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第3章 鳥羽市における観光の概要とエコツーリズム事業の実施団体

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第三章
鳥羽市における観光の概要とエコツーリズム事業の実施団体について
本研究では,三重県鳥羽市の相差町と答志島における海女文化を活用したエコツーリズ
ム事業を調査対象とする.その鳥羽市では,第一次観光基本計画において観光の基本方針
や目標が定められ,2008 年度から 2015 年度にかけて同計画が実施されてきた 1).より具
体的には,同計画に従って,観光客用の駐車場やトイレなどが整備されてきたとともに,
新たな観光の可能性としてエコツーリズムを推進する事業が展開されてきた
1)
.現在,同
市においてエコツーリズム事業を実施している団体は「海島遊民くらぶ」と「島の旅社推
進協議会(以下,島の旅社)」の 2 団体である.
本章では,文献調査とヒアリング調査によって把握した同市の観光の概要と,第一次観
光基本計画とそれに基づいて実施されてきた観光施策の内容について述べた後に,海島遊
民くらぶと島の旅社の組織としての概要について述べる.
3-1
鳥羽市の観光の概要
3-1-1 鳥羽市の概要
鳥羽市の位置を図 3-1 に示す 2).鳥羽市は,伊勢神宮のある伊勢市に隣接し,伊勢志摩
地域のなかでも特に重要な宿泊拠点として発達してきた.宿泊施設数を近隣自治体と比較
すると,伊勢市が 51,志摩市が 39 なのに対して鳥羽市は 213 と,最も多くの宿泊施設が
同市に集中している 3).
同市はまた,図 3-1 に示すように,志摩半島の北東端に位置しており,市の全域が 1946
年度に伊勢志摩国立公園の指定を受けている 3).海岸は典型的なリアス式で大小の湾入か
らなり,水産資源に恵まれた地域であることから,古くから漁業が栄えてきた.2010 年度
の国勢調査産業別就業者数によると漁業人口の総数は 1,206 人と,同市の 15 歳以上の就業
者人口全体の 11.1%を占める 4).漁業の中でも特に海女漁が盛んであり,2010 年度に「海
の博物館」が実施した調査によると,同市の海女人口は 565 人で,全国の市町村の中で最
も多くの海女がいることが明らかになっている 5).ただし,近年では海女を含む漁業全体
の後継者不足が深刻化している.
同市はまた,
世界ではじめて真珠養殖が行われた地域としても有名である. 真珠産業は,
同市のミキモト真珠島において 1893 年度に,御木本幸吉氏が真珠の養殖に成功してから現
在まで同市の主要産業として発展してきた 6).このようなことから同市は,国民の豊かな
生活や文化振興,国際交流に果たす役割が大きいとして,1957 年度に国際観光文化都市に
指定されている.
11
図 3-1
2)
三重県鳥羽市の位置
3-1-2 鳥羽市における観光資源
鳥羽市には,展示生物数が日本最多の鳥羽水族館(1955 年度開館)やイルカと触れ合う
ことができるイルカ島(1959 年度開館)などの観光客向けの大規模集客施設が存在する.
また,前述したように,同市には多くの宿泊施設がある
3)
.その宿泊施設を温泉目当てに
訪れる観光客も多く,同市では,2007 年度から入湯客に対して入湯税を課している 7).ま
た,盛んな真珠産業も,真珠つくり体験などを通して,観光に活かされている他,漁業が
盛んであることから,
新鮮なサザエや伊勢エビなども同市の観光資源の一つとなっている.
近年ではさらに,それらに加えて海女文化をはじめとする漁業文化自体も,エコツーリズ
ム事業などを通じて観光資源として活用されようとしている.
3-1-3 鳥羽市における観光客数の推移
鳥羽市における 1959 年度から 2014 年度までの観光客数の推移を図 3-2 に示す 8).図に
示すように,同市における観光客数は,鳥羽水族館などの大規模集客施設の開館に伴い
1990 年代前半までは増加傾向にあった.しかし,1990 年代後半以降はそれら大規模集客施
設の集客率の低迷を理由に,観光客数は減少傾向にある.そのような背景の中,同市では,
観光政策を強化することを目的として,2008 年度に第一次観光基本計画を策定した.
