3月3日 Sun 早いもので、ここオーストラリアに来てから3ヶ月が経った

3月3日 Sun
早いもので、ここオーストラリアに来てから3ヶ月が経った。今日、日本では“おひな祭り”まだまだ
寒い日々が続いているだろうか?、そろそろ春の気配も感じられるだろうか?…
こちらでは2月中旬く
らいから気温も30℃を越える日がほとんど無くなり、日中はとても過ごしやすくなった。しかしその分、
朝晩の冷え込みが激しくなってきており、砂漠に近い大陸での生活環境が身にしみる。
2月最後の月曜日、26日からようやくペンフォルズのワイナリーで働くことになった。最初は“ボト
リング・アテンダント”
(生産行程で最後の瓶詰め作業)ワイナリーの中で体育館のような広さと天井高が
あるスペースにボトリングラインがあり、観光ツアー向けの見学コースも完備している。このように広い
ラインスペースが別棟と合わせて2ヶ所あった。
まずは瓶内で二次発酵を終えたシャンパンをラインに乗せる作業に就いた。フォークリフトがコンテナ
に満載したシャンパンを運んでくる。それを二人ペアで瓶をラインに乗せる。ただそれだけの単純な作業
を1日中繰返す。コンテナの中には既に割れてしまった瓶やガス圧のため急に破裂することもあるため、
手には分厚い皮の手袋と目には作業用のゴーグルをする。腕を伸ばして上体をコンテナに突っ込み、片手
に3本、両手で6本の瓶を指の間に挟んで掴んで持ち上げ、次々とラインに乗せていく。腰高まである深
いコンテナの底の瓶を掴んで持ち上げるのは相当つらかった。情けないかな…初日にして人差し指は親指
よりはるか太く2倍に腫れあがり、感覚が全く無くなってしまった。想像を絶する重労働であった。これ
が今回一番の目的だったのか? と何度も自問自答したが、続ける意志に変わりはなかった。僕には次の
目的もある…
ここで頑張らなければ!!
4月のワインフェスティバルを見た後に、どうしてもこの国
をもっと見てみたい、もっといろんな人に会ってみたい、思いっきりバイクで走ってみたい…
そんな強
い思いが指や腰の痛さに負けなかった。
一年間滞在する資金も心配はなかった。週に40時間でおよそ$300(時間給$7.52、約63,
200円)5週間で$1,500となる。難しいのは出発のタイミング。4月中旬、フェスティバル終了
後にすると6ヶ月間のビザ延長のため、イミグレーション(移民局)のあるダーウインへ5月23日まで
にたどり着かなければならない。このまま働き、アデレイドでビザ延長すれば$4,500(約100万
円弱)になる。ただこの辺はこれからもっと寒くなる。それを考えると冬に入る前にはダーウインに移動
しないとテントでの旅はかなりきつくなるだろう。出発は早ければ早いほど良い、そんな考えのほうが徐々
に強くなってきた。
先週の金曜日、仕事が終わった後ミックの家へ行った。近頃遠慮していたⓂを勧められ、続く重労働も
あったせいか断らなかった。これまではクセがあり美味しくなく強いタバコとしか思っていなかったが、
この時ばかりばかりは違っていた。たぶん体の疲れが影響したんだろうか? それは何とも説明し難い感
覚で、初めての不思議な体験であった。
かなり疲れた時に座り目を閉じると、体が下へ落ちて行くような感覚がある。
(東京では西武池袋線の通
勤が日課であったが、仕事帰りの電車の中でごくたまに起こる感覚だった)この時はその落ちる速度が異
常に早かった。普通ならそこで目を開けると止まってしまうんだが、なんとなく心地よさにまかせている
と、異常だった速度が徐々に緩和されてくる、ゆっくり時間をかけて速度が落ちてくる、かなり遅くなっ
たがまだ落ちている、あげくはスローモーションで落ちている。僕はこの感覚に大きな好奇心を持ち、目
を閉じたまま体が止まるのを待った。超スロー(夕陽が水平線に沈むのより遅い)になってもなかなか止
まらない…
今、自分の脳や体内で起こっている現象がいったい何なのか? 別の自分が興味深くかつ冷
静に観察していたとき、不意に“ピタッと”止まった。実に不思議な感覚だった。
これは現実にはありえない感覚的な何かだった。ものすごいスピードで落ちて行く体が時間をかけ、や
がて止まった瞬間、僕は“宙に浮かんでいる”自分を感じた。
「体が空中に浮かんでいる…?」戸惑いや恐
怖感はなく、むしろ自然だった。ゆっくりと目を開けてみた。周囲は何も変わっておらず、ミックと彼女
がこちらを見ており僕の異変に気付いている様子だった。
「ここは彼らのベッドルーム、僕はいつもの重労
働を終えて、スーパーで買い物をし、久し振りに彼の家に遊びに来た…。」そんな言葉が僕の頭の中をゆっ
くりと何度も巡る。
「今は確か午後の3時半頃…」腕時計を見る限り間違えなかった。
今…体内で起こっている初めての感覚的現象を別の自分がまた観察をしはじめた。まず気付いたことは
時間感覚。さっきも時計を見たが、今何時であるかチャンとわかっているのに「朝のような、昼のような、
夜のような…」間違えなく午後の3時半過ぎ、だけど僕の体はそれを認識できない。カーテンを引いて暗
くなったベッドルームが一層効果的であった。
「そうか… そのために暗くしたのか…」そんなことをゆっ
くり考えながらも、カーテンの透き間から入っている陽射しは見て取れる。
「やっぱり今は夕方前だと考え
つつ、だけど脳も体もそれを判別することができなかった。
」全く別の自分が存在してるようだった。そう
言えば以前、長時間の重労働者や深夜の労働者がこれを使うと聞いたような記憶がある。時間感覚を麻痺
させるためなんだろうか…?
