion64,東芝社製)を用いて
CTAが行われた既冠動脈ステント留置例延べ28
例(男性21例,女性7例,平均年齢71.7歳)
,ステ
ント39本.再構成関数medium smooth,スライ
ス厚0.5mmの通常撮影で得られた再構成画像をも
とにステント内腔の視認性を評価し,ステント径,
ストラットの材質・厚さ,留置部位,留置から
CTまでの経過期間,及び石灰化の有無毎に集計.
【結果】ステント内腔の視認性が良好となる条件
は,径が3.5mm以上,ストラット厚が100μm未満,
石灰化がない,の三つであった.【結語】CTAに
よる内腔評価が可能な留置ステントは,前述の条
件を有するステントと考えられる.
1052 第 146 回東北地方会
3) 頸動脈エコーによる冠動脈狭窄病変スクリー
ニングの試み
(仙台市医療センター仙台オープン病院)
高橋務子・浪打成人・杉江 正・加藤 敦・
金澤正晴
【背景】頚動脈肥厚の進行に伴い心筋梗塞,脳卒
中の発症率が高くなることが報告されている.
【目
的】頚動脈プラークの評価が冠動脈疾患のスクリ
ーニングとなりうるか検討する.【方法】脳梗塞
の既往を有し頚動脈エコーで血管内腔に3mm以
上の頚動脈プラークが確認され,かつ胸部症状
の自覚が無い63症例について冠動脈CTを施行し,
血行再建術の必要性について検討した.【結果】
冠動脈CTにより63症例中36症例に冠動脈狭窄を
検出,うち24症例を冠動脈造影で評価した.血行
再建術を要したのはLMT病変,CTO病変を含む
11症例で,全症例中約二割にPCIないしCABGが
施行された.【結論】症例数は少ないが脳梗塞既
往症例においては頚動脈プラークが存在すれば治
療を要する冠動脈狭窄を有する可能性が高いこと
が示唆された.
4) 左主幹部急性心筋梗塞症の臨床像と治療成績
(岩手医科大学附属循環器医療センター)
菅原正磨・伊藤智範・房崎哲也・遠藤浩司・
荻野義信・木村琢巳・小林 健・小室堅太郎・
中島悟史・中村元行・岡林 均
【目的】左主幹部急性心筋梗塞症30例を対象とし,
生存群と死亡群に分けて臨床像と治療成績を検
討した.【結果】救命率は53%であった.冠血行
再建術として冠動脈形成術が73%に,冠動脈バイ
パス術が37%に実施されていた.死亡群は生存群
と比較して,心原性ショック合併率が高く(92%
vs. 31%; p=0.002),入院時Base excess(BE)値
が低く(-13.6±8.1 vs. -1.1±4.42; p<0.01),初回
冠動脈造影時TIMI-2以上の既開存率が低い傾向
にあった(14% vs.50%; p=0.09)
.TIMI-3達成率
には,有意差はなかった.大動脈内バルーンポン
プは全例で使用し,経皮的人工心肺補助装置は死
亡群で43%に導入したが,生存群で導入を要した
例はなかった.
【結語】左主幹部急性心筋梗塞症
は,重症ショック例の予後が不良でその対策が今
後の課題である.
5) Integrated-backscatter(IB)-血 管 内 超 音 波
法による冠動脈粥腫病変の組織性状と脂質プロ
フィールとの関連
(岩手医科大学附属循環器医療センター循環器内科)
木村琢巳・伊藤智範・房崎哲也・菅原正磨・
荻野義信・遠藤浩司・小林 健・中島悟史・
南 仁貴・肥田龍彦・松井宏樹・中村元行
【目的】冠動脈粥腫病変の組織性状が,病態およ
び脂質プロフィールと関連するのかを明らかにす
る.【対象】冠動脈形成術を実施した60例.【方
法】冠動脈形成術実施時に,IBによる血管内超
音波法を実施し,組織性状の違いと脂質値との関
連を検討した.【結果】Lipid poolの占める割合は,
ST上昇型で56±13%で,慢性冠動脈疾患の49±13
%に比較して高い傾向にあった(p=0.07).HDL/
LDL比とlipid poolの割合は,相関係数−0.42でと
負の相関が認められた(p<0.01).
【結語】ST上
昇型は,lipid poolを有する割合が高く,非ST上
昇型との発症機転に違いがある可能性がある.
HDL/LDLコレステロール比の低下が粥腫病変の
不安定化に関係すると推定された.
6) 薬剤抵抗性冠攣縮性狭心症に対しニフェジピ
ンが著効した一例
(山形大学循環・呼吸・腎臓内科学分野)
舟山 哲・宮下武彦・玉渕智昭・奥山英伸・
田村晴俊・西山悟史・宮本卓也・二藤部丈司・
渡邉 哲・久保田功
症例は60歳男性.2007年5月にST上昇を伴う狭心
症発作が出現し,ISDNにて軽快.CAGにて有意
狭窄は認めず,冠攣縮性狭心症と診断.以後,内
服加療で落ち着いていたが,12月より胸部違和感
が出現.ジルチアゼム増量にてSSSを発症.ニコ
ランジル併用するも効果なく,不安定狭心症とし
て入院.ベニジピン追加にて症状が安定したため,
ホルターECGを装着して試験外泊したところ,著
名なST上昇を伴うTdp様発作を認め,ベニジピン
とニコランジルの増量,デノパミンの併用等各種
薬剤を試したが症状は安定しなかった.ステロイ
ドも考慮したが,Ca拮抗薬をニフェジピンに変
更したところ,症状は全く消失し,試験外泊でも
ST変化は認めなくなった.冠攣縮にニフェジピ
ンが著効した症例を経験したので文献的考察を加
えて報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
7) 迷走神経反射により冠攣縮を来たした冠攣縮
性狭心症の1例
(秋田労災病院内科) 河村晋平・上小牧憲寛
症例は34才男性.平成18年8月ごろより労作とは
関係ない心窩部痛を自覚.外来検査では心筋虚血
を示唆する所見を認めず.ミオコールスプレーが
著効するため心臓カテーテル検査目的に平成19年
12月4日入院.検査当日シース挿入時に迷走神経
反射を起こすも回復.左室造影時にII,III,aVF
でST上昇と胸痛を認めた.ニトロールをシース
を通し4cc,右冠動脈入口部に2cc投与.2分後
右冠動脈の開通を確認したが念のため右冠動脈内
に2cc投与.心電図変化は改善したが胸痛は持続
し,V1∼V4でST上昇を認めたため左冠動脈にニ
トロールを4cc投与した.その後胸部症状,心電
図変化は改善.アセチルコリン負荷は行わず検査
終了とした.局所麻酔の疼痛,検査への不安から
迷走神経反射を起こし,副交感神経の興奮が優位
となり冠攣縮を生じたと考えられた.
10) 冠動脈穿孔と心破裂を合併した急性心筋梗
塞の一例
(岩手県立中央病院) 千葉大輔・高橋 徹・
三浦正暢・遠藤秀晃・花田晃一・八木卓也・
中村明浩・野崎英二・田巻健治
症例70代女性.発症約5時間後,当院へ緊急搬送
された.冠動脈造影で,#6に100%の狭窄認め,
PCI施行したが,ガイドワイヤーによる末梢対角
枝穿孔し,脂肪組織による止血を施行した.数時
間後,血圧低下あり,心嚢液の増加を認め,緊急
手術となった.手術所見では,血性心嚢液貯留と
心破裂による点状出血を認め,止血処置した.第
2病日に発作性心房細動が出現し,血行動態が不
安定となり,洞調律復帰時に3~5秒の洞停止を認
めた.IABPと体外式ペーシングを開始し,アミ
オダロンの持続静注を開始した.その後,発作性
心房細動は出現せず,血行動態が安定し,体外式
ペーシングとIABPを離脱することができた.以
上,冠動脈穿孔と心破裂を合併した急性心筋梗塞
の一例を経験したので報告する.
13) ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)と血
栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の鑑別を要した
急性心筋梗塞の一例
(弘前大学医学部附属病院循環器内科)
相樂繁樹・及川広一・伊藤太平・泉山 圭・
佐々木憲一・横田貴志・阿部直樹・
大和田真玄・木村正臣・樋熊拓未・
佐々木真吾・横山 仁・花田裕之・長内智宏・
奥村 謙
症例は77歳の女性.平成19年某月に急性心筋梗
塞(AMI),急性腎不全で当院へ救急搬送され,
緊急PCIが施行された.集中治療室にて持続透
析(CHDF)を施行したが,AMI発症約10時間後
より急激に血小板数の減少を認めた.PCIおよび
CHDFにヘパリンを使用したことよりHITを考え
ヘパリンを中止しアルガトロバンを投与したが状
態は改善しなかった.その後,症状,検査所見な
どからTTPと診断され,血漿交換により病状は改
善した.HITではなくTTPを合併した稀な症例と
考えられる.
8) 梗塞責任病変とおもわれる冠動脈自然解離の
12年間にわたる経過を観察しえた一症例
(仙台循環器病センター循環器科)
下山祐人・藤井真也・八木勝宏・小林 弘・
藤森完一・米村滋人・島谷有希子・内田達郎
11) シロリムス溶出ステント留置後,1年以上
経過してから再狭窄をきたした2症例
(福島県立医科大学内科学第一講座)
中里和彦・国井浩行・坂本信雄・石川和信・
石橋敏幸・竹石恭知
14) 無症候性に心室中隔穿孔を発症し,待機的
に手術を行った1例
(仙台医療センター循環器科) 清水 亨・
田中光昭・尾上紀子・富岡智子・馬場恵夫・
篠崎 毅
症例は67歳,男性.47歳時に高血圧と心電図での
異常Q波を指摘され,薬物療法を開始.55歳時に
左上肢痛のため入院.心臓カテーテル検査で前壁
中隔の壁運動低下と左前下行枝に冠動脈解離が認
められた.同病変が梗塞責任病変と考えられたが
心臓核医学検査で虚血なく,カルシウム拮抗薬と
アスピリンの内服で経過観察.67歳時に早朝安静
時の胸痛のため不安定狭心症で入院.心電図では
V1-4にQSを認めたが前回と変化なく,CPK上昇
もなかった.冠動脈造影検査では,前回認められ
た冠動脈解離が残存していたが形態に変化なく,
その他の冠動脈にも変化なし.硝酸剤とカルシウ
ム拮抗薬を投与していたため,アセチルコリン負
荷試験は施行しなかった.12年間の経過で冠動脈
自然解離の形態を評価しえた症例を経験したため
報告する.
【症例1】60歳代男性.2006年9月に虚血性心不
全 で 入 院.CAGで#1-CTO,#6-75%,#7-90%,
#13-99%.同年10月30日にRCA,11月6日にLAD
に対してそれぞれCypherステントを用いてPCIを
実施.2007年2月5日のCAGではステント留置
部に有意な再狭窄は認めなかった.2007年1月18
日のCAGにて左前下行枝のCypherステント内に
90%狭窄(留置後14.5ヶ月)が認められた.【症
例2】70歳代男性.2006年9月15日に左回旋枝の
ステント内再狭窄に対してCypherステントを用
いて再治療を実施.2007年11月頃から労作性狭心
症状が出現し,2008年1月7日CAG実施.左回
旋枝Cypherステント内に99%の再狭窄(留置後
16ヵ月)を認めた.
症例は61歳女性.3週間前より嘔気等の消化器症
状があり来院し,内視鏡にて多発性胃潰瘍を認め,
消化器科入院となった.来院時より,V1-V4誘導
で異常Q波,収縮期雑音を認めていた.その後,
心不全を発症し循環器科転科となり,心エコーに
て,前壁中隔の壁運動低下,右室へのshunt血流
を心尖部中隔にて3箇所より認めた.心臓カテー
テル検査施行し,LAD#7に解離を疑わせる所見
を認め,左室造影でシャント血流(Qp/Qs=2.5,
L-R shunt率 52.4%),LAD領域の壁運動低下と心
尖部心室瘤を認めた.以上より,消化器症状を主
訴とする心筋梗塞に合併した心室中隔穿孔(VSP)
と診断した.入院92日目に,VSPパッチ閉鎖術な
らびに左室形成術を施行し,111日目に退院とな
った.VSP発症より長期間経過し,待期的手術に
て救命しえた症例を経験したので報告する.
12) 大量の血栓処理に難渋した高齢者急性心筋
梗塞の一例
(福島県立医科大学内科学第一講座)
宮田真希子・中里和彦・坂本信雄・及川雅啓・
石川和信・石橋敏幸・竹石恭知
15) 冠 動 脈 バ イ パ ス 術 後 のelectrical stormに
PCPSが有効であった1例
(東北大学循環器病態学) 瀧井 暢・
伊藤健太・高橋 潤・越田亮司・中山雅晴・
武田守彦・多田智洋・安田 聡・下川宏明
(同心臓血管外科学) 小田克彦・鎌田 誠・
本吉直孝・渋谷拓見・田林晄一
9) 重症貧血に伴い不安定狭心症を呈した1例
(東北大学循環器病態学) 川口典彦・
越田亮司・高橋 潤・中山雅晴・武田守彦・
伊藤健太・安田 聡・加賀谷豊・下川宏明
症例は64歳男性.2週間前から出現した労作時胸
痛のため近医受診.ダブルマスター負荷試験にて
前胸部誘導で著明なST低下が認められ不安定狭
心症疑いで当科紹介.当科入院時Hb 6.3mg/dlと
重度の貧血を認めたが,明らかな出血源は判明せ
ず血圧等の血行動態も安定していたため,緊急冠
動脈造影を施行.冠動脈造影において有意器質的
狭窄病変や不安定プラークを疑わせる所見なし.
このため冠攣縮の関与を疑いアセチルコリン負荷
試験を施行するも陰性.さらに体外ペーシングに
よる頻脈負荷を行い冠静脈洞採血で乳酸濃度測定
を施行したが,乳酸値上昇なく微小血管狭心症の
可能性も否定された.以上の結果より労作時胸痛
の原因は貧血による相対的心筋虚血と診断した.
重症貧血に伴い不安定狭心症を呈した一例を経験
したので文献的考察を加え報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
【症例】80歳代男性.2008年2月2日朝から胸部重
苦感を自覚したが,我慢していた.2月4日に近医
を受診し,心筋梗塞と診断され当院に搬送され
た.緊急心臓カテーテル検査を行ない,右冠動脈
(#1)完全閉塞に対して引き続きPCIを実施した.
ワイヤークロス後のIVUS観察にて病変部と末梢
に多量の血栓像を認めた.血栓吸引を繰り返した
が,なかなか良好な再灌流が得られなかった.血
栓溶解療法を考慮したが,頭部CTにて慢性硬膜
下血腫様の所見がみられたことや高齢であること
から,t-PAは使用しなかった.#1の病変部にス
テントを留置した後も末梢の粗大血栓にて血流が
確保されなかったため,#3および#4にもステン
トを留置し,血栓を壁に押し付けることで急性期
をbail-outした.
58歳男性.冠動脈3枝病変による低心機能(左
室駆出率 23%),心不全のため,人工呼吸器管
理,大動脈バルーンポンプ挿入,冠動脈バイパ
ス手術を施行した.術翌日より心室頻拍・細動
(VT/VF)を繰り返し頻回の電気的除細動を要す
るelectrical stormに陥った.緊急冠動脈造影検
査ではグラフトは開存,アミオダロン・ニフェ
カラントなどのIII群薬は催不整脈的に作用した.
強心薬(DOA,DOB,オルプリノン)を中止後
VT/VFの頻度は減少したが,血行動態が破綻し
VT/VFが再増悪したため,経皮的人工心肺補助
装置(PCPS)を挿入した.リドカイン投与下に
第3病日にはVT/VFはコントロールされ,第11
病日にPCPSを離脱し得た.機械的循環補助が電
気的安定化にも寄与したものと考えられた.
岩手医科大学附属循環器医療センター(2008 年 6 月) 1053
16) PCIに合併した冠動脈穿孔に対する治療方
針の決定に心臓MDCTが有効だった一例
(東北大学循環器病態学) 高橋 潤・
安田 聡・越田亮司・中山雅晴・伊藤健太・
多田智洋・加賀谷豊・下川宏明
PCIに合併した冠動脈穿孔に対する治療方針の決
定に心臓MDCTが役立った一例を経験したので
報告する.症例は88歳の男性.数年前から労作時
胸痛を訴え,近医で施行された冠動脈造影検査で
前下行枝(LAD)に石灰化を伴うびまん性狭窄
病変が認められ薬物療法されていた.しかしなが
ら狭心症が増悪し近医にてLAD#7にPCIを施行.
LAD中部に広範な解離が形成されステント留置
が試みられたが,ステントが進まずLAD入口部
近傍に穿孔を形成.外科的止血目的にて当院に搬
送された.当院搬送後施行した心臓MDCTによっ
て穿孔部は外科的処置が困難なLAD入口部近傍
の一箇所のみで,出血は持続していることが確認
された.このため開心術による止血ではなく,緊
急PCIを施行し3.0mm径カバードステントをLAD
入口部に留置することによって良好な止血を得
た.
17) 緊急医療トリアージが奏効した重症急性冠
症候群(左主幹部閉塞)の一例
(米沢三友堂病院循環器科) 川島 理・
阿部秀樹
【症例】70歳代,女性.【臨床経過】2008年2月2
日19:00全身倦怠,呼吸苦,冷汗,めまい感を自
覚.感冒疑いで19:30救急外来受診.20:30問診
中,突然激しい胸痛を自覚.心電図上,急性冠症
候群が疑われたため,当直看護師の判断で心カテ
=チームを呼集し,21:10緊急CAGを施行した.
【入院後臨床経過】緊急CAGにて左主幹部完全閉
塞と判明.救命のため,IABP下に緊急PCIを施
行し,血行再建に成功した.(発症1時間)その後
は血行動態も安定し,第4病日IABPも抜去した.
peak CPK 7024 IU/l.第31病日のCAGでは,左回
旋枝も再疎通していた.【結論】本症例は,当直
看護師が最初から心カテ=チームを非常呼集した
為に,最短で緊急PCIを施行できた.重症冠症候
群の救命には,このようなコ=メディカルスタッ
フの働きが非常に重要と思われた.
18) CABG後VTとなりCTOに対して緊急PCIを
行った一例
(岩手県立中央病院循環器科) 瀬川茉莉・
花田晃一・三浦正暢・遠藤秀晃・八木卓也・
高橋 徹・中村明浩・野崎英二・田巻健治
症例は70歳代男性.過去4回のPCI歴あり.平成
19年12月から不安定狭心症となり,平成20年1月
心臓カテーテル検査を行った.#1 75%,#6just
90%,#7 90%,#11 75%,#13 100%,#HL 90%
を 認 め,off pump CABG 3枝(SVG−#4PD,
LITA−LAD,RA−#HL)を試行.術後,心不全,
感染のため抜管困難であった.2月下旬から胸痛
発作があった.3月初旬ST上昇発作,VTとなり,
緊急カテーテル検査を行った.SVG−#4PDは閉
塞,LITA−LADはnativeの 末 梢 が 閉 塞,RA−
#HL 99%,#11 90%,#13 100%(CTO)であり,
CXを今回の責任病変と判断した.VTからCPAと
なったが緊急PCIを行い血行動態安定した.PCI
後はアンカロン注を使用した.CABG後VTとな
りCTOに対して緊急PCIを行った一例を経験した
ので報告する.
1054 第 146 回東北地方会
19) 急性好酸球性心筋炎の1例
(弘前大学循環呼吸腎臓内科) 伊藤太平・
樋熊拓未・泉山 圭・相樂繁樹・横田貴志・
佐々木憲一・斎藤 新・阿部直樹・及川広一・
大和田真玄・木村正雄・佐々木真吾・
横山 仁・花田裕之・長内智宏・奥村 謙
症例は20歳代の女性.胸部圧迫感と失神で当院へ
救急搬送された.心電図にてaVR誘導以外のST
上昇を,心臓超音波検査にて約20mmの全周性の
左室壁肥厚および心嚢液を認め,急性心膜心筋炎
と診断した.入院後は重篤な合併症を認めず,循
環動態を保ち経過したが,第11病日より末梢血の
好酸球が増加傾向を示したため,好酸球性心筋
炎を疑い心筋生検を施行した.心内膜下および
心筋線維間の好酸球の浸潤を認め,好酸球性心
筋炎に矛盾しない所見であった.プレドニゾロン
30mg/日の内服を開始したところ,好酸球は減少
し正常化した.左室壁厚の正常化および心嚢液の
減少も認め,第31病日に退院となった.本症例は
急性好酸球性心筋炎として典型的な病歴,経過を
たどり,治療にも良好に反応した.
22) 特発性心膜胸膜炎のステロイド治療中に胸
水の貯留をきたした肺クリプトコッカス症の一例
(岩手医科大学循環器・腎・内分泌内科)
佐久間雅文・齊藤秀典・高橋智弘・大島杏子・
佐藤 衛・中村元行
症例は83歳の男性.H15年から心嚢液の貯留を認
め,特発性心膜炎の診断で,利尿薬を内服してい
た.H19年,心嚢液が増加し胸水が出現した.プ
レドニンの内服を開始し,心嚢液と胸水は消失し
たため,10mg/日の内服継続で経過観察していた.
内服開始から2ヵ月後に胸水の再貯留を認めた.
プレドニンを増量したが,改善しなかった.胸腔
穿刺を施行し,胸水からクリプトコッカスを検出
した.胸部CTでは左肺に結節影を認めた.肺ク
リプトコッカス症の診断で抗真菌薬を開始したと
ころ,胸水は消失した.胸水を合併する肺クリプ
トコッカス症はまれと考えられている.特発性心
胸膜炎による胸水のステロイド治療中に,肺クリ
プトコッカス症による胸水貯留を合併し,診断が
難しかった症例を経験したので報告した.
20) 心原性脾梗塞による脾破裂を合併した感染
性心内膜炎の1例
(福島県立医科大学内科学第一講座)
半田裕子・義久精臣・宮田真希子・金城貴士・
上北洋徳・国井浩行・斎藤修一・石川和信・
石橋敏幸・竹石恭知
23) 左心補助人工心臓から離脱した拡張型心筋
症の1例
(東北大学心臓血管外科) 井口篤志・
二宮本報・田林晄一
(東北大学加齢医学研究所病態計測部門)
西條芳文
症例は48歳男性,脳梗塞,脳出血を発症し,A病
院に入院.同病院での心エコーで僧帽弁前尖に
15mm大の疣贅及び僧帽弁閉鎖不全症を認め,感
染性心内膜炎の疑いで当院転院となった.転院
時,JCS 20,BP 60台 と 全 身 状 態 不 良 で, 敗 血
症(MSSA,プロカルシトニン陽性),DIC,脾
腫,脾梗塞,腎梗塞を合併していた.抗生物質
(IPM/CLDM)
,エンドトキシン吸着療法など内
科的加療を実施し,全身状態は改善傾向にあった
が,5病日に突然の出血性ショックを来たし,死
亡した.病理解剖で脾梗塞を伴う脾破裂及び腹腔
内出血を認めた.感染性心内膜炎に脾破裂を合併
した例は少なく,文献的考察を加えて報告する.
左心補助人工心臓(LVAS)を装着した後に心機
能が回復し,LVASから離脱した特発性拡張型心
筋症の経過,およびLVASからの離脱可能性の予
測について報告する.【症例】17歳の女性,既往
歴はない.平成18年11月から心不全症状が出現し,
カテコラミンの持続静脈投与を開始したが,肝う
っ血が進行し,内科的治療法の限界と判断され
LVASを装着した.心エコーでの左室拡張末期径
(LVDd)68mmであり,総ビリルビンは4.0mg/dl
と上昇していた.LVAS装着後,約8ヵ月頃から
明らかに運動能力が改善し,BNPは低下,心エ
コー上の心機能もLVDd 54mm,LVEF 45%と改
善した.平成20年1月LVASから離脱し,BNPも
40pg/mL以下で推移している.今後,長期遠隔予
後を観察する必要がある.
21) 冠動脈バイパス術後の収縮性心膜炎にステ
ロイドが著効した1例
(盛岡赤十字病院循環器科) 高橋 保・
齋藤雅彦・永野雅英・市川 隆
24) Adaptive Servo ventilationが拡張相肥大型
心筋症の左心機能を著名に改善した1例
(福島県立医科大学内科学第一講座)
山田慎哉・義久精臣・佐藤崇匡・小林 淳・
八巻尚洋・鈴木 均・石川和信・石橋敏幸・
竹石恭知
症例は77歳男性.狭心症のため冠動脈バイパス術
を施行.2か月後に下腹部,陰嚢,および両下肢
に及ぶ浮腫の精査加療目的で入院.心臓超音波検
査で心室内腔の拡張なく収縮良好であったが,下
大静脈径は拡大.CTで心膜の肥厚を認め,右室
圧曲線がdip and plateauかつ右房圧曲線はW型で
あり,心係数は1.95と低値.収縮性心膜炎による
右心不全と診断.フロセミドの静脈内投与で利尿
が得られず,プレドニゾロン30mg/日の内服を開
始後に利尿が良好となり胸水ならびに下腿浮腫は
消失.軽快後のCTでは心膜の肥厚が軽減し心内
圧は低下,心係数は2.23まで改善.プレドニゾロ
ンを5mg/日まで漸減後も再燃の徴候はなく,入
院第65病日に退院.心膜切開後の収縮性心膜炎に
ステロイドが著効したと考えられる症例であり,
若干の考察を加えて報告する.
慢性心不全に合併する睡眠時無呼吸症候群に対す
る治療がその予後を改善しうることが示されてい
る.我々はCheyne-stokes respiration(CSR)を合
併した心不全患者においてASV(Adaptive Servo
Ventilation)療法が心機能の改善に効果を示した
症例を経験したので報告する.症例は50代男性.
心臓カテーテル検査等の精査にて拡張相肥大型心
筋症と診断した.入院時,左室駆出率14.4%と低
心機能であり,睡眠ポリグラフ施行した所,無呼
吸低呼吸指数(AHI)38回/時(CSR 90%以上),
minSPO2 79%と重症中枢性睡眠時無呼吸症候群を
認めた.標準的薬物療法に加え,ASVを導入した
所,CSRはほぼ消失し,AHI 7.9回/時,minSPO2
95%まで改善し,さらに,左心機能も改善した.
ASVによるCSRへの介入は,慢性心不全患者の心
機能やQOLを改善する可能性が考えられた.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
25) 急性心不全に対するnon-invasive Positive
Pressssure ventilationの有効性
(仙台医療センター循環器科) 田丸貴規・
清水 亨・尾上紀子・田中光昭・富岡智子・
馬場恵夫・谷川俊了・篠崎 毅
急性心不全治療の新しい治療オプションとして
non-invasive positive pressure ventilation(NIPPV)が推奨されているが,その普及は未だ充分
ではない.我々は左室不全に伴う急性心不全4例
と,慢性閉塞性肺疾患に伴う急性心不全1例に
NIPPVを使用し,その有効性を確認した.NIPPV
導 入 時 のPaO2は そ れ ぞ れ56.9+/-17.9mmHgと
58.8mmHg,PaCO2は そ れ ぞ れ45.4+/-19.8mmHg
と65.9mmHg,NIPPV離脱までの時間はそれぞれ
32.2+/-40時間と63.5時間であった.気道感染の
合併症も認めなかった.左室不全に伴う急性心不
全症例のうち,3例にadaptive servo-ventilationに
よるNIPPVを使用した.装着後平均3分で症状の
改善が見られ,装着に伴う違和感の訴えも無かっ
た.NIPPVは急性心不全に極めて有効な選択肢
となりうる.
26) 生体肺移植を行った肺静脈閉塞を伴う肺動
脈性肺高血圧症の一例
(東北大学病院循環器内科) 杉村宏一郎・
福本義弘・出町 順・縄田 淳・佐治賢哉・
福井重文・中野 誠・下川宏明
(同呼吸器外科) 近藤 丘
【症例】25歳 男性【現病歴】2004年1月頃より易
疲労感,階段昇降で息切れを自覚,2005年4月当
科にて肺動脈性肺高血圧症と診断し,ボセンタン,
シルデナフィルの内服,エポプロステノール持注
療法を開始した.2006年11月29日心不全症状が増
悪し当科入院となった.著明な低酸素血症を認め,
酸素・一酸化窒素吸入を施行し,カテコラミン投
与も開始したが,血行動態が改善しなかった.家
族の申し出により,兄と姉から生体肺移植の承諾
を得た直後,ショック状態となったためPCPSを
導入した.2007年2月3日準緊急で生体肺移植を施
行した.肺移植後の病理診断にて肺静脈閉塞症と
確定診断が得られた.【結語】内科的治療に抵抗
性を示した肺静脈閉塞を伴う肺動脈性肺高血圧症
に準緊急で生体肺移植を試行し,救命し得た症例
を経験したので報告する.
27) 肺動脈血栓塞栓症の一例でのDSCTを用い
たDual Energyによる肺動脈灌流画像作成の試み
(宮城県立循環器・呼吸器病センター)
渡邉 誠・大沢 上・三引義明・柴田宗一・
住吉剛忠・菊田 寿
Dual Energy イメージングは照射するX線の平均
エネルギーに依存して物質の減弱が変化すること
を利用した画像化の手法で,80KVと140KVの2種
類のX線量による組織固有のCT値変化に着目し
て組織分離精度を高めている.今回,肺動脈血栓
塞栓症の一例を経験するにあたり,Dual Energy
を用いたX線CTでの肺動脈灌流画像の作成を試
みたので画像を供覧する.【症例】76歳男性 2
年前の胃切除術後よりの息切れを主訴に来院.
D-dimer陽性からCTにて右肺動脈血栓塞栓症お
よび右大腿からヒラメ筋内まで下肢静脈内血栓が
認めら,抗凝固療法を開始した.血栓量が多量な
ため一時的下大静脈フィルターを留置し,血栓溶
解剤を投与した.右下肢静脈内血栓の縮小を確認
しフィルターを回収した.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
28) 全身性エリテマトーデス,シェーグレン症
候群,原発性胆汁性肝硬変に合併した肺高血圧症
の1例
(弘前大学医学部附属病院循環器・呼吸器・腎臓内科)
泉山 圭・阿部直樹・伊藤太平・相樂繁樹・
佐々木憲一・大和田真玄・及川広一・
木村正臣・樋熊拓未・佐々木真吾・花田裕之・
長内智宏・奥村 謙
症例は60歳代,女性.原発性胆汁性肝硬変にてフ
ォロー中,2年前に全身性エリテマトーデス,シ
ェーグレン症候群の診断を受けた.徐々に運動時
の息切れが増悪した.胸部写真上,右肺門部陰影
の拡大を指摘され,心エコーにて重度三尖弁逆流
を認め,肺高血圧症の診断となった.膠原病に伴
う肺高血圧症であり,また,肝機能障害の既往あ
るため,プロスタグランジン(PGI2)徐放剤(ベ
ラプロストナトリウム)にて治療を開始した.薬
剤を60μgから開始し,180μgまで漸増したとこ
ろと,自覚症状の改善と心エコーでの推定肺動脈
圧の改善を認めた.全身性エリテマトーデス,シ
ェーグレン症候群,原発性胆汁性肝硬変に合併し
た肺高血圧症例を経験したので紹介する.
29) Afterload mismatchに伴うFlash pulmonary
edemaの一例
(仙台医療センター循環器科) 佐竹洋之・
清水 亨・尾上紀子・田中光昭・富岡智子・
馬場恵夫・谷川俊了・篠崎 毅
42歳女性.就眠中突然の呼吸困難のため入院.来
院 時BP 144/89, 肺 水 腫,LV径51mm,EF 59%.
著明な求心性心肥大を認めた.E/A 0.82,TRPG
計測不能でありLV充満圧の上昇は軽度であると
判断.後に判明した入院時BNPは1031pg/ml.肺
水腫改善直後はBP 220/112,LV径54mm,EF 30%,
E/A 1.81,ACEI投与後BP 150/96,LV径52mm,EF
68%,E/A 0.75.血圧とLV径,E/Aは正相関を,EF
は負相関を示した.終夜SpO2モニターで23回/h
の睡眠時無呼吸症候群を認めた.【結語】睡眠無
呼吸症候群を背景に発生した夜間高血圧がafterload mismatchを介してflash pulmonary edemaを
引き起こしたと考えられた.
31) 肺高血圧に合併する甲状腺機能障害の特徴
(東北大学循環器病態学) 三浦 裕・
福本義弘・中野 誠・福井重文・杉村宏一郎・
下川宏明
肺高血圧症の生命予後は近年の治療の進歩により
改善してきている.一方,長期生存患者の増加と
共に,治療経過中に種々の合併症を経験するよう
になり,中でも甲状腺機能障害合併例では,その
治療に難渋することがある.しかし,肺高血圧症
における甲状腺機能障害の合併頻度や病態,生命
予後との関係は不明である.今回我々が経験した
130例の肺高血圧症患者に対して,肺高血圧症に
合併した甲状腺機能障害の特徴を後向きに検討し
た.その結果,肺高血圧症では甲状腺機能障害の
合併頻度は4割と高く,治療により生存期間が長
くなるにつれ,その合併頻度が上昇する可能性が
示唆された.甲状腺機能障害の合併は,生命予後
に対する影響は低いが,心不全への関与が示唆さ
れ,甲状腺機能の定期的検査の必要性が示唆され
た.
32) 循環器領域での早期糖尿病検出とthiazolidineによる介入の経験
(総合南東北病院) 菅野 恵
【目的】thiazolidineによる耐糖能改善効果を循環
器系疾患を有する早期糖尿病症例での長期間観
察で検討,さらに糖尿病歴の異なる群間で比較
し早期介入の有用性を評価.【方法】糖負荷試験
を行った早期糖尿病症例52例にpioglitazone内服
を開始し平均32.2ヶ月後に再評価した.25症例は
pioglitazone 単独使用で,27例ではそれまで使用
していた経口糖尿病薬にpioglitazoneを併用した.
単独療法群は糖負荷試験で初めて糖尿病と診断さ
れた病歴の短い群と判断した.【結果】遠隔期に
は55.8%がnon-diabetic(正常耐糖能かIGT)に改
善したが単独療法群と併用療法群での率はそれぞ
れ80%,31%(p<0.001)であり糖尿病の早期検
出と早期介入が有用であった.
30) 肺高血圧症患者におけるRhoキナーゼ活性
の亢進
(東北大学循環器内科) 其其格珠蘭・
福本義弘・縄田 淳・田原俊介・中野 誠・
下川宏明
(同呼吸器外科) 星川 康・近藤 丘
33) 心房中隔瘤由来の心房頻拍が心房細動の
triggerであると考えられた1例
(仙台市立病院循環器科) 佐藤弘和・
八木哲夫・石田明彦・滑川明男・山科順裕・
中川 孝・櫻本万治郎・佐藤英二
(伊藤医院) 伊藤明一
【背景】Rho-kinaseに対する選択的阻害薬が,肺
高血圧症動物モデルに対し,予後の改善効果を示
した.ヒトにおいても,重症肺高血圧症患者に
Rho-kinase阻害薬が,肺血管抵抗を改善する急性
効果を有する.しかし,肺高血圧症患者において
Rho-kinaseが活性化されているか否か,直接的な
証拠は無い.【方法】肺高血圧症患者及び健常者
からインフォームドコンセントを得た上で,末梢
血由来多型核白血球及び肺組織におけるRho-kinase
活性をWestern blot法及び免疫染色法で検討を行
った.【結果】Western blot法によりRho-kinase活
性が肺高血圧症患者で有意的に亢進し
(P<0.0001)
免疫組織学的に,Rho-kinaseの発現及び活性が患
者の肺組織において,有意に亢進していることが
認められた.【結論】本研究で初めて肺高血圧症
患者におけるRho-kinaseの活性が証明された.
症例は41歳男性.心房粗細動で来院し,その際心
エコーで心房中隔瘤の存在を認めた.心房粗動に
対し,TV-IVC isthmus ablationを施行.以後抗不
整脈薬の内服を行ったが,数回の心房細動(AF)
発作を認め,肺静脈隔離術目的に入院となった.
心房刺激にてCL 270msecの心房頻拍(AT)が誘
発.自然にATからAFに移行した.AFが持続し
ATのmappingが困難であった為,RSPV,LSPV,
LIPVの3本のisolationを行い誘発を行うと,AT
が出現しAFはみられなくなった.CARTO mappingでは心房中隔瘤に最早期を認め,同部からの
focal patternを呈した.心房中隔瘤の最早期部位
ではAA間隔の中間にfragment potentialを認め,
同部位で通電を行いATは停止した.心房中隔瘤
由来のATがAFのtriggerとなっていたと考えられ
る貴重な症例の為報告する.
岩手医科大学附属循環器医療センター(2008 年 6 月) 1055
34) CARTO Merge Systemを用いてカテーテ
ルアブレーションを行ったEbstein奇形の一例
(仙台市立病院循環器科) 佐藤英二・
八木哲夫・石田明彦・山科順裕・滑川明男・
田渕晴名・住吉剛忠・佐藤弘和・中川 孝・
櫻本万治郎
44歳の女性.度々発作性上室性頻拍を起こしてい
た.今回,発作性心房細動を合併し心拍数220/分
のwide QRS頻拍を呈し,当科へ紹介となった.
心エコーにて三尖弁中隔尖の心室側へ約30mm
の偏位と高度の三尖弁逆流を伴い,Ebstein奇形
の 合 併 と 考 え ら れ た.12誘 導 心 電 図 でI,aVL,
V5-6,II,III,aVF誘導で陽性,V1誘導で陰性の
デルタ波を呈し,右側中隔の副伝導路が疑われた.
CARTO Merge systemを用いてマッピングしたと
ころ,本来の三尖弁輪の認識が容易で,心室ペー
シング中に最早期心房興奮部位を示した右側後中
隔で通電を実施したところ,副伝導路の順伝導,
逆伝導ともに消失した.Ebstein奇形における副
伝導路の局在と至適通電部位の簡便かつ正確な同
定にCARTO Merge systemが有効であった.
35) 三尖弁輪と僧帽弁輪を周回するdual loop
macroreentrant atrial tachycardiaの一例
(弘前大学循環呼吸腎臓内科学)
佐々木憲一・大和田真玄・堀内大輔・
木村正臣・佐々木真吾・奥村 謙
80歳代女性,大動脈解離に対する弓部置換術後に
心房粗動を発症し峡部線状焼灼の既往あり.頻拍
の再発を認めEPSを施行した.右房のactivation
mapにて通常型心房粗動を認め,峡部でのpost
pacing interval(PPI)も一致したため峡部の再
開通と判断し頻拍中に線状焼灼を行った.しかし,
Haloカテーテル及びCSカテーテルのsequenceは
変化しなかった.三尖弁輪からentrainment pacingにてsequenceは大きく変化し,PPIは頻拍周
期より延長していた.CSからentrainしたところ
PPIと頻拍周期が一致したため左房起源の頻拍が
考えられ左房内のマッピングを行った.僧帽弁輪
を時計方向に旋回するmacro-ATと診断し,common arrhythmogenic channelの出口付近で最弁輪
側のRF通電1回で頻拍は停止した.両房室弁輪を
周回するdual loop reentryが考えられた.
37) Mahaim束を介するAVRTに対してElectroanatomical mappingを用いてカテーテルアブレー
ションに成功した一例
(山形大学循環・呼吸・腎臓内科学分野)
玉渕智昭・二藤部丈司・青柳拓郎・岩山忠輝・
田村晴俊・西山悟史・宍戸哲郎・宮下武彦・
宮本卓也・渡邉 哲・久保田功
48歳女性.主訴は動悸.発作時にwide QRS tachycardiaを認めた.洞調律時,デルタ波を認めず.
イソプロテレノール負荷後,右房早期刺激でAH
jump up後に左脚ブロック型のwide QRS tachycardiaが誘発された.心房刺激で頻拍はリセット
されたため右側副伝導路を介する反方向性房室回
帰性頻拍と診断.順伝導は房室結節特性を示し
Mahaim束と考えられたが,Mahaim束を介した
伝導は間歇的であった.CARTO systemを用いて,
三尖弁輪部側壁にてMahaim電位を指標に高周波
通電を行い副伝導路は消失.その後,通常型房室
結節回帰性頻拍が誘発され,遅伝導路に高周波通
電を行なった.間歇的に出現するMahaim束に対
するアブレーションにCARTO systemが有効であ
った.
38) マーシャル静脈を起源とした心房頻拍の1例
(仙台市立病院循環器科) 櫻本万治郎・
八木哲夫・滑川明男・石田明彦・山科順裕・
佐藤弘和・中川 孝・佐藤英二
症例は17歳女性.3年前より動悸を自覚するよう
になり,徐々に頻度が増えてきたとのことで近医
を受診し,Holter心電図にて発作性上室性頻拍を
認め,カテーテルアブレーション目的に当科紹介
となった.イソプロテレノール負荷後の高頻度心
房刺激によって心拍数280/分の心房頻拍が誘発さ
れた.頻拍中の心房興奮波はaVL誘導で陰性,V1
誘導で陽性であり,左房起源であると考えられ,
経心房中隔穿刺法にて左房内をCARTO systemを
用いてmappingしたところ,最早期心房興奮部位
は,左下肺静脈近傍の左房後壁側であった.同部
位で通電を行ったところ頻拍は消失した.冠静脈
洞造影を行ったところ,通電部位はマーシャル静
脈の近傍であった.マーシャル静脈を起源とする
心房頻拍は稀であり,報告する.
36) Ebstein病 に 合 併 し たWPW症 候 群 の ア ブ
レーションに対しElectro-anatomical mapping法
が有効であった1例
(福島県立医科大学循環器内科) 岩谷章司・
鈴木 均・佐藤崇匡・金城貴士・上北洋徳・
神山美之・泉田次郎・石川和信・石橋敏幸・
竹石恭知
(公立相馬病院) 佐藤雅彦
39) Fibrillatory veinをtargetとしてカテーテル
アブレーションを行った発作性心房細動の一例
(東北厚生年金病院循環器センター)
田渕晴名
(仙台市立病院循環器科) 八木哲夫・
滑川明男・石田明彦・山科順裕・佐藤弘和・
中川 孝・櫻本万治郎・佐藤英二
(伊藤医院) 伊藤明一
症例は49歳女性.昭和60年にEbstein病に合併し
たWPW症候群と診断された.平成19年12月動悸
出現し,近医でPSVTと診断され当科紹介され入
院した.12誘導心電図のデルタ波の極性はV1で
rS,II,III,aVFで陰性であった.EPSでは順行
性,逆行性ともに右側後壁から後側壁にかけ広範
囲に心房心室連続電位が得られ,至適部位同定困
難のため,Electro-anatomical mappingを併用し
た.AVRT中右側後壁に心房最早期興奮部位認め
られ,同部位の通電にて頻拍は停止した.しかし
デルタ波は残存し,心房興奮順序が異なるAVRT
が誘発され,同部位より側壁に心房最早期興奮部
位が得られた.洞調律下に通電したところ,デル
タ波は消失し,AVRTも誘発されなくなった.
43歳男性.ジソピラミド,シベンゾリン,ベプリ
ジル無効の発作性心房細動に対しカテーテルアブ
レーション(CA)を行った.冠静脈洞(CS)内
連続刺激で心房細動(Af)を誘発,肺静脈(PV)
-左房(LA)接合部に留置したLassoカテーテル
で各肺静脈内Afの頻拍周期(TCL)を計測した.
左 上 肺 静 脈(LSPV) のTCL72.3±49.5msecで,
右上肺静脈(RSPV)205±5.1msec,左下肺静脈
(LIPV)174±6.6msecより明らかに短く,ばらつ
きを認めた.除細動後CSぺーシング下LSPVのみ
のisolationを電位指標に行った.10回通電で隔離
成功後の誘発では19秒で自然停止したAfを1度認
めたのみであった.以後無投薬の経過観察でAf再
発は無い.若年者で左房の拡大や基礎心疾患を有
しないparoxysmal Afの場合,侵襲を最小限にす
るために有用な方法と考えられ報告する.
1056 第 146 回東北地方会
40) WPW症候群に合併した特発性心室細動の
一例
(東北大学循環器病態学分野) 山口展寛・
福田浩二・若山裕司・広瀬尚徳・下川宏明
症例は20歳男性.小学1年入学時検診にてWPW症
候群を指摘されたが今まで動悸発作はなかった.
2月上旬心室細動(VF)により心肺停止,頻回の
電気的除細動(DC)にて洞調律へ復帰せず,経
皮的心肺補助法を施行した.ニフェカラント投与
後DCにて洞調律へ復し,低体温療法を行い神経
学的後遺症なく回復した.心エコー上器質的心疾
患は認めず,ピルジカイニド負荷試験は陰性であ
った.電気生理学的検査では,副伝導路の順行性
有効不応期は210ms,心房頻回刺激にて心房細動
が誘発され,最小R-R間隔240msであった.副伝
導路は左後側壁に存在し,同部位による通電にて
離断された.副伝導路離断後に行った心室プログ
ラム刺激にて心室細動が誘発され,ICD植え込み
術を施行した.無症候性WPW症候群に合併した
特発性心室細動の症例を経験したため報告する.
41) アミオダロン内服中に甲状腺機能亢進症を
呈した一例
(山形大学循環・呼吸・腎臓内科学分野)
禰津俊介・岩山忠輝・渡邉 哲・玉渕智昭・
青柳拓郎・田村晴俊・西山悟史・宍戸哲郎・
宮下武彦・宮本卓也・二藤部丈司・久保田功
(山形県立日本海病院) 桐林伸幸・
高橋 大・伊藤 誠・小熊正樹
症例は54歳男性.49歳の時,心室頻拍症で入院し
た際,拡張型心筋症と診断されICD植込手術を施
行された.平成19年5月頃より,息切れ・下腿浮
腫を自覚し,慢性心不全の急性増悪と診断され入
院となった.入院時採血でTSH0.484μIU,FT3
6.71pg/ml,FT4 6.18ng/dlと甲状腺機能亢進症を
認めた.各種血清学的検査にて異常を認めず,ア
ミオダロンを内服していたことから,アミオダロ
ン誘発性甲状腺機能亢進症を疑い,アミオダロン
を中止したところ,甲状腺機能亢進症は軽快した.
アミオダロン内服中に甲状腺機能亢進症を呈した
症例を経験し,定期的な甲状腺機能のチェックの
重要性を再認識した.
42) 家族性心房粗動の3症例
(山形県立中央病院循環器科) 高橋克明・
福井昭男・佐々木真太郎・菊地彰洋・
近江晃樹・高橋健太郎・玉田芳明・松井幹之・
矢作友保・後藤敏和
姉,妹,弟の3兄弟に心房粗動を発症した家系に
おいて,心房粗動に対するカテーテルアブレーシ
ョン治療を行った2症例を経験した.症例は30歳
代と20歳代の姉妹.弟も17歳時に心房粗動を指摘
されていたが突然死している.姉は28歳時に発作
性心房細動の既往あり.平成19年,20年の検診時
に心房粗動を指摘されている.妹は年に数回の動
悸発作を自覚しており,平成20年の検診時に初め
て心房粗動を指摘され当院に紹介となった.姉妹
ともに,電気生理検査にて三尖弁輪を反時計方向
に旋回する通常型心房粗動症例であった.いずれ
も三尖弁輪下大静脈間峡部に対する線状焼灼を行
い心房粗動の停止に成功した.両症例の心エコー
検査では器質的心疾患は認めていない.家族性の
心房粗動発症は極めて稀と考え,本3症例を報告
する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
43) 心臓再同期療法を施行した修正大血管転位
症の一例
(岩手医科大学第2内科・附属循環器医療センター)
小澤真人・佐藤嘉洋・橘 英明・肥田頼彦・
小松 隆・中村元行
1996年まで健診を受けていたが心疾患の指摘な
し.1997年10月,呼吸苦で当院初診.うっ血性
心不全(CHF)・修正大血管転位症・慢性心房細
動と診断された.その後,1998年9月,2005年
12月とCHFで入院している.今回,2006年8月
にCHFで4回目の入院となった.心電図は心房
細動・完全房室ブロックで,QRSは170msであっ
た.心不全軽快後の心エコー図検査では,解剖学
的右室(機能的左室)のdyssynchronyを認めた.
うっ血性心不全で入退院を繰り返していること,
経過中に非持続性心室頻拍を認めていたこと,低
心機能であることよりCRT-D移植術を施行した.
以後は心不全再燃による入院は認めていない.今
回,修正大血管転位症で低心機能に対する心臓再
同期療法を施行した一例を経験したので報告す
る.
46) Brugada症候群と特発性心室細動の電気生
理学的相違
(東北大学循環器病態学分野) 福田浩二・
若山裕司・広瀬尚徳・山口展寛・下川宏明
Brugada症候群(BS)は特発性心室細動(IVF)
の一亜型と考えられているが,その特徴的心電
図 所 見 に よ り 区 別 さ れ て い る.IVF(7例 ) と
Brugada症 候 群(15例; 症 候 性8例, 無 症 候 性
7例)の電気生理学的特徴の相違を正常亜型群
(NV; 9例)と比較検討した.12誘導心電図QRS幅,
Late potential(RMS40) に お い てBS群 で 他 の
二群と比べて有意に増大していた(QRS; BS vs.
IVF,NV: 114±5 vs. 96±6,97±5msec,both P
<0.05),(RMS40; 13±1 vs. 37±8,22±3mV,
both P<0.001).BSとIVFでは電気生理学的器質
の存在の点で異なる可能性がある.
44) 三尖弁置換術後にICD植え込みを施行した
エプスタイン奇形の一例
(東北大学循環器病態学) 若山裕司・
福田浩二・広瀬尚徳・山口展寛・下川宏明
(同心臓血管外科) 井口篤志・田林晄一
47) 当院でのアミオダロン注射薬の使用経験
(岩手医科大学第2内科附属循環器医療センター)
折居 誠・小松 隆・橘 英明・佐藤嘉洋・
小澤真人・中村元行・岡林 均
(鹿角組合総合病院循環器科) 大坂英通
【症例】62才男性.【既往歴】エプスタイン奇形,
三尖弁置換術,ペースメーカ(VVI)術後.
【現病歴】
2007年1月意識消失で近医へ救急搬送,心室頻拍
で電気的除細動施行.ペースメーカ不全で心筋電
極留置.植え込み型除細動器(ICD)適応で紹介.
【経過】転院後ICD植え込み術を施行.弁置換術
後で経静脈的除細動リード留置は不可能で,左側
胸部皮下アレイリードと左鎖骨下静脈経由で右心
房にICDリード電極を留置.右室ペーシングと心
内電位の検出は既存の心筋電極を使用,アレイリ
ードと心房内ICDリード遠位コイルとICD本体間
で除細動を行った.洞性徐脈のため,心房内ICD
リードで心房ペーシングを施行.血行動態が安定
し,経過良好で退院.【結語】通常アプローチ法
以外の方法でICD植え込みを行った三尖弁置換術
後症例を経験した.
2007年1月の承認,同年6月の販売開始以来,ア
ミオダロンの経静脈的投与は,致死的心室性不整
脈に対して,各施設にて急速に普及している.し
かし,その使用における適応,ニフェカラントと
の使い分け,副作用,内服薬の至的開始時期等,
解決すべき問題点は未だに多いものと思われる.
今回我々は,患者背景,基礎心疾患等がそれぞれ
異なるものの,アミオダロンの経静脈的投与にて,
致死的心室性不整脈の良好なコントロールが可能
であった3症例を経験したので,若干の考察を含
めて報告する.
45) CRT-D感染例
(山形県立中央病院) 福井昭男・
佐々木真太郎・高橋克明・高橋健太郎・
玉田芳明・松井幹之・矢作友保・後藤敏和
【症例】70歳台男性【既往歴】2002年両弁置術,
先端巨大症.2007年6月心不全,心房細動+完全
房室ブロックで入院,両心室ペースメーカー機能
付き植込み型除細動器(CRT-D)移植術を施行.
【現病歴】CRT-D植込み100日後よりポケット部
の疼痛,圧痛,発赤腫脹を生じ入院,ポケット内
容液より黄色ブドウ球菌が検出され,IPM にて
発赤腫脹も速やかに改善したため退院したが,退
院2週後より再度発赤,腫脹が出現し,再入院,
1ヶ月間の抗生剤投与で軽快した.以後2ヶ月間
抗生剤を内服し,局所症状の再発なく抗生剤を中
止した.しかし内服中止3週間後よりポケットよ
りの排膿があり来院,ジェネレーターはポケット
から飛び出していた.翌日一時的ペースメーカー
挿入下にCRT-D抜去,デブリードマンを行った.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
49) 心 房 内 病 変 の 評 価 に64列MDCTが 有 用 で
あった2症例の報告
(東北公済病院) 多田博子・杉村彰彦・
福地満正
(東北大学循環器内科) 越田亮司
MDCTによる冠動脈や大血管の評価が確立され,
今後は他疾患への応用も期待される.今回は心
房内病変の評価にMDCTが有用だった2例を報
告する.【症例1】62歳 男性【主訴】動悸十日
間持続した心房粗動で除細動目的に入院.64列
MDCTと経食道心エコーで左房内血栓を認め,ワ
ーファリン内服3週間後にMDCTで再評価した.
【症例2】73歳 男性【主訴】心嚢液貯留H19年
8月転移性脳悪性リンパ腫として近医で加療され
ていた.その際PETで右心房に集積を認めたが,
前医施行のCTでは腫瘍性病変は確認されず経過
観察されていた.同10月,頻脈と心拡大で紹介受
診,心タンポナーデの診断で入院.心嚢ドレナー
ジ施行後MDCTにてPET集積部を再評価,造影条
件の工夫などにより右心房内の腫瘍病変を確認す
ることができた.
50) Merge CARTOを用いた心房細動に対する
カテーテルアブレーション
(仙台市立病院循環器科) 中川 孝・
八木哲夫・滑川明男・石田明彦・山科順裕・
田渕晴名・住吉剛忠・佐藤弘和・櫻本万治郎・
佐藤英二
当院では,2008年1月からMerge CARTOを用い
て心房細動のカテーテルアブレーションを行って
いる.CT画像とelectro anatomical mapping画像
が同期できるため,左房-肺静脈接合部が確実に
同定可能であり,カテーテルが左房全体をくまな
く操作できるようになった.Merge CARTOを用
いることにより,肺静脈から確実に離れた左房側
を通電することができ,カテーテル操作時に左心
耳と左上肺静脈の鑑別が容易となり,いわゆる
Ridgeや左房中隔のアブレーションが適切な場所
でできるようになった.また,肺静脈狭窄やカテ
ーテル操作による心タンポナーデなどの合併症が
回避できるようになることが予想され,心房細動
のアブレーションに極めて有用と思われた.
48) 肥大型心筋症におけるハイリスク患者の同
定,植込み型除細動器の適応と効果
(秋田県成人病医療センター) 寺田 健・
阿部芳久・庄司 亮・熊谷 肇・佐藤匡也・
門脇 謙・三浦 傅
(秋田大学循環器内科学) 伊藤 宏
51) Electro-anatomical Mapping Systemを用い
た 右室流出路起原特発性心室性頻拍の好発部位
に関する検討
(仙台市立病院循環器科) 山科順裕・
八木哲夫・滑川明男・石田明彦・佐藤弘和・
中川 孝・桜本万治郎・佐藤英二
植込み型除細動器(ICD)が肥大型心筋症(HCM)
患者における突然死予防効果を有することが知ら
れているが本邦では予防的植込みに関する研究は
殆どみられない.そこで当センターにおける心室
性不整脈を認めるHCM患者の危険因子とICD植
込み状況,作動状況を後ろ向きに検討した.対象
はICD群としてICD植込みを行なったHCM 10例,
また非ICD群として,非持続性心室頻拍を認める
が,EPSで心室性不整脈が誘発されずICDを植込
まなかったHCM患者6例.非持続性心室頻拍を認
めEPSで心室細動や心室頻拍を認めた一次予防患
者は6例でICD作動に関しては平均17ヶ月の経過
観察期間で適切作動は二次予防の1例のみであっ
た.【結論】一次予防としてはEPSの重要性は明
らかにならず,今後症例を積み重ね経過観察期間
をさらに延長して検討を続けていく必要がある.
【目的】右室流出路起原の特発性心室性不整脈
(RVOT-arrhythmias)の好発部位を3-D electroanatomicalに同定すること.【方法】器質的心疾
患を除いた,連続52例(平均年齢40.2±21歳,男
性21例)のアブレーションによって根治が得られ
たRVOT-arrhythmias患者において,通電前に洞
調律中のvoltage mapをCARTOシステムを用いて
作成し,通電成功部位の分布を解析した.【結果】
有 効 通 電 部 位 の 平 均 電 位 高 は0.70±0.39mVで,
右室から肺動脈にかけて電位高が減衰する領域
(0.5mV̶1.5mV on bi-polar voltage)に集中した
(89.6%).その領域の幅は上下5.2±1.2mmであっ
た.【結語】RVOT-arrhythmias の起原は肺動脈
弁付近の電位高の移行領域(transitional voltage
zone:TVZ)に多かった.TVZを同定することは,
RFCAの有用な指標となりうると考えられた.
岩手医科大学附属循環器医療センター(2008 年 6 月) 1057
52) 外傷性胸部大動脈損傷に対しステントグラ
フト内挿術を施行した2例
(綜合南東北病院心臓血管外科) 緑川博文・
菅野 恵・石川和徳
55) 腸骨動脈の血栓処理に難渋した急性下肢動
脈閉塞症の一例
(明和会中通総合病院) 阪本亮平・
五十嵐知規・佐藤 誠
【症例1】54歳,男性,2006年12月17日,交通外
傷による胸部大動脈破裂にて救急搬送,大動脈狭
部に血胸を伴う仮性瘤を認め,同日緊急にステ
ントグラフト内挿術施行(EVAR)
,経過良好に
て術後13日に退院した.【症例2】54歳,男性,
2007年4月9日,交通外傷による肋骨骨折,肺挫
傷にて救急搬送,遠位弓部に仮性瘤を認めたが,
出血なく拡大も軽度であったため経過観察とし
た.その後,拡大傾向にあり,同年11月15日腋窩
−腋窩動脈バイパス併用したEVAR施行,経過良
好にて術後12日に退院した.外傷性胸部大動脈損
傷に対するEVARは有効な治療法と考えられた.
症例は脳梗塞既往のある81歳男性.左下肢急性動
脈閉塞にて紹介受診.左総腸骨動脈と膝窩動脈の
閉塞が確認され緊急血栓除去術が施行されたが,
腸骨動脈にはフォガティーカテーテルが通過しな
かった.血栓除去術後のABIは右0.95左0.46.術
後下肢コンパートメント症候群を発症し減張切開
術を追加.創閉鎖術前に抗凝固薬を休薬したとこ
ろ脳梗塞を併発.その後も創傷治癒が得られない
ため腸骨動脈へPTAを行う方針とした.対側大腿
動脈アプローチにて0.035inchラジフォーカスで
病変をクロスし6mmバルーンで拡張.術後膝窩
動脈の血栓閉塞のため再度血栓除去術を行い,約
1ヶ月後創治癒が得られ独歩退院.血栓除去術後
の腸骨動脈へのPTAの適応は妥当であったか?
53) Aortic root dilationの切迫破裂を来したvascular type Ehlers-Danlos syndromeの手術例とそ
の考察
(仙台医療センター心臓血管外科)
篠崎 滋・生井麻子・櫻井雅浩
56) 当院における内頚動脈ステント(CAS)の
初期成績
(米沢三友堂病院循環器科) 川島 理・
阿部秀樹
(同脳神経外科) 新宮 正
24歳の男性が胸部不快感を主訴に近医を受診した
が経過観察となった.しかしその後も症状が続き,
4日後のCTで67mmのAortic root dilation(ARD)
が あ り, 切 迫 破 裂 と 診 断 さ れ た. 当 院 搬 送 時
Marfan症候群の身体所見はなく,胸部症状も収
まっていた.家族歴に母親と祖父の心血管系疾患
での死亡があった.CTで解離は無いが,ULPを
認めた.症状は収まっていたため待機的に大動脈
基部置換術を行った.術中所見として菲薄な皮膚
と,動脈瘤の一部に内膜のdefectを認めた.臨床
的には顔貌,皮膚所見からvEDSと診断した.現
在皮膚組織培養で確定診断を待っている.自験例
として2例目のvEDSとなった.従来の若年者の
AAEやARDはvEDSが見過ごされている可能性が
ある.
2007年6月から2007年12月までに,当院で施行
した内頚動脈STENT(CAS)の初期成績を検討
した.対象は3例(82±4歳,全例男性),4病
変(右内頚動脈狭窄2病変,左内頚動脈狭窄2病
変)であり,全例,一過性脳虚血発作(TIA)発
症により発見された.使用STENTは,全てSelfexpandable stentであり,φ4∼5mmで拡張し
た.石灰化を伴う1病変で,フィルタープロテク
ションデバイス(FPD)の回収に難渋したが,幸
い重篤な合併症はなく,全例,良好な開大を得た.
【結論】未曾有の高齢化社会を迎え,今後,困難
な病変に対するCASの需要は益々増大するもの
と予想される.循環器科医と脳神経外科医との密
接な連携が必要不可欠である.石灰化病変に対す
るCAS留置では,フィルタープロテクションデバ
イス(FPD)の回収に細心の注意を要する.
54) 術前には診断しえなかった大動脈弁閉鎖不
全で発症した大動脈炎症候群の一例
(市立秋田総合病院循環器科) 中川正康・
佐藤和奏・柴原 徹・藤原敏弥
(本荘第一病院循環器科) 池田 研
(きびら内科クリニック) 鬼平 聡
(秋田大学循環器内科学分野) 伊藤 宏
57) 人間ドック受診者の頸動脈壁硬化度(Stiffness)上昇に関与する危険因子の性差についての
検討
(岩手医科大学内科学講座循環器腎内分泌分野)
玉田真希子・蒔田真司・安孫子明彦・
長沼雄二郎・那須和広・菅原正磨・中村元行
60) 心電図上イプシロン波を認めた左心不全の
一例
(秋田大学循環器内科学分野・呼吸器内科学分野)
佐藤貴子・渡邊博之・高橋陽一郎・野堀 潔・
石田 大・飯野健二・小坂俊光・長谷川仁志・
伊藤 宏
動脈壁硬化度の上昇は将来の心血管イベントの発
生と密接な関連を持つとされている.本研究では,
人間ドック受診者825名(男性527名,40歳以上,
平均60.5歳)を対象に超音波検査で頸動脈壁Stiffness β指数を計測した.種々の心血管危険因子
を用いたステップワイズ重回帰分析で,Stiffness
β指数上昇には収縮期血圧上昇,拡張期血圧低下,
加齢に加えて,男性では推定糸球体濾過率(β
=0.162,p<0.001)とBMI(β=0.137,p=0.001)
が,女性では腹囲径(β=0.170,p=0.005)およ
びHbA1c値(β=0.135,p=0.020)が他の因子に
独立して有意な関連を示した.心血管イベント抑
制には性別特有の重点的な危険因子管理が必要と
考えられた.
【症例】35歳男性.【現病歴】平成20年1月,労作
時呼吸困難を自覚し近医受診.胸部X線写真上肺
うっ血を認め,心不全の精査加療目的に当院紹介
受診となった.心電図は洞調律も心室内伝導障
害と,V1∼3に陰性T波,V1にイプシロン波を認
めた.心エコーでは,左室前壁中隔,下壁の壁
運 動 がhypokinesis∼akinesisと な っ て お り,EF
40%,中隔に壁肥厚,後壁基部のひ薄化を認めた.
LVDd 62.6mmと左室拡大を認めるも右室拡大は
明らかではなかった.ホルター心電図にて心室頻
拍の出現なし.冠動脈に有意狭窄も認めなかった
が,右室心筋生検にて類上皮肉芽腫が検出され,
心サルコイドーシスと診断された.心サルコイド
ーシスが原因で,心電図上イプシロン波出現を認
めた稀な一例を経験したのでここに報告する.
40歳代女性.大動脈弁閉鎖不全(AR)による心
不全にて入院,左室のびまん性収縮低下を認め,
EFは30%台であった.心不全軽快後もARの程度,
EFともほぼ不変で手術も考慮されたが,本人の
希望もあり内科的治療で経過観察となった.約2
年後心不全の急性増悪にて再入院,ARは増悪し
ており手術となった.手術時大動脈弁および大動
脈に炎症性変化を認めたため病理組織学的検査を
施行,大動脈炎と診断された.後日施行した血清
対応型タイピングではHLA B52が陽性であった.
組織所見とCRP軽度上昇もありプレドニン投与を
開始した.本症例では大動脈や主要分枝動脈に狭
窄・閉塞病変をきたしておらず,大動脈弁閉鎖不
全以外には大動脈炎症候群に典型的な症状・病態
を呈さなかったため,術前の診断は困難であった.
1058 第 146 回東北地方会
58) 産褥心筋症の2例
(岩手県立中央病院循環器内科) 加藤廉平・
高橋 徹・三浦正暢・遠藤秀晃・花田晃一・
八木卓也・中村明浩・野崎英二・田巻健治
(岩手医科大学第2内科循環器医療センター)
佐藤 衛
【症例1】30代女性 妊娠高血圧腎症合併あり
帝王切開術後5日目から頻脈を認め,心不全症
状を呈した.人工呼吸管理下でカテコラミン,
hANP,利尿剤の投与で症状改善した.心機能評
価のために心筋生検を含む心臓カテーテル検査を
行った.心臓カテーテル検査で心機能改善を認め
たため退院し,現在は外来にてβ遮断薬,ACE
阻害薬で経過観察している.【症例2】30代女性
祖母に拡張型心筋症の家族歴あり 妊娠合併症な
し自然分娩にて出産し,産褥6日目に心不全症状
を呈した.カテコラミン,hANPで治療した.心
不全の軽快後,心筋生検を含む心臓カテーテル検
査を行った.現在は外来にてβ遮断薬,ACE阻
害薬で経過観察している.以上,心筋生検をし得
た2例の産褥心筋症を経験したので報告する.
59) 心および全身性AAアミロイドーシスの1
剖検例
(盛岡赤十字病院) 太田達樹・齋藤雅彦・
高橋 保・永野雅英・市川 隆
心アミロイドーシスの生命予後は極めて不良とさ
れる.うっ血性心不全,不整脈,体重減少など特
徴的な症状を呈する時期には既に心臓や他の臓器
へのアミロイド沈着が高度であり,早期発見は困
難である.心筋や消化管粘膜の生検による病理学
的検索が必須で,確定診断には侵襲的手段も避け
られない.心室拡張障害に起因する心不全増悪を
繰り返し,当科初診より1年2か月の経過で死亡
した全身性アミロイドーシスの剖検例を報告す
る.症例は82歳男性.心臓超音波検査での明らか
な心室壁肥厚所見にもかかわらず心電図は低電位
を示し,非侵襲的検索により心アミロイドーシス
が強く疑われたが生検には同意が得られず.剖検
では多臓器にアミロイドの沈着を認め,過マンガ
ン酸カリウム処理後のCongo redの染色性消失か
らAAアミロイドーシスが示唆された.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
61) 孤立性三尖弁閉鎖不全による難治性心不全
症例に対して弁置換術を施行した1例
(福島県立医科大学第一内科学講座)
待井宏文・中里和彦・上北洋徳・坂本信雄・
石川和信・石橋敏幸・竹石恭知
(同心臓血管外科学講座) 高瀬信弥・
横山 斉
三尖弁閉鎖不全(TR)は他弁疾患や肺高血圧症
などに伴う圧負荷・容量負荷が原因で起こる二次
性のものがほとんどであり,孤立性はまれであ
る.本症例は2001年に心不全でA病院に入院した
際,洞不全症候群と指摘されDDDモードのPPM
を植え込みされたが,入院時すでにIII°のTRが
認められており孤立性TRと診断されていた.以
降も心不全にて入退院を繰り返していたが,徐々
に薬物反応に乏しくなったため,2007年9月に精
査加療目的に当科紹介となった.重症右心不全に
対して内科的加療反応は乏しく,TRは手術適応
と判断し同年11月に当院心臓血管外科で弁置換術
(Mosaic 31mm)施行.以降循環動態は改善した.
今回我々は重度TRによる難治性右心不全に対し
て弁置換術を施行し奏効した1例を経験したので
報告する.
64) 急速に循環動態が増悪した未分化左房内肉
腫の一例
(岩手医科大学内科学第2講座・附属循環器医療センター内科)
南 仁貴・房崎哲也・肥田龍彦・肥田頼彦・
中島悟史・小林 健・木村琢巳・荻野義信・
菅原正磨・遠藤浩司・伊藤智範・中村元行
(同附属循環器医療センター心臓血管外科)
岡 隆紀・佐藤 央・岡林 均
(北上済生会病院循環器科) 小室堅太郎・
斉藤 大・茂木 格
症例は59歳女性.主訴は呼吸困難.受診時胸部レ
ントゲンで胸水貯留あり,心エコーで左房内に腫
瘤性病変が疑われたため,胸部造影CT施行した
ところ左房内に巨大なmassを認めた.左房内腫
瘍による心不全として加療を開始.経過中,心不
全の悪化など循環動態の急激な増悪があり,心エ
コーで左室へ新たに嵌頓所見を呈していたため緊
急手術を施行.手術時左房付着部が広基性であり
悪性が疑われた.病理所見では未分化型左房内肉
腫と診断された.成人では稀である心臓原発の悪
性腫瘍の一例を経験したので報告する.
62) 癌性心膜炎による心タンポナーデに対しカ
ルボプラチン心嚢内投与が有効であった1例
(仙台医療センター循環器科) 土屋尭裕・
尾上紀子・清水 亨・田中光昭・富岡智子・
馬場恵夫・谷川俊了・篠崎 毅
【症例】58歳女性【現病歴】肺腺癌による癌性心
膜炎のため当院通院中であった.平成20年1月よ
り心タンポナーデによる心不全症状が出現したた
め当科入院となる.【経過】血清心嚢液は初日に
800ml排液され,以後200-300ml/日排液されてい
た.カルボプラチン心嚢内投与(計4回)によっ
て,排液量は50ml/日程度まで減少した.初回投
与の約3週間後より血小板と好中球が減少した.
抗癌剤の副作用と判断し,血小板輸血を施行した.
【考察】癌性心膜炎による心タンポナーデに対し
カルボプラチン心嚢内投与が有効であった.心嚢
内投与にても静脈注射と同様の副作用が出現し得
る.
63) 完全房室ブロックを初発症状とし,心不全
に急激に陥った心臓原発悪性リンパ腫の一例
(岩手医科大学第2内科・循環器医療センター)
後藤 巖・山崎琢也・那須和広・高橋智弘・
石川 有・盛川宗孝・照井克俊・小林 昇・
田代 敦・中村元行
今回完全房室ブロックを初発症状とし,両心不全
の増悪を呈した心臓原発性悪性リンパ腫の1例を
経験したので報告する.症例は80歳男性,胸部違
和感を主訴に来院,一過性房室ブロックから完
全房室ブロックとなり,その後急激に心不全増
悪をきたした.心エコー図ならびに胸部造影CT
で,房室間溝,右室前面,右房内に腫瘍性病変を
確認した.循環動態の維持の為に準緊急に恒久的
ペースメーカ植え込み術を施行し,一時的に心不
全は軽快した.しかし腫瘍性病変は週単位で急速
に増大し,両心房心室内腔を占拠し心不全は難治
性となった.開胸心膜生検で悪性リンパ腫(large
B-cell type)と診断し,化学療法(THP-COP)を
行った.腫瘍は縮小し,血行動態の劇的な改善が
得られた.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
岩手医科大学附属循環器医療センター(2008 年 6 月) 1059
第 208 回 日 本 循 環 器 学 会 関 東 甲 信 越 地 方 会
2008 年 6 月 7 日 コクヨホール
会長:川 名 正 敏(東京女子医科大学附属青山病院循環器内科)
1) MSCTにて多発性冠動脈瘤を認め,川崎病罹
患が疑われた若年者狭心症の1例
(日本医科大学多摩永山病院内科・循環器内科)
西城由之・小谷英太郎・渋井俊之・神谷仁孝・
細川雄亮・宗像 亮・吉川雅智・上村竜太・
中込明裕・草間芳樹・新 博次
症例は39歳男性.既往歴では特記すべき事項な
し.2007年7月より労作時呼吸困難が出現し当科
受診.トレッドミル負荷試験にてST下降を認め
労作性狭心症の診断で入院.冠動脈造影では右冠
動脈近位部の冠動脈瘤と末梢の完全閉塞,左前下
行枝近位部の完全閉塞,左回旋枝から右冠動脈と
左前下行枝への側副血管を認めた.後日施行した
MSCTにて,右冠動脈の瘤直上より瘤を回旋する
側副血管が描出され,左前下行枝の閉塞近位部に
は石灰化を伴う冠動脈瘤が確認された.本例は,
若年で冠危険因子は喫煙のみ,凝固異常症も認め
ないにも関らず,石灰化と多発性冠動脈瘤を伴う
高度な冠動脈硬化を認めたことから,既往は不明
瞭であるものの,幼少時に罹患した川崎病に続発
する冠動脈病変により労作性狭心症を発症したも
のと推測された.
2) 心室細動から蘇生され,社会復帰し得た冠攣
縮性狭心症の1例
(君津中央病院) 松戸裕治・亀田義人・
田中秀造・芳生旭志・関根 泰・藤本善英・
山本雅史・氷見寿治
症例は64歳男性.起床後,安静時に胸部不快感が
出現し,5分後に家族の前で意識消失.救急車内
のモニター心電図で心室細動を認め,3回の電気
的除細動が施行された後,PEAの状態で当院に搬
送となった.緊急の冠動脈造影検査で正常冠動脈,
エルゴノビン負荷試験で左右の冠動脈に冠攣縮を
認め,心電図にてSTが上昇したため冠攣縮性狭
心症と診断した.蘇生後脳症に対して低体温療法
を施行し,意識は徐々に回復した.現在は完全に
社会復帰され,内服治療にて外来に通院中である.
冠攣縮性狭心症による心室細動から救命され,完
全社会復帰し得た稀な症例と考えられたため報告
する.
1060 第 208 回関東甲信越地方会
3) 自宅で心肺停止となり,BLS,AED,ドクター
カー搬送により救命し得た急性心筋梗塞の1症例
(横須賀市立うわまち病院循環器科)
辻 武志・谷川真一・杉浦 徹・泊口哲也・
黒木 茂・水政 豊・岩澤孝昌・沼田裕一
症例は40歳女性.既往に高血圧,高脂血症,現喫
煙,肥満あり.2006年8月22日から不安定狭心症
あり,他院にて冠動脈造影予定されていた.9月
1日深夜持続する胸痛自覚後自宅で心肺停止とな
った.夫によりBLSが施行され,救急救命士によ
りAED装着,心室細動が確認され,4回目で除
細動に成功し三浦市立病院に搬送された.心電図
にて前壁急性心筋梗塞と診断され当院ドクターカ
ー要請され,緊急冠動脈造影が施行された.左前
下行枝#7-100%であり血栓吸引後ステント留置さ
れCCU入院となった.その後の経過は順調であ
った.今回我々は深夜発症でありながら,バイス
タンダーCPRとAEDによる除細動により救命さ
れ,ドクターカー搬送により遅滞なくPCI施行さ
れ,完全社会復帰を果たした急性心筋梗塞症例を
経験したので報告する.
4) 心尖部心筋梗塞に合併した左室内血栓の1症例
(松本協立病院循環器内科) 横田大介・
山崎恭平・阿部秀年・上小澤護・鈴木 順
症例は60歳男性.1年前に脳梗塞にて入院.平成
19年10月失神にて緊急搬送された.病院到着時は
意識清明で明らかな麻痺はなく,頭部CTでも変
化なかった.今回の事とは別にこの1年間で数回
胸痛があった.心電図でV3,4に新しくQ波を認め,
心エコーで左室心尖部に3cmの腫瘤を認めた.
心エコー,心臓MRIで心尖部に明らかな心室瘤の
形成はなかったが,MRI遅延造影で心尖部に取り
込み像があった.CAGでは#8の抹消に99%遅延
を認めた.以上から腫瘤は,心尖部心筋梗塞に合
併した左室内血栓と診断しワーファリンで治療を
開始し縮小してきている.明らかな心室瘤形成が
なく,心筋梗塞に伴い形成された左室内血栓の症
例は比較的珍しく報告した.梗塞部位と心筋梗塞
急性期に治療が行われなかったことが原因と思わ
れた.
5) 逆行性アプローチにてバルーン通過困難で
あったCTO病変に対し0.010inchワイヤーを用い
血行再建し得た1例
(東邦大学医療センター大森病院循環器センター心血管インターベンション室)
冠木敬之・我妻賢司・内田靖人・新居秀郎・
天野英夫・戸田幹人
(同循環器センター内科) 山崎純一
症例は51歳男性.心不全にて19年9月入院となっ
た.CAGで,RCAseg1完全閉塞,LADseg7 73%狭
窄を認めた.LADにCypher 2.5/23mmを留置し後
日RCA-CTOに対しPCI施行.6Fr両TRIで,まず
順行性にアプローチするも病変は通過しなかっ
た.逆行性アプローチを試み,FielderFCにて閉
塞遠位端までワイヤーは通過するも,Finecross,
バルーンともに中隔枝を通過しなかった.再度順
行性にアプローチ,conquestPRO 12gで病変の通
過可能であったが,バルーンの通過が不可能であ
った.後日Re-PCI施行.7FrTRIで開始,コント
ロール造影でCTO部はわずかに再還流を認めてお
り,0.010inch Eelを用いたところ容易に通過して,
バルーンも通過可能となりCypherを留置し良好
な拡張を得た.0.010inchワイヤーのCTOに対す
る適応について示唆に富む症例と考え報告する.
6) PCPSが救命に有効であったショック合併右
室梗塞の1例
(東京医療センター循環器科) 石井 聡・
布施 淳・小野智彦・池上幸憲・中根登喜子・
前淵大輔・坂本宗久・樅山幸彦
高血圧既往あるも元来健康な86歳男性.失神,転
倒,頭部外傷にて当院救命センター搬送.当院搬
送時血圧60mmHg,心拍数40/分,心電図上完全
房室ブロックとII,III,aVF,V4R,V5RでST上
昇を認めた.心エコーでは下壁・右室壁運動低下
あり.右室梗塞合併下壁梗塞の診断で緊急CAG
施行.#1完全閉塞.PCIによる早期再灌流療法
を施行した.再灌流後も,補液,カテコラミン投与,
IABP下でもショックから離脱できず,PCPS導入.
急性期を乗り越え,循環動態は安定化.第3病日
にはPCPS離脱,第4病日にはIABP抜去,第21病
日独歩にて軽快退院となった.右室梗塞のショッ
ク合併例は予後不良とされている.PCPSが救命
に極めて有効な1例であった.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
7) 重症3枝,LMT病変を伴う急性心筋梗塞で心
原性ショックとなった超高齢女性の1症例
(昭和大学藤が丘病院循環器内科)
小沼純子・若林公平・前澤秀之・森 敬善・
本田雄気・太田 圭・河内恵介・下島 桐・
清水信行・浅野冬樹・佐藤督忠・江波戸美緒・
東 祐圭・鈴木 洋・嶽山陽一
症 例 は85歳 女 性.20年 前 にCABG(SVG−LAD)
を施行された.2007年11月21日心窩部不快感が生
じ急性心筋梗塞の診断で紹介搬送された.緊急
CAGではSVG−LAD閉塞,RCA#1 99%(責任病
変 ),LMT 90%,LAD #6-7 90%,LCX#11 75%
であった.収縮期血圧70 mmHgの心原性ショッ
クでありIABP留置後PCIを施行した.TIMI 3を
得たが,術後CIは1.21/min/m2であった.翌日も
ショックが遷延しLMTからLADに追加PCIを施行
した.11月23日には収縮期血圧100mmHg台,CI:
3.1/min/m2と改善し12月5日独歩で退院した.シ
ョックを伴う超高齢者の心筋梗塞に対し補助循環
下の再潅流療法と残存虚血解除の有効性を示す一
例と考えられた.
8) 労作性狭心症の3枝病変に対して超低侵襲に
一期的にPCIを施行できた1例
(水戸赤十字病院循環器科) 根本正則
【背景】薬剤溶出性ステントによりPCIの適応が
拡大したが,過剰な造影剤やdeviceの使用,被爆
量の増加など新たな問題も生じている.PCI本来
の利点が低侵襲だという原点に立ち,患者の肉体
的.精神的.経済的負担をできる限り軽減した手
技が,今後術者に望まれる.今回我々は,超低侵
襲に3枝病変を一期的に治療できた症例を経験し
たので報告する.【症例】59歳男性労作時息切れ
を主訴に紹介.3枝病変を確認し,本人の強い希
望により,一期的にPCIを施行.手技時間50分,
総透視時間20分,総放射線量1400μGy.使用し
たdeviceは,ガイドカテーテル1本,ガイドワイ
ヤー2本,ステント3本,バルーン1本,IVUS
1本,入院期間は3日であった.その後の経過良
好である.【結語】病変形態を選択すれば,多枝
病変でも,超低侵襲に十分な治療が可能である.
9) HIT typeIIを合併した重症3枝病変に対して
CABGを施行し得た家族性高脂血症の1例
(日本心臓血圧研究振興会附属榊原記念病院循環器科)
竹内崇博・高見澤格・桃原哲也・井上完起・
関 敦・相川 大・井口信雄・渡辺弘之・
長山雅俊・浅野竜太・高山守正・梅村 純・
住吉徹哉
(同心臓血管外科) 高梨秀一郎
症例は47歳男性.2007年5月1日起坐呼吸のため
近医に救急搬送された.EF 20%と著明な低心機
能を認め,心不全治療に難渋したため,同年7月
3日精査・加療目的で当院に転院した.精査の結
果心不全の原因は,家族性高脂血症にともなう
重症3枝病変による虚血性心筋症と診断しCABG
を予定した.しかし,前医でヘパリン投与後に
血小板減少(18万→5.3万)を認めたため精査し
たところ,HIT抗体が陽性でありHIT typeIIと診
断した.HITTSを生じる可能性が高いため,HIT
抗体が陰性化したことを確認した後に,9月3
日off-pump CABGを施行した.術中は通常量のヘ
パリンを用い,術後はアルガトロバンを用いて
HITTSの発症なく経過し,合併症なく退院した.
HIT typeIIに対しCABGを施行し得た稀な症例で
あるため,若干の文献的考察を含めて報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
10) 急性心筋梗塞発症第17病日に乳頭筋完全断
裂を来した1例
(東京都立府中病院循環器科) 山田透子・
小高恵理香・大滝陽一・磯貝俊明・松山優子・
加藤 賢・金子雅史・小金井博士・久保良一・
田中博之・上田哲郎・稲葉茂樹
(同心臓血管外科) 野中隆広・二宮幹雄・
大塚俊哉
症例は70歳男性.胸部違和感を主訴に当ER受診.
I,aVLでST上昇を認め,急性心筋梗塞と診断.
緊急CAGで#11に99%狭窄(TIMI1)を認め,ス
テント留置し発症16時間で再疎通に成功.入院時
より中等度の僧帽弁閉鎖不全(MR)を認め急性
左心不全を合併したが,薬物治療で改善.第12病
日の経食道心エコーでも中等度のMRは認めたが
形態的異常は明らかでなく,腱索の一部断裂が疑
われた.しかし第17病日突然ショックとなり,経
胸壁心エコーで乳頭筋完全断裂と,それに伴う高
度MRを認めたため,緊急で僧帽弁人工弁置換術
施行.術後も心不全等で難渋したが,第89病日軽
快退院.急性心筋梗塞に伴う乳頭筋断裂の多くは
梗塞後1週間以内で,2週間以上経過して発症す
ることは稀であり,若干の考察を加え報告する.
11) 骨髄線維症による貧血を伴う維持透析患者
に併発した心肥大と心不全の1例
(杏林大学第二内科) 谷合誠一・南島俊徳・
谷合誠一・石黒晴久・永井 亘・坂田好美・
吉野秀朗
(同病理学教室) 藤岡保範
症例は5年間の維持透析を行なう71歳男性.平成
19年7月より,透析中の血圧低下を認め,透析困
難となったため当院に紹介された.胸部X線写真
で心拡大,心電図で左室肥大の所見を,心エコー
上収縮能は正常であったが,著明な求心性肥大を
認めた.3年前の心エコーでは有意な心肥大を認
めなかった.心肥大の原因は不明であったが,輸
血によりヘモグロビンを維持し,β遮断薬,シベ
ンゾリンの内服とし治療を継続した.しかし,そ
の後も血圧低下は続き,非透析時にも血圧低下が
見られた.胸水貯留も伴い,徐々に呼吸状態が不
良となり9月1日死亡した.剖検により,心筋を
初めとする多臓器におよぶアミロイド沈着を認め
た.貧血に伴う負荷と,透析に伴うアミロイドー
シスによって心肥大が急速に進行し,循環動態の
維持が困難となったと考えられた.
12) 左室流出路狭窄と僧帽弁閉鎖不全を伴った
たこつぼ型心筋症の1例
(新葛飾病院ハートセンター内科)
山家 謙・奥野友信・朝田 淳・平野周太・
宮澤拓也・香山大輔・松尾晴海・榊原雅義・
森井 健・清水陽一
症例は60才女性.ゴルフ練習中に前胸部違和感を
自覚したため近医受診.胸部誘導心電図にて陰性
T波を認めたため,急性冠症候群の疑いにて当院
紹介入院.冠動脈病変を否定するために行った冠
動脈造影では有意狭窄を認めなかった.心臓超音
波では左室基部の過収縮と心尖部を中心とした無
収縮を認めた.僧帽弁収縮期前方運動に伴い約
42mmHgの左室流出路狭窄と僧帽弁閉鎖不全を認
めた.心不全の合併なく経過し,第11病日には左
室壁運動異常,左室流出路狭窄,僧帽弁閉鎖不全
が消失した.僧帽弁前方運動による僧帽弁閉鎖不
全を伴ったたこつぼ型心筋症の一例を経験したの
で,若干の文献的考察を加えて報告する.
13) 悪性リンパ腫治療後のアドリアマイシン性
心筋症に対し左心補助人工心臓を装着し8ヶ月後
に離脱し得た1例
(東京大学心臓外科) 縄田 寛・西村 隆・
許 俊鋭・小野 稔・本村 昇・大野貴之・
高本眞一
アドリアマイシン性心筋症は,左心補助人工心臓
(LVAD)装着後の心機能回復やLVAD離脱がまれ
な疾患と考えられている.我々は今回,LVADが
bridge to recoveryとして極めて有効であったア
ドリアマイシン性心筋症の一例を経験したので報
告する.患者は55歳男性.悪性リンパ腫に対し
2005年8月よりR-CHOP療法8コースを施行し,
完全寛解を得た(アドリアマイシン総量400mg/
m2).2006年7月より咳漱,痰が出現し,抗生剤
や感冒薬で対処するも症状は持続した.10月にア
ドリアマイシン性心筋症と診断.症状増悪し挿管
管理下にカテコラミン投与とCRT植え込みを施行
するも症状は改善せず,2007年1月26日に前医で
LVAD+僧帽弁形成術施行.リハビリテーション
に励み心機能の回復を得,2007年9月21日,当院
でLVAD離脱術を施行,第37病日に軽快退院した.
14) 肥大型閉塞性心筋症に急性心筋梗塞を合併
しペースメーカー(DDD)治療を行った1例
(神奈川県立循環器呼吸器病センター循環器科)
中戸川知頼・福井和樹・中川 毅・大楠泰生・
尾崎弘幸・細田順也・加藤真吾・遠山慎一
症例は81歳男性.陳旧性肺結核・慢性肺気腫・肥
大型閉塞性心筋症(PG 68mmHg)をfollow.2007
年9/13急性肺炎で入院中に急性心筋梗塞
(Killip4)
を合併し気管内挿管後に心臓カテーテル検査を施
行.IABP挿入後にSeg7の閉塞病変に対して血栓
吸引療法を施行しTIMI2-3に改善(paekCPK6143)
.
9/19心不全が改善せず(C.I. 1.9,PCWP30),
HOCM(PG 213mmHg)とMR(severe)の悪化
に よ るLOSが 考 え ら れ 一 時 ペ ー シ ン グ(DDD)
を開始.HOCMとMRの改善により心不全は軽快
しIABPが離脱できた.9/26永久ペースメーカー
植 え 込 み 術 を 施 行 し, 呼 吸 不 全 は 気 管 切 開 後
CPAPまで改善したが,10/22陳旧性肺結核によ
る喀血で慢性呼吸不全が悪化し11/1多臓器不全
で死亡.HOCMの悪化に対してペースメーカー
治療が有効であった症例を経験したので報告し
た.
15) SLEの 血 管 炎 に 対 す るcyclophosphamide
投与により心不全を発症したと考えられた1例
(東京女子大附属青山病院循環器内科)
本間美穂・坂井晶子・塩野悦子・渡邉裕太・
梶本克也・島本 健・川名正敏
(同膠原病リウマチ内科) 川口鎮司・
益田郁子
症例は31歳女性.2001年に他院にてSLEと診断さ
れ,prednisolone投与を開始.血管炎による末梢
神経障害が悪化したため,当院にて2007年4月か
ら10月末までに計5回(500∼600mg/回)のcylophosphamide投与を行った.10月末頃より労作時
呼吸苦を自覚,11月24日起座呼吸が出現しうっ血
性心不全の診断で他院に緊急入院.心エコー上左
室収縮の瀰漫性に低下(EF30%),左室拡大,心
嚢液貯留を認めた.HANP0.025γとfrosemide投
与にて心不全改善後にcarvedilolを導入し,投与開
始約2週間で心機能の軽度改善と左室径の縮小を
認めた.冠動脈CTで有意狭窄はなく,心臓MRI
でも明らかな心筋障害は認めず原因は特定できな
かったが,高用量のcychlophosphamideによる心
筋障害が報告されており,本症例でも心不全の一
因と考えられたため若干の考察を加え報告する.
コクヨホール(2008 年 6 月) 1061
16) Churg-Strauss症候群による心筋炎から突
然死に至った一剖検例
(横浜市立みなと赤十字病院心臓病センター)
瀬戸口雅彦・倉林 学・杉山浩二・前田峰孝・
志村吏左・青柳秀史・比嘉南夫・畔上幸司・
沖重 薫
(同内科) 萩山裕之
(東京医科歯科大学病理部) 河内 洋・
熊谷二朗
(同循環器内科) 磯部光章
19) 中枢神経刺激薬により増悪したと考えられ
る心不全の1症例
(日本赤十字社医療センター循環器内科)
高田宗典・安川康一・中山幸輝・加茂雄大・
瀧澤雅隆・魚住博記・大谷恵隆・小早川直・
福島和之・竹内弘明・青柳昭彦
22) VDDペースメーカーリードの右室穿孔に対
しVVIリードの追加挿入にて保存的に治療し得た
1例
(公立昭和病院循環器科) 山田朋幸・
田中茂博・佐藤純一・小阪明仁・石原有希子・
定 利勝・吉良有二
症例は59歳男性.2年前より糖尿病,気管支喘息にて
近医受診中であった.来院時の主訴は安静時胸部圧迫
感と右上下肢の痺れであった.ACS疑いにて緊急CAG
施行,血管攣縮性狭心症と診断され,Ca拮抗薬開始
となる.入院後,高好酸球血症(11600/μl)が認め
られ,上下肢の痺れなど多発単神経炎の存在も合わせ,
臨床的にChurg-Strauss症候群と診断された.入院5
日目再度胸痛が出現し血管拡張薬を投与するも改善せ
ず,再度CAGを施行するが有意狭窄・血管攣縮は無
く,血管攣縮性狭心症は否定的であった.原因検索を
行なうが胸痛の原因は不明であった.入院7日目,激
しい胸痛が出現し,意識消失・心停止となり死亡.剖
検の結果,死因は心筋炎であった.Churg-Strauss症
候群に合併した急速に進行する心筋炎で死亡した剖検
例は稀と思われ報告する.
対人仕事のストレスで焦燥/不安感あり30歳より
不安神経症とし精神科でTCA,BZP,中枢神経刺
激薬(methylphenidate®リタリン)を服用中の38
歳男性.不安症状増悪に同薬物を増量され70mg/
日服用中だった.2007年12月呼吸困難感で当院外
来初診しCXRで肺鬱血像あり.UCGで左室拡大
/びまん性の壁運動低下LVEF10%前後.急性心不
全の薬物療法開始.CAGで冠動脈有意狭窄なし.
MIBG心筋シンチでH/M比1.3,WR68%と高度心
臓神経障害あり中枢神経刺激薬が増悪因子と判
断.同薬物にはα-アドレナリン受容体刺激作用
有し血圧上昇/心拍数増加とカテコラミン心筋症
様の心筋障害を呈する.心不全を起こしうる疾患
を鑑別中だが,同薬物中止後一週間でBNPが924
→27.7pg/mlと低下しLVEF30%と改善し,同薬物
が心不全の増悪因子であったと判断し報告する.
76才男性.平成19年7月より全身倦怠感を主訴に
受診,心電図より完全房室ブロックと診断した.
9月25日ペースメーカー植込み術を施行,SJM社
製のVDDリードを挿入,術後経過に問題なく退
院となった.11月初旬より再度倦怠感が出現し,
11月16日ペーシング不全・閾値の上昇を認めペー
スメーカーリード先端の右室穿孔と診断し緊急入
院となった.外科的リード抜去・心筋電極装着を
検討したが,全身麻酔の高リスク症例でありVVI
リードを追加挿入し,穿孔したVDDリードの心
房センスを用いVDDモードとした.以後は合併
症なく経過良好である.本症例の治療方針に対し
若干の考察を加え報告する.
17) 労作性房室ブロックで発症しステロイドが
有効であった心サルコイドーシスの1例
(順天堂東京江東高齢者医療センター循環器内科)
渡邊容子・山上伸一郎・増田洋史・大木勇一
(順天堂大学循環器内科) 代田浩之
20) 救命にIABP,PCPSを要した重症たこつぼ
心筋症の1例
(東京都立墨東病院循環器科) 高山絵美・
伊元裕樹・小林宗則・金子伸吾・廣野善之・
寺井知子・鈴木 紅・岩間 徹・久保一郎
症例は61歳男性.平成17年4月に急性心筋梗塞を
発症しステント留置術を施行した.この時胸部
CT上縦隔及び右肺門部リンパ節腫大を認め,同
年7月に縦隔リンパ節生検で肺サルコイドーシス
と診断された.平成18年10月労作時のめまいが出
現し,負荷心電図で2:1房室ブロックを認めた.
冠動脈造影では有意狭窄は認めなかった.房室ブ
ロックの存在,心エコーでのび慢性の壁肥厚,心
筋シンチグラムでの灌流異常を認め,診断基準よ
り心サルコイドーシスと診断した.電気生理学検
査における房室Wenchebachレートは125/分で
あった.ステロイド治療開始1ヵ月後,労作時の
めまいは消失し負荷心電図での房室ブロックは認
めなかった.治療後の房室Wenckebachレートは
150/分以上と改善を認めた.
78歳女性,心疾患の既往なし.呼吸困難で他医受
診,喘息として加療されたが改善せず当院に搬送
さ れ た. 心 電 図 は I・II・III・aVF・V2-6でST
上昇し,CK 2639ng/ml,CKMB 117ng/mlであり
急性心筋梗塞が疑われた.心カテーテル検査で冠
動脈に有意狭窄を認めず,左室造影でEF 38%と
壁運動低下し,たこつぼ様の収縮異常を認めたた
め,たこつぼ心筋症と考えられた.検査後,血圧
低下を認め(SBP 40mmHg台),IABP,PCPSに
て管理を行った.その後,血行動態は安定したた
め第7病日にPCPSを,第9病日にIABP離脱した.
