テニスにおけるボールの回転の意味

テニスにおけるボールの回転の意味
9班
中島貴之
1.はじめに
テニスでは試合中,回転を加えボールの軌道を変
化させる.実際,試合ではほとんどの選手が使って
いる.一方,この軌道の変化は錯覚によって大きく
変化しているように見えているとも言われている.
自分自身もテニスをやっているが,コントロールの
制度や速度を犠牲にしてまで回転を加える意味があ
るのかと疑問に思うことが往々にしてある.
そこで今回の研究では,自分や初心者,テニス上
級者,プロの選手のボールの軌道をシミュレートし,
選手のレベル別に比較することにより実際にどの程
度軌道が変化しているのか,また初級者などでも十
分な効果を得られるのかを明らかにし,回転を加え
ることによって相応のメリットがあるのかを検討し
ていく.
2.マグナス効果について
ボールの軌道が変化するのは,回転するボールに
マグナス効果という地面に垂直な力(揚力)が加わ
るためである.マグナス効果は回転しながら進むボ
ールの上下で気圧の差が生じるために生じる.下の
図1は右方向に進み,トップスピンという進行方向
に対し前方向の回転が加わったボールに働くマグナ
ス効果と流体の様子である.
今回は実際の試合で一番よく使われるトップスピ
ンの加わったボールに着目して検討を行う. トップ
スピンの加わったボールではマグナス効果により地
面に垂直下方向の力が働く.そのため通常より早く
地面に落ちることになる.
マグナス効果は下の式で表せる 2).
1
FL =8π2ρd3VN
図1
ここで,ρ は空気密度で 25 ℃時の空気密度 ρ=
1.184 kg/m3 を 1),dはテニスボールの直径でd=
6.7×10-2 mを使用する.V はボールの速度,N は
ボールの回転数でこの二つは測定値を使用する.
3.研究の実施方法
今回はボールの軌道をシミュレーションにより比
較し検討を行った.まず,マグナス効果の計算に使
用する速度と回転数の測定を行った.
ボールを打つ様子を図2のようにカメラを配置し
計測する.カメラ1はボールの進行方向横から撮影
しボールがしるしを通過するまでの時間を計測し速
度を導いた.
カメラ 2 は打ったボールを真後ろから撮影し図3
のようにボールについた×印が 1 秒間に何回見える
かでおおよその回転数を導く.
今回は 2 次元的にコートをネットの真横から見た
ときに地面と垂直方向をy軸,水平方向をx軸にと
って考える.(1)式を通常の運動方程式に加えた次の
ボールの方向
3m
印
カメラ2
カメラ 1
図2
測定の際のカメラの配置
(1)
トップスピンのボールに働くマグナス効果
図3
カメラ2での様子とボールの印
(2),(3) 式を用いて EXCEL でシミュレーション
した.
5
𝑑2𝑥
4
𝑚
𝑑2𝑦
𝑑𝑡 2
𝑑𝑡 2
(2)
=0
1
= −𝑚𝑔 − π2ρd3VxN
(3)
8
ここでmはボールの質量 57.7×10 kg,gは重力
加速度 9.8×10-3 m/s2 である.またx軸方向,y方
向の初期速度をそれぞれ Vx,Vy とした.
高さ(m)
𝑚
3
2
-3
1
0
0
4. 結果
速度と回転数の測定結果を選手のレベル別に下の
表 1 にまとめた.プロの数値は文献値で,それ以外
は自分の主観でレベル別に分けまとめた.
まず初級者のボールの軌道をシミュレートした.
図 4 は初級者の球速で角度 20°で打った時のボー
ルの軌道である.回転を加えることによりボールが
3.5 m ほど手前で落ちていることがわかる.回転に
よりコートぎりぎりのボールを余裕をもってコート
に入れられている.このことより初級者でもある程
度の効果を得られていることがわかる.
次に初級者,中級者,上級者,プロのレベルの選
手が同じ角度,同じ速度で打った時のボールの軌道
を図 5 にシミュレートした. 図 5 は各選手が角度
20°,速度 80 km/h で打った場合の軌道である.
表1 速度と回転数の測定結果
初級者
中級者
上級者
プロ(ナ
ダル)
速
度
(km/h)
64
71
80
100
回 転 数
(回/s)
12
22
34
82
20
30
40
飛距離(m)
無回転
上級
初心者
ナダル
中級
図 5 各選手のボールの軌道
図 5 からわかる通り無回転ではコートのはるか先
まで飛んで行ってしまうボールも上級者やプロはコ
ートに入れられている.つまり, 回転によって本来
コートに入らないような高速もしくは山なりな角度
の球でもコートに入れられようになると考えられる.
以上の結果より上級者やプロはボールに回転を加
えることによって本来コートに入らない速度の球を
入れられるため,より高速なショットを打つことが
できる.またこれほどまでに変化する球を打つこと
によって相手を惑わせる効果も期待できると考えら
れる.つまり回転をかけることにより,ボールを相
手が打ちにくくなり試合を有利に進められるように
なる.一方,初級者では明らかな効果は得られない
が,ぎりぎりコートに入るか入らないかといった球
をある程度余裕をもって入れられるようになるため
ミスによる失点を減らせうるのではないかと考えら
れる.
5. おわりに
今回,テニスにおける回転の意味について実測値
を用いてシミュレートした結果,回転の効果として
ボールを相手が打ちにくくなり試合を有利に進めら
れるようになること,初級者も多少ミスによる失点
が減ることの二つがあることが分かった.
4
高さ(m)
10
3
2
1
0
0
10
20
飛距離(m)
無回転
ネット
回転有り
ベースライン
図 4 初級者のボールの軌道
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参考文献
1) 村田誠四郎,
「理科年表平成 16 年(机上版)」
,丸
善株式会社,平成 15 年,p. 945
2) 今井功,
「流体力学」,岩波書店,1993 年,p.254
3) 浦田暎三,「(標準機械工学例題演習シリーズ1)
水力学例題演習」
,コロナ社,1967 年,p.240