拡散 す る 読書空間 体感 す る し つ らえ

拡散する読書空間
│ 体感するしつらえ
年先には
感じることが多い、疑いもなく既成の概
念に押さえられてしまってはいないだ
にはなかった情報の得方は
もっともっと考えられないくらいの新
ろうか。
に図書館環境の変化を考えてみたい。
私が携わった図書館家具デザインを例
しいシステムに変わっているかもしれ
では、将来は情報の得方がもっと激変
ない。
するだろうから図書館とよばれるもの
たちの生活の様が大きく変わった。この
活動して 年以上になるが、この間に私
私がインテリア家具デザイナーとして
ら離れ、何時でも何処でも自由に。今や
解放されたのである。スピーカーの前か
スイングしながら自分だけの音の世界に
応し、乗り物に乗っても歩きながらでも
ウォークマンの出現に人々は敏感に反
電話で得るニュースは早いけれども断
リアルが獲得できないことである。携帯
報を獲得することはできるが、絶対的な
落とし穴がある。確かに瞬時に膨大な情
そうだが、この電子メディアには大きな
ものである。慶応大学らしい気品のある
も最新のシステムが導入された立派な
蔵管理などの図書館システムにおいて
収蔵冊数や建物の規模が最も大きく、収
図 書 館 は、 当 時 の 大 学 図 書 館 と し て は、
1982年に完成した慶応大学三田新
建 築 家 槇 文 彦 氏 の 設 計 に よ っ て、
ことはだれもが実感するところであろう。
片的で、その背景までを知ることはでき
は 必 要 な い の か? と い う 疑 問 に 晒 さ れ
その変化の背景にはさまざまな理由があ
この自由さが当たり前になった。
T V に よ る ニ ュ ー ス、 映 像 情 報 を は じ
や こ の 束 縛 か ら 解 か れ た と い っ て 良 い。
にかつ直接的に結ばれていたのだが、今
私たちは、ずっと家や場所環境に密接
能を搭載したものが普通になったのであ
という、小型パソコン同様のマルチな機
字情報や画像や動画情報をも送受信可能
によってもはや通話機能にとどまらず文
時に、地球規模のインターネットの普及
て爆発的に普及した。そして小型化と同
から離れ、携帯電話として年々小型化し
大きな変化があった。家や電話ボックス
ションのニュアンス、表情に見える感情
のみえる会話の言葉やコミュニケー
に出会うことでの発見や体験や感動。顔
予定していなかったことやものや人
ないかと常々思っているからである。
感が得られる大きな要素となるのでは
間の時間と空間の体験こそが、生活の実
考するとか熟練するというように、その
左右というように両極に偏っている。熟
ナルのデザインによって出来上がって
建築空間のデザインにあわせたオリジ
子、 新 聞 架 に い た る ま で 全 て の 家 具 を、
く 開 架 閲 覧 エ リ ア の 書 架 や デ ス ク、 椅
れていて整然とした内部空間に相応し
ないし、即効性が求められ、優劣、白黒、 建築の佇まいが、隅々まで緻密に設計さ
め、電子メディアが大量に普及し、人々
る。いつでもどこでも、国内のみならず
いる。私にとっては、はじめての図書館
の情報の入手ルートが容易でかつ多様化
ない。この数値化できないことを体感す
したことは文明的変化とさえいえるもの
るリアルさこそ新しい図書館に求めら
の 機 微。 本 を 手 に し て 触 れ 感 じ る 肌 合
そもそも生活は、常に継続した時間の
れているのである。少なくとも今、従来
海外とも、時間も空間も飛び越えて、双
流れの中にあり決して途切れることは
の固定的なあり方ではなく、動的で流動
である。ウォークマンや携帯電話の普及
同時にできるのである。いつでもどこで
ない。そして時間の経過という流動的な
的な感覚の変化に対応できる環境でな
いや暖かさや重量感など、インターネッ
もなんでも、自由に選択できて束縛され
体験と空間の体験も同時に継続的に流
ければならない。今私たちは、本当に自
トでは得られない豊かさに触れるとい
るものがなくなった。
動的に体験するものだと考えると、生活
由に心地よく情報や本に触れることが
方向性をもった電子メディアとして成長
このように生活のかなりの部分が、ど
するという連続する流れの中において
したことで、生活の中になくてはならな
こか決められた場所に留めおかれること
空間的な規制のない電子メディアが受
できているだろうか。まだまだ不自由を
によって、音楽を聞くことも、遠方の人
のない、新しい生活スタイルは、空間の
年前
との会話も場所に縛られることなく、歩
ありかたの変化をも導き引き出している
け 入 れ ら れ る の は 必 然 で あ る。
うリアル。これは数値化することはでき
といえるのではないか。
いものとなった。
一方生活に必需な情報を得る手段にも
るだろうが、最も大きな要因は、人々の
藤江和子アトリエ 藤江 和子
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きながらでも、別な行為をしながらでも
のではなかろうか。
情報の獲得の仕方の変化にあるといえる
30
30
茅野市民館・図書室 JR 駅に直結した図書室はいつも賑わっている
