2012年10月号の記事:リーダーの創造

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chapter 5
リーダーの創造 ∼これからのリーダーシップ∼
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chapter 1
未来の創造
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chapter 2
組織人の創造(1)
●
chapter 3
組織人の創造(2)
●
chapter 4
知恵の創造
●
chapter 5
リーダーの創造
●
●
「他者への配慮」という資質がよ
り多く求められます。また,自分
●指示・命令型から巻き込み型へ
さにそのためのものです。
の意見に部下を従わせるのではな
今までのリーダーシップの定義
マネジメントのやり方も,決定
く,部下の意見の中から組織の方
は,「確実に目標を達成するため
し,命令し,動機づけるというヒ
針を決め,それに対して部下自ら
に,的確な判断のもと迅速な決断
エラルキー型のマネジメントか
コミットさせる必要がありますか
を下し,
明確な指示を行いながら,
ら,自由闊達な意見交換がなされ,
ら,ファシリテーション能力も重
自らも率先して先頭に立ち推し進
その意見交換から導き出されたア
要な資質となります。
める,総合的な力」というもので
イディアに向かって構成員の自主
また,指示・命令型や巻き込み
した。
性を重んじるというマネジメント
型などタイプの違うリーダーであ
この定義で示されるリーダーシ
手法に切り替えていく必要がある
っても共通して持っていなければ
ップが有効なときというのは,ヒ
のです。いわゆる巻き込み型のリ
いけない資質があります。
それは,
エラルキーを中心とした組織運営
ーダーシップが必要になります。
「当事者意識」です。この意識が,
が行われる場合です。前提条件と
もちろん,すべての場面でヒエ
責任感にも実行力にもつながり,
して「上位者による戦略決定が有
ラルキー型のマネジメントが無効
かつ部下が上司の発言の重さを感
効になされている」という状況が
だということではないのですが,
じるためのポイントとなるからで
「今までにないことに取り組まな
す。
組織を自分のこととして捉え,
しかし,今日のように経営環境
ければいけない」ときなどは,絶
自分の言葉で語るという「当事者
が目まぐるしく変化する世界で
対と言っていいほど避けなければ
意識」はリーダーシップの根源と
は,常に革新が求められますから,
いけないマネジメント手法となり
いっても過言ではありません。
経営トップが必ず正解を見つけら
ます。
整っている必要があります。
●
当事者意識
れるとは限らないのです。おそら
これからは,指示・命令型のリ
●
他者への配慮
く,トップさえも不確定な諸要件
ーダーから,巻き込み型のリーダ
●
ファシリテーション能力
に翻弄されながら正解を求めてい
ーの必要性が高まるのです。
るというのが実情でしょう。
この 3 つの資質は,これからの
リーダーにとってとても重要なも
つまり,これからの組織は,一
●巻き込み型リーダーの資質
人の指揮者のもとに全員が同じ方
指示・命令型のリーダーシップ
向に従って行動するという組織運
は,「行動」をコントロールする
営から,できるだけ多くの「知恵」
ことが中心になってきましたが,
を活用できるための組織運営へ方
巻き込み型のリーダーシップは
人事が注意しなければいけない
向転換する必要に迫られるので
「考え」を引き出すことが中心と
ことは,
「当事者意識」
「他者への
す。前回も述べた「暗黙知」を
なります。そのためには,前者の
配慮」
「ファシリテーション能力」
「形式知化」することなどは,ま
リーダーシップに比べ,後者では
という資質は,通常の人事評価の
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人事マネジメント 2012.10
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のになります。
●資質の見極め方
=評価会議という重要な場
いのうえ けんいちろう
慶応義塾大学経済学部卒業後,ソニー・ミュージックエンタテインメントで制作,営業,プロモーション
を経験。責任者としても多くのプロダクツを手掛ける。現在,井上オフィス代表。人材開発・組織構築コ
ンサルタントとして,究和エンタープライズコンコードの顧問,概念化能力開発研究所の上席研究員も務
める。「人材アセスメント」による人材の能力分析と,その結果を活用した組織構築,人材能力開発には定
評がある。人材育成型の評価制度「LADDERS」を開発。導入実績企業は100社に及ぶ。中小企業診断士。
中では見極めることができないと
して部門単位で行うイメ
いうことです。目標管理制度など
ージです。
が対象にしている評価項目は「達
この場で,各評価者が
成度」「貢献度」という結果につ
評価内容について説明を
いての評価であって,「当事者意
し,それを参加者全員が
識」
「他者への配慮」
「ファシリテ
聞いてその評価の妥当性
ーション能力」という人間力につ
を議論するというもので
いて評価していないため,データ
すが,この場に人事が参
化されていないのです。
加し,評価の妥当性とと
しかし,リーダーとしての適性
もに,
「当事者意識」
「他
を把握するためには,絶対に必要
者への配慮」「ファシリ
な情報となります。
テーション能力」の状況
それではどうするかというと,
図 評価会議参加者イメージ
社長
部長
課長
リーダー
一般
について確認するので
はっきりとこの 3 つの項目を評価
す。この情報収集は,社内の人材
に作る必要があるということを最
対象に加えることもその一つです
分布を人事として把握することが
後に申し上げたいと思います。
が,評価決定のプロセスに「評価
できる最適な場となります。と同
今までも,人材開発という名前
会議」を設け,そこに人事が参加
時に,この会議に参加して評価の
の部署はいろいろな企業にあり,
することを強くお勧めします。そ
説明をする管理者たちの管理者と
階層別研修などを実施しています
の評価会議の場でナマの人物情報
しての適性を直接知ることができ
が,残念ながら研修を行うことが
を収集するのです。
る機会でもあります。
ミッションになってしまっている
通常,評価シートが第 1 次考課
私が実際にコンサルをしている
場合も多いです。実は,日常の業
者から第 2 次考課者へ回覧され,
会社では,すべての会社で評価会
務状況をより把握するだけでも,
そこで修正評価が加えられ,最後
議を実施していますが,人材把握
能力開発すべき人間を見つけるこ
に部門長が集まり会社全体の評価
に大いに貢献しています。この会
とは容易にできます。
のバランスを図るための「評価調
議から次の人事異動が決まるとい
人事が各部門の日常業務に関わ
整会議」で最終的な評価を決定す
うケースも多々あります。この会
る機会は決して多くありません
るということが多いと思います
議での発言から管理者としての適
が,
社内中を人事が常に歩き回り,
が,その場合もし「評価調整会議」
性がないことが分かり残念ながら
声をかけ続けることからでもその
以外の会議が催されていないよう
降格することになったという例も
目的に近づくことはできます。
でしたら,評価会議という工程を
決して少なくありません。
Management by walking around
どこかに必ず組み入れるべきでし
ょう。
という言葉があるように,歩き回
●人事に人材創造の専任を設ける
ることは重要なマネジメントの一
小さな会社であれば図のように
このシリーズで人材創造が人事
現場のリーダーから社長まで,管
の責務であるということを述べて
人材創造を目指す企業の人事
理者がすべて揃う会議です。大き
きましたが,そのために人事部内
は,ぜひ歩き回りから始めてほし
な会社であれば,トップを部長に
に「人材創造」という部署を明確
いと思います。
つなのです。
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