超臨界二酸化炭素抽出法による鮭鱒皮の脱脂

北海道立食品加 工研究 セ ンター報告 No.31998[報
文]
51
超 臨界 二 酸化炭素抽 出法 による鮭鱒皮 の脱脂
―
清水英樹 ・熊林義晃 。河野慎 ・山崎邦雄
Removal of Lipids from Salmon and Trout Skin Using
Supercritical Carbon Dioxide Extraction
ShinichiKoNo and Kunio Yauezerr
Hideki Surlttzu,YoshiteruKul'teeRvesnr,
For the process of purifying collagen from trout skin, supercritical carbon dioxide (SC-COr)
extraction was investigated as a method for removing lipids. Selected conditions such as extraction
pressure,time of exposure and sample moisture content were evaluated in an effort to determine their
significance regarding lipid removal. Freeze-drying and increasing extraction pressure and time were
found to be effective in improving lipid removal.
The effect of ethanol as an entrainer was also evaluated and found to significantly enhancethe lipid
yield under all experimental conditions. Collagen extracted from trout skin defatted with SC-CO, was
not damaged by this treatment.
C ),臨 界
超 臨界 二 酸化 炭 素抽 出法 は,臨 界 温度 (31.1°
うか を検 討 した。
圧 力 (74 kgf/cm2)以 上 の超 臨界状 態 の二 酸化 炭素 を抽
出溶 剤 として,原 料物 質 か ら有価物 を抽 出 ・精 製 ,あ る
実 験 方 法
い は不 要 な物 質 を抽 出 ・除去 す る分 離 法 で あ る。 その特
1■
徴 につ い て は多 くの総説 5)で述 べ られ て い るが ,従 来
1.試 料
の溶媒 抽 出法 と比 較 した場 合 ,1)溶 媒 の留 去 が 不 要 で あ
1)凍 結保 存 した鱒 皮 を約 2cm角
に細 断 した もの。
2)凍 結保 存 した鱒 皮 を約 2cm角
に細 断後 凍 結乾 燥 し
る こ と,2)毒
性 や 引火 の危 険性 が な い こ と,3)臨
界温
度 が 常 温付近 で あ るた め成 分 の熱 的分解 や損 失 が 少 な い
こ とな どの利 点 が あ り,食 品 。医薬 品 の分野 をは じめ,
各 方面 で研 究 ・実 用化 され て い る。
一 方,著 者 らは これ まで水産 廃 棄物 で あ る鮭鱒 皮 の有
効 利 用 を 目的 として,こ れ らに存在 す る酸可溶 性 コ ラー
ゲ ンの抽 出 ・精 製 お よびその利 用 法 につ いて検 討 を行 っ
て きた6卜助.コ ラー ゲ ンには,食 品素材 。
医用材料 をは じ
試料 には以 下 の 2種 類 を用 い た。
た もの。
2.装 置
超 臨界抽 出装 置 は,三 菱 重工 業株 式会 社 製 MSCF-5
型 (抽出槽 500 ml,許 容圧 力 300 kgf/cm2)を使 用 した 。
装置 の プ ロセ ス フ ロー の概 略 を図 1に 示 した 。
3.抽 出条件 及 び方法
(1)抽 出操作
め さ まざ まな用途 が あ るが ,特 に医用材料 として利 用 す
抽 出操 作 は,試 料 10g(凍 結乾 燥試料 の場 合 は 5g)を
る場 合 は高度 な精 製 が必 要 とな る。鮭鱒 皮 に は乾 量 基準
で 約 20%の 脂 質 が存 在 してお り,高 純 度 の コ ラー ゲ ンを
円筒濾紙 に秤取 して抽 出槽 に入 れ ,循 環 ポ ンプで抽 出槽
得 るには これ らの脂 質 を除去 す るた めの脱 脂 工 程 が 不 可
で合計 5001の 抽 出媒体 を排 出す る こ とに よ り行 った 。
欠 で あ る。
(2)抽 出温度 及 び圧 力
抽 出温度 は,コ ラー ゲ ンの変性 を極 力抑 えるた め に二
本研 究 で は,超 臨界 二 酸 化炭 素抽 出法 が 前述 の よ うな
利 点 を有 す る こ とに着 目 し, こ の 方法 が鮭鱒 皮 コ ラー ゲ
ン を抽 出 ・精 製 す る際 の脱脂 方法 として有効 で あ るか ど
内部 の抽 出媒 体 を 1時 間循 環 させ た後 ,51/minの 速 度
Cと した.
