IV 高圧ガス - 東京工業大学 研究推進部

IV 高圧ガス
Ⅳ高圧ガス
IV-I
高圧ガス・液体窒素・都市ガスの安全に
ついて
IV-II
(p.44~p.58)
半導体プロセスの安全について
(p.59~p.78)
IV-III
高圧ガス管理支援システムについて
(p.79~p.80)
IV-I
��ガス・����・都市ガスの�全に�いて
【ガス漏れ及びそれに伴う事故防止のために】
In order to prevent accidents by leakage of gas,
・ガス漏れ防止の確認
Make sure that there is no leakage of gas.
・ガス漏れ検知器の設置
Set a detector for leakage of gas.
・換気扇の設置
Use ventilator.
・火気厳禁の励行
Prohibit the lighting of fire.
・都市ガスの点火は目で確認
Confirm the lighting of city gas with eyes.
・毒性ガスを扱う場合はとくに注意!
Use a gas mask for hazardous gases
【ボンベは優しく取り扱おう】
In order to handle a cylinder safely,
・涼しい所に設置 Set it in cool air.
・完全な転倒防止策を!
Take preventive measure against its falling.
・ボンベの周りは整理整頓
Keep the area around it tidy.
【ガス漏れに気がついたら】 If gas leaks
・ドアや窓を開放
Open windows.
・コックやバルブを閉じる Turn off the gas.
・あわてて,換気扇や電灯のスイッチを入れないこと
Don’t turn on a ventilator in a flurry.
― 44 ―
1. 高 圧 ガ ス
高圧ガスとは,貯蔵や輸送に便利なように圧縮されているガスおよび圧縮または冷却されて液
体となっているガスであって,法で定められた圧力以上のものをいい,次の 4 つがある。
(1) 常用の温度で圧力(ゲージ,以下同じ)が 1MPa 以上または温度が 35℃において圧力が 1MPa
以上となる圧縮ガス(空気,窒素,酸素,水素,ヘリウム等)。
(2) 常用の温度において圧力が 0.2MPa 以上,または温度 15℃において圧力が 0.2MPa 以上とな
る圧縮アセチレンガス。
(3) 常用の温度で圧力が 0.2MPa 以上,または圧力が 0.2MPa となる場合の温度が 35℃以下であ
る液化ガス(塩素,アンモニア,二酸化炭素,プロパン等)
。
(4) (3)項以外のもので,温度 35℃において圧力 0Pa を超える液化ガスのうち,液化シアン化水
素,液化ブロムメチル,液化酸化エチレン。
も大きく,一度災害を生じると物的損傷ばかりでなく,人命を失うなど人的な損傷をこうむるこ
ととなる。このような高圧ガス災害の多くは,ガス漏れ,またこれと関連して火災・爆発・中毒,
そして高圧ガス容器(ボンベ)の破裂,転倒およびガス噴出により生じている。都市ガスにおい
ても同様の災害が考えられるが,災害を防止するためには,まず取り扱うガスの特性を十分に熟
知することが必要であり,さらに万一に備えて安全対策についても十分に配慮するなど,不断の
保安努力が必要である。
ガスは,その化学的性質により,可燃性ガス(水素,一酸化炭素,アンモニア,硫化水素,メ
タン,プロパン等),毒性ガス(塩素,一酸化炭素,亜硫酸ガス,アンモニア,酸化エチレン,
ホスゲン等)
,支燃性ガス(空気,酸素,オゾン,塩素,フッ素,過酸化水素等)および不燃性
ガス(窒素,二酸化炭素,アルゴン,ヘリウム等)に分けられる。
1.1 可燃性ガス
可燃性ガス(法律で定義されているガスあるいはその他のガスで空気中での爆発限界の下限
が 10%以下のもの,あるいは上限と下限の差が 20%以上のもの)であっても,燃焼,爆発は
単独では生ぜず,支燃性ガスが混合した爆発性混合ガスを形成しておこる。また,幸いなこと
に爆発性混合ガスが存在しても,常に爆発するわけではなく,混合ガスの組成(爆発範囲),
発火源,発火エネルギー,発火温度等の条件を満たされて,はじめて燃焼や爆発を生じる。
可燃性ガスを扱う場合,爆発を防止するには,
(1) 爆発性混合ガスの組成が爆発範囲(表1参照)内に入らないようにすること。
(2) 発火源(裸火,電気火花,静電気火花,煙草の火,金槌等による衝撃火花,摩擦,高温表
面からの熱放射等)に接触しないようにすること。
の2条件を守ることが必要である。
(1)の具体策としては,高圧ガス設備の継ぎ手やボンベのバルブなどからガスが室内に漏れる
― 45 ―
Ⅳ高圧ガス
以上の高圧ガスのうち,とくに可燃性ガスや毒性ガスを取り扱う場合には,災害発生の可能性
ような状況を作らないこと,また万一のガス漏れに備えて,可燃性ガス検知警報器を設置する
ことが挙げられる。さらに,漏れを生じたときには,安全かつ速やかにガスを室外に排除する
用意をしておくべきである。しかし,混合ガスが爆発範囲に入ってしまった場合には,不用意
に換気扇等のスイッチを入れると爆発する恐れがあるので,その取扱いは慎重を要する。
表1. 主なガスの空気中の爆発限界(101kPa,20℃)
(数字は可燃性ガスの体積%)
ガ
ス
ア
セ
ト
ン
ベ
ン
ゼ
ン
ト
ル
エ
ン
ペ
ン
タ
ン
ヘ
キ
サ
ン
シ ク ロ ヘ キ サ ン
メ チ ル ア ル コ ー ル
エ チ ル ア ル コ ー ル
イソプロピルアルコール
ア セ ト ア ル デ ヒ ド
ジ エ チ ル エ ー テ ル
ジ エ チ ル ア ミ ン
ト リ メ チ ル ア ミ ン
エ チ ル ベ ン ゼ ン
酢 酸 エ チ ル
ア ン モ ニ ア
二 硫 化 炭 素
下 限 界
2.1
1.4
1.1
1.5
1.1
1.3
6
3.3
2.0
4
1.9
1.8
2.0
1.0
2.0
15
1.3
上 限 界
13
7.1
7.1
7.8
7.5
8
36
19
12.7
60
36
10.1
11.6
6.7
11.5
28
50
ガ
ス
水
素
一 酸 化 炭 素
硫
化
水
素
メ
タ
ン
エ
タ
ン
プ
ロ
パ
ン
n - ブ タ ン
エ
チ
レ
ン
プ ロ ピ レ ン
ア セ チ レ ン
1 - ブ テ ン
イ ソ ブ チ レ ン
1,3-ブタジエン
酸 化 エ チ レ ン
酸化プロピレン
酸 化 ビ ニ ル
四フッ化エチレン
下 限 界
上 限 界
4.0
12.5
4.0
5.0
3.0
2.1
1.6
2.7
2.0
2.5
1.6
1.8
2.0
3.6
2.8
3.6
11
75
74
44.0
15.0
12.5
9.5
8.5
30.0
11.1
100
10.0
9.6
12.0
100
37.0
23.0
60
(2)については,
可燃性ガスあるいは引火性物質を扱うときの,
火気厳禁の励行が挙げられる。
ガスは発火源からエネルギーを与えられ,ある温度(発火温度あるいは着火温度)に加熱され
ると発火する。表2に可燃性物質の自然発火温度(可燃物を一様に加熱したとき,発火を生じ
る温度)を示す。近くに高温炉などがあり放射熱によりガスが加熱されると発火,爆発に至る
危険性があり,火気厳禁も裸火だけではなく広く考えなければならない。表2では,水素など
の可燃性ガスの発火温度は木材や可燃性液体より高く,一見安全そうに見えるが,ガスの場合
には,その一部に着火すると火炎がガス全体に伝播しやすいため,きわめて危険である。火災・
爆発については「IX-I 防火と消火」も参照のこと。
表2. 各種可燃物自然発火温度
― 46 ―
1.2 毒性ガス
1日8時間かつ長期間労働しても健康に支障を与えないガス濃度(これを許容濃度という)
が 200ppm 以下のガスをいい,麻酔作用により麻酔死をもたらすもの(クロルメチル,一酸化
窒素等),呼吸系統の収縮を起こし死に至るもの(塩素,亜硫酸ガス,アンモニア等),脳や血
行に障害を起こし死に至るもの(シアン化水素,硫化水素,一酸化炭素等)がある。毒性ガス
は直接健康に重大な影響を与えるものであるが,二酸化炭素,窒素,メタンなどのように,直
接人体に対する毒性を持たないガスでも,呼吸に必要な濃度の酸素を遮断したり,酸欠を起こ
したりして窒息することがある。毒性ガスの例とその許容濃度を表3に示す。ただし,この許
容濃度は平均的な値であって,個人差のあることは当然である。
毒性ガスを取り扱う場合には次の事項に注意する必要がある。
(1) ガス漏れを絶対になくすことが大事であるが,万一を考慮して常に不測の事態にも対処で
きるように用意しておくこと。
ガス濃度を測定できるようにしておくこと。
(3) 少量のガス漏れは換気により環境を改善できるようにしておくこと。
(4) 毒性ガスが漏れた時を想定し,除害剤(吸収剤,中和剤),除害作業に必要な防毒マスク,
ゴム手袋等の防護具を備えておくこと。
毒性については「V-I
化学物質の上手な使い方」も参照のこと。
表3. 有毒ガスの許容濃度(2012 年現在)
ガ
ス
許容濃度
ガ
ス
(vol.ppm)
許容濃度
アンモニア
25
ホ ス ゲ ン
0.1
一酸化炭素
25
五フッ化ヒ素
0.003
二酸化炭素
5000
二酸化イオウ
2
0.5
ア セ ト ン
200
1
ベ ン ゼ ン
0.1
メタノール
200
酸化エチレン
1
エタノール
1000
1,3-ブタジエン
2
ニトロエタン
100
一酸化窒素
25
アクロレイン
0.1
硫 化 水 素
5
ジエチルアミン
5
シアン化水素
5
酢
酸
10
ブロムメチル
1
塩化ビニル
1
塩
フ
臭
素
ッ
素
素
― 47 ―
0.5
Ⅳ高圧ガス
(2) ガス漏れの危険性のあるところでは,ガス漏れ検知警報器を設置するとともに,さらに
1.3 支燃性ガス
