エ ン ジ ニ ア リ ン グ の 新たな〝 挑 戦 〟

ISSN 0910–4593
Engineering Advancement Association of Japan
エンジニアリング振興協会
強い日 本 の 実 現 に 向 け て
財団法人
エンジニアリングの
新たな
〝挑戦〟
2 0 11 J a n N o .1 2 6
強い日本の実現に向けて
Engineering Advancement Association of Japan
エンジニアリングの
新たな 挑戦
2011 JANUARY No.126
Contents
平成23年新年賀詞交歓会
1
協会挨拶
来賓挨拶
乾
杯
増田 信行
市川 雅一
山田 豊
エンジニアリング振興協会 会長
経済産業省 大臣官房審議官(戦略輸出担当)
エンジニアリング振興協会 理事長
ENAAレポート①
エンジニアリングシンポジウム2010
6
12
招待講演
パネルディスカッション
「日本のクリーンコールテクノロジー
が地球を救う」
北村 雅良
「強い日本の実現に向けて
〜エンジニアリング産業の進むべき道〜」
電源開発㈱ 代表取締役社長
9
特別講演
「グリーン産業革命
〜人類の生存を脅かす10の「危機」
克服の条件〜」
佐和 隆光
渡辺 哲也
竹内 敬介
経済産業省 大臣官房参事官(戦略輸出担当)
併・クール・ジャパン室長
林
川崎重工業㈱ 代表取締役常務
日揮㈱ 代表取締役会長兼CEO
敏和
〈コーディネーター〉
猪本 有紀
滋賀大学 学長
丸紅経済研究所 チーフ・アナリスト
ENAAレポート②
2010 エンジニアリング産業
業界セミナー
18
16
基調講演 東京会場
基調講演 大阪会場
「未来を切り拓くエンジニアリング」
久保田 隆
「エンジニアリング産業の魅力と
求められる人材」
千代田化工建設㈱ 代表取締役社長
林 敏和
川崎重工業㈱ 代表取締役常務
20
パネルトーク
コミュニティエンジニアリング
27
22
①建設が進む大間原子力発電所リポート
「資源の有効利用と
電力の安定供給をめざすフルMOX発電所」
②青森県庁を訪ねて
28
『スペース・ニードル(シアトル)
』
中村 庸夫 海洋写真家
ENAAレポート
「青森県のエネルギー産業振興戦略について」
PMの世界における最近の動向
③北海道・本州間電力連系設備
―函館変換所を訪ねて
「北海道と本州の架け橋として
広域における電力系統の効率運用を支える」
パストラーレ
グローバルPM協会の動きとP2Mの世界貢献
田中 弘
29
編集後記
日本プロジェクトマネジメント協会 理事長
強 い日本の実 現に向けて
2011年 エンジニアリングの
新たな 挑戦
平成23年
新年賀詞交歓会
開催される
1月5日(水)
、
午後3時30分よりANAインターコンチ
ネンタルホテル東京にて開催された。
増田会長の挨拶、
来賓の市川経済産業省大臣官房
審議官の挨拶、
山田理事長の乾杯の音頭で始まった
交歓会は、
官庁・関連団体関係者、
会員企業の代表の
出席者をお迎えする、
右より、
増田会長、
山田
理事長、
小澤専務理事
方々等約750名のご出席者で大いに賑わい、
大変活
気に溢れた賀詞交歓会となりました。
ENAA Engineering No.126 2011.1
1
平成23年新年賀詞交歓会
協会挨拶
エンジニアリング振興協会 会長
皆様、
新年明けましておめでとうございます。
増田 信行
により、
行き詰まりを打開していこうとの姿勢がみられます。
ご家族ともども、
良きお正月をお迎えのこととお慶び申し
上げます。
ところで、
昨年は、
皆様よくご存知のとおり、
「インフラ・シス
テム輸出」
が、
国の戦略分野のひとつとして取り上げられまし
本日は、
経済産業省 市川大臣官房審議官をはじめ同省
た。
エンジニアリング産業は、
かねてより、
グローバルな視点と
幹部の方々、
並びに関係団体からも多数のご来賓をお迎えし
もの作りに根ざした技術力と人材力により、
社会インフラの
まして、
当協会会員の皆様と共に、
このように盛大に新年をお
整備、
資源・エネルギーの開発、
地球環境の保全などの諸課
祝いし、
ご歓談できますこと誠にありがたく、
心から御礼申し
題に取り組んできたところであり、
その意味でも、
「インフラ・シ
上げます。
ステム輸出」
は、
エンジニアリング産業がこれまで培った技術
今年もまた、
心を新たにして、
わが国のエンジニアリング
の優位性を最も発揮できる得意分野であります。
産業の更なる発展に微力を尽くす所存でありますので、
皆様
方の一層のご支援・ご協力をよろしくお願い申し上げます。
しかしながら、
昨今の韓国勢の台頭など激化する国際競争
の下で、
わが国が勝ち残っていくためには、
エンジニアリング
さて、
昨年の世界経済は、
リーマン・ショック後の各国の懸
企業が、
従来にもまして技術力を磨き、
新たな需要を掴み取
命の財政・金融政策や新興国の旺盛な国内需要に支えられ
るための様々な努力を強化することに併せ、
政策当局による
て順調に回復してまいりましたが、
このところ、
一部欧州諸国
制度面のサポートが車の両輪として不可欠であり、
このたび
における財政危機の再燃やアメリカ経済の回復テンポの鈍
の政府の取り組みには、
大いに期待するとともに、
敬意を表す
化、
さらには、
新興国における経済過熱化現象の発生など、
ものであります。
不透明感が漂い始めております。
わが国経済も、
円高・デフレ
の影響や世界経済の下振れ懸念などで、
依然として、
期待と
また、
昨年は、
当協会として、
公益法人制度改革に対応する
不安が交錯した状況かとは思いますが、
本年後半以降、
米国
ため、
一般財団法人への移行を決め、
移行の認可申請を行う
経済の回復や、
新興国の潜在的成長力に支えられて、
緩やか
とともに、
一般財団法人の下での新たな体制の整備に取り組
な回復経路を辿るとの期待を強くしております。
んだ年でありました。
認可の時期はまだ定かではありません
が、
今年は、
一般財団法人としての当協会の新たな姿・内容を
私どもエンジニアリング産業についても、
昨年12月に発行
確立すべく、
協会役職員一同専心努力してまいりますので、
致しました当協会の「エンジニアリング産業の実態と動向」
か
皆様方には、
これまでにも増して、
ご支援・ご指導をよろしく
ら振り返ってみますと、
国内では公共投資の減少、
国際面で
お願いいたします。
は、
急激な円高、
中国・インドなどの新興国の存在感の増大、
さらには韓国企業の台頭等、
依然厳しい状況に置かれてお
最後になりますが、
本日ご来賓としてお迎えいたしました経
り、
平成21年度の受注額は、8兆8千億円と、
平成になりはじ
済産業省の方々をはじめ関係機関並びに会員各位の一層の
めて10兆円の大台を割り込む結果となっております。
今後の
ご指導・ご支援を改めてお願い申し上げ、
また、
皆様方のます
受注見通しにつきましては、
国内市場は、
内需の伸び悩みか
ますのご健勝とご繁栄を祈念致しまして、
私の挨拶とさせて
ら縮小傾向が続くのに対し、
海外市場では、
かなりの増加を
いただきます。
見込んでおり、
各企業がさらなるグローバル化を進めること
2
ENAA Engineering No.126 2011.1
本日は、
誠にありがとうございました。
来賓挨拶
経済産業省 大臣官房審議官
(戦略輸出担当)
市川 雅一
新年明けましておめでとうございます。
はもとよりアジア諸国と比べても高い水準にあり、
グローバル
平成23年の新春を迎え、
謹んでお喜び申し上げます。
化、
円高の進行と相まって企業の海外流出を促進しているの
ではないか、
産業の空洞化の一因となっているのではないか