酸化炭 素 の 臨界 温度 下 限 に近 い 40°
また抽 出圧 力 は,圧 力 の違 い に よる抽 出量 の変 化 を確
清水 。他 :超 臨界 二 酸化 炭 素抽 出法 に よる鮭鱒 皮 の脱 脂
52
求 めた。
一 ”
凶
献
一
銅
脱 脂 処理後 の脂 質量
× 100
脱脂 処 理 前 の脂 質量
一
タ
レ
′一=ユ田Ⅲ円日 プ
ド
日日]
・
ツ
脂 質残存 率 (%)=
C02ボ ンベ
図 1 超 臨界 二 酸化 炭素抽 出装 置 の プ ロセス フ ロー
各 条件 下 にお け る脂 質残存 率 を図 2,3に 示 した 。図 2
は凍 結乾 燥 未処 理 試料 ,図 3は 凍結乾 燥試料 にお け る結
果 で あ る。 なお ,凍 結乾 燥処理 は,鮭 鱒皮 コ ラー ゲ ンの
変性 温度 が 約 16℃ と低 く,本 試験 にお ける温 度条件 下 で
は コ ラ ー ゲ ンの熱変性 が 考 え られ るた め,試 料水 分 の違
い に よる変性 の有無 お よび脂 質残存 率 へ の影 響 を確認 す
認 す るた め に,100,150,200,250 kgf/cm2と
(3)エ ン トレー ナ ー (抽出助 剤 )
した。
るた め に行 った。
また,エ ン トレー ナ ー としての エ タノ ー ル 添加 効 果 に
エ ン トレー ナ ー として ェ タ ノー ル を用 い,各 圧 力 条件
下 で,使 用 した場 合 と使 用 しない場 合 につ い て比 較 した。
エ ン トレー ナ ー は,抽 出槽 へ の連続 供給 が 装置上 不 可能
で あ るた め,抽 出操作 毎 に試料 と接触 しな い よ うに ビー
バ ッチ とした 。(抽出媒体 で あ る二 酸化 炭素 に対 し,10%
(V/V))。
14)抽 出時 間
脂 質残 存率 %
カ ー に入 れ て 抽 出槽 内 に セ ッ トした 。使 用 量 は 50m1/
抽 出時 間 の検 討 は前述 のバ ッチ操 作 を繰 り返 す こ とに
よ り行 った。1バ ッチの抽 出時 間 は 1時 間 とし,繰 り返 し
回数 は最 高 4回 とした。 その際 の抽 出条件 は以 下 の よ う
に設定 した。
試
料
:凍 結乾燥 試料
100
抽 出温度 :40℃
200
圧力 (kgf/cm2)
抽 出圧 力 :200 kgf/cm2
エ ン トレー ナ ー :エ タノ ー ル 50m1/バ ッチ
4.脱 脂 後 の 酸 可溶性 コラ ーゲ ンの 抽 出法
図 2 各 圧 力条 件 下 に お け る脂 質 残 存 率
(試料 :凍 結乾燥未処理)
酸 可溶性 コ ラー ゲ ンの抽 出 は,以 下 の よ うに行 った。
脱 脂 試料 を 20倍 量 の 02M酢
酸溶 液 に浸漬 し,5°
Cで 24
エ ン トレーナー
時間静 置 した 後 ろ過 し,ろ 液 を遠 心分 離 して不溶 分 を除
離 で沈 澱 を集 め,0.2M酢
酸溶 液 に溶 解 した 。 この操作
を 2回 繰 り返 した後 ,蒸 留水 に対 して透 析 し,凍 結乾 燥
す る こ とに よ り酸可溶性 コ ラー ゲ ン を得 た 。
得 られた酸 可溶性 コ ラー ゲ ンにつ いて は,凍 結乾 燥後
エン トレーナー
脂 質残 存 率 %
去 した 。上澄 に塩 化 ナ トリウム を加 えて塩 析後 ,遠 心分
の収 率 を求 め,さ らに SDS― ポ リア ク リル ア ミ ドゲ ル 電
気泳動 を行 い,そ れ らのバ ン ドを比 較 した。
実験 結果 及 び考 察
100
1.各 処 理 条件 下 に おけ る脂 質残 存 率
脂 質残 存率 は,脱 脂 処理 前後 の 試料 中 に存在 す る脂 質
を Bligh&Dyer"の
方法 に よ り抽 出 し,以 下 の式 に よ り
200
圧 力 (kgf/cm2)
図 3
各 圧 力条 件 下 に お け る脂 質 残 存 率
(試料 :凍 結乾燥処理)