そのガスが存在する場合に,他の物質を燃焼させることができるガスをいい,支燃性ガス
を取り扱う際には,次の事項に注意する必要がある。
1.3.1 酸素ガス・空気
(1) 空気中に比べ酸素中では爆発限界(とくに上限界)が広がる。
(2) 酸素ガスは油,油脂,有機物の断熱材などと接触すると発火する危険性がある。
(3) 液化酸素を取り扱うときは,保護眼鏡および凍傷防止のための革手袋を着用すること。
(4) 液化酸素が衣服に触れると,液状やガス状の酸素が衣服に浸み込むので,煙草や火気に
近づくと着火することがある。
(5) 液化酸素が衣服にかかったときは,できるだけ早く衣服を脱ぎ,皮膚を凍傷から守るこ
と(液化窒素のときも同様である)
。
1.3.2 ハロゲンガス
塩素,臭素,フッ素等のハロゲンガスは支燃性があり,例えば塩素と水素,塩素と炭化水
素(メタン,エチレン,アセチレン等)ガスは爆発性混合ガスをつくり,激しく反応して爆
発を起こすことが多く,点火はもちろん,日光の照射によっても爆発的に反応するので注意
する必要がある。
1.4 不燃性ガス(不活性ガス)
不燃性ガスを取り扱う際,次の事項に留意する必要がある。
(1) 大量のガスを取り扱う場合には酸欠に注意すること。
(2) 液化窒素を通風の悪い場所で取り扱うときには,漏れたガスの気化により酸欠を発生す
ることがあるので注意すること。
(3) 二酸化炭素は空気より重いから,地下室に貯蔵するとガス漏れにより窒息を招き易い。
(4) 六フッ化硫黄は吸収しても害はないが,ガス濃度が高くなると窒息の恐れがある。
1.5 法令及び学内法規
高圧ガス保安法では,高圧ガスによる災害を防止するため,高圧ガスの製造,貯蔵,販売,
移動その他の取扱及び消費並びに容器の製造及び取扱を規制するとともに,民間事業者及び
高圧ガス保安協会による高圧ガスの保安に関する自主的な活動を促進し,もって公共の安全
を確保することを目的とする。
高圧ガスの「製造」とは,以下をいう。
(1) 圧力を変化させる場合
(a) 高圧ガスでないガスを高圧ガスとする場合
(b) 高圧ガスをさらに圧力の高い高圧ガスとする場合
(c) 高圧ガスを減圧し,1MPa 以上の高圧ガスとする場合
(d) 高圧ガスである液化ガスを,ポンプ又は気体によりさらに加圧する場合
― 48 ―
(2) 状態を変化させる場合
(a) 気体を液化させ,その液化ガスが高圧ガスである場合
(b) 液化ガスを気化させ,気化したガスが高圧ガスである場合
(3) 容器に高圧ガスを充てんする場合
具体的には,液体ヘリウム回収装置,液体窒素製造設備(CE)
,超高圧結晶成長装置,
臨界点乾燥装置,遺伝子導入装置などが該当し,新たな設置や変更を行なおうとする場合
は,事前に都道府県知事の許可が必要である。
貯蔵についても,高圧ガスの種類や貯蔵量により許可等が必要であり,高圧ガスボンベ
の保管も該当する場合がある。
液体窒素の充てんに自加圧式容器を使用する場合は,法に基づき定期的な容器検査が必
要である。法に基づく学内規則として「高圧ガス製造施設危害予防規程」
「高圧ガス保安教
育計画」があり,保安体制や保安教育計画を定め,これを遵守することを義務付けている。
に願い出ることが必要であり,申請に関する学内手続きは「総合安全管理センター」が行
っている。製造設備の使用開始に当たっては,その規模により保安係員(高 圧 ガ ス 製 造
保 安 責 任 者 免 状 取 得 者 )あるいは保安監督者が学長より選任される。選任された者は,
設備の監督,使用者に対する教育,指導など業務を行うことになる。
1.6 従事者登録及び教育・訓練など
製造設備の使用を希望する者は,保安係員あるいは保安監督者の実施する保安教育などを受
講し,許可を得る必要がある。
教育・訓練に関しては,各都道府県や高圧ガス協会では定期的に高圧ガスの取り扱い,災害
防止のための保安講習会を開催しているので,これらの機会を積極的に利用することも方法で
ある。
― 49 ―
Ⅳ高圧ガス
本学では,都道府県への申請に先立って,その計画について所属する部局長を経て学長
2. 高圧ガス容器および圧力調整器
2.1 高圧ガス容器(ボンベ)
高圧ガス容器(以下容器)には,酸素,水素等の圧縮ガスあるいは液化二酸化炭素,液化亜
酸化窒素等の高圧液化ガスを充てんするために用いられる継目なし容器と,LP ガス等の低圧液
化ガスに用いられる溶接容器とがある。
容器は,充てんガスに応じて次のように塗色されている。
液化アンモニア:白色
液化塩素:黄色
水素ガス:赤色
液化炭酸ガス:緑色
酸素ガス:黒色
アセチレンガス:褐色
その他のガス:ねずみ色
(ただし,上記以外のガスを充てんするアルミニウム製,アルミニウム合金製及びステンレ
ス鋼製の容器,液化石油ガスを充てんするための容器は塗色による表示をしなくてもよい)
また,可燃性ガスには「燃」,毒性ガスには「毒」と明示してある。
容器を取り扱う場合には,次に示す注意事項を念頭に置くこと。
2.1.1 取扱い上の注意事項
(1) 容器にはその肩の部分に刻印(図1)があるのでその内容をよく確かめること。
容器には刻印されたガスしか充てんできない。また,容器はほかの用途に使ってはなら
ない。
(2)
容器は数年毎(内容積やガスの種類により異なる。例:500ℓ以下の継目なし容器の場合
は5年毎)に容器再検査をしてその安全を確かめることになっている。期限の切れた容器は
使用してはならない。使用済みの容器は,直ちに業者に返却すること。条例で留置期間が定
められている都道府県もあるので注意すること。
(3) 容器は常に注意深く取り扱うこと。とくに,衝撃を与えたり,粗暴に取り扱わないよう
にすること。
(4) ガスを使い終わった容器は,置場を定めて
整頓し,危険のないよう常に心がけること。
(5)
研究室における高圧ガスの貯蔵量は必要
最小限とする。また,使用済みのボンベは速
やかに返却するなど処置を行い,不用ボンベ
を研究室に置かないよう努める。
2.1.2 移動上の注意事項
(1) 容器を近距離移動するときは,専用の手押し車を使用する。他の車を使用するときは,
架台などにキャップやバルブをもたせかけないようにすること。
(2) アセチレン容器,液化ガス容器を移動するときは,専用の手押し車に立てて移動するこ
と。
― 50 ―
(3) 手で容器を移動するときは,キャップ(図1)の固着をよく確かめたうえ,キャップの
ネジがゆるまないような方向に回転しながら慎重に移動すること。
(4)
移動中にガス漏れを生じたときは,直ちに漏れ部を点検して適切な処置をとること。
ただし,ガス漏れが激しく危険が予想される場合は,人通りが少なく通風の良い場所に
移動した後に,通報などの必要な処置をとること。
2.1.3 貯蔵上の注意事項
(1) 充てん容器,残ガス容器(空容器)を問わず,それらの容器を貯蔵するときには,その
容器置場の周囲2m 以内には,火気または発火性,引火性の物を置いてはならない。
(2) 転倒等による衝撃およびバルブの損傷を避けるため,上
から物が落ちない安全な場所を選ぶ。
また,高圧ガスボンベは,ボンベスタンドに上下 2 箇所を
強固なチェーン等で固定するとともに,スタンドも,アン
(3) 容器は,転倒等によりバルブが損傷すると,高圧ガスが
噴出してロケットのように飛ぶ危険性がある。
(4) 可燃性ガス,毒性ガスおよび酸素はそれぞれ区分し,同
一の場所に置かないこと。
(5) 充てん容器は,常に温度 40℃以下に保つようにしなければいけない。
(6) 充てん容器は,換気の良い場所に貯蔵する。空気より重いガスを容器置場で貯蔵する場
合は,床面に接して換気口を設けること。
(7) 可燃性ガスの容器置場には,消火器(粉末,炭酸ガス,ハロゲン消火器等)を備えつけ
ておくこと。
(8) 充てん容器,残ガス容器にそれぞれ区分して容器置場に置くこと。
(9)
研究室内での収納は,毒ガスはシリンダーキャビネットに収納し,除害装置設備を設け
る。その他のガスはボンベ架台等に固定する。
2.1.4 使用上の注意事項
(1) 容器バルブの開閉は静かに行い,使用を中止したときは,バルブを閉め,キャップを取
り付けておくこと。
(2) 充てん容器と使用済みの容器(残ガス容器)は,はっきり区別し,残ガス容器には「カ
ラ」
,
「空」などと札などで表示しておくとよい。
また,バルブの開閉状態がわかるように「バルブ開」,
「バルブ閉」などと表示をする。
(3) 充てん口(圧力調整器取り付け部)には右ネジと左ネジとがあるので,接続をまちがっ
てネジを損傷しないように注意すること。(圧力調整器の項参照)
(4) 毒性ガス等の充てん口には,蓋キャップを取り付け,ガスの漏えい防止および移動時の
ネジの損傷防止をはかることが望ましい。一般のガスの場合も,できるだけ使用時以外は
プラスチック等のキャップをして,取り付け口内へのゴミの侵入を防止すること。
― 51 ―
Ⅳ高圧ガス
カー止め等の転倒防止対策を実施すること。
(5) バルブ,配管,圧力計等の取り付け部から漏れがあるかどうかを石けん水,検知液など
で点検した後に作業を開始すること。
(6) 温度計や圧力調整器の指針が正確に作動しているかを確認すること。
(7) 多くの容器バルブには,圧力の異常上昇による破裂防止のために安全弁(ばね式,破裂
板式,溶栓)がつけてある。この安全弁には手を触れてはいけない。安全弁からの漏れガ
スに着火した場合には,消火器を使用して消火するが,応急的には漏れた布等で空気を遮
断すればよい。
ただし,再び着火することがあるので,大量の放水で容器を冷却し,安全な場所に移す
ようにする。
(8) ガスを使い終わって容器を返却するときは,必ずバルブを閉じておく。
(9) 可燃性ガスの容器には,火気を絶対に近づけないようにし,周囲からも見やすい場所に
「火気厳禁」等の表示をすること。
(10) 液化酸素の充てん容器で,バルブや調整器などから発火することがあるが,消火器か
防火布(不燃性の布)を使ってすばやく消すこと。
(11) 液化酸素の場合,バルブ等が凍結して動かないときは,火気を絶対使用せず,温湯な