さて、
今会長からもお話しがありましたが、
わが国経済は、
と、
言われておりました。
今大きな変革期を迎えております。
ご承知のとおり、2008年
このため、
経済産業省といたしましては、
わが国の立地競
のアメリカの金融危機に端を発しました世界同時不況から
争力、
ひいては企業の国際競争力を高めるために、
来年度税
わが国の景気は緩やかに回復してきましたが、
円高、
海外新
制改正におきまして、
税率の引き下げを要望し、
税制改正大
興市場における競争の激化、
内需の反動減、
などの影響によ
綱に盛り込むことが出来たところであります。
り、
引き続き現在も厳しい状況におかれております。
また、
海外需要の獲得、
そのための海外インフラビジネス
中長期的にみましても、
生産拠点、
開発拠点の国内外にお
につきましては、案件の組成段階から官民一体となって
ける配置、
資源環境制約など国内の産業を取り巻く課題は、
例えば、
インドにおけるデリー・
取り組むことが出来るように、
山積しております。
ムンバイ間産業大動脈構想のような広域開発構想の枠組み
こうした厳しい状況を打開するために、
政府としては、
昨
を活用するとか、
あるいは、
電力、
上下水道、
衛星、
航空機、
鉄
年6月、
強い経済、
強い財政、
強い社会保障を実現するため
道、
物流、
情報通信といったあらゆるインフラ整備をパッケー
の基本方針である新成長戦略を作成しました。
この戦略に
ジ化して総合的に戦略輸出を促進していくことを進めてい
おきまして、
会長からお話しもありましたパッケージ型インフ
るところであります。
また、
昨年のベトナムにおける原子力発
ラ海外展開が成長分野の一つとして位置づけられたところ
電所の建設計画におけるように、
トップ外交を推進いたしま
であります。
して、
官民一体となってインフラ分野の受注獲得を目指して
エネルギー関係とか、
水ビジネス、
鉄道、
こういった分野で
官民が連携して今後の海外ビジネスを促進していくことが、
掲げられているわけです。
まいります。
さらに、
横断的な政府の支援策といたしまして、
海外情報
収集体制の強化でありますとか、
あるいは、JBIC、JICA、
わが国エンジニアリング産業は、
国際面におきまして、
他の
NEXIといったファイナンス面の機能強化も進めてまいります。
産業に先駆けて、
いち早く、
海外市場に展開をされ、
各国の経
こうした状 況の中で、繰り返しになりますが、わが 国
済発展に貢献をし、
今日の競争力を築いてこられたわけであ
エンジニアリング産業の振興を担う当エンジニアリング
ります。
こうした経験を通して培われたエンジニアリング・ノウ
振興協会におかれましては、
これまで以上に重要な役割が
ハウは、
わが国の成長分野でありますインフラビジネスの海
期待されていると考えております。
特にエンジニアリング産
外展開に不可欠なものと考えております。
業は、
人材が資本であるということから、
優秀な人材の確
今後海外における様々なインフラ分野におきまして、
わが
保と育成が何よりも重要な課題であると認識しております。
国エンジニアリング産業にますます活躍いただくことが期待
エンジニアリング振興協会は、
産学官の密接な協力の下に、
されているわけでございます。
政府、
とりわけ経済産業省とい
業界セミナーであるとか、
あるいは、
学生向けの講座、
研修事
たしましても、
エンジニアリング産業の更なる発展のために、
業などエンジニアリング産業の人材確保・育成に大きな役割
様々な支援策を用意させていただいております。
その一つと
を果たしておられます。
いたしましては、
国内事業基盤整備のための法人実効税率
今後もこういった諸活動につきまして、
これまで以上に進め
の引き下げがございます。
わが国の法人実効税率は、
先進国
ていただけることを期待しているところであります。
また、
海外
ENAA Engineering No.126 2011.1
3
平成23年新年賀詞交歓会
インフラビジネスの推進に向けまして、
エンジニアリング業界
と政府関係機関との意見交換の場としての役割も大いに期
待しております。
最後になりますが、
本年の皆様方のご健康・ご多幸を祈念
いたしまして、
私の挨拶とさせていただきます。
ありがとうございました。
(本稿は賀詞交歓会のご挨拶をもとに、
事務局にて取りまとめました。
)
乾杯
エンジニアリング振興協会 理事長
皆様、
新年明けましておめでとうございます。
エンジニアリング振興協会理事長の山田でございます。
山田 豊
織に生まれ変わります。
まだまだ不安定で、
不確定要素がある経済情勢であり、
非常に厳しい競争激化の時代ですが、
官民一体となっての
皆様とても清々しい気持ちで、
これからの新しい年に向け
世界戦略、
それに新たな エンジニアリング協会 の年を迎え
ての新たな決意を持って新年を迎えられたこととご推察申し
て、
今年は相当エキサイティングな年になるという期待感を
上げ、
大変喜ばしく思っております。
持って新年を迎えています。
今年は、
関東一円では元旦から晴天に恵まれ、
今日も非常
是非、
エンジニアリング協会に経済産業省をはじめ関係
に美しく、
そして猛々しい富士山を清々しく祈るような気持ち
諸団体の皆様の今以上のご指導・ご鞭撻をお願いすると共
で見ることができました。
に、
私たち会員が共にこの協会を新しく創っていくというこ
さて、
先ほど、
経済産業省 市川大臣官房審議官からご挨
拶をいただき、
新成長戦略の具現化に向けて官民一体と
とを、
この場で皆さんと再度確認させていただきたいと思い
ます。
なって世界戦略を展開していくという強い言葉をいただきま
した。
これを、
エンジニアリング産業に携わる私たちは、
重要
それでは、
エンジニアリング業界の発展と本日ご列席の皆
なキープレイヤーなのだという思いと同時に、しっかりせい
様のご健勝とますますのご発展を祈念いたしまして、
皆様と
という強いメッセージであると受け止めました。
大変励ましの
一緒に杯を挙げたいと存じます。
ご唱和をお願い致します。
あるお言葉をありがとうございました。
今年、
エンジニアリング振興協会は、
一般財団法人の認可
が下り次第、
新たな姿の エンジニアリング協会 と新しい組
4
ENAA Engineering No.126 2011.1
乾杯。
ありがとうございました。
2010年10月27日(水)
・28日(木)
の2日間、
日本都市センター
会館(東京・平河町)
においてエンジニアリングシンポジウム2010
が 開 催され、延べ3,400名を超える参 加 者を得て、盛 会 裡に
終了した。
「明日の日本が輝くために!〜今こそ活かそうエンジニアリング
の力〜」
を統一テーマとし、
初日は電源開発㈱ 代表取締役社長
北村 雅良氏による招待講演、
滋賀大学学長 佐和 隆光氏による特
別講演、
さらに丸紅経済研究所 チーフ・アナリスト 猪本 有紀氏を
コーディネーターとして、
経済産業省 大臣官房参事官 渡辺 哲也氏、
日揮㈱代表取締役会長兼CEO 竹内 敬介氏、
川崎重工業㈱代表
取締役常務 林 敏和氏によるパネルディスカッションが行われた。
2日目は、
「我々はどう変わるべきか?「日本の強みを育てる」
」
「住
みよい地球をつくる」
の3つのサブテーマに分かれ、11セッション
の実務的な講演が行われた。
E
ENAA Report 1
g
g
Symposium 2010
エンジニアリングシンポジウム 2010
2010年10月27日(水)
・ 28日(木)日本都市センター会館
プログラム
10月27日(水)9:30開場
10月28日(木)9:30開場
我々はどう変わるべきか?
