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8 channel breast array coil の使用経験
北里大学 放射線科学
北里大学病院 放射線部
ウッドハムス玲子 先生
秦 博文 先生
尾崎正則 先生
はじめに
a
b
c
d
当院では 2006 年 11 月より
1.5T
GE 社 製 Signa
HDx
(Ver.14) を導入し、それとと
もに 8 channel breast array coil
8 channel open breast array coil
の使用を開始した(図 1)。乳房
MRI 検査は全症例この装置で行っている。また、両側乳房撮像の
シーケンスである VIBRANT(Volume Imaged Breast AssessmeNT)、乳房 MR スペクトロスコピー(MRS)のシーケンスであ
る BREASE の撮像も行っている。Signa HDx 及び 8 channel breast
array coil の使用経験を示しながら、その有用性と今後の展望を考
察する。
e
図 1 : 8 channel open breast array coil
f
使用コイル: 8 channel breast array coil
8 channel open breast array coil は片側 4ch、両側で 8ch となっ
ており、非常に高い S / N 比と高い信号強度の均一性が得られる
ようになった。
従来の MRI 装置、コイルでは、乳房下方や腋窩近くの屈曲部位
に脂肪抑制画像の信号強度が不均一になることがしばしば認めら
れたが、HDx system と 8 channel breast array coil の使用により、
均一な脂肪抑制画像が得られるようになった。図 2 に以前使用し
ていた single channel breast coil(Ver.9.1)と 8 channel breast
array coil との比較を示す。3DFSPGR の画像については画質の向上
はわずかであるが、脂肪抑制 T2 強調画像の信号の均一性は感度補
正を用いなくとも良好であり、特筆すべきものがある。
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GE today August 2007
図 2 :同一の乳癌症例を、8 channel breast array coil(a、c、e)と single channel
breast coil(b、d、f)にて撮像したもの。8channel breast array coil にて信号の均一
性と S / N が上昇していることがわかる。
a、b :脂肪抑制 T2 強調画像 c、d :造影後早期相脂肪抑制 T1 強調画像
e、f :拡散強調画像 b 値 1500s /mm2
撮像シーケンス
表 1 に当院での撮像シーケンスを示す。
造影後の撮像は 3 回施行しており、早期相でのコントラスト決
定を 90s、中間相は 300s に設定し、さらにその後 VIBRANT にて
両側の乳房を撮像している。ダイナミック撮像の有用性について
はしばしば議論されるところであるが、最近は、空間分解能を優
a :造影後期脂肪抑制 T1 強調画像
先させるという考え方が優勢であり、当院でも空間分解能を重視
した撮像を施行している。
1. Positioning T1WI(3-plane LOC)
2. Bilateral DWI. axial(b value : 1500s / mm2)
3. Fat sat T2WI, sagittal(FRFSE-XL)TR 4000, TE 85, FOV200mm 288 ×
192, 2NEX.
b :拡散強調画像。b 値 1500s / mm2
4. Fat sat T1WI(pre enhancement), sagittal(3DFSPGR)TR16, TE 2, FA
15 ゜ , FOV 200mm, 288 × 192, 1.5NEX. Slice thickness 2mm / slice, with
ZIP2.
5. Fat sat T1WI(post enhancement), sagittal(3DFSPGR),コントラスト決
定、90s, 300s.
6. Bilateral fat sat T1WI VIBRANT, axial. TR 7.2, TE 3.5, FA 12 ゜, FOV
400mm. 400 × 400, 0.75NEX. Slice thickness 2mm / slice, with ZIP2.