どをかけて暖めて凍結をとかすこと。
(12) 容器からガス漏れがあるときは,まず容器元バルブを閉める。それでも止まらない場
合は,その容器を通風のよい安全な場所に移し,火気を近づけないよう注意すること。
2.2 圧力調整器
圧力調整器(以下調整器)は,容器内の高圧ガスを,使用する機器に必要な適正圧力まで減
圧し,容器内のガス圧力の変化や機器のガス消費量の変化に対して,供給圧力を一定に保つた
めの器具である。
調整器で最も注意すべき点は,調整器と容器バルブとの接続ネジが右ネジか左ネジかである。
可燃性ガスは左ネジ,その他は右ネジとなっている。ただし例外があるので注意を要する。ア
ンモニア用は右ネジ,ヘリウム用は左ネジ等である。
調整器には,一段式及び二段式があり,それぞれの使用目的によって選択される。図2に二
段式圧力調整器を示す。
― 52 ―
高圧圧力計
低圧圧力計
右ネジ、左ネジの使い分けに注意
安全弁
図2
調整器は,使用中にトラブルの原因になることがよくあるので,次のような点に十分な注意
が必要である。
2.2.1 取り付け前の注意事項
(1) 原則として,調整器は,ガスの一種類に対して一台で使用し,共用しないこと。これは,
またとくに毒性の強いガスや可燃性ガスの場合,共有することは危険で,残ガスとの反応
により思わぬ事故を起こすことがある。さらに残ガスの微量混入により,ガスの品質を劣
化させることとなる。
(2) とくに酸素用調整器の場合には,酸素ガスと接触する部分にオイルやグリースなどをつ
けたりしないこと。また火気に近づけないこと。
(3) 腐食性ガス(塩素,アンモニア,硫化水素等)用の調整器は,時々性能チェック,漏れ
チェック等を行う必要がある。故障しても安易な修理をして使用せず,新しいものと交換
すること。
(4) 一次圧力計目盛りの最大値が充てん圧力以上であることを確認すること。
(5) 調整器を取り付けるときは,取り付け口のゴミ等を清掃してから取り付けること。これ
は,ゴミ等が存在すると取り付け部の気密が損なわれたり,目詰まりやシート部を損傷し
て気密不良を起こすなどの不具合の原因となるためである。
2.2.2 使用時の注意事項
(1) 調整器を使用する前に圧力調整ハンドルは,二次圧が上がらないように完全に戻してお
くこと。このハンドル(バルブ)は,通常のバルブの回転方向とは逆なのでとくに注意す
ること。右に回すとガス圧が高くなる。左回転でオフとなる。使用後は,元に戻してガス
を全部出しておくこと。
万一,このバルブが全開のまま,容器の元栓を開けると,安全弁が開いてガスが大気中
に抜けるようになっている。従って,シランのように発火するガスや毒性の強いガスに対
して,安全弁のついた調整器を用いてはならない。
(2) 絶対に調整器の正面に顔を向けないこと。
(3) 容器バルブを急激に開けて,調整器内に急激な圧力をかけないこと。故障や事故の原
因のほとんどがこの様な場合に起こる。静かに容器バルブを開けてガスを導入すること。
― 53 ―
Ⅳ高圧ガス
調整器部品の材料が使用するガスの化学的性質に対して耐性が大きく異なるためである。
(4) 使用する圧力の範囲は,低圧(二次圧)圧力計の最高目盛の 3/5 以下とする。その値よ
り高圧で使用する必要のあるときには,適合する別の調整器を用いること。
(5) 使用を一時中断するときも,圧力調整ハンドルを緩めておくとともに,容器バルブも閉
じることを励行すること。
(6) 圧力調整器を取りはずすときは,まず容器バルブを完全に閉じ,調整器内のガスを放出
してから行うこと。
(7) 輸入圧力調整器の圧力単位は kPa あるいは psi で表示されている。これらに必要な換算
値は,表4に示す通りである。
3. 都市ガス
都市ガスの安全については,ガス漏れやガスの立ち消えによる流出と,これらに関連する爆発,
不完全燃焼による一酸化炭素中毒などに注意しなければならない。
その取扱い上の留意事項は次の通りである。
(1) ガスの点火,消火は必ず目で確認する。また,ガスを使用した場合には,退室に際し必ずガ
スの元栓を含めて全てのコックを閉じること。
(2) ガス管の接続部分には,必ず止め金を使用する。また,使っていないガス栓にはゴムキャッ
プをすること。
(3) ガス管の接続部分に異常がないか常に点検すること。
(4) たこ足配管や間に合わせ的な配管はしてはならない。
(5) ガス管は,足で踏んでもつぶれないような強化ガスホースやコンセントホースなどを使用す
ること。
(6) 古い破損したゴム管を使用したり,またそれを一時的に補修して用いてはならない。必ず新
品と取り替えること。
(7) ガス器具の近くには燃え易い物を置いてはならない。
(8) ガスコンロやバーナーなどを,木製などの可燃性の台に置いてはいけない。必ず金属や無機
質等の不燃性の台の上に置くようにすること。
(9) ガス漏れによるガス臭を検知した場合には,すぐにドアや窓を開放して通風をよくし,全て
― 54 ―
のコックをしめること。
(10) 都市ガスの漏れ検知には都市ガス警報器がある。ガス器具のある室内に天井から 30cm の所に
設置する。
(プロパンは下にたまるので床から 30cm 以内の所に設置する。
)また,ガス漏れ警
報器には有効期限があるので注意しなければならない。
(11) ガス漏れを生じた場合には,換気扇や電灯など電源のスイッチ操作は絶対にしてはならない。
(12)
一酸化炭素ガスによる中毒防止のため,不完全燃焼がないように気をつけ(不完全燃焼防
止装置付きのガス器具もある)
,同時に部屋の換気に十分注意しなければならない。
4. 液体窒素
窒素ガスそのものは無害であるが,液体窒素を扱う場合には,性質上-196℃で沸騰して気化
し約 700 倍にも膨張するなど,温度が非常に低く,液体と気体の対比が非常に大きいため,凍傷
また,液体窒素により,空気中の酸素が凝縮することによる事故を防ぐため,以下に注意する
こと。
(1) 火気厳禁
(2) 堆積膨張によるガラス容器等の破損
液体窒素を利用する際,少量かつ不定期の場合は,液化ガス貯蔵用容器(デュワー,自加圧式
タンク)を用意して,液体窒素貯蔵設備から供給を受けるという形が一般的である。多量に使用
する場合は,貯蔵設備から実験装置までを直接,真空配管で結ぶ方法が採用されている。ここで
は,半導体プロセスに限らず,低温を利用した実験や測定を行う際の安全対策について述べるこ
ととする。
4.1 液体窒素貯蔵設備利用上の安全
液化ガスは通常,タンクローリーで搬入され,貯蔵タンク(容量
数千ℓ)に貯蔵される。
使用時は,タンクの取り出し弁を開けるだけで所定の液体窒素が取り出せる。液体窒素を貯蔵
タンクから別の容器に充てんする(液採り)作業は,一つ間違えると液体窒素を浴びて凍傷に
なる可能性があり,作業に当たっては,細心の注意が必要である。特に,軍手などの手袋など
をしてバルブ操作を行っている場合,万一液体窒素がかかると,手袋が凍結してしまい,手か
ら外れなくなり,大変危険であるので十分注意すること。また貯蔵タンクは,高圧(1MPa)
がかかっているので,不用意な弁の操作は高圧窒素ガスの突出につながり非常に危険である。
必ず革手袋を着用する。軍手は液
体や気化したばかりの極低温の冷
気を繊維中に染みこませ凍り付い
てしまう危険がある。必ずゆるめ
の革手袋を着用し、衣類等にかか
ら な い よ う 細 心 の 注 意 を 払 うこ
と。かかった場合は素早く払い落
とすこと。
― 55 ―
Ⅳ高圧ガス
や酸欠に対する注意が必要である。
4.2 液体窒素貯蔵容器使用上の安全
液体窒素貯蔵容器には,通常 10ℓから 100ℓの容量のものが用いられる。
4.2.1 液体窒素デュワー使用上の安全
液体窒素デュワーは,図 4.1 に示すように2重構造になっており,隔壁は,真空に保持さ
れている。安全弁は,真空を封じ切ってある部分なので不用意にキャップを外したりしては
ならない。満タン時のデュワーの搬送は,必ずキャップを締めて移動する。キャップをしな
いと,床面の凹凸で振動した場合,デュワー内の液体窒素が突出し危険である。顔面に液体
窒素を浴びて大怪我をした事故例もある。
液体窒素をデュワーからくみ出す際,図 4.2 に示すような手押しポンプがよく用いられ
る。これは,容器内部を昇圧して液体窒素を押し出すような仕組みになっている。くみ出
しポンプは,乾燥していることが重要である。水滴がついていると氷結し動作不良を引き
起こす。また手押しポンプに過度の圧力を加えると,ホース部分に過剰に圧力がかかり破
裂し危険であるので適度な加圧を心がけなくてはならない。
4.2.2 自加圧式貯蔵容器使用上の安全
自加圧式貯蔵容器は,内蔵した気化器
を用いて加圧することにより液体窒素が
取り出せるようになっている。構造を図
4.3 に示す。保管時は,ガス抜きバルブを
除き他のバルブは閉にしておく。液体の
蒸気圧は,そのときの温度で決定される
ので,一時的にバルブをすべて閉にして
も圧力が急激に上昇することはない。貯
蔵タンクから自加圧式貯蔵容器への液移
送時には,ガス抜きバルブを全開にして
余剰圧力を抜いてから液面計を外し供給
を行うこと。本容器は,密閉式圧力容器
であるので保安検査(圧力試験)を定期
的に実施すると共に使用期限を明示する
必要がある。使用期間の過ぎた容器は使
用してはならない。
― 56 ―
4.3 液体窒素充填手順(Operation Manual)
Ⅳ高圧ガス
4.4 液体窒素使用上の安全
液体窒素は,安価で手軽に入手でき,またガスそのものは無害であるため,安易に扱いがち
だが,うっかりミスによる重大事故も多く起きている。以下に液体窒素の使用上の注意事項を
あげる。
(1) 保管容器から液体窒素を実験機器に供給するときは,液体窒素が“もれ”ないように工
夫が必要である。人体に少量かかる程度では,蒸発が早いため影響はないが,ある程度以
上一定時間あびると瞬間的に人体組織は凍結してしまう(凍傷)。万一,凍傷になった場
