お客さまサービスにおける お客さまサービスにおける アクセスチャネルの

お客さまサービスにおける お客さまサービスにおける
アクセスチャネルの多様化
アクセスチャネルの多様化
(株)NTTデータ経営研究所 取締役・エグゼクティブコンサルタント
ソーシャル・イノベーション・コンサルティング本部長 小田島 労
続型のゲーム機やテレビ(デジタルTV)
はじめに
が急増していくものと予想されている。ま
コールセンター(以下、CCと略称)が
た、移動系では世代間の技術的代替のため
顧客からのコンタクトの集中するカスタ
に衰退するものもあるが、総計では携帯電
マー・コンタクトセンターとして、マーケ
話の普及が速度の面でも規模の面でも最も
ティング上の戦略的重要性を増している。
大きく、2004 年末には 8,000 万台の大台を
本稿では、CCへのアクセスチャネルの多
突破すると予測されている(図1)。
様化に関わる動向と課題を概観した上で、
これによりユーザは、家庭、勤務先、外
課題への対応の方向について述べていく。
出先などから、必要なサービスを提供する
企業に、いつでもどこからでもアクセスす
ることが可能となり、企業へのコンタクト
アクセスチャネル多様化の動向
頻度を急増させている。また、そのコンタ
企業と顧客との間の情報のやり取りに使
クト頻度の増大が、よりストレスレスなア
われるコミュニケーション手段が多様化し
クセスを実現させるために、例えば、低価
てきている。これまでの電話、FAX、郵
格化、小型化、機能の融合(例:携帯電話
便に加えて、ユーザにとっての利便性向上
とデジカメ)といった端末の進化を生み、
に有効との評価を勝ち取った各種の情報端
これがまたアクセスチャネルの多様化を加
末が、普及してきたことが大きい。
速化する要因となっている。
固定系では、従来からのパソコン(PC)
顧客ニーズへの対応のため多様化を続け
が暫時普及の度合いを高めている他、街頭
るアクセスチャネルであるが、ユーザが全
や店頭に据えられるMMK(マルチメディ
てのチャネルを利用出来るよう、システム
アキオスクと呼ばれる情報端末)、ネット接
構築していったのではCC側の投資負担が
― 12 ―
電気協会報
お客さまサービスの原点
特集
― コールセンターの在り方 ―
(図1) 消費者におけるアクセスチャネルの多様化
出所:NTTデータ経営研究所試算
過大になる恐れがある。従って、ここでの
課題は増大する投資負担に対してどう対処
表1 コールセンターのマルチチャネル化状況
していくか、ということになる。
インターネット系チャネルから
のアクセス動向
多様化するチャネルの中では、特にイン
ターネット技術を使うアクセス手段の利用
が増大している。実際、インバウンドのE
メール、Web 経由のコンタクトに対して、
CCの各々 83%、26%が既に対応済みとい
う結果が出ている(表1)。オンライント
導入して
イ いる
ン
バ 検討中
ウ
ン
ド 導入して
いない
ア 導入して
ウ いる
ト
バ 検 討 中
ウ
ン 導入して
ド いない
電 話 Eメール FAX チャット
Web
連携
100% 83%
75%
4%
26%
0%
4% 4%
9%
13%
0%
13%
21%
87%
61%
79%
43%
52%
5%
18%
4%
4% 4%
5%
9%
17%
52%
91%
73%
43%
(出所:コールセンター白書 2003)
レーディングを展開するカブドットコム証
券のCCに関する報道によれば、対応可能
な 10 種類のアクセスチャネルのうち、イン
ターネット経由となっているものが8種類
にも達している(表2)という。また、今
後についても電話全体でのコールは漸増と
いう状況であるが、Web、Eメールなどイ
ンターネット経由のアクセスは急増してい
くという報告もある。
15 年 8 月号
― 13 ―
表2 カブドットコム証券のCCが 対応しているアクセスチャネル
分 類
対応チャネル
・電話IVR、電話I
非インターネット経由
VR経由のオペレータ
・PCインターネット、i
モード、Jsky、
EZweb
インターネット経由
・PocketPC、Palm、
Zaurus、Lモード
このようなマルチチャネル化の傾向から
なっていると報告されている。従って、こ
企業と顧客との間のインタラクティブなや
こでの課題はチャネルの連携を如何に進め
り取りは単純に電話のみ、メールのみ、
るかということになる。
Web のみという単独のチャネルを個別に
備えていくというだけでは充分な顧客対応
が出来なくなってきている。即ち、Web で
IP電話からのアクセス動向
商品を注文した後、支店への問い合わせを
チャネル連携の実現のためには、お互い
電話で行い、商品が小包で届く。商品に不
のチャネルが完全なつながりを持ち、顧客
良があった時にはメールや携帯電話でCC
DBも各チャネルからの情報を統合して機
に問い合わせを行う。そんな顧客からのコ
