第一話 活字へのあこがれ 文字の厨房から

文字の厨房から
第一話 活字へのあこがれ
あの頃、ぼくたちは活字にあこがれていた。
同人誌は確かに謄写版印刷だった。
活版印刷はあこがれのまま終わった。
﹁貘L﹂も制作するまでにはいたらなかった。
四〇年後の今、その永い眠りから目覚め、
樹脂活字で甦ろうとしている。
メンバーの協力を得て ……
。
typeKIDS
﹁貘B﹂︵制作協力= typeKIDS
︶
樹脂活字試作品、活字原図、印刷実習風景︵写真︶
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文字の厨房から
第二話 写植との出会い
山口百恵の﹁夢先案内人﹂が発売されたころ、
なんとか株式会社写研に入社。
まずは二ヶ月間の研修期間。
漢字書体は写研の基本書体とされていた、
﹁石井細明朝体﹂と﹁石井太ゴシック体﹂。
欧字書体は﹁センチュリー﹂を少し。
和字はまだやらせてもらえなかった。
﹁石井細明朝体﹂﹁石井太ゴシック体﹂﹁センチュリー﹂
新入社員のときの紙原字、文字盤
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文字の厨房から
第三話 活字から写植へ
ぼくの二〇代の前半の仕事は、
名作といわれた活字書体の写植文字盤化だった。
欧字書体にはじまり、漢字書体へ。
ついに和字書体を担当するチャンスが到来!
このときのさまざまな経験が、
血となり肉となっているように感じる。
とても幸せなことだ。
﹁ヘルベチカ﹂﹁ユニバース﹂﹁オプチマ﹂
﹁秀英明朝﹂﹁かな民友明朝﹂﹁かな民友ゴシック﹂
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第四話 装飾書体の閃光
決してビビッときたわけではない。
当時流行していたのは超特太の書体。
﹁ゴナU﹂とか﹁スーボ﹂に対抗しようと、
隷書碑とか、単線スクリーンとかを調査して、
楽しく試行錯誤しながら練り上げた。
佳作、第三位と積み上げてきて、
たどりついた第七回石井賞コンテスト第一位だ。
﹁ボカッシイ﹂
制作現場︵写真︶、文字盤、 REJOICE! 04
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文字の厨房から
第五話 漢字書体の至宝
すごい書体が中国からやってきた。
﹁中国楷体﹂と﹁中国倣宋﹂
、ふたつの書体。
ぼくが担当することになったのは、
簡体字と繁体字のほんの一部の字種。
しかも画質と字体の修整にすぎないが、
上司の﹁目からウロコ﹂の指導を受けながら、
心をときめかせて制作したものだ。
﹁紅蘭中楷書﹂
Cフォント︵FD︶
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文字の厨房から
第六話 和字書体の開花
石井明朝体とゴナに組み合わせるための
あたらしい和字書体を制作することになった。
ひとつは、明治の女性の筆跡から、
与謝野晶子の﹁源氏物語礼讃 明星抄﹂を参考に。
もうひとつは、当時の若い女性の筆跡から、
ただただ無垢な味わいをもとめて。
両極端へ。和字書体の幅が広くなった。
﹁艶﹂﹁ゴカール﹂
文字盤、 REJOICE! 05
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文字の厨房から
第七話 横組みと縦組みの冒険
コンテストに応募するからには、
普段の仕事ではできないようなことに
積極的に取り組むべきと思っていた。
日本語の横組みと縦組みに、
実験的な試みをする絶好のチャンスが来た。
その結果が、第一〇回石井賞コンテスト第一位と、
﹁いまりゅう﹂﹁今宋﹂
REJOICE! 08
REJOICE! 06
第一一回石井賞コンテスト第二位である。
文字盤、
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文字の厨房から
第八話 打ち上げ花火
♪情報社会を担ってく
写研音頭で花も咲きます 文字の華
この歌詞が、まだ輝いていた時代だった。
二〇世紀の終わりの打ち上げ花火だったのか。
ちょうどそのころ担当することになったのが
平成丸ゴシック体の和字書体である。
写研からは発売されていない。
﹁平成丸ゴシック体﹂
組み見本
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文字の厨房から
第九話 書写と活字の相克
第一四回石井賞コンテスト第二位の書体は
商品化することができなくなった。
つぎの第一五回石井賞コンテストには、
準備はしていたが応募することをためらった。
。
自分の筆跡まで活字にするのかという葛藤 ……
紆余曲折の末たどりついた﹁吉備書体﹂だったが、
未だに完成していないのである。
﹁吉備楷書﹂﹁吉備隷書﹂﹁吉備行書﹂
組み見本
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欣喜堂通信から
第一話 ﹁和字書体三十六景﹂
平安時代から現代までの
日本の書写と印刷の歴史にはぐくまれた