合は,患部が白くなる第1度の凍傷では凍傷の部分を 40 度位の温湯(体温より少し高め
の温度)で 15~30 分ほど温めるか,または,入念にマッサージするなどの適正な処置を
すること。水疱のできる第2度以上の凍傷では至急皮膚科を受診すること。
(2) 多量に用いる時は,換気に心がける。実験機器からの余剰圧力による排ガスは,必ず換
気扇へ排出すること。使用中に気化するガスが,実験室に滞留するような状態で長時間経
過すると窒息する危険がある(酸欠)。特に密閉度の高いクリーン・ルーム内などでの使
― 57 ―
用には注意が必要であり,酸素センサなどの警報装置の設置が望まれる。空気中の酸素濃
度が 18%以下になると酸欠状態となる。酸素濃度が 12~18%の酸素不足の状態では,頭
痛やめまいなどの症状が現れ,6%以下では一呼吸で倒れる。
万一酸欠状態が発生し,気分の悪くなった者や意識不明に陥った者を発見した場合は,部
屋の換気を十分行った後,部屋の外へ連れ出し(必要に応じ酸素マスク着用)衣服の首回
りをゆるめて酸素吸入を行う必要がある。
(3) 液体窒素中に室温の物体を投入するときは,徐々に入れること,急激に投入すると激し
い沸騰が生じ,液体があふれ出て危険である。またトラップやシュラウドに液体窒素を供
給する場合,気化に伴い内部の圧力上昇を考慮する必要がある。圧力上昇を無視した供給
を行うと機械的に弱い個所が破裂若しくは脱離し,液体窒素が飛散する可能性があり非常
に危険である。
(4)
取り扱うときは,保護眼鏡および凍傷防止のため渇いた革手袋を使用する。
(軍手は液
が浸みこみ液を滞留させる。また,気化したばかりの極低温の冷気を素通りさせるので使
用してはいけない。
)
5. 液体ヘリウム
液体ヘリウム貯蔵容器は,三重隔壁構造となっている。これは,外隔に液体窒素を充填し,
容器を予冷しておくためである。ヘリウムは,不活性で空気よりも軽いので,酸欠の心配はほ
とんどない。しかし,実際には,液体ヘリウム単独で用いられることはなく,必ず,その数倍
の量の液体窒素と同時に用いられることが多い。このためむしろ液体窒素による凍傷や酸欠に
対する注意が必要である。また,容器内に液体ヘリウムが入っているときは,外隔の液体窒素
を絶やさぬように補充しなくてはならない。外隔の液体窒素が少ない状態で液体ヘリウムを密
閉した状態で保持すると,気化による圧力上昇が非常に大きく危険である。
6. 寒剤(液体窒素,液体ヘリウム)の運搬における注意事項
・エレベータでの運搬は,地震,停電等でエレベータが停止した場合,酸欠事故を引き起こす危
険があるので注意すること。
・容器は傾けないこと。
・自加圧式貯蔵容器(100ℓ)は,必ず2人以上で運搬すること。
参考文献
1) 高圧ガス保安協会:高圧ガス技術,共立出版(昭 52)
2) 高圧ガス保安協会:高圧ガス保安法規集(平 16)
3) 高圧ガス保安協会:第1種高圧ガス販売主任者講習テキスト(平4)
4) 高圧ガス保安協会:高圧ガス保安技術(甲種化学・機械講習テキスト)
,高圧ガス保安協会
(平 13)
― 58 ―
IV-II
半導体プロセスの安全について
1. 一般的注意
半導体工業の発展とともに,シラン,アルシンといった危険・有害ガスが,大学における研究活
動にも用いられることが多くなった。最近では多かれ少なかれ,これらのガスを用いなければ最先
端の実験ができないことも事実である。今後,こうした半導体用のガスを用いて,先端的な研究活
動を継続していくためには,決して事故を起こさないことが最も重要な課題である。ここでは,半
導体用のガスを用いたプロセスの安全について検討を加えた。
半導体用ガスを用いプロセスの安全性を高めるには,まず実験設備の設計段階から計画的に安全
性に配慮することが極めて重要である。一度,装置が完成してしまうと,なかなか変更できないの
が現状である。半導体関連企業では,一つの装置を作ると,その装置費の3~5割程度が更に安全
半導体用ガスを用いたプロセスでは,事故を未然に防ぐため,常に以下のことを鉄則にして実験
を進めていく必要がある。
・有害ガスを絶対に漏らさない
・有害ガスを未処理のまま排出しない
・万一漏れても絶対にすわない
大学での実験では,短期間で担当の学生が入れ替わるなど,事故につながる危険性が常につきま
とっている。したがって,きめの細かな安全教育が望まれる。半導体プロセス関係の実験では,担
当者全員が少なくとも以下に示す一般的注意事項を遵守する必要がある。
(1) 半導体用ガスに対する基礎知識をもち,ガスの性質を十分認識した上で実験を行うこと。
(2) これまで報告例のない,新しい半導体用ガスを用いる場合は,必ずその安全性に関する資
料を集めてから実験を開始する。
(3) 事故は,装置の立ち上げの際に起きやすい。ガスを初めて流す前に真空引きによる漏れチ
ェックを徹底して行うこと。特に,加圧となる部分については,慎重に漏れチェックを行う
必要がある。
(4) 一般的には,半導体プロセスでは,バルブ操作がきわめて多く,必ずバルブ操作のための
マニュアルを作成すること。実験に慣れてきても,マニュアルで確認する作業を省略しては
ならない。
(5) 危険なガスを扱う実験は,二人以上で行うことが望まれる。特に夜遅く,一人で実験を行
ってはならない。
(6) 定期的に安全確認の作業を行うこと。特に,定期的に保守が必要な装置(例えば排ガス処
理装置)などに関しては,必ず作業記録を残し,忘れることのないようにすること。
(7) 緊急時に備えて定期的に訓練を行い,特に,消火器,ガスマスクなどは,すぐに使えるよ
う日頃の訓練を怠らないこと。また,担当者間で,常日頃から地震,火災,ガス漏れなどに
― 59 ―
Ⅳ高圧ガス
性の確保のために使われると言われている。
対する緊急措置を話し合うことが大切である。
なお,本章では,半導体ガス関連の安全に関して述べるが,半導体プロセス全体として眺めると,
化学薬品の扱いも極めて重要である。化学薬品の安全に関しては,
「V-I 薬品の上手な使い方」に
記載されているので,ここでは省略したが,特に以下の2種類の薬品に関しては,使用頻度が高く,
危険性がきわめて高いので十分注意して頂きたい。
① トリクロロエチレン(トリクレン)
トリクレンを扱っている者の白血球が減少する例があり,蒸気を吸わないよう十分注意する必
要がある。
② HF(フッ酸)
少しでも皮膚につくと,骨まで達するので厳重に注意すること。HF を用いる場合は,必ず手
袋,保護眼鏡を着用のこと。
2. 特殊材料ガスを使用するにあたって
2.1 特殊材料ガスとは
半導体プロセスには,半導体,絶縁体,金属材料等の作製や加工のために様々な化学物質が
用いられている。これらは化学的に活性な物質が多く,可燃性,発火性,爆発性,毒性,腐食
性などを示し,その取り扱いには十分な知識と注意が必要となる。
半導体プロセスでは取り扱いとプロセス上の利点から,常温常圧でガス状物質が用いられる
場合が多く,これらは,圧縮してシリンダーに充填し高圧ガスとして取り扱われる。
このため,溶液や固体物質とは異なり,半導体プロセスガスの中には高圧ガスとしての危険
性とともに,特に漏洩時に,発火性,爆発性,毒性のために極めて深刻な事態が憂慮される物
質も含まれる。この代表的な物質は,表 2.1①に示す7種類の高圧ガスで,特に,
「特殊高圧ガ
ス」と呼ばれ,その消費に際しては排出される排ガスの処理も含めて災害の発生を防止するた
めの特別な注意が必要となる。
2.2 法令及び学内規則
半導体プロセスガスの取り扱いについては,一般的な高圧ガスの取り扱いの規制に加えて,
高圧ガス保安法によって,前述の7種類の「特殊高圧ガス」の消費にあたっては,届出義務や
消費設備の災害発生を防止するための技術基準やその維持義務等の規則が課せられるように
なった。詳細については,参考文献の 9,10,11 を参照して頂きたい。
学内においても災害防止のための特殊材料ガスの取り扱いに関するガイドラインとし「東京
工業大学特殊材料ガス災害防止マニュアル」を定め,これを遵守することを義務付けている。
表 2.1 に,法令,都道府県指針およびマニュアルで規定する特殊材料ガスの種類を示す。
― 60 ―
表 2.1 特殊材料ガスの種類
①特殊高圧ガス(高圧ガス保安法24条の2、特定高圧ガス)
モノシラン
ジシラン
アルシン
ホスフィン
ジボラン
モノゲルマン
セレン化水素
SiH4
Si2H6
AsH3
PH3
B2H6
GeH4
H2Se
シリコン系
シリコン系
ヒ素系
リン系
ホウ素系
金属水素化物
金属水素化物
②上記以外の高圧ガス(高圧ガス保安法24条の5)
四フッ化ケイ素
五フッ化ヒ素
三フッ化リン
五フッ化リン
三フッ化ホウ素
テルル化水素
スチビン
三フッ化窒素
四フッ化硫黄
SiF4
AsF5
PF3
PF5
BF3
H2Te
SbH3
NF3
SF4
シリコン系
ヒ素系
リン系
リン系
ホウ素系
金属水素化物
金属水素化物
ハロゲン化物
ハロゲン化物
ジクロロシラン
SiH2Cl2
シリコン系
トリクロロシラン
SiHCl3
シリコン系
四塩化ケイ素
SiCl4
シリコン系
テトラメトキシシラン
Si(OCH3)4
シリコン系
テトラエトキシシラン
Si(OC2H5)4
シリコン系
三フッ化ヒ素
AsF3
ヒ素系
三塩化ヒ素
AsCl3
ヒ素系
五塩化ヒ素
AsCl5
ヒ素系
トリメチルヒ素
As(CH3)3
ヒ素系
トリエチルヒ素
As(C2H5)3
ヒ素系
ターシャリーブチルヒ素
C4H11As
ヒ素系
トリエトキシアルシン
As(OC2H5)3
ヒ素系
ターシャリーブチルホスフィン
C4H11P
リン系
三塩化リン
PCl3
リン系
五塩化リン
PCl5
リン系
三臭化リン
PBr3
リン系
オキシ塩化リン
POCl3
リン系
トリメチル亜リン酸
(CH3O)3P
リン系
トリメチルリン酸
(CH3O)3PO
リン系
トリエチルリン酸
(C2H5O)3PO
リン系
三塩化ホウ素
BCl3
ホウ素系
三臭化ホウ素
