2014年04月号 PDF - JIA 公益社団法人日本建築家協会

1991 年 4 月 16 日第三種郵便物認可 2014 年 4 月 15 日発行 毎月 1 回発行 通巻 302 号
JIA MAGAZINE
特集
ネクスト:建築家のこれから –1
日本中の建築家が中大規模木造建築をつくるには
APRIL 2014
302
公益社団法人日本建築家協会
建築家会館です
株式会社
御 礼
2014 年度 4 月 1 日更改・新規ご加入の募集事務が
無事終了いたしました。
建 築 家 のための保険
2014 年度「JIA 建築家賠償責任保険」
オプションプラン
①「構造基準未達」プラン
建築物に物理的滅失もしくは損傷を伴わない場合でも、構造基準を
満たさないために、法律上の損害賠償を負った場合の損害を補償。
②「建築基準法等未達」プラン
内容に関しては建築家会館にお問い合わせ下さい。
2014 年度中途加入申し込みおよび
オプションプランの追加加入も、
インターネットで簡単にできます。
http://kenbai.jp/
加入申し込み・保険料の試算・事故事例閲覧などご利用ください。
またご加入後に加入証明書の印刷などが、カンタンにできます。
パンフレットをご希望の方、また詳細につきましては、下記までお問い合わせください
《JIA指定代理店》
株式会社建築家会館
http://www.kenchikuka-kaikan.jp/ e-mail: [email protected]
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前2-3-16 TEL:03-3401-6281 FAX:03-3401-8010
《引受保険会社》
株式会社損害保険ジャパン 団体・公務開発部 第二課
〒100-8965 東京都千代田区霞ヶ関3-7-3 TEL:03-3593-6453 FAX:03-3593-6751
SJ12-11384(2013.2.1)
JIA MAGAZINE
302
APRIL 2014
CONTENTS
特集
稲山正弘氏に聞く
JIA 環境セミナー 木材推進シリーズセミナー
12
JIA リフレッシュセミナー 2013
16
本部便り/理事会報告/新規正会員入会承認者/編集後記
18
木構造の展開と環境建築デザイン
JIAの活動紹介
JIA NEWS
前川國男自邸︵1942 年︶
の前川直筆のスケッチの意味するもの
[前川國男]
地方を建築で活性化する
このふたつの小さなスケッチは、前川國男(1905 ∼ 86 年)の戦前の蔵書類
を調べている最中に、2 冊の本の見返しに偶然発見したものである。その本
(山喜房佛書林、昭和 15 年 12 月 1 日発行)の
とは、橋田邦彦述『正法眼蔵釈意』
第 1 巻と第 2 巻で、それぞれの扉ページには、習字の文字で「昭和十六年五
月末日 前川國男」と購入日か読了日と思われる日付が書き込まれている。
この時期と描かれた内容から、あきらかに、太平洋戦争下の 1942 年秋に竣
工する自邸のためのスケッチであることがわかる。
この自邸は、1997 年に東京都小金井市にある江戸東京たてもの園に移築復
元されて、現在、一般公開されている。もともとは、JR 山の手線の目黒駅
に程近い閑静な住宅地に、前川の結婚後の新居として建てられた。良く知ら
れているように、1928 年から 2 年間、ル・コルビュジエのアトリエで学んだ
前川は、帰国直後の 1931 年、東京帝室博物館コンペに、彼の建築思想に倣っ
たデザインで応募し落選する。それから 11 年後、戦時下の資材統制による
木造 30 坪以下という制約はあったものの、なぜ前川は伝統回帰とも思える
ような瓦屋根の日本的な造形で自邸をつくったのだろうか。
ふたつのスケッチは、そうした疑問の残る当時の前川の考えを知る上でも
貴重な手がかりを与えてくれる。第 1 巻に残されたスケッチ(本誌表紙)は
初期段階のものだろう。実現した建物とは異なり、縁側と水平の庇が描かれ
た外観の印象はごく普通の民家に近い。内部も南側に横一列に続きの間が並
び、断面図を見ても居間は吹抜けにはなっていない。一方、もうひとつの
スケッチ(下図)に小さく描かれた断面図では居間が吹抜けに進化している。
注目したいのは、脇に描かれた「一筆書き」のスケッチである。これは、門
から玄関へと続くアプローチの空間の動きを示唆したものと思われる。前川
は、この自邸の設計を考える中で、日本の伝統的な建築に見られる庭と室内
が一体となって展開する空間構成の可能性に気づいたのだ。その意味で、こ
の小さなスケッチは、神奈川県立図書館・音楽堂(1954 年)、埼玉県立博物館
(1971 年)、そして熊本県立美術館(1977 年)など、戦後の代表作へと結実する
空間構成の原理を前川が最初につかんだ瞬間を記録している。
外観
松隈 洋
居間
撮影:吉村行雄
4
日本中の建築家が中大規模木造建築をつくるには
建築家のスケッチ
ネクスト:建築家のこれから –1
前川國男の蔵書に残る断面図と「一筆書き」のスケッチ:前川建築設計事務所蔵
特集 ネクスト:建築家のこれから 1
日本中の建築家が
中大規模木造建築をつくるには
稲山正弘氏に聞く
年間テーマ「ネクスト:建築家のこれから」第1回目は、東京大学大学院教授の稲山正弘
氏にお話をうかがいます。木造建築の構造設計の第一人者である稲山氏は、多くの建築
家とのコラボレーションにより次々と新しい木造建築デザインを生み出しています。市
場に流通する木材を使用して設計することにこだわる稲山氏は、全国の建築家が自分た
ちの手で非住宅の中大規模木造建築を設計できるよう標準仕様の作成に情熱を傾けてい
ます。今回は、稲山氏が基調講演を行った JIA 環境行動ラボ主催のセミナーについても
(『JIA MAGAZINE』編集長 今村創平)
合わせてご紹介します。
(p.12)
推進されない木造化
稲山 公共建築物等を木造にすることは、なるべくその
地域の木材を使って、地域材がよく見えるように使いな
今村 公共建築物等木材利用促進法が 2010 年に施行さ
がら木造化、木質化を推進することが求められます。そ
れて、低層の公共建築物等は原則として木造化、木質化
うすると、木を見せて使っていく木造の場合、防耐火の
を検討することが義務づけられました。このことは、今
法規をどのように解くかによって基本計画が異なってき
後建築家が木造の建物を手がける機会が確実に増えるこ
ます。1,000㎡以下の 2 階建てに防火区画をして、その間
とを意味しています。
に防火壁を設けていく方法が、おそらく比較的簡単です
稲山 促進法の成立は転換期となりうるたいへん大きな
が、防火壁は 1 枚壁にしようとすると、50cm 以上外壁と
ことでしたが、現状は、まだなかなか木造化が推進され
屋根に突出させなければなりません。それを避けようと
ていません。国交省の官庁営繕の資料では、国が整備す
すると、今度は 3.6m 幅以上にわたって耐火構造にする
る公共建築のうち、昨年度木造で実際に建てられたもの
などの処理が必要になります。
は 10%に満たないのです。
今村 松永安光さんと設計された「オガールプラザ」な
今村 それはどうしてでしょうか。
どはその例ですね。
稲山 国や地方自治体自体の施設だけではなくて、いわ
稲山 そうです。その考え方で 2 階建ての木造棟の間に
ゆる民間の幼稚園や老人ホームなども含めて「公共建築
幅 3.6m 以上の耐火の RCのコアを 2 箇所設けました。耐
物等」と言っていますが、それらを手がける地方の中堅
火構造を挟むとなると、当然その部分は RC 造や S 造な
の設計事務所は、普段、公共、民間にかかわらず非住
どになってきますので、それと木造をつなぐことを考え
宅系では S 造や RC 造の建築物を手がけているところが
ると、今度は平面混構造になります。そうすると、木造
大半だと思います。そのような事務所では、個人に依頼
でさえ、特に地方の構造事務所では「経験がないから」
される木造住宅は、普段やられているでしょうが、いわ
ということになるのに、それを平面混構造でジョイント
ゆる非住宅系の中大規模木造建築を手がけた経験はほと
部をちゃんと考えて解くような話になると、余計に「で
んどないでしょう。ですから、中大規模の低層公共建築
きません」となってしまいます。
を木造でつくってくださいと言われたときに、いろんな
今村 そして行政のほうも同様に経験がないため、
「審査
ハードルがあって、だいたいは木造化を断念することに
できませんよ」となってしまうわけですね。
なってしまうのです。
稲山 ですから、防耐火の法規に絡んで、最初の基本計
画で、そこをまずどう解くかをある程度詰めてかからな
建築家にとっての 4 つのハードル
4
いと、その先がスムーズにいきません。
つぎに、仮に構造を分けたところで、用途によっては
今村 具体的にどのようなハードルがあるのでしょうか。
準耐火が要求され、燃え代設計をしなければなりません。
稲山 私は、設計者が木造化を断念する理由をいつも 4
燃え代設計自体、おそらく地方の構造設計事務所ではあ
つくらい挙げています。
まり経験がないでしょうから、さらになかなか受けてく
1 番目に、まず防耐火の法規が、木造に関しては複雑
れる構造事務所がなくなってしまいます。構造事務所に
に入り組んでいてやたら厳しい。そのうえ防耐火の法規
断られると、設計事務所としてはお手上げで、
「それなら、
を最初に見据えて全体の計画案をプランニングしないと、
もう RC 造でいきましょう」となってしまう。このよう
うまくいかないのです。
に木造の構造設計をいやがらずに引き受けてくれる構造
今村 S 造や RC 造の場合は基本計画のあとからでも被
事務所が少ない、というハードルが 2 番目にあります。
覆したり何らかの処理をすればよいことが多いのですが、
今村 3 番目のハードルはどのようなものですか。
そのようにはいかないということですね。
稲山 コストの問題です。学校校舎や幼稚園などは、あ
JIA MAGAZINE 302
特集 ネクスト:建築家のこれから 1
【木材利用促進法】
2010 年 10 月、
「公共建築物等における木材利用の促進に
への波及効果も期待されている。
関する法律」が施行された。この法律により、
「国や地方自
背景には、戦後造林された人工林という資源を積極的に
治体が整備する低層の公共建築物は、すべて原則的に木
活用し、林業の再生を図る目的と、今日の危機的な環境問
造化する」という方針が示された。これは、戦後一貫する、
題への対応とがある。また建物の木造化の動きは世界的な
建物の不燃化から派生した「非木造の推進」からの、画期
ものでもあり、今後の確実な潮流といえる。とはいえ、方
的な転換を意味する。そして同法の成立により、国が積極
向は示されたものの、その具体的な展開は、現在さまざま
的に建築の木造化に取り組むことで、住宅など一般の建物
な検討が進められているといった段階である。
る程度スパンの大きな空間が必要になってきます。そう
抑えられます。公共建築とはいえ、今は財政難の時代で
「じゃあ
すると、すぐ大断面集成材による構法でないとできない、 すから、とにかくリーズナブルにするために、
と考えがちです。そうなると、すべて特注でコスト高に
やっぱり、今回はしょうがないから木造は諦めて、RC
なってしまいます。
造にして、あとは使える範囲で木を張っておけばいい
いま住宅では、中断面集成材などが普通に使われてい
じゃないか」という話におそらくなるのでしょう。
て、それらは非常に安価です。戸建て住宅は、RC 造よ
