第1 会社法の特徴

2
Kitahama Law Review別冊版
Kitahama Law Review別冊版
会社法が平成17年6月29日に成立しました。これは、従来のように商法を改正したものではな
く、新法を制定したものです。
また、法務省令(会社法施行規則・会社計算規則・電子公告規則)が平成18年2月7日に公布
されました。
実に、会社法が約1000条弱、法務省令が約500条弱という膨大な条文数であり、その数の多さ
に圧倒されます。しかし、施行は平成18年5月1日といわれており、残り時間はあとわずかです。
このような事態に対応するため、北浜法律事務所・弁護士法人北浜パートナーズでは、昨年か
ら事務所内で「会社法プロジェクトチーム」を立ち上げ、会社法の研究を継続して参りました。
今般、その研究の成果として、会社法と法務省令の全体をわかりやすく解説するべく、緊急に北
浜ローレビュー(別冊版)を出すことといたしました。
皆様のご理解の一助となれば幸いです。
− INDEX −
第1
会社法の特徴(弁護士
渡辺
徹)..................................................................................4
第2
機関(弁護士
渡辺
第3
株式(弁護士
澤木一隆)...............................................................................................14
第4
計算(弁護士
渡辺
第5
組織再編・変更(弁護士
第6
有限会社・LLC・LLP(弁護士
第7
設立(弁護士
徹).................................................................................................5
徹)...............................................................................................34
原
吉宏)..............................................................................39
荒川雄二郎).........................................................50
大石武宏)...............................................................................................63
3
4
Kitahama Law Review別冊版
第1
会社法の特徴
新しい会社法の特徴とはどのようなものでしょう
か。
改正のポイントは多岐にわたりますが、特に次の
3点を指摘することができます。
弁護士
渡辺
徹
関・株式・資本などあらゆる局面で設計の自由度が
高められ、定款で任意に設計できるようになってい
ます。もっとも、自由になりすぎて(選択肢が多す
ぎて)、何を選んだらよいのかわからないというの
第1のポイントは「非公開会社をベースにした」
が多くの経営者の本音ではないでしょうか。しか
という点です。平成9年から平成16年までめまぐ
し、規制緩和は経営発展のチャンスであり、会社法
るしく商法は改正されてきましたが、これにより公
はそのための武器であると言えます。会社法に精通
開会社の実務上の問題点はかなり解消されてきまし
し、自社の戦略にあった定款設計をすることが必要
た。他方、300万社を超えるという企業の中で、公
になると思います。また、取引においても、相手方
開会社は3000社ほどと言われており、存在する会
会社がどのような定款設計をしているのか十分認識
社のほとんどは非公開会社です。しかも、今回、有
していないと、思わぬ落とし穴に落ち込むおそれも
限会社法を廃止し、約140万社ある従来の有限会社
ありますので、注意しなければなりません。
が株式会社として存続することもあって、株式会社
第3のポイントは、主として公開・大会社に対し
の圧倒的多数は非公開会社になります。そのような
ては、規制や情報開示を強化している点です。その
実態にあわせて、今回の改正がなされました。その
具体的内容が法務省令で定められました(なお、以
ため、非公開会社自身はもとより、非公開会社を取
下、
法務省令のうち、会社法施行規則は「施行規則」
・
引先とする会社(非公開会社と取引しないという会
会社計算規則は「計算規則」・電子公告規則は「電
社は存在しないでしょうから、結局、全ての会社)
子公告規則」と記載しています。また、以下に記載
は、今回の会社法に十分留意しなければなりませ
する括弧内の条数は、特に定めがない場合は新会社
ん。また、会社法の条文も、非公開会社が原則であ
法を指しています。)
。これは、規制緩和が行き過ぎ
り公開会社が例外であるという組み立てになってい
た放任主義に陥らないようにバランスをとったもの
ます。この点、従来の商法の書きぶりに慣れた頭を
と言えます。特に、公開・大会社は株主をはじめと
切り替える必要があります。
した利害関係人が不特定多数に及びますから、株主
第2のポイントは、「大幅な規制緩和と選択肢の
拡大」
です。従来の規制はどんどん撤廃・緩和され、
多数の選択肢から設計できるようになりました。機
などへの情報開示の徹底を図り、むしろ規制を強化
したものです。
Kitahama Law Review別冊版
第2
第1
1
機関
弁護士
渡辺
徹
機関設計の柔軟化
計参与を加えるパターンも認められています
公開会社か否かが機関設計の最初のポイント
が、公開会社ではそのニーズは低いものと思わ
会社法は、公開会社か非公開会社かで機関設
計の選択肢を大幅に変えましたので、公開会社
れます。
3
非公開会社の機関設計
か否かが最初のチェックポイントです。会社法
会社法は、非公開・中小会社については、実
は、公開会社を定義していますが(2条5号)、
に17通りもの選択肢を認めることにしました。
要は、株式の全部がオープンな会社だけでなく、
すなわち、
一部でもオープンになっていたら公開会社であ
a
取締役
り(種類株式として譲渡制限株式を発行できる
b
取締役+監査役
ことになったため〔108条1項4号〕、一部に譲
c
取締役+監査役+会計監査人
渡制限がある会社がでてきますが、これは公開
d
取締役会+監査役
会社になります)、全部に譲渡制限がついている
e
取締役会+会計参与
会社が非公開会社です。
f
取締役会+監査役会
2
g
取締役会+監査役+会計監査人
会社法は、公開会社でしかも大会社(2条6
h
取締役会+監査役会+会計監査人
号:資本金が5億円以上または負債が200億円以
i
取締役会+3委員会+会計監査人
上の会社)については、機関設計の柔軟化を認
の9通りと、これらにそれぞれ会計参与を加
めず、監査役会設置会社(取締役会+監査役会
えるパターン(但し、eを除くことになるため
+会計監査人)か委員会設置会社(取締役会+
8通り)の合計17通りです。
公開会社の機関設計
3委員会+会計監査人)の2種類のみで、旧商
なお、非公開・大会社である場合は、会計監
法の規制を緩和しませんでした。これは、公開・
査の厳格化の要請から会計監査人を設置しなけ
大会社は、株主が不特定多数にのぼり、かつ、
ればならず(328条2項)
、かつ、会計監査人設
会社債権者も多数にわたることから、ガバナン
置会社は会計監査人の独立性を確保するため監
スが強化された機関が必要になるからです。
査役または監査委員会を置かなければなりませ
他方、公開・中小会社については、大会社に
んので(327条3項)
、a・b・d・e・fは採用
比べ債権者も少ないことから、上記の2種類以
できません。そのため、上記のc・g・h・i
外にも認めることにしました(328条)。もっと
の4通りと、これらにそれぞれ会計参与を加え
も、公開会社である以上、所有と経営が分離さ
るパターン4通りの合計8通りに限られます。
れていますので、株主は自ら経営に参画する意
それでは、非公開・中小会社について、この
思を有しておらず、経営を第三者に委ねること
ような規制緩和がなされたのはなぜでしょう
から、取締役会の設置を義務付けることとし(327
か。
条1項1号)、取締役会を設置すると、株主に代
旧法では、取締役は必ず3人以上必要とされ
わり取締役会の業務執行を監督する機関の必要
(旧法255条)、かつ、取締役会を設置しなけれ
があるため、監査役(または監査役会)の設置
ばなりませんでした。しかしながら、法の求め
を義務付けることにしました(327条2項)。
る取締役の人数を確保することが困難であるた
なお、公開会社であっても、各機関設計に会
め、名目的な取締役も多く存在しているといわ
5
6
Kitahama Law Review別冊版
れていました。さらに、有限会社形態を株式会
社に取り込んだこともあって、会社法では、取
4
非公開・中小会社の機関設計の選択において
留意すべきこと
締役会の設置義務をなくし(326条2項)、取締
(1) 以上のとおり、非公開会社である中小会社
役のみの機関構成を可能としたのです。しかも、
においては、多数の選択肢が用意されており、
取締役の人数は1名だけでもかまいません(326
どれを選択したら良いのか迷ってしまいそう
条1項)。さらに、監査役の設置義務もなくなり
です。例えば、コストカットの点からすれば、
ましたので(326条2項)
、取締役だけという極
極めてシンプルな機関設計を採用することが
めてシンプルな構成も可能となりました。
魅力的に見えるかもしれません。しかし、シ
他方、従来どおり、取締役会を設置するという
ンプルな機関設計を選択する場合、ガバナン
選択も可能です。ただし、会社法は、ガバナンス
スの観点から株主総会や株主の権限が強化さ
向上の観点から、取締役会設置会社は、原則とし
れていますので十分な留意が必要です。
て監査役を設置しなければならず(327条2項本
(2) 取締役会非設置会社となる場合の留意点
文)
、しかも、監査役は会計監査だけでなく業務
1
取締役会は業務執行の決定権限を有してい
監査もするものとされています(381条) 。し
ますが(362条2項)
、取締役会を設置しない
かしながら、従来の小会社と有限会社の監査役の
場合は、株主総会が業務執行の決定権限を含
権限は会計監査に限定されており、中小会社にお
めて会社に関する一切の事項につき決定権限
いて会計監査と業務監査の双方を義務付けられ
を持つことになります(295条1項)。しかも、
ている監査役の人材確保は困難ですので、大会社
その場合、株主総会の招集通知に記載されな
以外の非公開会社においては会計監査に限定さ
い事項についても株主総会で決議することが
れた監査役を設けることも可能としました(389
できます(309条5項本文)
。さらに、株主提
条1項)
。また、会計監査に限定された監査役の
案権は少数株主権ではなく、単独株主権とさ
代替機能を会計参与に認め、非公開会社である場
れています(303条・305条)。
合に限り、会計参与の設置をすれば監査役の設置
が不要とされました(327条2項但書)
。
以上のとおり、非公開・中小会社の場合、人
こ の よ う に、 取 締 役 会 非 設 置 会 社 の 場 合
は、株主総会ですべてが決定されることにな
り、それに対応して株主自身も強い権限を有
材確保が困難であったり、コストカットが必要
することに留意すべきです。
な状況にあるならば、取締役会を設置しない会
(3) 監査役非設置会社となる場合の留意点
社(以下、便宜上「取締役会非設置会社」とい
監査役は取締役の業務執行を監査する機関
います。)になることを選択したり、監査役を設
ですから(381条)、監査役が設置されず、あ
置しない会社、あるいは、会計監査に限定され
るいは、設置されたとしても会計監査に限定
た監査役とする会社(以下、あわせて便宜上「監
される場合、株主が直接業務執行を監督する
査役非設置会社」といいます。なお、会社法は、
必要がでてきます。そのような場合、株主は、
会計監査に限定した監査役を設置している会社
取締役の報告義務の対象者となり(357条1
を監査役設置会社〔2条9号〕と呼んでいませ
項)
、さらに、要件が緩和された違法行為差止
んので、注意が必要です。)にすることを選択す
請求権(360条1項・3項)、取締役会招集請
ることも可能となったわけです。
求権・招集権・意見陳述権(367条1項・3
項・4項)、裁判所の許可を不要とする取締役
1. 監査にあたって一定の者と意思疎通を図り、必要な体制を整備することに留意しなければなりません(施行規則105条)
。
Kitahama Law Review別冊版
会議事録閲覧・謄写請求権(371条2項2・3
の内容を確認することはもちろん、その機関設
項)をそれぞれ有することとされ、また、定
計にそった社内手続が踏まれているか否かを株
款に基づく取締役の責任の一部免除制度が適
主総会議事録や取締役会議事録にて確認するこ
用されなくなります(426条1項)。
とも必要になる場合があるでしょう。
7
このように、監査役非設置会社の場合、株
主の監督権限が大幅に強化されていることに
留意すべきです。
第2
1
株主総会
取締役会設置会社か否かで異なる点
特に注意しなければならないのは、従来の
先に述べたように、取締役会設置会社か否か
小会社(資本金1億円以下で負債が200億円
により、株主総会の規律は全く異なっています。
未満の会社)です。小会社は旧法により監査
(1) 株主総会の権限
役の権限が会計監査に限定されていますので、
取締役会設置会社の場合は、旧法と同様、
会社法施行後も何もしなければ、自動的に株
法定の専決事項と定款で定めた事項に限定さ
主の監督権限が上記のとおり強化されてしま
れていますが(295条2項)、取締役会非設置
います。
会社の場合は、
「株式会社の組織、運営、管理、
(4) 留意事項のまとめ
その他の株式会社に関する一切の事項」につ
以上のとおり、取締役会非設置会社の場合
には株主総会が大きな決定権限を持つことに
いて決議することができます(295条1項)
。
(2) 招集手続その他
なりますし、監査役非設置会社の場合には株
招集手続その他も、取締役会設置会社か否
主の監督権限は極めて強大なものとなってい
かで異なり、取締役非設置会社では次のよう
ます。
な規制緩和がなされています。
そのため、取締役会非設置会社や監査役非
設置会社は、所有と経営が一致している会社
前に発すれば足りることになりましたが、
においては機能するとしても、所有と経営が
取締役会非設置会社ではさらに定款で1
一致していない会社にあっては、経営上の深
週間よりも短縮できます(299条1項)
。
刻な対立を生みかねません。
したがって、非公開会社といえども、他人
の出資を受け入れて、株主と経営者が必ずし
5
・非公開会社では招集通知を会日の1週間
・招集通知を書面や電磁的方法による必要
がなく、口頭でも良いこととされていま
す(299条2項)
。
も一致していない場合においては、取締役会
・招集通知に会議の目的事項を原則として
および監査役を設置する選択をするほうがよ
記載・記録する必要もありません(299条
いケースもあるでしょう。
4項参照)
。
取引をする場合の注意事項
以上のとおり、機関設計により、社内承認手
続きは全く異なってきますので、機関設計は登
記事項となっています(911条3項15号ないし
・招集通知に計算書類や事業報告を添付す
る必要がありません(437条)3。
・招集通知に定められた以外の議題につい
ても決議できます(309条5項)
。
22号)
。したがって、取引をするに当たっては、
・株主は、少数株主権としてではなく単独
商業登記や定款によって相手方会社の機関設計
株主権として、議題提案権(303条)およ
2. 電磁的記録をもって作成された議事録につき施行規則226条13号をご参照下さい。
3. 事業報告等の株主への提供については施行規則133条をご参照下さい。
8
Kitahama Law Review別冊版
び事前の議案提案権(305条)を有してい
集せずに調査結果を開示できることになりまし
ます。
た。
・議決権の不統一行使につき事前通知が不
4
要です(313条2項)。
2
招集地
近年、株主の利便性を考慮して、本店所在地
書面投票・電子投票
以外の場所で株主総会を開催している例が増え
大会社か否かにかかわらず、議決権を行使で
てきたことから、招集地に関する規制は撤廃さ
きる株主が1000人以上である場合には、書面投
れました(298条)8。なお、ことさら株主が出
票が義務付けられました(298条2項)4。これ
席しにくい招集地を選んだ場合、総会決議の取
は、株主の数が多い会社では、株主が分散して
消事由になります。
いることが多く、そのような株主にも議決権行
5
株主総会の手続
使の機会を与えるため、規定されたものです。
会社法施行日より前に取締役会において総会
書面投票が義務付けられますと、株主総会参考
開催の日時と場所を決議すれば、旧商法の規定
書類5 と議決権行使書面6 を交付しなければなり
に基づき株主総会手続を開催することができま
ませんが(301条1項)、電子投票につき株主の
すので(整備法90条)
、平成18年の株主総会手
承諾を得た場合まで交付する必要はありません
続を旧商法で行うのか会社法で行うのかにつき
ので、その場合はそれらの交付に代えて電磁的
早急に決定する必要があります。この点、会社
方法により提供できます(301条2項)。
法は参考書類記載事項を膨大な量にしましたの
3
で(施行規則73条以下)、これがそのまま適用さ
総会検査役
総会手続の公正さを担保する必要性を会社自
れますと会社法に基づく株主総会手続は相当な
体が認識した場合、総会検査役を関与させるべ
負担感がでてくるところでした。しかし、会社
きですので、会社が総会検査役を選任申立でき
法施行後最初の株主総会においては、参考書類
るようになりました(306条)7。
の規定のうち不適用になる条項がかなり多くあ
また、総会検査役の報告を受けた裁判所は、
株主総会招集命令だけでなく、調査結果を株主
に通知するよう命令することもできるようにな
りました(307条)。これにより、株主総会を招
るため(施行規則附則5条1項)、その負担感は
大幅に軽減されました。
他方、会社法に基づき株主総会手続を行うと、
次のようなメリットがあります。
4. ただし、株主総会の通知に際して委任状の用紙を交付することにより議決権の行使を第三者に代理させることを勧誘してい
る場合はこの限りではありません(施行規則64条)。
5. 株主総会参考書類については、施行規則65条及び施行規則73条から施行規則94条までに詳細に規定されています。これら
の施行規則によりますと、株主総会参考書類に記載すべき事項は膨大な量になりますが、WEB開示の措置をとる旨定款変
更をすれば、その後の株主総会では参考書類に記載する必要はありません(施行規則94条)
。また、取締役や監査役が兄弟
会社の取締役・監査役であったり社外取締役・監査役である場合の事項、会計参与や会計監査人の処分履歴に関する事項、
社外取締役の報酬に関する事項については、会社法施行後に最初に開催する株主総会では記載しなくとも良いことに留意し
てください(施行規則附則5条)。
6. 議決権行使書面については、施行規則66条に規定されています。
7. 検査役が報告・提供する電磁的記録に関し、施行規則228条・229条をご参照下さい。
8. 過去に開催した招集地から著しく離れた場所で開催する場合は、その理由を招集通知に記載しなければなりません(施行規
則63条2号)。その他、招集通知に記載しなければならない事項は、いわゆる集中日に開催することに「特に理由」がある
場合はその理由(なお、通常は書く必要はありません。施行規則63条1号)、書面または電磁的方法による議決権行使の期
限を定めるときはその日時(施行規則63条3号)
、書面と電磁的方法の双方による議決権行使の内容が異なるときの取扱を
定める事項(例えば、会社提案に賛成とみなすなど。施行規則63条4号)などが施行規則63条に定められています。
Kitahama Law Review別冊版
(1) 書面投票・電子投票の行使期限を定める
によるコントロール強化のため特別決議事項
ことができます(施行規則63条3号ロ・ハ)。
とはされず、選任と決議条件は同じとされま
なお、特にその定めをしない場合、その行使
した(341条)
。
期限は総会の日時の直前の営業時間の終了時
9
もっとも、定款をもって表決数を加重する
とされています(施行規則69条・70条)。
ことも可能ですので、定款を変更して、特別
(2) 議決権行使書面に賛否の記載がない場合の
決議を必要とすることも可能です。たとえ
取扱を定めることができます(例えば、
「会社
ば、非公開会社おいて取締役の地位を安定さ
提案に賛成」
と取扱う等。施行規則63条3号ニ)
。
せる要請が強い場合や、公開会社における敵
(3) 電子投票を採用している会社が、電磁的方
対的買収の防衛策として用いる場合に、決議
法による招集通知を受取ることを承諾した株
要件を加重させることになるでしょう。なお、
主に議決権行使書面の送付をすることを省略
取締役の解任要件を特別決議よりも厳しくす
することができます(施行規則63条4号イ)
。
る場合、あわせて定款変更の要件も加重して
(4) 同一議案につき書面投票と電子投票の議決
おかねばなりません。そうしないと、特別決
権行使内容が異なる場合の取扱いを定めるこ
議により加重要件を定めた定款が削除されて、
とができます(例えば、「会社提案に賛成」と
過半数の賛成で取締役が解任されることにな
取扱う等。施行規則63条4号ロ)。
るからです。
(5) 代理人による議決権行使の要件を定めるこ
(3) 資格
とができます(施行規則63条5号)。
旧商法とは異なり、復権するまでの破産者
(6) 議決権の不統一行使の事前通知の方法を定
であっても取締役になることができるように
めることができます(施行規則63条6号)
。
なりました(331条)。これは、中小企業の破
(7) 招集通知・営業報告書または電磁的方法に
産の場合、経営者が個人保証していることか
よる提供などにおいて既に記載があるものは、
ら、経営者自身も破産に追い込まれるケース
参考書類の記載を省略することができます(施
が多く、そのような経営者に対して早期に経
行規則73条3項)。
済的再生の機会を与えるべきであるという観
また、手続き上のメリット以外ではありま
点からの改正です。もっとも、破産により一
せんが、自己株式の取得について会社法の規
旦取締役の地位を喪失しますので、再度株主
制緩和を享受するためには会社法に基づいて
総会により選任される必要があります。
株主総会の手続を進めなければなりません(整
備法81条)。
他方、取締役の欠格事由として、新たに、
a法人、b証券取引法・各種倒産法違反の犯
歴が追加されました。法人が欠格事由とさ
第3
1
取締役および取締役会
れたのは、従来の通説を明文化したものです。
選解任・資格・任期
証券取引法・各種倒産法違反のうち、会社法
(1) 選任
取締役の選任決議は、通常の普通決議と異
なり、株主の議決権の過半数(定款で3分の
秩序に密接に関連する罪を犯した者は、取締
役としてふさわしくないので、欠格事由とさ
れました。
1まで引下げ可能)を有する株主の出席が必
また、非公開会社に限り、取締役の資格を
要です。また、定款をもって表決数を加重す
株主に限る旨を定款で定めることも可能とし
ることも可能です(341条)。
ました(331条2項)。これは、所有と経営が
(2) 解任
分離していない非公開会社の実態に基づいた
取締役の解任決議は、旧法と異なり、株主
ものです。
10 Kitahama Law Review別冊版
(4) 任期
義務付けられていましたが、委員会設置会社
任期は原則2年ですが(設立当初の取締役
だけでなく大会社すべてに義務付けられるこ
も含めて)、定款によって任期を短縮できます。
とになりました(348条4項・362条5項・
委員会設置会社では1年です。また、非公開
416条2項)9。大会社は、平成18年5月の最
会社では、株主の変動が乏しく、頻繁に取締
初の取締役会で、その具体的内容を決議しな
役の信任を株主に問う必要がないため、任期
ければなりませんので(経過措置政令14条)、
を最長10年まで伸張できることになりました
大会社においては内部統制システムの構築が
(332条)。
2
喫緊の課題になっています。
業務執行・代表
他方、中小会社での導入は任意です。
(1) 業務執行
なお、内部統制システムの決定は、他の取
取締役会設置会社では、取締役会が業務執
締役に委任することはできません(362条4
行を決定し(362条2項1号)
、代表取締役ま
たは業務執行取締役が業務を執行します(363
項6号)
。
3
役員賞与
条1項)
。他方、取締役会非設置会社では、取
旧法のもとでは、役員賞与は、
「報酬」として
締役の過半数の決定で業務を決定し(348条2
支給されるものではなく、利益処分として支給
項)
、
各取締役が業務を執行します(348条1項)
。
されるものとされてきましたが、会社法では、
(2) 代表
賞与が「報酬」に含まれることが明示されまし
取締役会設置会社では代表取締役の選定を
た(361条)。これにより、今後は、役員賞与は
しなければなりませんが(362条3項)、取締
剰余金の処分として支出できず、費用処理で一
役会非設置会社では、代表取締役の定めは任
本化されます。ただし、会社法施行前に到来し
意であり、定めの無い場合は各取締役が会社
た最終の決算期に係る利益処分は従前の例によ
を代表します(349条)。
りますので(整備99条)、その中において役員賞
なお、共同代表取締役・共同支配人の制度
は、ほとんど活用されておらず、かえってト
ラブルのもとになっていたため、廃止されま
した。
(3) 内部統制システム
与を支給することは可能です。
4
責任
(1) 任務懈怠責任
旧法の法令違反責任は任務懈怠責任とし
て整理されました(423条1項)
。これによ
内部統制システム構築義務は、取締役の善
り、旧法の場合と比べて責任の範囲・立証の
管注意義務の内容として、監視・監督義務に
負担が変更されるのかという問題があります
関連したリスク管理体制の必要性から導入さ
が、取締役は法令定款遵守義務を負いますの
れました。旧法上は、委員会等設置会社だけ
で(355条)
、法令違反があれば任務懈怠があ
9. 内部統制システムについて、取締役・執行役に関するコンプライアンス体制は法自体に定められていますが、その余につい
ては施行規則98条・100条・112条に規定されています。具体的には、①情報の保存及び管理に関する体制(事後的に活動
をチェックすることができるようにするために必要です)、②損失の危険の管理に関する体制(いわゆるリスク管理のこと
ですが、各会社ごとに問題となるリスクを具体的に挙げて検討しなければなりません)
、③効率性を確保する体制(過度な
統制により営業に支障がでないようにするためのものです)、④使用人のコンプライアンス体制、⑤親子会社における業務
の適正を確保する体制(例えば、親会社からの不当要求を子会社がどのように適切に対処するかなど)を構築しなければな
りません。更に、監査役設置会社においては、①監査役を補助する使用人に関する事項、②その使用人の取締役からの独立
性に関する事項、③取締役・使用人が監査役へ報告する体制、④その他に監査の実効性を確保する体制についても構築しな
ければなりません。なお、事業報告への記載は来年度からになります(施行規則附則6条1号)
。
Kitahama Law Review別冊版
任とされました(120条4項)11。この責任は
るものと解されます。
この責任は、総株主の同意が無ければ免除
総株主の同意が無ければ免除されず(120条
されませんが(424条)
、一部免除制度や責任
5項)
、一部免除制度や責任限定契約の対象に
限定契約が認められることになりました(425
はなりません。
条10ないし427条)。
(5) 剰余金の配当
(2) 競業取引
剰余金の配当に関する責任は、旧委員会等
取締役会設置会社では取締役会の承認を受
設置会社のみ過失責任とされていましたので、
けなければならず(365条1項)、取締役会非
一律に過失責任とされました(462条2項)。
設置会社では株主総会の承認を受けなければ
この義務は原則として総株主の同意があって
なりません(356条)。また、取締役は承認を
も免除されず、例外として、分配可能額を限
得ていても、任務懈怠があれば損害賠償責任
度とする限り総株主の同意で免除可能とされ
を負うことになり、得た利益の額が損害額と
ています(462条3項)。なぜなら、分配可能
推定されます(423条1項・2項)。
額以上の分配により損害を被るのは会社債権
者だからです。
なお、旧法では、承認を受けていない行為
につき介入権を行使することができるとされ
5
株主代表訴訟
ていましたが、実効性がなかったことから、
次の3点につき、変更が加えられました。
会社法では介入権の規定はなくなりました。
① 不適切な訴えの制限
(3) 利益相反取引
承認を受ける機関は、競業取引の場合と同
じです。
また、利益相反取引については、原則とし
11
不正な利益を図り、または、会社に損害を
加えることを目的とする場合は、提訴請求で
きないこととされました(847条1項但書き)。
この場合に訴訟が提起されても却下されます。
て無過失責任ではなく任務懈怠責任とされ、
これは、従来、訴権の濫用という一般条項が
賛成取締役を行為者とみなす規定は廃止され
適用されていた場面につき、明示的に規定し
て代わりに任務懈怠を推定することとされま
たものです。
した(423条3項)。そのため、無過失責任を
② 不提訴理由の開示
前提とした株主総会の特殊決議による免除制
提訴請求を受けてから60日以内に提訴し
度はなくなりましたが、一部免除制度や責任
ない場合、遅滞なく、不提訴理由を開示しな
限定契約が認められることになりました(425
ければならないこととされました(847条4
条から427条)。ただし、例外として、自己の
項)12。これは、馴れ合いによる不提訴を牽
ために直接取引をした取締役は、無過失責任
制するとともに、株主に訴訟に関する情報
とされ、免責制度の適用もありません(428条)。
を与える趣旨です。もっとも、会社としては、
(4) 利益供与
60日の間に、単なる不提訴の判断だけでなく、
利益供与の責任は、無過失責任から過失責
外部に向けた正式な書面を作成することが必
10. 最低責任限度額などの定め方につき施行規則113条から115条をご参照下さい。
11. 利益供与の責任を負う取締役の範囲は施行規則21条に定められています。
12. 不提訴理由は、①調査の内容(調査の対象となった資料の標目も書きます)、②調査対象者の責任の有無、③責任があると
