師匠との おもてなしに 関するエピソード

キラリと光る
おもてなしの心③
る気持ちは自分たちのエネルギーになるからね。だから伯
師匠との
おもてなしに
関するエピソード
父たちはどんな人でも受け入れて、よく来てくださった!
と、もてなすのだよ」と答えてくれました。
「なるほど! 器
が大きい! きっと器の小さい考え方をしていた人たちは、
次の時代に進むことは許されなかったのだろう」と、大事
なことを学びました。
相手が自分にやさしくしてくれたら、自分も相手にやさ
しくするという方は案外多いと思います。しかし、
これでは
器の小さい人と言われてしまいます。器の大きな人は、自
ら相手にやさしくすることができます。相手がどんなこと
を望んでいるのか、
どうしたら喜ぶのかを真剣に考えます。
株式会社
さくらコミュニケーションズ
代表取締役
古川智子
☆凍ったペットボトルに込められた思い
師匠には、今も語り継がれている逸話があります。師匠
が自分の上司の専務に随行して亜熱帯ジャングルの国に出
張された際のお話です。出張の合間に密林の中に眠る遺跡
☆文化を背負う
今回は、前回お話しさせていただいた私の師匠につい
て、
引き続きお話しさせていただきます。
私の師匠は、
「江戸風鈴」職人の末裔です。日本で唯一、
観光の日程が組み込まれていることを出国前に知った師匠
は、
上司の好きな炭酸飲料を日本で購入して、
それを現地の
ホテルの冷凍庫で凍らせておきました。そして、遺跡観光
の日に凍ったペットボトルを持って行き、観光を終えて汗
だくになっている上司に飲み頃に冷えたドリンクを「どう
江戸時代から続くガラス風鈴を伝統製法に則り製造してい
ぞ」と差し出されたそうです。その時の上司の様子につい
るのが師匠の伯父である名誉都民・篠原儀治さんと師匠の
て、
「専務は、お前……これ……日本で買って持ってきたの
従兄弟にあたる裕さん、正義さんの 3 人です。江戸から明
か……。と、声が出ないくらい驚いて、ありがとう! と言
治にかけて全盛期を迎えたガラス風鈴、それを当時製造し
って喜んでくれたよ」と師匠はとても嬉しそうに話してお
ていた数え切れないほどの風鈴職人が今となっては地球上
りました。
にたった3人しかいません。この3人に、
ひとつの文化の存
亡がかかっているのです。
☆器の大きな人と器の小さい人
ところで、この 3 人の方々は、これまで聖域とされてきた
仕事場に一般人を招き入れ、製造現場を見学させてくださ
います。このことを知った私は、ものすごく驚いてしまい
ました。確かに、今日の企業が社会的貢献を進めていく中
「お客様をお迎えする前に、どれだけ真剣にお客様のこ
とを考えて、事前準備に力を尽くすことが出来るか」こそ
が「おもてなし」の真髄です。感動させるおもてなしは、相
手のことを真剣に考え、事前準備に力を尽くすことが不可
欠なのです。それを師匠は皆に教え示したのです。
☆ほめ合う関係を作る
師匠のことは誰もが「人をほめる天才だ!」と言います。
で、地域社会とこれまで以上に歩み寄ることが求められて
器の大きい人は、人をほめることができます。ほめること
います。しかしながら、師匠曰く「絶滅危惧種」である江戸
は相手のことを認めることですが、それには度量という広
風鈴の職人が、絶滅危惧種ではない一般人を丁重にもてな
く大らかな心が必要です。広く大らかな心は楽しくなくて
しているのです。
「逆ではないのかしら?」と、私は首をひ
は作れません。人をほめると相手は嬉しくなって楽しくな
ねり師匠に話してみますと、師匠は笑いながら「ありがと
ります。そして自分もほめてもらえる関係へと発展しま
うね
(笑)
。ただ、
それを考えるようになったらお終いだよ。
す。これは誰にとっても幸せな関係です。私はこのほめ合
どんなに貴重なものを作っていても、皆が知らなければ全
う関係こそが最高に幸せなおもてなしであると思います。
く意味がないし、
一人でも多くの方に、
江戸風鈴は素晴らし
皆様も是非、自分の周りの方をほめてみてはいかがでしょ
い! 無くなってしまったらダメだ! と願ってもらうこと
うか。きっと明るく楽しい素敵な毎日になるはずです。
が、製造する人の心に届くのだよ。お客様をおもてなしす
次回は茶道についてお話したいと思います。
No.258 2010.8-