7. BREASE
(MRS)
b : reformation
表 1 :乳房 MRI 撮像シーケンス
図 3 :両側乳癌
VIBRANT
VIBRANT(Volume Imaged Breast AssessmeNT)は時間、空間
分解能を維持しつつ、左右の乳腺に対して均一な脂肪抑制を行う
ことができ(dual-shim)、両側の乳腺の 3 次元画像を 1 回の撮影で
取得できる撮像方法である。
現時点では両側乳腺撮像は拡散強調画像(DWI)と造影後期相
のみで施行している。両側乳癌の症例は乳癌患者の約 4%から 5%
といわれており、両側乳腺撮像は推奨されている(図 3)。しかし、
VIBRANT による水平断の撮像は、片側乳腺の矢状断による撮像と
比較し、空間分解能が若干低下するため、診断に最も重要な早期
相と中間相は片側のみの撮像を施行している。今後、VIBRANT の
空間分解能が向上すれば、積極的に両側撮像を取り入れていきた
いと考えている。現時点では拡散強調画像と後期相 VIBRANT の画
像により、対側乳腺病巣の有無の確認を行っている。
a :造影後 T1 強調画像
ただし、臨床側から両側撮像の要望がある場合や、異物挿入後
のスクリーニングについては両側乳房のすべてのシーケンスにお
いて、VIBRANT による両側撮像を施行する。
両側乳腺撮像は、対側乳腺の病巣を検出するという目的の他、
乳腺症の鑑別にも有用である。対側乳腺の性状と比較することで、
乳腺症か、乳管内病巣か、ある程度の鑑別が可能である。この場
合は DWI を参考にするとさらに精度の向上が期待できる(図 4)。
拡散強調画像
以前は b 値を 750、1000s / mm 2 と変えて患側のみ撮像してい
たが、現在は b 値 1500s / mm 2 のみで、両側乳腺を撮像している
(表 2)。
拡散強調画像は VIBRANT の shimming を使用して、マニュアル
b :拡散強調画像 b 値 1500s/mm 2
図 4 : A ・ C 領域の invasive ductal Ca(矢印)
。
a :上は原発巣レベルのス
ライス。原発巣周囲に粒状、
索状の造影が認められ、乳
管内進展の鑑別が必要であ
るが、対側乳腺にも粒状の
造影が認められ、乳腺症の
可能性が考えられる。
下は原発巣より尾側のスラ
イス。こちらも同様に両側
乳腺に粒状の造影が認めら
れ、これらも乳腺症の所見
が疑われる。
b :図 a のレベルに対応す
る拡散強調画像。
拡散強調画像上は左 A ・ C
領域の原発巣以外に有意な
高信号領域は認められな
い。病理診断では周囲には
乳腺症の所見が認められ
た。
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MRI device
GE Signa HDx
1.5T
Pulse sequence
SE-single shot EPI DWI
FOV(cm)
34 × 27
MPG
isotropic images
Slice thickness / interval
5mm / 0mm
b-value : TR / TE
b-value 1500s / mm2 : 9500ms / 89ms
Matrix
160 × 224
Nex
8
(Phase FOV on)
b :拡散強調画像 b 値 1500s/mm2
Ramp sampling on
Fat suppression
SSRF
表 2 :拡散強調画像撮像シーケンス
で shimming を行うことにより、両側乳房の均一な脂肪抑制が得ら
れる。8 channel breast array coil の使用、撮像パラメーターの工夫
a :造影後期脂肪抑制 T1 強調画像
c : ADCmap
図 6 :右乳管内乳頭腫。ADC 値は 0.8 × 10 -3 mm2 /s と悪性腫瘍と同等の低い値を示
している(矢印)
。
脂肪抑制T2強調画像
により均一な脂肪抑制、ゆがみの低減、高 S / N の画像が得られる
粘液癌、線維腺腫、嚢胞内腫瘍においては脂肪抑制 T2 強調画像
ようになった(図 2)。b 値 1500s / mm 2 における拡散強調画像に
の所見が診断の鍵になる。HDx system と 8 channel breast array coil