判断した場合において提訴しない理由(例えば、コストが合わない等。なお、責任がないと判断した場合に提訴しない理由
を改めて書く必要はありません)を記載します(施行規則218条)
。なお、訴え提起の請求が不適法である場合(例えば、
施行規則217条で定める「請求を特定するのに必要な事実」の記載が無い等)、不提訴理由を通知する必要はありません。
12 Kitahama Law Review別冊版
要となり、かなりの負担になると思われます。
取締役または業務執行取締役による職務執行
③ 株主でなくなった者の原告適格
状況報告は3か月に1回以上取締役会で報告
株式交換・株式移転・合併・三角合併によ
しなければなりませんので(372条2項・363
り、完全親会社や合併後の会社の株式を取得
条2項)、取締役会は最低でも年4回は開催し
した株主といえども、原告適格を失わないこ
なければなりません。
13
とが明記されました(851条1項) 。従前、
(4) 特別取締役による決議
そのような株主は原告適格を失うとした下級
重要財産委員会制度は廃止されました。代
審判例があり、批判されていたことに対応す
わりに、取締役が6人以上で1名以上が社外
るものです。他方、株式交換や合併の対価が、
取締役である場合、重要財産の処分・譲受お
金銭や他の会社の株式であった場合は原告適
よび多額の借財については、個別の委任行為
格を失います。これは、代表訴訟の結果により、
を経ることなく当然に3人以上の特別取締
自己の財産の価値が左右されるわけではなく
役による決議で決定されることになりました
なるため、代表訴訟の真摯な遂行を期待でき
(373条)
。
ないからです。
6
取締役会
(1) 招集手続
第4
1
会計参与
意義
各取締役が招集できることが原則ですが、
会計参与は、会社法で初めて創設された株式
定款又は取締役会で招集権者を定めることが
会社の機関です(持分会社にはおけません)。そ
できることは旧法と同じです(366条)。取締
の役割は、取締役と共同して計算書類などを作
役会設置会社であるのに、業務監査権限を有
成することです(374条1項)。従来、顧問税理
する監査機関(監査役または監査委員会)が
士が事実上計算書類の作成などに関わってきた
設置されていない場合、株主が直接的に業務
例が多いわけですが、これを法制度化したもの
執行を監督する必要がありますので、株主に
です。会計参与を設置することで、小規模な会
取締役会の招集請求権が認められており(367
社の計算書類の信頼性を高めることを目的にし
条1項)
、招集権者がこれに応じないときは自
ています。
ら招集できるとされました(367条3項)。
2
(2) 決議
近時、外国在住の取締役なども増加してき
設置
会計参与は、どのような機関設計においても
定款で定めることで設置できる一方(326条2
ましたので、取締役全員が書面又は電磁的記
項)
、義務付けられることはありません。
録により同意したときは、決議を省略できる
3
資格
旨定款に定めることが認められました。ただ
会計参与になることができるのは、公認会計
し、監査役がその提案に異議を述べたときを
士、監査法人、税理士、税理士法人です(333
除きます(370条)。
条1項)。会計参与の独立性が求められています
(3) 報告
が、顧問税理士のままで会計参与になることは
取締役会報告事項であっても、取締役全員
に通知したときは取締役会に報告しなくとも
よくなりました(372条1項)。ただし、代表
認められます。
4
職務・権限
会計参与の職務は、取締役と共同して計算書
13. 完全親会社からみてさらに完全親会社である会社の株式であっても原告適格は失いません(施行規則219条)
。
Kitahama Law Review別冊版
類などを作成し、会計参与報告を作成すること
社以外の非公開会社は定款で会計監査権限に限
です(374条1項)14。また、計算書類などを承
定できることにしました(389条)16。この場合、
認する取締役会に出席しなければなりませんが
株主が直接業務執行を監督する必要があります
(376条1項)
、他方、それ以外の取締役会への出
ので、株主の監督権限は次のとおり強化される
席権限はありません。さらに、会計参与の実務
ことに注意しなければなりません。
① 裁判所の許可なくして取締役会議事録の閲
上の負担になりそうなことが、計算書類などの
15
備置・開示義務です(378条) 。会社自体には
覧・謄写請求権の行使ができる(371条2
開示請求しづらい場合でも、会計参与に対して
項)
。
② 取締役会招集請求権があり、招集されない
は心理的にも請求が容易になることも予想され
ます。
場合は自ら招集でき、これに出席して意見
5
を述べることができる(367条1項・3項・
責任
4項)
。
会計参与は任務懈怠責任を負い(423条1項)
、
③ 取締役の責任の一部免除制度が適用されな
株主代表訴訟の対象になります(847条)。
い(426条1項)
。
また、第三者に対する責任も負い、虚偽記載
④ 取締役は監査役ではなく株主に報告義務を
をしたときは立証責任が転換されます(429条)
。
負う(357条)
。
第5
1
⑤ 違法行為差止請求権の要件が緩和される
監査役・監査役会
(360条)
。
選任・解任
監査役の選任は普通決議ですが(329条1項)
、
4
監査役・会計監査人の選解任等に関する権限
取締役は、監査役の選任・会計監査人の選解
他方、解任には特別決議が必要です(309条2項
7号)。
任および再任に関する議案を株主総会に提出す
2
るためには、監査役(または監査役会)の同意
任期
監査役の任期は原則として4年ですが、非公
を得なければなりません(343条・344条)。ま
開会社では10年まで延長することができます
た、監査役は、監査役の選任・会計監査人の選
(336条)
。ただし、取締役と異なり、定款をもっ
解任および再任に関し提案権を有します(343
てしても4年よりも短くすることはできませ
条・344条)
。この同意権・提案権は旧法では監
ん。
査役会にだけ認められていたものを監査役会非
3
設置会社にも拡張したものです。
業務監査権限
旧法において小会社の監査役は会計監査権限
さらに、会計監査人の報酬を決定する場合、
のみを有していましたが、会社法は、中小会社
監査役(または監査役会)の同意を得なければ
のガバナンス強化のため、原則として業務監査
なりません(399条)。これは、会計監査人の独
権限を有することにしました(381条)。ただし、
立性を維持するために新設されました。
従来の小会社や有限会社の現実に配慮し、大会
14. 会計参与報告の記載内容は施行規則102条に定められています。その中で、会計参与と会社が合意した事項を記載するこ
とになっていますが、これは、例えば、閲覧請求者が株主または債権者であることの確認の方法や、計算書類を作成する際
に用いた資料が虚偽でないことの表明・保証などが考えられます。
15. 備置場所は会計参与の事務所になります(施行規則103条)。閲覧に応じなければならない時間帯は、会社と会計参与の業
務時間が重なる時間帯に限定されます(施行規則104条)。
16. 会計監査に限定される場合であっても、監査にあたって一定の者と意思疎通を図り、必要な体制を整備することに留意し
なければなりません(施行規則107条)。
13
14 Kitahama Law Review別冊版
第6
1
会計監査人
算書類について監査することができない者を欠
資格
格事由とすることにして、その不都合を回避し
旧法では、業務停止処分を受け停止期間を経
過しない者を欠格者としており、一部につき業
ました(337条3項1号)。
2
務停止を受けてしまうと監査法人全体に欠格事
由が生じてしまうおそれがありました。そこで、
株主代表訴訟
会社法は、会計監査人についても株主代表訴
訟の対象にしました(847条1項)
。
公認会計士法の規定による処分により会社の計
第3
第1
株式
総論
株式の分野における、会社法の制定に伴う旧商法
からの改正点は多岐に渡りますが、以下において
弁護士
第2
1
澤木
一隆
株式の譲渡制限
旧商法、
及び有限会社法における株式(持分)
の譲渡制限
は、特に重要な改正点である、①株式の譲渡制限、
旧商法では、株式の譲渡は原則として自由に
②自己株式の取得、③種類株式及び④募集株式の発
行いうるものとされていました(株式譲渡自由
行等については、それぞれ項目を設けて詳細に解説
の原則)
。これは、所有と経営が分離された株式
します。他方、それらに次ぐ改正点である、⑤株券、
会社においては、株主は会社の経営の細部に関
⑥株主の権利(少数株主権・株主名簿閲覧権)及び
与することができず、また、株式の払戻しも原
⑦株式買取請求権については、
「その他」の改正点
則として認められていなかったため、株主にとっ
として概括的に解説するに止めます。
ては、株式を譲渡することが、唯一の投下資本
また、株式の分野においては上記以外にも、①
の回収の手段であったからです。
公開会社でない株式会社における剰余金分配・議決
そこで、株式の譲渡制限は、その譲渡につい
権等に関する別段の定めの許容(109条2項)、②
て、取締役会の承認に係らしめる場合に認めら
会社の判断により、基準日後に株主になった者の
れたのみでした(旧商法204条1項但書)。なお、
うち、議決権を行使できる株主を定めることの許容
譲渡の承認につき、取締役会でなく、株主総会
(124条4項)、③いわゆる日割配当の禁止(旧商
の承認に係らしめることは、旧商法の解釈とし
法280条ノ11第1項11号等に該当する規定を設け
ては、認められないのが通説でした。株主総会
ず)、④端株制度の廃止等の改正が行われましたが、
は、その招集手続に時間を要するため、株式の
これらについては、紙面の関係上、ここで紹介する
譲渡承認機関としては、機動性を欠き、株式譲
のみに止めさせて頂きます。
渡自由の原則の過度の制約となると考えられて
なお、本稿では、特に別段の言及がない限り「公
いたためです。また、種類株式など、一部の株
開会社」とは会社法2条5号で規定される、その発
式について譲渡制限を行うことについては、明
行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による
確な定めがなく、その可否は定かではありませ
当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨
んでした。
の定款の定めを設けていない株式会社のことをいい
ます。
他方、有限会社法では、社員は、その持分を
他の社員に譲渡する以外の場合には、その譲渡
につき、社員総会の決議が必要とされていまし
Kitahama Law Review別冊版
た(有限会社法19条1項、2項)
。これは、有限
株式会社法2』14頁〔畑川純〕(商事法務研
会社は、一方において株式会社と同様に社員の
究会、1992)
)。
責任が有限であるものの、他方において合名・
(3) また、譲渡制限を受ける対象となる株式
合資会社と同様に社員との関係が緊密な会社と
についても明定され、一部の株式のみを譲渡
して設けられた制度であるからです。
制限の対象とすることができることも明確に
2
されました(108条1項4号)。この点、旧商
会社法における株式の譲渡制限
15
(1) 会社法においては、株式の譲渡制限の方法
法では、明文の規定はないものの、一定の場
が多様化されました。すなわち、株式会社は、
合 1 には、一部の株式のみを譲渡制限の対象
その発行する全部の株式の取得について、当
とすることができるとは解されていましたが、
該株式会社の承認を要するとすることができ
一般的に、一部の株式のみを譲渡制限の対象
(107条1項1号)、その譲渡の承認機関とし
とすることができるか否かは明確ではありま
ては、原則として株主総会(但し、取締役会
せんでした。
設置会社においては、取締役会)とする(139
(4) このように、会社法は、株式の譲渡制限に
条1項本文)ものの、定款により、自由に定
関しその承認を行う機関及びその制限の対象
めることができることとされました(139条
となる株式の範囲につき、従来よりも幅広く
1項但書)
。例えば、取締役会設置会社であっ
認めました。これは、株式会社に従来の有限
ても、定款で定めることにより、譲渡の承認
会社の規律をも取り込んだこと、及び株主の
機関を株主総会とすることも認められ、また、
意向により株式会社の形態をできるだけ自由
定款で定めることにより、代表取締役や執行
に決定できるようにし、当該株式会社の目的
役等の合議体ではない機関を譲渡承認機関と
に応じた株式会社の設計を可能にするという
定めることも可能となりました。
今般の会社法改正の目的を達するためである
(2) 会社法においては、定款で定めることによ
と考えられます。
り、一定の場合においては、譲渡制限が付さ
3
株式の譲渡に係る承認手続
れた株式であっても、当該株式を他人が取得
(1) 会社法においては、株式の譲渡に係る承認
することを承認したものとみなすことができ
手続きは、次のような流れで行われます。
るものとされました(107条2項1号ロ、108
(2) 譲渡承認請求・買取請求
条2項4号)。例えば、株主間の譲渡につき承
譲渡制限株式(2条17号)を他人に譲渡し
諾を要しないこと、特定の属性を有する者に
ようとする場合には、譲渡人が、又は譲渡人
対する譲渡につき承諾を要しないことなどを
が譲渡制限株式を既に他人に譲渡した場合に
定款で定めることができます。
は、譲受人が譲渡人と共同して(但し、利害
この点、株主間の譲渡につき承諾を要しな
関係人の利益を害するおそれがないものとし
いことは、旧商法においても認められてきま
て法務省令 2 で定める場合は譲受人のみが)
したが、株主の有する特定の属性(その保有
株式会社に対し当該譲渡を承認するか否かの
株式数を含む。)を譲渡制限の基準とすること
決定を求めることとなります(譲渡承認請求、
は、株主平等原則に抵触し、なしえないと解
136条、137条)。
されていました(稲葉威雄ほか編『実務相談
また、かかる請求の際には、株式会社が当
1. 会社が優先株式など数種の株式を発行している場合には、普通株式のみを譲渡制限の対象とすることができるとは解されて
いました(畑川純「実務相談株式会社法2」14頁・商事法務研究会・1992年)。
2. 施行規則24条をご参照下さい。
16 Kitahama Law Review別冊版
該譲渡の承認をしない旨の決定をする場合に
規定され(145条但書)
、例えば両者の合意に
おいて、当該株式会社又は株式会社の指定す
よって、かかる「みなし承認」の制度の適用
る者が当該株式を買い取ることも請求するこ
を除外することができます。
とができ、譲渡人又は譲渡人及び譲受人はか
また、他方、当該期間が経過した場合に承
かる請求も同時に行うのが通常と思われます
認がなされたものとみなされる一定の期間を、
(買取請求、138条1号ハ、2号ハ)。
この点、旧商法では、上記の譲渡承認請求
及び買取請求は書面又は電磁的方法によりな
定款で定めることにより、短縮することもで
きることとされました(145条1号、2号)。
(4) 買取者の決定
さなければなりませんでしたが(旧商法204
株式会社は、買取請求を受けた場合におい
条ノ2第1項、2項)、会社法では、かかる請
て、譲渡を承認しない旨の決定をしたときは、
求の方法についての定めは特になく、口頭に
譲渡承認請求に係る譲渡制限株式を自ら買い
よる請求も可能と解されます(138条)。
取るか、又は第三者に買い取らせなければな
また、旧商法では、譲渡制限株式につき当
りません(140条1項、4項)。この点につい
該譲渡が承認されていない場合に、当該株式
ては、旧商法においても同様でした(旧商法
の譲受人から株式会社に対して名義書換請求
204条ノ2第5項)。しかし、旧商法では、か
がなされた場合の取扱いについて明確に定め
かる株式の買い取りにつき、複数の第三者に
られていませんでしたが、会社法では、その
買い取らせることができるか否か、及び一部
ような場合には、名義書換請求ができない旨
を自らが買い取り、残りを第三者に買い取ら
が明定されました(134条1号)。
せることもできるか否かが不明確でした。会
(3) 譲渡の承認の決定
社法ではこの点が明確にされ、両者とも可能
譲渡の承認の決定は、上述したように、株
主総会、取締役会、その他定款で定められた
機関が行います。
とされました(140条4項)。
株式会社が譲渡制限株式を自ら買い取る場
合は、株主総会の特別決議が必要です(309
なお、株式会社は、譲渡承認請求の日から
条2項1号、140条2項)
。この点についても、
一定期間内に、当該譲渡の承認をするか否か
旧商法と同様です(旧商法204条ノ3ノ2第
の決定の内容、また、買取請求を受けた場合
1項)
。しかし、旧商法ではかかる株主総会の
において譲渡を承認しないときには、当該買
特別決議において、買取請求を行った株主は
取に関する事項を、当該請求をした者に対し、
議決権を行使できないものの(旧商法204条
通知しなければならず、当該一定期間内にこ
ノ3ノ2第3項)、当該株主の有する株式の数
れらの通知をしない場合には、当該譲渡を承
は定足数の基礎に算入されていました(同条
認する旨の決定をしたものとみなされます(み
1項、343条1項)
。この点、会社法においては、
3
なし承認、145条本文 )。
買取請求を行った株主が、原則として議決権
かかる「みなし承認」の制度は、旧商法に
を行使できない点は、旧商法と同様であるも
も存在しました(旧商法204条ノ2第7項)。
のの(140条3項)、当該株主の有する株式の
しかし、会社法では、さらに株式会社と株主
数については、定足数の基礎には算入されな
との合意により、かかる「みなし承認」の制
いこととされました(309条2項柱書)
。
度につき、別段の定めをすることができる旨、
(5) 買取通知・代金及び株券の供託
3. 施行規則26条をご参照下さい。
Kitahama Law Review別冊版
株式会社は買取者を決定した場合、一定の
は、株式会社による自己株式の取得は原則と
事項を買取請求を行った株主に通知し、買取
して禁止されていました。これは、①資本・
者は株式の売買代金として一定の金額を供託
法定準備金を財源とする買受けは、株主・社
4
しなければなりません(141条1項、2項 、
員への出資払い戻しと同様の結果を生じ債権
142条1項、2項)。他方、株券発行会社にお
者の利益を害する(資本の維持)
、②配当可能
いては、当該通知を受けた株主は、当該買取
利益を財源とする買受けでも、流通性の低い
に係る株券を供託しなければなりません(141
株式を一部の株主のみから買い受けると株主
条3項、142条3項)。したがって、株券発行
相互間の投下資本回収の機会の不平等を生じ
会社であるにも関わらず、株券の発行を怠っ
させ、また取得価額いかんによっても残存株
ていた株式会社は、かかる時点において買取
主等との間の不公平を生じさせる(株主相互
請求を行った株主に対し、株券の発行を行わ
間の平等)、③反対派株主から株式を買受け取
なければなりません。
締役が自己の会社支配を維持する等、経営を
この点、旧商法では、買取請求に係る株式
歪める手段に利用される(会社支配の公正)
の売買においては、売買代金の支払いのみに
及び④相場操縦、インサイダー取引などに利
よって株式の移転の効力が生ずるものとされ、
用される(証券市場の公正)などの理由から
特に株券の交付は必要とされていなかったの
です(江頭憲治郎『株式会社・有限会社法』
で(旧商法204条ノ4第4項)、上記のような
225頁(有斐閣、第4版、2005)
)。
問題は生じませんでした。
(2) 自己株式の取得の解禁
(6) 価格決定・代金の決済
しかし、産業界からの強い要請を受け、平
買取請求に係る株式の価格の決定方法につ
成13年の改正により、株式会社による自己株
いては、旧商法と会社法とで変わるところは
式の取得が解禁され、いわゆる「金庫株」が
なく、まずは①当事者間の協議により決定さ
認められることとなり、さらに平成15年の
れ、②当事者の一方が買取に関する事項の通
改正により、それまで定時株主総会の決議に
知があってから20日以内に、裁判所に対し売
よってしか認められなかった自己株式の取得
買価格の決定の申立てをした場合には、裁判
が、一定の場合において取締役会決議のみに
所がその価格を決定し、③買取に関する事項
よって認められることとなりました。
の通知があってから20日以内に①の協議が整
これは、自己株式の取得については、上述
わず、かつ、②の裁判所に対する申立てもな
したような弊害があるものの、取得のための
い場合には、当該株式会社の一株当たり純資
財源を規制し、自己株式の取得にあたっては、
産額に買取請求に係る株式の数を乗じて得た
株主平等原則及び会社支配の公正を害さない
額が売買価格となります(旧商法204条ノ4
ような手段を用いることとすれば、上述の①
第1項ないし3項、144条1項ないし5項)
。
から③の弊害については、避けることができ、
また、④については、専ら証券取引法におけ
第3
1
17
自己株式の取得
る規制により規律すべき事項と整理できるこ
旧商法での自己株式の取得
とから、自己株式の取得の必要性に鑑みて、
(1) 自己株式の取得による弊害
その取得が解禁されたものです。
平成13年の改正以前には、旧商法において
4. 施行規則25条をご参照下さい。
(3) 旧商法での規定(定時総会決議に基づく取得)
18 Kitahama Law Review別冊版
旧商法では、自己株式を取得するためには、
第1項2号)、上記②の方法による自己株式の
原則として定時株主総会の決議が必要でした
取得は、やはり公開会社でなければ不可能で
(旧商法210条1項)
。これは、自己株式の取得
した。なお、この場合にも、自己株式取得に
には、利益処分的性質があると解されたため
ついての財源が、配当可能利益を基準とする
です。定時株主総会決議では、決議後最初の
一定額に限られていました(旧商法211条ノ
決算期に関する定時総会の終結の時までに買
3第3項)
。
い受ける株式の種類、総数及び取得価額の総
額を決することが必要(同条2項1号)でした。
また、自己株式の取得価額の総額は、上述
2
会社法での自己株式の取得(株主との合意に
よる取得)
(1) 総論
の資本の維持の原則に配慮し、配当可能利益
会社法では、株主が株式会社に対しその有
から一定額を控除した額に限られており(旧
する株式の取得を請求することができる株式
商法210条3項)、その方法も、市場において
(取得請求権付株式)、及び株式会社が、一定
取得するか、証券取引法に基づく公開買付け
の事由が生じたことを条件として、株主から
の方法によるかのいずれかに限られており(旧
その有する株式を取得することができる株式
商法210条9項)
、この方法による自己株式の
(取得条項付株式)が認められました。そこで、
取得は、公開会社(ここでは、証券取引法に
これらの株式の取得も自己株式の取得の一類
おいて有価証券報告書の提出が義務付けられ
型と位置づけられることとなりますが、これ
ている会社の意味、同法24条1項参照。以下(4)
らの株式の取得については、従来、旧商法に
においても同じ。)でなければ不可能でした。
おいて議論されてきた「自己株式の取得」と
なお、自己株式の取得の方法について、上
は場面を異にするため、後述することとして、
記の方法を採らず、特定の者から相対で取得
本項では、自己株式である普通株式の取得に
する場合には、定時株主総会において、その
ついてのみ説明します。
者より自己株式を譲り受ける旨の特別決議が
(2) 公開買付け類似の方法による取得
必要とされました(旧商法210条2項2号、5
旧商法では、前述のように、不特定多数の
項)
。
者から自己株式を取得する際には、市場にお
(4) 旧商法での規定(取締役会決議に基づく取得)
ける取得か証券取引法に基づく公開買付けに
さらに、旧商法では、①子会社の有する自
よるしかなく、不特定多数の者からの自己株
己の株式を買い受けるとき、及び②取締役会
式の取得は公開会社(ここでは、証券取引法
の決議をもって自己の株式を買い受ける旨の
において有価証券報告書の提出が義務付けら
定款の定めがあるときには、取締役会決議に
れている会社の意味、同法24条1項参照。以下、
より、自己株式の取得が可能とされていまし
本項において同じ。
)でなければ不可能でした。
た(旧商法211条ノ3)。
会 社 法 で は、 か か る 旧 商 法 で の 問 題 点 を
もっとも、上記②の場合には、自己株式取
解消し、公開会社でない株式会社において
得の方法が、市場において取得するか、証券
も、不特定多数の者からの自己株式の取得を
取引法に基づく公開買付けの方法によるかの
可能としました。すなわち、会社法において
いずれかに限られており(旧商法211条ノ3
は、株主総会又は取締役会5において、①取得
5. 監査役会及び会計監査人設置会社において、定款で定めた場合には、株主総会決議に代えて取締役会決議によることも可能
です。
Kitahama Law Review別冊版
19
する株式の数、②株式を取得するのと引き換
き類型的な合理性があるものとして、上記の
えに交付する金銭等の内容及びその総額、及
売主追加請求権を排除できる旨、規定しました。
び③株式を取得することができる期間(但し、
すなわち、まず、会社法は、①株式会社が
1年を超えることはできない。)を予め決議し
株主の相続人その他一般承継人(包括遺贈、
ておけば(156条)、株式会社は、①取得する
合併、会社分割などにより、当該株式を取得
株式の数、②株式一株を取得するのと引換え
した者)からその相続その他一般承継により
に交付する金銭等の内容及び数若しくは額又
取得した当該株式会社の株式を取得する場合
はこれらの算定方法、③株式を取得するのと
であって、当該株式会社が公開会社ではなく、
引換えに交付する金銭等の総額、及び④株式
かつ、当該相続人その他の一般承継人が株主
の譲渡の申込みの期日を決定し(157条1項)、
総会又は種類株主総会において当該株式につ
それを総株主に通知し(158条)
、かかる通知
いて議決権を行使していない場合には、売主
に対し株主がその有する株式の譲渡の申込を
追加請求権を排除することができるものとし
することによって(159条)
、自己株式を取得
ました(162条)
。また②子会社から株式を取
することが可能となったのです。
得する場合(163条)、及び③特定の株主か
なお、自己株式の取得の決議を行う株主総
ら自己株式を取得する場合に売主追加請求権
会も、旧商法と異なり、定時株主総会に限ら
を排除する旨を定款に定めた場合においても
れなくなり、この点からも、株式会社はより
(164条1項)、株式会社は売主追加請求権を
機動的に自己株式の取得を行うことができる
排除して特定の株主から自己株式を取得でき
ようになったといえます。
るものとしました。但し、上記③の場合の定
(3) 特定の株主からの取得
款の定めは、原始定款による場合か、又は株
会社法では、株式会社が株主総会において、
主全員の同意に基づいて定款に当該定めが規
上述した事項に加えて、自己株式の取得の通
定された場合に限るものとされています(164
知を特定の株主に対してのみ行う旨を決議す
条2項)
。
ることによって、特定の株主からのみ、自己
(4) 市場取引等による株式の取得
株式を取得することができます(160条1項)。
会社法では、株式会社が市場において行う
なお、この場合の株主総会決議は特別決議で
自己株式の取得又は証券取引法に基づく公開
なければならず(309条2項2号)、また、当
買付けの方法により行う自己株式の取得に
該株式会社の株主は、上記の株主総会の開催
ついては、株主総会決議は必要であるものの、
に先立って、株式会社が定めた特定の株主に
上述した「公開買付け類似の方法」を採る必
自己を追加すべき旨を請求できます(売主追
要はないこととされました(165条1項)
。
6
7
加請求権、160条2項 、3項 )。この部分に
また、取締役会設置会社においては、市場
関しては、旧商法での規定を踏襲した形となっ
取引又は証券取引法に基づく公開買付けの方
ています(旧商法210条2項2号、5項ない
法により当該株式会社の株式を取得すること
し7項参照)。
を取締役会の決議によって定めることができ
もっとも、会社法は、以下に掲げる場合には、
特定の株主からのみ自己株式を取得するにつ
6. 施行規則28条をご参照下さい。
7. 施行規則29条をご参照下さい。
る旨を定款で定めることができ、これは旧商
法における「取締役会決議における自己株式
20 Kitahama Law Review別冊版
の取得」を踏襲した形となっています(165
条2項、3項)。
(5) 財源規制
なお、会社法においても、旧商法と同様に、
一定の場合の自己株式の取得にはその財源の
規制が存在し、自己株式の取得が効力を生ず
る日において、自己株式の取得により株主に
対し交付する金銭等の帳簿価額の総額は、そ
の日における分配可能額を超えてはならない
3
⑨ 他の会社の事業の全部譲受に伴う自己
株式取得(155条10号)
⑩ 吸収合併に伴う自己株式取得(155条
11号)
⑪ 吸収分割に伴う自己株式取得(155条
12号)
⑫ これらの場合のほか、法務省令で定め
る場合(155条13号8)
これらのうち、⑨から⑪における自己株式
ものとされています(461条1項2号、3号)。
の取得については、組織再編行為に伴う自己
会社法での自己株式の取得(株主との合意に
株式の取得であり、旧商法でその可否が明確
基づく取得以外の取得)
ではなかったものを明確化したものです。
(1) 総論
会社法では、以下に掲げる場合においては、
また、⑤から⑧における自己株式の取得に
ついては、旧商法においても認められていた
自己株式をその株式の株主との合意によらず
ものです(旧商法204条ノ3ノ2、221条6項、
に取得できるものとしました。
220条ノ6、224条ノ5第2項)。
① 相続人その他一般承継人に対する売渡
請求(176条1項、155条6号)
② 取 得 請 求 権 付 株 式(2 条18号、166条
1項、155条4号)の取得
③ 取 得 条 項 付 株 式(2 条19号、107条 2
項3号イ、155条1号)の取得
④ 全部取得条項付種類株式(171条1項、
155条5号)の取得
⑤ 譲渡承認請求に伴う買取請求(138条1
号ハ、2号ハ、155条2号)
⑥ 単元未満株式の買取請求(192条1項、
155条7号)
⑦ 所在不明株主の株式売却に伴う自己株
式取得(197条3項、155条8号)
⑧ 1株未満の端株売却に伴う自己株式取得
(234条4項、155条9号)
②から④については、会社法において新設
された種類株式であり、これらについての取
扱いは種類株式の項目において述べます。