今村 確かにそうかもしれませんね。
り木造のほうが安いですよね。それは、住宅用の製材や
稲山 4 番目は材料の問題です。特に地域材を使う話に
集成材の規格断面の規格長さのものが一般に世の中に流
なったときに、安定供給がまだ十分にできないところも
通していて、それらをプレカット工場で接合部を加工し
たくさんあって、実際に蓋を開けてみると、なかなか材
て使うと非常にリーズナブルにつくれるシステムがある
料が集まらないこともあります。ただし、例えば量が十
からです。ところが、非住宅系の建物で、住宅よりも少
分にあったとしても、設計者が木材の適寸についての情
しスパンが大きい 8m 角くらいの空間をつくる際に材料
報を知らないがために、構造事務所から出てきた断面リ
を特注すると、部材自体も住宅用の中断面集成材に比べ
ストが、例えば幅 200mm、せいが 600mmというような
ると立米単価が倍以上になります。さらに接合部も接合
製材をたくさん使うようなものだと、
「いや、そんな材は
金具を特注で発注してつくるように設計すると、もっと
揃いません」という話になってしまうわけです。
コストが上がってしまいます。
材料を出す側と設計する側で、標準断面はどのような
そうすると、RC 造や S 造でつくったほうがコストを
範囲だと材料供給がそんなに難しくなくできるのか、ま
稲山正弘(いなやま まさひろ) 1958 愛知県生まれ
1982 東京大学工学部建築学科卒業
1982 ~ 86 ミサワホーム勤務
1992 東京大学大学院博士課程修了、博士(工学)
1990 稲山建築設計事務所(現・ホルツストラ)設立
2001 ~ 02 ものつくり大学建設技能工芸学科助教授
2005 ~ 2012 東京大学大学院農学生命科学研究科
准教授
2012 ~ 東京大学大学院農学生命科学研究科教授
【専門】木質構造の研究および構造設計
【研究論文】
「木材のめりこみ理論とその応用」、
「在来軸
組木造住宅の構造設計手法の開発」など
【著書】
「木造軸組工法住宅の許容応力度設計(2008 年
版)」
(共著)など
【構造設計】林野庁林業機械化センター、いわむらかず
お絵本の丘美術館、岐阜県立森林文化アカデミー、ウ
トコリミテッド室戸工場、安中市立九十九小学校、東
京大学弥生講堂アネックス、北沢建築工場など
【受賞】2002 日本建築学会賞(技術)、松井源吾賞
2006 杉山英男賞、
2009 JSCA 賞、 2013 日本建
築士連合会優秀賞
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5
たヤング係数や含水率などは、どの程度なら現実的なの
われるような防腐・防蟻薬剤をきちんと注入処理をした
か、などの情報のやりとりがお互いになくて、設計者は、
ほうがいいですね。そういう処理を何もしないで、あと
ただ単に告示の表にある品質の一番高いところで指定
で木材保護塗料を塗るだけでは、耐久性上とてももちま
したりすると、歩留まりとしては、9 割方は捨てて、上
せんので、内部まで防腐・防蟻剤が含浸するような処理
位の 1 割しか使えないようなことが起こってしまいます。
を行うべきです。なおかつその上に仕上げとして、取り
ですから地域材の安定供給ができない理由の多くは、山
替え可能なものを張って保護するのが原則ではないかと
側の情報がちゃんと設計側に伝わっていないところにも
思います。
あると思います。
このようなハードルが、木造で非住宅系の建築物を設
計しようとするたびに持ち上がって、
「やっぱり木造は難
しいね」ということになって、結果として 1 割以下しか
木造化が実現できていないのです。
木造バブルの時代の反省
今村 日本建築学会が 1959 年に木造禁止決議を出して、
その後 30 年ほど、日本における住宅以外の木造建築の
空白期と言われています。その間に構造設計の経験やノ
木の構造体は外部に露出させない
ウハウも途絶えてしまいました。そのあと、80 年代くら
いから、日米構造協議などを経て、逆に木造をどんどん
今村 残念ですね。つまり 4 つのハードルとは、①防耐
使うことが推奨されました。小国ドーム(設計:葉祥栄)
、
火の法規、②木造が可能な構造事務所の不足、③コスト、
空海ドーム(設計:木島安史)ができたのが 88 年、その
④材料供給の問題なのですね。
後も出雲ドーム(設計:鹿島建設、1992)など 1980 年代
稲山 本当はもうひとつあります。それは施主側が、木
後半から 90 年代にかけて、木造の大規模な建築が出て
造だと耐久性やメンテナンスの面で不安だと言う場合が
きたという印象があります。
あるのです。特に、昔の木造のイメージは、すぐに腐っ
稲山 ちょうど解禁になって、ある意味で木造バブルの
たり、シロアリにやられたり、あるいは、すぐ表面がボ
ような時代があったのですが、バブルが崩壊したら、ま
ロボロになってきたり…。それに対するメンテナンスに
た下火になってしまったのです。
非常にお金がかかるのではないかと懸念される方たちが
今村 それは普通に競争力があるシステムではないので、
施主側にいて、木造に抵抗を示す傾向があります。それ
政府の方針が変わったり、経済状態によって一気に下火
に対して、
「こうやれば、別に問題ありませんよ」という
になってしまったということでしょうか。要するにサス
ノウハウを設計者側が提供できればいいのですが、施主
テイナブルじゃないモデルだったわけですね。
からそう言われると、設計者側もそれにちゃんと対応で
そのころの木造大規模建築は大断面集成材を使って、
きるだけの自信がないので、
「じゃあ木造はやめましょ
その端部を特殊金物でつくるものでした。でもいま稲山
う」となってしまうのです。
先生がやられているのは小さいメンバーを使って、接合
今村 おそらく、現在は個人の建築家だけではなく、建
部もできるだけ木をつかうという、その頃の木造建築と
築界全般にそういう木造建築についてのノウハウがなく、
は全然違うことをされているなという感じがします。
まだ整備されていない過渡期といえますね。
稲山 そうですね。建築家は、木造だと一目でわかるよ
うに、外部にも木を見せたがる人が多いのです。私は、
6
プレカット導入で生き残った在来工法
のちのちクレームにならないように、
「それはやめたほう
稲山 じつは住宅の工法において、ツーバイフォーに軸
がいいですよ」と、なるべく言うようにしています。建
組工法が負けなかったのは世界中で日本だけなのです。
物の内部であれば、いくら木を見せても耐久性のうえで
日本では、いまだに多くの木造住宅が在来軸組工法で建
まったく問題ありませんが、外部に露出すると、腐朽菌
てられています。ヨーロッパでは、合理的なツーバイ
やシロアリによる生物劣化の問題もありますし、それ以
フォー型の住宅が一気に広まって、軸組、いわゆる木骨
外に紫外線や雨水による劣化や、直接何かがぶつかって
建築のティンバーフレームのものは廃れてしまい、いま
削れてしまうなどの物理的な劣化などの問題も出てきま
では昔の伝統的な民家の改修のようなときだけしか軸組
すから、外部に木の構造体を露出するのを原則避けるこ
工法が用いられていません。
とが解決策なのです。
今村 それはどうしてなのでしょうか。
どうしても外部に見せる場合は、木造住宅の土台に使
稲山 日本は、大工が手加工で軸組工法でつくっていた
JIA MAGAZINE 302
特集 ネクスト:建築家のこれから 1
「デイサービスセンター
かがやき」流通小断面
集成材とプレカットに
よる平行弦トラス
ところにツーバイフォーやプレハブが参入して、いった
ちっと直角が出て、なおかつグッと締まることによって
んは市場シェアが落ちたのですが、日本が得意とするロ
剛性が担保されるのです。
ボット化を導入して、大工が手加工でやる部分を、まっ
つまり、昔から施工者側も馴染んでいる在来工法の仕
たく同じように工場でプレカット機械で加工できるよう
組みの中の、手加工でやっていたところを工場でロボッ
になりました。普通の幅 120mmで、せいは 360mmくら
トがプレカットするのに変わっただけなんです。
いまでの断面の柱・梁の継手・仕口を全部工場でプレ
今村 ちょうどいいタイミングだったわけですね。その
カット加工されるシステムが日本全国に普及したのです。
時期がずれていれば、在来工法は廃れていたかもしれま
各地域でプレカット機械を持った工場にそれぞれの地域
せん。
の住宅メーカーや工務店が依頼するようになり、非常に
稲山 80 ∼ 90 年代あたりがいちばん在来軸組工法が危
オープンで合理的な生産システムが確立し、いま木造で
機的な状況だったと思います。おそらくその時期にかな
同じものをつくったとしても、ツーバイフォーより在来
りツーバイフォーに転向した工務店もあったはずです。
工法でつくったほうが、むしろ安くて早いのです。
でもプレカットが普及したあと、そういう人たちも、ま
今村 つまりそうしたシステムが確立したことによって
た在来工法に戻ってきたケースもあります。
ツーバイフォーに駆逐されなかったのですね。
日本で木造に携わる人たちは、昔からみんな在来工法
稲山 日本で在来工法のほうが勝っているもう一つの理
でないと木造ではない、間に鉄骨が挟まってくると木造
由は、在来工法の場合、プレカットで全部工場で仕口加
らしくないという感覚を持っているところがありますね。
工してくると、現場で 1 日のうちに建て方をして、屋根
の野地板までできてしまいます。日本は雨が多いですか
ら、少なくとも 1 ∼ 2 日くらいまでの間に屋根の野地板
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明快になってきた在来工法の見積
まで葺けて、上にブルーシートを敷いて養生すれば、雨
今村 ここまでは住宅の話でしたが、中大規模の木造建
が降っていても屋根の下で工事が進められます。それが
築物の場合は、加工や施工のコストが、設計者には見え
日本では非常に重要なことで、ツーバイフォーではそう
にくい面があります。例えば住宅や民間の建築では、日
はいきません。
本の習慣で、坪いくらというように大工さんがまとめて
今村 合理性がある工法だといいながらも、より時間が
受けることができるのに対して、公共の建築やそれに近
かかるわけですね。
いものを設計する際には、単価計算をすべて出さなけれ
稲山 最近は、なるべくツーバイフォーのフレームを工
ばならないとなると、設計者は「本当にできるのかな」
場でパネル化してきて、いわゆる木質プレハブに近い形
という不安を感じると思います。
で搬入し、現場でそれを組み立てていますが、それでも
稲山 プレカット工場で全部扱うようになると、だいた
プラットフォーム工法なので、1 階の床の合板を敷いて、
いの加工単価は積み上げで出せるようになるので、以前
そこに 1 階の壁を建てて、2 階の床の合板を張って、そ
に比べると在来工法の見積はとても明快になっています。
の上に 2 階の壁を建てていくと、結局、屋根までいくの
今村 昔だと、大工さんに手刻みだから何人工と言われ
に 3 日以上はかかるのです。そうすると、在来工法より
てしまうと、もう検証のしようがなかったのですね。
もハンディがあります。ですから、ある意味で、プレ
稲山 そう、丼勘定みたいなところがありましたが、最
カットを獲得した在来工法は、日本の雨の多い気候の中
近の大手のプレカットは 1 加工にかかる正確な時間も読
ではものすごく競争力があり、非常に合理的に日本に
めるので、そうすると、1 棟当たり仕口のどれが何箇所