日本の強みを育てる
住みよい地球をつくる
開会挨拶
A‒1
山田 豊
㈶エンジニアリング振興協会理事長
東洋エンジニアリング㈱ 代表取締役社長
実行委員長挨拶
羽矢 惇
B‒1
C‒1
複雑系世界経済と日本の
エンジニアリング産業の今後
日本のエンジニアリング業界の
国際競争力
21世紀は水の世紀
木下 俊彦
引頭 麻実
早稲田大学
産業経営研究所 特別研究員
㈱大和総研
執行役員
㈶リバーフロント整備センター
理事長
竹村 公太郎
新日鉄エンジニアリング㈱ 代表取締役社長
招待講演
A‒2
「日本のクリーンコール
テクノロジーが地球を救う」
社会資本老朽化問題と
エンジニアリング業界の未来
根本 祐二
東洋大学経済学部 教授
(公民連携専攻主任)
北村 雅良
電源開発㈱ 代表取締役社長
特別講演
A‒3
「グリーン産業革命」
スマートグリッドによる
コミュニティと企業の戦略
佐和 隆光
池田 一昭
滋賀大学 学長
日本アイ
・ビー・エム㈱
未来価値創造事業
事業開発 部長
パネルディスカッション
「強い日本の実現に向けて
」
〜エンジニアリング産業の進むべき道〜
〈パネリスト〉
経済産業省 大臣官房参事官
(戦略輸出
渡辺 哲也 担当)
併・
クール・ジャパン室長
竹内 敬介 日揮㈱ 代表取締役会長兼CEO
林 敏和 川崎重工業㈱ 代表取締役常務
A‒4
低炭素都市づくりについて
鎌田 秀一
国土交通省 都市・地域整備局
都市計画課 企画専門官
B‒2
C‒2
〜日本の強みの活かし方〜
IBMやMicrosoftに負けない方法
日本の宇宙開発と宇宙技術が
私たちの生活にもたらすもの
青野 慶久
中村 安雄
サイボウズ㈱
代表取締役社長
(独)宇宙航空研究開発機構 技術参与
研究開発本部 本部長代理
宇宙技術統括
B‒3 【産学人材交流センター企画】
「東京スカイツリー」
計画
C‒3
下水道の真の価値を考える
山本 秀樹
〜持続可能な社会を支えるこれからの下水道〜
㈱日建設計
プロジェクト開発部門
企画開発室長
栗原 秀人
メタウォーター㈱
技監
B‒4
最近のエネルギー政策の動向について
(エネルギー基本計画を中心に)
石崎 隆
経済産業省 資源エネルギー庁
需給政策室長
〈コーディネーター〉
猪本 有紀
丸紅経済研究所 チーフ・アナリスト
ENAA Engineering No.126 2011.1
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エンジニアリングシンポジウム 2010
「日本のクリーンコールテクノロジーが」
ノロジーが
地球を救う」
招待講演
電源開発株式会社
代表取締役社長
北村 雅良
1947年生まれ
1972年 東京大学経済学部卒業後、
電源開発 ㈱入社
1999年 同社新事業開発室長
2001年 同社取締役・企画部長
2004年 同社常務取締役
2007年 同社取締役副社長
2009年 同社代表取締役社長(現任)
1. 世界のエネルギー事情と課題
需給バランスがとれません。このような見通しがあり、石炭か
らのCO 2の排出が大きなウェイトを占めてしまうことから、こ
れを解決していく必要があります。
現在、私たちが直面しているエネルギー問題は、世界規模
で考えなければいけません。特に気候変動問題は地球の課
■
環境技術先進国日本が果たすべき役割
■
題です。一国だけではなく、世界百数十ヵ国全体の問題であ
世界中で年間288億トンのCO2が排出されています。国別
り、知恵を出し、協力していかないと解決できません。しかし
のCO2の排出量においては、2007年、とうとう中国が世界第
COP3以降、なかなか意見がまとまらず、世界的なコンセンサ
1位になりました。中国に次いでアメリカ、ロシア、そして4位に
スが得られない状況です。このような難しい問題に、日本の
日本、全体の4.2%を占めています。日本の10倍の人口の中国
産業界や日本の技術がどう貢献できるか、
していくべきなの
やインドが生活水準を上げて発展し、豊かになると、その量
か。本日は、
そういった観点からお話させていただきます。
はどうなるか。気が遠くなりそうです。だからといって、成長を
■
石炭なくして語れない世界のエネルギー事情
■
まず初めにIEA(国際エネルギー機関)の2009年のデー
おさえていくのではなく、そのような国がエネルギーを使いな
がら豊かに発展していくために、日本がどう貢献できるかを
考えていかなければなりません。
タから世界の主な国の電源構成をみますと、石炭を燃やして
電気をつくっているのが全世界で42%という現実があり、こ
の事実を知ると、ほとんどの方は驚かれます。一方、日本の場
合、石炭火力は全体の28%を占めています。風力発電などを
積極的に普及させようとしているEU諸国でさえ、30%は石炭
6
2. 日本のエネルギー事情と石炭火力技術
■
バランスミックスの追求
■
を使わないと電力需要を充たすことができません。国別でも
現在、日本の国産エネルギーによる自給率は4%であり、石
ドイツでは49%が石炭です。また、新エネルギー導入に積極
炭、石油、天然ガス、
さらには原子力、
ウラン資源他も外国に依
的な国といわれているデンマークでも、実はまだ半分の電気
存しています。ウランはいったん原子炉に入れられると数年に
は石炭でまかなわれています。いわんやこれから猛烈な勢い
わたって発電が続けられるという意味で、準国産エネルギーと
で発展し、成長していくだろう中国やインドは、国内に膨大な
して加えた場合、自給率は19%です。残りは全てどこからか輸
石炭資源を持っており、インドでは70%、中国では80%が石
入しなければならず、先進国も概ね同様です。まず、この状況
炭によって電気がつくられています。
をきちんと押さえていく必要があると思います。また石油や天
同じくIEAによりますと、全世界の1次エネルギーの需要推
然ガスに比べ、石炭は確認埋蔵量も圧倒的に多く、特定の地
移は、2030年には、2007年比で、約40%増え、そのうち石炭
域に偏ることなく、
ヨーロッパから北アメリカ、
アジアなどさまざ
は50%。20年後も30%を石炭が占めないと、全世界の電力
まなところに分布していることから、国際マーケット価格にお
ENAA Engineering No.126 2011.1
ENAA Report 1
いても極めて安く、相対的に安定性があります。こうしたメリッ
電・運転すると、年間で約13億トンのCO2の削減効果があると
トを持つ石炭を上手に使っていかなければいけません。
計算できます。年間13億トンは、
日本の年間排出量に相当しま
かつて日本では、1973年のオイルショック後、エネルギー政
す。現在、
日本も世界もCO2削減に取り組んでいます。風力も太
策は、大きく舵を切って転換しました。原子力を増やしながら、
陽光も導入促進すべきと思いますが、
それだけでは十分では
石油を減らし、石炭を減らし、天然ガスを増やすなどバランスの
ありません。このような日本の技術力により産業界が世界で展
とれたエネルギーのベストミックスを目指して多様化を進めまし
開していくことには、
それだけの効果があるわけです。これをや
た。私は、エネルギーにおいては、