BBr3
ホウ素系
トリメチルホウ素
B(CH3)3
ホウ素系
トリエチルホウ素
B(C2H5)3
ホウ素系
水素化スズ
SnH4
金属水素化物
六フッ化タングステン
WF6
金属水素化物
六フッ化モリブデン
MoF6
金属水素化物
四フッ化ゲルマニウム
GeF4
金属水素化物
四塩化ゲルマニウム
GeCl4
金属水素化物
四塩化スズ
SnCl4
金属水素化物
四塩化チタン
TiCl4
金属水素化物
五塩化アンチモン
SbCl5
金属水素化物
六塩化タングステン
WCl6
金属水素化物
五塩化モリブデン
MoCl5
金属水素化物
トリメチルガリウム
Ga(CH3)3
金属アルキル化物
トリエチルガリウム
Ga(C2H5)3
金属アルキル化物
トリメチルインジウム
In(CH3)3
金属アルキル化物
トリエチルインジウム
In(C2H5)3
金属アルキル化物
トリメチルアルミニウム
Al(CH3)3
金属アルキル化物
トリエチルアルミニウム
Al(C2H5)3
金属アルキル化物
ジメチル亜鉛
Zn(CH3)2
金属アルキル化物
ジエチル亜鉛
Zn(C2H5)2
金属アルキル化物
ジエチルテルル
Te(C2H5)2
金属アルキル化物
※1 ①以外は、各都道府県により規制対象が異なるため注意が必要。
※2 水素化スズは、神奈川県(指針)では高圧ガスに分類されている。
― 61 ―
Ⅳ高圧ガス
③非高圧ガス(神奈川県特殊材料ガス等取扱指針、東京工業大学特殊材料ガス災害防止マニュアル)
また,
「特殊高圧ガス」の消費設備の新たな設置や改廃を行なおうとする場合は,都道府県
への届出に先立って,その計画について所属する部局長を経て学長に願い出ることが必要であ
り,届出に関する学内手続きは「総合安全管理センター」が行っている。
消費設備を設置する研究室は,特殊材料ガスの消費に係る保安に関する業務を管理する取扱
主任者を置き,学長に届け出る必要もある。取扱主任者は,「高圧ガス保安教育計画」に基づ
き,使用者に対する教育,指導などの業務も行うことになる。
2.3 従業者登録及び教育・訓練など
特殊材料ガスの安全な取り扱いについて,毎年春,安全講習会が開催されている。特殊材料
ガスを取り扱うことができる者は,この講習会による教育および訓練を受けた者か,又は申請
による者に限られる。
各研究室では,日頃から半導体プロセスガス等の取り扱いに関する知識の習得と保安意識の
向上に務め,災害を未然に防ぐ努力が不可欠である。各都道府県の高圧ガス協会では定期的に
特殊材料ガスの取り扱い,災害防止のための保安講習会を開催しているので,これらの機会を
積極的に利用することも方法である。
2.4 いかにして事故を未然に防止するか
半導体プロセスの安全をはかるためには,技術基準を満たす設備の確保はもちろんのこと,
自分の安全は自分で守るとの自覚のもとに日頃の保安意識の自覚が最も重要である。
半導体プロセスに従事する人は,
(1) 使用する設備に関する操作法や停電,装置の故障などの緊急時の対処法について熟知し
ていること
(2) 取り扱う物質の物理化学的な性質や毒性などについて正確な知識をもつこと
(3) 特殊材料ガス災害防止マニュアルの記載事項を遵守すること
(4) ガス漏洩などの緊急事態の段階に合わせた適切な対処法を熟知しておくこと
(5) ライフジェムなどの救命器具の使用についての実地訓練
が不可欠である。
3. 半導体用危険・有害化学物質
3.1 半導体用ガスの一般的知識
半導体プロセスには,発火性のガスや有害ガスが多く用いられている。これらの危険・有害化
学物質を用いて研究を進めていくためには,ガスに対する基礎知識を養うとともに,その扱いに
慣れ,安全対策を十分施す必要がある。ここでは,まずこれらのガスの基礎的な性質,排ガス処
理法,救急処置法などを眺める。半導体用に使用される各種ガスの一般的性質をまとめると表
3.1 のとおりである。
― 62 ―
3.1.1 燃焼性
シランなどの水素化物は,化学的には還元性が強く,容易に加水分解するが,特に注意すべ
き性質として燃焼性,爆発性があげられる。水素化物は,何れも可燃性であり,空気中で爆発
的に燃焼する。特にシラン類は,空気との接触により大爆発する可能性が極めて高く,また高
濃度の状態で使用されることが多いので,取り扱いには細心の注意が必要である。クロルシラ
,フロロシラン類(SiH3F,SiH2F2,SiHF3)も空気中で容易に
ン類(SiH3Cl,SiH2Cl2,SiHCl3)
発火するし,また静電気によっても発火する。液状クロルシランは,容器に強い衝撃を与える
と発火することもあるので注意しなければならない。また,水素化物は,酸化剤,特にハロゲ
ンやその化合物と爆発的に反応するので,両者を共存させてはならない。
有機金属は,高温において熱的に不安定であり,また空気や水と激しく反応するため取り扱
いにあたっては,十分に注意する必要がある。しかし,それ自身は衝撃などによって爆発する
ことはない。空気に触れると自然発火し,この時に酸化物の白煙を発生する。この際,発生す
放置してはいけない。漏洩時に布,紙等で拭き取ると二次火災の恐れがある。
3.1.2 腐食性
水素化物は,ゴム,グリース及び潤滑油を侵すこと。サラン,ポリエステル,石英ガラス,
ナイロン,テフロン,アスベスト,パラフィン等は影響を受けない。金属では,アルミニウム
が侵される。H2S,NH3 は特に腐食性が強く,水分の存在下でそれぞれ特に,Cu,Al 及びその合
金を激しく腐食する。なお,AsH3,H2Se,GeH4 等は,自触媒性が非常に強く,ひとたび分解し
て金属皮膜を形成すると,急速に分解するので,配管などの材質表面は清浄,平滑でなければ
ならない。
ハロゲン化物は,ほとんどすべて容易に加水分解し,塩酸,フッ酸等の腐食性の強い酸を生
じる。同時に白煙,刺激臭を伴う。これらの酸は,ほとんどの金属を激しく腐食する。特にフ
ッ酸は,ガラス,陶磁器,ほうろう,石綿,珪素鋳鉄等も腐食する。
3.1.3 毒 性
半導体の膜形成,プロセスに用いられるガスの多くは強い毒性があり,極めて微量で人体に
重大な影響を及ぼすので,その取り扱いには,細心の注意が必要である。水素化物は,特に毒
性が強く微量の吸入によって頭痛,めまい,吐き気,呼吸困難等の急性症状が現れる。特に
AsH3 等は溶血作用が強く,高濃度の吸入は,即死,低濃度でも数時間で死に至る。また,目,
喉等の粘膜を刺激するものも多く,ごく微量の吸入でも繰り返すと同様の慢性症状が現れる。
シラン類も同様な症状を引き起こすが,毒性に関する詳しい情報は知られていない。
ハロゲン化物は,特に粘膜を強く刺激し,呼吸器,目,鼻などに重大な障害を引き起こすこ
とになる。有機金属は,その活性な反応性のために体内に直接有機金属として摂取することは
ないが,皮膚に付着するとその組織を破壊し,処置が遅れるとひどい火傷を残すことになる。
また,火災時に発生する白色の金属酸化物の煙霧を吸入すると,気管や肺が侵される。
― 63 ―
Ⅳ高圧ガス
るガスは非常に有毒なので十分な換気をする。また,漏洩しただけで火災の危険性があるので
表 3.1
各種半導体用ガスの一般的性質
― 64 ―
3.1.4 排ガス処理法
水素化物は,加水分解の後,アルカリで中和,酸化吸着剤を用いた吸着等の方法により処理
する。特にシラン類は,燃焼炉を用いた燃焼によっても処理可能である。ハロゲン化物は加水
分解の後アルカリで中和して処理する。焼却炉に投入してはいけない。有機金属は,トキソク
リーン等の吸着剤を用いて除去する。いずれの方法によっても,大量のガスを一度に処理する
ことは非常に危険なので,流量制御を行って徐々に処理を行わなければならない。また,種類
の異なるガスを同時に用いるときには,危険のないように,その処理系統の構成に十分配慮す
る必要がある。
3.1.5 救急処置
毒性の強いガスを吸入した場合は,直ちに新鮮な空気中に連れ出し,酸素吸入する。呼吸停
止の場合には,適切な処置を行い,安静にしてすぐに専門医を呼ぶこと。皮膚・目・鼻等に付
着した場合は,直ちに大量の流水で長時間洗浄する。専門医を呼ぶ場合には,医師が来るまで
はいけない場合が多いので注意が必要である。有機金属の場合は,特に火傷を伴う可能性が高
いので,洗浄と供に十分に冷却する。誤飲した場合は,大量に水を飲ませて希釈する場合,吐
かせてよい場合,悪い場合と適切な処置が様々なので,注意が必要である。
3.2 各種半導体用ガス
半導体用ガスとして頻繁に用いられる危険性の高い化学物質について,その危険性,人体への
影響,緊急時の処理法などを詳しく述べると次のとおりである。
3.2.1 AsH3(ヒ化水素,アルシン)
(1) 危険性
燃焼性:あり
爆発範囲:0.8~98vol%
混触危険物質:Cl2,強い酸化剤,硝酸
自触媒性:非常に強い
(2) 緊急措置
漏洩:人を避難させ,緊急換気する。気体は清浄装置を通して排気する。
火災:ドライケミカル消火器,CO2 消火器を使用のこと。
取扱:自給式呼吸器,グローブ,手袋等着用,目の保護をする。取り扱い後は手や顔をよ
く洗うこと。
(3) 人体への影響
急性(吸入):ヘモグロビンとの親和力が強く,溶血作用がある。貧血,黄だん,浮腫が現れ
る。皮膚呼吸でも影響があり,息を止めたり,ガスマスクをしても完全には防げ
ない。 250ppm…即死。25~50ppm…1時間半で死亡。3~10ppm…数時間で
中毒症状発現。長時間では致死。0.5ppm…急性中毒発現。
― 65 ―
Ⅳ高圧ガス
洗浄を続ける。化学的な中和剤は使用してはいけない場合がほとんどで,軟膏なども塗布して
めまい,頭痛,喉に刺激,肺浮腫。
慢性:赤血球破壊。尿中にタンパク質。
発ガン性:危険性がある。
(4) 救急処置
酸素吸入。速やかに医師の診断を受ける。
(5) 排ガス処理法
固体酸化吸収剤(FeCl3 を主剤とする)による吸着反応処理,及びこれと燃焼器との併用
をすること。
3.2.2 PH3(リン化水素,ホスフィン)
(1) 危険性