合ったシステムとして残っているのです。
にあるというのがぱっと出て、トータルで加工コストが
在来工法では、いわゆる大断面集成材を使い、接合部
いくらか、ものすごく明瞭に積算ソフトで出ます。そし
は鋼板のごつい金物を使ったシステムではなくて、あく
てそれが全部、CAD / CAMでつながって、材料と加工
までも、ほぞや蟻掛けや鎌継ぎなどが全部工場でプレ
の見積のコスト計算から、たわみや許容応力度の構造計
カットされて、木と木を現場で組んでいくシステムが主
算までが全部連動して出てくるというシステムが住宅レ
体になっています。大工さんもやはり、いちばんそれが
ベルでいま普通に普及しているのです
扱いやすいんですね。木を扱うときに、わざわざ一度金
2000 年代に入ってプレカットが普及し、それがいま
物を介して精度を調整するよりも、昔からの仕口はよく
CAD / CAM 化と相まって、コストの面でも非常に合
できていて、工場でよい加工精度でできてさえいれば、
理化・ガラス張り化されてきています。近代化のシステ
わざわざあとでレベル出しや垂直出しをしなくてもき
ムが確立して、木造の材料と加工の市場の中に普通に定
7
8
着した影響が、私はすごく大きいと思っています。それ
レースなどの必要な材料が、在来工法の住宅と同様に、
に対して、国産材で大断面集成材を特注でつくるのは、
全部標準化・システム化されています。だから接合部を
あくまでも個別にやっている世界ですから、いまだにあ
そのたびごとに設計しなくても、フレームを描いて渡し
まり合理化が進んでいないのです。
たら、標準で決まっている接合部を使って、どこでも簡
そう考えたときに、いまハード面・ソフト面で合理化
単に普通の S 造の低層建物をつくることができるのです。
された木造住宅の供給システムを、うまく中大規模木造
それと同じ感覚で、在来工法の住宅のシステムの延長で、
の世界にも取り入れていったほうが、別に補助金などを
いま鉄骨でできている低層系の建物を木造で普通につく
もらわなくても、コスト競争力や施工、生産性などの点
れれば、設計者にとっても選択肢が広がります。それが、
で、RC 造や S 造と対等に勝負できるのではないかと思
木造が非住宅建築の世界に健全に普及していくための第
います。
一歩だと思います。
木造住宅のシステムを中大規模木造建築に応用
木造校舎の JISを改訂
今村 木造住宅のシステムをベースに中大規模木造建築
今村 全国津々浦々にある RCの小学校は、日本全国同
を設計する際に、気をつけることはありますか。
じようになってしまったと言われることもありますが、
稲山 いまはまだ、住宅用のシステムの標準断面と長さ
一方では、きわめて普遍性を持った技術であり、地方の
が、中大規模木造建築に必要なサイズまではないのが問
設計者や施工者が自分たちでつくれるようになったわけ
題です。特に長さについては 6m 材までしか中断面集成
ですね。
材がありませんので、それを教室サイズの 8mくらいま
稲山 そうです。
で持っていければ、たぶんすぐに解決できるでしょう。
今村 実際に、いま過疎化が進んで減築という話も出て
そこは、徐々に出てくるのではないかと思っています。
いますから、学年ごとにクラスが 1 つか 2 つずつくらい
加工の面も、いまは住宅用の継手・仕口の量産に特化
しかない規模の小学校であれば、標準仕様の木造ででき
した形でプレカットの機械ができていますが、最近は、
るようになるということでしょうか。
例えば、特殊加工機のドイツ製のフンデガーなどを導入
稲山 まさに、そこに持っていきたいと私は思っている
しているプレカット工場が徐々に増えてきていて、いま
のです。
まではプレカットは特殊加工には対応できなかったとこ
じつは木造校舎の構造設計標準の JIS A 3301 の改訂作
ろが、少しずつ対応できるようになってきています。そ
業を、いままさしく建築学会でやっているところです。
うすると、量産の市場流通材とプレカットをベースにし
JIS A 3301 は、戦後大量に木造小学校が必要になった時、
て、なるべく木と木が仕口加工で接合されるというシス
いわゆる型式認定のような形で 1956 年に制定されまし
テムが中規模木造建築物でも稼働してきますから、私は、
たが、その後ずっと改訂されていなかったのです。
そこをベースにするのがいいと思います。
その JIS A 3301 が、建築基準法施行令第 48 条の「学校
結局いまでも、日本では木造の主流は住宅なのです。
校舎の仕様規定が書かれている施行令」の中にちゃんと
住宅の市場が圧倒的に多くて、その住宅の市場に比べれ
位置づけられています。それにもかかわらず、いままで、
ば、中大規模木造建築で必要な木材の量は高が知れてい
昔の片廊下式のものしかできない格好でずっと放置され
ます。そうすると、住宅のスパンや扱える集成材の長さ
てきて、最近学校をつくる場合はオープンクラス形式の
や、できる加工の範囲を少し広げることで、今の競争力
ような自由度の高いものが多くなっていますが、材料も
のある住宅のオープンなシステムを中大規模木造建築に
製材しか使えなかったり、現代の材料や工法に合致しな
使うことができると思います。
いものになっていて、ある意味、生きた化石状態でその
今村 一般的なモデルとしても使いやすくなるというこ
まま眠っていました。そこで一昨年から文科省で、JIS
とですね。
A 3301 をいま使えるものに改訂することになりました。
稲山 デザイン的に特殊なものではなくて、一般的な S
東洋大学の長澤悟先生が委員長になって、現代型の学校
造の 3 階建てまでの建物がつくられるときには、ごく普
が設計できるような形に最初は計画面で整備して、それ
通の標準品の角型鋼管と H 形鋼、断面が決まったらそ
を受けて構造を昨年から 1 年間かけて建築学会の私の小
れを留める標準の接合のスプライスプレートとハイテン
委員会で整備しています。壁の耐力は、従来の壁倍率 5
ションボルト、あとは、端部のブレースや水平面のブ
倍程度ではとても足りず、壁倍率 12 倍相当以上とかの
JIA MAGAZINE 302
特集 ネクスト:建築家のこれから 1
6m以下の流通中断面集
成材を用いたシザース
トラスアーチによるス
パ ン16mの「 佐 渡 海 洋
深層水ボトリング工場」
高耐力の耐力壁が必要です。いま、スギの製材の 5 寸角
80 年代の後半から 90 年代の初めにかけて、日米協議
の柱と、90mm × 120mmの筋交いを使って実現できるよ
のあと大規模木造が解禁になって出雲ドームや小国ドー
うなものを実験をやりながら開発していて、じつはじき
ムなどがバンバン建ったときは、逆に特殊解ばかりがた
に本試験をやりますが、もうすぐできあがろうとしてい
くさんできて、標準化という話が置き去りにされてしま
ます。
い、結局、標準的なものを普通に RC 造や S 造と対抗し
その改訂ができて、高耐力壁が JISに載ると、オープ
てつくる部分の整備がなされないまま、そのブームが終
ンにみんながそれを使えるようになります。学校に限ら
わってしまった。その結果として中大規模木造の競争力
ず中大規模の木造建築に、壁倍率 12 倍相当以上の高耐
がなくていったん廃れてしまいましたが、いまはせっか
力壁が普通に使えることになれば、木造 3 階建ての在来
く公共建築物木材利用促進法で追い風になっていますか
工法の耐力壁形式の構造設計ソフトが世の中に普及して
ら、いまのうちに標準化を全国津々浦々に広めることが
いますから、そこに、壁倍率 12 倍相当の仕様のものを
できるかどうかが、この先の木造普及の要になると思っ
最初に耐力壁のテーブルの中に登録して使えば、地方の
ています。
中小の構造設計事務所も、3 階建て木造在来工法住宅と
今村 いまは木造建築にとってとても可能性のある時だ
同じ感覚で中大規模木造建築の構造計算書を入出力でき
けれども、だからこそこの時期にベースづくりを着実に
るようになるのです。
みんなでやらないといけないということなのですね。
そうすると、最初にお話しした四重苦をひとつずつク
稲山 そうだと思います。3 階建て以下の普通の中規模
リアできてきます。コストの問題は流通材とプレカット
木造建築が、全国どこの建築家も構造家も普通に扱える
を用いた在来工法の延長でクリアできますし、構造事務
土俵をつくり、これから 5 年以内くらいの間にそれがほ
所が嫌がって受けてくれないハードルも、いま木造 3 階
ぼ浸透する状況にしていかないと、また前回の二の舞に
建て住宅を設計している人であれば、受けられる仕組み
なってしまうという危機感が、私には非常にあります。
ができるわけです。なおかつ、それに必要な標準の高耐
力壁が JISに載ってオーソライズされてオープン化され
ますから、それも全部プレカットで加工して提供できる
木材利用ポイント制度が国産材の流通を後押し
形になれば、S 造の普通のラーメンやブレースなどと同
今 村 今 回 の 促 進 法 で は、 材 料 の 流 通 や 供 給におい
じように、設計から構造設計、さらには加工、施工に至
て、基本的には JAS 材を使うようにとあります。しかし、
るまでの流れもできるようになっていくでしょう。よ
JAS 材の工場自体が全国で 30 くらいしかなくて非常に限
うやく、3 月に日本規格協会に JIS A 3301 改訂案がいく
られていますから、それでは材料の精度を揃えるのが難
予定になっています。おそらく半年くらいの審査を経
しく、結局、やはり木造には手が出ないという話になっ
て、約 1 年後には世の中にオープンにされるでしょうか
てしまいませんか。
ら、その段階で、いまお話しした高耐力壁の技術的資料
稲山 昨年から林野庁が木材利用ポイント制度を始め
などを出して講習会を行い、普段木造の構造設計ソフト
て、いままでプレカットメーカーは、国産材ではなかな
を扱っている人たちに「同じようにやれますから」と伝
か JASの品質管理された材料を揃えることができなくて
えていく予定です。まずは在来工法の延長ベースで中大
敬遠していたところがありましたが、この制度が後押し
規模木造をつくるシステムを標準化すること、それが何
して、国産材を使いたいというところが増えた結果、い
よりも先行しなければならないことだと思っています。
ま JAS 材が出せる工場に受注が集中しています。いまプ
今村 それがまず第一歩なんですね。
レカットメーカーは、材料の品質を揃えるために、JAS
稲山 私は構造家ですから、建築家から依頼があると、
の製材工場から買い入れようとしています。それが呼び
特殊な木造建築を手がけますが、いまの建築界では、9
水になって、乗り遅れないようにとみんなちゃんと JAS
割方は別に建築雑誌に載るような建物ではなくて、一般
の認定工場になって、JASに基づいた含水率やヤング係
のクライアントの、普通のもので普通につくって欲しい
数のグレーディングなどをきちんとして材料を提供する
というものだと思います。そして残り1割以下だけク
ところが増えています。いままでプレカット工場では 9
ライアントのほうから、多少お金をかけてもいいから、
割以上が外材を扱っていましたが、去年から今年にかけ
ちょっとおもしろいものをという特殊な建築になるのが
て、木材利用ポイントのおかげで、国産の JASの製材や
現状でしょう。でもそれらの特殊なものも、もちろん
集成材、LVLの在庫が相当入ってくるようになりました。
ベースにまず普通のものがあっての話なのです。
April 2014
9