ベストミックスというよりも、バ
らずして何をしようかということであります。私はこの話をこの
ランスミックスであり、石炭を活用しながらバランスの取れたエ
2、3年、人に会うたびにさせていただいています。
ネルギーミックスを維持していくことが重要だと考えています。
■
石炭火力技術の進化
■
3. 世界の石炭火力マーケット
石炭火力の技術開発に、私どもは長年かけて取り組んで
きました。初期の1960年代は亜臨界圧で、当社では竹原火
■
アジアのマーケット
■
力1号がその代表例であり、発電端の熱効率は38%です。次
次に、世界の石炭火力マーケットにビジネスチャンスがどのく
の時代が、超臨界圧、SC(Super Critical)です。これは、
らいあるかということですが、現在、
アジア全体では、6億kW。
還流型ボイラタイプで、蒸気温度は530℃程度です。この頃、
2035年には14億kWの設備に拡大するという見通しです。中国
当社は松島火力という、日本で最初の輸入炭火力発電を
からは、何十基というプラントの注文があり、中国に資金と技術
つくりました。その次が、超々臨界圧=USC(Ultra Super
はありますが、運転技術においてはまだ日本の方が優れており
Critical)と呼ばれています。蒸気管・タービンブレード等の
ますので、当社は10%程度の出資比率で資本参加して、関与し
材質も従来の鉄を中心にクロムを加えて、さらに高温に耐え
ているプロジェクトがあります。インドでは、超臨界圧プラントへ
るような材料を開発しました。その代表例である、当社の磯
の本格的移行が始まり、8千万kWの計画があります。インドネ
子新2号においては、出力は60万kWで蒸気温度は620℃で
シアでは、以前に自国内で石炭火力を20基ほど増設する計画
あり、世界でも最も高温高圧の蒸気を実現し、発電端熱効率
があり、
中国勢が低価格の亜臨界圧ですべて受注しましたが、
も43%に達成しています。
なかなか計画が進まないと不満があがっているとも聞きます。
■
最先端へのリプレースがもたらす大きな効果
■
さらに100万kWクラスを国際入札で募集する予定があります
が、我々も参加する予定であり、大変期待されています。私たち
世界には石炭火力プラントが何千基とあり、
そのほとんどが
は、スケジュールどおりの納期と高い性能を約束し、
しかも25年
亜臨界圧ですが、ここで、日本の誇る最先端のクリーンコール
間責任もって運転保守します、
と強調しています。また、
ベトナム
技術のポテンシャルの大きさをご紹介したいと思います。たとえ
では、
もともとロシア製の火力発電があり、
すべて亜臨界圧で
ば、中国・インド等のプラントでは、25年〜30年経ち、効率の悪
すが、次はSCを導入したい、
と相談されています。
くなった旧式の石炭火力プラントがありますが、
日本が誇るベス
トプラクティスのUSCプラントにリプレースし、
今までと同様に発
■
米国市場と求められる効果的なPR
■
アジアとともに米国も大きな市場です。
オバマ大統領によりグリーン政策が進め
られていますが、米国内の地域別の電
源構成(発電電力量比)を見ると、ニュー
イングランドでは石炭は15%ですが、
サ
ウスアトランティックでは石炭のウェイト
が高く、
セントラル、イーストサウスは半分
以上が石炭です。さらに北の方にいくと
75%が石炭です。全米でみると石炭なし
ではやっていけない現実があるわけで
す。
マウンテンエリアには、非常にたくさん
J-POWER石炭火力発電の熱効率の推移
ENAA Engineering No.126 2011.1
7
エンジニアリングシンポジウム 2010
の石炭があります。一方、SOXやNOXの規制が厳しく、煤塵や
ポイントは、
コストに他なりません。タービンや発電機など、USC
水銀の規制も厳しいです。この現実に対して、私は当社の磯
の高効率の機器代は1割程度高くなります。中国製のプラントは
子火力の事例を紹介します。どれだけクリーンか、実物を見
かなり安い価格ですが、
日本の技術はそれに比べ効率が高い
てもらうのが一番いいのです。磯子火力のNOX実測値は1桁
ことで、燃料費が減り、長期で考えればコストダウンになります。
(ppm)であり、煤煙も1桁以下と非常に低い水準です。しか
また、我々が提供するのは、発電所の完成した後も、長期間に
も、磯子火力が横浜市という、人口360万人の世界的な都市
わたって投資回収しながら動かしていくビジネスモデルですか
に立地しています。まさに百聞は一見にしかずであり、実際に
ら、最初のファイナンスが重要であると思っています。JBICや貿
発電所を見ていただき、データも見ていただく。そうすること
易保険、あるいは政府開発援助等の日本政府による支援によ
で、石炭火力について理解していただけるようになります。エ
り、プロジェクトの経済性は大きく向上します。相手国の政府に
ネルギーのことを心配し、地球のことを考えると、誰もが石炭
対しても、20年30年性能を発揮して信頼できるサステナブルな
火力が重要であることを理解していただけると思います。
事業になります、
と強調させていただいています。また、運転管
理については長年のノウハウがありますので、任せていただくこ
とが可能であり、大きなアドバンテージだと考えています。
4. 海外展開のポイント
■
日本のベストモデル、技術革新の重要性
■
世界の各国に日本が誇るクリーンコールテクノロジーを活
用していただくためにも、石炭火力のベストモデルは日本に
5. 今後の展望とエンジニアリングへの期待
■
IGCCとCCS
■
なければいけません。世界最高水準のUSCも、常に技術革
現在、新技術や新しい挑戦分野でも、可能性が広がって
新に挑戦してきたことにより実現しています。NOXやSOX、ば
います。地球を救うためにも技術をさらに進化させ、次は、石
いじん対策も国内で磨いてきたからこそ、そして適切に運用
炭ガス化へ持っていく。理論的には熱効率が60%まで向上
してきたからこそ、国内においても地域が立地を認めてくれま
すると技術者は言っています。石炭ガス化発電(IGCC)は福
した。だからこそ、誰にでも勧められるものになり、アジアの
島県の勿来(なこそ)でも実証していますので、国内でしっか
国にも持っていくことができます。
りやればこれもアジアに持っていくことができます。また、究
さらに相手国のニーズを受けて、それに見合ったものを開
極の石炭火力発電を目指す、IGCCとCO2回収・貯留(CCS)
発していくことも重要です。日本で技術革新をしながら世界
を組みあわせた「ゼロエミッション石炭火力発電」の実現を
に拡げ、また、世界のニーズを取り込んで、日本でさらに開発
目指した実証研究プロジェクトにも取り組んでいます。それか
していく。これからは、各国の事情やニーズにも応えていかな
らバイオマス混焼です。これは、最新鋭な技術ではなく、コン
ければなりません。
ベンショナルな技術です。
下水汚泥や木材などについては、
■
海外展開する二つのポイント
■
また、
日本のクリーンコール技術を海外展開する際の一番の
皆さん焼却処分するのに困っています。これらをバイオマス