したがって、以下においては、会社法にお
いて新設され、かつ、実務への影響も大きい
と考えられる①の場合につき、述べます。
(2) 相続人その他一般承継人に対する売渡請求
会社法においては、相続その他一般承継に
より当該株式会社の株式(譲渡制限付株式に
限る。)を取得した者に対し、当該株式を当
該株式会社に売り渡すことを請求することが
できる旨を定款に定めることによって、株主
総会の特別決議によって、相続その他一般承
継により当該株式会社の株式を取得した者に
対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すこ
とを請求することができる旨定められました
8. 施行規則27条。同条で規定する場合とは、①無償で取得する場合、②株式会社が有する他の法人等(法人その他の団体をい
う。以下同じ。)の株式についての剰余金の配当又は残余財産の分配として交付を受ける場合、③株式会社が有する他の法
人等の株式について当該他の法人等が行う(イ)組織の変更、(ロ)合併、(ハ)株式交換、(ニ)取得条項付株式の取得、若しくは(ホ)全
部取得条項付種類株式の取得に際して当該株式と引換えに交付を受ける場合、④株式会社が有する他の法人等の新株予約権
等を当該他の法人等が当該新株予約権等の定めに基づき取得することと引換えに交付を受ける場合、⑤種類株式の新設等、
事業譲渡等、吸収合併等に際しての反対株式の株式買取請求に応じて取得する場合、⑥合併に伴い取得する場合、又は⑦事
業の全部の譲り受けに伴い取得する場合をいいます。
Kitahama Law Review別冊版
(174条、309条2項3号、175条1項)。
ばれてきました。なお、⑥については、定款に
公開会社ではない会社においては、株主の
よる株式譲渡制限がされた会社であって委員会
個性が重視されるため、相続、包括遺贈、合併、
等設置会社でない会社のみに認められたもので
会社分割などの一般承継により譲渡制限株式
す(商法特例法21条の36第4項)
。
が会社にとって好ましくない者に移転するこ
とを防ぐことが要請されます。
また、上記③及び④につき他の株式と内容の
異なる株式は、株式の買受又は利益による強制
しかし、旧商法においても、会社法におい
消却(両者を合わせて「償還」といいます。)が
ても、譲渡制限の定款の定めをおいたとして
予定されたものであり、償還株式と呼ばれ、さ
も「譲渡」ではない上記のような一般承継に
らに償還株式には、償還の選択権が会社にある
ついて何ら制限できません。そこで、会社法
ものと、株主にあるものとがあり、前者は随意
においては、一般承継により移転した株式に
償還株式、後者は義務償還株式と呼ばれてきま
ついて、当該一般承継人に対し、当該株式の
した。
売渡を請求することができるものとしました。
さらに、以上に加え、会社が数種の株式を発
具 体 的 に は、 上 記 の よ う な 定 款 の 定 め を
行する場合において、株主がその引き受けた株
し、株主総会の特別決議を経た上で、株式会
式を他の種類の株式に転換することを請求する
社は、一般承継人に対して、当該株式会社の
ことができる株式(転換予約権付株式、旧商法
株式を自己に売り渡すことを請求することが
222条ノ2)、及び会社が数種の株式を発行する
できます(174条ないし175条、309条2項3
場合において一定の事由が生じた場合は会社が
号)。但し、当該請求は、当該株式会社が相続
その発行したある種類の株式を他の種類の株式
その他一般承継を知った日から1年を経過し
に転換することができる株式(強制転換条項付
た後はすることができません(176条1項但
株式、
旧商法222条ノ8)も認められていました。
書)。なお、かかる売渡請求に際しての売渡価
2
格の決定方法は、前述した譲渡制限株式の買
取請求の際の価格決定方法と同様の方法によ
り行われます(177条)。
21
会社法での種類株式
(1) 会社法でも変わりなく認められるもの
会社法においても、次に掲げる事項につい
て内容の異なる数種の株式を発行することが
認められます。すなわち、会社法においても
第4
1
種類株式
①剰余金の配当、②残余財産の分配、③株主
旧商法での種類株式
総会において議決権を行使することができる
旧商法では、①利益又は利息の配当、②残余
事項、④当該種類の株式の種類株主を構成員
財産の分配、③株式の買受、④利益をもってす
とする種類株主総会において取締役又は監査
る株式の消却、⑤株主総会において議決権を行
役を選任することにつき、内容の異なる数種
使することを得べき事項、及び⑥その種類の株
の株式を発行することが認められます(108
主の総会における取締役又は監査役の選任につ
条1項1号、2号、3号、9号)
。
いて、内容の異なる数種の株式を発行すること
が認められていました(旧商法222条1項)。
すなわち、①及び②につき他の株式と内容の
したがって、旧商法下で存在した、優先株式、
劣後株式、議決権制限株式及び種類株主総会
において取締役又は監査役を選任できるもの
異なる株式は、優先株式又は劣後株式と呼ばれ、
とされた種類株式は、会社法の下においても、
⑤につき他の株式と内容が異なり、一切の事項
従前と同様に存在し、取り扱うことができます。
につき議決権がない又は一定の事項についての
(2) 会社法において取扱いが異なるもの
み議決権を有する株式は、議決権制限株式と呼
旧商法における株式の買受又は利益をもっ
22 Kitahama Law Review別冊版
てする株式の消却につき他の株式と内容の異
も、取得請求権付株式又は取得条項付株式
なる株式(償還株式)については、会社法に
の1種類として認められることとなりました。
おいて、その取扱いが異なることとなりまし
すなわち、転換予約権付株式は、取得請求権
た。 す な わ ち、 旧 商 法 で は 株 式 の 買 受 と 株
付株式のうち、当該種類の株式(取得請求権
式の消却は異なる概念と考えられていました。
付株式)1株を取得するのと引換えに当該株
前者については、株式会社が当該株式を自己
主に対して当該株式会社の他の株式を交付す
株式として買い受けるということであり(す
るもの(108条2項5号ロ)、及び強制転換条
なわち当該株式については、株式会社が取得
項付株式は、取得条項付株式のうち、当該種
後、金庫株として保有することも可能であっ
類の株式(取得条項付株式)1株を取得する
た)、後者については、株主の手元において当
のと引換えに当該株主に対して当該株式会社
該株式を単に消滅させる行為又は自己株式を
の他の株式を交付するもの(108条2項6号
消滅させる行為として考えられてきました。
ロ)と整理できます。
しかし、会社が株式を自己株式として買い
また、取得請求権付株式及び取得条項付株
受けた後に、当該株式を消却する手続をとれ
式は、旧商法で認められてきた、当該株式と
ば、それはすなわち、株式の消却と同様の結
引換えに金銭を交付する場合(随意償還株式
果となります。そこで、会社法では、自己株
及び義務償還株式)及び当該株式と引換えに
式の取得と株式の消却につき、概念を整理し、
当該株式会社の他の株式を交付する場合(転
消却は会社がその自己株式を消滅させる行為
換予約権付株式及び強制転換条項付株式)の
のみを指すものとし(178条)
、旧商法におけ
他に、当該株式と引換えに当該株式会社の社
る「株式の消却」は、自己株式の取得と当該
債、新株予約権、新株予約権付社債、当該株
自己株式の消却という2段階の行為として整
式会社の他の株式(但し、取得請求権株式又
理されました。
は取得条項付株式の他に、他の株式が発行さ
そこで、償還株式に関する会社法の規定も、
れている場合に限る)及びそれら以外の財産
①当該種類の株式について、株主が当該株式
を交付することも認められました(107条2
会社に対してその取得を請求することができ
項2号ロないしホ、3号ニないしト、108条
ること、及び②当該種類の株式について、当
2項5号ロ、同項6号ロ)
。
該株式会社が一定の事由が生じたことを条件
さらに、取得請求権付株式及び取得条項付
としてこれを取得することができることにつ
株式については、一部の株式のみではなく、
いて異なる定めをした内容の異なる2以上
全部の株式を取得請求権付株式又は取得条項
の種類の株式を発行できるものとされました
付株式とすることができることとされました
(108条1項5号、6号)。
上記①は、従前の義務償還株式であり、上
(107条1項2号、3号)。
なお、取得請求権付株式の取得手続(株主
記②は、従前の随意償還株式でありますが、
の側から見れば、取得の請求手続)については、
会社法では、前者が取得請求権付株式、後者
それを有する株主が、株式会社に対し、取得
が取得条項付株式と定義されました(2条18
の請求をする株式数(種類株式発行会社にあっ
号、19号)。
ては、取得請求権付株式の種類及び種類ごと
の数)を明らかにして、当該株主の有する取
(3) 取得請求権付株式・取得条項付株式
得請求権付株式を取得することを請求するこ
会社法においては、旧商法における転換予
とによって、当該株式会社に当該取得請求権
約権付株式及び強制転換条項付株式について
付株式を取得させることができます(166条
Kitahama Law Review別冊版
1項、2項)。但し、かかる株式会社による取
の決議によって、かかる「別に定める日」を
得請求権付株式の取得には、分配可能額を基
定め、当該日を、取得条項付株式の株主(取
準とする財源規制が存在し(166条1項但書)
、
得条項付株式の一部のみを取得する場合には
当該財源規制に抵触する場合には、かかる株
当該取得にかかる取得条項付株式の株主)に
主の取得請求は認められません。
対し、当該日の2週間前までに通知又は公告を
他方、取得条項付株式については、A)株式
しなければなりません(168条)。なお、この
会社が一定の事由が生じた日に取得条項付株
場合の当該株式会社が取得する取得条項付株
式を取得することを予め定めている場合とB)
式の決定方法(取得条項付株式の一部を取得
株式会社が別に定める日が到来することを
するに過ぎない場合)及び取得条項付株式を
もって取得条項付株式を取得する旨を定めて
取得する日は、上記と同様です。
いる場合によって、及びそれぞれの場合に
なお、取得条項付株式の取得に際しても、
おいてa)取得条項付株式を全部取得する場合
分配可能額を基準とする財源規制が存在し
とb)取得条項付株式の一部を取得する場合に
(170条5項)、当該財源規制に抵触する場合
よって、その取得手続は異なります。
A) 株式会社が一定の事由が生じた日に取得
条項付株式を取得することを予め定めている
には、上記の株式会社による取得条項付株式
の取得は認められません。
(4) 全部取得条項付種類株式
場合であって、a)取得条項付株式の全部を取得
会社法では、旧商法において認められてい
する場合には、株式会社は、予め定めた一定
た種類株式に加えて、当該種類の株式につい
の事由が生じた日に、取得条項付株式の全部
て、当該株式会社が株主総会の特別決議(309
を取得します(170条1項柱書)
。
条2項3号、171条)によってその全部を取
A) 株式会社が一定の事由が生じた日に取得
得することができる株式も認められました
条項付株式を取得することを予め定めている
(108条1項7号、かかる株式を全部取得条項
場合であっても、b)取得条項付株式の一部を取
付種類株式といいます(171条1項柱書)
)。
得するに過ぎない場合には、当該株式会社は
これは、株式会社の100%減資を容易にす
株主総会(取締役会設置会社にあっては、取
るために設けられたものです。すなわち、旧
締役会)の決議によって、その取得する取得
商法においては、株式会社が100%減資をす
条項付株式を決定し(169条1項、2項本文)
、
るためには(民事再生手続や会社更生手続が
そのように取得を決定した取得条項付株式の
開始されていない限り)、旧商法213条1項に
株主及びその登録質権者に対し、直ちに、当
規定される減資の規定にしたがった株式の消
該取得条項付株式を取得する旨を通知又は公
却が行われることとなり、明文の規定がない
告しなければなりません(同条3項、4項)
。
ものの、株主全員の同意を必要とするとの実
そして、予め定めた一定の事由が生じた日と
務上の解釈が存していました(相澤哲『一問
上記の通知又は公告の日から2週間を経過し
一答新・会社法』52頁(商事法務、2005))
。
た日のいずれか遅い日に、当該株式会社は、
そこで、会社法では、株主全員の同意では
当該取得条項付株式を取得します(170条1項)
。
なく、株主総会における特別決議により、株
他方、B) 株式会社が別に定める日が到来す
式の全部を取得できる、全部取得条項付種類
ることをもって取得条項付株式を取得する旨
株式を導入したのです。
を定めている場合においては、当該株式会社
なお、全部取得条項付種類株式の株主で、
は、定款で別異の定めをしない限り、株主総
当該全部取得条項付種類株式の取得価格に異
会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)
議のある株主であって、①当該全部取得条項
23
24 Kitahama Law Review別冊版
付種類株式の全部取得の決議がなされた株主
項付種類株式となった普通株式を金銭により
総会に先立って当該株式会社による全部取得
取得することによって(309条2項3号、171
条項付株式の取得に反対する旨を当該株式会
条1項)自らの資本構造の大幅転換を図るこ
社に通知し、かつ、当該株主総会において当
とができます。
該取得決議に反対をした株主、又は②当該株
また、全部取得条項付種類株式の金銭によ
主総会において議決権を行使することができ
る取得と同時又はその後に、他の会社と合併
ない株主は、当該株主総会の日から20日以内
を行う場合は、いわゆるキャッシュアウトマー
に、裁判所に対し、株式会社による全部取得
ジャーと同様の結果を生じることになり、ま
条項付種類株式の取得の価格の決定の申立て
た、全部取得条項付種類株式となった普通株
をすることができます(172条)。
式を当該株式会社の他の種類の株式等により
(5) 全部取得条項付種類株式の活用方法(小出
取得することによって、既存株主が有する株
一郎『非公開会社のための新会社法』166
式の種類の変更を行うことができることとな
頁以下(商事法務、2005)
)
ります。
全部取得条項付種類株式を活用することに
なお、具体的な手続としては、まず①株主
より、①従前の資本構造の大幅転換、②キャッ
総会を開催し、a)普通株式とは別種の株式を
シュアウトマージャー、③既存株主が有する
導入する旨の定款変更の特別決議、b)従前の
株式の種類の変更などが可能となります。以
普通株式を全部取得条項付種類株式とする旨
下、普通株式のみを発行している株式会社を
の定款変更の特別決議、c)全部取得条項付株
念頭に置いて、これらのことを行う方法につ
式を取得する旨の特別決議、及びd)新株発行
き、詳述します。
の特別決議を行います。なお、上記b)につい
上記のいずれの場合においても、まずは、
ては、種類株主総会の特別決議及び新たに導
当該株式会社において、全部取得条項付種類
入した別種の株式の発行を停止条件に、c)に
株式を導入しなければなりません。そして、
ついては、種類株主総会の特別決議及び新た
全部取得条項付種類株式を導入するためには、
に導入した別種の株式の発行を停止条件に、d)
当 該 株 式 会 社 は、 種 類 株 式 発 行 会 社(2 条
については種類株主総会の特別決議がなされ
13号)でなければなりません(108条1項7
ることを停止条件にして、それぞれの決議を
号)。そこで、a)当該株式会社の定款を変更し
行います。
て、普通株式とは別種の株式を導入する、また、
次に、普通株式の株主の種類株主総会を開
b)従前発行されていた普通株式を全部取得条
催し、普通株式とは別種の株式を導入する旨
項付種類株式とする旨の定款変更をすること
の特別決議及び普通株式を全部取得条項付種
が必要です。
類株式にする旨の特別決議を行うこととなり
a)の定款変更は、株主総会の特別決議が必
ます。
要となります(309条2項11号、466条)。また、
b)の定款変更は、株主総会の特別決議のほか、 第5
募集株式の発行等
全部取得条項付種類株式となる普通株式の株
総論
主による種類株主総会の特別決議が必要とな
ります(324条2項1号、111条2項1号)。
1
募集株式とは、会社法において新設された用
語であり、当該募集(株式会社がその発行する
以上の定款変更を経た上で、当該株式会社
株式又はその処分する自己株式を引き受ける者
は、別種の株式を新たな者に割当て、発行し、
の募集)に応じてこれらの株式の引き受けの申
他方、株主総会の特別決議により全部取得条
込みをした者に対して割当てる株式をいいます
Kitahama Law Review別冊版
(199条1項柱書)。すなわち、募集株式という用
郎『株式会社・有限会社法』140頁(有斐閣・
語は、旧商法での新株発行の際に発行される新
第4版、2005))
。
株、及び自己株式の処分の際に処分される自己
(2) 会社法での規定
株式を合わせた概念といえます。これからも明
会社法では、募集事項の決定を行う機関に
らかなように、会社法は、旧商法で区別されて
つき、公開会社と公開会社でない会社におい
いた新株の発行と自己株式の処分の区別をなく
て、取扱いを異にしています。
し、同一のものとして規定しました。
まず、公開会社でない株式会社においては、
募集株式(旧商法では新株又は自己株式)の
募集事項の決定は、原則として株主総会の特
発行(旧商法では発行又は処分)は、募集事項
別決議により行われるものとされました(309
の決定、割当て、払込み(出資の履行)の順に
条2項5号、199条2項)。このように、会社
手続が行われます。そこで、以下、これらの手
法では、公開会社でない株式会社の募集事項
続に沿って、募集株式の発行等につき、解説し
の決定を、原則として株主総会の特別決議に
ます。また、以上に加えて、手続外の事項として、
より行うものとすることによって、旧商法で
募集に係る責任等、及び募集に係る訴えについ
の有利発行に関する株主総会の特別決議及び
ても解説します。
新株引受権の排除手続を一体化しました。
2
募集事項の決定等
もっとも、上述した募集事項の決定は、株
(1) 旧商法での規定
主総会の特別決議により、取締役(取締役会
旧商法では、新株発行の場合も自己株式の
25
設置会社においては取締役会)に委任するこ
処分の場合も、新株発行又は自己株式の処分
とができます(309条2項5号、200条1項)
。
に 係 る 事 項 に つ い て は、 原 則 と し て、 取 締
但し、募集事項の決定を取締役(又は取締役
役会が決するものとされていました(旧商法
会)に委任する場合には、払込金額の下限を
280条ノ2第1項、211条1項)。
定めなければならないので、やはり、この場
但し、株主以外の者に対し特に有利なる発
合においても、旧商法での有利発行に関する
行価額をもって新株を発行又は自己株式を譲
株主総会の特別決議及び新株引受権の排除手
渡する場合(いわゆる「有利発行」の場合)
、
続の一体化を行う新会社法の意図は貫徹され
及び株式に譲渡制限(旧商法204条1項但書)
ているといえます(200条1項後段)
。
が付されている場合に株主以外の者に対して
また、会社法は、種類株式発行会社において、
新株を発行又は自己株式を譲渡する場合(い
種類株式である譲渡制限株式が募集株式であ
わゆる「新株引受権の排除手続」)には、株主
る場合には、原則として、当該譲渡制限株式
総会の特別決議が必要とされていました(旧
の種類株主を構成員とする種類株主総会の特
商法280条ノ2第2項、211条3項、280条ノ
別決議が必要である旨を明文で規定し(324
5ノ2、211条2項)。
条 2 項 2 号、199条 4 項、200条 4 項 )
、一
なお、旧商法においては、種類株式を発行
部ではありますが、旧商法において欠けてい
する場合の当該種類株主の保護を図るための
た、種類株式を発行又は譲渡する場合におけ
規定は特に定められていませんでしたが、旧
る、当該種類株式の既存の株主の保護を明定
商法222条11項に列挙された発行済株式数の
しました。
増減等の措置によりいずれかの種類の株主に
他方、公開会社である株式会社においては、
損害が生ずる場合には、損害を受ける種類の
募集事項の決定は、取締役会の決議によるも
株主の総会の特別決議を要する(旧商法346
のとされました(201条1項)。但し、有利発
条、345条)と解されていました(江頭憲治
行を行う場合には株主総会の特別決議が必要
26 Kitahama Law Review別冊版
とされ(201条1項第1文前段、199条3項、
締役会設置会社である場合)の決議により、
2項)
、いずれも旧商法と同様の規定となって
募集事項を決定できることとされました(202
います。もっとも、旧商法では、会社は払込
条3項1号、2号、5項)
。
期日の2週間前に新株発行事項を公告又は株主
に通知する必要がありましたが(旧商法280
自己株式については新株引受権が与えられな
条ノ3ノ2)、会社法では、原則としてかかる
いことが明定されました(202条2項)。旧商
規律は維持した上で、株式会社が募集事項に
法上、自己株式に利益配当請求権、残余財産
ついて払込期日の(払込期日に代わり払込期
分配請求権、株式買取請求権がないことは異
間を定めた場合にはその期日の初日の)2週
論のないところでしたが、このように新株引
間前までに証券取引法に基づく有価証券届出
受権の割当てを受ける権利がないことが明定
書の届出をしている場合等には、かかる公告
されたことによって、自己株式については自
9
3
なお、会社法においては、株主割当ての際、
。
又は通知は不要とされました(201条5項 )
益権が認められないことがより明確にされま
これは、商法と証券取引法で同様の情報の開
した(江頭憲治郎『「会社法制の現代化に関す
示が要求されていた旧商法下での規定を改め、
る要綱案」の解説(IV)』(商事法務1724号
証券取引法に基づく情報開示がなされている
7頁、2005)
)
。
場合には、商法に基づく同様の情報開示を不
旧商法においては、株主に与えられた新株
要とすることにより、株式会社の負担の軽減
引受権を譲渡することができる旨を新株の発
を図る趣旨から設けられた規定です。
行条件として定めることができ(旧商法280
募集株式の割当て
(1) 株主割当て
条ノ2第1項6号)、当該定めをした場合には、
当該株式会社は、株主に対して新株引受権証
株主割当てとは、既存株主の株式の保有比
書を発行し(旧商法280条ノ6ノ2)
、新株引
率に応じて、既存の株主のみに株式の割当て
受権を与えられた株主は、当該新株引受権証
を受ける権利を与える新株発行(又は自己株
書を交付することにより、当該新株引受権を
式の処分(但し、会社法のみ(後述))
)の形
譲渡することができ(旧商法280条ノ6ノ3)、
態です。
株式の申込みは、新株引受権証書によって行
株主割当ては、旧商法においても、会社法
においても、既存の株主に、募集株式(新株)
うものとされていました(旧商法280条ノ6
ノ4)
。
の割当てを受ける権利(新株引受権)を与え
他方、会社法においては、かかる新株引受
る方法により行われます(旧商法280条ノ2第
権の譲渡はできないこととされ、代わりに、
1項5号、会社法202条)
。なお、旧商法にお
旧商法における新株引受権の譲渡に関する制
いては、自己株式の譲渡による株主割当ては
度が、新株予約権及び新株予約権証券に関す
認められていませんでした(旧商法211条3項
る制度に吸収される形で整理されました(241
において同法280条ノ2第1項は準用されず)
。
条、288条、255条)
。すなわち、会社法にお
また、株主割当てを行う場合、会社法にお
いて、株主が(旧商法上は認められていた)
いては、公開会社ではない株式会社であって
自己に与えられた新株引受権を譲渡するのと
も、定款で定めることにより、取締役(取締
同様の効果を欲する場合には、株主に対し新
役会設置会社でない場合)又は取締役会(取
株予約権を無償で発行する方法によることと
9. 施行規則第40条をご参照下さい。
Kitahama Law Review別冊版
なりました。株式会社が、株主に対し新株予
ない株式会社において株主が新株引受権を有
約権を無償で発行した場合、株主は、かかる
する旨を直接には規定していないものの、公
新株予約権の譲渡を新株予約権証券を交付す
開会社ではない株式会社が募集事項を決定(又
るという形でできることとなり、自己に与え
は当該事項の決定を取締役又は取締役会に委
られた新株引受権を譲渡するのと同様の効果
任)するためには株主総会の特別決議が必要
を得ることができます。
とされる(309条2項5号、199条2項、200
新株引受権と新株予約権とは、機能的には
条1項)ので、やはり第三者割当てを行うた
似た面がありますが、法的性質は異なるもの
めには株主総会の特別決議が必要であるのも
です。すなわち、新株引受権は、株式会社か
上述のとおりです。
ら優先的に新株の割当てを受けられる権利(一
もっとも、旧商法においては、公開会社は
種の債権)に過ぎず、株式会社がその義務に
もとより、公開会社ではない株式会社におい
反し権利者に対し新株の割当てをしなければ、
ても、第三者割当てにおける株式の割当て先
権利を行使した権利者は株主になることはで
の決定については、取締役会が自由に決し得
きません。他方、新株予約権は形成権であり、
るものとされていました(いわゆる「割当て
その権利を行使した権利者は当然に株主とな
自由の原則」
、旧商法280条ノ2第1項9号)。
ります(江頭憲治郎『「会社法制の現代化に関
この点、会社法においては、公開会社では
する要綱案」の解説(IV)
』(商事法務1724
ない株式会社においては、既存株主の利益を
号10頁、2005))。旧商法は、このように新株
重視し、第三者割当てにおける株式の割当て
引受権と新株予約権が異なる権利であること
先の決定についても、定款に別段の定めのな
を前提に、その譲渡方法も区別していました
い限り、株主総会の特別決議(取締役会設置
が、会社法においては、むしろ両者の類似点
会社にあっては取締役会の決議)を要するも
に着目し、前述のように、新株引受権の譲渡
のとされました(309条2項5号、204条2
に関する制度を新株予約権及び新株予約権証
項)
。かかる規定は、実際には、株式譲渡の承
券に関する制度に吸収したのです。
認機関(139条1項)と同じ機関が割当て先
(2) 第三者割当て
の決定機関となるべく運用されるものと思わ
第三者割当てとは、株主割当て以外の方法
による新株発行(又は自己株式の処分)の形
態です。なお、株式の割当て先が既存株主で
あっても、それが一部の既存株主に止まる場
27
れます。
4
募集株式の払込み(現物出資(金銭以外の財
産の出資)
)
(1) 旧商法での規定
合、また既存株主の株式保有割合に応じたも
旧商法では、現物出資をなす者がある場合
のではない場合は、株主割当てではなく、第
には、原則として、現物出資に関する事項(現
三者割当てとなります。
物出資をなす者の氏名、出資の目的たる財産、
公開会社ではない株式会社においては、旧
その価格並びにこれに対して与える株式の種
商法では、株主は新株引受権を有するものと
類及び数)について、裁判所により選任され
され(旧商法280条ノ5ノ2第1項本文)、第
た検査役に調査をさせなければならないもの
三者割当てを行うためには株主総会の特別決
とされていました(旧商法280条ノ8第1項
議を要するものとされた(いわゆる「新株引
本文)
。
受権の排除手続」、同条1項但書)のは上述の
とおりです。
会社法は、旧商法のように、公開会社では
但し、①現物出資をなす者に対して与える
株式の総数が発行済株式の総数の10分の1を
超えず、かつ、新たに発行する株式の数の5
28 Kitahama Law Review別冊版
分の1を超えない場合、②現物出資の目的たる
数の10分の1を超えず、かつ、新たに発行
財産の価格の総額が500万円を超えない場合、
する株式の数の5分の1を超えない場合」と
③現物出資の目的たる財産が取引所の相場の
規定された例外事由については、会社法では、
ある有価証券である場合において、その価格
「募集株式の引受人に割り当てる株式の総数
がその相場を超えない場合、又は④現物出資
が発行済株式の総数の10分の1を超えない場
に関する事項が相当であることにつき、弁護
合」と改正され(207条9項1号)、
「新規発
士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税
行株式の5分の1を超えない場合」という要
理士又は税理士法人の証明を受けた場合(現
件が削除されました。
物出資の目的たる財産が不動産である場合に
また、②旧商法で「現物出資の目的たる財
は、その証明及び不動産鑑定士の鑑定評価も
産が取引所の相場のある有価証券である場合
必要)には、検査役の調査は不要とされてい
において、その価格がその相場を超えない場
ました(旧商法280条ノ8第1項但書、2項、
合」と規定された例外事由については、会社
173条2項)。
法では、「現物出資財産のうち、市場価格の
(2) 会社法での規定(改正部分)
ある有価証券の価額が当該有価証券の市場価
会社法においても、金銭以外の財産の出資
格として法務省令で定める方法により算定さ
によって出資がなされる場合には、原則とし
れるものを超えない場合」と改正されました
て、その価格を裁判所により選任された検査
。かかる例外事由は、旧商
(207条9項3号11)
役に調査させなければならないものとされま
法では「取引所の相場のある有価証券」と規
した(207条1項ないし7項10)。
定され、これには株券、新株引受権証券、国
また、検査役による調査が不要とされる場
債 証 券、 地 方 債 証 券、 社 債 券 等 で、 証 券 取
合についても、①出資の目的とされた金銭以
引所に上場されているものと解されていま
外の財産(以下「現物出資財産」という。)の
した(上柳克郎ほか編『新版注釈会社法補巻
価額の総額が500万円を超えない場合、及び
(平成2年改正)』60頁〔北沢正啓〕(有斐閣、
②現物出資財産の価額が相当であることにつ
1998)
)
。他方、会社法では、この点は「市場
いて弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査
価格のある有価証券」と改正されました。両
法人、税理士又は税理士法人の証明(現物出
者の相違は、前者は証券取引所に上場されて
資財産が不動産である場合にあっては、当該
いる有価証券のみを意味するものと解されて