●木材の流通品
幅
長さ
ヤング係数
105、120mm 240mmまで
4mまで
スギ E70
ヒノキ、カラマツ E90
中断面集成材 105、120mm 450mmまで
6mまで
スギ E65
ヒノキ、カラマツ E95
住宅用製材
せい
まずは標準仕様を押さえた設計を
い方向や可能性を出していくためのベースづくりという
ことなのでしょうか。
今村 これから中大規模木造建築の設計にトライする建
稲山 そうです。この仕様規定に則って設計すれば、あ
築家に、望むことや、これは知っておいてほしいという
る意味楽なのです。普通に設計を生業としている事務所
ことはありますか。
ではとてもじゃないですが、いちいち個別に接合部の設
稲山 まず、建築家が木材の流通品はどういう寸法のも
計をするような手間をかけていられないでしょう。まず
のなのか、プレカットでできるのはどういうものなのか、
標準仕様があって、その中で一部、ちょっと特殊なこと
それらの情報を知らないといけないのですが、現状はな
をやりたい人には、そのときだけ個別に対応していけば
かなか情報がうまく入っていないのではないでしょうか。
いいのです。
ご く 簡 単 な 話 で、 幅 が 105mm か 120mm、 せ い は
普通の中規模くらいの木造であれば、数年後、全国
240mm、長さは 4mまで。それが国産の製材品としての
津々浦々の建築家、構造家がマニュアルに従って扱える
流通品であり、どこででも手に入るものです。
ようになってくれて、そうしたら、少し特殊なデザイン
強度等級や乾燥の等級は、スギだとヤング係数の E 70
のものをやる人があちこちで出てくるでしょう。でも、
をベースに考えてもらう。あまり高いものを要求しても、
それはやはりベースとして、まず標準仕様は当然押さえ
なかなか手に入りません。ヒノキやカラマツは E 90 が
た上でやっている。RC 造や S 造では特殊なことをやる
標準です。含水率に関しては 20 %以下。最初に仕様書
人も、ベースは、まず標準的なことはみんな押さえた上
として指定する範囲でいえば、これらのもので設計して
でやっているわけですから。木造も同様に、いちばん健
いただきたいです。
全に、裾野として一般の木造住宅があって、そのうえに
そして、4mを超える場合には、6m 程度までは中断
普通の中規模木造をやる土壌ができて、さらにそのうえ
面集成材を考えてほしいですね。中断面集成材になる
に、何か工夫したい人がちょっと変わったものをやると
と、幅が 105mmか 120mmというのは同じですが、せい
いうようになってくれればいいなと思っています。
は 450mmまで流通品として安いコストで生産できます
し、長さも 6mまでは大丈夫です。ヤング係数はスギを
使った場合には E 65、ヒノキやカラマツだと E 95 とい
10
木造建築の設計ノウハウの情報提供が重要
う集成材がありますので、そのあたりを使ってもらえれ
今村 日本の設計者は非住宅の中大規模建築は RC 造と
ば、国産のスギ、ヒノキ、カラマツをベースにした流通
S 造しか手がけたことがない人が大部分でしょうが、木
品が全国どこででも入手できます。
造住宅であれば、書籍や資料を見て、ある程度勉強すれ
また、いま言った長さ 6mまでで、せいが 450mmまで
ばだいたい分かると思います。ただ、中規模木造建築物
の中断面集成材の寸法規格であれば、日本中に普及して
については、部材のメンバーや、設計のリスクなどの情
いるプレカットの機械に入ります。ところが大断面集成
報があまりありません。やはり情報提供が、これから重
材になるとプレカットの機械に入りません。プレカット
要になってくるのではないでしょうか。
機械に入るかどうかが大きなポイントですね。
また、木造建築を構造家とコラボレーションするとき
ただ、プレカット機械には決まった継手・仕口しか登
に、どこまで頼っていいのかわからないのです。構造家
録されていないので、できる加工は限られています。つ
には構造の話だけするべきなのに、木造の場合にはつ
まり住宅用のプレカット機械では在来工法の標準的な、
い、材料のことまで相談してしまうと、構造家にとって
いわゆるほぞ、蟻掛け、鎌継ぎなどしかできないので、
は「それは建築家の仕事だろう」となってしまいますよ
もう少し特殊な加工が必要なときには、フンデガーを
ね。まずは建築家が木の物性や構造を理解してから、構
持っているプレカットメーカーを探して頼めばいいです
造家に中規模木造建築の設計依頼をする。
ね。ですから普通の直角の柱、梁の接合部であれば、な
もっと建築家が責任をもって勉強すべきだとか、そこ
るべく、ほぞと蟻掛けと鎌継ぎの範囲内で考えてもらっ
ら辺は何かお考えはありますか。
たほうがいいと思います。
稲山 地方の構造家が「木造はちょっと」と引いてしま
今村 いろいろな法規的な整備がなされると、建築家は
うのは、木造になると途端に構造以外のことまで手当て
設計上制約を受けて自由度がなくなるのではないかと警
しなければならないことがたくさん出てくることもあり
戒します。つまり設計する余地がなくなってしまうのを
ますね。私が建築家から構造を受けると、構造以外の材
恐れることに対して、今回の JISの改訂は、そうではな
料の話やコスト、耐久性についても全部相談を受けて、
JIA MAGAZINE 302
特集 ネクスト:建築家のこれから 1
ヒノキ流通製材を交互
に重ねビス接合した門
型ラーメンによる弥生
講堂アネックス講義室
総合コンサルタントみたいになっています。
稲山 まずは、低層の建築で、S 造・RC 造・木造が 3 つ
今村 それだと構造家に負担がすごくかかりますので、
横並びで選択肢の中にある健全な状況を構築したいと
とても普及しませんね。
思っています。じつは中層の建築物については、私はそ
私も、腐りやシロアリの問題とか、材料の品質管理や
の次の段階かなと思っていますが、いまは耐火木造だと
耐久性の問題なども、つい構造家に聞いてしまうのです。 か、燃え止まり集成材を使うとかで、結構そちらがもの
稲山 そこが木造がまだ遅れているところで、RC 造の
すごく脚光を浴びています。でも、いまはまだ普及する
ように構造家は構造のことだけを考えて、材料はプラン
には値段も高いし、制約も多くあります。
トに任せれば調合表が出てくるようなことが木造でも普
今村 特殊解のようなものなのですね。
通になるのが本来の姿だと思います。集成材は工業製
稲山 そうですね。まだまだ特殊解で、特殊解の建築が
品なので、集成材メーカーが、JASに基づいたラベルを
時々できて、それが話題はさらうのですが、まずは低層
貼って、そのラベルに書かれた品質がきちんと担保され
の中大規模木造建築が一般的になることのほうが先だと
ます。しかし、製材はそれがまだできていないものが多
思うのです。
い。
あと、ヨーロッパでは、いま普通に使われていますが、
木造が厄介なのは耐久性の問題ですよね。鉄骨でも防
日 本 で は よ う や く JAS 化 さ れ た CLT(= Cross Laminated
処理などは設計者用のマニュアルがあって、どういう
Timber 直交集成板)などの新しい材料が使われ始めてき
処理をしなけれ
て、RC 造でいう PC 版と同じように、壁やスラブなど
ばならないと特記仕様書に書くことになっています。木
に使われていくようになることが、新しい木造の展開の
造も、例えば耐久性の専門家がマニュアルを整備して、
次のステップかと思っています。中層建築でも木造が選
場合にはどれくらいのレベル以上の防
屋外に露出して使う場合には防腐・防蟻薬剤注入処理で
択肢のひとつになる時代は、10 年後くらいに来るかもし
なければダメだとか、性能がきちんと担保できるような
れません。
マニュアルに沿って設計者が特記仕様書のチェック欄に
今村 木を使った持続可能な建築のモデルは、特に日本
チェックを入れながら設計図書がつくれるようになれば、
は雨量が多くて森林が育ちやすいという点からも、世界
構造設計者に聞かなくてもすみますね。
のほかの国以上に、木を使うことに妥当性がありますね。
構造以外の性能を担保する部分に、ちゃんと建築家自
稲山 日本の国土の 5 分の 4 は山林ですから、それを活
身が使いやすいようなマニュアルがあって、それが整備
用するのは重要なことだと思います。皆さんご存じのよ
されていくのがしかるべき姿だと思っています。
うに、豊かな森からの水で、周りの農業が成り立ち、い
今村 やはり設計のノウハウの情報供給が必要だと思い
い水産資源を得ることもでき、環境の大本になっていま
ます。建築家が使いたい情報の整理は、やはり建築家主
すから。そういう意味でいうと、森林資源がきちんと整
導でやらないといけないと痛感します。
備・維持されていくことが、環境の面で重要な意味を持
ちますし、それは日本だけではなく世界的にも山林が多
まさしく日本に合っている木造建築
い国であれば、基幹産業として林業と、それを使った建
築物がベースになっていくとは思います。
今村 公共建築物木材利用促進法ができたという具体的
今村 今日のお話は、建築家にとってたいへん参考にな
なモーメントもありましたが、いまの社会のニーズを考
るものだと思います。貴重なお話をうかがうことができ
えると、間違いなくこれからさらに木材が使われていく
ました。ありがとうございました。
状況になると思います。
稲山 木材自体が再生可能な材料ですから、ちゃんと
使って、また植林することを繰り返していけば、永久に
(2 月 24 日 東京大学大学院農学生命科学研究科木質材料学
研究室にて収録)
枯渇せずになおかつ二酸化炭素を固定する材料という意
味で、環境の面からいっても木造建築がもっとつくられ
ていくのではないでしょうか。
今村 住宅は木造がメインですが、それ以外の規模のも
のも、S 造・RC 造・木造が普通の選択肢としてあって、
そのときどきで、今回の建築にはこれが適していると選
んでいければいいですね。
April 2014
11
JIA 環境セミナー
木材推進シリーズセミナー Vol.2
木構造の展開と環境建築デザイン
主催:JIA 環境行動ラボ・国際交流委員会
2014 年 2 月 21 日 新木場タワー
2 月 21 日、JIA 環境行動ラボ・国際交流委員会主催の木材推進シリーズセミナー vol.2
「木構造の展開と環境建築デザイン」が開催されました。前半約 1 時間半にわたり、東京
大学大学院の稲山正弘教授が基調講演「流通材を用いた中大規模木造建築の構造デザイ
ン」をされ、後半は、稲山氏とコラボレーションをした建築家の方々とのパネルディス
カッションが行われました。
セミナーの「木材」
「木造」というテーマにふさわしい新木場タワーの会場は、
1 階大ホー
ルが定員の 250 名いっぱいになり、参加者の関心の高さがうかがえました。
以下に、基調講演とパネルディスカッションの概要を紹介します。
1
基調講演
「流通材を用いた中大規模木造建築の構造デザイン」
—木組みによる接合を活用した大規模木造の可能性—
講演者:稲山正弘(東京大学大学院農学生命科学研究科木質材料学研究室教授)
通し貫接合を使ったフレームの実感
かんごう
伝統工法では木と木が嵌合し、めり込み
ながら抵抗する。この嵌合する接合部が
日本の継手・仕口の剛性や耐力を発揮す
る大きなもとになっている。
めり込みの剛性・耐力を理論化す
る式をつくり、建築学会の木質構造
設計規準に載せていますので、誰で
も使えます。従来の中大規模木造は、
部材は木、接合部は鉄でできている
ものが多かったのですが、木造であ