系燃料として石炭火力で混焼して発電します。広島市では下
水汚泥燃料化リサイクル事業の推進、長崎県の火力発電所
では、バイオソリッド燃料や木質系バイオマス混焼の実施に
より、CO2フリー発電の実用化にも取り組んでいます。
■
エンジニアリングとの協働で発電事業を展開
■
最後に、このような事業をアジアで展開するには、発電事
業として行わなければいけません。すなわちプラントをつくっ
て終わりではなく、プラントが完成してからがスタートで、20年
以上電気をつくり続けてはじめて成立する事業です。当社は
民営化の後、世界中に26カ所のプロジェクトを手がけてきまし
た。現地で10年間頑張って利益があがるようになり、技術陣
も根気よく指導をして、今では設備利用率も非常に高くなり、
火力発電量あたりSOX、NOX排出の国際比較
8
ENAA Engineering No.126 2011.1
ENAA Report 1
感謝状をもらいました。そして、我々の狙いのひとつが、先ほ
〜今こそ活かそうエンジニアリングの力〜」、
これを見て私は嬉
どもお話した米国の石炭火力をクリーンコールテクノロジー
しくなりました。大賛成です。我々は、プロジェクト会社のな
でやらせていただきたいということです。米国で石炭を使うこ
かで運転保守を自前でできることも大きな特長です。これか
とは避けられないだけに、チャンスはありますが、こういうとき
らはその国の資源を使いながら燃料代をまかなうといった仕
に一番大切なのは、パートナーづくり、フォーメーションです。
組みができると事業として成り立ちます。もちろん、発電事業
我々の投資資金の7割は銀行に融資してもらいますが、基本
は我々だけではできません。メーカーの皆様、エンジニアリン
的にすべてプロジェクトファイナンスでやっています。
グ会社の皆様も一緒に、常に技術革新に挑戦しながらやっ
今回のシンポジウムのテーマ、
「明日の日本が輝くために!
特別講演
ていきたいと考えておりますので、よろしくお願いします。
『グリーン産業革命』
人類の生存を脅かす10の「危機」
克服の条件
滋賀大学
学長
佐和 隆光
1942年生まれ
1965年 東京大学経済学部卒業
(1967年 東京大学大学院経済学研究科修了)
1969年 京都大学経済研究所助教授
1970年 スタンフォード大学研究員
1975年 イリノイ大学客員教授
1980年 京都大学経済研究所教授
1999年 京都大学大学院エネルギー科学研究科教授併任
2000年 国立情報学研究所副所長
2006年 立命館大学政策科学部教授・京都大学経済研究
所特任教授
2010年 滋賀大学学長就任
著書:
『市場主義の終焉―日本経済をどうするのか』
(岩波新書2000年)
『経済学への道』
、
(岩波書店2003年)
『日本の「構造改革」
−いま、
どう変えるべきか』
(岩波新書2003年)
『この国の未来へ−持続可能
、
で「豊か」
な社会』
(ちくま新書2007年)
『グリーン資本主義―グローバル「危機」
克服の条件(岩波新書2009年)
、
㈶日本環境協会理事、
㈶関西エネルギー・リサイクル科学研究振興財団理事、
(特非)
環境エネルギー政策研究所顧問、
㈶社会経済生産性本部理事
官庁・団体活動:環境経済・政策学会会長(1995年〜 2005年)
1. 人類の生存を脅かす10の危機
は、いまだに続いています。
2番目の危機、
気候変動による被害の頻発
35,000人以上が死亡した2003年の欧州の熱波。2004年
はじめに人類の生存を脅かす10の危機を挙げさせてい
のインド、バングラデシュの大雨。アメリカでは、2005年のハ
ただき、次にその危機を克服するための資本主義のグリーン
リケーン・カトリーナの襲来。ロシアでは、森林火災が頻発。
化、言い替えれば「グリーン産業革命」を起こす必要性につ
中国では、長江が氾濫し、黄河が渇水。山岳氷河の溶融。
いて語りたいと思います。
2006年のオーストラリアの干ばつでは、小麦の収量が60%も
減り、穀物の価格上昇の引き金になりました。そして2008年
1番目の危機、
テロと国際紛争
2001年の1月にブッシュ政権がアメリカで誕生し、京都議
に10万人以上が死亡したミャンマーのサイクロン。さらに世界
的な気候変動で付け加えるとすれば今年の猛暑。これは、
定書を離脱したことは、世界に大きなインパクトを与えまし
世界的な猛暑でもありました。
た。その後に、9・11同時多発テロが起こり、翌々年の3月に
3番目の危機、
原油価格の高騰
は、アメリカ合衆国主体とする有志連合がイラクに侵攻した
2002年から2008年にかけて原油価格が7倍高になり、現
ことにはじまる、イラク戦争。その結果として泥沼化した状態
在は80ドル台で推移。IEAの予測によると、2030年には1バ
ENAA Engineering No.126 2011.1
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エンジニアリングシンポジウム 2010
レル当たり200ドルまで上昇するだろうと言われています。そ
徴的なのが自動車産業への影響です。1台の自動車が売れ
んな状況のなかで、自動車は今後何で走るのか。電気自動車
ると、素材産業、石油産業、電子部品産業、化学産業などが
は、優れものですが、現在は、まだ値段が高いという欠点が
潤い、また、損害保険会社や自動車ローンを組む銀行、大き
あります。飛行機は、2030年頃も依然としてジェット燃料で飛
な駐車場を備えたショッピングセンターも潤います。一方、製
ばざるを得ない。また、船舶の基本的な燃料は今後も重油し
造業の輸出に頼る傾向がある日本では、欧米諸国の不況の
かないでしょう。それでは今後、一体どういうふうに燃料転換
あおりを受けて実体経済に深刻な影響が及び、名目経済成
するか。それが、大きな課題です。
長率は2008年度、
マイナス4.2%。2009年度もマイナス成長。
4番目の危機、
再生エネルギーの活用
しかし中国をはじめ発展途上諸国の工業化が進み、工業製
ドイツではFeed-in Tariff、固定価格買い取り制度を導入
品の供給力が世界的に需要を超過する。どこの国でも自動
し、太陽光、風力、バイオマスといった電源の利活用が広く
車を作っている状況になり、現在グローバルに供給力が需要
推進されています。しかし、再生可能エネルギーは、供給をは
を超過するという現象が起きています。
じめ電圧、周波数等が不安定という課題があります。電力の
9番目の危機、
雇用問題
送配電系統を安定化させるスマートグリッドがアメリカを中
日本では経済成長率によって景気の良し悪しが判断され
心に注目されていますが、賢い送配電網や送配電系統を安
ますが、欧米諸国で一番重要なのは雇用です。失業率をで
定化させるための投資が必要になってきます。問題はその費
きるだけ低くすることが政策目標になるわけですが、現在
用を誰がどのようにして負担するかということです。
ヨーロッパはほとんどの国が10%近い高い失業率。日本は、
5番目の危機、
食料価格の急騰
高度成長期には実際10%台でしたが、オイルショックの後
2008年のリーマンショックまで食料価格は高騰し、米の値
1995年ぐらいまで2%台。それから堰を切ったように失業率
