腎臓病は,もともと地味な病気で,一般の方には理解しにくい病気

序
腎臓病は,もともと地味な病気で,一般の方には理解しにくい病気,とっつきにくい
病気ではなかったでしょうか? ところが最近,慢性腎臓病がしばしばメディアに取り上
げられるようになっています。新聞,テレビ,週刊誌などで,ご覧になった方もいらっ
しゃると思います。
慢性腎臓病は,Chronic(慢性)Kidney(腎臓)Disease(病)を略して,CKD と呼ば
れています。
CKD が注目される理由は,2つあります。1つ目の理由は,腎臓病が進行すると腎機
能が低下し,重症の腎不全(尿毒症)になってしまうので,透析や移植を受けることに
なる,ということです。世界的に透析患者さんの数が増えていますが,そのなかでも日
本は,特に透析患者さんが多いのです。現在,日本国民の 450 人に1人が透析を受けて
います。また,透析患者さんは,毎年約 1 万人ずつ増加し続けています。その予備軍が,
CKD 患者さんです。
また,CKD 患者さんは数が多く,軽症のものも含めると,全国民の8人に1人という
推計がされています。すなわち,立派な国民病といえるでしょう。
2つ目の理由は,CKD 患者さんでは,脳卒中や心臓病(これらを合わせて,心血管疾
患といいます)などを発症する危険性が高いことが,わかってきたことです。つまり,
CKD 患者さんでは,腎不全に進行するリスクとともに,腎臓以外の病気,特に心血管疾
患になるリスクも高いのです。
しかし CKD は,予防,早期発見,進行度に応じた治療が可能で,しっかりと対処す
れば治すことができる,または進行速度をかなり遅らせることができます。そのために
は,患者さん自身と医療者(医師,看護師,栄養士など)が,しっかりとスクラムを組
んで,療養することが大切になってきます。
本書は,CKD 患者さんが病気のことを理解して,積極的に治療に参加するために,医
療者との間で十分なコミュニケーションがとれるようにするための道具でありたいと
思って,書かれたものです。そのような目的に少しでも役立てば,たいへん幸いです。
2010 年5月
名古屋大学大学院医学系研究科病態内科学講座腎臓内科学教授 松尾
清一