おいては、正常乳腺の信号強度は著しく低下し、ほぼ病巣のみが
の使用により、均一な脂肪抑制画像が得られるようになり、T2 強調
高信号として描出される。T2 shine through の影響もほとんど認め
画像が今まで以上に質的診断に寄与することが期待される(図 2)。
られない。周囲の乳腺の信号が低下することにより解剖学的位置
関係が不明瞭になるという問題点は、b 値 0s / mm 2、もしくは他
BREASE
のシーケンスを参照することにより解決可能である。ただし拡散
乳房の MR スペクトロスコピー(MRS)のシーケンスである
強調画像では、悪性腫瘍のみならず、線維腺腫や乳管内乳頭腫な
(図 7、8)。MRS は生体内の代謝物質を、共鳴現象を利用して検出
どの良性腫瘍も高信号として認められることが多く、良悪性の鑑
し、測定する方法である。
別を拡散強調画像のみで行うのは難しい場合がある。質的診断の
MRS は前立腺、脳において研究が進んでいるが、乳房では検出
ためには ADC 値を測定することが望ましい(図 5)。ただし乳管内
できる代謝物質が少ないことより MRS についてはまだそれほど多
乳頭腫や一部の線維腺腫の ADC 値は悪性腫瘍と同様の低い ADC 値
くの報告はなされていない。乳房の MRS は良好な shimming と
を示すため、造影 MRI の所見とあわせた診断が必要である(図 6)。
水・脂肪信号の抑制の達成が鍵であり、また、コイルの感度につ
a :造影後期脂肪抑制 T1 強調画像
a :造影後脂肪抑制 T1 強調画像
b : BREASE
図 7 : Invasive ductal Ca. MR スペクトロスコピー上コリン類のピークが認められる。
b :拡散強調画像 b 値 1500s/mm2
c : ADCmap
図 5 :両側線維腺腫。拡散強調画像上、腫瘤は両側とも高信号に認められる。
ADC 値はいずれも 1.5 × 10 -3mm2 /s と有意な低下ではない。
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a :造影後脂肪抑制 T1 強調画像
b : BREASE
図 8 :線維腺腫。MR スペクトロスコピー上コリン類のピークは認められない。
いての配慮が他の臓器の場合よりも要求される。1.5T において、
乳癌病巣で検出される物質はコリン類のみである。コリン類は細
胞膜を構成する燐脂質の前駆物質を構成する分子であり、特に
現実的ではないと思われる。今後、評価方法の簡便化が望まれる。
今後の展望
phospho-choline の濃度が高くなる。つまり高いコリン濃度は細胞
乳房診療における乳房 MRI の担う役割は、近年著しい変遷を遂
活性、細胞分裂速度が高いことを示唆する。1.5T の MRS によるコ
げてきた。これは撮像技術の進歩により高分解の画像の取得が可
リンの検出が乳腺腫瘍の良悪性の鑑別に有用であるとの報告が散
能になったこと、温存手術の増加による乳癌の広がり診断の必要
見されるが、判定方法に各報告でばらつきがあり、さらに検討が
性、早期発見への意識の高まりなどによるものと考えられる。少
必要と考えられる。我々の経験では 2cm 未満の小さな腫瘍や DCIS
なくとも乳房温存術前の MRI 撮像は標準的なモダリティの選択肢
のような粒状の構造を示す腫瘍は良好な S / N が得られにくく、
となりつつある。
MRS が施行できないことが多い。
近年では乳房 MRI の撮像、読影の標準化を目的として、米国放
また、乳管内乳頭腫や一部の線維腺腫でコリンのピークが認め
射線専門医会により、BIRADS-MRI ○ が作成された。標準的な撮像
られることがあり、良悪性の鑑別に関しては検討が必要と考えら
方法と読影、所見を表現する用語を示し、良悪性の乳房 MRI の所
れる(図 9、10)。8.5T の MRI 実験装置で乳房生検材料の MRS を
見を分類して、最終的にどのようにカテゴリー分類をするかを示
測定し、良悪性、micro invasion の有無の判定が可能であったとの
したものである。このような基準が示されたことは、乳房 MRI が
報告もある 。
乳房疾患の診療において、標準的な画像診断のモダリティとして
1)
R
さらに、4T の MRI において、乳癌に対する化学療法開始 24 時