段が最も上がりました。2番目は大豆。特に中国では、中華料
が上がって、今では5%台まで高くなっています。
理によく大豆が使われることがあり、非常に高騰しています。1
10番目の危機、
社会保障
つ目の原因は、中国等の新興諸国の経済発展による食料需要
人口問題 研究 所の予測では、日本の2 0 5 5 年の人口は
の増加。2つ目がオーストラリアの干ばつによる小麦の60%収
9,000万人を割り込み、高齢化率は40%を超える。こういう社
量の減少。3つ目がバイオ燃料の原料として穀物の非食料用
会では、医療、介護の費用が家計支出に占める割合が増大
需要の流動。4番目は、輸出国の輸出規制が挙げられます。
することは間違いありません。現在、75歳の平均余命は、男
6番目の危機、
公衆衛生の旧態化
性が11年、女性が15年です。女性の場合は、75歳まで生きれ
生物多様性が徐々に失われてきたことを主な結果として、
そ
ば平均的に90歳までは生きられ、人生の20%前後を後期高
れまで野生の動物を宿主としていたウイルス、例えば鳥インフ
齢者として生活しなければならなくなる。そのために20歳前
ルエンザの場合はニワトリを宿主とするようになり、豚インフル
後から65歳まで一生懸命働く。そういう社会がやってくる。こ
エンザも人間に伝染すると言われています。2年前に成田空港
れは、少し考えるだけでぞっとするような将来像であります。
で徹底的な検疫を行いましたが、公衆衛生の旧態化が大きな
問題として指摘されました。今後ますます増えるだろう新しい
ウイルス病にどう対応するかを考えなくてはいけません。
7番目の危機、
国際金融危機
20 08年にアメリカのサブプライムローン問題に端を発す
る金融危機は、ヨーロッパ全体から全 世界へ金融危機が
拡大。特にアイスランドは、人口が30万人程度の小さな国で
すが、1人当たりのGDPが世界で第3位ぐらいだったことが
あり、政府が、
「これから金融立国だ」と言って、政策金利を
15.5%ぐらいまで引き上げたことにより、アイスランド国債が買
われました。しかし金融危機の結果、国債が売り払われ、アイ
スランドの経済も破綻寸前まで追い込まれました。
8番目の危機、
世界同時不況
金融危機は実物経済にも深刻な影響を及ぼしました。象
経済成長率の推移
10
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ENAA Report 1
り、1995年から2008年までの13年間日本経済は全く成長しな
2. 危機克服の条件
■
「グリーン・ニューディール」
かったということになります。高度成長期の初期には白黒テレ
ビ、電気洗濯機、電気冷蔵庫、電気掃除機が爆発的に売れ、
■
次に3Cと言われたカラ―テレビとCAR(乗用車)、クーラーが
世界同時不況への処方箋は、先進諸国における「グリー
登場。1965年に10%だった乗用車の普及率はすさまじい勢い
ン・ニューディール」の実践です。1933年、大統領になった
で普及していきました。その乗用車が売れるのは、経済全体
ルーズベルトは、大規模な公共事業を行うニューディール政
への産業連関的な波及効果が非常に大きく、特にオイルショッ
策で世界大恐慌を乗り切り、オバマ大統領は、環境への取り
ク以降の経済成長率が4.5%のレベルになったのは、乗用車の
組みで新しい景気回復の糸口をつかもうとしました。省エネ
普及に負うところが極めて大きかったと言えます。
家電や低燃費車、太陽光パネル、電池型の燃料電池等を普
及させ、送配電網のスマートグリッド化を図り、設備投資の
■
Incentiveの重要性
■
また、エコカーや再生可能エネルギー等を普及させるには、
機会をつくる。それから住宅ビルの省エネ化、そしてFeed-in
Tariff 制度の導入。これが、まさにグリーン・ニューディール。
Incentiveを仕掛ける必要があると私は考えています。アメリカ
つまりエコ製品関連の消費および投資を煽ることで、経済を
の経済学者ランズ・バーグも「経済学のエッセンスはIncentive
成長させようということなのです。
の1語に尽きる」と言っています。つまり化石燃料の消費をできる
■
「グローバル・ケインズ主義的政策」のすすめ
■
だけ抑えようとするならば、
それを動機づけるIncentiveを仕掛
ける必要があるわけです。
ドイツでは、一戸建て住宅を持ってい
これからの資本主義経済を牽引するのは、新興国・途上
る人が、屋根に太陽光パネルを付ける費用が無くても、銀行が
国の耐久消費財の確実な需要を引き起こすグローバル・ケイ
太陽光パネルを担保にしてお金を貸してくれます。それから燃
ンズ主義と先進国におけるグリーン・ニューディール政策の
費効率のいい車を普及させようとすれば、燃費効率のいい車の
組み合わせである。
取得税、保有税を安くする。また、
この取得税や保有税を燃費
日本では、かつて速水日銀総裁が「水を飲みたくない馬を
水場に連れて行ってどうするのですか」という名言を発せら
れました。いくら金利を下げても、今の日本の状況では企業が
「そこまで金利が安いのだからお金を借りて設備投資をしよ
効率に比例させ、優れた車の税を大幅に引き下げるということ
がまさにIncentiveの仕掛けです。
■
これからの経済成長の原動力とは
■
う」あるいは個人が「個人住宅投資をしよう」という気にはな
注目したいのは、グリーン開発メカニズム。これは例えば日
かなかならない。ところが中国は、内需喚起策によって世界同
本が中国に投資し、そこでCO 2の排出削減をしたとき、その
時不況が起きるやいなや、一挙に4兆元の財政支出を行い、円
削減分を日本の削減分としてカウントできるという制度です。
に換算すると60兆円もの設備投資をした。中国は貧富の格差
このグリーン開発メカニズムは資金の流れを作り、ここにも
が大きく、内陸部には、
「テレビが欲しい。電気冷蔵庫が欲し
気候変動緩和策と経済のポジティブな関係が見てとれるわ
い」といった貧しい人たちが10億人近くいます。そういう人たち
けです。つまり先進国では温室効果ガスの排出削減が義務
に補助金を出すことにより、テレビや冷蔵庫が売れ、2009年に
づけられていますから、投資せざるを得ません。それが新興
は日本の部品メーカー各社に部品の注文が中国から殺到した
国や途上国での雇用を生みながら潜在的な需要を掘り起こ
と言われています。今後はグローバル金利主義ともいうべき、
す。そのブーメラン効果で先進国への製品需要として戻ってく
新興国や発展途上国の潜在的な需要を掘り起こすことが重
る。これも気候変動緩和策と経済とのポジティブな関係が見
要な課題になってくるのではないかと思います。
てとれるということです。
■
日本経済の発展を支えたものとは
■
これからは気候変動緩和策が、経済成長の原動力になり、
「気候変動対策なくして、経済成長なし」と言い切ってもいい
高度成長は1958年から始まり、1973年のオイルショックの
と思います。デジタル製品は少々普及しても、経済は成長しま
年までに平均年率で9.1%を達成。その翌年1974年に戦後初
せん。エコ製品がどんどん普及することによって、再び高度成