証明及び不動産鑑定士の鑑定評価)を受けた
いましたが、後者は証券取引所に上場されて
場合には、検査役の調査が不要とされる点に
いなくとも「市場価格」のある有価証券を意
ついては旧商法とほぼ同様です(207条9項
味し、具体的には、未上場ではあるが証券会
2号、4号)。
社による投資勧誘が許された証券(グリーン
もっとも、上記以外の検査役による調査が
シート銘柄)が新たにかかる例外事由に該当
不要とされる場合については、会社法におい
することとなると解されます。なお、この点
て、以下のように改正及び追加がなされました。
につき、店頭登録株式についても新たに上記
すなわち、①旧商法で「現物出資をなす者
例外事由に該当することとなると解する見解
に対して与える株式の総数が発行済株式の総
もありますが(相澤哲『一問一答新・会社法』
10. 施行規則228条、229条、43条をご参照下さい。
11. 施行規則43条をご参照下さい。
Kitahama Law Review別冊版
38頁(商事法務、2005)
)、平成10年の証券
当該券面額での弁済を行う義務を負っている
取引法改正により、
「店頭登録市場」が創設
ことから、券面額説をとっても既存株主の利
され、店頭登録株式が取引される市場は、従
益を害することはないと考えられることに鑑
来の取引所の補完的市場から、取引所市場と
みて、券面額説を前提とする立場から、出資
並列する市場とされたこと、さらに平成16年
の目的たる金銭債権について定められた価額
には当該市場を運営する株式会社ジャスダッ
が当該金銭債権に係る負債の帳簿価額(券面
ク・サービスが証券取引所免許を取得し、当
額)を超えない場合に、旧商法では要求され
該市場はジャスダック証券取引所となったこ
ていた検査役による調査を不要としたもので
とに鑑みると、旧商法においても、店頭登録
す。
株式が上記例外事由に該当するとの解釈も可
29
なお、上記の場合であっても債権が架空の
能であったと考えられます。
ものであれば、既存株主に損害が生じるので、
(3) 会社法での規定(追加部分)
債権の存在を証する書面として当該金銭債権
金銭以外の財産の出資に関して、旧商法か
について記載された会計帳簿が募集株式の発
ら大きく異なることとなったのは、金銭債権
行による変更の登記の添付書類とされました
に関する取扱いの部分に関してです。すなわ
ち、会社法では、金銭以外の財産の出資に際
(商業登記法56条3号ニ)
。
(4) 関係者の責任等
して検査役による調査が不要とされる事由と
会社法においては、現物出資財産の株式会
して、現物出資財産が金銭債権(弁済期が到
社への給付時の価額がこれについて募集事項
来しているものに限る。)であって、当該金銭
の決定の際に定められた価額に著しく不足す
債権について定められた価額が当該金銭債権
る場合、一定の取締役は当該不足額の填補責
に係る負債の帳簿価額を超えない場合が追加
任を負うものとされましたが(財産価格填補
されました(207条9項5号)。
、現物出資財産の価額
責 任、213条 1 項12)
かかる例外事由は、いわゆる「デッド・エ
について検査役の調査を経た場合及び当該取
クイティ・スワップ」を簡便に行いたいとい
締役がその職務を行うについて注意を怠らな
う要請に応えるために設けられたものです。
かったことを証明した場合には、当該取締役
すなわち、旧商法下の実務では、金銭債権を
はその責任を免れることとされました(同条
現物出資する際に、当該金銭債権の価値を現
2項)
。
在の会社(債務者)の財務内容を反映した価
この点、旧商法においては、上記取締役の
額(評価額)とすべきとする評価額説と、当
財産価格填補責任は無過失責任とされていた
該債権の帳簿価額(券面額)とすべきとする
(旧商法280条ノ13ノ2)ところですが、会社
券面額説のいずれを採るべきかにつき争いが
法においては、募集株式の発行時は、設立時
ありましたが、東京地裁民事8部が後者の券
ほど資本充実を厳格に要求する必要はないと
面額説を採用したことから、実務上は、専ら
の理由で、このような取扱いとなったもので
券面額説に従い、金銭債権の現物出資が行わ
す(江頭憲治郎『「会社法制の現代化に関する
れていました。会社法では、かかる実務での
要綱案」の解説(Ⅳ)』(商事法務1724号12頁、
取扱い、及び少なくとも履行期の到来してい
2005)
)
。
る債権については、その時点において会社は
12. 施行規則44条、45条、46条をご参照下さい。
また、会社法においては、上記と同様の趣
30 Kitahama Law Review別冊版
5
旨から、募集株式の引受人により給付された
又は出資の目的たる財産の全部を給付するこ
現物出資財産の株式会社への給付時の価額が、
とを要し、かかる払込期日より株主となるも
募集事項の決定の際に定められた価額に著し
のとされていました(旧商法280条ノ7、280
く不足する場合、当該募集株式の引受人が当
条 ノ14、177条 3 項、172条、280条 ノ 9 第
該不足額の填補責任を負うものとされました
1項、211条3項)
。
が(212条1項2号)
、一方で、募集株式の引
他方、会社法は、株式会社は、募集株式の
受人が上記の価額の著しい不足について善意
募集事項につき、金銭の払込み又は財産の給
かつ無重過失であるときは、当該募集株式の
付の期日に代えて、それらの期間を定めるこ
引受人は、募集株式の引き受けの申込み又は
とができるものとし(199条1項4号)、期間
募集株式の引受契約に係る意思表示を取り消
を定めた場合には、募集株式の割当てを受け
すことができるものとされました(212条2項)
。
た者は、当該期間において金銭の払込み又は
募集株主の払込み(出資の履行等)
(1) 相殺の禁止
財産の給付をした日に株主となるものとしま
した(209条2号)。これは、
公開会社において、
旧商法では、株主は払込みに付き相殺をもっ
株金払込みと株式取得の時点を極力接近させ
て会社に対抗することを得ないと規定されて
たいという実務上の必要性から行われた改正
いました(旧商法200条2項)。かかる規定
です(江頭憲治郎『「会社法制の現代化に関す
については、種々の解釈がなされていました
る要綱案」の解説(IV)』(商事法務1724号
が、実務上は、株式引受人の株式払込債務と
9頁、2005)
)
。
同人に対する会社の債務との相殺は、会社の
(3) 払込みの証明
側からも、会社と株式引受人の合意によって
会社法においては、登記の際になす募集株
も、することができないから、登記申請を受
式の払込金額の全額の払込みがあったことの
理すべきではないとの取扱いがなされており
証明について、旧商法と異なり、払込取扱機
(上柳克郎ほか編『新版注釈会社法(3)』33頁〔米
関の払込金保管証明ではなく、残高証明等の
津昭子〕(有斐閣、1986)
)
、事実上、いかな
簡易な書面で足りることとされました(商業登
る場合においても、株式引受人の株式払込債
記法56条2号、旧商法280条ノ14、189条1項)
。
務と同人に対する会社の債務との相殺は認め
なお、会社法においても、募集設立の場合
られていませんでした。
においては、旧商法を踏襲し、払込取扱機関
会社法においては、上述のように、金銭債
の払込金保管証明を要するものとされていま
務による金銭以外の財産による出資の規制を
す(64条)。これは、払込金保管証明の制度
緩和したこととの均衡を図る観点から、上記
は株式引受人を保護するための制度であるか
の旧商法における相殺禁止の規定を、募集株
らです。しかし、発起設立及び募集株式の払
式の引受人は、払込み又は給付をする債務と
込みの際には、設立詐欺に類する懸念はない
株式会社に対する債権とを相殺することがで
であろうことから、敢えて払込金保管証明に
きない(208条3項)と改め、会社側からな
よって株式引受人を保護する必要はないと考
す相殺及び会社と募集株式の引受人との合意
えられます。そこで、会社法においては、払
による相殺を許容したものです。
込の証明につき、上記のように残高証明等の
(2) 払込みの時期
簡易な書面により行われるものとされたと解
旧商法では、新株又は自己株式の割当てを
されます(江頭憲治郎『「会社法制の現代化に
受けた者は、予め定められた払込期日に、割
関する要綱案」の解説(IV)』(商事法務1721
当てられた株式の発行価額の全額の払込み、
号10頁、2005))
。
Kitahama Law Review別冊版
6
新株発行無効の訴え等
31
ら1年間に延長されたことからも、従来の提
(1) 提訴期間
訴期間内の口頭弁論開始の禁止を維持すると、
会社法においては、株式会社の成立後にお
訴訟の迅速な進行を妨げることにもなります。
ける株式の発行及び自己株式の処分の無効の
そこで、会社法では、旧商法での提訴期間内
訴えの提訴期間が、公開会社でない株式会社
の口頭弁論開始の禁止の規定が廃止されたの
に限り、旧商法での6ヶ月間(旧商法280条
です。
ノ15第1項)から、1年間に延長されました
(3) 新株発行の無効判決の効力
(828条1項2号、3号)。なお、公開会社に
会社法においては、新株発行無効の訴えに
ついては、旧商法と同様に6ヶ月間とされま
係る認容判決が確定したときは、株式会社は、
した。
現物出資者に対して交付された株式を保有す
これは、公開会社でない株式会社において
る株主に対し、現物出資の目的たる財産の価
は、株主総会が開かれずに新株発行がなされ
額に相当する金銭を支払うものとされました
た場合には、現に株主総会が開催されるまで
(840条1項)
。
は株主が新株発行の事実を知る機会は乏しく、
現物出資者に交付されていた株式が細分化
結局、株主がその事実を知らないままに6ヶ
されて譲渡されていたような場合の処理につ
月間の提訴期間を徒過してしまう可能性があ
き、旧商法には規定がありませんが、この点
り、一方で、公開会社でない株式会社におい
を明確化したものです(江頭憲治郎『
「会社法
ては、必ずしも株主の移動が頻繁ではないこ
制の現代化に関する要綱案」の解説(IV)』(商
とが多く、新株発行等が無効とされてもそれ
事法務1724号13頁、2005)
)
。
による弊害は大きくないと考えられたことか
(4) 新株発行等の不存在の確認の訴え
ら、上記のように、株式の発行及び自己株式
新株発行の不存在の確認の訴えは、旧商法
の処分の無効の訴えの提訴期間が延長された
下では明文にはなかったものの、判例上、認
ものです。
められていました。そこで、会社法では、①
なお、1年間という期間は、会社法におい
株式会社の成立後における株式の発行、②自
ては株主総会を年1回は開催しなければな
己株式の処分及び③新株予約権の発行につき、
らないものとされていることを踏まえて定
当該行為が存在しないことの確認を訴えるこ
められた期間です(296条1項参照)(相澤
とができる旨が明文化されました(829条)
。
哲『一問一答新・会社法』247頁(商事法務、
2005)
)。
(2) 提訴期間中の口頭弁論
第6
1
その他
株券
旧商法においては、新株発行無効の訴えの
(1) 旧商法下では、平成16年の改正以前には
提訴期間を経過した後でなければ口頭弁論を
「会社ハ成立後又ハ新株ノ払込期日以後遅滞ナ
開始することができないものと規定されてい
ク株券ヲ発行スルコトヲ要」し(旧商法226
ました(旧商法280条ノ16、105条2項)が、
条1項)、
「株式ヲ譲渡スニハ株券ヲ交付スル
会社法ではかかる規定は廃止されました。
コトヲ要ス」ものとされていました(旧商法
旧商法における提訴期間内の口頭弁論開始
205条1項)。すなわち、株券の発行は必須の
の禁止は、裁判の合一的確定を図るために設
ものとされ、株式の譲渡には株券の交付が必
けられた規定ですが、理論的に必要不可欠な
要とされていました。
ものではありません。他方、公開会社でない
しかし、取引所で頻繁に取引される株式に
株式会社においては提訴期間が6ヶ月間か
ついてまで、譲渡の都度株券の交付が必要と
32 Kitahama Law Review別冊版
なると、迅速な決済が妨げられ、また、株券
譲渡については、民法の原則に戻り、当事者
の紛失・盗難の危険性も看過できないものと
間の意思のみによってその効力が生じるもの
なっていました。そこで、実際には、取引所
と解されます。但し、かかる譲渡を株式会社
で取引される株式の多くについては、保管振
その他の第三者に対抗するためには、その株
替制度が利用され、取引は株券の交付を伴わ
式を取得した者の氏名又は名称を株主名簿に
ずに行われていました。そして、コスト削減
記載し、又は記録しなければならないものと
の要請から、さらに進んで、株券自体の廃止
されました(130条1項)。
(株式のペーパーレス化)が強く要請されてい
ました。
2
株主の権利
(1) 少数株主権
そこで、旧商法においては、かかる株式の
旧商法においては、帳簿閲覧請求権(旧商
ペーパーレス化の要請を受け、平成16年に株
法293条の6第1項)、業務財産調査のための
券の不発行制度が創設され、会社は定款をもっ
検査役選任請求権(旧商法294条1項)及び
て株券を発行しない旨を定めることできるよ
解散請求権(旧商法406条の2第1項)といっ
うになりました(旧商法227条)。
た少数株主権について、当該権利を行使でき
また、株式会社であっても、その株式に譲
渡制限が付されている株式会社については、
株式の取引自体が頻繁に行われないことから、
る株主の要件につき、すべて当該株主の有す
る議決権を基準にしていました。
しかし、これらの少数株主権は、議決権の
株券を発行する必要性が低く、実際にも、株
有無にかかわらず、株主であれば当然に認め
券が発行されていない場合が多いというのが
られるべき権利です。そこで、会社法では、
実態でした。そこで、旧商法においては、か
上記の少数株主権に関して、当該権利を行使
かる実態に鑑みて、平成16年の株券の不発行
できる株主の要件につき、議決権の他に、株
制度の導入に合わせて、そのような会社につ
式数をも加えました。具体的には、帳簿閲覧
いては、株主から請求がある時までは、株券
請求権及び業務財産調査のための検査役選任
を発行しないことができるものとされました
請求権については、いずれも総株主の議決権
(旧商法226条1項但書)。
の100分の3以上の議決権を有する株主又は
(2) 会社法では、かかる株式のペーパーレス化
発行済株式(自己株式を除く。)の100分の
を更に推し進め、「株式会社は、その株式・・・
3以上の株式を有する株主につき当該権利の
に係る株券を発行する旨を定款で定めること
行使が認められることとなりました(433条
ができる」と規定し(214条)
、旧商法とは原
1項13、358条1項)。また、解散請求権につ
則と例外を逆転させ、株式会社は株券を発行
いては、総株主の議決権の10分の1以上の
しないことを原則としました。
議決権を有する株主又は発行済株式(自己株
ま た、 株 式 に つ い て 株 券 を 発 行 す る 旨 を
式を除く。)の10分の1以上の株式を有する
定款で定めた会社であっても、公開会社でな
株主につき当該権利の行使が認められること
い会社においては、旧商法の規定を引き継ぎ、
となりました(833条1項)。
株主から請求がある時までは株券を発行しな
また、会社法では、公開会社でない株式会
いことができるものとされました(215条4項)
。
社の株主の単独株主権及び少数株主権につい
なお、株券を発行しない株式会社の株式の
ては、旧商法上では必要とされていた6か月
13. 施行規則226条をご参照下さい。
Kitahama Law Review別冊版
間の保有期間の要件を不要としました。具体
であると解されていました(旧商法245条ノ
的には、株主総会の招集の請求権(297条2
2、349条、355条、371条2項、374条ノ3、
項、1項)
、株主提案権(303条3項、2項)、
374条ノ31第3項、408条ノ3)
。
役員等に対する責任追及等の訴え(847条2
他方、簡易な組織再編行為については、旧
項、1項14)及び役員の解任の訴え(854条2
商法の法文上も「
(組織再編行為の)公告又ハ
項、1項)につき、6か月間の保有期間の要
通知ノ日ヨリ二週間内ニ会社ニ対シ書面ヲ以
件が不要とされました。
テ(組織再編行為)ニ反対ノ意思ヲ通知シタ
(2) 株主名簿閲覧請求権
ル株主」が会社に対し株式買取請求権を行使
旧商法では、株主名簿の閲覧については、株
しうるとされ、株主の議決権行使が前提とさ
主及び会社の債権者は営業時間内であればい
れていないことから(旧商法245条ノ5第3項、
つでも株主名簿の閲覧及び謄写ができるもの
374条ノ23第5項、413条ノ3第5項)
、少な
とされていました(旧商法263条3項)
。もっ
くともこれらの簡易な組織再編行為について
とも、かかる株主名簿の閲覧及び謄写につい
は、議決権のない株主についても、株式買取
ては、当該閲覧又は謄写の請求が不当な意図・
請求権が認められるとの見解もありました。
目的によるものであるなど、その権利を濫用す
確かに、前者の場合において議決権のある
るものと認められる場合には、会社は株主の請
株主のみに株式買取請求権が認められること
求を拒絶することができるとの判例が存在し
に合理性はありません。そこで、会社法にお
(最判平2・4・17判時1380号136頁等)
、多
いては、前者の場合にもすべての株主に株式
くの学説もかかる判例を支持していました。
3
33
買取請求権が認められる旨、規定されました。
そこで、会社法では、かかる判例法理が明
すなわち、会社法においては、ある行為をす
文化され、旧商法のように株主名簿閲覧請求
るために株主総会(種類株主総会を含む。)
権を無限定に認めるのではなく、一定の事由
の決議を要する場合には、当該株主総会で議
がある場合には、当該請求を拒みうるものと
決権を行使できる株主に加えて、当該株主総
されました(125条3項)。
会で議決権を行使することができない株主も、
株式買取請求権
(1) 株式買取請求権を行使しうる株主
株式買取請求権が認められる旨、規定されま
した。また、
ある行為をするために株主総会
(種
旧商法において、組織再編行為その他株式
類株主総会を含む。)の決議を要しない場合に
買取請求権が認められる場合につき株式買取
は、すべての株主に株式買取請求権が認めら
請求権を行使しうる株主は、その法文上、「
(組
れる旨、規定されました(116条2項、469条
織再編行為)ノ決議ヲ為スベキ株主総会ニ先
2項、785条2項、797条2項、806条2項)
。
チ会社ニ対シ書面ヲ以テ(組織再編行為)ニ
(2) 株式買取請求権が認められる場合
反対ノ意思ヲ通知シ且総会ニ於テ之ニ反対シ
旧商法では、株式買取請求権は、いわゆる
タル株主」のみが会社に対し株式買取請求権
組織再編行為の場合、すなわち①営業譲渡若
を行使しうるものと定められていました。そ
しくは営業の全部譲受等の場合(旧商法245
のため、当該株式買取請求権の行使を認め
条ノ2)
、②合併の場合(旧商法408条ノ3)
、
られる株主は、当該組織再編行為の決議を行
③株式交換の場合(旧商法355条)、④株式
う株主総会において議決権を有する株主のみ
移転の場合(旧商法371条2項、355条)
、及
14. 施行規則217条をご参照下さい。
34 Kitahama Law Review別冊版
び⑤新設分割の場合(旧商法374条ノ3)
、⑥
株式の買取価格については、旧商法では「(組
吸収分割の場合(旧商法374条ノ31第3項、
織再編行為等を認容する)決議ナカリセバ其
374条ノ3)、並びに⑦譲渡制限の定款条項の
ノ有スベカリシ公正ナル価格」と定められて
新設の場合(旧商法349条)に認められてい
いましたが、会社法では、単に「公正な価格」
ました。
と定められました。
会 社 法 に お い て は、 上 記 の 場 合 に 加 え て
旧商法では、その文言から、買取価格は、
(469条、785条、797条、806条、116条1項
組織再編行為がなければその株式が有すべき
1号)
、⑧種類株式に譲渡制限を付する定款変
であった公正な価格と解されていました(上
更の場合(116条2号、108条1項4号)、⑨
柳克郎ほか編『新版注釈会社法(5)』288頁〔宍
種類株式に全部取得条項を付する定款変更の
戸善一〕(有斐閣、1986))
。しかし、そのよ
場合(116条1項2号、108条1項7号)及び
うに解すると、組織再編行為によって生じる
⑩種類株主総会の決議を要さずに株式数・議
共働的効果(シナジー)が残存する株主に独
決権数を変動する行為を行うことができる旨
占されることとなってしまうことから、会社
の定款の定めを設けた株式会社において、当
法では旧商法の「(組織再編行為等を認容す
該行為を行う結果、種類株主へ損害が及ぶお
る)決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ」とい
それがある場合(116条1項3号)においても、
う文言を削除し、買取価格を上記シナジー効
株式買取請求権の行使が認められました。
果も考慮して柔軟に決定できるようにしたも
(3) 買取価格
のです。
株式買取請求権が行使された場合における
第4
第1
1
以
計算
弁護士
渡辺
上
徹
会計帳簿
旧商法においては、会計に関する一切の資料が
会計帳簿の作成
対象となるという見解もありましたが採用され
株式会社は、適時に正確な会計帳簿を作成し
1
ませんでした。
なければならないとされました(432条1項) 。
閲覧謄写の資格要件としては、旧商法は議決
これまで、確定申告の直前になってまとめて記
権ベースで3%を要求していましたが、たとえ
帳されることも多く、適時性を欠くと不正が行
ば、相互保有による議決権制限がかかっている
なわれるおそれが高くなります。そこで、会計
株主であっても、会計帳簿の正確性に合理的な
帳簿は「適時に」「正確に」作成されるべきもの
関心をもつこともあるでしょう。そこで、会社
としました。
法は、議決権ベースだけでなく発行済株式の3%
2
を有していれば良いことにしました(433条1
会計帳簿の閲覧謄写請求
閲覧謄写の対象は、「会計帳簿又はこれに関す
る資料」とされました(433条1項1号・2号)。
1. 計算規則4条をご参照下さい。
項)
。
また、株主からの閲覧謄写請求が一定の類型
Kitahama Law Review別冊版
に該当する場合に、会社が当該請求を拒むこと
や分配可能額の算定(461条2項4号)などの基
ができること(433条2項)、親会社社員が裁判
準になります。
所の許可を得て会計帳簿の閲覧謄写請求ができ
計算書類の確定の手続は、原則として、作成
ること(433条3項)、裁判所は訴訟において会
(435条2項)・監査(436条1項・2項) 3・取
計帳簿の提出を命令できること(434条)は、旧
締役会の承認(436条3項)
・株主への提供(437
商法と同じです。
条)4・定時株主総会での承認(438条2項)と
なっています。ただし、例外として、監査役非
第2
1
計算書類
設置会社では監査が不要であり、取締役会非設
計算書類の作成
置会社では、取締役会の承認と株主への提供が
旧商法においては、条文上、計算書類の用語
不要となっています。また、会計監査人設置会
はありませんでしたが、通常は貸借対照表・損
社であり取締役会設置会社である場合は、定時
益計算書・営業報告書・利益処分案(損失処理
株主総会での承認が不要になり、報告で足りる
案)を指していました。これに対して、会社法
とされています(439条)5。
では、計算書類とは、貸借対照表・損益計算書・
確定手続においては、旧商法の実務と異なり、
その他株式会社の財産及び損益の状況を示すた
監査の後に取締役会の承認がなされるので注意
めに必要かつ適当なものとして法務省令で定め
を要します。
2
るものを言います(435条2項) 。また、営業
また、旧商法における監査手続は、定時株主
報告書は事業報告という用語に置き換えられた
総会の会日の7週間前に計算書類を監査役に提出
上で(事業報告「書」とされていないのは当然
しなければならないとされていたため、定時株
に電子化できるようにするためと思われます)、
主総会の開催を早めることができないという問
その作成を義務付けられていますが、計算書類
題点をかかえていました。会社法では、監査手
とはされませんでした。これは、事業報告の内
続は法務省令により定められることになってい
容は必ずしも計算に関するものではないからで
ますが(436条1項) 6、このような規制は設け
す。更に、利益処分案(損失処理案)という用
られていません。
語もなくなりました。これは、利益処分案とし
3
公告
てなされていたことが剰余金の配当などとして
会社は、定時株主総会の終結後遅滞なく貸借
整理されたうえ、決算の確定手続とは無関係に
対照表を(大会社では損益計算書も)公告しな
随時行なわれることになったためです。
ければなりません(440条1項)7。官報・日刊
2
新聞紙の場合は「要旨」を1回掲載すれば足りま
計算書類の確定
上記のような計算書類について定時総会での
すが(440条2項)
、電子公告の場合は「全内容」
承認がなされた直近の事業年度を「最終事業年
を定時株主総会の終結日後5年を経過する日ま
度」と言います(2条24号)。最終事業年度の貸
で継続して電子公告による公告を行わなければ
借対照表の内容は、大会社の判定(2条6号)
なりません(940条1項2号)。なお、決算公告
2. 株主資本等変動計算書及び個別注記表が計算書類として定められました(計算規則91条1項)
。
3. 計算規則149条をご参照下さい。
4. 計算規則161条をご参照下さい。なお、定款で定めることによりWEB開示が可能になります(計算規則161条4項)
。
5. その要件につき計算規則163条をご参照下さい。
6. 監査スケジュールにつきましては、計算規則152条・158条・160条をご参照下さい。
7. 計算規則164条をご参照下さい。
35
36 Kitahama Law Review別冊版
に限り、電子公告調査は不要とされています(941
条)8。
第3
1
らないとしているのは、次の4つの場合です。
第1に、設立時は、払込額を資本金とします
を(大会社では損益計算書も)5年間ホームペー
9
資本金・準備金を計上すべき場合
会社法が資本金・準備金を計上しなければな
ところで、決算公告を行なわなくてもよい場
合が3つあります。第1の例外は、貸借対照表
資本金・準備金
ジで公開している場合です(440条3項) 。こ
が、2分の1以下であれば資本準備金とするこ
れは、旧商法にも規定されていましたが、電子
とができます(445条1項・2項・3項)
。
第2に、新株発行時についても設立時と同様
公告を採用せずに決算公告だけをIT化するこ
とを認めたものです。第2の例外は、有価証券
の処理となります(445条1項・2項・3項)。
報告書提出会社です(440条4項)。これは、会
第3に、剰余金配当時は、配当によって減少
社法により新たに認められたもので、有価証券
する額の10分の1を準備金(資本準備金又は利
報告書は決算公告よりも詳細であり、なおかつ、
益準備金)として計上しなければなりません(445
一般に公開されているため、決算公告を義務付
条4項)12。
ける必要がないことによります。第3の例外は、
第4に、合併・吸収分割・新設分割・株式交
特例有限会社です(整備法28条)。旧有限会社法
換・株式移転において、旧商法では、承継した
で決算公告が不要であったことから、これを維
純資産額を資本または資本準備金のいずれかに
持したものです。
割 付 け る こ と が 原 則 で あ り、 剰 余 金 と し て 計
4
上できるのは、合併と人的会社分割において留
臨時計算書類
事業年度の途中の一定の日(臨時決算日)に
保利益を承継できる場合に限られていました。
おける貸借対照表と損益計算書を臨時計算書類
これに対し、会社法では、資本金または準備金
10
と言います(441条1項) 。これを作成するこ
として計上すべき額は法務省令で定めることと
とにより、最終事業年度末以降の期間損益など
し、原則として剰余金計上ができることになり
を剰余金配当における分配可能額に反映させる
ました(445条5項)13。
ことができます。
2
5
連結計算書類
資本金の減少手続
資本金の減少を行うためには、原則として、
旧商法では、連結計算書類を作成できるのは
株主総会の特別決議(447条1項、309条2項9
大会社のみでした。会社法では、会社の規模に
号)及び債権者保護手続(449条)が必要です。
かかわらず、会計監査人設置会社であれば、連
資本金の減少は会社の一部を解散・清算する要
結計算書類を作成できることとしました(444条
素があることから、特別決議は維持されました。
1項)11。
旧商法と異なり、最低資本金制度がなくなりま
したので、資本金を0円にすることもできます。
また、旧商法では、資本金を減少すると、その
他資本剰余金とされましたが、準備金とするこ
8. 電子公告調査につきましては、電子公告規則3条をご参照下さい。
9. 計算規則175条をご参照下さい。
10. 計算規則92条をご参照下さい。
11. 計算規則93条をご参照下さい。
12. 計算規則45条をご参照下さい。
13. 計算規則58条ないし69条をご参照下さい。
Kitahama Law Review別冊版
とを否定する理由もないので、会社法では準備
条3項)
。ただし、債権者保護手続は必要です。
金とすることもできることとしました(447条1
第3の例外としては、準備金を減少してその
項2号)。なお、資本剰余金に計上してしまえば、
全額を資本金に組入れる場合であり、全部を資
その後は債権者保護手続をすることなく分配が
本金に組入れるのであれば債権者保護に欠ける
可能になります。
ことはないので、債権者保護手続を要しません
上記の株主総会手続の例外として2つの場合
があります。
(449条1項括弧書き)
。
4
剰余金の資本・資本準備金への組入れ
第1の例外として、定時株主総会による欠損
株主総会の普通決議により、剰余金を資本に
金の填補をする場合は、普通決議で足ります(309
組入れすることだけでなく、資本準備金へ組入
条2項9号イ・ロ)14。欠損金の填補のためだけ
れることも制限なくできるようになりました
であれば分配可能額が発生せず、一部解散・清
(451条)
。なお、株主に不利益な処分を取締役会
算の要素がないからです。定時株主総会に限っ
決議で行なうことは認められないので、剰余金
ているのは、欠損金の額を正確に把握するため
配当は取締役会が決定する旨の定款の定めを設
です。
けている会社でも、これを取締役会決議で行な
第2の例外として、新株発行と同時に資本金
うことはできません。
を減少して、資本金の額が(既存の額を)下回
らないようにする(つまり、新株発行によって
増加すべき資本金額の範囲内で資本減少を行
第4
1 剰余金の処分
う)場合は、取締役会決議で足ります(447条3