るなら都市住宅も大規模木造も木材
が組まれたものを使いたいという意
識がありました。このめり込み式を
活用することでそれが可能になりま
す。吉野ヶ里遺跡復元(田中文男棟梁
が復元設計)では、弥生時代の継手・
仕口のモーメント抵抗を、めり込み
式を使って設計できました。
中規模木造建築の実例
稲山氏の本来の目的は、めり込み式を伝
統的な建物だけではなく、現在の集成材
などを使った中大規模木造に使っていく
ことだった。以下、稲山氏が手掛けた中
規模木造建築のさまざまな実例を挙げる。
林野庁林業機械化センター
設計:アルセッド建築研究所、1995 ∼ 1999
年、群馬県利根郡
めり込み式を現代の木造建築に使った初め
ての作品。合わせ柱の間に梁を貫のように
通し、柱と相欠きにした貫のめり込みに
よってモーメント抵抗する。木貫+木栓方
式で金物を使わない集成材ラーメン構造。
実験では鋼板を挿入したラーメン構造と遜
色のない性能が得られた。
12
1998 年に「木造耐力壁ジャパンカッ
プ」の第 1 回大会が開かれ、そこで私
が出した「地獄の面格子」という耐力
壁が優勝しました。面格子はタテヨ
コの格子を相欠きにして、めり込み
作用を生かし、めり込みの接点がた
くさんあることで水平力に抵抗する
構造です。非常に粘り強く、変形は
しても壊れにくいものです。そのビ
デオを北川原温さんにお見せしたら
非常に感激され、この建物で採用す
ることになりました。
飛鳥学院保育所
設計:アルセッド建築研究所、1997 年、奈
良県桜井市
貫+木栓方式を使用したラーメン構造。ス
パン 12mの遊戯室は鉛直荷重を支えるため
に、支点桁をはさむ。支点桁方式を最初に
採用した事例。
いわむらかずお絵本の丘美術館
流通材の製材長さは 4m 以下、集成
材長さは 6m 以下です。6mを超えるス
パンを設計する際は、支点桁を使っ
て屋根を支えることができます。大
きな金物も使わないので、見た目も
きれいです。木組みの技術を使って
スパンを飛ばす方法として支点桁方
式が挙げられます。
岐阜県立森林文化アカデミー
設計:北川原温建築都市研究所、2001 年、
岐阜県美濃市
めり込みを徹底活用してつくった木造大規
模施設。住宅の柱材に使う岐阜県産の長良
杉 105mm 角の柱を相欠き接合してつくっ
た格子を、耐力壁として活用。シングル面
格子とダブル面格子があり、吹抜けや階高
の高い空間にはダブル面格子を適用。
設計:野沢正光建築工房、1998 年、栃木県
馬頭町
柱、横架材、方杖などは、栃木県産のスギ
製材で地元の大工臼井氏に加工を依頼。桁
行方向は重複梁式ラーメン構造、梁間方向
は方杖トラス構造。水平力は内部に数箇所
設置した RCの収蔵庫部に負担させ、鉛直
荷重は方杖先端のアゴが嵌合し、その上の
2 材をボルトで締めることで片持ちトラス
として力を伝達。
軒の出が非常に深い建物で、いま
でもほとんど傷みがありません。同
じ頃につくられたものでも、あまり
軒の出がない建物は傷んできている
ものもあります。外部に木を見せて
使う場合は、相当軒の出を深く取っ
て雨から保護することを徹底するの
が重要です。
JIA MAGAZINE 302
特集 ネクスト:建築家のこれから 1
(現 長池公園自然館)
長池ネイチャーセンター
設計:野沢正光建築工房、2001 年、東京都
八王子市
集成材を使用。柱のまわりに斜めの方杖材
が 4 方向から来て、それらを全部卍形に芯
をずらしながら組んだ卍固め接合。接点を
ずらして渡り顎掛けで接合する仕組みを徹
底活用した。
YoYa 邸
設計:彦根建築設計事務所、2008 年、東京
都小平市
かまぼこ形の丸い家。住宅用集成材を使用。
105mm × 240mmを二つ割りにした 50mm
× 240mmの集成材の板を斜め嵌合接合で噛
み合わせてシザーストラスをつくる。すべ
て流通材とプレカットだけで構成し、コス
トも抑え工期短縮も図れた。
(写真次頁)
近畿大学 E-Cube
北沢建築 本社工場棟
設計:三澤文子+ MOK-msd、2010 年、長
野県上伊那郡
すべて長野県産のスギの製材をクライアン
トが加工し施工も実施。幹から第 1 の枝が
出て第 2、第 3、第 4 の枝と徐々に枝を伸ば
していく樹状方杖構造。その架構が6mピッ
チにあって、間を垂木材程度の断面の材を
下弦材の位置から方杖状に出して細かい
ピッチの屋根面の母屋を支えている。
設計:岡本清文+類設計室、2006 年、大阪
府東大阪市
一辺が 18m、高さが 9mほどの BOX 状の建
物。150mm × 600mmの大断面集成材を使
用しエントランスの面は集成材の側方向を、
残りの 3 面は面方向を見せている。相欠き
接合をしてビスで留める。
竣工 3 か月前に不審火にあい、発見
が遅れ消火活動が行われるまで約 4 時
間燃え続けましたが、構造体はその
まま残っていました。ここでは燃え
代設計をしていませんが、木組みで
木の断面が十分にある建物であれば、
構造体は燃え落ちないことが実証さ
れた出来事でした。
諫早市森山保健センター
設計:中村勉総合計画事務所、2004 年、長
崎県諫早市
105mm 角 の 長 崎 県 産 材 ス ギ を 2 ~ 4 本、
35mm 隙 間 を 開 け て 並 べ、 継 手 も 仕 口 も
17.5mmずつ相欠きしてボルト締めした接
合からなるトラスで 12m スパンの屋根を架
ける。
極力、木̶木で応力の伝達が行われ
るようにして、あとはボルトで締め
るだけ、というような仕口を徹底す
ると、特殊な接合金物は要りません。
木と木の面圧で力を伝達する。それ
が日本の伝統を生かした中大規模木
造のこれからの方向性だと思います。
ウトコリミテッド室戸工場
設計:團紀彦建築設計事務所、2003 年、高
知県室戸市
材と材を斜めに嵌合させるときに、できる
だけ軸方向力をうまく伝達させるために、
いすか継ぎの技術から考案した仕口—斜め
嵌合接合の技術を開発。フンデガーのプレ
カット機械で加工可能。
April 2014
岡山県立大学同窓会館
材料のボリュームはありましたが、
特殊な金物を使用しないため、生産
効率が高く比較的リーズナブルでし
た。コストをかける場合は、金物よ
りも材料に使った方がいいと思いま
す。ここでは接合部はビスやボルト
で留めています。
設計:岩本弘光+岡山県立大学岩本研究室
(協力:アーキシン)、2013 年、岡山県総社市
120mm 角の直線材の備中ヒノキの製材と構
造用合板だけでつくられ、表面をコルテン
鋼で仕上げている鼓形のシェル構造。
(写真次頁)
別棟通達を利用した建築
木造で 3,000㎡を超えると、幅 3m 以上
の耐火構造をはさんで別棟と見なせる
「別棟通達」(昭和 26 年の住防発第 14
号)を利用して建てることができる。
東京大学弥生講堂アネックス多目的ホール
設計:河野泰治アトリエ、2008 年、東京都
文京区
幅・高さとも 7mの直方体の多目的ホール。
梁間方向、桁行方向の水平力も鉛直荷重も
同時に解決する方法として直線材でできた
HP シェルを採用。直線グリッドに沿って構
造用合板によるウェブを格子状につくる。I
ビーム状にヒノキの角材で補強し、その上
下に 9mmのカラマツの構造用合板をねじり
ながらフランジとして張った湾曲ストレス
トスキンパネル構造。
オガールプラザ
設計:近代建築研究所、2012 年、岩手県紫
波町
準耐火の 2 階建の木造棟の間に RCの耐火構
造棟を 2 箇所挟んだ 6,000㎡の大規模木造建
築。1 階部分は柱のグリッドを XY 方向全部
6m 以下にして大梁小梁ともカラマツの住
宅用中断面集成材を使用。準耐火構造は燃
え代設計があるため、二丁合わせにして燃
え代設計をクリア。端部は住宅用の梁受け
金物を使用。低コストで加工も分業できる
ので工期短縮が図れる。2 階部分は 27m ス
パンのマンサード型方杖付き小屋組みで実
現した大空間。
JA 西印旛農産物直売所
設計:杉本洋文+計画・環境建築、2010 年、
千葉県印西市
レッドウッド中断面集成材をつないだ弓形
の木造張弦梁でスパン 15mを飛ばしている。
直線材の真ん中を欠き取って、追っ掛け継
ぎと同じ原理で中央材と側材を、互いに継
がれる位置を半分ずつずらしながら引っか
けてビスで留めていく構造。
新しい技術を作り出す際は、実験
して試すことが重要です。私がいろ
いろな技術開発を試す場として活用
しているのが、
「木造耐力壁ジャパン
カップ」です。そして試した技術をブ
ラッシュアップして実用化すること
を心掛けています。
13
2 パネルディスカッション
出席者 稲山正弘(東京大学大学院農学生命科学研究科木質材料学研究室教授)
岩村和夫(JIA 国際交流委員会委員長/東京都市大学教授/岩村アトリエ)
岩本弘光(岡山県立大学デザイン学部教授/岩本弘光建築研究所)
野沢正光(JIA 環境行動ラボ委員長/野沢正光建築工房)
彦根アンドレア(JIA 環境行動ラボ委員/彦根建築設計事務所)
ファシリテーター(進行)
白江龍三(JIA 環境行動ラボ委員/白江建築研究所)
プレゼンテーション
●実作で協働した建築家からのメッセージ
彦根 相談した知人から稲山さんを紹介
してもらい、シザーストラスで組み上げ
ることを提案していただきました。大変
まず、稲山氏と実作で協働した岩本氏、
だったのが工務店探しで、多くの工務店
彦根氏、野沢氏のプレゼンテーションが
をあたり、最終的に東海建設に決定。プ
行われた。
最初に岩本弘光氏が、前半の講演でも紹
介された「岡山県立大学同窓会館」につ
いて話した。この建築は50人収容のホー
ル。外側は 3.2mmのコルテン鋼をオー
レカット工場でモックアップをみたとき
は、みんなが初めて、できるかも!と確
信した瞬間でした。稲山先生のアイディ
ア、クライアント、工務店の人たちなど、
●稲山建築の背景にある思想を探る
岩村和夫氏は、木構造とは何なのか、生
物学と建築との接点を追いかけてきた。
その経緯をバックミンスター・フラーの
思想や、岩村氏自ら翻訳を手掛けたフラ
イ・オットーの『自然な構造体』を紹介
し、21 世紀の建築都市は自然と切り離す
ことができない、その面でも木造がふさ
わしいと語った。
いろいろな人の力でできあがりました。
岩村 フライ・オットーの提案を仮に正
内部は木の板が編み込まれたような空間
しい提案だとすると、稲山さんはその知
の直線材を捻ってシザーストラスにして
になり、柱もなく木の美しさがそのまま
見をまったく違う切り口から積み重ねて
組み、鼓型の形を作り上げた。内部は、
伝わります。構造建築の美しさを改めて
いるように感じます。構造の仕組みや合
直線材を使った 3 次元曲面で構成。5000
感じました。
理性、論理性を突き詰めて、それを誰に
プンビス留めしているため一見鉄骨造に
見えるが、純粋な木造建築。備中ヒノキ
万円のローコスト建築である。
でも使える仕組みに変えている。だか
岩本 橋をイメージして、2 つの橋脚の
ら多くの建築家が彼の構造体に興味を持
上に載せたような建物を木造でつくりた
ちコラボレーションをしたいと思うので
かったのです。私は設計を構築していく
しょう。私は構造体だけを取り上げるの
原理をそのまま視覚化することが大事だ
ではなく、その背景を取り上げ目を向け
と思っていて、それを実現するためにも
た上で稲山さんの構造を論じたいと思い
モノコックで、内部は木造の HP シェル
ました。
でできた空間にしたかった。稲山さんと
稲山 フライ・オットーと比べられると
は前に木造のモノコックをつくろうとし
最後に野沢正光氏が、稲山氏と協働した