めてのマイナス成長を経験しましたが、
その後4%前後の成長
長とまでは言わないまでも4−5%の成長を達成するならば、
率まで回復し、1991年にバブル崩壊による平成不況が始まり
それが、これからは必要になり、危機克服のキーとなる。そう
ました。2008年の名目GDPは、1995年の名目GDPと同じであ
いうことで、私の講演を締めくくらせていただきます。
ENAA Engineering No.126 2011.1
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エンジニアリングシンポジウム 2010
「強い日本の実現に向けて
〜エンジニアリング産業の進むべき道〜」
パネル
ディスカッション
〈パネリスト〉
経済産業省 大臣官房参事官(戦略輸
出担当) 併・クール・ジャパン室長
渡辺 哲也
日揮㈱代表取締役会長兼 CEO
竹内 敬介
川崎重工業㈱代表取締役常務
林
敏和
〈コーディネーター〉
丸紅経済研究所 チーフ・アナリスト
猪本 有紀
■
現状の問題意識と取り組み
■
渡辺: 日本が、どのような道を歩んできたかを振り返ってみま
すと、一人当たりGDPでは世界ランキング、2000年に3位が、
猪本: インフラ・システム輸出をテーマに日本経済を復活させ
2008年には23位。スイスIMD(国際経営開発研究所)の国
ながら強い日本を実現するために、まず、エンジニアリング業
際競争力の順位では、かつて1位が今27位。70年代は欧米と
界が強くならないといけないのではないか、という視点をベー
争い、80年代はデジタル技術が発達し、現在に至るまで失わ
スに、日ごろの活動状況から今後の課題や取り組みを含めて
れた15年といわれるように世界のシェアを日本が失っていると
お話いただければと思います。まず、最初に現状認識からお
いうことです。また現在、海外では、戦略分野に集中的な投資
話いただきたいと思います。
をするのがアメリカ、欧米、韓国等各国の経済政策の基本で
す。アメリカの例では、次世代自動車への投資、スマートグリッ
ドへの投資、韓国ではグリーン、先端技術、高付加価値サービ
ス、
フランスやドイツも基本的に同様ですが、
それでは、日本は
パネリスト
渡辺 哲也 (わたなべ てつや)
経済産業省 大臣官房参事官
(戦略輸出担当) 併・クール・ジャパン室長
1964年生まれ
1987 年 東京大学法学部卒業後、
通商産業省
(現経済産業省)
入省 (コロンビア・
ロースクール卒、
司法修習終了)
2004 年 外務省経済協力開発機構日本政府代表部
(参事官)
(通商機構部担当)
2005 年 通商政策局政策企画官
2006 年 通商政策局東アジア統合推進室長
2007 年 通商政策局アジア大洋州課長
2010 年 大臣官房参事官
(戦略輸出担当)
併・クール・ジャパン室長
12
ENAA Engineering No.126 2011.1
これからどうするのか。自動車、家電以外の産業が海外の成
長マーケットにつながっていくこと。それから一本足打法から
八ヶ岳構想へと、いろんな成長分野を造ることであり、単品売
りからシステム売りへの転換を図ることも大事です。産業構造
審議会では5分野があり、インフラ、グリーン、文化産業、医療
介護、先端産業等という位置づけとなっています。
竹内: 最近よく日本は、技術で勝ってビジネスで負けるといわ
れています。なぜ、最高水準の技術を持つ日本がビジネスで負
ENAA Report 1
けてしまうのか。聞いた話として、韓国の電機メーカが冷蔵庫
パネリスト
をインドで販売し、大ヒットしたという話があります。ごくシンプ
竹内 敬介 (たけうち けいすけ)
ルな冷蔵庫で非常に安い。また、その冷蔵庫の特徴は、前面
日揮㈱代表取締役会長兼CEO
に赤色灯がついていること。インドは夏場には停電が多く、冷
1947年生まれ
1970年 大阪大学基礎工学部化学工学科卒
業後、
日本揮発油㈱(現日揮)
入社
2000年 取締役第2事業本部長
2001年 常務取締役第2事業部本部長
2002年 専務取締役
2006年 取締役副社長
2007年 代表取締役社長、
㈶エンジニアリング
振興協会理事長
2009年 日揮㈱ 代表取締役会長 現在に至る
㈶エンジニアリング振興協会顧問
蔵庫が止まってしまいます。停電のときは点灯するので、
ランプ
がついているときは、開けてはいけない、
というメッセージを伝
え、内部のものを腐敗させないというのが大きな特徴。
すなわ
ち低価であるけど、ニーズに合致した製品であるというもので
す。一方、日本は、高度な技術力を背景に、高品質で多機能な
製品を世界マーケットに出し、自らの技術力を高めることに注
官庁・団体活動:㈶エンジニアリング振興協会顧問、
㈳日本
経済団体連合会 日本アルジェリア経済委員会委員長
力してきましたが、いつの間にかマーケットが本当に求めてい
るものを忘れかけているのではないかとも言えます。エンジニ
的なセメントプラントで1万8千kW程度の省エネと年間12万トン
アリング業界のマーケットも急速に多様化し、顧客も熾烈な競
のCO2削減が可能。現在、これをベースにして、中国の合弁会
争環境におかれ、
コストを重視する姿勢になってきています。
社にローエンドサイドの技術、労働集約型の製品を担当しても
韓国やそのほかのコントラクターは、
コスト重視というマーケッ
らい、
日本からはソフト、ハイエンドの技術を展開していく。生産
トの求めること、プラントの変化にうまくミートしてきたといえま
設備なので、多少高くてもいいものが欲しい、高い信頼性が欲
す。また、時代は機器部材の供給やプラント輸出だけではな
しいというお客様、一方では生産設備なので、細かいことにこ
く、事業全体をとり仕切る存在が求められている時代でもあ
だわらない、安いほうがいいという、
そういう組み合わせのなか
り、海外のインフラ分野においても、エンジニアリング産業が
で、日本と合弁会社との仕事の線引きをフレキシブルに変化し
キーとなる存在になりうることは明言できると思います。
ていく。これを、私は社内では、ポジティブダブルスタンダードと
呼び、積極的な取り組みを行っているところです。
林: 日本企業を取り巻く市場には、環境問題があり、エンジニ
アリング産業にとっては、原子力、再生可能エネルギー、水、
■
競争力の強化と官民連携のあり方
■
食料といったいろんな分野でのビジネスチャンスが生まれて
います。事業活動においては、事業コストの増大という問題
猪本: 次は競争力の強化についてですが、相手のニーズ、
等がありますが、新興国が台頭することによって、新市場、
マーケットニーズを見極めながら、徹底的なコスト削減を行っ
調達面、販売面でも新たなビジネスチャンスをもたらしていま
ていくその実際とポイントについてお聞かせください。
す。一方、国内で急速に進む少子高齢化や為替、資源コスト
の急変など環境変化に的確に対応するには、従来に増して、
林: コストを下げるには日系企業だけが組むのではなく、技術を
柔軟で戦略的な経営施策の実行が求められます。
持っている日系企業が核となって、海外とも組んでコストを下げ
こうした背景のなかで、10月より新たに7カンパニー制で川崎