12
700
600
500
観
光
客 400
数
( 300
万
人 200
)
100
0
1959
1964
1969
1974
1979
1984
1989
1994
1999
2004
2009
2014
年次(年度)
図 3-2
3-2
鳥羽市における観光客数の推移 8)
鳥羽市の第一次観光基本計画とそれに基づく観光施策
3-2-1 第一次観光基本計画の概要 1)
鳥羽市の第一次観光基本計画は,同市の観光の施策を中長期的かつ戦略的に展開してい
くために 2008 年度に策定された.計画の策定に当たっては,その前年度に同市の観光課や
鳥羽商工会議所,地元企業を中心に観光基本計画策定委員会が結成され,次の三つの部会
に分かれて議論がなされた.
部会の一つ目は,鳥羽のイメージ戦略部会である.同部会は,同市の観光を活性化する
ために,同市の魅力を再発見することを議論の目的とした.当初は,新たな観光施設を建
設する案も出されたが,他の地域との差別化を図るためには,生活感あふれた漁村の風情
や海女文化など同市独自の漁業文化を観光に活用するべきだとする結論となり,観光にお
けるキーワードを「海と暮らす人」と定めた.
二つ目の部会は,観光地の機能向上戦略部会である.同部会においては,同市全体の観
光客数を増加させるためには,観光施設の利便性のみならず,同市を訪れる観光客の旅行
における利便性の向上が必要であるとの結論が出された.
最後の部会は,やさしい感幸の鳥羽づくり戦略部会である.同部会では,持続可能な観
光事業を行うためには,観光客のみならず地域の自然や住民にもやさしい観光地を目指す
べきであるとの結論が出され,そのための仕組みや規則が定められた.また,観光施設の
バリアフリー化を進める計画が打ち出された.
13
3-2-2 第一次観光基本計画に基づく観光施策 1), 10)
策定された第一次観光基本計画に基づき,鳥羽市では観光施策として,2009 年度から
2010 年度にかけて前期観光基本計画アクションプログラムが,2011 年度から 2015 年度に
かけて後期観光基本計画アクションプログラムが実施された.そのうち前期アクションプ
ログラムでは,観光対象への行き方を示す誘導サインや観光客用トイレの整備などが行わ
れたが,特に注目すべきは,エコツーリズム推進協議会事業の実施である.この事業では,
関連団体間のネットワークの強化や,人材育成や環境保全等を考える勉強会が開催される
とともに,あわせて関係団体によるエコツーリズム推進協議会が設立された.
続く後期アクションプログラムでは,観光客用の駐車場や観光地付近の消防施設の整備
とともに,前期プログラムで設立されたエコツーリズム推進協議会の活動を支援する事業
や,海女文化の活用や地域外への発信を通して観光振興に結び付けようとする海女文化活
用事業が実施された.同活用事業では,海女文化を観光に活用するための方策について検
討がなされるとともに,同市における海女文化の魅力についてまとめたパンフレットの作
成やテレビなどのメディアを通した海女文化の PR が行われた.
3-3
鳥羽市におけるエコツーリズム事業の実施団体について
本節では,鳥羽市においてエコツーリズム事業を実施している海島遊民くらぶと島の旅
社の組織の概要について述べる.
3-3-1 海島遊民くらぶについて
海島遊民くらぶは,鳥羽市において旅館の女将として働いていた江崎貴久氏によって設
立された組織である.江崎氏は,
両親が経営していた旅館を 2000 年度に引き継いだものの,
経営状況が悪化し,旅館は倒産.当時,市内の旅館全体で経営状況の悪化が問題となって
いた.同氏は,旅館の経営再建に向けては,同市を訪れる観光客そのものの増加が不可欠
であると考え,2001 年度にエコツーリズムを主な事業とする海島遊民くらぶを設立した 11).