北海道立食品加工研究 セ ンター報告 No.31998
53
らは超 臨界 二 酸化 炭素抽
出 に よる魚 肉 の脂 質 除去 に関 し,エ タノー ル 添加 の明確
な効 果 を報 告 してお り,こ の要 因 を,エ タノ ー ル 添加 に
つ い て,HARDARDOTTIRlの
進 し,そ の結 果全脂 質 の抽 出量 が増加 した た め と推 察 し
て い る。
図 2, 3に み られ る よ うに本 試験 にお い て もエ タ ノー
脂質残存 率 %
よる溶 媒 の極 性増 大 が リン脂 質 とタ ンパ ク質 の解離 を促
ル の添加 が脂 質 除去 に効 果 的 で あ る こ とがわ か った 。 ま
た ,圧 力 の増加 にお い て も脂 質残 存率 の低 下傾 向 が 認 め
られ ,100 kgf/cm2か ら 250 kgf/cm2へ の圧 力増 加 に伴
い,エ タノー ル 添加 の 条件 下 で,凍 結乾 燥 未処理 試料 が
622%か
ら 37.6%,凍
結 乾 燥 処 理 試 料 が 42.0%か ら
o12345
抽 出回数
21.8%ま で ,そ れ ぞれ脂質残 存率 は低下 した。
試料 水分 の違 いで は,凍 結乾 燥 試料 の ほ うが エ タ ノー
図 4 繰 り返 し抽 出操 作 におけ る脂 質残 存率
ル添加 の有無 や圧 力 条件 の違 い に よ らず脂 質残存 率 は低
い傾 向 にあ った 。 また ,抽 出処 理後 の凍 結乾 燥 未処理 試
′
一
料 は 部 ゲ ル状 の塊 とな ってお り,コ ラー ゲ ンの熱変 性
に よるゼ ラチ ン化 が起 こった もの と考 え られ る。
従 って,超 臨界 二 酸化炭 素抽 出法 に よる鮭 鱒 皮 コ ラー
ゲ ンの脱 脂 は,コ ラー ゲ ンの変性 を防 ぐた め に凍 結乾 燥
に よ り原料 皮 の水 分 を除去 し,高 圧 力下 で エ タ ノー ル を
エ ン トレー ナ ー として使 用 す る こ とに よ り効 果 的 に行 え
る こ とが わか った.
2.繰
り返 し抽 出操作 に よ る脂 質残 存率
3.酸 可溶性 コラ ー ゲ ンの 抽 出及 び評価
超 臨界 二 酸化 炭素抽 出法 に よ り脱 脂 した試料 お よび ク
ロ ロ ホル ムーメ タ ノー ル 法 に よ り脱 月
旨した 試 料 か ら抽 出
した酸 可溶 性 コ ラー ゲ ンの,SDS― ポ リア ク リル ア ミ ド
グ ル電 気泳 動 の結果 を図 5に 示 した。
電気泳 動 に よるバ ン ドは,両 試料 ともに 同様 のパ ター
ン を示 し,熱 変 性 した ゼ ラチ ンの よ うに ス メ ア状 の パ
タ ー ン は認 め られ なか った。
また ,酸 可溶性 コ ラー ゲ ンの収率 は ともに約 12%と 良
本 試験 にお いて使 用 した装 置 は,エ ン トレー ナ ー の連
続 供給 が 不 可能 で あ り,一 定量 の エ ン トレー ナ ー存在下
好 で あった。
にお ける脂 質残存 率 の経時変化 をモ ニ タ リングす る こ と
はで きな い。従 って,バ ッチ抽 出操作 の繰 り返 しに よる
の 脱 脂 は,凍 結 乾 燥 した 原 料 皮 を用 い,圧 力 200 kgf/
C,エ タ ノー ル添加 の条件 下 で ,コ ラー ゲ ン
cm2,温 度 40°
脂 質残 存率 の経 時変 化 を検 討 した 。
に対 し熱 や 圧 力 に よる変性 等 の影 響 を与 える こ とな く行
C,抽 出 圧 力 200
凍 結 乾 燥 試 料 を用 い,抽 出 温 度 40°
kgf/cm2,ェ ン トレー ナ ー添加 の条 件 下 で繰 り返 し抽 出
え る こ とが わか った 。 また ,本 脱脂 法 は従来 の ク ロロ ホ
ル ムーメ タ ノ ー ル脱 脂 法 の よ うに溶 媒 の残 留 等 の 危 険性
操作 を行 った場 合 の脂質残存 率 を図 4に 示 した .