代表的な三十六書体をとりあげて再生した。
それぞれの時代に数えきれないほどの書物が誕生し、
たくさんの文字と書体が残されている。
あたらしい時代によみがえらせ、
実際に使用できるようにすることにした。
これを葛飾北斎の﹃富嶽三十六景﹄から、
﹁和字書体三十六景﹂となづけた。
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欣喜堂通信から
第二話 ﹁漢字書体二十四史﹂
漢王朝の時代から現代までの
中国の碑文や刊本、活字本から再生した二十四書体。
これを中国・歴代王朝の
正史﹃二十四史﹄にちなんで、
﹁漢字書体二十四史﹂となづけた。
漢字書体の制作には
多くの時間と労力を要する。
現在完成しているのは四書体だが、
ひきつづき制作に取り組んでいきたい。
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欣喜堂通信から
第三話 ﹁欧字書体十二宮﹂
欧字書体にはすでに豊かな活字書体群があるが、
和字書体、漢字書体と組み合わせて
現代日本語として使用するためには
同じように欧字書体も再生しなければならない。
漢字・和字・欧字の関係は対等である。
やはりヨーロッパの書物に取材して、
これから十二書体を制作することにした。
これを西洋占星術の﹃黄道十二宮﹄から
﹁欧字書体十二宮﹂とした。
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欣喜堂通信から
第四話 ほしくずやコレクション
﹁ほしくずや﹂ブランドの構想とは ……
●グランド・ファミリーを構築すること。
ベーシックな﹁くみうた﹂クラン
スタンダードな﹁ときわぎ﹂クラン
コンテンポラリーな﹁みそら﹂クラン
●和字書体が存在していないものを作ること。
﹁ブラック・レター体﹂と﹁魏碑体﹂のために
﹁スクリプト体﹂と﹁痩金体﹂のために
﹁ラウンド・サンセリフ体﹂と﹁円体﹂のために
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欣喜堂通信から
第五話 さまざまな世界へ
﹁小学館アンチック﹂は、
小学館国語辞典編集部からの依頼により、
﹃例解学習国語辞典 第九版﹄のために制作した。
﹃きっずジャポニカ新版﹄にも使われている。
企業のブランディング戦略において、
コーポレート・タイプは重要だ。
デジタル家電の情報表示のためには、
デバイス・タイプが望まれる。
専用書体の可能性は広がっている。
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欣喜堂通信から
第六話 日本語書体八策︵一︶
﹁さきがけ﹂と﹁龍爪﹂と﹁ Aries
﹂の組み合わせ。
そもそも江戸時代の木版印刷字様を
取り上げようと思ったのは、
宋朝体との組み合わせを前提としたものであり、
その中でも﹁さきがけ﹂の粗さが、
四川刊本字様の﹁龍爪﹂と合うように思ったのだ。
﹁さきがけ﹂のほかには﹁もとい﹂と﹁かもめ﹂
﹁かもめ﹂の力強さは﹁龍爪﹂となじむ。
●
﹁かもめ龍爪﹂の使用例 ﹃ジハード1 猛き十字のアッカ﹄
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欣喜堂通信から
第七話 日本語書体八策︵二︶
﹁きざはし﹂と﹁金陵﹂と﹁ Taurus
﹂の組み合わせ。
明治時代に制作された書体の中から、
築地活版製造所五号活字をもとにした
﹁きざはし﹂を選んだ。
﹁きざはし﹂の動的な結構は
﹁金陵﹂に合うように思われた。
﹁きざはし﹂のほかには﹁さおとめ﹂と﹁あおい﹂
﹁はやと﹂との組み合わせもよく見かける。
●
﹁きざはし金陵﹂の使用例 ﹃ドブネズミのバラード﹄
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欣喜堂通信から
第八話 日本語書体八策︵三︶
﹁さくらぎ﹂と﹁蛍雪﹂と﹁ Taurus
﹂の組み合わせ。
清朝体は清代の木版印刷字様なので、
大正時代の教科書から採った
﹁さくらぎ﹂と合わせた。
ほかに﹁まどか﹂はもともと楷書活字と、
﹁はなぶさ﹂は近代明朝体と組み合わされていた。
いずれも﹁和字書体三十六景﹂に含まれている。
﹁まなぶ﹂や﹁しおり﹂と組み合わせてもいいだろう。
●
﹁まどか蛍雪﹂の使用例 ﹃リアル・シンデレラ﹄
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欣喜堂通信から
第九話 日本語書体八策︵四︶
﹁くらもち﹂と﹁銘石﹂と﹁ Sagitarius
﹂の組み合わせ。
﹁くらもち﹂は、もともと2分の1活字だったが、
﹁銘石﹂との組み合わせを考えて、
正方形に近づけて設計している。
﹁くらもち﹂のほかに、
﹁くれたけ﹂
、
﹁くろふね﹂との組み合わせも考えた。
いずれも﹁和字書体三十六景﹂に含まれている。
ほかに﹁はるか﹂との組み合わせも可能。
●
﹁くらもち銘石﹂の使用例 ﹃千駄木の漱石﹄
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