携帯メール依存に関する研究 (1)―携帯メール依存

携帯メール依存に関する研究 (1)―携帯メール依存尺度の作成―
○五十嵐 祐 1, 2(IGARASHI, Tasuku) 元吉 忠寛 1(MOTOYOSHI, Tadahiro)
高井 次郎 1(TAKAI, Jiro)
吉田 俊和 1(YOSHIDA, Toshikazu)
1
( 名古屋大学大学院教育発達科学研究科
2
日本学術振興会特別研究員)
キーワード:携帯メール、依存、大学生
インターネット依存は、寝食を忘れてインターネ
ットにのめり込んだり、インターネットの利用を止
められないと感じたりする、インターネットに精神
的に依存した状態と定義される(Young, 1998)
。携
帯電話の普及率が非常に高い我が国では、近年、時
間や場所をわきまえずに携帯メールを利用したり、
目の前にいる相手とのコミュニケーションよりも携
帯メールを優先したりするなど、若年層の携帯メー
ルに対する依存が大きな問題となりつつある。そこ
で本研究では、大学生を対象として、携帯メール依
存を測定する尺度を開発することを目的とする。
これら 6 つの特徴と、既存の 4 つのインターネッ
ト 依 存 尺度 ( Armstrong, Phillips, & Saling, 2000;
Caplan, 2002; Morahan-Martin & Schumacher, 2000;
Wang, 2001)の項目を参考として、最終的に 56 項目
からなる携帯メール依存尺度を作成した。
本調査 2004 年 7 月に、
大学生 270 名
(男性 105 名、
女性 163 名、不明 2 名;平均 19.1 歳)を対象として
質問紙調査を実施し、
携帯メール依存尺度 56 項目に
ついて、それぞれの特徴が自分にあてはまるかどう
かを「1. 全くあてはまらない」から「5. 非常にあて
はまる」までの 5 段階評価で回答を求めた。
方 法
結果と考察
尺度項目の選定 まず、携帯メール依存に関する項
目を収集するために、大学生 134 名(男性 58 名、女
性 76 名)に対して予備調査を行った。調査では、
「1.
あなたがメールのやり取りをしていて、自分やメー
ルの相手が『メールに依存している』と感じるのは
どんな時ですか」
、
「2. 他の人がメールをしているの
を見たとき、その人が『メールに依存している』よ
うに見えるのはどんな時ですか」
、
「3. あなたが、メ
ールをやり取りしていて不安になるのは、どんな時
ですか」
、
「4. メールが使えなくなると、困ることは、
どんなことですか」という 4 つの設問に対して、自
由記述による回答を求めた。記述の内容が複数にま
たがる場合(箇条書き、もしくは 2 文以上の場合)
には、それぞれの内容を分類して整理した結果、1
については 223 種類、2 については 214 種類、3 につ
いては 227 種類、4 については 232 種類、計 896 種
類の項目が収集された。
次に、KJ 法を用いて、4 人の評定者がこれらの項
目を分類した。その結果、自己や他者の携帯メール
依存の認識の特徴として、
「メールを打つのが非常に
速い」といった「
(1)利用スキルの上達」
、
「何もす
ることがないとすぐにメールを打つ」といった「
(2)
暇つぶしの利用」
、
「一日中メールをする」といった
「
(3)過剰な利用」
、
「着信がないと寂しい」といっ
た「
(4)情動的な反応」
、
「相手との対面的なコミュ
ニケーションを回避するためにメールを使う」とい
った「
(5)脱対人コミュニケーション」
、
「メールだ
と伝えられることがある」といった「
(6)利便性の
認知」の 6 側面が確認された。
携帯メール依存尺度 56 項目に対して、因子分析
(最尤法、プロマックス回転)を行った結果、固有
値の推移(17.6, 3.2, 2.9, 2.3, 1.8, 1.8…)
、および解釈
可能性から、3 因子構造を採用した(累積寄与率
42.4%)
。因子分析の結果を Table 1 に示す。なお、
因子の構成には、
因子負荷量が.40 以上の項目のみを
用いた(I-T 相関の算出も同様)
。項目の内容から、
第 1 因子(19 項目)は KJ 法での分類の「情動的な
反応」に、第 2 因子(11 項目)は「過剰な利用」に、
第 3 因子(10 項目)は「脱対人コミュニケーション」
にそれぞれ対応していた。各因子の内的整合性は高
く(α=.85~.93)、また各因子間には中程度の相関
(.56~.62)がみられた(Table 2)
。以上のことから、