爆発範囲:1.32~9.8vol%
自然発火性:微量の P2H6 を含むため,自然発火性がある。
混合発火物質:AgNO3,Hg(NO3)2,N2O,N2O3,HNO3,HNO2,Cl2,NO,NCl3,Cl2O,Br2
混触危険物質:空気,BCl3,Br2,Cl2,Cl2O,Hg(NO3)2,HNO3,NO,NCl3,NO2,N2O,HNO2,
(K+NH3)
,AgNO3
O2,
(2) 緊急措置
漏洩,飛散:火気厳禁,漏れを止める。蒸気を少なくする為に水散布及び換気すること。
小火災:粉末または CO2 消火器
大火災:水散布,霧又は泡。この際,水の汚染に注意すること。
(3) 人体への影響
急
性(吸入):数分以内に呼吸困難,チアノーゼ,気絶,窒息性けいれん等の徴候が現れ,
致死となる。
亜急性(吸入):極度の疲労感,頭胸腹の痛み,長く続く吐き気,下痢,更に吸入すると,
肺水腫,運動失調,興奮と眠気等が起こり,48 時間以内に死ぬこととなる。
この段階をのりきったとしても,致命的な肝臓,腎臓障害が引き続いて起
こる。呼気はにんにく臭がある。黄だん,窒素血症,閉尿が起きる。心臓
障害もある。2000ppm…数分で死に至る。300ml/m3…1時間で命が危な
い。症候の現れない最大許容濃度…1.4~2.8ppm である。
(4) 救急処置
できるだけ早く酸素を吸入する。保温・安静。速やかに医師の診断を受けること。
(5) 排ガス処理法
吸着剤(過マンガン酸カリウムの硫酸水溶液,塩化第二鉄溶液,次亜臭素酸ナトリウム溶
液)による除去及び排ガスを洗浄し,大気中に放出すること。
― 66 ―
3.2.3 B2H6(水素化ホウ素,ジボラン)
(1) 危険性
燃焼性:可燃性
爆発範囲:0.9~98.0vol%
自然発火性:湿った空気中で自然発火する。
混合発火性:熱,炎,空気,HNO3,O2
混触危険物質:CO2,酸化剤,アルミニウム,リチウム
(2) 緊急措置
漏洩,火災:蒸気を少なくする為に水散布。ガスが燃えており漏れが止められない場合に
は,燃えるにまかせる。火災が起きたタンクから全方向 800m は隔離すること。
消火:小火災…粉末又は CO2 消火器,大火災…水散布,霧又は泡が有効である。
(3) 人体への影響
吸困難,肺水腫,溶血作用。吸入すると嗅覚が鈍くなる。
眼…高濃度で刺激がある。皮膚…高濃度で炎症する。
慢性:ぜいぜいした息,乾いた咳,呼吸困難,数年に渡る呼吸こう進,頭痛,疲労,けい
れんなどが現れる。
(4) 救急処置
吸入:直ちに新鮮な空気中に移動,保温・安静,純粋酸素吸入。呼吸停止の場合はすぐに
医師を呼ぶこと。
眼:上下のまぶたを持ち上げて 15 分間洗浄。すぐに専門医の手当を受けること。本物質
を扱うときにはコンタクトレンズを使用しないこと。
皮膚:大量の水で 15 分間洗浄し,熱による火傷の手当をする。
(5) 排ガス処理法
液分散型ガス吸収装置を用いて排ガス中の B2O3 を除きながら燃焼する。
3.2.4 H2Se(セレン化水素)
(1) 危険性
燃焼性:可燃性。点火すると青い炎をあげて燃える。
爆発性:火災,爆発の危険ある。
混合発火性:空気と爆発性混合物をつくる。
混触危険物質:酸化剤(H2O2,HNO3 等)
,酸,水,炭化水素の塩化物。
(2) 緊急措置
漏洩,飛散:火気厳禁。漏れを止める。蒸気を少なくするため水散布すること。
小火災:粉末または CO2 消火器
大火災:水散布,霧又は泡。漏れガス具の止められない場合には燃えるにまかせる。火災の
起きたタンクから全方向 800m に渡って隔離すること。
― 67 ―
Ⅳ高圧ガス
急性(吸入):粘膜刺激性が強い。頭痛,吐き気,衰弱,ひきつけ,胸の締め付け,咳,呼
(3) 人体への影響
急性(吸入):0.2ppm 以下に長く暴露された時は,呼気がにんにく臭,吐き気,めまい,倦
怠。肝臓,ひ臓にも有害。溶血作用がある。
セレンが解毒しセレン化ジメチルが発生…肺炎,喉の痛み。
眼・皮膚…粘膜を刺激する。1ppm で眼鼻喉に耐えがたい刺激がある。
(4) 救急処置
吸入:直ちに新鮮な空気中に連れ出し,保温・安静。酸素吸入。肺水腫の徴候がないかよ
く観察すること。
眼:水で 15 分以上よく洗うこと。
痛みを和らげる方法…1滴のオリーブ油,3~4滴の 0.1%硫酸エピネフリン,局所
麻酔,温冷湿布。できるだけ早く専門医にみせること。
(5) 排ガス処理法
KOH 等のアルカリ水溶液に吸収させる。猛毒物質であり未吸収ガスが若干でも残って
いると危険なので,十分注意が必要である。
3.2.5 SiH4(シラン,モノシラン)
(1) 危険性
燃焼範囲:0.8~98%
,
爆発範囲:1.37vol%(1atm),1.65vol%(4.84atm)
,1vol%(1atm,O2 濃度 0.2vol%)
0.64%(1atm,O2 濃度 0.8vol%)希釈剤の点火により下限界が低下するので注
意が必要である。シラン5%のとき,爆発圧力は初圧の9倍,最高圧力上昇速
度は 2168atm/s となる。
自然発火性:空気中で自然発火する。
混触危険物質:ハロゲン(爆発),酸化剤,空気,重金属の塩化物,
O2(爆発性物質の生成),NO,NO2,N2O
(2) 緊急措置
漏洩,飛散:大部分の場合は炎で発見できる。配管中で漏れたときは,供給を止め,退避
し,残りのシランは燃やしてしまうこと。
小火災:粉末又は CO2 消火器
大火災:水散布,霧又は泡が有効である。
(3) 人体への影響
急性(吸入):上気道刺激,頭痛,吐き気が起こること以外は,ほとんど知られていない。
眼・皮膚…刺激がある。
慢性:不明
(4) 救急処置
直ちに汚染されていない大気中に連れ出し,安静・保温。100%酸素吸入。
呼吸停止ならすぐに医師を呼ぶこと。
― 68 ―
(5) 排ガス処理法
燃焼(1000℃)以上,アルカリ水溶液中への吸収(加水分解)
,酸化剤処理すること。
3.2.6 GeH4(ゲルマン,水素化ゲルマニウム)
(1) 危険性
燃焼性:可燃性
爆発範囲:0.8~98%,分解爆発の危険性がある。
自然発火性:空気中で分解反応により自然発火する可能性がある。
混触危険物質:ハロゲン
(2) 緊急措置
漏洩,飛散:裸火厳禁,禁煙。漏れを止める。蒸気を少なくするために水散布すること。
漏れが止められない場合は燃えるにまかせること。
小火災:粉末又は CO2 消火器
(3) 人体への影響
急性(吸入):アルシン同様,ヘモグロビンとの親和性が強く,溶血作用がある。暴露によ
り溶血現象と腎臓障害が起きると予測されているが,現時点で正確な毒性情
報が少ない。
(4) 救急処置
処置法は知られていないが,アルシンの救急処置を参考にするとよい。酸素吸入などの
一般的な補助法はできる限り早く行うこと。医師の手当を至急受けること。
(5) 排ガス処理法
燃焼炉で燃焼処分する。シラン類の処理法に準じて行うこと。
3.2.7 SiF4(四フッ化珪素)
(1) 危険性
燃焼性:不燃性
化学反応性:加水分解してフッ化物,フッ化水素,フッ化水素酸を生成,加熱分解によっ
てフッ素イオンの蒸気を発生する。
(2) 緊急措置
漏洩,飛散:漏れを止める。蒸発を少なくするため水散布するが,こぼれた場所にはかけ
ない。なお,漏れた場合は,白煙をだすのですぐに検知できる。
小火災:粉末又は CO2 消火器
大火災:水散布,霧又は泡が有効である。
(3) 人体への影響
急性(吸入):50ppm,30~60 分で死亡。呼吸器の刺激,肺の炎症とうっ血,循環器の衰弱,
肺水腫,骨硬化症。眼…刺激。皮膚…痛み,ひどい火傷。
(4) 救急処置
― 69 ―
Ⅳ高圧ガス
大火災:水散布,霧又は泡が有効である。
吸入:直ちに新鮮な空気中に移すこと。100%酸素吸入(重症の時は加圧)。保温・安静。
作用の穏やかな鎮痛・鎮静剤(アスピリンなど)を与えてもよい。呼吸停止の時は
医師の手当を至急受けること。
眼:15 分間水で洗浄,これを数回繰り返す,氷の湿布,眼科医の手当を至急受けること。
(5) 排ガス処理法
大量の水,KOH などのアルカリ水溶液により加水分解,中和するか,吸着剤による吸収
を行うこと。
3.2.8 BCl3(塩化ホウ素)
(1) 危険性
混触危険物質:水,アニリン,ヘキサフルオロイソプロピリデン,アミノリチウム,
二酸化窒素,ホスフィン,グリース,有機物,酸素。
腐食性:水の存在下で,大部分の金属を腐食する。
(2) 緊急措置
漏洩,飛散:洩れを止める。蒸気を少なくするため水散布するが,こぼれた場所にかけ
ない。ガスが拡散するまで区域を隔離する。なお,漏れた場合は白煙をだ
すのですぐに検知できる。
小火災:粉末又は CO2 消火器
大火災:水散布,霧又は泡が有効である。
(3) 人体への影響
急性(吸入):上気道の刺激,浮腫,鋭い刺激臭があるのでたやすく感知できる。
眼・皮膚:組織が刺激される。皮膚がひどく侵されると,発熱し,衰弱する。
(4) 救急処置
何れの場合もすぐに医師を呼ぶこと。
吸入:直ちに新鮮な空気中に移送し,酸素吸入を行うこと。保温・安静が必要である。
皮膚:直ちに流水で洗うこと。化学的中和剤はよくない。重傷の時は安静・保温が必要で
ある。
鼻:水で 15 分以上洗浄すること。
眼:直ちに水で 15 分以上まぶたを持ち上げて洗浄すること。
(5) 排ガス処理法
大量の水,KOH などのアルカリ水溶液による加水分解,中和,あるいは吸着剤による吸
収を行うこと。
3.2.9 Ga(CH3)3(TMG.トリメチルガリウム)
(1) 一般的性質
分子量:114.82
融 点:-15.8℃
沸 点: 55.8℃
密 度:1.151g/ml(15℃)
外 観:無色透明な液体
― 70 ―
蒸気圧: 温度(℃)
蒸気圧(mmHg)
0.0
64.5
25.0
226.5
55.8
760
(2) 危険性
空気中で容易に酸化される。多量に漏洩した場合は,自然発火性がある。水とは激しく反
応し,メタンガスを発生し,Me2GaOH 又は[
(Me2Ga)2O)
]X を生成する。AsH3,PH3 などと安定