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丸善ライブラリーニュース 第 7・8 合併号
きたのである。
多くのことを学ぶ機会を得ることがで
書館システムを、管理運用の視点からも
ての体験的な視点だけでなく、最新の図
家具設計であり、それまでの利用者とし
思っている。
設計する際の根底を築くことができたと
わったが、その後の新しい図書館環境を
考察をつくし、惜しくも残念な結果に終
新しいメディア環境のしつらえについて
加し競った。私もグループの一員として
れながら本を探す、頭上の空間を感じな
大きな空間を、低い曲線の書架に誘導さ
独特の建築で、壁のない森か林のような
コンクリートのアーチ型が連続する
術系大学ならではの新しい図書館である。
のであり、私が全ての家具を設計した芸
年 代 に は い り、 私 た ち の 情 報 を 得
を 具 体 的 に 目 に し た 瞬 間 で あ っ た。 こ
したのである。新しいメディアとの関係
一体となって市民の大歓声とともに開館
う伊東氏の表現そのままにケヤキ並木と
2001年に﹁都市の中に広場を﹂とい
民を交えた膨大な議論を重ねた末、漸く
建築家伊東豊雄氏が勝利した後、市や市
索するきっかけとなった。このコンペは
家が新しい時代のメディアのあり方を模
の建築設計コンペが行われ、多くの建築
1994年に
﹁せんだいメディアテーク﹂
る シ ス テ ム が 大 き く 変 わ り は じ め た。
は公共性のある建築空間として大変に
記憶に刻み込まれていくのである。これ
緑や山並み、町の風景が無意識のうちに
あり、本棚や本の隙間から見える豊かな
いきとした心地のよい解放された姿で
して日常の生活に溶け込んだ様はいき
に触れることができる環境である。こう
母親もお年寄りも気軽に立ち寄れて本
かけを日常的に得られるし、子供連れの
るように目をやり、ここに足を運ぶきっ
に急ぐ人もウインドウショッピングす
に日常のリズムに溶け込んでいる。通勤
ぎりまでここで過ごす学生が多く、完全
物に触れながら電車の姿が見えるぎり
みると閲覧席は早い者勝ちで塞がり、書
ることを大事なテーマとした。完成して
彼らの居場所をつくることを大切にす
られるが、我々設計チームは将来を担う
中高校生がJRで通学する姿がよく見
るが不自由さを感じさせない。地方では
システムが組まれていて、小規模ではあ
接に連携して要求に即座に答えられる
結していることや市の中央図書館と密
︶の小さな
築 設 計 古 谷 誠 章 氏・ NASCA
図書館は大変利用者が多い。茅野駅に直
2005年に開館した茅野市民館︵建
心地良い本との関係を体感するための
な意味をもっている。ここまでに述べた
館にこのような家具があることは大き
大地のような家具をデザインした。図書
が得られるように、緩やかな起伏のある
り、腹這いになって本を読みふける感覚
に は、 原 っ ぱ に 寝 転 ん で 思 い に 耽 っ た
つながるこの建築の最も特徴的な場所
て緩やかに傾斜する床が芝生の広場に
に刻まれるのだと考えたのである。そし
空間や本との関わりを実感として記憶
し作用されることがあれば、この図書館
きるリアルな経験によって感覚を刺激
な建物の特徴的な空間を十分に体感で
境のあり様を追求してみると、このよう
知的探究者にとって、最も快適な図書環
いしつらえを工夫している。このように
求に対応できるように行為にふさわし
間じっくりと鑑賞するなど、利用者の欲
検索は、クイックリーに、あるいは長時
る。また美術大学ならではの映像情報の
覚をもたらすことを意図したものであ
り歩く空間体験が自由で解放された感
ができる。木々の間を散策するように巡
覧デスクで心地よい時間を過ごすこと
がらアーチをくぐり新しい発見をした
みせていくのではなかろうか。
の読書環境はますます拡散して広がりを
とりわけ新しいメディアで育った若者
ないのである。
空間は、既に従来の図書館の枠に収まら
感覚を求める知的探究者にとっての読書
制のない、不自由のない環境や、自由な
常的にしている。特別ではないことや規
ながら読書に没頭することを私たちは日
うか。音楽を聴きながらコーヒーを飲み
てではないと言っても良いのではなかろ
には、必ずしも整然とした静寂空間が全
本当に心地の良い読書環境とはの問い
れ最も人気の場所となっている。
に深く理解された様として受け入れら
境つくり、そしてそのしつらえは利用者
図書館の新しい姿を求める建築的な環
多摩美術大学図書館
アーチのある空間を誘導するような曲線の低い書架と閲覧テーブル
り、多摩丘陵の緑と陽光に満ちた窓際閲
のコンペには多くの建築家グループが参
重要な意味を持っているのである。
最も顕著にしつらえた姿であり従来の
︶
http://www.fujie-kazuko-atelier.com/
2007年開館した多摩美術大学新図
︵
図書館には見られない風景である。この
多摩美術大学図書館(写真:淺川敏)
起伏のある広場へつながるように床が浮いたようなラウンジソファー
書館は、建築家伊東豊雄氏設計によるも
丸善ライブラリーニュース 第 7・8 合併号
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