携帯メール依存を構成する因子は 3 側面に分かれる
ものの、背後には 1 つの共通因子の存在を仮定する
ことが妥当である可能性が示唆された。
今後は、尺度の妥当性を検討するために、Shapira
et al.(2003)の提案するインターネット依存を診断
するための5つのガイドライン(長時間接続、責任
不履行、離脱不可能、対人不和、離脱不安)との対
応や、アルコール依存状態を診断する ICD-10 のチ
ェックリスト、外向性などのパーソナリティ、抑う
つや孤独感などの心理的健康、コミュニケーション
スタイルとの関連を明らかにし、より簡便な短縮版
の作成を行う必要があるだろう。
謝 辞
本研究は、電気通信普及財団の助成を受けて行わ
れた。また、分析に際して脇田貴文氏の協力を受け
た。ここに記して感謝いたします。
Table 1 携帯メール依存尺度の因子分析結果
II
III
h2
M
SD
I-T
1.00
.86
.86
.81
.75
.75
.72
.67
.61
.60
.59
.55
.55
-.14
-.10
-.03
.05
.03
-.05
.18
-.09
.13
-.31
-.04
-.18
.03
-.10
-.06
.02
-.16
-.23
.06
-.22
-.05
.03
.33
.09
.21
-.14
.78
.71
.81
.69
.58
.69
.65
.52
.67
.63
.56
.55
.45
3.30
2.87
3.20
3.60
3.47
2.71
3.19
2.56
2.85
2.22
2.99
3.07
3.19
1.14
1.14
1.16
1.10
1.02
1.29
1.23
1.21
1.17
1.04
1.08
1.20
1.15
.80
.74
.81
.70
.61
.72
.68
.57
.69
.57
.60
.54
.46
.54
.53
.46
.45
.44
.41
.38
.38
.36
.33
.31
.29
.27
.23
.02
.14
.34
.27
-.02
.33
.23
.14
.16
.30
.23
.06
.12
.03
-.10
.16
-.13
.05
.19
-.14
.03
.04
.17
.06
.20
.20
.07
.03
.51
.71
.71
.66
.50
.55
.54
.47
.62
.67
.64
.60
.40
.33
4.34
2.60
2.24
2.94
2.43
3.48
3.15
3.32
2.90
2.46
2.98
3.57
3.13
2.53
.85
1.21
1.15
1.22
1.12
1.14
1.29
1.18
1.11
1.13
1.32
1.10
1.20
1.22
.44
.70
.54
.63
.53
.53
-.12
-.09
-.18
.03
-.02
.01
.05
-.07
.07
.09
.22
.20
.27
.23
.20
.75
.71
.69
.67
.67
.63
.58
.57
.52
.44
.42
.38
.35
.32
.31
-.04
.02
.02
-.04
.09
-.14
-.13
.20
.16
.19
.03
.07
.14
.07
.17
.62
.67
.55
.61
.63
.54
.55
.71
.59
.66
.54
.52
.70
.64
.59
2.77
2.84
2.92
3.07
3.01
3.07
3.76
2.61
2.55
3.44
3.50
3.83
2.33
2.88
2.32
1.32
1.18
1.21
1.27
1.18
1.14
1.21
1.12
1.14
1.18
1.25
1.07
1.07
1.24
1.02
.61
.63
.56
.65
.67
.55
.52
.59
.59
.55
.54
-.15
-.20
-.10
-.18
-.11
-.08
.33
.08
.30
.21
.26
-.04
.02
.25
.00
-.02
.11
.07
.01
.17
-.24
-.07
-.16
.03
-.01
.16
.24
.16
.77
.77
.65
.64
.60
.58
.58
.54
.53
.41
.38
.31
.31
.28
.61
.59
.57
.53
.51
.60
.73
.51
.73
.57
.64
.47
.51
.56
2.40
2.64
3.11
3.23
2.76
3.22
2.28
1.83
2.21
2.75
3.07
4.26
2.17
2.21
1.05
1.13
1.07
1.24
1.10
1.21
.98
.97
1.00
1.23
1.13
1.00
.99
1.04