第63病日の心カテーテル検査では,壁運動に異常
なく退院となった.今回,救命にPCPSを要する
重症たこつぼ心筋症を経験したので,文献的考察
を加え報告する.
23) 持続性心房細動の経過中に偽性心室頻拍が
出現し頻拍誘発心筋症を生じたWPW症候群の1例
(群馬大学臓器病態内科学) 太田昌樹・
金古善明・中島 忠・齋藤章宏・間仁田守・
新井昌史・倉林正彦
(北関東循環器病院) 笠間 周・伊藤敏夫・
市川秀一
18) 心尖部異常エコーを契機に診断されたLoffler心内膜心筋炎の1例
(帝京大学循環器科) 渡 雄至・横山直之・
初野健人・上野泰也・長岡健介・紺野久美子・
石川秀一・白鳥宜孝・興野寛幸・渡邉英憲・
宮澤亮義・山川 健・上妻 謙・佐川俊世・
古川泰司・一色高明
21) アスピリンによる顆粒球減少症に顆粒球形
成刺激と抗生物質およびペーシング治療が奏功し
た1例
(国立国際医療センター循環器科)
竹川良介・岡崎 修・藤田健太郎・清水裕也・
山崎智弘・門脇 拓・上村宗弘・大野邦彦・
副島洋行・田中由利子・樫田光夫・廣江道昭
24) 非通常型房室結節リエントリー性頻拍を合
併した修正大血管転位の1例
(日本医科大学循環器・肝臓・老年・総合病態部門)
林 寛子・宮内靖史・岡崎怜子・村田広茂・
丸山光紀・淺井邦也・小原俊彦・小林義典・
加藤貴雄・水野杏一
(富村内科循環器医院) 富村正登
症例は75歳女性.気管支喘息の既往を有した.06
年6月心不全にて入院し,CAG上有意狭窄なく,
LVG上EF:23%と全周性に壁運動低下を認め,
たこつぼ型心筋症様と診断された.07年4月より
軽労作にて呼吸苦,動悸が出現.10月より20回
/日程度の下痢が出現するようになりADLが低下
した為,同月19日入院となった.入院時のデータ
でWBC 19100/mm(内好酸球76%),IgE 808mg/
dl,BNP 351.9fmol/ml,トロポニンI 1.22ng/mlと
好酸球および心筋逸脱酵素の上昇所見を認めた.
40病日に施行した心エコーでは,左室壁運動正常
にかかわらず,心尖部に血栓様エコーを認めた.
好酸球実数6000/μgと急上昇したこと,心エコー
所見,臨床症状をあわせると,Loffler心内膜心筋
炎と考えられた.好酸球増多を伴う低左心機能例
は本疾患を考慮にいれるべきと考えられた.
【症例】83歳女性.【主訴】発熱.
【現病歴】高血圧,
高脂血症で2年前に完全房室ブロック(CAVB),
近医で内服加療中にH19年7月13日,白血球300/
μlに低下.心電図上CAVBで血圧84/46mmHg,心
拍数45/分,CTR 68%と心拡大.BNP 441.4pg/ml,
Cr 2.86mg/dl,BUN 56.8mg/dlと 腎 障 害 を 認 め,
CRP 17.69mg/dlで薬剤性顆粒球減少に敗血症疑い
内服薬中止,血液培養.G-CSF(グラン)75μg
を用い顆粒球形成刺激すると同時に体外式ペース
メーカー(PM)で血行動態を安定化,セフェム
系第3世代CFPM1g及び抗真菌薬100mgにて全身
状態改善2週後にBNP 34.1pg/ml,BUN/Cr=24.6
/1.00,WBC/CRP=4560/0.22と回復し,DDD型人
工PM植込み,第25病日に軽快し退院した.DLST
の結果アスピリンが5.4で,他に有意な上昇なく,
アスピリン誘発性と判定.G-CSF及び抗生物質併
用でPM治療に奏功した症例を経験した.
症例は36歳女性.生来健康であったが1年前よ
り動悸発作を繰り返し入院.胸部X線では左第2
弓の突出以外に特記すべき所見はなく,洞調律
時心電図ではI,aVL誘導の陰性T波以外に異常所
見なし.心臓超音波検査にて修正大血管転位(CTGA)を疑う所見を認め,心臓カテーテル検査で
C-TGAと診断.他の合併奇形はなく心機能は正
常であった.心臓電気生理学的検査では非通常型
房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)が誘発
され,逆行伝導の最早期興奮部位である冠静脈洞
入口部で焼灼に成功した.焼灼後,右心耳基部を
最早期とする弱い逆行伝導を認めた.AVNRT合
併C-TGAは稀であり,前(右心耳基部)および後
房室結節(冠静脈洞入口部)の電気生理学的傍証
が得られた報告例はなく貴重と考える.
1062 第 208 回関東甲信越地方会
64歳,男性.2007年7月うっ血性心不全(CHF)
発 症,narrow QRSの 持 続 性 心 房 細 動(AF) に
wide QRS心拍が混在していた.同年11月,CHF
再発,140/分のRR間隔の不規則なwide QRS頻拍
が持続しており,ベラパミルにて頻拍化,ATPに
て不変,ピルジカイニドにて消失した.左室壁運
動は全周性に低下し左室駆出率(LVEF)は29%で,
正常冠動脈,心筋生検,心筋シンチは正常であっ
た.電気的除細動後にはデルタ波を認め,wide
QRS頻拍は消失した.心房刺激時のQRS波形は,
wide QRS心拍と同一波形であった.右後中隔に
順伝導のみ有する副伝導路(AP)を認め,アブ
レーションにて離断した.3ヶ月後にはLVEF61
%と改善した.本例は,AFの経過中にAPの順伝
導性が出現し偽性心室頻拍を呈した稀なWPW症
候群で,それに伴い頻拍誘発心筋症が惹起された
興味ある症例である.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
25) ピルジカイニド負荷試験後,遅発性に心室
細動をきたしたBrugada症候群の1例
(獨協医科大学越谷病院循環器内科)
中村日出彦・虎渓則孝・尾崎文武・由布哲夫・
藤掛彰則・新健太郎・黒柳享義・清野正典・
田中数彦・酒井良彦・高柳 寛
症例は22歳男性.今まで失神の既往や突然死の家
族歴もなし.自宅にて就寝中突然うめき声をあ
げ失神.救急隊によるAEDにて心拍再開し搬送
された.安静時心電図は日差変動を伴うtype2の
Brugada型心電図を認め,心エコー,冠動脈造影
で器質的心疾患は認めなかった.EPSでは右室プ
ログラム刺激でVFは誘発されなかったが,ピル
ジカイニド50mg静注にてtype2からtype1へ変化
したためBrugada症候群と診断した.その後イソ
プロテレノール持続静注にて負荷前心電図波形に
復したのを確認してから帰室したが,その夜の就
寝中(検査後約10時間)に突然のVFを発症.直
流除細動を施行し心拍再開した.本症候群の診断
にはIc群薬剤の負荷試験は有用であるが,遅発性
にVFを生じることがあり検査後も注意が必要で
ある.
26) 術 中 心 外 膜 側electroanatomic mappingが
持続性心室頻拍回路の同定に有効であった心室瘤
合併d-HCMの1例
(心臓血管研究所付属病院循環器内科)
朝田一生・杉山裕章・平野景子・大塚崇之・
山下武志・相良耕一・澤田 準・相澤忠範
【症例】57歳女性.2001年12月心室頻拍(VT)を
発症,心尖部瘤を伴う肥大型心筋症と診断され,
前医でICDが植え込まれた.2007年10月複数の持
続性単形性VT(心拍数100∼150/分)が間歇的に
出現し,内科的治療に抵抗性であるため手術目的
で同年11月に当院に紹介入院となった.12月に
Dor手術を施行,同時にCARTOを用いて心外膜
側よりVTのマッピングを行った.VTは心尖部瘤
内に緩徐伝導部位を有するマクロリエントリーと
診断した.Dor手術のため心尖部に切開を加え内
膜剥離中にVTは停止し,心室瘤を囲うように円
周状にcryoablationを加え終了した.術後1ヶ月
VTは再発なく経過した.【結語】VTの頻拍回路
同定に術中の心外膜マッピングが有効であった一
例を経験した.
27) 高血圧,痛風にて18年間加療中に完全左脚
ブロックが出現し,その後左軸偏位と正常軸を繰
り返している1例
(朝日生命成人病研究所附属丸の内病院循環器科)
高遠哲也・芦田映直・山田奈美恵・藤井 潤
(昭和大学) 真島三郎
症例は,初診時(1988年)64歳男性.主訴は,高
血圧,痛風にて加療中の心電図異常.現病歴,
71年より高血圧あり降圧薬開始. 88年より痛
風. 88年初診.心電図は左軸偏位であった. 93
年よりPQ時間が延長した. 95年心電図で完全左
脚ブロック,左軸偏位となる. 96年10月完全左
脚ブロック,正常軸となる.その後完全左脚ブロ
ックで電気軸が左軸偏位と正常軸を繰り返してい
る.PQ時間は,左軸偏位時には正常軸時より延
長していた.V1-V3誘導で,左軸偏位時にはr波
が認められるが,正常軸時にはQSパターンであ
った.深呼吸負荷試験で深呼期時の終わりで正常
軸から左軸偏位に変化した.運動負荷試験の2∼
3分後に正常軸から左軸偏位に変化した.以上の
ことから,自律神経の関与,特に交感神経と迷走
神経のバランスの変化の関与が最も考えられる.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
28) 心筋虚血によるQT延長が原因と考えられ
たTorsades de pointesの1例
(立川相互病院) 井上友樹・久保佳史・
新藤英樹・田村英俊・渡辺浩二
【症例】80歳,男性【経過】蜂窩織炎を契機とし
た心不全にて入院.抗生剤,カテコラミン,NIPPV
による加療を行った.徐々に症状は改善傾向であ
ったが,第13病日になり,Torsades de pointesが
出現し,AEDにての除細動を施行.QTcは0.5sec
と延長しており,その原因として電解質異常,徐
脈,薬剤性のものは否定的であった.その後も
Torsades de pointesは繰り返し出現し,計35回出
現.そのうち28回はAEDによる除細動を行った.
心筋虚血によるものの可能性を考えCAG施行した
ところ,LADとRCAに病変を認め,RCA病変に対
してPCI施行.PCI後はTorsades de pointesは出現
することはなく,QTcも0.40secと正常化した.
【結
語】PCIにてQT延長が改善し,Torsades de pointes
が出現しなくなった一例を経験した.
29) 心室細動で発症しantidromic AVRTが誘発
されたWPW症候群の1例
(都立広尾病院循環器科) 仲井 盛・
深水誠二・小松宏貴・北條林太郎・高野 誠・
小田切史徳・弓場隆生・小宮山浩大・
辰本明子・水澤有香・田辺康宏・大塚信一郎・
手島 保・櫻田春水
(横浜南共済病院) 西崎光弘
(東京医科歯科大学) 平岡昌和
57歳男性.心室細動(VF)蘇生後の心電図でII誘導陰
性,V1誘導QSのδ波を認めた.基礎心疾患は認めず
EPSでは心室最早期興奮部位は中心静脈(MCV)で
認めた.順行性副伝導路は260bpmまで1:1伝導し,
逆行性房室結節伝導も260bpm以上と良好であった.
心房刺激時と同波形のwide QRS頻拍が右室期外刺激
により再現性をもって誘発された.頻拍中の心房最早
期はヒス束電位記録部で,ATP投与ではVA blockによ
り頻拍は停止した.頻拍中の右室刺激では心房を捕捉
しない刺激で頻拍が停止し,また頻拍中のHA時間は
右室刺激時のHA時間より延長していることより機序
はantidromic AVRTと診断した.心房細動も誘発され
最短RR間隔は180msと短縮していたがVFへの移行は
認めなかった.MCV内での通電は十分な出力が得ら
れず難渋したが副伝導路離断に成功した.
30) 部分肺静脈灌流異常症を合併した持続性心
房細動に肺静脈隔離術を行った1症例
(さいたま赤十字病院循環器科) 大和恒博・
新田順一・小西裕二・佐藤 明・村松賢一・
松村 穣・武居一康・淺川喜裕
症例は48歳男性.40歳頃から持続性心房細動を指
摘.内服治療では洞調律維持が困難であり,自覚
症状も強いため,カテーテルアブレーションの方
針とした.心エコーでは,軽度の右房負荷が疑わ
れた.カテーテルを挿入する際,下大静脈から右
房経由で右上肺静脈にカテーテルが進み,肺静脈
灌流異常が疑われた.左上下肺静脈と右下肺静脈
は左房に灌流しており,部分肺静脈灌流異常症と
考えられた.左上肺静脈起源の上室性期外収縮か
ら心房細動への移行が認められ,電気的隔離を行
った.右上肺静脈からは上室性期外収縮は出現す
るものの心房細動へは移行せず,心房細動との関
連は不明であったが,右上肺静脈右房付着部近傍
にも焼灼を加えた.肺静脈灌流異常症を合併した
心房細動に対するカテーテルアブレーションは稀
と考え,報告する.
31) 洞調律中に冠静脈洞内にてdelayed potentialを認めた陳旧性心筋梗塞後のmitral isthmus
dependent VTの1例
(武蔵野赤十字病院循環器科) 鈴木雅仁・
山内康照・鈴木 篤・久佐茂樹・嘉納寛人・
岡田寛之・杉山知代・高村千智・川崎まり子・
宮本貴庸・尾林 徹
(東京医科歯科大学循環器制御学) 磯部光章
(筑波大学循環器内科) 青沼和隆
(山梨厚生病院循環器科) 浅川哲也
症例は65歳男性.
【主訴】食思不振.
【既往歴】50歳時
に陳旧性心筋梗塞.
【現病歴】平成19年10月に食思不
振あり近医受診,心室頻拍(VT)と心不全にて近医
入院となった.アミオダロンやプロカインアミド投与
にても右脚ブロック型上方軸の持続性単形性VTが頻
回に生じ薬剤抵抗性のため当院へ紹介入院となり,11
月14日にアブレーションを施行した.冠静脈洞に10極
電極カテーテルを留置するとdelayed potential(DP)
が記録された.左室からの周期600msのバースト刺
激にて容易にVTは誘発された.CARTOでマッピン
グにて僧帽弁輪を時計方向に旋回するmitral isthmus
dependent VTであった.Mitral isthmusの通電にてVT
は停止し,このisthmusに両方向性伝導ブロックを作
成した.アブレーション後にはclinical VTの誘発は不
可能になった.
32) 急性心筋梗塞にて入院中,回腸悪性リンパ
腫を発見され冠動脈バイパス術・回腸部分切除術
を同時施行した1例
(船橋市立医療センター) 内山貴史・
福澤 茂・沖野晋一・稲垣雅行・杉岡充爾・
池田篤史・前川潤平・市川壮一郎・小澤 俊
症例は76歳女性.2007年12月,労作時胸部圧迫
感認め近医受診し,心電図上II・III・aVFにST
上昇あり当センター紹介.心エコー上,下壁に
akinesis認め,急性下壁梗塞の診断にて経皮的冠
動脈形成術施行し,右冠動脈近位部閉塞に対しス
テント留置した.左前下行枝近位部にも99%狭窄
認め経皮的冠動脈形成術を予定したが,入院前か
ら気分不快と貧血があり,腹部エコー・CTにて
下 腹 部 に55mm×141mm×85mmの 腫 瘤 を 認 め,
小腸腫瘍が疑われた.その後下血によるHb低下
著明となったため,冠動脈バイパスおよび回腸部
分切除同時手術を施行した.病理検査で悪性リン
パ腫の診断を得た.今回我々は急性心筋梗塞にて
入院中に小腸腫瘍を発見され,冠動脈バイパス術
と回腸部分切除術を同時施行し救命し得た一例を
経験した.文献的考察を加え報告する.
33) CABG不適応の重症三枝病変の虚血性心不
全にカテーテル治療を選択した1例
(平塚共済病院循環器内科) 加藤陽子・
鈴木秀俊・大西隆行・小林一士・倉崎祐子・
井川昌幸・梅澤滋男・丹羽明博
(東京医科歯科大学循環器制御学) 磯部光章
83歳男性.胸部不快感を主訴に救急来院.心電図
上II III aVfのQ波とV4V5のST低下を認めた.虚
血性心疾患による慢性心不全の増悪と考え,緊
急CAG施行.重症三枝病変を認めた.超高齢者
でその他の合併症もあり,全身状態が悪いため
にCABG不適応と考え,カテーテル治療を選択.
6Fr IABP・テンポラリーペーシング下に前下行
枝へのPTCRAを施行した.虚血の解除により心
不全は改善したが,術後5日目よりIABPの合併
症としての大動脈損傷による血胸を認め,保存的
治療により改善した.高齢者の虚血性心疾患の治
療選択は難しく,全身状態や合併症からカテーテ
ル治療を選択しうるが,治療に伴う合併症によっ
ても術後難渋することもある.
コクヨホール(2008 年 6 月) 1063
34) 両側冠動脈肺動脈瘻の1例
(東京女子医科大学東医療センター内科)
中嶋 俊・生沼幸子・久保 豊・関川昭彦・
高杉絵美子・下倉和修・岡島清貴・堀田典寛・
布田伸一・渡辺尚彦・大塚邦明
37) 高度屈曲右冠動脈慢性完全閉塞病変に対す
るIVUSガイド下PCI
(川崎社会保険病院循環器科) 池生京子・
菊池 正・岩野圭二
(昭和大学循環器内科) 濱嵜裕司
症例は58歳男性.心房細動を指摘され精査目的で
当科紹介受診した.聴診上連続性心雑音を聴取し,
心エコーでは肺動脈内にシャント血流と思われ
る血流を認めた.心臓カテーテル検査でQp/Qs≒
1.4で,冠動脈造影で右冠動脈および左冠動脈前
下行枝から肺動脈に流入する冠動脈瘻を認めた.
動脈瘤の存在を否定できず心臓CT検査を施行し
否定された.冠動脈瘻は比較的まれとされ,特に
両側冠動脈瘻の頻度は少ない.本症例は心筋虚血
や心不全症状や動脈瘤を認めず現時点では手術適
応はないが,今後症状出現や動脈瘤の形成を注意
深く観察する必要があると思われる.
症例は59歳男性.健診にて陳旧性心筋梗塞を疑わ
れた.また労作時胸痛も自覚しており,2007年11
月12日来院した.来院時心エコーにて後壁壁運動
の低下を認めた.同11月21日心臓カテーテル検査
施行,#3に慢性完全閉塞および側副血行路から
の造影にて病変部の高度屈曲を認めた.同12月26
日経皮的冠動脈形成術を施行した.病変部高度屈
曲によりwiringが困難であり,ガイディングカテ
ーテルを変更し,バックアップを強化した.さら
に側枝のacute marginal branchにIVUSを挿入し,
CTOのエントリーを同定しtrue lumenへのwiring
に成功した.#1-2へCypher 3.5×33mmを2本overlapさせて留置し終了した.高度屈曲右冠動脈慢
性完全閉塞病変に対し,IVUSガイドでCTOのエ
ントリーを同定し,治療に成功した一例を報告す
る.
35) 薬剤溶出性ステント留置18ヵ月後に遅発性
ステント内血栓症を発症した進行癌の1例
(東京慈恵会医科大学循環器内科)
関山裕士・小川崇之・小川和男・南井孝介・
橋本浩一・八木秀憲・本郷賢一・吉村道博
(富士市立中央病院循環器内科) 加藤大介・
小菅玄晴・阪本宏志
38) 心室頻拍を伴う急性心筋梗塞だが冠動脈狭
窄を認めず,多枝攣縮が原因であった1例
(荻窪病院循環器科) 辻 晋也・石井康宏・
山田綾子
2006年2月,労作性狭心症の診断にて右冠動脈お
よび左前下行枝に薬剤溶出性ステント(DES)を
留置した60歳男性.チクロピジンは6ヶ月の時点
で中止され,12ヵ月後の慢性期造影上,両病変と
もに再狭窄は認めなかった.2007年8月,進行性
の膀胱癌のため,アスピリン中止下に腎瘻を造設
し,根治的手術予定であったが,手術2日前,左
前下行枝のステント血栓症に起因する急性心筋梗
塞を発症した.2006年のDES留置時には認められ
なかったincomplete stent apposition(ISA)を認
めたことから,遠隔期のISAが遅発性ステント血
栓症の発症に関与した可能性が考えられた興味深
い一例を経験したので報告する.
【症例】54歳女性.胸部不快感,動悸,眩暈を主
訴に救急車にて来院.救急車内心電図モニターで
心室頻拍(VT)が確認され,来院時にも持続し
ていた.リドカイン静注後に洞調律に復したが,
12誘導心電図においてaVR誘導におけるST上昇,
V4∼V6誘導にて著明なST低下を認め,心筋逸脱
酵素値の上昇も認めた.心筋虚血の存在が疑われ
緊急で冠動脈造影を行ったが,有意な器質的狭窄
を認めなかった.左室造影ではsegment 1がnon
contractionであった.心エコー図では弁膜症や
シャント疾患を認めなかった.待期的にアセチル
コリン負荷冠動脈造影を施行し,胸部症状を伴っ
て左冠動脈のAHA分類#6,#7,#8,#9,#10に
90%狭窄,右冠動脈#1,#2,#3に90%狭窄を認
めた.心筋梗塞,VTに至った重篤な多枝冠動脈
攣縮の症例を経験したので報告する.
36) DES留置18ヶ月後の慢性期にIVUS・内視
鏡・OCTを施行した1例
(日本大学内科学系循環器内科分野)
渡辺康夫・高山忠輝・遠藤正賢・原澤一雄・
猿谷忠弘・知久正明・横山真一郎・本江純子・
平山篤志
(日本大学科学研究所) 斎藤 穎
39) 末期腎不全期に認めた尿毒症性心筋症11例
の治療反応性
(新潟大学循環器学分野) 田中孔明・
伊藤正洋・木村新平・保屋野真・三間 渉・
広野 暁・大倉裕二・塙 晴雄・小玉 誠・
相澤義房
症例は50歳台男性.平成18年7月にAMIを発症
し,LAD#6の完全閉塞病変に対して,血栓吸引/
POBA/BMS留置施行した.その2週間後に残存
病変であるRCAに対しDES留置(3本)した.そ
の後,自覚症状などは認められないが,慢性期の
平成20年1 月に 経 過観 察目 的にCAG施 行し た.
CAG上,RCAには有意狭窄/DESの再狭窄などは
認められなかったが,LADのBMS留置部で完全閉
塞が認められ,LADに対してDESを留置(2本)
留置することとなった.さらに,RCAのDES留置
部をIVUS/内視鏡/OCT施行したところ,一部IVUS
で新生内膜が確認され,白色血栓と中等度の黄色
調のplaueが内視鏡にて認められた.OCTでもDES
内に突出する血栓像が確認された.造影だけでは
明らかではない血栓や新生内膜の評価などを,
IVUS/内視鏡/OCT等の様々なデバイスを駆使す
ることにより評価することができた一例である.
【背景】左室機能障害は末期腎不全患者における
重要な予後規定因子である.今回我々は,末期腎
不全期に認めた尿毒症性心筋症11例の治療反応性
につき検討を行った.
【対象と方法】末期腎不全
期に尿毒症性心筋症による重症左室機能障害を認
めた血液浄化療法中の患者11名を対象とした.薬
物療法ならびに血液浄化療法の見直し後,8例に
対して腎移植術を施行した.【結果】薬物療法な
らびに血液浄化療法の見直し後,左室拡張末期径
は 縮 小(61.2±2.2→51.4±1.8mm,p=0.08) し,
左室駆出率は改善(30.7±1.8→54.7±2.9%,p<
0.001)した.腎移植術後,左室駆出率はさらな
る改善(63.1±2.3%,p=0.09)を認めた.【結語】
末期腎不全に伴う尿毒症性心筋症の多くは,薬物
療法,血液浄化療法の見直し,腎移植術への反応
性が良好である.
1064 第 208 回関東甲信越地方会
40) CARTO-mergeを用いた発作性心房細動ア
ブレーション −quick CARTO法を用いた当院
での経験−
(土浦協同病院循環器内科) 加藤 克・
鵜野起久也・谷口宏史・永田恭敏・大友 潔・
上林拓男・小松雄樹・鈴木麻美・飯田啓太・
李 哲民・米津太志・角田恒和・藤原秀臣・
家坂義人
症例は,54歳男性.薬剤抵抗性の発作性心房細
動に対し,拡大肺静脈隔離(EEPVI)を施行し
た.術前の左房肺静脈MDCTと術中の肺静脈造
影による解剖学的形態と通電部位の連続性を確
認するquick CARTO法に加えて,今回,CARTOmergeを用いEEPVIを施行した.この際,左房シ
ェル作成は作成せず,通電ポイントタグ付けのみ
を施行.左房肺静脈MDCTと焼灼ラインマップ
をmergeしたところ,Current surface matchでの
両者のずれは平均1.94mmと近似した.このこと
から,quick CARTO法は,左房シェル作成する
conventional CARTO法に比べ,CARTO-mergeに
おいて左房シェルを作成することなく,左房形態
を認識し,全行程時間(120分),術施行時間(68分),
透視時間(38分)が短縮できることが考えられた.
41) 急性心筋梗塞後に発症したElectrical Storm
に対しカテーテルアブレーションで救命した1例
(昭和大学循環器内科) 塚本茂人・
西村英樹・大森康歳・小貫龍也・三好史人・
箕浦慶乃・河村光晴・浅野 拓・濱嵜裕司・
丹野 郁・酒井哲郎・小林洋一
症例は66歳,男性.主訴,前胸部痛.気管支喘息,
高血圧,高脂血症で通院中.急性心筋梗塞の診断
で入院し,左前下行枝に対し緊急で経皮的冠動脈
形成術を施行.第3病日に再閉塞,残存狭窄に対
し再度,経皮的冠動脈形成術を施行.第5病日
に心室細動が出現し,Electrical Stormとなった.
リドカイン,塩酸ニフェカラントを使用したが無
効であり,塩酸アミオダロン静注後に心室細動は
停止.その間,約40分間の心肺蘇生を要した.し
かし,Electrical Stormの再発を繰り返したため,
緊急アブレーション術を施行.Electroanatomical
mappingを用いてlow voltage areaを広範囲にアブ
レーションし,頻拍は消失.その後,再発はみら
れなかった.急性心筋梗塞後のElectrical Storm
に対しカテーテルアブレーション術が有効であっ
た一例を経験したため報告する.
42) 急速に進行したPTTM(pulmonary tumor
thrombotic microangiopathy)の1症例
(NTT東日本関東病院循環器内科)
嵐 弘之・生冨公康・松下匡史郎・遠藤悟郎・
山口淳一・山崎正雄・板井 勉・大西 哲
患者は乳癌術前の68歳女性.労作時呼吸困難で入
院となり,胸部造影CT・肺血流シンチで肺動脈
内に欠損像,また凝固線溶系マーカー亢進を認め,
肺血栓塞栓症と診断した.ヘパリン投与を開始す
るも,その後症状増悪し,第8病日の胸部造影
CTで陰影欠損像の改善は認めなかった.原因不
明の肺高血圧を来たす病態で,PTTM(pulmonary
tumor thrombotic microangiopathy 以下PTTM)
の可能性を疑った.肺動脈血細胞診を予定したが,
進行性に病態増悪し,第10病日に心肺停止となっ
た.病理組織像では肺動脈内に腫瘍塞栓を認める
とともに,PTTMに典型的な内膜の線維性細胞性
肥厚を認めた.悪性腫瘍を有する患者が肺血栓塞
栓症類似の病態を呈する場合,積極的にPTTMを
疑う必要があると考える.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
43) 約4年にわたり酵素補充療法を行ったFabry
病成人例の臨床経過
(公立藤岡総合病院循環器科) 遠藤路子・
金子 敦・赤石聡子・植田哲也・長岡秀樹・
井上雅浩・鈴木 忠
(群馬大学臓器病態内科学) 高橋利絵子
41歳男性.14歳時にFabry病(hemizygote)と診断.
四肢末梢の疼痛に対しカルバマゼピンを投与して
いたが,左室肥大,顕性蛋白尿を認めるようにな
り,34歳時に脳梗塞を合併して抗凝固療法を開始
した.37歳時に心内膜心筋生検を施行.心筋細胞
はびまん性に肥大し著明な空泡変性を認めた.平
成16年8月よりα-galactosidase製剤による酵素補
充療法(agalsidaseβ1mg/kg,隔週,点滴)を
開始した.経過中平成17年5月,同18年8月,同
19年2月に脳梗塞の再発を認めたが,四肢の疼痛
は軽減傾向.心・腎機能の低下は見られていない
が,左室肥大,尿蛋白量は明らかな改善を示して
いない.Fabry病の成人例に対する酵素補充療法
における意義と限界について経験しえたので報告
する.
44) 全身性のリンパ節腫大と発熱が腫瘍摘出後
に改善した左房粘液腫の1例
(災害医療センター循環器科) 稲葉 理・
横山泰廣・萬野智子・伊藤順子・清岡嵩彦・
大下 哲・小川 亨・櫻井 馨・田原敬典・
佐藤康弘
(同心臓血管外科) 塚本三重生
(東京医科歯科大学循環器内科) 磯部光章
症例は66歳女性.2007年7月26日より38度台の発
熱が持続し,心エコーにて左房内に腫瘤を認めた
ため8月11日に当院に紹介となった.左房内腫瘤
は30×20mm大で,心房中隔に茎を有しており,
内部構造は不均一であり左房粘液腫が疑われた.
発熱は抗生剤投与に不応性であったため,頸部∼
骨盤CTを施行したところ,全身性のリンパ節腫
大と胸腺腫を認めた.IL2Rも5090IU/lと上昇し
ており,悪性リンパ腫を疑い,リンパ節生検を施
行したが,病理学的には反応性のリンパ節症であ
った.12月5日に,左房内腫瘍・胸腺腫摘出手術
を施行し,病理診断は良性の粘液種・胸線種であ
った.腫瘍摘出後,発熱は自然消退,全身性のリ
ンパ節腫大は改善,IL2Rも低下し,これらの機
序に粘液腫の関与が考えられた.
45) 原発性悪性心膜中皮腫の1例
(慶應義塾大学循環器内科) 山川裕之・
高橋寿由樹・河野隆志・三好俊一郎・
佐藤俊明・安斉俊久・岩永史郎・吉川 勉・
小川 聡
40歳男性.2007年9月より倦怠感,食欲低下,呼
吸苦が出現.10月9日に近医受診し右心不全徴候
及び心エコー上多量の心嚢液を認め,緊急入院と
なる.心嚢ドレナージを施行し,細胞診より中皮
細胞を認めた.同月18日に精査・加療のため当院
へ転院し,呼吸器外科にて心膜開窓術を施行.心
膜生検の病理診断で悪性心膜中皮腫(二相性)で
あった.同月29日よりpemetrexedを中心とする
化学療法を計2度施行するもほぼ無効であった.
その後,収縮性心膜炎様の拡張不全は治療抵抗性
となり,12月1日に死亡した.悪性中皮腫は予後
不良な悪性腫瘍として知られるが,心膜原発は稀
である.本症例は診断から2ヶ月で急速に病状が
進行し不幸な転帰となったが,臨床経過及び画像
診断において示唆に富んだ症例と考え報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
46) 多枝冠動脈解離を発症した1例
(埼玉医科大学国際医療センター心臓内科)
舟田周平・菊谷敏彦・井上 明・石田仁志・
小泉智三・須賀 幾・加藤律史・小宮山伸之・
西村重敬
症例は41歳,閉経前の冠動脈危険因子のない女性.
初回の胸痛,下壁梗塞で入院.冠拡張薬などの点
滴,内服による保存的治療で経過観察していたが,
肢誘導でST上昇発作を繰り返していた.第6病
日に胸部誘導でST低下,胸痛発作頻回となった.
薬物治療ではコントロールできず,緊急心臓カテ
ーテル検査を施行.対角枝に99%造影遅延伴う解
離を認めた.右冠動脈末梢及び左回旋枝にも解離
を認めた.今回,多枝冠動脈解離を発症したまれ
な1例を経験したので報告する.
47) SLE治療中,持続性心室頻拍を契機に発見
された冠動脈解離が原因と思われる若年女性の陳
旧性心筋梗塞の1例
(東京警察病院循環器センター) 金子光伸・
笠尾昌史・山田 靖・新田宗也・野崎みほ・
鈴木将敏・白井徹郎
症例は35歳女性.デスクワーク中に失神発作を起
こし搬送された.救急車内では持続性単形性心室
頻拍が記録されていたが,自然経過で洞調律に復
し意識も回復した.12誘導心電図ではI,II,III,
aVL,aVF,V1-V6誘 導 で 異 常Q波 を, 心 エ コ ー
検査で前壁・中隔領域に広汎な壁運動異常を認
め,陳旧性心筋梗塞を基礎とする心室頻拍と診断
した.抗リン脂質抗体症候群・SLEの診断のもと
他院でステロイド治療中であるが,現在活動性は
ないと判断されている.冠動脈造影では高度狭窄
や閉塞所見はないものの,左前下行枝中間部に冠
動脈解離を認め,本病変が心筋梗塞の原因と判断
した.血行動態が破綻する心室頻拍であり,アミ
オダロンおよびICD治療を行った.心室頻拍の原
因が冠動脈解離による心筋梗塞と考えられたSLE
治療経過中の若年女性例であり報告する.
48) 急性冠症候群を発症した特発性血小板減少
性紫斑病症例に対しステント治療が成功した1例
(順天堂大学練馬病院循環器内科)
丸山園美・井上健司・岡井 巌・小松かおる・
西澤寛人・岡崎真也・藤原康昌・住吉正孝・
代田浩之
PCIには抗血小板剤内服が必須であるが,血小板
減少症例では出血の危険性を伴うため慎重な投与
が望まれる.今回我々はACSを発症した特発性
血小板減少性紫斑病(ITP)症例に対し,プレド
ニゾロン(PSL)を併薬し安全に抗血小板剤を投
薬できた症例を経験した.症例は78歳女性,2年
前にITPと診断されているが未治療だった.今回
ACSを発症したためCAGを施行したところLAD
に90%狭窄病変を認めた.同部位にベアメタルス
テントを留置しアスピリン100mg/日とクロピド
グレル50mg/日とともにPSL 0.5mg/kgの内服を
開始した.血小板数は投薬後3ヶ月で5.5万/mm3
→15.5万/mm3に改善した.治療後4ヶ月の経過
観察中に狭心症無く経過している.ITP症例に合
併したACSではPSL併薬が肝要と考えられた.
49) 当院における成人先天性心疾患患者の入院
状況
(千葉県循環器病センター小児科)
白井丈晶・立野 滋・川副泰隆
(同成人先天性心疾患診療部) 豊田智彦・
水野芳子・丹羽公一郎
(同心臓血管外科) 松尾浩三
【目的】当院,成人先天性心疾患(以下ACHD)診
療部の入院状況を把握する.
【対象】2005年1月∼
2007年12月の3年間に入院した18歳以上のACHD
患者.【結果】延べ入院患者数は126例(男75例,
女51例 ), 年 毎 に28例,39例,59例 と 増 加 し た.
平均年齢は28.3±10.1歳,在院日数は14.7±15.2日.
修正大血管転位が最多で29例,ついでファロー四
徴症23例,単心室血行動態群22例の順であった.
予定入院77例,緊急入院49例.チアノーゼ群(41
例)で緊急入院が多かった.入院目的は手術が37
例(29.4%),不整脈10例(7.9%),喀血5例(4.0%)
であった.【結論】ACHDの入院は増加しており,
チアノーゼ疾患患者,不整脈,喀血による緊急入
院が少なくない.
50) 再発を繰り返した深部静脈血栓症の1例
(大森赤十字病院) 邑山美奈子・持田泰行・
神原かおり・常松尚志
症例は65歳男性.主訴は両下腿浮腫.下肢静脈エ
コーで右総腸骨静脈および左下腿に血栓を認め,
造影CTでIVCにも血栓を認めた.肺塞栓症の合
併はない.一時的IVCフィルターを留置し,ヘパ
リン点滴静注による加療を開始.造影CTでIVC
に血栓がなくなったことを確認しフィルターを抜
去.ワーファリン内服で外来フォロー.外来で浮
腫は再増悪し,造影CT再検で肝静脈の高さまで
IVCに血栓を認めた.先天性プロテインC,プロ
テインS双方の欠損症が疑われたが,AT3欠損症
の合併も考えられた.TP,Alb,TIBC,UIBC,
プラスミノーゲン,フィブリノゲン等,他の血清
蛋白値も低下.肝障害や蛋白漏出性胃腸症は除外
診断がついており,何らかの蛋白合成異常も疑わ
れる.凝固異常として稀な一例を経験したので,
ここに報告する.
51) 進行大腸癌に対してベバシズマブ(抗VEGF
抗体)投与後に上肢深部静脈血栓症を生じた自験例
(聖路加国際病院ハートセンター内科)
神野 泰・西原崇創・西裕太郎・寺内靖順・
大井邦臣・安齋 均・高尾信廣・林田憲明
循環器科医であっても増加する担癌患者の前にそ
の循環器合併症に関する知識に通ずることは重要
である.進行大腸癌に対し従来の化学療法に加え,
ベバシズマブ(抗VEGF抗体)を併用することで
予後改善が見込まれ,本邦でも2007年6月投与可
能となった.それ以後,当科では近隣の癌専門病
院にてベバシズマブ投与後に上肢深部静脈血栓症
を生じ,抗凝固療法目的に紹介された4症例を経
験した.全例で鎖骨下静脈より中心静脈ポートが
挿入され,カテーテル周囲に血栓が形成されてお
り,中心静脈ポート挿入とベバシズマブ投与が血
栓形成に関与していると考えられた.ベバシズマ
ブは今後適応が拡大すると思われるが,副作用に
関し未だ十分に認識されていないため,文献的考
察も含め報告する.
コクヨホール(2008 年 6 月) 1065
52) 心嚢液貯留を来した後縦隔膿瘍が疑われた
1例
(新潟市民病院循環器科) 尾崎和幸・
鈴木友康・小幡裕明・土田圭一・高橋和義・
三井田努・小田弘隆
82歳女性.前医にて胆嚢炎,尿路感染症に対し抗
生剤投与を施行するも心嚢液が急速に貯留し当科
へ転院.CTにて心嚢液,両側胸水,右腎盂腎炎
と後縦隔に径4cm大の腫瘤を認めた.腫瘤は下
大静脈と右心房に接し,周辺のみ造影効果があ
り,一部は下大静脈へ突出していた.心嚢穿刺で
は心嚢液は炎症性,培養は陰性であった.ガリウ
ムシンチグラフィーでは上記腫瘤に一致した集積
を認めた.血液培養からE. coliおよびBacteroides
fragilisが検出され,シプロフロキサシン,クリ
ンダマイシンを投与,血栓の関与を疑いヘパリン
を併用,炎症反応は陰性化した.以後,レボフロ
キサシン,クリンダマイシン,ワーファリン内服
を継続し,6ヶ月後にCTにて腫瘤消失を確認し
た.臨床経過より同部を膿瘍と診断した.稀な症
例と思われここに報告する.
53) 卵巣癌に合併した深部静脈血栓症の治療に
難渋した1例
(東京慈恵会医科大学附属柏病院)
松坂 憲・上原良樹・弓野邦彦・藤崎雅実・
井上康憲・宮田秀一・中江佐八郎・東 吉志・
蓮田聡雄・清水光行
(東京慈恵会医科大学循環器内科) 吉村道博
69才女性.卵巣癌の手術待機中に,左下肢腫脹
が出現した.造影CTを施行したところ左大腿静
脈にDVTを認め,腎静脈下部に回収可能型下大
静脈フィルター(IVCF)を留置した.ウロキナ
ーゼにて血栓溶解療法を行うもDVTは消失せず,
手術前にフィルターの入れ換えを行なった.手技
中の下大静脈造影にて肝部下大静脈以下に多量の
血栓を認めたため,新たなIVCFを右房直下に留
置した.卵巣癌術後の造影CTにて下大静脈血栓
は腎静脈以下に退縮しており,腎静脈下の血栓直
上にIVCFを恒久留置した.再度ウロキナーゼを
投与し,血栓は消失した.現在ワーファリン投与
のもとDVTの再発を認めず,外来通院加療中で
ある.治療に難渋したDVTの症例を経験したの
で報告する.
54) ネフローゼ症候群患者の腎生検後に発症し
た致死的な広範肺塞栓症にPCPS・外科的血栓除
去術で救命しえた1例
(聖路加国際病院循環器内科) 野村征太郎・
安斉 均・西原崇創・西裕太郎・高尾信廣・
林田憲明
(同腎臓内科) 小松康宏
【症例】ネフローゼ症候群39歳男性.腎生検後2日
目,歩行直後に呼吸困難出現.CTで両側主肺動
脈内多量血栓認め広範肺塞栓症と診断.抗凝固療
法開始し下大静脈フィルター留置後に血栓溶解療
法行うも,低酸素血症は改善なく人工呼吸開始し
たが心肺停止となった.心肺蘇生後直ちにPCPS
挿入しカテーテル血栓除去術施行.一時的に酸素
化改善認めたが腎臓からの活動性出血にて緊急コ
イル塞栓術施行.しかしPCPS離脱が困難と判断
し翌日外科的肺動脈内血栓除去術施行した.術後
より人工心肺離脱可能となりその後の経過は良好
となった.【結語】ネフローゼ症候群は凝固亢進
を伴い,抗凝固療法を施行できない腎生検時には
肺塞栓予防に細心の注意が必要.また循環動態の
破綻した広汎肺塞栓症ではPCPS挿入後外科的血
栓除去術を積極的に考慮すべきである.
1066 第 208 回関東甲信越地方会
55) ヘパリン起因性血小板減少症を合併し治療
に難渋した急性肺塞栓症の1例
(東京慈恵会医科大学附属青戸病院循環器内科)
山崎弘二・安澤龍宏・村嶋英達・工藤敏和・
鶴崎哲士・松山明正・今本 諭・笠井督雄・
関 晋吾
(東京慈恵会医科大学循環器内科) 吉村道博
35歳男性.2007年5月より右下肢腫脹を自覚,同
年8月右胸痛が出現した為当院当科受診.急性肺
塞栓症,右深部静脈血栓症と診断され同日入院し
ヘパリン15000単位/日に加えウロキナーゼ48万単
位/日漸減投与開始.しかしながら第7病日の造
影CTでは肺動脈内血栓に変化なく下肢静脈内血
栓はむしろ増加を認めた.血小板減少傾向にあっ
た為に抗ヘパリンPF4複合体を測定したところ陽
性でありヘパリン起因性血小板減少症(HIT)と
診断し第12病日ヘパリン中止の上でアルガトロバ
ン0.7μg/kg/日の持続投与開始.第19病日の画像
上肺動脈内血栓は減少したものの下肢静脈内血栓
は変化無い為下大静脈フィルターを留置し同治療
継続,第31病日には肺動脈内血栓は消失し下肢静
脈内血栓の縮小を認めた.HITを合併し治療に難
渋した急性肺塞栓症一例を報告する.
58) 5年間の経過を追えた高齢者原発性肺高血
圧症の1例
(東京都老人医療センター循環器科)
久保田芳明・蔵町里恵・石川 妙・油井慶晃・
齋藤友紀雄・牧 尚孝・内田 文・小川雅史・
坪光雄介・武田和大・原田和昌・桑島 巌
症例は72歳.既往歴に心房細動あり.64歳労作時
呼吸困難出現,悪化のため67歳当院紹介入院.心
エコー検査にて心室中隔扁平化と右室圧上昇(91
mmHg)を認めた.肺血流換気スキャンに欠損な
く,酸素下の右心カテーテルでPAWP 6mmHg,
平均肺動脈圧27mmHg,肺血管抵抗943dyne・sec
/cm5より原発性肺高血圧症と診断.beraprost,
Ca拮抗薬,HOT導入にて症状改善したが,69歳
NYHA4度と増悪し再入院.ヒックマンカテーテ
ル挿入,epoprostenol持続静注法にて在宅管理と
なる.bosentanは無効であった.PGI2 95ng/kg/
分まで徐々に増量するも入退院繰り返し,72歳に
腹水,出血傾向出現し死亡した.高齢者原発性肺
高血圧症の1例を剖検所見と合わせ報告する.
56) 生前診断が困難であった肺高血圧症の一剖
検例
(自治医科大学附属さいたま医療センター総合医学1)
刀根克之・服部哲久・寺西 仁・小林 貴・
吉岡 徹・船山 大・菅原養厚・久保典史・
百村伸一
59) 選択的ロングシース挿入による血管内治療
で大切断を回避できた脛骨動脈閉塞重症下肢虚血
の1例
(昭和大学横浜市北部病院循環器センター)
荒木 浩・斎藤重男・星本剛一・御子柴幸・
磯村直栄・芦田和博・小原千明・落合正彦
63歳女性.生来健康.2週間前から労作時呼吸
困難あり.増悪するため2007年12月25日近医受
診し,同日当院に紹介入院.著明な肺高血圧症
(TR-PG 102mmHg),右肺腫瘤性病変(23mm),
血小板減少(5.5万)が判明した.造影CT検査で
は肺血栓塞栓症は否定的であった.他の肺高血圧
症をきたす疾患も考慮したが合致せず,原因不明
の肺高血圧症として,酸素投与等の対症療法を行
った.12月27日,急速に呼吸状態悪化して死亡.
剖検の結果,右肺に腺癌が確認された.また両肺
末梢動脈に,腫瘍塞栓と血栓形成,内膜増殖によ
り,血管内腔の偏心性狭窄∼閉塞をきたしており,
pulmonary tumor thrombotic microangiopathy
(PTTM)に合致する所見で,直接死因となった
肺高血圧症の原因と診断された.血小板減少はこ
の病態に合併するDICと考えられた.
症例は糖尿病性腎症・維持透析中の70代男性.右
下肢第4趾の難治性潰瘍のため当院皮膚科受診.
ABI右0.87,左0.92と低下あり.CLIの診断にて血
管造影を施行し,前脛骨動脈(ATA)閉塞を認め
たため,同部へカテーテルインターベンションを
施行した.右大腿動脈からipsi-antegrade approach
にて5F britetip sheath 55cmを膝部付近まで挿入
するも,サポート不十分だった.そこで,同シー
スをATA近位部に選択的に挿入することで強力な
バックアップが得られ,ConquestPro 12gにてdistal
ま でwire crossに 成 功.Symmetry 2.5*100mm,
6-8atmで閉塞したATAを全長にわたって拡張し,
潰瘍部の再灌流に成功した.術後ABI右1.29へ改
善し,major amputationも回避できた.
57) 抗リン脂質抗体症候群を基礎疾患とした急
性肺血栓塞栓症に,ヘパリン起因性血小板減少症
が合併した1例
(自治医科大学循環器内科) 西村芳興・
新保昌久・村田光延・山本啓二・三橋武司・
島田和幸
60) 閉塞性動脈硬化症に合併した両側膝窩動脈
解離の1例
(長野県立木曽病院循環器科) 堀込実岐・
山崎恭平・若林靖史
症例は63歳男性.平成19年12月,胸背部痛にて当
院受診,造影CT上両側主肺動脈血栓を認め急性
肺血栓塞栓症と診断,ヘパリンにて治療開始した
が翌日意識消失し心肺停止となった.PCPS装着,
カテーテルで血栓破砕を行い血圧回復した.帰室
後よりDICとなりヘパリンを中止し,DIC改善し
た第5病日よりヘパリン再開し継続していたが,
第14病日に右下肢血栓性静脈炎を来たした.血小
板数は数日で半数近くへ減少しておりヘパリン起
因性血小板減少症(HIT)が疑われ,ヘパリン中
止しアルガトロバンを開始し症状改善した.抗HIT
抗体は陽性であった.他の血栓素因としてLA因子
陽性で,他基礎疾患がないことから原発性抗リン
脂質抗体症候群(APS)と考えられた.原発性APS
が素因となり急性肺血栓塞栓症を発症しHITを合
併した稀な一例を経験したので報告する.
症例は76歳男性,高血圧,心房細動にて当院通院
中,2007年10月左足母趾チアノ−ゼあり,ABIで
は右0.74左0.69であり11月20日入院.入院時両側
大腿動脈触知良好,両側膝窩動脈触知減弱,両側
足背動脈触知減弱,右片麻痺で左母趾チアノ−ゼ
を認めた.検査所見では好酸球増加なし,腎機能
正常であった.下肢動脈造影では右膝窩動脈に
99%狭窄ありその末梢前脛骨動脈分枝部まで膝窩
動脈解離あり.左膝窩動脈にも75%狭窄あり,そ
の末梢は前脛骨動脈分枝後動脈解離あり.それぞ
れ左右膝窩動脈の75%狭窄,99%狭窄に対して
PTA施行し動脈解離部はプレタール追加で経過を
みることとした.術後ABI 右0.52左0.66と改善は
なく足趾のチアノ−ゼは残存.下肢虚血の原因は
膝窩動脈解離によるものと考えられた.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
61) Lipo PGE1併用ヘパリン運動療法とフィブ
ラストにより改善した重症虚血肢の2例
(横須賀市立うわまち病院) 岩澤孝昌・
遠藤貴士・谷川真一・泊口哲也・杉浦 徹・
黒木 茂・水政 豊・辻 武志・沼田裕一
【症例1】79歳女性.2ヶ月前より右第2趾に骨
膜まで達する皮膚潰瘍を認め,ABIは右0.90.血
管造影では下腿3分枝が完全閉塞.【症例2】75
歳男性.1週間前より左第2趾に皮膚潰瘍を認め,
強い痛みと壊死を伴うため入院.ABIは左0.59.
血管造影では,下腿3分枝のうち前脛骨動脈を除
く2枝が完全閉塞.両者とも非侵襲的治療を希望
し,lipo PGE1併用ヘパリン運動療法を施行した.
lipo PGE1とヘパリン3000単位を静脈内投与し,
症候限界性の歩行などを3~5セット14日間行っ
た.皮膚潰瘍はフィブラストを噴霧しワセリン塗
布後サランラップを使用.両症例とも7日目には
良好な肉芽の増生があり,1例目は50日後に2例
目は30日後に完全に治癒した.本療法は,HGF
とFGFの2つの増殖因子を利用した運動療法であ
り,この2例に対しては有用であった.
62) 急速な拡大を呈した炎症性腹部大動脈瘤の
1症例
(獨協医科大学心血管肺内科) 伊波 秀・
豊田 茂・有川拓男・荒木秀彦・仲島宏輔・
大谷直由・鈴木英彦・松田隆子・金子 昇
(同胸部外科) 山田靖之・島村吉衛・
望月吉彦
症例は55歳男性.平成19年8月発熱,腰痛,腹痛
出現し近医受診.腹部大動脈瘤の切迫破裂疑わ
れ当院胸部外科紹介.腹部CT上最大径6cmの腹
部大動脈瘤を認めたが,切迫破裂はなく当科に転
科となった.入院時白血球数の著明な上昇,CRP
高値で,血液培養は陰性であった.抗生物質投与
後もCRPは軽度上昇が持続した.Gaシンチでは
炎症部位は同定できなかった.2週間後大動脈瘤
は最大径8.5cmと急速に拡大し緊急手術を検討し
たが,炎症が安定化した約2ヵ月後人工血管置換
術施行した.手術時瘤の最大径9cm,瘤壁は表
面白色で肥厚し膿瘍はなかった.病理では大動脈
は粥上硬化性病変を示し,外膜はリンパ球の集簇
を伴う炎症細胞浸潤,線維化を認めた.今回,急
速な拡大を呈した炎症性腹部大動脈瘤を経験した
ので報告する.
63) 大動脈奇形による心筋虚血を呈した1例
(東邦大学医療センター大橋病院循環器内科)
徳江政英・横内 到・佐藤香織・進士英雄・
小野 剛・山本正也・伊藤信吾・大塚健紀・
高木拓郎・原 久男・原 英彦・諸井雅男・
鈴木真事・中村正人・杉 薫
既往に心疾患,不明熱のない66歳女性.1年前か
ら労作時の背部痛を認めていた.運動負荷心電図
にて陽性を示し冠動脈造影検査施行した.左冠動
脈へのカテーテルの挿入できず造影できなかっ
た.右冠動脈の造影は有意狭窄はなかったが左冠
動脈に側副血行路を認めた.このため左冠動脈の
病変が疑われ,右冠動脈の側副血行路から逆行性
にマイクロカテーテル下での左冠動脈の造影を行
った.結果左冠尖と大動脈の間に隔壁様構造物が
確認された.大動脈基部付近精査のため経食道心
臓超音波を施行した結果,左バルサルバ洞動脈瘤
と診断した.本症例は左バルサルバ洞動脈瘤を認
め左冠動脈が瘤内より起始していた.瘤と大動脈
間に隔壁様構造物が存在し血流障害を起こし心筋
虚血を呈した特異な病態であったため若干の考察
を加えて報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
64) 弓部・遠位弓部大動脈瘤に対してDebranching+ステントグラフト内挿術を行った10例
(森ノ宮病院心臓血管外科) 竹谷 剛・
加藤雅明・大久保修和
2007年の腹部大動脈瘤に対するステントグラフト
(Excluder,Zenith)の認可に続き,2008年4月
よりGore社の胸部大動脈に対するTAGデバイス
が臨床使用可能となり,本邦でも胸部大動脈瘤に
対するステントグラフト治療がより広く行われる
環境が整いつつある.この治療においては,十分
なlanding zoneをとることがエンドリークを防ぐ
ために重要であるため,頚部や腹部分枝近傍の動
脈瘤ではその適応が限られることがある.こうし
た大動脈瘤に対して,debranchingを行った上で
分枝を閉塞する形でステントグラフトを挿入する
方法が報告されているが,当院では開院以来2年
の間に弓部・遠位弓部大動脈瘤の10例に対し自作
のステントグラフトを用いてこの術式を行ったの
で報告する.
65) 特発性大動脈破裂の1例
(埼玉病院循環器科) 穂坂春彦・鈴木雅裕・
真鍋知宏・森谷 学・尾添明之・内藤広太郎・
高橋正彦
(同外科) 原 彰男・福光 寛・寺田瑞穂
(同臨床検査科) 島田哲也
症例は74歳男性.主訴は背部痛.現病歴は平成19
年4月16日16時頃から背部痛出現,徐々に増強す
るため23時当院救急外来受診.心電図,心エコ
ー共に正常.WBC11760,CRP14.9と上昇.CPK
91,CK-MB 5と正常範囲,トロポニンT陰性.大
動脈疾患を疑い造影CTを施行したところ大動脈
壁の石灰化,動脈硬化性の壁肥厚は認めるも急性
大動脈解離,大動脈瘤切迫破裂などの所見は認め
なかった.右尿管結石,右水腎症の所見を認めた
ため外科当直に依頼し入院となった.ブスコパン,
ボルタレン投与にて疼痛はやや軽減し入眠.3時,
5時の時点では呼吸は確認されていたが,7時10
分ベッド上で心肺停止状態で発見された.病理解
剖にて大動脈壁から胸腔内への穿破を認め,特発
性大動脈破裂と診断した.本疾患は非常にまれな
疾患であるためここに報告する.
66) 腹痛,重症肝機能障害を初発症状とした
Valsalva洞動脈瘤破裂の1例
(川崎市立多摩病院) 藤田禎規・原田智雄・
脇本博文・田中 修・中野恵美・佐々木俊雄・
水野幸一
(聖マリアンナ医科大学心臓血管外科)
大野 真・村上 浩・幕内晴朗
(同循環器内科) 三宅良彦
食事中,突然の動悸,悪寒,胸部圧迫感が一過性
に出現,翌日食欲低下を認め近医受診し心電図に
異常を認めず胃腸炎と診断された.5日後発熱,
腹痛症状出現,当院受診.WBC15600,AST4495,
ALT3675,LDH3580,CRP9.27を認め重症急性肝
炎を疑い緊急入院となった.腹部超音波所見は急
性肝炎所見を認めず,うっ血肝および下大静脈拡
張を認め,胸部X線上両側肺うっ血を認めた.心
臓超音波所見では無冠動脈洞動脈瘤と右房への
shunt flowを認めValsalva洞動脈瘤破裂と診断し
た.同日心臓血管外科へ転院,緊急手術を施行し
Valsalva洞動脈瘤破裂と右房への1穿破を認めパッ
チ閉鎖術を施行された.Valsalva洞に感染の所見
はなく先天性と考えられた稀な1例を報告する.
67) 全身倦怠感の原因疾患として発見された感
染性大動脈瘤PET-CTが診断に有用であった1例
(横浜市立大学) 高野祥子
(同循環制御内科学) 藤田孝之・松本克己・
松下浩平・小川英幸・高村 武・山川陽平・
菅野晃靖・石上友章・石川利之・内野和顕・
梅村 敏
(同放射線医学) 高橋延和
【症例】80歳,女性.一過性の微熱の後,全身倦
怠感が一週間程度持続.血液検査施行し炎症デー
タの著しい上昇(CRP:30.9,WBC:19900)を
認めた.自覚症状,胸部X線上感染部位を示唆
する所見を認めず.原因精査のため胸腹部のCT
を施行.胸部下行大動脈周囲に不整なsoft tissue
density lesionが見られたため感染性大動脈瘤が
疑われ,直ちに降圧療法,抗生剤投与を開始.そ
の後血液培養検査にて黄色ブドウ球菌を検出.
PET-CTにて同部にFDGの高度の集積を認め,そ
の他の部位に明らかな感染巣は見られないことか
ら診断に至った.感染性動脈瘤はまれな疾患であ
るが,易破裂性であり早期発見が不可欠である.
明らかな発熱や,局所症状を欠く症例を経験し,
高リスク患者における早期のCTの必要性,及び
PET-CTの有用性を認識したので報告する.
68) 大動脈炎症候群の再燃に際してFDG-PET
が治療前後の疾患活動性評価に有用であった1例
(東京医科歯科大学循環制御内科学)
渡部真吾・上石哲生・高津妙子・根木 謙・
林 達哉・樋口晃司・佐々木毅・古村雅利・
中村浩章・木村茂樹・原口 剛・稲垣 裕・
蜂谷 仁・鈴木淳一・平尾見三・磯部光章
【症例】23歳女性【主訴】左上肢の痺れ・疼痛【現
病歴】2004年左頸動脈・腹部大動脈・腎動脈狭窄
を指摘され,大動脈炎症候群と診断.プレドニゾ
ロン30mg/日内服開始.2005年7月に再燃しプレ
ドニゾロン増量.2006年6月,右腋窩動脈-右外
腸骨動脈バイパス術施行.以後外来通院.2007年
7月より左上肢痺れ・疼痛が出現,MRIで左鎖骨
下動脈に有意狭窄を認めた.FDG-PETでは左頚
動脈へのFDG取り込みがみられた.2度目の再
燃と考え,プレドニゾロン増量で加療した.自覚
症状は著明に改善し,治療後FDG-PETでの集積
は消失した.MMP-3は治療前後で高値のままで
あった.
【まとめ】2度の再燃を来した大動脈炎
症候群の23歳女性.大動脈炎症候群における疾患
活動性についてFDG-PETが有用であった症例で
ありここに提示する.
69) 高血圧にて経過中に偶然施行した心臓超音
波検査でvalsalva 動脈瘤指摘後に突然死した症例
(社会保険中央総合病院心臓病センター循環器内科)
田中 龍・野田 誠・藤波竜也・吉川俊治・
田代宏徳・山本康人・薄井宙男・市川健一郎
(同心臓病センター心臓血管外科)
恵木康壮・高澤賢次・針谷明房
(同臨床検査科) 桜山千恵子・河野ますよ・
角 洋子
(東京医科歯科大学循環制御内科学)
磯部光章
(中谷医院) 中谷よしあき
症例は76歳男性.高血圧にて近医通院中でamlodipine
5mgの内服加療中であった.特に症状は見られなかっ
たが,経過中の心電図にて非特異的ST-T変化を認め,
精査のため当院心臓超音波検査施行となる.エコーの
結果,左室壁運動異常は認められなかったが大動脈弁
上の右冠動脈側valsalva洞より右室流出路方向に壁外性
に膨隆・突出する形で最大径40mmの嚢状動脈瘤を認
め軽度の大動脈弁閉鎖不全と中等度の肺高血圧を伴っ
ていた.患者に破裂の危険性を説明し準緊急で入院・
手術を強くお勧めしたが無症状のため承諾が得られず,
一旦帰宅となった.その後約5週間後に自宅で心肺停
止となり死亡が確認された.本例はincidentalに発見さ
れたvalsalva動脈瘤で手術待機中に突然死した症例であ
る.非破裂valsalval動脈瘤の重症度評価を含め報告する.
コクヨホール(2008 年 6 月) 1067
70) Crohn病の治療経過中に,心筋炎・大動脈
炎症候群の合併を認めた1例
(信州大学循環器内科) 橋詰直人・
笠井宏樹・元木博彦・相沢万象・伊澤 淳・
富田 威・熊崎節央・筒井 洋・小山 潤・
池田宇一
73) 抗リン脂抗体症候群を合併した多発筋炎の
1例
(信州大学循環器内科) 相澤克之・
相沢万象・笠井宏樹・伊澤 淳・中村めぐみ・
富田 威・熊崎節夫・筒井 洋・小山 潤・
池田宇一
38歳男性.19歳時にCrohn病と診断され,mesalazine
投与にて寛解を維持していた.2000年1月に微
熱・労作時呼吸困難が出現した.心エコーでは左
室拡大・びまん性の壁運動低下を認めた.冠動脈
に有意狭窄なく,心筋生検では間質に単核細胞浸
潤を認め心筋炎と診断,内科的加療で軽快した.
検索範囲にウイルス抗体価の上昇は認めなかっ
た.同時期に両側橈骨動脈の触知不良を認めてい
たが,自覚症状なく経過観察とした.2007年3月
頃より進行性の右眼視野欠損が出現.右頸部に血
管雑音を聴取したため造影CTを施行.両側鎖骨
下動脈・右総頚動脈等に高度狭窄病変を認め大動
脈炎症候群と診断した.三疾患の合併は稀であり,
病態メカニズムに自己免疫機序が示唆され興味深
い一例と考えられた.
症例は54歳女性.数年前から筋力低下を自覚して
いたが放置.2007年10月になって労作時呼吸困難
を自覚するようになり,近医を受診.胸部単純X
線で肺門部肺動脈陰影の拡大,心臓超音波検査で
肺高血圧所見(max.TRPG=120mmHg)を指摘
され,他院に入院した.血液検査でCK-MM優位
の高CK血症,低酸素血症,胸部造影CTで肺血栓
塞栓症を認め,精査加療目的で当科に紹介された.
身体所見,血液検査所見,筋電図,大腿四頭筋生
検の結果,多発筋炎と診断された.他にoverlap
する膠原病,悪性新生物は否定的だった.また,
ループスアンチコアグラント陽性から抗リン脂質
抗体症候群が疑われた.多発性筋炎単独に抗リン
脂質抗体症候群を合併することは稀であり,文献
的考察を加え報告する.
71) 3DCTにより明瞭に描出された,左鎖骨下動
脈瘤を合併した偽性大動脈縮窄症の稀有な1症例
(日本医科大学千葉北総病院内科循環器センター)
奥村 剛・稲見 徹・山本真功・太良修平・
村上大介・田近研一郎・淀川顕司・高野雅充・
佐藤 越・大野則彦・大場崇芳・青木 聡・
雪吹周生・清野精彦
(日本医科大学循環器・肝臓・老年・総合病態部門)
水野杏一
74) 早期ステロイド治療に奏功した心サルコイ
ドーシスの1例
(東邦大学医療センター佐倉病院循環器科)
粕谷秀輔・中村啓二郎・平野圭一・鈴木理代・
清水一寛・高橋真生・杉山祐公・野池博文
(同救急・生理機能) 東丸貴信
(同病理) 蛭田啓之・亀田典章
(同内科) 白井厚冶
36歳女性.5歳時に腹部内臓逆位と大動脈縮窄症
と指摘されていたが,症状もなく経過観察.今回,
精査のため入院.心臓カテーテル検査を施行する
も,大動脈内に圧較差を認めず偽性大動脈縮窄症
と診断した.大動脈造影により,弓部大動脈から
近位下行大動脈にかけて延長・屈曲し椎骨の右側
を走行する下行大動脈を認めた.さらに,この屈
曲部の中枢側に,大動脈弓とともにから起始部か
ら拡張する左鎖骨下動脈瘤を合併していた.これ
らの立体的構造を3DCTにより明瞭に描出しえた
稀有な症例であり報告した.
72) 健康診断で偶然発見された無症候性上行大
動脈解離の1例
(横浜医療センター) 八代 文・巽 藤緒・
小林康徳・加藤丈二・岩出和徳・田中直秀
72歳女性.これまで明らかな胸痛を自覚したこと
はない.10年ぶりに健康診断を受けたところ胸部
Xp写真にて縦隔拡大,また血圧高値(160mmHg
台)を指摘された.胸部CTにて上行大動脈に限
局した瘤径約8cmの偽腔開存型大動脈解離を認
めた為,class1の手術適応と判断し上行大動脈人
工血管置換術を行った.術中所見では大動脈瘤は
高度に菲薄化しており偽腔内面は平滑で器質化し
た壁在血栓を伴い,漿液性の心嚢液貯留を認めた.
病理組織診断では,瘤壁の一部には石灰化を伴う
部分もあり,外膜にはリンパ球の浸潤を処々に認
めたが,動脈炎の所見は認めなかった.大動脈解
離の成因は大動脈壁の動脈硬化と考えられるが,
急性期は無症状のまま慢性期に移行する症例が稀
に存在するためここに報告する.
1068 第 208 回関東甲信越地方会
症例は58歳女性.2007年8月より感冒症状に続発
する労作時呼吸困難が出現し近医受診.経胸壁心
エコーにて左室壁運動のびまん性低下を認め心筋
症精査目的で当院紹介.虹彩炎の既往と胸部XP
での両側肺門リンパ節腫大よりサルコイドーシス
を疑い気管支鏡下肺生検と頚部リンパ節生検を施
行,病理所見で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認め,
サルコイドーシスの心病変診断基準より心サルコ
イドーシスと診断.また,FDG-PETにて特徴的
な多発性結節様の心筋集積を認めた.第23病日よ
りPSL 30mgを開始,開始後2週間にて自覚症状
と心機能の改善を認め,現在外来通院中である.
サルコイドーシスの心病変の合併は予後を左右す
る重要な要因であり早期の診断治療が望まれる.
本症例は早期ステロイド治療が奏功した重要な症
例と考え報告した.
75) 塩酸ランジオロールにより左室流出路圧較
差が増悪した閉塞性肥大型心筋症の1症例
(筑波大学循環器内科) 馬場雅子・
渡邊重行・樋口甚彦・町野智子・山本昌良・
河野 了・村越伸行・瀬尾由広・武安法之・
小山 崇・有本貴範・青沼和隆
80歳女性.3年前に閉塞性肥大型心筋症(HOCM)
と診断された.労作時の呼吸困難が増悪し,心エ
コー上,左室流出路圧較差が増悪したため,心臓
カテーテル検査を施行した.冠動脈に有意狭窄は
なく,左室流出路圧較差は40mmHgであった.Ia
群抗不整脈薬,β遮断薬の効果について評価を行
った.ジソピラミド投与後に圧較差は消失した
が,塩酸ランジオロール投与では圧較差が増悪し
た(+30mmHg).通常HOCMでは,β遮断薬は
左室流出路圧較差を減少させることが知られてい
る.今回,短時間作用型β1遮断薬である塩酸ラ
ンジオロールは圧較差を増悪させる可能性がある
ことが示唆された.本薬剤は陰性変時作用が強い
が,陰性変力作用が弱く,心拍出量は減少しない.
このためにHOCMでは左室流出路圧較差を増悪
させる可能性があると考えられた.
76) 無症候性冠攣縮発作を伴った拡張型心筋症
の1例
(東京女子医科大学) 東谷迪昭・長嶋道貴・
谷崎剛平・亀山欽一・内田吉枝・森 文章・
高木 厚・鶴見由起夫・萩原誠久・笠貫 宏
症例は53歳男性で,うっ血性心不全で入院となっ
た.冠動脈造影上有意狭窄はなく,左室造影では
著明な心拡大を伴った心機能低下(左室拡張末期
容量405ml,左室駆出分画率30%)が認められた.
ホルター心電図で無症候性ST上昇発作が記録さ
れたため,アセチルコリン負荷試験を行ったとこ
ろ,多枝冠攣縮が誘発された.冠攣縮を合併した
拡張型心筋症と診断し,ベータ遮断薬を除いた従
来の心不全治療薬にカルシウム拮抗薬とスタチン
を加えた投薬で退院となった.半年後の左室造影
では左心機能の改善(左室拡張末期容量330ml,
左室駆出分画率46%)が認められた.心機能障害
の一要因として冠攣縮を疑い,経過観察中の拡張
型心筋症の一例を報告する.
77) 左室に限局した線維脂肪変性が不整脈基質
と推定された3例目の報告
(千葉大学循環器内科) 村山太一・
上田希彦・中村紘規・上原雅恵・濱 義之・
森野知樹・中川敬一・高岡浩之・三上陽子・
船橋伸禎・小室一成
我々は以前,左室に限局する線維脂肪変性をきた
し,同部位を起源とすると思われる持続性心室頻
拍および多源性心室性期外収縮をきたした2例を
報告した.今回,これに類似した1症例をさらに
経験したので報告する.症例は73歳男性.胸痛と
呼吸苦を訴え,近医で経胸壁心エコーを施行し,
左室局所の壁運動異常,低下(EF45%)を指摘
され,2007年5月当科外来を紹介受診.同年6月
に精査目的で入院した.冠動脈造影では有意狭窄
を認めず,CT,MRIでは,左室に多発する線維
脂肪変性を示唆する所見を認め,壁運動低下部位
に一致していた.12誘導ホルター心電図を施行し,
変性部位を起源と推定して矛盾しない,多源性の
心室性期外収縮を1274発(24時間)認めた.以前
に報告した2症例と同様,左室に限局した線維脂
肪変性が不整脈基質と推定された.
78) バセドウ病治療開始まもなく劇症型心筋炎
を発症,救命し得た1例
(日本医科大学集中治療室) 豊田将大・
村井綱児・吉田明日香・高久多希朗・
中田 淳・上野 亮・時田祐吉・加藤浩司・
岩崎雄樹・山本 剛・佐藤直樹・田中啓治
(同循環器内科) 牛島明子・古明地弘和・
水野杏一
46歳,女性.1ヶ月前よりバセドウ病に対しチア
マゾール開始.5日前より発熱,下痢が出現し急
性胃腸炎にて入院.第3病日にショックとなり,
トロポニンT陽性,V1-V4のST上昇が認められ集
中治療室へ入室.緊急カテーテル検査にて正常冠
動脈,左室の高度瀰漫性壁運動低下が,心エコー
にて少量の心嚢液が認められ劇症型心筋炎と診
断,IABPおよびPCPSを開始した.しかし心機能
の改善なくCK-MBの高値が持続,心筋生検にてリ
ンパ球浸潤に加え軽度好酸球浸潤も認められたた
め第7病日よりステロイドパルス療法を行った.
直後より心機能の改善,CK-MB値の低下がみら
れ,第11病日PCPS,第13病日IABPより離脱でき
た.バセドウ病治療中に劇症型心筋炎を発症,補
助循環とステロイド治療により救命し得た一例を
経験した.非常に稀有な症例と考えられ報告した.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
79) 血行動態の破綻により失神をきたした巨大
左房粘液腫の1例
(草加市立病院循環器科) 今城眞臣・
鈴木聖也・伊藤祐輔・大野篤行・古林正比古・
土信田伸夫・高元俊彦
(東京医科歯科大学循環制御内科学)
磯部光章
(草加市立病院呼吸器科) 鵜浦康司
(新葛飾病院心臓血管外科) 鈴木伸章
今回我々は血行動態の破綻により失神をきたした
左房粘液腫の一例を経験したので報告する.症例
は59歳女性.生来健康であったが,2007年7月2
日咳と啖を自覚し耳鼻科受診し内服薬を処方され
た.しかし症状の改善を認めず,内科受診を指
示された.胸部レントゲンで肺炎を疑われLVFX
600mgの内服を開始した.7月9日吐き気,頭痛,
発汗,呼吸困難感を自覚し,徐々に眼前暗黒感が
して意識を失った.失神は30秒ほどで自然に軽快
した.胸部CTで左心房内に低吸収域および石灰
化の散在を認め,心エコーで左房内に僧帽弁にほ
ぼ嵌頓しかかっている巨大なmassを認め,左房粘
液腫と診断した.緊急手術の適応であると判断し,
心臓血管外科に転院となり,翌7月10日緊急手術
を施行した.病理診断にて粘液腫と診断された.
80) 著しい血圧の変動で発見された巨大左房粘
液腫の1例
(大和市立病院循環器科) 亀田 良・
久保貴昭・安野仲子・中野浩成・長谷川延広
(大和成和病院心臓病センター心臓外科)
倉田 篤
(北里大学循環器内科) 和泉 徹
82) ペニシリン耐性肺炎球菌による感染性心内
膜炎の1例
(秦野赤十字病院循環器科) 宮崎咲江・
小西正紹・澤田玲民・藤井信一郎
(東海大学心臓血管外科) 金淵一雄・
上田敏彦
45歳,男性.【主訴】発熱.【現病歴】特別な基礎
疾患のない患者.2007年6月2日から発熱あり,
他院入院でも原因不明であり改善なく,6月28日
当院転院にて感染性心内膜炎と診断された.血液
培養ではペニシリン耐性肺炎球菌が同定された.
CTX+VCM投 与 開 始. そ の 後 脳 梗 塞 合 併 あ り,
また抗生物質治療でも疣贅は増大傾向だった.手
術適応であると考えられたため,7月4日東海大
学付属病院心臓血管外科へ転院した.梗塞内出血
を認めたため,待機的手術の方針となった.7月
23日僧房弁形成術実施.術後1ヶ月間CTX+VCM
継続,その後LVFX3ヶ月内服継続.抗生物質中
止後1ヶ月現在,再発なく経過している.
85) 高度大動脈弁輪部破壊を呈した感染性心内
膜炎に対して外科的治療が奏功した1例
(東邦大学医療センター大橋病院心臓血管外科)
山下裕正・尾崎重之・岡田良治・林田恭子・
大関泰宏・内田 真
症例は75歳男性.不明熱に対し他院で精密検査施
行,感染性心内膜炎による大動脈弁逆流の診断で
当院に紹介,転院となる.血液培養にてMRCNS
を検出.心臓超音波検査にて大動脈弁に付着する
25mm大の疣贅を認めている.転院時,疣贅の縮
小,心房細動の発症とともに心不全症状を呈する
ようになり準緊急手術を施行した.全身のCTを
施行したが,明らかな塞栓症は認めなかった.術
中所見では,感染巣は無冠尖を中心に広がってお
り,弁の破壊は弁輪部まで及んでいた.手術はス
テントレス生体弁を使用し大動脈基部置換術を施
行した.術後は,1ヶ月間の抗生剤点滴に引き続
き内服加療行った.その後も感染症状の再燃は認
めず経過し退院となった.大動脈弁輪部に及ぶ重
症感染性心内膜炎に対して外科的治療にて良好な
結果を得たので報告する.
83) 脳梗塞緊急手術で摘出した塞栓子が細菌塊
を含む疣贅であり,これが診断の契機となった感
染性心内膜炎の1例
(長野中央病院) 三浦英男・山本博昭・
河野恒輔・甲田 隆・新井智恵子
86) α thalassemia患者に対する大動脈弁置換術
(昭和大学病院心臓血管外科) 尾本 正・
福隅正臣・大井正也・岡山尚久・毛利 亮・
石川 昇・手取屋岳夫
(半蔵門循環クリニック) 加瀬川均
症例は57歳男性.2ヶ月前から38度の間欠的な発
熱があるも他の自覚症状が無く放置していた.突
然の右片麻痺と失語を発症し脳神経外科に入院.
左中大脳動脈領域の塞栓所見が認められ緊急の塞
栓除去術施行.その後右片麻痺はほぼ消失.提出
された塞栓子の病理検体で細菌塊が認められ当
院循環器科紹介.心エコーにて重度の僧帽弁閉
鎖不全症と前尖弁腹にvegetationを認め感染性心
内膜炎と診断.血液培養検査からStreptococcus
sanguisが検出され起炎菌と断定.PCG 2400万単
位/日,GM 120mg/日の投与にて臨床症状,炎症
所見ともに改善.その後心臓外科にて僧帽弁置換
術を施行.脳塞栓手術時の塞栓子の検体で細菌塊
を含む疣贅が確認された症例報告は極めて稀であ
り報告した.
症例は36歳男性.ポルトガル国籍.重度の大動脈
弁閉鎖不全症にて手術目的入院.特記すべき既往
歴,家族歴は無い.術前検査にて貧血(Hb 9.4g/
dl,フェリチン500ng/ml)を認め,精査の後αthalassemiaと診断.大動脈弁置換術を施行(On-X
機械弁,25mm).大動脈弁は石灰病変が散在し
ており,病理組織像では弾性線維の断裂を認めて
いた.術後3ヶ月の現在,術後経過良好である.
thalassemiaにおいては凝固能亢進による人工弁
血栓が知られており,本症例もワーファリン管理
を慎重に行うべきである.
81) 急速に全身転移した左房原発intimal sarcoma
の1例
(横須賀共済病院循環器センター内科)
田村美恵子・川島朋之・宮崎 徹・大東寛和・
宮崎晋介・高橋良英・野里寿史・武居明日美・
桑原大志・疋田浩之・佐藤 明・高橋 淳
(東京医科歯科大学循環制御内科学)
磯部光章
84) 多発性脳梗塞で発症し,大動脈弁・僧帽弁
の破壊と心不全増悪を認め治療に難渋した感染性
心内膜炎の1例
(虎の門病院循環器センター内科)
富田康弘・後藤耕作・石村理英子・田尾 進・
伊藤幸子・三谷治夫・藤本 肇・藤本 陽・
石綿清雄・山口 徹・大野 実
(同外科) 佐藤健一郎・田中慶太・成瀬好洋
87) 意識障害を主徴とした心不全の1例
(江東病院循環器内科) 曽根岐仁・
小泉章子・田宮栄治・井上 清
(順天堂大学循環器内科) 華藤芳輝・
大木勇一・西野顕久・代田浩之
症例は24歳男性.2週間前より体動時の息切れ
を自覚し,泡沫状ピンク痰,呼吸困難感が改善
しないためH.19年5/27当院受診.著明な肺うっ
血,両側胸水がみられ急性心不全と診断.心エコ
ーにて,左房内に充満した左室内に陥入する15×
3.5cmの巨大な腫瘤を認めた.左房内腫瘍と診断
し同日心臓外科にて,腫瘍切除術を施行された.
腫瘍は左房後壁から上壁にかけての筋層より発生
しており,左右の肺静脈に浸潤していた.病理診
断でintimal sarcomaと診断された.その後,化
学療法,放射線療法目的で7/4他院転院となっ
たが,2ヶ月間で肺転移,多発性脳転移による
痙攣重責発作,小腸への転移による腸重積,腎,
皮下への急速な転移を認め,永眠された.今回,
急速に多臓器へ転移した,極めて稀な左房原発
intimal sarcomaの一例を経験したので報告する.
76歳男性.動作緩慢・食欲減退が出現し当院神経
内科入院.頭部CTで多発性脳梗塞を認めた.心
エコーにて僧帽弁・大動脈弁に疣贅・穿孔を認
め,血液培養よりα-Streptococcusが検出され感
染性心内膜炎と診断.早期の手術は脳出血・縫合
不全のリスク高いため,ペニシリンG 1800万単位
+ゲンタマイシン180mg/日投与による内科的治
療開始.血液培養陰性化するも入院9日目より発
熱と炎症反応の再上昇,大動脈弁破壊による逆
流・心不全の増悪を認めた.内科治療は限界と判
断し入院14日目に両弁置換術施行.大動脈弁・僧
帽弁ともに疣贅付着を認め,大動脈弁右冠尖と僧
帽弁前尖に穿孔認めた.脳出血合併せず,感染症
状・心不全も徐々に軽快した.我々は多発性脳梗
塞・著明な弁破壊を伴い,治療に難渋した重症感
染性心内膜炎症例を経験したので報告する.
症例は74歳男性.頭痛主訴に外来受診し,頭部CT
では異常所見なし.来院時収縮期血圧220mmHg
だったが,安静状態で測定すると140mmHgまで
低下し,また血圧の低下とともに頭痛も消失した.
高血圧に対してCa拮抗剤で治療を開始した.内
服開始後,家庭血圧で正常血圧から200mmHg超
と著しい血圧の変動を認めた.心臓超音波検査に
て,左房内に4cm以上の高エコー腫瘤を認めた
ために入院となった.心臓カテーテル検査では,
肺動脈造影で左房内に巨大腫瘤を認め,左回旋枝
と右冠動脈から左房にむかう栄養血管と腫瘍濃染
像を認めた.血圧の著しい変動は,巨大腫瘤によ
って左房から左室への流出障害が生じることで出
現していたと考えられた.開胸にて腫瘤摘出術を
施行し,病理組織所見は左房粘液腫であった.術
後は血圧の変動も消失した.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
症例は70歳女性で主訴は意識障害と浮腫.S27年
MSといわれS39年CMC,S54年生体弁MVRを施
行 し た がC型 肝 炎 罹 患.H4 年 金 属 弁MVRを 施
行したが肺高血圧が持続し心不全を繰り返した.
H19年1月頃より右心不全増悪とともに意識障害
(JCS30)を生じるも心不全改善にて清明となっ
た.今回,同様の症状で12月13日に再入院.XP
はCTR約80%で著明な肺動脈拡大と中等度の胸水
を 認 め た.Hb9.7,GOT47,LDH321, ア ン モ ニ
ア198以外にBil値や頭部CTなどに異常は認めら
れなかった.心エコーはEF75%,RV圧48mmHg
で腹部エコーはpre LC,脾腫とIVC拡大が認めら
れた.アミノレバンと利尿薬によりアンモニア値
が低下し意識清明となるも再び肝性昏睡となり永
眠された.肝機能は比較的保たれていたが肺高血
圧などがうっ血肝を生じ,高アンモニア血症が増
悪したと考えられた.
コクヨホール(2008 年 6 月) 1069
88) 大動脈弁狭窄症を合併したアルカプトン尿
症の1例
(東京大学循環器内科) 古屋仁美・
桜井亮太・今井 靖・石坂信和・山下尋史・
平田恭信・永井良三
症例は70代男性.両親は従兄弟婚であった.50代
より全身の関節炎により整形外科的手術を繰り返
している.2004年に左膝人工関節置換術手術検体
の病理所見によりアルカプトン尿症と診断され
た.2007年7月,左人工股関節置換術の術前検索
により軽度の大動脈弁狭窄症を指摘された.同年
11月より労作時呼吸困難感を自覚したため,精
査目的に入院. 眼球結膜に色素沈着,尿の黒色
変化を認めた.心エコー上中等度ASを認めたが
心肥大の所見に乏しく,また心機能低下も軽度
であり,やはり手術には時期早尚と判断された.
MDCTにて大動脈弁のみならず,冠動脈の一部に
も石灰化を認めたが,冠動脈には有意狭窄を認め
なかった.血族婚の患者で関節症状と心疾患を呈
する場合,アルカプトン尿症を鑑別に加える必要
があると考えられる.
89) 急性肺水腫で発症した腱索断裂による僧帽
弁閉鎖不全の1例
(済生会横浜市南部病院) 岡田興造・
猿渡 力・野澤直樹・梅村将就・川浦範之・
坂賢一郎
60歳代男性,突然の胸痛と意識消失で救急受診.
来院時より著明な肺水腫を伴うショック状態で,
心電図は洞性頻脈,wide QRS,左室肥大パター
ンで,心エコーで僧帽弁後尖の腱索断裂と重度の
僧帽弁逆流を認めた.冠動脈造影では有意狭窄な
く,腱索断裂による僧帽弁閉鎖不全,急性肺水腫
と診断.入院時は低酸素血症のため手術適応とは
ならず,IABP,人工呼吸管理下に,カテコラミ
ンや利尿剤,さらに来院時採血で高度の炎症所見
を認めIEの可能性も否定できず,抗生剤を併用
し内科的治療を開始した.入院第二病日より治療
に反応し始め軽快傾向を示し,最終的に第9病日
に僧帽弁形成術を施行し軽快退院.病理で粘液腫
様変性による腱索断裂と診断.今回我々は僧帽弁
後尖の腱索断裂による急性肺水腫で来院し救命し
得た1例を経験したので報告する.
91) 治癒期の感染性心内膜炎を疑った大動脈弁
二尖弁の1例
(順天堂浦安病院) 由宇博重・一瀬哲夫・
横松友紀・山瀬美紀・河野安伸・小西博応・
谷本享生・大井川哲也・加藤洋一・中里祐二
(順天堂医院) 天野 篤
(日本橋循環器科クリニック) 岩間義孝
生来健康な45歳男性.半年前より労作時息切れを
自覚し,健診で収縮期心雑音を指摘されたため当
科紹介となった.経食道心エコー上,大動脈弁の
無冠尖右冠尖間に高度石灰化した塊状物を伴う
raphe,圧較差44mmHgを認め,大動脈二尖弁に
伴った治癒期の感染性心内膜炎による大動脈弁狭
窄を疑った.上行大動脈径45mmと拡大は軽度で
あったため基部を温存し大動脈弁置換術を施行し
た.肉眼的には二尖弁で無冠尖右冠尖間に石灰化
した塊状物を伴う癒合を認めた.組織学的に弁の
線維性肥厚・石灰化と中膜弾性線維の減少,断裂
を認めたが塊状構造物に感染性心内膜炎の所見は
認めなかった.大動脈二尖弁では若年でも石灰化
を認めることが多く,感染性心内膜炎合併例との
鑑別には注意が必要と思われる.
92) CABGと強力な薬物療法で改善したTetheringによる重症僧帽弁逆流症の1例
(埼玉県立循環器・呼吸器病センター循環器内科)
宮本敬史・石川哲也・富永光敏・松坂 憲・
村上彰通・徳田道史・中田耕太郎・鈴木輝彦・
久保田健之・仲野陽介・宮永 哲・遠藤 彰・
宮崎秀和・武藤 誠・今井嘉門
(同心臓血管外科) 小野口勝久・佐々木達海
症例44才男性.糖尿病,高血圧未治療で2007年7/
20に安静時呼吸困難(NYHA4)出現し入院.胸
部レントゲン上著明な肺うっ血を認め,心エコ
ーではEF 20%,LVEDd 71mmと低心機能で,重
症僧帽弁逆流症(MR)を認めた.ミルリノン,
hANPにて症状・肺うっ血改善し,7/27冠動脈
造 影 施 行.#5 75%,#6 100%,#11 90%,#12-1
75%,#1 100%と三枝病変認めたためCABG並び
に 僧 帽 弁 形 成 術 検 討 さ れ た が,Tenting height
15mmであり,形成後にMRが残存する可能性高
く7/31にCABG(LITA→#8,RITA→#12,SVG
→#14,SVG→#3)のみ施行した.術後カルベ
ジロール増量し,経過追った所EF 30%,LVEDd
70mmと大きな変化は無いものの,MRは軽度と
なり,NYHA1の生活が維持できている.Tetheringによる重症MRに対してCABGと強力な薬物療
法で改善した症例を経験したので報告する.
90) 高度の弁輪石灰化を伴う,慢性透析,僧帽
弁狭窄症に対し僧帽弁置換術を施行した1例
(東京ハートセンター心臓血管外科)
浜田俊之・野村文一・遠藤真弘
(菊池内科クリニック) 菊池 博
症例は62歳女性.1型糖尿病に伴う慢性腎不全の
ため10年来透析治療中.2007年6月頃より透析中
に心房細動が出現,10月頃より労作時息切れを自
覚,紹介により12月5日当院に入院した.心エコ
ー上著明な弁輪石灰化を伴う僧帽弁狭窄症で,三
尖弁閉鎖不全を合併していた.心臓カテーテル検
査にて冠状動脈病変のないことを確認,12月18日
僧帽弁置換術を施行した.上行大動脈にも著明な
石灰化があり,右腋か動脈送血にて体外循環確立.
膀胱温28℃で一時循環停止として大動脈遮断,弁
輪の石灰化を超音波吸引で破砕,除去し,欠損部
を自己心膜で補填,補強して,25mmの機械弁に
て置換した.De Vega法による三尖弁輪縫縮,ラ
ジオ波によるMAZE手術を併施した.術後洞不全,
完全房室ブロックに対し永久ペースメーカーを移
植,33日後独歩退院した.
1070 第 208 回関東甲信越地方会
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
第 99 回 日 本 循 環 器 学 会 北 海 道 地 方 会
2008 年 6 月 21 日 札幌市教育文化会館
会長:松 居 喜 郎(北海道大学病院循環器外科)
1) 大動脈弓部置換後のPCI困難症例に対し,5FR
heart railの小カテが有効であった症例
(札幌東徳洲会病院循環器内科) 竹内 剛・
山崎誠二
(徳洲会湘南厚木病院) 田中慎二
(札幌東徳洲会病院循環器内科) 浅野目晃・
青木健志・八戸大輔・谷 友之・橋冨 裕
3) 急性心筋梗塞に腸腰筋血腫を合併した2例
(手稲渓仁会病院循環器内科) 渡辺大基・
林健太郎・武藤晴達・佐々木晴樹・淺野嘉一・
宮本憲次郎・大本泰裕・山口康一・広上 貢・
村上弘則・田中繁道
5) 急性冠症候群をきたした若年者冠攣縮性狭心
症の1例
(函館病院循環器科) 宮田 真・石田紀子・
小松義和・小室 薫・安在貞祐・伊藤一輔
(同臨床研究部) 米澤一也
急性心筋梗塞(AMI)急性期に腸腰筋血腫を発症
した2例を経験したのでその臨床経過を報告す
る.症例は84歳と86歳の男性.いずれもAMIにて
当院救急外来を受診し,すぐにPCIが施行され,
成功している.責任冠動脈は1例が前下行枝,1
例が右冠動脈であった.それぞれAMI発症後24日
と13日目に発症しヘパリンは既に終了していた.
両例とも腰痛と急性の貧血,CPK上昇を認め,シ
ョックとなった.CTにて腸腰筋血腫が確認され
たため,出血血管へのコイル塞栓術を施行したが,
ショックが起因の多臓器不全で死亡した.AMI急
性期に発症する腸腰筋血腫は非常に稀な合併症で
あるが,高齢者の発症は致死的となりうる可能性
が考えられた.
症例は21歳男性.本年3月中旬深夜飲酒中に初め
て胸痛を自覚し1時間で消失.同日日中に同様の
胸痛あり.翌日深夜に顎から喉まで放散する強い
胸痛が出現し他院を受診.心電図でⅡ・Ⅲ・aVF
にST上昇を認め,硝酸剤舌下後当院救急外来へ
搬送.受診時は胸痛なく心電図も正常化しており
緊急冠動脈造影は施行せずICU収容.TnT陽性,
FABP弱 陽 性.CK/MBは 受 診 時 の495/39が ピ ー
ク.心エコーで側壁に壁運動低下あり.ニコラン
ジル持続静注とニフェジピン徐放剤投与し以後胸
痛なく経過.第4病日アセチルコリン負荷冠動脈
造影施行し左右冠動脈に胸痛を伴う高度なび慢性
攣縮が誘発され確診.禁煙,禁酒,カルシウム拮
抗薬継続投与とし退院.急性冠症候群を呈した冠
攣縮性狭心症の若年者症例を経験したので報告す
る.
2) 急性冠閉塞を繰り返した急性下壁心筋梗塞の
1例
(北海道循環器病院循環器科) 岡林宏明・
堀田大介・平山康高・山崎香子・柏木雄介・
儀間 充・田中秀一・菊池健次郎・塚本 勝
4) 短期間に2度の発症を繰り返した若年性急性
心筋梗塞の1例
(北海道勤医協中央病院循環器内科)
河野龍平・鈴木ひとみ・鈴木隆司・奥山道記・
堀 雄
6) 中隔枝による器質性兼冠攣縮性狭心症の1例
(市立旭川病院循環器内科) 奥山 淳・
石井良直・大蔵美奈子・井澤和眞・西浦 猛・
山田 豊・平沢邦彦
(富良野協会病院循環器内科) 名取俊介
症例は51歳男性,胸痛を自覚し来院.Ⅱ,Ⅲ,aVF
のST上昇を認めたため緊急カテーテル検査を施
行した.前下行枝は慢性完全閉塞で右冠動脈は
#1で閉塞しており,同部位に血栓吸引,ステン
ト留置しTIMI-Ⅲの血流を得た.STは基線に戻り
発症1時間で再灌流を得たが,帰室後にST上昇
を認め再造影を施行,ステント部が閉塞しており
血栓吸引,tPAの冠動脈内投与を施行.それでも
血栓消失しないためにHITを疑いアルガトロバン
の投与を開始.血栓も消失したため以後アルガト
ロバン持続点滴を行っていた.しかし1時間後再
びST上昇を認めたため造影検査を施行.再び閉
塞を認め血栓吸引,IABP挿入後帰室した.その
後も発作的なST上昇を認め,準緊急CABG(LITA
−LAD)を行った.繰り返す急性冠閉塞で治療に
難渋した症例を経験したので報告する.
2ヶ月の間に2度の急性冠症候群を起こした若年
症例を経験したので報告する.症例は35歳女性.
胸苦,左上肢の倦怠感を訴えて救急外来受診し,
急性心筋梗塞の診断には至らず帰宅した.2ヵ月
後に再び胸苦・嘔気を訴えて当院救急外来を受
診し,心電図,UCG所見から下壁急性心筋梗塞
の診断で緊急CAGを施行した.#2が完全閉塞,
#7に冠動脈解離が認められた.IVUSでは#2は
粥腫の破綻が原因であり,#7は動脈硬化はなか
った.責任病変は#2と判断し,PCIを施行した.
入院後に心筋シンチグラムを施行したところ,左
前下行枝領域に虚血の所見があるため,#7の冠
動脈解離が原因であると判断して,#7にPCIを
施行した.若年女性の急性心筋梗塞では特発性冠
動脈解離が特徴であるが,本症例では動脈硬化性
の病変と,冠動脈解離が両方存在していた.
【症例】64歳,男性.平成19年2月,起床後に胸痛
を自覚し,翌日前医に入院.冠動脈CTで有意狭
窄を認めず,レッドミル運動負荷も陰性のため退
院した.しかし3月に再び胸痛あり,Ca拮抗薬
を追加されるも症状おさまらず同院に再入院し
た.深夜に同症状出現し,
心電図上V1-2でST上昇,
Ⅰ,aVL,V4-6でST下降を認めたため当院に転
院した.運動負荷血流心筋シンチにて心室中隔に
限局した虚血を認めた.冠動脈造影では,中隔枝
に99%の狭窄と同血管への右冠動脈からの側副血
行を認めた.本幹レベルでの有意狭窄はないため,
アセチルコリン負荷を行ったところ,中隔枝が閉
塞した以外に冠攣縮を認めなかった.硝酸薬投与
後には中隔枝の狭窄は90%へ改善し,側副血行も
消失していた.以上より中隔枝の器質的狭窄に冠
攣縮が関与した狭心症と診断した.