同くらぶの現在の従業員は,江崎氏を含めて正規社員が 5 人である.主な事業として鳥
羽市の相差町(第四章参照)や答志島(第五章参照),菅島においてエコツアーを企画実施
している 11).エコツアーには,カヤック体験など地域の自然を活用したものと海女小屋体
験などをプランに組み込むなどの海女文化を活用したものが存在する.同くらぶが通年で
実施しているエコツアーを表 3-1 に示す.その他の事業としては観光情報サービスと地域
活性化支援事業を実施している 12).
同くらぶは,国からの補助金を受けることも可能であるが,補助金なしで現在,事業を
14
実施している.その理由として,同市においてエコツーリズム事業を実施している団体は
島の旅社も含め 2 団体しか存在しないため,同くらぶが補助金を受けずにエコツーリズム
事業によって利益をあげることで,同市において新たに同事業に参入しようとする団体に
対して事業の可能性を示すことができ,エコツーリズム事業の推進に繋がると同氏は考え
ているからである 11).
海島遊民くらぶが実施するエコツアーの単価は,1 時間あたり 2,000 円で,一般的なエコ
ツアーと比較すると高値である.江崎氏によれば「ツアー価格は極力低くは抑えているが,
会社として事業を継続していくためには,単価をそれより安くすることは難しく,ガイド
の質の向上など,対価に見合うよう参加者の満足度の向上に努めている」という.また,
海外からの観光客も多く,今年度から,インドネシア人のスタッフを雇用して,外国人観
光客への対応や,海外へのツアーの宣伝活動を始めた.その他にも,2006 年度からは,大
学生を対象にインターンシップの受け入れを行っており,現在,同くらぶで働く正規社員
の 2 人は,同インターンシップに参加したことを機に入社した社員である 12).
海島遊民くらぶのエコツアーの受け入れ客数の推移を図 3-3 に示す.図において,2004
年度から 2005 年度にかけて受け入れ客数が大きく増加しているのは,2005 年度から,修
学旅行や遠足などの児童の受け入れを開始したためである.2005 年度以降,毎年約 1,000
人から 2,000 人の児童を受け入れている.ただし,児童の受け入れに関しては,一般客に
比べて利潤が低いため,一般客の受入数の増加が経営上は不可欠であるという 11).
表 3-1
海島遊民くらぶが通年実施しているエコツアーの一覧 11)
エコツアー名
船で行く!漁師町の島ランチ
鳥羽の台所つまみ食いウォーキング
鳥羽の台所つまみ食いウォーキング DX
鳥羽の台所めぐり~サザエクッキング&ランチ
~
お伊勢さん SWEETS つまみ食いウォーキング
~ココロ旅~ほっこり。石神さんとお伊勢さん
めぐり~
海女の国スピリチュアルツアー
鳥羽の海をつめこんで♪シーグラスのクラフト
体験
~ココロ旅~昼下がりの石神さんツアー
内容
答志島の食堂にて家庭料理を食べながら島の文化につ
いて学ぶ.
アワビとナマコの専門問屋の見学とナマコの試食.
アワビとナマコの専門問屋の見学とサザエの試食.
海鮮問屋の見学とサザエを用いた料理体験.
伊勢神宮参拝と周辺の散策.
相差町の石神さん社殿と伊勢神宮の参拝.
相差町にて,海女文化に関連する観光施設を巡る.
貝殻を用いたシーグラスのクラフト体験.
相差町の石神さん社殿参拝と周辺の散策.