な錯体を形成する。活性水素を有するアルコール類,酸類等とは,激しく反応する。
(3) 緊急措置
漏洩:発火性が強いので,布・紙等で拭き取ってはならない。また,空気に触れると酸化し
て有毒のガスを発生するので十分な換気を行うこと。
火災:他に延焼しないように局地化し,他の可燃物を隔離し粉末消火器(ドライケミカル)
,
四塩化炭素等は絶対に使用してはならない。
(4) 人体への影響
急性(吸入):燃焼時に発生する白色煙霧を吸入すると気管や肺が侵される。高濃度(15mg/m3)
に吸入すると,激しいインフルエンザの様な煙霧熱を引き起こすことがあるが,
通常は数日で回復する。皮膚・眼…粘膜の炎症,刺激がある。組織を破壊し,
処置が遅れるとひどい火傷が残る。
(5) 救急処置
皮膚:大量に水で除去すると共に冷却し,皮膚組織を保護。
眼:まぶたを開けたまま 15 分間静かに水洗する。その後の処置は医師の指示に従うこと。
吸入:安静にして医師の指示に従うこと。
(6) 貯蔵安定性:不活性気体(N2,Ar 等)中,室温で保存する場合は,安定である。
3.2.10 Ga(C2H5)3(TEG,トリエチルガリウム)
(1) 一般的性質
分子量:156.91
融 点:-82.3℃
沸 点:143℃
密 度:1.06g/ml
外 観:無色透明な液体
蒸気圧: 温度(℃)
蒸気圧(mmHg)
43
16
47
18
143
760
(2) 危険性
水と激しく反応し,エタンガスを発生し Et2GaOH を生成する。その他,TMG に準ずる。
(3) 緊急措置,人体への影響,救急処置,貯蔵安定性:TMG に準ずる。
― 71 ―
Ⅳ高圧ガス
乾燥砂などで火勢を抑制しながら徐々に燃焼させること。上記以外の水,泡抹消火剤,
3.2.11 Al(C2H5)3(TEAl,トリエチルアルミニウム)
(1) 一般的性質
分子量:114.17
融 点:-52.5℃
沸 点:186℃
密 度:0.835g/ml
外 観:無色透明な液体
蒸気圧: 温度(℃)
蒸気圧(mmHg)
62
1.0
98
10.0
136
760
(2) 危険性
水と激しく反応し,炭化水素ガスを発生し発火する場合がある。その他,TMG に準ずる。
(3) 緊急措置,人体への影響,救急処置,貯蔵安定性:TMG に準ずる。
4. 容
器
半導体用材料ガスが充填されている容器は,内部の圧力が高くなっているため,特にその扱いに
は十分注意する必要がある。
4.1 容 器
半導体製造用ガス充填容器には,大きく分けて2種類ある。一つは,窒素,水素,シランなど
のように高圧に充填された容器に圧力調整器をつけてガスを取り出すタイプのものであり,他の
一つはトリエチルガリウムなどの有機金属のように,内部が液体になっており,キャリアガスの
バブリングなどにより気化させてガスを取り出すタイプである。それぞれの容器の形状は,図
4.1 の(a)と(b)の様になっている。高圧用容器には,圧力調整器をとりつけるネジが設けられて
いる。一方,有機金属の場合は,水素ガスなどのキャリアガスを流すための継ぎ手が設けられて
いる。高圧ガスを対象とした容器の取り扱いについては,
「Ⅳ-I 高圧ガス・液体窒素・都市ガ
スの安全について」で詳しく述べられている。
― 72 ―
半導体製造用ガス容器の形状
4.2 容器用弁,圧力調整器
主に半導体製造用ガス充填容器用弁として使用されているものは,①圧縮ガス容器用弁と②液
化ガス容器用弁の2種類である。材質は,黄鋼,黄鋼―ニッケルメッキ,ステンレス鋼等である
が,ガスの性質により使い分けされている。容器用弁で最も注意すべき点は,接続ネジが右ネジ
か左ネジかである。可燃性ガスは,左ネジ,その他は右ネジとなっている。
圧力調整器については,
「Ⅳ-I 高圧ガス・液体窒素・都市ガスの安全について」で詳しく述
べられている。
5. 設備上の安全対策,作業上の心得
半導体製造用ガスを取り扱う場所においては,設備上の安全対策が必要である。半導体プロセス
では,危険性の高いガスを多用するため,特に安全性を重視した設計が必要である。また,事故は,
主にガスボンベを交換したりチャンバを開けたりする際,発生しやすいのでパージなどの操作が必
ず必要である。
5.1 作業室及び容器置場
発火性のガスや毒性のガスを扱う実験を行う場合は,以下に示す設備上の安全対策が望まれる。
(1) 実験室は,耐火構造でガスが滞留しない構造とし,室内の温度を適正に保つこと。
(2) 担当者以外の者が常時立ち入る場所等から安全な距離をとり,担当者以外の立ち入りを
禁止する構造及び措置をとること。毒性ガスの容器置場は鍵を取り付けること。
(3) 毒性ガスに対し通風・換気を考慮し,安全を第一とした作業環境とすること。
― 73 ―
Ⅳ高圧ガス
図 4.1
(4) 火気厳禁とする。
(5)
作業性及び緊急時の避難経路を考慮して,できるだけ広い場所で実験を行うこと。必ず
万一の避難時の逃げ道を確保する。
(6) 可燃性ガスの作業室及び容器置場の電気設備は,原則として防爆構造とする。
5.2 パージによる残留ガスの除去
発火性あるいは毒性の強い半導体ガス容器を装置へ取り付けたり,配管の一部を外したりする
際,微量でもガスが残留していると危険である。そこで,危険ガスが残存しないように窒素やア
ルゴンなどの無害のガスを流す作業が必要となる。これをパージと呼ぶ。実際の作業では,毎回
精密なガス分析を行うことはできないので,パージを効果的に行うための基礎知識が必要である。
配管パージの原則は,ガス溜りの部分を作らない様に配管設計の時点から注意することである。
以下に,最適パージ回数を決定するための参考式を示すこととする。下記の2式は,あくまでも,
系内でのパージガスと成分ガスの混合が瞬間的に行われるという前提に立って導かれた式であ
るので,適用に当ってはこの面での考慮が必要となる。
5.2.1 連続パージ
連続パージは,一定の流量のパージガスを流し,ある容器の系内を置換していく方法である。
対象とする反応ガスの初期濃度(Xo),時間 t が経過した後の濃度(Xn),内容積(V),パージガ
ス流量(Q)の間には,次式が成立する。
Xn/Xo=exp(-Qt/V)
5.2.2 回分パージ
回分パージとは,パージガスで系内を所定の圧力まで上げ,ついで内圧を放出するか又は真
空引きを行い,再度加圧を行うという様に加圧・放出を繰り返す方法である。
この場合の初期濃度(Xo),n 回パージ後の濃度(Xn),初圧(放出後圧力,Po),加圧後圧力
(P),パージ回数(n)の間に次式が成立する。式を見て分かる通り,回数を増やすほど指数的
に初期濃度は薄くなり効果的である。
Xn/Xo=(Po/P)n
連続パージと回分パージを比べた場合,一般的には回分パージの方が効果的である。特に,
配管や装置の構造が複雑になるほど回分パージの方が有利である。
5.3 排ガス処理及び換気設備
ガスを排気する場合の処理は極めて危険を伴うことが多い。したがって,当該ガスの特性・危
険性等を熟知したうえで,ガスを毒性又は発火性のない安全な状態に処理してから廃棄する必要
がある。但し,設備に関しては政省令,条例等による規定がある。
(1)
排ガスは,安全化処理を行った後,排気ファンを通じて排気口に接続する。安全化の処
理の方法としては,化学反応・化学吸着・物理吸着・燃焼・希釈等の方法がある。このうち
物理吸着とは,多孔質の固体がある特定の物質を吸着する親和力を利用したものであり,活
― 74 ―
性炭・シリカゲル・アルミナゲル・モレキュラーシーブなどの吸着剤が市販されている。こ
れらのうち,活性炭による有害ガス除去法が一般的に採用されている。また,AsH3・PH3・
H2S 等の水素化物ガスは,除害能力の高い酸化吸着による処理方法が利用されている。酸化
剤には,塩化第二鉄(FeCl3)を主剤に多孔質粉体を担体に含浸させたものが用いられてい
る。
(2)
可燃性・自燃性のガス排気システムに使用される材料は,不燃性材料を使用しなければ
ならない。また,不燃性ガスの排気システムに使用される材料は,耐触性材料を使用しなけ
ればならない。
(3)
必要と認められる場合には,適当なフードを使用した局所排出装置を使用し,作業者の
安全性を確保する。
(4)
漏洩ガスが室内に拡散する場合を考慮し,常時,換気が行えるような設備をする必要が
ある。
排気ファンは,作業中などには連続駆動し,万一停止した場合には直ちに知らせる警報
器を設置すること。
5.4 ガスの漏洩検知警報設備
可燃性ガスの漏洩は爆発・火災の原因となり,毒性ガスの漏洩は人の健康・生命に危険をおよ
ぼすこととなる。したがってできるだけ早く漏洩の発生と場所を知る目的で,漏洩検知警報器の
設置が義務付けられている。しかしながら,これらの漏洩検知警報器の種類も数多く,発売後の
日も浅く,評価が定まっていないのが現状であるので,使用ガスの種類や目的により,メーカー
との打ち合せを行い選定すべきである。
特に毒性の強いガスは,2種類以上の異なった原理に基づく検知器で常時監視することが望
ましい。
5.5 消火及び保護設備
可燃性ガス,毒性ガスの作業室及び容器置場などには,必ず消火器及びガスマスクを常備し,
設置場所を明示しておくこと。
(1) 消火器
消火器には,炭酸ガス・粉末・液体・泡沫の他に特殊火災(金属火災等)用消火器などがあ
るが,それぞれに特徴があり,危険物の種類によって選ぶことが望ましい。最適のものを常時
近くにおき,耐用年数に注意し,保守管理することが重要である。
(2) ガスマスク
ガスマスクには,表 5.1 に示す送気マスクの他に,吸収剤を使うマスクがある。吸収剤を使
うマスクは有毒ガスの種類によって吸収剤を変える必要があるので使用するガスに適したも
のを用意しなければならない。エアラインマスクは,マスク内が陽圧で,マスクでの小さな漏
洩に強いが,行動範囲がホースの長さに制限されるという難点がある。ボンベを携帯する空気
― 75 ―
Ⅳ高圧ガス
(5)
呼吸器は,行動範囲の制限はうけないが,ボンベの容量が限定され,使用時間が短いなどの難