項)
。結局のところ資本金が減少しないのであれ
会社法では、剰余金の額に変動をきたす行為
を「剰余金の処分」と呼んでいます(452条)。
ば、既存株主への財産的影響はないためです。
3
準備金の減少手続
剰余金の処分・配当
剰余金の処分とは、具体的には、剰余金の配
当・自己株式の有償取得・損失の処理・任意積
原則として、株主総会の普通決議(448条1項)
立金の積立て(以上につき452条)、剰余金の資
及び債権者保護手続(449条1項)が必要です。
本組入れ(450条)
、剰余金の準備金組入れ(451
例外としては次の3つがあります。
条)を言います。
第1の例外ですが、剰余金の配当を取締役会
これらは、株主総会決議において行ないます
決議でできる要件を備えた会社は、欠損金填補
が、定時株主総会にて行なう必要はありません。
のための準備金の減少について取締役会の決議
また、剰余金の配当を取締役会でできる要件を
事項とする旨定款で定めた場合には、そのため
備えた会社は剰余金の処分も取締役会でできま
の準備金の減少は取締役会決議ででき(459条1
す(459条1項3号)
。
項2号・3項)、債権者保護手続も不要です(449
2
条1項但書き)。
剰余金の配当等の事前規制
旧商法における利益処分、中間配当、減資・
第2の例外は、新株の発行と同時に準備金を
減準備金に伴う払戻し、自己株式の買受けは、
減少し、準備金の額が(既存の額を)下回らな
いずれも剰余金を原資とした株主への還元です
いようにする(つまり、新株発行によって増加
ので、会社法では「剰余金の配当等に関する責
すべき準備金額の範囲内で準備金の減少を行
任」という一節を設けて、これらに統一的な財
う)場合であり、取締役会決議でできます(448
源規制を適用しています。
14. 欠損の額につき、計算規則179条をご参照下さい。
37
38 Kitahama Law Review別冊版
会社法は、事前の財源規制として、分配可能
額を超える金銭の交付を禁止していますが(461
は、定款で定めれば取締役会決議で行なうこと
が可能です(459条)
。
条1項)、事前の財源規制に服する行為は、剰余
なお、取締役会設置会社であれば、定款で定
金の配当(旧商法の利益処分、中間配当だけで
めることにより、中間配当は取締役会決議で行
なく、減資・減準備金に伴う払戻しも剰余金の
なえます(454条5項)。
配当の一態様として取り込まれました。
)と自
5
現物配当
己株式の取得のうち会社の意思に基づく取得で
会社法では、金銭以外の財産も配当財源とす
す。なお、人的分割は、会社法では物的分割に
ることができますが、株式・新株予約権・社債
剰余金の配当を加えたものとして規定されてい
は配当財源にできません(454条1項1号)
。
ますが、財源規制は適用されません(792条)。
3
分配可能額
分配可能額は、剰余金に一定の加減を行なっ
て求めます(461条2項)15。
ここに「剰余金」とは、基準となる額(最終
事業年度の末日における資産の額と自己株式の
また、現物配当を行う場合には、一定の数未
満の株式を有する株主に対して配当財産の割当
をしないことを定めることができますが(454条
4項2号)
、その場合には、当該一定数に達しな
い基準未満株式に対しては、金銭による相当価
額の支払をしなければなりません(456条)
。
帳簿価額の合計額から負債の額と資本金・資本
更に、現物配当は、当該配当財産に代えて金
準備金の合計額を控除した額)から一定の額(期
銭を請求する権利(金銭分配請求権)を株主に
中の自己株式の処分差益、資本金減少額、準備
与える場合は、通常の剰余金の配当と同じく株
金減少額)を加算し、一定の額(期中に消却し
主総会の普通決議または取締役会決議にて行う
た自己株式の帳簿価額、剰余金の配当額等)を
ことができますが、金銭分配請求権を与えない
減じて得た額を言います(446条)。
場合は、株主総会の特別決議が必要です(309条
なお、分配可能額が算出される場合であって
も、純資産額が300万円を下回る場合は配当でき
ません(458条)。
4
配当手続
2項10号)
。
6
剰余金の分配の事後規制
剰余金の分配の事後規制としては、次の3つが
あります。
旧商法においては、利益配当の回数は通常の
第1は、分配可能額を超えて剰余金を配当した
配当と中間配当との年2回に限られていました
場合、配当を受けた株主、その配当を提案した
(旧商法293条ノ51項)。しかし、上記のような
取締役・その提案に賛成した取締役などは、連
分配可能額の範囲内で配当を行う限り、その回
帯して弁済責任を負います(462条)16。旧商法
数を制限すべき理由はありませんので、会社法
と異なり、この責任は、分配可能額を超過した
においては、剰余金の配当について回数制限は
部分については株主全員の同意によっても免除
設けられませんでした(453条、454条1項)。
できないものとされました(462条3項)
。
剰余金の配当は、原則として株主総会の普通
第2に、第116条第1項による反対株主の買取
決議によります(454条1項)。例外として、会
請求権の行使に応じて、対価を支払った日の分
計監査人設置会社のうち、委員会設置会社およ
配可能額を超える対価で自己株式を取得した場
び取締役の任期を1年とする監査役会設置会社
合も、連帯して弁済責任を負います(464条)
。
15. 加減する額の定めにつき計算規則184条ないし186条をご参照下さい。
16. 責任を取るべき取締役につき計算規則187条をご参照下さい。
Kitahama Law Review別冊版
なお、多数の株主の賛成に基づき行われる組織
任は課せられません。
再編行為に際して株式買取請求権が行使された
第3に、期末の填補責任があります(465条1
場合や当初から株主の権利として与えられてい
項)。欠損判定時期は、計算書類の確定時とされ
る単元未満株式の買取請求権が行使された場合
ました。欠損額または社外流出額のいずれか少
(785条1項等、192条)には、このような弁済責
第5
第1
1
ない金額を連帯して支払う義務を負います。
組織再編・変更
組織再編
概要
会社法は、組織再編行為として、(1)①吸収
合併(2条27号)
、②新設合併(2条28号)
、
(2)
弁護士
原
吉宏
(新設合併設立会社、新設分割設立会社、株式
移転設立完全親会社)の株式に限定されるこ
とを原則として各種の規律が設けられていま
した。
①吸収分割(2条29号)、②新設分割(2条30
しかしながら、近年グループ事業等の再構
号)
、(3)株式交換(2条31号)及び(4)株式
築の必要性や、買収、事業統合等を含む企業
移転(2条32号)を規定しています(以下、吸
活動の国際化等を背景に、経済界を中心とし
収合併、吸収分割、株式交換を併せて「吸収型
て、組織再編行為の対価を柔軟化すべきであ
再編」、新設合併、新設分割、
株式移転を併せて「新
るとの要望が高まっています。
設型再編」といいます。)
。
また、会社法は、組織再編行為の他、グルー
そこで、会社法は、吸収型再編、すなわち、
吸収合併(749条1項2号、751条1項3号)、
プ再編や企業買収に利用可能な制度として、事
吸収分割(758条4号、760条5号)及び株式
業譲渡等(467条1項1ないし4号)を規定して
交換(768条1項2号、770条1項3号)の場
おり、組織再編行為と概ね同様の規律がなされ
合において、組織再編行為の対価として、金
ています(以下、組織再編行為と事業譲渡等を
銭その他の財産の交付を認めることにしまし
合わせて「組織再編行為等」といいます。)
。
た。
かかる組織再編行為等自体は、現行商法にお
具体的には、金銭の他、吸収合併存続会社、
いても認められていましたが、会社法において
吸収分割承継会社又は株式交換完全親会社(以
は、対価の柔軟化、簡易組織再編の範囲拡大、
下、併せて「存続会社等」といいます。)又は
略式組織再編の導入、株式買取請求権や新株予
その親会社の株式、新株予約権、社債もしく
約権の承継に関する規定の整備、といった改正
は新株予約権付社債等、その金額又は数量に
が行われています。以下、詳述します。
より容易に価値を判定できる財物が組織再編
2
行為の対価として選択されることが想定され
対価の柔軟化
(1)概説
39
ています。
旧商法では、組織再編行為の対価は、吸収
他方、新設型再編、すなわち、新設合併(753
合併の存続会社(吸収合併存続会社)
、吸収分
条1項8、9号)
、新設分割(763条8、9号)
割の承継会社(吸収分割承継会社)
、株式交換
及び株式移転(773条1項7、8号)につい
の完全親会社となる会社(株式交換完全親会
ては、株式に加えて(株式を全く発行しない
社)又は組織再編行為により設立される会社
ことは認められていません。)、社債、新株予
40 Kitahama Law Review別冊版
約権又は新株予約権付社債を交付することが
収合併存続会社がその親会社(株式会社を
認められていますが、金銭等、これ以外の財
子会社とする会社その他の当該株式会社の
産を交付することは認められていません。
経営を支配している法人として法務省令で
会社法においては、株式の種類によって組
)の株式を対価と
定めるもの1〔2条4号〕
織再編行為の対価を区別すること(749条2
して交付するいわゆる「三角合併」が可能
項、753条2項、768条2項、773条2項)、
となります。
及び保有する株式の数に応じて対価を交付す
会社法においては、外国会社との直接的
ること(749条3項、751条3項、768条3項、
な合併や株式交換は認められていませんが、
770条3項)が予定されています。
外国会社は、三角合併を利用することに
なお、対価の柔軟化に関する規律は、外国
より、株式交換と同様の目的を達すること
会社による買収に対する警戒論から、施行日
が可能となります。すなわち、外国会社は、
が1年延期されることとなりました(会社法
当該外国会社の株式を対価として、日本の
附則4条)が、対価の柔軟化そのものは、株
完全子会社と買収対象企業を合併させるこ
主総会における特別決議による承認を要する
とにより、株式交換を活用した場合と同様
ものであって、友好的に行われるものであり、
の方法で日本企業を買収することが可能に
法律的・論理的には敵対的買収を増加させる
なります。もっとも、現時点では、税の繰
ものではないので、かかる延期処置の当否に
り延べ措置が規定されておらず、この点が
ついては疑問が呈されているところではあり
手当てされない限り、現実的には三角合併
ます。
を利用することは可能とはならないとの指
(2)意義・活用法
ア 交付金合併
摘がなされています2。
なお、会社法においても、子会社による
組織再編行為の対価の柔軟化により、吸
親会社株式の取得は原則として禁止されて
収合併消滅会社の株主に対して金銭のみを
います(135条1項)が、組織再編行為に
交付する「交付金合併」(キャッシュ・ア
際して交付する対価として親会社株式を選
ウト・マージャー)が可能となります。か
択した場合には、例外的に、その交付に必
かる交付金合併は、個別株主の同意を得る
要な限度で、子会社が親会社株式を取得し、
ことなく株式を金銭で買い取るのと同じ効
保有することが認められています(800条)。
果を有するものであり、少数株主を残すこ
となく会社を現金で買収することが容易に
なったと言うことができます。具体的には、
(3)問題点
ア 少数株主の締め出し
交付金合併等が可能になると、少数株主
MBO( マネジメント・バイアウト、経
の締め出しのみを目的とするような不公正な
営陣による買収)によるゴーイング・プラ
組織再編行為が行われるおそれがあります。
イベート(非上場化)の場面等で利用する
不公正な組織再編行為に対しては、特別
ことが考えられます。
利害関係人の議決権行使による「著しく
イ 三角合併
不当な決議」がなされたものとして、株主
組織再編行為の対価の柔軟化により、吸
1. 施行規則3条2、3項をご参照下さい。
2. 神田秀樹「組織再編」ジュリスト1295号129頁をご参照下さい。
総会決議の取消しの訴え(831条1項3号。
Kitahama Law Review別冊版
組織再編行為の成立後は組織再編行為無効
。
条1号〔株式交換完全子会社〕等4)
の訴え〔828条1項7、9、11号〕
)を提
この対価の内容等の相当性に関する事項
起すること等が考えられます。この点、会
を記載した書面については、事業統合によ
社法がいわゆる強制買収制度の採用を見
るシナジー効果を踏まえた判断を記載する
送った経緯からしても、正当な事業目的(プ
必要があると考えられますが、現実には、
ロパー・ビジネス・パーパス)が無く、少
組織再編の結果、想定していたシナジー効
数株主を排除することのみを目的とする交
果が発生するとは限らず、事前にシナジー
付金合併等(例えば、休眠会社を存続会社
効果を算出することには困難が伴う場合も
とする合併等を行った結果、少数株主が排
少なくないと思われます。
除されるような場合等)までを会社法が容
認しているとは考え難く、かかる場合は「著
しく不当な決議」に該当すると解する見解
が提唱されています3。
41
(4)対価の種類が異なる場合の消滅会社等の
手続
会社法においても、組織再編行為を行うに
は、原則として、当事会社のいずれについて
なお、かかる見解に立つとしても、100
も株主総会で特別決議(定款によって可決要
パーセント子会社化を目指した公開買付が
件を加重することも可能です。)による承認を
行われ、その手続の中で第2段階の交付金
得ることが必要です(309条2項12号)
。但し、
合併等の内容が開示され、公開買付価格と
会社法は、①組織再編行為により譲渡性の低
交付金額が実質的に同等であるような場合
い対価を交付される消滅会社等の株主の保護
には、全体を一連の買収行為と見ることが
を図る必要性や、②組織再編行為により消滅
できるので、交付金合併等の部分のみをと
会社の株主等に譲渡制限株式を発行される存
らえて「著しく不当」と評価するべきでは
続会社等の株主の保護を図る必要性から、次
ないと解されています。
のとおり承認要件を変更している場合があり
イ 対価の相当性
ます5。
組織再編行為の対価の柔軟化に伴い、株
主や債権者にとって対価の価値及び内容が
ア 吸収型再編における消滅会社等につい
て
重要な関心事項となることから、対価の内
① 吸収合併消滅会社又は株式交換完全子
容や算定方法等の相当性に関する事項を記
会社が公開会社である場合において、
載した書面等が開示書類として定められて
対価の全部又は一部が譲渡制限株式そ
います(782条1項・施行規則182条1号
の他これに準ずるものとして法務省令
〔吸収合併消滅株式会社〕、施行規則183条
で定めるもの6(以下「譲渡制限株式等」
1号〔吸収分割株式会社〕
、施行規則184
といいます。
)であるときは、株主総会
3. 池田裕彦「活用範囲が拡大した組織再編制度」ビジネス法務2005年6月号77頁、「弥永真生「リーガルマインド会社法(第
9版)
」有斐閣 376頁をご参照下さい。「正当な事業目的」要件を不要とする見解としては、
田中亘「組織再編と対価柔軟化」
法学教室304号81頁、菊池伸「新会社法を活用したM&A戦略」企業会計2005年6月号243頁をご参照下さい。
4. 794条1項・施行規則191条1号(吸収合併存続株式会社)
、施行規則192条1号(吸収分割承継株式会社)
、施行規則193
条1号(株式交換完全親株式会社)、803条1項・施行規則204条1号(新設合併消滅株式会社)、施行規則205条1号(新
設分割株式会社)、施行規則206条1号(株式移転完全子会社)、815条3項1号・施行規則213条(新設合併設立株式会社)
も併せてご参照下さい。
5. 株主総会の決議要件について図表形式で分かり易く整理したものとして、相澤哲・細川充「組織再編行為(下)
」商事法務
1753号39ないし41頁をご参照下さい。
42 Kitahama Law Review別冊版
の特殊決議が必要とされています(309
ける種類の株式の株主全員の同意が必
条3項2号・783条1項)
。特殊決議ま
要とされています(783条4項)
。
でが必要とされる理由は、この場合の
行為が譲渡制限の定款変更を行うこと
イ 吸収型再編における存続会社等につい
て
(309条3項1号により特殊決議が必要
存続会社等が種類株式発行会社である場
となります。
)に匹敵していることにあ
合において、対価の全部又は一部が存続会
ります。
社等の種類株式(譲渡制限株式)であると
② 吸収合併消滅会社又は株式交換完全子
きは、当該種類株式(譲渡制限株式)の種
会社が種類株式発行会社でない場合に
類株主を構成員とする種類株主総会の特別
おいて、対価の全部又は一部が持分会
決議が必要とされています(324条2項6
社の持分その他これに準ずるものとし
号・795条4項)
。種類株主総会の特別決
7
て法務省令で定めるもの (以下「持分
議が必要とされている理由は、この場合の
等」といいます。)であるときは、総株
行為が種類株式の募集を行うこと(324条
主の同意が必要とされています(783条
2項2号・199条4項により種類株式の特
2項)
。総株主の同意が必要とされる理
別決議が必要となります。
)に匹敵してい
由は、この場合の行為が組織変更を行
ることにあります。
うこと(776条1項により総株主の同意
ウ 新設型再編における消滅会社等につい
が必要となります。)に匹敵しているこ
とにあります。
て
① 新設合併消滅会社又は株式移転完全子
③ 吸収合併消滅会社又は株式交換完全子
会社が種類株式発行会社でない公開会
会社が種類株式発行会社である場合に
社である場合において、組織再編行為
おいて、対価の全部又は一部が譲渡制
の対価の全部又は一部が譲渡制限株式
限株式等であるときは、当該譲渡制限
等であるときは、株主総会の特殊決議
株式等の割当を受ける種類の株式(譲
が必要とされています(309条3項3
渡制限株式を除く。)の種類株主を構成
号・804条1項)
。
員とする種類株主総会の特殊決議が必
② 新設合併設立会社が持分会社である場
要とされています(324条3項2号・
合には、総株主の同意が必要とされて
783条3項)。
います(804条2項)
。
④ 吸収合併消滅会社又は株式交換完全子
③ 新設合併消滅会社又は株式移転完全
会社が種類株式発行会社である場合に
子会社が種類株式発行会社である場合
おいて、対価の全部又は一部が持分等
において、組織再編行為の対価の全部
であるときは、当該持分等の割当を受
又は一部が譲渡制限株式等であるとき
6. 施行規則186条において、
「吸収合併存続株式会社、株式交換完全親株式会社、新設合併設立株式会社及び株式移転設立完全
親会社の取得条項付株式又は取得条項付新株予約権(いずれも取得の引換えに交付される株式の種類が当該会社の譲渡制限
株式であるものに限られます。
)」とされています。なお、同条は、省令施行後1年を目処として、合併等の対価に係る検討
の結果に基づき、必要な見直し等の措置を講ずるものとされています(施行規則附則9条)
。
7. 施行規則185条において、
「権利の移転又は行使に債務者その他第三者の承諾を要するもの」
とされています。なお、同条は、
法務省令施行後1年を目処として、合併等の対価に係る検討の結果に基づき、必要な見直し等の措置を講ずるものとされて
います(施行規則附則9条)。
Kitahama Law Review別冊版
は、当該譲渡制限株式等の割当を受け
会決議を省略できる要件として、発行済株
る種類の株式(譲渡制限会社を除きま
式数の要件を廃止し、資産割合の要件に統
す。)の種類株主を構成員とする種類株
一するとともに、その比率を引き上げてい
主総会の特殊決議が必要とされていま
ます(簡易組織再編行為)
。
す(324条3項2号・804条3項)。
3
機動的な組織再編
(1)概説
43
すなわち、吸収合併消滅会社もしくは株
式交換完全子会社の株主(もしくは社員)
又は吸収分割会社(以下「消滅会社等の株
旧商法では「会社が新株発行又は借財によ
主等」といいます。
)に交付する①存続会
り新規に投資をする場合には原則として取締
社等の株式数に存続会社等の1株当たり純
役会で決定できるにも拘らず、既存の他の会
資産額(算定方法は法務省令で定められま
社の事業を組織再編行為により取得する形式
)を乗じた額と②存続会社等の株式以
す8。
で投資を行う際には原則として株主総会の特
外の財産の合計額が存続会社等の純資産額
別決議が必要であって煩雑である」との指摘
(算定方法は法務省令で定められています9。
がされており、平成9年の商法改正等により
以下同じ。)の20%(定款でこれを下回る
株主総会決議を要しない簡易合併等の制度が
割合を定めることもできます。以下同じ。
)
導入されたものの、当該制度を利用できるの
以下である場合には、株主総会決議は不要
は、組織再編行為に際して発行する株式が発
とされました(796条3項)
。
行済株式の5%以下である場合等に限定され
イ 分割会社について
ているため、その規制緩和が要請されていま
した。
会社法では、分割会社において、承継さ
せる資産が総資産(算定方法は法務省令で
そこで、会社法は、前述のとおり、組織再
)の20%以下である
定められています10。
編行為等を行うには原則として株主総会の特
場合には、株主総会決議を省略できること
別決議を必要とする規律を維持する(309条
になりました(吸収分割会社につき784条
2項12号)一方、機動的に組織再編行為等
3項、新設分割会社につき805条)
。
を実行するため、簡易組織再編行為等の要件
ウ 事業の一部の譲渡会社及び事業全部の
を緩和すると共に、米国等におけるいわゆる
譲受会社について
ショートフォーム・マージャー(組織再編行
会社法では、総資産(算定方法は法務省
為等を行う一方の会社が他方の会社をほぼ完
)の20%以下の
令で定められています11。
全に支配しているような関係がある場合には、
資産を譲渡する場合には、その事業を譲渡
被支配会社における株主総会の開催を要しな
する会社における株主総会決議は省略で
いとする制度です。)を参考として、略式組織
きることになりました(467条1項2号)
。
再編という制度を新設しました。
また、20%を超えていても、重要な事業
(2)簡易組織再編
ア 存続会社等について
会社法では、存続会社等において株主総
8. 141条2項、施行規則25条1項をご参照下さい。
9. 施行規則196条をご参照下さい。
10. 施行規則187条、207条をご参照下さい。
11. 施行規則134条をご参照下さい。
でなければ株主総会決議を省略することが
できます(467条1項2号)。この点、経
済的に同様の効果が生ずる会社分割におい
44 Kitahama Law Review別冊版
ては、総資産の20%を超える資産の移転
等の譲渡制限株式である場合には、種
がなされる場合には、承継される権利義務
類株式の募集をするのに匹敵すること
の重要性を問わず、株主総会の決議が必要
から、株主総会の決議が必要になりま
とされています(784条3項)。
す(796条3項但書・1項但書)。
他方、事業全部を譲り受ける会社につい
③ 存続会社等において吸収合併等により
ては、事業全部の対価として交付する財産
差損が生じる場合には、他の会社が過
の価額が純資産(算定方法は法務省令で定
去に計上した損失の引受けという要素
められています12。)の20%以下である場
があり、株主への影響が軽微とは言え
合には、株主総会決議は省略できることに
ませんので、株主総会の決議が必要と
なりました(468条2項)。
されています(796条3項但書・795条
なお、会社法では、他の法人法制と統一
的に、法人が行うべき活動の全てを「事業」
として整理する観点から、従前の「営業」
2項)
。
オ 簡易組織再編行為等における少数株主
保護
を「事業」に置き換えており、「営業譲渡」
簡易組織再編行為等においては、前項の
に代わって「事業譲渡」の概念が導入され
株主総会の決議を要する場合の他、以下の
ました13が、「事業譲渡」の意義について
ような制度を規定することにより少数株主
は営業譲渡に関する従前の判例の解釈(最
の利益保護を図っています。
大判昭和40年9月22日)が妥当すると解
① 簡易組織再編行為等に反対の存続会社
されます14。
等の株主については、株式買取請求権
エ 株主総会決議を要する場合
が認められています(469条1項、797
簡易組織再編行為等の要件を充足する場
合でも、株主保護の観点等から、以下の場
条1項)
。
② 簡易組織再編行為が違法に行われた場
合には株主総会決議が必要とされています。
合には、株主は、当該簡易組織再編行
① 存続会社等及び事業の譲受会社におい
為の無効の訴えを提起することができ
ては、法務省令で定める数15の株式を有
する株主が通知又は公告の日から2週
間以内に当該組織再編行為等に反対す
ます(828条1項7ないし12号)。
(3)略式組織再編
ア 意義
る旨を存続会社等に対して通知したと
会社法は、吸収型再編及び事業譲渡等
きは、原則に戻るべきですので、株主
において、一方の会社(特別支配会社)
総会の決議が必要となります(796条4
及びその完全子会社その他これに準ずるも
項、468条3項)。
のとして法務省令で定める法人16が、他方
② 存続会社等が公開会社でない場合にお
の会社(被支配会社)の総株主の議決権の
いて、対価の一部又は全部が存続会社
90%(被支配会社の定款でこれを上回る割
12. 施行規則137条をご参照下さい。
13. 相澤哲・郡谷大輔「定款の変更、事業の譲渡等、解散・清算」商事法務1747号5頁をご参照下さい。
14. 前掲13・6頁、神田秀樹・武井一浩「対談・組織再編・計算関係」企業会計特別保存版、新「会社法」詳解86頁・神田発
言をご参照下さい。
15. 施行規則197条、施行規則138条をご参照下さい。
「株主総会が開催されたとすれば、当該決議が成立するか否か」が基準
になっていると言えます。
Kitahama Law Review別冊版
合を定めることも可能です。
)以上を有し
集を行うのに匹敵することから、株主
ている場合には、被支配会社の株主総会の
総会の決議(特別決議)が必要になり
省略を認めています(略式組織再編行為等、
ます(796条1項但書)
。
468条1項、784条1項、796条1項)。
ウ 略式組織再編行為等における少数株主
簡易組織再編行為等においては、吸収合
保護
併消滅会社又は株式交換完全子会社の株主
略式組織再編行為等においては、前項の
総会決議を省略することは認められていま
株主総会の決議を要する場合の他、以下の
せんが、略式組織再編行為等においては、
ような制度を規定することにより少数株主
吸収合併消滅会社又は株式交換完全子会社
の利益保護を図っています。
の株主総会決議を省略することも可能とさ
① 被支配会社の株主は、略式組織再編行
れています。
為が法令もしくは定款に違反し、又は
イ 株主総会決議を要する場合
著しく不当な条件で行われたことによ
略式組織再編行為の要件を充足する場合
り、不利益を受けるおそれがある場合
でも、株主保護の観点等から、以下の場合
には、当該略式組織再編行為の差止め
には株主総会決議が必要とされています。
を請求することができます(784条2
① 被支配会社が吸収合併消滅会社又は株
項、796条2項)
。著しく不当な条件と
式交換完全子会社である場合
は、具体的には組織再編対価及びその
当該被支配会社(吸収合併消滅会社
割当てに関する事項が組織再編行為の
又は株式交換完全子会社)が公開会社
当事会社の財産の状況その他の事情に
であり、かつ種類株式発行会社でない
照らして著しく不当である場合を指し
場合において、対価の全部又は一部が
ます17。
譲渡制限株式等であるときには、譲渡
② 略式組織再編行為等に反対の株主は株
制限の定款変更を行うのに匹敵するこ
式買取請求権を行使することができま
とから、株主総会の決議(特殊決議)
す(785条1項、797条1項、469条1
が必要になります(784条1項但書)
。
項)
。
また、当該被支配会社(吸収合併消
③ 略式組織再編行為が違法に行われた場
滅会社又は株式交換完全子会社)が種
合には、株主は、当該略式組織再編行
類株式発行会社でない場合において、対
為の無効の訴えを提起することができ
価の全部又は一部が「持分等」である
ます(828条1項7号、9号、11号)。
ときは、総株主の同意が必要とされて
います(783条2項)。
② 被支配会社が存続会社等である場合
4
組織再編の活用範囲の拡大
(1)差損が発生する組織再編
旧商法では、債務超過会社を消滅会社とす
当該被支配会社(存続会社等)が公
る合併、債務超過会社を完全子会社とする株
開会社でない場合において、対価の全
式交換及び株式移転、又は債務超過会社を分
部又は一部が当該被支配会社の譲渡制
割会社とする会社分割が可能か否かについて
限株式であるときには、種類株式の募
は、解釈上争いがあり、登記実務上は、かか
16. 施行規則136条をご参照下さい。
17. 前掲5・44頁をご参照下さい。
45
46 Kitahama Law Review別冊版
る合併については登記申請を受理しない取り
社分割の要件では無いという旧商法の解釈を
扱いとされていました。
維持した上で、かかる理解を明らかにするた
この点、かかる規制により、むしろ恣意的
め、会社分割の対象を「事業」という事業活
な資産の評価換え等を行うといった弊害が生
動を含む概念ではなく、
「事業に関して有する
じ て い た と し て、 会 社 法 で は、 組 織 再 編 行
権利義務」という財産に着目した概念として
為により「差損が生ずる場合」を制度上認め、
表現しています22。
(3)人的分割の廃止
株主総会における取締役の説明を要求するこ
と(795条2項)や、簡易組織再編行為を禁止
会社分割の種類として、旧商法は物的分割
することにより、存続会社等の株主の保護を
(承継会社又は新設会社が、分割会社に対して
図っています18。
株式を交付するもの)と人的分割(承継会社
「差損が生ずる場合」とは、①吸収合併存
又は新設会社が、分割会社の株主に対して株
続会社又は吸収分割承継会社が承継する債務
式を交付するもの)の2つの概念を認めてい
の額(法務省令で定められています19。以下
ましたが、会社法は、従前の人的分割を、物
同じ。
)が資産の額(法務省令で定められてい
的分割及び分割会社による剰余金の配当を複
20
ます 。以下同じ。)を超える場合、②吸収合
合したものと構成し(758条8号ロ、763条12
併存続会社又は吸収分割承継会社が対価とし
号ロ)
、かかる剰余金の配当については財源規
て交付する金銭等の帳簿価額が、承継する資
制を課さないこととして(792条、812条)現
産の額から債務の額を控除した金額を超える
行法の実質を維持しつつ、会社分割は物的分
場合、③株式交換完全親会社が対価として交
割の概念により統一的に整理されることにな
