本文 - J

小 児 耳Vol.8,No.1,1987
診 潟 誤 層
幼児の扁桃 アデノイ ド肥大による就眠中の突発死からの教訓
一 睡眠 時 無呼 吸 症 候群 一
国立小児病 院耳鼻咽喉科
古 賀
患 者 は 昭 和61年9月24日
初 診 の3歳3カ
月の男
赤 血 球 容 積)6.2μ3MCH(平
子 、 主 訴 は 鼻 閉 で 、 これ ま で 肺 炎 を く りか え し、
ン 量)18.6μ
頚 部 の リンパ腺 炎 に もか か る。
ン 濃 度)30.1%血
生 後6ヵ
月 で 突 発 性 発 疹 症 、 気 管 支 炎 で1周
間
慶次郎
均赤血球ヘモ グロビ
μg 、MCHC(V均
赤血球ヘ モ グロビ
小 板346000/mm3
、 血 液 像 で赤
血 球 に 異 常 を 認 め る。 小 児 内 科 に 依 頼 し て 、10月
某 病 院 に 入 院 し て い る 。 そ の 後 い つ も呼 吸 が 苦 し
3日 鉄 欠 乏 性 貧 血 の 診 断 を うけ 、 約3月
そ う と い う。 数 ヵ 月 前 某 大 学 病 院 を 受 診 ア デ ノ イ
の 後 手 術 に つ い て 適 否 を 考 え た ほ うが よ い と の 返
ドの 診 断 で 手 術 の 予 定 に な っ て い た が 貧 血(ヘ
事 が あ っ た 。 そ の 日 よ りincreminシ
グ ロ ビ ン9.7一 母 親 に よ る 一)の
モ
ため手術が延期
与 を継 続 した。 初 診 以 後 小 児 内科 、 耳 鼻 科 の受 診
初 診 時 の所 見 と して は、 鼓 膜 所 見 で軽 い中 耳 カ
は 以 下 の よ う で あ っ て 、 約2月
タ ル を 、 ま た 鼻 に ア レ ル ギ ー 所 見 が あ り、 水 様 性
た 。 即 ち11月5日
鼻 汁 が 多 い 、 咽 頭 所 見 で は 扁 桃 は2度
ト ク リ ト39.6%12月1日
の肥 大 で 、
写 真 で ア デ ノ イ ドは 著 し く 大 き く、 咽 頭 の
空 隙 を 全 く認 め な い 。(図1)血
白 血 球7100/mm3、
ビ ン8.99/dlヘ
ロ ッ プ12
ml/日 の 投 与 を 開 始 、 最 後 の 受 診 日 に も28日 分 投
さ れ た と の こ と で 、 当 院 に 来 院 した 。
X線
鉄剤投与
g/dlヘ
液 検 査 の結 果 は
赤 血 球479万/mm3、
マ ト ク リ ッ ト29.6%MCV(平
マ ト ク リ ト41.9%と
こ で12月22日
ヘモ グロ
、 ヘ モ グ ロ ビ ン は13 .3
著 し く好 転 した。 そ
半 後 に決 め て 、念 のた め 肺 性心
の 有 無 を 調 べ るた め 心 電 図 を そ の 日に行 った。
図1
-38一
マ
に 来 院 し た と き に ア デ ノ イ ドと 扁 桃
の 手 術 日 を 約1月
均
で 貧 血 は好 転 し
、 ヘ モ グ ロ ビ ン11.89/dlヘ
小 児 耳VoL8,Ne,1,1987
図2
と こ ろ が そ 日か ら 数 日後 年 末 も お し迫 っ て の 午
前 中 に 母 親 か ら 電 話 が あ り、 そ の 日 の 午 前3時
あ り、 大 部 分 の もの は肺 性 心 は起 して いな い が 、
しか しそれ で も全 身 的 に大 きな悪 影 響 を与 えて い
頃
患 児 が 就 眠 中 に 死 亡 して い た と報 告 が あ っ た 。 こ
るで あ ろ うこ とは想 像 で きる。 鼻 呼 吸 障 害 が い か
れ は 明 らか に 突 然 死 で あ る の で 、 肺 性 心 に よ る も
に 全 身 に 障害 を与 え るか を示 す 事 例 と して 紹 介 し
の で は な い か と考 え 、22日 に 行 っ た 心 電 図 を 調 べ
た。 と くに小 児 に お い て そ の こ とは きわ め て重 要
た と こ ろ 、(図2)右
で あ る。』2)
心 房 心 室 肥 大 の診 断 がつ け
異常 所 見 を認 め た。
この段 階 で は著 者 は突 然 死 が起 る とは考 え て い
こ の 突 然 死 は 明 ら か に ア デ ノ イ ド、 扁 桃 肥 大 に よ
な か った 。 小 児 の 扁 桃 ア デ ノイ ド肥 大 に よ る肺 性
る 、sleepapneasyndrome(睡
眠 時 無 呼 吸 症 候 群)
心 の 恐 ろ しさ を し ら され た 。 しか し菱 川3)は睡 眠
に よ っ て 肺 性 心 、 心 不 全 を お こ した も の と推 定 さ
時 無 呼 吸症 候 群 の臨 床 症 状 の解 説 の なか で 、 『重
れ た。
症 に な る と肺 や脳 の 血 栓 症 や 心 不 全 の た め に 意識
ら れ て お り明 ら か に 肺 性Pの
扁 桃 や ア デ ノ イ ド肥 大 に よ る 上 気 道 狭 窄 か ら 肺
性 心 が 発 症 す る 事 実 はMensche(1965)1)に
障 害 を きた した り、睡 眠 中 に 突 発 死 を 起 す こ と も
あ る』 と述 べ て い る。
よ り
この 事 例 か らの 教 訓 は 次 の よ うに ま とめ る こ と
最 初 に 報 告 され 、 我 々 は す で に 小 児 の 扁 桃 ア デ ノ