気が引けますが…。私はとにかく木が好
たが実現に至らなかったので、ここでリ
複数の建物を紹介した。地元の材を使っ
きなんです。木の力や特性を引き出して
ベンジできました。
たもの、機械ではなく地元の大工に加工
構造をつくっていきたい。だからその間
してもらったもの、集成材を使ったもの、
さまざまな作品を一緒につくり出してい
る。
(p.12、13)
に鉄を介在させるよりも、繊維方向に力
を伝えるときの合理性と、大地震などに
対しては繊維直交方向のめり込みの粘り
野沢 稲山さんとはずいぶん長いこと、
強さなど、木の持っているポテンシャル
一緒に建築を楽しんでいます。伝統的な
を引き出すことを常に考えています。
大工が稲山さんとだと興奮して付き合っ
てくれることに、日本の木造の将来を感
じています。
稲山 私は無理難題を言われた方が燃え
●底なしのフレキシビリティ
るところがあります。湾曲集成材や鋼板
白江 稲山さんと建築家との間で現場で
ジョイントを使わないで何とかやってや
の葛藤はありませんか。
した。木造 2 階建てのこの家は、23 坪の
ろうとつい頑張ってしまいます。それを
野沢 稲山さんは誰と協働するかで出し
敷地で、丸くて、内部に柱のないできる
悩みながらつくっていくプロセスは、楽
てくる技が違いますし、いつも木造の技
しいものです。野沢さんとは 10 年以上
術は未開拓だから面白いとおっしゃって
のお付き合いで、岩本さんとも彦根さん
います。私は大工が面白いと言ってくれ
とも苦労はしましたが、とても楽しく協
るものに可能性があって、稲山さんと私
働させていただきました。
と大工、三者が面白がれるものをつくり
次に彦根アンドレア氏が、やはり前半の
講演で紹介された「YoYa 邸」について話
だけ大きな空間をつくりたいという施主
の要望を受け、当初は湾曲集成材でつく
ろうとしたが、コストと工期の面でも難
航していた。
14
ディスカッション
JIA MAGAZINE 302
特集 ネクスト:建築家のこれから 1
稲山正弘
岩村和夫
岩本弘光
野沢正光
彦根アンドレア
白江龍三
たいと思っています。
●なぜ「めり込み理論」だったのか
し、みんなでやっていきたいと思います。
彦根 稲山さんや頑張っている構造家の
岩村 稲山さんがいまやられていること
岩本 木造が全国的に注目されて面白い
方たちは、世界中の建築家に木造建築の
の原点に、ドクター論文の「木材のめり
ものが設計できるスタートラインに立っ
新しい提案や方法を示しています。私は
込み理論」があると思います。
「めり込
ていると思いますが、施工側の問題がま
これまでずっと木を外部に見せるように
み」を理論的に構築して、光を当てたの
だ残っているように感じます。施工者の
していました。でも、稲山さんは何が何
は稲山さんではないでしょうか。その動
意識が在来工法で止まっていて、チャレ
でも構造を見せることを主張しません。
機を教えていただけますか。
ンジングな木造を見ると、足がすくんで
木を見せない方がいい場合もあるとアド
稲山 私はもともと大学卒業後、ミサワ
しまうのです。
バイスをくれて、そのことでかえって好
ホームで木質パネルなどの工法開発を
岡山大学同窓会会館では入札がうまく
きな空間が実現できると思っています。
していました。入社 3 年目のときに休暇
機能しませんでした。木造を扱い慣れて
岩本 いま木造の時代が突然やってきた
でガウディを見に行き、バットレスをな
いるようなところでも、新しいものに取
ように思われていますが、第二次世界大
くしてゴシック建築の力の流れを石で構
り組もうとせず、工事着工が難しい状況
戦後、
「木造の暗黒の 30 年」という木造
築し、石という素材を構造体にしてあら
があります。
が虐げられていた末期に稲山さんは育っ
わしにしているところ、またガウディの
だから、建築家が懇切丁寧に説明をし
て、そこを顧みずにずっと黙々とやって
魅力に惹かれて世界中から集まって石を
続けていくことが大事で、努力が必要だ
こられて、それがいま時代と合ってきた。
彫っている人びとの姿を目の当たりにし
と痛感しています。
サステナビリティ、エコロジー、環境と
て、とても感動しました。
いうような口当たりのいい切り口から木
帰って来て、構造体を化粧で隠すやり
●木に対するこだわり
造をスタートしたのではなく、そうじゃ
方に疑問を感じ、日本でガウディのよ
白江 稲山さんが手掛けた作品を見てい
ない時代から意図的ではなくやってきた
うな建築をやるためには何だろう。木だ、
ると木材の LVLや合板など、いろいろな
ところが、色んな建築家が稲山さんと仕
日本の木を使って木質材料をそのまま構
種類の木質材料を使っています。木材を
事をしている理由ではないでしょうか。
造としてあらわしにしてつくる建築に携
使用する場合、建築家によっては木材原
稲山さんは木造の仕組みや作り方の秩
わりたいと思って、大学院に行きました。
理主義のような作品もかなり見られます
序をフリースタイルにするのではなく、
そこでは「めり込み」を解かないと、
が、稲山先生の場合はちがいますね。
材料の特性を生かしながらものをつくっ
自分のやりたい木造ラーメンの計算がで
稲山 どうしても木材でやりたい、合板
ていくことをはずさない。構造と設計の
きなかったのです。それでめり込みの研
や集成材を使いたくないという建築家の
接点を非常に高いところで取れるような
究論文を書くことになりました。その後
方とはそのようにしますが、とくにそう
感じがします。
教授に「構造をやっていきたくても木造
ではないのなら、適材適所で木材と木質
白江 構造家 vs 建築家という図式で捉
では食えないぞ」と言われましたが、食
材料の可能性を引き出します。
えてしまった私は、オールドパラダイム
えないのを覚悟でずっと木にこだわって
私があくまでもこだわっているのは、
の中にいることを感じてしまいました。
こつこつとやってきました。
木と木、木と木質材料そのものが力を伝
達し合うこと。木と木を釘やビス、ボル
お話を聞いていると、稲山さんには状況
への底無しのフレキシビリティがあるよ
●木造への希望と問題点
トで留めるところまでは許せるのですが
うな気がします。
野沢 木造でモダニズム建築が作れたの
……、そこが私のこだわりです。それを
稲山 もちろん構造を見せる場合もあり
は日本だけというような話を藤森照信
除けば、木材、製材、木質材料をできる
ますが、木が裏方に回って見せない構造
さんから聞きました。日本の大工の技術、
だけフレキシブルに使います。
にする場合もあります。木材には面を構
複雑な構成、材料と技術がより高度にな
講演では特殊解のような作品をご紹介
成する材と軸材があり、それらを組み合
りながら洗練され継続して、多くの建築
しましたが、私は低層の建物をどんどん
わせることに、木造の他の構造にはない
家が設計した木造モダニズム住宅をつく
木造・木質化していきたいのです。その
面白さがあります。
り続けることができました。
ためには鉄骨造の低層でできている建物
岩本さんの岡山県立大学同窓会会館も
「木造の暗黒の 30 年」という時代もあ
を同じように木造でつくれるようにした
軸の面白さもありますが、最後に表面に
りましたが、技術的な開発が楽しみな領
い。それを実現するために、いま木造校
張った構造用合板の面があってはじめて
域を持っていると稲山さんが言うように、
舎の構造設計標準 JIS A 3301 の改訂作業
モノコック構造として成立します。その
木造の解析技術やアイディアを展開する
に携わっています。全国の建築家が誰で
面を合板そのままで見せるか、仕上げる
ことができるようになりました。そして
も中大規模木造建築を設計できる第一歩
か、木質材料をあくまでも裏方に隠して
現在、プレカットもフンデガーもあるし、
になってほしいです。
できあがった空間を支える材料として存
高い技術を持った大工もいます。日本で
白江 今日は大変充実したディスカッ
在させるか、いろいろなやり方があると
も稲山さんをはじめ、木構造を面白くや
ションができました。稲山さん、パネリ
思います。
る人は出始めています。それはとても楽
ストの皆さま、ありがとうございました。
しみだし、時代の要請にも合っています
April 2014
15
JIAの活動紹介
第 17 回 JIA リフレッシュセミナー 2013
テーマ:
「地方を建築で活性化する」
講 師:新居千秋氏(建築家、新居千秋都市建築設計、東京都市大学教授)
曽我部昌史氏(建築家、みかんぐみ、神奈川大学教授)
開催日:2014 年 3 月 2 日㈰~ 4 日㈫
会 場:東京都設計事務所健康保険組合 熱海リフレッシュセンター
新居千秋氏
曽我部昌史氏
JIA 教育表彰委員会が主催する JIA リフレッシュセミ
ナーは、建築界の将来を担う全国の JIAの会員が一堂に会
し、建築界の重要課題や諸問題について学習と討議を行い、
理解を深めることを目的に、年 1 回 2 泊 3 日で開催してい
ます。他の地域の会員同士が親睦を深める貴重な機会でも
あります。
アートプロジェクト
日本大学大学院佐藤
光彦研究室のみなさ
まと
今年度のテーマは「地方を建築で活性化する」
。すぐれ
た公共建築は地域を元気づけ活気づける力をもっているの
ではないか、公共建築の可能性を再確認し、地方のあり方
を考えるきっかけになるよう企画されました。
ンプロジェクト」、100 円
からの寄付のマッチング
今回の参加者は 17 名。参加者の中から眞田井良子さん
「ドネーションプロジェ
(愛媛地域会)に、自身の活動と関連づけて、セミナーに
クト」、地域で輝いてい
ついて語っていただきました。
る 方 を 取 材・ 編 集・ 出
版・広報する「スマイル
プロジェクト」、地域に
市民参加型イベント クリスマスオ
レンジフェスティバル
参加して良かった
あるものを活かした芸術家滞在型の「アートプロジェク
終了直後の率直な感想です。今までに参加された四国の
ト」
、オンリーワンの名所つくり「オーナープロジェクト」
先輩方からうかがっていた感想の通りでした。講師の先生
等、さまざまな独自事業を展開しています。一昨年からは、
方のお話は、今まで自分たちのやってきたことやこれから
さらなるまちおこしの加速を目指し、自分たちの独自事業
取り組みたいことと重なっている部分が多く、今後の展開
のみならず他の方々のプロジェクトをおこし、育てていく
への可能性を感じました。
お手伝い(中間支援)も始めました。その活動が認知・評
愛媛県八幡浜市
ス「八幡浜みなっと」内の地域交流施設「みなと交流館」の
こ の 人 口 約 38,000 人
中間支援やイベント等の業務の指定管理を受け、活動の場
のまちが私の活動の場で
を広げています。
価を受け、昨年 4 月に新しくできた道の駅・みなとオアシ
す。四国における九州へ
の玄関口でもあり、漁業
強みを掛け合わせる
や水産加工業が盛んで、
現在、まちを元気にするプロジェクトをおこし、住民参
柑橘王国愛媛県の中でも
特に品質の高い柑橘の生
八幡浜市立日土小学校
産を行っている地域です。昨年度、みなとに関する数年来
加の活性化を図るにあたり、ワークショップ「強みを発見
する講座」を何度も開催して、いろいろな方の「強み」と
「資源」を掛け合わせてできることを考えていきます。講
あるいは当該年の優れた実績や活動により、港湾・臨海部
師の先生方のお話をうかがっていても、
「強み」と「資源」
の活性化に寄与し、他の港に対する勇気を与えて「みなと
の掛け合わせが非常に絶妙だなと感じました。まちおこし