付する金銭等の帳簿価額が、承継する株式完
りました。なお、剰余金の分配を伴う会社分
全子会社の株式の額(法務省令で定められて
割を行う場合には、財源規制を課さないこと
います21。以下同じ。)を超える場合を言うも
とのバランス上、債権者保護手続が義務づけ
のとされています(795条2項1ないし3号)。
られています(789条1項2号、810条1項2
(2)会社分割の概念
旧商法では、吸収分割により承継する財産
号)
。
5
組織再編行為の手続の流れ
を「営業」に限定していましたが、単に承継
旧商法は、組織再編行為に係る契約書を作成し
すべき営業を特定するだけでは具体的に承継
た後、まず株主総会決議を経た上で、株式買取請
されるべき権利義務が定まる訳ではなく、承
求及び債権者保護手続を行うこととしていまし
継される権利義務は吸収分割契約書・新設
たが、会社法では、組織再編行為の効力が発生す
分割計画書の記載により定められることから、
るまでにこれらの手続が終了していれば足りる
会社法では、会社分割の対象を「事業に関し
として、株主総会の決議、株式買取請求・新株予
て有する権利義務」(757条1項)と規定しま
約権買取請求手続、債権者保護手続等の手続につ
した。また、会社法は、事業活動の承継は会
いて、並行的に行うことを可能にしました23。
18. 相澤哲・細川充「組織再編行為(上)
」商事法務1752号9頁をご参照下さい。
19. 施行規則195条1項をご参照下さい。
20. 施行規則195条2ないし4項をご参照下さい。
21. 施行規則195条5項をご参照下さい。
22. 前掲18・5頁をご参照下さい。
23. 前掲5・37頁をご参照下さい。
Kitahama Law Review別冊版
47
(2)行使手続
よって、手続スケジュールを工夫することに
消滅会社等及び事業の譲渡等をする会社は、
より、組織再編行為の効力発生までに要する期
間を短縮させることが可能になっています。
株式買取請求権を行使できる全ての株主に対
6
して、①吸収型再編及び事業の譲渡等の場合
反対株主の株式買取請求権
は組織再編等の効力発生日の20日前までに、
(1)買取価格
組織再編行為等に関して、消滅会社等及び
②新設型再編の場合は株主総会決議の日から
事業譲渡等をする会社における反対株主や議
2週間以内に、組織再編行為を行う旨等の通知
決権制限株式の株主等(株主総会決議を要し
又は公告をすることが義務づけられています
ない場合は全ての株主)は、所定の手続に従っ
(469条 3 項、785条 3 項、797条 3 項、806
て、株式買取請求権を行使することが可能と
条3項)。株主が株式買取請求権を行使するた
されています(469条1項、785条1項、797
めには、株主総会に先立って組織再編行為等
条1項、806条1項)。
に反対する旨を通知し、かつ、当該株主総会
会社法においては、株式の買取価格につい
において反対することが必要ですが、議決権
て、旧商法における「承認ノ決議無カリセバ」
制限株式の株主及び株主総会の決議が省略さ
(旧商法408条ノ3)との限定文言が削除され、
れる場合の全株主については、かかる手続は
「公正な価格」と規定されました(469条1項、
不要とされています。
785条1項、797条1項、806条1項)。この
買取請求権の行使期間は①の場合は組織再
点、少数株主が株式を失うということは、組
編等の効力発生日の20日前から効力発生の
織再編行為後の将来事業から生じるリターン
前日までの間、②の場合は通知又は公告の日
に参加する機会にあずかることが不可能にな
から20日以内とされています(469条5項、
ることを意味するものであり、かかる観点から、
785条5項、797条5項、806条5項)
。
「公正な価格」との文言は、買取価格の算定に
また、買取価格について、①の場合は効力
際して、組織再編行為により生じるシナジー
発生日から30日以内に、②の場合は設立会社
(相乗)効果を勘案することを要請する趣旨と
の成立日から30日以内に協議が調わないとき
解されています。具体的には、上場株式の「公
は、株主又は消滅会社等及び事業譲渡等をす
正な価格」とは組織再編行為時の時価を基本
る会社は、当該期間の満了日後30日以内に、
とするが、例えば、組織再編行為の直前に消
裁判所に対し、価格の決定の申立をすること
滅会社の株式について公開買付が行われ、そ
ができます(470条2項、786条2項、798条2項、
の公開買付が成功した後に株価が下落したと
807条2項)
。
いうような場合には、組織再編行為によるシ
なお、株式買取請求権の行使後の請求の取
ナジー効果は公開買付価格に反映され、公開
下げについては、原則として当該株式会社の
買付後に株価が下落したのは、公開買付の実
同意を要する旨規定されています(469条6
施者による支配プレミアムの取得の影響によ
項、785条6項、797条6項、806条6項)
。
るものと考えられるので、通常、「公正な価
格」が公開買付価格を下回ることはないとの
考え方が示されています24。
7
新株予約権の承継手続
旧商法において、組織再編行為に際して新株
予約権を承継する手続は必ずしも明らかではあ
りませんでしたが、会社法はこれを明確化しま
24. 細川充「組織再編行為」税経通信2005年11月臨時増刊号116頁をご参照下さい。
48 Kitahama Law Review別冊版
した。すなわち、①新株予約権の発行時に、組
ものとして法務省令で定めるもの25)以外の場合
織再編行為をする場合には新株予約権者に存続
には、完全親会社となる会社において債権者保
会社等の新株予約権を交付する旨およびその条
護手続をとることが必要になりました(799条1
件を定めておき(236条1項8号)、かつ、②組
項3号)
。
織再編行為に係る契約において具体的な交付条
また、株式交換や株式移転に際して、新株予
件を定めることになります(吸収合併につき749
約権付社債に係る債務が子会社となる会社から
条1項4号、5号、新設合併につき753条1項
親会社となる会社に移転する場合には、(新株予
10号、11号、吸収分割につき758条5号、6号、
約権付)社債権者からすれば債務者が変更され
新設分割につき763条10号、11号、株式交換に
ることになるため、債権者保護手続をとること
つき768条1項4号、5号、株式移転につき773
が必要になりました(789条1項3号、799条1
条1項9号、10号)。
項3号、810条1項3号)。
組織再編行為に係る契約において定められた
9
会計処理
交付の具体的条件が、新株予約権発行時に定め
旧商法では、株式交換・株式移転に際して完
られた交付の条件と合致しないときは、消滅会
全親会社となる株式会社の資本金及び資本準備
社等の新株予約権者は、消滅会社等に対し、自
金(以下「資本金等」といいます。)の増加限度
己の有する新株予約権を公正な価格で買い取る
額を完全子会社となる株式会社の純資産額を基
ことを請求することができます(787条1項、
準に定めていますが、株式会社の資本金等の増
808条1項)。また、承継に関する定めが設けら
加限度額は当該株式会社が受け入れた財産を基
れていない新株予約権についても、組織再編行
準にするのが原則であること等から、会社法に
為を行う際に、存続会社等の新株予約権を交付
おいては、取得する株式の価値を基準として定
する旨定めることは可能ですが、この場合にも
めることとされました。
なお、組織再編行為等の際の資本金等や剰余
新株予約権買取請求権が与えられます(787条1
項、808条1項)。
新株予約権の買取請求権に係る手続は概ね株
式買取請求権に準ずる手続で行われます。
8
債権者保護手続
金の計上の取り扱いについては、法務省令で規
。
定されています26(445条5項参照)
10
効力発生日
旧商法では、組織再編行為の効力は登記の日
旧商法では、株式交換や株式移転の場合には、
に発生するとされており、組織再編行為の実質
債務の承継や、会社財産の実質的財産流出が無
的な効力発生日が法律上の効力発生日(登記の
いことから、債権者保護手続は不要とされてい
日)と異なる結果、上場企業の株式の円滑な流
ました。
通を阻害する事態等が生じるとの指摘がなされ
しかし、会社法では、株式以外の財産を対価
ていました。
とする株式交換も可能となったので、対価が不
そこで、会社法では、吸収型再編については、
当である場合には、完全親会社となる会社の責
合併契約書等に定める「効力発生日」(749条1
任財産が不当に流出し、債権者を害する事態が
項6号、758条7号、768条1項6号)に効力が
生じ得ることになりました。そこで、対価が株
生 じ る も の と さ れ(750条 1 項、759条 1 項、
式交換完全親会社の株式(その他これに準ずる
769条1項)、実質的な効力発生日と法律上の効
25. 施行規則198条をご参照下さい。
26. 計算規則12ないし35条、58ないし73条、76ないし84条等をご参照下さい。
Kitahama Law Review別冊版
力発生日とが一致することになりました。ただ
③ 株式交換については、完全子会社は株式会
し、合併による会社の消滅については、合併の
社に限られますが、株式会社と合同会社が
登記をしなければ、第三者(善意・悪意は問い
完全親会社となることができます(767条、
ません。)に対抗することはできません(750条
2条31号、768条、770条)
。
2項)。吸収分割の場合も、効力発生日後に分割
④ 株式移転については、完全親会社・完全子
会社が分割対象財産を第三者に譲渡した場合等
会社ともに株式会社に限られ(772条、2
27
は対抗問題として処理されることになります 。
条32号、773条)
、持分会社が完全親会社又
他方、新設型再編については、旧商法同様、
は完全子会社になることはできません。
会社の設立登記の時に効力が生じることとされ
ています(754条1項、764条1項、774条1項)
。
11
会社分割における労働契約の承継
第2
1
組織変更について
組織変更の意義
現行の会社分割に伴う労働契約の承継等に関
旧商法では、人的会社(合名会社・合資会社)
する法律(労働契約承継法)では、会社分割に
と物的会社(有限会社・株式会社)間の組織変
際して行う労働者に対する通知と労働者の協議
更は認められておらず、ただ、合名会社又は合
との先後関係が必ずしも明確では無かったた
資会社が合併によって株式会社を設立すること
め、整備法による改正後の商法等の一部を改正
が認められていたに過ぎませんでした(旧商法
する法律附則5条1項は、分割会社は、労働契
56条、411条)。
約承継法2条1項の規定による通知をすべき日
しかし、合併によらなければ合名会社や合資
までに、労働者と協議する旨規定し、この点を
会社が株式会社へ組織変更できないというのは
明確化しました。
迂遠ですし、合名会社や合資会社から株式会社
12
に組織変更することは、合併をして株式会社に
持分会社における組織再編
旧商法では、会社分割、株式交換、株式移転
に関する規定は、株式会社にしか存在しません
なる場合に比べ、債権者に与える影響が大きい
とは言えないとの指摘もなされました。
でした(合併については当事会社に株式会社が
そこで、会社法は、株式会社が持分会社とな
含まれる場合には新設会社又は存続会社は株式
り、持分会社が株式会社となる組織変更を認め
会社にする必要がありました。)が、会社法は、
ることにしました(743条ないし747条)。なお、
次のとおり、持分会社についても組織再編に関
持分会社間の変更(例えば、合名会社から合資
する規定を設けています。
会社への変更等)は組織変更ではなく、定款変
① 合併については、全ての種類の会社間にお
更の手続を経ることになります(会社の種類の
ける合併が認められ、持分会社を新設会社
変更、638条)
。
又は存続会社とする合併(751条、755条)
2
も認められています。
② 会社分割については、分割会社は株式会社
と合同会社に限られますが(757条、2条29
株式会社から持分会社への組織変更
株式会社から持分会社に組織変更する場合に
は、以下の①ないし⑦の手続をとる必要があり
ます。
号、762条1項、2条30号)、承継会社・新
① 組織変更計画の作成(743条、744条1項)
設会社は全ての持分会社がなることができ
② 組織変更計画に関する書面等の備置き及び
ます(760条、765条)。
27. 前掲18・13頁をご参照下さい。
閲覧等(775条)
49
50 Kitahama Law Review別冊版
③ 総株主の同意(776条1項)
は、以下の①ないし④の手続をとる必要があり
④ 登録株式質権者及び登録新株予約権質権設
ます。
定者への通知又は公告(776条2項・3項)
3
① 組織変更計画の作成(743条、746条1項)
⑤ 新株予約権買取請求(777条、778条)
② 総社員の同意(781条1項)
⑥ 債権者保護手続(779条)
③ 債権者保護手続(781条2項、779条)
⑦ 組織変更の登記(920条、930条3項)
④ 組織変更の登記(920条、930条3項)
持分会社から株式会社への組織変更
以
上
持分会社から株式会社に組織変更する場合に
第6
第1
1
有限会社・LLC・LLP
弁護士
荒川
雄二郎
有限会社
法の規定による株式会社として存続するものと
株式会社と有限会社の統合
されます(整備法2条1項)。そのための定款
新会社法の制定による旧商法の実質改正の大
変更や登記申請等の特別の手続は、原則として
きな目玉の一つが、株式会社と有限会社の統合
不要です。但し、例外があり、後述のとおり、
です。新会社法の制定にあたっては、従来の有
整備法10条によって種類株式とみなされた株式
限会社に認められていた諸制度を株式譲渡制限
の種類、内容および種類ごとの数を、会社法の
会社に取り込むことによって、実質的にはその
施行日から6か月以内に登記する必要がありま
一類型として有限会社制度を維持しつつ、有限
す。
会社法(昭和13年法律第74号)を廃止して、独
3
立した会社類型としてはこれを廃止することと
特例有限会社に関する会社法の特則
(1) 商号に関する特則
しました(会社法の施行に伴う関係法律の整備
既存の有限会社は、新会社法施行後は、そ
等に関する法律(以下「整備法」と略記します。
の商号中に有限会社という文字を用いなけれ
1条3号)。
ばならないとされており(整備法3条1項)
、
新会社法の施行日に存在する有限会社は、施
特例有限会社と呼ばれます(整備法3条2項)。
行日以後は、新会社法の規定による株式会社と
これは、会社法の施行後、既存の有限会社
して存続しますが、その運営の継続性及び安定
について、法律的には株式会社となるが、実
性を確保するために必要な限度で、旧有限会社
質的には従前の有限会社とほぼ同様の規律を
と同様の規律を維持するために、整備法には会
受ける会社として存続することを認める趣旨
社法の特則等が定められています。
であり、逆に「株式会社」という商号の使用
なお、有限会社に関する整備法の規定のうち、
を認めると、取引相手等の誤認を生じさせる
3条から44条までに会社法の特則及び経過措置
おそれがあることから、
「有限会社」の文字を
が、45条及び46条に通常の株式会社への移行に
使用しなければならないとしたものです。か
関する規定が置かれています。
かる規定に違反した場合には、100万円以下
2
の過料に処せられますので、注意が必要です
旧有限会社の存続
有限会社であって新会社法の施行の際現に存
するものは、新会社法の施行日以後は、新会社
(整備法3条4項)。
(2) 株式の譲渡制限の定めに関する特則
Kitahama Law Review別冊版
特例有限会社の定款には、有限会社法19条
会社法332条、336条)は適用されず、監査
と同様の規律を維持するため、その発行する
役の選任に関する監査役の同意に関する規定
全部の株式の内容として当該株式を譲渡によ
も適用されません(整備法18条)。したがっ
り取得することについて当該特例有限会社の
て、特例有限会社の取締役と監査役について
承認を要する旨および当該特例有限会社の株
は、その任期に制限はありません。
主間の譲渡においては当該特例有限会社が新
(6) 監査役の監査範囲に関する特則
会社法136条または137条1項の承認をした
監査役を置く旨の定款の定めのある特例有
ものとみなす旨の定めがあるものとみなされ、
限会社の定款には、有限会社法33条の2と同
かかる定めと異なる内容の定款変更をするこ
様の規律を維持するため、その監査役の監査
とができないとされています(整備法9条)。
の範囲を会計に関するものに限定する旨の定
(3) 株主総会に関する特則
款の定めがあるものとみなされます(整備法
特例有限会社の総株主の議決権の10分の1
24条)
。これに対し、取締役の権限については、
以上を有する株主は総会招集請求権を有する
会社法348条、349条が適用されます。
とされており(整備法14条1項)、この請求
(7) 検査役選任、会計帳簿の閲覧請求等に関す
の後遅滞なく招集の手続きが行われない場合
る特則
など一定の場合に、裁判所の許可を得て自ら
特例有限会社の業務の執行に関する検査役
株主総会を招集できるものとされている点(同
の選任、会計帳簿の閲覧請求、役員解任の訴
条2項)は、有限会社法37条と同様です。ま
えの際の株主の資格要件については、いずれ
た、特例有限会社の株主総会特別決議の決議
も、有限会社法の規律に合わせ、「総株主の議
要件については、有限会社法48条1項と同様
決権の10分の1以上の議決権を有する株主」
に、「総株主の半数以上(これを上回る割合を
とされています(整備法23条、26条1項、39
定款で定めた場合にあっては、その割合以上)
条)
。
であって、当該株主の議決権の4分の3」と
(8) 計算書類の公告等に関する規定の適用除外
されています(整備法14条3項)。
特例有限会社には、計算書類等の公告およ
特例有限会社については、会社法上の書面
び支店備置の規定は適用されません(整備法
投票または電子投票の際の株主総会参考書類
28条)
。
等の株主への交付(会社法301条、302条)
、
(9) 特別清算に関する規定の適用除外
株主提案権(同303条ないし305条)
、総会検
特例有限会社については、従来の有限会社
査役(同306条、307条)といった会社法の規
と同じく、特別清算の規定が適用されません
定は適用されません。
(整備法35条)
。他方、特例有限会社も法的に
(4) 株主総会以外の機関の設置に関する特則
は株式会社であることから、会社更生法の適
特例有限会社における株主総会以外の機関
の設置については、その機関構成を従前と同
様のものとするため、取締役のほかは監査役
用を受けることとなります。
4
会社法の施行に伴う経過措置
(1) 旧有限会社の設立手続等の効力
のみを置くことができるものとされ、公開会
有限会社の設立、増資、合併(合併後の存
社でない大会社について会計監査人の設置を
続会社が有限会社となる場合のみ)、会社分割
求める新会社法328条2項は、適用されませ
(分割によって営業を承継する会社が有限会社
ん(整備法17条)。
である場合のみ)または株式会社と有限会社
(5) 取締役の任期等に関する規定の適用除外
との間の組織変更について施行日前に行なっ
取締役および監査役の任期に関する規定(新
51
た社員総会または株主総会決議その他の手続
52 Kitahama Law Review別冊版
は、施行日前にそれらの行為の効力が生じな
集手続が開始された資本減少、営業譲渡、合
い場合には、その効力を失うとされています
併等の手続、施行日前に提起された訴訟手続
(整備法4条)。
等に関しては、施行日以後も「なお従前の例
(2) 定款の記載事項に関する経過措置
による」とされ、有限会社法の規定に従って
有限会社の定款の定めのうち、目的、商号、
処理されることとされています(整備法15条、
本店所在地のほか、資本減少等の債権者保護
25条、27条 2 項、29条、30条、31条、36条、
手続の公告方法に関する定めは、いずれも存
40条1項、2項、41条)。
続する株式会社の定款の定めとみなされます
このように「なお従前の例による」ことと
(整備法5条1項ないし3項)。このうち公告方
されている場合においては、有限会社法中「社
法の定めについては、個々の手続におけるそ
員」とあるのは「株主」と、「社員総会」とあ
れではなく、存続する株式会社自体の一般的
るのは「株主総会」と、「社員名簿」とあるの
な公告方法の定めと看做されます(新会社法
は「株主名簿」とするほか、必要な技術的読
939条1項・3項後段)。なお、旧有限会社
替えは、法務省令で定めることとされていま
法においては公告方法が定款の任意的記載事
す(整備法44条)
。
項であったことから、各債権者保護手続につ
5
いて異なる2つ以上の公告方法が定められて
通常の株式会社への移行
特例有限会社は、株主総会決議をもってその
いる場合がありますが、そのような場合には、
定款を変更して、その商号中に株式会社という
施行日にそれらの規定は効力を失うとされま
文字を用いる商号の変更をすることによって、
す。この場合、存続する株式会社には公告方
通常の株式会社に移行することができます(整
法に関する定款の定めがないこととなり、官
備法45条1項)
。なおこの登記は、上記の決議後、
報がその公告方法であることになります(整
その本店所在地においては2週間以内、支店所在
備法5条4項・新会社法939条4項)。
地においては3週間以内に、当該特例有限会社
(3) 社員名簿に関する経過措置
については解散の登記をし、商号変更後の株式
有限会社の社員名簿は株主名簿とみなされ
ます(整備法8条1項)。
会社については設立の登記をしなければならな
いとされています(整備法45条2項、46条)。
(4) 持分に関する定款の定めに関する経過措置
議決権、利益配当および残余財産の分配に
ついて定款に別段の定めのある有限会社の持
分については、それぞれ新会社法108条1項
第2
1
LLC
合同会社の創設
(1) 合同会社の創設の目的
3号、1号および2号の定める事項について
会社法の制定による旧商法の実質改正のう
定めのある特例有限会社の種類株式とみなさ
ち、株式会社と有限会社の統合と並んで注目
れます(整備法10条)
。そのため、会社法の
されるのが、全く新しい会社類型である合同
施行日から6か月以内に、種類株式とみなさ
会社の創設です。合同会社は、米国のLLC
れた株式の種類、内容および種類ごとの数を
(Limited Liability Company)をモデルにした
登記する必要があります。なお、整備法には、
ものであり(日本版LLC)
、①法主体性を有
議決権制限株式に関する有限会社法39条2項
すること(法人格の具備)
、②構成員全員が有
と同様の規定が置かれています(整備法14条
限責任を負っていること(有限責任)
、③内部
4項)。
関係の設計の自由度が大きいこと(内部自治
(5)「なお従前の例による」とされているもの
原則)という点で米国のLLCと同様の特徴
新会社法の施行日前に必要な社員総会の招
を有しています。
Kitahama Law Review別冊版
旧商法下では、社員全員が有限責任を負う
53
① 共通点
会社類型としては株式会社と有限会社しか存
合同会社と株式会社は、その構成員
在しなかったわけですが、特に株式会社にお
の責任が有限責任とされており、会社
いては、株主総会や取締役、監査役といった
債権者の有する債権の引当てとなるの
機関の分化が強行法的に定められ、また利益
が会社財産だけである点で共通してお
配当や議決権の分配が持株割合に応じてなさ
り、そのため、出資目的の制限(576
れる必要があるというように、内部関係の設
条1項6号、27条4号)、出資の全額払
計の自由度に乏しいことから、上記②③のよ
込主義(578条、34条1項、63条1項)、
うな特徴を併有する新しい会社類型の必要性
会計帳簿、計算書類等の開示(615条1、
が指摘されていました。
617条2項2、4項、618条1項3、625
そこで、会社法においては、上記①②③の
条、432条 4、435条 5、442条 )、 利 益
ような特徴を有する新しい会社類型として、
ないし剰余金の配当に関する規制(621
合同会社を創設しました。合同会社は、社員
条、628条ないし631条6、453条、461
の有限責任の点で共通することから、主に会
条1項8号、462条7、463条、465条)
社の外部関係については株式会社とほぼ同様
といった会社債権者の保護を目的とし
の規律を受ける半面、合名会社・合資会社と
た同様の制度が設けられています。
ともに、会社法「第三編
持分会社」に規定
され(これら3つの会社類型を総称して「持
② 相違点
・会社の内部関係に関する規律
分会社」とされています。)、主に会社の内部
株式会社の内部関係については、意
関係については、人的会社として共通の規律
思決定機関としての「株主総会」を設
を受けることとされています。
置するとともに、業務執行者としての
なお、この合同会社については、米国のL
「取締役」を選任する必要があり、株主
LCについて認められている構成員課税が、
の権利内容については株主平等原則の
現行の法人税制の下では認められない見込み
適用を受けます。
となったことから、民法上の組合契約制度の
これに対し、合同会社の内部関係に
特例として、前記②③の特徴を兼ね備えつつ、
ついては、他の持分会社と同様に、原
構成員課税も認められる事業体として、有限
則として社員の全員一致で決定され、
責任事業組合契約制度(日本版LLP)の導
社員自らが会社の業務執行に当たると
入が提唱され、「有限責任事業組合契約に関す
いう組合的規律に服します。そのため、
る法律」が平成17年8月1日に施行されてい
株式会社におけるような機関の設置は
ます。
義務付けられていません。また、社員
(2) 合同会社と株式会社の共通点・相違点
の権利内容についても、広く契約自由
1. 施行規則159条1号をご参照下さい。
2. 施行規則同条2号、計算規則103条をご参照下さい。
3. 施行規則216条23号をご参照下さい。
4. 施行規則116条1号をご参照下さい。
5. 施行規則同条2号をご参照下さい。
6. 施行規則159条6号をご参照下さい。
7. 計算規則187条8号をご参照下さい。
54 Kitahama Law Review別冊版
の原則が妥当するため、自由に定める
いても定款で業務執行権限を与えることは禁
ことが可能です。
止されていません〔597条〕。)
、社員持分の譲
・持分の譲渡に関する規律
渡や定款変更等は、原則として総社員の同意
物的会社である株式会社については、
によってこれを行うものとされています(585
株主の個性が重視されないため、株式
条1項、637条)
。
譲渡自由の原則が妥当します(127条)
これに対し、会社財産のみが会社債権者の
が、人的会社である合同会社について
引当となる合同会社と、その他の持分会社と
は、社員間の人的つながりが強いこと
では、会社債権者の保護の必要性という点で
から、持分の譲渡については、原則と
違いがあるため、出資目的についての制限の
して他の社員全員の一致が必要とされ
有無(576条1項6号)
、その全額払込の要
ています(585条)。
否(578条)
、会社債権者に対する計算書類の
・外部に関する規律
開示の要否(618条、625条)、資本金額の減
合同会社の外部に関する規律につい
少(626条、627条)、利益配当(628条ない
ては、①共通点に述べましたとおり、
し631条)、出資の払戻し(632条ないし634
会社債権者の保護という観点から、株
条)及び社員の退社に伴う持分の払戻し(635
式会社と同様の制度が多く用いられて
条、636条)に関する規制の有無といった相
いますが、合同会社には決算公告義務
違点を有しています。
が課せられていないこと(株式会社に
ついて440条8)や、欠損金を生じる場
2
合同会社の設立
(1) 定款の作成
合であっても、社員の退社による持分
合同会社を設立する際には、まず、その社
の払戻しが認められているといった点
員になろうとする者が定款を作成し、その全
(635条9)が相違しています。
(3) 合同会社と他の持分会社との共通点・相違
点
員がこれに署名し、または記名押印しなけれ
ばなりません(575条1項)。この定款には、
①目的、②商号、③本店所在地、④社員の氏
新会社法においては、既述のとおり、旧商
名または名称および住所、⑤社員の全部を有
法においてそれぞれ独立の章で規定されてい
限責任社員とする旨、⑥社員の出資の目的お
た合名会社と合資会社に合同会社を合わせた3
よびその価額または評価の標準を記載しな
つの会社類型を、同じ持分会社として規定し、
ければならないとされています(576条1項、
主に会社の内部関係については共通の規律を
4項
しています。
記載事項のほか、相対的記載事項および任意
絶対的記載事項)
。定款にはこの絶対的
具体的には、まず、株式会社におけるよう
的記載事項を記載することができます(577
な機関の分化は定められておらず、会社の業
条)
。定款を電磁的記録をもって作成すること
務執行については、原則として社員全員がこ
ができる点も、旧商法におけるのと同様です
れを行うものとされ(590条1項、なお、旧
(575条2項10、旧商法33条ノ2、63条3項、
商法と異なり、合資会社の有限責任社員につ
8. 施行規則116条6号をご参照下さい。
9. 施行規則159条7号をご参照下さい。
10. 施行規則225条1項9号をご参照下さい。
166条3項)
。
Kitahama Law Review別冊版
なお、合同会社を設立する場合には、定款
合同会社の設立登記の登記事項については、
の認証や払込機関の保管証明は不要とされて
合名会社(912条5号)や合資会社(913条5
います。
号)とは異なり、
「社員の氏名又は名称及び住
(2) 一人会社の許容
所」が登記事項とされていない反面、合同会
合同会社を含む持分会社の社員の人数につ
社においては、「合同会社の業務を執行する社
いては、旧商法94条4号が合名会社について
員の氏名又は名称」(同条6号)や「資本金
社員が一人となったことを解散事由としてい
の額」(914条5号)が登記事項とされていま
たのと異なり、一人持分会社を認めても、直
す。
ちに社団性に反するとは言えず、これを認め
これは、合同会社の社員が株式会社の株主
ない合理的理由もないことから、株式会社と
と同様の間接有限責任を負うのみであること
同様に、社員一人による設立および存続が認
から、会社債権者にとって個々の社員の個性
められています(641条4号)。なお、合資
が重視されないためです。
会社については、社員が無限責任社員または
(5) みなし有価証券との関係
有限責任社員のみとなった場合には、それぞ
会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関