点がある。
(3) その他
その他の保護設備として,保護衣類・手袋・安全帽・保護眼鏡・担架など各種の備品があり,
ガスの使用状況に応じて常備しておかなければならない。また,いつでも誤りなく使用できる
訓練を行うことも重要なことである。
6. 緊急時の一般的処置
危険ガスを取り扱う者は,それぞれのガスの性質,作業環境などをよく理解し,緊急時には臨機
応変に適切な処置ができるように,常日頃から心がけておく必要がある。緊急時には,被害を最小
限に食い止めるよう務めなければならないが,当事者は自らの命を顧みないような危険な行動を取
ってはならない。
6.1 火災時の緊急処置
火災時の緊急処置に関しては,「IX-I
防火と消火」で述べられているので,ここでは,特に
半導体プロセスに関連した緊急措置を述べることとする。いずれの行動を取る時も,2次災害を
防ぐため,自己の安全を確保してから行動しなければならない。
6.1.1 一般的な注意
(1) 火災が発生した場合は,火災の程度,周囲の状況を確かめ
① 発火源
② 毒性ガスの流出による中毒
③ 容器の破壊
④ 可燃性ガスの流出によるガス爆発
などを念頭におき,人身事故を未然に防ぐように臨機応変な処置をとる必要がある。
いずれにしても当事者は,自己の退避時間を的確に見極め,安全な行動をとらなければな
らない。
― 76 ―
(2) 火災が発生し,消防署の助けを依頼する事態が発生した場合は,消火に携わる消防署員
に,毒性ガス及び可燃性ガスの存在と破壊の可能性のある高圧容器の存在を通知するこ
と。
(3) 火災及びその他の原因によって毒物又は劇物が漏洩し,周囲に危害を生ずる恐れのある
場合は,速やかに保健所,警察署又は消防機関に届け出る義務がある(法的な義務とし
ては,アルシン・ホスフィン・スチビン・セレン化水素・塩化水素・アンモニア・三塩
化ヒ素・五塩化アンチモンが該当するが,ほかのガスの毒性もこれらのガスと同等又は
それ以上なので,標記の手続きをすることが好ましい)。
6.1.2 周囲が火災の場合の処置
(1) 可能な限り容器を安全な場所まで移動する。
(2) 移動できない場合は,注水して容器を冷やし続ける。
(3)
容器の温度上昇を妨げないと判断した場合は,毒性ガスが流出することを予測し,表
風上に退避させること。
(4) さらに容器の破壊,飛散,及び被災容器が可燃性ガスの場合は,ガス爆発を想定して周
囲の人を避難させること。
6.1.3 容器・製造設備が火災の場合の処置
(1) 毒性ガスあるいは可燃性ガスが洩れたと判断して,速やかに風上に待避し,毒性ガスが
洩れていることを連呼して,周囲の作業者を退避させること。
(2) ついで「ガスマスク」を着用し,周囲の運搬可能な容器を安全な場所に移動する。搬出
できない場合は,できるだけ風上の遠方から注水して,全部の容器を冷やし続けること。
(3) 同時に,火災の状況により消火が可能で,かつ消火により毒性ガス,可燃性ガスが流出
しない場合,また流出しても被災の恐れがない場合は,初期消火を行うこと。消火には,
状況により,放水,ドライケミカル消火器,泡沫消火器,ハロン消火器などを使用する。
(4) 製造装置の火災においては,可能な限りガス源の弁を閉じること。
(5) 火災が拡大し,他の容器や装置の温度上昇があると判断される場合は,ガス爆発を想定
して周囲の人を退避させる。
6.2 漏洩時の緊急処置
ガスが容器等から漏洩したとき,この処理には危険を伴うことが極めて多い。したがって,
万一ガスが漏洩した場合は,災害を最小限にくいとめるために,漏洩ガスの種類と特性,周囲
の状況等を考慮して迅速に適切な処置をとる必要がある。この場合も 6.1 火災と同様に自己の
安全を確保しつつ行動する必要がある。
6.2.1 わずかに漏洩した場合
(1) 容器弁の口から漏洩を生じた場合は,風上に位置して容器弁を強く締める。この場合,
必要に応じて保護具を着用する。容器弁が閉じられてもなお洩れているときは,「ガスマ
― 77 ―
Ⅳ高圧ガス
5.1 に示す「ガスマスク」を着用して周囲の作業者及び被災すると判断される区域の人を
スク」を必ず装着し,アウトレットキャップを取り付けてから,管理者の指示にしたが
って漏洩容器を安全な場所に移動すること。
(2) 容器弁の弁口以外の箇所から漏洩を生じた場合は,「ガスマスク」を必ず装着し,管理
責任者の指示にしたがって漏洩容器を安全な場所に移動する。
(3) 設備又は配管系統からの漏洩を生じた場合は,適切な処置をとること。
6.2.2 大量に漏洩した場合
(1) 速やかに風上に待避し,毒性ガスが洩れていることを連呼して,周囲の人を退避させる。
同時に保護具を装着し,管理責任者の指示にしたがって臨機応変な処置をとること。
(2) 漏洩場所付近にはロープを張るなどして,人を近寄らせないようにする。
(3) 漏洩場所付近では一切の火気源を絶つこと。
(4) 毒物又は劇物が漏洩し周囲に危害を生ずる恐れのある場合は,速やかに保健所,警察署
又は消防機関に届け出る義務がある。
参考文献
1) 及川紀久雄,先端技術産業における危険・有害物質プロフィル 100,丸善(1987)
2) 東京都高圧ガス保安協会編,高圧ガスの取扱いかた,昭和 54 年改訂新版
3) 高千穂商事,高千穂化学工業,半導体製造用ガスの取扱いかた(改訂版)
4) 日本酸素,半導体用材料ガス取扱い心得(1978)
5) トリケミカル研究所,高純度化学材料
6) 東洋半導体用有機金属,東洋ストウファー・ケミカル
7) 東洋酸素株式会社編,ハンドブック(創立 65 周年版)
8) 東京工業大学特殊高圧ガス災害防止マニュアル
9) 通商産業省立地公害局保安課監修 高圧ガス取締法 政・省令解説:高圧ガス保安協会
10) 特殊材料ガス等保安対策指針:神奈川県高圧ガス協会
11) 東京都高圧ガス施設安全基準;編集東京都環境保全局発行(社)東京都高圧ガス保安協会
― 78 ―
IV-III
高圧ガス管理支援システムについて
1. 高圧ガス管理支援システムの概要
1.1 目的
本学における化学物質等の管理及び化学物質等の取り扱いによる健康障害の防止に関する規則
第5条に「化学物質等を取り扱う職員は,当該化学物質等について,IASO(東工大化学物質管理
支援システム)または TITech-G(東工大高圧ガス管理支援システム)に登録しなければならない。」
と規定されており,高圧ガス使用の際には TITech-G に登録して,適正管理を行うことが重要であ
る。
当該システムは「学内の全ガスボンベを登録し,その使用,空容器返却までを管理する」こと
ができる。また,容器留置期限の管理や数量管理に利用している。
理施策部門で利用されている。
2. 高圧ガス管理支援システムの利用
2.1 利用申請
利用開始にあたっては「TITech-G 使用許可願」を提出し,グループID,ユーザーIDを取得す
る必要がある。以下の環境・安全推進室のウェブサイトからダウンロードできる。
z
マニュアル・申請書等(ダウンロード)
:http://www.envpro.titech.ac.jp/download.shtml
2.2 利用方法
1)TITech-G システムへログイン
システムにアクセスして,グループ ID,パスワードでログインする。
システムの URL は,http://gasrs-os.envpro.titech.ac.jp/gas/である。
利用方法に関しては,下記の各種マニュアル,チュートリアル等を参照のこと。
z
操作マニュアル,発注マニュアル,インストールマニュアル
システムログイン後の Help に掲載(下図(右側)を参照)
z
TITech-G 注文管理チュートリアル
http://www.envpro.titech.ac.jp/9_download/titech-g_order_management_tutorial.pdf
z
TITech-G 高圧ガス管理チュートリアル
http://www.envpro.titech.ac.jp/9_download/titech-g_gas_management_tutorial.pdf
図1
TITech-G 起動画面
図2
― 79 ―
操作マニュアル掲載画面
Ⅳ高圧ガス
このように平成 20 年の本格稼動以来全学で研究室における作業合理化・管理コストの軽減・管
2)ログイン後の在庫管理操作の流れ
① ガスボンベの発注:本学の発注書として「注文管理」��で作成した薬品の注文書を利用で
きる。余白に,支出財源等の予算情報及び予算詳細責任者のサインを記載すること。「発注
簿」への記載を忘れずに。
② ガスボンベの登録:「��ボンベ登録」��でガスボンベの種類,保管場所を選択し,ボン
ベに刻印してある容器刻印番号を登録する。
③ ガスボンベの返却:ボンベ(借用)が空となった場合は,速やかに業者に返却した後,「ボ
ンベ返却」��で返却処理を行う。
④ 空ボンベ登録:ボンベ(買取)が空になった場合の場合,「空ボンベ処理」��で空ボンベ
処理を行う。なお,これは保有するガスの総量に含まれることに留意願いたい。
3)在庫データの管理操作
「リスト」��で,各保管場所に登録された在庫リストや納品/返却/空ボンベリストや,ボ
ンベ履歴などが取得できる。他の研究室と共通の保管場所の場合は,保管場所で管理しているボ
ンベが全てリストに載ることに留意すること。
2.3 利用上の留意点
1)高圧ボンベの入庫,返却情報等の速やかな入力
本学では TITech-G システムの登録データを利用して,学内の高圧ボンベの総量の把握を行っ
ている。したがって,高圧ボンベの登録やボンベ返却処理等は速やかに適正に行うこと。
2)「ボンベ返却」処理と「空ボンベ」処理の違い
「ボンベ返却」処理(借用ボンベ:通常はこちら)と「空ボンベ」処理(買取ボンベ:ボン
ベを所有)を混同するケースが多々見られるので注意すること。
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