能するようにしなければならない。このよ
ンタクトに対して、企業はいつでもその顧
うな統合化を考える時、インターネット技
客の最新の情報を一元的に掴み、情報の中
術をベースとするIPネットワークは、
断無く回答することが出来るように備えね
データだけでなく音声もひとつのネット
ばならなくなって来た。一人一人の顧客に
ワーク上に統合できるという点で、極めて
対して、電話、Web、メールのチャネルを
都合の良いものである。また、IPネット
連携させ、ミックスして提供することが必
ワークを利用するIP電話は、通信費を大
要になって来ているということである。
幅削減できるという点で、企業のコスト削
ところが、実際のチャネル間の連携状況
減にも有効なものと言える。実際、東京ガ
について、最近の白書からの報告で見てみ
スが社内通話をIP電話に全面的に乗り換
ると、リアルタイムでの連携は一部に留
えると発表したことが契機となって、企業
まっており、全く連携していないという回
による VoI P化の動きが目立って来てい
答も3割強ある状態であった(図2)。連
る。
携の内容も支店、店舗、営業マンなど対面
また現在、インターネット利用の 30%に
型チャネルへの情報伝達が主要なものに
まで常時接続のブロードバンド通信が普及
(図2) チャネル連携の実態
(n= 219)
(図3) IP化の推進について
(n= 222)
(出所:コールセンター白書 2003)
(出所:コールセンター白書 2003)
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電気協会報
お客さまサービスの原点
特集
― コールセンターの在り方 ―
してきたことで、インターネットの生活に
携させるばかりでなく、他の人間系のチャ
占める割合が高まり、IP電話の普及が消
ネル(営業部隊、店舗・支店、代理店など)
費者も含め、急速に進むとの観測が広がっ
が持っているデータと連携させ、顧客DB
ている。平成 15 年度の情報通信白書によれ
の一元化を図ることも重要である。また、
ば、5年後の 2007 年末までにIP電話の回
PBXのリース切れなど施設の更新時期を
線数は、現在(2002 年末)の約 10 倍に当
迎えるCCにおいては、IPネットワーク
たる、2,270 万回線にまでなると発表されて
時代の本格的到来に備えて、ネットワーク
いる。
の VoI P化と共に、チャネル連携と統合化
しかし、CCにおけるIPネットワーク
化への取り組みは始まったばかりで、IP
を合わせて進めていくことが検討されねば
ならない。
−PBXの「導入済み」
「検討中」の2つを
また、CCの VoI P化を進めるに当たっ
合わせても 32%に過ぎず、
「導入予定なし」
ては、実現できることが種々あることもあ
が 64%と過半を占める(図3)ことから、
り、その目的を明確にしておくことが重要
今後如何にしてIP化を進めるかが、課題
である。例えば、焦点を当てるところが、
となる。
通信費の削減などランニングコストの削減
なのか、複数の既存CCの仮想的統合(バー
チャルCCの実現)なのか、在宅エージェ
課題への対応の方向
ント制の導入なのか、などを明確にするこ
これまで述べてきた3つの課題、マルチ
とが必要である。現在の VoI P技術には
チャネル化に向けての「システム投資負担
様々なものが提供されだしており、どれが
増への対応」
「チャネル連携の進め方」
「I
標準モデルということがない。技術動向の
P化への対応」について述べる。
充分な見極めを行い、最適なモデルを自ら
まず、システム投資負担ということにつ
いては良く言われる「選択と集中」で、戦
考えていくことが必要であるが、その出発
点は目的の明確化ということになる。
略的に行っていくことしかない。どれが自
社にとって戦略的に重要なチャネルか、今
後アクセスが増加してくると見込まれる
おわりに
チャネルや、コストや収入増のために誘導
サービス利用に当たってのユーザの利便
していきたいチャネルを慎重に見極め、そ
性を上げ、顧客満足度を向上させていくこ
こに集中投資するということである。但し、
とは、顧客のリテンションを図り、自社へ
その実践に当たっては、種々の工夫を施す
のロイヤリティを上げて顧客価値を増大さ
余地がある。Web やIVRなどの手間の掛
せていく上で極めて重要なことである。ア
からないチャネルに誘導する工夫や、顧客
クセス手段の多様化に応じて、マルチチャ
の価値ごとで対応に差をつけることも今後
ネル化を図ることはユーザの利便性を上げ
は考慮されていかねばならないだろう。
ることであるが、いずれそれは自社の利益
チャネル連携に当たっては、ユーザの持
につながっていくこととなる。筆者として
つ各種情報端末からのデータをCC内で連
積極的な取り組みを期待するものである。
15 年 8 月号
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