【症例】49歳男性【現病歴】10数年前に大動脈弓
部置換術を施行.平成20年1月より胸痛発作あり,
当院で64列冠動脈CTを施行したところ,LCXに
90%狭窄を認め,精査・治療目的にて入院.【intervention】まず,CAGを施行しようとしたとこ
ろカテ室でうっ血性心不全となり,IABPを挿入
している.心不全改善後にCAG・PCIを施行.ま
ず5FR JL4.0もJR4.0も上行大動脈の蛇行強く,
coronaryにengageできず,7FR AL1.0+5FR Heart
Railを小カテにして,RCA・LCAにengageしたと
ころ,造影・PCIが可能になり,ステント留置も
できた.【結語】大動脈弓部置換後の造影困難症
例に対しPCIを行うとき,ガイドカテ+小カテを
使用することは有効であると思われた.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
札幌市教育文化会館(2008 年 6 月) 1071
7) T2強調画像で興味ある所見を示した冠れん
縮性狭心症2症例の対比
(北海道社会事業協会富良野病院)
名取俊介・野村智昭・芳賀智顕
(旭川医科大学循環・呼吸・神経病態内科学分野)
長谷部直幸
症例1は46才,男性.高血圧精査のため11.14入院.
11.17早朝4時20分,冷汗,吐き気を伴う胸痛が
出現.心電図で広範囲にST上昇を認めたがニト
ロ舌下前に症状は消失し心電図変化も改善.同日
夕方に施行した心臓MRI(CMR)では心筋浮腫を
反映する高信号は認めなかった.症例2は30才,
女性.H20.1.24昼過ぎから息苦しさと胸部圧迫感
が出現.緩解と増悪をくり返すため16時40分当院
救急外来受診.心電図にてaVR以外の誘導でST低
下を認めたが自然に症状,心電図は改善した.入
院後はニコランジルの持続点滴にて胸痛は出現せ
ず.翌25日に施行したCMRでは心筋浮腫を示唆
する高信号領域を認めた.両症例共に冠動脈CT
では有意狭窄を認めず,胸痛発作は冠れん縮によ
るものと考えられCMRで捉えられた高信号の病
的意義を考える上で興味深い症例と思われた.
8) 放射線治療6年後,心膜性悪性中皮腫再発症
例に認めた左冠動脈主幹部高度狭窄
(岩見沢市立総合病院) 會澤佳昭・
鈴木章彦・後藤知紗・原 豊道・吉村治彦
(石川内科循環器科クリニック) 笹山辰之
症例は70歳代女性.平成14年に開胸生検にて心膜
性悪性中皮腫と診断され,放射線治療受けた.そ
の後腫瘍の増大はなかったが,平成18年5月CT
にて再発を認めた.平成20年2月にうっ血性心不
全にて入院.心エコーで心膜癒着及び左室側壁心
外膜を中心に再発した腫瘍と同領域の壁運動低下
を認めた.僧帽弁流入血流波形は拘束性パターン
を呈していた.軽労作で前胸部絞扼感が出現する
ため,冠動脈造影を施行し,左冠動脈主幹部起始
部に99%狭窄を認めた.心膜性悪性中皮腫再発例
で,放射線治療後であることからカテーテルイン
ターベンションによる治療を選択し,薬剤溶出性
ステントを留置した.本症例は,放射線照射が誘
因となり冠動脈起始部狭窄が出現したものと考え
られた.若干の文献的考察を加え報告する.
9) 当院のPCI,下肢PTA症例のまとめ
(八雲総合病院内科) 長島 仁・沼崎 太
八雲総合病院は北部渡島地域でPCI,PTAを施行
できる唯一の院所である.当院は心臓血管外科を
有さず,最も近いそれは70km離れた函館市内に
存在する.八雲町のような地方小都市であっても
PCI,PTAを必要とする多数の患者が存在する.
1996∼2005年に当院において約220例のPCI,約
10例の下肢PTAが施行され,また2006年に術者2
人の新体制となってから2年間弱で170例以上の
PCI,30例以上の下肢PTAを施行した.少数の循
環器専門医しか存在せず,心臓血管外科手術が行
えない地方小都市でも多くの患者がPCI,PTAの
恩恵を享受している.今回我々は当院の2006年以
降の症例のまとめを行い,それを通して地方小都
市におけるPCI,下肢PTAの可能性と限界につい
て検討を行いたい.
1072 第 99 回北海道地方会
10) 冠動脈瘤に対する手術経験
(市立旭川病院胸部外科) 大場淳一・
青木秀俊・宮武 司・吉本公洋・安達 昭・
大久保祐樹
(JA厚生連旭川厚生病院循環器科) 塩越隆広
13) 急速な転帰をたどった治療抵抗性心不全
で,剖検にて心アミロイドーシスと確定診断しえ
た1例
(市立函館病院循環器科) 本間恒章
(市立千歳市民病院循環器科) 尾崎威文・
堀本和志
冠動脈瘤の多くは無症候性に経過するが血栓形成
による心筋梗塞の発生や冠動脈瘤の破裂が報告さ
れている.手術適応や術式はいまだ意見の一致を
見ていない.われわれの手術経験を述べ,若干の
検討を加えた.症例は3例.いずれも冠動脈狭窄
病変があり冠動脈バイパス手術と同時に瘤を処置
した.瘤の部位は#9,#4AV,#7であった.いず
れも心停止下に冠動脈瘤を処置した.2例では瘤
を切開せず外膜側からフェルトプレジェット付針
糸で縫縮したが,術後造影では瘤が残存した.1
例は冠動脈瘤を切開し,内腔を確認しつつ縫縮し
た.この症例では術後冠動脈CTで瘤は消失して
いた.拡大傾向のある瘤や,開心術を行う症例で
はリスクが高くなければ瘤に対する処置は妥当と
考える.その際,心停止下に瘤を切開して縫縮す
る方法は確実と考える.
60歳代男性.2007年3月頃より労作時息切れを自
覚.徐々に増悪し9/14初診.胸部レントゲン写
真で両側胸水と肺うっ血,心エコーではびまん性
の軽度壁運動低下,EF=58%,左室肥大,拡張障
害を認め,拡張障害主体の心不全として治療を
開始.一時改善したが,9/28より血圧90,脈拍
140のショック状態となり,緊急カテにて冠動脈
疾患否定,低心拍出量症候群と診断.強力な薬物
療法を行うも全く奏功せず,PEAを繰り返した.
IABPサポートにて一時的に安定したが,循環不
全が徐々に進行し,CHDFなども行うが奏功せず
11/4死亡となった.剖検にて心筋にALアミロイ
ドの沈着を認め,心アミロイドーシスの診断とな
った.急速な転帰をたどった治療抵抗性心不全の
1例として若干の知見を加え報告する.
11) 当院での心拍動下冠状動脈バイパス手術症
例の検討
(札幌中央病院) 櫻田 卓・大澤久慶・
荒木英司
14) 抗凝固療法中に広範な脳塞栓症を発症した
たこつぼ心筋障害の1例
(勤医協中央病院循環器科) 奥山道記・
鈴木ひとみ・鈴木隆司・河野龍平・堀 雄
当院で2004年10月より2008年3月までに施行し
た単独CABG 79例のうち心拍動下に行った62例
(78.5%)を対象とした.体外循環下手術(On pump
beating CAB)19例,体外循環非使用下手術(OPCAB)43例であった.緊急手術は3例(On 2例,
OP 1例)
,再手術例は5例(On 4例,OP 1例),
透析患者数は10例(On 1例,OP 9例)であっ
た.末梢側吻合数は1∼7枝(On 3.6±1.8,OP
2.2±0.9).手術死亡は無く,1例を術後7ヶ月目
に縦隔炎で失った.術後のグラフトは全例64列
CTとドップラエコーで評価し,グラフト造影は
45例(72.6%)に施行した.グラフト閉塞は9吻
合(うちSVG-#4が5例)で,全吻合のpatency
は94.6%であった.
患者は62歳女性.畑仕事中に胸痛,動悸を自覚し,
翌日も倦怠感が続いたため当院内科外来を受診.
心電図は正常洞調律でST上昇と陰性T波を認め,
心臓超音波検査でたこつぼ心筋障害が疑われた.
急性心筋梗塞除外のため冠動脈造影を施行.冠動
脈に有意狭窄を認めず,左室造影で心尖部のバル
ーン状拡張を認め,たこつぼ心筋障害と診断.心
内血栓は認めなかったが予防的にヘパリン持続投
与,アスピリン内服を開始.第4病日の心臓超音
波検査でも心内血栓は認めず,壁運動の改善傾向
を認めたが,第5病日に意識レベル低下と右片麻
痺を認めた.脳MRI検査で左中大脳動脈領域の広
範な梗塞所見を認め,心原性脳塞栓症と診断し脳
神経外科へ転院となった.抗凝固療法中にも関わ
らず脳塞栓を合併したたこつぼ心筋障害を経験し
たので報告する.
12) セレン欠乏症により重症心不全をきたした
クローン病の1例
(JA北海道厚生連帯広厚生病院第二内科) 伏屋敬博・茂庭仁人・望月敦史・進士靖幸・
永原大五・高橋 亨・林 学・佐藤直利・
鹿野泰邦
15) たこつぼ心筋障害を発症し,高度の動的左
室流出路狭窄を生じたS字状中隔の1症例
(名寄市立総合病院) 野崎綾子・島村浩平・
酒井博司・武田智子・井川貴行・加藤 励・
本谷和俊・増田孝広
【はじめに】セレンは土壌中に含まれ,野菜や小
麦粉を食べていれば欠乏することはない.一方長
期に中心静脈栄養や経管栄養を受けている患者で
はセレン欠乏症による心筋障害を発症することが
報告されている.【症例】16才,女性.9才時に
クローン病を発症し経腸栄養剤を経口摂取してい
た.平成19年2月動悸・呼吸困難を訴え当科受診.
心 エ コ ー で はLVDd 62mm,EF 27%とDCM様 の
所見を認めた.セレン血中濃度は27μg/Lと低値
であった.同年4月心室細動を発症し入院.人工
呼吸器,CHDF,セレン補充,β遮断薬やACE阻
害薬投与などの治療をしたが心不全は急速に進行
性し同年8月永眠された.【まとめ】セレン欠乏
症は希な病態であるが,心不全が進行する前に補
充をすれば心筋障害は可逆的であるとされてお
り,早期の発見・治療が重要であると考えられた.
症例は81才女性.当院にて白内障手術が行なわれ,
術翌日から歩行時の胸苦が出現した.心電図では
広範な誘導でST上昇を認め,心エコーでは心尖
部周囲の広範な高度壁運動低下と左室流出路狭
窄,僧帽弁前尖の収縮期前方運動とこれに伴った
高度の僧帽弁逆流を認めたが,冠動脈造影では有
意狭窄はなく,たこつぼ心筋障害と診断した.数
日の経過で壁運動低下と流出路狭窄は改善し,エ
コー所見ではS字状中隔による心基部の肥厚を認
めたが,肥大型心筋症を示唆する明らかな所見は
無かった.しかし,壁運動異常の消失後もごく軽
い運動負荷などで流出路狭窄は容易に増悪し,陰
性変力作用を有する薬で抑制された.本症例はS
字状中隔のみで極めて動的な左室流出路狭窄を生
じており,稀な例と考えられるため報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
16) Adaptive-Servo Ventilator使用により心不
全症状の顕著な改善を示した中枢性無呼吸合併拡
張型心筋症の1例
(札幌医科大学第二内科) 村中敦子・
高田明典・横山 豊・山本均美・矢野俊之・
下重晋也
(同臨床検査医学) 湯田 聡
(同第二内科) 橋本暁佳
(同耳鼻咽喉科) 新谷朋子
(同第二内科) 土橋和文・島本和明
19) 左心房を占拠する巨大繊維肉腫により急性
うっ血性心不全をきたした1例
(手稲渓仁会病院循環器科) 北村 健・
佐々木晴樹・渡辺大基・宮本憲次郎・
山口康一・村上弘則・田中繁道
(同心臓血管外科) 山下暁立・丸山隆史・
山田 陽・中西克彦・岡本史之
22) 当科における大動脈弁形成術の中期成績
(手稲渓仁会病院心臓血管外科) 山田 陽・
岡本史之・中西克彦・丸山隆史・寺田真也・
山下暁立・八田英一郎・俣野 順・酒井圭輔
(草津総合病院) 川副浩平
【目的】当科では症例により大動脈弁閉鎖不全症
(AR)に対し大動脈弁形成術(AVP)を行ってい
る.かかる3症例につき術後中期成績を検討した.
【方法】AVPの適応は大動脈弁狭窄を伴わないAR
で弁尖と弁輪部に石灰化病変を伴わないものとし
た.AVPはsubvalvular circular annuloplastyを基
本術式とし,病因によりtricuspization,leaflet
suspentionを追加した.【症例1】24歳男性.AR
severe,AV prolapseの診断.3歳時に1型VSD手
術の既往.術後1年3∼4ヶ月時UCG上AR mild.
【症例2】21歳男性.AR moderate∼severe,BCAV,
DCMの診断.術後1年時UCG上AR trivial.
【症例
3】25歳男性.AR moderate∼severe,BCAV,
CRBBBの診断.術後1ヶ月時AR none.【結論】
AVPの術後中期成績は良好であった.
中枢性無呼吸・夜間睡眠時低酸素血症は心不全患
者の機能予後に深く寄与する.Adaptive-Servo
Ventilator(ASV)が顕効した中枢性無呼吸合併
拡張型心筋症の1例を経験したので報告する.症
例は37歳,男性,24歳時労作時息切れを自覚,内
服加療を開始.睡眠時ポリソムノグラフィーでは
中枢性無呼吸(無呼吸低呼吸指数:AHI 33/h)を
確認,在宅酸素療法導入も体重増加,夜間呼吸苦
増強,2008年10月12日入院精査となった.起座呼
吸で左室駆出率低下・内腔拡大と高度の僧帽弁逆
流を認め,
同年12月5日ASV導入(導入後AHI 0/h),
次第に自覚症状・壁運動能・僧帽弁逆流の改善が
得られ,軽快退院となった.以上,ASVの中枢性
無呼吸合併の心不全での有用性が示唆された.
【症例】52歳男性.【現病歴】入院2ヶ月前より咳
嗽,血痰,発熱を認め近医を受診するも経過観
察.入院当日呼吸苦増悪を認めたため,当院救外
受診.うっ血性心不全の診断で,精査加療目的に
入院となった.【入院後経過】入院後,利尿剤の
点滴にてもうっ血改善せず,入院時のエコー,造
影CTにて左房内に腫瘤を認め,左房粘液腫が疑
われ,それが原因の心不全が疑われたため,緊急
左房腫瘍摘出術を施行した.術中所見としては,
左房内は腫瘍で充満されており,腫瘍はゴム状弾
性硬で右肺静脈内にも進展していた.病理所見
はfibrosarcomaであり,悪性度が高く,予後は5
-12ヶ月と考えられた.【考察】急性うっ血性心不
全の発症を機に発覚した左房内fibrosarcomaの1
例を経験したので報告した.
17) 重症左心不全症例に対する左室形成術前後
の心筋酸素代謝による評価の検討
(北海道大学循環器外科) 杉木孝司
(同循環器内科) 納谷昌直
(同循環器外科) 新宮康栄・松井欣哉・
久保田卓・椎谷紀彦・村下十志文・松居喜郎
20) 上行大動脈Porcelain Aortaを伴う重症弁膜
症に対し,上行大動脈人工血管置換術を併用した
2弁置換術の1例
(札幌医科大学病院第二外科教室)
中島智博・中村雅則・神吉和重・永野伸卓・
山内昭彦・樋上哲哉
23) 高度左室拡大及び低左心機能を伴った重症
大動脈弁狭窄症に対する手術経験
(北海道大学循環器外科) 久保田卓・
夷岡徳彦・新宮康栄・松井欣哉・杉木孝司・
若狭 哲・大岡智学・橘 剛・山川智士・
椎谷紀彦・村下十志文・松居喜郎
【方法】当科で左室形成術を施行した6症例に対
して手術前後にPETを施行して,その術前後の心
筋酸素代謝を評価した.虚血性心筋症4例,拡張
型心筋症1例,僧房弁閉鎖不全1例.手術前後に
PETおよび心エコーでESV,SV,EFを計測した.
酢酸PETでは酢酸の代謝速度定数(kmono)を計
測し,これを用いて心筋酸素代謝効率を非侵襲的
に評価できるwork metabolic index(WMI)を計
算して評価した.WMI=
(SV×心拍数×収縮期血
圧)/(kmono×BSA)【結果】手術前後でNYHA
は有意に改善,ESVは有意に減少,SVとEFは有
意差はないものの増加する傾向にあった.また,
Kmonoは変化しなかったが,WMIは有意に増加
した.【結語】重症心不全症例に対する左室形成
術はESVを減少するとともに,心不全症状を改善
させ,心筋酸素代謝効率を改善させることが示唆
された.
【症例】患者は78歳,男性.慢性腎不全の為に
2004年から血液透析を受けていた.2007年7月に
心不全にて近医にて入院した際,重症大動脈弁狭
窄症,重症僧帽弁閉鎖不全症,重症三尖弁閉鎖不
全症を指摘されたが,上行大動脈大動脈の石灰
化および粥状硬化高度で,手術適応なしと判断
された.2008年に心不全症状が悪化したため,手
術目的に当科を紹介された.低体温循環停止にて
上行大動脈人工血管置換術を施行した後に大動脈
遮断を行い,大動脈弁置換術,僧帽弁置換術,三
尖弁形成術,MAZE手術を行った.術後,心機
能改善し術後第52病日前医へ転院した.【結語】
Porcelain Aortaを合併する透析患者の弁膜症症例
に対し循環停止上行大動脈人工血管術を行うこと
で通常の大動脈遮断下に安全に弁置換術を施行し
た.
2003年1月から2008年までの間に当科でsevere
ASが手術適応となった55例の中で,術前心エコ
ーによりLVDd≧60mmは5例,そのうち3例が
EF≦25%であった.3例中ARが3度あった1例
を除き,2例の術前及び術後の心機能,そして
術式を検討した.LVDd/s 72/63,EF 22%,AR2
度の症例にAVR(機械弁23mm)+大動脈弓部全
置換を施行.術後はLVDd/s 64/58,EF 20%とあ
まり改善が見られず,MR2度を伴ったLVDd/s
68/62,EF 18%の症例にAVR(生体弁21mm)+
MAP+乳頭筋縫縮術を施行し,LVDd/s 54/42,
EF 31%と早期に改善を認めた.乳頭筋接合術な
どの付加手術が高度拡大心を有する低左心機能
severe ASの心機能改善に有効であることが示唆
された.
18) 大動脈弁に多発した乳頭状線維弾性腫の1例
(北海道社会保険病院心臓血管センター心臓内科)
管家鉄平・古谷純吾・田所心仁・木谷俊介・
五十嵐正・四戸力也・石丸伸司・五十嵐康巳・
五十嵐慶一
(同心臓外科) 内藤祐嗣・吉田俊人
(岩見沢労災病院心臓血管外科) 江屋一洋
21) CTによる大動脈弁,僧帽弁石灰化の定量
的評価
(北海道大学病院循環器外科) 新宮康栄
(北海道大学放射線科) 大山徳子
(北海道大学病院循環器外科) 加藤伸康・
夷岡徳彦・杉木孝司・若狭 哲・大岡智学・
橘 剛・山川智士・久保田卓・椎谷紀彦・
村下十志文・松居喜郎
症例は78歳女性.2007年8月に外来で心エコーを
施行したところ大動脈弁右冠尖付近に径約10mm
で可動性を有する腫瘤を認めた.2001年の心エコ
ーをretrospectiveにみると,この時点より同部位
に径3mm程度の腫瘤が認められていた.無症状
であったが塞栓症等のリスクがあるため外科的腫
瘍切除術の適応と診断した.右冠尖の辺縁に付着
する径10mmの球形で表面に多数の突起を有する
半透明の腫瘍を切除した.また,左冠尖の辺縁に
も術前エコーでは認められなかった径3mm程度
の突起物を認めたためこちらも切除した.病理組
織学的検査にて切除した腫瘍はともに乳頭状線維
弾性腫と診断した.今回,心エコーにて腫瘍の経
過を追え,多発した乳頭状線維弾性腫を経験した
ため報告する.
大動脈弁と僧帽弁の石灰化をCT値により定量的
に評価し,術中所見と比較した.
【方法】症例1
は56歳の慢性透析患者(透析歴29年)で僧帽弁狭
窄症,大動脈弁狭窄症にて二弁置換施行.症例
2は67歳の慢性透析患者(透析歴11年)で大動
脈弁狭窄症兼閉鎖不全症にて大動脈弁置換施行.
心電図同期下単純CT検査にて僧帽弁と大動脈弁
の石灰化の程度をCT値150HUから1000HUを超え
るものまで四段階に分類し,術中所見でmild;
比較的やわらかい,moderate;硬いが針は通る,
severe;要切除(脱灰)との相関をみた.【結果】
両症例でCT値が1000HU以上と高い値を示す領域
と severe が一致した.症例1では1000HUを
超える部分が結節状に見られた部位では脱灰後に
自己心膜補填を要した.【結語】CT値による石灰
化の分類は術式決定に役立ち得る.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
24) 冠静脈洞血栓症の1例
(北見赤十字病院循環器科) 齋藤高彦
(函館中央病院循環器科) 松島将士・
齋藤尚孝・浅島弘志
冠静脈洞血栓症はまれな疾患で,報告されている
ものの大多数は急激な経過をたどって死亡し,剖
検により診断されている.中心静脈カテーテルな
どによる医源性の冠静脈洞障害が主な原因と考え
られている.われわれはヘパリン持続点滴が有効
であった冠静脈洞血栓症の1例を経験したので報
告する.症例は82歳女性.右人工股関節置換術
後,造影CTにて冠静脈洞内に陰影欠損像を認め
た.肺動脈や下行静脈および下肢静脈には血栓症
を示唆する所見を認めなかった.心エコー検査に
て左室壁運動は正常で,心内血栓像を認めなかっ
た.冠静脈洞血栓症と考えられたが,胸部症状な
く血行動態も落ち着いており,術後かつ高齢であ
ることから,血栓溶解薬を使用せず,ヘパリン持
続点滴を行った.2週間後の造影CTにて冠静脈
洞内の陰影欠損像は消失し退院となった.
札幌市教育文化会館(2008 年 6 月) 1073
25) 急性心筋梗塞発症時に側副血行路となった
冠動脈冠静脈洞瘻の1例
(北海道がんセンター循環器科) 蓑島暁帆・
竹中 孝・井上仁喜・藤田雅章・杉山英太郎
症例は65歳女性.平成3年より冠攣縮性狭心症,
甲状腺機能低下症,高血圧症にて当科外来に通院
中.平成19年8月22日に持続する胸痛があり当院
に搬入,急性心筋梗塞の診断で緊急冠動脈造影を
施行した.右冠動脈#3で血栓を伴う完全閉塞像
を認め,責任病変と判断した.左回旋枝冠静脈洞
瘻が存在し,同部より右冠動脈房室結節枝に側副
血行路を認めた.PCIを施行,ステントを挿入し
良好な拡張が得られた.右冠動脈房室結節枝も冠
静脈洞瘻を形成し,互いに交通があり,これが側
副血行路となっていたものと考えられた.術後の
経過は良好で梗塞部の壁運動もまずまず保たれ
た.左回旋枝および右冠動脈房室結節枝からの,
互いに連絡する冠動脈冠静脈洞瘻が,急性心筋梗
塞発症時に側副血行路となったという貴重な症例
を経験したので報告する.
28) ボセンタン治療にて急性効果を認めた重症
肺高血圧症の1例
(北海道循環器病院循環器内科) 堀田大介・
平山康高・柏木雄介・山崎香子・岡林宏明・
儀間 充・田中秀一・菊池健次郎
(同循環器外科) 白神幸太郎・塚本 勝・
横山秀雄・大堀克己
(さとう循環器科・内科クリニック)
佐藤良二
【患者】65歳,女性【主訴】呼吸苦,全身倦怠感【家族
歴】特になし【既往歴・現病歴】平成4年下腿浮腫あ
り精査の結果,深部静脈血栓症,肺塞栓症,肺高血圧
症と診断.下大静脈フィルター留置,抗凝固療法,利
尿剤投与にて全身状態改善したが,その後も右心不全
のため入退院を繰り返していた.心エコー検査では著
明な右室の拡張所見と心室中隔側の扁平化所見[+]
を認め推定肺動脈圧は常に80mmHg以上を示した.平
成17年5月中旬頃より,歩行時の息切れ,両下腿浮腫
と全身倦怠の増強あり同年6月23日再入院.肺動脈圧
(カテーテル圧)は115∼125mmHgと著明に上昇して
いた事からボセンタン治療を試みた.同薬剤62.5mg服
用後23分頃より徐々に低下し95∼100mmHgへ,収縮
期血圧は10mmHg以内の低下に留まった.ボセンタン
の急性効果を確認しここに紹介した.
31) Purkinje電位を指標としたablationにより
electrical stormを脱し得た,左室形成術後の1例
(旭川医科大学循環・呼吸・神経病態内科)
伊達 歩・坂本 央・松田夏菜子・松木孝樹・
田邊康子・竹内利治
(同心臓血管外科) 赤坂伸之
(同循環・呼吸・神経病態内科) 佐藤伸之・
川村祐一郎
(同救急部) 郷 一知
(同心臓血管外科) 笹嶋唯博
(同循環・呼吸・神経病態内科) 長谷部直幸
69歳男性.広範前壁心筋梗塞を発症後,VT/Vfを反復
し当科転院.左前下行枝と右冠動脈領域の重症虚血,
心室瘤を認め,二枝冠動脈バイパス術+左室形成術+
梗塞正常心筋境界部のcryoablationを施行した.しか
し術後もVT/Vfが出現し,ICDが頻回作動した.Amiodarone,sotalol,verapamil,carvedilolの内服,lidocaine,nifecalantの持続静注にてもcontrolがつかず,
electrical stormを呈した.VT/VfはすべてRBBB,superior axisのPVCから生じており,trigger PVCは左脚
後枝起源が疑われた.左脚後枝付近のpurkinje電位を
指標にsedation下にablationを施行し,以後VT/Vfは出
現していない.左脚後枝付近のpurkinje fiberのtrigger
activity(DAD)
,もしくはreentryに起因するtrigger
PVCをablationしたことでVT/VFをcontrolできたと考
えられた.
26) Eisenmenger化した二次孔欠損型心房中隔
欠損症に対してBosentan投与を行った1例
(市立札幌病院循環器科) 木谷俊介・
福田洋之・水島 航・野澤篤史・岩切直樹・
牧野隆雄・五十嵐康己・加藤法喜
29) 左冠動脈回旋枝末梢に認められた孤立性冠
動脈瘤の1例
(北海道がんセンター循環器科)
杉山英太郎・竹中 孝・井上仁喜・藤田雅章・
蓑島暁帆
32) ペースメーカー移植術後に心尖部壁運動低
下が生じたが設定の変更後に回復した1例
(KKR札幌医療センター循環器科)
白井真也・斎藤俊一・簗詰徹彦・神垣光徳・
渡辺武史
症例は30歳女性.平成15年から労作時息切れを自
覚 し て い た. 平 成19年11月TTE,TEEでASDを
認め,肺動脈収縮期圧84mmHgと肺高血圧を認め
た.同年12月のsamplingではO2 step upを認めず,
Qp/Qs=0.92と右→左シャントの所見を認めたた
め,同時点での手術適応はないと考えられた.平
成20年1月17日よりBosentan 125mg/dayの投与
を開始し,2月15日から250mg/dayに増量した.
3月7日のsamplingでは右心圧データはほぼ不変
であったが,Qp/Qs=1.42と左→右シャントの増
加を示唆する所見を認めた.現在ASD閉鎖術の
適応,タイミングを検討している.Eisenmenger
化したASDに対してBosentan投与を行なった症
例は比較的稀なため,若干の文献的考察をつけて
報告する.
症例は73才,女性.2006年10月頃より労作時に胸
部圧迫感を自覚するようになり,2007年2月精査
目的で当科に入院した.負荷Tl心筋シンチグラフ
ィ上,前壁中隔から心尖部に虚血所見を認めた.
冠動脈造影上,左冠動脈前下行枝及び右冠動脈に
有意狭窄を認めた他,左冠動脈回旋枝末梢に直径
4mmの嚢状冠動脈瘤を認めた.冠動脈瘤に対し
て,外科的手術やコイル塞栓などのカテーテル治
療を検討したが,破裂の危険性が不明であり,派
生血管が細く治療に伴う冠閉塞や冠動脈穿孔の危
険性が高いと考えられたため,今回は冠動脈瘤
に対する処置は保留し,左前下行枝にbare metal
stentを留置して経過観察とした.本症例は,冠
動脈側枝の末梢という稀な部位に存在していた冠
動脈瘤で,その自然予後は不明であり,治療の選
択に苦慮したので報告する.
症例は71歳女性.平成17年9月に洞不全症候群の
診断でペースメーカー移植術をDDDの設定で施
行した.外来通院で発作性心房細動を繰り返すこ
とから内服薬の調整のため平成18年1月に入院.
しかしこの際のペースメーカーチェックで前回
7.0mVあったR波高が1.11mVと極端に低下し,ま
た心エコーでは心尖部でakinesisであった.冠動
脈造影では有意狭窄なく,この後心室リードを
極力使用しないで済むようにAV間隔を300msec,
PV間隔を275msecと最大限延長して外来フォロ
ーを続けていた.すると平成18年9月のペースメ
ーカーチェックではR波高が5.0mVで心エコーで
も壁運動異常が認められなかった.ペーシングリ
ードによる心筋への影響が考えられた症例で若干
の文献的考察を加えて報告する.
27) 動脈管開存症による成人肺高血圧症の1例
(北海道大学第一内科) 伊東直史
(KKR札幌医療センター循環器科) 渡辺武史
(北海道大学第一内科) 辻野一三
(KKR札幌医療センター循環器科) 神垣光徳
(北海道大学第一内科) 小岩弘明・
大平 洋・大平 恵・池田大輔・坂上慎二
(王子総合病院循環器科) 石井勝久
(北海道大学第一内科) 西村正治
30) 修正大血管転位症術後のAFLに対して,ア
ブレーション治療が有効だった1例
(北海道大学循環病態内科学) 渡邉昌也
(NTT東日本札幌病院循環器内科) 安藤康博
(北海道大学循環病態内科学) 絹川真太郎・
川嶋 望・三山博史
(渓和会江別病院循環器内科) 下川淳一
(北海道大学循環病態内科学) 横式尚司・
山田 聡・筒井裕之
(市立旭川病院循環器内科) 西浦 猛
(同胸部外科) 大場淳一
(北海道大学病院循環器外科) 松居喜郎
33) ペースメーカー設定変更後にリードの不完
全断線による症状が顕在化した1例
(JA北海道厚生連旭川厚生病院循環器科) 貴田岡享・小川裕二・木島 基・加藤淳一・
塩越隆広・太田貴文・河端奈穂子
(旭川医科大学循環・呼吸・神経病態内科学分野)
長谷部直幸
症例は45歳男性.10年前に労作時息切れが出現し,
近医にて原発性肺高血圧症と診断された.治療
としてberaprostとCa拮抗薬の内服,抗凝固療法,
在宅酸素療法が開始された.2006年春頃より症状
の増悪があり,同年12月に当科紹介となったが,
NYHAⅡ度であり,beraprostの増量のみで経過
観察していた.2008年1月に再評価目的で入院し
た際に,以前の胸部造影CTを再検討したところ,
胸部下行大動脈から主肺動脈へのシャントを認め
た.心電図同期下の造影CTで最大径18mm,長
さ12mmの動脈管を認めた.100%酸素吸入で肺動
脈の可逆性を検討したが,肺血管抵抗指数は20.2
から12.7wood・単位m2までしか低下せず,長期
予後を考え,手術は施行せず経過観察中である.
1074 第 99 回北海道地方会
症例は,51歳女性.修正大血管転位症(IDD型)にて,
32歳時にASD,VSD閉鎖+LV−PA conduit repairを施
行されていた.H17年からAFLが度々出現し,心不全
の増悪を認めていた.H19年5月当科入院.心電図は
HR100回/分の頻脈でRR間隔は整,Ⅱ,Ⅲ,aVf誘導
で下向きのF波を認める2:1のAFLと考えられた.6
/8アブレーションを施行.頻拍中にCARTOマッピン
グを行ったところ,MA(解剖学的僧帽弁輪)−IVC
峡部を時計方向回転に旋回するマクロリエントリーで
あることが判明.MA−IVC峡部に焼灼を加えたとこ
ろ,頻拍は停止した.修正大血管転位症術後に対する
AFLアブレーションの報告は稀であり,解剖学的考察
を加えて報告する.
症例は70歳男性.平成19年2月に高度房室ブロッ
クのため永久ペースメーカー(DDDモード)植
え込みを施行.退院後のレントゲンで心室リード
断線が疑われ点検を行ったが測定値に問題なし.
10月1日の定期ペースメーカー点検ではやはり測
定値に問題はなかったが,twitchingがあったた
めauto captureをoffとしユニポーラーからバイポ
ーラーへ設定変更した.変更後より立ちくらみと
倦怠感が出現し,10/3に眼前暗黒感の後に失神
したため当院を受診.心室リードは不完全断線し
ており,明らかなペーシング不全を認めたため,
対外式ペースメーカーによるバックアップを開始
し,準緊急で同側から新規心室リードを挿入した.
リードの不完全断線による症状が設定変更によっ
て顕在化した症例を経験したので,点検方法の検
証や反省点など考察を加え報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
第 131 回 日 本 循 環 器 学 会 東 海 地 方 会
2008 年 6 月 21 日 アクトシティ浜松 コングレスセンター
会長:佐 藤 洋(浜松医科大学内科学第三講座)
1) Percutaneous Coronary Intervention(PCI)中
にSirolimus Eluting Stent(SES)が脱落した1例
(聖隷三方原病院循環器科) 古川 卓・
成瀬代士久・若林 康・長坂士朗・竹内泰代・
佐野 誠・笠原和之・牧野紀和
【本文】症例は78歳男性.不安定狭心症にて#1,
#2,#3-4AV,#7,#10に対してStent留置された.
#4AV 75%の残存狭窄を認めたが薬物療法にて経
過観察とした.1年後に不安定狭心症を再発し,
#4AVに対してPCI施行した.SESを#4AVに留置
しようとした所,#3のStentにひっかかったため
引き戻すも#1のStentにひっかかった.やや強引
に引き抜いた際にStent近位端がひしゃげGuiding
Catheterに収まらなかった.システムごとSESを
シースから抜去しようとしたところ橈骨動脈内に
SESが脱落した.Goose neck catheterにてSESを
回収し手技を終了した.SESが脱落することはま
れであり,若干の文献的考察を加え報告する.
2) 巨大血栓の吸引にガイディングが有効であっ
た一例
(袋井市民病院循環器内科) 高木健督・
鳥越勝行
(名古屋大学循環器内科) 丹羽 学
(袋井市民病院循環器内科) 林英次郎・
伊藤竜太
症例は,79歳男性.不安定狭心の患者.緊急カ
テーテル検査施行したところTIMI2,#1に巨大
血 栓 を 認 め た.Rinatoでcross,thrombuster6Fr
で吸引を施行し赤色血栓が引けたものの,血栓
は残存していた.そこでDistal Proteection下に
Maverick2 4.0/20でPOBA,吸引を2回施行.し
かし,血栓が残存するため,6frCaminoJR4.0ガイ
ディングでdeep engageさせ,直接吸引を試みた
ところ,巨大血栓が吸引できTIMI3Flowを得る
ことができた.その後,Lierte4.0/24を留置した.
Thrombuster6Frでの血栓吸引に難渋した症例に
対しガイディングからの直接吸引が有効であった
症例を報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
3) パクリタキセル溶出ステント留置6ヵ月後に
巨大冠動脈瘤をきたした一例
(市立島田市民病院循環器科) 川人充知・
中村 貴・加藤史照・蔦野陽一・金森範夫・
松岡良太・久保田友之・荒木 信・谷尾仁志・
青山 武・近藤真言
5) Percutaneous coronary intervension with
DES in octogenarians: in-hospital and one year
outcomes
(聖隷三方原病院循環器科) 佐野 誠・
若林 康・長坂士郎・竹内泰代・成瀬代士久・
笠原和之・牧野紀和
症例は63歳女性,20年前よりSLEにてステロイド
治療中の患者.2006年12月に心エコー検査にて偶
発的に左室前壁中隔の収縮異常を発見.CAGにて
右冠動脈に冠動脈瘤と左冠動脈前下行枝(LAD)
に慢性完全閉塞(CTO)を認めた.右冠動脈の
瘤に対しては,血栓予防のため抗凝固治療を行い,
LADに対して2007年6月にPCI施行しパクリタキ
セル溶出ステント(PES)を留置し血行再建に成
功した.しかし,血管内超音波にてステントの一
部がsub-intimal spaceにあった.半年後のCAGに
て同部位に巨大な冠動脈瘤を認めた.短期間で増
大した瘤であり破裂の危険があると判断し,瘤切
除および冠動脈バイパス手術を行った.薬剤溶出
ステント留置後の冠動脈瘤の報告は散見される
が,特に本症例のように他枝に冠動脈瘤を伴う例
やCTO病変には注意が必要であると考えられた.
【目的】高齢者に対する薬剤漏出性ステント
(DES)を用いたPCI施行症例の検討.【対象と方
法】2004年8月から2006年8月に当院でDESを
用いてPCI施行した80歳未満(若年)270例(67.1
±8.7歳),80歳以上(高齢)87例(84.6±3.9歳),
計357例.院内死亡,急性期合併症,1年後主要
心血管イベント(MACE)を比較検討した.【結
果】院内死亡は若年5例(1.6%),高齢5例(5.7%)
(P=0.056),急性期合併症は若年28例(10.4%),
高 齢18例(20.7%)(P=0.012),MACEは 若 年18
例(6.7%),高齢10例(11.5%)(P=0.15).【結論】
高齢は若年に比し,急性期合併症は多かったが,
院内死亡,MACEに有意差は認めなかった.
4) OCT所見が参考になったRecent MIの一例
(鈴鹿中央総合病院) 高橋佳紀・
山里将一朗・市川和秀・加藤崇明・世古哲哉・
北村哲也・森 拓也・浜田正行
6) CTOに対する10ワイヤーPCIの経験
(公立陶生病院) 浅野 博・酒井和好・
味岡正純・中島義仁・長内宏之・横井健一郎・
植村祐介・神原貴博・青山盛彦
54歳男性.
【主訴】胸痛【現病歴】冷汗を伴う胸
痛が30分間持続した為近医受診しACS疑われ当院
受診.
【来院時現症】BP134/74,HR62,SpO298
%(Room air)
.来院時胸痛消失,採血上CK1400,
心電図上II,III,aVFのSTはほぼ基線に復し,心
エコーで左室下壁の壁運動低下認め下壁心筋梗塞
と診断.【経過】CAGで右冠動脈起始部に90%狭
窄認めたが,造影遅延なく急性期は経過観察した.
2週間後Angiographycalには75%狭窄まで改善し
たが,OCT(Optical Coherence Tomography)上,
残存血栓伴ったplaque ruptureと高度狭窄を認め
た為同部位にBMS留置した.OCT所見が参考に
なったRecent MIの一例を経験したので報告す
る.
【目的】micro-channel径に近い0.010ワイヤのCTO
病変での有用性を検討【対象・方法】2007年5月
∼2008年5月に0.010ワイヤを用いたCTO26例に
つきretrospectiveに検討【結果】平均73歳,平均
閉塞長13mm,softワイヤにて9例,intermediate
ワイヤにて9例が病変部通過を得られ,ステン
ト留置が可能であった.0.014ワイヤへの変更を
要した8例中5例がPCI-failureであった.0.010
ワイヤが通過した18例中7例は子カテが不通過
であったが0.010バルンでの拡張が可能であった.
IVUSでは内膜下通過は見られなかった.ワイヤ
不通過例では64列CT・造影上の石灰化が高度で
あった.【結語】0.010システムによるCTO-PCIは
有用であろう.
アクトシティ浜松 コングレスセンター(2008 年 6 月) 1075
7) CTO病変に対して10systemが有効であった
一例
(袋井市民病院循環器内科) 鳥越勝行
(名古屋大学循環器内科) 丹羽 学
(袋井市民病院循環器内科) 高木健督・
林英次郎・伊藤竜太
症例は79才女性.主訴は胸部不快.平成17年に
LADのAMIに て#7 にCypher2.5×23mmを 留 置.
その時のCAGでRCAは#2 CTO.後日CTOに対し
てPCI施行するがfailure.平成20年1月より胸部
不快出現.平成20年3月6日CAG施行.LADに
再狭窄なし.RCA CTOに対してPCI施行.左ラ
ディアルアプローチ.ガイドは6Fr JR4.0を使用.
Finecrossを バ ッ ク ア ッ プ に,X-tremeで 病 変 を
通 過. し か し,finecrossもLacross1.3×10mmも
病変を越えなかったため,ワイヤーをATHLETE
eelに 変 更.IKAZUCHI X 1.5×9mmで 病 変 を 越
え る こ と が で き た. 最 終 的 に 病 変 をDESでfull
coverし終了.術後胸部症状は消失した.
8) CTO-PCIをsingle punctureにてwire heart
around techniqueを用い治療し得た一例
(名古屋徳州会総合病院循環器内科)
林 隆三・三井 尚・亀谷良介・角辻 暁
症 例74歳 男 性. 他 施 設 に てLAD#6CTOをantegrade PCIにてfailureとなったため,治療のため
当院紹介入院となった.前回治療よりあまり時間
経過していなかったため,Retrograde approach
(RETRO)を選択,側副血行路はRCAから4PDを
介してと,LCXからD1を介してLADに認められ
たが,4PDを介しての側副血行路が高度屈曲を認
めておりRETROの経路としてLCX→D1を選択し
た.X-tremeをLCXか らD1へ 通 過 さ せPilot50を
用いてLAD#6CTOを通過させ,ガイドカテーテ
ル内に収容した.Finecrossを用いてPilot50から
Rota-floppy wire 300cmに交換し,ガイドカテの
手元のYコネクターから体外に出し(ガイドカテ
→LCX→D1→LAD→ガイドカテ),強力なバック
アップを得ることができた.前拡張の後,floppywireをante gradeにLADに 通 過 さ せstentingを 行
えた.
9) ステント内に繰り返しblack hole現象を認め
た症例
(富士市立中央病院循環器科) 筒井健介・
森 力・小菅玄晴・鯨岡大輔・荒瀬聡史・
三川秀文
(東京慈恵会医科大学附属病院) 吉村道博
66歳,狭心症の男性患者.右冠動脈#1入口部90%
狭窄,#2遠位部90%狭窄を認め同部位にPCIを施
行した.#1,#2にそれぞれCypherを留置したが,
1年後の冠動脈造影で#1ステント内再狭窄を認
め,IVUSで再狭窄部位にblack hole現象がみられ
た.Cutting ballonで拡張した後,先のback hole
は完全に消失していた.しかし9ヶ月後の冠動脈
造影で同部位は再々狭窄しており,前回と同様
black hole現象をステント内に認めた.繰り返し
black hole現象を認めた症例を経験したため報告
する.
1076 第 131 回東海地方会
10) Cypher Stent再狭窄に対しPCIを施行した
が,Stent Malappositionにより治療に難渋した1例
(聖隷三方原病院循環器科) 成瀬代士久・
牧野紀和・笠原和之・佐野 誠・竹内泰代・
長坂士郎・若林 康
13) 当院における左主幹部病変に対するイン
ターベンションの中期成績
(三重ハートセンター循環器科) 山本和彦・
鈴木啓之・西川英郎
(同心臓血管外科) 松尾辰朗・河瀬 勇
症例は68歳男性.2005年11月に不安定狭心症に
て経皮的冠動脈形成術を施行した.#3にSerolimus Eluting Stent(SES)を留置した.2007年12
月,不安定狭心症にて再入院.冠動脈造影にて
#3 SES内に90%狭窄とstent malappositionを伴う
拡張病変を認め,経皮的冠動脈形成術を施行し
た.バルーン拡張後に施行した血管内超音波にて
guide wireがStentと血管壁の間を通過している部
分があることを確認した.その後,guide wireを
通過し直し,血管内超音波を確認後,Paclitaxel
eluting stentを留置した.stent malappositionによ
り治療に難渋した1例を経験したため,若干の文
献的考察を加え報告する.
当院では左主幹部病変に対しても病変性状,部位
を問わずインターベンションを行っており,その
中期成績を報告する.対象は,2004年11月から
2007年3月にかけて左主幹部病変に対してインタ
ーベンションを施行した40症例であり,男性30
例(75%),平均年齢69.9±10.0歳,分岐部病変30
例(75%),非保護主幹部病変31例(77.5%)で
あった.DES留置が38例(95%)であり,ステン
ト留置法はsingle stent 10例(25%),single stent
crossover 28 例(70 %),T-stent 1 例(2.5 %),
Y-stent 1例(2.5%)であった.12ヶ月の成績は,
MACEが3例(7.69%)で,心筋梗塞1例,心不
全1例,TVR 1例であった.以上の中期成績結
果では,左主幹部に対するインターベンションの
成績は良好であった.
11) 当院におけるSES留置後再狭窄病変に対す
る治療成績
(岐阜県総合医療センター) 岩間 眞・
後藤芳章・広瀬智子・割田俊一郎・小島 帯・
廣瀬武司・小野浩司・高橋治樹・瀬川知則・
野田俊之・渡辺佐知郎
14) 当院における薬剤溶出ステント留置後の
TLR症例の検討 −SESとPESの比較−
(市立島田市民病院循環器科) 川人充知・
中村 貴・加藤史照・蔦野陽一・金森範夫・
松岡良太・久保田友之・荒木 信・谷尾仁志・
青山 武・近藤真言
【背景】Cypher stent再狭窄率は10%以下と良好
な成績である.しかし,再狭窄症例にTLRを行っ
ても再々狭窄を示す症例を経験する.今回我々は
同stentの再狭窄病変に対する治療成績について
検討した.【方法】2004年6月24日から2007年3
月31日までに当院にてCypher stentをimplantし
た510病変のうちTLRを施行した,34病変を対象
とした.【結果】糖尿病症例は非糖尿病症例に比
べ有意に再々狭窄率が高かった.再々狭窄は44.1
%で高率であった.MACEは47.1%に認めた.再
狭窄に対する治療はDESが再々狭窄率28.6%と他
の治療法と比べると最も良かったが,有意差は認
めなかった.今後再狭窄病変に対する治療法の検
討が必要である.
12) 高度石灰化病変を伴う透析患者におけるSES
の有効性について ―非透析患者との比較検討―
(名古屋第二赤十字病院循環器センター内科)
山本崇之・古澤健司・金村則良・吉田路加・
橋本踏青・滝川正晃・石川清猛・青山 豊・
井上夏夫・立松 康・七里 守・吉田幸彦・
平山治雄
【BACKGROUND】The purpose of this study was
to reveal efficacy of SES in hemodialysis patients
compared with non-hemodialysis patients.【SUBJECT AND METHODS】Subjects were consisted
from consecutive 90cases treated with rotational
atherectomy and SES deployment between June
2004 and January 2007, which was divided two
groups (HD group and non-HD group).
【RESULTS】
TLR was 14.7% in HD group and 10.7% in non-HD
group (NS). Late loss (mm) was 1.05±0.82 in HD
group and 0.42±0.37 in non-HD group (p<0.01).
There were 2 cases (5.9%) with late thrombosis in
HD group but no case in non-HD group (p=0.05).
【CONCLUSIONS】HD group had a more late loss
and a higher incidence of late thrombosis.
【背景】Sirolimus-eluting Cypher stent(SES)とPaclitaxel-eluting TAXUS stent(PES)の再狭窄形態の相違はま
だ明らかではない.【目的】当院でのDES留置後のTLR症
例の病変形態をSESとPESとで比較検討を行う.【方法】
DESを使用した連続219病変.ステント再狭窄かつ負荷
検査にて虚血を認めた病変にTLRを施行した全16病変に
おけるSESとPESとの再狭窄病変形態を造影とIVUSを用
いて比較した.【結果】TLRはSES群9例(6%),PES群7
例(17.5%)であった.再狭窄形態は,focal body; SES 2
例(22.2%),PES 2 例(71.4%)(p=0.049),Thrombus; 4
例(44.4%),PES 0例(p=0.042),Margin; 2例(22.2%),
1 例(14.3%)(p=0.687),Diffuse proliferative; 0 例,2 例
(28.6%)(p=0.087%),Stent fracture; 1 例(11.1%), 1
例(14.3%)(p=0.849)であった.【結語】SESは血栓,
marginによる再狭窄が,PESは内膜増殖によるfocal body
が主たる再狭窄形態であった.平均follow-up期間(両群
とも平均6.9ヶ月),性別,年齢,冠危険因子,dual antiplatelet therapyに 差 を み と め ず. 病 変 は,typeB2/Cが
SES 114例(63.7%),PES 32(80.0%)(p=0.047),ステン
ト全長がSES 29.6±13.6mm,PES 37.6±22.3mm(p=0.004)
と差を認めたが,ステントサイズは差を認めず.
15) オーバーラップステント再狭窄における
CypherとTAXUSの比較
(大垣市民病院循環器科) 武川博昭・
曽根孝仁・坪井英之・森島逸郎・上杉道伯・
森川修司・佐々木洋美・丹羽 亨・泉 雄介・
山本寿彦・市橋 敬
Cypherをオーバーラップして留置した場合には,
オーバーラップしたエッジに再狭窄が多く,また
他部位と比較して有意な新生内膜増殖見られる
ことを以前に報告した.今回TAXUSについて同
様の検討を行なった.オーバーラップステント
の再狭窄率はCypher15.1%,TAXUS22.9%であっ
た(有意差なし)
.いずれもFocalな再狭窄が多か
ったが,Cypherと異なりTAXUSは遠位部のオー
バーラップしていない部位の再狭窄が多かった.
IVUS解析では,Cypherはオーバーラップエッジ
の新生内膜増殖が有意に多かったが,TAXUSで
は各セグメント間に差は見られなかった.以上よ
り,TAXUSはオーバーラップ部位での再狭窄増
加がなく,オーバーラップして留置する場合には
より有効である可能性が示唆された.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
16) 当院におけるTAXUS stentの成績および再
狭窄の検討
(静岡市立静岡病院循環器科) 杉山博文・
倉部 崇・園田桂子・渡邊祐三・橋口直貴・
小野寺修一・村田耕一郎・小野寺知哉・
滝澤明憲
【目的】パクリタキセル溶出性ステント(PES)
の使用が可能となり,TAXUS stentの有用性につ
いて評価検討した.【方法】2007年5月から急性
冠症候群(ACS)を含む212人347病変に対して当
院でTAXUS stentによる冠動脈インターベンショ
ンを施行した.そのうち2008年3月までに44人68
病変(平均年齢66±10.7歳,男34人,女10人)に
ついて慢性期冠動脈造影を行い成績および再狭窄
について検討した.【結果】5人6病変(8.8%)
に再狭窄を認め,4人5病変(7.4%)に対して
TLRを施行した.MACEは8人10病変(14.7%)
に認めた.ステント血栓症は1人1病変(1.5%)
に認めた.【結論】冠動脈インターベンション治
療においてTAXUS stentは有用と考える.
17) 当院でのTAXUS STENTの初期成績
(海南病院循環器内科) 山田崇史・
酒井慎一・森 寛暁・福嶋 央・菊池祥平・
内田恭寛
【 背 景 】2007 年 に な り 日 本 に お い てTAXUS
STENTが使用可能となり,日本においても薬剤
溶出性ステントを使用する際にCYPHER STENT
との選択が可能となった.日本人に対するこの2
種のステントの有効性・安全性の比較は十分にな
されていない.【方法】当施設では2007年6月か
ら2008年2月まで経皮的冠動脈形成術を行う患
者をTAXUS STENT群とCYPHER STENT群に無
作為に割り付けた.148名の患者がTAXUS群76名
(102病変)とCYPHER群72名(95病変)に割り
付けられた.2008年6月までに慢性期冠動脈造影
は,TAXUS群で19名(24病変)CYPHER群で27
名(34病変)行われている.今回,この患者群で
病変再狭窄率・再血行再建率を比較した.【結果】
再狭窄数はTAXUS群で0/24病変,CYPHER群で
4/34病変であった.再狭窄を来たした4例中2例
ではstent fractureを伴っていた.【結語】現時点
での小規模なデータではTAXUS STENT群で再
狭窄症例は発生していない.今後,屈曲/ Hinge
motionなどstent fractureの危険の高い病変での
TAXUS STENTの成績に期待が持たれる.
18) 当院におけるTAXUS stentの短期成績
(中京病院循環器科) 上久保陽介・
加藤寛之・奥村 聡・三井統子・村上 央・
加田賢治・坪井直哉
【目的】Taxus,Cypherの初期および中期成績を
比較検討した.【方法】対象は2007年5月∼12月
にTaxus Express2を留置した39例/40病変,Taxus
導入以前の7ヶ月間にCypherを留置した52例/54
病変.追跡造影を施行した例でQCAを用い解析
した.【結果】追跡造影の施行はTaxus群12病変,
Cypher群28病変.Taxus群はacute gain 2.21mm,
late loss 0.73mm,再狭窄2病変(16.7%),TLR 1
病変(8.3%)であった.Cypher群ではacute gain
1.95mm,
late loss 0.24mm,再狭窄3病変(10.7%),
TLR 3病変(10.7%)であった.【結語】Taxusで
はlate lossが大きい傾向が認められた.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
19) 当院におけるTAXUSの使用成績
(公立陶生病院) 青山盛彦・酒井和好・
味岡正純・浅野 博・中島義仁・長内宏之・
横井健一郎・植村祐介・神原貴博
【対象】平成19年5月から1年間に当院でTAXUS
使 用 し た213例,356 Lesionに つ き, 患 者 背 景,
合 併 症 な ど の 臨 床 像 に つ き 検 討 し,follow up
Angiographyされた79例につきQCAを用いた解析
を行った.【結果】基礎疾患として約半数の患者
に糖尿病を認め,RCAへの使用が約40%,ほとん
どの症例でIVUSを使用していた.Late Loss 0.19
±0.48mm,再狭窄率12.9%,TLR 11.3%.SATが
1症例認めた.
【結語】様々な大規模臨床トライ
アルと比較しても遜色ない結果が得られた.当
院でのCypherのデータと比較するとRestenosis
RateやTLRはやや高いという結果であった.
20) 当院におけるPCI後病診連携の取り組み
(聖隷三方原病院循環器科) 笠原和之・
牧野紀和・佐野 誠・成瀬代士久・竹内泰代・
長坂士郎・若林 康
【背景】Sirolimus Eluting Stent(SES)留置症例に,
診療所と病診連携を行うことが増加しているが,
その安全性は明らかではない.【目的】当院では
積極的にSES留置症例をPCI後病診連携クリティ
カルパスを用いて診療所と病診連携しており,そ
の安全性について検討する.
【方法】2004年9月
から2006年8月までのSES留置374例を対象に,
1年後の評価について検討した.【結果】1年後
の心臓死は8例(2.2%),心筋梗塞は6例(1.7%),
標的病変血行再建術は9例(2.5%),主要心臓有
害事象(MACE)は26例(7.2%)であった.【結語】
当院で行っているSES留置症例へのクリティカル
パスを用いた病診連携は,その安全性を維持して
いることが確認された.
21) late stent thrombosisの3例
(聖隷三方原病院循環器科) 島津健吾・
佐野 誠・若林 康・竹内泰代・成瀬代士久・
笠原和之・牧野紀和
症例1は63歳男性,狭心症にてBare Metal Stent
留置後の再狭窄に対して#6にSirolimus -Eluting
Stent(SES)を留置.1年後の冠動脈造影にて
再狭窄を認めなかったが,2年後AMIを発症.症
例2は78歳女性,AMIにて#2にSESを留置.半
年後AMIを発症.症例3は83歳女性,AMIにて
#6にSESを留置.7ヶ月後AMIを発症.3症例
ともにアスピリン,チクロピジン2剤3ヶ月間,
その後アスピリン1剤としていたが,症例3の
み5ヵ月後より内服中断中であった.いずれの
症例もPCIにて救命できた.当院でDrug-Eluting
Stent(DES)留置後のlate stent thrombosis(LST)
の3例を経験したため,文献的考察を加え報告す
る.
22) DES留置21ヶ月にステント内多発血栓症
を認めた一例
(愛知県立循環器呼吸器病センター)
大田将也・清水 武・村上善正・横家正樹・
原田修治・浅井 徹・石黒久晶・岡田太郎・
吉川大治・山下健太郎・伊藤義浩・一宮 仁・
大田将也・梅本紀夫
【症例】75歳男性平成18年3月,急性下壁心筋梗
塞を発症しPCIを施行しRCA#1 100%に対して
Cypher3.5×23mmを留置した.同年7月,LAD#7
90%に対しCypher2.5×18mmを留置した.平成20
年2月,follow up CAGを施行した所ステント内
再狭窄及び新規病変は認められなかった.同年4
月,冷汗を伴う胸痛を認め当院へ救急搬送された.
来 院 後 急 性 心 筋 梗 塞 を 疑 いCAGを 施 行 し た.
LAD#7ス テ ン ト 留 置 部 の 完 全 閉 塞, ま たRCA
Cypherステント内にも血栓像を認めた.その後
IABP留置下に血栓吸引を施行し再還流するも血
栓 閉 塞 を 繰 り 返 し た. こ の た め,LADにperfusion balloonを挿入しflowを確保の上2枝CABG方
向とした.DES留置21ヶ月後に多発性の遅発性ス
テント血栓症を経験したので報告する.
23) DES留置の27ヶ月後にlate restenosisを認
めた1例
(富士宮市立病院循環器内科) 渡辺知幸・
熊澤あず美・北川雅稔・川口由高・勝呂清尚・
若原伸行
76歳女性.冠危険因子は高血圧と糖尿病.2004
年9月に不安定狭心症でCAGを施行し,左前下
行枝近位部と左回旋枝近位部に有意狭窄を認め
た.責任病変である左前下行枝にSESを留置し良
好な拡張得られ,9ヵ月後のCAGでは再狭窄を
認めなかった.2007年1月に急性冠症候群のため
CAGを施行したところ,左前下行枝に留置した
SESのproximal edgeからstentの中央部にかけて
diffuseに99%の狭窄を認めた.CABGを施行し術
後のCAGでもSES内に有意狭窄が再確認された.
DESの登場によりTLR率は減少したが,留置から
1年以降にも再狭窄を来しうるので注意深い観察
が重要と考えられた.
24) Paclitaxel溶出性ステント埋込後に間質性
肺炎を合併した一剖検例
(岐阜県立多治見病院循環器科) 加藤公彦
(同呼吸器科) 福田悟史
(同病理診断部) 渡邊和子
(同循環器科) 藤巻哲夫・矢島和裕・
田中 覚・日比野剛・横井 清
We report the case of stable angina patient who
underwent paclitaxel-eluting stent implantation,
developed interstitial pneumonitis within 2 weeks,
and succumbed to fatal respiratory dysfunction
despite treatment with corticosteroids. Although
pulmonary toxicity related to the administration
of paclitaxel is rare and the efficacy and safety of
drug-eluting stents for the treatment of ischemic
heart disease is well established, cardiologists
should keep in mind that the paclitaxel-eluting
stent have the potential to cause interstitial
pneumonitis and also an accurate approach to diagnose pneumonitis is indispensable for averting
this adverse event.
アクトシティ浜松 コングレスセンター(2008 年 6 月) 1077
25) 出産直前に心筋梗塞を発症した妊婦の一例
(県西部浜松医療センター) 太田貴子・
高山洋平・澤崎浩平・小林正和・杉山 壮・
武藤真広・大矢雅宏・高仲知永
症例は38歳,経産婦.妊娠40週2日.既往に心房
中隔欠損症にて閉鎖術歴有り.夕方の安静時に突
然前胸部痛を自覚し近医受診.急性心筋梗塞と
診断,LAD#7に血栓性閉塞を認めた.前医にて
3.0mmバルーンで拡張を行い血行再建後,当院へ
救急母体搬送された.心筋梗塞発症後6時間後に
早期破水,10時間後に陣痛再来し,14時間後に経
膣分娩にて3114g女児を出産された.CPKは最大
3288mg/dlに上昇し,慢性期の経胸壁超音波でも
中隔から心尖部の壁運動低下を認めた.動脈硬化
危険因子,血栓症素因は特に無かった.母体・児
共に良好な経過であり,発症後10日で退院された.
非常に稀な妊婦の心筋梗塞であり,母児共に救命
し得た症例を経験したので報告する.
28) 卵円孔開存により高度の低酸素血症をきた
した右室梗塞の一例
(春日井市民病院循環器科) 森本竜太・
寺沢彰浩・石川真司・近藤圭太・林 雄三・
田近 徹・三輪 新
【症例】62歳男性【主訴】胸痛【既往歴】高血圧
症【現病歴】平成19年3月25日,仕事中に胸痛出
現.冠動脈造影上,左冠動脈#6 100%閉塞,右冠
動脈#1 100%閉塞を認め,2枝同時閉塞の急性心
筋梗塞に対してPCIを施行し成功した.CCU入室
後,肺うっ血は認めないが,100%酸素人工呼吸
器下でもPaO246mmHgと酸素化改善されず,血
圧も低下.第3病日PCPS導入.その後酸素化,
血行動態は改善した.心エコー上,卵円孔開存,
右→左シャントを認めた.右冠動脈閉塞により右
室梗塞を合併し,右房圧が上昇したため右→左シ
ャント量が増加したため高度の低酸素血症をきた
したと考えられた.PCPSが右房圧の低下,右→
左シャントの減少,低酸素血症,血行動態の改善
に有効であった.卵円孔開存により特異な病態を
呈した右室梗塞の一例を報告する.
31) 周術期に多彩な不整脈で発症した冠れん縮
性狭心症の1例
(静岡県立静岡がんセンター) 望月直穂・
飯田 圭・坂田和之
66歳女性.食道浸潤胃癌に対し左開胸開腹下部食
道切除+胃全摘を施行した翌朝,気分不快を訴え
た.看護師訪室時徐脈で呼名に反応がなく,ただ
ちにCPR開始し当科コンサルトとなった.上室性
期外収縮,心室性期外収縮,非持続性心室頻拍,
完全房室ブロックなど多彩な不整脈とST上昇や
低下を呈し,全経過約6分で洞調律に復帰した.
冠攣縮性狭心症を疑いジルチアゼム投与を開始し
以後発作は一度も認めなかった.退院前に行った
心臓カテーテル検査ではアセチルコリンとエルゴ
ノビンで多枝冠攣縮が誘発された.狭心症の既往
がなくても冠危険因子を持つ患者は,浅い全身麻
酔,血管収縮薬,迷走神経刺激,硬膜外麻酔,低
血圧,過換気などが誘引となり周術期に冠攣縮性
狭心症を発症するリスクがあることを常に念頭に
置くべきであると考えられた.
26) 二度にわたり左室内に巨大な血栓を認めた
前壁心筋梗塞の一例
(藤田保健衛生大学循環器内科) 高桑蓉子・
郷地朋子・依田竜二・皿井正義・岩瀬正嗣・
尾崎行雄・菱田 仁
29) 当院における心筋梗塞の院内死亡に関する
検討
(静岡市立静岡病院循環器科) 渡邊祐三・
倉部 崇・園田桂子・橋口直貴・小野寺修一・
杉山博文・村田耕一郎・小野寺知哉・滝澤明憲
32) 冠動脈スパズムによる心肺停止症例の検討
(大垣市民病院循環器科) 佐々木洋美・
武川博昭・坪井英之・森島逸郎・上杉道伯・
森川修司・丹羽 亨・泉 雄介・山本寿彦・
市橋 敬・曽根孝仁
67歳 男性.陳旧性前壁心筋梗塞および左室内血
栓の既往あり.生活歴として塩化マグネシウムを
常用.今回,塩化マグネシウム薬事法違反にて刑
務所収監中,塩化マグネシウムを没収されたこと
により食思不振となる.体重は,約20日間で8
kg減少,高度の高張性脱水および腎前性腎不全
にて緊急入院となる.心臓超音波検査にて,前回
入院時とほぼ同部位に37×20mm大の巨大な血栓
を認めた.同時に血栓によると思われるDICを発
症.ガベキサート200mg/kg/日,へパリン300単
位/kg/日およびワルファリン2mg/日にて血栓は
徐々に消退した.入院期間中,血栓塞栓症状はな
く血行動態に変化は認めなかった.今回,我々は,
二度にわたり左室内に巨大な血栓を認めた一例を
経験したので報告する.
【目的】当院における急性心筋梗塞患者の院内
死亡に関与する因子について検討した.【方法】
1995年1月から2007年4月までに発症一週間以内
の急性心筋梗塞患者1571例を対象とし患者特性を
検討した.また,1:1995年1月から2000年12
月,2:2001年1月から2007年4月までの2群に
分類し,各群における院内死亡と関与する因子に
ついても検討した.
【結果】生存退院1431例,死
亡退院140例であった.入院年度別の死亡退院は
1群86/811例,2群57/771例であった.緊急冠動
脈造影の施行とその死亡数は1群405例中死亡25
例,2群で449例中死亡21例であった.多変量解
析の結果院内死亡に関与する因子は高齢,入院時
Killip分類,梗塞責任血管が左前下行枝,古い入
院年度であった.
【総括】近年の治療戦略の改善
が院内死亡率減少に関連している可能性がある.
VSAによる心肺停止症例の検討とICD移植術を施
行した症例を以下に報告する.対象は心肺停止で
救急搬送され,VSAが確認された4症例につい
て検討(今回はVF/VTや失神で来院したVSA症
例は除く).症例1は58歳男性.CPA/VFで来院,
緊 急CAG/Ach施 行,VSAと 判 明.Ca拮 抗 薬 と
ICD移植術を施行.症例2は64歳男性.VSAと確
定診断され近医通院加療中,CPAで発見,救急搬
送,緊急CAG施行spasm認め,集約学的治療施行
するも死亡.症例3は53歳男性.CPAで発見,搬送,
緊急CAG/AchにてVSA判明,ICD移植術を施行.
症例4は56歳女性.CPAで搬送,緊急CAG/Ach
施行,VSAと判明し内服加療とICD移植術を施行.
いずれの症例もMultispasmVSAがCPAの発症機
転と考えられ,症例1,2,4は社会復帰例であり
重症冠攣縮性狭心症による心肺停止例には突然死
のハイリスク群としてICD移植術を施行した.
27) 来院時,oozing型心破裂を合併した急性心
筋梗塞に対して内科的治療にて治癒し得た2例
(一宮市立市民病院循環器科) 山田道治・
柴田哲男・松井義親・大澤雅子
30) 予後不良であったSyndrome Xの1例
(市立島田市民病院) 蔦野陽一・川人充知・
青山 武・中村 貴・金森範夫・松岡良太・
久保田友之・荒木 信・谷尾仁志・近藤真言
【症例1】82歳,女性.2003年12月11日,急性側
壁心筋梗塞発症.来院時,血圧89/30mmHg.心
エコーにて中等量の心のう液の貯留を認め,心の
う穿刺ドレナージを行い,血性心のう水(Hb 4.8
g/dl)120ml排液.【症例2】72歳,女性.2007年
11月6日,急性前壁心筋梗塞発症.来院時,血圧
56/32mmHg.心エコーにて中等量の心のう液の
貯留を認め,心のう穿刺ドレナージを行い,血性
心のう水(Hb 5.6g/dl)160ml排液.ともにIABP
挿入後,梗塞責任病変に対して緊急PCI施行し,
再灌流および良好な拡張に成功.これらの治療
により血行動態は急速に改善,安定していった.
AMIに伴うoozing型心破裂はblow out型に移行す
る可能性があり,開胸止血術が考慮されるが,わ
れわれは内科的治療にて救命,治癒することがで
きた2例を経験したので報告する.
77歳女性.労作時の胸痛を主訴に当科受診.運動
負荷時にST低下を認め,CAG施行したが有意狭
窄はなくアセチルコリン負荷試験を施行したが陰
性であった.さらにDoppler guide wireでCFRは
1.6と低下し,微小循環障害が疑われSyndrome X
と考えられた.外来follow中,急性心不全を発症
しCPAとなったが蘇生に成功した.心エコー上,
高度な拡張障害を認め,冠血流エコー上でLAD
のCFRは0.9と低下していた.また腎障害を合併
し,尿免疫電気泳動からB-J蛋白陽性.十二指腸
生検でALアミロイドを検出した.以上より急性
心不全の原因として心アミロイドーシスが疑われ
た.一般的にSyndrome Xは予後良好な疾患であ
るが,その中の数%に予後不良な病態が報告され
ている.この中に心アミロイドーシスが含まれて
いる可能性が示唆された.
33) 急性前壁梗塞発症数時間後に右冠動脈が閉
塞したと考えられたvulnerable patientの1例
(小牧市民病院循環器科) 松平京子・
向井健太郎・島津修三・戸田夕紀子・
中野雄介・今井 元・小川恭弘・川口克廣・
近藤泰三
1078 第 131 回東海地方会
69歳男性.胸痛を訴えた後CPAとなり蘇生され緊
急搬送.急性前壁心筋梗塞の診断で緊急CAGを
施 行,#1 25%,#3 25%,#6 90%,#7 50%の た
め責任病変は#6と判断しPCIを施行した.PCI直
後に下壁誘導で心電図変化を認めたがRCAに有
意狭窄はなく心尖部を回り込むLADにより下壁
心尖部までの梗塞をきたしたものと判断した.以
降心電図は下壁の貫壁性梗塞と前壁の心内膜下梗
塞のものへと変化した.3週後のTl/BMIPP心筋
シンチでは最近の前壁の虚血イベントと下壁の梗
塞が示唆された.8ヵ月後のf/u CAGにて#1 99%
狭窄を認め緊急入院時の心電図変化より急性前壁
梗塞発症数時間後にRCAにも急性閉塞をきたし
たものと思われた.ACSは不安定な全身性疾患と
して捉えることが必要と考えられた.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
34) Quantitative gated SPECT(QGS)による
左室拡張能評価
(岐阜県立多治見病院循環器科) 矢島和裕
(名古屋市立大学心臓・腎高血圧内科)
大手信之
(岐阜県立多治見病院循環器科) 河宮俊樹・
田中 覚・藤巻哲夫・加藤公彦・日比野剛・
横井 清
AMI患 者60人 を 対 象 に, 発 症 後 2 週 間 で 心 カ
テ,エコーとシンチ検査を施行しQGSによる左
室機能を検討した.99m-Tc製剤を用いた安静時
心筋血流シンチグラム検査にて左室拡張末期容
量,収縮末期容量,駆出率を求めた.QGSデー
タはR-R16分割で収集し時間容量曲線を解析し,
PFR,TPFRおよび1/3MFRを求めた.カテ先マ
ノメーターを使用してLVEDPと弛緩時定数τを
求め,左室造影から左室拡張末期容量,収縮末期
容量,駆出率を求めた.心エコーにてEa,E波高
とE/Aを求めた.これらを比較検討したところ,
QGSによる左室機能について,収縮能評価はきわ
めて有用であるが,拡張能評価については限界が
あった.
35) 1ルート法で行うアデノシン負荷タリウム
心筋シンチグラフィーの安全性
(朝日大学歯学部附属村上記念病院循環器内科)
安部美輝・酢谷保夫・元廣将之・丸山勝也・
加藤周司
【目的】1ルート法アデノシン負荷タリウム心筋
シンチグラフィーの安全性を検討する.【方法】
722例に1ルートでアデノシン負荷(120µg/Kg/
min)を6分間行い3分経過時にタリウム74MBq
を静注し生食(20ml)のフラッシュを追加.症状,
心拍数,血圧,心電図を評価した.【成績】心拍
数は上昇(68±13,82±14,<0.001),収縮期血
圧は低下(143±26,116±24,<0.001)した.症
状,心電図異常は47.4%の症例に認められ,胸部
不快感(222例),
顔の火照り(41例),頭痛(38例),
II度房室ブロック(34例)が多かった.房室ブロ
ック,喘息発作にて7例(1%)はアデノシン負
荷を中止したが何れも速やかに改善した.【結論】
1ルート法で行うアデノシン負荷タリウム心筋シ
ンチグラフィーは安全であることが示唆された.
36) TL負 荷 心 筋 シ ン チ グ ラ フ ィ ー に お け る
VANTAGE吸収補正システムの使用経験
(安城更生病院循環器センター循環器科)
河合秀樹・川村正太郎・児玉宜子・中川 香・
上山 力・清水優樹・子安正純・堀部秀樹・
竹本憲二・度会正人
心筋SPECTでは体内に分布しているRIから放出
される放射線をガンマカメラで検出するが,患者
の体内組織によって吸収や散乱の影響を受けるた
め,特に肥満患者や女性患者では体格や乳房など
による影響で局所的な集積低下を認めやすい.そ
のため体内の吸収分布を測定し減弱補正を行うこ
とにより,診断率の向上が示唆されている.当
施設において,08年2月より外部線源を用いた
Vantage吸収補正システムを導入し,3ヶ月間で
145例のTL負荷心筋シンチグラフィーを施行し
た.このうち検査前後半年以内に冠動脈造影を施
行した28例に関して詳細な検討を行い,また特に
同システムが有用であったと思われる症例につい
て報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
37) FDG投与前処置法による心筋FDG分布の
差異
(静岡県立静岡がんセンター) 坂田和之・
飯田 圭・望月直穂
糖尿病が無くかつ心疾患のない45例を各15例づ
つ, 空 腹 時 法,Insulin cramp法( I ),Glucose
loading法(G)の3群に分け,2次元極座標マ
ップにて検討した.また,虚血性心筋症5例で生
存心筋の診断能を検討した.【結果】1)3群間
に有意な左室心筋内18F-FDG分布差を認めた.2)
I法が,最も個体差の少ない画像を形成した.3)
I法はG法に比し,生存心筋の診断能に優れた.
4)G法は,特異度が低い理由として,正常部位
の18F-FDG uptakeが低く,相対的に非生存心筋部
位のuptakeが高くり,擬陽性が多くなると考えら
れた.【結語】18F-FDGの心筋分布は,前処置法の
影響を受けた.現法では,I法が最もよい前処置
法と考えられた.
38) 拡 張 型 心 筋 症(DCM) に お け る99mTcsestamibi(MIBI)と心臓核磁器共鳴(MRI)画
像の比較検討
(浜松医科大学第三内科) 白木克典・
佐藤 洋
(同救急部) 間遠文貴
(同第三内科) 小田切圭一・齊藤岳児・
早乙女雅夫・漆田 毅・加藤秀樹・林 秀晴
【目的】DCM症例におけるMIBI defect及びwashout rate(WR) 亢 進 の 意 義 を 解 明 す る.【 方 法
と結果】DCM 14症例にMIBI及びGd-MRIを施行
し た.MIBIで はdefectを10症 例(71%),50分 画
(18%)に認めた.MRIでは遅延造影(DE)を10
症例(71%)
,79分画(28%)に認めた.左室全
体及び分画のMIBI WRは,正常例と比べ有意に
亢 進 し て い た.MIBI defectとDEは, 左 室 全 体
及び分画の解析で有意な正相関を示した.左室
分画のMIBI WRは,壁厚とは関連せず心筋収縮
率と負の相関を示した.左室分画のMIBI WRは,
正常例の分画,DE(–)分画,DE(+)分画の
順に亢進していた.【結論】DCMにおけるMIBI
defectは,左室全体の線維化の広がり及び局所の
線維化の程度を示している.MIBI WRの亢進は,
左室壁の収縮障害及び線維化と関連し心筋細胞の
ミトコンドリア障害を反映している.
39) 企業におけるAEDを用いた救命蘇生体験
と救命救急体制づくり
(デンソー刈谷診療所) 下方敬子・
近藤隆久・大杉茂樹
(名古屋大学循環器内科) 竹藤幹人
(刈谷豊田総合病院) 梶口雅弘・大林利博・
鈴木克昌
【目的】AEDを用いた救命蘇生体験報告【方法】
企業におけるAEDの必要性を考慮し,2005年7
月からAED導入.健康管理スタッフ内での合同
勉強会を開催し,更に看護師よりAED教育担当
者を選出し,2006年6月から社内8診療所看護師
チーフ対象にAEDデモ人形を用いて教育,以後
対象を全部員へ拡大し2007年11月までに完了し
た.【成績】2005年7月からAED導入を開始し,
2006年11月までに社内8診療所に完備.体系的に
AED教育を行うことで部員に使用スキルを習得
させることができた.導入後から現在までに5例
の心肺停止者に使用し,救命率は100%であった.
【結論】AEDは企業内での救命蘇生に有用であ
り,救命率向上に向けてスタッフの意識づけ及び
部内体制作りが有効であった.
40) 救命しえたCPAの一例
(岐阜県立多治見病院循環器科) 池庭 誠・
矢島和裕・河宮俊樹・田中 覚・藤巻哲夫・
加藤公彦・日比野剛・横井 清
(同心臓血管外科) 中山智尋・宋 敏鎬
症例は61歳男性.ゴルフ練習場で練習中,胸苦
で倒れ意識障害.by Standerにて蘇生処置開始さ
れ,救急隊にてVf確認.ただちにAEDによるDC
施行されPEAとなり心マ開始.自発呼吸回復し
救急搬送.来院時III-200.心臓カテーテル検査に
て,#1-100%(左より側副血行あり),#6-75%,
#13-75%の3枝病変.#1にPCI試みるもワイヤー
不通過であったため,IABP挿入し保存的に治療
し,翌日には覚醒,呼吸器およびIABP離脱.待
機的に3枝冠動脈バイパス術を行い,その後EPS
でもVT/Vf誘発されず,後遺症なく退院.有効な
by Stander CPRに始まるChain of survivalにより
蘇生でき,完全血行再建施行し社会復帰が可能で
あった一例を報告する.
41) 救急車内施行の除細動により救命できた心
室細動の一例
(浜松赤十字病院循環器科) 間遠文貴・
俵原 敬・諏訪賢一郎・野中大史・浮海洋史・
尾関真理子
症例は57才,男性.早朝,冷汗を伴う胸部不快感
出現したため,救急車を要請.救急車内で意識消
失を生じ,その時のECGモニター波形は心室細
動(VF)であった.救急車内で200Jにて除細動
施行し,洞調律に復帰した.救急外来到着時には,
意識清明であり,胸部症状は消失していた.本症
例は,血管攣縮性狭心症(VSA)にて薬剤治療を
行っており,症状出現前日の薬剤内服を忘れてい
たとのことであった.臨床経過より,VSAによる
狭心症発作からVFを発症したものと推測される.
院外発症のVF症例は,救命困難な例も少なくな
いが,本症例は,早期の除細動が救命に重要であ
ることを再認識させるものと考える.
42) CPA蘇生後に完全房室ブロックを伴ったた
こつぼ型心筋症と診断された1例
(公立陶生病院) 植村祐介・酒井和好・
味岡正純・浅野 博・中島義仁・長内宏之・
横井健一郎・神原貴博・青山盛彦
症例は52歳女性.平成20年4月某日,スーパーの
レジ打ち中に突然,意識消失を来たし心肺停止状
態となった.ドクターカー到着時,モニター上心
室細動を認め,電気的除細動を含むCPRを行い当
院救急外来に搬送された.搬入時の意識レベルは
JCS Ⅲ-300,心電図上は脈拍47の完全房室ブロッ
クを来たしており,緊急で一時ペースメーカを留
置し,冠動脈造影を施行した.冠動脈に有意狭窄
はなく,左室造影でも心尖部を中心とした壁運動
低下を認め,たこつぼ型心筋症と診断した.モニ
ター上の心電図では心室細動が認められているこ
とから,後日,ICD植え込み術を施行した.たこ
つぼ型心筋症に完全房室ブロックと心室細動を認
めた症例を経験したのでここに報告する.
アクトシティ浜松 コングレスセンター(2008 年 6 月) 1079
43) 冠動脈−右房瘻を合併した右房起源非通常
型心房粗動の一例
(静岡済生会総合病院不整脈科・循環器内科)
鈴木智之・小坂利幸・横山恵理子・櫛山泰規・
長谷部秀幸・酒見 梢
(名古屋大学環境医学研究所心血管分野)
神谷香一郎・児玉逸雄
【症例】62歳,女性.主訴は動悸.I,aVLで陽性,
V1で陰性F波を呈する心房粗動(AFL)を認めた.
興奮は冠静脈洞を近位から遠位側に伝播.右房狭
部のpost pacing intervalはAFL周期に一致せず.
Sinus venosa(SV)に分裂電位が認められたが
SVのマッピング中にAFLは停止.再誘発を試み
ると興奮伝播過程が異なる複数のAFLが誘発され
た.AFL回路の同定を断念し洞調律中にマッピン
グを施行.SVに分裂した低電位領域が帯状に観
察された.SVを線状焼灼し上下大静脈間にブロ
ックラインを形成.全てのAFLは誘発不能となっ
た.冠動脈造影にて巨大瘤を伴う左冠動脈−右房
瘻を認めた.CT上巨大瘤(5×5cm)は心房中
隔を占拠し三心房様の所見を呈した.【総括】本
症例のSVは巨大瘻の圧迫により被薄化し伝導障
害の基質をなしていた.本頻拍はSVに形成され
たブロックラインを旋回するAFLと考えられた.
44) 慢性心房細動治療中に偽性心室頻拍を呈し
WPW症候群と診断された1症例
(岐阜大学循環病態学) 久保田知希・
高杉信寛・竹山俊昭・川口智則・横山ちはる・
吉真 孝・名和隆英・金森寛充・川村一太・
牛越博昭・青山琢磨・小塩信介・川崎雅規・
西垣和彦・竹村元三・湊口信也
症例は71歳男性.2006年に慢性心房細動と診断さ
れた.2007年βblockerが開始されたが心拍数管
理が困難で労作時息切れが出現したため,当科
紹介受診.受診時120bpmの間欠的なδ波様wide
QRSを呈する心房細動であった.心カテではForrester subset 4型の心不全を認めた.ATPにて
δ波を伴うQRSのみとなり心拍数150bpmに上昇.
最早期心室興奮部位は左室後壁であり,最終的に
Intermittent left posterior WPW syndrome with
AFと診断した.副伝導路離断直後より70bpmと
なりForrester subset 2型へ改善した.慢性心房
細動治療中にWPW症候群,偽性心室頻拍と診断
された症例を報告する.
45) ブルガダ様心電図に持続性心室頻拍を呈し
た一例
(名古屋大学循環器内科) 神谷裕美・
因田恭也・吉田直樹・北村倫也・北村和久・
鴨野祐之・山内正樹・原田修治・内川智浩・
辻 幸臣
(名古屋大学保健学科) 平井真理
(名古屋大学循環器内科) 室原豊明
症例は48歳男性.4年前より高血圧,高コレステ
ロール血症にて内服治療中.突然死の家族歴なし.
2007年5月動悸症状(脈拍数150拍/分)あり自然
に改善.その後再び動悸症状あり近医受診.受診
時の心電図は洞調律,ブルガダ様心電図であった
ため当院紹介受診.安静時心電図はsaddle-back
型.血液検査上異常値認めず,心臓超音波検査に
ても異常所見認めず.電気生理学検査施行し上室
性不整脈,心室性不整脈出現せず.ピルジカイニ
ド負荷後誘発にて持続性心室頻拍出現(脈拍数
150拍/分,右脚ブロック型,左軸偏位).左脚後
枝領域のプルキンエ電位が認められる部位での通
電により心室頻拍が停止し誘発不能となった.今
回我々はブルガダ様心電図に左脚後枝が関与する
と思われる持続性心室頻拍を呈する一例を経験し
た.
1080 第 131 回東海地方会
46) 当 院 で 経 験 し た 症 候 性 お よ び 無 症 候 性
Brugada症候群の予後
(県西部浜松医療センター循環器科)
澤崎浩平・高山洋平・太田貴子・小林正和・
武藤真広・杉山 壮・大矢雅宏・高仲知永
50) 当院におけるICD治療の長期成績
(大垣市民病院循環器科) 泉 雄介・
森島逸郎・坪井英之・武川博昭・上杉道伯・
森川修司・佐々木洋美・丹羽 亨・山本寿彦・
市橋 敬・曽根孝仁
Brugada症候群の予後に関しては,不明な点が多
い.今回,我々は当院で経験したBrugada症候群
の予後を症候性,無症候性において検討した.対
象は21例で平均年齢51±16歳,平均観察期間は
3.5±2年であり,VFによる蘇生例が5例,VFが
記録されていない失神発作例が7例,無症候性が
9例であった.VFによるICDの正常作動はVF群
の2例で認められ,ICDを行わなかった例におい
ては1例に突然死が認められた.以上より,21例
中3例でVF発作が認められ,いずれも症候性の
Brugada症候群であり,VF群で致死性不整脈の
再発が高率に認められた.無症候群では心事故は
全く認めずICD治療に対して検討が必要かもしれ
ないが,症候性Brugada症候群においてはICD治
療が必要であると考えられた.
【 背 景 】Primary prevention目 的 で のICD植 込 み
は,欧米では確立された治療となっているが,日
本人についてはその効果が十分検討されていな
い.【方法,結果】当院でICDを植込んだ虚血性
心筋症患者連続44例を,primary prevention群(P
群,n=23),secondary prevention群(S群,n=
21)に分け,予後を比較した.P群では70%がclass
I適応,30%がclass IIa適応,S群は全例class I適
応.平均3年の経過観察で,P群で7例,S群で
4例に正常作動を認めた.作動回避曲線は全く有
意差がなかった.【結語】少なくともClass I適応
であれば日本人においてもprimary preventionは
妥当な治療であることが示唆された.
47) 胆石発作を契機にtorsade de pointesを呈
した2型QT延長症候群の一例
(大垣市民病院循環器科) 市橋 敬・
森島逸郎・坪井英之・武川博昭・上杉道伯・
森川修司・佐々木洋美・丹羽 亨・泉 雄介・
山本寿彦・曽根孝仁
51) 持続性心房細動の細動周期に及ぼすベプリ
ジルとⅠ群薬併用の効果
(静岡済生会総合病院不整脈科・循環器内科)
黒田裕介・小坂利幸・横山恵理子・
櫛山泰規・長谷部秀幸・酒見 梢・鈴木智之
(名古屋大学環境医学研究所心血管分野)
神谷香一郎・児玉逸雄
【背景】2型QT延長症候群はその心事故の誘因が,
恐怖や驚愕等の情動ストレスや目覚ましで睡眠か
ら覚醒する際の急激な交感神経の緊張であること
が特徴である.
【症例】63歳男性,器質的心疾患
なし.長女が突然死しており濃厚な家族歴を有す.
旅先で腹痛・嘔吐の後,約1分間の失神・呼吸停止
を来し,腹部精査で胆石・胆嚢炎が認められた.
Holter心電図ではmax QT 587ms,maxQTc658ms
のQTの延長を呈す洞調律にtorsade de pointes型
の心室頻拍を頻回に記録した.入院後はICD植え
込み術と胆嚢摘出術が施行された.遺伝子診断で
はLQT2 exon7 c.1930 G>T p.V 644 の異常を認め
た.胆石疝痛発作がTdPの誘因となった2型QT
延長症候群の症例として若干の文献的考察を含め
て報告する.
48) 高度房室ブロックにてペースメーカー植え
込み後再手術を繰り返した一例
(安城更生病院循環器センター循環器科)
中川 香・児玉宜子・川村正太郎・上山 力・
河合秀樹・清水優樹・子安正純・堀部秀樹・
竹本憲二・度会正人
症 例 は79歳 男 性,1998年 急 性 心 筋 梗 塞 の た め
LAD#7にPOBA施 行.2003年 6 月 5 日, 連 日 の
めまいを主訴に受診.高度房室ブロックのため
DDDペースメーカー植え込み術施行.2003年7
月下旬よりペースメーカー創の発赤と熱感あり.
浸出液培養陰性,アレルギーパッチテスト陰性.
2003年10月にジェネレーター交換.その後もリー
ド露出を繰り返し,2007年3月14日ペースメーカ
ー抜去,Vリード断端処理.2007年11月Vリード
露出あり,経静脈的に抜去.繰り返すペースメー
カー皮膚炎の症例を経験したので報告する.
【背景】ベプリジル(Bep)とⅠ群薬の併用は持
続性心房細動(PeAF)を高率に除細動するが機
序は不明である.【方法】Bep内服下のPeAF 5
例を対象に肺静脈(PV),冠静脈洞(CS),右房
(RA)での双極電位を記録しFFT法により各部位
における主要な周波数成分(DF)を求めた.無
投 薬 下 のPeAF15例 を 対 照(Con) と し た.【 結
果】Conに比しBep群のDFは各部位において有
意(P<0.05) に 低 下 し て い た.DFの 低 下 率 は
PVに比しCS,でより著明で,PV−CS間のDFの
較差が有意に増大した.ピルジカイニド(Pil:
1.0mg/Kg iv.)の追加投与により各部位のDFはさ
らに低下し,PV−CS間のDFの較差も減少した.
【結論】PeAFにおいてBepはPVに比しCS(左房)
の細動周期をより延長する.Pilの併用は細動周
期の延長のみならず,心房内細動周期の均一化を
介してPeAFの停止に寄与する.
52) TCPC術後循環不安定な洞性頻脈に対しラ
ンジオロールにて改善をみた1例
(中京病院心臓外科) 森脇博夫・櫻井 一・
波多野友紀・杉浦純也・加藤紀之・水谷真一
患者は3歳男児で,両側グレン手術後の両大血管
右室起始,単心室,肺動脈閉鎖,Dextrocardia,
Criss-cross heartに対して,今回Fenestrated
TCPC術を施行した.手術終了直前よりHR 180−
200台 のSinus tachycardiaに 陥 り,ICU管 理 中 も
容量負荷,カテコラミン減量,低体温管理などで
改善を試みた.しかし低心拍出性にHR220−240
台と増悪傾向を辿ったため,NOの吸入と同時に
ランジオロールを開始.その結果,循環動態は好
転化し回復.術後第2病日に抜管することができ
た.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
53) 僧帽弁輪を旋回する非通常型心房粗動に対
して冠静脈洞からの通電が奏功した一例
(名古屋大学循環器内科) 北村倫也・
吉田直樹・神谷裕美・内川智浩・原田修治・
山内正樹・因田恭也
56) 右室流出路起源心室頻拍に対するカテーテ
ルアブレーションにおけるEnSiteの有用性
(中京病院循環器科) 三井統子・
上久保陽介・加藤寛之・奥村 聡・村上 央・
加田賢治・坪井直哉
59) ステロイドパルス療法が有効であった劇症
型好酸球性心筋炎の一例
(聖隷浜松病院) 平田哲夫・岡 俊明・
小濱康明・佐藤琢真・神島一帆・山田雄一郎・
池田宏美・岡田尚之・杉浦 亮
症例は70歳女性.平成12年房室回帰性頻拍に対し
てKent束のカテーテルアブレーションを施行し
ている.平成15年洞機能不全症候群のため体内式
ペースメーカー留置.同年心房粗動出現し,カ
テーテルアブレーション施行するも不成功であ
った.その後も発作頻回のため再度カテーテル
アブレーション施行となる.僧帽弁輪部でのPPI
は粗動周期と一致し,Cartoシステムでの左房
mappingでは,僧帽弁輪を時計回転する心房粗動
が確認された.mitralisthmus部にscar areaを認
め,scar-僧帽弁輪間にブロックラインを試みる
も停止せず.冠状静脈洞内遠位部通電(僧帽弁輪
3時方向)を行ったところ頻拍が停止した.今回,
冠状静脈洞内通電が有効であった非通常型心房粗
動を経験したので報告する.
我々は2007年7月から右室流出路起源の心室頻拍
に対するカテーテルアブレーションに対してEnSiteを使用している.En-Siteはその性質上,出
現の少ない心室性期外収縮や右室流出路起源のよ
うな限局された領域における心室頻拍において特
に有用性が高いと考えられている.今回我々は
2008年5月までに右室流出路起源の心室頻拍7例
(16歳から61歳まで男性5例,女性2例)に対し
てEn-Siteを用いてカテーテルアブレーションを
施行し,その有用性について検討したので報告す
る.
生来健康の23歳男性.入院3日前より感冒症状を
認め,感染症の診断で当院総合診療内科に入院し
た.抗菌薬の効果はなく,入院後徐々に心拡大を
呈し第5病日には血圧も低下した.心エコー検査
で左室収縮能はびまん性に高度低下しており,急
性心筋炎による心原性ショックと診断し当科に転
科,人工呼吸管理とIABPによる循環補助を行っ
た.右室心筋生検では好酸球有意の炎症細胞浸潤
を認め,劇症型好酸球性心筋炎と診断し第6病日
よりステロイドパルス療法を開始した.その後
心機能は改善し第9病日にはIABPを抜去できた.
ステロイドは漸減しARBを導入,最終的には心
機能はEF65%まで回復し,第32病日に軽快退院
した.ステロイドパルス療法が有効であった劇症
型好酸球性心筋炎の1例を経験したので報告す
る.
54) 当院小児循環器科のアブレーション対象症
例についての検討
(中京病院小児循環器科) 大橋直樹・
松島正氣・西川 浩・久保田勤也・吉田修一朗
(同循環器科) 坪井直哉
57) 4回の心筋炎反復・再燃をきたした一例
(榛原総合病院循環器科) 松永正紀・
竹内亮輔・北川雅稔
60) 甲状腺機能亢進による頻拍性心房細動,心
不全を来し多形性VTを認めたが救命し得た一例
(市立島田市民病院循環器科) 加藤史照・
青山 武・川人充知・蔦野陽一・中村 貴・
金森範夫・松岡良太・久保田友之・荒木 信・
谷尾仁志・近藤真言
【対象】2006年2月∼2008年4月3日までに当科
でアブレーションを試みた40例.【結果】アブレ
ーションは計41回施行.1例未施行.施行年齢
は6.4∼49.9歳(中央値13.3歳).内訳はAVRT 20
例,AVNRT 8例,common AFL 6例,VT 4例,
focal AT 2例,PVC 1例,AT 1例(2例は複数
の不整脈).20歳以上の成人例は6例で,4例が
先天性心疾患術後であった.AVRT 20例は,A型
14例,B型4例,C型3例(1例複数Kent).A型
のアプローチは大動脈10例,中隔4例(卵円孔2
例,ブロッケンブロー2例).成功は31例(成功
率77.5%)で,未施行も含む不成功は9例だった.
特に合併症はなかった.【考察】AVRTの不成功
例は心外膜Kent,中部中隔Kentなどの解剖学的
特徴によるもので,またその他の不成功例の3例
は成人例であり,小児年齢による成功率の低下は
ないと思われた.
55) 右室伝導遅延部位隔離が有用であった不整
脈源性右室心筋症の1例
(名古屋大学循環器内科学) 山内正樹・
因田恭也・鈴木博彦・吉田直樹・神谷裕美・
北村倫也・嶋野祐之・内川智浩・北村和久・
室原豊明
(同保健学科) 平井真理
(同環境医学研究所液性調節分野) 辻 幸臣
34歳,男性.心室頻拍(VT)が確認され,精査
にて不整脈源性右室心筋症(ARVC)と診断され
る.EPSを行うと,2種類以上のVTが誘発された.
