『過食症サバイバルキット』

『過食症サバイバルキット』
ウルリケ・シュミット ジャネット・トレジャー 金剛出版
本書は、摂食障害の治療で定評のある、ロンドンのモーズレイ病院において、患者とそ
の家族、援助者のためのテキストとして長く用いられてきたものである。
摂食障害、特に過食症の治療は難しいものである。過食症患者は勿論のこと、心理臨床
家もその対応に悩まされている。本書ではその治療のひとつとして、認知行動療法による
アプローチについてわかりやすく解説している。過食行動を引き起こしてしまう、認知の
ゆがみや学習について、段階をおって変化させていこうとするのが認知行動療法である。
認知行動療法などという難しい言葉は使わずに、読者が読みやすいように具体例などが書
かれていて、実際に読者で患者の人が実践してみられるようになっている。
ざっと目次を見ると、
「第1章
10 章
前進するための道のり」「第2章
旅立ちの道具箱」「第
食は思考の糧」というように文学的で読者が手にとって読みやすい表現がなされて
いる。全 15 章で構成されているが、どの章も分かりやすい文章である。過食症に対して抱
かれがちな負のイメージを拭って、回復のために前向きに読み進めていける工夫がなされ
ている感じがした。
過食症に限らず、心の病気の多くはなんらかの原因や要因が積み重なって起こるもので
ある。その原因や要因を知ることで治療や回復の糸口が見つかることはある。しかし、原
因や要因を知っただけでは治療や回復がすべてなされるわけではない。本書においては、
それほど原因や要因を追究することを重視していない。原因や要因の追究よりも、今現在
の摂食障害の症状を何らかの方法によって、治療や回復に近づけるようにしていこうとす
るのが本書の考え方である。ぐちゃぐちゃに絡み合った糸をほどいていく作業よりも、そ
こから出ている新たな糸を大切にしていくことに、それは似ている。
また、本書には冒頭に「この本を読むとすぐに過食症が治ってしまうというわけではあ
りません。」と書かれている。何よりも本人の「前進したい」という意志と決意が重要であ
るということである。それを助けるのが本書の役割である、ということが明記されている
ことも患者本人のためにはすごく意味あることのように感じる。
回復や治療のために何をすべきかが分からない人にも順を追って、ステップバイステッ
プにどうしていくかが分かりやすく書かれている。
「過食症バランスシート」をつけること
や未来の自分への手紙を書く作業などがそれにあたる。また、誤ったものの考え方を変え
ていくために、望ましい体重とはどのくらいなのかという数値までもが書かれていること
から、実践に役立つ。過食症によって苦しんだ人の記録やいかにして回復や治療を行って
いったかの事例もたくさんのっているため、患者である読者にとってはとても勇気づけら
れる内容であろう。
(鈴木)