議事概要 - 東京都青少年・治安対策本部

第 29 期東京都青少年問題協議会第6回専門部会議事概要
1.日時:平成25年10月11日(金)18時00分から19時55分まで
2.場所:都庁第一本庁舎42階 特別会議室A
3.出席者:
【 委 員 】 加藤副会長、小泉部会長、石川委員、伊東委員、大朏委員、鈴木孝義委員、
鈴木聰男委員、墨岡委員、水上委員、牟田委員
【参考人】 国立大学法人 東京大学大学院情報学環 教授 橋元参考人
【事務局】 河合青少年・治安対策本部長、坂田青少年対策担当部長、佐藤青少年課長
4.概要
○
第6回専門部会の開催の趣旨及び参考人の紹介
・事務局より、第6回専門部会の開会、資料及び議事録の確認等の説明と参考人の紹介が行われた。
○
「ネット依存」とは何か?-調査から見たその現実
・橋元参考人から、以下の発表が行われた。
-ネット依存がなぜ問題になるのか、それは、依存状態が長期にわたる、自分でコントロールでき
ない状態が続く、やめさせると一種の禁断症状が現れ得る。何よりも社会生活、人間関係に悪影
響が及び、非常に極端な場合には性格・生活の自己破綻を来たすということがある。
-悪影響としては、健康面での視力低下・肥満、学業・仕事面では成績の低下、授業・勤務中の居
眠り、生活面では昼夜逆転、睡眠障害、家族・対人面では友人関係悪化、家庭内暴力、育児放棄、
経済面ではアプリ利用料・アイテム購入料等の浪費による家計破綻等がある。
-よく引用されるキンバリー・ヤングのネット依存尺度 8 基準で重要なのは、コントロール不能、
生活上・人間関係の悪影響、禁断症状である。
-海外のネット依存の状況では、アメリカではいくつか調査結果があるほか、精神医学会が出して
いる DSM、精神障害の診断と統計のための手引きにおいて、
「特定不能の衝動制御の障害」と診断
されることが多い。インターネット依存症はれっきとした精神疾病であるという主張がある一方、
精神障害ではないという見解もあり、最近の DSM-V には「今後検討すべき診断名」とされるにと
どまっている。
-日本の研究では、2001 年に橋元研究室において、訪問留置ランダムサンプリングにより全国調査
を行った。その中で、性別では女性、年代別では 20 代、40 代、10 代の順、専業主婦、学生、無
職という人が依存傾向が強く、サービスとしては出会い・友達系サイト、オンラインショッピン
グなどの利用率が高く、ゲーム・占いはそれほど高くはなかった。その後も、2009 年に総務省及
び安心ネットづくり促進協議会から研究を委託され、「ネット依存者」へのグループインタビュ
ー等、いくつかの調査を実施し、どんな性格の人が依存的傾向を持ちやすいのか、という研究を
続けている。
-グループインタビュー調査では、ネット利用が原因で休職、留年、入院等を経験した人を対象と
し、依存は大きくコミュニケーション系(オンラインゲーム・SNS等)と閲覧系(ネットサー
フィン・動画等)の二つに分かれることが分かった。動機としては、前者は人とつながりたいと
か、承認要求が強い、後者は刺激的な娯楽情報への接触要求が習慣化するという人が多い。どう
いう状況で依存から脱却したかは、コミュニケーション系では引越し等の生活の変化、人間関係
での変化で自然に抜けた人が多い。閲覧系は長期化傾向にあるが、これは生活目標を失い、何を
していいか分からず、時間があり余っているという子が多いという背景がある。
-大手のSNSユーザー5 万人を対象としたオンライン調査では、依存傾向にあると思われる人が
11%、若い人、女性の方が依存傾向が強いという結果が見られた。なお、「依存者率」は適用
基準や分析母集団によっても変動するため、数値自体はあまり意味をもたない。
-どういう人が依存傾向になりやすいかで多く共通しているのは、学生・主婦、働いていない人に
依存が多い。また、時間を持て余している人がなる。
-一般ネットユーザー調査の結果でも傾向は同じで、若い人がなりやすく、未婚者、配偶者がない
人、子供がない人、つまり家に帰っても話す相手がおらず、時間がある人である。
-どのようなアプリが依存と関係しているのか、ロジスティック回帰分析ではネットショッピング、
動画サイトの視聴、ソーシャルメディアの書き込みといったものが依存と強く関係しているとい
う結果が出ている。
-心理尺度との関係では、一貫して出ているのは依存傾向の強い人ほど孤独感が強い、抑うつ傾向
が強い、ということである。性格に特化した研究では、情緒が不安定な人、堅実でない人、不真
面目、怠惰な性格傾向もある人、積極性に乏しい人等が依存傾向になりやすいという結果である。
-中学生に対するパネル調査(同じ対象者に対し時間を置いて同じ調査を行うもの。因果を推定す
る。)では、動画サイトが依存傾向の助長に大きく関係しており、2 回目の分析では動画サイト、
ソーシャルメディアの書き込み、ブログ、ホームページの閲覧が関係しているという結果が出て
いる。生活との関係では、依存度が高いと睡眠時間が減少していく、依存傾向が強いと家族との