VTは不安定であり,ペーシングにより異なる波
形のVTへと移行するため,post pacing interval,
concealed fusionの確認が困難であった.右室流
出路にEnsite 3000を留置し,VTの起源を確認し
たところ,右室前壁がVT Exit部位と考えられた.
CARTOにてVoltage mapを作成したところ,VT
のExit部位を認めた,右室流出路前壁側に起電力
の小さい,異常電位部位を認めた.異常電位部位
には伝導遅延部位を多く認めた.異常電位部と健
常部を境界するようにencircling ablationを行っ
たところ,遅延伝導電位は途絶しその後VTは出
現しなくなった.右室伝導遅延部位隔離が有用で
あったARVCの1例を経験した為報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
症例は49歳男性.平成14年4月と平成16年5月に
急性心筋炎にて入院加療歴あり.平成19年9月3
日発熱,胸痛出現し急性心筋炎として入院.保存
的治療にて改善し9月19日退院したが,微熱,胸
痛症状の再発あり9月24日心筋炎再燃として再入
院.9月26日に高度∼完全房室ブロック,心原性
ショックを呈し体外式ペースメーカー,IABP
によるサポートを要した.状態は徐々に改善し9
月29日にはIABP離脱可能になった.心機能も
改善傾向にあったが一部壁運動低下・菲薄化もあ
り少量のACE阻害薬開始し観察中である.4回
の心筋炎反復・再燃をきたした稀な症例を経験し
たので報告する.
23歳女性.労作時呼吸苦を主訴に来院,心エコー
にてびまん性左室壁運動低下(EF 16%,LVDd
56mm,LVDs 52mm)を認め,心不全にて入院し
た.経過中Torsade de pointesを発症し電気的除
細動を要した.入院時甲状腺機能の亢進を認めて
いた.薬剤負荷Tl心筋シンチ正常,心臓MRIでは
壁運動低下は認めたがdelayed enhancementは認
めなかった.ウイルスペア血清も陰性であった.
冠動脈造影は正常,心筋生検ではわずかな線維化
と細胞浸潤のみで心筋炎は否定的であった.一時
的なアミオダロンにより心室頻拍(VT)は抑制
されカルベジロール,ARBにて心機能は経過と
ともに改善した.以上より甲状腺機能の一過性亢
進が原因と思われる頻拍性心房細動に起因する心
不全と推測された.重度な心機能低下を伴う多形
性VTの症例を救命し得たので報告する.
58) 悪性リンパ腫の精査入院中に劇症型心筋炎
を発症した1例
(掛川市立総合病院) 岡崎裕史,内山博英
(袋井市民病院) 林英次郎
(掛川市立総合病院) 大口志央
61) 長期のホルモン補充療法により左室肥大の
改善を認めた甲状腺機能低下症合併高血圧性心不
全の一例
(西尾市民病院内科) 齋藤 誠・近藤照夫・
田中俊郎・高木克昌・奥村貴裕
症例は77歳男性.単純CT検査にて,腋窩・縦隔・
腹部に多発するlymphadenopathyを認め,悪性リ
ンパ腫を疑い平成20年2月29日消化器科に入院
した.入院時の心電図は正常であったが,翌3
月1日血圧が低下し,心電図上I,II,III,aVF,
V2-6に広範なST上昇を認めた.緊急冠動脈造影
検査を施行し,正常冠動脈であった.左室造影
の準備中にVfとなり,蘇生にて心拍は再開し,一
時的に血圧上昇が得られたが,翌日死亡した.
necropsyした左鼠径リンパ節からは,び慢性大細
胞性B細胞リンパ腫の所見が得られた.心筋は心
筋線維間に顆粒球や組織球の浸潤を認め,心筋炎
の像を呈した.劇症型心筋炎の発症前後の心電図
変化を記録できた極めてまれな症例であり文献的
考察を加え報告する.
【症例】43歳女性.1年前より体重増加と労作時
呼吸困難を自覚.2002.11.4,呼吸困難が悪化し入
院.身長152cm,体重74Kg,血圧140/100mmHg.
胸 部X-P CTR=61%.BNP 487pg/ml.FT3FT4は
正常.TSH 14.2μIU/mlと高値.心臓エコー : LVDd
/LVDs/IVSth/PWth/LVEF/LVmass=73mm/
58mm/13mm/16mm/42%/685gであった.薬物治
療にて心不全は改善(BNP: 2002-12=54.7,pg/ml
2003-2=2.0pg/ml).2002-11-21より甲状腺ホルモ
ン補充治療開始.LVEFは,2002-11=42%,200212=74%と改善.一方,LV massの減少には数年
を要した(2002-11=685g,2002-12=465g,2003-2
=408g,2003-5=323g,2004=293g,2005=236g,
2006=184g,2007=213g)
.心不全の治療において
甲状腺疾患も考慮する必要がある.
アクトシティ浜松 コングレスセンター(2008 年 6 月) 1081
62) 洞不全症候群が初発症状の心臓悪性リンパ腫
(三重大学循環器内科学) 杉浦伸也・
太田覚史・千賀通晴・高村武志・中嶋 寛・
藤井英太郎・山田典一・宮原眞敏・中村真潮・
伊藤正明
65) 外傷性心内異物の一例
(菊川市立総合病院内科) 鈴木敬太・
松本有司・内山理恵
(同外科) 内山 隆
(浜松医科大学附属病院第一外科) 鷲山直己
68歳女性.顔面浮腫を主訴に前医を受診.洞不全
症候群に起因した心不全と診断され,DDDペー
スメーカー植え込みを施行.その後一時心不全軽
快するも2週間程で再増悪.その際の心エコーに
て新たに右房内に腫瘤を認め,ペースメーカーリ
ードによる心内血栓が疑われ当院紹介となった.
当院での入院時心エコーにて心臓内に三尖弁と一
塊となった腫瘤と心嚢水を認め,また,CTにて
上大静脈から右房,右室にかけて連続する腫瘤を
認めた.他にも肝表面,両腎,膵臓にも腫瘤があ
り,縦隔,傍大動脈リンパ節の腫脹も認めた.確
定診断のために肝生検施行し悪性リンパ腫と診
断.CHOP療法を開始し腫瘍は縮小,経過良好で
ある.今回我々は洞不全症候群が初発症状の悪性
リンパ腫を経験したので若干の文献的考察を加え
て報告する.
【症例】77歳,男性【主訴】前胸部刺創【現病歴】
平成18年10月23日午前10時頃,電動草刈機にて草
刈をしていたところ前胸部に何かが当たり,出血.
当院外科外来受診.【現症】血圧127/84mmHg,
脈拍78/分,貧血,チアノーゼなし,心音・呼吸
音異常なし,心膜摩擦音聴取せず,第3肋間胸骨
左縁に約5mmの刺創あり,皮下に異物は触知せ
ず.【検査所見】胸部XP,CTにて心臓内にX線不
透過の細い異物を確認.心エコーにて異物は右室
前面から刺入し,大動脈をかすめ,先端は肺動脈
に達していた.【経過】外傷性心内異物と診断し,
緊急異物摘出術のため浜松医科大学附属病院へ転
送.胸骨正中切開で開胸,心膜を開けると心表面
に金属片が2mm程心室外に露出しており,人工
心肺を用いることなく直接異物を抜去し手術を終
了.異物は長さ約4cmの針金であった.
63) 腫瘍摘出術の2年後に再発し急速に増大し
た心臓平滑筋肉腫の一例
(浜松医科大学臨床研修センター) 野嶋計寿
(同第三内科) 齊藤岳児・早乙女雅夫・
漆田 毅・加藤秀樹・佐藤 洋・林 秀晴
66) 脳梗塞発症にて発見された心臓内腫瘍の一例
(岐阜大学医学部附属病院) 横山ちはる・
青山琢磨・川口智則・吉真 孝・名和隆英・
竹山俊昭・白木 仁・岩佐将充・高杉信寛・
久保田知希・安田真智・石原義之・川村一太・
八巻隆彦・金森寛充・牛越博昭・小塩信介・
川崎雅規・西垣和彦・竹村元三・湊口信也
74歳の女性.H18年11月より呼吸困難が出現し左
房内腫瘍を指摘され摘出術を受けた.平滑筋肉腫
の診断にてその後残存MRに対し僧帽弁置換術を
行い10月のTTEでは腫瘍の再発はなかった.H20
年2月心不全の増悪により再入院したが,TTE
にて僧帽弁前尖中隔側に20mmの腫瘤を認めた.
TEEでは高輝度で内部不均一かつ可動性に乏し
い腫瘤像であった.CTでは肺静脈から左房内腔
に突出する多房性の腫瘤であった.急速に心不全
が悪化し6日目に死亡した.病理所見では人工弁
を覆う60×30×30mmの腫瘤であり,異型紡錐形
細胞の浸潤と平滑筋細胞染色陽性を認めた.原発
性心臓腫瘍の中で平滑筋肉腫は0.2%と稀である.
心臓平滑筋肉腫は急速に進行し確定診断が困難な
ため予後不良である.早期の摘出術と有効な補助
的療法の確立が必要である.
【症例】60歳,男性.【既往歴】平成18年1月 肝
細胞癌にて肝右葉切除.【現病歴】平成19年5月,
突然左下肢筋力低下を自覚し当院受診.脳梗塞が
疑われ,脳神経外科へ入院し精査の結果,脳梁膝
部の梗塞を認めた.その際,経胸壁心エコー施行
されていたが,左室および左房内の可視範囲に明
らかな血栓は認めなかった.本人の希望にて退院
となったが,6月に再び左上下肢の痺れを自覚し
脳神経外科再入院.脳MRIにて多発梗塞巣を認め,
心源性塞栓鑑別のため経食道心エコーを施行した
ところ,肺静脈内および左房内に複数の腫瘍像を
認めた.本症例において,右心系には腫瘍を認め
なかったが,腫瘍の性状や臨床経過より肝細胞癌
の心臓転移と考えられ,これによる脳塞栓症と診
断した貴重な症例を経験したため報告する.
64) 急性左心不全を契機に発見された巨大左房
粘液腫の一例
(藤田保健衛生大学循環器内科) 椎野憲二・
山田 晶・宮城島賢二・祖父江嘉洋・
針谷浩人・菱田 仁・尾崎行男
67) 偽腔内に感染性血栓を認めた大動脈解離の
一例
(浜松赤十字病院循環器科) 野中大史・
俵原 敬・間遠文貴・浮海洋史・尾関真理子・
諏訪賢一郎
【症例】72歳 女性.以前から喘息様の発作があ
り近医に通院.入院当日も呼吸困難があり近医を
受診.対症療法を受け軽快し帰宅するも,その後
再び増悪し,当院に救急搬送された.来院時は急
性肺水腫の状態.心電図上,胸部誘導にてSTの
上昇を認め,虚血性心疾患に伴う心不全と考慮.
しかし冠動脈造影検査前のスクリーニングの心臓
超音波検査にて左房内巨大腫瘤を認めた.冠動脈
の虚血により心不全が増悪したのか左房内腫瘤に
より増悪したのか判断し,そしてその後の治療方
針に難渋した1例について報告する.
症例は89歳男性.慢性腎不全で透析中.発熱と軽
い背部痛にて平成17年7月7日当院受診.胸腹部
CTで急性大動脈解離(Stanford B,偽腔閉鎖型)
を認め入院.入院時38度を超える発熱を認めた.
降圧療法を継続するも再解離を認め8月5日死
亡.病理解剖の結果偽腔内に血腫形成を認め,好
中球を主体とする化膿性炎症を伴う感染性血栓で
充満していた.さらに腎膿瘍や肺膿瘍が確認され
た.大動脈解離は強い背部痛を主訴とする場合が
多いが,発熱・炎症反応高値を主訴とした大動脈
解離も報告されている.さらに本症例は解離部位
に感染が加わり炎症反応高値となった.偽腔内に
感染性血栓による膿瘍形成を有する大動脈解離に
関してはごく少数例報告されているのみである.
本症例は敗血症に罹患し偽腔内の血栓に感染し膿
瘍を形成した稀な一例であった.
1082 第 131 回東海地方会
68) 慢性期に腹部大動脈の一過性閉塞を来たし
たDeBakeyⅢb型大動脈解離の一例
(菊川市立総合病院内科) 松本有司・
内山理恵・鈴木敬太
【症例】73歳男性【主訴】腰痛,呼吸苦【既往歴】
COPD【現病歴】農作業中に突然腰痛,呼吸苦が
出現.安静では改善なく喘鳴が出現し第5病日に
受診.【現症】血圧171/126mmHg,両肺に乾性ラ
音【経過】気管支喘息,左胸水貯留にて入院とな
ったが,CT上DeBakeyⅢb型の偽腔開存型大動脈
解離.Entryは遠位弓部で同部位が約5cmに拡張.
経過中に更なる拡張や破裂はなかったが,第32病
日に突然両下肢の激痛と麻痺が出現.CT上偽腔
の血栓化と腎動脈レベルでの腹部大動脈閉塞.補
液をしつつ血行再建術を準備したが,血圧の回復
とともに腹部大動脈は再開通.【総括】大動脈解
離慢性期に一過性の大動脈閉塞を生じた.遠位弓
部のentry,同部位の瘤化,flapの形状,偽腔の血
栓化,疼痛刺激による血圧低下などが稀有なる合
併症を発症させたと考える.
69) 急性腎不全で発症した腹部大動脈瘤−下大
静脈穿通の1例
(三重県立総合医療センター循環器科)
谷村宗義・櫻井正人・熊谷直人・加藤慎也・
森木宣行・牧野克俊
症例は75歳男性.高血圧症,脂質異常症にて加療
中.2008年1月初旬より下痢と全身倦怠感を自覚
し近医通院.1月12日,ショック症状を認め救急
搬送.血液検査で新規の腎機能障害と肝機能障害
を認めた.腹部に拍動性腫瘤を触知し,腹部CT
にて最大径84mmの腹部大動脈瘤を指摘された.
また体重増加と下腿浮腫および胸部レントゲンに
て軽度のうっ血所見,UCGにて右心負荷所見を
認めた.入院後はほぼ無尿状態であり,急性腎不
全となった.同16日より血液透析を導入し,同日
造影CTを撮影.これにより,腹部大動脈瘤と下
大静脈の穿通による急性右心不全からの腎前性腎
不全と診断された.同25日,腹部大動脈置換術を
施行.術直後より利尿が得られ,透析離脱するこ
とができた.
70) 発熱を契機に発見された腹部大動脈瘤の一例
(海南病院循環器内科) 菊池祥平・
酒井慎一・内田恭寛・山田崇史・福嶋 央・
森 寛暁
発熱を契機に発見された腹部大動脈瘤を我々は一
例経験したのでここに報告する.症例は67歳男
性,入院する1ヵ月前より発熱・腹痛・嘔吐が出
現し,近医を受診したところ,腹部エコー検査に
て直径60mm大の腹部大動脈が発見された.外科
的治療の予定で入院したが,症状は入院日まで持
続しており,入院当日は38℃の発熱と高CRP血症
を認めた.血液培養よりグラム陰性桿菌が検出さ
れ,感染性動脈瘤が疑われた.抗生剤治療を開始
するも第7病日に突然の意識低下を来たし,腹部
大動脈瘤破裂を認めたため,緊急手術を施行した
が,第20病日に多臓器不全のため死亡した.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
71) 診断に難渋した大動脈炎症候群の一例
(刈谷豊田総合病院循環器科) 大杉直弘・
杢野晋司・原田光徳・梶口雅弘・渡辺洋樹・
神谷信次・斉藤隆之・山中雄二・鈴木克昌・
大林利博
74) DA(A)術後慢性腎不全にDICを併発した
吻合部偽性動脈瘤に対してBentall+半弓部大動
脈置換術を行った1例
(聖隷浜松病院心臓血管外科) 渕上 泰・
小出昌秋・國井佳文・梅原伸大・渡邊一正
症例は40才女性.H19/11月に発熱・感冒症状な
どで発症.胸部X-p上,右下肺に胸水貯留を伴う
異常影を認め入院精査加療開始.肺感染症や肺の
悪性疾患を中心とした精査では疾患を特定できず
抗生剤を中心とする治療にも抵抗する炎症所見を
認めた.よって,自己免疫性疾患や全身の悪性腫
瘍に精査範囲を広げたところ,18FDG PET-CTで
右肺の患部以外に大動脈壁に有意な集積を認め
た.よって,肺の悪性腫瘍の可能性を胸腔鏡下肺
生検で確認しつつ,造影CT等での画像診断を進
めたところ,大動脈と肺動脈の両者に大動脈炎症
候群によると考えられる血管閉塞が指摘され,大
動脈炎症候群と診断し以後治療開始し良好な経過
となっている.本症例は,経過・画像所見とも大
動脈炎症候群として興味深いものと考えられたの
で報告する.
症例は78歳の男性,5年前に急性大動脈解離(A)
に対して上行大動脈人工血管置換術を行った.術
後経過は良好であったが術後3年めのMRIにて遠
位吻合部の偽性動脈瘤およびARを指摘されたが
再手術は希望しなかった.その後慢性腎不全の悪
化あり透析導入となった.その際血小板および
Fibrinogen減少,D-Dimer高値を認めDICと診断
され,CTにて偽性動脈瘤の拡大を認め手術を行
った.術中所見で遠位吻合部の一部離開を認め近
位吻合部にも偽腔開存があり,Bentall+半弓部大
動脈置換術を行った.術後順調に回復してDIC所
見は改善,現在リハビリ中である.
72) 上行−腹部大動脈バイパス手術を行った大
動脈炎症候群の一例
(岡崎市民病院心臓血管外科) 寺田貴史・
堀内和隆・湯浅 毅
(榊原記念病院心臓血管外科) 平岩伸彦
(岡崎市民病院心臓血管外科) 保浦賢三
75) オクトレオチドが著効を示した破裂性胸部
下行大動脈瘤術後乳糜胸の1例
(岐阜県立多治見病院心臓血管外科)
宋 敏鎬・中山智尋・服部圭祐
(土岐市立総合病院循環器内科) 佐分利良公
78) 37年前のボール弁置換術後の再手術の経験
−弁膜症性心筋症に対する手術戦略−
(公立陶生病院心臓血管外科) 中野嘉久・
佐々木通雄・市原利彦
(名古屋大学胸部外科) 上田裕一
Sudden back pain of a 72-year-old gentleman was
diagnosed as rupture of descending thoracic aorta
and he was emergently transferred to our hospital
for surgery. Immediate and emergent surgery of
replacement of ruptured descending thoracic aorta was done. Two days after the surgery, he was
complicated with chylothorax and somatostatin
was begun along with thoracic drainage and NPO.
Chylothorax finally stopped and this experience
prompted us to report the case.
ボール弁の再手術は昨今稀である.今回37年前の
ボール弁の再手術を経験したので報告する.症例
は60歳男性,近医で昭和46年に大動脈弁閉鎖不
全症に対して,Star-Edwardsボール弁で置換さ
れて,外来通院していた.2年前から心不全出
現,EFも低下し,経過観察中当院救急外来受診.
心 不 全 の た めIABP挿 入. 肺 動 脈 圧 も80mmHg
台となり,カテコラミン依存となり,心エコー
上,大動脈弁にはASRはなく,僧帽弁逆4度で,
LVDd80mmと拡張した.多臓器不全を呈し準緊
急手術とした.手術は僧帽弁人工弁置換術と大動
脈弁置換術を施行.CRTのリードも挿入した.再
手術で出血に難渋した.ボール弁の弁自体の亀裂
はあった.手術適応・時期と,心エコー所見から
得られる手術術式の選択,弁膜症性心筋症の手術
内容(CRT,左室縮小術の適応)について討論し
たい.
73) 心タンポナーデを伴った血栓閉塞型解離性
大動脈瘤Intramural hematomaの1治験例
(名古屋徳洲会総合病院) 橘 五月・
大橋壯樹・田澤希久子・坂倉玲欧・
景山総一郎・古井雅人・児島昭徳
76) 上行大動脈瘤に合併した大動脈弁逆流に対
しSTJ縫縮による大動弁形成を行った1例
(岐阜大学高度先進外科学) 梅田幸生・
島袋勝也・宮内忠雅・石田成吏洋・
池庄司浩臣・村上栄司・竹村博文
シンタンポナーデを伴った血栓閉塞型解離性大動
脈瘤Intramural hematomaの1治験例症例は75歳
男性で,主訴は胸痛にて当院救急搬送されてい
る.心エコー,単純CTにて心タンポナーデみと
められ,造影CT上,血栓閉塞型解離性大動脈瘤
で認められた.上行送血対外循環,低体温で施行
した.左冠動脈腔直上に2センチ程度の亀裂を認
めたが,明らかな解離はなかった.亀裂を含め人
工血管にて上行置換術施行した.右冠動脈はSVG
で再建した.術後三週間目に退院した.
症例は78歳,女性.労作時呼吸困難を主訴に近医
受診した.精査の結果,上行大動脈瘤・大動脈弁
閉鎖不全症と診断され,手術目的にて当科紹介入
院となった.術中所見にてSTJ拡大に伴う弁尖接
合不全による大動脈弁閉鎖不全症と判断し,フ
ェルトストリップによりSTJをφ27mmに縫縮し,
引き続いて上行大動脈人工血管置換術を施行し
た.人工心肺離脱直後の経食道心臓超音波検査に
て大動脈弁逆流はtrivialであった.
79) papillary muscle approximationで形成した
ischemic mitral prolapseの一例
(名古屋第一赤十字病院心臓血管外科)
阿部知伸・砂田将俊・吉住 朋・河村朱美
(春日井市民病院) 萩原啓明
(名古屋第一赤十字病院心臓血管外科)
中山雅人・伊藤敏明
大動脈炎症候群により下行大動脈縮搾を来し,血
圧管理目的に上行大動脈−腹部大動脈バイパスを
施行し改善を得た症例を経験したので報告する.
症例は59歳女性.26歳出産時に高血圧と左手の脈
拍不触知を指摘,大動脈炎症候群と診断され,降
圧療法中であった.拍動性頭痛が悪化し,精査に
て下行大動脈縮窄と左鎖骨下動脈閉塞および上下
肢間で100mmHg以上の圧較差を指摘.胸骨正中
切開と左傍腹直筋切開にて上行大動脈および後腹
膜腔へ到達した.上行大動脈から心嚢,横隔膜を
貫通して後腹膜腔経由でグラフトを通して腎動脈
下腹部大動脈へ吻合した.術後,上下肢間の圧較
差および拍動性頭痛は改善した.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
77) 溶血性貧血の発現により準緊急大動脈弁置
換術となった大動脈弁狭窄症の1例
(三重ハートセンター心臓血管外科)
松尾辰朗・河瀬 勇
(同循環器科) 西川英郎・鈴木啓之・
山本和彦
症例は78歳男性で,2年前に意識消失があり大動
脈弁狭窄症の診断で手術を勧められるも拒否して
いた.以後胸痛があったが放置していた.今回黒
色尿の精査で近医泌尿器科に入院したが,その後
胸痛と意識消失をくり返し当院へ救急搬送され
た.入院時心エコーは大動脈弁高度石灰化と圧較
差125mmHgの大動脈弁狭窄であった.また,ヘ
モジデリン尿であり,血清成分に溶血を認め,血
液データ上ヘモグロビン7.9g/dl,ヘマトクリッ
ト23%,LDH 2016IU/lと溶血性貧血を示してい
た.準緊急大動脈弁置換術を施行したところ,ヘ
モジデリン尿や溶血性貧血は著明に改善し術後経
過良好であった.溶血は大動脈弁狭窄症によるも
のと考えられた.
【背景】虚血性心疾患を原因とする僧帽弁閉鎖不
全 は,Tethering,Carpentierの 分 類 で 3 型 が ほ
とんどである.梗塞乳頭筋の延長にともなう逸
脱をmechanismとする虚血性僧帽弁閉鎖不全で,
papillary muscle approximationにより形成し得た
症例を報告する.
【症例】症例は65歳男性,手術
9ヶ月前胸部不快出現,エコー上前尖の逸脱によ
るdegenerative MRと診断した.左前下行枝75%,
鈍縁枝100%の冠動脈病変があった.術中所見で,
前乳頭筋が白い瘢痕組織となっており,前乳頭筋
からの腱索を受けている部分の弁尖全体が逸脱し
ていることが分かった.余り報告が無いが,前乳
頭筋の頭部を後乳頭筋に縫い寄せ,高さを合わせ
ることでcompetentとなった.
アクトシティ浜松 コングレスセンター(2008 年 6 月) 1083
80) PCRによる菌の同定にて確定診断しえた
人工弁感染性心内膜炎の1例
(三重大学循環器内科学) 山里将一朗・
田辺正樹・高村武志
(同臨床検査医学) 中村昭子
(同循環器内科学) 澤井俊樹・玉田浩也
(同臨床検査医学) 大西勝也
(同循環器内科学) 宮原眞敏・中村真潮
(同臨床検査医学) 和田英夫
(同胸部心臓血管外科学) 新保秀人
(同臨床検査医学) 登 勉
(同循環器内科学) 伊藤正明
82歳女性.入院6ヶ月前に大動脈弁置換術を施行され
た.入院12日前から発熱,労作時息切れを認め,近医で
の抗生剤加療で改善なく当院に紹介された.受診時は高
熱,完全房室ブロックを伴ったショック状態であり,抗
生剤加療,右室ペーシング,血液透析および人工呼吸管
理を行った.心臓超音波検査にて大動脈弁無冠尖から右
房への血流を認め,人工弁感染性心内膜炎が疑われたが
血液培養は全て陰性であった.全血PCRによる起炎菌の
遺伝子解析を行った結果,Streptococcus canisが検出さ
れた.入院第10病日に瘻孔閉鎖および大動脈弁再置換術
を施行し,摘出した弁組織のPCRからもStreptococcus
canisが検出された.培養陰性心内膜炎の起炎菌の検出
に,全血PCRが有効であった1例を経験した.
81) 脾膿瘍を併発した左室憩室を有する感染性
心内膜炎の1例
(藤田保健衛生大学) 祖父江嘉洋・
渡邊英一・原 智紀・椎野憲二・針谷浩人・
山田 晶・成瀬寛之・元山貞子・平光伸也・
石井潤一・菱田仁士・尾崎行男
(同心臓血管外科) 高木 靖・安藤太三
感染性心内膜炎において脾梗塞を合併する頻度は
剖検例において44∼58.3%という報告がある.し
かし,脾膿瘍を併発する頻度は非常に少ない.今
回,脾膿瘍を伴い治療方針に難渋した感染性心内
膜炎の1例を経験したので報告する.症例は58
歳男性.2007年11月左下肢蜂窩織炎にて他院入
院.抗生剤治療を行うも反応乏しく心エコー施
行.僧帽弁にvegetationを認め,感染性心内膜炎
の診断にて12月22日当院紹介入院となる.入院後
PCG+GMにて治療を行い,CTでは左室憩室・脾
膿瘍を疑わせる所見を認めた.内科的治療を継続
するも反応乏しく,内科的治療抵抗性と判断し僧
帽弁置換術および左室憩室閉鎖術施行.術後経過
良好であり,脾膿瘍も退縮し2008年2月5日退院
となる.脾膿瘍を併発した感染性心内膜炎に対す
る治療について文献をふまえ考察を報告する.
82) IE発症を契機に巨大左冠動脈右房瘻と診断
された一例
(安城更生病院循環器センター循環器科)
伊藤唯宏・川村正太郎・児玉宜子・中川 香・
上山 力・河合秀樹・清水優樹・子安正純・
堀部秀樹・竹本憲二・度会正人
症例は32歳女性.発熱を主訴に受診.初診時心雑
音を認め,血液培養陽性(Streptococcus mutans)
であった.経食道心エコーにて三尖弁に疣贅を認
め,同時に大動脈に沿った異常構造物の存在を認
め,また心臓MDCTにて左冠動脈を左回旋枝分岐
直後で分枝し,高位右房に流入する巨大な瘻孔を
認めた.本症例は左冠動脈右房瘻により三尖弁の
感染性心内膜炎を発症したと考えられた.入院後,
PCGとGMを2週間使用して軽快した.その後心
臓カテーテル検査等の精査を経て検討の末手術療
法を選択した.手術では右房を切開し直視下に瘻
孔開口部を閉鎖,左回旋枝分岐直後で離断した.
術後経過は良好で心臓カテーテル再検査にて瘻孔
の閉鎖を確認した.三尖弁の感染性心内膜炎発症
を契機に,巨大左冠動脈右房瘻と診断し得た稀な
一例を経験したので報告する.本症例では確定診
断及び手術シミュレーションに際してMDCTが
非常に有用であった.
1084 第 131 回東海地方会
83) 感染症心内膜炎を合併し,左室から右室へ
のシャント血流を認めた心室中隔欠損症の一例
(総合大雄会病院循環器科) 春日井博美・
佐藤貴昭・石原慎二・海川和幸・松下豊顯
86) 僧帽弁形成術後に発症した感染性心内膜炎
に対するリネゾリドの経口投与の経験
(総合大雄会病院心臓外科) 下村 毅・
吉田勝彦
症例は35歳男性,幼少より心雑音の指摘があった
こと以外,特記すべき既往歴はない.数日前から
持続する発熱にて近医で加療をうけていたが改善
せず,入院となった.胸部レントゲン写真,胸部
CTにて両側に空洞形成を伴う多発結節影を認め,
肺炎の治療を行っていたが改善はなかった.その
後の精査で心エコーにて三尖弁中隔尖の右房側に
疣贅を認め,感染性心内膜炎と診断し治療を行
った.3病日後には解熱,14病日後には白血球,
CRPは正常化した.心エコー所見より,心室中隔
欠損症による左室から右房へのシャント血流にて
三尖弁の穿孔をきたし,三尖弁感染性心内膜炎を
合併し,さらには敗血症性肺塞栓症を認めた一例
を経験したため報告する.
僧帽弁逆流,慢性心房細動,冠状動脈狭窄を有す
る63歳,女性に僧帽弁形成術,Maze手術,冠状
動脈バイパス術を行ったが,術後20日目に発熱を
認め,血液培養でStaphylococcus epidermidisが
検出されたため感染性心内膜炎と診断した.バン
コマイシンを投与したが発疹が出現したため,テ
イコプラニンとアミカシンに変更した.投与9日
後に再び高熱を認めたため,ハベカシンに変更し
たところ4日目に解熱がえられた.ところが,重
篤な発疹と腎障害が出現したため,リネゾリドを
14日間経口投与し,無熱状態を維持することがで
き,術後75日目に独歩退院した.現在,外来で経
過観察を行っているが,感染の再燃を認めていな
い.リネゾリドの感染性心内膜炎に対する適用は
確立されていないが,症例を適切に選択すれば有
用な抗生剤と考えられる.
84) 心室中隔欠損症に併発した感染性心内膜炎
の2例
(松阪中央総合病院循環器内科) 星田京子・
栗田泰郎・松岡宏治・松田明正・中森史朗
(三重大学附属病院循環器内科) 田辺正樹・
土肥 薫
(松阪中央総合病院循環器内科) 谷川高士
(同心臓血管外科) 駒田拓也
(同循環器内科) 中村智昭
(同心臓血管外科)草川 均・片山芳彦
(三重大学附属病院心臓血管外科) 新保秀人
(松阪中央総合病院循環器内科) 幸治隆一
(三重大学附属病院循環器内科) 伊藤正明
87) 心タンポナーデに対する開胸ドレナージ術
後に心室中隔奇異性運動を呈した一例
(県西部浜松医療センター循環器科)
高山洋平・大矢雅宏・太田貴子・澤崎浩平・
小林正和・武藤真広・杉山 壮・高仲知永
(同心臓血管外科) 平岩卓根・山本希誉仁
【症例1】18歳女性,特記すべき既往歴なし.2008年2月に発
熱の精査加療目的にて入院した.経胸壁心臓エコーにて右心
室中隔心尖側に付着する径26mmの疣贅と同部位にシャント
血流を認めVSDⅣ型に併発した感染性心内膜炎と診断した.
抗生剤にて加療後,待機的に疣贅切除,VSD閉鎖術を施行し
た.【症例2】17歳男性,生下時より心室中隔欠損症(VSDⅡ
型)を指摘.2005年に発熱を認め精査加療目的にて入院した.
経食道心臓エコーにて左室流出路にφ10mmのVSDと同部位
に付着したφ17×6mmの疣贅を認め,VSDⅡ型に併発した感
染性心内膜炎と診断した.抗生剤にて加療後,待機的に疣贅
切除,VSD閉鎖術を施行した.今回VSDに併発した感染性心
内膜炎の2症例を経験したので若干の考察を加え報告する.
85) 細菌性脳動脈瘤,微少出血,微少梗塞を合
併した感染性心内膜炎に対する治療経験
(浜松医科大学第一外科) 阿久澤聡・
山下克司・寺田 仁・鷲山直己・大倉一宏・
鈴木一也
症例は51歳,女性.感染性心内膜炎,僧帽弁逆流
(4/4)と診断され手術加療の方針となった.頭部
MRIにて微小感染性脳動脈瘤,微小出血,微小梗
塞を認め,人工心肺使用による中枢神経系合併症
の可能性を考慮して手術を延期した.心不全症状
はNYHA2度で経過.抗生剤治療を継続し,脳動
脈瘤の改善傾向を確認した後に待機手術を行っ
た.僧帽弁前・後尖の広範な肥厚と疣贅の付着を
認めた.根治性,脳動脈瘤を考慮して生体弁によ
る置換術を施行した.術後経過順調で外来経過観
察となったが,抗生剤中止後に施行した頭部MRI
で新たな微小脳動脈瘤の出現を認めた.抗生剤内
服を再開した後,現在脳動脈瘤はほぼ消失してい
る.脳動脈瘤を有する感染性心内膜炎に対する手
術時期の決定,手術法や周術期管理につき文献的
考察を加え報告する.
症例は77歳女性.2007年9月28日呼吸困難を主訴
に近医を受診,翌日総合病院に入院となった.心
タンポナーデを認めたため10月2日心嚢ドレナー
ジを施行.700mlの漿液性心嚢水を排液した.そ
の後ドレーン閉塞のため再挿入したところ血性心
嚢水が出現し始めた.10月11日ショック状態とな
ったため当院に救急搬送され,緊急タンポナーデ
解除術を施行.700ml程度の血性心嚢水を排液し
た.心臓表面に試験穿刺によると思われる小さな
傷を3箇所認めた.心嚢液貯留の原因は甲状腺機
能低下症,心筋炎,特発性などが考えられた.術
後より心エコーにて心室中隔の奇異性運動が出
現.下壁に対して中隔収縮が遅延していた.心電
図上虚血,脚ブロック所見はなく,TEEも施行し
たが奇異性運動以外の異常所見はなかった.開胸
術もしくは心嚢液貯留の原疾患に関連した壁運動
異常と考えられた.
88) Waffle procedureを施行した収縮性心膜炎
の一例
(浜松医科大学第一外科) 大倉一宏・
山下克司・寺田 仁・鷲山直己・阿久澤聡
症例は59歳,男性.2007年10月初旬より動悸,咳
嗽,胸痛を自覚し近医にて内服加療行うも症状は
改善しなかった.同年10月27日労作時の呼吸困難
と下肢の浮腫が出現したため前医受診,急性心膜
炎,心不全の診断にて入院となった.前医入院後
利尿剤投与等行うも心不全症状改善せず,精査に
て収縮性心膜炎と診断され同年11月22日手術目的
に当院転院となった.画像診断では壁側心膜と右
室前面から横隔膜面を中心とした心外膜の著明な
肥厚を認めた.手術は壁側心膜切除の後,心外膜
に格子状の切開を加えるWaffle procedureを施行
した.術後心カテーテル検査では,肺動脈楔入圧
は術前20mmHgから術後13mmHg,右房圧は術前
20mmHgから術後13mmHg,心拍出量係数は術前
2.2 l/min/m2から術後2.9 l/min/m2といずれも改
善し,第22病日軽快退院した.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
89) 右肘部動静脈瘻の外科的治療後にBNP値
の著名な低下を認めた一例
(袋井市立袋井市民病院循環器科)
伊藤竜太・鳥越勝行・丹羽 学・高木健督・
林英次郎
92) 急 性 心 筋 梗 塞 症 の 疑 い で 入 院 と な っ た
Beriberi heart diseaseの1例
(静岡県立総合病院) 森脇秀明・土井 修・
吉田 裕・鏑木敏志・板垣 毅・藤田真也・
三宅章公・毛利晋輔・神原啓文
95) 心不全治療中に合併したHITの1例
(岡崎市民病院) 藤田雅也・田中寿和・
鈴木徳幸・平井稔久・安田信之・鈴木頼快・
三木 研・田中哲人・森下佳洋・柳澤 哲・
川瀬治哉
症例は76才女性.既往歴に陳旧性心筋梗塞,糖尿
病,高血圧,慢性腎臓病,完全房室ブロック(VDD
ペースメーカー),閉塞性動脈硬化症がある.狭
心症にて平成16年よりLADとRCAに対しPCIを合
計5回試行されている.平成16年9月に施行し
たPCIの合併症による右肘部動静脈瘻を認めてい
た.平成17年11月より心不全の増悪にて頻回に
入退院を繰り返していた.平成19年5月に動静
脈瘻を外科的に修復した.手術直前のBNP値は
842.1pg/mlであったが翌月には91.2pg/mlと著明
な低下を認めた.以降,自覚症状も改善し,心不
全増悪による入院も減少した.動静脈瘻の外科的
な修復後にBNP値の著明な低下を認めた一例を
経験したのでここに報告する.
症例は66歳男性.H11年早期胃癌にて胃部分切
除施行.本年1月2日頃からwalking中に息きれ
が出現するようになり1月6日は300メートル程
度しか歩けなかった.近医を受診し,急性心筋梗
塞症の疑いで当科紹介となった.緊急冠動脈造
影検査では明らかな狭窄性病変は認めなかった.
入院4日目早朝安静臥床中に突然心不全症状が
出現した.血行動態はBP 88/40mmHg PA 37/18
mmHg CO 9.2l/min,PCWP 21mmHg SVR 269
と高心拍出性心不全の状態であった.Beriberi
heart diseaseを疑いビタミンB1を投与したとこ
ろ,劇的な臨床症状の改善を認めた.その他1例,
Beriberi heart diseaseによる急性心不全で入院と
なった症例を経験したので合わせて報告する.
症例は72歳,男性.2007年8月から近医にて慢性
心不全で通院加療中であった.徐々に悪化傾向の
ため11/24に当科紹介.入院後利尿剤,強心薬,
血管拡張薬,ヘパリン開始.心不全は徐々に改善
傾向だったが12/5 Plt0.6万/μlの急激な低下(来
院 時11/24 24.6万/μl,12/1 14万/μl) とFDP・
DDの上昇を認めた.経過からヘパリン起因性血
小板減少症(HIT)を疑いヘパリン中止,アルガ
トロバン開始.明らかな血栓症は認めなかった.
Pltは7.5万/μlまで上昇,凝固系改善傾向のため
12/17アルガトロバン中止.12/19から嘔気,腹痛
出現.12/20 右肺動脈本幹の肺塞栓を起こし心肺
停止.蘇生施行するも多臓器不全進行し死亡した.
HITの文献的考察を含めて本症例を検討した.
90) Association of Decreased serum HDLcholesterol and Elevated Serum Brain Natriuretic
Peptide
(松阪市民総合病院循環器内科) 竹内秀和
93) 心不全を合併したOsler-Rendu-Weber病の
高齢女性の1例
(国際医療福祉大学熱海病院内科)
峯岸慎太郎・重政朝彦・小林俊一・糟谷 深
96) 慢性心不全を呈する成人心室中隔欠損症,
高度冠動脈狭窄に対する一治験例
(聖隷浜松病院心臓血管外科) 渡邊一正・
小出昌秋・國井佳文・梅原伸大・高山昇一・
渕上 泰
Brain natriuretic peptide (BNP) is a marker for
heart failure diagnosis, prognosis, and treatment.
Decreased serum HDL-cholesterol is associated with the progression of atherosclerosis.
Few reports have shown the direct link between
serum HDL-cholesterol and serum BNP levels.
Significant correlation was found between BNP
(logarithmically transformed) and serum HDLcholesterol(y=–3.7X+71.9, r=0.29, p less than
0.001) in cardiovascular patients, which represents serum HDL-cholesterol is associated with
not only atherosclerosis but the heart function.
Maintaining high serum HDL-cholesterol should
be targeted for not only reducing atherosclerosis
but improving the heart function.
症例は80歳代女性.以前より鼻出血を繰り返して
おり,消化管内視鏡検査では胃粘膜や大腸粘膜に
毛細血管拡張を認めていた.また,肝臓には動静
脈瘻を認め,約4年前よりOsler-Rendu-Weber病
の診断にて経過みられていた.平成20年1月に発
熱,咳嗽,歩行困難が出現し,心不全の診断にて
他院入院.その翌月に当科へ転院となる.心電図
では心房細動を認め,心エコーでは左室壁運動は
良好であるものの,右心系拡大,三尖弁閉鎖不全,
心室中隔の軽度扁平化を認めた.利尿薬を含む内
服治療にて心不全はコントロールされ退院となっ
た.本症例では肝内シャントの存在,心房細動,
貧血,感染等が心不全増悪に関与したものと考え
られた.若干の文献的考察を含めて報告する.
91) Association of Decreased serum LDLcholesterol and Elevated Serum Brain Natriuretic
Peptide
(松阪市民総合病院循環器内科) 竹内秀和
94) 著明な右室拡大をきたした若年心不全の一例
(市立島田市民病院) 金森範夫・蔦野陽一・
中村 貴・川人充知・松岡良太・久保田友之・
荒木 信・谷尾仁志・近藤真言・青山 武
97) Association of Decreased Variation of R-R
Interval and Elevated Serum Brain Natriuretic
Peptide
(松阪市民総合病院循環器内科) 竹内秀和
Brain natriuretic peptide (BNP) is a marker for
heart failure diagnosis, prognosis, and treatment.
Decreased serum LDL-cholesterol is said to be
associated with the regression of atherosclerosis.
Few reports have shown the direct link between
serum LDL-cholesterol and serum BNP levels.
Significant correlation was found between BNP
(logarithmically transformed) and serum LDLcholesterol (y=–2.88X+104, r=0.15, p less than
0.05), which represents serum LDL-cholesterol is
associated with not only atherosclerosis but the
heart function. It is important to consider this
result for the treatment of LDL cholesterol in cardiovascular patients.
症例は21歳男性.全身倦怠感を主訴に来院.既往
歴として中学生のときに心電図異常・三尖弁閉鎖
不全の指摘あるが経過観察となっていた.心エコ
ーにて右室の著明な拡大と壁運動低下,採血では
うっ血肝によると思われる肝機能異常と高血糖を
認めた.心臓MRIでは右室壁は薄く右室右房の著
明な拡大と壁運動低下を認めた.左室収縮能は比
較的保たれていた.造影では血流欠損は明らかで
はなく,遅延造影は両心室に認めた.今回入院時
の合併症状として糖尿病・白内障・眼球運動障
害・痙攣発作を認めた.右室優位型の拡張型心筋
症も考えられたが多彩な臨床症状を合併してお
り,ミトコンドリア機能異常も疑われる若年心不
全を経験したので報告する.
The reduced coefficient of variation of the R-R
interval (CVRR) could be seen in patients with
heart failure. Brain natriuretic peptide (BNP) is a
marker for heart failure (HF) diagnosis, prognosis, and treatment. Few reports have shown a link
between heart rate variability (HRV) as an index
of autonomic nerve activity and serum BNP level.
Significant correlation were found between BNP
(logarithmically transformed) and CVRR of HRV
in the cardiovascular patients (y=–1.08X+19.6,
r=0.36, p<0.001), which is weakly affected by
Carvedilol (a alpha-beta blocker) (y=–0.87X+18.9,
r=0.32, p<0.001 ; with Carvedilol. y=–1.29X+20.3,
r=0.38, p<0.001 ; without Carvedilol).
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
症例は56歳男性.心室中隔欠損症,慢性心不全で
他院にてフォローされていたが慢性心不全急性増
悪を契機に心臓カテーテル検査を施行.Qp/Qsが
2.1と手術適応ありと診断されまた同時に行った
冠動脈造影でもLMT 75%,#11に90%,#2に90%
の高度狭窄が存在.手術目的にて当科紹介,入院
となった.入院後心機能低下による心室性頻拍発
作の出現が頻回にあり術前にEPS行った.手術は
心室中隔欠損症パッチ閉鎖手術と冠動脈バイパス
手術(LITA-#8,SVG-#14,SVG-#4PD)を行っ
た.術後経過は良好であった.術直後からアミオ
ダロンの点滴投与と内服で心室性頻拍発作の出現
はなかった.術後の心臓カテーテル検査でグラフ
トは全て開存.EFは31%であった.
アクトシティ浜松 コングレスセンター(2008 年 6 月) 1085
98) 興味深い病理所見を示した心不全の一例
(東海中央病院) 松尾一宏・松本正弥・
内田一生・松井春雄・小川昭三
症例は67歳女性.C型肝硬変にて通院中,平成18
年1月にうっ血性心不全にて入院した.心臓超音
波検査にて左室壁運動はびまん性に低下し,左室
後壁の局所的壁厚減少認めた.冠動脈造影にて有
意狭窄なし.その後,外来治療となった.平成19
年12月初めより感冒症状あり.その後,労作時の
呼吸苦増悪し,心不全急性増悪にて入院となる.
入院後,利尿剤を静注し,一時肺うっ血が改善す
るも,再度尿量減少し,洞不全となった.ショッ
クとなり,右室ペーシング施行するも血行動態安
定せず,IABP挿入となった.IABP挿入にて血行
動態安定し,利尿が回復し,血清K低下し,右室
ペーシング不要となった.IABPに依存している
状態は改善せず,徐々に状態悪化し,平成20年1
月に永眠した.病理解剖では左室後壁の菲薄化し
ている部位は高度に線維化していた.その他の心
筋に錯綜配列を認め,拡張相肥大型心筋症である
と考えられた.また,菲薄化部位以外の心筋に炎
症細胞の浸潤を認めた.拡張相肥大型心筋症が,
局所的に高度線維化をきたした症例はまれであり
報告する.
99) 慢性心不全治療におけるβ遮断薬とスタチ
ンの併用効果
(名古屋市立大学心臓・腎高血圧内科学)
佐伯知昭・若見和明・坂田成一郎・山下純世・
浅田 馨・福田英克・向井誠時・鈴木章古・
大手信之・木村玄次郎
【目的】慢性心不全治療におけるβ遮断薬とスタ
チンの併用効果について検討した.【方法】2004
年から2007年まで当科に心不全で入院した全359
例中,退院後に当科外来へ1年以上再入院せず通
院できた109例のうち,β遮断薬により治療され
ている73例について,スタチンの併用効果を後ろ
向きに検討した.対象73例を,スタチン治療群29
例と非治療群44例の2群に分け,入院中と退院後
13±4ヶ月後に血液検査ならびに心エコー検査を
施行し,比較検討した.
【成績】スタチンは慢性
心不全患者の血清LDLコレステロール値と血漿
BNP値を有意に低下し,左室駆出率をはじめと
する心エコー指標に影響を与えなかった.【結論】
慢性心不全において,通常のβ遮断薬を含む抗心
不全治療にスタチンの併用が有効である可能性が
示唆された.
100) 右脚ブロックを伴う薬物抵抗性重症心不全
患者に対する両心室ペーシングにてdyssynchrony
が増悪した1例
(三重大学循環器内科学) 佐藤雄一・
田辺正樹・小川英美喜・仲田智之・土肥 薫・
玉田浩也
(同臨床検査医学) 大西勝也
(同循環器内科学) 宮原眞敏・中村真潮・
伊藤正明
58歳男性.心室中隔閉鎖術の既往あり.2年前より心
不全にて入退院を繰り返していた.心電図上,I度房
室ブロックとQRS幅164msの完全右脚ブロックを認め
た.心エコー上,左室はび慢性の壁運動低下,EFは
24%,冠動脈造影にて異常なく,非虚血性心筋症と診
断.非持続性心室頻拍も認め,右脚ブロックであっ
たが,wide QRSにてCRT-Dが検討された.心エコー
speckle tracking法を用いて短軸方向のdyssynchrony
を認めたため,CRT-Dの植え込みを行ったが,1ヵ月
後に心不全が増悪し再入院.AAIモードの1回拍出量
57mlに対しBiVモードは47mlと低下していた.さらに
心電図同期SPECTを用いて3次元的にdyssynchorny
の評価を行ったところBiVモードにてdyssynchronyの
増悪を認めた.AAIモードへ変更後,心不全は軽快し
β遮断薬の増量を行うことができた.
1086 第 131 回東海地方会
101) 当院における心臓再同期療法のresponder
とnon-responderの検討
(名古屋大学循環器内科学) 内川智浩・
因田恭也・吉田直樹・鈴木博彦・神谷裕美・
北村倫也・山内正樹・嶋野祐之
(名古屋大学環境医学研究所) 辻 幸臣
(同保健学科) 平井真理
(名古屋大学循環器内科学) 室原豊明
【背景】心エコー上左室同期不全が存在し,CRT
が施行された症例においてもnon-responderが存
在する.【方法と結果】当院において左室同期不
全 を 有 し,CRTが 施 行 さ れ た40症 例 に お い て
responder 29例(R群)とnon-responder 11例(N
群)で両群における術前所見の比較を行った.術
前のQRS幅はR群171±19ms vs. N群151±25ms(p
<0.05)とN群で有意にQRS幅が狭かった.SPWMD
は両群で有意差は認められなかった.その他の項
目 で も 両 群 に 有 意 差 を 認 め な か っ た.【 考 察 】
Mechanical dyssynchronyが認められるにもかか
わらず,相対的にelectrical dyssynchronyの程度
が小さいとCRTの効果が発揮されにくいと推定
された.
104) 肺腫瘍塞栓の1例
(三重大学循環器内科学) 藤田 聡・
太田覚史・佐藤雄一・辻 明宏・土肥 薫・
藤井英太郎・山田典一・宮原眞敏・中村真潮・
伊藤正明
【症例】74歳女性【主訴】呼吸困難【既往歴】72
歳:左乳癌(左乳房温存切除術)
【現病歴】1ヶ
月前より呼吸困難出現.徐々に増悪し入院.【経
過】低酸素血症と急性右心負荷所見みとめ肺血
栓塞栓症を疑ったたが,造影CTにて明らかな塞
栓なし.心臓カテーテル検査では平均肺動脈圧
38mmHgと高値も肺動脈造影にて異常なく,膠原
病,心内短絡疾患,弁膜症等肺高血圧を来す疾患
も認めず.肺血流シンチグラムで末梢レベルに集
積不整認めたことと,CEA,CA125等の腫瘍マー
カーが異常高値であったことから,肺腫瘍塞栓を
疑い精査中であったが突然呼吸状態悪化し死亡し
た.剖検にて肺動脈内末梢領域に乳癌による腫瘍
塞栓を認めた.【考察】今回,術後2年で再発し
た乳癌による肺腫瘍塞栓症の1例を経験したので
報告する.
102) 三次元心エコー法を用いた心臓再同期療法
におけるVV delay設定の有用性についての検討
(中京病院循環器科) 加藤寛之・
上久保陽介・奥村 聡・三井統子・村上 央・
加田賢治・坪井直哉
105) 妊娠を契機に肺塞栓を繰り返した1例
(安城更生病院循環器内科) 児玉宜子・
中川 香・川村正太郎・上山 力・河合秀樹・
清水優樹・子安正純・堀部秀樹・竹本憲二・
度會正人
心臓再同期療法(CRT)における至適VV delayの
設定に3Dエコー法が有用かどうかは明らかでは
ない.【方法】対象はCRT施行心不全例10例(平
均67歳,平均植込み期間204日).VV delayを左室
先 行 −30ms, 0ms,30ms,60msに 変更 し, そ
れぞれ3Dエコーを用いて左室収縮能(EF)を評
価した.また左室分画容積曲線から各分画の最
小容積となる時相(Tmsv)を各々求め,その最
大差(Tmsv-dif)と平均時相における標準偏差
(Tmsv-SD) を 求 め た.【 結 果 】EF最 大 時 のVV
delayは30msが最多(6例)であった.EF最大時
のVV delayにおけるTmsv-dif・SDはともに有意
に低値であった.【結語】3Dエコー法は至適VV
delayの設定に有用である可能性が示唆された.
症例は30歳女性.既往歴は1998年2月に第1子正
常分娩.2002年11月に第2子妊娠5ヶ月で肺塞栓
を発症し中絶.ワーファリン内服開始するも自己
中断.現病歴は2008年1月に妊娠判明.2月に労
作時呼吸苦と下肢痛にて近医受診し肺機能検査,
下肢静脈エコーを施行したが異常なし.3月4日,
妊娠15週0日に突然心肺停止となり当院へ救急搬
送.来院時PEAでエピネフリンにて自己心拍が再
開.心エコーにて肺塞栓症と診断しPCPSを装着
し肺動脈造影検査を施行.左主肺動脈が完全閉塞
であり血栓破砕,吸引を施行し何とか血行動態は
安定した.脳低体温療法も行ったが意識の回復は
認めず.肺塞栓のリスクとして妊娠,肥満を合併
し肺塞栓を繰り返した症例を経験したのでここに
報告する.
103) 大動脈及び肺動脈,大腿静脈に多発性血栓
を認めた一例
(富士宮市立病院循環器科) 熊澤あず美・
若原伸行・川口由高・渡辺知幸・片山順平
106) 肺塞栓症を契機に顕在化した右左シャント
による低酸素血症を呈した一例
(愛知医科大学病院循環器内科) 渡部篤史・
浅井健次・水野智文・高島浩明・黒田泰生・
脇田嘉登・高阪 崇・久原康史・栗田章由・
前田一之・伊藤隆之
(同中央放射線部) 山田新吾
64歳男性.平成18年5月に舌癌のため他院で舌亜
全摘術を受けた.術後のCTで大動脈弓部から下
行大動脈(横隔膜上)にかけて大動脈内壁在血栓
を指摘され,当科外来へ紹介.平成18年11月の
CTにて大動脈内壁在血栓,さらに肺動脈内にも
血栓を認め,精査加療目的で入院となった.下肢
静脈エコーで両側大腿静脈から膝窩静脈にかけて
血栓を認めた.明らかな凝固異常は認められず,
また諸検査で悪性腫瘍を示唆する検査結果は得ら
れなかった.抗凝固療法を開始後,肺動脈内・大
動脈内の血栓は徐々に縮小した.退院後は外来で
抗凝固療法を続けていたが,内服・通院コンプラ
イアンスが不良であり,平成19年2月末に自宅で
死亡しているのを発見された.多発性の動静脈血
栓症を経験したので,若干の文献的考察を含めて
報告する.
71歳,女性.当院血管外科で左下腿潰瘍,静脈瘤
のため通院中に潰瘍の増悪を認めたため入院.下
肢静脈および動脈造影CTで後腹膜及び腹部大動
脈周囲のリンパ節腫脹を認め,精査の結果悪性リ
ンパ腫と診断.化学療法によりリンパ腫は改善し
たが,徐々に酸素化の悪化を認めた.造影CTで
多発性肺塞栓を認めたため,下大静脈フィルター
を留置.しかしその後も低酸素血症の改善を認め
ず,肺塞栓の評価目的で肺血流シンチを行ったと
ころ右左シャントの存在が指摘された.経胸壁心
エコーでは蛇行した大動脈による右房の圧迫像を
認めたが右左シャントは確認できなかった.右心
カテーテル検査では右心圧は正常であったが,右
房造影で心房拡張期に右左シャントを認めた.バ
ルーンで一時的に孔を閉鎖するとSpO2Oは上昇
し,開存させるとSpO2Oが低下する現象が再現性
をもって認めたため,外科的孔閉鎖術の適応と考
え現在手術待機中である.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
107) 血栓吸引・破砕療法にて救命しえた重症肺
血栓塞栓症の一例
(磐田市立総合病院循環器科) 坂本篤志・
仲野友康・山田文乃・菅野大太郎・上杉 研・
吉原 修
110) Eisenmenger症候群に伴う喀血にボセンタ
ンが有効であった1例
(小牧市民病院循環器科) 吉岡知輝・
今井 元・向井健太郎・島津修三・
戸田夕紀子・中野雄介・松平京子・小川恭弘・
川口克廣・近藤泰三
48歳男性.左大腿骨骨折の手術中に呼吸停止・シ
ョックとなった.心肺蘇生にて自発呼吸再開し血
圧上昇するも,意識障害は遷延した.心エコーと
造影CT所見より深部静脈血栓症に伴う肺血栓塞
栓症と診断した.肺動脈造影では左右肺動脈に巨
大血栓を認めた.Judkins R型4.0 7Frガイディン
グカテーテルを肺動脈へ挿入し,血栓吸引・破砕
療法を施行し血流再開を得た.IVCフィルター留
置後,経静脈的血栓溶解療法を行った.術後血圧
低下にてIABPの併用を要したが,発症24時間後
には呼吸・意識レベルも改善.9病日には後遺症
もなく,発症前と同程度に回復した.心原性ショ
ックをきたす急性肺血栓塞栓症の死亡率は約30%
と高度だが今回,血栓吸引・破砕療法と血栓溶解
療法の併用にて救命しえた一例を経験したので報
告する.
症 例 は52歳 男 性,1979年 他 院 に てVSDに 伴 う
Eisenmenger症候群と診断された.2007年4月よ
り血痰が頻回になり,肺高血圧治療目的として
ボセンタン導入を試みた.心臓カテーテル検査
では,左右短絡率44.2%,右左短絡率18.7%,肺
体血流比1.5だった.また右室圧128/2,肺動脈圧
130/60と高値だった.ボセンタン62.5mgから開
始し187.5mgまで増量したが,肝機能障害が認め
られたため,125mgへ減量した.その後肝機能は
改善し,血痰も認められなくなった.ボセンタン
内服により,肺体血流比や心係数,BNPなど血
行動態を表す数値に明らかな改善は認められなか
ったが,喀血は改善した症例を経験したので報告
する.
108) 検診で見つかった肺動脈狭窄症の1例
(三重中央医療センター循環器科) 堀口昌秀
(同内科) 加藤裕也
(同循環器科) 田中淳子・川崎 敦・
北村政美・新谷宇一郎
111) V-V ECMO補助下で安全に気管支ステント
留置術が可能であった一例
(鈴鹿中央総合病院) 高橋佳紀・
山里将一朗・市川和秀・加藤崇明・世古哲哉・
北村哲也・森 拓也・浜田正行
症例は64歳の女性.主訴はなし.幼少期より心疾
患,心雑音を指摘されていたが,以後検診も受け
ずそのまま放置していた.平成19年7月に初めて
検診を受けたところ胸部レントゲン異常を指摘さ
れ,精査目的に平成19年7月5日当院を受診し
た.胸部CT上,左右肺動脈の拡張が強く,特に
左は瘤状となっていた.心エコーでは左室収縮能
は保たれていたが,右心負荷所見を認め肺動脈狭
窄が疑われた.右室造影にて弁性の肺動脈弁狭窄
(Doming)を認め,またサンプリングでSaO2の
step upを認め心房中隔欠損症の合併が考えられ
た.肺動脈−右室の圧較差は30mmHgで,心房中
隔欠損症はQp/Qs=1.88であり現時点では経過観
察とした.検診で見つかった肺動脈狭窄症の1例
を経験したので報告する.
65歳男性.【主訴】呼吸困難【現病歴】10年前よ
りMAC症.呼吸苦著明(Hugh-Jones V)になっ
た為入院.【入院時現症】意識清明,BP143/100
mmHg,HR103回/min,RR24回/min,BT37.0℃,
SpO298%(Room air).右肺にwheeze聴取.胸部
CTで左肺・右上葉はMAC症で荒蕪肺.右中間気
管支幹・右主気管支は高度狭窄.
【経過】右主気
管支へexpandable metallic stentを留置する時の
一時的窒息回避の為V-V ECMO(対外膜酸素療
法)を使用した.下大静脈脱血,右心房返血にて
術中呼吸循環動態は安定していた.術後症状は消
失し患者のQOLは著しく向上した.ECMOの酸
素化補助で安全にステント留置できたので報告す
る.
109) 当院でエポプロステノールナトリウム持続
静注療法を施行している原発性肺高血圧症の2例
(豊川市民病院循環器科) 伊藤義久・
高松真一・稲垣尚彦・市橋 拓・鈴木 健
112) Calmodulinと局所カルシウムによるミトコ
ンドリア膜電位の調節
(浜松医科大学内科学第3講座)
小田切圭一・加藤秀樹・冨永宏睦・河島広貴・
田中隆光・大谷速人・早乙女雅夫・漆田 毅・
佐藤 洋・林 秀晴
当院で加療中の原発性肺高血圧症2例につき報告
する.
【症例1】53歳女性.約7年前に初診で労
作時の呼吸困難を主訴に来院,精査のうえ,原発
性肺高血圧症と診断した.在宅酸素療法などを併
用しエポプロステノール(PGI2)持続静注療法
を継続している.在宅酸素療法などを併用しなが
らNHHA4度から1-2度の状態を維持できており,
BNPも低下している.【症例2】32歳女性.約4
年前に喀血を主訴に受診し,原発性肺高血圧症と
診断した.シルデナフィル,ベラプロスト,酸素
療法などを開始するも,喀血は続き肺動脈圧も高
いため,PGI2持続静注療法を開始.それでも喀
血が続くため,シルデナフィルを再開,PGI2を
増量し,最近1年間以上喀血せずに安定して経過
している.シルデナフィルの急性効果はみられな
かった.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
細胞膜除去ラット心筋細胞を用いて,calmodulin
(CaM) の ミ ト コ ン ド リ ア 膜 電 位(ΔΨm) に
対する効果を検討した.1)CaMは濃度依存性
にΔΨmを脱分極し,その作用はCaM阻害薬と
CaMKII阻 害 薬 で 抑 制 さ れ た. 2)BAPTAに よ
り細胞内Ca2+をキレートするとΔΨmの脱分極は
抑制された.3)筋小胞体 Ca2+-ATPase阻害薬の
ThapsigarginはΔΨmの脱分極を抑制した.これ
らのΔΨmの変化は,ミトコンドリア膜透過性遷
移孔(mPTP)の阻害薬であるCyclosporin Aと活
性酸素種のスカベンジャー(Trolox)により抑制
された.CaMはmPTPを開口しΔΨmを脱分極さ
せ,その作用には筋小胞体からのカルシウム放出
による局所カルシウム濃度の上昇の関与が示唆さ
れた.
113) 骨格筋芽細胞移植による心臓再生治療 ∼in-vitroモデルを用いた催不整脈性の検討∼
(名古屋大学環境医学研究所心・血管分野)
高成広起・李 鍾国・三輪佳子
(名古屋大学工学研究科) 伊野浩介・
本多裕之
(名古屋大学環境医学研究所心・血管分野) 児玉逸雄
【背景】自家骨格筋芽細胞(SkMB)移植は,難
治性重症心不全に対する新たな治療法として期待
されている.しかしながら,移植後に致死的心
室性不整脈がしばしば発生することが報告され
ており,臨床応用の妨げとなっている.【目的】
SkMBの移植方法を工夫することで催不整脈作用
を軽減できる可能性がある.この仮説を心筋細
胞(CM)とSkMBの共培養によるin-vitroモデル
を用いて検討した.【方法】磁性ナノ粒子を導入
したヒトSkMBと新生仔期ラット由来の培養CM
を多電極付培養皿の上に①ランダムに播種(ラン
ダム細胞注入モデル),あるいは②培養皿底面下
の一部に矩形磁石を静置し,SkMBを培養CM層
にシート状に挿入(細胞シート移植モデル),2
種類の培養モデルを作成した.自己拍動下,もし
くは一定頻度の電気刺激下で細胞外電位記録を行
い,興奮伝導パターンを観察した.ギャップ結合
蛋白(Cx43)発現を免役蛍光染色法で調べた.【結
果】ランダム細胞注入モデルではCMの伝導速度
が著しく低下し,渦巻き型伝導や伝導途絶などの
異常を認めた.CMの自発興奮は培養系の各部位
から不規則に発生した.一方,シート移植モデル
ではSkMB非移植部位から発生した比較的均一な
興奮波がSkMB移植部位を大きく回りこむ伝導パ
ターンが観察された.免疫染色ではCx43の発現
がCM間に限局しており,SkMBとCMの接合部に
は存在しないことが確認された.【結論】心筋組
織に対してSkMBをシート状に移植することで,
被移植心の催不整脈性を軽減できる可能性が示唆
された.
114) Acute effect of G-CSF on myocardial infarct
size in a rabbit model of ischemia and reperfusion
(岐阜大学循環・呼吸病態学) 鷲見将平・
岩佐将充・安田真智・小林浩之・川村一太・
八巻隆彦・ホウナラントヤ・牛越博昭・
宇野嘉弘・西垣和彦・竹村元三
(京都女子大学家政学部食物栄養学科)
藤原兌子
(兵庫県立尼崎病院) 藤原久義
(岐阜大学循環・呼吸病態学) 湊口信也
【Background】It has been reported that G-CSF
improved cardiac function after myocardial
infarction (MI). We examined the acute effect of
G-CSF, in a rabbit model of MI.【Methods and
Results】Rabbits underwent 30-min coronary occlusion and 48-hour reperfusion, and intravenously injected G-CSF (G), saline (C), and 5HD+G-CSF
immediately after reperfusion. The infarct size in
G (26.7&plusmn2.75%) was significantly smaller
than in C (37.3&plusmn4.65%). The infarct sizereducing effect of G-CSF was blocked by 5HD
(42.5&plusmn1.66%).【Conclusion】The G-CSF
administration immediately after reperfusion reduces myocardial infarct size through opening of
the mitochondrial KATP channels.
アクトシティ浜松 コングレスセンター(2008 年 6 月) 1087
115) 脂肪組織由来幹細胞移植による血管新生療
法の試み.SDF-1を介したEPC動員のメカニズム
の解明
(名古屋大学循環器内科) 近藤和久・
柴田 玲・新谷 理・室原豊明
血管内皮前駆細胞(EPCs)の発見以来,自己骨
髄移植による重症虚血肢に対する血管新生療法が
臨床応用の段階にあるが,充分な治療効果が期待
できない症例も存在する.今回,我々は新たな
血管新生療法の細胞供給源として脂肪組織由来
幹細胞(ASCs)につき注目し,その血管新生効
果につき検討した.C57/BL6Jマウス下肢虚血モ
デルを作製し,ASCsを下肢虚血組織に移植した.
ASCs移植により,レーザードップラー法では有
意な血流改善を認め,またEPCs動員の増加,血
中SDF-1の上昇を認めた.ASCs移植後のSDF-1
中和抗体の腹腔内投与によりASCs移植に伴う血
管新生増強効果は解除された.ASCsは次世代血
管新生療法の新しい細胞供給源となりうる可能性
が示唆された.
116) 血管内皮におけるProtease-activated receptor
(PAR)活性に対するブラジキニン(BK)の作用
(浜松医科大学臨床薬理学講座) 竹内和彦・
渡邉裕司
【目的】セリンプロテアーゼ(SrP)によって活
性化されるPARは炎症性心血管病態に重要な役
割を演じている.本研究では,炎症メディエー
ターであるBKのPAR活性に及ぼす影響について
検討した.【方法】ブタ大動脈初代培養血管内皮
細胞を用い,SrP(トロンビン,プラスミン,カ
リクレイン,トリプシン)誘発性Ca2+応答に対す
るBKの効果をfura-2蛍光色素法により評価した.
【結果】1)BK(0.1-10nM)はSrP誘発性Ca2+上
昇を用量依存的に抑制した.2)SrP誘発性Ca2+
上昇はBK(10nM)先行投与により完全に抑制さ
れたが,その後BKとSrPを洗い出し再度SrPで刺
激してもCa2+上昇は観察されなかった.3)BK
(10nM)刺激後BKを洗い出しSrPで刺激すると
Ca2+上昇が観察された.
【考察】BKは,SrPによ
るPARのN末ペプチド鎖切断に影響を与えないで
SrP誘発性Ca2+上昇を制御していることが示唆さ
れた.
117) シンバスタチンはNOを介して心筋梗塞サ
イズを縮小する
(岐阜大学循環器内科) 包那仁托並・
牛越博昭・小林浩之・安田真智・川村一太・
岩佐将充・八巻隆彦・鷲見将平・青山琢磨・
川崎雅規・西垣和彦・竹村元三・湊口信也
【目的】シンバスタチンが梗塞サイズを縮小する
か否かを検討し,そのメカニズムを推定する.【方
法】日本白色ウサギにおいて,30分虚血/48時間
再灌流モデルを作成し,コントロール(生食)群,
シンバスタチン群(虚血10分前にシンバスタチン
5mg/kgを静注),L-NAME+シンバスタチン群
(シンバスタチン投与5分前にL-NAME 10mg/kg
静注),L-NAME単独群について,梗塞サイズを,
Evans blue dyeにて危険領域を,TTC染色にて梗
塞領域を決定し,梗塞サイズは梗塞領域/危険領
域のパーセントにて求めた.【成績】シンバスタ
チンにより,梗塞サイズは有意に縮小し,この縮
小効果は,L-NAMEにより完全にブロックされ
た.L-NAME自体は梗塞サイズに影響を及ぼさな
かった.【結論】シンバスタチンは,NO産生を介
して梗塞サイズを縮小する.
1088 第 131 回東海地方会
118) 虚血組織におけるカロリー制限の血管新生
に対する効果
(名古屋大学循環器内科) 近藤 恵・
近藤和久・柴田 玲・新谷 理・室原豊明
カロリー制限(CR)は,アンチエイジングの重要な
ファクターとして知られており,このことは,CRが
心血管病をはじめとした,生活習慣病予防のkey factorであることを示唆している.しかしながら,CRと
血管新生との関係は明らかではない.そこで,マウス
下肢虚血モデルを作製し,CRと血管新生との関係を
検討した.レーザードップラーやCD31免疫染色によ
る毛細血管密度から,下肢虚血後の血管新生を評価し
たところ,CRを行った野生型マウスでは,虚血後の
血流回復が,コントロールマウスと比較して有為に増
加していた.さらにCRにより,野生型マウスの虚血
組織においてeNOSリン酸化が増強され,eNOSノッ
クアウトマウスでは,CRによる下肢虚血後の血管新
生促進作用がみられなかった.野生型マウス,eNOS
ノックアウトマウスいずれのマウスでも,CRを行う
と血中アディポネクチン濃度が上昇しており,アディ
ポネクチンノックアウトマウスにCRを行っても,下
肢虚血後の血管新生促進作用やeNOS活性作用は認め
られなかった.CRはアディポネクチン産生促進,そ
れに伴うeNOSシグナルを介した血管新生の増強作
用を有していると考えられた.以上からダイエット
コントロールは,肥満に伴った,vascular-deficiency
diseaseの治療に非常に有効であることが示唆される.
119) ウサギ摘出灌流心の電気生理学的性質に対
するIKr・IKsチャネル阻害と交感神経β受容体刺
激の相互作用
(名古屋大学環境医学研究所心・血管分野)
加藤サラ・高成広起・森島幹雄・奥野友介・
石黒有子・原田将英・丹羽良子・辻 幸臣・
本荘晴朗・神谷香一郎・児玉逸雄
【目的】心筋細胞活動電位の再分極過程で重要な
遅延整流外向きK電流を形成するチャネルのう
ち,IKr,IKsの機能につき光学マッピングによ
り臓器単位での実験を行い,また交感神経活動
がこれらに与える影響についても検討した.【方
法】ウサギ摘出心灌流標本を膜電位感受性色素で
染色し,心外膜側から400–150msの基本刺激を与
え,励起光照射による蛍光シグナルを撮影した.
control群,IKs阻 害 群,IKr阻 害 群,IKs・IKr両
阻害群,これらに交感神経β受容体刺激薬を前投
与した各群でAPD90,伝導速度CVを計測し比較し
た.【結果】IKs単独阻害ではAPD90,CVにおける
差は認められなかった.β刺激薬存在下ではIKs
遮断効果が増強され,更にIKs・IKr阻害群にお
けるIKr遮断の影響も増強させた.IKs電流は交
感神経賦活により,再分極相における寄与度が増
強することを確認した.
120) 総大腿動脈に生じた感染性動脈瘤の1例
(順天堂大学医学部附属静岡病院循環器科)
金村俊宏・伊藤誠悟
(同心臓血管外科) 梶本 完
(同循環器科) 高橋秀平・春山 圭・
小松さやか
(同心臓血管外科) 仲冨 岳
(同循環器科) 宮崎忠史・川村正樹・
戸叶隆司・櫻井秀彦
(同心臓血管外科) 岩村弘志
(同循環器科) 諏訪 哲
77歳男性.主訴は左大腿部の腫脹,発赤と疼痛.
血液検査で著しい炎症所見と造影CTで径25mm
の左浅大腿動脈瘤を認め,感染性大腿動脈瘤と診
断.血液培養検査で起炎菌は検出されず.まず
Benzylpenicilin potassiumを6日間投与したが効
果が無く,瘤の起炎菌としてSalmonella菌を疑い,
Pazufloxacin mesilateを投与したところ症状と炎
症所見の改善が得られた.第22病日瘤切除と左大
腿−膝下動脈バイパス術を施行.術中所見で一部
瘤の破裂を認めた.術後も抗生剤投与を継続し経
過良好であり,術後10日目に退院.以上,感染性
大腿動脈瘤に対し術前の抗生剤投与と人工血管に
よる血行再建術が著効した1症例を経験したので
報告した.
121) 左外腸骨動脈解離に対してステント留置を
施行した1例
(県西部浜松医療センター循環器科)
武藤真広・澤崎浩平・高山洋平・太田貴子・
小林正和・杉山 壮・大矢雅宏・高仲知永
限局した外腸骨動脈解離の報告例は少ない.今
回,我々は,若年男性に特に誘因なく外腸骨動脈
解離が自然発症し下肢の虚血を来たしたが,ステ
ント留置により治療することが可能であった1例
を経験したので報告する.症例は38歳男性.既往
歴,家族歴に特記事項なし.左下腹部痛が突然
出現し最初は消化器疾患が疑われたが,エコー,
造影CTにより急性左外腸骨動脈解離が診断され
た.急性期は保存的治療を行い退院.退院後,中
等度の下肢労作にて疼痛が出現するようになった
ため,1か月後に血管造影を行った.左内腸骨
動脈の分枝直後より外腸骨動脈に解離を認め真
腔は90%狭窄であった.狭窄前後で45mmHgの圧
較差が認められた.血行再建が必要であり,10.0
×100mmのself-expandableステントの留置を行っ
た.ステント留置後,症状は著明に改善した.
122) レーザー血流計が効果判定に有用であった
膝下動脈インターベンションの1例
(小牧市民病院循環器科) 中野雄介・
川口克廣・向井健太郎・島津修三・
戸田夕紀子・松平京子・今井 元・小川恭弘・
近藤泰三
ABIや下肢血流ドップラー,SPPは非侵襲的であ
ることから末梢インターベンション(PPI)の治
療評価に利用されるが,いずれの検査法もPPIの
治療効果判定には適さない場合がある.またこれ
らの検査法は,PPI中における即時血流改善効果
の判定には実用的ではない.そこで今回我々は,
レーザー血流計(LaserDopplerflowmetry,リブ
メック社製)を用いてPPI中の末梢血流を持続的
にモニタリングし,明確な血流改善を観察するこ
とができたので報告する.本機はリアルタイムで
の血流評価が可能であり,手技に伴って血流改善
が明瞭に観察され,手技エンドポイントを決定す
るデバイスとして有用であるが,今後さらに症例
を重ねた検討が必要である.
123) 当院におけるSFA領域のSMARTstentの短
期・中期成績
(大垣市民病院循環器科) 丹羽 亨・
上杉道伯・坪井英之・武川博昭・森島逸郎・
森川修司・佐々木洋美・泉 雄介・山本寿彦・
市橋 敬・曽根孝仁
2008年3月までにSFAに対し血管内治療を施行
した症例の内,SMART stentを留置した103症例
123肢にて検討.術前後,慢性期のABI,自覚症
状(Fontaine分類)の推移を評価.Patency rate,
TLR(症状再燃による,再治療)を検討.慢性期
Dupelx,造影にて狭窄度50%以下を開存とした.
Fontaine分類の推移は術後2年経過したのちも2a
を越えることなく推移.ABIは術後0.94と改善,
24ヵ月後に0.72と低下を認めた.一次開存率は
2年経過した後も80%弱と良好な結果を認めた.
TLRは2年経過した後も20%以下と良好な結果を
認めた.再狭窄の程度に比べ,自覚症状の再燃は
少なく,TLRも2年で約20%と低値であった.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
124 腎動脈狭窄へのPTRAによる急性期,および
慢性期の腎機能改善効果の検討
(富士宮市立病院) 川口由高・片山順平・
熊澤あず美・渡辺知幸・若原伸行
【目的】腎動脈狭窄へのPTRAが腎機能改善に有
用であるかを検討した.【方法】2003年7月より
2007年11月までに腎動脈狭窄に対してPTRAを行
った連続9症例,11病変を対象とした.【結果】
治療前の血清Cre(平均1.35±0.32mg/dl)と治療
後 2 か 月 の 血 清Cre( 平 均1.21±0.31mg/dl) と
を比べると平均0.14mg/dl,10.2%血清Creが有意
に低下した.(p=0.006)治療前の血清Cre(平均
1.44±0.34mg/dl)と治療後1年後の血清Cre(平
均1.28±0.30mg/dl) と を 比 べ る と 平 均0.15mg/
dl,10.2%血 清Creが 有 意 に 低 下 し た.(p=0.01)
治療前の血清Cre(平均1.68±0.17mg/dl)と治療
後 2 年 後 の 血 清Cre( 平 均1.43±0.29mg/dl) と
を比べると平均0.25mg/dl,15.4%血清Creが有意
に低下した.
(p=0.048)【結語】腎動脈狭窄への
PTRAは急性期,慢性期とも腎機能改善に有用で
ある.
125) 悪性腫瘍を契機に上肢深部静脈血栓症を発
症した2例
(鈴鹿中央総合病院) 市川和秀・高橋佳紀・
山里将一朗・加藤崇明・世古哲哉・北村哲也・
森 拓也・浜田正行
症例1は69歳男性.頸部蜂窩織炎後の左上腕から
鎖骨下静脈血栓症にてワーファリンコントロー
ル施行したが約2ヶ月後肺塞栓併発し入院.腹
部CTにて膵癌と腹腔内多発リンパ節転移を認め,
PET-CTでも骨転移あり薬物療法及び放射線療法
施行.十分なワーファリン投与下でも入院中も肺
塞栓再発あり,血栓コントロールに難渋した症例
であった.症例2は58歳男性.左頸部腫脹を主訴
に来院されCT上左内頸から左鎖骨下静脈に血栓
認め精査加療目的に入院.CA19-9高値にて悪性
腫瘍を疑いPET-CT,消化管内視鏡,小腸透視な
ど試みるも原発巣不明で左頸部リンパ節より低分
化腺癌を認めた.ワーファリンコントロール及び
薬物療法にて血栓症については再発認めていな
い.上記2症例について若干の考察を加えて報告
する.
126) ステロイドが有効であったコレステロール
塞栓症の二例
(大垣市民病院循環器科) 山本寿彦・
上杉道伯・坪井英之・武川博昭・森島逸郎・
森川修司・佐々木洋美・泉 雄介・丹羽 亨・
市橋 敬・曽根孝仁
症例1は73歳男性,2ヶ月前PCI歴あり.主訴は
足趾の冷感で,好酸球増多,腎機能障害,趾先端
の紫斑を認めた.紫斑生検にて真皮血管内にコレ
ステロール裂隙を示す塞栓像を認め,CCEにて
経口ステロイドを開始,好酸球や腎機能は改善し
趾の紫斑は消退した.症例2は76歳男性,主訴は
突然の足趾痛で,好酸球増多,腎機能障害,趾先
端の紫斑を認めた.腹部大動脈瘤は指摘されてい
た.紫斑生検では異常を認めず,動脈瘤内の血栓
によるCCEとして経口ステロイドを始めてから
は改善したが,結腸憩室出血にて下血し右半結腸
切除術施行された.切除標本の憩室壁粘膜下層に
コレステロール裂隙形成を示す血管を認め,CCE
の組織学的な証明が得られた.2例ともステロイ
ド投与によって症状や足趾紫斑が改善し,有効と
思われた.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
127) 未治療メタボリックシンドロームと総頚動
脈内膜中膜複合体厚
(遠州病院内科) 園田浩生・高瀬浩之・
鳥山隆之・岡戸建央・田中 覚
(名古屋市立大学心臓・腎高血圧内科学)
木村玄次郎・土肥靖明
【目的】冠動脈疾患と関連のあるメタボリックシ
ンドローム(MetS)と総頚動脈内膜中膜複合体
厚(IMT)の関係を検討した.【方法】対象は当
院の人間ドックを受診し頚動脈エコー検査を受け
た未治療の連続1333名(男性/女性=737/596名,
平均年齢59歳).MetSは日本の診断基準(2005年)
に従って判定した.【成績】1333名中151名(男性
/女性=17.2/4.0%)がMetSと診断された.MetS
のある受診者のmaxIMTは,MetSのない受診者
のmaxIMTに比し高値であった(0.875±0.340 vs
0.817±0.237mm,p<0.01)
.MaxIMTは腹囲,収
縮期血圧,拡張期血圧,空腹時血糖,HDL-Cと
有意に相関した.多変量解析では,腹囲,収縮期
血圧,空腹時血糖が独立してmaxIMTと相関した.
【結論】MetSの存在は総頚動脈maxIMTを増加さ
せた.よってMetSの予防は動脈硬化の予防に通
じる.
130) Tako-tsubo cardiomyopathy complicated
by apical thrombus formation
(岐阜県立多治見病院循環器科) 加藤公彦・
吉田哲郎・藤巻哲夫・矢島和裕・田中 覚・
日比野剛・横井 清
We report a rare case of tako-tsubo cardiomyopathy complicated by a left thrombus. Coronary
angiography showed normal coronary arteries,
although the echocardiography demonstrated the
ballooning of the apex with hyperkinesis of the
base in addition to a left ventricular thrombus.
It is thought that this thrombus may have been
caused by left ventricular dyskinesis. After shortterm anticoagulant therapy, echocardiography revealed complete resolution of the left ventricular
thrombus.
128) 人間ドック受診者におけるメタボリックシ
ンドロームと慢性腎臓病の合併について
(遠州病院内科) 上村珠野・高瀬浩之・
鳥山隆之・岡戸建央・園田浩生
(名古屋市立大学心臓・腎高血圧内科学)
木村玄次郎・土肥靖明
131) PTSMA後の再発に対してスポンゼルによ
る中隔枝塞栓を行なったHOCMの一例
(大垣市民病院循環器科) 森川修司・
武川博昭・坪井英之・森島逸郎・上杉道伯・
佐々木洋美・丹羽 亨・泉 雄介・山本寿彦・
市橋 敬・曽根孝仁
【背景】冠動脈疾患の危険因子としてメタボリッ
クシンドローム(MetS)と慢性腎臓病(CKD)
は 重 要 で あ る.MetSの 存 在 はCKDの 発 症 率 を
上昇させるとの報告もある.【方法】当院の人
間ドックを受診した未治療の連続3535名(男性
=2274,平均年齢52.6歳)を対象とし,MetSと
CKDの合併率を検討した.【結果】3535名中MetS
は362名(男性/女性=14.4%/2.8%)に,CKDは
873名(男性/女性=19.3%/5.4%)であった.男
女 に 合 併 率 の 差 は 認 め る が,CKDはMetSを 有
する対象者に,より高率に合併していた(MetS
有/無:全体=30.7%/24.0%,男性=31.2%/29.8
%,女性=25.7%/14.8%).【結論】MetSの存在
はCKDの存在と関連があるので,MetSの予防は
腎機能低下を予防するうえで重要である.
症例は59歳女性.1年程前より労作時息切れ自
覚.心エコー等にてHOCMと診断.βブロッカー,
Caブロッカー,シベンゾリン内服でも症状改善
せ ずNYHAIII度, 心 エ コ ー 上IVS/LVPW=20/
13mm,左室流出路圧格差113mmHg,でPTSMA
施行.第1,2中隔枝にエタノールを注入し圧格
差(カテーテル上)は106mmHgから10mmHgに
改善.しかしその後,除々に症状が増悪し三ヶ月
後には圧格差が100mmHg以上となり再PTSMA
を施行.第1中隔枝の血流残存を認め同血管に対
しスポンゼルで塞栓施行,また同様に第3中隔枝
も塞栓施行し圧格差は102mmHgから12mmHgと
改善.その後症状も改善し,三ヶ月後の心エコー
でも圧格差は46mmHgとエタノールで最初に施行
したPTSMA後と比較し再増悪は認められなかっ
た.
129) 高用量のステロイドを必要とした心サルコ
イドーシスの一例
(富士宮市立病院循環器内科) 渡辺知幸・
熊澤あず美・北川雅稔・川口由高・勝呂清尚・
若原伸行
132) 左房内巨大球状血栓を生じ,その後浮遊血
栓となり,突如消失した僧帽弁狭窄症の一例
(浜松赤十字病院循環器科) 諏訪賢一郎・
俵原 敬・間遠文貴・浮海洋史・尾関真理子・
野中大史
症例41歳男性.平成18年4月より肺サルコイドー
シスで経過観察中だった.平成19年6月に数回
の意識障害を認め経過観察入院となった.入院
後,完全房室ブロックと心臓MRIとGaシンチで
の有意な所見を認めたために心サルコイドーシス
と診断した.その後プレドニン内服(60mg/隔
日)を開始し,漸減したところ45mg/隔日の段
階でGaシンチに増悪を認めた.通常量では効果
不十分と考え,最終的にプレドニン(60mg/連日)
にまで増量した.その後はGaシンチで増悪を認
めず順調に漸減でき退院となった.今回我々はス
テロイド抵抗性の心サルコイドーシスを経験した
ため報告する.
症例は68歳女性.主訴は腹痛.昭和62年に僧帽弁
狭窄症に対し僧帽弁交連切開術施行.平成15年脳
梗塞発症.平成19年2月右大腿骨頚部骨折にて当
院整形外科入院.入院後ワーファリン中止.3月
18日腹痛出現.CTにて左房内球状血栓・左腎梗
塞を認めた.心電図は心房細動.心エコー上僧
帽弁弁口面積2.17cm2であり,左房内に球状血栓
(31mm×35mm)を認めた.3月26日左房内球状
血栓が左房内を浮遊するようになった.4月6日
までは球状血栓の縮小がないことを確認していた
が,4月10日血栓消失を確認した.左房内の巨大
浮遊球状血栓が,抗凝固療法中にサイズが変化し
ないまま,突然破砕し消失した稀な症例を経験し
た.
アクトシティ浜松 コングレスセンター(2008 年 6 月) 1089
133) 大動脈弁置換術後に左冠動脈入口部狭窄を
きたした1剖検例
(岐阜県立多治見病院循環器内科)
河宮俊樹・日比野剛・吉田哲郎・藤巻哲夫・
小栗光俊・田中 覚・矢島和裕・加藤公彦・
横井 清
【症例】54歳男性.【既往歴】14年前に僧帽弁置換
術.【現病歴】14ヶ月前に大動脈閉鎖不全症のた
めに大動脈弁置換術(機械弁)施行.術前の冠動
脈造影で有意な病変はなかった.3ヶ月前に心不
全で入院し,利尿剤の投与で改善した.職場で倒
れ,心肺停止状態で搬送となった.【経過】PCPS
挿入後,冠動脈造影施行.右冠動脈から左冠動脈
へ側副血行があり,左主幹部入口部に著しい狭窄
を認めた.PCIを試みるも,ガイディングテーテ
ルが左主幹部にかからず断念した.第3病日死亡
し,病理解剖を行った.左主幹部の入口部周囲に
かけて大動脈の壁肥厚がみられた.
【まとめ】大
動脈弁置換術後の冠動脈入口部狭窄を経験した.
病理学的および文献的考察を含め,報告する.
〈抄録未提出〉
49) 当院におけるCART MERGEの使用経験
(中京病院循環器科) 加藤寛之・
上久保陽介・奥村 聡・三井統子・村上 央・
加田賢治・坪井直哉
1090 第 131 回東海地方会
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
第 105 回 日 本 循 環 器 学 会 近 畿 地 方 会
2008 年 6 月 28 日 大阪国際会議場
会長:澤 芳 樹(大阪大学外科学講座・心臓血管科学)
1) 心肺蘇生後に腹腔内出血を来し死亡したAMI
症例の2例
(大阪府済生会千里病院千里救命救急センター)
中山雄平・伊藤賀敏・福井英人・夏川知輝・
澤野宏隆
急性心筋梗塞患者が病院到着前に心肺停止状態と
なり,心肺蘇生術を施行されることはしばしばあ
るが,PCI後に循環動態が保たれず,カテコラミ
ンや機械的補助循環装置を用いても循環動態が維
持できない場合は重篤な合併症が潜んでいる可能
性が考えられる.急性心筋梗塞と関連した心肺停
止患者に心肺蘇生術を行い,補助循環導入下に
PCI施行後再還流を得,心拍再開したにもかかわ
らず循環動態の維持が困難となり,画像検索で腹
腔内に多量の出血を認め,緊急開腹術を施行した
ところ肝損傷および肝後面下大静脈損傷を認め
た.その原因として胸骨圧迫の合併症が考えられ
る.心肺蘇生術における胸骨圧迫の合併症で死亡
した2例について文献的考察を加え報告する.
2) bystanderCPRにより社会復帰に至った急性
心筋梗塞の心肺停止の一例
(三木市立三木市民病院) 佐々木義浩・
本庄友行・江尻純哉・平山園子・高石博史・
大橋佳隆・市川侍靖・粟野孝次郎
症例は66歳男性.ゴルフ場で突然心肺停止となり
職員によりbystander CPRを施行された.救急隊
による搬送中にVFとなりDC施行,その後もCPR
継続され当院搬送,エピネフリン投与,気管内挿
管など施行し心拍再開した.12誘導心電図にて
II,III,aVFでST上昇を認めたため,急性心筋梗
塞を疑い緊急的に冠動脈造影を施行した.CAG
上large LCXで#11:100%認めたため,引き続き
血栓吸引,stent留置し良好なflowを得,ICUへ入
室した.以後順調に回復し第5病日に抜管,当初
は性格変化を認めたが次第に回復,第27病日独
歩退院し当院外来にて通院となった.bystander
CPRにより社会復帰できた心肺停止の症例を経験
したので若干の文献的考察を添えて報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
3)
心停止蘇生後から良好な転帰をたどった1
例 −CPAにDCA−
(松原徳洲会病院循環器科) 中島龍馬・
川尻健司・亀井勲哉・林 修司
【症例】58歳男性 屋外作業中の心肺停止状態(目
撃者なし,初期波形Vf)にて発見され救急要請さ
れた.救急隊による除細動(AED)にて心拍再
開し,当院へ救急搬送された(発見から心拍再開
まで約10分間)
.搬入時の心エコーでは壁運動異
常は明らかでなく,心電図はBrugada様の波形で
あった.虚血性心疾患の除外のためCAGを施行し
たところ,左前下行枝(#6)に99%狭窄を認め
た.この時点でVfは虚血によるものかBrughada
症候群によるものか判然としなかったが,近日中
のICD植え込みの必要性も考慮し,坑血小板薬投
与を要するステントではなくDCAにより治療を
行った.第15病日独歩にて退院 社会復帰し,現
在約1年間のフォローアップを行っている.「救
命の連鎖」により良好な転帰を得られた貴重な一
症例と考え,若干の考察を加えて報告する.
5) 溺水で発見され,bystander CPR,V-VECMO,
低体温療法,PCIにより完全社会復帰を果たした
心肺停止患者の1例
(京都桂病院心臓血管センター内科)
溝渕正寛・宮本知苗・堀 真規・山本龍治・
船津篤史・小林智子・円城寺由久・中村 茂
67歳男性.2008年1月,温泉施設の浴槽内に水没
しているところを客に発見され,bystanderによ
り心臓マッサージやAED使用などのCPRが施さ
れ心拍再開し近医に搬送された.同院にて気管内
挿管するも溺水のため酸素化が得られず,また
心電図上胸部誘導でのST上昇所見からAMIの診
断で当センターに搬送.V-V ECMO導入し酸素化
と同時に回路冷却による低体温療法を開始.緊
急CAGではLAD#7 100%,LCx#13 100%の2枝
閉塞でありそれぞれBMS留置.レジオネラ肺炎,
MOFを合併したがECMOは第4病日に離脱.第
21病日には開眼,応答可能となり神経学的後遺症
を一切残すことなく退院.BystanderCPRの後,
V-V ECMO,PCI,脳低体温療法などの集学的治
療により一切の後遺症なく劇的な回復が得られた
症例として報告する.
4) AEDにて救命できた急性心筋梗塞の1例
(甲南病院六甲アイランド病院) 辻 隆之・
伊東風童・岩井健二・大久保英明・三上修司・
土井智文・井上智夫
6) CPAに陥った重症冠攣縮性狭心症の一症例
(三木市立三木市民病院) 佐々木義浩・
本庄友行・江尻純哉・平山園子・高石博史・
大橋佳隆・市川侍靖・粟野孝次郎
症例は56歳男性.H19年8月5日,スポーツジム
で水泳中に突然水中に沈んだ.ジムの関係者にて
引き上げられ,心肺停止であったためCPRが開始
されAEDを装着したところ除細動の指示が出た.
1回の除細動にて心拍は再開し,当院搬送時には
意識レベルは回復しバイタルも安定していた.心
エコー上,左室壁運動が軽度低下していたが心電
図変化は乏しかった.入院翌日に心筋逸脱酵素の
上昇を認めBMIPP心筋シンチにて側壁に集積欠
損を認めたためAMIと診断.CAGを施行し,#
14.90%に対してPCIを行った.術後経過は良好
で入院から14日目に独歩にて退院となった.再灌
流不整脈が原因であると考えられる心肺停止状態
にAEDによる早期の除細動によって何ら障害を
残さずに社会復帰できた症例を経験したので報告
する.
症例は60歳男性.突然の胸痛を訴え救急要請さ
れたが救急隊到着時はCPAになっておりCPR開始
され近医へ搬送,一旦心拍再開も,心電図でII,
III,aVFでST上昇,IaVLでST低下し,その後再
びCPAになりCPR開始,10分程度で心拍再開した.
ACSを疑い当院へ転送,当院到着時血圧80台で
DOAにて昇圧を図り緊急的にCAG施行したが明
らかな器質的病変は認めなかった.ICUにて加療
し次第に意識,循環動態ともに改善し,冠攣縮に
よるACSを疑い第6病日Ach負荷を施行したとこ
ろ三枝ともに冠攣縮を認めた.CPAに陥った重症
冠攣縮性狭心症の症例を経験したので若干の文献
的考察を添えて報告する.
大阪国際会議場(2008 年 6 月) 1091
7) 右下肢痛を主訴で来院した急性心筋梗塞症の
一例
(兵庫県立姫路循環器病センター循環器科)
井上琢海・谷口泰代・林 孝俊・山田慎一郎・
水谷和郎・岩田幸代・岡嶋克則・嶋根 章・
松本賢亮・月城泰栄・熊田全裕・今村公威・
田代雅裕・梶谷定志
70歳男性【主訴】右下肢痛【既往歴】糖尿病,脂
質異常症,高血圧,喫煙.平成17年,平成18年に
不安定狭心症で経皮的冠動脈形成術PCI施行.