れ合名会社または合同会社となる定款変更を
する法律180条による証券取引法の改正によ
行ったものとみなす旨の、みなし定款変更の
り、合同会社の社員権その他これに類するも
規定が置かれています(639条)。
のとして政令で定める権利および外国会社の
(3) 社員の出資
社員権でこれに類するものが、新たに証券取
既述のとおり、合同会社の社員の出資目的
引法上の有価証券とみなされることになりま
については、
「金銭等」に限られており、労務
したので、その募集等について有価証券とし
や信用の出資は認められないとされています
ての規制がなされることとなります(証券取
(576条1項6号)。
また、合同会社の設立時の出資の履行につ
いては、株式会社(34条1項、63条1項)と
引法2条2項6号、7号)
。
3
合同会社の機関設計
(1) 組合的規律
同様の全額払込主義が取られています(578
合同会社の内部関係については、他の持分
条)。すなわち、合同会社の社員になろうとす
会社と同様に、原則として社員の全員一致で
る者は、定款の作成後、設立の登記前に、そ
会社の在り方が決定されるとともに、社員自
の出資に係る金銭を払込み、またはその出資
らが会社の業務の執行に当たるという組合的
にかかる金銭以外の財産の全部を給付しなけ
規律が適用されますので、その機関設計につ
ればならないとされています。
いて、所有と経営の分離という株式会社の原
これにより、合同会社の社員は株式会社の
則は妥当せず、組合と同様に、所有と経営は
株主と同様に、間接有限責任を負うことにな
一致することとなります。
ります。
(2) 業務執行権
(4) 設立登記
55
① 社員全員が業務執行権を有する場合
合同会社の設立登記の申請は、原則として
合同会社においては、各社員は、定
出資の払込みおよび給付があったことを証す
款に別段の定めがある場合を除き、原
る書面を添付しなければならないとされてお
則として業務執行権を持ち(590条1
り(商業登記法117条)
、合同会社は、その本
項)、社員が2名以上いる場合には、同
店所在地において設立登記をすることによっ
じく定款に別段の定めがある場合を除
て成立します(579条)。
き、原則として社員の過半数によって
56 Kitahama Law Review別冊版
業務執行の決定を行うこととなります
社法593条4項)
。
(同条2項)
。ただし、社員が2名以上
② 業務執行社員の責任
いる場合であっても、会社の常務につ
業務執行社員は、株式会社の取締役
いては各社員が単独で行うことができ
と同様に、任務懈怠責任(596条)、競
ます(同条3項本文)。
業取引の責任(594条)および利益相反
② 業務執行社員を別途定めた場合
取引の責任(595条)を負います。その
合同会社の業務執行社員を定款で別
概要については、下記の図のとおりで
途定めた場合で、業務執行社員が2名以
すが、これらの業務執行社員の会社に
上いる場合には、業務執行の決定は、定
対する責任については、業務執行社員
款に別段の定めがある場合を除き、原則
のみならず、社員であればその責任を
として業務執行社員の過半数で行います
追及する訴えを提起することができま
(591条1項)
。ただし、この場合であっ
す(601条、602条)。
ても、支配人の選任および解任は、定款
で別段の定めをしない限り、原則として、
責任の種類
社員の過半数をもって決定します(591
任務懈怠責任 規制の有無
競業取引責任
条2項)
。また、各社員は会社の業務お
よび財産状況に関する調査権を有するも
比較点
合同会社
株式会社
596条
594条
423条1項
423条2項
責任の性質
過失責任
過失責任
責任の免除
定款自治によ 原則:総株主の同意
り自由
(424条)
例外:善意無重過失
の場合は一部
免 除 可(425
条 か ら427
条)
のとされ、定款の定めをもってしても、
事業年度の終了時又は重要な事由がある
ときに、この調査権に基づく各社員の調
査を制限することは許されないとされて
います(592条)
。
利益相反取引 規制の有無
の責任
責任の性質
595条
423条3項
過失責任
自己のために利益相
反取引をした取締役
→無過失責任
(428条)
それ以外の取締役
→過失責任
※任務懈怠の推定あ
り
(423条3項)
(3) 業務執行社員の地位
① 業務執行社員の権利義務
業務執行社員は、株式会社の取締役
と 同 様 に(330条、355条、356条 )、
会社に対し、善管注意義務(593条1項)、
忠実義務(593条2項)
、競業避止義務
(594条)を負い、利益相反取引の規制
(595条)を受けることになります。また、
責任の免除
定款自治によ 自己のために利益相
り自由
反取引をした取締役
については、一部免
除の規定の適用なし
業務執行社員はこのほかにも、その職
務執行の状況、職務終了後の経過およ
業務執行社員の第三者に対する責任
び結果の報告義務(593条3項)を負う
については、業務執行社員は、株式会
ほか、受取物等の引渡義務(民法646条
社の取締役らと同じく、職務執行を行
1項)
、権利移転義務(同条2項)、金
うにつき悪意又は重過失があった場合
銭消費の際の責任(民法647条)、報酬(民
に、連帯して第三者に生じた損害を賠
法648条)、費用前払請求権(民法649
償する責任を負います(597条、429条)
。
条)、費用等償還請求権(民法650条)
③ 法人の業務執行社員
といった民法上の委任規定に基づく権
以上のような業務執行社員には、自
利義務を有するものとされています(会
然人のみならず、法人も就任が可能と
Kitahama Law Review別冊版
されていますが、その場合には、実際
4
に業務執行社員の職務を執行する自然
57
社員の加入および退社
(1) 社員の加入
人の職務執行者を選任しなければなら
合同会社の社員の加入は、当該社員にかか
ないとされています。この職務執行者
る定款の変更とともに、新たに社員になろう
の氏名並びに住所は、他の社員全員に
とする者の出資に係る払込み又は給付の履行
通知されるほか登記することが必要と
によってなされます(604条)
。
されています(598条1項)
。この職務
(2) 社員の退社
執行者は、前記のような業務執行社員
① 任意退社
と同様の権利義務および責任を有する
合同会社の社員は、会社の存続期間
ものとされます(598条2項)。
が定款で定められていない場合又はあ
④ 業務執行社員の退任
る社員の終身の間会社が存続すること
業務執行社員は、原則として、正当
が定款で定められている場合、6か月前
な事由がなければ辞任することができ
までに退社の予告をすることによって、
ず(591条4項)、かつ、正当な事由が
事業年度の終了のときにおいて退社す
ある場合に限り、他の社員の一致によっ
ることができます(606条1項)
。さらに、
て解任することができます(同条5項)
。
やむを得ない事由がある場合には、社
ただし、これらの点については、定款
員はいつでも退社することができます
で別段の定めをすることができるとさ
(606条3項)
。
れています(同条6項)
。なお、業務執
② 法定退社
行社員の全員が退社したときには、当
社員は、社員持分を差し押さえた債
該定款の定めは当然に効力を失うもの
権者が退社の手続を取った場合(609
とされています(同条3項)。
条)のほか、死亡、合併、破産手続開
(4) 会社代表権
始決定、解散、後見開始および除名等
各社員は、原則として会社代表権を持ちま
の一定の事由が発生した場合には、当
すが、業務執行社員を定款で定めた場合には
然に退社することになります(607条1
業務執行社員が、業務執行社員が2名以上の
項)
。ただし、破産手続開始決定、解散
場合には各自が会社代表権を有することにな
および後見開始については、これを退
ります(599条1項本文、2項)
。ただし、定
社事由としないこともできます(同条
款又は定款の定めに基づく社員の互選によっ
2項)
。
て、業務執行社員の中から会社代表権を持つ
(3) 退社に伴う効果
社員を選任することが可能です(599条1項
社員が退社した場合には、当該社員に係る
但書、3項)。
定款の定めを廃止する定款の変更がなされた
会社代表権を有する社員は、会社の業務に
ものとみなされ(610条)、退社した社員は、
関する一切の裁判上又は裁判外の行為を行う
その出資の種類を問わず、その持分の払戻し
権限を有するとされ、この権限に加えた制限
を受けることができます(611条1項本文)
。
は、善意の第三者に対抗することができない
とされています(599条4項、5項)。
5
合同会社の計算
(1) 債権者保護の必要性
会社は、会社を代表する者がその職務を行
合同会社においては、社員が間接有限責任
うについて第三者に与えた損害を賠償する責
を負うに過ぎないことから、会社債権者の引
任を負います(600条)。
当てとなるのは会社財産だけであるため、そ
58 Kitahama Law Review別冊版
の保護を図るために、計算書類等の開示、会
ます(627条1項)。そのため、資本金
社財産の分配規制、違法配当についての弁済
額を減少する場合には、官報公告並び
責任といった点について、株式会社とほぼ同
に知れたる債権者に対する1か月以上
様の規律がなされています。
の期間を定めた個別催告といった債権
但し、合同会社については、すでに触れま
者保護手続を履践する必要があり、資
したとおり、株式会社と異なり、決算公告の
本金額の減少は、このような債権者保
義務はありませんし(440条)
、資本金額や負
護が終了した日に、その効力を生ずる
債総額の多寡に関わらず、会計監査人の制度
とされています(627条2項ないし6項)
。
の適用はありません(328条)。
② 利益の配当
(2) 計算書類の作成・備置・開示
合同会社の社員は利益配当請求権を
合同会社は、その成立の日における貸借対
有しており、利益配当の請求方法その
照表を作成しなければならないほか(617条
他の利益配当に関する事項は、定款で
1項)11、事業年度ごとに、貸借対照表、損益
これを定めることができるとされてい
計算書、社員資本等変動計算書および個別注
ます(621条1項、2項)
。また、社員
記表といった計算書類を作成し、これらを10
に対する損益分配の割合についても、定
年間保存しなければならないとされています
款で自由に定めることができ、定款に
12
(617条2項 、4項)。そして、社員や会社債
権者は、営業時間内であればいつでも、これ
らの計算書類の閲覧又は謄写を請求すること
特別の定めのない場合には、出資の価
額に応じた割合となります(622条1項)
。
③ 違法配当の規制
ができます(618条1項、625条)。
合同会社は、当該利益配当日におけ
(3) 会社財産の分配規制等
る利益額(持分会社の利益の額として
① 資本金額の減少
法務省令で定める方法により算定され
まず、会社財産の分配そのものに関
る額をいいます。
)を超えて、利益配当
する規制ではありませんが、合同会社
をすることはできません(628条)
。こ
においては、資本金額が会社財産の分
の法務省令で定める方法により算定さ
配に際しての一定の歯止めの役割を果
れる額については、施行規則159条4号、
たすこととされていることから(626条
計算規則191条において、利益の配当を
3項)、資本金額の減少について、一定
した日における利益剰余金の額等を基
の規制がなされています。
準として算定するものとされています。
すなわち、合同会社は、損失の填補
13
この利益配当の財源規制に反する配
(620条1項)のみならず 、出資の払
当(違法配当)がなされた場合、当該
戻し(626条1項)のために、その資本
違法配当を受けた社員と当該利益配当
金額を減少させることができますが、合
に関する業務を執行した社員は、会社
同会社の債権者は、資本金額の減少に
に対し、連帯して、当該配当額に相当
対する異議申述権を有するとされてい
する金銭を支払う義務を負います(623
11. 施行規則159条2号、計算規則102条をご参照下さい。
12. 施行規則159条2号、計算規則103条1項2号、2項、3項をご参照下さい。
13. 施行規則159条3号、計算規則190条をご参照下さい。
Kitahama Law Review別冊版
条1項、629条1項本文)。
59
注意を怠らなかったことを証明した場
この違法配当額の支払義務は、利益
配当日の利益額を限度として当該義務
を免除することについて総社員の同意
がある場合を除き、免除されませんが
合には、例外的にこれを免れることが
できます(631条1項但書)
。
(4) 出資の払戻し規制
① 通常の払戻し
(629条2項)
、後者の義務については、
合同会社の社員は、定款を変更して
当該利益配当に関する業務を執行した
その出資の価額を減少する場合を除き、
社員が、その職務を行うについて注意を
出資の払戻しを請求することはできま
怠らなかったことを証明した場合には、
せん(632条1項)。また、合同会社は、
例外的にこれを免れることができます
払戻しの請求日における剰余金額か上
(629条1項但書)
。これに対し、違法配
記の出資価額を減少した額のいずれか
当を受けた社員が違法配当であること
少ない額を超えて、出資の払戻しをす
について善意である場合には、違法配
ることはできません(632条2項)
。
当に関する業務執行を行った社員から
合同会社が、この出資の払戻し規制
の求償請求に応じる義務はないとされ、
に違反した場合の当該出資の払戻しに
一定の保護が図られています(630条1
関する業務を執行した社員と当該出資
項)。
の払戻しを受けた社員の責任(633条1
以上のような会社に対する責任とは
項本文)
、その免除の要件(633条1項
別に、違法配当がなされた場合には、会
但書、同条2項)
、出資の払戻しを受け
社債権者も、当該違法配当を受けた社
た社員が善意であった場合の求償義務
員に対し、配当額に相当する金銭を支
の制限(634条1項)および債権者の支
払わせることができるとされています
払請求権(634条2項)については、い
(630条2項)。
ずれも違法配当の場合と同様の規定が
④ 欠損を生じた場合の規制
置かれています。
違法配当ではありませんが、合同会
② 退社に伴う持分の払戻し
社が利益配当をした事業年度の末日に
合同会社の社員は、退社に伴って、
欠損額を生じたときは、当該利益配当
その出資の種類を問わず、その持分の
に関する業務を執行した社員は、当該
払戻しを受けることができます(611条
利益配当を受けた社員と連帯して、そ
1項)
。払戻額が、当該払戻しを行う日
の欠損額(当該欠損額が配当額を超え
における剰余金額を超えない場合には、
るときは、当該配当額)を支払う義務
特別な手続は不要です。
14
を負います(631条1項本文) 。
これに対し、合同会社が社員の退社
この欠損額の支払義務は、総社員の
に伴って払戻しを行う際の払戻額が、
同意がある場合を除き、免除されませ
当該払戻しを行う日における剰余金額
んが(631条2項)、前者の義務は、違
を超える場合には、出資の払戻しを行
法配当の際と同様に、当該業務を執行
う際に、資本金額を減少する場合と同
した社員が、その職務を行うについて
様の結果となりますので、資本金額の
14. 施行規則159条6号、計算規則193条をご参照下さい。
60 Kitahama Law Review別冊版
減少の場合と同様の規制がなされ、債
国のLLP(Limited Liability Partnershipの略)
権者は異議申述権を有するほか(635条
といった、①構成員全員が出資額までしか責任
1項)
、資本金額の減少の場合と同様の
を負わず(有限責任)、②損益分配や機関設計が
債権者保護手続を履践する必要があり
自由に行え(内部自治原則)、③すべての損益が
(635条2項ないし5項)15、このよう
構成員に帰属し、事業体そのものには課税され
な手続規制に反する払戻しが行われた
ず、構成員に直接課税される(構成員課税)と
場合には、当該払戻しに関する業務を
いう3つの特徴を有する事業体と同様の特徴を
行った業務執行社員と当該払戻しを受
有する新たな事業体を創設することで、企業の
けた社員は、違法配当が行われた場合
連携、共同研究開発、産学連携および専門技能
と同様の責任を負います(636条)。
を持つ人材による共同事業などを振興し、新産
なお、払戻額が剰余金額を超え、さ
6
業を創造することにあります。
らに会社の純資産額をも超える場合に
また、既に述べたように、会社法によって新
は、上記の手続がさらに強化され、債
設された合同会社は、もともと構成員課税が認
権者の異議申述期間が2か月とされる
められる法人形態を創設することを主たる目的
ほか(635条2項)、資本金額の減少の際、
として、その導入が図られたものですが、現行
一定の場合に認められる個別催告の省
の法人税制の下では、法人格を有する合同会社
略は認められず(635条3項但書)
、異
への構成員課税の適用がなされない見込みが明
議を申述した債権者への担保供与等が
らかになったことから、急遽、法人格を有しな
例外なく要求される(635条5項本文)
い組合としての有限責任事業組合の立法化が図
こととなります。
られたものと考えられます。
合同会社の解散および清算
2
合同会社の解散および清算については、他の
16
持分会社と共通の規律がなされています。
有限責任事業組合の特徴
(1) 合同会社・民法組合との比較
有限責任事業組合の特徴については、合同
会社(会社法575条以下)並びに民法上の組
第3
LLP
合との比較で理解するのが分かりやすいと思
有限責任事業組合(日本版LLP)の創設
われますので、以下では、主要な点について
平成17年8月1日付けで「有限責任事業組合
適宜この三者を比較しつつ、有限責任事業組
契約に関する法律(平成17年法律第40号、以下
合の特徴を説明します。なお、末尾に有限責
「有限責任事業組合法」または単に「法」といい
任事業組合と合同会社の比較表を掲げますの
1
ます。
)が施行され、有限責任事業組合(日本版
でご参照下さい。
LLP)が創設されました。有限責任事業組合
(2) 組織形態
とは、「共同で営利を目的とする事業を営むため
有限責任事業組合は、合同会社があくまで
の組合契約であって、組合員の責任の限度を出
会社であり(会社法2条1号)
、したがって法
資の価額とするもの」をいいます(法第1条)。
人である(会社法3条)のに対し、民法上の
有限責任事業組合が創設された目的は、米国
組合(民法667条)の特例として有限責任事
のLLC(Limited Liability Companyの略)や英
業組合契約によって成立する組合です(法2
15. 施行規則159条7号、計算規則194条をご参照下さい。
16. 施行規則160条、161条をご参照下さい。
Kitahama Law Review別冊版
条)。そのため、組合の財産は組合員全員の共
(法15条、会社法576条4項)。
有となりますし、末尾の別表のとおり、法56
そのため、出資目的はいずれも金銭その他
条によって、民法上の組合規定の大部分が準
の財産に限られ、民法上の組合におけるよう
用されています。このような観点からすると、
な労務出資(民法667条2項)は認められて
有限責任事業組合は、合同会社に比して、対
いません(法11条、会社法576条1項6号、
外的関係において法的安定性が低いとも考え
578条)
。
られます。
そして、これらの出資はいずれも組合契約
また、合同会社については、合同会社から
の締結または定款の作成後、登記前にその払
株式会社に組織変更することも、株式会社か
込みまたは給付の全部を履行する必要がある
ら合同会社に組織変更することも可能である
とされており、全額払込主義が採用されてい
のに対し、有限責任事業組合については、あ
ます(法3条1項、会社法578条)
。
くまで組合契約であるために、株式会社等
(5) 債権者保護制度
の会社との間での組織変更は認められません。
有限責任事業組合と合同会社においては、
同じく、合同会社については、株式会社等と
その構成員がいずれも有限責任を負うに過ぎ
の間で合併等の組織再編行為を行うことが可
ないことから、組合財産または会社財産のみ
能ですが、有限責任事業組合については、株
を引当てとする債権者を保護するため、以下
式会社等の会社との間での組織再編行為は認
のとおり、①計算書類等の開示、②財産分配
められません。
の財源規制、③違法分配等がなされた際の責
(3) 設立
任について、ほぼ同様の債権者保護制度が設
有限責任事業組合の構成員となる資格は、
けられています。これに対し、有限責任事業
個人又は法人に限られており(法1条)
、組合
組合に特有の債権者保護制度としては、組合
契約である以上、社員が1人でもよい合同会
財産の分別管理義務(法20条)などが挙げら
社と異なり、その最低人数は2人となります。
れます。
法人が組合員となった場合に、職務執行者の
選任等が必要となる点は、合同会社と同様で
す(法19条、会社法598条)。
設立に際して作成する組合契約書に認証が
不要であるのは、合同会社の定款と同様です
が、合同会社が設立登記によって成立すると
されているのに対し(会社法579条)、有限責
任事業組合契約の登記は対抗要件に過ぎませ
ん(法8条)。
なお、有限責任事業組合契約に基づく権利
のうち一定のものと合同会社の社員権は、い
ずれもみなし有価証券として、証券取引法の
規制を受けることになります(証券取引法2
条2項3号、6号、7号)。
(4) 有限責任
有限責任事業組合の構成員の責任は、合同
会社の社員と同じく有限責任とされています
《共通の債権者保護制度》
有限責任事業組合
合同会社(会社法)
①計算書類等 ・貸借対照表等の作成
の開示
(法31条1項・2項)
・10年間の備置
(同条4項)
・債権者の閲覧・謄写権
(同条6項)
・同左
(617条1項・2項)
②財産分配の ・財産分配の財源規制
制限
(法34条)
・利益配当の財源規制
(628条)
③違法分配等 ・違法分配の責任
の責任
(法35条)
・欠損の場合の責任
(法36条)
・違法配当の責任
(629条1項本文)
・欠損の場合の責任
(631条1項本文)
④免責規定の ・違法配当の場合―無
有無
・欠損の場合―有
(法36条1項但書)
・違法配当の場合―有
(629条1項但書、2項、
630条1項)
・欠損の場合―有
(631条1項但書、同条
2項)
・10年間の保存
(同条4項)
・同左
(625条)
61
62 Kitahama Law Review別冊版
(6) 内部設計
ここで言う構成員課税とは、組織段階では課
有限責任事業組合は、あくまで組合契約に
税せず、出資者に直接課税する仕組みを言い
基づく事業体であることから、株式会社の取
ます。その効果としては、利益が出た時に組
締役、取締役会、株主総会といった必要的機
合段階で課税は為されず、出資者への利益分
関の設置についての定めはなく、その機関設
配に直接課税される一方、損失が出た時は一
計は、組合的規律を受ける合同会社(会社法
定額の範囲内で出資者の他の所得と損益通算
590条ないし592条)とほぼ同様となっていま
することができます。
す。すなわち、組合の業務執行の決定は、原
3
有限責任事業組合と合同会社の選択基準
則として総組合員の同意によってなされ(法
有限責任事業組合と合同会社の選択基準につ
12条)
、各組合員が業務執行権を有し(法13
いてですが、すでに述べましたとおり、有限責
条)
、組合の常務については原則として各組合
任事業組合については、組合財産が各組合員の
員が単独でこれを行うことができます(法14
共 有 と な る こ と、 共 同 事 業 性 の 確 保 が 強 く 求
条)。
められていること、株式会社への組織変更がで
他方、有限責任事業組合と合同会社との機
きず、そのままでは上場できないこと、社債の
関設計についての考え方は、必ずしもまった
発行が認められないことといった観点からする
く同一というわけではなく、有限責任事業組
と、企業同士の共同研究開発や、産学連携、I
合については、租税回避等を目的とした脱法
Tや金融の専門的技能を有する人材による共同
的な組合の利用を防止するため、特に共同事
事業等、比較的小人数のハイリスク・ハイリター
業性の確保が求められています。具体的には、
ン型の共同事業に向いており、合同会社は、よ
まず、業務執行の決定について、多数決では
り大規模な安定的な成長を目指すような事業に
なく原則として総組合員の同意が必要とされ
向いていると考えられます。
ており、総組合員の同意を要しない旨定める
ことが可能な事項についても一定の制限がな
されています(法12条)
。次に、業務執行は
各組合員の権利であると同時に義務でもある
とされ(法13条1項)、その全部を委任する
(別表)
準用条文
規定内容
民法668条
組合財産の共有
同669条
金銭出資の不履行の場合の損害賠償責任
同671条
業務執行組合員への受任者の規定の準用
民法644条 善管注意義務
同645条 報告義務
同646条 受領物引渡・権利移転義務
同647条 金銭消費の際の損害賠償義務
同648条 報酬請求権
同649条 費用前払請求権
同610条 費用償還請求権(1項)
弁済・担保提供請求権(2項)
損害賠償請求権(3項)
同673条
組合財産検査権
同674条2項
利益・損失の分配割合の共通推定
同676条
組合財産の持分処分の禁止(1項)
分割請求権の不付与(2項)
ことは許されないとされています(法13条2
項)。
以上のような共同事業性の要件を欠く場合、
そもそも有限責任事業組合の成立そのものが
否定され、法的には単なる民法上の組合とし
て、組合員全員が無限責任を負わざるを得な
くなる可能性もありますので注意が必要とな
ります。
(7) 構成員課税
同677条
組合への債務と組合員への債権の相殺禁止
有限責任事業組合は、合同会社と異なり、
同681条
脱退組合員の持分の払戻し
その法的性質が法人格を有しない組合である
同683条
組合の解散請求
同684条
組合契約の解除の効力
同688条
清算人の職務・権限(1項→78条準用)
残余財産の分割(2項)
ことから、民法上の組合、商法上の匿名組合
および投資事業有限責任組合と同様に、構成
員課税の対象となると考えられます。なお、
Kitahama Law Review別冊版
第7
第1
1
設立
弁護士
大石
武宏
最低資本金制度の廃止
資本金は撤廃されることとなりました。
見直しのポイント
3
債権者保護の手当て
平成2年の商法改正により、株式会社に1,000
このように、最低資本金制度が撤廃されるこ
万円の最低資本金制度が導入され、それととも
とにより、事後的な救済を含め、より実効性の
に、有限会社の最低資本金額が10万円から300
ある債権者保護の制度が一層重要となってくる
万円に引き上げられましたが、今回の改正によ
ところでありますが、この点につき、会社法は
り最低資本金制度は廃止され、原始定款で「設
次のような措置を講じています。まず、会社の
立に際して出資される財産の価額又はその最低
財産状況の適切な開示のための制度として、会
額」を定めることとなりました。
計帳簿の作成の適時性、正確性の明文化(432条
これにより、株式会社の設立に際して出資す
1項)
、会計参与制度の創設、会計監査人の設置
べき額について、下限額の制限は撤廃されたこ
範囲の拡大(326条2項)が挙げられます。そし
とになります。
て、これらの制度によって計算書類の適正さを
因みに、中小企業等が行う新たな事業活動の
促進のための中小企業等協同組合法等の一部を
確保した上で、全ての株式会社に対し、貸借対
照表の公告を義務付けています(440条1項)。
改正する法律(いわゆる「中小企業挑戦支援法」
)
また、会社に適切な財産を留保し、且つ、不
によって改正された新事業創出促進法によっ
当に財産が流出するのを防ぐため、株主に対す
て、商法及び有限会社法の最低資本制度の特例
る会社財産の払戻しについて、統一的な財源規
が設けられ、一定の条件の下で設立後5 年間は最
制を課しました(461条)
。さらに、これに違反
低資本金に関する規制が課せられないこととさ
した取締役等の責任については、分配可能額を
れていましたが、今回の改正はかかる特例措置
超える部分については総株主の同意があっても
を一般化するものと言えます。
免除できないこととし(462条3項)
、また、純
2
資産額が300万円に満たないときは、剰余金の配
資本制度の限界
資本制度は、あくまで配当規制との関係で意
味を持つ制度であり、資本の額に相当する財産
当を禁止(458条)しています。
4
注意点
が会社の中でどのような形で保有されるかは問
最低資本金制度を撤廃したことによって、よ
題になりません。つまり、最低資本金を定めた
り簡便に株式会社を設立することができるよう
としても、会社債権者のために資本額に相当す
になったため、今後は起業家等による会社設立
る財産を現実に確保しておかなければならない
が一層促進されることになると考えられます。
という訳ではないのであって、その意味におい
もっとも、一方で、手元の資金の多寡に関わら
て、資本制度による会社債権者保護にはかなり
ず容易に株式会社を設立することができるよう
限界があると言わざるを得ません。
になるため、財政基盤の弱い過小資本株式会社
また、昨今の雇用状況からして、起業を促進し
が次々と設立されるおそれも否定できません。
会社の設立を容易にするというニーズが高まる
また、債務の負担を免れるために意図的に法人
中、最低資本金制度は、明らかに会社を設立する
格が濫用されるようなケースも想定されます。
際の足枷となっていたという事情があります。
これらの事情から、今回の改正によって最低
したがって、今後は、取引に当たり、相手方
の財務状況の調査など、一層の注意が必要とさ
63
64 Kitahama Law Review別冊版
れることになるでしょう。
では旧商法20条のような排除規定は設けず、不
正競争目的の商号に対する措置は、不正競争防
第2
1
商号
止法に委ねられることとなりました。
商号規制の廃止
旧商法では、ある商号が同一市町村内におい
第3
て既に登記されている場合には、同一の営業の
1
設立時の定款記載事項
見直しのポイント
ために他の者がその登記済みの商号をあらため
会社法は、株式会社の設立時に作成される定
て登記することは出来ないとされていました(旧
款の記載事項については、以下の見直しを行っ
商法19条)。
ています。
そのため、新たに会社を設立しようとする場
(1) 株式会社の設立に際して出資される財産の
合、事前に本店所在地の属する市町村内で同一
価額(またはその最低額)を定めて定款に記
の営業を目的とした類似の商号が登記されてい
載しなければならなくなった一方で(27条4
な い か を 調 査 し た り、 ま た、 他 の 者 が 自 分 よ
号)