の元気」を高めた港湾として「ポート・オブ・ザ・イヤー
においては、
「地域課題の解決」という課題を浮き彫りにし
2013」を受賞しました。建築においては、松村正恒氏が設
て、負から物事を組み立てていく方法と、
「強み」をかけ合
計し、和田耕一氏・武智和臣氏らが耐震改修・増築を行っ
わせていくことにより進化(深化)・強化していく方法が
た「八幡浜市立日土小学校」が平成 24 年 12 月 28 日に国重
あり、両方試してみて、前者のみより、前者+後者、ある
要文化財に指定されたことが記憶に新しいものです。
いは後者のみの方がより参加者の意欲の継続に繋がると感
じております。ただし、個々の「強み」、団体の「強み」を
住民参加と地域資源活用
どう引き出すかが課題です。
「強み」は特別なことではなく、
私の所属している、まちおこしボランティア団体「YGP
些細なことでも拾い上げることで可能性が広がっていきま
(八幡浜元気プロジェクト)
」では、20 ∼ 30 代の若者を中心
す。自分たちの団体内で行っても、メンバーの「強み」っ
として、
「人の元気をまちの元気につなげる!」と「あるも
て知らなかったことが沢山ありましたので、身近な方と行
のを活かしてないものへ育てる!」の 2 つのスローガンを
うということから始めても面白いと思います。
主軸に、住民間の横の繋がりを重視した掃除活動「クリー
16
JIA MAGAZINE 302
JIAの活動紹介
●セミナースケジュール:
1 日目 開催挨拶
セミナー1(講師:新居千秋氏)
+ディスカッション
夕食・懇談
2 日目 セミナー 2(講師:曽我部昌史氏)
+ディスカッション
グループ別ディスカッション
+プレゼンテーションの準備
3 日目 ネットワーキング・セッション 2
(各グループのプレゼンテーション)
セミナー
ディスカッション
JIAの強み
を創出していくことにより、建築文化の底上げに繋がるの
リフレッシュセミナーでは、講師の先生方のお話をうか
ではないかと思います。すでに実践されている地域も多い
がった後、
「強み」を発見するという視点で物事を考え、ど
と思いますので、それらの情報を共有できるようにし、よ
んなことができるか考えながら、グループディスカッショ
り良いあり方を模索していきたいです。
ンに臨みました。ディスカッションの中で、JIAという団
体だからこそできるのではないだろうかと思うことがあり
資金調達方法を紹介
ましたのでご紹介します。
さて、愛媛県八幡浜市には、先に申し上げた松村正恒氏
の設計された建築が日土小学校以外にも残っており、そ
地域のことは地域で
のうちの小学校 2 校は、統廃合により廃校になることが決
公共建築におけるプロポーザルのためや景観計画策定の
まっている状況です。地域の方々が主になって、その後の
ためなどに、行政の方はいわゆる「コンサル」という職能
活用をどうするか話し合う場をつくっていくお手伝いも、
の方に業務を依頼し、全国各地どこでもそんなに変わらな
対価を頂かなくても重要な責務であると感じています。
い内容のものができてしまっていて、非常に残念に思っ
全国各地にきっとそういった事例は存在し、全国各地の
ています。JIAは公益社団法人なので、JIAとしてその仕事
JIA 会員の皆様がそれぞれの立場で活動されていることと
を請けることは難しいようですが、地域の JIA 会員等がグ
思います。その際に一番問題になることは「資金」ではな
ループを作って、社団法人あるいは NPO 法人等といった
いでしょうか?新居先生は上手に助成金等を活用されてい
形では請け負うことが可能なのだそうです。また、門戸を
て、実際の市町の予算は少なくすんでいるそうです。
広げるなど、プロポーザルのありかたや運営の仕方などは、
私が関わっている道の駅の中間支援業務の中には、地域
早い段階から行政に JIA 本部をご紹介し、相談いただけれ
で活動されている方々への支援として「資金調達(ファン
ばアドバイスできるとのこと。
ドレイジング)
」という項目があります。そのプロジェク
トに使えそうな助成金を紹介したり、市民向けにプロジェ
強みを学ぶ
クトをプレゼンテーションしていただき、寄付のマッチン
講師の先生方に共通して言えることは、何度も市民と
グを行っています。
「ワークショップ」を行い、住民参加によるまちづくりを
助成金情報に関しては、市や県、社会福祉協議会等の助
体現されていることです。新居先生のお話では、50 回以上
成金担当の方との連携を行うことにより、紹介していただ
に及ぶ住民との「ワークショップ」を行い、そのつど、意
けるようになっています。このような中間支援組織が各地
見の出たところをその場で修正して見ていただいて進めて
域にあることが望ましいですが、例えば、JIAの本部に一
いるとのことでした。特に公共建築においては、誰が施主
括してそういった情報を教えてくださる部門があれば、会
なのか?を考えたときに、できるだけ住民参加を促すため
員の活動もさらに円滑に行えるのではないでしょうか。
の手法として「ワークショップ」が用いられています。し
かし実際にワークショップを運営する方法を学ぶ機会が少
百聞は一見にしかず
ないため、例えば、新居先生や曽我部先生が全国各地で
個人の「強み」
、そして団体の「強み」、それらを掛け合
ワークショップを行われる際のお手伝いとして参加させて
わせることにより可能性が広がる。セミナーを通じて議論
いただけたら、その裁量などを学ぶことができるのではな
してきた仲間、講師の先生方、委員会のみなさまの「強み」、
いでしょうか。
そして JIAの「強み」、それらを直に共有できたこと、横の
つながりができたこと、そのものが今後の活動の宝として
建築の義務教育化
活きてくると思います。貴重な機会に参加させていただき
人間の生活において欠かせない、
「衣・食・住」において、
まして、どうもありがとうございました。
義務教育で「住」のことを学ぶ機会が少ないと感じていま
す。住宅を建てようと思うとき、あるいは、建築のワーク
ショップに住民として参加し始めてから……などの時に初
めて、建築やまちのことを考え始めるということで果たし
てよいのでしょうか。建築の義務教育化を前向きに政府に
訴えていくことと並行して、全国各地で活躍する建築家が、
それぞれ地域の子どもたちに建築やまちについて学ぶ機会
April 2014
さな だ い りょう こ
眞田井 良 子
(愛媛地域会/眞田井良子 建築・まち育て研究所)
17
JIA ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… NEWS
■ 本部便り
(一財)国際建築活動支援フォーラム(JSB)による
海外建築活動自主プログラムへの助成希望者募集
※
『新国立競技場、何が問題か』出版記念シンポジウム
開催のお知らせ
JSBは 2013 年度に続き、本年度も若者の海外での活動の機会を具体
『JIA MAGAZINE』295 号と 298 号にて掲載しました槇文彦氏論考
化し、将来の国際的活動を促進するため、自主的に提案された海外等
「新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える」
「
、シンポジウ
で実施するプログラムに助成を行います。
ム 新国立競技場案を神宮外苑の歴史的文脈の中で考える」の模様、
助成対象は将来、若手建築家として海外での活動のきっかけとなる
その他関連記事を収録した書籍『新国立競技場、何が問題か』
(槇文
ような建築に係る活動への参画、あるいは同等の効果の期待される自
彦・大野秀敏編著)がこのたび、平凡社から発刊されました。
主プログラムとされ、原則として海外で実施されるものに限られま
この出版を記念してシンポジウムが開催されます。
す。提案者は個人・団体を問いません。
シンポジウム、パーティー共に一般の方もご参加いただけます。
選考は JSBによる選考委員会が行い、1 件あたり 50 万円∼ 100 万円
総合司会 元倉真琴
第 1 部:対談「新国立競技場案 その後」
槇文彦+大野秀敏 進行 古市徹雄
第 2 部:出版記念パーティー
主催:新国立競技場を考えるシンポジウム実行委員会
日時:2014 年 4 月 23 日㈬ 18:00 ~
会場:建築家会館 1 階大ホール
B6 判、200 頁
費用:シンポジウム、パーティーとも無料
1,400 円(税別)
(入場は先着順)
の範囲で助成が行われます。
応募方法の詳細は JIAの HPに掲載していますので、ご確認下さい。
2013 年度の助成実績
1)マドリッド欧州大学主催の 3 大陸デザインマスターコース:2 名
2)日本・タイ実務研修:4 名
3)自主活動プログラム:48 名 13 都市
※ JSB =一般財団法人 国際建築活動支援フォーラムは、若手建築家の海外進出、国際化を支
援する目的で 2013 年 3 月に
「UIA2011 東京大会」の追加事業実施のために設立されました。
■ 理事会報告
重点施策・分野別事業計画につき説明が行われ、併せて 2014 年
第 217 回理事会速報
度予算案につき筒井専務理事および事務局より、説明が行われ、
日
時:2014 年 3 月 20 日(木)
13 時 30 分~ 17 時 25 分 場 所:建築家会館 1 階大ホール
【審議事項】
出席理事の過半数の賛成をもって承認された。
なお、公益事業関連費を含め予算執行については、財務・事業管
理委員会で管理していくことが確認された。
また、全支部・全地域会それぞれの 2014 年度事業計画及び予算
1. 入退会承認の件
についても、出席理事の過半数の賛成をもって承認された。
入会 16 名(正会員 7 名、専門会員 1 名、ジュニア会員 1 名、個人
協力会員 2 名、法人協力会員 5 名)
、会員種別変更 4 名(シニア会
5. 支部運営費の配分方法について
員 4 名)、会員種別移行 125 名(ジュニア会員 1 名、個人協力会員
小田義彦副会長(財務・事業管理委員会委員長)より、支部運営
費配分についての今までの経緯、現在の状況と今後のスケジュー
3 名、法人協力会員 121 名)、退会 31 名(正会員 25 名、法人協力
ルの報告が行われ、併せて支部運営費配分の基本的考え方につい
会員 6 名)、死亡退会 4 名(正会員 4 名)につき、出席理事の過半
ての説明およびその配分方法について提案が行われ、提案を受け
数の賛成をもって承認された。
て出席理事の過半数の賛成をもって承認された。
2. 委員会の委員承認の件 筒井信也専務理事より、広報委員会 1 名(JIA 会報誌編集長兼務)
なお、配分案にはその基礎となる会員数がいつの時点の会員数か
の委員委嘱および同委員会委員1名の解嘱(任期満了による)に
明記することが確認された。
つき提案が行われ、出席理事の過半数の賛成をもって承認された。 【報告事項】
3. 規定改正の件
1. 士法改正について
上浪寛理事(総務委員会委員長)より、懲戒規定・懲戒規定運用
芦原太郎会長から、建築三会で、設計監理等適正化勉強会での議
規則・会員への苦情に対する組織とその運営に関する規定・顧問
論や他団体からの意見聴取を経て、建築士法の改正等への提言を
選定規定・本部賛助会員規則・旅費規定・本部慶弔見舞金規定の
まとめたこと等につき報告が行われた。
各規定の改正について、その改正案につき説明が行われ、懲戒規
2. フェローシップ委員会報告
定・懲戒規定運用細則・顧問選定規定の改正については、改正案
道家駿太郎理事(フェローシップ委員会委員長)から準会員拡大