【現
病歴】平成19年10月24日突然右下肢しびれと疼痛
が出現し当院救急搬送.胸痛は認めず.来院時
収縮期血圧100mmHg,脈拍30bpm,心電図上II,
III,aVf,V1-4ST上昇を伴った補充調律を認めた.
【経過】急性心筋梗塞による洞停止と診断,緊急
冠動脈造影で右冠動脈seg.1完全閉塞のため緊急
PCI施行.PCI終了後から右下肢痛は消失した.
ABI右0.52,左0.80で,下肢動脈造影上両側総腸
骨動脈(右優位)狭窄を認めたが末梢まで血流を
認めた.【考察】今回右下肢痛が主訴で,閉塞性
動脈硬化症を合併した急性心筋梗塞の一例を若干
の文献的考察と共に報告する.
8) 二度の亜急性冠閉塞をきたした急性心筋梗塞
の1例
(公立南丹病院循環器内科) 石田 良・
計良夏哉・浦壁洋太・内藤大督・榎本聖子・
中山雅由花・野村哲矢・西川 享・辰巳哲也
(同心臓血管外科) 圓本剛司・奥村 悟
症例は55歳男性.急性心筋梗塞で入院し,左冠動
脈前下行枝Seg7にステントを留置し,血管内超
音波にてmalapositionのないことを確認して終了
した.アスピリン,クロピドグレル,ヘパリンを
併用し,ヘパリンは漸減し第6病日に中止した.
第7病日に突然胸部不快感を訴え,緊急冠動脈造
影を行ったところ,ステント内で完全閉塞してい
たため再治療を行ったが,第10病日にも再びステ
ントが閉塞していた.入院時の血小板数は25.1万
で,第7および10病日はそれぞれ27.9万,19.2万
であったが,これを機にヘパリンからアルガトロ
バンに切り替えた.患者は第25病日に退院したが,
退院後に抗ヘパリン-PF4複合体抗体が陽性であ
ったことが判明した.II型のヘパリン起因性血小
板減少症に準じた病態の関与が考えられ,若干の
文献的考察とともに報告する.
9) 著明な右室拡大と三尖弁逆流にて治療に難渋
した右室梗塞の一例
(大阪医療センター循環器科) 中川彰人・
小出雅雄・石津宜丸・岩破俊博・篠田幸紀・
小向賢一・山戸昌樹・佐々木典子・山元博義・
廣岡慶治・川口義廣・楠岡英雄・安村良男
(同臨床研究部) 是恒之宏
症例は79才女性.発症後9時間で著しい冷汗と
血 圧 低 下 を 伴 い 入 院 と な っ た. 入 院 時CPK=
870IU/L( 以 後 漸 減 ),II,III,aVFでST上 昇 を
認めたが,右側胸部誘導でのST上昇は認めなか
った.著明な右室の拡大と4度の三尖弁逆流(TR)
を認めたが,左室収縮能の低下は軽度であった.
冠動脈造影にて右室枝を含む右冠動脈#1の血
栓閉塞を認め,血栓吸引にて#1はTIMI0から
TIMI3となった.以後カテコラミン,大量輸液
とIABPで循環動態を管理した.第4病日に血圧
の改善と共に急性左心不全を併発し人工呼吸管理
を要したが,以後循環動態の改善を認め退院に至
った.慢性期TRは2度まで改善を認めた.右室
梗塞に伴う著明な右室拡大と4度のTRのため循
環管理に難渋した症例を経験したので,文献的考
察を加え報告する.
1092 第 105 回近畿地方会
10) 第1対角枝瘤に対してJOSTENTにて加療
し,慢性期に瘤の再発を認めた1例
(康生会武田病院循環器センター)
中村玲雄・木下法之・山田健志・北嶋宏樹・
宮井伸幸・入江秀和・橋本哲男・田巻俊一
症例は62歳の男性で,2005年6月に左冠動脈第1
対角枝の瘤閉塞を目的に,前下行枝の瘤起始部へ
JOSTENTを留置した.ステント留置後,瘤への
造影剤流入は認められず,4ヵ月後の造影時も閉
塞しており,経過は良好と考えられた.しかし
2007年10月中旬頃から,労作時胸痛を自覚するよ
うになり,冠動脈造影を実施したところ,回旋
枝に新病変を認め,第1対角枝の瘤への造影剤
流入を認めた.瘤の再発原因として,JOSTENT
の下にCypherステントが留置されており,late
incomplete appositionをきたしたために,ステン
トで閉塞されていた瘤の入り口に隙間が生じ,造
影剤が流入した可能性が考えられた.瘤に関して
は心臓外科にて手術の方針となった.瘤治療の為
に,JOSTENTTMを使用し,再発した症例は経
験がなく,若干の文献的考察を加え報告する.
11) 脱落した冠動脈ステントが右総頚動脈に迷
入した一例
(松下記念病院循環器科) 神谷匡昭・
坂谷知彦・川崎達也・三木茂行・杉原洋樹
【症例】71歳男性.冠危険因子:糖尿病・高血圧
・高脂血症・喫煙.2007年10月より労作時前胸部
違和感を自覚.12月21日冠動脈造影で,左主幹部
−左前下行枝近位部と右冠動脈の2枝病変であ
った.2008年1月18日PCI施行,#6は石灰化が
強く,バルーン拡張後TAXUSステントを留置し
た.IVUSにて左主幹部への解離を認め,同部位
へDriverステントを留置した.直後左主幹部ステ
ントは存在せず,システム内にIVUS及び透視で
はステントを確認できなかった.再度左主幹部へ
Driverステントを留置し終了.術後,頭部・胸部
・腹部X線撮影を行い,右総頚動脈分岐部に脱落
したステントを認めた.7mmスネアを用いステ
ントの回収に成功.デバイスの改良によりステン
ト脱落は近年稀な合併症である.今回,脱落ステ
ントが右総頚動脈に迷入し,回収に成功した一例
を経験したので報告する.
12) 静 脈 グ ラ フ ト 入 口 部 に 留 置 し たCypher
Stentが慢性期に離断した1症例
(康生会武田病院循環器センター)
入江秀和・山田健志・北嶋宏樹・宮井伸幸・
中村玲雄・木下法之
症例は74歳の女性で,1991年に冠動脈バイパス術
を施行されている.2007年1月4日に胸痛を主訴
に当院救急搬入された.緊急冠動脈造影にて左回
旋枝への静脈グラフト入口部付近に99%狭窄が認
められたために同部位に対し経皮的冠動脈形成術
を施行しCypher stent3.0×18mmを20atmで留置
し0%に改善した.2007年10月14日に確認造影
を施行したところ前回治療部位に90%狭窄を認
め,さらにステント近位側半分が離断し消失し
ていた.Stent fractureは強いメカニカルストレ
スや大動脈からのElastic recoilにより発生すると
されており,右冠動脈や静脈グラフト入口部で
のStent fractureの報告が多いが今回完全にStent
ractureし離断した症例を経験したので報告する.
13) Cypherス テ ン ト 留 置 後 に デ リ バ リ ー バ
ルーンが抜去困難となった1例
(奈良県立奈良病院循環器科) 森本勝彦・
井上文隆・山口惣一・長崎宗嗣・濱野一將・
上嶋運啓・籠島 忠
(同救命救急センター) 佐々木弥寿延・
藤本隆富・遊田泰匠
症例は60歳女性.糖尿病の加療と合併症の精査目
的で入院.冠危険因子は糖尿病のみ.冠動脈CT
で3枝病変が疑われ,冠動脈造影を施行した結果,
seg1 50%,seg6 90%,seg7 75%,seg11 75%狭
窄を示した.LAD病変は全周性の強い石灰化お
よび屈曲を示した.前拡張後にseg7にCypher2.5
×23,seg6にCypher3.0×23を留置した.しかし
留置後デリバリーバルーンが抜去不能となり,ア
ンカーテクニックやバルーンの再拡張を施行した
が全く効果がなかった.最終的にはバルーンの高
圧再拡張にて抜去に成功した.本例のようなデリ
バリーバルーン抜去困難時の対処に決まった方法
はなく,考察を含め報告する.
14) 冠動脈自然解離が原因と思われる急性前壁
心筋梗塞の一例
(市立豊中病院心臓病センター循環器科)
植良芙彌・中田敦之・中本 敬・宮岡宏治・
松本 悟・野嶋祐兵・築山真希・中川 理
症例は53歳男性.車の運転中に胸痛が出現,持続
するため救急搬送.心電図上V2-6でST上昇,心
エコーにて前壁広範囲akinesisで急性心筋梗塞と
診断し入院.t-PA投与後胸痛は軽減し,引き続
き緊急冠動脈造影検査施行.LADはTIMI3のフ
ローを得られていたが,#6−7に約6cmに及
ぶ長い自然解離・血腫を認めた.IVUS施行も明
らかなculprit部位はわからず,他に明らかな狭窄
は認めなかった.Driverステント3本フルカバー
にて0%まで拡張に成功.以後peakCK6497まで
上昇するも,心不全症状も認めず経過良好にて退
院.9ヵ月後のフォローの冠動脈造影では再狭窄
なく,0%のままであった.今回冠動脈自然解離
が原因と思われる急性心筋梗塞症例を経験したの
で報告する.
15) SES留置直後にステント血栓症を繰り返し
た一例
(大阪医科大学第一内科) 田崎龍之介・
武田義弘・谷川 淳・村井基修・藤阪智弘・
柚木孝仁・新名荘史・星賀正明・石原 正・
花房俊昭
51歳男性.労作性狭心症の精査のため入院.第
3病日に待機的CAG施行.LAD近位部に造影遅
延を伴う99%狭窄を認めたためIVUSガイド下に
SESを2本overlapして留置した.最終造影でス
テント内に透亮像を認めたため吸引したところ,
白色泡沫状のフィブリン血栓を得た.造影上改善
したが数分で胸痛とST上昇が出現し,その後ス
テント内血栓症を繰り返した.IABP挿入後,ス
テントアレルギー,へパリン起因性血小板減少
症を疑い,ステロイド,アルガトロバン投与し
TIMI-3 flowが得られた時点で終了した.2日後
の確認造影でステント開存良好でTIMI-3 flowが
保たれていた.第14病日に軽快退院.HIT抗体は
陰性でその他特記すべき血栓性素因を認めなかっ
た.SES留置直後にステント血栓症を来した一例
を経験したので文献的考察を加え報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
16) 当院におけるRotablatorの運用状況について
(京都第一赤十字病院循環器科) 岡田 隆・
宮川浩太郎・鳥居さゆ希・白石 淳・
兵庫匡幸・八木孝和・島 孝友・河野義男
(同救急部) 有原正泰
【目的】Rotabltatorは一定の合併症が想定され施
設基準が設けられており,心臓血管外科の実績を
含めて認可が決定されるdeviceである.合併症の
頻度は検討される項目である.
【方法】Rotablator
施行が可能であった平成19年度においてその運用
状況について検討した.【成績】適応については,
通常のdeviceのみでは治療完結困難な病変を対象
としていた.1年間235例のPCI中,Rotablatoは
12例(5%)に使用された.死亡,冠動脈穿孔,
Q波心筋梗塞は発生していなかった.1例にお
いて翌日までの一時的心室ペーシングを要した.
【結論】PCI Middle volume centerである当院にお
いては,年度により状況が変動しているがこの1
年間でmajor complicationは発生していない.
20) 頚動脈プラークと冠動脈硬化重症度との関係
(大阪市立大学循環器病態内科学)
杉岡憲一・穂積健之・岩田真一・麻植浩樹・
奥山卓大・白井伸幸・山下 啓・江原省一・
片岡 亨・葭山 稔
(同病理病態学) 上田真喜子
【目的】頚動脈プラークと冠動脈病変の重症度と
の関係を検討すること.【方法】対象は,冠動脈
造影にて有意な冠動脈病変を認めた連続104例.
頚動脈エコーを用いて,頚動脈の各プラーク厚の
総和であるプラークスコアを評価し,冠動脈重症
度と比較検討した.
【結果】プラークスコアは,
冠動脈病変枝数(r=0.33,P<0.001)高脂血症
(r=0.27,P=0.005),BMI(r=0.21,P=0.035)
と有意な相関を認めた.さらに,多変量解析によ
ると,プラークスコアは多枝冠動脈病変(2枝ま
たは3枝病変)の独立した予測因子であった(OR,
1.28;95% CI,1.10-1.48).【結論】冠動脈硬化の
重症度推定には,頚動脈プラークスコアなどの頚
動脈の形態的評価が有用と考えられた.
17) 血栓吸引カテーテルが有用であったPCI後
にatheroemboliを合併した安定狭心症の1例
(奈良県立奈良病院循環器科) 大橋朋史・
井上文隆・森本勝彦・上嶋運啓・長崎宗嗣・
山口惣一・濱野一將・籠島 忠
(同救命救急センター) 藤本隆富・
佐々木弥寿延
21) 石灰化スコアと冠動脈プラーク,有意狭窄
病変の性別年齢階層別検討
(桜橋渡辺病院心臓・血管センター内科)
岡崎由典・伊藤 浩・岩倉克臣・岡村篤徳・
黒飛俊哉・小山靖史・伊達基郎・樋口義治・
井上耕一・永井宏幸・今井道生・有田 陽・
豊島優子・小澤牧人・伊東範尚・澁谷真彦・
藤井謙司
症例は82歳男性.冠危険因子は糖尿病.冠動脈
CTでseg1の50%以上の狭窄が疑われ,CAG目的
で入院.CAGでは,seg1に75%狭窄を示したため,
同 部 位 にPCI施 行 し た.IVUSで はfibro-fatty成
分優位(46%)のプラークを示した.Driver4.0
×18mmステント留置後にST上昇を伴う著しい
slow flowを示した.Thrombusterカテーテルで2
回吸引後にslow flowはほぼ消失し,翌日以降の
血清CKの上昇を示さなかった.本例はPCI後に
atheroemboliを合併したが,Thrombusterカテー
テルが有用であった安定狭心症の1例であり,考
察を含めて報告する.
【目的】冠動脈石灰化スコア(CCS)と冠動脈リ
スクファクター(RF)の関係をRFの有無,性別
・年齢補正後,動脈硬化と冠動脈病変について検
討した.【方法】対象は冠動脈CTを施行した1339
人.RFのない995例をリスク無群(N群),RFを
もつ344例をリスク有群(R群)とし,性別・年
齢補正を行い,CCS計測後,冠動脈造影CTで冠
動脈を16セグメントに分け,プラーク,有意狭窄
セグメント数を年齢層別に検討した.【結果】R
群はN群に比し,石灰化スコア385±169,169±
458,プラーク数3.2±1.8,1.8±1.7,有意狭窄数1
±1.6,0.2±0.73と有意(p<0.01)に高値であった.
各年齢層でも41-50歳女性層を除き,同様の結果
であった.
【結語】CCSは,年齢・性別・RFを考
慮することで,心臓全体の冠動脈硬化の進行を把
握でき,有意冠動脈病変の予測に有用であった.
18) 急性冠症候群患者における低侵襲モニタリ
ングツールの有用性(非挿管患者における検討)
(関西労災病院循環器科) 安井治代・
渡部徹也・南都伸介・上松正朗・両角隆一・
粟田政樹・大西俊成・飯田 修・世良英子・
南口 仁・赤堀宏州・矢野正道・池岡邦泰・
岡本 慎・田中宣暁・永田正毅
22) 虚血性心疾患における下壁虚血と迷走神経
活動
(松下記念病院循環器科) 川崎達也・
坂谷知彦・三木茂行・神谷匡昭・杉原洋樹
【目的】急性冠症候群(ACS)患者における低侵
襲モニタリングツール(FloTracTM/VigileoTMEdwards Lifesciences,Irvine,CA,USA) の 有
用性を検討する.【方法】対象は当院に搬送され
たACS患者17症例.経皮的冠動脈形成術施行後
FloTracシステムおよび肺動脈スワンガンツ(SG)
カ テ ー テ ル を 挿 入 し,FloTracシ ス テ ム に よ る
APCI(arterial pressure cardiac index) お よ び
SGカテーテルにおけるPACI(pulmonary artery
catheter cardiac index)を比較検討した.【結果】
APCIは 2.86±0.20L/min,PACIは 2.77±0.11L/
minとなり相関係数r=0.77,P<0.01の良好な相
関を認めた.【結語】ACS患者において低侵襲モ
ニタリングツールは従来のSGカテーテルに遜色
なく心機能を反映することができ,急性冠症候群
の血行動態把握に有用である.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
【背景】迷走神経は左室の下壁に優位に分布する.
虚血性心疾患における運動誘発の下壁虚血と迷走
神経活動の関係を検討した.【方法】右冠動脈に
有意狭窄がある狭心症19例と陳旧性下壁梗塞15
例,およびコントロール32例に運動負荷テトロフ
ォスミン心筋シンチグラフィを施行した.負荷
前後5分間の心拍変動指標high frequencyを心拍
数で補正した値の変化率(%CCV-HF)を用いて
迷走神経活動を評価した.陳旧性心筋梗塞症例
は下壁の心筋viabilityの有無で二分した.【結果】
%CCV-HFは狭心症5.5±9.7%,心筋viabilityがあ
る陳旧性下壁梗塞18.8±13.5%,心筋viabilityが
ない陳旧性下壁梗塞−24.1±4.9%,コントロール
22.8±4.5%であった.【結語】虚血性心疾患にお
ける運動誘発の下壁虚血が迷走神経活動の亢進を
惹起することが示唆された.
23) トレッドミル運動負荷後に postischemic
diastolic stunningを観察しえた一例
(関西電力病院循環器内科) 前中基良・
石井克尚・永井崇博・今井 真・巣山 環・
河南昌樹
一過性の虚血発作後に左室の収縮障害が改善した
あとも局所の拡張機能障害が数時間から数週間持
続することが報告されている.症例は70才の女性
で,右冠動脈に90%狭窄を有す労作性狭心症患
者.装置は東芝社製Aplioおよび2.5MHzの超音波
深触子を用いた.トレッドミル運動負荷前および
負荷直後,負荷5分後において左室短軸像を記録
し,tracking softwareを用い左室各領域のradial
strainを解析した.運動負荷前では左室各領域の
strainは同期していたが,運動負荷直後では虚血
領域においてstrain値の低下を認め,運動負荷5
分後ではpeak strain値は回復したが,postsystolic shorteningに よ るdiastolic dyssynchronyが 観
察された.運動負荷後に遷延する心筋内diastolic
stunningの検出は新しい心筋虚血診断法として有
用である可能性が示唆された.
24) 左主幹部が責任病変である急性心筋梗塞の
治療と予後についての現状
(大阪大学循環器内科学) 宇佐美雅也・
佐藤 洋・坂田泰彦・中谷大作・清水政彦・
砂真一郎・堀 正二
(同心臓血管・呼吸器外科学) 松宮護郎・
澤 芳樹
【背景】左主幹部心筋梗塞の治療や予後に関する
知見は少ないため,治療選択や予後について現況
報告する【方法】大阪急性冠症候群研究会(OACIS)に登録の左主幹部梗塞で緊急PCI,CABGを
施行した145例の患者背景,予後を検討した【結
果】院内,全経過死亡率はPCI群で高かったが
(53.3% vs 20.0% p=0.004,60.8% vs 32.0% p=
0.014),PCI群はショックやPCPS装着例の頻度
が高く重症例が多く存在した.ショック症例を
除外するとPCI群とCABG群の死亡率に有意差を
認めず(43.5% vs 27.8% p=0.139),多変量解析
でもPCIとCABGの間に予後の差は認めなかった
(HR0.91 95% CI 0.35−2.34p=0.84)
【結語】PCI
例の予後不良には全身状態が不良でPCIを選択せ
ざるを得なかった症例が影響した可能性がある.
ショック例を除けばPCIとCABGに予後の差は認
めなかった.
25) 当院における左主幹部狭窄に対するPCIの
治療成績と予後について
(天理よろづ相談所病院循環器内科)
神辺大輔・本岡眞琴・坂本二郎・樋口貴文・
吉谷和泰・三宅 誠・貝谷和昭・和泉俊明・
泉 知里・玄 博允・中川義久
従来,左主幹部病変による急性心筋梗塞に対する
PCIはCABG不適応例以外では適応外とされてき
た.しかし昨今,DES(薬剤溶出性ステント)の
登場により同部位に対するPCI治療の成績は大き
く改善しており,CABGに十分代替しうるとの報
告も散見される.しかし,未だ多施設無作為試験
による証明がなされていないこと,長期予後に関
するデータが蓄積されていないことなどから同部
位に対するPCIの適応は未だ議論の分かれる所で
ある.我々は2000年以降当院でLMTに対してPCI
を施行された17症例について検討したところ,急
性期を乗り切った症例に関しては概ね良好な経過
を認めた.これらを基に,LMTに対するPCIの適
応とその予後に関して文献的考察を加え報告す
る.
大阪国際会議場(2008 年 6 月) 1093
26) 本年度の当救命救急センターにおけるLMT
が責任病変のACS 8例の検討
(済生会千里病院千里救命救急センター)
伊藤賀敏・夏川知輝・中山雄平・澤野宏隆
2007年度当救命救急センターには105例のACSが
救急搬送されてきたが,Killip class3-4が43%で
あった.この中で院外心停止は18例で,平均心停
止時間は41±27分,生存退院率は39%であった.
今回報告するLMT-ACS 8例のうち院外心停止症
例は2例のみであった.その他,血行動態安定
のUAPが1例,Killip class3-4が5例,そのうち
搬送後心停止が2例であった.8例のうち全例に
IABP,6例にPCPSを導入し,7例にPCI,1例
にCABGを施行した.結果,2例は死亡退院,6
例は生存退院された.LMT-ACSに心不全を合併
した症例は極めて予後が悪く,早急な対応が必要
である.本年度経験したLMT-ACS 8例について
の詳細を考察も加えて報告したい.
27) 経橈骨動脈アプローチ(TRI)による冠動
脈インターベンション(PCI)は,複雑病変に対
しても適応拡大可能か
(北野病院心臓センター循環器内科)
永井邦彦・猪子森明・宮本昌一・中根英策・
安部朋美・佐々木健一・野原隆司
対象は2006年3月から2007年12月までにPCI治療
を行った215例.TRIは187例(83%)経大腿動脈
アプローチ(TFI)は28例(17%)に施行した.
複雑病変は,慢性完全閉塞(CTO)Kissing Balloon Techniqueを要した分岐部病変(KBT),お
よび左主幹部病変(LMT)と定義した.TRIの除
外基準は.1)血液透析患者,2)高用量の造影
剤使用により透析導入のリスクが高い患者,3)
LMTに関してはLVEF35%以下,4)CTOに関し
てはLMT病変合併とした.TRIでは,57例(33%),
TFIでは,10例(36%)が複雑病変であった(P
=NS).手技成功はTRI,TFI各々,1)CTO:
24/28(86%)vs 1/4(25%),2)KBT:29/31(93%)
vs 4/4(100 %), 3)LMT:3/3(100 %)vs 2/2
(100%)であった.いずれの群でも,in-hospital
MACEは認めな)かった.TRIは複雑病変に対し
てもルーチンに安全に施行可能である.
28) 左冠動脈主幹部(LMT)分岐病変の評価に
プレッシャーワイヤーが有用であった一例
(京都第二赤十字病院) 塩野泰紹・
藤田 博・松尾あきこ・蒔田直記・松尾清成・
中西直彦・山口真一郎・西堀祥晴・井上啓司・
田中哲也・北村 誠
【症例】71歳女性.糖尿病性腎症による慢性透析
患者で,大動脈弁・僧帽弁2弁置換術の既往あ
り.透析時に胸痛あり狭心症を疑い冠動脈造影施
行.前下行枝起始部(LADos)と回旋枝起始部
(Cxos)に中間病変あり.LADos及びCXosの狭
窄病変は石灰化やLMTからの分岐部であること
からIVUSによる最小内腔面積の計測は困難であ
った.そこでプレッシャーワイヤーで評価すると
LADosの安静時FFR0.76でCxosのFFRは薬物負荷
後でも1.0でありLADosが有意狭窄と判断.LMT
からLAD方向に3.5mm×16mm TAXUSをcross over
stentingし終了.術後症状も消失した.【結語】形
態学的評価が困難なLMT分岐病変にプレッシャ
ーワイヤーが有用であった一例を経験したので報
告する.
1094 第 105 回近畿地方会
29) 留置から約5年経過した左冠動脈主幹部の
金属ステント(Velocity)の内膜増生を血管内視
鏡で観察しえた一例
(河内総合病院心臓センター内科)
林 隆治・市川 稔・岩田昭夫・名方 剛・
林 英宰・三嶋正芳
32) ステント内再狭窄に対するシロリムス溶出
性ステント留置後の血管内性状:血管内視鏡によ
る観察
(関西労災病院) 粟田政樹・南都伸介・
上松正朗・両角隆一・渡部徹也・大西俊成・
飯田 修・世良英子・南口 仁・矢野正道・
岡本 慎・池岡邦泰・安井治代・田中宣暁・
石原隆行・永田正毅
(大阪大学先進心血管治療学) 小谷順一
症例は61歳男性.2002年8月4日発症の急性心筋
梗塞であった.当院へ搬送時心原性ショックの状
態であり,IABP,PCPSでの循環補助下に緊急冠
動脈造影を施行した.結果,左冠動脈主幹部(#
5)完全閉塞の状態であった.左冠動脈主幹部か
ら前下行枝へステント(Velocity 4.0×13mm)留
置術を行い血行再建得られた.以後,循環動態安
定し独歩退院に至った.2007年12月1日慢性心不
全の増悪で入院となった.12月6日,心不全加療
後に冠動脈造影と冠動脈内視鏡検査を施行した.
ステントは良好に開存得られており,内視鏡での
内膜増生は主幹部では薄い透明な内膜で覆われる
(grade 1)状態であった.今回我々は留置から約
5年経過した左冠動脈主幹部の金属ステントの内
膜増生状況を内視鏡を用いて観察しえたので,若
干の考察を加えて報告する.
【目的】ステント内再狭窄(ISR)病変に留置さ
れたシロリムス溶出性ステント(SES)の新生内
膜増殖をde novo 病変に留置したSESと比較する.
【対象と方法】SES留置後10±1ヶ月後に内視鏡
を 施 行 し た34本 のSESを,ISR群(n=17) とde
novo 群(n=17)に分け,血管内性状を比較検討
した.新生内膜被覆度はgrade0(ステントが露
出)からgrade3(被覆されストラットが観察不
可)の4段階に分類した.【結果】新生内膜被覆
度はいずれの群も低く同等であった(ISR:0.9±
0.6 vs de novo :1.1±0.5,P=0.3). し か し な が
ら,ステントが一部露出している頻度はISR群に
高い傾向にあった(ISR:35% vs de novo :6%,
P=0.085)【結語】ISRに留置したSESはステント
が一部露出する頻度が高い傾向にあり,注意深い
術後管理が必要である.
30) CypherTMステントおよびCostarTMステントの
慢性期血管内性状の検討:血管内視鏡による観察
(関西労災病院循環器科) 矢野正道・
粟田政樹・南都伸介・上松正朗・両角隆一・
渡部徹也・大西俊成・飯田 修・世良英子・
南口 仁・赤堀宏州・池岡邦泰・岡本 慎・
田中宣暁・安井治代・永田正毅
33) 薬剤溶出性ステントと金属ステントの新生
内膜評価における血管内超音波の有用性
(関西労災病院循環器科) 世良英子・
粟田政樹・上松正朗・両角隆一・渡部徹也・
大西俊成・飯田 修・南口 仁・赤堀宏州・
矢野正道・池岡邦泰・岡本 慎・田中宣暁・
安井治代・南都伸介・永田正毅
【目的】シロリムス溶出性ステント(Cypher)と
パクリタキセル溶出性ステント(Costar)の慢性
期血管内性状を血管内視鏡にて比較検討する.
【対
象・ 方 法 】Cypher(n=16) お よ びCostar(n=
12)を対象にステント留置後8ヶ月時点での血管
内性状を比較した.新生内膜被覆度はgrade 0(ス
テントストラット露出)からgrade3(ストラッ
トが観察不可)の4段階に分類した.【結果】患者,
病変背景において2群間に差を認めず,晩期喪失
はCostarで有意に大きく(Cypher:0.07±0.18 vs
Costar:0.36±0.13,p<0.0001)
,新生内膜被覆
度はCostarで有意に高かった(Cypher:1.3±0.7
vs Costar2.4±0.9,p<0.0006).Grade0/1を呈す
るステントで赤色血栓の頻度が有意に高かった.
【結語】Costarステントにおいてより高い新生内
膜被覆が観察された.
【背景】薬剤溶出性ステント(DES)の新生内膜
被覆による変化は金属ステント(BMS)に比べ
軽微であり血管内超音波(IVUS)での評価が困
難なことがある.【方法】血管内視鏡にてステン
トストラットが新生内膜に完全に埋没している完
全被覆状態の53ステントエッジを対象とした.ス
テントエッジより5mm以内における最大新生内
膜厚を血管内超音波(IVUS)にて評価し,DES(n
=17)とBMS(n=36)の2群に分けてIVUSの
定量性を検討した.【結果】IVUSでの新生内膜の
検出率は,BMSに比べDESにて有意に低かった
(DES=65% v.s. BMS=94%,P<0.01).検出可
能であった新生内膜厚(mm)にも有意な違いを
認めた(DES=0.33±0.13 v.s. BMS=0.49±0.21,
P=0.03).【結論】内視鏡上完全被覆状態であっ
ても,IVUSによる新生内膜の検出率はBMSに比
べDESにおいて有意に低かった.
31) On‒label,Off‒label下でのDES留置後の血
管内視鏡による慢性期血管内性状の比較
(関西労災病院循環器科) 矢野正道・
粟田政樹・南都伸介・上松正朗・両角隆一・
渡部徹也・大西俊成・飯田 修・世良英子・
南口 仁・赤堀宏州・池岡邦泰・岡本 慎・
田中宣暁・安井治代・永田正毅
34) IVUSカテーテルの抜去に難渋した高度石
灰化に対するステント留置症例
(大阪大学先進心血管治療学) 小谷順一・
辻井健一・橘 公一・山崎慶太・黒田 忠・
水野裕八・南都伸介
(同循環器内科) 坂田泰史・南野隆三・
角辻 暁
【背景】DESの適応外使用は遅発性ステント血栓
症の頻度が高いとの報告がある.【対象・方法】
DES留置後9±2ヶ月後に血管内視鏡を施行し
得た30症例47ステントを対象に適正使用と適応外
使用での血管内性状を比較検討した.【結果】適
応外使用は22症例37ステント(81%)であった.
適応外使用の39%の症例に露出ステントを認めた
のに対し適正使用では認めなかった(p<0.05).
露出ステントの内訳は,分岐部病変3症例,ステ
ントオーバーラップ部分4症例,ISRに留置した
DES6症例,CTO1症例であった.【結語】適応
外使用ではステントの露出頻度が高く,注意深い
後療法が必要である.
77歳女性.二期的治療の初回はRAを用いたLMT
–LCXの2本のCypher stent留置,6日後にLMT
部 をculottes stentingと し てLAD体 部 にCypher
stentを留置した.腎障害に対し造影剤を軽減さ
せること,LMTに対する手技を含んでいる目的
か らLADへ のIVUSカ テ ー テ ル(BSC;Atrantis
–Pro2)挿入は困難であったが,LCXからの引き
抜きを施行しLMT入口部の良好なステント拡張
を確認した.ところがIVUSがステントに干渉し
たと考えられ,抜去困難となった.従来の報告を
含めた手技にてIVUSの移動を試みたが固定され
たままであった.しかし,0.018の末梢用ワイヤ
ーをイメージングコアに挿入,回転させながら
LADのanchor-techniqueを 用 い てIVUSの 移 動 を
試みたところ遠位側に移動し,IVUS抜去が可能
となった.本会では,このようなトラブル時の回
避について報告したい.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
35) Cypher留 置2.5年 後very late thrombosisに
て発症した不安定狭心症
(大阪警察病院心臓センター循環器科)
松尾浩志・上田恭敬・廣谷信一・小笠原延行・
柏瀬一路・平田明生・岡田佳築・村川智一・
根本貴祥・肥後友彰・松井万智子・樫山智一・
増村雄喜・和田 暢・児玉和久
症例は55歳男性.下壁陳旧性心筋梗塞の患者.05
年10月11日にrestenosisに対しCypherを留置して
いた.08年2月初旬より肩こりを自覚.2月10日,
出張先で運転中胸痛自覚したため帰国後近医受診
するも心電図,血液検査にて有意所見なく経過観
察となった.その後,症状の増悪認めたため3月
10日当科受診.受診時,心電図にてIII,aVF誘導
にてT波陰転化,血液検査にてTnT:0.03,CK:
204,心エコーにて下壁,前壁の壁運動異常を認
めたため緊急入院の上,翌日心臓カテーテル検査
を施行した.右冠動脈#1のstent留置部位に99
%の再狭窄を認めたため同部位に対し経皮的冠動
脈形成術施行.施行後,血管内視鏡にてプラーク
の破綻像及び血栓像を認めた.Cypher留置2.5年
後のvery late thrombosisの症例を血管内視鏡に
て観察し得たので症例報告する.
36) 産褥期のマレイン酸メチルエルゴメトリン内
服との関連を否定できない冠攣縮性狭心症の一例
(京都大学医学部付属病院循環器内科)
仁木俊一郎・齋藤成達・早野 護・尾野 亘・
北 徹・赤尾昌治・木村 剛
症例38歳女性.2007年12月帝王切開にて双児出産.
産後3日間,オキシトシン点滴.4日間マレイン
酸メチルエルゴメトリン(0.125mg)3錠分3に
て内服.産後6日目,体動時に胸部圧迫感を自
覚し,心電図にて一過性の完全房室ブロックII.
III.aVFでST上昇を認めたが,心エコー上は明
らかな壁運動低下を認めなかった.産後8日目,
再度胸痛自覚し意識消失した.モニター上,心室
細動を認め,除細動施行し洞調律に復帰した.冠
攣縮により心室細動に至ったと考えニトログリセ
リン,ジルチアゼム持続点滴を開始したところ症
状が再発することなく,後日施行した冠動脈CT
で有意狭窄は認めなかった.産褥期のマレイン酸
メチルエルゴメトリン内服との関連を否定できな
い冠攣縮性狭心症の一例を経験したので若干の文
献的考察を加えて報告する.
37) 造 影MRIに てmicrovascular obstructionを
認めた冠攣縮を原因とする心筋梗塞の1例
(大阪府三島救命救急センター救急科)
後藤拓也・頭司良介・森 敏純・筈井 寛・
大石泰男
症例は59歳の男性.アナフィラキシーショックが
原因で,左右冠動脈にびまん性に冠攣縮が発生
し,急性心筋梗塞と心室細動に至った.発症7
日目に造影MRIを施行した.前壁中隔にlate enhancementとno-reflowを 示 唆 す るmicrovascular
obstructionを認めた.no-reflowの発生には多因
子が関与しているが,塞栓が原因かの如き議論が
散見される.冠攣縮による冠閉塞を機序に発生し
た心筋梗塞である本症例において,no-reflowが
発生したことは塞栓以外の因子が少なからず関与
していることを示唆しており,塞栓の予防だけで
はno-reflowを解決できないことを改めて認識さ
せられた1例であり,報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
38) SATによるAMI第2病日に冠動脈スパズム
による心停止を来たした一例
(京都府立医科大学循環器内科) 矢西賢次・
西澤信也・榎本聖子・小出正洋・星野 温・
畔柳 彰・中村 猛・松室明義・沢田尚久・
松原弘明
41) off-pump CABG,腹部大動脈瘤の同時手術
中,冠動脈攣縮に対しニコランジルの選択的注入
が著効した一例
(大阪府立急性期総合医療センター)
渡辺芳樹・高野弘志・堀口 敬・吉龍正雄・
鳥飼 慶
糖尿病,高脂血症,高血圧症で通院中の67歳男性.
LAD#6の有意狭窄に対してTAXUSステントを
留置したが,3日後に突然の胸痛を自覚し救急
受診となる.広範囲前胸部誘導でST上昇を認め,
亜急性ステント内血栓症(SAT)を認めた.血栓
吸引後バルーン拡張を行い経過は順調であった
が,2日後の早朝にST再上昇と3度AVblockから
PEAとなったため,蘇生後に緊急CAGを行った.
RCA,LCXにdiffuse spasmとLADのno-flowを認
め,nicorandil冠動脈内注入にてLADのno-flowは
解除されTIMI3が得られた.ステント内血栓や
狭窄は認めず心停止の原因としてspasmの関与が
考えられた.薬剤溶出性ステントのSAT後に興味
ある経過を示した一例を経験したので報告する.
我々は,off-pump CABG(OPCAB)及び腹部大
動脈瘤同時手術中,攣縮による右冠動脈の完全閉
塞を認め,ニコランジルの選択的注入が著効した
一例を経験したので報告する.症例は77歳,男性,
左前下行枝および対角枝の高度狭窄と76mm大の
腹部大動脈瘤の合併に対し,OPCAB,腹部大動
脈人工血管置換術の同時手術を施行した.腹部大
動脈瘤手術中に数回にわたる突然の血圧の低下お
よび心室細動を認めたため,PCPS導入となった.
緊急冠動脈造影を施行し,右冠動脈本幹の完全閉
塞が認められた.ニコランジルを冠動脈内に投与
することで再開通した.その後,左室の動きは徐々
に改善し,術後1日目にPCPSを離脱した.文献
的考察を加えて報告する.
39) MDCTで捉えた異型狭心症の冠攣縮
(野崎徳洲会病院心臓センター) 穴山 良・
奥津匡暁・岡本允信・伊藤鹿島・鶴田芳男・
角辻 暁
42) 心筋梗塞急性期に心不全,心室頻拍,心室細
動を合併し,左室縮小手術を行い救命しえた一例
(新宮市立医療センター循環器科)
嶋村邦宏・吉岡 慶・間生 孝・河村晃弘
(同心臓血管外科) 水元 亨・畑中克元・
馬瀬泰美・竹歳秀人
症例は30歳代男性.受診前夜より10時間程持続
する安静時胸痛を主訴に来院され,心筋酵素逸
脱(CK/MB=519/40IU/l),心エコーでは下壁の
運動低下を認め,また心電図ではIII誘導で異常Q
波とT波平坦化を認めた.前処置薬としてNTG舌
下およびPropranolol 10mg静注後に心臓CT撮影
を行いmid RCAの高度狭窄を認めた.CAGでは,
ISDN 2mg冠注後の造影でCT上高度狭窄を認め
た部位は軽度狭窄であったためIVUSを行った所,
施行中に同部位に高度狭窄を来たし,ISDN 5mg
冠注で狭窄は消失した.以上より本症例はRCA
の冠攣縮に伴う心筋梗塞症例と診断.今回64列
MDCTにて冠攣縮を捉えることができた稀な症
例を経験したので報告する.
40) Optical coherence tomography(OCT)に
て冠攣縮を観察し得た不安定狭心症の1例
(和歌山県立医科大学循環器内科)
蒸野寿紀・北端宏規・柏木 学・松本啓希・
辻岡洋人・大河内啓史・池島英之・有田 祐・
黒井章央・上野悟史・片岩秀朗・中村信男・
谷本貴志・財田滋穂・平田久美子・水越正人・
田中 篤・今西敏雄・赤阪隆史
57歳女性.安静時の胸部圧迫感を主訴に近医を受
診したが,心電図上は変化を認めず,保存的に加
療された.その後も夜間に,ニトログリセリンの
舌下により軽減する胸痛発作が頻回となったた
め,当科を受診した.不安定狭心症を疑い,冠
動脈CT(MDCT)を施行したところ,#6に病
変長9mm程度のプラークを伴う90%狭窄を認め
た.冠動脈造影を施行したところMDCTと同様
に,#6に75%狭窄を認めた.OCTにより血管
内腔を観察したが,血栓像やプラーク破裂は認め
ず,線維性プラークが主で,今回の安静時胸痛
の原因として冠攣縮の関与を疑った.アセチル
コリンを冠注したところ,血管攣縮が誘発され,
OCTで観察することができた.その後,同部位
にステントを留置した.今回我々は,OCTにて
冠攣縮を観察し得た冠攣縮性狭心症の1例を経験
したので報告する.
症例は64歳男性.平成15年頃より高脂血症で通院
中.平成19年10月25日に急性前壁心筋梗塞を発症,
緊急CAGで#6 100%を認め,同部位にステント
を留置した.左室壁運動の改善が悪く,第7病日
にうっ血性心不全が悪化し,人工呼吸器管理を開
始した.第9病日にはNIPPVを併用して人工呼吸
器から離脱できたが,第17病日よりVT,VFを認
めるようになり,ニフェラカントの投与を開始し
た.しかし,不整脈が持続したため,第18病日に
IABP,体外式ペースメーカーを開始した.不整
脈はこれで落ち着いたが,ニフェカラントを減量
すると不整脈の再発を認めた.左室造影で左室心
尖部に心室瘤の形成を認め,これが心不全・不整
脈の原因の一つと考えられたため,第27病日に左
室縮小手術を施行した.術後の経過は良好で,第
65病日に軽快退院した.
43) 冠動脈瘤を伴い冠動脈狭窄を繰り返す全身
性エリトマトーデス患者の一例
(大阪厚生年金病院循環器内科)
宮本裕加子・三好美和・山平浩世・岡本昌邦・
濱岡 守・安井博規・長谷川新治
(同心臓血管外科) 藤井弘通・笹子佳門
全身性エリトマトーデスの62歳男性.平成9年11
月に急性心筋梗塞を発症して以来,繰り返す冠動
脈狭窄に対して再度経皮的冠動脈形成術を施行し
つつ,外来フォローしていた.再び労作時呼吸苦
が出現した為,冠動脈造影検査を施行し,左前下
降枝には冠動脈瘤を認め,また多枝にわたり高度
の再狭窄を認めた.全身性エリトマトーデスが原
疾患にあり,再狭窄を繰り返しており,冠動脈瘤
があることと多枝病変であるという点から,今回,
冠動脈バイパス術とした.全身性エリトマトーデ
スが原疾患で冠動脈瘤や冠動脈高度狭窄が認めら
れる症例は,比較的稀なため報告する.
大阪国際会議場(2008 年 6 月) 1095
44) 左冠動脈主幹部病変相当の広範囲急性心筋
梗塞に対するPCPS及びLVAS治療成績の検討
(桜橋渡辺病院心臓血管外科) 山内 孝・
正井崇史・仲村輝也・樋口貴弘
(大阪大学心臓血管・呼吸器外科) 澤 芳樹
【目的】PCPS補助を要したLMT病変相当の広範
囲急性心筋梗塞に対して1PCPS治療の限界と2
LVAS以降後の成績及び問題点を検討.【対象と方
法】1.LMT病変によるAMI症例でPCPSを要し
た16例.PCPSを離脱できた10例(離脱群)と離
脱不可能であった6例(依存群)で再灌流時間な
らびにPCPS補助期間を検討.2.16例中LVASに
移行した4症例.【結果】1.再灌流時間は,離脱
群で平均135分(30−219),依存群で平均476分
(240−900).離脱群は全例再灌流時間4時間以内
で,10例中9例は補助期間3日以内.2.急性期
死亡は2例で術前よりそれぞれARDS,sepsisを
合併.残る2例は100日以上の生存を認めた.【結
語】再灌流まで4時間以上またはPCPS補助3日
以内に心機能の回復を認めない症例は,合併症を
発症する前にLVASへの移行することが,治療成
績向上に重要と考えられた.
45) 左室破裂に対するsutureless repair後に発
症した仮性左室瘤切迫破裂の1例
(大阪労災病院心臓血管外科) 四條崇之・
戸田宏一・横田武典・甲斐沼尚・谷口和博
47) 無症候性下壁急性心筋梗塞に合併した心室
中隔穿孔の一例
(公立南丹病院循環器科) 内藤大督・
浦壁洋太・榎本聖子・中山雅由花・野村哲矢・
西川 享・計良夏哉・辰巳哲也
(同心臓血管外科) 圓本剛司・奥村 悟
症例は74歳女性.自宅で呼吸困難が出現し,改善
しないため2日後に当院受診.心電図はII,III,
aVFで異常Q波とST上昇を認めた.心エコーで左
室下後壁に菲薄化を伴う高度壁運動低下を認め,
急性心筋梗塞による急性心不全と診断した.経過
中に胸痛は一度もなく,来院時に有意な心筋逸脱
酵素の上昇は認めなかった.発症時期は不明であ
るが,少なくとも38時間が経過しており保存的に
経過をみたところ,入院翌日急激に心不全が増悪
した.胸骨左縁下部肋間で新たな汎収縮期雑音を
聴取し,心エコーで下壁中隔穿孔を認めたため緊
急手術となった.心室中隔穿孔は急性心筋梗塞の
1-2%に合併するとされるが,今回我々は無症候
性心筋梗塞に合併した心室中隔穿孔の一例を経験
したので若干の文献的考察を加え報告する.
50) Block lineの確認にelectroanatomical mapping
が有効であった通常型心房粗動の一例
(大阪市立大学医学部附属病院循環器内科) 占野賢司・高木雅彦・前田惠子・辰巳裕亮・
土井淳史・山下 啓・葭山 稔
(大阪市立総合医療センター循環器内科)
中川英一郎
48歳の男性.通常型AFLと診断し,三尖弁輪−下
大静脈峡部を三尖弁輪(TV)側より通電を行った.
IVC端の通電でAFLは停止したがCS pacing下での
TV上のカテーテル(H)のsequenceからはblock
line未完成と判断し,通電line上を数回通電したが
変化はなかった.しかし,通電lineの自由壁側と
中隔側からそれぞれpacingを行いCARTOでre-map
を行ったところblock lineは完成していた.
(H)で
のsequenceでblock lineをbreakthroughしているよ
うに見えたのはCS pacing時にIVCの後壁側から自
由壁側に伝わった興奮が,TVを反時計周りに伝導
した興奮より先にblock lineの自由壁側に到達し,
これらの興奮が右房自由壁でcollisionしたためと
考えられた.block lineの確認にelectroanatomical
mappingが有効であった症例を経験したので報告
する.
48) 僧帽弁狭窄症に発作性心房細動を合併し,
肺静脈隔離術と経皮的僧帽弁交連裂開術を同時に
施行した一例
(大阪府済生会泉尾病院循環器科)
山本 聖・吉長正博・松井由美恵・石原昭三・
石戸隆裕・塚田 敏・藤田昌哲・唐川正洋
51) カテーテルアブレーションにより心房機能
が著明に改善した慢性心房細動の一例
(京都大学医学部附属病院循環器内科)
早野 護・静田 聡・花澤康司・西山 慶・
土井孝浩・尾野 亘・北 徹・赤尾昌治・
木村 剛
症例は70歳女性.僧帽弁狭窄症に薬剤抵抗性発作
性心房細動を合併し,肺静脈隔離術(PVI)と左
房後壁隔離術を施行したが,再発があり4ヶ月後
に心房頻拍に移行した.心エコー上僧帽弁口面積
は1.5cm2で,心房頻拍の持続により容易にうっ血
性心不全となるため,PVIの2ndセッション時に
経皮的僧帽弁交連裂開術(PTMC)を施行した.
左右肺静脈及び左房後壁の伝導再開部位に追加焼
灼を行った後,PTMCを施行した.左房-左室圧
較差は11から0mmHgへと低下し,僧帽弁口面積
は4.8cm2へと拡大した.術後頻拍発作の再発はな
く,症状もNYHAクラス分類でIII度からI度と著
明に改善した.僧帽弁狭窄症に薬剤抵抗性発作性
心房細動を合併し,PVIとPTMCを同時に施行し
た一例を経験したので報告する.
症例57才男性.平成5年頃,心房細動(AF)を
指摘され,平成12年頃に慢性AFに固定.労作時
の動悸・息切れがあり,平成19年5月に当院受
診した.同年8月にカテーテルアブレーション
(CA)を施行,肺静脈(PV)隔離+左房roof line
+CFAE+三尖弁輪焼灼を行った.しかし,AF
再発したため同年11月に再度CA(PV再隔離+僧
房弁輪焼灼+上大静脈隔離)を施行した.以後は
抗不整脈薬内服下で洞調律が維持され,自覚症状
は消失した.術後3ヶ月目の経胸壁心エコーでは
LAD=52→44mm,LVDd=53→45mmに縮小,経
食道心エコーで左心耳血流18→83cm/sに改善し
た.慢性心房細動に対するCAにて洞調律が維持
されたことにより著明に心房機能が改善したと考
えられ,若干の文献的考察を加え報告する.
46) 急性心筋梗塞後にoozing型左室自由壁破裂
をきたした一例
(京都大学医学部附属病院循環器内科)
早野 護・田村俊寛・尾野 亘・北 徹・
赤尾昌治・木村 剛
(同心臓血管外科) 長田裕明・仁科 健
49) 左肺静脈が共通幹を呈した発作性心房細動
に対してアブレーションを施行した1例
(滋賀県立成人病センター循環器科)
張田健志・池口 滋・小菅邦彦・羽田龍彦・
春名徹也・岡田正治・和田嗣業・武田晋作・
天谷直貴・石井 充
52) 二弁置換術後の複雑心奇形患者に対する心
房細動の治療
(兵庫県立こども病院循環器科)
城戸佐知子・田中敏克・寺野和宏・藤田秀樹・
齋木宏文
症例は77歳女性.平成19年12月に数回の前胸部痛
を自覚し近医を受診,V1-5でST上昇を認めたた
め当院に搬送となった.CKはすでに2785IU/Lと
上昇しており,心エコーでは前壁中隔の無収縮と
少量の心嚢液を認め,発症24時間以上経過した前
壁中隔梗塞と考えられた.緊急冠動脈造影にて#
6の閉塞を認めたため,サイファーステント2.5
×23mmを留置した.翌日未明に血圧が低下し,
心エコーにて心嚢液増量を認めたためoozing型左
室自由壁破裂と考え,緊急開胸による止血術を施
行した.本症例は左前下行枝,late reperfusion,
女性という心破裂のリスクファクターがそろって
おり,来院時少量の心嚢液を認めていた.PCIの
ストラテジーおよびoozing型心破裂に対する治療
について考察する.
症例は61歳女性.発作性心房細動に対しアブレー
ションを施行.ATPおよびISPにて肺静脈と高位
右房からAPC出現.心房細動は誘発されず肺静脈
隔離を施行.3D-CT像では左肺静脈は共通幹を形
成し,左上肺枝は共通幹より後方に分枝して出現.
共通幹本幹は上方に向けて走行し左下肺枝を形成
した.左肺静脈共通幹入口部で通電し隔離に成功
した.通常左下肺静脈は左上肺静脈に対して後下
方に位置するが,本例では特異な走行を呈し共通
幹を形成した.3D-CTによる肺静脈分枝異常の検
出が肺静脈アブレーションに有用な1例を経験し
たので報告する.
【はじめに】心筋梗塞後の左室oozing ruptureに
対してはsutureless repairが行われることが多い.
今回我々は,sutureless repair後に発症した仮性
左室瘤切迫破裂の1治験例を報告する.【症例】
72歳男性.心筋梗塞後の左室破裂のため緊急手術
となった.左前下行枝の左側にoozing ruptureを
認め,タココンブ及び馬心膜パッチによる修復術
を施行した.術後は外来にてNYHA2で経過して
いたが,8か月後の心臓超音波検査にて左室前壁
に76×33mmの仮性瘤,心嚢液貯留,僧帽弁逆流
を認めた.左室瘤切迫破裂と診断し,左室瘤切除,
左室形成術,僧帽弁形成術を施行した.術後6
ヶ月現在,NYHA1で外来経過観察中である.【ま
とめ】心筋梗塞後の左室破裂に対するsutureless
repairは仮性瘤発生を念頭におく必要がある.
1096 第 105 回近畿地方会
症例は左側相同心,心内膜床欠損,下大静脈欠損
の20歳の男性.3歳で心内膜床欠損に対する根治
手術を施行,その後10年以上の経過で,左室流出
路狭窄,大動脈弁・僧帽弁逆流の悪化を認め,17
歳で両弁に対する人工弁置換を行った.再手術後,
頻回に心房細動を繰り返すようになったが,解剖
学的異常,人工弁置換術後という点からアブレー
ションは断念した.薬物治療を選択したが,アミ
オダロン・ソタロールは副作用のため中止,その
後ベプリジルにて比較的長期に不整脈の発症を抑
えることが可能となった.二弁置換術後であり,
血栓予防の観点から細動発症時にはDCを行うべ
きかと考えているが,若年者の複雑心奇形ではリ
ズムコントロールが優先か,レートコントロール
が優先か,治療の方向について若干の考察を加え
て報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
53) 心房細動患者と正常洞調律患者における肺
静脈入口部径の相違について −64列MDCTを用
いた検討−
(大阪労災病院循環器科) 山上喜由・
原 正彦・中谷晋平・橋本光人・松岡 研・
加藤弘康・江神康之・習田 龍・山口仁史・
田中健二郎・西野雅巳・田内 潤・山田義夫
56) 意識消失で来院し多種類の心房性頻拍を認
めた一例
(淀川キリスト教病院循環器内科)
塩田正喜・冨澤宗樹・米田直人・筒泉貴彦・
山中あすか・北川泰生・栗本泰行
(神戸大学医学部付属病院循環器内科)
鳥居聡子・高見 充・熊谷寛之・高見 薫・
觀田 学・福沢公二・吉田明弘
59) 陳旧性心筋梗塞に合併した複数の持続性単
形性頻拍に対してカテーテルアブレーションを施
行した一症例
(近畿大学奈良病院) 横田良司・清水良栄・
溝部道生・羽場一直・上森宣嗣・胡内一郎・
城谷 学・服部隆一
(高の原中央病院) 平井 拓
(大林内科・循環器科クリニック) 大林和彦
肺静脈入口部(PVO)は評価困難で,心房細動(Af)
との関係について報告例は少ない.今回MDCTで
PVOの断面積(PVA)を計測し,Afとの関係を検
討した.冠動脈疾患精査目的でMDCTを行った
連続18例(Af 7例(A群),正常洞調律11例(SR
群))にて,心エコーで左房径,僧房弁逆流(0-3)
を,MDCTで上下左右のPVAを計測し両群間で比
較検討した.PV長軸に垂直な平面で左房の最も
近くで円となる位置をPVOと定義した.SR群に
比しA群では左下PVが拡大し(242±115 vs 129±
41mm2,p<0.05),左上PVも拡大傾向(304±120
vs 191±42mm2,p=0.07)だったが他は差がなか
った.Af例ではSR例よりPVAは拡大し,Afによ
る形態変化と考えられた.
症例は59歳,女性.心疾患の既往なし.呼吸困難
感が突発し,その後意識障害を来たし,当院へ
救急搬送された.来院時HR220/分の頻拍を呈し,
血圧を触知せず.各種薬剤にて心拍数コントロー
ル後,緊急心臓カテーテル検査を施行した.検査
上は冠動脈に異常所見なく,左室造影にてびまん
性の壁運動低下を認めた.薬剤にて脈拍の正常化
に努めたが頻脈のコントロールに難渋し,頻脈時
の心電図にて各々異なったP波を持つ3種類の頻
脈を認めた.複数の起源を持つ心房性頻拍と診断
し,心筋焼灼術の適応があるものと判断して神戸
大学医学部付属病院循環器内科へ転院した.心筋
焼灼術施行後,心機能は著明な改善を認めたため,
頻拍誘発性心筋症と考えられた.頻拍停止後も洞
停止を認めたため,DDDペースメーカーの植え
込み術を施行した.
症例は56歳男性.51歳時に急性心筋梗塞を発症.
その後短時間の動悸を自覚していたが次第に増
悪.心電図上右脚ブロック左軸偏位のwide QRS
tachycaridaを認めプロカインアミド静注が有効
であった.心室頻拍は12誘導上少なくとも2種類
あると考えられた.電気生理学的検査で右室刺激
により心室頻拍が誘発された.entrainment時の
QRS波形,post-pacing interval,頻拍時の拡張期
電位を指標に中隔下部心基部付近を通電し頻拍は
停止した.その後頻拍は誘発されにくくなったが,
別の形の頻拍が生じ同様の方法で通電した.頻拍
中にQRS波形は変化し少なくとも5種類はある
と考えられた.右室刺激で持続性頻拍は誘発され
なくなり終了した.複数の瘢痕関連性持続性単形
性頻拍がカテーテルアブレーションにより治療さ
れた一例を経験したので報告する.
54) ベプリジルのmulti channel block作用を推
定し得た心電図波形3症例
(滋賀病院循環器科) 坂谷知彦・鶴山幸喜・
伊藤一貴・東 秋弘・朝山 純
(松下記念病院循環器科) 杉原洋樹
57) 心筋梗塞後の心室頻拍に対しカテーテルア
ブレーションを施行した1例
(関西労災病院循環器科) 渡部徹也・
南都伸介・池岡邦泰・岡本 慎・田中宣暁・
安井治代・矢野正道・南口 仁・世良英子・
飯田 修・大西俊成・粟田政樹・両角隆一・
上松正朗・永田正毅
60) 濃厚な家族歴を有するBrugada症候群の一例
(和歌山県立医科大学附属病院循環器内科)
垣本信幸・松本啓希・財田滋穂・上野悟史・
柏木 学・片岩秀朗・黒井章央・池島英之・
大河内啓史・辻岡洋人・有田 祐・谷本貴志・
北端宏規・平田久美子・中村信男・田中 篤・
水越正人・今西敏雄・赤阪隆史
(松谷医院) 松谷良清
ベ プ リ ジ ル はVaughan Williams分 類 のIV群,Ca
拮抗薬に分類されるがK,Naなど複数のchannel
に対する抑制作用も併せ持つ.心電図上でmulti
channel block作用が推定できた3症例を経験し
た の で 報 告 す る.【 症 例 1】63歳 男 性. 発 作 性
心房細動(PAF)に対しベプリジル100mgを投
与.QTcが0.424から0.488へ,PQ時間が191msか
ら222msへ延長した.【症例2】63歳男性.PAF
に対しベプリジル100mgを投与.V1,V2でsaddlebacktypeのST上昇が出現した.【症例3】34歳女
性.心筋炎後の心室頻拍に対しベプリジル100mg
を投与.QRS時間が124msから172msへ延長した.
症例1はIKおよびICa遮断作用,症例2はINa遮断作
用が考えられた.症例3は心筋炎による心筋障害
の進行も考えられたが心エコー図では経過を通し
て左心機能に著変はなく,INa遮断作用によると推
定された.
55) 5年以上の長期持続性心房細動に対する広
範囲同側肺静脈隔離術の効果の検討
(大阪府済生会泉尾病院循環器科)
山本 聖・松井由美恵・吉長正博・石原昭三・
石戸隆裕・塚田 敏・藤田昌哲・唐川正洋
5年以上の長期持続性心房細動(CAF)に対す
る広範囲同側肺静脈隔離術(EEPVI)の効果を
検討した.
【対象】2004年10月から2008年2月の
間に当院でEEPVIを施行したCAF12例(男11例,
女 1 例, 平 均 年 齢59.4才, 平 均 左 房 径42.5mm)
を対象とした.CAFの持続期間は平均10.3年,最
長17年であった.【方法】全例でEEPVIを施行し,
SVC起源を有する症例にはSVC isolationを追加し
た.【結果】6例(50%)は無投薬下にAFの再発
がなく(1例は再セッションを施行),このうち
3例はEEPVIのみ,3例はEEPVI+SVC isolation
を施行した.4例は投薬下に洞調律を維持,1例
はAFに固定した.【結語】CAF症例は発作性に比
べるとEEPVIのみで根治できる症例の割合は低
いが,EEPVIおよびSVC isolationで根治可能な症
例もあり,CAFに対してもEEPVIは基本治療と
考えられる.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
症例は52歳男性.平成19年12月12日,倦怠感にて
近医受診.心電図上wide QRS tachycardia(HR190
/分)を認めたため,入院となった.入院後,ベ
ラパミル,ニフェカラント投与するも洞調律化
せず電気的除細動にて洞調律化した.その後も
wide QRS tachycardiaを認めたため,精査加療目
的で当院転院となった.平成20年1月7日,冠動
脈造影施行.#11 99%狭窄を認めたため同部位
に対してPCI施行した.その後,同年2月21日,
電気生理学検査施行.プログラム刺激にて容易に
wide QRS tachycardiaが誘発された.カルトシス
テム上,僧帽弁輪部と心筋梗塞瘢痕間を通るVT
と考え,同部位に通電した.その後VTは誘発さ
れなくなり終了した.
58) WPW症候群に対するカテーテルアブレー
ション中に心室調律を認めた一例
(市立福知山市民病院) 阪本 貴・
岸田 聡・林 宏憲・西尾 学
(京都府立医科大学附属病院循環器内科)
白石裕一
症例は69歳男性,30歳代からの動悸を主訴に近医
受診,根治目的に紹介された.心腔内心電図に
て,冠静脈洞(CS)電位より左室側壁に順行性
副伝導路を確認.これに対してカテーテル心筋焼
灼術を行ったところ,副伝導路の焼灼には成功し
たが,左脚ブロックパターンで心拍数98/分の心
室調律の出現を認めた.経過観察にて次第に心拍
数減少,20分程度で洞調律に回復,その後CS電
位より左室後壁での逆行性副伝導路を確認,焼灼
に成功し終了した.心筋焼灼により心筋障害を来
すことや,心筋障害で自動能が亢進することは知
られているが,WPW症候群に対する心筋焼灼術
で心室調律を来すことはあまり知られていないた
め報告する.
症例は64才,男性.動悸後の眼前暗黒感を主訴に
近医受診.12誘導心電図にてV1-3のsaddle-back
型ST上昇,右脚ブロックが認められたため当科
紹介.近親者に4名の突然死症例がありBrugada
症候群の疑いにて,同日入院した.入院後の精査
にて,一肋間上の心電図でcoved型ST上昇,また
日差変動も認められた.電気生理学検査を施行し
たところ,右室流出路からの2連発刺激にて心室
細動が誘発された.以上よりBrugada症候群と診
断し,植込型除細動器の埋込術を行った.無症状
の血縁者にも心電図異常を示す症例が複数人存在
し,長期にわたる厳重な観察が必要な一家系と考
えられた.
61) 発熱時にBrugada様心電図を示した3例
(天理よろづ相談所病院循環器内科)
奥村晋也・吉谷和泰・坂本二郎・樋口貴文・
三宅 誠・本岡眞琴・貝谷和昭・和泉俊明・
泉 知里・玄 博允・中川義久
【症例1】39歳男性.38度台の発熱があった.夜
間睡眠中に突然心肺停止状態となり,家人の心臓
マッサージにより意識回復,そのまま救急搬送さ
れた.入院後まもなく自然に心室細動となり,電
気的徐細動を施行.ICD植え込み手術を施行した.
【症例2】37歳男性.血球貪食症候群と診断され
たが,失神症状はなく,発熱は2週間で自然軽
快した.【症例3】74歳男性.38度台の発熱があ
り,一過性の意識消失で転倒・頭部打撲している.
発熱は約1週間で自然軽快した.上記3例とも,
発熱時の心電図はV1-3でcoved patternであった.
【結語】発熱を契機に発見されたBrugada症候群
の1例,および発熱時にBrugada様心電図を示し
た2例を経験した.ICDの適応について考察する.
大阪国際会議場(2008 年 6 月) 1097
62) ICD植え込み後亜急性期にリード穿孔を認
めた一例
(大阪警察病院循環器科) 樫山智一・
平田明生・増村雄喜・和田 暢・肥後友彰・
松尾浩志・松井万智子・岡田佳築・村川智一・
根本貴祥・柏瀬一路・小笠原延行・廣谷信一・
上田恭敬
65) 労作時呼吸困難精査中に心室細動を発症し
た左前下行枝高度狭窄の一症例
(大阪警察病院) 和田 暢・柏瀬一路・
岡田佳築・村川智一・根本貴祥・松井万智子・
松尾浩志・肥後友彰・樫山智一・増村雄喜・
平田明生・小笠原延行・廣谷信一・上田恭敬・
児玉和久
症例は31歳男性.他院での骨折手術の術前検査で
心電図異常認められ精査目的で紹介となった.心
電図上coved型ST上昇所見を認め電気生理検査に
て多形性心室頻拍が誘発されたため,Brugada症
候群と診断し患者と相談のうえICD植え込み術を
行った.術後5日目よりのどの奥の痛みと嘔吐症
状を認めた.術後1週間後に心エコー上少量の心
嚢液の貯留を認めたが心タンポナーデ所見はなく
経過観察とした.術後10日目に胸部違和感の症状
出現し,心エコー上心嚢液の増加,心嚢腔内への
右室リードの穿孔を認めたため,PCPSスタンバ
イ下に心嚢ドレナージ,リード抜去,リード交換
術を施行した.術後心嚢液の再貯留は認めなかっ
た.ICD植え込み後亜急性期にリード穿孔を認め
た非常に稀な症例を経験したので報告する.
症例は59歳男性.平成19年6月に心房細動の精査
目的にて他院より紹介となった.心筋シンチにて
下壁に虚血所見を認め,CAGを施行したが有意
狭窄を認めなかった.その後も当科外来通院中で
あった.平成20年1月より労作時呼吸困難感が出
現したため,心筋シンチをフォローする予定にし
ていたが,2月に駅で階段を上った直後に,意識
消失.周囲にいた人によりAED施行され意識は
改善し,直ちに当院救急搬送となった.来院時は
意識正常でバイタルサインは安定していた.心電
図ではST-T変化なく,心エコーでも壁運動異常
を認めなかった.同日,CAGを施行したところ
左前下行枝に99%狭窄を認め,ステント留置を行
った.労作時呼吸困難感のみを訴え,他の症状に
乏しく労作直後に心室細動を発症した左前下行枝
高度狭窄の一症例を経験したので報告する.
63) 心肺蘇生後の意識障害に対し低体温療法を
行い社会復帰を認めた2例
(大阪市立総合医療センター救命救急センター)
有元秀樹・新谷 隆・吉田健史・吉本 昭・
松浦康司・宮市功典・林下浩士・韓 正則・
鍜冶有登・宮本 覚
66) T波オーバーセンシングによるICD作動の
ため繰り返しリード位置変更を必要とした特発性
心室細動の一例
(近畿大学循環器内科) 元木康一郎・
安岡良文・更谷紀思・上野雅史・生駒興平・
藪下博史・谷口 貢・木村彰男・宮崎俊一
69) 塩酸ピルジカイニド内服2日後に著明なQT
延長とともに多形性心室頻拍を来たし死亡した1例
(大阪労災病院) 中谷晋平・西野雅巳・
原 正彦・橋本光人・山上喜由・松岡 研・
江神康之・加藤弘康・山口仁史・習田 龍・
田中健二郎・田内 潤
【症例1】26歳,男性.心肺停止のため救急要請
され,VFに対しAEDにて除細動の後自己心拍再
開し当院へ搬送となった.心拍再開後も意識障害
を認めており小児用PCPS回路にて低体温療法を
導入した.心肺停止の原因として心室源性期外収
縮によるR on Tによるものと考えられablationお
よびICD挿入術を施行後,社会復帰された.
【症
例2】36歳,男性.就寝直後に心肺停止となり
VFに対して除細動を施行し蘇生された.ブラン
ケットおよびCHDを用いた低体温療法を施行し
た.意識の回復を認め,Brugada症候群の診断に
てICD挿入術を施行され軽快退院となった.当院
における心肺停止後意識障害に対する2つの低体
温療法の方法についてその適応・方法について論
じる.
17歳男性.心室細動のため入院.器質的心疾患な
く特発性心室細動の診断でICDの植え込み施行.
右室心尖部に心室リード留置し,7mVの心室波高
が得られたが,術後,心室波高は3mVに減高しT
波オーバーセンシングを認めた.dislodgementは
認めなかった.再手術を拒否したため退院したが,
洞性頻脈によるICD誤作動で再入院.再手術では
心基部で28mVの心室波高値が得られた部位で留
置.やはりdislodgementは認められなかったが,
心室波高は徐々に減高し,植え込み終了時は4mV
となっていた.ビソプロロール5mgの内服で退院
となったが,その後もICD作動を繰り返すため,
心室センシングリードを右室流出路に留置.良好
な心室波高が得られ,心室波高減高も見られなか
った.さらにICDをガイダント社に変更した.そ
の後はICD誤作動を認めない.
症例は84歳男性.数日前から動悸,胸部不快感出
現し近医を受診.ECGにて心房細動を認めたた
め当院に紹介となった.当院にて洞調律復帰目的
にて塩酸ピルジカイニド100mg/日を処方し帰宅
され,2日後に心肺停止で発見された.今回偶然
死亡前日よりHolter ECGを装着しており,後日
解析を行った.塩酸ピルジカイニド内服から1
日後にはQT時間は420msecであったが,徐々に
QT時間は延長を認め内服から2日後にはQT時間
580msecとなり,多形性心室頻拍が約2時間持続
したのちに心停止となっていた.発作性心房細動
患者に対する少量塩酸ピルジカイニド投与で急速
にQT時間が延長し,多形性心室頻拍から心停止
に至った過程をHolter ECGで捉えられた症例を
経験したので報告する.
64) 経皮的心肺補助装置および両心室ペーシン
グ機能付埋込型除細動器留置にて救命し得た院外
心肺停止の一例
(関西労災病院) 田中宣暁・大西俊成・
南都伸介・上松正朗・両角隆一・渡部徹也・
粟田政樹・飯田 修・世良英子・南口 仁・
赤堀宏州・矢野正道・池岡邦泰・岡本 慎・
安井治代・永田正毅
67) 除細動リード留置に難渋した複雑心奇形根
治術後の一症例
(大阪大学循環器内科学) 前田晃彦・
坂田泰史・松本 專・玉置俊介・稲垣美和子・
樋口香織・中谷和弘・玉井敬人・大藪丈太・
大森洋介・大津欣也・堀 正二
(同先進心血管治療学) 水野裕八・
小谷順一・南都伸介
70) シロスタゾールの使用により心不全症状と
徐脈性心房細動が改善した一例
(京都第一赤十字病院循環器科)
鳥居さゆ希・宮川浩太郎・白石 淳・
兵庫匡幸・八木孝和・島 孝友・岡田 隆・
河野義雄
(同救急部) 有原正泰
症例は陳旧性心筋梗塞の既往がある64歳男性.
2007年4月,買物から帰宅後突然の意識消失を認
め,救急隊到着時,心肺停止状態であったため,
蘇生術施行され当院搬送.来院時,心電図モニタ
ー上,心室細動(Vf)を呈し,薬剤及び電気的除
細動に抵抗のため経皮的心肺補助装置(PCPS)を
留置した.その後,Vfは停止し,第2病日,PCPS
を抜去し,以後Vfも認めず,第20病日に両心室ペ
ーシング機能付埋込型除細動器(CRTD)を留置
し,第39病日独歩退院となった.今回,院外心肺
停 止 症 例 に 対 し て 迅 速 な 蘇 生 術,PCPS留 置,
CRTD留置により独歩退院できた症例を経験した
ため,文献的考察を加えて報告する.
【症例】32歳女性.先天性心疾患(c-TGA+VSD
+PS)に対し根治術施行.2007年10月,心房細
動発作を生じ除細動目的で当院心臓外科入院.心
機能評価のため心エコー施行中に意識消失,モニ
ター上VTからVFを認めた.除細動後に完全房室
ブロックを認め,一時的ペースメーカーを要し
た.明らかな急性期誘因を認めず,ICD植込術を
施行.ペーシングカテーテルを指標に心室リード
留置を試行したが,Mesocardiaのため右室への
リード導入が極めて困難であった.術後経過は良
好であり,後日施行した心臓CTにて心臓・血管
の位置関係が比較的容易に把握可能であった.
【結
語】先天性心疾患術後症例にICDリードを留置す
る経験を得た.位置関係の把握が困難でリード操
作に難渋することが予想される症例においては術
前のCTなどによる評価が有用と思われた.
症例は56歳男性.労作時全身倦怠感を主訴に近
医を受診,心電図で心拍数40/minの心房細動と
胸部X線で心胸比67%の心拡大を認め当院を紹介
受診.心エコー図検査上右房及び左房拡大,下大
静脈拡張を認めた.同日の24時間ホルター心電図
で平均心拍数50/分,最小心拍数44/分,総心拍数
85,218拍/日であり,同日よりシロスタゾール
200mg/日及びアスピリン,ワーファリンの内服
を開始し外来にて経過観察した.二週間後に心胸
比は59%に減少,一ヵ月後24時間ホルター心電図
で平均心拍数69/日,最小心拍数47/分,総心拍数
97,704拍/日,心胸比57%と改善を認め自覚症状
も消失した.以上の経過から自覚症状は心不全症
状であったと考えた.今回シロスタゾールの使用
により心不全症状と徐脈性心房細動が改善した一
例を経験したので文献的考察を交えて報告する.
1098 第 105 回近畿地方会
68) QT延長症候群として経過観察中に心肺停
止となった一例
(滋賀医科大学医学部附属病院循環器内科不整脈センター)
城日加里・福山 恵・八尾武憲・中澤優子・
伊藤英樹・芦原貴司・杉本喜久・伊藤 誠・
堀江 稔
症例は23歳女性.小児期からQT延長症候群と診
断されていたが,失神歴・家族歴なく無投薬で経
過観察されていた.平成19年11月9日買い物中に
意識消失.AEDにて除細動施行され救急搬送さ
れ た. 搬入 時はJCS200, 血圧110/60mmHg, 脈
拍60/min整であった.蘇生後脳症に対し3日間
の脳低温療法を施行.第8病日には意識の回復を
認めβブロッカーの内服を開始し,ICD植え込み
後退院となった.遺伝子検査の結果,IKsチャネ
ルのpore形成部位の変異(KCNQ1 A344E)を認
めLQT-1と確定した.QT延長症候群無症候性キ
ャリアーでも20%は症候性となるとの報告もあ
り,初回イベントが致死的となり得る.QT延長
症候群のリスク・管理について若干の文献的考察
を含めて報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
71) 炭酸リチウム投与により高度な洞機能不全
をきたした一例
(大阪南医療センター第一循環器科)
北田博一・安岡良典・森澤大祐・足達英悟・
服部 進・野田善樹・安部晴彦・入野宏昭・
佐々木達哉・宮武邦夫
症例は72歳,男性.10年前より躁病の治療薬とし
て他院にて炭酸リチウムの投与開始,平成14年よ
り心拍数40台の洞性徐脈を認め,シロスタゾール
の内服にて経過観察されていた.平成20年1月全
身倦怠感,ふらつきを主訴に当院受診.Holter心
電図にて最大8.8秒の洞停止を認め,緊急入院と
なる.炭酸リチウムによる洞機能不全を疑い,内
服を中止し一時的ペースメーカー挿入にて経過観
察したところ,徐々に洞調律に回復した.その後
血中リチウム濃度が2.0mEq/lと中毒域であるこ
とが判明した.炭酸リチウムは主に精神科領域に
おいて広く使用されその中毒症状も知られている
が,適正な治療域にある患者でも出現することが
あり,その使用にあたっては注意を有する.炭酸
リチウムの洞機能不全の発生機序について若干の
文献的考察を加え報告する.
74) 第四脳室神経膠芽腫のより洞不全症候群を
呈した一例
(大阪赤十字病院心臓血管センター不整脈部門)
牧田俊則・西内 英・内山幸司
(同心臓血管センター循環器科) 近藤博和・
伊藤晴康・林富士男・稲田 司・田中 昌・
徳永元子
(同脳神経外科) 小室太郎
症例は30歳男性.頭痛で脳神経外科を受診し,頭
部CTで延髄を圧迫する第四脳室腫瘍を認めた.
頭痛と同時期より時に失神発作を来たしており,
心電図で症状に一致して約5−6秒の洞停止を認
めた.失神発作を繰り返すため一時ペースメーカ
挿入下で腫瘍摘出術を行ったところ,組織は神経
膠芽腫で延髄背側にも浸潤を認めた.以上より迷
走神経核への腫瘍の直接浸潤により迷走神経が刺
激されているものと診断した.迷走神経をブロッ
クする目的でジゾピラミドやロートエキスを使用
したが無効で,内因性刺激伝導系障害の可能性に
ついて心臓電気生理検査を行ったが問題は認めな
かった.予後は悪いものの若年で2年生存率が2
割程度あることから永久ペースメーカも考慮した
が,家人が希望せず様子観察とした.その後約半
年の経過で死亡した.
72) β-blocker点眼薬により洞不全を認めた一例
(大阪医科大学循環器内科) 中坊亜由美・
中小路隆裕・垣田 謙・村井基修・星賀正明・
石原 正・花房俊昭
75) 妊娠中に発作性房室ブロックをきたした一例
(京都府立医科大学循環器内科) 星野 温・
畔柳 彰・白石裕一・的場聖明・白山武司・
松原弘明
症例は65歳,男性.主訴は意識消失発作.2007年
1月,12月に意識消失発作を認め,近医を受診
し,ホルター心電図にて最大4secの洞停止を認め
たため,洞不全症候群を疑われ当科紹介となった.
当院入院後,β-blocker点眼薬を中止し,中止後
3日目に電気生理検査(EPS)を施行した.洞
結 節 回 復 時 間(SNRT) は1.4sec,AH110msec,
HV70msec,心房早期単回刺激法(APS)にて有
効不応期(ERP)は180msecであった.点眼薬の
関与を疑い,点眼30分後に再度EPS施行したとこ
ろ,SNRTは2.9secへ 延 長 し,APSに て もERPは
270msecと延長を認めた.今回,β-blocker点眼
薬により洞不全を認めた症例を経験したので,文
献的考察を加えて報告する.
症例は33歳女性,経産婦.第3子の妊娠6週頃よ
り妊娠悪阻が出現し症状が強い際に失神発作を繰
り返すようになった.失神時の転倒による下顎切
創も認めた.外来で施行したホルター心電図にて
発作性房室ブロック,最大6.7秒のpauseを認めた.
原因としてはレントゲン,血液検査に著変なく,
心エコー図でも続発性に房室ブロックをきたす疾
患を疑う所見は認めず,妊娠悪阻による迷走神経
過緊張と考えられた.治療方針としてペースメー
カー植込み適応の判断に苦慮したが,くり返し失
神し外傷も来たす事から事故のリスクを考慮しペ
ースメーカー植込みを行なった.妊娠悪阻症状の
軽減と共に発作性房室ブロックも改善し,現在事
故無く経過している.妊娠中の発作性房室ブロッ
クについて,文献的考察も加えて報告する.
73) ドネペジルによるQT延長からTorsades des
Pointesをきたした一例
(大阪府済生会中津病院循環器内科)
淀井景子・高谷具史・岡本匡史・畑 勝也・
木島洋一・北 智之・伊藤光哲・中島英人・
西川裕二・戸田常紀・瀬尾俊彦
(同総合診療内科) 川嶋成乃亮・小林克也
76) 除脈性不整脈に対しての経皮ペーシングの
有効性の検討
(済生会千里病院千里救命救急センター)
夏川知輝・中山雄平・伊藤賀敏・澤野宏隆
患者は83歳女性.高血圧,糖尿病,発作性心房細動,
アルツハイマー型認知症に対して近医で加療中で
あった(ドネペジル服用).2007年9月トイレで
嘔吐,顔面蒼白となり当院に夜間救急搬送,多量
の水様便を認めた.血清K 3.3mEq/lと低下,心電
図では洞調律で脈拍54/分,V1-3のR波増高不良
とQTc延長(645ms)を認めた.心エコーにて左
房拡大と心尖部の収縮低下を認めた.入院時より
心室性期外収縮を認め血清Kの補正を行ったが,
TdPを認めたためマグネゾールとリドカインを開
始した.しかし再びTdPとなったためイソプロテ
レノールを開始したところ,翌朝までにはTdPは
消失した.高齢化社会を迎え,ドネペジルの内服
が必要な症例は増加していくと思われるが,徐脈
や低カリウム血症をきたした際に,QT延長を伴
ってTdPをきたす場合があるので注意を要する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
除脈性不整脈に対して,pre-hospital,経静脈ペ
ーシングを行うまでの処置として,AHAのguideline2005でも経皮ペーシングが推奨されている.
また,経皮ペーシングの有効率は90%以上との報
告もある.しかし,自施設での経験では経皮ペー
シングは無効の場合が多く,有効性の検討を行っ
た.2006年10月から2008年3月まで,ペーシング
の必要な除脈性不整脈の患者さんに対して,経皮
ペーシングを行った後,脈波の確認,基礎疾患,
内服薬,ペーシングパッド貼付位置,刺激電流,
刺激頻度,deviceを記録した.その結果,どの
factorにも関係せず,全ての症例において経皮ペ
ーシングは無効であった.また,動脈圧monitoring,経静脈ペーシングを行った一症例について報
告する.
77) ペースメーカー植込後皮膚圧迫壊死を繰り
返したが,ゴアテックス被覆・大胸筋下留置で経
過良好となった一例
(市立豊中病院心臓病センター循環器科)
中本 敬・中田敦之・植良芙彌・宮岡宏治・
松本 悟・野嶋祐兵・築山真希・中川 理
症例は93歳男性.完全房室ブロックにてH10年左
鎖骨下にぺースメーカー植込.H15年1月ジェネ
レーター交換.H16年ジェネレーターポケット部
の皮膚が圧迫壊死し,左大胸筋下に新しいジェネ
レーターを挿入.H18年再度ジェネレーター部の
皮膚が自然に欠損して露出.一時的体外式ペース
メーカー留置し,左肩−前胸部のジェネレーター
抜去.金属アレルギーを疑い,2週後にゴアテッ
クス心膜パッチでジェネレーターを被せ,右大胸
筋下に新たにペースメーカーを挿入.以後1年半
経過しているが,ペースメーカーの経過は植込部
の皮膚とともに順調である.ジェネレーターの大
胸筋下植込のみでは皮膚圧迫壊死を再発防止でき
ず,ゴアテックス被覆により対処できた症例を経
験したので報告する.
78) カテーテルアブレーションが有効であった
頻脈誘発性心筋症の1症例
(関西労災病院循環器科) 南口 仁・
渡部徹也・南都伸介・上松正朗・両角隆一・
粟田政樹・大西俊成・飯田 修・世良英子・
赤堀宏州・矢野正道・池岡邦泰・岡本 慎・
田中宣暁・安井治代・永田正毅
症 例 は72歳, 女 性. 労 作 時 呼 吸 苦 を 主 訴 に 来
院された.心電図上153回/分の規則正しいnarrowQRS頻拍を認めた.頻拍はATPにて停止せず,
頻脈誘発性心筋症に伴う心不全の増悪と考えられ
た.利尿剤,ジギタリス製剤等にて心不全コント
ロールを行った後にカテーテルアブレーションを
施行した.CARTOでのマッピングの結果,右房
前面下端を最早期とするfocal ATであった.最早
期部位に対し4mm tipにて通電を開始するも十
分なエネルギーが得られず,8mm tipへ変更後,
約6秒にて頻拍が停止した.アブレーション成功
部位はP波に比べ30msecの早期性を有し,単極誘
導にてQS patternを示していた.カテーテルアブ
レーションが有用であった頻脈誘発性心筋症の1
症例を経験したので報告する.
79) 心房頻拍に対する焼灼術により心不全増悪
からの離脱が可能となったtachy-induced cardiomyopathyの1症例
(大阪大学循環器内科学) 宇都宮紫・
坂田泰史・大森洋介・玉井敬人・中谷和弘・
大藪丈太・稲垣美和子・松本 專・樋口香織・
玉置俊介・大津欣也・堀 正二
(同先進心血管治療学) 水野裕八・
小谷順一・南都伸介
【症例】60歳女性.労作時呼吸困難感を主訴とし
当科入院.来院時LVEFは24%,心拍数130/分と
頻拍を呈していたが,当初は急性心不全に伴う洞
性頻拍と考えられた.降圧利尿により症状改善し
たが,第7病日に急性増悪を来した.心拍数が比
較的一定であること,ATPによる停止効果が一部
認められたこと,停止時のP波形が異なっていた
ことより心房頻拍の併存が疑われ,電気生理学的
検査施行.洞結節付近および右房側壁に起源を有
する複数の心房頻拍が確認された.計3回に渡っ
て心筋焼灼術を行い,頻拍は根治.以後の経過は
良好であり,退院6ヶ月後にはLVEFは45%まで
回復した.【結語】心房頻拍の焼灼により心不全
状態からの離脱が可能となった症例を経験した.
頻拍起源が洞結節近傍であったため,その存在診
断に極めて難渋した一例として報告する.
大阪国際会議場(2008 年 6 月) 1099
80) 難治性VFから心静止となるもPCPSにより
救命できた閉塞性肥大型心筋症(HOCM)の一例
(大阪医療センター循環器科・臨床研究部)
石津宜丸・廣岡慶治・中川彰人・小出雅雄・
岩破俊博・篠田幸紀・小向賢一・山戸昌樹・
佐々木典子・山元博義・川口義廣・是恒之宏・
楠岡英雄・安村良男
症例は59歳,男性.心電図異常で近医を受診し
HOCMの診断で内服加療されていた.平成19年
11月28日,地下街で倒れているところをモニタ
ーカメラで発見され救急隊要請.現着時VFであ
り,AEDにより除細動が行われたが心静止とな
り当院へ搬送.直ちにCPRを開始するが,頻回に
VFを繰り返し血行動態が維持できないためPCPS
とIABPを導入した.心エコー上,左室壁運動は
ほぼ無収縮の状態となったが,徐々に改善し,
PCPS・IABP・人工呼吸器から離脱でき,慢性期
にICDを植え込み独歩退院となった.近年AEDの
普及により心肺停止例の独歩退院が増加している
が,bystanderなく,基礎心疾患をもつ症例の予
後は依然悪い.今回,心静止から心収縮能の改善
の経過を観察できたHOCM症例を経験したので
報告する.
81) 突然死の家族歴をもつ心室中部肥大型閉塞
性心筋症MVO-HCMにcibenzoline投与が有効と考
えられた一例
(川崎病院循環器科) 斉藤清子・高田昌紀・
福永匡史・川瀬良太・善積 透・蓮池俊明・
丸山貴生
(同予防医学部) 竹村 芳
症例は58歳女性.平成11年6月に心臓超音波検査
ならびに心臓カテーテル検査,心筋生検でMVOHCMと診断.以後metoprolol開始となった.平成
19年までに左室内圧較差は改善せず,cibenzoline
投与直後に左室内圧較差の低下を確認したため追
加投与を開始した.心室中部閉塞性肥大型心筋症
(MVO-HCM)は比較的稀な疾患であり,著明に
肥厚した左室中部心筋により収縮期に左室内腔が
心基部と心尖部に2分されるという画像的特徴を
持つ.一方,肥大型閉塞性心筋症の左室内圧較差
は予後規定因子の一つであり早期のβ遮断薬導入
が必要とされている.今回私たちは突然死の家族
歴を持ち,cibenzoline追加投与が左室内圧較差の
減少に有効であったMVO-HCMを経験したので
報告する.
82) 組織生検にて巨細胞を認めた難治性心不全
の一例
(大阪大学医学部附属病院循環器内科)
小西正三・中谷和弘・坂田泰史・水野裕八・
小谷順一・山口 修・坂田泰彦・平野賢一・
大津欣也・堀 正二
【症例】70歳女性【主訴】労作時呼吸困難【現病
歴】2007年4月より歩行時の動悸,息切れを認め,
前医に心不全入院を繰り返し,強心薬投与を必要
とした.原因不明のため,精査加療目的に当院に
転院となった.【入院経過】転院後両心不全症状
が増悪し,強心薬再開にても改善なく,低拍出量
症候群を伴うショック状態に陥った.右室心筋生
検を施行したところ,著明な炎症細胞の浸潤・心
筋の線維化および多核巨細胞を認めた.翌日より
ステロイドパルス,免疫抑制療法を行い,心機能
は著明に改善し,強心薬離脱可能となり,独歩退
院した.巨細胞性心筋炎と考え,ステロイドパル
ス,免疫抑制療法を行ったが,組織所見は心サル
コイドーシスとの鑑別を要した興味深い一例であ
り,文献的考察を加えて報告する.
1100 第 105 回近畿地方会
83) 比較的急速に心機能低下が進行し,心内膜
心筋生検にて診断しえた心サルコイドーシスの1
症例
(府中病院循環器内科) 紙森公雄・
柳 志郎・西山裕善・竹下宏明・岩田真一・
太田剛弘
症例は53歳女性,平成18年2月に胸痛を主訴に受
診.負荷Tlシンチで心筋虚血が疑われたが,冠動
脈造影は正常で,心エコー上の収縮能は正常であ
ったため経過観察となった.同年8月に労作時の
息切れを主訴に再受診,心エコーで左室の拡大と
壁運動の低下(EF 38%)を指摘された.その後,
内服治療で症状は改善したが,左室収縮能は改善
しなかった.平成19年10月に労作時の息切れが増
悪し,11月に入院となった.入院時の心エコーで
心室中隔基部の菲薄化を指摘,心サルコイドーシ
スが疑われた.他臓器にサルコイドーシスを示唆
する所見なく,診断のため心内膜心筋生検を施行
し,特徴的な病理所見から心サルコイドーシスと
診断した.比較的急速に心機能の低下が進行し,
心内膜心筋生検にて心サルコイドーシスを診断し
えた症例を経験したので報告する.
84) 心嚢水貯留をきたした全身性アミロイドー
シスの一症例
(近畿大学奈良病院循環器内科) 清水良栄・
溝部道生・羽場一直・上森宣嗣・胡内一郎・
横田良司・城谷 学・服部隆一
症例は55歳の女性.平成19年初旬より労作時呼吸
苦を自覚.徐々に悪化するため平成19年10月当科
受診.心エコー上心嚢水貯留を認めた.入院をす
すめるも拒否され外来にて利尿剤を投与するも,
心嚢水は減少せず.平成19年11月精査加療のため
入院.心嚢水はヒアルロンサン高値.また胸部
CTにて結節を疑う所見あり,診断のため肺生検
施行.結果,AL型アミロイドーシスと診断.骨
髄生検,心筋生検ともAL型アミロイドーシスの
診断であった.その後,下肢浮腫,胸水貯留等心
不全症状が前面に出現.利尿剤により治療を行っ
た.今後血液内科にて自家移植等積極的治療を行
う予定である.心嚢水貯留をきたした心アミロイ
ドーシスの一例を経験したので報告する.
85) Coronary angio CTにより冠動脈狭窄が認
められたアミロイドーシスの一例
(京都大学人間健康科学系専攻) 住 京子・
野本慎一
(福田総合病院) 藤島真須美
66歳男性.H17年頃から体重減少,下痢と便秘を
繰り返し,H19年初め膀胱神経障害を自覚し,他
院で治療を受けていた.H19年9月から両下肢歩
行障害があり,血管外科を受診したが,ASOは認
めず.初診時問診で姉がアミロイドーシスと判明.
心電図で2,3,aVfに異常Q波,2段脈,心エコ
ー検査で心室中隔の肥厚を認めた.1ヵ月後に胸
水貯留,下腿浮腫が認められた.他院で遺伝子分
析の結果,Glu61Lys型アミロイドーシスと判明.
この型には心臓障害の報告例はない.Coronary
angio CTでRCA,LADに有意の狭窄を認めた.ア
ミロイドーシスは壁内冠動脈へのアミロイド沈着
は報告されているが,epicardial coronary Aの狭
窄合併症の報告は稀である.文献的考察を加えて
報告する.
86) 覚醒剤による急性心筋障害および横紋筋融
解症をきたした一例
(神戸医療センター循環器科) 平沼永敏・
高野貴継・正井博之・清水雅俊
(同内科) 三輪陽一
40歳男性.覚醒剤の使用を1週間前に家族に告白
し父宅で監視下にあった.数日前からトイレ歩行
時に息切れがみられていたが,突然不穏となった.
救急来院直後に痙攣が出現し,意識障害をきたし
たため人工呼吸管理となった.心エコーでは左室
拡大とびまん性収縮障害(Dd/Ds 58/51mm,FS
12.0%)
,右心拡大,および肝うっ血が観察され
た.また,横紋筋融解症を合併しており心不全治
療に加えて透析を施行したが第4病日に死亡され
た.尿中薬物スクリーニングでは覚醒剤のメタア
ンフェタミンとその代謝物,エフェドリン,大麻
の代謝産物が検出された.覚醒剤による心筋障害
はカテコラミンの放出が関与するとされ,心筋炎
様心筋障害,急性心筋梗塞,拡張型心筋症,肥大
型心筋症などの多彩な臨床像を呈するため鑑別診
断上,留意が必要である.
87) 急性リウマチ性心筋炎が原因と考えられた
重症心不全の1例
(奈良県立医科大学第一内科) 遊田泰匠・
尾上健児・左官弘和・西田 卓・守川義信・
竹本康宏・添田恒有・染川 智・石神賢一・
竹田征治・中谷公彦・川田啓之・堀井 学・
中嶋民夫・上村史朗・斎藤能彦
(坂口クリニック) 坂口泰弘
症例は23歳男性.平成19年11月24日より咽頭痛お
よび発熱が出現し,同27日近医を受診した.A群
溶連菌陽性,Scr 1.7mg/dlから急性糸球体腎炎と
診断され抗生剤治療が開始された.12月4日より
呼吸苦が出現し,同5日近医を再診した.低酸素
血症および肺うっ血が認められ同日当科に紹介さ
れた.心エコーで全周性の左室壁運動低下(EF
20%)が認められCCUに入院した.集中治療に
より酸素化,肺うっ血および腎機能は次第に改善
し,12月12日に一般病棟に転棟した.その後も左
室壁運動低下が残存(EF 49%)するため,12月
25日に心筋生検が施行された.心筋生検では巣状
および細胞周囲型の線維化が認められ心筋炎後の
変化が示唆された.典型的な病理像は認めないが,
経過からリウマチ性心筋炎が原因と考えられる重
症心不全症例を経験したので報告する.
88) 集学的治療により救命しえた劇症型心筋炎
の一症例
(奈良県立医科大学) 滝爪章博・石神賢一・
左官弘和・西田 卓・守川義信・尾上健児・
竹本康宏・添田恒有・竹田征治・川田啓之・
堀井 学・上村史朗・斎藤能彦
症例は49歳男性.平成19年11月1日頃より感冒症
状あり,近医で内服処方された.11月6日から呼
吸困難が出現し,胸部レントゲン上肺うっ血を認
め11月7日に紹介された.来院時,血圧は測定不
可能であり,心臓超音波検査にてEFは10%以下
のびまん性壁運動低下を認めた.PCPSを挿入し,
緊急心筋生検の施行後にCCU管理とした.第2
病日よりγグロブリン大量療法(1g/kgx 2日
間)を施行した.さらに心筋生検組織に好酸球浸
潤を認めたため,好酸球性心筋炎を疑い第6病日
よりステロイドパルス療法(1g×3日間)を施
行した.その後心機能は緩徐に改善し,第17病日
にIABP併用下にPCPSを離脱した.第42病日には,
心機能は心エコー上EF 58%まで改善した.今回
我々は,劇症型心筋炎を救命しえた一症例を経験
したので,文献的考察を加えて報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
89) 多彩な心電図所見を経過して洞調律へ復帰
し心機能も正常化した急性心筋炎の1例
(東住吉森本病院循環器科) 八木 匠・
坂上祐司・武田久輝・斉藤聡男・兵頭永一・
岡島一恵・広瀬 真・西田幸生・瓦林孝彦
症例は62歳男性.アルコール性肝硬変で他院入院
中に発熱・咳出現し抗生剤治療を受けていた.3
日後息苦しさと頻脈で心電図検査実施され,頻拍
性心房細動,急性心筋梗塞疑いで緊急転院となっ
た.緊急冠動脈造影では正常冠動脈で,左室造影
でも典型的な蛸壺型ではなく前壁から心尖部へか
けての壁運動異常がみられ,CRP,CK,CKMB
の軽度上昇,トロポニンT2.0以上の上昇もあり
急性心筋炎と診断した.IABP,SGカテーテル
を挿入し,極力カテコラミンを使用せず加療し,
PCPS使用せずIABPのみで改善傾向となり第6病
日抜去した.心房細動・心房粗動・房室ブロッ
ク・洞不全症候群などの多彩な心電図所見を経過
しながら洞調律へ自然復帰し,心機能は正常まで
改善した.経過が貴重な症例と思われ報告する.
