研究グループ紹介 - プラズマ・核融合学会

研究グループ紹介
株式会社日立製作所
電力・電機開発研究所電機システム部イオンビームグループ
1.はじめに
ことは,磁気ヘッド自身が小さく薄くなり1枚の基板か
当グループは総勢14名で,現在,磁気ヘッド製造用イ
らたくさんのヘッドができることと同容量のハードディ
オンミリング装置やスパッタ装置および半導体基板製造
スクでの磁気ヘッドの必要個数の低減を意味しており,
用の酸素イオン注入装置,プラズマ CVD 装置等の開発を
製造装置の需要が伸びないという我々にとっては辛い側
行っています.もとは,中央研究所,日立研究所でイオ
面があります.当グループの最近のヒットとしては,
ンビーム装置やレーザー装置の開発を担当していたグ
600 V 程度で加速した中実円筒状のイオンビームの周囲
ループが母体になってできたグループです.核融合との
にリング状のマイクロ波プラズマを発生させ,マイクロ
かかわりとしては,非常に深いものがあります.という
波プラズマから基板帯電防止用の電子を供給すると従来
のは,日立が京都大学のヘリオトロン E 本体の製作を担
の熱フィラメントなどより低帯電にできる技術の開発が
当しましたが,中性粒子入射加熱装置(NBI)についても
挙げられます.この帯電電圧が過大になると基板上の素
担当することになり,イオン源に英国カラム研究所が開
子を破壊する可能性があり,GMR ヘッドの加工に適して
発したバケット形イオン源が採用されました(当時,宇
いることから,製品化することができました.我々は,
尾教授が中心になって決定されたと思います).その後,
TV やステレオなどの AV 機器にハードディスクが組み
この時に勉強させていただいたバケット形イオン源を磁
込まれ,ディジタル家電のベース機器として着実に用途
気ヘッド製造用イオンミリング装置に応用し,当グルー
が拡がり,製造装置にも反映されて,仕事の仲間が増え
プの中核技術に育てることができました.
ることを夢見て,日夜仕事に励んでいます.
2)半導体 SIMOX 基板作成用酸素イオン注入装置
当グループのもう一つの柱は,マイクロ波プラズマお
よびマイクロ波イオン源です.マイクロ波イオン源は,
SIMOX(Separation by IMplanted OXygen)基板は,
中央研究所で開発した技術ですが,適用対象であるイオ
シリコン基板に大量の酸素イオンを注入し熱処理するこ
ン注入装置が高電圧設備や大形の実験室を必要とするた
とで,シリコン結晶の表面から一定の深さに SiO2 の絶縁
めに,研究者とともに日立研究所に移管され,全社的な
層を形成した基板です.この基板を使って作った LSI
研究所再編成に伴って現在の研究所に所属しています.
は,素子間が絶縁層で分離されているので,低消費電力
の高速 CPU 等の製造に適しています.当グループは,
2.仕事の内容
SIMOX 基板作成用の酸素イオン注入装置の開発を行っ
1)磁気ヘッド製造用イオンミリング装置・スパッタ装置
ています.核融合装置と比較するわけではありません
パソコンなどのコンピュータのハードディスクに使わ
が,高真空,高電圧,高温,高速動作,低発塵と生産装
れる磁気ヘッドは,半導体と同様な薄膜プロセスで製作
置としての信頼性が必要な極めて過酷な装置です.
されています.ハードディスクの記録密度は,年率2倍
現在,パソコンの CPU のクロック周波数が 1 GHz を超
以上の驚異的なスピードで伸びています.この伸びは,
え,どんどん高速化されています.クロック周波数が高
磁気ヘッドの技術革新で支えられており,当初の誘導コ
くなるほど,CPU の発熱が問題になります.解決策とし
イル(MI)から磁気抵抗(MR),巨大磁気抵抗(GMR)
ては,素子の微細化,低電圧化で消費電力を下げていま
ヘッドと替わり,次はトンネル効果を利用した磁気ヘッ
すが,この手法にも限界があると予想され,SIMOX 基板
ドが登場すると予想されています.記録密度が向上する
への根強いニーズがあります.そのうちには,世界のコ
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グループ紹介
株式会社日立製作所電力・電機開発研究所電機システム部イオンビームグループ
3.最後に
ンピュータの CPU がすべて SIMOX 基板から製造された
ものになり,我々の開発した酸素イオン注入装置が全世
現在は,全世界が1つの土俵で勝負をする時代になっ
界で稼動する日が来ることを願って,今日も頑張ってい
たと言われています.したがって,世界で通用するもの
ます.
を持っていないと生き残れない,逆に考えると,世界に
3)半導体用プラズマ CVD 装置
通用する技術開発に成功すると,世界中を相手に仕事が
大口径マイクロ波プラズマ技術を利用した CVD 装置
できるということです.
を開発しています.高周波プラズマに比較しイオンの温
(文責
度が低いので,容器壁のスパッタによる不純物の発生と
佐藤
忠)
(2000年6月16日受理)
デバイスのダメージが少ない装置です.この分野も技術
の変化が早く,開発のターゲットをどう選ぶかが問われ
る分野です.
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