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S aga Ceramics Research L aboratory NEWS 2013. 9 月号
Vol.
17
TOPICS 古陶磁を科学する 特別研究顧問 勝木宏昭
古陶磁を最新のハイテク分析機器
で科学する試みが世界的に広がって
きています。 その理由として、①原
料鉱物の産地推定、②焼物の製造
産地や製造技術の推定、③焼造技
術の発達過程の検証、④釉や絵具
成分の把握と発色機構の解明、⑤破
壊された文化財的古陶磁の再現や
図 1 17 世紀中期の赤絵磁器片と赤絵具層の切断部に存在する弁柄粒子
(試料は九州陶磁文化館より提供、組織は九州大学超高圧電子顕微鏡で観察)
修復技術の確立、⑥新しい陶磁器開
発のための情報収集などが挙げられ
ら当時利用されていた原料粉末 ( 陶
器の赤絵具層 ( 約 2μm の厚さ ) に
ます。
土、 釉薬、 絵具 ) が存在せず、 ま
存在する弁柄 (Fe₂O₃) の電子顕微鏡
ところで、 唐津焼、 有田焼等の佐
た原料や陶磁器製造に関する詳細
写 真 で す。 粒 子 の サ イ ズ は 50 ~
賀県の焼物が創始されて約 400 年
な技術的記録文書も残っていませ
120nm( ナノメートル ) で、 各粒子が
が経過します。 大陸の陶磁器製造
ん。 しかしながら、 幸いにも佐賀県
丸味を帯びているので当時から弁柄
技術が佐賀県に流入し、 県内の多
内の古窯から発掘された学術性が高
は磁器製乳鉢で丁寧に微粒化され
くの窯業原料の活用や職人の創造
い陶片が各関係機関に系統的に豊
ていたことが推察されます。 また、
へのチャレンジにより、 現在の焼物
富に保存されています。 これらの陶
図 2 は 17 世紀後半に製造された青
製造の基礎技術が 17 世紀前半まで
片の中に潜む遺伝子を多角的に科
磁と天草陶土から製造された現代の
にほぼ完成しています。 400 年前の
学分析することにより、 当時の陶磁
青磁中に含まれる石英粒子の組織
陶工はどの様な原料を用いて、 また
器製造技術の一部が解明できること
写真です ( 石英粒子の周りのガラス
どの様な方法で焼物づくりに果敢に
が期待されます。 たとえば図 1 は
を化学的に除去済 )。 このことから
挑戦していたのでしょうか ? 残念なが
1650 ~ 1660 年に製造された赤絵磁
江戸時代には現在よりも 2 ~ 3 倍大
きな石英粒子が存在していた陶土を
利用していたことがわかります。 今
後、 放射光、 高分解能電子顕微鏡、
X 線回折等を利用して県内に存在
する古陶磁を科学すれば、 400 年
の悠久の歴史を持つ佐賀県産陶磁
器の 「生まれと育ち」 が少しでも解
明できるかもしれません。
図 2 江戸後期に製造された青磁 (a) と現在製造されている青磁 (b) の素地に存在する
石英粒子の形態 ( 青磁古陶片は有田歴史民俗資料館より提供 )
TOPICS ●13th International Conference of the
European Ceramic Society に参加しました
●佐賀県陶磁器工業協同組合主催
「染付開発プロジェクト」での講義を行いました
平成 25 年 6 月 23 ~ 27 日にフランスのリモージュで
平成 25 年 7 月 26 日に当センターで、 「染付の配色と調
合技術について」 の演題で、 呉須の作り方、 各酸化金
属の添加量による呉須の発色変化、 釉薬の違いによる
呉須の発色変化等について講義を行いました。 (参加企
業 18 社、 参加人員 30 名) この事業は、 佐賀県陶磁器
工業協同組合の伝統意匠開発事業で、 時代にあった染
付の食器開発を目的とされています。 今後センターでは、
デザイン、 技術等の個別相談を受けながら、 商品開発
の支援を行っていきます。