もな い た め安全 性 の面 で も優 れ た 方法 と考 え られ る。
以上 の結果 か ら,超 臨界 二 酸化炭 素抽 出 に よる鮭鱒 皮
その結 果,抽 出操 作 の繰 り返 しに よ り脂 質残 存 率 は減 少
要
し, 4回 抽 出操作 (抽出時 間 :4時 間)を 行 った試料 中 の
約
脂 質残存 率 は 7%で あ った 。 これ は,凍 結乾 燥 前 の原料
鮭鱒 皮 コ ラ ー ゲ ンの生 産 を 目的 として,そ の抽 出精 製
相当
皮 に対 す る脂 質 量 と して換 算 す る と 0.8WB%に
ー
ー
0の
ロ
ロ
ル
ム
ホル
メタ
ノ
し,従 来 の ク
場 合 とほ
脱脂 法
工 程 にお け る超 臨界 二 酸化 炭素脱脂 法 の有 用性 につ い て
ぼ 同等 の 良好 な脱 脂 率 で あ つた 。
Cの
凍結乾 燥鱒 皮 を用 い,圧 力 200 kgf/cm2,温 度 40°
ー
ー
ー
条件 下 で エ ン トレ ナ として エ タ ノ ル を使 用 す る こ
なお,前 述 の とお り本 試験 で用 い た装置 はエ ン トレー
ナ ー の連 続供給 が 不 可能 なた め,バ ッチ操作 の繰 り返 し
検 討 した。
に よる処理 を行 ったが ,エ ン トレー ナ ー の連 続供給 が 可
とに よ り良好 な脱 脂率 が 得 られ た。 また,本 法 に よ り脱
脂 処理 した鱒 皮 の コ ラー ゲ ンは,熱 や圧 力 に よる変 性 も
能 な装置 を用 い た場 合 ,さ らに効 率 的 な脱脂 処 理 が 行 え
な く良好 な収 率 で抽 出 で きる こ とがわ か った。
る もの と考 え られ る。
清水 ・他 :超 臨界 二 酸化炭 素抽 出法 に よる鮭 鱒 皮 の脱 脂
54
文
献
(kD)
1)IPC技
術 情報 室 :超 臨界 流体 の基 礎 。物性 ・利 用
技術 (IPC,東 京 ),p.59(1985).
2)片 岡義彦 :食 品工 業 ,30,21(1987)。
3)有 馬 満 :食 品工 業 ,30,31(1987)。
4)長 浜邦雄 :ジ ャパ ン フ ー ド サ イ エ ン ス ,9,
212-
26(1988)。
5)鈴 木康 夫 :ジ ャパ ン フ ー ド サ イ エ ン ス ,9,
33(1988).
山崎邦雄 ・熊林 義 晃 ・清水 英樹 ・渡 辺 治 。清水條
7)
資 :平 成 5年 度 共 同研 究報 告書 「
海 洋生物 コ ラ ー
ゲ ン を利 用 した機 能性膜 の 開発 」 (1994)。
山崎邦雄 ・熊林 義 晃 。清水英樹 。河野慎 一 。清水
條 資 :平 成 6年 度 共 同研 究 報 告 書 「
海洋生物 コ
ー
ラ ゲ ン を利 用 した機 能性膜 の 開発 」 (1995).
山崎邦雄 ・熊林 義 晃 。清水英樹 。河野慎 ― ・清水
條 資 :平 成 7年 度 共 同研 究 報 告 書 「
海洋生物 コ
ラー ゲ ン を利 用 した機 能性膜 の 開発 」 (1996).
Bligh,E.G.and Dyer,WJ.: Cα
轟 │ぶ
図 5
││■
π.工Bあ θ
んι物.
Pり sあ′,37,911(1959)
■
脱脂処 理後 の 魚 皮 か ら抽 出 した酸 可溶性 コ ラ ーゲ
ンの S D S ―ポ リア ク リル ア ミ ドゲ ル 電気 泳動
分子量 マ ー カー(1)
分子量 マ ー カー12)
ク ロロ ホルムーメタノー ル脱脂 に よる コ ラー ゲ ン
超臨界 二 酸化炭素脱脂 に よる コ ラー ゲ ン
ゼ ラチ ン
Hardardottir,I and Kinsella,J.E.:ェ FθθグSθグ,
53, 1656(1988)