会話時間が減少していくという因果が証明されている。
-2013 年 2 月の総務省情報通信政策研究所との共同研究をまとめると、高校生の半数がスマホを利
用し、スマホの普及でネット時間が長期化している。その中でソーシャルメディア、ネット動画
の利用時間が長い。自己認識では、勉強時間、睡眠時間、テレビ視聴時間が減少し、特に依存傾
向の強い人にその傾向が著しい。ヤングの 20 項目基準による依存傾向の高い人の割合は、高校
生は 9.2%、中学生 7.6%であり、スマホ利用者と非利用者ではスマホ利用者の方が依存傾向は
強い。スマホの利用者では、ネット上の人間関係の悩みが多いという結果が出ている。
-依存とは、心理学的にいうと、一種のオペラント条件付け(自らの行動によって強化刺激を得る
ことを覚え、それが強化因となり自発的行動が高頻度化してくるという条件付け)といえる。ネ
ット依存も基本的にオペラント条件付けに類似しており、強化刺激、報酬と快感が重要である。
ネット依存の場合の報酬は、ゲームでの称賛、自己を確認できる、つながりを持って安堵できる
等が考えられる。また、負の報酬、アクセスしない場合のデメリットによって強化付けられる。
-ネット依存のパターン別の動機には、オンラインゲーム依存(同期型)、きずな依存(SNS依
存。擬似同期型)、コンテンツ接触依存(閲覧系)、ギャンブル系参加型アプリ依存(同期系~オ
ークション、ソーシャルゲーム)に分類でき、それぞれ正、負の報酬があり、強化因となってや
り続けざるを得ないということ。これらの分類は背反ではなく、ゲーム依存は同時にきずな依存
でもある。今後、モバイルでアクセスしやすいソーシャルメディアと結びついたきずな依存が伸
びるのではないかと思われる。
-ネット依存の対処について、依存のパターンの原因はいろいろであり、一様な対処法はない。家
族が下手に禁ずると、反動でのめりこむ、そして、家族との関係が悪化する。家族全体で取組む
必要がある。
-コミュニケーション依存の場合、環境の変化がひとつの脱却の理由になる。環境を変えるような
努力が重要である。
-ネット依存に関しては、教育段階も含め、被害の実例を詳細に説明するのが依存回避につながり
やすいのではないか。
-今後、スマホの普及により、より簡便にソーシャルメディアを使える。そういう意味では、きず
な依存の増加の可能性がある。若年層のネット依存の増加の可能性がある。しかし、どこまで問
題視すべきか、これは難しい問題である。診断基準は自己報告でチェックするものであり、本当
に好きな人は、自分は依存状態、やり過ぎと思っておらず、チェックしない可能性がある。
-依存で、周囲をトラブルに巻き込むとか、気がつかないで人生にとって不利益になっているのは
問題であり、取り上げるべきだが、一部のレアケースだけを取り上げて、ネットの有用性を過小
評価するのは一部の悪書を取り上げて読書を禁止するようなものであり、トータルにメリット、
デメリットを考える必要。
○ 委員からの主な発言
・自己評価が難しいというのは感じる。自己申告でヤングの基準にイエスかノーを付けて、その結果
を第三者が判断したところで、その人の意識の深さは測れないと感じる。その意味で、傍から見てい
てどうかということを重視しなくてはいけない。久里浜医療センターでの 8 名のインタビューでも、
結果としての退学とか、家族関係がうまくいかなかったという結果はあるが、どこからが依存なのか
を把握できないという印象を持った。
・ソーシャルネットワークの依存者が負担を感じるという話をどう解釈するかだが、負担が出てきて
いるというよりも、そもそもネットに接触していることの満足が極めて低くなっている。つまり嫌だ
けれどもやらないではいられないというのが依存症の基本的な定義だと思う。ソーシャルメディアの
場合、ネット依存になり、ネット依存から満足を得られなくなっていることの理由づけで負担を感じ
ると言っていると考えられるのではないか。
・臨床的に依存症を考えると、診断をつけるのと治療することは違う。アルコール依存症の人が一人
暮らしで、大量にお酒を飲んで例えば肝硬変になって亡くなって自己完結してしまえば、社会的に治
療の対象にはならないが、依存症の治療を考えるときは、自己完結しないで、社会に様々な波紋を及
ぼすとか、社会的に問題が出てきた場合に、その依存している人をどうするかを考えるため、医学的
には診断と治療は分けて考える必要があると思う。
○
ネット依存をテーマとした「中学生ワークショップ」の紹介
・事務局より、インターネットの安全利用の啓発活動に取組むNPO法人 e-lunch が主催した静岡県
内の中学生を対象にしたワークショップ(中学生が「ネット依存の尺度」を考え、それを基に「ネッ
ト依存度チェックアプリ」を制作し、アプリを体験する)の紹介が行われた。
事務局:青少年・治安対策本部総合対策部青少年課
※ 本資料は確定されたものではなく、今後修正する場合があります。