90) 劇症型心筋炎に急性肺障害を合併し,
PCPS
・ECMOを使用することで救命に成功した症例
(京都大学循環器内科) 田崎淳一・
田村俊寛・当麻正直・尾野 亘・北 徹・
赤尾昌治・木村 剛
症例42歳男性.5日前から39℃発熱あり呼吸困
難にて当院受診.来院時収縮期血圧70mmHgであ
り,心電図にて完全房室ブロック,心エコーにて
高度びまん性左室壁運動低下を認め,劇症型心筋
炎,心原性ショックと診断した.直ちに気管挿管
下にIABP,PCPS開始し,第4病日以降徐々に心
収縮は回復の兆候を認め,血行動態は改善に向か
ったものの,胸部X線にて全肺野にスリガラス状
陰影および著明な低酸素血症みとめ,ARDS併発
と診断.ARDSによる低酸素血症遷延したため,
ECMOを 導 入 し 第 7 病 日 にPCPS離 脱 に 成 功 し
た.ステロイド少量持続投与行いECMO離脱し,
第22病日には抜管,第55病日には独歩退院となっ
た.劇症型心筋炎に急性肺障害を合併し,PCPS,
ECMOを使用することで救命に成功した症例を
経験したので報告する.
91) 妊娠早期に発症した急性心筋炎の一例
(愛仁会高槻病院循環器内科) 笠松 悠・
茂真由美・田頭 達・村井直樹・高井栄治・
高岡秀幸
症例は30歳 女 性 妊娠14週 倦 怠 感 で 発症 し,
ECGで広範囲誘導のST上昇と低電位差,胸部Xp
で心拡大と胸水,UCGで多量の心嚢水と心筋腫
大を認め心筋炎の診断で入院加療となった.侵襲
的加療は極力避ける方針としたが,来院後まもな
く血圧が低下し心嚢ドレナージを施行した.心
嚢水は浸出性で多数の好酸球を認めた.その後
少し遅れて末梢血中の好酸球が5000/μl以上に増
加.好酸球増多症の診断・治療基準に従ってPSL
を0.5mg/kg/dで投与開始し,速やかに症状と検
査異常値は改善した.その後は大きな問題なく経
過し,妊娠41週で3300gの健児を出産した.妊娠
中であり心筋生検は未施行であるが,臨床的には
好酸球性心筋炎と考えられ,PSLの投与が奏功し,
妊娠を継続し得た1例を報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
92) 急性右心不全で発症した右室限局性劇症型
心筋炎の1例
(大阪警察病院心臓センター内科)
根本貴祥・廣谷信一・小笠原延行・柏瀬一路・
平田明生・松井万智子・松尾浩志・肥後友彰・
和田 暢・増村雄喜・樫山智一・上田恭敬・
児玉和久
症例は74歳男性.平成18年12月25日,全身倦怠感
を主訴に近医受診.ECG異常にて当科紹介.来
院時,ECG上はIII,aVF,V1-3で陰性T波,V1-3
でST上昇.UCG上,左室の局所的壁運動低下,
収縮能異常は認めず,右心拡大像,左室の圧排像
を認めた.来院後ショック状態となった.冠動脈
造影施行し右冠動脈は起始部より造影されず左冠
動脈より側副血行路を認め,かつCI 1.4ml/min,
PCWP 12mmHg,RA 16mmHgと右心不全と考え
られた.輸液,カテコラミンでは血行動態は保持
困難であり,PCPS,IABP使用.経過中,右心不
全は軽快することなく3月3日死亡退院された.
病理解剖では右室に梗塞後の病変は認めず,心筋
炎と考えられる炎症像を認めた.ウィルス抗体価
ペア血清ではアデノウィルス,コクサッキーウィ
ルスB4の抗体価の上昇を認め心筋炎と考えられた.
93) 心機能低下の原因精査にてchagas病が判
明した一例
(滋賀県立成人病センター循環器科)
山本絵里香・張田健志・石井 充・天谷直貴・
武田晋作・和田嗣業・岡田正治・春名徹也・
羽田龍彦・小菅邦彦・池口 滋
(兵庫県立尼崎病院循環器科) 福原 怜
(慶応義塾大学熱帯医学寄生虫学教室)
三浦左千夫
症例は64歳女性,日系ブラジル人.健診で心電図
異常を指摘,他院にて陳旧性心筋梗塞として加療
を受けていた.2005年8月に白内障手術の術前検
査で心電図異常を指摘され当科紹介となった.心
電図は心室性期外収縮の多発,左軸偏位,完全右
脚ブロックを認め,心臓超音波検査で後下壁・側
壁の壁運動低下,左室拡大,大動脈弁及び僧帽弁
閉鎖不全を認めた.心臓カテーテル検査を勧める
も拒否されたため拡張型心筋症疑いにて投薬を開
始した.その後本人が日系ブラジル人であること
よりchagas病を疑い精査を行ったところ血液培
養で原虫(T.cruzi)が確認され,chagas病が確
定した.chagas病は日本では稀であるが南米で
は2千万人の感染者がいるcommon diseaseであ
る.今回心機能低下の原因精査にてchagas病が
判明した一例を経験したので,報告する.
95) 急性感染症における心筋トロポニンT陽性
の意義
(大阪船員保険病院内科) 谷 明博・
小濱章夫・宅間克彦・越智 聡・高光義博
【目的】急性感染症におけるトロポニンT(TT)
陽性の意義を検討した.【方法】急性肺炎で入院
の連続35例を,TT陽性例(A群12例)と,TT陰
性例(C群23例)に分類し,血液検査,心電図検
査を施行し予後を検討した.【結果】急性期に心
電図変化が見られた割合は,A群が高かった(A
群:38%,C群:9%,P=0.04).最大CRP値は
A群で低い傾向がみられた(A群:12.8±8.9,C群
:19.3±11.6,P=0.10)
.LDHはA群で高い傾向が
みられた(A群:342±205,C群:257±85,P=
0.09).3ヶ月後の予後は,A群で死亡3例,肺炎
再発2例の5例にイベントがみられたが,C群で
は肺炎再発の1例のみであった(P=0.01).
【結論】
トロポニンTは心筋障害および予後と関連してい
ることが示唆された.
96) 冠動脈疾患を合併し,左室肥大・びまん性左
室機能低下を呈したミトコンドリア脳筋症の一例
(京都大学循環器内科) 田崎淳一・
田村俊寛・尾野 亘・北 徹・赤尾昌治・
木村 剛
症例65歳女性.35歳時糖尿病と診断されインスリ
ン導入.50歳代より緩徐に両側感音性難聴,両下
肢筋力低下を認めていた.2006年10月より労作
時息切れを認め,同年12月心不全にて当科入院.
BNP 1719pg/ml,LVDd 40mm,EF 35%,全周性
左室肥大とびまん性左室壁運動低下を認めた.冠
動脈造影にて多枝病変あり,左前下行枝にPCI施
行.カルベジロール・カンデサルタン導入後EF
67%まで改善した.後の精査で高乳酸血症,髄液
中乳酸値上昇,大脳基底核石灰化,筋生検にて赤
色ぼろ線維を認めミトコンドリア脳筋症と診断し
た.本症の心合併症は心伝導障害がよく知られて
いるが,長期の糖尿病歴により冠動脈疾患を合併
し,左室肥大・びまん性左室機能低下を呈した一
例を経験したので報告する.
94) 急性心不全を来たした甲状腺中毒症の3症例
(関西医科大学附属枚方病院循環器科)
野田哲平・山本哲史・井上雅之・山内 梓・
高橋弘毅・宮坂陽子・佐久間孝雄・妹尾 健・
岩坂壽二
97) 診断に苦慮した心Fabry病の一例
(大阪医療センター) 小向賢一・中川彰人・
岩破俊博・小出雅雄・石津宜丸・山戸昌樹・
佐々木典子・山元博義・廣岡慶治・川口義廣・
楠岡英雄・安村良男
症例1は83歳女性.気管支炎後に,発熱,洞性頻
脈,手指振戦,意識障害を来たし入院となった.
症例2は65歳女性.感冒後に,発作性心房細動を
来たし,呼吸困難,意識障害を認め搬送入院とな
った.症例3は81歳の甲状腺中毒症の既往がある
女性.重症大動脈弁狭窄症の為入院中であったが,
突然の頻脈性心房細動と心不全を来たした.3症
例ともに甲状腺中毒症で,急性心不全を来してい
たが,心エコーは症例1,2は広範な壁運動障害,
症例3は蛸壺形心筋症像を示した.心不全,甲状
腺中毒症の治療を並行して行い,全ての症例で心
不全から離脱し壁運動も正常化した.一方で,心
機能改善時点でも甲状腺ホルモンの過剰状態は持
続していた.今回経験した症例から甲状腺中毒症
に伴う急性心不全発症の要因・病態を文献的考察
を踏まえ検討する.
症例は65歳男性.平成10年に完全房室ブロックに
対し他院にてペースメーカー植え込み施行.心エ
コー上全周性壁肥厚(14mm)認めHCMが疑われ
たが右室心筋生検査では有意所見認めず経過観察
とされた.平成14年には心不全症状出現し,平成
17年 以 降 はBNP高 値(250-350pg/ml) で 経 過 し
た.平成18年当科にてジェネレータ交換時,左室
内腔拡大(LVDd69mm)と後壁の菲薄化を認めた.
平成19年9月突然心肺停止となったがAEDにて
蘇生.右室心筋生検にて核の空胞化を認め,血清
α-galactosidase著明低値であり,心外性病変を
認めないことから心Fabry病と診断し,酵素補充
療法を開始した.診断に苦慮した心Fabry病の一
症例を経験したので,若干の考察を加えて報告す
る.
大阪国際会議場(2008 年 6 月) 1101
98) 心臓再同期療法を施行し術直後より左室拡
張能の改善を認めた心ファブリー病の一例
(神戸大学循環器内科) 鈴木 敦・
大西哲存・福田優子・呉羽布美恵・福沢公二・
石田達郎・吉田明弘・川合宏哉・平田健一
60歳男性.47歳時に心電図異常を指摘され当科受
診,心エコー図にて非対称性心室中隔肥大を認め,
薬剤治療が開始されたが,50歳時に治療を中断し
た.59歳時に労作時呼吸困難が出現し近医にて加
療されたが,1年後に心不全の急性増悪となり当
科に緊急入院となった.心エコー図にて左室の著
明な全周性壁肥厚と高度収縮能低下を認め,αガ
ラクトシダーゼ活性低下と心筋生検所見より心フ
ァブリー病と診断した.心室性不整脈,低左心機
能に対し,両室ペーシング機能付埋込型除細動器
移植術が行われた.術直後の心エコー図にて左室
流入血流速度波形の改善を認め,臨床症状も改善
し,その後に左室収縮能の軽度改善を認めた.心
ファブリー病に対する心臓再同期療法の報告は無
く,改善過程を詳細に観察できたため,文献的考
察も加え報告する.
99) 拡張相肥大型心筋症に類似した経過をた
どった心Fabry病の1例
(兵庫医科大学病院内科学循環器内科)
田丸裕人・岡 克己・今仲崇裕・合田亜希子・
中尾伸二・江角 章・川端正明・辻野 健・
増山 理
(同冠疾患科) 大柳光正
症例は35歳女性.20歳時に糖原病を疑われ精査を
受けるも確定診断に至らず,26歳時に閉塞性肥大
型心筋症と診断され経過観察されていた.心エコ
ーでのフォローで左室拡張末期径の拡大と駆出
率の低下を認めるようになり,H19年5月に当科
紹介受診となった.心エコーで左室拡張末期径は
72mmと拡大し,全周性に壁運動は低下し駆出率
は22%と低下しており,造影MRIでは左室心筋の
広範囲な造影遅延を認めた.心筋生検では心筋細
胞の肥大とレース状の空砲変性,PAS染色とトル
イジンブルー染色陽性の沈殿物を認めた.これら
よりFabry病が疑われ,αガラクトシダーゼ活性
を測定したところ14.4AgalUと低下しており,確
定診断に至った.女性のFabry病は報告も少なく
文献的考察を含め報告する.
100) 2年半にわたり酵素補充療法を施行した心
Fabry病の1剖検例
(住友病院) 辻井卯衣・宮脇昌美・
光定伸浩・有田幸生・上田浩靖・平岡久豊
症例77歳男性.53歳時左室肥大(Dd/Ds:33mm
/19mm,IVS/PWT:25mm/20mm) を 指 摘 さ れ
る.62歳時にalpha-galactosidase活性の低下を認
め,遺伝子診断と併せて心Fabry病と診断された.
利尿剤の投与が行われていたが,72歳より心拡
大(Dd/Ds:62mm/47mm,IVS/PWT:15mm/
10mm)を認め心不全症状を呈するようになった.
75歳時2回目の心不全入院を契機にピモベンダン
と酵素補充療法を導入.その後βblockerの少量
投与を行うも心不全による入退院を繰り返してい
た.76歳時に在宅酸素療法の導入を行い以後1年
半は心不全コントロールは良好.一時BNPは750
→140pg/mlまで低下したが,酵素補充療法開始
から2年半経過したH19年12月に難治性心不全に
より死亡した.本例のように酵素補充療法を施行
した剖検例は少ないと思われたため,文献的考察
を加えて報告する.
1102 第 105 回近畿地方会
101) 拡張型心筋症を呈した先端巨大症の2例
(大阪府済生会中津病院循環器内科)
伊藤光哲・高谷具史・畑 勝也・木島洋一・
北 智之・岡本匡史・中島英人・西川裕二・
淀井景子・戸田常紀・小林克也・瀬尾俊彦
(同総合診療内科) 川嶋成乃亮
104) たこつぼ型心筋症による心破裂の一例
(神戸市立医療センター中央市民病院)
金 基泰・加地修一郎・田邊一明・谷 知子・
山室 淳・木下 慎・民田浩一・江原夏彦・
尾田知之・小堀敦志・片山美奈子・北井 豪・
山根崇史・安 珍守・盛岡茂文・古川 裕
症例はともに60歳男性.1例は2007年5月に,1
例は2007年12月に労作時息切れを認め当院受診
し,胸部レントゲンで心拡大と1例には肺水腫を
認め,1例は慢性心不全,1例はうっ血性心不全
の診断で入院となった.心エコーで左室拡大とび
まん性に壁運動低下を認め,駆出率はそれぞれ21
%・14%であった.冠動脈造影で有意狭窄を認め
ず,拡張型心筋症と診断した.また,身体所見よ
り先端巨大症を疑い精査したところ,採血で成長
ホルモンとインスリン様成長因子が異常高値で,
頭部MRIにて下垂体腺腫を認め,先端巨大症と確
定診断し,現在,摘出手術を検討している.先端
巨大症は心血管合併症として心肥大を呈すること
は知られているが,拡張型心筋症を呈するのは比
較的稀であり,類似する症例を連続して経験した
ため,若干の考察を加えて報告する.
【症例】71歳,女性【主訴】胸痛【現病歴】2008
年2月,安静時胸痛出現し当院救急外来を受診.
心電図にてV1-6の異常Q波,V2-6,I,aVLのST上
昇を認め,緊急冠動脈造影を施行.結果,正常冠
動脈で,左室造影では収縮期に典型的なたこつぼ
型を呈しており,たこつぼ型心筋症と診断した.
その後心電図では広範な陰性T波を認めた.第5
病日に突然心肺停止となり,心肺蘇生の甲斐なく
死亡された.心エコー図で全周性の心嚢水貯留を
認めたため,心破裂が疑われた.
【考察】たこつ
ぼ型心筋症における心破裂の合併は稀とされる
が,これまでST上昇持続例やCRP高値の例など
で報告されている.本例のように心破裂による死
亡は稀有と考えられ,報告する.
102) 第一子出産後に診断された冠動脈奇形合併
左室緻密化障害の一症例
(東大阪市立総合病院) 久米清士・
木島祥行・中川雄介・西部 彰・松尾安希子・
国重めぐみ・波多 丈
105) 前立腺生検後にQT延長を認めた1例
(京都府立医科大学付属病院循環器内科大学)
畔柳 彰・白石裕一・小出正洋・星野 温・
西澤信也・榎本聖子・白山武司・松原弘明
24歳女性.第一子出産後の産褥婦.心不全の既往
や突然死の家族歴はない.幼少時より僧帽弁逆流
を指摘されていたが無症状.妊娠40週の出産時で
妊娠前と比べ17kgの体重増加と著明な下腿浮腫
を認めた.特に問題なく自然分娩できたが,産後
5日目の深夜,突然起坐呼吸に陥った.産褥性心
筋症が疑われたが,経胸壁心エコーで左室後壁心
尖部に肉柱の発達と心筋内へのカラードップラー
の流入を認めたため,左室緻密化障害による心筋
症が示唆された.冠動脈疾患検索目的で行った64
列マルチスライスCTでは左前下行枝が右冠動脈
円錐枝より分枝し,左冠動脈が主幹部から対角枝
のみを分枝している冠動脈奇形を認めた.本症例
のように周産期に急性心不全で診断された左室緻
密化障害は報告が少なく興味深いため症例提示す
る.
103) ペースメーカー植込後にタコツボ型心筋症
を発症した1例
(兵庫医科大学冠疾患科,循環器内科)
中村浩彰・金森徹三・峰 隆直・清水宏紀・
李 正明・辻野 健・大柳光正・増山 理
【症例】86歳女性,主訴は労作時呼吸苦,心電
図にてHR40bpmの徐脈性心房細動,四肢誘導,
V4-6に陰性T波を認め,心エコーでは左室壁運動
は正常であった.労作時呼吸苦を認める徐脈性心
房細動に対しVVIペースメーカー植込み術を施行
した.植込直後の心電図では心室ペーシング波形
にて四肢誘導,V4-6のT波は陽転化していたが翌
日にはT波が陰性化し,心エコーで左室乳頭筋レ
ベルから心尖部にかけて左室壁運動低下を認め
た.その間,胸痛等の症状はなかったが術後7日
後に呼吸苦,胸水貯留を認め心不全加療にて改善
した.冠動脈造影では狭窄病変を認めず二カ月後
には左室壁運動は改善していた.ペースメーカー
植込後に無症候性タコツボ型心筋症を発症したの
で報告する.
症例は77歳男性.高血圧,慢性心房細動で内服加
療中.過去QT延長の指摘はない.前立腺生検を
施行中に一過性徐脈(心拍数20台)と軽度の血圧
低下を認めた.徐脈に一致して浮遊感を認めたが
血圧は安定していた.その後も心拍数40程度の徐
脈が持続し,心電図上巨大陰性T波とQT延長を
認めた(QT/QTc 0.58/0.53秒).電解質異常,薬
剤の関与,脳血管疾患,心筋炎の所見はなかった.
経過中PVCを4連発まで認めたが,持続性VT,
Vfはなかった.QTも短縮していったが完全には
回復せず,徐脈も残るためペースメーカーを植込
んだ.冠動脈造影で有意狭窄なく,左室造影で心
尖部よりに壁運動の低下を認めた.侵襲検査に伴
い,たこつぼ型心筋症を発症し,巨大陰性T波を
伴うQT延長をきたした可能性が考えられた.
106) たこつぼ型心筋症発症時の心電図変化を経
時的に記録できた一例
(大阪警察病院心臓センター内科)
松井万智子・肥後友彰・松尾浩志・樫山智一・
増村雄喜・和田 暢・岡田佳築・村川智一・
根本貴祥・平田明生・柏瀬一路・小笠原延行・
廣谷信一・上田恭敬・児玉和久
症例は70歳女性.労作時のふらつきが出現し,精
査目的で当科受診.心電図上,洞徐脈と約5秒の
洞停止を認めたため,洞不全症候群と診断し,入
院となった.恒久ペースメーカー(DDDモード)
植え込み術を施行し,合併症等なく終了.しかし,
術翌日に12誘導心電図上の自己波形で巨大陰性T
波と,血液検査上トロポニン値の上昇を認めたた
め,緊急心臓カテーテル検査を施行した.冠動脈
造影は有意狭窄なく,左室造影で心尖部を中心と
する広範囲の収縮低下と基部の過収縮を認め,た
こつぼ型心筋症と診断した.発症時モニター心電
図を装着しており,T波の陰転化が約4時間かけ
て増高と減高を繰り返しつつ,徐々に陰転化が深
くなっていく様子が捉えられた.発症直後の心電
図変化を捉えられた貴重な症例と考え,ここに報
告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
107) von Recklinghausen病に動脈破裂を合併し,
血管内治療による止血に成功し救命し得た一例
(京都大学循環器内科) 加藤義紘・
当麻正直・齋藤成達・尾野 亘・北 徹・
赤尾昌治・木村 剛
症例53才女性.神経線維腫症I型に合併した両側
副腎腫瘍(褐色細胞腫)に対し2004年に右副腎を
摘出した.2007年2月には左副腎を摘出したが術
後に背部痛を訴えショック状態となった.CTで
上腸間膜動脈の破裂と後腹膜腔の巨大な血腫を認
めたため,緊急で同動脈にステントグラフトを留
置し止血に成功した.同年8月に再び背部痛が出
現し他院のCTで大動脈破裂と診断されステント
グラフト留置術目的で転院となった.CTでは大
動脈には異常はなく,横隔膜動脈の破裂を認めた
ため緊急でコイル塞栓術を施行し止血に成功し
た.神経線維腫症I型に合併した動脈破裂の報告
はあるが,二度にわたり動脈破裂を生じ,いずれ
も血管内治療で止血できた報告はないため若干の
文献的考察を加えて報告する.
110) 鎖骨下動脈インターベンションにおける塞
栓症予防目的のフィルトラップの使用経験
(大阪府立成人病センター循環器内科)
和泉匡洋・北尾 隆・正木 充・藤川純子・
淡田修久
(同心臓血管外科) 平石泰三・高見 宏
症例は78歳女性.意識消失発作精査中,上肢血
圧の左右差(約50mmHg)を認めた.頚部動脈超
音波検査で左椎骨動脈(VA)の逆流を指摘され,
CTを施行.左鎖骨下動脈起始部に高度狭窄を認
め,PTAを施行(大腿動脈穿刺).この際,末梢
塞栓予防目的でフィルトラップを使用.高度狭窄
のためフィルトラップは病変を通過せず,2.0mm
径のballoonで拡張後通過した.しかし,stentが
通過せず,3.0mm径のballoonで拡張した.拡張
後も左VAの順行性の血流は認めず.長さ17mmの
短いstentを選択したが,フィルトラップのバス
ケット部分は左VAより末梢に位置した.病変は
良好に拡張し,VAも順行性の血流を得た.フィ
ルトラップでdebrisは回収できたが,脳神経学的
異常所見は認めなかった.delayed reverse flow現
象により左VAへの末梢塞栓は生じなかった考え
られた.
113) Angio-seal®にて形成された動脈狭窄に対
してIVUS下にPTAを施行した一例
(三木市立三木市民病院) 高石博史・
佐々木義浩・平山園子・江尻純哉・大橋佳隆・
市川侍靖・粟野孝次郎
76歳女性,PCIの際左総大腿動脈に置いた8Fシー
スの抜去にAngio-seal®を用いた.手順に従い施
術するも止血できず用手圧迫に変更した.2日後
歩行時に左下肢痛出現,ABI値は左0.52と著明に
低下し,CTA/下肢動脈エコーで総大腿動脈中枢
側に高度狭窄を指摘した.7日後血管造影で総大
腿動脈にボール状の陰影欠損を認め,IVUSで減
衰の強い低エコー組織による偏心性の高度狭窄を
認めた.引き続き6mmバルーンでPTAを行うが
弾性が強く完全拡張は不可能と判断し,拡張を繰
り返して内腔を確保し圧較差20mmHg/ABI値0.8
に改善したことを確認し,以後はdeviceの自然吸
収を期待し経過観察とした.IVUS・造影の結果
から狭窄形成の原因を検証し,文献的考察を加え
て報告する.
108) 2期的カテーテル治療にて救肢し得た重症
虚血肢の1症例
(関西労災病院循環器科) 岡本 慎・
南都伸介・上松正朗・両角隆一・渡部徹也・
粟田政樹・大西俊成・飯田 修・世良英子・
南口 仁・赤堀宏州・矢野正道・池岡邦泰・
田中宣暁・安井治代・永田正毅
111) カバードステントを使用し加療に成功した
下肢動脈瘤の一例
(大阪労災病院循環器科) 橋本光人・
西野雅巳・原 正彦・中谷晋平・山上喜由・
加藤弘康・江神康之・習田 龍・山口仁史・
田中健二郎・田内 潤・山田義夫
114) TornusとRotablatorにて血行再建に成功し
た総腸骨動脈慢性完全閉塞の一例
(大阪労災病院循環器科) 原 正彦・
西野雅巳・松岡 研・中谷晋平・橋本光人・
山上喜由・加藤弘康・江神康之・習田 龍・
山口仁史・田中健二郎・田内 潤・山田義夫
【症例】61歳男性【主訴】右足趾潰瘍【既往歴】
糖尿病,高血圧【現病歴】平成19年11月より右第
3趾・踵部に潰瘍を認め,近医にて内服・点滴
加療を開始するも症状悪化の為,当院転院.【現
症】ABI右測定不可[経過]造影検査にて右SFA・
BTK閉塞を認めた.右CFAより順行性アプロー
チ に てEVT施 行 し た. 右SFAに 対 し て は,balloonとstentにて0%に開大し,ATAに対しては,
angioplastyのみで25%に開大し,弓状動脈・腫
骨動脈まで血流を得た.その後,形成外科受診
させるも,切断不可と判断された.その為PTACTOに対し再度EVT施行した.順向性でのワイ
ヤーが不通過であった為,ATAからDPA経由に
て両方行性アプローチしクロスに成功した.そ
の後バルーンのみで0%に開大した.術後SPPは
足背47mmHg,足底70mmHgまで改善し,trans
metatarsal amputationに成功した.
症例は72歳男性.約10年前より左鼠径部に径2
cm程度の拍動性腫瘤を認めていたが,急に拡大
してきたため2007年11月に他院皮膚科を受診.同
月当院に紹介された.CT-angioならびに下肢動
脈造影上,左深大腿動脈に径8.5cmの動脈瘤を認
め,それより末梢側の動脈は細く,バイパス術は
容易ではないと判断された.そこで,同年12月,
左深大腿動脈の動脈瘤に対し,経皮的下肢動脈形
成術を施行した.左大腿動脈に順行性にシースを
留置し,ガイドワイヤーを動脈瘤から流出血管へ
とcrossした.カバードステントを動脈瘤の流入
血管から流出血管にかけて留置し,ステント内を
後拡張.動脈瘤内への血流は完全に遮断された.
術後,動脈瘤は次第に縮小し,2ヵ月後にはほぼ
消失した.下肢動脈瘤に対するカバードステント
による加療は稀であるため報告する.
症例は58歳の透析男性.間欠性跛行を主訴に他院
受診し右総腸骨動脈に慢性完全閉塞,左総腸骨
動脈に90%狭窄を指摘され左総腸骨動脈にWallstentを留置.同病院にて右総腸骨動脈病変にPPI
を2度施行するも不成功に終わり当院紹介となっ
た.同病変に末梢動脈用バルーンが不通過であっ
たため,最終的にTornusを使用してワイヤーを
交換しRotablatorを施行することによりExpress
ステントを留置することに成功した.今後PPIの
透析患者等への治療拡大に伴いRotablatorの必要
性が高まると考えられここに症例報告する.
112) アンジオシールで止血後約2週間で間欠性
跛行を呈した1例
(東住吉森本病院循環器科) 武田久輝・
坂上祐司・八木 匠・斉藤聡男・兵頭永一・
岡島一恵・広瀬 真・西田幸生・瓦林孝彦
115) 右総腸骨動脈の自然解離に対してIVUS guided
endovascular therapyが有効であった1症例
(川崎病院循環器科) 福永匡史・高田昌紀・
斉藤清子・川瀬良太・善積 透・蓮池俊明・
丸山貴生
(同予防医学部) 竹村 芳
109) 64列MDCTで右鎖骨下動脈起始異常を同定
しえた鎖骨下動脈閉塞の一例
(尼崎中央病院循環器科) 吉田純一・
小松 誠・児玉和久
症例は63歳男性で高血圧と上肢血圧の左右差を
主訴にて受診された.血圧は右160/80mmHg,左
120/60mmHgで 約40mmHgの 左 右 差 を 認 め た が
右上肢の虚血症状は認めなかった.64列MDCT
による造影CTでは右鎖骨下動脈は大動脈弓の最
終枝として分枝する右鎖骨下動脈起始異常を認
めた.大動脈からの分岐部は拡張し(Kommerell
diverticulum)その直後での完全閉塞をきたして
おり鎖骨下動脈は右椎骨動脈からの逆行性血流に
より還流されていることが判明した.右鎖骨下動
脈起始異常にともなう鎖骨下動脈閉塞症はまれで
あり,その診断に64列MDCTが有用であった一例
を経験したので文献的考察を加えて報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
症例は68歳男性.発祥日不明の心筋梗塞で入院し
冠動脈造影検査で右冠動脈に慢性完全閉塞病変が
あり,経皮的冠動脈形成術を実施し開大に成功し
た.アンジオシールで止血し退院したが約2週間
後間欠性跛行の症状が出現したため,外来で血管
エコーを実施した.穿刺部と思われる部位に短い
高度狭窄病変が認められ低エコーを示した.アン
ジオシールのアンカーに血栓が付着した可能性を
考え,下肢動脈造影を実施した.穿刺部位に一致
した狭窄病変に対し経皮的動脈形成術を実施し
た.血栓の可能性も考慮しフィルトラップを併用
してバルン拡張のみでほぼ良好な拡張が得られ終
了した.その後,ワーファリン内服し経過観察し
ているが悪化傾向なく間欠性跛行の症状は消失し
ている.アンジオシールでの止血時に注意すべき
合併症と思われ報告する.
症例は82歳男性.両側間欠性跛行認め,精査加
療目的にて当科紹介.ABI右0.67,左0.56であり,
下肢動脈エコーにて両側の総大腿動脈レベルで血
流異常認め下肢動脈造影施行.左総腸骨動脈から
外腸骨動脈にかけて狭窄病変,右総腸骨動脈に解
離疑う所見認め,それらに対して経皮的血管形成
術施行.右総大腿動脈より逆行性に穿刺.ワイヤ
ー進める際に解離腔へのワイヤーの迷入を阻止す
る為にIVUSにて内腔確認しながらワイヤークロ
ス行った.真腔は偽腔により圧排されており,同
部位に対してステント留置し手技終了した.腸骨
動脈領域のカテーテル治療は成功率,慢性期開存
率ともに良好であるが動脈穿孔の合併症に対して
注意を払うべきであり今回のように偽腔へのワイ
ヤーの迷入を避ける為にIVUSを使用する事はよ
り安全な手技であると思われた.
大阪国際会議場(2008 年 6 月) 1103
116) 突然の右下肢痛にて発症した,膝窩動脈外
膜嚢腫の一例
(大阪府済生会泉尾病院) 石原昭三・
吉長正博・松井由美恵・山本 聖・塚田 敏・
石戸隆裕・藤田昌哲・唐川正洋
症例は68歳男性.陳旧性心筋梗塞にて当院通院中
であったが,歩行中に突然右下肢痛が出現し外来
受診,ABIが0.5(右)と高度低下,造影CTにて
右膝窩動脈の高度狭窄所見を認めた.下肢動脈造
影にて右膝窩動脈に99%狭窄を認め,周囲の動脈
硬化所見が乏しく局在性の病変であることから,
動脈塞栓症もしくは外部からの圧排による狭窄を
疑った.しかし血管エコーにて膝窩動脈に接して
嚢胞様組織を認めたため膝窩動脈外膜嚢腫と考
え,外科的切除を施行,黄色粘液を内包する嚢腫
を摘出した.病理検査の結果,内膜と外膜の間に
解離腔を生じており,Factor8陽性の血管内皮が
被覆していることから,膝窩動脈外膜嚢腫と診断
した.本邦では報告例が少なく,急性動脈閉塞症
の症状を呈する際には本疾患の鑑別も必要と考え
られ,今回報告する.
119) 感染性手掌動脈瘤の一例
(宇治徳洲会病院心臓血管外科) 鷹羽浄顕・
中村智宏
手掌動脈瘤は比較的稀有な末梢血管疾患である.
症例は79歳 男性.1998年両側総腸骨動脈狭窄に
左腋窩動脈−両側外腸骨動脈バイパス術を受けた
が,2007年4月突然両下肢動脈急性閉塞を認め,
グラフト閉塞にて両総腸骨動脈及び左外腸骨動脈
にステント留置した.7月下旬左上肢動脈急性閉
塞を認め,人工血管吻合部からの塞栓遊離の可能
性がら血栓除去及び人工血管離断を施行した.そ
の後左手掌に拍動性腫瘤を認め,左手掌動脈瘤の
診断となった.8月下旬結紮切除した.病理診断
では偽性動脈瘤であった.12月初旬頃より,左側
胸部疼痛及び発熱生じ2008年1月下旬遺残人工血
管抜去術を施行した.遺残人工血管は腹腔内を通
過し腸管と強固に癒着していた.今回我々は人工
血管感染に起因すると考えられる感染性手掌動脈
瘤を経験したので報告する.
117) 腸骨動脈完全閉塞病変に対するカテーテル
治療時のシース吸引による遠位塞栓予防
(関西労災病院循環器科) 池岡邦泰・
飯田 修・南都伸介・上松正朗・両角隆一・
渡部徹也・粟田政樹・大西俊成・世良英子・
南口 仁・矢野正道・岡本 慎・田中宣暁・
安井治代・永田正毅
120) ギュンター型下大静脈フィルターの静脈穿
孔に対し開腹下にてフィルターを回収した一症例
(兵庫県立尼崎病院循環器内科) 礒田 圭・
宮本忠司・西城さやか・西 清人・
山根啓一郎・桑原康秀・福原 怜・谷口良司・
佐藤幸人・鷹津良樹・藤原久義
(同心臓血管外科) 藤原靖恵・小田基之・
清水和輝・大野暢久・大谷成裕・藤原慶一
【背景】腸骨動脈完全閉塞病変に対するカテーテ
ル治療では遠位塞栓の頻度は高く患肢予後に影響
を及ぼす.【目的】遠位塞栓予防を目的としたシ
ースによる閉塞部吸引の有用性を評価した.【方
法】対象は2004年6月から2007年10月までの腸骨
動脈慢性完全閉塞連続74症例(82病変)とした.
前期群33症例では前拡張行いステントを留置し
た.後期群41症例では穿刺シースにて病変をブジ
ーし,シースを用いて閉塞部を吸引後ステント留
置した.2群において遠位塞栓の頻度を比較した.
【結果】遠位塞栓の頻度は,前期群で7.8%(3/38
病変)後期群で0%(0/44病変)であった.(P
=0.04)【結語】シースによる閉塞部吸引は遠位
塞栓を予防し有用な手技である.
症例は33歳女性,左脛骨骨折後の治療10日目より
呼吸苦出現,精査加療目的にて当院紹介受診とな
る.胸部造影CTにて左肺動脈主幹部,右肺動脈
下葉枝および左膝下動脈に血栓像を認めたため肺
動脈塞栓症,左深部静脈血栓症と診断した.ギュ
ンター型下大静脈フィルターを留置し,血栓溶解
療法開始となる.その後,肺動脈血栓の縮小を認
め15病日に下大静脈フィルターの回収を試みた
が,フック部位の静脈外への穿孔により回収不可
能であった.腹部CTやエコーでは明らかな腹腔
内への出血を認めなかった.26病日に開腹下にて
フィルター突出部位を切断し,右内頸静脈より通
常の手技にてフィルター回収に成功した.ギュン
ター型フィルター回収困難例に対し,開腹手術の
補助下にてフィルター回収に成功した症例を経験
したので報告する.
118) 膝 下 動 脈 閉 塞 に 対 す る 新 し い 治 療 戦 略
(single punctureによるtrans collateral bidirectional angioplasty)
(関西労災病院) 飯田 修・南都伸介・
上松正朗・両角隆一・渡部徹也・粟田政樹・
大西俊成・世良英子・南口 仁・矢野正道・
池岡邦泰・岡本 慎・田中宣暁・安井治代・
永田正毅
121) MDCTにて発見された上大静脈瘤の1例
(有田市立病院循環器科) 坊岡進一・
城充明・野尻庸功
(和歌山県立医科大学附属病院循環器内科)
松本啓希
【背景】膝下動脈(BTK:Below the Knee)に対
するカテーテル治療
(EVT:Endovascular Therapy)
は重症虚血肢(CLI;Critical Limb Ischemia)に
限られる.しかしCLI-BTKは閉塞病変が多く,再
疎通が問題である.今回はsingle punctureによる
trans-collateral bidirectional EVTを評価した.
【方
法】対象は2007年7月から12月迄の連続CLI7症
例とした.EVT手技は患肢大腿動脈より6Fr45cm
シースを挿入し,病変の近側より1.5mmJ型ワイ
ヤを順向性に病変遠位側からは側副血行路を介し
逆行性にワイヤークロスを試み手技施行した.
【結
果】初期成功は86%(6/7)であり,成功例は全
例切断回避可能であった.1例の不成功例は遠位
バイパス術を施行した.側福血行路障害での患肢
悪化は認なかった.【結語】CLI-BTKに対する新
しい治療戦略として有用と考えられた.
1104 第 105 回近畿地方会
症例34歳男性 胸部圧迫感,呼吸困難感を主訴に
当院を受診した.胸部レントゲン,心電図では異
常所見を認めなかった.心エコーでは,初回検査
時には,下大静脈と内頚静脈の拡大を認めたが,
2週間後に再検査したところ,正常化していた.
狭心症,肺塞栓症,部分肺静脈還流異常症などの
疾患を鑑別するため,MDCTを施行したところ,
1.9×1.3×1.6cmの 嚢 状 の 上 大 静 脈 瘤 を 認 め た.
後日,静脈造影施行し,CT画像と一致する上大
静脈瘤を確認した.上大静脈瘤の報告は少ないが,
嚢状typeについては,過去の報告では手術が推奨
されている.本症例にも手術を勧めたが,手術は
希望されず,退院した.退院後,4ヶ月の経過で,
瘤の増大傾向や,その他の合併症は認めていない.
文献的考察を加えて報告する.
122) 抗カルジオリオピン抗体陽性の深部静脈血
栓症に対し血管内治療を施行した1症例
(大阪厚生年金病院循環器内科) 三好美和・
宮本裕加子・岡本昌邦・濱岡 守・安井博規・
長谷川新治・藤井弘通・笹子佳門・山平浩世
29歳女性.生来健康であった.3日前より左下肢
の腫脹が出現したため当科受診.CTにて左総腸
骨動脈から内外腸骨動脈の血栓を指摘された.へ
パリン,ウロキナーゼ,ワルワリン投与開始し,
一時フィルターを下大静脈に留置した.1週間
後に一時フィルターを抜去する前にフィルター
より造影したところ下大静脈から左総腸骨静脈
に血栓あり,完全閉塞となっていた.血栓吸引,
POBA,除去術施行しウロキナーゼを間欠的投与
施行し,一時は再開通を得たが,最終造影では閉
塞していた.深部静脈血栓症の血管内治療につい
て考察を加え,報告する.
123) 深部静脈血栓症に対する下大静脈フィル
ターの有効性について
(大阪労災病院) 加藤弘康・西野雅巳・
原 正彦・中谷晋平・橋本光人・山上喜由・
松岡 研・江神康之・習田 龍・山口仁史・
田中健二郎・田内 潤・山田義夫
深部静脈血栓症(DVT)患者における一時的下
大静脈フィルター(TIVCF)の長期的効果は確
立されていない.我々はTIVCFの長期的効果を
永久的下大静脈フィルター(PIVCF)と比較した.
DVTの危険因子が一過性の場合にTIVCFを留置
し,永続的な場合や抗凝固療法の禁忌にPIVCFを
留置した.2群間において留置後1年間での肺塞
栓(PE),死亡,腎機能につき比較した.腎機能
はMDRD式により推定したeGFRの1年後の変化
(ΔeGFR)により評価した.19例にPIVCFを留置
し,8例にTIVCFを留置した.PIVCF群ではPE
が1例,死亡が3例あったが,TIVCF群ではPE,
死亡ともなかった.ΔeGFRはPIVCF群で−0.12
±0.21,TIVCF群で0.03±0.14と有意差を認めた(p
<0.05)
.【結論】TIVCFはPEや死亡の防止効果
についてPIVCFと同等の効果を認め,また腎機能
がPIVCFより保たれる傾向にあった.
124) 結腸癌に伴う機械的イレウスの腸管ガスに
よる下大静脈血栓症を生じた一例
(NTT西日本大阪病院循環器科) 奥原祥貴・
松本貴樹・西川永洋
症例は63歳女性.平成18年11月大腸ファイバーに
てS状結腸癌を指摘され12月に根治的切除術を施
行された.その後,外科にて加療中,平成20年1
月頃から腹痛,嘔吐が出現し入院となった.入院
時の腹部造影CTにて結腸癌の再発と,腫瘍に伴
う機械的イレウスと診断され,同時に下大静脈血
栓症を認めた為に当科受診となった.造影CT上,
下大静脈において腎静脈直下から末梢側にかけて
広範囲な血栓形成を認め,その閉塞を認めた.腫
瘍による狭窄部位はS状結腸であり,腸管ガスは
結腸を中心に著明で,腹部レントゲン上も巨大な
二ボーを認めた.CT像での腸管ガス像と血栓に
よる下大静脈閉塞部位は一致しており,貯留した
腸管ガスで著明に拡張した腸管が長期に下大静脈
を圧排したことで下大静脈血栓症が誘発されたも
のと考えられた.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
125) 精神的ストレスによる交感神経活性の亢進
により,MRが悪化しうっ血性心不全をきたした
と考えられる一症例
(赤穂市民病院) 久保川修・瀬野匡巳・
井上智裕・山本芳央・安部博昭・藤井 隆
128) 機能的僧帽弁逆流を伴う心筋症における術
前後の血行動態および左室機能の変動
(大阪労災病院) 甲斐沼尚・戸田宏一・
横田武典・四條崇之・谷口和博
症例は59歳男性.呼吸困難にて近医受診し,肺野
の異常陰影を指摘され当院に救急搬送された.来
院時起座呼吸と意識障害を認め,胸部Xp上心拡
大と両側肺野の著明なうっ血像および肺炎を疑う
像を,また心エコー上MR4を認め,急性うっ血性
心不全と肺炎の加療目的にて当科入院となった.
挿管による人工呼吸管理と薬物療法,CHDFによ
り治療を行い全身状態の改善を認めた.その後
MVRの術前評価目的で心臓カテーテル検査を施
行する予定であったが,検査開始直前に極度の緊
張を訴え,モニター上BP200台まで上昇.何とか
検査台に乗ったものの,咳と呼吸困難が出現し起
座呼吸の状態に陥った.ABGにてPaO2 60mmHg
と低酸素血症となり,胸部Xp上両側肺うっ血像
を認めたため検査は中止となった.ごく短時間で,
急激に心不全の悪化を認めた一症例を報告する.
【目的】機能的僧帽弁逆流(FMR)を伴う心筋症
における術前後の血行動態と左室機能の変動を
検討した.
【方法】FMRを伴う心筋症30例に対し
て手術を施行(僧帽弁形成30例,左室形成11例,
CABG15例)
.心カテにより術前後の血行動態,
左室容積,駆出率,収縮末期壁応力(ESS)を測
定.【結果】1.術前後で,PCWP(mmHg)は21
から14,EDV(ml)は259から180,ESV(ml)は
188から118に減少,EF(%)は28から37に上昇,
ESS(kdyn/cm2)は350から290に低下(p<0.01)
.
2.ESVの変化量(ΔESV)とESSの変化量(Δ
ESS)は正の相関,ΔESSとEFの変化量(ΔEF)
は負の相関関係を認めた(p<0.01)【まとめ】本
症に対する外科治療(FMR制御)はEDV,ESV
をともに減少させた.ESVの減少は,収縮末期壁
応力(後負荷)軽減により左室駆出率を改善させ
る効果を有することが示唆された.
126) 大きな左房内血栓を伴い僧帽弁置換術に
至った危急の感染性心内膜炎の1例
(河内総合病院心臓センター内科)
名方 剛・林 英宰・市川 稔・岩田昭夫・
林 隆治・三嶋正芳
129) 特発性心筋症に伴う機能的僧帽弁閉鎖不全
症に対する外科治療
(大阪大学心臓血管外科) 斎藤俊輔・
松宮護郎・坂口太一・松江 一・藤田知之・
武田浩二・倉谷 徹・市川 肇・澤 芳樹
症例は38歳男性.平成19年10月15日に40℃の発熱
で当院内科外来を受診.発熱が持続し炎症反応を
認め10月19日に内科に入院した.10月20日,経胸
壁心エコーでMRと左房後壁に腫瘤を認め,感染
性心内膜炎の疑いで10月23日に循環器科転科とな
った.同日,経食道エコーを施行.左房後壁に大
きな可動性の血栓像,左房後壁から僧帽弁前尖・
後尖まで連続する疣贅と高度な弁破壊を認めた.
頭部,腹部CTで小脳,脾臓,腎梗塞を認めた.
10月25日に準緊急的に僧帽弁置換術を施行.その
後,経過良好で12月7日に退院し社会復帰した.
緊急手術で救命できた症例について,文献的考察
を加えて報告する.
【背景】重症特発性心筋症の一部で,機能的僧帽
弁閉鎖不全(fMR)を治療することで左室形態及
び患者の症状を改善させ得ることが報告されて
いる.当院におけるfMRに対する手術成績を検討
した.【対象と方法】対象は2007年以降9例.平
均年齢63±12歳,術前NYHAはIV度5例(内カテ
コラミン4例),III度4例,EF26±10%であっ
た.僧帽弁輪形成術に加え全例で乳頭筋間縫縮術
を行い,6例でMaze手術,5例で三尖弁形成術,
3例で両心室ペーシングリード埋め込み術を行
った.【結果】手術死亡,病院死亡なし.2例で
NYHAIII-IV度,他は退院しNYHAI-II度で経過し
ている.術後EF25±10%,MRは全例で0-1/4で
あった.【結語】特発性心筋症による重症心不全
に伴うfMRに対し,乳頭筋間縫縮術を伴う弁輪形
成術は,安全で短期成績が良好であった.
127) Inoueバルーンによる経皮的肺動脈弁形成
術(PTPV)が著効した成人肺動脈弁狭窄症(PS)
の一例
(大阪医療センター循環器科・臨床研究部) 廣岡慶治・石津宜丸・中川彰人・小出雅雄・
岩破俊博・篠田幸紀・小向賢一・山戸昌樹・
佐々木典子・山元博義・川口義廣・是恒之宏・
楠岡英雄・安村良男
130) 肝硬変患者に合併した重症大動脈弁狭窄症
の1例
(奈良県立三室病院循環器科) 中井健仁・
杉本浩之・成 智熙・鈴木 恵・内藤雅起・
岩間 一・竹田育弘・土肥直文・橋本俊雄
症例は62歳,男性.幼少期より心雑音を指摘,近
医でPSと診断されていたが経過観察となってい
た.3年程前より労作時息切れ出現し増強するた
め外科的加療目的で当院心臓血管外科に紹介.心
エコー図上,弁性PSで他の先天性心疾患の合併
がないためPTPVの適応と判断し,循環器内科に
入院.心腔内超音波法にて弁形態と弁輪径を確
認し24mmのInoueバルーンを用いてPTPVを施行
した.経肺動脈弁圧較差は120mmHgから,術直
後には47mmHg,3日後には25mmHgと著明に改
善した.小児期のPSに対するPTPVは確立された
治療法として一般的に行われているが,中高年者
での報告は少ない.今回,60歳を越えた症例に
PTPVが著効した一例を経験したため報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
67歳女性.平成18年頃から糖尿病,慢性C型肝炎,
肝硬変,多発性肝癌による肝不全で入退院を繰
り返していた.H19年10月安静時胸痛頻回となり
救急搬送された.心エコーで圧較差138mmHgの
重症大動脈弁狭窄症(AS)と診断された.安静,
酸素投与により症状は軽快したが,極軽度の労作
でも症状を伴い,高度の肝不全のため外科的治療
困難と考え経皮的大動脈弁形成術(PTAV)を実
施した.PTAVは逆行性アプローチで10mmおよ
び18mmのバルーンで拡張を行い,圧較差は術前
147mmHgから78mmHgに改善した.PTAV後,貧
血を認めた以外合併症は認めなかった.歩行,入
浴も可能となり退院した.以上,肝硬変に合併し
た重症ASのADL改善にPTAVが有用と考えられた
症例を経験したので報告する.
131) 重複僧帽弁口を合併した大動脈二尖弁の一例
(大阪府済生会中津病院循環器内科)
伊藤光哲・高谷具史・畑 勝也・木島洋一・
北 智之・岡本匡史・中島英人・西川裕二・
淀井景子・小林克也・瀬尾俊彦
(同総合診療内科) 川嶋成乃亮・戸田常紀
(竹内医院) 竹内陽史郎
症例は70歳男性.2007年7月初旬より起座呼吸が
出現したため当院を受診された.来院時は酸素飽
和度は86%で,胸部レントゲンにて心拡大と肺水
腫を認め,うっ血性心不全の診断で入院となっ
た.心エコーで駆出率は26%と低下,心拡大と大
動脈弁閉鎖不全症を認めた.心不全の加療後に心
エコーを再検したところ,駆出率は53%まで改善
し,重複僧帽弁口と大動脈二尖弁の存在がわかっ
た.ただ僧帽弁については機能異常は認めなかっ
た.大動脈弁については,大動脈造影上,逆流は
Sellers分類でIII度であり,大動脈弁閉鎖不全に
対して人工弁置換術を施行,術後経過は良好であ
る.重複僧帽弁口は先天性心疾患を合併すること
が多いことは知られているが,大動脈二尖弁の合
併はまれであり,若干の考察を加えて報告する.
132) 肺動静脈瘻(PAVF)を合併したリウマチ
性心臓弁膜症に対し同時手術を施行した1例
(大手前病院心臓外科) 黒住祐磨・
近藤晴彦・初岡慎一・新谷英夫
(同循環器内科) 山田貴之・佐藤芙美・
市堀泰裕・吉田 聡・柴本将人
症例は66歳女性.12歳時にリウマチ熱の既往あ
り.労作時息切れを主訴に受診し,ASR,MSR,
Afと診断され,AVR,MVRの適応と判断された.
術前のSpO2:90%と低値でありCTで偶然右肺中
葉の前胸壁の直下に16mm大のPAVFを2つ認め,
どちらも流入動脈に対し流出静脈の径が大きかっ
た.PAVFの発生部位,流入及び流出血管の所見
より予定された肺の切除範囲を考えて,胸骨正中
切開で心臓手術(2弁置換)とPAVF含む肺部分
切除との同時手術が可能と判断し,手術を施行
した.術後,経過良好でSpO2:99%と改善し現
在外来通院中である.リウマチ性心臓弁膜症で
SpO2の低下のある場合は十分な術前精査が必要
である.PAVFの発生部位,大きさ及び手術によ
る予定切除範囲等によっては同時手術も有用な治
療法と考えられた.
133) 成人肺動脈弁狭窄症に対してステントレス
生体弁を用いて弁置換術を施行した一例
(野崎徳洲会病院心臓血管外科) 岡 藤博・
大吉 希
(松原徳洲会病院心臓血管外科) 吉田 毅
(名古屋徳洲会総合病院心臓血管外科)
大橋壮樹
【症例】73歳男性,2007年10月動悸,労作時呼吸
困難を主訴に当院受診.心エコー,CTにて肺動
脈弁狭窄,心房中隔欠損,3度の三尖弁閉鎖不全
を認めた.心臓カテーテル検査にて肺動脈右室
圧較差は60mmHg,Qp/Qs=1.4であった.CAG
で3枝病変を認めた.【手術】肺動脈弁は癒合
石灰化し,弁性狭窄を認めた.Edwards Prima
Plusステントレス生体弁19mmを使用し弁置換
を行った.心房中隔欠損は馬心膜でパッチ閉鎖
し た.CABG(LITA-LAD,Ao-SVG-RCA,AoSVG-D1)を行った.【術後経過】術後胆嚢炎を生
じたが軽快し,自宅退院された.カテーテル検査
では肺動脈−右室圧較差は25mmHgと改善してお
り,右室造影でも狭窄を認めなかった.【結語】
成人肺動脈弁狭窄症に対してステントレス生体弁
を用いて弁置換術を施行し,良好な結果を得た.
大阪国際会議場(2008 年 6 月) 1105
134) 急性大動脈弁閉鎖不全による急性心不全で
来院した高齢女性の一例
(兵庫県立姫路循環器病センター循環器科) 田代雅裕・熊田全裕・谷口泰代・松本賢亮・
月城泰栄・井上琢海・岩田幸代・水谷和郎・
山田慎一郎・今村公威・嶋根 章・岡嶋克則・
林 孝俊・梶谷定志・梶谷定志
【症例】84歳女性【主訴】呼吸困難【既往歴】半
年前に発作性心房細動と心不全で加療歴あり.
【現
病歴】2日前より増悪する呼吸困難で受診【現
症】意識清明,呼吸回数30回/分で起座呼吸,脈
拍140/分 で 不 整, 血 圧70/30mmHg【 入 院 後 経
過】心電図は心房細動で,心エコー図検査上から
EF51%,前壁に壁運動低下あり,大動脈弁尖に
ひも状構造を伴う高度の逆流があった.心筋逸脱
酵素は経度上昇(CK/MB 375/46IU/L).カテコ
ラミン,HANPを使用するも心不全コントロール
困難であった.経食道心エコーで逸脱を主とする
高度逆流にて緊急手術となった.手術では脆弱化
弁のFenestrationによる逸脱と判明した.【結語】
高齢者での突発性心不全の原因として弁の脆弱化
にも注意を要する.
135) 大動脈弁置換術後38年目に大動脈基部置換
術を要した先天性大動脈二尖弁の一例
(桜橋渡辺病院心臓・血管センター心臓血管外科)
正井崇史・仲村輝也・山内 孝・樋口貴宏
先天性大動脈二尖弁(BAV)例においては,上行
大動脈瘤化の経時観察の必要性が報告されてい
る.今回大動脈弁置換術(AVR)後38年の長期遠
隔期に大動脈基部置換を要した症例を経験した.
症例は56歳男性で,昭和45年にBAVによる大動
脈弁閉鎖不全症に対して同種生体弁によるAVRを
施行.昭和53年に生体弁機能不全に対し,BjorkShiley弁による再AVRが施行された.昨年5月に
上行大動脈瘤(最大径60mm)及びバルサルバ洞
拡大(最大径54mm)を指摘され,本年2月大動
脈基部置換術(Bentall手術)を施行した.切除
大動脈壁の病理組織では,大動脈中膜の高度な粘
液変性が認められた.BAVに対するAVR後は,長
期に渡り大動脈基部を含めた上行大動脈の経過観
察が必要と思われた.
136) 大動脈弁断裂の1例
(神戸医療センター循環器科) 今西純一・
高野貴継・正井博之・清水雅俊
(同内科) 三輪陽一
(神戸大学呼吸循環器外科学) 岡田健次・
大北 裕
74歳男性,主訴は呼吸困難.大量の両側胸水を指
摘され紹介となった.心エコーでは左室拡大とび
まん性壁運動低下,および大動脈弁に付着するひ
も状エコーと高度弁逆流が認められた.炎症反応
および血液培養は陰性であった.抗生剤が投与さ
れたが軽快せず,1週間後に大動脈弁置換術が施
行された.術中所見では左冠尖の弁尖に断裂をき
たしており,これがヒモ状エコーの主体と判明し
た.無冠尖の弁腹も破壊され左冠尖・無冠尖間か
ら高度の弁逆流が発生していた.左冠尖弁尖には
窓状欠損(fenestration)もみられたが疣贅は認
められなかった.大動脈弁弁尖のfenestrationは
加齢による変化とされ,まれに断裂による大動脈
弁逆流をきたす.このような断裂は心エコー上疣
贅との鑑別が問題である.
1106 第 105 回近畿地方会
137) 大動脈瘤における播種性血管内凝固症候群
の頻度と特徴
(国立循環器病センター心臓血管内科)
松尾崇史・圷 宏一・坂本伸吾・田守唯一・
岡島年也・吉牟田剛・野々木宏・竹下 聡
(同臨床検査部) 岡本 章
【目的】大動脈瘤において国際血栓止血学会
(ISTH)の診断基準によるDICの特徴を検討.【方
法】大動脈瘤の患者251例より,凝固線溶系に関
与する背景をもつ139例を除外した112例の,入
院時のISTH基準によるDIC scoreを計算.【成績】
DICと診断された(Score5以上)症例なし.Score
4は2例(1.3%).診断基準のうちPlatelet:5-10
×104 は1例(0.7%)fibrinogen<100mg/mlは1
例(0.7 %),PT異 常 な し,FDP:10-25μg/mlは
33例(22.1 %), >25μg/mlは10例(6.7 %). 平
均DIC score0.9±1.2.【結論】大動脈瘤における
凝固線溶異常は線溶優位であるがISTH診断基準
でDICとなる症例は稀である.
138) 腹部大動脈瘤に対するEndovascular Aortic
Repair −腸骨動脈領域への適応拡大−
(大阪大学心臓血管外科) 金 啓和・
白川幸俊・松宮護郎・市川 肇・坂口太一・
藤田知之・竹内麦穂・澤 芳樹
(同先進心血管治療学) 倉谷 徹・
上平 聡・島村和男
腹 部 大 動 脈 瘤 に 対 す るEndovascular Aortic Repair(EVAR) が, 企 業 製 造stent-graftも 利 用 可
能となり,さらに発展してきている.当科におい
ても,2006年12月から,それらを導入し,これ
まで72例に対して施行してきた.本邦の特徴と
して,腸骨動脈領域に病変を合併する症例(iliac
aneurysm,short iliac a. etc.)が多く,解剖学的
適応の制限が問題となる.我々は,そういった症
例でも内腸骨動脈のコイル塞栓(14例)や,内腸
骨動脈バイパス(7例)を併用することにより,
適応を拡大し,施行してきた.今回,当科におけ
るEVARの早期成績,腸骨動脈領域への付加的手
技による適応拡大の有用性について検討を行い,
報告する.
139) MDCTが有効であったValsalva洞動脈瘤破
裂の1例
(高清会高井病院心臓血管病センター循環器内科)
矢川真弓子・辻本 充・吉田尚弘・
久我由紀子・山崎雅裕・上田一也・
佐々木靖之・篠原昇一・西田育功
(同心臓血管外科) 濱田良宏・川田哲嗣
症例は,51歳男性,高血圧,糖尿病で近医に通院
されていた.2003年9月,狭心症に対し当院でス
テント留置術が施行され以後経過良好であった.
しかし2007年9月,安静時に10分程持続する胸部
違和感を主訴に受診された.胸部違和感の精査目
的で心臓超音波検査,MDCTを行った結果,冠動
脈には,有意な狭窄はみられず,右Valsalva洞動
脈瘤の破裂を認めた.後日心臓カテーテル検査で
も,右Valsalva洞から右室へのシャント血流を確
認し,動脈瘤の破裂が胸部違和感の原因であると
考えられ,2007年10月にValsalva洞動脈瘤破裂に
対しパッチ手術を行った.Valsalva洞動脈瘤破裂
はまれな疾患ではあるが,本例のように複数の冠
危険因子を有する胸痛症例の診断過程において,
MDCTが非常に有用であったので,若干の考察を
加えて報告する.
140) 梅毒の関与が疑われた巨大弓部大動脈瘤切
迫破裂に対し人工血管置換術を施行した一例
(大阪南医療センター) 森澤大祐・
安部晴彦・北田博一・野田善樹・服部 進・
足達英悟・入野宏昭・安岡良典・佐々木達哉・
宮武邦夫
(松原徳洲会病院心臓血管外科) 平井康隆・
吉田 毅
症例は78歳女性.生来健康であったが,数日前よ
り続く背部痛,眩暈が出現し当院救急外来受診と
なる.血圧142/81mmHg,血液検査で心筋逸脱酵
素の上昇なく,D-dimerの著明な上昇を認めた.
胸部Xp上左第一弓の著明な拡大,造影CTにて大
動脈弓に12×8cmの大動脈瘤と腹部から左総腸
骨動脈にかけての解離性腹部大動脈瘤を認めた.
また感染症検査にてTPHA陽性を認め,梅毒性
巨大弓部大動脈瘤が疑われた.当院CCU入院後,
手術目的にて転院となる.翌日に上行弓部大動脈
人工血管置換術及び4分枝(左右鎖骨下動脈,左
右総頸動脈)再建術を施行し,術後24病日後に解
離性腹部大動脈瘤に対しYグラフト置換術を施行
した.梅毒の関与が疑われた巨大大動脈瘤の一例
を経験したので文献的考察を含めて報告する.
141) 右共同偏視,左片麻痺で発症したStanford
A型急性大動脈解離の1例
(住友病院心臓血管外科) 大村篤史・
坂田雅宏・安宅啓二
急性大動脈解離において臓器潅流障害(malperfushion)は重要な予後不良因子の一つに挙げられ
る.弓部分枝の潅流障害の場合,片麻痺や意識障
害などの神経学的兆候を伴い,このような症例に
対する緊急手術は,術後に出血性脳梗塞や重篤な
脳浮腫を合併することがあるとされる.その手術
成績は不良であり,手術適応についても議論のあ
るところである.しかしながら,脳血流再開まで
の時間を短縮することにより,神経障害を残すこ
となく回復する可能性も示唆されており,そのた
めには可及的速やかな血行再建が重要であるとさ
れる.今回我々は,神経障害(右共同偏視,左片
麻痺)を伴ったStanford A型急性大動脈解離に対
し,迅速に診断,手術治療を行なうことにより,
神経学的にほぼ後遺症なく回復し良好な結果を得
られた症例を経験したので報告する.
142) 冠動脈バイパス術中大動脈解離術後遠隔期
に大動脈基部置換,弓部置換,僧帽弁輪縫縮術を
施行した一例
(大阪大学心臓血管外科) 塩満大樹・
松宮護郎・倉谷 徹・坂口太一・白川幸俊・
藤田知之・市川 肇・澤 芳樹
症例は70歳男性.1999年に冠動脈バイパス術施行
中に生じた急性大動脈解離に対して上行大動脈人
工血管置換術及び大動脈弁吊り上げ術を施行し
た.2000年に腹部解離性大動脈瘤に対して人工血
管置換術を施行した.術後経過は良好で,外来で
経過観察されていたが2007年より起座呼吸と体重
増加を認めるようになり,精査にてsevere AR,
severe MR,心拡大(LVDd/Ds69/55mm),心機
能低下(EF44%)を認めた.また弓部大動脈の
偽腔が拡大して69mmの大動脈瘤を形成してい
た.大動脈基部置換,弓部置換,僧帽弁輪縫縮術
を施行し良好な術後経過が得られたので若干の文
献的考察を加え症例報告をする.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
143) 左浅大腿動脈に限局性解離性病変を認めた
1症例
(大阪警察病院心臓センター) 増村雄喜・
小笠原延行・松井万智子・柏瀬一路・
平田明生・根本貴祥・岡田佳築・村川智一・
松尾浩志・肥後友彰・樫山智一・和田 暢・
廣谷信一・上田恭敬
症例は56歳男性,下壁梗塞に対するPCI歴のある
患者.平成18年6月,突然の下肢痛出現あり,約
10mの歩行で下肢痛が出現する間歇性跛行を発症
し来院.ABI右1.13,左0.26と低下を認め,下肢
エコーにて左浅大腿動脈遠位部に限局性の高度
狭窄を認めたため,ASOに対するPTAの適応あ
りと判断し,平成19年4月20日PTA施行となっ
た.血管造影上,左浅大腿動脈に90%狭窄を認め,
IVUSにて病変を観察したところ,病変は2腔構
造を形成しており,解離性病変が疑われた.病変
に対してバルーン拡張するも,十分な拡張は得ら
れなかったが,狭窄部位にて圧較差を認めなかっ
たので,終了とした.限局性に解離性病変を認め
た症例は少なく,病態機序など検討を要すると考
え報告する.
144) 血管内治療によりmalperfusionの解除に成
功したStanford B型急性大動脈解離の2症例
(京都大学医学部附属病院循環器内科)
高 宜弘・当麻正直・早野 護・田崎淳一・
齋藤成達・尾野 亘・北 徹・赤尾昌治・
木村 剛
【症例1】69歳男性.他院でB型急性大動脈解離
の保存的加療中に麻痺性イレウスを生じ,血管エ
コーで上腸間膜動脈の血流低下を認め転院とな
る.CTで上腸間膜動脈と左腎動脈の起始部に偽
腔からの圧迫を認めたため当日緊急で両動脈にベ
アステント留置し血行再建に成功した.【症例2】
49歳女性.B型急性大動脈解離の発症当日に右下
肢虚血を生じ他院でF-Fバイパス施行.保存的加
療中の第10病日に腹痛を訴え,乏尿となった.血
管エコーで上腸間膜動脈と腎動脈の血流低下を認
めたため第11病日に転院となる.CTで真腔は偽
腔により圧迫され,上腸間膜動脈の起始部も偽腔
による圧迫認めた.当日緊急で経カテーテル的に
fenestrationを作成し,上腸間膜動脈にはベアス
テントを留置し,血行再建に成功した.
146) 経時的CTにて急速な瘤増大を認めた高齢
者感染性弓部大動脈瘤の1手術例
(大阪医療センター心臓血管外科)
樋口卓也・高橋俊樹・石坂 透・吉岡大輔
(同循環器科) 小出雅雄・安村良男
感染性大動脈(Ao)瘤は瘤破裂予防と置換グラ
フトを含めた感染対策が不可欠である.今回,急
速に増大してきた高齢者感染性弓部Ao瘤に対し
外科治療を行い良好な結果を得たので報告する.
症例は82才男性,胸部CTで感染性弓部Ao瘤と診
断.当初手術を拒否したため抗生剤治療が行われ
たが,感染の再燃・増悪,急速な瘤増大を認め当
科紹介.大腿動静脈で人工心肺を確立,中枢温20
℃で循環停止とし開胸.弓部から下行Ao中枢側
に至る炎症性感染組織を可及的に郭清し,RFP浸
漬の人工血管での上行弓部置換に続き縦隔内大網
充填術を施行した.摘出組織よりMSSAが検出,
VCMを30日間投与,術後75日目に独歩軽快退院.
感染性Ao瘤は一旦感染が改善しても急速に増大
する可能性が高く,高齢者に対してはADL回復
も考慮し可及的早急に外科治療を行うべきであ
る.
147) Long elephant trunkを用いた低侵襲全弓部
大動脈置換術:99例の中期遠隔期成績
(大阪労災病院心臓血管外科) 戸田宏一・
谷口和博・甲斐沼尚・横田武典
【目的】広範囲胸部大動脈瘤に対して我々はlong
elephant trunk(LET) を 用 い た 低 侵 襲 なtotal
arch replacement(TARLET)を施行して来た.
今回その妥当性を検討した.【対象】本術式施行
した99例.【結果】同時手術として基部置換8例,
CABG6例,AVR4例,AVR+MVR1例が行われ
た.選択的脳潅流時間:97±28分,下半身循環停
止時間:26±10分であった.術後早期死亡(30
日以内)は1例(1%)であった.77例(78%)
は術後CTにてLET周囲の血栓化を認め2期手術
なしで,退院後平均3.8±2.5年観察され瘤径の縮
小を認め,瘤破裂は認めなかった.【結語】TARLETは広範囲胸部大動脈瘤に対して安全で有効な
術式と考えられ,今後ステントグラフト等との組
み合わせによりその適応範囲は拡大されうると期
待される.
145) 早期血栓閉塞型大動脈解離により心肺停止
に至ったと考えられた一症例
(滋賀医科大学呼吸循環器内科) 太田宗樹・
藤井応理・堀江 稔
(同救急集中治療部) 藤野和典・浜本 徹・
佐々木禎治・五月女隆男・江口 豊
148) 心内膜下虚血が誘発されたと考えられる左
右冠動脈瘻の一例
(京都第二赤十字病院循環器科) 蒔田直記・
松尾清成・中西直彦・塩野泰紹・山口真一郎・
西堀祥晴・松尾あきこ・井上啓司・田中哲也・
藤田 博・北村 誠
症例は70歳女性.H19年10月11日買い物の途中に
突然失神.救急隊到着時心肺停止(CPA)であり,
救急要請後5分で心肺蘇生が開始された.ECG
上PEAでありCPR続行し当院救急外来へ搬送さ
れた.当院到着時vital signsは安定.緊急頭部CT
では明らかな頭蓋内出血,脳浮腫の所見は認め
ず,挿管管理の上ICU入室し脳低温療法を3日間
施行.復温後意識レベルは回復し原因検索目的
にて10月22日当科へ転科となった.HolterECGで
はCPAの原因となりうる不整脈は認めなかった.
胸部CTにて下行大動脈に部分的に肥厚したhigh
density areaを認め,造影剤では染まらないこと,
心嚢内に血液と思われる液貯留を認めることより
早期血栓閉塞型大動脈解離(Stanford A)と診断
した.早期血栓閉塞型解離によると考えられる
CPA症例を経験したため報告する.
症例は75歳女性.呼吸困難にて救急搬送され,う
っ血性心不全にて入院となる.心エコーにて前壁
中隔・心尖部・下後壁の壁運動低下と,BMIPP
シンチにて心尖部での取り込み低下を認めたた
め,冠動脈造影を施行した.冠動脈に明らかな有
意狭窄は認めなかったが,主に右冠動脈後下行枝
及び左冠動脈の対角枝から心筋内の瘻孔叢を経て
左室内に注ぎ込む造影剤の染まりを認め,左右の
冠動脈瘻と診断した.後日施行したアデノシン負
荷テトロフォスミン心筋血流シンチでは,前壁中
隔から心尖部にかけての心筋虚血が誘発された.
今回我々は,左室へ流入する左右の冠動脈瘻によ
り心内膜下虚血が誘発されたと考えられる一例を
経験したので,文献的考察を加えて報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
149) 右冠動脈からの起始異常を伴う左回旋枝入
口部病変に経皮的冠血管形成術(PCI)を施行し
た一例
(関西医科大学滝井病院循環器内科)
朴 幸男・大谷 肇・山本克浩・岩坂潤二・
松久誠治・上山敬直・佐藤大祐・岡崎 徹・
山下浩司・大石千尋
(関西医科大学枚方病院循環器内科)
岩坂壽二
症例は77歳,男性.狭心症精査目的で近医より紹
介,07年9月26日冠動脈造影施行した.左前下行
枝近医部(#6)90%,第二対角枝(#10)90%,
左回旋枝(#11)90%狭窄を認めた.また左回旋
枝は右冠動脈より分枝する起始異常であった.08
年2月左前下行枝ならびに回旋枝に対し経皮的冠
血管形成術(PCI)施行,ステント留置し拡張に
成功した.冠動脈起始異常に伴う狭窄病変に対し
PCIした報告はまれであるため,若干の文献的考
察を加えて報告する.
150) 右単冠動脈症に対してステントの植え込み
を施行した1例
(市立堺病院循環器内科) 岡田知明・
佐藤正岳・塚本幸資・小原章敏・青木隆明・
河本 厳
症例は67歳女性.H19年9月下旬頃,冷汗を伴う
強い胸部不快感を自覚し当院搬送となった.心電
図でST上昇を認めたため,急性心筋梗塞を疑い
緊急冠動脈造影(CAG)を施行した.左冠動脈
(LCA)は通常部位には認めず,右冠動脈(RCA)
のすぐ前方より開口しており,カテーテルの挿入
に難渋した.責任病変は回旋枝の鈍縁枝分岐部の
90%狭窄であり,同部位に経皮的冠動脈形成術を
施行した.後日,冠動脈MSCTにおいてもLCAが
RCAより起始しており,LiptonRIII型の単冠動脈
症であることを確認した.冠動脈起始異常症は比
較的稀であり,中でも,単冠動脈症はCAG施行
患者の0.04%程度にしか見られないと言われる.
突然死や心筋虚血,不整脈などの発作を契機とし
て判明することが多い.
151) 右左シャントにより低酸素血症を呈した右
室二腔症の一例
(大阪赤十字病院) 近藤博和・西内 英・
内山幸司・伊藤晴康・垣田 剛・林富士男・
稲田 司・牧田俊則・田中 昌
症例は54歳の女性.幼少期より心雑音を指摘され
るも精査せずに経過.数年前から労作時の息切れ
を以前より強く感じるようになり,時に胸部圧迫
感を自覚するようになった.平成19年9月に近医
を受診し狭心症の精査目的にて当院を紹介受診し
精査目的にて入院となった.MRIにて心室中隔欠
損および右室流出路の心筋の肥厚を認めた.心臓
カテーテル検査を施行したところ,冠動脈に有意
な狭窄を認めなかった.右心カテーテルでは右室
内に約120mmHgの圧較差を認めた.右房造影に
て同部位の心筋の著明な肥厚が観察された.また
右室内での酸素含有量のステップアップはなく,
Qp/Qs:0.45,右左シャント:53%と多量の右左
短絡血流を認めた.以上より心室中隔欠損を介し
た右左シャントにより低酸素血症を来した右室二
腔症と診断した.
大阪国際会議場(2008 年 6 月) 1107
152) 手術により著明な症状の改善をみた高齢重
症肺動脈弁狭窄の一例
(大阪市立総合医療センター循環器内科)
康あんよん・伊藤 彰・白井直哉・古川敦子・
田川慈子・柳下大悟・柚木 佳・阿部幸雄・
中川英一郎・小松龍士・成子隆彦・土師一夫
(同心臓血管外科) 瀬尾浩之・青山孝信・
南村弘佳・宮本 覚
症例は58歳男性.約1年前から労作時呼吸苦とチ
アノーゼが悪化し,平地歩行でも呼吸苦が生じる
ようになったため当科受診した.6kgの体重増
加,顔面および下肢の浮腫,ばち指,多発する痛
風結節,中枢性チアノーゼを認め,収縮期駆出
性心雑音を聴取した.動脈血酸素分圧36.2mmHg
と著明な低酸素血症,ヘモグロビン19.5g/dl,ヘ
マトクリット59.0%の赤血球増多症があり,NTproBNPは13305pg/mlであった.心エコーで圧較
差103mmHgの肺動脈弁狭窄,右心系の拡大およ
び心房レベルでの右左シャントが明らかとなっ
た.肺動脈弁置換術,卵円孔開存閉鎖術,右室流
出路パッチ形成術,右心耳切除術を施行し,術後
は右室収縮期圧が85mmHgから36mmHgへと低下
し症状も消失した.
153) 低酸素血症を呈した左上大静脈遺残の1例
(愛仁会高槻病院) 茂真由美・笠松 悠・
田頭 達・村井直樹・高井栄治・高岡秀幸
症例は29歳男性.主訴は呼吸苦.生来健康であっ
たが,2007年1月中旬頃より労作時呼吸困難が
出現し,症状増悪するため当院外来受診.SpO2
90-91%と低酸素血症認め入院となった.胸部造
影CTにて左上大静脈遺残(左房還流型)と診断
された.左上大静脈遺残のうち左房還流型は8%
と稀であり,右左シャントによる低酸素血症を生
じる.薬物療法にて症状改善せず,3月15日左上
大静脈離断術,左上大静脈−右上大静脈バイパス
術を施行.術中診断は左上大静脈遺残(左房還流
型)
,冠静脈洞低形成,unroofed coronaryであっ
た.術後低酸素血症改善し,経過良好にて4月5
日退院となった.低酸素血症を伴う左上大静脈遺
残(左房還流型)の1例を経験したので文献的考
察を加え報告する.
154) 上行大動脈より分岐した右冠動脈起始異常
症に対しPCIを施行した一例
(JR大阪鉄道病院循環器内科) 日浦正仁・
篠塚知宏・宮本裕之・成山 仁
症例は65歳男性.胸痛を訴え受診.心電図上II,
III,aVFにてST上昇を認め急性心筋梗塞と診断
し,緊急冠動脈造影検査を行った.LCA造影では
有意狭窄は認めず,RCAへの側副血行路を認め
た.続いてRCA造影を試みるも入口部は同定で
きず,LVGを行うことでRCAが上行大動脈より分
岐していることを確認した.JL4.0にてRCA造影
を行い#3;99%狭窄を確認し,引続きRCA#
3に対してJL3.5を用いてPCIを施行し良好なflow
を得た.RCAはLCAと比べ起始異常が多い.今
回我々は高位上行大動脈より分岐している稀な
RCAにおけるACSに対してPCIを施行した症例を
経験したので,若干の文献的考察を含めて報告す
る.
1108 第 105 回近畿地方会
155) 奇異性脳塞栓を生じ,特異な形態を示した
心房中隔欠損症の1例
(桜橋渡辺病院心臓・血管センター内科)
澁谷真彦・伊藤 浩・岩倉克臣・岡村篤徳・
黒飛俊哉・小山靖史・伊達基郎・樋口義治・
井上耕一・永井宏幸・今井道生・有田 陽・
豊島優子・小澤牧人・伊東範尚・岡崎由典・
藤井謙司
(同心臓血管外科) 正井崇史・仲村輝也・
山内 孝・樋口貴宏
症例は63歳女性.右手の一過性の痺れを主訴に来
院し,胸部レントゲン上著明な心拡大を認めたた
め,精査入院となる.心エコー検査で二次欠損孔
を認め,左−右短絡を認めた.しかし,右房のみ
ならず左房も拡大しており,左房内に膜様の構造
物を認めたため,他の心奇形の合併を否定するた
め,コントラストエコーとともに心臓MDCTを施
行し,最終的にASD(Qp/Qs=2.8)の診断を得た.
また,下肢静脈血栓症の合併があったため,ワー
ファリゼーションした後に,心房中隔形成術を施
行した.手術中に右房内血栓を認め,手の痺れは
静脈側血栓による奇異性脳塞栓の可能性が示唆さ
れた.特異な形態をしたASDに静脈側血栓によ
る奇異性脳塞栓を合併した症例を経験したので報
告する.
156) 左室2腔症と考えられた一例
(兵庫県立姫路循環器病センター)
月城泰栄・谷口泰代・松本賢亮・林 孝俊・
山田慎一郎・水谷和郎・岩田幸代・岡嶋克則・
嶋根 章・熊田全裕・今村公威・井上琢海・
田代雅裕・梶谷定志
症例は33歳男性.既往歴・家族歴に特記事項なし.
検診で心電図異常を指摘されたため,精査目的で
当センター受診した.自覚症状はなかった.心電
図上,V4∼V6誘導にてT波の陰転化を認めたた
め,心エコー図検査施行したところ,左室内に可
動性のある膜様の隔壁構造物を認め,これにより
左室腔が2分されていた.またこの隔壁に囲まれ
た部分の左室壁運動の低下を認めた.心臓MRIで
も,同様の隔壁構造物が,乳頭筋レベルから心尖
部レベルに認められ,まるで収縮しているように
みられた.遅延造影は,心筋にも隔壁構造物にも
認められなかった.心臓MDCTでは,冠動脈は正
常で,またその他の先天異常も認めなかった.膜
様の隔壁構造物により左室腔が2分された左室2
腔症と考えられた稀な症例を経験したので報告す
る.
157) 異型狭心症を契機に発見された部分肺静脈
還流異常症の1例
(滋賀県立成人病センター循環器科)
石井 充・岡田正治・張田健志・天谷直貴・
武田晋作・和田嗣業・春名徹也・羽田龍彦・
小菅邦彦・池口 滋
(同心臓血管外科) 山田知行・勝山和彦
症例は67歳男性.以前から心拡大と不整脈を指摘
されていた.2007年11月,当科外来初診.胸痛の
既往もあり,負荷ECGを施行したところII,III,
aVFでST変化を認め,狭心症疑いで入院となっ
た.入院時の心エコーで右心系の拡大と左室後方
から右房に回り込む異常血管を認め,先天性心疾
患の合併も疑われた.心臓カテーテル検査では左
室壁運動は正常で,冠動脈も有意狭窄を認めず,
異型狭心症が疑われた.また軽度の肺高血圧と左
室拡張末期圧の上昇を認め,部分肺静脈還流異常
を造影で確認した.左→右シャント率は65.8%で
あった.経食道エコーでASDを確認し,3DCTで
左SVCも確認した.手術適応と判断し,2008年1
月,心臓血管外科でASD閉鎖および還流異常の
修復術を施行した.成人では比較的稀な症例であ
り,文献的考察も含め報告する.
158) 術前診断に苦慮したunroofed coronary sinus
ASDの成人例
(大阪厚生年金病院循環器科) 安井博規・
山平浩世・濱岡 守・宮本裕加子・岡本昌邦・
三好美和・長谷川新治
(同心臓血管外科) 笹子佳門・藤井弘道
症例は74歳男性.心房細動にて近医フォロー中.
2007年5月心エコーにてASDを疑われるも無症
状のため,経過観察されていた.その後10月頃よ
り徐々に労作時呼吸困難が出現.2008年1月頃
より,夜間呼吸困難,両下肢の著明な浮腫を認
め,外来受診.心エコーにて左右シャントを認
め,Qp/Qs2.1,肺高血圧(推定肺動脈収縮期圧
55mmHg)であり,精査加療目的にて入院.両心
カテーテルにて右房での02 step upを認め,Qp/
Qs2.9であり,ASDと診断.手術適応と判断して
2/8当院心臓血管外科にて閉鎖術を施行.術中所
見 よ りunroofed coronary sinus ASDが 確 認 さ れ
た.本疾患は術前診断が困難であることも多く,
若干の考察を加えて報告する.
159) 先天性右室冠動脈瘻の1手術例
(大阪大学心臓血管外科) 大久保恵太・
市川 肇・上野高義・横谷仁彦・上仲永純・
倉谷 徹・松宮護郎・澤 芳樹
今回,稀な疾患である先天性右室冠動脈瘻を経験
した.症例は7歳女児.生後すぐに心雑音に気付
かれ,心臓エコーにて冠動脈瘻と診断された.心
不全徴候認めず,胸痛発作も認めないため経過観
察を行っていた.7歳時,DOB負荷シンチグラ
ムにて心室中隔の虚血を認め,coronary stealと
判断し,心臓カテーテル検査および心臓CT施行.
右冠状動脈は欠損し,右冠状動脈領域へは左冠状
動脈回旋枝が栄養し,径10mmの瘤を形成してい
た.経皮的コイル塞栓術は困難であると判断して
心停止下に冠動脈瘻閉鎖術を施行した.経右房に
て観察したところ,三尖弁付近の右室自由壁に瘻
孔を認めた.肝動脈瘤を切開し,主たる瘻孔が径
4mmで他は認めないことを確認し,右室側より
直接閉鎖し手術終了.術後は良好で心電図上変化
はなかった.文献的考察を加え報告する.
160) 心不全に対する温熱療法としての低温岩盤
浴の有用性
(篠洋会篠崎クリニック) 篠崎洋二・
小野正博
(岡山大学保健学研究科) 上者郁夫
(同心臓血管外科) 佐野俊二
【目的】岩盤浴は種々の疾病の改善に効果がある
とされている.今回,我々は適切な岩盤を選び,
36℃∼39℃の 低温岩盤浴 を施行したところ,
心不全に対する有効性が示唆されたので報告す
る.【方法】高齢者を含む健常成人27人(男12人
女15人 平均60.7才)において.正確な温度設
定が可能な岩盤ベッドを用い,36℃−39℃と40℃
以上の岩盤浴を施行,比較検討した.【結果】低
温岩盤浴において心不全の指標であるBNPは改
善傾向がみられた.他方,40℃以上の岩盤浴にお
いては,50歳以上の高齢者の8例中3例にBNP
の上昇が見られた.【結論】低温岩盤浴において,
BNPを改善することが示唆された.臨床効果と
しては浮腫が軽減したほか,疼痛,循環障害の改
善等がみられた,心不全の治療法として有用であ
ることが示唆された.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
161) 携帯岩盤マット(商品登録名: 大和の夢
心地 )をもちいた低温浴の心不全に対する有用性
(篠洋会篠崎クリニック) 篠崎洋二・
小野正博
(岡山大学保健学研究科) 上者郁夫
(同心臓血管外科) 佐野俊二
【目的】携帯岩盤マット 大和の夢心地 は,極
小粒子に砕かれたゲルマニウムやトルマリンを多
量に含み,ムシロ様の形態に加工されている.こ
のマットの心不全に対する効果が示唆されたので
報告する.
【方法】被験者は特別擁護老人ホーム 泉
寿の里 の入所者8人(男2人 女6人 平均
83.6才)で,36℃−37℃前後の温度で使用し,使
用前後の血液検査と臨床所見の変化を観察した.
【結果】血圧,脈拍および呼吸状態等は安定し
ており,BNPは改善傾向が強くみられた.(p<
0.001)
【結論】携帯岩盤マットを低温浴として使
用することにより,BNPの有意な改善がみられ
た.臨床的には浮腫や疼痛の改善がみられた.携
帯岩盤マットは重症者や高齢者の病室管理や在宅
管理において有用と思われた.
162) 著明な肺高血圧を呈した1症例
(関西労災病院循環器科) 大西俊成・
南都伸介・上松正朗・両角隆一・渡部徹也・
粟田政樹・飯田 修・世良英子・南口 仁・
赤堀宏州・矢野正道・池岡邦泰・岡本 慎・
田中宣暁・安井治代・永田正毅
症例は,肺結核と甲状腺機能低下症の既往歴を持
つ77歳,女性.平成18年春頃より労作時呼吸困難
があり,平成19年夏頃より下腿腫脹,呼吸困難を
認め,同年11月28日精査加療目的にて入院.入院
時より,低酸素血症,高二酸化炭素血症を呈し,
心エコー図上,左室扁平化があり,肺高血圧,右
心不全の病態であった.その後,CO2ナルコーシ
スによる意識レベル低下を認め,BiPAP施行にて,
低酸素血症,高二酸化炭素血症の改善と意識レベ
ルの回復みられ,心エコー図上,肺高血圧の改善
を認めた.本症例は胸郭運動の低下が原因で,低
酸素血症,肺高血圧を誘発し,右心不全に陥り,
一方では,高二酸化炭素血症からCO2ナルコーシ
スを呈したものと考えられた.原因として肺結核
後遺症や甲状腺機能低下症による呼吸筋の廃用症
候群が推察された.
163)約50年間無加療で経過していた中枢性尿崩
症によってうっ血性心不全をきたした一例
(大阪府済生会中津病院循環器内科)
岡本匡史・高谷具史・畑 勝也・木島洋一・
北 智之・伊藤光哲・中島英人・西川裕二・
淀井景子・小林克也・瀬尾俊彦
(同総合内科) 川嶋成乃亮・戸田常紀
症例は54歳男性.2007年5月末,労作時呼吸困難
を主訴に当院受診.胸部Xp上,心拡大(心胸郭
比60%)および肺うっ血を,心エコーで駆出率26
%とびまん性の壁運動低下を認め,うっ血性心不
全の診断で入院となった.患者からの病歴聴取か
ら,6歳時に尿崩症と診断されたが当時は治療法
がなかったために無加療で経過し,最近では口渇
のため毎日約20L飲水していたことが判った.入
院後,利尿剤は使用せず,心不全に対しては飲水
制限を,尿崩症に対しては抗利尿ホルモン投与を
行うことで症状は改善した.半年後,胸部Xp上
心胸郭比は49%と縮小,心エコーで駆出率45%と
壁運動の改善を認めた.約50年間の多量飲水によ
ってうっ血性心不全に至ったと考えられた中枢性
尿崩症の一例を経験したので,若干の考察を加え
て報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
164) 急性心不全患者の長期予後に関する検討
(兵庫県立淡路病院内科) 高橋裕子・
宝田 明・金 秀植・松尾洋介・岡本 浩・
上田亮介・岩崎正道・望月泰秀・横山光宏
【目的】心不全患者における腎機能の低下は心腎
連関症候群として着目されている.我々は入院時
の糸球体濾過率(GFR,MDRD簡易式)につい
て血中BNP値,Hb値と共に急性心不全患者の長
期予後に対する影響を検討した.【方法】2006年
1月から2008年1月までに急性心不全で入院し
た145名(女性67名,平均80±12才,NYHA3/4=
26/119)を対象とした.悪性腫瘍患者,血清クレ
アチニン値2.5以上の者,血液透析患者は対象か
ら除外した.心不全急性期の死亡例,再入院例を
それ以外の症例と比較した.GFRは単回入院例,
再入院例,死亡例の順に52.8±24,44.6±22,30
±18,BNP値は689±1118,878±2458,2262±
2923であった.入院時Hb値は3群で差は見られ
なかった.【結論】心不全患者には早期からGFR
低下を念頭においた治療が望ましいと考えられ
た.
165) 稀有な組織所見を示した原発性心臓腫瘍の
一例
(大阪医科大学第一内科) 藤阪智弘・
武田義弘・村井基修・新名荘史・宮崎憲彦・
谷川 淳・岡部太一・中小路隆裕・星賀正明・
石原 正・花房俊昭
(同心臓血管外科) 小澤英樹・森本大成・
勝間田敬弘
患者は54歳の女性.2007年胸部レントゲンで左第
3弓の突出を指摘され,9月胸部単純CTにて心
嚢周囲に腫瘍を認めた.造影心臓CTでは左房か
ら左室周囲に心臓よりややhigh densityな内部が
均一に造影される腫瘍を認めた.経食道心エコー
および64列MDCTでは左心耳内にも腫瘍を認め,
心臓原発腫瘍の診断で腫瘍摘出術を施行した.心
房内および心嚢内に同時に腫瘍を認めた稀有な一
例であり,病理診断および文献的考察を加え報告
する.
166) 心不全を契機に発見された巨大心膜腫瘍の
一例
(済生会京都府病院循環器科) 中岡幹彦・
石橋一哉・長村智子・山原康裕
(京都第一赤十字病院心臓血管外科)
井上知也・中島昌道
症例は83歳,女性.2週間前からの呼吸困難を主
訴に2007年11月30日当院受診.胸部X線上胸水,
肺うっ血認め,心不全と考えた.胸部CT上,心
臓前面に接して径10×8cmの腫瘤を認めた.心
エコー上腫瘤による左室の圧排,左室内腔の高度
狭小化を認め,心不全の原因と考えられた.内科
的治療による心不全のコントロールの限界を考慮
し,他院へ同日転院.転院後,4病日に急激な心
不全の悪化にて準緊急心嚢内腫瘍切除術を体外循
環補助下に施行.腫瘍は一部残存も,左室内腔の
狭小化は解除され,薬物療法にて心不全コントロ
ール可能となった.その後,胸膜,肝臓への転移
認め,徐々に衰弱し,2008年2月7日に永眠され
た.切除病理所見ではsarcomaの一種と考えられ
たが,由来組織などは現在検索中.疫学的に頻度
の低い心膜悪性腫瘍を経験しため,考察も加え今
回報告する.
167) 深吸気時でのみ心エコーで描出が可能で
あった心膜嚢胞の1例
(松下記念病院循環器科) 内山侑紀・
川崎達也・坂谷知彦・三木茂行・神谷匡昭・
杉原洋樹
(高橋クリニック) 高橋 徹
症例は60歳代前半の女性.安静時の動悸を主訴に
近医を受診した.心電図,胸部X線では特記すべ
き異常はなかったが,心エコーで右室前面の腫瘍
が疑われ当科紹介となった.心エコーを再検した
ところ,同病変は70mm×26mmの深吸気時での
み描出が可能な表面整かつ境界明瞭な嚢胞性病変
であった.心膜と連続性を有し内部のCT値が10
前後であったことから心膜嚢胞と診断した.一般
に心膜嚢胞は心横隔膜角に発生することが多い
が,本例の心膜嚢胞は前縦隔の心前面に限局して
いた.その稀な存在位置のため,深吸気時以外で
は心エコーによる描出が困難であったと考えられ
た.深吸気時に胸骨左縁第四肋間に位置する同病
変が,深呼気時にはエコーウィンドウから逸脱す
ることを呼吸調整下で施行したCTで確認した.
168) 虚血性肝炎による低血糖性昏睡を合併した
収縮性心膜炎の一例
(公立南丹病院循環器内科) 野村哲矢・
計良夏哉・浦壁洋太・内藤大督・榎本聖子・
中山雅由花・西川 享・辰巳哲也
症例は57歳女性.乳癌術後に血性心嚢液貯留を認
め,化学療法で心嚢液貯留は改善したものの,以
後慢性心不全徴候を認めていた.これまでに耐糖
能異常はなかったが今回低血糖性昏睡で救急搬
入され,同時にGOT,GPTの異常高値を認めた.
合併する心不全に対する治療で肝酵素異常は速や
かに正常化したが,代わって黄疸の遷延重症化を
認め,死亡の転帰となった.一般にshock liverと
いう名称で知られる虚血性肝炎は,一過性の肝酵
素異常を認め,通常何らかの心疾患を有する.右
心不全を合併する収縮性心膜炎が肝機能異常を伴
ったという報告は散見されるが,今回のように収
縮性心膜炎が引き金になった低血糖性昏睡の報告
は稀である.収縮性心膜炎の慢性期臨床対応に示
唆を与える症例のため,文献的考察を加え報告す
る.
169) 左房内腫瘍によりうっ血性心不全をきたし
た一例
(大阪医科大学循環器内科) 藤木陽平・
中坊亜由美・中小路隆裕・武田義弘・
岡部太一・星賀正明・石原 正・花房俊昭
症例は67歳,男性.2008年1月初旬より労作時呼
吸困難が出現,徐々に増悪し起坐呼吸となり近医
を受診.胸部Xpにて心拡大と右下肺野腫瘤影を
認め,当院へ紹介となった.来院時,著明な低酸
素血症を認め人工呼吸器管理とした.胸部CTに
て右下葉より左房内へ連続する腫瘤影を認めた.
心エコーでも左房内をほぼ埋め尽くすように腫瘤
形成を認め,重症の僧帽弁狭窄症と類似の病態を
呈していた.カテコラミン製剤及び利尿剤にて肺
うっ血の若干の改善は得られたが,左室流入制限
による低血圧,右心不全の状態で経過した.家族
が積極的な検査治療を希望されず,全身管理に努
めたが,第31病日に突然の血圧低下と徐脈を認め
永眠された.肺腫瘍の転移と考えられる左房内腫
瘍により心不全を来たした稀有な症例を経験した
ので,文献的考察を加えて報告する.
大阪国際会議場(2008 年 6 月) 1109
170) 肺動脈肉腫の1手術例
(大阪警察病院心センター心臓血管外科)
吉田卓矢・須原 均・三浦拓也・大竹重彰
(同心臓センター循環器科) 村川智一・
上田恭敬
症例は32歳男性.平成19年秋から咳・痰を自覚.