、
「設立時発行株式数」は定款に記載しな
りも先に類似の商号を登記しないようにするた
ければならない事項(絶対的記載事項)から
め、わざわざ商号の仮登記を行ったりしていま
除外されました。
したが、当然ながら、かかる対策を行うには、
時間も、費用も、労力もかかってしまいます。
これは、額面株式制度の廃止により、資本
と株式との関係が切り離された現状の下、出
その上、上記規制はあくまで同一市町村内の
資される財産の総額のいかんに関わらず、設
ものに限られ、経済活動が広範囲にわたってい
立にあたって発行する株式数を予め定めてお
るような場合は、かかる規制を為す意味に乏し
くことに意味がないばかりか、設立に当たっ
く、また、個人事業者の場合はそもそも商号を
て発行する株式数が確定することによって設
登記する必要がないので、その限りにおいては、
立手続が硬直化しかねないという指摘による
類似商号の規制は及ばないと言えます。
ものです。
このような事情を受けて、会社法は、同一市町
なお、
「設立時発行株式数」が絶対的記載事
村内における同一営業のための類似商号登記に関
項から除外されたため、発起人が割当てを受
する規制を廃止することとしました。もっとも、
ける株式数も、定款に定めがある場合を除き、
不正の目的をもって他の会社であると誤認される
発起人全員の同意により定めることになりま
おそれのある商号を使用することは許されません
した(32条1項)
。
(8条1項)
。また、既に登記されている他の会社
(2) 発行可能株式総数については、定款作成時
と同一の住所において同一の商号を登記すること
に定める必要は無いものとし、設立過程にお
も許されません(改正商業登記法27条)
。
ける株式の引受状況や失権状況を見定めなが
2
ら、設立手続の完了時までに、発起人全員の
不正競争目的の商号使用について
旧商法においては、商号登記をした者は、不
同意(発起設立の場合)又は創立総会の決議
正競争目的で同一又は類似の商号を使用する者
(募集設立の場合)によって定款に定めればよ
に対して、当該商号の使用の差止めや損害賠償
いこととされました(37条、96条、98条)。
をすることができるとされていました(旧商法
旧商法のように、当初から定款に記載して
20条)
。しかし、不正競争防止法では、そもそも
おく必要があるとすると、定款認証の段階で
登記の有無に関わらず、周知・著名商号に関す
既に発行可能株式総数を決めておかなければ
る保護規定が設けられていることから(不正競
ならず、手続が硬直化してしまう虞がありま
争防止法2条1号、2号、3条、4条)、会社法
したが、今回の改正によって、定款認証の段
Kitahama Law Review別冊版
階では発行可能株式総数は確定していなくて
・電子公告
もよいことになりました。
また、定款は公証人の認証を受けて以降、
会社成立までは変更できないのが原則ですが、
2
第4
1
払込取扱機関
旧商法下での取扱
発行可能株式総数に関する規定については、
払込取扱機関とは、設立に際して行われた払
原始定款で定めていた場合であっても、設立
込みの事務を取り扱い、払い込まれた金銭の額
登記までに発起人全員の同意を得て、株式数
を証明し、当該証明(払込金保管証明)につい
を変更することができるとされています(37
て一定の責任を負う銀行又は信託会社のことを
条2項)。
言います。
その他の改正点
(1) 設立時の取締役等に関する事項
旧商法下においては、発起設立、募集設立の
いずれにも払込取扱機関を利用することとされ
株式会社の発起設立の場合、旧商法では、
ており、いずれの場合であっても、払込取扱機
発起人が出資を履行した後、それぞれが引き
関は、発起人又は取締役の請求により払込金の
受けた株式の議決権の過半数をもって、設立
保管に関する証明をしなければならないとされ
時の取締役及び監査役を定めることとされて
ていました。また、設立登記申請の添付書類と
いました(旧商法170条1項、3項、5項)。
して、「払込みを取り扱った銀行又は信託会社の
し か し、 旧 商 法 下 で は、 実 務 上、 原 始 定 款
払込金の保管に関する証明書」が要求されてい
で取締役・監査役を定められるとされており、
ました(旧商業登記法80条10号、95条6号)。
会社法はかかる実務を確認するとともに(38
しかしながら、かかる払込金保管証明制度は、
条3項)、定款で設立時の取締役等を定めてい
設立登記完了までその保管金を使用できず不便
ないときは、発起人による出資の履行後、引
という声が多くありました。また、払込取扱事務
き受けた株式の議決権の過半数をもって、設
委託契約に関する当該金融機関の審査等の関係
立時の取締役等を定めるものとなりました
から、保管証明書発行まで相当の日数がかかるう
(40条1項、2項)。
なお、募集設立の場合における設立時の取
え、金融機関との取引がない場合等においては、
取扱いすらしてもらえない場合もあり、設立手続
締役等の選任は、旧商法同様、創立総会の決
に相当の時間を要する一因となっていました。
議によって行われます(88条)。
2
(2) 公告の方法
旧商法においては、株式会社が公告を為す
見直しのポイント
そこで、会社法は、払込取扱機関について、
以下の見直しを行っています。
方法は、定款の絶対的記載事項とされてい
① 発起設立については、払込取扱機関による
ました(旧商法166条1項9号)が、会社法
払込金保管証明制度を用いることなく(34
では任意的記載事項とされ(27条1項参照)
、
条2項)、銀行口座の残高証明等任意の方法
以下に掲げる方法のいずれかを定款で定める
で、設立に際して払い込まれた金銭の額を
ことができるとされました(939条1項)。な
証明することにより、設立手続を行うこと
お、定款において以下のいずれをも選択しな
が出来るようになりました。
かった場合は、官報公告によることになりま
す(939条4項)。
・官報に掲載する方法
・時事に関する事項を掲載する日刊新聞
紙に掲載する方法
② 募集設立については、従来の払込取扱機関
による払込金保管証明制度が適用されるこ
とになりました(64条)
。
③ 払込取扱機関として、銀行、信託会社の他
に、「その他これに準ずるものとして法務省
65
66 Kitahama Law Review別冊版
令で定めるもの」が追加されています1。
い場合」とされました(33条10項1号)。
これらの見直しに伴い、改正商業登記法47
旧商法下では、少額特例の要件は、以上に
条2項5号は、株式会社の設立登記申請の際
加えて「資本の5分の1を超えず」という制
の添付書類として、「会社法第34条第1項の
限が設けられていました(旧商法173条2項
規定による払込みがあったことを証する書面
1号)。しかし、そもそも少額の現物出資・
(同法第57条第1項の募集をした場合にあっ
財産引受について検査役の調査が免除される
ては同法第64条第1項の金銭の保管に関する
趣旨は、仮に対象物に瑕疵があったり、その
証明書)」と規定されました。
評価に問題があったとしても、事後的な填補
3
これにより、これまで、払込金は設立以降
によってまかなえる程度のものであれば敢え
でないと返還を請求し得ないとされていた(最
て検査役の調査を要しないという点にありま
判昭和37年3月2日民集16巻3号423頁)も
す。そうであれば、ここで問題とされるべきは、
のが、発起設立については、「保管されてい
取締役等が填補責任を果たすことが出来るか
ること」ではなく、「一定の時期に払い込みが
否かということであり、資本の大小が直ちに
あったこと」が証明されれば足りることになっ
取締役等の填補責任能力に繋がる訳ではない
たため、会社成立前に払込金を引き出して利
ことから、今回の改正によって「資本の5分
用することが可能となりました。
の1を超えず」という制限は撤廃されたのです。
発起設立と募集設立の差異
(2) また、旧商法下では、現物出資等の目的物
このように、法が発起設立と募集設立とで違
が有価証券である場合、検査役の調査対象外
いを設けているのは、出資者が出資された財産
となるためには、当該有価証券が「取引所の
の保管に関与できるか否かによります。即ち、
相場のある有価証券」である必要がありまし
株式会社の設立手続遂行者たる発起人のみが出
た(旧商法173条2項2号)
。
資者である場合、出資者自身が出資財産の保管
しかし、現物出資等について検査役の調査
に関与できることから、特段の措置を設ける必
が必要とされた趣旨からすると、必ずしも取
要がないのに対して、発起人以外の株式引受人
引所の相場のある有価証券である必要は無
も出資をする募集設立の場合、これらの者を保
く、当該目的物の価格が客観的に明らかなら
護するためには、出資財産の保管状況を明らか
ば、検査役の調査を経る必要はありません。
にする払込金保管証明制度を維持することが相
当とされたのです。
そこで、会社法は、有価証券につき検査役
の免除が認められるものを、
「取引所の相場の
ある有価証券」に限定せず、
「市場価格のあ
第5
1
現物出資・財産引受
る有価証券」としたのです(33条10項2号)。
検査役の要調査範囲の縮小
これによって、従来から認められていた上場
(1) 改正により、少額特例の要件は「現物出資
株式等の他に、店頭登録株式や未上場ではあ
及び財産引受の財産について定款に記載また
るが証券会社による投資勧誘が許された証券
は記録された価額の総額が500万円を超えな
(いわゆる「グリーンシート銘柄」)についても、
1. 施行規則7条
①商工組合中央金庫、②農業協同組合法10条1項3号の事業を行う農業協同組合又は農業協同組合連合会、
③水産業協同組合法11条1項4号、87条1項4号、93条1項2号又は97条1項2号の事業を行う漁業協同組合、漁業協同
組合連合会、水産加工業協同組合又は水産加工業協同組合連合会、④信用協同組合又は中小企業等協同組合法9条の9第1
項1号の事業を行う協同組合連合会、⑤信用金庫又は信用金庫連合会、⑥労働金庫又は労働金庫連合会、⑦農林中央金庫
Kitahama Law Review別冊版
検査役の調査対象外となりました。
2
財産価格填補責任の過失責任化
なりませんでした。そのため、株式の引受人が
払い込みを怠った場合は再募集をし(旧商法179
目的物を過大に評価して不当に多くの株式が
条2項後段)、発起人が払い込みを怠った場合は
与えられると、会社債権者を害することになっ
新たに発起人を選任しなおすなどして、定款記
てしまい、また、金銭出資をした他の株主との
載の発行株式数全てにつき引受・払込を受ける
間で不平等が生じてしまいます。そのため、旧
必要がありました。
商法下では、発起人及び会社成立当時の取締役
しかし、会社法では、そもそも発行株式数を
に対し、会社に対して連帯してその不足額を支
定款で定める必要は無く、代わりに「株式会社
払う義務を負わせており、これは無過失責任と
の 設 立 に 際 し て 出 資 さ れ る 財 産 の 価 額(最 低
されていました(旧商法192条ノ2第1項)
。
額)」を定めることとなっています。そして、発
しかし、例えば、取締役の判断で、金銭を対
起人についても失権規定がおかれた(36条)一
価として財産を取得した場合、その対価が不当
方、株式の引受人については再募集の規定をお
であれば会社財産はその分流出してしまいます
いていません(つまり、その時点で募集手続は
が、その際の取締役の責任は過失責任です(旧
打ち切りとなります)
。
商法266条1項5号、同条7項)。これに対し、
以上のことから、予め設定された株式数全てに
株式を対価として財産を取得した場合(現物出
ついて引受が為されなければならないという要
資)
、会社財産の減少は無いにもかかわらず、発
請はなくなり、失権した株式が生じた場合であっ
起人や取締役が無過失責任を負うとするのは、
ても、原始定款に定めた出資額又はその最低額以
合理性を欠くことになります。
上の出資が為されているときは、そのまま設立手
そのため、会社法では、発起設立の場合にお
続を続行することができるようになりました。逆
ける財産価格填補責任を過失責任と構成し、株
に言えば、出資される財産の価額が定款において
式会社の発起人又は設立時の取締役が、職務を
定めた額または最低額にみたなければ、設立をす
行うについて注意を怠らなかったことを証明し
ることが出来ず、設立無効原因となります(因み
た場合には、財産価格填補責任を負わないとさ
に、発起人については、設立時発行株式を一株以
れました(52条2項2号)。
上引き受けなければならない旨の規定(25条2
なお、募集設立については、旧商法どおり無
項)が特に定められていることから、結果的に発
過失責任とされています(103条1項)。このよ
起人が一株も権利を取得しなくなった場合も、設
うに、募集設立の場合に課される責任を、発起
立無効原因となるでしょう)
。
設立の場合に課される責任よりも加重している
2
発起人等の引受・払込担保責任の廃止
のは、募集設立の場合では、発起設立の場合と
会社法は、旧商法で規定されていた発起人等
異なり、金銭出資しかできない株式引受人との
の引受・払込担保責任(旧商法192条)を廃止し
関係上、実質的拠出額の公平性を確保するとい
ました。これは、上述のように、会社法が、失
う要請がより強く働くためです。
権した株式引受人がある場合も、原始定款に定
めた出資額又はその最低額以上の出資が為され
第6
1
出資不履行の場合の法律関係
ている限り、会社設立手続を続行できることと
出資不履行と設立行為
したため、会社成立後に発起人等の引受・払込
旧商法下では、会社の設立時に発行する株式
担保責任によって失権部分を填補する必要がな
の総数が定款の絶対的記載事項であり、会社が
くなったことによります。つまり、原始定款に
成立するためには定款に記載された発行株式数
定めた出資額又はその最低額以上の出資が為さ
全てについて引受・払込が為されていなければ
れ、会社が成立した以上は、引受のない株式が
67
68 Kitahama Law Review別冊版
あったとしても、それらは全て設立前に失権し
本的な判断事項であり、かかる事項は取締役の
ており、定款違反として設立無効にならないと
善管注意義務の問題として処理されるべきであ
いうことです。
るし、そのような問題は何も成立後2年に限ら
なお、出資される財産の価額が定款において
れたものではありません。
定めた額または最低額にみたなければ、設立無
そこで、会社法では、事後設立(467条1項5
効原因となりますが、今回の改正によって発起
号)における検査役の調査制度は廃止されるこ
人等の引受・払込担保責任が廃止されたことに
とになりました。
より、かかる場合に差額を事後的に填補するこ
2
とで設立無効を治癒することはできなくなりま
した。
株主総会における決議要件の緩和
旧商法下では、事後設立について、譲受の対
価が資本の5%以上に当たる場合には株主総会
の特別決議を要するとされていました(旧商法
第7
1
事後設立
検査役の調査制度の撤廃
246条1項)
。
しかし、資本を基準に特別決議の要否を検討
事後設立とは、会社成立後2年以内に、会社
するとなると、資本が小さな会社の場合、支払
成立前から存在する営業用財産を取得する契約
う金額が少額であっても逐一株主総会を開かな
を締結することをいいます。事後設立を行うこと
ければならなくなり、事業遂行に支障を来たし
によって、会社が成立する以前より営業用財産を
かねません。
取得する契約を予定しておきながら、契約成立の
そこで、会社法は、規制が課せられる財産の
時期を会社成立後にスライドさせることによっ
取得の規模を、会社の基礎的な事項の変更に当
て、現物出資の規制を容易に潜脱することができ
たるがゆえに株主総会の決議を要するものとさ
ます。そのため、旧商法下では、事後設立につい
れる営業全部の譲受けに関する規模についての
ては、裁判所の選任する検査役の調査を受け、か
基準に合わせることとしました。この点につき、
つ、株主総会の特別決議による承認が必要とされ
要綱試案補足説明は、現物出資・財産引受に課
ていました(旧商法246条1項、2項)
。
せられる厳重な規制を会社成立後にも及ぼそう
しかし、検査役の調査に伴う問題点として、
とする現行規制の趣旨と、会社成立後の財産の
①調査コスト、スケジュール等の問題、②全く
買受が一般的に取締役会又は代表取締役の権限
事情の知らない検査役や専門家に一から調査さ
として行われることとの調整を図るという観点
せることの不合理性、③会社成立後2年間は大規
によるものである、と説明しています。
模な売買や設備投資がしづらくなるため、事業
その結果、事後設立において、株主総会の特
遂行に著しい支障を来たす虞があること、④実
別決議が必要とされるのは、「当該財産の対価と
務では、規制を回避するため、対価を低額に抑
して交付する財産の帳簿価格の合計額」の「当
えるべく売買契約を分割して締結するなど、様々
該株式会社の純資産額として法務省令で定める
な潜脱方法がとられていること、といった実情
方法により算出される額」に対する割合が、5
がありました。また、会社が事業を遂行する中
分の1を超える場合に限られることになりまし
で取得する財産の評価については、取締役の基
た(467条1項5号但書)2。
2. 算定基準日における①資本金の額、②資本準備金の額、③利益準備金の額、④法446条に規定する剰余金の額、⑤最終事業
年度の末日における評価・換算差額等に係る額、⑥新株予約権の帳簿価額、の合計額から、⑦自己株式及び自己新株予約権
の帳簿価額の合計額を減じて得た額(当該額が五百万円を下回る場合にあっては、五百万円)をもって株式会社の純資産額
とする方法
Kitahama Law Review別冊版
3
事後設立規制の適用範囲(組織再編行為と事
てきましたが、今回の改正によって、提訴権者及び
後設立)
担保提供制度が更に整備されました。
事後設立規制が適用されるのは、25条1項各
具体的には、旧商法において、提訴権者が株主、
号に掲げる方法により設立したもの、即ち、発
取締役及び監査役に限られるものとされていたとこ
起設立又は募集設立の方法によって設立された
ろ(旧商法428条2項)、会社法では、株主、取締
会社に限られます(467条1項5号括弧書)
。
役又は清算人、さらに監査役設置会社ではそれらの
そもそも、事後設立の場合に株主総会の特別
者に加えて監査役、また委員会設置会社では執行役
決議を要するとされているのは、現物出資や財
が提訴権者とされました(828条2項1号)。旧商
産引受に課せられる規制を潜脱することを防ぐ
法と特に異なる点は、清算人が提訴権者に加わった
ためです。とすれば、組織再編行為により設立
ことですが、これは、清算中であっても設立無効の
された会社であれば、そのような潜脱の虞がな
訴えが認められる(大審院判昭和13年12月24日)
いため、事後設立に関する規制をかける必要は
ことを明文化したものです。
ありません。
さらに、会社法は、設立無効の訴えが提起された
これまでも、組織再編行為により設立された
ときは、裁判所は被告の申立により、提訴をした株
会社には事後設立規制が課せられないと解釈・
主又は設立時株主に対し、相当の担保の提供を命ず
運用されてきましたが、会社法はこの点を明確
ることが出来るものとしました(836条1項)。こ
にしました。
れは、他の訴訟(旧商法249条1項等)に担保提供
制度が認められていることとのバランス、設立無効
第8
設立無効の訴え
の訴えの濫用防止、
及び、
損害を被った被告の保護、
会社は設立登記によって成立しますが、設立の過
という観点に基づくものであります。なお、提訴し
程に違法な点があれば、本来はその会社の設立は無
た株主又は設立時株主が、取締役、監査役、執行役
効となるはずです。しかし、会社が一旦有効に成立
もしくは清算人であるとき、又は、提訴した設立時
したとの外観を有するに至ったものを無効とする
株主が設立時取締役もしくは設立時監査役であると
と、会社を巡る法律関係が混乱し、法的安定性を害
きは、担保提供を命ずることはできないとされてい
することになります。そのため、法は、設立無効の
ます(836条1項但書)
。
訴えという制度を作り、無効の主張や効果を制限し
69
70 Kitahama Law Review別冊版
北浜グループ・新会社法プロジェクトチーム
渡辺
徹
(第1 会社法の特徴、第2 機関、第4 計算
執筆担当)
弁護士・北浜法律事務所
■■
経
歴
■■
1984年
3月
愛媛県立今治西高等学校卒業
1991年
3月
京都大学法学部卒業・法学士
1993年
3月
司法修習修了(第45期)
4月
大阪弁護士会にて弁護士登録、北浜法律事務所入所
1月
北浜法律事務所パートナー就任
1998年
■■
公職・役職等
■■
・近畿大学法学部非常勤講師<裁判実務演習>(2004年〜 2005年)
・「民事訴訟法の運用に関する協議会」委員
・「大阪高等裁判所の民事控訴審の運用改善についての協議会」委員
・「司法改革推進大阪本部・民事訴訟法研究会」委員
・「法科大学院設立・運営協力大阪センター」副委員長
・「会社法実務研究会」世話役
・「総合法律相談センター運営委員会」副委員長
■■
主な取扱分野
■■
会社法(敵対的買収防衛策、総会指導、新法に関する各種の対応)、金融法務(銀行、リース)、保険
法務(各種不法行為訴訟を含む)、企業再生・清算(会社更生、民事再生、特別清算、破産)、知的財
産権(特に不正競争防止法)
■■
著作等
■■
・「企業再編における会社更生手続の位置づけ」(共著、商事法務1534号28頁)
■■
講
演
■■
・「新会社法セミナー」(2005年7月5日、大阪商工会議所北・都島・福島支部主催、同商工会議所)
・「敵対的買収の防衛策(事務所セミナー)」(2005年8月29日、新日本監査法人との共催、大阪証券取
引所ビル北浜フォーラム)
・「M&A特別セミナー(全6回のうち第3回分を担当)」
(2005年9月1日、大阪経済大学主催、大阪証
券取引所ビル北浜フォーラム)
・「新会社法対策セミナー」(2005年11月9日、大阪ファッション連合主催、ニット保健センター)
・新会社法セミナー「機関設計の自由化と株式の規制緩和について」(2006年1月27日、経営・ビジネ
ス法情報センター主催、大阪証券取引所ビル北浜キャンパス)
Kitahama Law Review別冊版
澤木
一隆
(第3 株式
執筆担当)
弁護士・弁護士法人北浜パートナーズ
■■
経
歴
■■
1990年
3月
私立洛星高等学校卒業
1997年
3月
東京大学法学部卒業・法学士
2000年
3月
司法修習修了(第52期)
4月
第二東京弁護士会にて弁護士登録、濱田松本法律事務所入所
2002年12月
濱田松本法律事務所と森総合法律事務所との統合により、森・濱田松本法律事務
所に所属
2005年
■■
2月
弁護士法人北浜パートナーズに移籍
所属委員会
■■
情報公開制度推進委員会(第二東京弁護士会)
■■
主な取扱分野
■■
一般民事および商事、不動産投資信託および不動産の証券化などの不動産取引および不動産に関する
ファイナンスに関する法領域、企業の上場支援業務、株式および社債などの各種証券の発行・募集支
援業務、ならびに証券取引法、銀行法および信託法などの証券・金融関係法領域
■■
著作等
■■
・弁護士業務実務ノウハウ「不動産の証券化(1)」(二弁フロンティア2002年10月号)
・弁護士業務実務ノウハウ「不動産の証券化(2)」(二弁フロンティア2002年11月号)
・情報公開審査会
・商法改正対応
答申事例に見る不開示理由の判断(新日本法規2003年刊、共著)
会社定款・規定見直しのチェックポイント(新日本法規2003年刊、共著)
・「JREITの概要と諸問題」(JICPAジャーナル2003年5月号)
・実務相談株式会社法(補遺)(商事法務2004年刊、共著)
・会社法の法律相談(執筆担当項目35 〜 38、学陽書房2005年7月刊、共著)
■■
講
演
■■
・知的財産権によるファイナンス(2006年1月、2月、経済産業調査会主催)
■■
英語
外国語
■■
71
72 Kitahama Law Review別冊版
荒川
雄二郎
(第6 有限会社・LLC・LLP
執筆担当)
弁護士・弁護士法人北浜パートナーズ
■■
経
歴
■■
1990年
3月
京都府立北稜高校卒業
1994年
3月
立命館大学法学部卒業・法学士
2000年
3月
司法修習修了(第52期)
4月
大阪弁護士会にて弁護士登録、北浜法律事務所入所
2002年10月
11月
今夏
■■
第一東京弁護士会に登録替え
弁護士法人北浜パートナーズ東京事務所勤務
米国留学予定
主な取扱分野
■■
M&A法(合併、会社分割、営業譲渡、株式取得等による事業買収、事業再編行為に関するスキーム
作成および各種契約書作成等)、会社法(買収防衛策の策定、総会指導、その他各種相談)
、金融法(不
動産流動化における各種契約書作成等)
、倒産法(民事再生、会社更生等の各種倒産手続の申立て、ス
ポンサー企業へのアドバイス)、税法(租税訴訟対応等)
、その他一般民事・商事に関する相談、交渉、
裁判対応
■■
著作等
■■
・「消費者契約法のポイント」(スタッフアドバイザー 2000年12月号32頁)
・破産の法律相談(執筆担当項目55 〜 57、共著、学陽書房2004年出版)
・会社法の法律相談(執筆担当項目1 〜 3・9、共著、学陽書房2005年出版)
■■
英語
外国語
■■
Kitahama Law Review別冊版
原
吉宏
(第5 組織再編・変更
執筆担当)
弁護士・北浜法律事務所
■■
経
歴
■■
1994年
3月
大阪府立生野高校卒業
1999年
3月
京都大学法学部卒業・法学士
2000年10月
■■
司法修習修了(第53期)、大阪弁護士会にて弁護士登録、北浜法律事務所入所
主な取扱分野
■■
会社法(M&A、企業防衛、内部統制等)、金融法(証券化、銀行、保険、信託業等)、不動産法(都市開発、
サブリース、各種不動産取引)、事業再生(会社更生、民事再生、特定調停等)、その他、企業活動に
関する裁判対応、意見書・契約書作成、交渉、相談
■■
公職・役職等
■■
・大阪府立大学非常勤講師〈会社法〉(2006年4月〜)
■■
講
演
■■
・新会社法セミナー「会社の計算と組織再編について」(2006年1月31日、経営・ビジネス法情報セン
ター主催、大阪証券取引所ビル北浜キャンパス)
大石
武宏
(第7 設立
執筆担当)
弁護士・北浜法律事務所
■■
経
歴
■■
1994年
3月
私立高槻高等学校卒業
2001年
3月
京都大学法学部卒業・法学士
2002年10月
■■
司法修習修了(第55期)、大阪弁護士会にて弁護士登録、北浜法律事務所入所
公職・役職等
■■
・近畿大学法科大学院非常勤講師〈学習指導員/商法担当〉(2005年〜)
■■
講
演
■■
・新会社法セミナー「新しい会社の種類と設立手続〜 LLCとLLPを比較しながら〜」(2006年1月24
日、経営・ビジネス法情報センター主催、大阪証券取引所ビル北浜キャンパス)
73
74 Kitahama Law Review別冊版
川口
久美子
弁護士・北浜法律事務所
■■
経
歴
■■
1994年
3月
私立白陵高等学校卒業
1999年
3月
早稲田大学法学部卒業・法学士
2002年10月
■■
司法修習修了(第55期)、大阪弁護士会にて弁護士登録、北浜法律事務所入所
所属研究会
■■
「会社法実務研究会」会員
「独禁法実務研究会」会員
酒井
大輔
弁護士・弁護士法人北浜パートナーズ
■■
経
歴
■■
1994年
3月
京都府立東宇治高等学校卒業
1999年
3月
神戸大学法学部卒業・法学士
2003年10月
司法修習修了(第56期)、大阪弁護士会にて弁護士登録、北浜法律事務所入所
2005年
6月
弁護士法人北浜パートナーズに移籍
7月
第一東京弁護士会に登録替え
■■
所属研究会
■■
「会社法研究部会(第一東京弁護士会)」研究委員
伊達
伸一
弁護士・弁護士法人北浜パートナーズ
■■
経
歴
■■
1996年
3月
私立甲陽学院高等学校卒業
2003年
3月
大阪大学法学部卒業・法学士
2004年10月
司法修習修了(第57期)、大阪弁護士会にて弁護士登録、北浜法律事務所入所
2006年
第一東京弁護士会に登録替え、弁護士法人北浜パートナーズに移籍
1月
Kitahama Law Review別冊版
75
中島
健仁
ます。会社は誰のものか、という議論もかまびすしい中、会社法の
規則も確定し、いよいよ新法が動き出します。
なわち、会社の株主を含む利害関係人(最近ではステークホルダー
新しい概念ではありません。
)の利益のためには、場合によっては、
きなければ、真の会社経営はできないのではないか、という問題意
認する多くの経営者は、この命題にイエスと答えるのではないかと
も依頼者の指示に従うわけではありません。依頼者の正当な利益の
わないこともあります。弁護士の場合は、最終的に依頼者と意見調
りますが、これは取締役とて同じことです。すなわち、株主は、株
したり、再任拒否したりはできても、何が何でも株主の多数決に従
ものだ、という株主主権論を、なにがなんでも株主の言うことを聞
ことなく、自信を持ち、自らの信ずるところに従って会社の舵取り
法人実在説だの法人擬制説だのという議論を勉強しました。法人は
人として社会的に存在しうる、というような議論だったかと思いま
は、
久しぶりに学生時代の哲学的論争を思い出させてくれています。
察が重要であることを改めて思い起こさせてくれる事件であり、法
ょう。
大阪事務所
東京事務所
〒541-0041
(弁護士法人北浜パートナーズ)
大阪市中央区北浜1丁目8番16号
大阪証券取引所ビル
〒100-0005
(北浜法律事務所)
東京都千代田区丸の内2丁目5番2号
三菱ビル11階
TEL 06-6202-1088(代表) FAX 06-6202-1080・9550
TEL 03-5219-5151(代表) FAX 03-5219-5155
(弁護士法人北浜パートナーズ)
TEL 06-6202-9540(代表) FAX 06-6202-9550
http://www.kitahama.or.jp
(監修)池田 辰夫
(編集部)中島 健仁
TEL 06-6202-9540
山浦 美紀
伊達 伸一
楠井 映子
E-MAIL [email protected]
本冊子は、当事務所の依頼者等が一般的な情報として活用することを目的として作成されたものであり、特定の問題に関する法的助言を
提供するものではありません。
本冊子の送付をご希望されない方は、編集部までご連絡頂きますようお願い致します。現受領者の方以外にも、本冊子の受領をご希望な
さる方がおられましたら、編集部まで、ご連絡下さい。
北浜法律事務所・弁護士法人北浜パートナーズ
のものであることは自明の理です。取締役は株主に対して信任義務
とです。問題は、取締役は必ず株主の多数決の決定に従わなければ
別冊/発行
題や、今年に入ってのドン・キホーテvsオリジン東秀問題など、敵
2006年(平成18年)3月20日発行
編集長