.63
.55
.62
.53
.51
.59
.61
.46
.58
.51
I
<I:情動的な反応 α=.93>
53 相手からなかなかメールの返事がこないと、不安になる。
16 自分がメールを出しても、返事がすぐに来ないと寂しい。
37 メールの返事が来ないと、心配になる。
8 自分の打ったメールに対して返信が来ないと、寂しくなる。
2 メールを送信した後には返信が気になって何度も携帯をチェックする。
32 ずっと誰からもメールが来ないと不安になる。
12 メールをチェックしたときに、一通も来ていないと寂しく感じる。
13 自分が送った文章の量よりも、相手から返信される文章量が少ないと、不安になる。
21 メールの着信があるかどうかを頻繁にチェックしてしまう。
35 メールのやり取りがなくなると、人間関係も崩れてしまうように感じる。
55 メールの内容に過度に心が動かされてしまう。
3 メールが使えないと、直接会えない友達との関係が希薄になると思う。
11 相手の本当の気持ちがそのままメールに表れているのかがわからなくて、不安にな
ることがある。
1 自分が大切だと思っている用件に対して返信がないと、不安になる。
14 メールが使えないと、孤独を感じてしまう。
15 暇なときは、とにかく誰かにメールして、相手にしてもらいたい。
30 授業中でもメールが気になって、携帯を確認することがある。
27 メールが気になって他のことに集中できないことがある。
9 授業中でもメールが来たら、すぐに内容を確認する。
48 することがない時に、メールの履歴を眺めることがある。
54 着信があった時はすぐにわかるようにして、携帯を持ち歩いている。
38 たいした用事ではないことでもメールをしてしまう。
49 用事がないときでもメールを打つことがある。
34 携帯電話を忘れると一日中不安である。
52 実際に会うと言えないことでも、メールでは伝えられることがあると思う。
18 メールを打つとき、絵文字の使い方や文面を真剣に考える。
26 自分からメールのやりとりを終わらせることがなかなかできない。
<II:過剰な利用 α=.88>
42 メールのやり取りを一日に20通以上もしてしまう。
17 人と話しながらでも、メールを打つことがある。
24 食事をしながらメールすることがある。
22 何時間も続けてメールのやりとりをすることがある。
56 短時間に何通ものメールをやり取りしてしまう。
4 メールを打つスピードが速いほうだと思う。
5 絵文字や顔文字をよく使う。
47 目の前の友だちと話しているときでも、メールをしてしまう。
19 一人になったときは、すぐに携帯を取り出してメールをする。
43 友だちと会話している途中でも、着信があれば携帯を確認する。
6 携帯電話の電池が切れそうになると不安になる。
45 電車に乗っているときに、メールをすることがある。
33 暇なときには、すぐにメールを打ってしまう。
29 何もすることがないとき、暇つぶしにメールを送ることがある。
46 どんなときでも携帯をいじっている。
<III:脱対人コミュニケーション α=.85>
44 大事な話を口頭や面と向かってするのではなく、メールで済ませてしまう。
28 重要な話でもメールで済ませてしまうことがある。
23 会って話せば良いことをメールで伝えてしまう。
20 電話をすれば済むことなのにメールを使ってしまうことがある。
10 会って話すべきことをメールで済ませてしまうことがある。
41 連絡のほとんどをメールで行なってしまう。
39 メールが使えないと、新しくできた友達との関係が保てない。
31 メールでしか自分の本心を相手に伝えられない。
40 メールが使えないと、知り合ったばかりの人と友達になれない。
50 メールが使えないと、普段会えない友達と気軽にコミュニケーションが取れなくなる。
51 直接言いにくいようなことをメールで伝えることがある。
7 友だちとの簡単な連絡には、メールを使う。
25 忙しいときでも、メールの返事を優先してしまう。
36 他にするべきことがあるときでもメールをしてしまう。
Table 2 各因子の基本統計量、および因子間相関
M
SD
I
歪度
尖度
3.01
0.76
-0.04
-0.32
-
I 情動的な反応
3.05
0.81
-0.33
-0.13
II 過剰な利用
.62
2.64
0.72
-0.06
0.01
III 脱対人コミュニケーション
.62
2.92
0.65
-0.26
0.01
携帯メール依存(I+II+III)
各因子の平均値は項目の合計点を項目数で除したもの(得点幅:1~5)
II
III
-
.56
-