の地位を確立したと同時に、最適な撮像方法、読影方法もある程
間後のコリン濃度の測定が、化学療法の効果予測に有用であると
度の合意が得られてきたことを意味している。今後は現存のシー
の報告もあり 2)、高磁場装置における乳腺スペクトロスコピーの報
ケンスで、さらなる空間分解能の向上をめざすか、あるいは形態
告は興味深い。高磁場 MRI では S / N 比の向上と周波数分解能の改
的な診断ではなく、拡散強調画像や MR スペクトロスコピーとい
善が可能であるため、精度のよい結果が期待される。
った機能診断の方向からアプローチするかという、2 つの方向性が
MRS は、良悪性の鑑別よりむしろ腫瘍の viability の判定、悪性
予想される。いずれにしても今後の診断能の進歩は MRI 撮像機器
度の評価といった質的診断に有用性を発揮することが期待できる。
の磁場強度と撮像技術の進歩にかかっているといえる。高磁場
また MRS の撮像方法は簡略化されている一方で、コリン濃度の解
MRI において、どれだけ空間分解能が向上するか、あるいは拡散
析ソフトが難解であることより、代謝物質の客観的評価が難しく、
強調画像やスペクトロスコピーの分解能、診断能が向上するかと
現時点では乳房の MRI 画像診断おいて MRS を取り入れていくのは
いう点に期待したいところである。
また、MRI の画像診断以外への応用という点にも着目したい。
術前化学療法の普及とともに、その効果判定、効果予測に関心が
集まっている。造影 MRI は化学療法の効果判定において超音波、
MMG といったモダリティと比較し、高い感度を示しているが、顕
微鏡レベルの腫瘍細胞の残存を拾い上げることは現時点では難し
い。また、瘢痕組織と残存腫瘍との鑑別も時として困難である。
MRI ガイド下バイオプシーが可能であれば残存病巣の判定や、効
果判定に有用であると考えられる。
今後、化学療法後の完全寛解症例に対して、非手術という選択
肢がでてきた場合に、画像診断による効果判定や画像ガイド下の
生検の必要性がさらに増してくると考えられる。
8 channel breast array coil は生検用のアタッチメントの装着が可
能であるが、残念なことにこれは薬事未承認であるため、現時点
では日本においてこのデバイスを用いた MRI ガイド下の生検施行
図 9 :図 6 の intraductal papilloma の MR スペクトロスコピー。コリン類のピークが認
められる。
は難しい。しかも現時点での MRI の稼働状況を考えると、MRI ガ
イド下生検に割くだけの余裕はないのが現状である。
しかし、米国では施設によっては、MRI ガイド下のフックワイ
ヤー留置、生検が積極的に行われており 3)、今後 MRI ガイド下生検
が選択肢の一つとして可能となることが望まれる。
GE today
参考文献
1)Mountford, Lean C, Malycha P,et al. Proton Spectroscopy Provides Accurate
Pathology on Biopsy and In Vivo. J. Magn. Reson. Imaging 24 : 459 ー 477(2006)
2)Meisamy S, Bolan PJ, Baker EH, et, al. Neoadjuvant Chemotherapy of Locally
Advanced Breast Cancer : Predicting Response with in Vivo 1H MR Spectroscopy ― A Pilot Study at 4 T. Radiology 233 : 424 ー 431(2004)
a :造影後脂肪抑制 T1 強調画像
b : BREASE
3)Ghate SV, Rosen EL, Soo MS, et al. MRI-Guided Vacuum-Assisted Breast Biopsy
with a Handheld Portable Biopsy System. AJR 186 : 1733 ー 1736(2006)
図 10 :線維腺腫。MR スペクトロスコピー上コリン類のピークが認められる。
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