平成20年に38度の発熱が続くため近医にてCT検
査施行,右肺動脈内の陰影欠損を認め精査目的に
当院紹介となった.CT検査にて右肺動脈内の陰
影欠損のほか左肺門部に腫瘤像あり,左前胸部直
下にも液貯留を認めた.採血上WBC11800/μl,
CRP23mg/dlと高値を示し,sIL-2R1090U/mlと高
値である以外は正常範囲内であった.左前胸部直
下の液貯留をCTガイド下生検するも悪性所見を
認めず.診断及び肺動脈閉塞解除のため開胸手術
の方針となった.体外循環下に肺動脈を切開,腫
瘍を認めたため可及的切除を行った.左前胸部直
下にも同様の腫瘍を認め,いずれも術中迅速病理
診断にて血管肉腫と診断された.肺動脈肉腫の1
手術例を経験したので報告する.
171) 左室内乳頭状線維弾性腫の一例
(大阪医科大学循環器内科) 嶋本新作・
川西泰徳・伊藤隆英・宗宮浩一・河野龍而・
寺崎文生・北浦 泰
(同心臓血管外科) 小澤英樹・勝間田敬弘
(新生病院) 金原稔幸・麻田邦夫
60歳代の男性.生来健康であったが,検診の心エ
コー検査で偶然に左室内異常構造物を発見され
入院した.身体所見,胸部X線検査および心電図
に異常を認めない.血液検査でCRP 3.37mg/dl,
赤沈1時間値21mmと軽度の炎症所見を認めた.
末梢血のD-dimerおよびIL-6は正常値であった.
心エコー検査にて左室前側壁に付着する径18×
15mmの可動性腫瘤を認め,腫瘤はMRI(T2)で
low densityを示した.心臓手術において腫瘤は僧
帽弁前尖の腱索に癒着しており,腱索の一部を含
めて摘出した.肉眼的には表面に絨毛を有する径
15mmの腫瘍で病理組織所見から僧帽弁腱索より
発生した乳頭状線維弾性腫と診断した.僧帽弁腱
索より発生する乳頭状線維弾性腫は極めて稀なた
め報告する.
172) 多発性脳梗塞,DICを合併した感染性粘液
腫の一手術例
(国立大阪医療センター心臓血管外科)
吉岡大輔・高橋俊樹・石坂 透・樋口卓也
(同臨床検査科) 岩佐葉子
(東大阪市立総合病院循環器内科)
中川雄介・木島洋行
粘液腫が感染を伴うことは少ない.今回,不明熱
にて発症し多発性脳梗塞,DICを併発した感染性
粘液腫に対し緊急手術により良好な結果を得たの
で報告する.症例は52才,男性.2週間不明熱が
続くため近医より紹介となった.UCGにて僧帽
弁後尖心室側の疣贅と心房中隔に茎を有する60×
20mm大の腫瘤を認め,その先端は僧帽弁前尖疣
贅と鑑別し難い形態であった.感染所見に加えて
Osler結節,多発性脳梗塞,血小板減少症(1.0万
/μl)も認めた.脳出血の無いことを確認後,緊
急手術にて腫瘤摘出術,心房中隔再建,僧帽弁後
尖下の疣贅廓清を施行.血液培養,組織培養にて
MSSAを認め,腫瘤は感染性粘液腫と診断された.
1110 第 105 回近畿地方会
173) 脳梗塞発症に伴い変化した形態を心エコー
で経時的に観察しえたcaseous mitral annular calcificationの1例
(国立循環器病センター心臓血管内科)
東 晴彦・大原貴裕・中谷 敏・北風政史
(同生理機能検査部) 橋本修治
(同脳内科) 鳥居孝子・宮下光太郎・
成冨博章
【症例】76歳女性.意識障害と四肢麻痺を発症し,
脳底動脈領域の脳梗塞の診断で緊急入院.心エコ
ー上,僧帽弁後尖弁輪付着部に境界明瞭で内部が
一部透亮な可動性のない円形腫瘤を認め,その特
徴的な所見からcaseous mitral annular calcification(MAC)と診断.第8病日に右上肢の麻痺が
増悪した.Caseous MACの形態の変化と,内部
へのエコーコントラスト剤の流入が確認された.
Caseous MACの内容物または内部の血栓の流出
が脳梗塞の原因となった可能性もあり,抗凝固療
法を開始した.
【考察】Caseous MACは稀な疾患
であるが,腫瘍や膿瘍と誤認されることもあり,
診断に注意を要する.本例ではcaseous MACを
経時的に観察し脳梗塞との因果関係をも推測しえ
たため報告する.
176) 冠動脈バイパス術後早期より収縮性心膜炎
を呈した一例
(京都府立医科大学循環器内科)
小野山紗代・星野 温・白石裕一・松原弘明
(同心臓血管外科) 土井 潔・夜久 均
症例は68歳男性.狭心症,三枝病変に対しOPCABを施行.術後早期は出血,感染等の合併症
なく経過したが術後10日目より胸水貯留傾向を
認めた.術後12日目の心エコー図にて心膜の肥
厚,心室中隔の異常運動,左室の拡張障害の所見
を認め収縮性心膜炎が疑われた.胸水排液,利尿
薬にて保存的に治療し一旦退院するも反応不良で
胸水貯留を繰り返すため術後1ヶ月で再入院とな
った.心臓カテーテル検査でもdip and plateau認
め収縮性心膜炎に合致する所見であったため心膜
切除術を施行しところ前壁,側壁を中心として
ほぼ全周性に線維性肥厚を認めた.手術前後で
C.I./CVPは1.2/21から2.3/17と改善を認め右心不
全症状も改善した.開心術後12日目と非常に早期
より心膜の変化を認める症例を経験したため心エ
コー図上の所見の経過とともに報告する.
174) 局所的なST変化が全誘導へ波及した心膜
炎の一例
(神戸赤十字病院循環器科) 栗林佐智子・
松本大典・宮本哲也・谷口 悠・黒田祐一
(兵庫県災害医療センター) 村田武臣
177) 心タンポナーデで発症した心臓原発血管肉
腫の一例
(神戸赤十字病院循環器科) 谷口 悠・
村田武臣・栗林佐智子・松本大典・黒田祐一
(同心臓血管外科) 川平敏博・築部卓郎
【 症 例 】55歳 男 性.1990年 よ り 人 工 透 析 施 行.
2007年12月朝突然前胸部と背部痛を自覚し,近医
へ救急搬送された.血液検査,心電図上異常所見
はなかったが,胸痛持続するため当院へ転院とな
った.来院時心電図でII,III,aVfのST上昇を認
めた.心エコー上asynergyは認めなかったが,虚
血評価目的で,冠動脈造影施行.入室時心電図で
は前胸部誘導にもST上昇を認めた.#9 100%閉
塞を認め,経皮的冠動脈形成術施行.4日後,発熱,
透析時に血圧低下し,心電図にて全誘導でST上
昇し,心エコーで全周性の心嚢水を認め,心膜炎
と診断した.NSAIDS,抗生剤の投与にて症状及
びST変化は改善し第14病日退院した.局所的な
ST上昇で発症し経過に伴い全誘導にST上昇を認
めた心膜炎を経験したので報告する.
【症例】27歳男性【現病歴】生来健康.突然の呼
吸困難を自覚し救急外来受診した.心エコー上,
心タンポナーデ状態であり,ドレナージを施行し,
血性心嚢水を採取した.入院後,両下腿の深部静
脈血栓と右房壁に付着した構造物認め,肺塞栓の
併発を疑い抗凝固療法を開始した.入院12日目に
呼吸困難の増悪認め,両側多量血胸認め,人口呼
吸器管理とし,出血のコントロールを行い,入院
17日目に胸腔内血腫除去術を施行した.右房から
心外膜に突出した腫瘤を認め,術中診断で血管肉
腫と判明,両側多発肺内転移も認め,血腫除去の
み行い,閉胸した.術後,再出血なく,安定して
いたが,入院71日目に突然意識消失し,血行動態
保たれず永眠された.心タンポナーデで発症し,
急激な進行を認めた心臓原発血管肉腫の一例を経
験したので報告する.
175) 急性循環不全で発症しMRIにて診断し得た
好酸球増多心外膜炎の一例
(市立福知山市民病院循環器科) 西尾 学・
阪本 貴・林 宏憲・岸田 聡
178) Disopyramideとameziniumの併用療法が有
効であった再発性喉頭腫瘍に伴う頸動脈洞症候群
の一例
(大阪市立大学循環器病態内科学)
多田洋平・土井淳史・片岡 亨・高木雅彦・
葭山 稔
心外膜炎は胸痛と心嚢液貯留を来すが,急性に血
行動態が破綻した場合診断に苦慮することがあ
る.56歳男性.平成19年11月16日より発熱出現,
近医受診したが改善せず11月21日午前1時めま
い,嘔気を生じ転倒,四肢冷感も生じ救急受診し
た.血圧69/43mmHgでショック状態であり,胸
部単純CTにて心嚢液貯留と上行大動脈周囲の液
体貯留所見を認め,A型大動脈解離と紛らわしい
画像所見であった.大量輸液を行いながらMRI施
行し大動脈起始部周囲の心外膜肥厚,心嚢液貯留
を認め心外膜炎と診断された.その後心嚢液は一
時的に増加したがのち消失した.血中好酸球増多
(3641/μl)を認め,病因に関連していると考え
られた.急性循環不全の重篤な状況でMRIが有用
であった好酸球増多心外膜炎を経験したので報告
する.
症例は58歳男性.主訴は失神.2007年4月喉頭腫
瘍に対して,化学療法,放射線治療,下咽頭喉頭
食道摘出術,遊離空腸による再建術を施行.2008
年1月同部位への再発を認め再入院.入院後,重
篤な失神発作が頻回に出現.発作時は脈拍30台
/分の接合部調律となり,血圧が50mmHgまで低
下した.再発性喉頭腫瘍に伴う頚動脈洞症候群と
診断.一時ペーシングの挿入とα1受容体刺激薬
midodorineを投与するも血圧の低下を認め無効
であった.心抑制型と血管抑制型との混合型と診
断し,抗コリン作用をもつdisopyramideと間接作
用型交感神経作動薬ameziniumを投与した結果,
発作は激減し一時ペーシング抜去後も失神は生じ
なくなった.再発性喉頭腫瘍に伴う頸動脈洞症候
群に対してdisopyramideとameziniumの併用療法
が有効であった1例を経験したので報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
179) 薬物抵抗性の重症起立性低血圧の1症例
(尼崎中央病院循環器科) 小松 誠・
吉田純一・児玉和久
(同内科) 西田真美香
症例は78歳男性,神経因性膀胱及び高血圧で当院
通院中,1か月前からの反復する失神発作にて当
科入院.45度程度の坐位までは可能であったが,
それ以上になると失神し,α遮断薬を中止しても
症状は継続した.臥位血圧132/80mmHg,心拍数
100bpm,Head-up tilt testでは40秒で眼前暗黒感,
BP測定不能,心拍数110bpmとなった.神経学的
には錐体外路障害,小脳失調,パーキンソン症状
なし,血液学的異常も認めなかった.また,心エ
コーでは心機能正常,冠動脈CTで冠動脈に有意
狭窄なし.メトリジン投与にても血圧の激しい変
動あり,コントロールの困難な重症起立性低血圧
の1症例を認めたので報告する.
180) 当院でのプレミネントの治療成績
(奈良県立奈良病院循環器科) 澤田保彦・
井上文隆・森本勝彦・上嶋運啓・長崎宗嗣・
山口惣一・濱野一將・佐々木弥寿延・
藤本隆富・籠島 忠
182) 血管平滑筋細胞におけるアポトーシス関連
因子Apop-1の発現調節の検討
(大阪大学老年腎臓内科) 馬場義親・
安田 修・河本秀宣・竹村幸宏・樋口勝能・
楽木宏実
(武庫川女子大学) 福尾恵介
Apop遺伝子はApoE欠損マウス胸部大動脈の動脈
硬化プラーク部位において発現している遺伝子
として,クローニングされ,培養血管平滑筋細
胞に発現させると,アポトーシスをおこすこと
から,Apotogenic Protein(Apop)と名付けられ
た.In vitroにおける正常ヒト大動脈平滑筋細胞
の形質転換におけるApop発現の検討を行った結
果,SMembを発現している増殖型の細胞でApop
発現の上昇が確認され,平滑筋細胞にIL- 1β等
の増殖刺激を加えるとApopの発現が上昇してい
ることが確認された.同様にIn vivoにおけるバル
ーン障害を与えたラット頚動脈の肥厚内膜におい
てもApop発現が上昇していることが確認された.
また,平滑筋細胞をミトコンドリアと細胞質画分
に分けて解析した結果,ミトコンドリア画分にお
いてバンドが検出された.
183) マウス圧負荷心肥大モデルを用いた肝細胞
増殖因子の抗線維化作用の検討
(大阪大学老年腎臓内科) 堂阪宜雄・
谷山義明・東 純哉・家串和真・楽木宏実・
森下竜一
【目的】日本初のロサルタンカリウムとヒドロク
ロロチアジドの合剤であるプレミネントの当院の
治療成績を検討した.【方法】対象は薬物治療抵
抗性の高血圧症例14例(69±12歳)である.対象
項目はプレミネント投与前後の収縮期,拡張期血
圧,心拍数,血液生化学検査(TC,FBS,BUN,
SCr,Na,K)である.【成績】血圧は投与前に比
して投与後1ヶ月で有意に低下した(収縮期162
±14mmHg vs. 134±18mmHg,p<0.01, 拡 張 期
90±8mmHg vs. 77±10mmHg,p<0.01). 一 方,
他のパラメーターは差がなかった.
【結論】薬物
治療抵抗性の高血圧症例にプレミネントは有効で
あった.
【目的】肝細胞増殖因子(HGF)は強力な抗線維
化作用を有しており,心肥大に伴う心筋線維化を
抑制し心不全を抑制できる可能性がある.【方法】
心筋特異的HGFtransgenic mouse(HGF-Tg)を
作成し,HGF-Tgマウスおよび野生型(WT)マ
ウスに胸部大動脈縮窄術(TAC)を施行,30日
後に心重量/体重比,心機能,心筋線維化等を検
討した.
【結果】TAC施行前の各群間で有意差は
認められなかった.TAC施行30日後の心重量/体
重比でも各群間で有意差は認めなかったが,心
機能はHGF-Tg群で有意に良好で(p<0.05),心
筋線維化も少なかった(p<0.05).TGF-bの発現
もHGF-Tg群 で 有 意 に 減 少 し て お り(p<0.05),
HGFがTGF-bを抑制している可能性が示唆され
た.【結論】HGFは強力な抗線維化作用を有して
おり,心筋線維化を抑制する重要な役割を果たし
ている可能性がある.
181) 正常心電図後期高齢者からみた経胸壁心エ
コー図検査の検討
(四天王寺病院内科) 小山 徹
184) 難治性特発性心嚢水貯留に対して,メトト
レキサートが有効であった一例
(関西医科大学附属枚方病院循環器科)
瀬尾麻位子・前羽宏史・岩坂壽二
(同膠原病内科) 尾崎吉郎
【目的】心電図上正常範囲内であった後期高齢者
の経胸壁心エコー図検査結果を検証した.【方法】
平成18年度に当院で心エコーを受けた後期高齢患
者414名(男性122名・女性292名)に関して,心
エコー直前の心電図で正常範囲内であった者89名
(男性19名・女性70名)を抽出した.男女別に各
計測値を解析し,平均値±SDを正常範囲とした.
【結果】1)男性19名には有意な弁膜症・壁運動
異常を認めなかった.女性70名中,2名にAs・2
名に右室圧負荷・1名に右室容量負荷を認めた.
2) 男 性/女 性 の 正 常 値 は,AoD:26-33/25-33,
LAD:31-45/30-43,IVSth:8-11/8-11,PWth:
9-12/8-11,LVDs:41-50/38-49,LVDd:22-32/
21-29,FS:35-49/36-49,EF:64-81/66-80,E/A:
0.54-1.09/0.49-0.91,DT:216-304/189-324, で あ
った.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
64歳男性,結核性胸膜炎の既往あり.2007年3月
より倦怠感出現し,5月に当院受診.心エコー検
査上,両側胸水,全周性38mmの心嚢水貯留あり.
入院22日目に約1600mlの心嚢穿刺を施行,心嚢
水は黄色透明,浸出性であった.悪性疾患,感染
症,膠原病の関与は否定的であった.その後,心
嚢水は再貯留したため,同年8月に心膜開窓術,
心膜生検術を施行した.病理組織は非特異的炎症
所見のみであり,特発性心嚢水と診断した.開窓
後,胸水貯留に伴う呼吸苦が出現.利尿剤投与,
頻回の胸水穿刺では,症状のコントロールが困難
であったため,メトトレキサート5mg/日を投与
開始したところ,徐々に胸水は漸減し,完全に消
失した.以上,難治性特発性心嚢水に対して,メ
トトレキサートが有用であった一例を経験したた
め,若干の考察とともに報告する.
185) 大動脈壁に発症した感染性心内膜炎の1例
(大阪市立大学循環器病態内科学)
古賀裕規・山下 啓・辰巳裕亮・片岡 亨・
中村泰浩・竹本恭彦・高木雅彦・室生 卓・
穂積健之・葭山 稔
症例は70歳女性.心筋梗塞の既往があり,左前下
行枝,回旋枝に経皮的冠動脈ステント留置術を受
け糖尿病性腎症のため人工透析を導入された.心
臓超音波検査にて大動脈弁付近に異常構造物を認
めた.経食道超音波検査にてバルサルバ洞から上
行大動脈移行部に付着していた.自覚症状や血液
検査で炎症反応は認めなかった.異常構造物の可
動性は大きく,動脈塞栓症の危険があり,外科的
除去術を施行した.異常構造物の除去,大動脈弁
置換,左前下枝へのバイパス術を行った.術中所
見では左冠動脈口直上に約5mm大の石灰化を認
め,そこから約7mm大の脆弱な疣腫を認めた.
疣腫は大動脈壁の極一部に付着しておりこの付着
部位での報告は少なく,若干の文献的考察を加え
報告する.
186) 感染性心内膜炎に合併した急性呼吸促迫症
候群に対して,好中球エラスターゼ阻害薬が著効
した1例
(大阪府済生会中津病院循環器内科)
西川裕二・高谷具史・岡本匡史・畑 勝也・
木島洋一・北 智之・伊藤光哲・中島英人・
淀井景子・小林克也・瀬尾俊彦
(同心臓血管外科) 岩橋和彦
(同総合診療内科) 川嶋成乃亮・戸田常紀
(竹内医院) 竹内陽史郎
症例は胃癌切除後の73歳男性.平成19年5月に腸閉塞
で入院.解除術施行後も発熱は持続し,呼吸困難を認
めた.胸部Xpにて肺うっ血を認め,心エコーで大動
脈弁に疣贅,僧帽弁に肥厚を認め,いずれも著明な逆
流を伴っており,感染性心内膜炎による心不全と診断
した.抗生剤とhANPを開始していたが,3日後呼吸
状態は急激に増悪,胸部CT所見などから急性呼吸促
迫症候群の合併を考え,好中球エラスターゼ阻害薬を
開始した.同薬剤の長期投与で呼吸状態は徐々に改善
したため,最終的に二弁の人工弁置換術および三尖弁
縫縮術施行が可能となった.術後経過は良好で,肺野
に線維化を残さずに改善した.今回我々は感染性心内
膜炎による敗血症に合併した急性呼吸促迫症候群に対
して,好中球エラスターゼ阻害薬投与が著効した一例
を経験したので報告する.
187) 細菌性動脈瘤によるクモ膜下出血を起こし
た感染性心内膜炎の一例
(大津赤十字病院循環器科) 永田 靖・
稲垣宏一・樋上雄一・樋口博一・滝本善仁・
原 正剛・森川 雅・冨岡宣良・渡邊 裕・
小西 孝・廣瀬邦彦
症例は58歳男性,40度の発熱,意識障害を主訴に
搬送されたが頭部CTでクモ膜下出血が認められ,
また熱源精査のため施行された腹部造影CTで多
発性の腎梗塞,脾梗塞が認められた.心エコーで
僧房弁に疣贅と高度の僧房弁逆流が認められ,感
染性心内膜炎と疣贅飛散による多発性梗塞,細菌
性動脈瘤の破裂に伴うクモ膜下出血の診断で循環
器科入院となった.搬送時腎梗塞による急性腎不
全,DICの状態でありクモ膜下出血の出血量も少
なかったため緊急手術は行わず経過観察となっ
た.抗生剤大量投与による感染症治療を優先した
が状態改善してきていた第9病日細菌性動脈瘤か
らの再出血を起こし緊急手術となった.重症細菌
感染症の治療の中,合併症である細菌性動脈瘤の
外科治療の時期判定が難しかった症例を経験した
ので報告する.
大阪国際会議場(2008 年 6 月) 1111
188) 腎梗塞で発症し,診断までに時間を要した
感染性心内膜炎の一例
(大阪警察病院心臓センター循環器科)
肥後友彰・廣谷信一・小笠原延行・柏瀬一路・
平田明生・岡田佳築・村川智一・根本貴祥・
松井万智子・松尾浩志・樫山智一・増村雄喜・
和田 暢・上田恭敬・児玉和久
191) エコー上非典型的な所見を示した感染性心
内膜炎にて僧帽弁置換術を施行した症例
(大阪府立急性期・総合医療センター心臓内科)
木戸高志・塚本泰正・山田貴久・奥山裕司・
森田 孝・真田昌爾・古川善郎・増田正晴・
奥田啓二・岩崎祐介・安居 琢
(同心臓血管外科) 吉龍正雄・高野弘志
194) San Diego分類3型慢性肺動脈血栓塞栓症
に対する肺動脈内膜摘除術
(兵庫県立姫路循環器病センター) 森本直人
(神戸大学心臓血管外科) 坂本敏仁・
野村拓生・田中亜紀子・高橋宏明・宗像 宏・
松森正術・北川敦士・森本喜久・岡田健次・
大北 裕
症例は59歳女性.既往歴に特記すべきことなし.
平成19年12月6日夜突然の右側腹部痛を認め近医
受診.腹部造影CTで右腎梗塞を認め,当院救命
科に紹介搬送となった.同日緊急腎動脈造影検査
施行し,右腎動脈の陰影欠損認め,血栓溶解およ
び吸引術施行したが,血栓は吸引できなかった.
第5病日より心不全症状出現し,当科転科.経胸
壁心エコー図で中等度の僧帽弁狭窄兼閉鎖不全症
を認め,心不全加療および抗凝固療法を開始した.
第17病日に発熱認め,血液培養でレンサ球菌が検
出されたため,第22病日経食道エコー検査施行.
僧帽弁前尖に広範囲に付着する疣贅を認め,感染
性心内膜炎と診断した.第46病日に僧帽弁置換術
施行した.腎梗塞で発症し,感染性心内膜と診断
するまでに時間を要した教訓的な一例を経験した
ので報告する.
症例は40歳男性.慢性腎不全にてH.11より腹膜透
析,H.16よ り 血 液 透 析.H.15にAMIに てRCAに
対 しPCI.H.19/10/21よ り 発 熱 あ り,10/22近 医
へ入院.著明な炎症反応を認め,CAZの投与を開
始.10/24心エコーにて左室内に球状構造物を認
め,感染性心内膜炎(IE)疑いにて当科へ転院.
経胸壁,経食道エコーにて僧帽弁直下に17mm×
19mmの球状構造物を認めた.エコー上,疣贅
としては非典型的であったが,IEは否定できず,
CAZ,VCMの投与を開始.熱型,炎症反応は軽
快傾向であったが転院後9日目より上昇.血液培
養よりMRSAが検出され,MR増悪による心不全
増悪も認めた為,IEと診断し転院後12日目に僧
帽弁置換術を施行.術中所見にて僧帽弁直下の腱
索付近に疣贅を認めた.エコー上非典型的な所見
を示し診断に難渋したIEの症例を経験したので
報告する.
過去6年間に経験したSan Diego分類3型慢性肺
動脈血栓塞栓症症例は10例(男性3例,女性7
例),年齢58歳.合併疾患はProtein C欠損症2例,
深部静脈血栓症2例.術前NYHAは3.3で5例が
酸素投与を,1例はPCPSを要した.術前平均肺
動脈圧55mmHg,肺血管抵抗1220dyne.手術は
低体温法を用いて間欠的循環停止下に肺動脈内膜
摘除術を施行した(待機9例,緊急1例).循環
停止時間は55分.手術死亡は2例で,82歳,75
歳と高齢で,術前肺血管抵抗が2500,1600dyne,
術後も肺高血圧が残存し体外循環離脱困難であっ
た.生存例8例では,平均肺動脈圧32mmHg,肺
血管抵抗は202dyneと改善し,現在平均観察期間
75ヶ月で全例NYHA1度である.
189) 脳合併症を有し手術時期決定に苦慮した感
染性心内膜炎の1例
(和歌山県立医科大学附属病院循環器内科)
井坂華奈子・谷本貴志・大河内啓史・
北端宏規・財田滋穂・今西敏雄・赤阪隆史
(同胸部外科) 湯崎 充・岩橋正尋・
岡村吉隆
症例は30歳男性で川崎病の既往があり,以前より
大動脈弁閉鎖不全症を指摘されていたが放置して
いた.平成19年8月歯科処置を受け,9月に顎部
蜂窩織炎を発症し抗生剤投与にて軽快した.しか
し,その後もたびたび発熱を繰り返すようになっ
た.12月に入り,高熱並びに頭痛が出現するため
来院.感染性心内膜炎が疑われたため,紹介とな
った.心臓超音波検査にて重度の大動脈弁閉鎖不
全を認め,弁尖に疣贅を伴っていた.また,頭痛
の原因として急性脳疾患が疑われ,精査したとこ
ろ,右側頭葉に塞栓症を認め,髄膜炎を併発して
いた.感染性心内膜炎に対し,手術の必要があっ
たが,入院中に梗塞後出血を合併し,手術時期の
決定に苦慮した1例を経験したので報告する.
192) 胸膜炎との鑑別が困難であった肺梗塞の症例
(淀川キリスト教病院) 荒木 亮・
北川泰生・筒泉貴彦・山中あすか・冨澤宗樹・
米田直人・栗本泰行
【はじめに】肺梗塞は肺塞栓の軽症例に合併しや
すく浸潤影も認めるため,肺塞栓の典型的所見,
経過はとらず,胸膜炎と誤診されやすい.胸膜炎
との鑑別が困難であった肺梗塞の4症例を経験
したので,代表例を中心に報告する.
【症例】55
歳男性.左胸部痛,咳痰にて当院受診.炎症所
見および胸部単純CTで浸潤影を認め,胸膜炎と
診断し抗生剤加療にて軽快退院.2ヶ月後右胸
部痛あり,再発性で,胸膜を底面とする多発性
の楔状陰影を呈していたため造影CTを行い,肺
梗塞と診断した.血栓性素因はなく,D-dimerは
2.22μg/mlであった.他3例でも浸潤影に比べ強
い胸痛や血痰,多発性浸潤影,胸膜を底面とする
楔状陰影などの所見を認めた.胸膜炎が疑われる
症例で上記所見を認めた場合,肺梗塞を鑑別する
必要があると考えられた.
195) 急性肺塞栓症発症によって発見された家族
性protein S欠乏症の一家系
(関西医科大学附属滝井病院循環器内科)
曽和三恵子・大石千尋・岩坂潤二・朴 幸男・
上山敬直・山本克浩・大谷 肇・松久誠治・
岡崎 徹・佐藤大祐・山下浩司
66歳男性.2ヶ月前から労作時に息切れを自覚し
ていた.造影CTで両側肺動脈に血栓像があり肺
塞栓症と診断された.凝固異常を疑い精査したと
ころ,血液検査でプロテインS抗原が低下してい
た.重篤な肝機能異常などはなく,先天性プロテ
インS欠乏症(PSD)を疑い,同意のもと家族の
検査を施行した.結果,2子の内1子でプロテ
インS抗原が低下していた.このことから家族性
PSDであると考えられた.今回家族性PSDと思わ
れる症例を経験したので報告する.
190) 左右両心系に疣贅を認めた感染性心内膜炎
の一例
(関西医科大学附属枚方病院循環器内科)
高橋弘毅・宮坂陽子・妹尾 健・拝殿未央・
山本哲史・岩坂壽二
(同胸部心臓血管外科) 上能寛之・服部玲治
193) 抗リン脂質抗体症候群,本態性血小板増多
症を伴った急性肺血栓塞栓症の一例
(大阪医科大学附属病院第一内科循環器内科)
宍倉大介・村井基修・武田義弘・新名荘史・
谷川 淳・岡部太一・中小路隆裕・星賀正明・
石原 正・花房俊昭
196) 著明な肺高血圧を認め,剖検にてPulmonary Tumor Thrombotic Microangiopathy(PTTM)
と診断した1例
(大手前病院心臓センター) 柴本将人・
佐藤芙美・吉田 聡・市堀泰裕・近藤晴彦・
初岡慎一・山田貴之・新谷英夫
【症例】74歳男性【現病歴】20年前から大動脈弁
逆流(AR)を指摘されるも手術を拒否されてきた.
大腸癌手術待機中,微熱と炎症反応が持続し,心
エコーにて三尖弁近傍に疣贅を認め,感染性心内
膜炎の診断で当科に転科となった.初診時severe
ARを認めるも,石灰化病変が強く大動脈弁の評
価は困難で,明瞭な疣贅,またシャント疾患など
は認めなかった.右心系心内膜炎の診断のもと抗
生剤治療を行うも炎症反応の改善は乏しく,第13
病日に心内膜炎による大動脈弁破壊からと考えら
れる心不全の進行を認め,準緊急手術を施行した.
術中所見にて,右心系原発と考えられていた疣贅
は,左心系からの炎症の直接浸潤によるもので左
右両心系に疣贅を認めたと考えられた.【結語】
左右両心系に疣贅を認めた感染性心内膜炎の稀な
一例を経験したので報告する.
症例は84歳女性.本態性血小板増多症で当院血液
内科通院中であった.2007年12月上旬から呼吸困
難感を自覚し,増悪するため当科受診した.外来
受診時,胸部Xpは異常なく,動脈血液ガス(room
air)で低酸素血症(PaO2 52.6torr),胸部造影CT
で右肺動脈主幹部に血栓像を認めた.急性肺血栓
塞栓症と診断,同日下大静脈フィルターを留置し,
抗凝固療法を行った.入院後は,症状改善,第18
病日に軽快退院となった.胸部CTでは血栓は縮
小傾向ではあったが残存し,下肢静脈エコーでは
右膝窩静脈に血栓を認めた.また入院中検査で抗
リン脂質抗体が陽性であった.抗リン脂質抗体症
候群,血小板増多症を伴った急性肺血栓塞栓症は
稀であり報告する.
症例は55歳女性.2ヶ月前より労作時呼吸困難,
1週間前よりめまいあり.排尿後に突然の呼吸
困難を認め,救急搬送された.血圧96/72mmHg,
心拍134/分,A-aDO2=55Torr.心エコーにて著
明な右心系拡大を認め,推定肺動脈圧80mmHg.
胸 部 造 影CTに て 肺 動 脈 内 に 血 栓 認 め ず. 第 2
病 日 右 心 カ テ 施 行,PA82/38mmHg,PCWP15/
9mmHg,Ao86/49mmHg.D dimer30μg/dl高 値
より末梢性慢性血栓塞栓性肺高血圧症と診断.し
かし容態急変し第6病日死亡した.剖検にて,末
梢肺動脈に印鑑細胞癌による腫瘍塞栓及び血栓を
認め,肺動脈平滑筋肥厚,内皮細胞増殖を伴い,
Pulmonary Tumor Thrombotic Microangiopathy
(PTTM)と診断した.剖検では癌死の1−3%
に認めると報告され,肺高血圧の原因として,ま
た急速に増悪する呼吸困難において,鑑別する必
要があると考えられた.
1112 第 105 回近畿地方会
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
197) 診断と経過評価にMDCTが有用であった肺
塞栓症の一例
(北摂総合病院循環器内科) 永松 航・
諏訪道博・金高 綾・山口 茂・森 功・
玄 武司・木野昌也
【現病歴】67歳女性.特記既往なし.2007年11月
労作時呼吸困難感出現,徐々に増悪.同年12月近
医受診,心不全の診断で当院紹介受診.【現症】
血圧134/98mmHg,脈拍84回/分,整,SpO2 99
%(O2 3L),
心音IIp亢進あり.肺雑音聴取せず.
両下腿浮腫あり.心電図にてIII Q,V1-2陰性T波,
胸部レントゲンにて心拡大,経胸壁心エコーにて
肺高血圧所見を認めた.肺塞栓症を疑い,MDCT
施行,肺動脈内血栓を認めた.【経過】肺塞栓症
と診断し,抗凝固療法,ベラプロスト開始.経胸
壁心エコーでの肺高血圧所見の改善(TRPG50→
16mmHg),MDCTでの肺動脈内血栓減少を認め
た.【結論】肺塞栓症の診断と経過評価にMDCT
が有用であった.
〈演題取り下げ〉
19) 長軸方向心機能の指標としての左心室長軸
短縮率の測定および左室長軸短縮率と左室拡張能
の相関について
(大手前病院循環器科) 市堀泰裕・
栗田晃宏・佐藤芙美・吉田 聡・柴本将人
198) プロテインC欠損症に合併した右室内血
栓,肺血栓塞栓の1例
(大阪府済生会野江病院循環器科)
水野博之・三上有子・山地雄平・谷口寛昌・
奥田淳司・小山志保・武 俊介
(大阪市立大学附属病院循環器内科)
穂積健之
症例は69歳女性.2008年1月初旬から労作時呼吸
困難を自覚していたが放置していた.2月12日か
ら安静時にも呼吸苦が出現し来院した.胸部造影
CTにて肺動脈内に異常構造物,右室内に19mm
の腫瘤性病変を認め,著明な低酸素血症と心エコ
ーにて右心負荷を認めた.肺血栓塞栓を疑い,へ
パリン,ワーファリンによる抗凝固療法を開始し
た.プロテインCが59%と低値を認め,プロテイ
ンC欠損症による血栓形成と考えた.治療後,3
月の胸部造影CTでは右室内の腫瘤の縮小を認め
た.プロテインC欠損症に合併した右室内血栓,
肺血栓塞栓症例を経験したので若干の文献的考察
を加えて報告する.
199) 脾梗塞と腎梗塞を合併した急性肺血栓塞栓
症の一例
(明石市立市民病院) 橋本哲也・塚本正樹・
阪本健三・櫻木奈央
症例は36歳,女性.2週間前より呼吸困難を自覚
し,突然の左側腹部痛・呼吸困難の増強を認めて
救急搬送された.心臓超音波検査上右心負荷,造
影CT上肺動脈内血栓を認め,肺塞栓症と診断し
た.またCT上脾梗塞を認めた.下肢深部静脈の
残存血栓はごく少量であり,下大静脈フィルター
は留置せずに血栓溶解療法・抗凝固療法を施行
し,呼吸状態は著明に改善したが,入院5日目
に突然右側腹部痛が出現し,CT上右腎梗塞が認
められた.経食道心エコーにてASDが確認され,
深部静脈血栓から肺塞栓症および奇異性塞栓とし
て脾梗塞・腎梗塞を発症したものと考えられた.
右左シャントが存在する場合,特に肺塞栓症の急
性期には右心系の圧上昇により奇異性塞栓を合併
する率が高くなるため,慎重な対応が必要である.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
大阪国際会議場(2008 年 6 月) 1113
第 104 回 日 本 循 環 器 学 会 九 州 地 方 会
2008 年 6 月 28 日 かごしま県民交流センター
会長:中 村 一 彦(鹿児島医療センター)
1) 急性心筋梗塞(AMI)発症前の,冠危険因子
の長期縦断的研究
(長崎大学循環病態制御内科学) 恒任 章・
瀬戸信二・冨地洋一・米倉 剛・石崎正彦・
武野正義・伊藤達郎・小出優史・芦澤直人
(放射線影響研究所臨床研究部) 春田大輔・
赤星正純
【背景】AMI発症前冠危険因子経過は明らかにさ
れていない.【方法】1958年から2004年の間にAMI
発症した56例(男性35例,女性21例)の,危険因
子経過(血圧,総コレステロール,BMI,赤沈,
空腹時血糖)を,年齢性を適合させた非発症者168
例と縦断的に比較検討した.【結果】拡張期血圧
は発症7年前から低下していたが(9年前:88±
13→3年前:83±12mmHg,p=0.031),非発症
者では変化はなかった(83±12→83±12mmHg,
n.s.).総コレステロールは発症7年前から上昇し
ていたが(9年前:196±34→3年前:210±39
mg/dl,p=0.042),非発症者では有意な変化はな
かった(193±37→200±39mg/dl,n.s.)
.収縮期
血圧,BMI,赤沈,空腹時血糖は発症者で有意な
経過を示さなかった.【結論】総コレステロール
の上昇と拡張期血圧の低下(燃え尽き現象)が,
AMI発症に関与していたと考えられた.
6) 本態性血小板増多症を合併した急性冠症候群
の一例
(福岡大学心臓血管内科) 齊藤尚子・
竹田悟志・松本研三・河村 彰・西川宏明・
朔啓二郎
47歳女性.胸背部痛を主訴に受診.心電図は右脚
ブロックであり,心エコー上壁運動に異常はなく,
症状は狭心症としては非典型的であり,閉経前の
女性であることから狭心症は否定的と思われた.
採血上血球が3系統とも著増しており,本態性血
小板増多症と診断され経過観察されていた.その
後次第に胸痛の持続時間が延長し,心電図にて虚
血性変化と心エコー上前壁の壁運動の低下を認め
た.そのためACSの診断でCAGを行ったところ
Seg6:90%狭窄であり,同病変は大量の血栓を
伴っていた.Plt 130万/μlでありPCI後にステン
ト内血栓症を合併する可能性が高いと判断し,本
態性血小板増多症に対し内服加療後,LADにPCI
を行った.IHDの本態性血小板増多症合併症例に
おいては治療方針が一般化しておらず,本症例の
経過を考察とともに報告する.
1114 第 104 回九州地方会
7) PES(TAXUS)の再狭窄に対してSES(Cypher)を留置した症例
(宮崎市郡医師会病院心臓病センター循環器科)
下村光洋・仲間達也・三根大悟・西平賢作・
野村勝政・石川哲憲・松山明彦・柴田剛徳
PESを用いてPCIを施行した104症例146病変のう
ち,3ヵ月後のfollowにて再狭窄率は15.4%(16/
104病変)であった.再狭窄を来した11症例15病
変に対して再PCI(SES留置)施行.3ヵ月後follow
upできた3症例7病変において再狭窄は認められ
なかった.
【症例】
77歳 男性 狭心症にてCAG施行.
3VD(LCXはCTO病変)を認めた.そのため,
LCX #13:TAXUS 2.5x24mm,#14:TAXUS 2.5x
20mm,LAD #6:TAXUS 3.0x20mm,#7: TAXUS
2.5x24mm,#9: TAXUS 2.5x24mm留置.いずれ
も後拡張を行い十分に拡張.しかし,3ヵ月後の
follow upにて,すべてステント内再狭窄を認めた.
そのため,#13:Cyper 2.5x28mm,#14:Cypher
2.5x23mm,#6: Cypher 3.0x28mm,#7: Cypher
2.5x28mm,#9: Cypher 2.5x18mm留置.3ヵ月
後のfollowでは再狭窄は認められなかった.
9) 経皮的冠動脈形成術(PCI)中に留置ステン
トの移動やステント脱落を呈しbail outし得た3症
例の検討
(福岡東医療センター) 古賀英幸・
藤原昌彦・松岡大輔・柳 統仁・小池明広・
河原田孝宣
PCI中ステント脱落や留置ステントの移動を呈し
bail outし得た3症例を検討した.
【症例1】左前下
降枝病変に対し,S-stent3.5-23を搬送試みるも通
過せず.ステント脱落し,かつ近位端がめくれて
ガイディングカテーテル(GC)に完全収納でき
ず.スネアワイヤーで掴んだまま上腕動脈より回
収.【症例2】左前下降枝病変に対し末梢保護下に
DRIVER3.0-15を留置.血栓吸引中,拡張したス
テントがGCまでずれたため,血栓吸引カテーテ
ルにて左前下枝近位部に移動させ留置.【症例3】
左前下降枝病変に対し,TAXUS2.5-24を搬送試み
るも通過せずステント脱落.小口径バルーンをス
テント内通過させ,脱落部位に留置.全症例バル
ーン前拡張済みであったが,拡張ステントの移動
や脱落に石灰化や蛇行が関与していた.原因や対
処法に対する文献的考察を交えて報告する.
8) 当院のSirolimus Eluting Stent(SES)再狭
窄症例に対するPaclitaxel Eluting Stent(PES)の
治療効果の検討
(済生会熊本病院心臓血管センター循環器科)
三木竜介・坂本知浩・堀内賢二・田山信至・
寺嶋 豊・本田 喬・中尾浩一
10) 急性冠閉塞を発症したバルーン不通過の高
度石灰化病変に対してELCAが有効であった1症例
(敬和会大分岡病院心血管センター循環器科)
石川敬喜・立川洋一・永瀬公明・宮本宣秀・
佐藤崇史
(大分大学第二内科) 田村 彰
【背景】現在,日本ではSESとPESの2種類のDES
が使用可能であるが,SES留置後の再狭窄症例に
対する有効な治療戦略は明らかでない.【目的】
SES留置後再狭窄症例に対するSES再留置及び
PES新規留置の治療効果を比較する.【対象】当
院にてSESを用いたPCIを行った心筋虚血症例で,
再狭窄にて再血行再建を要した連続21例.【方法】
対象をステント内再狭窄に対しSESを再留置し
た10例(SESSES群)とPESを新規留置した11例
(SESPES群)に分け,2群のbinary restenosisに
よる再々狭窄出現頻度を比較検討する.【結果】
SESSES群では10例中4例の再々狭窄を来した.
一方,SESPES群では11例中再々狭窄を来したの
は0例だった(p=0.03).【結語】SES留置後再狭
窄例に対する再治療において,SESを重ねて追加
留置するより,PESを新たに追加留置するのが有
効である.
症例は82歳,女性.直腸脱の手術目的にて近医外
科に入院中,胸痛発作が頻回となり,同院にて冠
動脈造影施行.左前下行枝#7および左回旋枝#12
に90%狭窄を認め,引き続き#12に対してPCIを
施行したが,バルーン不通過で終了.帰室後持
続する胸痛が出現し,再度PCIを試みたがバルー
ンは不通過で,GWをクロスしたまま当院転院.
#12は完全閉塞で血栓も認めたため,ロータブレ
ータよりエキシマレーザが有用であると判断し,
ELCAを施行.0.9mmエキシマレーザカテーテル
で血栓および石灰化病変を蒸散したところ再疎通
が得られ,バルーンも容易に通過した.術前であ
るためBMSを留置し終了.Peak CKは1104IU/l.
エキシマレーザは血栓に対しても高度石灰化に対
しても有用であり,このような症例はELCAの極
めて良い適応と考えられた.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
11) LMTのCTO病変に対して緊急PCIを行った
1例
(沖縄県立南部医療センター・こども医療センター循環器科)
砂川長彦・知念久美子・當真 隆・中村牧子・
前野大志・松岡満照・宮良高史・新城 治
【症例】60歳男性.平成19年2月中旬深夜突然の
呼吸困難で救急搬送.到着時心肺停止,CPRで
心拍再開.胸部X線で肺水腫著明,心電図は左
脚ブロック,心エコーでEF18%でありIABPを
挿入.緊急CAGではLMT完全閉塞,4PD:90%,
4AV:99%でLCAへ良好な側副血行あり.CABG適
応と判断したが心原性ショックのためLMTに緊
急PCIを施行.LMT-Seg6にVISIONステント留置
しLADとLCXを後拡張した.CPK最高値は2809
IU/L.9-10日目抜管しIABP抜去.後日4PDと
4AVへCypherステント留置し退院.その後再狭
窄なくEF45.3%に改善.8月Seg6-7の残存狭窄
にTAXUSステント留置.RCAが梗塞責任血管だ
が血行動態不安定なためLMTのCTO病変へ緊急
PCIを施行し救命できた.
12) 冠動脈CTで不安定プラークと思われた2例
(中頭病院循環器科) 小田口尚幸・
屋宜宣守・上地 襄・安里浩亮
症例1は81歳男性で2か月前から安静,労作に
関わらず20分間の胸痛を訴え来院.CTでは右冠
動脈#2にpositive remodeling,低CT値を伴うプ
ラークを認めた.冠動脈造影で同部位に高度狭
窄を認めた.脂質に富むプラークと考え病変部末
梢にフィルターを留置後,PCIを行った.症例2
は63歳男性で1年前から起床時に30秒間ほどの胸
痛があった.CTを施行したがその3日後急性心
筋梗塞を発症した.緊急冠動脈造影では右冠動
脈#1の閉塞を認めた.CTでは同部位の狭窄は50
%程度であったがプラークはpositive remodeling
があり,CT値が低かった.【考察】プラークが
positive remodelingしており内部に低いCT値の
部位がある場合,不安定プラークの可能性がある.
CTによるプラークの評価はPCIを行う時期,治
療選択に役立つと思われる.
13) 遠隔期に冠動脈ステント内狭窄を認めた3
症例
(大分医療センター循環器科) 山末象三・
吉良哲也・谷口弥生・有川雅也・大家辰彦
冠動脈ステント留置後の再狭窄は3∼6ヶ月後が
ピークとされている.今回我々は,ステント留置
6ヶ月後には再狭窄を認めなかったものの,遠隔
期にステント内狭窄を来した3症例を経験した.
3症例とも複数の冠危険因子を有する60歳以上の
男性で,LAD近位部に高度の狭窄を認めBMSを
留置されていたが,3年以上経過した遠隔期に
ステント内狭窄病変を認めた.病変部に対し3
症例ともPCIを施行した(2例BMS追加留置,1
例POBA).また1例は他枝にも新規狭窄病変を
認め,PCI施行した.ステント留置部位安定化以
後に再度PCIを要する頻度は5%程度と稀である
が,ステント留置後数年経っても,ステント周囲
に慢性炎症が持続的に生じていることが報告され
ており,このことが新規の動脈硬化を惹起する可
能性も示唆されている.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
14) Cypher stent留置3年後に発症したVery late
stent thrombosisによるAMIの1例
(友愛会豊見城中央病院循環器内科)
真栄平直也・嘉数 敦・知念敏也・野村 悠・
大庭影介・嘉数 朗・嘉数真教・玉城正弘・
新崎 修・新城哲治
74歳男性.平成13年7月にAMIを発症し責任病変
であるseg.2にMultilink stentを留置し拡張に成
功.平成16年11月に同部位に再狭窄を来たしたた
めCypher stentを留置した.平成20年1月頚椎症
に対する手術の術前評価のために施行した冠動脈
造影ではステント部を始め有意狭窄を認めなかっ
た.そのため従来処方されていたバファリン81及
びパナルジンを中止したところ,2月21日手術直
後にステント血栓症によるAMIを発症した.緊急
冠動脈造影の結果ステント部のseg.1∼2に血栓性
閉塞を認めたため血栓吸引及びPOBAを施行し再
灌流を得た.薬剤溶出性ステント留置1年後以降
に発症するvery late stent thrombosis自体頻度が
低いとされているが,本症例はステント留置3年3
ヶ月後にステント血栓症を生じた極めて稀な症例
と考えられる.
15) 慢性心不全を有する両側腎動脈狭窄に対し
てminimum contrast PTRAを施行した一例
(北九州市立八幡病院循環器科) 中富啓太・
原田 敬・大江学治・佐貫仁宣・剱 卓夫・
津田有輝・太崎博美
症例は85歳女性,高血圧や慢性心不全にて当院
通院中で,一年前に両心室ペーシング治療が行
われている.最近降圧薬を3剤併用にも関わら
ず,血圧上昇傾向であった.腎エコーにて両側腎
動脈に加速血流を認め,造影CTでも両側腎動脈
に高度狭窄を認めた.今回,両側腎動脈狭窄に
対し,IVUSガイドにて一期的にPTRAを行った.
腎機能を考慮し,造影剤低減に努め52mlの使用
量に抑えることができた.治療前はACE阻害剤,
利尿剤,β遮断剤内服にてBP 160/90mmHg前後
であったが,治療翌日よりACE阻害剤のみでBP
130/70mmHg前後となった.腎動脈狭窄症は腎機
能障害を有する症例が多く,治療時は造影剤低減
への配慮が不可欠である.今回の症例を通じ,手
技上の工夫等を含めて考察したので報告する.
16) TAXUSステント内にLate Stent Thrombosis
(LST)を認めた症例
(宮崎市郡医師会病院循環器内科)
三根大悟・仲間達也・下村光洋・西平賢作・
野村勝政・石川哲憲・松山明彦・柴田剛徳
症例は74歳の女性.2007年6,7月にLCX#11
のBMSの再狭窄病変を含む3枝病変に対して
TAXUSステントを用い完全血行再建術を施行し
た.10月の冠動脈造影検査では異常を認めなかっ
た.12月頃より労作時に息切れを自覚するように
なったが放置していた.2008年3月7日にPCI8
ヶ月目の確認の冠動脈造影検査を施行.LCX#11
に留置したTAXUSステント内の血栓閉塞像と右
冠動脈から左冠動脈回旋枝への側副血行路を認め
た.3月10日,同部位に対してPCIを施行.血栓
吸引にて得た暗赤色の血栓は病理検査に提出し,
検査結果を待っている.当院ではCypherステン
トによるLSTも経験していて,その病理所見をあ
わせて供覧したい.
17) 抗血小板薬中止後5日目にvery late stent
thrombosisをきたし心停止に至った1例
(熊本大学循環器内科) 片山哲治・
森久健二・小島 淳・角田 等・杉山正悟・
小川久雄
【症例】63歳,男性.2005年12月急性心筋梗塞発
症し(Max CK6300)
,#7 100%に対しステント
留置術施行.2006年8月#6-7 99%とステント内
狭窄を認めたためCypherを留置した.2007年2
月確認造影ではステント留置部に再狭窄は認めな
かった(EF40%)
.2008年1月両肺野に結節状陰
影を認め,CTガイド下肺生検5日前にアスピリ
ン,チクロピジンが中止された.検査中突然の喀
血後,心静止となった.心肺蘇生施行し,心拍再
開後,ST上昇を認たため,緊急冠動脈造影検査
を施行した.LADステント留置近位部より血栓
閉塞をきたし,血栓吸引療法にてステント内より
赤色血栓が吸引された.その後POBAにて再潅流
を得た.
【まとめ】Cypher留置19ヵ月で2剤の抗
血小板薬中止5日後に急激に血栓閉塞をきたし,
心停止に至った症例を経験したので報告する.
18) シロリムス溶出性ステント(SES)留置後
2年目で再狭窄を来たした2例
(済生会福岡総合病院循環器科)
沼口宏太郎・夏秋政浩・松尾昌俊・坂本和生・
野副純世・中村 亮・東條秀明・瀬戸 拓・
大脇和男・岡部眞典・山本雄祐
今回,我々はSES治療後2年目で再狭窄を来たし
た2例を経験したので報告する.症例1は53歳男
性.狭心症に対してLAD6にCypher 2.5x23mmを
留置.半年後には再狭窄は認められなかったが,
1年半後の造影検査では完全閉塞であった.症例
2は49歳男性.狭心症に対して,LAD6にCypher
3.5x18mm,RCA2∼3にCypher 3.5x23mmを2本
留置.約1年後には再狭窄は認められなかった
が,その7ヵ月後に非ST上昇型心筋梗塞で入院.
左右ともin-segment restenosisを認めた.当院で
SES留置後2年目までフォローできた症例の0.7
%とその頻度は稀ながら,留置半年後に再狭窄を
認めない症例でも長期的なフォローが必要である
ことを示唆するものと考えられた.
19) 薬剤溶出性ステント(DES)留置2年後に
再狭窄を来たした1例
(萩原中央病院循環器科) 笠原明子・
瀬川 潤・冬野隆一・佐野哲朗・三浦靖史・
縄田義夫・冬野喜郎
(大牟田市立病院循環器科) 兼行雅司
今回,我々はDES留置2年後に再狭窄を来たした
1症例を経験した.症例は69歳の糖尿病男性.05
年7月にACSとして入院,責任病変のLCx#13 90
%にBMS留置後,待機的にRCA#1 100%(CTO)
LAD#6 75%にDESを留置した.8ヶ月後の確認
造影では,BMS・DES部に再狭窄はなく,冠危
険因子のコントロールおよび定期的な運動負荷
テストを行い継続加療としていた.胸部症状な
く経過していたが,07年12月末頃より労作時胸
痛が出現するようになり,08年1月排便後に再
度胸痛が出現,改善ないため,UAPとして緊急
入院.CAGにてLAD#6に99%のDES内再狭窄あ
り,DES in DESを用い再血行再建を行った.経
過中冠危険因子のコントロールは比較的良好であ
り,再狭窄の機序としていわゆるlate catch-up
の可能性が示唆された.病変部のVH-IVUS所見,
文献的考察を加え報告する.
かごしま県民交流センター(2008 年 6 月) 1115
20) 重症虚血肢に対する当院でのアプローチ
(仁愛会浦添総合病院循環器センター)
田村謙次・小村泰雄・大城康一・梅原英太郎・
木村朋生
慢性下肢動脈閉塞による安静時疼痛,下肢潰瘍,
壊死を呈する重症虚血肢は下肢切断,さらには生
命予後をも不良にしてしまう重症の病態である.
重症虚血肢の下肢潰瘍は創処置等の保存的な治療
のみでは下肢救済は困難であるため,SPPといっ
た微小循環血流を評価し必要に応じて血行再建を
おこなうことが重要となる.またそのうえで内科,
血管外科,形成外科等がチームとなって治療にあ
たっていく必要がある.当院に下肢潰瘍,壊死で
受診した下肢閉塞性動脈硬化症の症例の中で,下
肢バイパス術の適応とならなかった症例を対象に
PTAを施行した.その後,形成外科にて創処置を
継続しておこなった.PTAにて血行再建をおこな
えた症例ではほとんどで下肢切断を免れることが
でき,良好な機能予後を得ることができた.当院
での自験例を検討し報告する.
21) 失神を繰り返した先天性QT延長症候群
(LQT2)の一成人例
(九州医療センター循環器科臨床研究部)
麻生明見・中村俊博・井上寛子・清水知彦・
池田次郎・森井誠士・森 隆宏・相良洋治・
森 超夫・佐藤真司・冷牟田浩司
(国立循環器病センター心臓血管内科)
清水 渉
症例は35歳女性.小児期は特記すべきことなし.
2001年睡眠中に動悸を自覚し覚醒,失禁に気付い
た.2004年,2005年に自宅内で失神,失禁するも
放置.2007年9月28日椅子から立ち上がった直後
に失神,失禁,痙攣を来たし近医へ緊急搬送され
るも異常を認めなかった.翌日より動悸が2日間
持続するため当院へ入院となった.心電図上多形
性VTをincessantに認め,洞調律時のQTは著明に
延長していた.Isoproterenol(ISP)持続静注の
開始直後よりVTは消失し,ISP中止後も全く出現
しなくなった.洞調律時のQT/QTcは640/621ms
と著明に延長しており,薬物,電解質異常,器質
的心疾患は伴わず先天性QT延長症候群と考えた.
遺伝子診断ではKCNH2(HERG)遺伝子変異を
認めるLQT2と診断された.メキシレチン内服に
てQTの短縮を認めたが退院後自己中断した.
22) 心室細動に対して塩酸アミオダロン注が無
効であり塩酸ニフェカラントが著効した肥大型心
筋症の一症例
(大分市医師会立アルメイダ病院循環器科) 安部雄征・麻生崇則・内藤英二・矢野庄司
(大分大学感染分子病態制御講座)
田村 彰・門田淳一
症例は70歳男性.以前より肥大型心筋症を指摘さ
れる.平成19年9月5日テニス中心室細動発症.
除細動,心肺蘇生にて洞調律に復帰するも心室細
動を繰り返しながら救急搬入.緊急冠動脈造影は
正常.入院後リドカイン持続投与開始しするも一
日1回程度心室細動出現.硫酸マグネシウム,塩
酸アプリジン追加も抑制効果乏しかった.9日に
心室細動頻発するため塩酸アミオダロン静脈投与
を添付文書に従い開始.翌日まで計2回追加投与
行なうも効果なく,塩酸ニフェカラントに変更
0.25mg/kgまで増量後に心室細動消失.2週間か
けアミオダロン内服へ移行後ICD挿入し以後順調
に経過.本邦で塩酸アミオダロン注が発売されて
日が浅く,心室細動超急性期の治療に塩酸アミオ
ダロン注が無効で塩酸ニフェカラントが有効であ
った報告はなく稀な症例であり報告した.
1116 第 104 回九州地方会
23) 高度(完全)房室ブロックに神経調節性失
神を合併した1例
(大分大学内科学第一) 軸丸季美子・
篠原徹二・福井 暁・岡田憲広
(同循環病態制御) 油布邦夫
(同内科学第一) 高橋尚彦・原 政英
(同循環病態制御) 中川幹子・犀川哲典
(同内科学第一) 吉松博信
症例はソフトボール部で活躍中の13歳女性.7歳
(小1)時の健診でⅠ度房室ブロックを指摘された.
本年(中1)の健診で高度(完全)房室ブロック
を指摘された.ホルター心電図検査中,腹痛に伴
い失神し15秒の心停止(洞停止)が記録された.
臨床電気生理学的検査中も高度房室ブロックであ
り,ブロック部位はA-Hであった.洞機能,洞房
伝導能に異常を認めなかった.イソプロテレノー
ル点滴静注で1:1伝導となった.運動負荷心電図
でも,1:1房室伝導が回復し心拍数は180bpmまで
増加した.Head-up tilt試験は陽性であった.Tilt
トレーニングを開始し,以後,失神は生じていな
い.今後も定期的に運動負荷心電図等で経過観察
を行う予定である.高度房室ブロックに神経調節
性失神を合併した若年症例で,治療・管理方針に
難渋した症例であった.
24) 失神を契機として発見された持続性心室頻
拍を伴った特発性心室瘤の一例
(熊本大学循環器内科) 森久健二・
山部浩茂・花岡洋右・上村孝史・田中靖章・
小川久雄
症例は69歳女性.胸痛,嘔吐の後,意識消失し
救急車で近医に搬入.心電図は心拍数180/分の
wide QRS tachycardiaでありリドカイン50mg静
注で頻拍は停止.心エコーで左室後基部に菲薄化,
壁運動の低下を認め,精査目的で当院に転院.胸
部CTで縦隔リンパ節の腫大,肺病変はなく,ガ
リウムシンチでは異常集積は認めず,エルゴノビ
ン負荷を含めた冠動脈造影で有意な所見は認めな
かった.左室造影で後壁基部に瘤を認め,心筋生
検では特異的な所見はなく,冠動脈疾患やサルコ
イドーシスは否定的であり特発性心室瘤と診断し
た.電気生理検査では心拍数210/分程度の2種類
の心室頻拍が誘発され,頻拍により血行動態が破
綻したためアブレーションは施行せず,植込み型
除細動器植込みを行なった.退院後6ヶ月の経過
で心室頻拍の再発は認めていない.
25) 日帰り外来手術によるペースメーカ電池交
換手術の検討
(産業医科大学循環器・腎臓内科)
河野律子・安部治彦・長友敏寿・尾辻 豊
【目的】当院では日帰りペースメーカ電池交換手
術を開始しており,初期成績と安全性を検討し
た.【対象・方法】電池交換手術予定であった66
名(男性22名,平均78.6±11.7歳)を対象とした.
基礎心疾患,平均手術時間,合併症の有無,日帰
り手術の選択理由や利点と欠点を調査した.【結
果】基礎心疾患は,房室block 28名,洞不全症候
群36名等であった.平均手術時間は22±5分間で
合併症は認めなかった.日帰り手術選択理由は,
施設入所・他病院へ入院中,自宅が遠方等が多か
った.日帰り手術の利点は,病棟の負担軽減,患
者の経済的・精神的負担軽減がある一方で,病院
収益は入院手術の方が高かった.【結論】施設入
所者,就労者,主婦,高齢者には,生活や社会環
境の変化が生じず,総合的には日帰り手術は入院
手術より利点が多いと考えられた.
26) アミオダロン投与開始後に肺胞出血を来し
た一例
(宮崎県立日南病院循環器科) 林英里香・
中村亮斉・田中 充・矢野理子・生島一平
症例は71歳男性.2002年に拡張型心筋症の診断を
受けている.2007年7月,心室細動を発症,救急
隊にて除細動され蘇生した.翌日からアミオダロ
ンを開始し,8月29日にICD植込み術を施行.ア
ミオダロン200mgを投与中であったが,9月15日
にLDH上昇と左肺上葉に間質性陰影が出現.ア
ミオダロンを中止したが,間質性陰影は増強した
ため,ステロイドパルス療法と40mg/日の維持療
法を行った.しかし,10月4日に血痰と右肺に新
たな間質性陰影が出現した.同日,急速に呼吸状
態が悪化し挿管.気管支鏡では肺胞出血の所見で
あった.再度ステロイドパルス療法と維持療法を
施行.間質性陰影は改善し,人工呼吸器管理から
も離脱したが,2週間後に誤嚥性肺炎により死亡
した.アミオダロンの副作用として肺胞出血は稀
であるため報告する.
27) ピルジカイニド中毒でペーシング困難な徐
脈を来たした一例
(門司労災病院循環器内科) 鈴木義之・
平川乃理子・長井善孝・荒木 優・中島康秀
症例は85歳女性.2日前より食欲不振,嘔吐が持
続.半日前より体動困難,意識混濁が出現したた
め,当院救急搬送された.来院時,ショック状
態であり,心電図上P波は確認できず,心拍数
30/分の補充調律,著明な心室内伝導障害,テン
ト状T波を認め,一時的右室ペーシングを試みた
が閾値の著明な上昇があり心室捕捉不能であっ
た.Cre高値(2.92mg/dl),高K血症(7.0mEq/l)
を認め,緊急的にK是正したが,ペーシングに反
応なく,また補充調律は持続した.ピルジカイニ
ド150mg/日の服用歴が確認され,同薬の中毒と
考え利尿による排泄を期待した.入院より18時間
後に右室ペーシングに反応を認め,第2病日(入
院より26時間後)に洞調律に復した.ピルジカ
イニド血中濃度は入院時5.59μg/mlと高値を示し
た.文献的考察を含めて報告する.
28) ステロイド投与により洞不全症候群が改善
した1例
(九州厚生年金病院内科) 岸川友佳・
菊池 幹・藤本智子・折口秀樹・吉村 仁・
坂本一郎・山本雲平・宮田健二・毛利正博・
山本英雄・野間 充・多治見司・菊池 裕
症例は81歳女性.全身倦怠感と食欲不振を主訴に
前医を受診した所,徐脈および5秒程度の心停止
を認めた為当院紹介入院となった.失神や意識消
失はなかったが5秒程度の心停止および30拍/分
台の徐脈を認め,洞不全症候群(2型)と診断し
た.また経過中低血糖,低血圧および著しい食欲
不振を認め,血液検査でTSH,free T4低値だっ
たため内分泌的検査を追加した所,GH・PRL・
ACTHのいずれも低下しており汎下垂体機能低下
症と診断した.ステロイド補充療法を開始すると
翌々日には心拍数は50∼60拍/分と改善し心停止
は消失した.頭部MRIにて下垂体病変を認めず,
特発性汎下垂体機能低下症と考えられた.洞不全
症候群を契機に汎下垂体機能低下症と診断された
1例を経験したため,文献的考察を加え報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
29) 薬剤性QT延長症候群によると思われた心室
細動(Vf)の1例
(中頭病院) 渡慶次竜生・仲村義一・
小田口尚幸・屋宜宣守・上地 襄・安里浩亮
(琉球大学病院第2内科) 比嘉 聡
32) Senning術20年後に心肺停止を経験し経静
脈的にICD植込みを行った大血管転位症の一例
(済生会熊本病院心臓血管センター循環器科)
堀尾英治・小田川幸成・本田俊弘・
古山准二郎・本田 喬・中尾浩一
35) 発作性心房細動に対するBox isolation術後
に右房分界稜より再発した一例
(福岡大学病院心臓血管内科) 小吉里枝・
高嶋英夫・村岡聡一・光武ちはる・山口善央・
松本直通・熊谷浩一郎・朔啓二郎
54歳女性,統合失調症にて30年間入院中.平成19
年6月9日心肺停止で発見された.Vfにて電気的
除細動で心拍再開となり,気管内挿管後搬送され
た.冠動脈造影は異常なく左室造影にてたこつ
ぼ型心筋症を認めた.入院時心電図にて洞調律,
HR:140/Mであったが翌日には洞調律,HR:82/M,
QT:640msecとQT延長を認めTdP出現後Vfへ移行
し電気的除細動で洞調律へ復した.向精神病薬に
よる薬剤性QT延長症候群が疑われ,薬剤中止及
び体外式ペースメーカーを挿入した.入院9日目
の心エコーでEF:62%と改善を認めたが心電図は
洞調律,HR:70/M,QT:580msecとQT延長が残存
した.以上よりたこつぼ心筋症は顕著な改善を認
めたが電気生理学的改善は遅延しているものと思
われた.
完全大血管転位症にてSenning術後,心肺停止の
既往のある患者に経静脈的に埋込み型除細動器
(ICD)植込みを行ったので報告する.【症例】20
歳男性.平成19年12月,尿失禁を伴ったsyncope
を 来 し, 心 肺 蘇 生 に て 回 復 し, 意 識 レ ベ ル も
JCS300から数日後には完全に回復した.ペース
メーカーの内部記録から心拍数300/分を超える頻
拍の記録が確認されており,ICD植込みの適応と
判断した.解剖学的には,上下大静脈は右心房を
経由,左心耳温存の左房を経て,機能的右室(解
剖学的左室)へと結合しており,経静脈的にICD
植込みが可能と判断した.心房,心室リードは,
それぞれ左心耳,機能的右室にscrew-in typeを挿
入する事ができ,左側前胸部に本体を植込んだ.
【結語】複雑な先天性疾患への経静脈的にICD植
込みを行い,良好な結果を得る事ができた.
症例は59歳女性.近医で発作性心房細動を指摘さ
れ,薬剤抵抗性で動悸発作頻回となったため,ア
ブレーション治療目的で入院となった.焼灼は
右,左の上下肺動脈前壁ライン,左房ルーフライ
ン及びボトムラインを作成して,Box型隔離術を
完成した.その後経過良好であったが,約2年後
に動悸発作再発し,再アブレーションを施行した.
non-contact mapping装置のEnsiteシステムを使
用し,伝導ギャップ再開部位に通電,また右房内
の分界稜低位側壁側から心房性期外収縮(PAC)
の頻発を認め,同部位の通電でPACは消失した.
その後無投薬下で発作の再発は認めていない.発
生学的に分界稜は組織学的不均一性を有し,その
解剖学的特性と不整脈源性基質との関連が指摘さ
れており,文献的考察を含めて報告する.
30) 高カリウム血症に起因する高度徐脈によ
り,血圧及び意識レベル低下を来たした一例
(長崎光晴会病院循環器センター)
迫田直也・岩崎義博・片山敏郎・末永悦郎・
里 学・古賀秀剛・松山重文
33) Non Contact Mapping System(NCM)で治
療しえた非持続性左房起源突発性心房頻拍の1例
(EP Expert Doctors - Team TSUCHIYA)
成田純任・土谷 健・足利敬一
(福岡市立こども病院循環器科) 牛ノ濱大也
(福岡県済生会二日市病院循環器科)
川村奈津美・安藤真一
36) 原因不明の冠動脈自然解離により急性心筋
梗塞を起こした1例
(福岡東医療センター循環器科) 藤原昌彦・
古賀英幸・松岡大輔・柳 統仁・小池明広・
河原田孝宣
高カリウム血症に起因する高度徐脈により,血圧
及び意識レベル低下を来たした症例を経験したの
で報告する.症例は77歳,女性.平成19年6月27
日,ふらつきを主訴に近医を受診した後,冷汗を
伴う胸部不快感と意識レベルの低下を認めた.心
電図にてHR:20台・wide QRSの波形を認め,血
圧:40/触mmHg,意識レベル:JCS-2桁とショッ
ク状態となり当院に搬送された.OMIとCABGの
既往あるためACSを疑いCAG・PCIを行うも改善
みられず,入院時の採血にてカリウム:8.9と高
値であり,前医よりスピロノラクトン及びARB
が処方されていたことから,薬剤性高カリウム血
症による高度徐脈と診断した.CHDを行いカリ
ウムの補正を行うことで,速やかに正常同調律に
戻りバイタル・意識レベルも改善された.
16歳女性.運動時のみに再現性を持って誘発され
る動悸を主訴に受診された.これが原因で不登校
気味であった.トレッドミル運動負荷試験にて中
等度以上の負荷時のみに非持続性心房頻拍をみと
め,カテーテルアブレーション目的に入院となっ
た.イソプロテレノール静注下で頻拍は間欠的に
誘発されるのみであった.コンベンショナルマッ
ピングで起源を左房と診断したうえで,NCMシ
ステムを左房に挿入し,起源を左房前中隔上方と
診断した.同部位のアブレーションにて頻拍は消
失した.術後2か月再発なく経過している.非典
型的部位であり,誘発困難であった本例の心房頻
拍においてNCMシステム(array mode)は必要
不可欠と考えられた.
31) Mustard術後22年目の経静脈ペースメー
カー植え込みの経験
(九州厚生年金病院心臓血管外科) 坂本真人・落合由恵・井本 浩・溝部圭輔・
柳瀬 豪・牛島智樹・瀬瀬 顯
(同小児循環器科) 渡辺まみえ・城尾邦隆
34) AV nodal transition areaの副伝導路を起源
とした上室性頻拍の一例
(福岡大学病院心臓血管内科学) 志賀悠平・
熊谷浩一郎・松本直通・檜田 悟・中島英子・
高嶋英夫・村岡聡一・光武ちはる・山口善央・
朔啓二郎
完全大血管転位症に対し1歳時のMustard手術後
22年を経過して完全房室ブロックを発症し,経静
脈的にペースメーカー植え込みを行った症例を経
験した.通常の経静脈的ペースメーカー植え込み
とは異なり,Mustard術後では心房リードは左心
房,心室リードは左心室に挿入されることにな
る.左心房内で肉中の存在する部位は左心耳のみ
であるが,左心耳近傍には横隔膜神経が走行して
おり,twitchingの危険性が高い.左心室は右心
室に比し肉柱が細く繊細である.また,Mustard
手術やSenning手術後の遠隔期の合併症として洞
機能不全や上室性頻拍が知られている.こうした
背景を考慮し,screw-leadを使用し,dual sensor
rate response機能を備えたペースメーカーを植え
込んだ.多少の文献的考察を加え,本症例を報告
する.
【症例】56歳男性.約30年前より動悸を自覚.平
成19年より2∼3回/週で上室性頻拍を認め,心
臓電気生理学的検査(EPS)目的にて当院へ入院
となった.【結果】右心房,ヒス束,右心室に多
極電極カテーテルを留置し,EPSを行った.心房
期外刺激にて頻拍同期300msの上室性頻拍が再現
性をもって誘発された.同頻拍は期外刺激間隙を
短縮しても房室・室房伝導時間共に60msで,心
内電位の最早期はヒス束であった.三尖弁輪2
時方向にカテーテルを留置し,ヒス束電位記録
部位の近傍にて房室時間25msの部位を認め,同
部位を焼灼し頻拍は消失した.【考察】AV nordal
transition areaは伝導路近傍の組織学的,生理学
的不均一性から多様な上室性頻拍症の発生部位と
なり得るが,今回若干の考察を交え報告した.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
症例は51歳の女性.元来健康であり,冠動脈危険
因子の既往はなかった.突然の胸痛を起こし近医
受診.心電図・心臓超音波より急性心筋梗塞と診
断され当院搬送となった.緊急冠動脈造影にて右
冠動脈入口部から近位部にかけて99%狭窄病変を
認めた.血栓吸引にて赤色血栓を吸引後も血栓残
存を認め,血栓溶解療法(PIT)をハパーゼ320
万単位を用い施行した.血栓除去後の造影と血管
内超音波(IVUS)で入口部からの血管解離を認
め,経皮的冠動脈形成術を行った.経過は良好で
あり,冠攣縮・血管炎・婦人科疾患等の検索を行
ったが,原因は特定できなかった.今回我々は原
因不明の冠動脈自然解離を起こし,血栓集簇によ
り急性心筋梗塞を発症した症例を経験した.文献
的考察に血管造影,血管内超音波画像も加え報告
する.
37) 急性期,血栓吸引または血栓溶解のみで血
行再建を終了した急性冠症候群例の検討
(熊本赤十字病院循環器科) 小出俊一・
外牧 潤・角田隆輔・緒方康博
【背景】急性冠症候群(ACS)への血行再建では
経皮的冠動脈形成術PCIをすることが多いが,血
栓吸引や血栓溶解療法のみで良好な血行再建が得
られることがある.このような症例は血栓豊富な
病変と思われるが,臨床的な特徴・関連は明ら
かではない.またこのような症例にPCIなどを加
える必要があるのか検討した.
【方法】2003年4
月から2007年9月のACS症例の中で,血栓吸引
療法やPIT(pulse infusion thrombolysis)で再灌
流療法を終えた14例を対象とした.【結果】全症
例,PCI未施行で50%狭窄以下となった症例であ
った.臨床背景として心房細動による血栓塞栓が
5例,血小板増多症の関与が4例,Spasmの関与
が2例,その他が3例であった.【結語】plaque
raptureに引き続く血栓形成というACSの機序と
される病変は少なかった.
かごしま県民交流センター(2008 年 6 月) 1117
38) 興味深い経過を示した冠攣縮性狭心症の1例
(豊見城中央病院) 嘉数 朗・新城哲治・
新崎 修・玉城正弘・嘉数真教・真栄平直也・
大庭景介・長谷川悠・知念敏也
41) 心破裂(blowout type)時にpulseless electrical activity(PEA)を確認できた症例
(熊本市立熊本市民病院循環器科)
坂梨剛史・森上靖洋・木村義博・外村洋一
症例は73歳女性で4年前からの労作時胸痛で当科
紹介となる.心臓カテーテル検査でLAD#6 75%
の有意狭窄を認め,同部位に対しPCIを施行した.
しかし術後も胸痛発作繰り返すため負荷心筋シン
チを施行したところ胸痛出現し(aVf V3-6でST
低下)中隔中心に再分布所見を認めた.再度心臓
カテーテル検査を施行したところ最初にカテーテ
ルをengageした瞬間に胸痛を訴え,LAD#6 100%
(TIMI0)LCX slow flow(TIMI2)を認めた.ニ
トロール冠注にてLADは完全に再開通(TIMI3)
し,IVUS検査でLAD及びLMT/LCXには異常所
見認めず,冠攣縮性狭心症発作と診断した.ヘル
ベッサー投与によりその後の症状改善をみた.本
症例につき若干の文献的考察をつけ報告する.
患者は74歳,男性.吐血を主訴に夜間当院救急外
来へ搬送された.診察中に胸痛を自覚,前壁急性
心筋梗塞と診断された.緊急冠動脈造影では左前
下行枝近位部の完全閉塞を認めた.病変部へス
テント留置を行い,一時再疎通(発症より2時
間半)を得たものの,no flowで術を終了(MAX
CPK4083)
.術後の心電図は胸部誘導でST上昇が
遷延し,心エコー検査では心尖部の菲薄化を認め
たため心破裂の危険性が高いと判断し,第9病日
までベッドサイドでの排便排尿までの安静とし
た.しかしながら,第16病日の夕食時に突然死を
来した.直後の剖検により左室心尖部に1.5cmの
穿孔が認められ,心破裂と診断した.一般に心破
裂を発症した際はPEAを来すとされているが,本
症例においてもホルター心電図で,PEAを確認で
き,興味ある症例と思われたので報告する.
39) 失神を契機にみつかった左冠動脈主幹部病変
(人吉総合病院循環器科) 外山研介・
岡 秀樹
42) ストレスを契機にたこつぼ型心筋症を発症
し,その後冠攣縮狭心症発作を起こした一例
(豊見城中央病院) 大庭景介・新城哲治・
知念敏也・野村 悠・真栄平直也・嘉数真教・
玉城正弘・嘉数 朗・新崎 修
症例は30歳の男性で,朝礼中の失神を主訴に救急
搬送された.来院時には既に症状は軽快をしてお
り,心電図・心臓超音波検査所見等に異常は認め
られなかった.状況からは迷走神経反射による失
神が強く疑われたため,まずはHead Up Tilt Test
を施行したが,検査中のモニター心電図にてII誘
導のST低下所見が得られた.虚血の関与も疑わ
れたため心筋シンチを行ってみたところ,前壁領
域に心筋虚血が誘発され,続けて行った冠動脈造
影では左主幹部に器質的狭窄病変を認めた.若年
者であり,約10年の喫煙歴以外に強い冠危険因子
は認めない.発症の誘因を調査したところ,興味
深い事実が明らかとなったので,今回 我々は若
干の文献的考察を加えて症例報告をする.
40) 運動誘発性冠攣縮性狭心症に対し,Ca拮
抗薬に加えβ遮断薬を併用することにより運動耐
用能が改善しえた1例
(沖縄北部地区医師会病院) 日野昭宏・
大塚敏之・村重明宏・赤川英三・高芝 潔
【背景】冠攣縮の原因は未だ不明であるが,一般
的にβ遮断薬は禁忌とされる.一方で冠攣縮性狭
心症に対するβ1選択性β遮断薬の効果を評価し
た報告はない.今回β1選択性β遮断薬を投与し
運動耐用能の改善を認めた1例を経験したので報
告する.【症例】59歳男性.マラソン中に突然意
識消失し転倒.救急隊にて心室細動が確認され,
除細動により心拍再開し当院へ搬送された.冠動
脈造影で有意狭窄は認めず,アセチルコリン負荷
試験にてびまん性の高度狭窄が誘発された.トレ
ッドミル運動負荷試験(TET)にて胸痛とともに
ST変化を認め,運動誘発性冠攣縮性狭心症と診
断した.薬物投与下のTETではDiltiazem単独で
は改善せず,Diltiazem+Landiolol併用にて改善
した.その後Ca拮抗薬とβ遮断薬の内服薬を併
用投与し著明な運動耐用能の改善を認めた.
1118 第 104 回九州地方会
【症例】68歳,女性【経過】母の看病にて疲労が
溜まっていた.平成19年10月29日に胸痛が出現し,
当院救急外来を受診.心電図上V1-3にて陰性T波,
V5-6にてST上昇が認められた.冠動脈造影では
有意狭窄はなく,左室造影で心尖部の壁運動低が
低下し,たこつぼ型心筋症と診断した.MIBG心
筋シンチでは心尖部において早期で集積低下が認
められ,後期ではwash outが亢進していた.12月
7日母が亡くなり,胸痛が出現し,当院救急外来
を受診.心電図変化なく,また採血や心エコー上
も特に異常はみられなかった.再度冠動脈造影を
行ったとこLAD #7 90%の狭窄がみられた.ニト
ログリセリン0.5mg冠注にて狭窄は改善し,冠攣
縮と判断した.
【結語】ストレスを契機にたこつ
ぼ型心筋症を発症し,その後に冠攣縮性狭心症発
作を合併した症例を経験した.
43) たこつぼ型心筋障害を合併したと考えられ
た急性心筋梗塞の1例
(済生会福岡総合病院循環器科) 夏秋政浩・
沼口宏太郎・坂本和生・松尾昌俊・野副純世・
中村 亮・東條秀明・瀬戸 拓・大脇和男・
岡部眞典・山本雄祐
症例は79歳男性.近医にて胸痛発症1時間後の心
電図でST上昇を認められ当科へ紹介.当科入院
時(発症4時間),症状はほぼ消失.しかし,心
電図変化ならびにトロポニン陽性所見から,急性
心筋梗塞と考え,緊急冠動脈造影を施行.RCA
4PD末梢に99%狭窄病変が認められた.しかし,
左室造影では心尖部を中心とした壁運動低下が認
められ,たこつぼ型心筋障害のパターンであった.
以後,心臓リハビリを施行.退院前の心エコーで
は下壁の壁運動低下は残存.また退院後に行った
シネMRIでは下壁に遅延造影が認められた.今回
我々は,たこつぼ型心筋障害を合併したと考えら
れた急性心筋梗塞の1例を経験したので報告す
る.
44) 経皮的冠動脈インターベンション術施行症
例における末梢動脈疾患の有病率
(小倉記念病院循環器科) 曽我芳光・
土井尻達紀・道明武範・蔵満昭一・小林裕明・
浦川知子・安藤献児・白井伸一・酒井孝裕・
近藤克洋・合屋雅彦・横井宏佳・岩淵成志・
安本 均・延吉正清
【方法】2007年11月から2008年2月に当院で経皮
的冠動脈インターベンション術(PCI)を施行さ
れた476例の内,入院中に血管エコーによるスク
リーニング検査に同意を得られた374症例を対象
とし,前向きに内頚動脈狭窄症,腎動脈狭窄症,
下肢末梢動脈疾患(PAD),腹部大動脈瘤の有病
率を検討した.【結果】患者背景は平均年齢69±
8.1歳,男性71%であった.末梢動脈疾患の有病
率は23.3%(87例)であった.PAD15%,内頚動
脈狭窄症3.7%(閉塞1.6%),腎動脈狭窄4.3%(両
側性0.5%),腹部大動脈瘤2.1%であった.複数の
末梢動脈疾患に罹患していた患者は2.1%であっ
た.冠動脈バイパス術既往のある患者は有意に有
病率が高かった(1.3% vs 12.8%,p<0.05).【結
語】PCI施行患者(特に冠動脈バイパス術後)に
おける末梢動脈疾患の有病率は高かった.
45) 心臓MRIが診断および治療効果判定に有用
であった心サルコイドーシスの1例
(宮崎大学第一内科) 戸井田玲子・
鬼塚久充・小山彰平・井手口武史・辰元 信・
川越純志・川本理一朗・岩切弘直・鶴田敏博・
伊達晴彦・今村卓郎・北村和雄
(同放射線科) 山口健一郎・長町茂樹・
田村正三
37歳女性.2006年8月肺サルコイドーシスと診断.
2007年2月より動悸,眼前暗黒感を自覚.近医で
心室性期外収縮を指摘され,当科紹介入院.心電
図上はI度房室ブロックを認め,ホルター心電図
上VPCの頻発及びモニター心電図上8連発のNSVT
を認めた.心エコーでは左心機能は良好であり,
サルコイドーシスを示唆する所見は認めなかっ
た.タリウム心筋シンチ,FDG-PETでも画像診断
が困難であったため,心臓MRIを施行したところ
左室前壁中隔に遅延造影効果のある結節を認め,
心サルコイドーシスと診断した.プレドニゾロン
40mg/日の内服を開始し,ホルター心電図上VPC
は90%以上減少し,ステロイド投与後1ヶ月の心
臓MRIでも前壁中隔の結節の縮小を認めた.心サ
ルコイドーシスの診断,治療効果判定に心臓MRI
が有用であった症例を経験したため報告する.
46) 成人孤立性左室心筋緻密化障害の1例
(大分大学内科学第一) 福井 暁・
岡田憲広・軸丸季美子・篠原徹二
(同循環病態制御) 油布邦夫
(同内科学第一) 高橋尚彦・原 政英
(同循環病態制御) 中川幹子・犀川哲典
(同内科学第一) 吉松博信
症例は34歳女性.2003年(29歳時),脈不整およ
び動悸症状を自覚し,ホルター心電図検査で単源
性心室期外収縮を認めた.心エコー図検査でびま
ん性に左室壁が肥厚していたが,左室収縮能は正
常だった.本年になって動悸症状の増悪および血
清BNP値の上昇(121pg/ml)を認めたため当院
を紹介された.再度行った心エコー図検査で左室
心筋の緻密層菲薄化および網目状の肉柱形成と深
い間隙が明らかになり,孤立性左室心筋緻密化障
害(IVNC)と診断した.抗凝固療法およびロサ
ルタン(25mg/day)内服を開始した.心不全症
状を発症する前に診断および治療介入が可能であ
った.近年,画像診断精度向上により,IVNCは
稀でない先天性心疾患であり成人例も少なくない
ことが判明している.診断および管理方針につい
て若干の文献的考察を加え報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
47) 心室中部閉塞に対し5Fr transradial approach
(TRA)にて経皮的心室中隔心筋焼灼術(PTSMA)
を施行した2例
(北九州市立八幡病院循環器科) 向野晃弘・
津田有輝・大江学治・佐貫仁宣・剱 卓夫・
原田 敬・太崎博美
50) 美容形成外科術後に逆たこつぼ型のたこつ
ぼ心筋症を発症した一例
(九州大学循環器内科) 武田宏太郎・
竹本真生・江島健一・多田英生・坂本隆史
(済生会二日市病院) 籾井英利
(九州大学循環器内科) 砂川賢二
症例1は80歳女性.大動脈狭窄症と狭心症に対し,
大動脈弁置換術と冠動脈バイパス術施行.最近,
排便後に眼前暗黒感出現し当院受診.心エコー
上,心室中部に100∼130mmHgの圧較差を認めた.
β遮断剤やペースメーカー治療も行われており,
PTSMAを施行した.圧較差20mmHgに改善し,
自覚症状も消失した.症例2は69歳男性.8年前
にAMI発症.RCA,LADにPCI施行し,再狭窄は
みられていない.最近,労作時に胸痛・息苦しさ
出現.CAGでは冠動脈に有意狭窄はなく,心エ
コーで高度の左室肥大と心室中部に50∼60mmHg
の圧較差を認めた.PTSMAを施行し,圧較差・
胸部症状の改善を認めた.2症例とも5F TRAに
て施行したが,手技や造影性の問題もみられなか
った.若干の文献的考察を含めて報告する.
症例は32才女性.H20年某月美容形成外科にて大
腿部と殿部の脂肪吸引術を施行された.帰宅途中
に呼吸困難となり,近医総合病院に急性心不全に
よるプレショック状態で救急搬送された.採血上
心筋障害が示唆され,心エコーでは左室中部から
基部が全周性にakinesisで心尖部のみ動きが保た
れLVEF=20%と低下を認めた.冠動脈造影は正
常であった.ドバミン,利尿剤使用下で同日当科
搬送.来院時にはすでに循環動態は安定,入院後
左室壁運動は数日で正常化した,本例は冠動脈支
配では説明できない領域に左室壁運動異常が術後
に生じ,それが急速に改善したことより,たこつ
ぼ心筋症と考えられた.典型的には心尖部の動き
が低下したこつぼ型を呈するが,本例のように逆
たこつぼ型は比較的珍しく文献的考察を加えてこ
こに報告する.
48) 心室中部閉塞型心筋症を合併した大動脈弁
狭窄症の一例
(大隅鹿屋病院心臓血管外科) 柚木純二・
中山義博・大西裕幸・諸隈宏之
51) たこつぼ心筋症併発により生じた左室流出
路圧格差改善にシベンゾリン投与が著効した肥大
型心筋症の1例
(厚生連鶴見病院) 篠崎和宏・財前博文・
日野充貴
(大分大学医学部附属病院第2内科)
田村 彰
75歳,男性.70歳時,Ao-LVの最高圧較差(PG)
が50mmHgの大動脈弁狭窄症(AS)を指摘され,
β-blockerの内服を開始.73歳時,左室中部心
筋の肥厚を認め,Ao-LV peak PG 50mmHg,LV
outflow-apex peak PG 100mmHgと,ASおよび心
室中部閉塞型心筋症の診断でcibenzolineの内服を
開始された.その後LV outflow-apex peak PGは
70mmHgまで改善.今回は胸部違和感を認め入院.
ASはAVA 0.85cm2,Ao-LV peak PG 84mmHg,心
室中部閉塞型心筋症はLV outflow-apex peak PG
68mmHgであり,今回はASに対し大動脈弁置換
術を施行した.術後5ヶ月のUCGで大動脈弁位
に異常なく,LV outflow-apex peak PG 51,mean
PG 12mmHgで経過している.
49) 乳頭筋異常を伴った閉塞性肥大型心筋症の
1例
(長崎大学循環病態制御外科学) 橋本 亘・
江石清行・橋詰浩二・谷川和好・三浦 崇・
尾立朋大・中路 俊
【症例】73歳女性.71歳時より僧帽弁閉鎖不全症
を指摘され心不全を繰り返していた.心エコー図
検査及び心臓カテーテル検査にて,大動脈弁閉
鎖不全症3度,僧帽弁閉鎖不全症3度及び,乳
頭筋の解剖学的異常と左室流出路狭窄(圧較差
120mmHg),僧房弁前尖の収縮期前方運動を認め
た.術中所見では大動脈弁下の心筋肥大と解剖学
的乳頭筋異常を確認した.手術は大動脈弁置換術
+僧帽弁置換術+Morrow手術を行った.術後心
エコー図検査では特に異常認めず,左室流出路圧
較差は12mmHgと改善した.【考察】乳頭筋異常
を伴った閉塞性肥大型心筋症は稀な症例であり,
文献的考察を含め報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
症例は69歳女性,情動不安を契機に胸部不快感出
現.心電図にてII,III,aVF,V4-6 ST上昇,心
エコーにて左室流出路の心筋肥大および下壁から
心先部の壁運動低下認めた.冠動脈造影にて有
意狭窄認めず,左室造影にて下壁,心尖部の壁
運動低下,心基部での過収縮よりタコツボ型心
筋症亜型と診断.左室および大動脈同時圧にて
100mmHgの圧較差ありプロプラノロール2mg投
与にて60mmHgに圧較差減少,コハク酸シベンゾ
リン35mg投与にて圧較差消失した.以後壁運動
障害軽快,左室流出路圧格差も認めていない.肥
大型心筋症にタコツボ心筋症合併した症例におい
てβブロッカーにて圧較差遷延する場合はコハク
酸シベンゾリンも有効ではないかと考えられた.
52) 心尖部血栓を合併したたこつぼ型心筋症の
一例
(天神会新古賀病院心臓血管センター)
田中敦史・川崎友裕・新谷嘉章・後藤義崇・
折田義也・三戸隆裕・池田真介・芹川 威・
古賀久士・田中秀憲・大坪義彦・福山尚哉・
古賀伸彦
症例はADLの自立した92歳女性.来院前日より
心窩部痛が持続し,近医にて前胸部誘導でのST
上昇を認められ,AMI疑いで当科紹介となった.
CAGにて有意狭窄はなく,LVGにて心尖部の無
収縮と心基部の過収縮を認め,たこつぼ型心筋症
と診断した.30∼60mmHgの左室内圧較差と壁運
動異常が遷延し,第21病日のUCGにて心尖部に
24×14mmの可動性に乏しい血栓を認めた.抗凝
固療法により塞栓症の合併なく経過し,第32病日
に心尖部血栓と左室内圧較差は消失した.たこつ
ぼ型心筋症はAMIに類似した臨床像と心電図変
化で発症し,特異的な左室壁運動を呈する病態で
ある.発症頻度はAMIが疑われ施行された緊急
CAGの1.4%とされているが,心尖部血栓合併例
の報告は稀であり,文献的考察を含めて報告する.
53) 左室流出路狭窄によりショック状態を呈し
たたこつぼ心筋症の一例
(長崎労災病院循環器科) 河野浩章・
松本雄二・荒川修司・佐藤修身・早野元信
(長崎国際大学健康管理学部) 矢野捷介
症例は57歳男性.【主訴】胸痛.【既往歴】発作性
心房細動,高血圧.【現病歴】平成20年1月突然
の胸痛で近医受診.心電図でV1−4のST上昇あ
り,急性心筋梗塞の診断で当科紹介入院.入院
後【経過】心臓カテーテル検査施行し,冠動脈に
異常なく,左室全壁中隔から心尖部に壁運動低下
ありたこつぼ心筋症と診断.また,左室流出路に
90mmHgの圧較差あり.その後血圧低下と尿量減
少を認めたため,ドパミン開始するも血圧上昇な
く,フェニレフリン投与下にプロプラノロール開
始したところ血圧は徐々に上昇し尿量も増加し
た.【結語】たこつぼ心筋症は予後のよい疾患と
されているが,左室流出路圧較差のためショック
を呈する症例もあり注意を要する.
54) 当院におけるたこつぼ型心筋障害の検討
(浦添総合病院循環器内科) 梅原英太郎・
大城康一・小村泰雄・比嘉章子・田村謙次・
重歳正尚・木村朋生
たこつぼ型心筋症は心電図上ST上昇,陰性T波を
認め,左室壁運動が心尖部を中心に低下する疾患
と定義されるが,そのメカニズム,臨床経過,予
後など明らかでない.2002年10月から2008年2月
に当院にて急性冠症候群疑いとして心臓カテーテ
ル検査を受けた症例中,左室造影にてたこつぼ型
心筋症と診断された症例は15例(男4:女11).
何らかの基礎疾患が考えられた症例は10例(上気
道感染3,交通外傷1,喘息1,気胸1,胃炎1,
腹膜炎1,クモ膜下出血1,偏頭痛1)
.死亡は
2例(すべて急性期).再発症例は認めなかった.
死亡例以外はすべて左室造影または心エコーにて
心機能の改善を認めている.上記症例の臨床的特
徴,その治療,経過につき検討したので報告する.
55) 劇症型心筋炎に対する治療経験
(久留米大学外科) 植田知宏・田山栄基・
堀 英嗣・赤須晃治・小須賀智一・友枝 博・
千原新吾・有永康一・福永周司・青柳成明
症例は15歳女性.感冒様症状出現2日後に心原性
ショックに陥り3次救急施設搬入となった.昇圧
剤に反応なく著明な肺うっ血,EF16%とポンプ
失調を認め緊急PCPS(3L/min)・IABP挿入と
なった.LVAS導入の必要性も考慮し,PCPS導入
4日目に当院へ転院となった.PCPS後4日目に
EF33%と壁運動改善を認めたため,LVAS挿入は
行わず,PCPS続行.その後心機能徐々に改善し
PCPSは7日目,IABPは11日目に離脱した(EF45
%).以後心不全再燃なく経過良好だった.
【考察】
劇症型心筋炎は急性期血行動態破綻の時期を,適
切な機械的循環補助によって乗り切ることが重要
である.迅速な機械補助の導入,PCPS高流量の
確保,機械補助に関する合併症回避が臨床的成功
の秘訣であったと考える.
かごしま県民交流センター(2008 年 6 月) 1119
56) 心筋炎による難治性VT・Vfで心肺停止後
PCPS装着・低体温療法により救命しえた1例
(沖縄県立南部医療センター・こども医療センター循環器科)
中村牧子・砂川長彦・前野大志・松岡満照・
宮良高史・新城 治・當真 隆
症例は43歳女性.低K血症,TdP,アルコール性
肝障害の既往あり.平成19年11月下旬22時頃突然
の意識消失,家族による心臓マッサージが開始さ
れ22時23分救急搬送.除細動してもVfを繰り返し
アミオダロン静注とIABP挿入で115分後に心拍再
開.心エコーで著明な心機能低下を認め緊急CAG
施行.冠動脈には狭窄なく肺動脈に血栓はなかっ
た.PCPS装着し34℃低体温療法を24時間施行.