53 か国から 1000 名以上の参加者を集めて開催された
ヨーロッパセラミックス協会学会に参加しました。 強化磁
器に関する発表を行いましたが、 他にタイルや青磁、
顔料についての発表もあり、 ヨーロッパでは大学等でも
陶磁器の研究が幅広く行われていることが確認できまし
た。 リモージュには良質カオリンが産出したことから世界
的に有名な陶磁器メーカーが多く、 磁器の生産が盛ん
です。 ベルナルド等、 数社の陶磁器メーカーを見学し
ましたが、 いずれも伝統を大事にしつつ高精度の磁器
を作るために様々な工夫をしています。
(陶磁器部 蒲地)
写真 リモージュ最古のボトルキルン
●韓国窯業技術院との研究情報交換に関する 覚書調印を交わしました
平成 25 年 7 月 29 日に韓国窯業技術院 (KICET)
●特許登録について
特許名称 : 「鋳込成形装置および鋳込成形方法」
登録番号 : 特許第 5181101 号
本特許は主に圧力鋳込み成形に用いる石膏型に関す
から金珉院長と金亨泰利川分院長が窯業技術センター
るもので、 複数の鋳込み口を利用しながら泥漿が合流し
に来所され、 3 年間の研究情報交換に関する覚書を交
た時に発生するウェルドラインの無い成形体を得ることが
わしました。 今後、 双方の窯業界の振興のために協力
できます。 これまでの石膏型では泥漿の充填が不十分
を強化していく予定です。
になりがちだった大型あるいは薄型の製品の成形に特に
効果的です。 また、 従来の圧力鋳込装置でそのまま利
用することができます。
概要は平成 20 年度佐賀県窯業技術センター研究報
告書の 「圧力鋳込成形におけるひずみ防止技術の開発」
にも報告していますが、 その後も技術開発を進め、 量
産試験を通してより使いやすい技術に改良しています。
実際に利用してみたい、 現物を見てみたい等の相談が
ありましたら、 お気軽にご連絡ください。
(陶磁器部 蒲地)
利用者の声
( 有 ) しん窯 社長 梶原茂弘氏 専務取締役 橋口博之氏
今回は、 長く窯業技術センターを利用され、 近年もいろいろな技術を利用して新商品開発を行われている
有限会社 しん窯 社長 梶原茂弘様、 専務取締役 橋口博之様 にお話を伺いました。
まだセンターが 「窯業試験場」 と
時 の 「駆 け 込 み 寺」 で す。 (梶 原
呼ばれ、 中樽にあった頃、 多くの
社長談)
窯元後継者たちが研修を受けてお
歩留まり向上と欠点防止や、 黒髪
り、 私も型などを学びました。 当時
山の石から作った錆絵具の実用化で
の若い職員の方々とは年齢も近く、
も指導を受けました。 フッ素コーティ
親しい付き合いが始まりました。 弟も
ングなどの新技術利用で商品の幅が
数 年 間 通 い つ め、 土、 呉 須、 釉
広がり、 不可能が無くなっていく気
薬など多くのことを学び、 その時の
がしました。 つい最近では、 デジタ
は尽きませんが、 これからも 「さす
技術的な蓄積が現在の 「青花」 ブ
ル技術の利用でスヌーピー置物も実
が有田焼」 と言われるようなものづく
ランド立ち上げに繋がりました。 その
現できたし、 時計の文字盤はファイ
りを続けて行きたいと考えており、 引
後も万葉人形 ・ からくり時計などノベ
ンセラミックス材料との融合で実現で
き続きサポートをお願いします。 デ
ルティ研究会を通じた取り組みや、
きました。 大変有り難く思っていま
ジタル技術を使いこなせる技術者の
無鉛上絵具など、 様々な機会で関
す。 (橋口専務談)
養成にも期待していますし、 技術者
わ り が エ ン ド レ ス に 続 い て い ま す。
センターには人脈と新技術とのネッ
を活用することも業界の役割だと思
今からもずっと、 センターは困った
トワークがあります。 いろいろな課題
います。
設備機械使用 ・ 機器紹介
マイクロビッカース硬度計/ HMV-1 /島津製作所(株)製 担当:陶磁器部技術開発担当 古田祥知子