15
5,000
4,000
受
け
入 3,000
れ
客
数 2,000
(
人
)
1,000
0
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
年度(年度)
図 3-3
3-3-2
海島遊民くらぶのエコツアーにおける受け入れ客数の推移 11)
島の旅社について
島の旅社は,鳥羽市の答志島(第五章参照)の自然や文化を活かしたエコツーリズムを
実施するために 2004 年度に設立された.設立の目的は,同市の離島である答志島において,
島の風土や日常の暮らし,漁村の生活文化といった独自の魅力を観光業に活かし,島の活
性化につなげることである 13).同旅社は,島内 3 ヵ所の町内会と答志島旅館組合,鳥羽磯
部漁業協同組合,島内の老人会と婦人会によって構成されている.同旅社の代表は,同島
に在住する山本加奈子氏である.山本氏は,結婚を機に同島に移住してから 25 年間,同島
に在住しており,海女漁にも従事している 14).
同旅社でエコツーリズム事業に従事するスタッフは 8 人存在するが,常勤スタッフはお
らず,8 人のスタッフ全員が海女漁や旅館業を兼業しながら交代制で島の旅社の業務に従
事している.また,同スタッフ全員が同島の島民である.山本氏によれば「常勤のスタッ
フがいないため,観光客の受け入れを断らざるをえない場合も多い」とのことである 14).
島の旅社の設立の経緯をまとめたものを表 3-2 に示す.表に示すように,民間会社であ
る海島遊民くらぶとは異なり,島の旅社の始まりは 2001 年度に設置された鳥羽市観光課の
鳥羽市観光戦略プラン作成委員会である.現在,同社は,国からの補助金を受けているが,
山本氏によれば「将来的には補助金を受けずに事業を成立させることを目標としている」
という.その理由としは,国からの補助金を受けるということは国の管轄で事業を行うこ
とになり,市役所からの業務などが課され,海女漁などを兼業するスタッフの負担が大き
いためである 13).
16
表 3-2
2001 年度
2002 年度
2003 年度
2004 年度
島の旅社協議会設立の経緯 14)
鳥羽市戦略プラン作成委員会によりワーキンググループ結成
ワーキンググループによる島内の資源調査
ワーキンググループと活性化 21 で現地視察,体験メニューなどの構築
島の旅社推進協議会設立
17
<参考文献>
1) 世古晃文,2015-11-07,会話
2) Google マップ:鳥羽市<https://www.google.co.jp/maps/place/%E4%B8%89%E9%87%8D%
E7%9C%8C%E9%B3%A5%E7%BE%BD%E5%B8%82/@34.4629768,136.7849872,12z/data
=!3m1!4b1!4m2!3m1!1s0x6004febf6d57a857:0xb238cf7c6bb43629>,2015-01-17
3) 二神真美:地域資源の活用による観光地再生に関する一考察 : 三重県鳥羽市の事例を
中心に,NUCB journal of economics and information science,55(1),pp.81-95 (2010)
4) 鳥羽市:国政調査<http://www.city.toba.mie.jp/kikaku/toukei/20kokutyouzyuuki/kokutyou-sver.html>,2015-11-30
5) 海の博物館:全国海女操業人数 2010 年調査<http://www.umihaku.com/exhibition/Ama/ze
nkoku-ama1.pdf>,2015-01-17
6) 鳥羽市観光協会:鳥羽を知る<http://www.toba.gr.jp/know/>,2015-11-30
7) 鳥羽市:入湯税<https://www.city.toba.mie.jp/shiminzei/nyuutouzei.html>,2015-11-30
8) 鳥羽市:平成 26 年観光統計資料<https://www.city.toba.mie.jp/kikaku/toukei/13kankou/doc
uments/26kankotoukei.pdf>,2015-11-30
9) 鳥羽市:第2次鳥羽市観光基本計画の策定について<https://www.city.toba.mie.jp/kankoukikaku/kihonnkeikaku/index.html>,2015-11-30
10) 鳥羽市:実行計画(アクションプログラム)<https://www.city.toba.mie.jp/kankou-kikak
u/kihonnkeikaku/dainizikannkoukihonnkeikaku/actionprogram.html>,2015-11-30
11) 江崎貴久,2015-10-03,会話
12) 兵頭智穂,2014-12-06,会話
13) 濱口ちづる,2015-05-04,会話
14) 山本加奈子,2015-11-06,会話
18
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