急性腎不全にCHDF,肝不全に血漿交換を行った.
慢性期にはEF 69%,PA 20/7
(13)
mmHg,心筋生
検で心筋炎と診断.EPSでもVT誘発されず独歩
退院となった.心筋炎による難治性VT・Vfで心
肺停止後bystander CPRが施行され,PCPS装着・
低体温療法により神経学的後遺症を残さず救命し
得た症例であった.
57) PCPS補助下に左室内巨大血栓を形成した
劇症型心筋炎の1症例
(天神会新古賀病院心臓血管センター循環器内科)
大島明奈・新谷嘉章・川崎友裕・後藤義崇・
田中敦史・三戸隆裕・折田義也・池田真介・
芹川 威・古賀久士・大坪義彦・田中秀憲・
福山尚哉・古賀伸彦
症例は43歳男性.主訴は遷延する前胸部痛.心電
図上は胸部誘導のST上昇,心筋逸脱酵素,炎症
所見の上昇,心エコーにて局所壁運動異常を認め
たが緊急CAGでは器質的狭窄・閉塞なく,急性
心筋炎と診断した.LVGにて著しい壁運動低下を
呈していたためIABP留置を行うも入院4日目に
劇症化し,心室細動から心肺停止となったため
PCPS挿入した.その後も心室細動は遷延し,著
しい低心機能及び送血による大動脈弁の開放制限
のために左室内に巨大血栓を形成した.血栓塞栓
症が懸念されたが厳重な抗凝固療法しつつ集中治
療行ったところ,心機能の改善とともに血栓は消
失し,約10日間でPCPSから離脱した後に独歩退
院可能となった.【結語】PCPS補助下に左室内巨
大血栓を形成しながらも救命し得た劇症型心筋炎
の1症例を経験したので報告する.
58) シェーグレン症候群に合併した限局性心筋
炎の1例
(鹿児島大学病院消化器疾患・生活習慣病学)
相良誠二・田上和幸・平峯聖久・網屋 俊・
東福勝徳・佐多直幸・福岡嘉弘・塗木徳人・
坪内博仁
症例は46歳女性.原発性胆汁性肝硬変,シェーグ
レン症候群および間質性肺炎で経過観察されてい
た.最近呼吸困難が出現し,心嚢液貯留と間質性
肺炎の増悪を認めたことから紹介となった.入院
時心原性酵素の上昇と左室後下壁に限局した壁運
動低下を認め,心筋梗塞や心膜・心筋炎との鑑別
に苦慮した.また間質性肺炎の治療に難渋し,呼
吸状態悪化に伴い,人工呼吸管理を必要とした.
ステロイドパルス療法と抗生剤投与で全身状態が
安定してきたが,突然心室細動を生じ,永眠とな
った.病理解剖で心筋炎を生じていたことが判明
したことから,シェーグレン症候群に合併した稀
な心筋炎の症例で,しかも限局性に左室壁運動低
下を呈していること,多彩な全身合併症をきたし
突然の心室細動を生じたことより,示唆に富むも
のとして今回報告する.
1120 第 104 回九州地方会
59) 非細菌性心内膜炎の2手術例
(熊本赤十字病院心臓血管外科) 鈴木龍介・
渡辺俊明・平山 亮・野畑一郎・小柳俊哉
症例1は25歳男性.心原性脳塞栓で発症し僧帽弁
に多数の疣贅様所見を認めた.感染性心内膜炎を
疑い抗生剤治療を開始したが,再度塞栓症をきた
し準緊急で僧帽弁置換術を施行した.僧帽弁弁尖
には疣贅様の付着を多数認めた.術後の病理検査
では細菌を認めず,器質化した血栓のみであった.
骨髄生検で骨髄線維症を認め,DICを来たし術後
約1ヶ月で失った.2例目は58歳の男性.心不全
で発症し大動脈弁に疣贅様の所見を認めたが,心
不全が改善し感染兆候を認めず,一旦退院となっ
たが心不全で再入院し疣贅様の付着が増大傾向を
呈しており大動脈弁置換術を施行した.大動脈弁
にフィブリン様の付着を認めた.術後経過は良好
で術後2年経過し外来通院中である.比較的まれ
な非感染性心内膜炎の2例を経験したので若干の
文献的考察を含めて報告する.
60) 稀な原因により発症した大動脈弁閉鎖不全
症の2治験例
(福岡徳洲会病院胸部心臓血管外科)
蒲原啓司・白馬雄士・峰松紀年・湊 直樹
今回,比較的若年者において,弁尖の変性,硬
化,解離とは異なる稀な原因により,発症した
重度AR症例を経験したので報告する.症例1は,
49歳,男性,トライアスロン選手.トライアスロ
ン大会で完走した2日後,夜間突然の呼吸苦を自
覚.精査の結果,大動脈基部瘤,AR IV度の診断
でBentall手術施行.術中所見で,各弁尖自体は,
ほぼ正常であったが,右-無冠尖交連部が剥離脱
落し無冠尖逸脱をきたしていたことがARの原因
であった.症例2は,50歳,男性.毎年の健診で
異常なく,発熱の既往もなかった.今回,はじめ
て心拡大を指摘.精査の結果,AR IV度の診断で
AVR施行.術中所見で,無冠尖は正常であったが,
左,右冠尖中央部に弁輪部方向に向かって比較的
新しい裂開を認め,ARの原因であると考えられ
た.術後経過は,2症例共に良好であった.
61) ワーファリン内服の自己中止後1年で機械
弁の機能不全を来たしたが,ウロキナーゼ投与に
て回復した1症例
(天草郡市医師会立天草地域医療センター) 山本浩一朗・古賀英信・境野成次
症例は,69歳男性.平成17年,胸痛精査にて入院.
大動脈弁狭窄症を認め,他院にて,機械弁による
大動脈弁置換を施行.以後,経過は良好であった
が,平成19年よりワーファリンを自己中止.平成
19年11月下旬より,労作時の胸苦しさを認め入院
となった.心エコーでは,中等度の大動脈弁閉鎖
不全症の所見,弁透視にて機械弁の機能不全を認
めた.血栓弁が疑われたため,再手術について説
明したが,拒否された.血行動態が安定した人工
弁機能不全例であり,血栓塞栓症のリスクを説明
した上で,血栓溶解療法を施行した.施行後,4
日目で症状消失し,7日目に弁透視を施行したと
ころ,機能不全の改善を認めた.また,血栓塞栓
症状の出現は認めなかった.機械弁機能不全(血
栓弁)に対して血栓溶解療法が,著効した症例で
あり,報告する.
62) 呼気ガス分析(CPX)を用いたProsthesispatient mismatch(PPM)患者における運動耐容
能の検討
(県立宮崎病院循環器科) 柳田葉子
(同心臓血管外科) 久 容輔・荒田憲一・
金城玉洋
【目的】CPXを用いてPPM患者の運動耐容能の変
化を検討すること.【方法】対象は2007年8月∼
11月に入院した心臓血管外科術後患者9例.中等
度のPPM群3例(年齢55.3±5.7歳,女性3例,
AVR術後1例,AVR+上行大動脈置換術後1例,
DVR術後1例)とnon-PPM群6例(年齢56.1±
18.1歳,女性2例,CABG術後2例,VSD術後1例,
MVP術後3例)において,術後約2週間目と術後
約3ヵ月目にCPXを行った.
【結果】non-PPM群に
おいては,peakVO2(p=0.001)
,AT(p=0.048)
,
VE/VCO2 slope(p<0.0001)
,ΔVO2/ΔWR(p=
0.007)と有意な改善を認めたが,PPM群において
は,いずれも有意差は認めなかった.【結語】中
等度のPPMであっても,術後3ヶ月では,運動
耐容能の改善が得られない可能性が示唆され,さ
らに長期的な検討を要するものと考えられた.
63) Peptostreptococcusによる感染性心内膜炎
の一例
(鹿児島大学消化器疾患・生活習慣病学)
吉嶺陽造・網屋 俊・東福勝徳・福岡嘉弘・
佐多直幸・田上和幸・塗木徳人・坪内博仁
感染性心内膜炎は,その起因菌として緑色連鎖球
菌,黄色ブドウ球菌,腸球菌などが知られてい
る.Peptostreptococcusは,弱毒性の嫌気性菌で
あり,口腔や消化管,尿路,皮膚に常在する.感
染性心内膜炎の原因となることは稀である.今
回,その一例を経験したので,報告する.症例は
53歳女性,45歳時に拡張型心筋症と診断された.
48歳時に,急にMRI→III度に進行し,腱索断裂
による逸脱症が原因と考えた.H19年8月,53歳
時に肺炎を契機に発熱,軽快を繰り返し,心エコ
ーで明らかな疣贅は認めなかったが,血液培養で
Peptostreptococcusを8回認めたため,感染性心
内膜炎と診断した.感染ルートは,う歯,歯周炎
によるものと考えられ,歯科治療後に,僧帽弁形
成術を施行した.
64) Manouguian法による2弁置換術を施行した
大動脈−左房瘻を合併した活動期感染性心内膜炎
の1手術例
(九州医療センター心臓外科) 園田拓道・
高木数実・高瀬谷徹・川良武美・森田茂樹
(同循環器科) 仲吉孝晴・森 超夫
症例は73歳の男性で,主訴は発熱と全身倦怠感.
以前からDMとmild ASを指摘されていた.歯槽
膿漏の加療中であったが,その治療開始2週間後
に高熱が出現し持続するため近医へ入院.UCG
で大動脈弁輪から僧帽弁前尖,左房壁にかけて疣
腫を認めたため,感染性心内膜炎と診断し抗生剤
治療を開始するも疣腫の縮小が得られず当院へ転
院.AR3度と軽度のAo-LA shuntを認めたため厳
重に観察していたところ,転院3日目に突如,急
性心不全へ陥り緊急手術を行った.感染の主座は
NCC弁輪部付近であり,Valsalva洞は破壊・穿破
しAo-LA fistulaを形成し僧帽弁前尖基部および左
房天井壁へ感染が波及していた.手術は感染部郭
清ののちManouguian法に準じてAVR,MVRを行
った.現在までに感染の再燃所見なく良好に経過
している.文献的考察を加え報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
65) PVEに膜様中隔瘤破裂を合併し,心停止を
来すも救命しえた一症例
(久留米大学外科) 森 龍祐・赤須晃治・
植田知宏・堀 英嗣・手嶋英樹・小須賀智一・
友枝 博・千原新吾・有永康一・福永周司・
青柳成明
患者は75歳の女性.5年前にAVR(生体弁),2
年前にPMIの既往がある.2007年10月腸閉塞を発
症し,11月に手術を施行された.12月初旬より下
腿浮腫と38度以上の発熱が持続し,12月26日当院
内科を紹介受診し,PVEに伴なう心不全と診断さ
れ,入院し保存的治療を開始された.炎症鎮静
化後の手術を計画されるも,1/9のUCGで,は
じめてL-Rshuntを認め,1/11午前0:30には循環
虚脱を呈した.その後,心停止をきたし,午前
10:10にPCPSを導入された.そこで外科紹介とな
り,同日緊急手術を施行した.術後は良好な経過
をたどり,術後51日目に自宅退院となった.以
上の症例に対して膜様中隔瘤を伴うPVEの治療方
針,またその至適手術時期などについて文献的考
察を加え報告する.
66) 大動脈弁置換術後基部炎症性仮性瘤に対
し,2度の基部置換術を施行した症例
(済生会熊本病院) 宮本卓馬・平山統一・
三隅寛恭・上杉英之・出田一郎・佐々利明・
森元博信
症例は56歳女性,2004年大動脈弁狭窄症に対し大
動脈弁置換術施行.2006年11月頃から胸痛が出現.
2007年1月に受診した際,大動脈基部に仮性瘤を
認め緊急でBentall+S-CABG施行.術中所見では
大動脈弁位人工弁周囲から左房壁まで炎症性変化
が波及しており,活動性感染性心内膜炎が疑われ
た.術後抗生剤の投与を続け一時退院,12月より
再度胸痛が出現,CT上左室流出路を入口部とす
る基部仮性瘤の再発を認めた.そのため12月再度
Bentallを施行.仮性瘤内部には膿様の組織が認
められた.術後完全房室ブロックを合併しペース
メーカの植え込みを必要としたが現在は自宅退院
し,外来通院中である.また経過を通じて菌の検
出はされておらず,自己免疫性疾患を疑いステロ
イド内服を継続している.
67) 生体弁大動脈弁置換術後早期に発症した人
工弁感染症の1例
(佐賀県立病院好生館心臓血管外科)
高松正憲・樗木 等・内藤光三・坂口昌之・
陣内宏紀
症例は24歳男性,インドネシア人.心雑音を指
摘され精査,心エコーでEF 63%,LVDd 58mm,
重 度 のARを 認 め た. 大 動 脈 弁 置 換 術(C-E弁
23mm)を施行,弁の病理診断は変性で炎症細胞
浸潤は認めず,術後経過良好で術後14日目に退
院.術後32日目より40度を超える弛張熱と嘔吐
が出現して再入院,血液培養でメチシリン耐性
Staphylococcus capitisを検出してVCMを開始.
心エコーで生体弁に7×13mmの疣贅を,造影CT
で左浅大腿動脈塞栓を認めた.抗生剤で症状改善
せずに準緊急で手術施行,生体弁の弁尖すべてと
弁輪左室側に細菌塊を認め,すべて除去して再大
動脈弁置換術(SJM弁23mm)と左大腿動脈塞栓
除去術を施行した.再術後20日で退院,再術後半
年で経過良好である.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
68) 大動脈弁位の乳頭状線維弾性腫の一症例
(九州厚生年金病院心臓血管外科)
牛島智基・落合由恵・溝部圭輔・梶原 隆・
坂本真人・井本 浩・瀬瀬 顯
(同内科) 野間 充・山本英雄
症例は67歳女性.これまでに心疾患の既往はなく,
塞栓症状と思われる神経学的異常所見の出現はな
かった.心電図上での心肥大の精査のために施行
した経胸壁心臓超音波検査で大動脈弁位の腫瘤を
発見し,経食道超音波検査で大動脈弁無冠尖に付
着する径10mmほどの腫瘤を認め,乳頭状線維弾
性腫を強く疑う所見であった.胸骨正中切開,人
工心肺,心停止下に大動脈弁無冠尖の弁尖に付着
するイソギンチャク様の腫瘤を摘出した.術後病
理検査で乳頭状線維弾性腫であると診断した.乳
頭状線維弾性腫は比較的稀な腫瘍であり,若干の
文献的考察を加え報告する.
69) 一過性完全房室ブロックを呈した心臓悪性
リンパ腫の一例
(県民健康プラザ鹿屋医療センター内科・循環器科)
小瀬戸一平・尾辻秀章・有馬良一・亀甲真弘・
中尾正一郎
(鹿児島大学循環器・呼吸器・代謝内科学) 鄭 忠和
心臓悪性リンパ腫による一過性の完全房室ブロッ
クを呈した症例を経験したので報告する.症例は
71歳女性.入院時心電図では1度房室ブロック
であったが第8病日には2度房室ブロックとな
った.心エコーでは右房にmassエコーを認めた.
造影CTでは縦隔のリンパ節腫脹及び右房内にlow
density massを認めた.Gaシンチでは縦隔,心臓
を中心に異常集積を認め,心臓腫瘍が疑われた.
第29病日3度房室ブロックとなった.胸水試験穿
刺の結果,悪性リンパ腫と診断.化学療法2コー
ス後には2度房室ブロックへ改善.3コース後に
は1度房室ブロックへ改善.7コース後には腫瘤
ほぼ消失した.原発性心臓悪性リンパ腫は原発性
心臓腫瘍の1.3%と非常に稀な疾患である.予後
は一般に不良であるが化学療法により延命も期待
できるため早期診断・治療が必要な疾患である.
70) AML骨髄移植後収縮性心膜炎に対し外科
治療を施行し,術後治療に難渋した一例
(九州大学病院心臓血管外科) 徳永滋彦・
富田幸裕・塩川祐一・中島淳博・田ノ上禎久・
江藤政尚
(浜の町病院循環器内科) 臼井 真
(同血液内科) 高瀬 謙・吉田真紀
(九州大学病院心臓血管外科) 富永隆治
34歳男性,AMLに対し2005年8月同種骨髄移植術
施行.2年間寛解の維持.慢性GVHDに対し免疫
抑制剤投与.2007年3月より両下腿浮腫が出現,
精査にて収縮性心膜炎の診断となる.原因は慢性
GVHDが考えられた.心不全コントロール困難の
ため,2007年8月心膜切除術,心外膜切除術を施
行した.術後下腿浮腫,胸腔ドレーン排液持続の
ため26日目に心臓カテーテル検査を施行(以下カ
ッコ内は術前)
:RAP;10mmHg(19),PCWP;14
mmHg(24),CI;1.7(1.9),dip&plateau持 続,
LVEDP;20mmHg(20).術後40日目に紹介病院内
科へ転院.現在,体重40.8kg(49kg)と心不全コ
ントロールは良好であるがMRSA肺炎のため入院
加療継続中である.
71) 血栓性閉塞との鑑別が困難であった肺動脈
平滑筋肉腫の1例
(鹿児島医療センター第二循環器科)
俣木浩子・鹿島克郎・永吉信哉・川崎大輔・
吉重祐介・下川原裕人・東 健作・田中秀樹・
薗田正浩
(同心臓血管外科) 福元祥浩・四元剛一・
豊平 均・山下正文
(同第二循環器科) 中村一彦
症例は52歳男性で,不明熱の精査のため当院へ紹
介入院となった.不明熱は10カ月前より出現し,
3か月前から労作時呼吸困難が出現.入院時の胸
部CT検査で肺動脈主幹部に腫瘤を認めた.肺血
栓塞栓症が否定できなかったためウロキナーゼ・
へパリンによる抗凝固療法を開始したが,右心不
全兆候は急速に進行した.心エコー所見や造影
CT検査では血栓との鑑別が困難だったが,TAT,
D-dimerの上昇がなく,PET検査で肺動脈主幹部
に異常集積を認めたため,血栓より悪性疾患が示
唆された.治療的診断目的で腫瘍摘出術を施行.
組織診断で平滑筋肉腫の確定診断を得た.現在,
化学療法(アドリアマイシン)を開始し経過観察
中である.不明熱経過中の肺動脈平滑筋肉腫の報
告は少なく文献的考察を加え報告する.
72) 心嚢液貯留を契機に心膜転移が見つかった
印環細胞癌の一例
(産業医科大学循環器腎臓内科) 加来京子・
岡崎昌博・田中正哉・竹内正明・尾辻 豊
(同心臓血管外科) 西村 陽介
症例は69歳女性.心嚢液貯留の精査加療目的で当
科へ紹介入院となった.既往歴として64歳時進行
胃癌(Stage3A印環細胞癌)のため胃切除術を施
行された.当院の経胸壁および経食道心エコーに
て左房壁から僧帽弁前尖まで浸潤したエコーレベ
ルが低い充実性腫瘤が認められた.造影CT上明
らかな原発巣や転移巣は認めず,CEAやCA19-9
は正常範囲であった.入院17日目に開胸下生検お
よび心嚢開窓術を施行した.心嚢液の術中迅速細
胞診にてadenocarcinomaを認め,肺動脈/大動脈
/右室前方の心膜の充実性の腫瘍からは5年前の
胃癌と同組織型の印環細胞癌が検出された.印環
細胞癌の心膜転移と診断し,TS−1の内服を再
開した.今回我々は,心嚢液貯留を契機に印環細
胞癌の心膜転移が見つかり,抗癌剤加療を再開し
た一例を経験したので報告する.
73) 巨大冠動脈瘤及び冠動脈−右室瘻の一例:
経胸壁ドプラエコー法の有用性
(鹿児島医療センター第一循環器科)
中筋あや・松村太郎・徳重明央・中野文雄・
余 波・瀬戸口学・中島 均・皆越眞一
(同心臓血管外科) 四元剛一・豊平 均・
山下正文
(鹿児島大学循環器・呼吸器・代謝内科学)
鄭 忠和
症例は52才男性.平成19年の健診で心電図異常を
指摘され,心エコー図検査にて巨大冠動脈瘤,冠
動脈-肺動脈瘻を認め,精査のため当科紹介入院.
胸部レントゲンで左3弓の突出あり,経胸壁心エ
コー図では,左主幹部の入口部径は約2cmに拡
大し,その血管からの分岐より巨大冠動脈瘤(約
8cm)が認められ,瘤内に旋回流が観察された.
カラードプラーエコー図にて正常な左前下行枝お
よび左回旋枝血流シグナルも描出された.左主幹
部入口部より3cm先より異常血管が右室に開口
し,左冠動脈−右室瘻を形成しているのが観察さ
れた.冠動脈CTでは,左主幹部の拡大および異
常血管,冠動脈瘤,左前下行枝,左回旋枝の位置
関係が明瞭に描出された.
かごしま県民交流センター(2008 年 6 月) 1121
74) 診断に心臓超音波検査が有用であった両側
冠動脈肺動脈瘻の一例
(沖縄県立中部病院循環器科) 梶原光嗣・
和気 稔・平田一仁
症例は67歳男性.30分以上持続する胸痛を主訴に
当院救急センター受診.心電図前胸部誘導にて
ST上昇しており,急性冠症候群を疑わせた.同
時に行った心エコーでは,前壁中隔の壁運動は低
下しておらず,肺動脈内を斜めに横切るシャント
血流が確認された.胸痛が持続していたため緊急
冠動脈造影を施行.左右冠動脈に有意狭窄はな
く,左前下行枝および右冠動脈近位部より肺動脈
への動脈瘻を認め,Qp/Qsは,1.27であった.入
院後に行った201タリウム負荷心筋シンチグラムの
結果,心筋虚血が証明されたため,異常血管のコ
イル閉塞術を経皮的に施行し治療に成功した.診
断に心エコーが有用であり,注意深い所見の観察
が大切であると考えられたので,文献的考察を含
め報告する.
75) 急性心筋梗塞に伴う特異な血栓像の経時的
変化を観察し得た一例
(産業医科大学循環器腎臓内科) 春木伸彦・
竹内正明・中井博美・岡松恭子・村岡秀崇・
尾辻 豊
症例は69歳男性で主訴は呼吸困難.平成19年12月
24日夜,トイレに行った際に前胸部痛を自覚する
も翌朝には症状改善した.平成20年1月2日から
呼吸困難を自覚したため近医を受診し,うっ血性
心不全の診断で入院となった.しかし心エコー図
検査で心尖部に血栓を疑わせる所見を認め,1月
7日当科転院となった.当院の心エコー図検査で
は,中隔から前壁中隔の心尖部にかけて表面が
high echoicな膜で覆われ内部は液体成分と同じ
エコー輝度をもつmassを認め,その両側にもそ
れぞれ輝度の異なるmassを認めた.また心室中
隔中部に亀裂を疑わせる所見を認めたものの異常
血流は認めなかった.心尖部を中心に認めた特異
な血栓様エコー像の形状が変化していく様子を経
時的に観察し得たので報告する.
76) 局所右室拡張動態の検討(透析患者と非透
析患者での比較)
(長崎市立病院成人病センター循環器科)
矢加部和明・山方勇樹・川原英資
(長崎大学第二内科) 池田聡司・河野 茂
【目的】以前我々は,慢性維持透析患者において
透析前後での右室局所のColor Kinesis Diastolic
Index(CK-DI)が透析後に有意に低下すること
を報告した.今回,非透析患者との比較検討を行
った.【方法】対象は全身状態の安定した慢性維
持透析患者15名と非透析患者15名.それぞれ心エ
コー諸指標,右室長軸像のCK-DIを求めた.なお
透析患者では透析直前と直後30分以内に施行し
た.【成績】心エコー諸指標(E/A,ICT,IRT,
Tei index)では各群に有意な差を認めなかった.
非透析群の右室平均CK-DIは52%であり透析患者
より高い傾向であった.また自由壁側(41%)が
中隔側(63%)より低下しており透析患者の透析
前と同じ傾向であった.【結論】非透析者におい
て右室自由壁側の拡張動態は中隔側に比べ低下し
ている.
1122 第 104 回九州地方会
77) 心臓再同期療法におけるLV shuffle motion
の重要性
(小倉記念病院循環器科) 有田武史・
安藤献児・曽我芳光・山地杏平・合屋雅彦・
岩淵成志・横井宏佳・安本 均・野坂秀行・
延吉正清
【背景】心臓再同期療法(CRT)の効果予測にお
いてLV shuffle motionが重要であるといわれてい
る.【方法】43人の重症心不全患者(年齢69.5±
11.0,虚血性 17/43,QRS 幅 156±31.3ms,EF
25.5±6.4%)においてCRTを埋め込み,その治療
前に心エコーを行いdyssynchronyの判定をおこ
なった.また3ヵ月後に効果を判定した.【結果】
23人にCRTの効果が見られた.左室のshuffle motionがCRTの反応にもっともつよい相関がみられ
た.Shuffle motionは左脚ブロックで多く(10/14)
見られ,pacing波形ではあまり(4/10)みられな
かった.【結果】LV shuffle motionはCRTの反応
予測に役立つ指標である.
78) 造影CTと心臓MRIが診断に有用であった
右Valsalva洞瘤−右室瘻の1例
(敬愛会中頭病院内科) 仲村義一・
渡慶次竜生・小田口尚幸・屋宜宣守・上地 襄
【症例】45歳,男性【主訴】労作性呼吸困難【現病
歴】小学校時に心雑音指摘されるも放置.今回
陰嚢水腫術前に紹介入院.心臓カテーテル検査
:左→右シャント率:68%,肺体血流比:3.1.酸素
飽和度Ao:97.5%,PA:86.2%,RVOTで92.8%と
step upを認めた.PA:40/20mmHg,RVOT:80/
20mmHg.JRカテ瘻孔内挿入圧88/55mmHg,引抜
き圧(Ao)116/60.造影検査にて右Valsalva洞か
ら右室へのシャント流を確認.瘤状変形は認めな
かったが造影CT,心臓MRIを施行したところ右
Valsalva洞よりRVOTへのシャント流と同部位へ
の37×28mmの瘤を確認できた.以上より術前の
造影CTと心臓MRIが瘤の大きさを確認するのに
有用であった.
79) リアルタイム3D経食道心エコー法が診断
に有用であった僧帽弁形成術後の感染性心内膜炎
の一例
(鹿児島大学循環器・呼吸器・代謝内科学)
河野美穂子・桑原栄嗣・窪田佳代子・
植村 健・仲敷健一・吉福士郎
(鹿児島大学病院検査部) 水上尚子
(同心臓血管外科) 上野哲哉・坂田隆造
(鹿児島大学保健学科) 木佐貫彰
(同循環器・呼吸器・代謝内科学) 鄭 忠和
【症例】42才男性【主訴】発熱【現病歴】平成18
年6月僧帽弁逸脱症に対し僧帽弁形成術を施行.
同年7月より微熱を繰り返していたが,血液培養
は陰性,経胸壁心エコーで明らかな異常エコーは
観察されなかった.平成19年12月一過性の左片麻
痺を生じたため当院心臓血管内科にて精査を行
った.【経過】経胸壁心エコーで僧帽弁前尖弁輪
medial側に5mmの異常エコーを認めた.3D経食
道心エコーでリングに付着した長径2cmの異常
構造物とそれを取り囲むような隆起が観察され
た.【手術所見】縫合糸を核とした感染性肉芽腫
と瘢痕化した膿瘍の周提を確認.【結語】リアル
タイム3D経食道心エコーを用いることで僧帽弁
形成術後の弁尖や弁輪部の詳細な描出が可能であ
り臨床的に有用であることが示唆された.
80) 病態別にみた非喫煙女性における血清脂質
と頸動脈エコーのIMT(内中膜複合体厚)との関係
(ニコークリニック) 田中裕幸
【背景】総コレステロールと心筋梗塞などの発症
との関係には,性差があることがわかっている.
【方法】当院では,非喫煙女性においてリスク因
子をもたない群(NR群:n=12),高血圧症のみ
の群(HT群:n=12),高血圧症+メタボリック
シンドロームのリスク因子をもつ群(HT+M群:
n=9)に分け,血清脂質(TC,LDL-C,HDL-C,
TGとスモールデンスLDL-C)と頸動脈エコーの
IMT(内中膜複合体厚)との関係を調べた.【結果】
総頸動脈のIMTは,NR群でTC,LDL-Cと負の相
関があったのに対し,HT群とHT+M群では有意
な関係はなかった.同様に頸動脈分枝部のIMTは,
NR群でLDL-Cと負の相関があったが,HT群と
HT+M群では有意な関係はなかった.【総括】病
態別にTC,LDL-CとIMTの関係に差が認められ,
このことが性差の要因と考えられた.
81) 経胸壁心エコーにて心室内モヤモヤエコー
と心筋内側副血行路を認めた重症虚血性心疾患の
一例
(北九州市立八幡病院循環器科) 樫山国宣・
原田 敬・大江学治・佐貫仁宣・剱 卓夫・
津田有輝・太崎博美
症例は55歳男性.脳塞栓にて脳外科入院となる.
塞栓源検索目的で施行された経胸壁心エコーに
て,左室心尖部の壁運動低下,心室内モヤモヤ
エコーを認めた.同時に施行した冠動脈エコー
で,LAD末梢のDSVR低下,LAD心室中隔枝の血
流逆転,RCA末梢から心尖部左室心内膜を通り
心室中隔へと向かう側副血行路を認め,LADの
高度狭窄が疑われた.CAGではLAD#7)CTO,
LCX#11)75%の2枝病変で,CABGが行われた.
冠動脈エコーでは,中隔枝の逆行血流や側副血行
路の存在から,冠動脈病変の存在が疑われること
がある.一方,retrograde PCIの登場で,側副血
行路の解剖学的特徴が注目されている.本症例を
含め,側副血行路の解剖学的特徴について文献的
考察を加え報告する.
82) 心臓CTの画像クオリティーに与える因子の
解析
(小倉記念病院) 山地杏平・白井伸一・
安藤献児・横井宏佳・岩淵成志・安本 均・
野坂秀行・延吉正清
CTにての冠動脈評価は広く普及しているが,撮
影条件により未だ解析が困難である症例も経験す
る.2007年7月から12月に撮影した1528例の撮影
時の条件と,画像のクオリティーとの関連を検討
した.撮影条件は複数の経験をつんだ技師が,心
拍数,体重などから経験的に決定した.解析を行
った技師が,解析に耐えうる画像かを指標に優
(n=18),良(n=1194),不可(n=316)に分類し
た.画像のクオリティーに与える因子は,心拍数,
息止めの可否,心房細動,期外収縮であった.動
脈硬化病変,石灰化の有無,心臓バイパス手術の
有無との関連は認めなかった.心拍数80∼90/分
では,計算上ではガントリースピード350msecで
は撮影が困難とされるが,400msecにて撮影され
た場合より350msecの方が良い傾向であった.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
83) AMI後の乳頭筋断裂によるMR,急性心不全
に対しPCI,MVRを行い救命し得た一例
(聖マリア病院心臓血管外科) 尾田 毅
(同循環器科) 相良秀一郎
(同心臓血管外科) 宮原大輔・庄嶋賢弘・
坂下英樹
(同循環器科) 山脇 徹・田代英樹
(同心臓血管外科) 安永 弘・藤堂景茂
86) MOSAIC生体弁による大動脈弁置換術施行
2年3ヶ月後に生体弁機能不全を呈し再弁置換術
を行った1症例
(雪ノ聖母会聖マリア病院心臓血管外科)
庄嶋賢弘・安永 弘
(宗像水光会総合病院心臓血管外科)
榎本直史
(雪ノ聖母会聖マリア病院心臓血管外科)
坂下英樹・尾田 毅・藤堂景茂
83歳の女性.突然の胸部絞扼感を主訴に救急車に
て当院搬送となった.来院時AMIによる後乳頭筋
断裂,severe MR,急性心不全のためショック状
態を呈していた.気管内挿管,IABP挿入後緊急
CAG施行.#2 75%,#3 75%,#9 75%,#11 99%,
#13 75%であり責任病変と思われた#11-13にstent
を留置した.DOA15γ,DOB15γ,NAd0.2γを使
用しても収縮期血圧は50台であったためvasopressin3U/hを用いたところ収縮期血圧は80台まで上
昇した.重度の肺うっ血,肺炎もきたしていたが
集中治療により全身状態を改善させ,Mosaic弁を
用いたMVRを行った.術後管理にも難渋し,気管
切開も行ったが徐々に全身状態は改善し救命する
ことができた.文献的考察も加え報告する.
症例は81歳,男性.2年3ヶ月前にAS(先天性
二尖弁)に対しAVRが施行された.術後急性期よ
り大動脈弁位人工弁流速は高値(ΔPG 53mmHg)
を示したが,全身状態も良好であったため外来に
て経過観察されていた.定期的UCGにて徐々に流
速の上昇を認め,再手術1ヶ月前より労作時の前
胸部不快感が出現し,拡張期雑音も聴取されるよ
うになったため生体弁機能不全と診断し再手術を
行った.術中所見では一枚の弁葉に2カ所の亀裂
を認め,弁下に多量のpannusが形成されていた.
詳細に摘出標本検討したところ1本のステントポ
ストが外倒しておりその対側の弁葉が圧迫されて
いた.その結果術後急性期から流速の上昇および
弁下血液の乱流が発生し,多量のpannus増殖を招
き,早期に弁葉が破綻したものと推察された.
84) 冠動脈バイパス術後の心房細動予防対策:
LandiololとAtrial-pacingの併用療法
(浦添総合病院心臓血管外科) 藤井正大・
仁科 大・矢島俊巳
冠動脈バイパス術(CABG)後の心房細動(AF)
の発生率は30%前後といわれ,我々はこれまで
に術直後からのLandiolol使用によるAFの予防効
果を報告してきた.今回はLandiolol投与に加え
Atrial-pacingを行い(L-AP療法),AFの予防効
果があるか検討した.対象は単独CABGを施行
した13例.平均年齢67歳.方法はICU帰室時よ
りLandiololを5γから投与開始し適宜増減,さ
らにtemporaryのAtrial-pacing(HR80-90)を行
った.経口摂取が開始され,Carvedilol(2.5−
5mg)を内服後Landiololの投与を中止した.心
電図モニターで監視し10分間以上継続する場合
AFと診断した.L-AP療法の期間は平均74時間,
Landiolol投与速度は平均5.9γ.この期間のAF発
生率は15.3%と低率であった.2例にAFを認め
いずれも第2病日であった.更に症例を重ねて検
討していきたい.
85) 僧帽弁形成術後,慢性溶血性貧血で発見さ
れ弁置換術を必要とした症例
(熊本医療センター心臓血管外科)
片山幸広・毛井純一・岡本 実・岡本 健
僧帽弁閉鎖不全症の診断で 平成14年僧帽弁形成
術を施行された.術後1年目から貧血が進行した
が原因不明であった.平成19年10月から貧血の進
行とともに血尿が出現.血尿のためハプトグロブ
リン製剤で治療開始.赤血球破砕にともなう貧血
と診断されたが,経胸壁心エコー上,僧帽弁逆流
は認めず弁の変形は認めなかった.しかし弁由来
の溶血を疑い経食道心エコーを行った結果,弁口
中心から血流速度の高度な逆流が確認され生体弁
置換術を行った.手術中,心停止直後から血尿は
改善し,その後溶血は消失した.弁膜に変形なく
人工弁輪にも異常はなかったが,形成後のわずか
に残存した弁の隙間から生じた溶血と診断した.
僧帽弁形成術後の貧血の精査には,径食道心エコ
ーによる観察が必要である.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
87) Coaptatoin depth 19.5mm,Posterior leaflet
angle70度の虚血性MRに対するundersized MAP
(長崎大学病院心臓血管外科) 三浦 崇・
江石清行
(春回会井上病院) 山近史郎
(長崎大学病院心臓血管外科) 橋詰浩二・
山根健太郎・谷川和好・橋本 亘・尾立朋大・
中路 俊
undersized MAP後のMR再発は問題視されてい
る. 症 例 は 高 度 左 室 拡 大(LVEDVI:223ml/2
and LVESVI:168ml/m2)とsevere MRを合併し
た虚血性心筋症の46歳男性(CRF on HD).術前
のcoaptation depthは19.5mm,PL angleは70 degrees.LV wall motionは全体的にsevere hypokinesisで,LVEFは24%.術前冠動脈造影所見は右
冠動脈完全閉塞と左主幹部90%狭窄.undersized
MAP(24mm Phyio-ring)と冠動脈バイパス術
(LITA-LAD,SVG-4PD)を施行し,no MRへ.
術後経年的にreverse remodelingを認め,術後
3.6年目にはLVEDVIは34ml/2,そしてLVESVIは
12ml/m2へ縮小.undersized MAPによる虚血性
MRの改善は,coaptation depth 11mm以上,PL
angle 45 degree以上の症例でも認められた.
88) C1-inhibitor欠損症に対する冠動脈バイパ
ス術の1例
(佐賀大学卒後臨床研修センター)
田畑絵美・佐藤 久・古川浩二郎・岡崎幸生
(同胸部心臓血管外科) 伊藤 翼
症例はC1-inhibitor欠損症を有する40歳の女性.
頻発する安静時の胸痛を認め,心臓カテーテル検
査施行.重症3枝病変認め,不安定狭心症の診断
で手術目的に緊急入院となった.39度台の発熱,
赤沈1時間値で110mmと高値を認めた.低補体
性血管炎による発熱の可能性が高いと考えプレ
ドニン30mg内服開始.1ヶ月かけてプレドニン
5mgまで漸減した.発熱認めず,赤沈1時間値
30mmまで改善後,On pump beatingにて冠動脈
バイパス術4枝を施行した.挿管,抜管前にC1inhibitorを補充し,遺伝性血管性浮腫による喉頭
浮腫の予防をした.術後1日目に抜管,術後5日
目にICU退室.術後経過は良好で,術後25日後に
軽快退院となった.文献的考察を加え報告する.
89) 心挙上によるMR増強:予防的on-pump転
換のCABG例
(福岡徳洲会病院胸部心臓血管外科)
峰松紀年・白馬雄士・蒲原啓司・湊 直樹
73歳,女性.左主幹部+2枝病変による労作性狭
心症で紹介された.BMI:30.4と高度肥満であっ
た.術前心エコーではasynergyなく,左室駆出
率65%と心機能良好で,僧帽弁閉鎖不全症(MR)
を認めなかった.左内胸動脈−前下行枝を吻合後,
回旋枝#14への吻合のために心挙上テストをする
と,経食道エコーにて2方向性のMR増強(3度)
を認めた.挙上テスト時の血圧に変動なかったも
のの,安全のために遠心ポンプによる簡易型体外
循環を導入し,安定した血行動態下で橈骨動脈
−回旋枝#14の吻合を行なった.心挙上を戻すと
MRは消失した.心挙上によるMRの増強は,肺
動脈圧の上昇・心拍出量の低下・全体的な冠血流
量の低下から血行動態の急変をもたらす可能性が
ある.心挙上テストでMR2度以上への増強はonpumpへの予防的転換の一つと考えている.
90) クロピドグレル投与中のOPCAB施行例で
出血対策が有効であった一例
(福岡大学心臓血管外科) 岩橋英彦・
助弘雄太・田代 忠・伊藤信久・森重徳継
クロピドグレル投与中の手術は,大量出血を伴い
難渋することがしばしばである.今回我々はト
ラネキサム酸,アスコルビン酸を投与すること
により出血を最小限にコントロールできたので
報告する.72歳,男性.H20.2.12不安定狭心症に
て近医に入院.DES挿入目的にクロピドグレル
300mg/day,アスピリン200mg/dayを投与された.
H17.2.20 CAGにてLMT+3VDを認め,CAG中に
胸痛を認めたためIABPを挿入し,H20.2.13当院
にて緊急OPCABを施行した.トラネキサム酸を
手術開始時から10mg/kg/hで持続投与,アスコル
ビン酸を手術開始時,冠動脈吻合後に2000単位ず
つの合計4000単位,投与したところ,術中出血量
は220gと少量であり安定した手術を施行できた.
若干の文献的考察を加え報告する.
91) 冠動静脈奇形・冠動脈瘤手術症例7例の検討
(鹿児島大学心臓血管外科) 井ノ上博法・
上野正裕・山本裕之・松本和久・井畔能文・
坂田隆造
冠動静脈奇形は人口の約0.005%に発生する稀な
病態で,心筋虚血・シャント血流の増大による心
不全を惹起する場合があり注意を要する.そして
その約19%に冠動脈瘤を合併するとの報告があ
り,稀ながら瘤破裂も報告されている.今回我々
は過去8年間に経験した冠動脈瘤手術症例7例に
ついて検討したので報告する.症例は30−77歳で
全例女性,3症例は冠動脈の有意狭窄を合併し瘤
径は11.5−80mm.全例瘤を切開,瘻孔を閉鎖し
必要な冠動脈バイパス術を施行した.冠動脈瘤の
外科的治療方針として我々は1.体外循環/心停止
下に手術2.PAに切開を加え心筋保護液注入/ゾ
ンデ挿入による瘻孔流出部の確認閉鎖3.瘤を切
開し流入側からも瘻孔を閉鎖4.バイパスを用い
た瘤末梢の血流確保を基本としている.術後全例
順調に経過した.
かごしま県民交流センター(2008 年 6 月) 1123
92) 動画3DCTが手術に有用であった心室中隔
穿孔,左心室瘤の1例
(敬和会大分岡病院心血管センター心臓血管外科)
竹林 聡・迫 秀則・高山哲志・岡 敬二・
葉玉哲生
95) ガス壊疽菌による感染性大動脈瘤の一例
(鹿児島県立大島病院循環器内科)
大井正臣・浜田直和・眞田純一
(鹿児島大学心臓血管外科) 山本裕之・
井畔能文・坂田隆造
症例は60代男性.突然の胸痛で発症し,近医にて
前壁中隔心筋梗塞,心室中隔穿孔(VSP)と診断
され当院紹介入院.来院時,心尖部でLevine VI
度の収縮期雑音聴取.X-P上うっ血なし.心エコ
ーにて前壁側の心室中隔穿孔(Qp/Qs=1.9)と左
心室瘤を認めた.同日CAG施行.左前下行枝#7
100%狭窄認めPCI施行し0%へ.循環状態は安
定していたので,IABP補助下に待機手術の方針
とした.待機中TR III度への進行と右下肢深部静
脈血栓症を認めた.発症2週間後に左室切開にて
VSP閉鎖+左室形成術を行ない,三尖弁輪形成術
(Kay法)を追加した.術前に3DCTの動画構成に
よりVSPの位置,左室の形状を正確に評価できた
ので,左室形成時の形状想定が容易であった.経
過良好にて術後23日目に退院.
症例は61歳の男性.近医にてアルコール依存症
の治療中,全身痙攣発作の出現.その後四肢の
脱力による歩行困難,悪寒,食欲不振が持続す
るため,当院を受診.39℃台の発熱,炎症所見
(WBC:20120,CRP:20.8)
,肝機能障害を認めた.
胸腹部造影CTにて下行大動脈壁の肥厚・不整,
及び,壁内にair bubbleを認め,感染性大動脈瘤
の診断となった.血液培養にてウェルシュ菌(ガ
ス壊疽)が検出され,抗生剤・高圧酸素による内
科的治療を行った.炎症反応が鎮静化せず,仮性
動脈瘤を形成し,むしろ増悪してきたため,心臓
血管外科施設へ転院し,姑息的にステントグラフ
トを挿入し,その後ホモグラフトによる血管置換
術を施行した.感染性動脈瘤は稀な疾患であり,
又ウェルシュ菌が原因となることは非常に稀であ
るため,文献的考察を含めて報告する.
93) 腎動脈形成術にて血圧コントロールが容易
となった高安病の1症例
(鹿児島大学循環器・呼吸器・代謝内科学) 中山龍次郎
(天陽会中央病院) 厚地伸彦
(鹿児島大学循環器・呼吸器・代謝内科学) 石田実雅・宮田昌明・濱崎秀一・鄭 忠和
96) 上行大動脈置換術後の人工血管感染を再人
工血管置換術にて救命しえた1例
(宮崎県立延岡病院心臓血管外科)
石井廣人・中村栄作・松山正和・新名克彦・
中村都英
症例は23歳の男性.17歳時に高血圧を指摘されて
いたが放置していた.平成18年4月頭痛が続くた
め近医受診し,高血圧を指摘.内服加療が開始さ
れたが,コントロール不良で,当科外来紹介受診.
マルチスライスCTにて腹部大動脈,右腎動脈の
狭窄及び左腎の高度萎縮を認めた.若年者におい
て大動脈及び一次分枝に狭窄を認め,鑑別診断に
挙がる疾患を除外できたため高安病と診断した.
高レニン血症を認め,2次性高血圧と判断し,血
圧コントロール目的にて右腎動脈狭窄に対して腎
動脈形成術を施行した.施行後,腎機能増悪無く,
血圧低下を認め内服薬で良好な血圧コントロール
を得ることができた.今回我々はマルチスライス
CTにて腹部大動脈および右腎動脈の狭窄を認め,
腎動脈形成術にて血圧コントロールが容易となっ
た症例を経験したため報告する.
94) 短期間に上行大動脈拡大と大動脈弁閉鎖不
全症が進行した大動脈炎症候群の1例
(鹿児島医療センター第2循環器科)
川崎大輔・永吉信哉・吉重祐介・下川原裕人・
東 健作・田中秀樹・鹿島克郎・薗田正浩・
中村一彦
(同心臓血管外科) 北薗 巌・四元剛一・
豊平 均・山下正文
症例は26歳の女性.潰瘍性大腸炎の治療中で,平
成19年1月の胸部X線写真では異常所見はなく経
過良好だった.同年8月より胸部圧迫感と動悸
が出現.胸部X線と心エコー,胸部造影CT検査
で上行大動脈拡大と重度の大動脈弁閉鎖不全症
(AR),うっ血性心不全を認めた.頚部血管エコ
ー上,全周性に内中膜の肥厚を認め,血沈亢進,
大動脈の壁肥厚,HLA-B52陽性所見から大動脈
炎症候群と診断した.利尿剤による治療効果がな
く,ARによる難治性の心不全と判断し,大動脈
弁置換及び上行大動脈置換術を施行した.術後,
心不全所見は消失し良好に経過した.大動脈炎症
候群による上行大動脈拡大や大動脈弁閉鎖不全症
が急速に進行した症例の報告は少なく若干の文献
的考察を加えて報告する.
1124 第 104 回九州地方会
【はじめに】上行大動脈置換術後の縦隔洞炎およ
び人工血管感染は難治性であり死亡率の高い合併
症である.今回我々は上行大動脈置換術後の縦隔
洞炎・人工血管感染に対して再人工血管置換術を
行い救命しえた症例を経験したので報告する.
【症
例】62歳男性,A型急性大動脈解離に対して緊急
的に上行置換術を施行した.31病日よりSIRS状
態を呈し,前胸部皮下よりMRSA を検出.33病日,
縦隔洞炎に対して大網充填術を施行した.85病日
縦隔ドレーン抜去部より拍動性の出血を認め,同
部よりMRSA を検出,エコーで人工血管内に疣贅
を認めた.109病日,縦隔洞炎・人工血管感染に
対して人工血管を用いた再上行置換術を施行し
た.術後8ヶ月の現在,感染の再発は認めていな
い.
97) 経皮的冠動脈ステント留置術後の不明熱の
原因としてカテーテルによる炎症性大動脈瘤損傷
が疑われた一例
(九州厚生年金病院内科) 柿野貴盛・
山本英雄・宮田健二・山本雲平・坂本一郎・
折口秀樹・多治見司・毛利正博
症例は79歳,男性.労作性狭心症に対して右大腿
動脈アプローチによって右冠動脈狭窄に薬剤溶出
性ステントを留置した.翌朝から悪寒戦慄を伴っ
た38∼40度の発熱が反復出現,持続した.理学所
見に異常なし.CRP強陽性.各種培養陰性.心カ
テ治療に伴う感染を考えての経験的抗生剤投与や
チクロピジン等の薬剤の中止変更も効果がなかっ
た.造影CTで分岐部腹部大動脈拡大,周囲脂肪
組織混濁を認め,炎症性大動脈瘤が疑われた.プ
レドニン40mg/日投与で速やかに発熱,炎症所
見,CT上の異常所見は消失した.本症例ではカ
テーテルが炎症性大動脈瘤壁を損傷し血管壁内物
質が直接血流に晒されて炎症反応が励起されたと
推察した.心カテーテル検査,治療後の不明熱の
原因の一つとして炎症性大動脈瘤を鑑別の一つに
考える必要があると考えられた.
98) ステントグラフト内挿術における腸骨動脈
合併症の検討
(九州大学病態修復内科) 小田代敬太・
藤原昌彦・樋詰貴登士・中村洋文・辛島詠士・
平松伸一・丸山 徹・赤司浩一
(九州大学病院第二外科) 伊東啓行
(同心臓血管外科) 富永隆治
【目的】ステントグラフト内挿術に合併した急性
期の腸骨動脈合併症を検討した.【方法】鼠径部
より経皮的に施行した164例を検討.井上ステン
トグラフト155例,Zenith6例,Excluder3例.
腹部留置例は85例(解離1例).【成績】術中,腸
骨動脈領域にステントを9例留置した.井上ステ
ントグラフトは6例で,腸骨動脈解離に対して留
置.Zenithは3例で,2例は脚の狭窄に対し,1
例は外腸骨動脈解離に対し留置した.腸骨動脈破
裂を1例経験しステントグラフト留置で救命でき
た.腸骨動脈解離と破裂は腸骨動脈石灰化と関連
していた.【結論】ステントグラフト内挿術にお
いては術中の腸骨動脈合併症に注意する必要があ
り,腸骨動脈解離や脚の狭窄にはステント留置が
有用である.
99) High riskのdistal arch aneurysm症例に対す
るfenestrated stentを用いたEVAR治療の1例
(飯塚病院心臓血管外科) 内田孝之
(久留米大学外科) 田中厚寿
(飯塚病院心臓血管外科) 安藤廣美・
安恒 亨・岩井敏郎・出雲明彦・福村文雄・
田中二郎
(久留米大学外科) 青柳成明
症例は59歳男性で陳旧性脳梗塞,内頚動脈閉塞症,
脳底動脈狭窄症にて近医フォロー中であった.平
成17年1月に腹部大動脈破裂にて当科,緊急手術
施行,退院となった.その当時より弓部大動脈
瘤を認めていたが,経過観察中2年で4.3cmから
6.2cmへ拡大をみとめた.高度の脳虚血を認める
ため人工心肺のリスクが高いと判断,EVAR治療
を選択した.弓部分枝までの距離がないため腋窩
腋窩動脈バイパス後にfenestrated stentにてstent
のproximal endがinnnominate artery付近にくる
位置に留置する形でEVAR(+左鎖骨下動脈起始
部へのコイル塞栓術)を施行,周術期脳合併症,
endleakなく良好な結果を得られた.本症例治療
上の問題点に関する考察とともに報告する.
100) オープンステント法と大動脈基部置換の同
時手術を施行したマルファン症候群の1例
(宮崎大学医学部附属病院第二外科)
横田敦子・矢野光洋・長濱博幸・矢野義和・
遠藤穣治・西村正憲・鬼塚敏男
患者は55歳女性.既往歴に15年前の急性B型大動
脈解離があり,以後保存的に治療されていた.家
族歴は姉二人にマルファン症候群のための心血管
手術歴がある.2007年9月,大動脈基部拡大に伴
う大動脈弁閉鎖不全により心不全となり,手術目
的にて当科紹介となった.精査の結果左室腔の拡
大とEFの低下を伴うIV度のARに解離による遠位
弓部大動脈瘤を合併していた.本症例に対し,オ
ープンステント法を用いた弓部大動脈全置換と機
械弁を用いたcomposite graftによる大動脈基部置
換の同時手術を施行した.術後のCTでは解離腔
の血栓閉塞により瘤径の縮小を認めた.手術1ヶ
月後に小脳出血を合併したが,保存的に治療にて
後遺症なく軽快退院した.Marfan症例に対する
オープンステント法と基部置換の同時手術例は少
なく,文献的考察とともに報告する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
101) 局麻下のEVARにて救命し得た在宅酸素療
法中の吻合部仮性動脈瘤破裂の1例
(熊本大学心臓血管外科) 高志賢太郎・
國友隆二・森山周二・片山幸広・吉永 隆・
萩原正一郎・村田英隆・川筋道雄
(同放射線科) 池田 理・田村吉高
104) 急性心不全の急速な進行に対して救命しえ
なかった心アミロイドーシスの一例
(麻生飯塚病院循環器科) 吉田 伸・
松川龍一・桑田孝一・兼田吉昭・松坂英徳・
池内雅樹・有村賢一・松尾 勇・側島淳史・
山田 明
107) 難治性不整脈とチェーン・ストークス呼吸
を伴う重症心不全に対しAdaptive Servo Ventilation
が奏功した1例
(春回会井上病院内科) 中山史生・
山近史郎・吉嶺裕之
(同検査部) 有山淳平・酒井利恵・伴美穂子
症例は85歳の男性.76歳時に腹部大動脈瘤に対し
人工血管置換術を施行されていた.平成19年12月,
強い下腹部痛を自覚.造影CTで人工血管左脚吻
合部仮性動脈瘤破裂および下腸間膜動脈吻合部仮
性動脈瘤と診断され当科に紹介された.高齢で肺
気腫のため在宅酸素療法中であり,全身麻酔下で
の開腹手術は困難と判断した.局麻下に左大腿動
脈からアプローチすると同時に,30mmZステン
トと18mmUbeグラフトを用いたステントグラフ
トを2個作成した.左内腸骨動脈をコイル塞栓し
た後ステントグラフトを人工血管左脚∼左外腸骨
動脈間に留置した.下腸間膜動脈吻合部仮性動脈
瘤も同様にコイル塞栓後ステントグラフトを留置
した.術後経過は良好で翌日より食事・歩行可能
となり,術後8日目にendoleakなく退院した.
患者は77歳女性.当院受診9ヶ月前より心不全を
認めるようになり,前医へ入退院を繰り返してい
た.治療中に発作性上室性頻拍(PSVT)と洞不
全症候群を認め,精査加療目的で当院紹介入院と
なった.来院時の心電図所見と心エコーから心ア
ミロイドーシスを疑い,心筋生検の病理組織診に
てAL型の心アミロイドーシスと診断した.心不
全に対するβブロッカー導入を行うため,洞不全
症候群に対するDDD型永久ペースメーカーを優
先させた.その後PSVTが頻発し,1週間の経過
で心不全が進行した.最終的に心源性ショックを
来し,IABP,PCPSを用いたが血行動態を保つこ
とが出来ず救命し得なかった.伝導異常を伴った
心アミロイドーシスへの治療方針について考察す
る.
今回我々は,治療抵抗性の発作性心房細動(Paf)
お よ び 心 室 頻 拍(VT) に チ ェ ー ン・ ス ト ー ク
ス中枢型無呼吸(CSR-CSA)を伴った心不全に
Adaptive-servo ventilator(ASV)が著効した症
例を経験したので報告する.症例は79歳男性.平
成19年3月VTから心停止にて救急蘇生されたが,
しばしばPafやNSVTが出現し難治性心不全が持
続.パルスオキシメーターにて周期的低酸素血症
を認め,PSGではAHI 48.9,主としてCSR-CSA
型であった.その後心不全の増悪に対して人工呼
吸管理を行い抜管後にASVを導入すると調律が
持続し心不全が改善し覚醒時の呼吸状態も安定し
た.ASVは呼吸障害を伴った心不全および難治性
不整脈を有する症例に対する新たな治療戦略と成
りうると考えられた.
102) 胸部大動脈病変に対するステントグラフト
内挿術の治療成績
(久留米大学外科学) 三笠圭太・鬼塚誠二・
田中厚寿・中村英司・細川幸夫・和田至弘・
飛永 覚・廣松伸一・明石英俊・青柳成明
105) 心アミロイドーシスに伴う末期心不全の一
例 −診断後8年間の治療経過−
(九州大学病院循環器内科) 香月俊輔・
向井 靖・岸 拓弥・井手友美・多田英生・
竹本真生・戸高浩司・砂川賢二
108) 甲状腺クリーゼによる高心拍出性心不全の
一例
(九州厚生年金病院内科) 鬼塚 健・
坂本一郎・納富威充・山本雲平・宮田健二・
折口秀樹・毛利正博・山本英雄
【背景】胸部大動脈病変に対する自作ステントグ
ラフト(SG)を用いた胸部ステントグラフト内
挿術(TEVAR)の早期・中期成績を検討した.【対
象と方法】当科にて1999年5月より2007年12月ま
でにTEVARを施行した88例を対象とした.平均
年齢69.5歳で,疾患は真性瘤47例,解離22例,吻
合部瘤10例,感染5例,外傷6例であった.【結
果】Technical success rateは92.0%であった.術
後早期endoleakを7例,脳梗塞を2例,Paraplegia/Paraparesisを1例/2例認めた.SMA塞栓
症とSMV血栓症を1例ずつ認め,この2例を早
期に失った.Early clinical success rateは80.7%
であった.手術移行と瘤関連死亡の回避率はそれ
ぞれ89.0%,93.9%であった.【結果】当科におけ
るTEVARの早期・中期成績は比較的良好な結果
であった.
症例は65歳,女性.2000年にうっ血性心不全を発
症し,心電図にて低電位,心エコーにて心筋の細
顆粒状パターン,ピロリン酸Tcシンチにて左室
全体に集積を認め,心アミロイドーシスが疑われ
た.病理及び遺伝子診断にて家族性アミロイドー
シス(トランスサイレチン関連アミロイドーシス)
と確定診断し,診断後8年の経過で起立性低血圧,
洞不全症候群,心房粗細動,うっ血性心不全,低
拍出量症候群といった多彩な病態を呈した.つい
には治療に不応性で,NYHAIVで強心剤を離脱で
きない末期心不全状態となった.心アミロイドー
シスは予後不良であり,その中ではトランスサイ
レチン関連アミロイドーシスは比較的予後がよい
との報告もあるが,確定診断から8年という長い
経過を観察し得た貴重な症例と考えられたため報
告する.
症例は58歳女性.今まで甲状腺疾患の指摘はな
く,近医で発作性房細動・慢性心不全の診断で加
療されていた.腹痛・嘔吐を契機に当院救急外来
受診し頻脈性心房細動・うっ血性心不全・肝機能
障害のため入院となった.甲状腺機能亢進症によ
る頻脈性心房細動・うっ血肝の診断は容易であっ
たが,入院日に意識レベル低下・ショックを認め
挿管・人工呼吸器管理を行った.急性期のSwanGanzカテーテルで心拍出量7.4L/分と高心拍出量
の状態であったが,チアマゾール・ヨウ化カリウ
ム及びプロプラノロールで脈拍コントロールし全
身状態は改善し第16病日に抜管に至った.第21病
日経食道心エコーにて血栓がないことを確認の上
電気的除細動施行し洞調律に復帰した.甲状腺ク
リーゼは循環器内科医が遭遇しうる緊急疾患であ
り今回報告した.
103) 甲状腺機能低下に伴う心不全治療における
BNP値の推移
(長崎大学循環病態制御内科学) 赤司良平・
芦澤直人・恒任 章・瀬戸信二
106) バージャー病に合併し,末梢血単核球移植
による下肢血管再生治療後に心機能改善を認めた
拡張型心筋症の一例
(琉球大学循環系総合内科学) 垣花綾乃・
石田明夫・長浜一史・武村克哉・東上里康司・
伊敷哲也・奥村耕一郎・神山朝政・大屋祐輔・
瀧下修一
109) 循環不全および著明な肝障害を併発し救命
しえた甲状腺クリーゼの一例
(宮崎市郡医師会病院循環器内科)
三根大悟・仲間達也・下村光洋・西平賢作・
野村勝政・石川哲憲・松山明彦・柴田剛徳
【症例1】61歳女性.幼少期より低身長,言語緩慢,
皮膚粗造あるも50歳で閉経.股関節痛を主訴に著
明な心拡大を指摘され.モザイク型ターナー症候
群による原発性甲状腺機能低下症と診断.入院時
FT3 0.74pg/ml,FT4 0.15ng/dl,TSH 519.7μIU/
ml,BNP 46.7pg/ml.チラージンS投与により大
量の心嚢水は消失し,甲状腺機能の正常化と共に
BNPは100∼300pg/mlで推移している.【症例2】
86歳女性.嗄声,下腿浮腫が出現し近医で甲状腺
機能低下症と診断.入院時FT3 2.02pg/ml,FT4
0.72ng/dl,TSH 53.39μIU/ml,BNP 13.4pg/ml.
チラージンS投与により下腿浮腫,心嚢水消失.
BNPは70∼150pg/mlで推移.甲状腺機能低下に
伴う心不全ではBNP値が高値を示さず,甲状腺
ホルモン補充療法による心不全の改善にも関わら
ずBNP値はむしろ上昇を認めた.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
症例は29歳男性.心疾患の既往なし.バージャー
病による重症虚血肢のためG-CSF併用末梢血単核
球細胞移植(PBSCT)目的で入院.心不全症状は
なかったが,治療前の心臓超音波検査で左室腔拡
大と壁運動の低下,BNPの上昇を認めた.MIBG
心筋シンチでは心臓交感神経活性が亢進してい
た.冠動脈造影や心筋生検から虚血や心筋炎は否
定的であった.PBSCT後にはBNPは低下し,交感
神経活性は正常化した.その後,ACE阻害薬を追
加したところ,左室腔は縮小し,心機能は改善し
た.G-CSFが虚血性心機能障害を改善する可能性
が示されているが,非虚血例への効果は不明であ
る.本例はバージャー病に拡張型心筋症を合併し
た稀な症例で,さらにPBSCT時に投与したG-CSF
が心機能改善に寄与した可能性が示唆された.
症例は49歳の著明な肥満女性.2007年10月頃より
労作時の息切れを自覚.その後,徐々に症状増
悪.2008年1月1∼2日に起座呼吸となり,近医
を受診し精査加療を目的に当院を紹介となる.来
院時,全身浮腫著明で胸部X線写真でうっ血性心
不全の所見あり.心電図にてHR210/min前後の
頻脈性心房細動あり.数時間後に呼吸状態悪化し
呼吸器管理を要した.入院時血液検査でTSH<
0.004μIU/ml,FT3:5.18pg/ml,FT4:5.23ng/dlを
認め,甲状腺機能亢進症と診断.また,著明な肝
機能障害を併発していた.頻脈を伴う心不全にβ
遮断薬,利尿剤などを投与.甲状腺クリーゼには
抗甲状腺薬,無機ヨード,副腎皮質ホルモンを投
与.クリーゼ症状,心不全,肝不全とも改善.52
病日に退院となる.
かごしま県民交流センター(2008 年 6 月) 1125
110) 化学療法が著効し心不全から離脱した心臓
悪性リンパ種の一例
(九州大学病態修復内科学) 辛島詠士・
中村洋文・平松伸一・小田代敬太・丸山 徹・
赤司浩一
113) 糖尿病患者における収縮期血圧と蛋白尿,
血尿の関係
(上ノ町・加治屋クリニック内科) 上ノ町仁
116) 不思議な喉頭ポリープ
(出水総合医療センター) 新冨義侯・
吉井 博
【目的】糖尿病患者の収縮期血圧と蛋白尿,血尿
の関係を明らかにする.【方法】対象はH13年1
月からH19年12月に外来にて複数回血圧測定・
検尿を施行し得た降圧剤未使用男性549人(延べ
16528件)で収縮期血圧(SBP)を100mmHgから
5mmHg間隔で分け蛋白尿,血尿の出現率を比較
検討する.【成績】蛋白尿,血尿,蛋白尿+血尿
の出現率はSBPが上昇するに従い各々有意(p<
0.01)に増加した(Fisher s exact test)
.【結論】
糖尿病はCKD(慢性腎臓病)発症の一因であり
CKDでは虚血性心疾患が有意に増加する.検尿
所見から得られる糖尿病性腎障害を念頭においた
加療の必要性と,早期からの厳格な血圧コントロ
ールの重要性が示唆された.
症例は74歳女性.未治療の大動脈弁狭窄症が基礎
にあり,感染性心内膜炎および心不全を発症した
ため,近在の心臓血管外科に搬送し2007年4月6
日に大動脈弁置換術を受けた.同時期より内服治
療が開始され,4月25日にリハビリのため当科転
院となり5月24日に退院.外来で内服治療を継続
していたところ6月下旬より嗄声を自覚したため
6月27日に近医耳鼻科を受診し,両側喉頭ポリー
プを指摘された.7月4日,喉頭ポリープは増大
傾向にあり,翌日よりACE阻害薬を中止したと
ころ約2週間後にポリープは消退傾向を示した.
ACE阻害薬中止後はBNPが279pg/mlと高値を示
したため,ARB(バルサルタン)を追加するこ
とでBNPは156pg/mlまで低下し喉頭ポリープも
再発する事なく経過している.
111) 心不全を合併したFabry病女性例に対して
α-galactosidase A補充療法が有効と考えられた1例
(福岡赤十字病院循環器科) 西原正章・
稲生哲治・目野 宏・福泉 寛・山本光孝・
末松延裕・大井啓司
114) エリスロポエチン製剤の投与が心不全の増
悪による再入院を予防した二症例
(熊本大学附属病院循環器内科) 宇宿弘輝・
山室 惠・永吉靖央・小島 淳・海北幸一・
角田 等・杉山正悟・小川久雄
53歳女性.小児期に四肢疼痛と角膜混濁を認め,
Fabry病と診断される.40歳頃より肥大型心筋
症,心房細動の診断で近医にて治療されていた
が,全身倦怠感にて当院受診.心エコー検査で
中隔肥大と後壁基部の壁運動低下,菲薄化,洞
不全症候群を認めた.心臓カテーテル検査で冠
動脈病変を認めず,白血球中のα-galactosidase
活性の低下(5.2nmol/mg.protein/時間)を確認
し,Fabry病による心病変と診断.洞不全症候群
に対しペースメーカー植込み術を施行.原疾患に
対しα-galactosidase A補充療法を開始した.以
降,月に2回の酵素補充療法を継続し,自覚症状
NYHA2°から1°,BNP 304pg/mlから93.4pg/mlへ
改善.18ヶ月間で副作用及び心不全の増悪なく,
持続して治療効果を認めている.Fabry病女性例
に対し酵素補充療法の安全性,有効性が示唆され
た.
【症例1】62歳男性,陳旧性心筋梗塞により高度
に心機能低下(EF 31.4%,LVDd 56.2mm)して
おり,心不全による入退院を繰り返していた.当
院外来でのヘモグロビン値は9g/dlであり,エリ
スロポエチン製剤の皮下注にてヘモグロビン値を
12g/dl以上に維持することで,心不全増悪による
入院を予防することができた.【症例2】72歳女
性,前壁広範囲の陳旧性心筋梗塞(EF 30.1%,
LVDd 53.8mm)であり,日常生活にて容易に心
不全となり当科緊急入退院を繰り返していた.ヘ
モグロビン値は8.5g/dlでありエリスロポエチン
の皮下注にて,ヘモグロビン値を12g/dl以上に維
持することにより心不全増悪による入院を予防す
ることができた.我々はエリスロポエチン製剤を
使用しヘモグロビン値を上昇させることで心不全
増悪を予防することができたのでここに報告す
る.
117) 胎児体外循環における臍帯血管機能の病態
生理解明
(九州大学循環器外科学) 小田晋一郎・
大石恭久
(横浜市立大学外科治療学) 益田宗孝
(九州大学循環器外科学) 木村 聡・
馬場啓徳・小林真理子・富永隆治
112) 123I-MIBG心筋シンチグラフィーの所見と開
心術後経過との関連に関する検討
(宮崎市郡医師会病院心臓血管外科)
児嶋一司・福島靖典・早瀬崇洋・小林 豊
115) DIC加療中に,ヘパリン起因性血小板減少
症(HIT)による血栓性脳梗塞が疑われた狭心症
患者の一例
(九州大学病態修復内科学) 中村洋文・
辛島詠士・平松伸一・小田代敬太
(九州大学健康科学センター) 丸山 徹
(九州大学病態修復内科学) 赤司浩一
症例は63歳女性.動悸と労作時呼吸困難にて近医
受診し心エコーにて心臓内に腫瘤を指摘され紹介
となった.頸静脈は顎下まで怒張.四肢の浮腫も
認めNYHA4度の心不全の状態であった.心エコ
ー上,右心・肺動脈内に強く突出した不整形の腫
瘍を認め,腫瘍による肺動脈弁弁下部狭窄が心不
全の原因と考えられた.心臓生検にて悪性リンパ
腫(Diffuse Large B cell,Stage4)と診断され,
化学療法(THPCOP)開始.開始翌日には呼吸
苦などの自覚症状の改善がみられ,約2ヶ月後に
は腫瘍は著明に縮小し心不全症状は消失した.以
上のように化学療法が心臓悪性リンパ腫の心不全
症状の改善に著効した症例を経験したので,文献
的考察を加え報告する.
【目的】MIBG心筋シンチの所見と開心術後の経
過との関連性について検討を行った.【方法】当
科での開心術症例28例を対象とした.MIBG心筋
シンチの結果からMIBG洗出し率(WR)を算出
し,NYHA分 類, 左 室 駆 出 率(EF), 血 清BNP
値,euroSCORE,ドパミン投与量,ICU入室期
間,入院期間との関連について検討した.【結果】
WR平均値は41.3%であった.術前のEF,BNP値,
euroSCOREとWRとの間には有意な相関が認め
られた.術後EFは50.1±16.4%,ICU入室期間は
6.8±1.8日,ドパミン投与量は6.1±3.5mg/kgであ
り,WRとの間に有意な相関が認められた.
【考察】
MIBGはノルエピネフリンのアナログであり,そ
の心臓での取り込み,洗い出しは心不全の重症度
を反映している.本検討結果から,MIBG心筋シ
ンチは開心術症例の術後経過を予測しうる検査で
あると考えられた.
1126 第 104 回九州地方会
症例は70歳,女性.狭心症,うっ血性心不全が増
悪し,入院.狭心症の責任病変に対しステント留
置術施行した翌日より急性胆嚢炎発症.抗血小板
剤内服中のため,観血的処置できず保存的に加療.
炎症反応低下し,抗血小板剤を中止した後,胆の
う摘出術施行.術後うっ血性心不全増悪.また播
種性血管内凝固症候群(DIC)を合併したため,
ヘパリン・メチル酸ガベキサートの投与を開始.
速やかに凝固系は回復するものの,血小板減少続
く.加療開始5日目より意識レベルの低下と左片
麻痺も出現.MRIにて多発性の脳梗塞あり.ヘパ
リン抗体陽性であり,ヘパリン起因性血小板減少
症(HIT)による血栓性脳梗塞が疑われた.ヘパ
リン起因性血小板減少症(HIT)について,若干
の文献的考察を加えて,報告する.
胎児体外循環の最大の問題点は体外循環後の胎盤
機能低下である.我々は,その機序として臍帯動
脈の内皮機能とアポトーシスの関与について妊娠
羊を使って検討した.我々が開発した胎児体外循
環用装置を用いて30分の常温体外循環を施行し,
体外循環終了後60分の時点における臍帯動脈の内
皮機能をtension studyによって測定した.同時に
アポトーシス関連タンパクの発現について検討し
た.内皮非依存性拡張能は体外循環非施行胎児と
同等に保持されていたが,内皮依存性拡張能は著
しく障害されていた.一方,アポトーシス関連タ
ンパクの発現については両群に差はなかった.胎
児体外循環後の循環不全に関して,臍帯動脈の内
皮機能不全の関与が考えられた.その内皮機能不
全に関してはアポトーシスの関与は否定的であっ
た.
118) 不明熱として診断に苦慮した細菌性心外膜
炎の1例
(沖縄県立中部病院循環器内科) 耒田善彦・
梶原光嗣・服部英敏・和気 稔・平田一仁
【症例】59歳男性.糖尿病,統合失調症にて近医
フォロー中であった.当院受診の1ヶ月前より発
熱,咳,悪寒あり.熱源がはっきりせず,胸部X
線写真上心拡大を認めたため,当院紹介となった.
来院後,経胸壁心エコーで心嚢液貯留認め,他の
感染部位がはっきりせず,全身造影CTで心外膜
の造影効果が示された.血液培養陰性も,心嚢穿
刺により採取された,心嚢液培養より肺炎球菌検
出され,細菌性心外膜炎と診断された.抗生剤治
療に反応し,第2病日には解熱し,抗生剤42日間
使用し退院となった.なおCT上,感染性大動脈
瘤の所見あるも症状なく外来にて経過観察となっ
た.細菌性心外膜炎は発症の頻度が結核の減少と
ともに低下しているが発熱の原因として念頭に置
くべき疾患と思われた.文献的考察も含め報告す
る.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
119) 著明な肺高血圧と急激な経過を呈し,剖検
組織所見で診断がついた1症例
(佐賀大学循環器内科) 内野真純・
中村郁子・山本唯史・深澤素子・長友大輔・
錦戸利幸・琴岡憲彦・吉田和代・橋本重正・
井上晃男・野出孝一
122) 排尿時に嘔気を伴う血圧上昇発作を認めた
褐色細胞腫の一例
(藤元早鈴病院循環器科) 有川 亮・
剣田昌伸・楠元啓介・木原浩一
(鹿児島大学循環器・呼吸器・代謝内科学) 濱崎秀一・鄭 忠和
症例は60歳女性.1ヶ月前よりの全身倦怠感出現.
3日前に歩行時の意識消失発作を生じ,前医入院
中であった.起床時に突然の呼吸困難と低酸素血
症が出現し,心電図で右心負荷,心エコー所見よ
り肺高血圧症(推定PA圧74mmHg)を認めたた
め肺塞栓疑われ,当院に救急搬送された.CTで
は右心系の拡大と左室の圧排を認めるが,明らか
な肺動脈塞栓や下肢静脈血栓を認めなかった.入
院時の呼吸状態・全身状態は安定していたが,2
時間後にショック状態となり,エコー上,左室圧
排像の増悪を認めた.PCPS,人工呼吸管理を行
ったが,来院9時間後に死亡.剖検にて肺癌・腫
瘍塞栓・血栓塞栓を認めた.画像上診断不能で急
激な経過をたどった症例であり,若干の病理学的
考察を踏まえて報告する.
症例は73歳女性.高血圧症および糖尿病にて近医
通院中.2003年春頃より排尿時に嘔気が出現する
ようになり,収縮期圧が200mmHgを越えるよう
になり,精査加療目的で同年4月入院.内分泌学
的検査にて血中・尿中のカテコラミン濃度の高値
を認めたため褐色細胞腫と診断.腫瘍検索のた
めMIBGシンチグラフィを施行したところ膀胱壁
右側にアイソトープの取り込みを認めた.また
FDG-PETにて左第九肋骨の転移巣が疑われ,泌
尿器科にて膀胱部分剔出術,また同時に左第九肋
骨転移部を胸壁とともに切除した.病理組織から
悪性褐色細胞腫と診断した.術後速やかに気中・
尿中カテコラミン濃度の低下を認め,また排尿時
の嘔気を伴った血圧上昇発作は消失した.今回排
尿時に嘔気を伴う発作性血圧上昇を認めた悪性褐
色細胞腫の一例を経験したので報告する.
循環器疾患の診療において細菌感染症が関与する
ことが多く,治療方針や経過に大きな影響を及ぼ
す.2007年10月から2008年3月までの約6ヶ月間
の当院循環器内科入院患者293人における細菌感
染症の原因について調査を行った.入院患者293
人中32人(11%)に合計39例の細菌感染症が発
生しており,尿路感染症15例(40%),肺炎15例
(40%),カテーテル感染4例(10.8%)を認めた.
尿路感染症は大腸菌によるものが多く,11例は入
院後尿道カテーテルを留置していた.肺炎の起炎
菌は多様であり誤嚥性肺炎と思われる症例が多か
った.循環器疾患,特に心不全では血管内カテー
テルと尿道カテーテルの留置が長期に及ぶ事が多
く,入院後の細菌感染症の発生を減少させるため
にはこれらの早期の抜去と感染徴候出現の注意深
い観察が必要であると考えられた.
120) 不明熱で発症した無痛性解離性大動脈瘤の
一例
(浜の町病院循環器内科) 川久保尚徳・
臼井 真
(同腎臓内科) 田中謙二
(同循環器内科) 福山香詠・片岡 仲
(九州大学心臓血管外科) 中島淳博・
富永隆治
123) 低体温治療が奏功した心原性心肺停止の1例
(天神会新古賀病院心臓血管センター内科) 真田宏樹・古賀久士・後藤義崇・田中敦史・
新谷嘉章・三戸隆裕・折田義也・池田真介・
芹川 威・川崎友裕・福山尚哉・古賀伸彦
126) 心室中隔欠損症(VSD)の経過中にValsalva
洞動脈瘤破裂を来たしたと考えられた一例
(長崎大学医学部附属病院第二内科)
荒木 究・中田智夫・安永智彦・浦田淳吾・
古賀聖士・園田浩一朗・池田聡司・河野 茂
【症例】75歳,男性【現病歴】肥大型心筋症にて
加療中.2007年12月自宅で心肺停止となり,5分
後に心臓マッサージが,さらに5分後に救急隊に
てAEDによる除細動が行われ,当院へ救急搬送
された.【経過】搬送時瞳孔は縮瞳で対光反射な
くIII-300,除皮質肢位であった.積極的脳保護の
適応と判断し,低体温治療用パッドArcticSunを
用い34度で48時間の体温管理を行った.第3病
日より復温を開始,第5病日に低体温を離脱し
た.その後のリハビリ発症前のADLまで回復し,
CRT-D植え込みを行った後軽快退院となった.
【結語】低体温治療が奏功した心原性心停止症例
を経験した.ArcticSunを用いた低体温管理は簡
便であり,今後限定された施設のみではなく,一
般循環器内科医への普及が望まれる.
症例は35歳男性.幼少時よりVSDを指摘される
も,外科的治療の適応はなく放置されていた.
2006年,2007年に人間ドックにて心拡大の進行,
心雑音を指摘されたため近医受診.心エコーにて
Valsalva洞動脈瘤破裂を指摘され,精査目的にて
当科入院.心臓カテーテル検査上,PA圧の上昇,
右室でのO2 step up,Valsalva洞から右室へのL-R
シャントを認めたため,Valsalva洞動脈瘤破裂の
診断とし,心臓血管外科にて自己心膜パッチ閉鎖
術を施行.術中にValsalva洞動脈瘤の突出部の心
室中隔にVSDの存在が判明し,同閉鎖術も追加し
た.本症例はVSDにより脆弱な心室中隔に右冠動
脈洞が陥頓するような形で,Valsalva洞動脈瘤破
裂を来たしたと考えられた.本症例のようにVSD
そのものに外科的治療の適応がなくとも注意深く
経過観察をする必要があると思われた.
124) 当院での心原性心肺停止に対する低体温療
法の初期成績
(聖マリア病院) 大江健介・山脇 徹・
田代英樹・貞松研二・盛重邦雄・長岡和宏・
鹿田智揮・田中絵里子・相良秀一郎
127) 両大血管右室起始症・肺動脈閉鎖症・MAPCA
に対し姑息的Rastelli手術施行後に41歳時に根治術
施行した1例
(済生会熊本病院心臓血管外科) 佐々利明・
三隅寛恭・平山統一・上杉英之・出田一郎・
森元博信・宮本卓馬
66才女性.平成19年9月17日に39度の発熱と腹痛
で近医を受診した.採血上白血球13300,CRP 19.4
mg/dl,BUN 47mg/dl,CRP 19.4mg/dlであり,FOM
の投与を開始された.その後も37度代の発熱が持
続したため,10月5日に当院腎臓内科に腎盂腎炎
疑いで紹介となった.同日よりCAZ 2g/日の点滴
を開始した.また,収縮期心雑音を聴取したため
心エコーを施行したところ大動脈の拡張を認め
た.CTでは胸部上行大動脈起始部から大動脈弓部
にかけて大動脈解離を認めた.他に発熱の原因は
なく今回の発熱の原因は大動脈解離と考えられ
た.画像上は血栓閉塞していたが,貧血の進行が
あり九州大学病院心臓外科に紹介した.その後上
行大動脈から弓部大動脈置換術が施行され無事退
院となった.今回非典型的な症状で発症した大動
脈解離の症例を経験したので報告する.
121) 急性冠症候群を思わせる症状を契機に発見
された褐色細胞腫の1例
(長崎市立市民病院循環器科) 泉田誠也・
雨森健太郎・中嶋 寛・本田幸治・鈴木 伸
症例は60歳男性.40歳代より,数分間持続する安
静時胸痛が年に数回あり.2008年1月,夜間安静
時に胸痛と嘔吐2回あり,軽快しないため独歩に
て受診.来院時,血圧200/100mmHgと高値.心
電図にて広範はST変化,心エコーにて心室中隔
基部の壁運動低下,トロポニンT陽性であったた
め,急性冠症候群を疑い緊急冠動脈造影を施行.
冠動脈造影ではseg.1 75%,seg.14 90%狭窄を認
めたが前下行枝に有意狭窄認めず.左室造影では
前壁と下壁の低収縮∼無収縮であった.血圧高値
であったため,血中・尿中カテコラミン測定した
ところ異常高値.腹部CTでは左副腎に径4.5cmの
腫瘤あり,MIBIシンチグラフィでも左副腎に異
常集積を認め褐色細胞腫と診断した.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
2007年7月より当院でも低体温療法が可能とな
り,2008年3月までの9ヶ月間で,心原性心肺停
止で心肺蘇生に反応した9例のうち当科で定める
適応基準に合致した5症例に低体温療法を施行し
た.基礎疾患はIHD,DCM,HCM,肺塞栓症,
原因不明が各一例ずつであった.平均年齢は65.0
歳でBy stander CPRが行われた症例は4例,自己
心拍再開までの推定時間は平均20.8分であった.
肺塞栓症の症例のみPCPSを併用し,34℃を24時
間維持し,その後12時間で0.5℃のペースで復温
した.5例中1例が後遺症なく退院となり,1例
がJCSII-10まで改善を認め転院となったが,3例
は意識レベルの改善なく死亡した.一方適応基準
外として低体温療法を施行しなかった4症例のう
ち2例が後遺症なく退院となった.今後も低体温
療法のさらなる経験と方法の検討が必要と思われ
た.
125) 循環器内科入院患者における細菌感染症の
原因と起炎菌についての検討
(佐賀大学循環器内科) 錦戸利幸・
吉田和代・松下哲也
(同感染制御部) 青木洋介・福岡麻美
(同検査部) 永沢善三
(同循環器内科) 井上晃男・野出孝一
症例は41歳男性.DORV,PA,MAPCAに対し28
歳時に姑息的右室流出路形成術施行した.その
後,右肺動脈ステント留置術・MAPCAコイル塞
栓術し,肺動脈の発育を期待していたが,感染性
心内膜炎・脳膿瘍を併発しチアノーゼが持続して
いた.今回,肺動脈・右心室の発育具合から根治
術は可能と判断した.手術は再Rastelli手術(右
室流出路再形成術・主肺動脈−右肺動脈人工血管
バイパス術・ASD/VSDパッチ閉鎖術)を行った.
術後食道潰瘍を併発したが,術後造影CT,肺動
脈造影検査でも肺動脈血流は良好で,PA圧は術
前100mmHgから術後45mmHgまで低下し術後36
日目に自宅退院した.
かごしま県民交流センター(2008 年 6 月) 1127
128) 成人三心房心に対し根治術を行った1例
(鹿児島大学循環器・呼吸器・消化器疾患制御学)
豊川建二・坂田隆造・井畔能文・上野哲哉・
山本裕之・上野正裕・上野隆幸・松本和久・
峠 幸志
三心房心は非常に稀だが,未治療では出生後早期
死亡をきたす心奇形である.今回高度三尖弁逆流,
心房粗動を伴った成人三心房心症例に対し根治術
を行った.症例は40歳女性で,5歳時にファロー
四徴症に対しVSDパッチ閉鎖および肺動脈弁パ
ッチ形成術を施行され,労作時呼吸困難と失神
を主訴に来院した.口唇のチアノーゼとclubbed
fingerを認めた.心エコーにて,左上大静脈遺残
を伴うunroofed coronary sinus(CS)合併の三
心房心と診断された.CSのネット状の膜を介し
右房と左房真腔が交通し,肺静脈血はすべて左房
偽腔へ流入し,偽腔と真腔の隔壁に小開口部が存
在した.手術は,左房内隔壁の除去,CS血が右
房へ還流するようなパッチ閉鎖,三尖弁輪縫縮と
cryoablationを行った.術後経過良好で,遺残シ
ャント無く全快退院となった.
129) 成人期VSDの二手術治験例
(琉球大学機能制御外科) 盛島裕次・
前田達也・喜瀬勇也・稲福 斉・永野貴昭・
新垣勝也・山城 聡・國吉幸男
成人期VSDの二手術治験例を経験したので若干
の考察を加え報告する.【症例1】48歳女性.幼
少時より先天性心疾患の指摘あり.平成18年頃よ
り労作時呼吸苦あり.心カテにてL-Rシャント率
75%,Qp/Qs3.8およびPA圧97/42(mean56)の
著明な上昇を認め,またPDAの合併を認めた.
手術は二期的にPDA離断術を先行し,VSDパッ
チ閉鎖術を行った.術後肺高血圧は改善した.
【症
例2】52歳女性.幼少時よりVSDの指摘あり.平
成18年ごろより労作時倦怠感を認め,心カテに
てL-Rシャント率42%,Qp/Qs 1.6,PA圧25/16
(mean21)であった.手術では径8mmのVSDを
認め,VSD direct closureおよびTAPを行った.
【結
語】成人期VSDの手術に際しては肺血管抵抗上昇
の進行度,他疾患の合併の有無などに配慮し対処
する必要があると思われる.
130) 経食道心エコーによる心房中隔欠損カテー
テル治療の非適応例の検討
(聖マリア病院小児循環器科) 伊藤晋一
(久留米大学小児科) 須田憲治・工藤嘉公
(聖マリア病院小児循環器科) 棚成嘉文
(久留米大学小児科) 石井治佳・前野泰樹
(同循環器病センター) 家村素史
(同小児科) 松石豊次郎
【目的】TEEにより心房中隔欠損カテーテル治療
(ASO)の非適応と判断した症例の解剖学的特徴
について検討する.【方法】ASOの前検査として
TEEを受けた135例.年齢16.8±12.8歳.女:男=
87:48.TEEの結果ASO非適応となった理由を
分析した.【成績】欠損孔の長径は15.8±6.9mm.
41例(30.4%)をASO非適応と判断した.非適
応の理由はRimの欠損22例(46.3%),多孔性で
deviceがカバーできないもの6例,右室負荷の無
い小さな欠損孔6例,大きすぎる欠損孔4例,房
室弁や冠状静脈洞との距離が5mm未満2例,三
尖弁の変形が強い1例.欠損したrimは後縁欠損
13例,広範囲の大動脈縁欠損5例,下縁欠損3例
の順であった.【結論】本邦では2次孔欠損の内
3割程度が,カテーテル治療の適応とならない.
非適応の約半分はrimの欠損であり,多くは後縁
欠損であった.
1128 第 104 回九州地方会
131) Budd-chiari症候群に合併した巨大下大静
脈血栓症の一例
(久留米大学心臓血管内科) 古荘 文・
村山恭子・原口 剛・三池太朗・永田隆信・
高山成政・香月与志夫・杉 雄介・稲毛智仁・
鬼塚一郎・甲斐久史・今泉 勉
詳細は不明ながら精神発達遅延が基礎疾患にある
27才の女性.2007年10月下旬から下肢浮腫,腹部
膨満,発熱を認めていた.近医受診し,巨大下大
静脈血栓症の診断にて当院へ転院となった.血栓
の精査と合併症の検索を行なった.肺血流シンチ
では明らかな肺塞栓症の所見はなく,血管造影で
は下大静脈の描出はなく,下肢の静脈血は奇静脈
を介して右房へ還流していた.腹部エコーやMRI
にて明らかな膜様の閉塞起点はないが,Buddchiari症候群が強く疑われた.画像上,血栓は器
質化していた.外科的治療も検討したが,完全除
去が困難であり,血栓による塞栓症を発症する
可能性もあることより,抗凝固療法を行なった.
CT上は血栓は縮小しており,保存的加療を行な
っていく方針となった.
132) 2本の下大静脈を有する肺血栓塞栓症患者
に下大静脈フィルターを留置した1症例
(佐世保市立総合病院循環器内科)
二宮登志子・山佐稔彦・江藤 幸・室屋隆浩・
新北浩樹
(長崎大学第2内科) 池田聡司・河野 茂
症例は58才,男性.2003年に悪性リンパ腫にて化
学療法を施行され寛解状態にあった.2008年3月
13日頃より左下肢の腫脹が出現し3月17日に当院
受診.低酸素血症があり,CTで両側下肢静脈血栓,
心エコーで右室拡大,肺高血圧を認め,深部静脈
血栓症による肺血栓塞栓症と考えられたため入
院となった.腹部CTでは両側腎静脈が別々の下
大静脈に還流しさらに上部で合流していたため,
各々の下大静脈にフィルターを留置した.また,
胸部CTでは右主肺動脈に大きな血栓があり,左
肺動脈末梢にも血栓がみられた.肺血栓塞栓症患
者が2本の下大静脈を有することは稀と思われ,
各々の下大静脈にフィルターを留置した症例を経
験したので報告する.
133) 下大静脈欠損および奇静脈結合を伴った急
性肺血栓塞栓症の一例
(済生会熊本病院心臓血管センター循環器科)
兒玉和久・澤村匡史・岡松秀治・西上和宏・
本田 喬・中尾浩一
症例は生来健康で活動に制限はない44歳男性.起
床後の歩行開始時の胸痛,動悸,および呼吸苦を
主訴に近医を受診.血圧低下を認め当院へ搬送と
なった.当院初診時血圧低下及び低酸素血症を呈
していた.造影CTで両側の肺動脈血栓塞栓症を
認め,下大静脈は肝臓流入部にて途絶し,静脈還
流は左奇静脈を介していた.このため下大静脈フ
ィルターを鼠径部より留置し,集中治療室での加
療を要した.なお,本症例において各種凝固異常
症は認めなかった.下大静脈欠損に伴う静脈走行
異常が深部静脈血栓や肺血栓塞栓症の誘引となり
うることがいくつかの報告で示されており,本症
例も他の危険因子がないことから静脈走行異常が
原因であった可能性が高いといえる.若干の文献
的考察を含めこの稀な肺血栓塞栓症の一例を報告
する.
134) 腎静脈血栓症が先行した肺動脈血栓症の一例
(九州中央病院) 濱野紗朱・古賀智子・
鬼木秀幸・河野 修・大森 将・冨永光裕
症例は42歳男性.2007年5月15日に出張で飛行機
に2時間搭乗.翌日より労作時息切れを自覚.5
月24日に多量飲酒,長時間入浴後,息切れ著明と
なり5月30日当院受診.心エコーで肺高血圧の所
見あり,造影CTで肺動脈,両下肢深部静脈に多
発する血栓を認め,肺動脈塞栓症と診断.血栓溶
解療法,抗凝固療法施行.既往症として2006年6
月に腎静脈血栓症と診断され,1ヶ月間のワーフ
ァリン治療歴あり.自己免疫疾患,凝固異常,慢
性糸球体腎炎などの腎疾患や悪性疾患,肥満や静
脈瘤などは認めなかった.病歴より,原因は多量
飲酒や長時間の運動や入浴など生活習慣に起因す
る慢性の脱水状態と考えられた.腎静脈血栓症が
先行した特異的な生活習慣に起因する肺動脈塞栓
症を経験し報告する.
135) 当科におけるIVCフィルター留置症例の臨
床的検討
(嬉野医療センター) 古川明日香・
波多史朗・山方勇樹・吉田健夫
当科におけるIVCフィルター留置症例の臨床的検
討を行い若干の文献的考察を加え報告する.対象
は,2003年10月から2008年3月までにIVCフィル
ターを留置した16症例(女性13例)で平均年齢は
69.6歳であった.内訳はPTE10例,PTE発症リス
クが高いと考えられたDVT6例で,使用フィル
ターはTrapEase 7例,Gunter Tulip 9例であっ
た.3例で深部静脈の血栓消失を確認した後フィ
ルター回収を試みたが,うち1例はフィルターが
IVC壁に密着し回収できなかった.留置後,PTE
の発症は1例も認めなかった.また,フィルター
挿入に起因した重大な合併症は認めず,IVCフィ
ルターはPTEの予防に有効であると考えられた.
〈抄録未提出〉
2) 尿中8-Hydroxy-2,-Deoxyguanosineおよび
Biopyrrinの測定による心房細動中の酸化ストレス
発現についての検討
(熊本大学循環器病態学) 上村孝史・
山部浩茂・永吉靖央・田中靖章・森久健二・
榎本耕治・角田 等・杉山正悟・小川久雄
3) 肥満とメタボリックシンドローム診断基準と
の関連 −冠血管機能と性差からの検討−
(鹿児島大学循環器・呼吸器・代謝内科学) 嘉川亜希子・濱崎秀一・石田実雅・小川正一・
才原啓司・奥井秀樹・新里拓郎・窪園琢朗・
桑波田聡・藤田祥次・二宮雄一・内匠拓郎・
吉野聡史・入来泰久・鄭 忠和
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
4) 急性心筋梗塞症における血漿Vascular Endothelial Growth Factor(VEGF)値と左室リモデリ
ングとの関連
(鹿児島医療センター臨床研究部・循環器科)
下川原裕人・城ヶ崎倫久・瀬戸口学・
市来智子・薗田正浩・鹿島克郎・中島 均・
皆越眞一・中村一彦
5) バージャー病患者における血管内皮前駆細胞
(EPC)の血管新生能力評価
(久留米大学心臓・血管内科部門)
香月与志夫・佐々木健一郎・勝田洋輔・
外山康之・大塚昌紀・小岩屋宏・今和泉勉
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. III, 2008
かごしま県民交流センター(2008 年 6 月) 1129
Official Journal of the Japanese Circulation Society
JA PA
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Circulation
Journal
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Circulation Journal 第三種郵便物認可 平成20年10月20日発行
Vol.72 Supplement III
地方会記事
第207回日本循環器学会関東甲信越地方会
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・1009
2008年2月9日 千代田区 学士会館 会長 田邉 晃久 ・
第145回日本循環器学会東北地方会
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・1020
2008年2月23日 仙台市 フォレスト仙台 会長 下川 宏明 ・
第92回日本循環器学会中国・四国合同地方会
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・1029
2008年6月6・7日 下関市 海峡メッセ下関 会長 小田 達郎 ・
第146回日本循環器学会東北地方会
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・1052
2008年6月7日 盛岡市 岩手医科大学附属循環器医療センター 会長 中村 元行 ・
第208回日本循環器学会関東甲信越地方会
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・1060
2008年6月7日 港区 コクヨホール 会長 川名 正敏 ・
第99回日本循環器学会北海道地方会
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・1071
2008年6月21日 札幌市 札幌市教育文化会館 会長 松居 喜郎 ・
第131回日本循環器学会東海地方会
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・1075
2008年6月21日 浜松市 アクトシティ浜松 コングレスセンター 会長 佐藤 洋 ・
第105回日本循環器学会近畿地方会
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・1091
2008年6月28日 大阪市 大阪国際会議場 会長 澤 芳樹 ・
第104回日本循環器学会九州地方会
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・1114
2008年6月28日 鹿児島市 かごしま県民交流センター 会長 中村 一彦 ・