イ ド肥 大 に よ るsleepapnea症
に つ い て8例
1985年
候群 に よる肺 性 心
の 症 例 を 報 告 し た 。(1980年
古 賀)1)・2)それ ら の 事 例 は1∼7歳
を 伴 う も の3例
と1∼4歳
の 幼 児 群5例
が で き る。
1)こ
菊池、
の肥 満
の 症例 の 場 合 生 後6ヵ 月 か ら呼 吸 障 害 が 始
ま って い る。 推 定 す るに2年9月
に分 け ら
間 の鼻 呼 吸 障
害 で 、 肺 性 心 の 状 態 が 長 く続 い た と思 わ れ る。
れ た 。 前 者 をCubbyPuffersyndrome後
者 を
した が っ て初 診 の と き胸 部 のX線
写 真 を と り、
Tonsile-adenoidhypertrophysyndromeと
もい
心 電 図 を と り肺 性 心 を 発 見 して いれ ば 、 貧 血 で
う。 い ず れ も手 術 に よ り数 ヵ 月 で 肺 性 心 は 好 転 し
手 術 は で きな い が 、 内科 的 に ヂ ギ タ リス を投 与
た・ そ の論 文 の結 論 に 私 は 次 の よ うに 述 べ た 。
して 、 心 不 全 の 状 態 を 改 善 で き た の で は な い
r肺 性 心 の 発 症 は 扁 桃 ア デ ノ イ ドの ご と く一 部 で
か 。 貧 血 の 改 善 と手 術 のみ を考 え た の で は不 十
一39
一
小児耳V◎1.8,No.1,1987
分 で あ った と思 われ る。
2)こ
4)乳
の場 合 手 術 の予 定 よ り前 に 家庭 で死 亡 して
幼 児 の 呼 吸 障 害 を お こ す 疾 患 は 他 に もあ
る 。 呼 吸 障 害 が 長 く続 い た と 思 わ れ る と き は 心
い るが 、若 し入 院 中、 特 に手 術 中 に 何 らか の負
電 図 、 胸 部X線
担 で 、 心 不 全 が 悪 化 して 死 亡 す る こ とが あ れ
で 右 心 肥 大 の有 無 を しら べ る
こ とが必 要 で あ る。
ば、 容 易 な らぬ 事 態 とな る。 そ れ を避 け るた め
5)過
去 に 扁 桃 手 特 に よ る シHッ
ク死 が 多 く報 告
に は病 態 につ い て親 に よ く説 明 す る こ とが 必 要
さ れ て い る が 、 そ の よ うな 症 例 の な か に 肺 性 心
で あ る し、 手 術 前 の入 院 で 呼 吸器 、 循 環 器 系 の
症 例 が 一 部 含 まれ て い た の で は な いか 、検 討 が
検 査 と治 療 が 夫 々の 専 門 家 に よ って な され て い
必 要 で あ る。
る必 要 が あ る。
3)な
参 考 文 献
に よ りも大 切 な こ とは0歳 か ら3歳 ごろ ま
で の アデ ノイ ド扁 桃肥 大(あ る いは 其 他 の疾 患
1)菊
で も)に よ る鼻 呼 吸障 害 は放 置 しな い で、 肺 性
1429,1980.
2)古 賀 慶 次郎:sleepapnea症
心 を 起 す 前 に 早 く手 術 な どで対 処 す る こ とが 大
科 学 会誌24:2,295∼301,1985.
3)菱 川 泰 夫:睡 眠 時 無 呼 吸 症 候 群
切 で あ る。
池 清 子:小
児 の肺性 心
小 児 科 、21:1419∼
候 群 と肺 性 心
日本 鼻
日本 鼻 科 学 会 会
誌24:2,279∼291,1985.
〈1990年国際小児耳鼻咽喉科学会 の御案内〉
Ghent,
April 21, 1987
Dear Colleague,
This is to inform you that the next International Congress on Paediatric Otolaryngology, will take
place in Ghent, Belgium, during the first week of June 1990 (Tuesday 5 to Friday 8 June) .
The main topics are: recurrent upper respiratory tract infections, allergy, malignant ENT tumours
and congenital and hereditary anomalies.
Please keep the first week of June 1990 free for attending the next International
Paediatric Otorhinolaryngology, in the mediaeval and university city of Ghent.
If you want to stay informed about the Congress please contact or write me.
Sincerely yours,
Paul van Cauwenberge, M.D.
Organizer
University Hospital, ENT Dept.
B-9000 GHENT, Belgium
Tel. 91-225741 (ext. 2332)
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Congress of