通り出席理事の過半数の賛成をもって承認された。会員への苦情
に向けての取組、資格喪失者減少のための取組、正会員の拡大目
に対する組織とその運営に関する規定・本部賛助会員規則・旅費
標、フレッシュマンセミナーの開催企画、会員証の発行等および
規定・本部慶弔見舞金規定の各改正については、改正案を一部修
全国地域会長会議の充実等につき報告が行われた。
正して出席理事の過半数の賛成をもって承認された。
3. 広報委員会報告
続いて筒井専務理事より、従来特別会計として管理していた国際
鈴木利美理事(広報委員会委員長)から、HPの更新等の権限、準
交流基金について、新会計制度による積立資産として管理するた
会員へのメルマガ配信について、JIA パンフレット(案)につき説
めの国際交流基金積立資産管理規程の制定につき、その規程案に
明が行なわれ、有事の際の HPの更新等の権限については本部以
つき説明が行われ、併せてその管理については、財務・事業管理
外に沖縄支部が担うことが確認され、また JIA パンフレット(案)
委員会が担当すること、同規程が制定された場合従来の国際交流
の表紙案(二案)
、他頁については、後日広報委員会へ意見を寄
基金運用管理規定は廃止することの提案が行われ、検討の結果、
せていただくこととした。
出席理事の過半数の賛成をもって承認された。
4. 国際交流委員会報告
岩村和夫理事(国際交流委員会委員長)から、各支部における国
4. 2014 年度事業計画および予算の件
際活動を活性化させ、本部国際交流委員会が支援する体制を新に
筒井専務理事より、2014 年度事業計画(案)について、基本方針・
18
JIA MAGAZINE 302
JIA ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… NEWS
整備するため、協力要請が行われた。また、8 月の UIA2014ダー
バン大会の案内および参加要請が行われた。
5. 日本版 CABEについて
連健夫理事より、日本版 CABEに関して、
『Bulletin』掲載記事(日
本版 CABEを考える)および『英国 CABEと建築デザイン・都市景
観』が鹿島出版会から出版されたことについて報告が行われた。
6. JIA 建築相談会議について
上浪理事(関東甲信越支部支部長)および筒井専務理事から、従
来本部 WGであった建築相談連絡会議は解散し、新たに JIA 建築
相談会議を組成していくことが報告された。
7. 名誉会員選考手続きについて
筒井専務理事から、2013 年度は委員会体制の見直しにより、今年
度は現行「名誉会員選考規定」により、名誉会員選考委員会が選
考をすすめることにつき報告が行われ、そのスケジュールにつき
報告が行われた。
8. 後援名義承認の件(会長専決分)
筒井専務理事から会長専決事項の後援名義使用について、1 月・2
月・3 月の 3 か月分につき、報告が行われた。
新規正会員入会承認者
● 2013 年 10 月 2 日承認 6 名
四国支部 猪野温範(㈲猪野設計事務所)
北海道支部 加納美佐恵(㈱北海道日建設計)
● 2014 年 3 月 20 日承認 13 名
東北支部 菊池佳晴(菊池佳晴建築設計事務所)
、作間正孝(ベル
関東甲信越支部 市田 登(アガ設計)
、鈴木弘樹(一空建築工房)、
アート㈱)、栗本直美(Nao 空間設計)
茂木隆盛(㈱梓設計)
、加藤雅明(m-SITE-r 一級建築士事務所、安
関東甲信越支部 須藤 満(㈲風景舎須藤満設計室)、伏野 隆(㈱
川 智(㈱梓設計)、奥茂謙仁(㈱市浦ハウジング&プランニング)
東海支部 道家 洋(道家洋建築設計事務所)
東急設計コンサルタント)
近畿支部 榊原節子(榊原節子建築研究所)、成瀬康夫(㈱ワープ
● 2013 年 12 月 9 日承認 1 名
シー・シー・エス)
北海道支部 菊池 靖(㈱石本建築事務所札幌支所)
● 2014 年 2 月 27 日承認 3 名
中国支部 村上修二(村上建築設計事務所)
東北支部 稲見公介(稲見建築設計事務所)
九州支部 小原光晴(㈱ ATOM 建築設計室)
、山本伸二(㈲ケイシ
近畿支部 福山亮介(4 建築設計事務所)
ン設計)、宇都 仁(永園設計㈱)
編集後記
今号から、
『JIA MAGAZINE』の新編集長となりました。編
計の機会の増大が見込まれる中、建築家がその状況をいかに捉え
る会報誌の姿を問い続けながら、誌面を作っていきたいと思
また、今後は、JIAの活動を積極的に取り上げることで、会員
集アドバイザーの堀越英嗣さんとともに、JIAの会員に益す
います。どうぞよろしくお願いいたします。
年間のテーマは「ネクスト:建築家のこれから」です。古
市徹雄前編集長による前号までのテーマ「建築・都市のパラ
今村創平
ダイムシフト̶ライフスタイルの転換」は、取り巻く環境の
変化を浮かび上がらせました。ではそうした中で、私たち建
築家はどう変わっていくのか。それを、一緒に考えたいと思
います。今号は、構造家の稲山正弘さんに、昨今木造建築設
るべきか、わかりやすく話していただきました。
の間で情報を共有する場として、本誌を活用したいと考えていま
す。今回の特集では、年間テーマと JIAの活動紹介とが繋がるよ
うにしています。
表紙には、毎号建築家のスケッチを掲載する予定です。それは、
スケッチには、建築家の構想が形になる瞬間が記されているから
です。今号は、建築史家の松隈洋さんに、そうした狙いに相応し
い解説文を寄稿いただきました。
『JIA MAGAZINE』はJIAのHP上でPDFでもご覧いただけます。
■ JIA 支部一覧
■北海道支部
〒 060-0061
北海道札幌市中央区南1条西8丁目14-3 札幌第2スカイビル 5F
TEL 011-261-7708 FAX 011-251-4866
URL http://www.jia-hok.org/
■近畿支部
〒 541-0051
大阪府大阪市中央区備後町 2-5-8 綿業会館 4F
TEL 06-6229-3371 FAX 06-6229-3374
URL http://www.jia.or.jp/kinki/
■東北支部
〒 980-0802 宮城県仙台市青葉区二日町 17-21 北四ビル 3F
TEL 022-225-1120 FAX 022-213-2077
URL http://www.jia-tohoku.org/
■中国支部
〒 730-0013
広島県広島市中区八丁堀 5-23 オガワビル
TEL 082-222-8810 FAX 082-222-8755
URL http://www.jia-chugk.org/
■関東甲信越支部
〒 150-0001
東京都渋谷区神宮前 2-3-18 JIA 館 4F
TEL 03-3408-8291 FAX 03-3408-8294
URL http://www.jia-kanto.org/members/
■四国支部
〒 780-0084
高知県高知市南御座 16-23 TEL 088-885-6688 FAX 088-855-6260 URL http://www.jia-shikoku.org/
■東海支部
〒 460-0008
愛知県名古屋市中区栄 4-3-26 昭和ビル
TEL 052-263-4636 FAX 052-251-8495
URL http://www.jia-tokai.org/
■九州支部
〒 810-0022
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TEL 092-761-5267 FAX 092-752-2378
URL http://www.jia-9.org/info/
■北陸支部
〒 920-0805
石川県金沢市小金町 3-31
TEL 076-229-7207 FAX 076-229-7208
URL http://jia-hokuriku.org/
■沖縄支部
〒 900-0014
沖縄県那覇市松尾 1-12-8 松尾ハウス 6F
TEL 098-941-1064 FAX 098-941-1079
URL http://www.jia-okinawa.org/
April 2014
JIA MAGAZINE 2014 年 4 月号
通巻 302 号
2014 年 4 月 15 日発行(毎月 1 回発行)
販売価格 500 円(本体 463 円、消費税 37 円)
会員の購読料は会費に含まれます。
発行人 / 筒井信也
編集長 / 今村創平
編集・制作 / 南風舎
発行所 公益社団法人 日本建築家協会(JIA)
〒 150-0001
東京都渋谷区神宮前 2-3-18 JIA 館
TEL03-3408-7125
FAX03-3408-7129
© 公益社団法人 日本建築家協会
6 月 15 日は建築家の日
http://www.jia.or.jp
J
I
A
The Japan Institute of Architects
JIA-kan,2-3-18 Jingumae,Shibuya-ku,
Tokyo 150-0001 Japan
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JIA MAGAZINE 302 2014.4
NPO建築家教育推進機構からのおしらせ
あなたの一級建築士
定 期 講 習 受 講 料 が
建築家の教育推進に
役立ちます
「NPO 建築家
JIA 会員および会員事務所の方の一級建築士定期講習は、
2014 年 4 月 15 日発行(毎月 1 回発行)通巻 302 号 1991 年 4 月 16 日第三種郵便物認可 公益社団法人 日本建築家協会(JIA)〒 150-0001 東京都渋谷区神宮前 2-3-18 JIA 館
発行人 筒井信也 編集長 今村創平 編集・制作 南風舎 販売価格 500 円(本体価格 463 円、消費税 37 円)会員の購読料は会費に含まれます
教育推進機構/日建学院」が主催する講習会での受講をお願いいたします。
あなたの受講料が建築家の教育推進に役立ちます。
▪ NPO 建築家教育推進機構の活動
「NPO 建築家教育推進機構」は JIAと日建学院が
共同で設立した NPO 法人です。JIA 会員および会
員が所属する事務所の所員の方が、
「NPO 建築家教
育推進機構/日建学院」が主催する一級建築士定期
講習を受けた受講料の 25%を原資として、建築家
の教育を推進する活動を行っています。
25%の 2 分の 1 を JIA 各支部に提供し、建築家教
育に役立てていただいています。さらに、セミナー
を主催する部会・委員会に助成金の提供を行ってい
ます。昨年度は 21 のセミナーに助成金を提供いた
しました。
建築家の教育推進
25%
定期講習受講料
「NPO 建築家教育推進機構/日建学院」が
主催する一級建築士定期講習の実施日程は、
『JIA MAGAZINE』301 号(2・3 合併号)に同
封しました「講習案内」
(上図)をご覧くださ
い。お手元にない場合は、日建学院コールセ
ンター 0120-243-229 までご連絡ください。
JIA 会員および会員が所属する事務所の所員の方は、講習会受講申込書(
「講習案内」p.15)の
チェック欄(下図 赤丸)にチェックを入れるのをお忘れなくお願いします。
NPO 建築家教育推進機構のメールアドレス
[email protected]
J
I
A
The Japan Institute of Architects
JIA-kan,2-3-18 Jingumae,Shibuya-ku,
Tokyo 150-0001 Japan