次にふと“笑っている”自分に気がついた。何度も確かめてみた、鏡も見てみた。でも僕の意思には関
係無く笑っている自分が不思議だった。心はいたって平穏であり極自然な状態だった。よくテレビでやっ
てる“何とか離脱”
、ようするに体と心(魂)が分離したような感じを受け取った。おもしろいことに「試
しに“怒った”顔をしてみよう…」と繰返したが出来なかった。このことをミックに聞いてみたら「全身
の筋肉がリラックスしてるんだ…」と返事が帰ってきた。たったこれだけの会話に普段の3倍くらいの時
間がかった。
(時間の前後がハッキリしない)話そうとする言葉が体内を3回くらい廻ってから出て、ミッ
クの言葉が耳から入って体中を3回ほど巡って頭の中に達するような、考えるスピードも話す速度もスロ
ーモーションの世界、でまた、それを冷静に分析している自分が別に存在している。とても奇妙で不思議
な… でも現実の世界だった。
ミックはこう言った。「 Ⓜ は人々を幸せにし、緊張した気持ちや体をリラックスさせてくれるんだ。
お酒を飲むより随分いい。お酒を飲むとケンカしたり、物を壊したり、スピードをだして交通事故を起こ
したり、態度が横柄に成ったりする。」(先日知り合ったBMW/R1000に乗って旅をしてるカルゴリ
エのカップルも、一緒にパブへ出掛けたがアルコールは注文せずにコーラをのんでいた)
「ただ、車で家へ
帰るのに1時間で着くのを半日かけたヤツがいるという笑い話もあるけどね…」相変わらず聞いた言葉が
体内をグルグル廻っていた。彼が先に言ったことは「なるほど…」と理解できた。僕自身「もうしばらく
したら帰って寝よう… スーパーの買い物と帽子は忘れちゃいけないな…」
「こんな状態だから、帰りはバ
イクだし気をつけて帰らなければ…」と、事の善悪や自分の次の行動については正しく判別がついた。欲
望や敵対心、まして人と争うような意識は全く起きる気配もなかった。ミックが言った後の“笑い話”に
ついてはその時意味がわからなかったが、この後、実体験してしまうことに成ってしまった。
ミックたちにお礼を言って帰ろうとした。今思えば、彼らは僕の今の状況を十分に理解しているらし
く随分と心配をしてくれていた。僕は僕で「気を付けなければ…」と結構緊張しているのが自分でもよく
わかった。バイクに乗って走り出した瞬間に異変を感じた。
「怖い…!」
「スピードが怖い!!」
「何で…!?」
速度メーターを見ると20km/hだった。
「20キロ…!?」これ以上の速度は到底出すことができなか
った。
ミックの家から僕の部屋まではおよそ10kmほど、遠くはなかった。家屋が数件並ぶ小道を通って、
村から抜ける一本道を走り、ハイウエイに突き当たる。それを左折、ハイウエイを数分走って右折し、ダ
ートに入ってから約3km。初めて味わう恐怖感と戦いながら“幻覚症状”が出たのは、ちょうどハイウ
エイに突き当たる100mほど手前からだったろう。およそ20kmのノロノロスピードで走る僕は、確
かに交差点をこの目で捕えていた。いや、捕えていたはずだった…。普通に左折ウインカーを出し道路を
曲がろうとした瞬間… 目の前の景色が変わり、バイクは道路脇の一段低くなった土手に向かっていた。
寸前のところで何の疑いも持たないまま、僕の体はバイクと仲良く一体となって1mほど転落するところ
だった。体勢を立て直して見ると、交差点はまだまだ先にあった…。僕は実際にこの交差点を左折するま
で、これと同じ動作を3回も繰返したことをしっかり覚えている。理由はわからないが、原因は“Ⓜ”で
あることは疑いようも無い。言葉では表現しがたいが、実際の現実時間と僕の体内で流れる時間にギャッ
プが生じたようで、日常体で覚えてしまっているスピードと距離感(体で覚えている時間感覚)に比較す
ると、現実時間がかなり遅れてしまっていたようだった。つまり、もう一人の別の自分が普段通り行動す
るけど、実際の時間はそれより遅れていて、感覚と現実に大きな時間差ができてしまったとでもいうべき
か…? 全く異様でこれまで体験の無い事実だったが、時速20km以上のスピードに恐怖感があったの
は、何とも説明しようがない。
それから数日経った昨夜、ミック達がジェフの家にやってきた。リビングで音楽を聞きながら、ソファ
ーにどっぷり腰を下ろし彼らは例のⓂを回し飲みし始めた。勧められるまま、僕も2回吸ったら効き目が
強すぎて気分が悪くなってきた。最初の頃はトイレで吐こうとしても出てくるのはゲップだけだった。彼
らはこれをシィック(sick:病気)と表現していたが、何度か繰返す内、本当に吐いてしまった。出てき
たものはほとんど胃液だけで、搾り出すように出た液体は何か緑色だったように記憶している。酒に酔っ
た場合と違って、何も無いのに無理やり吐く感覚は、まるで喉の奥から今にも胃が絞り出されるようで、
本当に苦しいものだった。
適度に酔っている場合は、全身の筋肉がリラックスし、重力を全く感じず、まるで体が宙に浮かんでい
るような感じで、目に映るものは夢を見てるように別の世界だったが、度が過ぎると苦しさだけが残るこ
とを知った。これを機会として今後二度と手を出さないことを誓った。今これを書きながらも、何となく
体の調子が良くない、頭がハッキリしない…。