ビッカース硬度とは、 物質の硬さを
ファインセラミックスや金属だけでは
かじめ鏡面研磨して平滑にしておく
示す尺度の一つです。 図 1 に示す
なく、 陶磁器の釉表面の硬さなども
必要があります。
ように、 頂角 136 度の正四角錐のダ
評価することができます。
測定操作は非常に簡単ですので、
イヤモンド圧子を材料表面に押し込
本 装 置 (図 2) の よ う に 10g ~
材料硬さの評価の際はぜひお気軽
み、 残った圧痕の対角線の長さ d₁、
1kg という小さい荷重で試験を行う場
にご利用ください。 開放機器使用料
d₂ から表面積 S を算出し、 試験荷
合はマイクロビッカース硬度計と呼ば
は 650 円 / 時間です。 また、 依頼
重 F を表面積 S で割って算出される
れます。 微小なサイズの圧痕を正確
試験としても対応しています (1,400
値がビッカース硬さ (HV) となります。
に計測するために、 試料表面はあら
円 / 件) ので、 あわせてご利用くだ
さい。
荷重 : F [kgf]
圧痕の表面積 : S [mm2]
d1
d2
ビッカース硬さ(HV)=F/S
図 1 ビッカース硬さの算出方法
図 2 マイクロビッカース硬度計 (HMV-1)
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平成 24 年度 購入備品紹介
レーザー回折散乱式粒度分析装置 /LMS-2000e/ (株) セイシン企業 製 担当 : 陶磁器部技術開発担当 堤 靖幸
窯業原料には球状、 板状、 針状
性があり、 陶土や粘土の分析に多く
など様々な形状の粒子が含まれてい
用いられています。 後者は少量の
ます。 球状粒子では、 その直径が
試料で測定時間が短いという利点か
粒子径となりますが、 異形な粒子で
ら、 現在では粒度分析の主流となっ
は測定方法により粒子径が大きく異
ています。
なることがあります。 そのため粒度の
今回購入した LMS-2000e は開放
品質管理は同じ機器で行う必要があ
機器、 依頼試験どちらにも対応して
ります。 当センターには X 線透過式
います。 開放機器使用料は 1 時間
とレーザー回折散乱式の 2 つの粒
1,400 円、 依頼試験手数料は 1 件
度分析装置があります。 前者は旧
1,400 円になります。 ぜひ、 ご活用
来からの手分析の重力沈降法と整合
ください。
成果発表会のお知らせ
日時 : 平成 25 年 10 月 4 日 (金) 13 : 30 ~ 16 : 30
場所 : 佐賀県窯業技術センター ホール及び1階ロビー
1. 開会挨拶 13 : 30 ~ 13 : 40 (ホール)
2. 口頭発表 13 : 40 ~ 15 : 50 (ホール)
特別講演 「1616/ARITA
JAPAN について」
宝泉窯 代表取締役 原田 元 様
研究発表 「陶磁器デザインにおけるデジタルメッシュデータの有効利用法の研究」
陶磁器部 デザイン担当係長 副島 潔
研究発表 「泉山陶石を活用した陶磁器製造プロセスの開発」
副所長 吉田秀治、 陶磁器部 技術開発担当 蒲地伸明、
有田窯業大学校 教務部長 寺﨑 信 研究発表 「バイオガス用燃料電池材料の成形技術の開発
陶磁器部 技術開発担当係長 古田 祥知子
情報紹介 「窯業技術センター情報紹介」 副所長 吉田秀治
3. ポスター発表 15 : 50 ~ 16 : 30 (1 階ロビー)
研究成果をポスター形式で発表し、 研究成果の活用相談や意見交換を行います。
●佐賀県窯業技術センターではメールマガジンを配信しています。
詳しくは当センターホームページをご覧いただくか、 [email protected] までお問い合わせください。
佐賀県窯業技術センター NEWS vol.17 (年 2 回発行)
2013 年 9 月 1 日 発行
記載された内容はHPに公開しています