ていくしかないだろう、
と思います。
すなわち現地化ということで
重工業は再挑戦をスタートしました。
システムインテグレーション
あり、従来は、ノウハウの漏洩を恐れることから、技術供与を最
能力を付加し、スマートグリッドや輸送システム、
さらには、企業
小限に抑えて現地化に限界を設けていましたが、
これからのビ
が有する人材や技術、事業分野ごとの統合により、競争力を強
ジネスモデルは、持っているすべての技術を出資先の合弁会社
化していく方向です。プラント事業のインテグレーションでは、
す
に渡し、
十分な現地化を通じてそこで継続的な利益を生んでい
でに産業エネルギー設備、環境エネルギー設備を統合して新た
き、
その利益を還元していただき、
さらなる技術の開発を進める
なビジネスチャンスを追求してきました。中国において進めてい
という事業展開を目指すことが重要だと考えています。
る合弁プロジェクトでは、2006年にエンジニアリング会社、2007
年に製造アセンブリ会社を設立、
そして2009年に機器製造会
竹内: 競争力とは、コスト競争力につきるのではないでしょう
社を設立。
セメント排熱発電設備では、
日産5000トン×2の典型
か。エネルギー関連、また化学プラントでもコストが重要です
ENAA Engineering No.126 2011.1
13
エンジニアリングシンポジウム 2010
連携のあり方についてはいかがでしょうか。
パネリスト
林 敏和(はやし としかず)
川崎重工業㈱代表取締役常務
1946年生まれ
1969年 九州大学工学部卒業後、川崎重工業
㈱入社
2003年 プラントビジネスセンター副センター長
2004年 執行役員プラントビジネスセンター長
2005年 カワサキプラントシステムズ㈱
代表取締役社長
2010年 川崎重工業㈱代表取締役常務
官庁・団体活動:第一原子力産業グループ
(FAPIG)
副会長
渡辺: オールジャパンと当初、言っていましたが、みんなでで
ていくのでは、相変わらずの護送船団で終わってしまいます。
そこで、現在は、ジャパンイニシアチブといって、現地企業と
連携しながら、
システム運営やソリューション解決策を提案す
る。現地の、そもそもきれいな水がない、とか、ごみを回収す
る仕組みがない、とかいうのをひとつひとつ解決しながら現
地と協力していく、ということではないかと思います。
が、インフラ・システムはライフラインですから、民がメリットを
■
エンジニアリングの役割と期待
■
享受できなければならず、水も電気も高くては生活できませ
ん。先ほど林さんが言われましたが、現地化は避けて通れな
猪本: インフラ輸出を官民一体で目指すときに、エンジニアリ
い道。エンジニアリング産業も海外で現地会社をつくって、自
ング会社や業界への期待はますます高まり、強い日本の実現
立化してプロジェクトを遂行していく。日本は技術をトランス
に向けての役割も大きくなっています。
ファーし、現地会社の遂行を支援していくこととなる。それぞ
れの国の産業化に寄与し、雇用促進に寄与していかないと
林: 日本企業がグローバルに展開していくときに日本企業の尖
永続的には続かないと思っています。
兵の立場となるのがエンジニアリング企業であり、幅広い基盤
技術を活用しながら、新興市場を取り込み、事業活動を強化
猪本: コスト競争力のためには現地化が必要であるというお
していくことが必要となります。我々が競争力の源泉とするの
話ですが、国際化の中で求められる内なる人材をどう育てて
は、
システムインテグレ−ション能力やプロジェクトマネジメント
いくかという問題もあるかと思います。
能力であり、
日系企業が有する高い信頼性だと考えています。
私どもが手がけてきた中国での合弁事業も合弁設立後の4年
竹内: すべてを任せて日本が空洞化するのではなく、日本は
間に134プラントを受注建設してきました。その省エネ効果は
しっかりとコアでしかもリーディングロールをとるということが
1,680メガワット。年間のCO2削減量は1,100万トンレベルに達
前提です。そして、人材育成ですが、日本人には、誠実とか
しています。この理由は現地化を進め、コスト削減を図ったこ
全体を見渡せるというような素晴らしいコンピテンシーを持っ
とと、現地企業の強みを最大限生かしたということです。今後
ている、というバックボーンがありますが、それを理解しなが
は、都市のゼロエミッション化をセメントの省エネルギーと結び
ら、外でリーディングロールを取れる人材を育てていくことで
付けながら、
シナジー効果を追求していこうと考えています。
す。日本人のコンピテンシーは、自慢できるものですが、時とし
てそれが足を引っ張ることもあります。例えば、誠実さや謙虚
渡辺: システム戦略という面では、エンジニアリング会社が尖
さとかの日本人の特質が、場合によっては自分たちをアピー
兵としての大きな期待を担っていると思います。日本のいいも
ルすることに躊躇する、また、コミュニケーションを積極的に
の、現地のいいものを引き出し、全体をまとめていく。何十年
とらないという点で海外勢に遅れをとることが見受けられま
も前から海外へでて、前線でいろんな人を使ってプラントを
す。ですから、最近では、特に、しゃべれということを社内で
つくってきた経験がありますので、
そういったエンジニアリング
繰り返し言っているところです。
カンパニーのノウハウがまさに日本の元気の復活のための、
源泉になるかと思われます。
猪本: コアを握りながら、部分的には現地にまかせていく必
14
要があるということでしょうが、一方で、オールジャパンという
竹内: 新興国のインフラ需要はアジアでは最大8.3兆ドルと
言葉も使われてきました。政府の立場から、これからの官民
いわれています。これまで、発電、水、鉄道等インフラのあら
ENAA Engineering No.126 2011.1
ENAA Report 1
ゆる分野で、日本の高付加価値製品は世界のマーケットを占
のが成功の道。日本のエンジニアリング産業がインフラ事業で
有してきましたが、一方で欧米が日本の製品を活用したトー
もリーディングロールをとっていきたいと考えています。
タルシステムで立案、運営し、インフラ需要をリードし、各社
先ほどのジャパンイニシアチブ、いい言葉ですね。コアジャ
のビジネス展開のみならず、新興国そのものの発展にも寄与
パン、と言っていいかもしれませんが、しっかり突き進んでい
してきた事実も否定できません。
きたいと思います。
我々は1960年代から海外へ出ていき、国内と異なる海外
インフラ・システムのビジネスでは、
それぞれの国、日本を含
でのプロジェクトを遂行してきましたから、
マネジメントという
めて国を富ませる、産業化に貢献するという意味でエンリッチ
面では大いに力がありますが、インフラ事業になるとプラント
メント。さらにその国も日本の雇用拡大にも促進するという意
を建設するということのみならず、数十年に亘ってオペレー
味でエンプロイメント、
そしてエデュケーション、
それにエンバイ
ションし、メンテナンスしていくことが必要です。その点は、
ロメントとエコノミー、
その5つのEに6つ目のE、エンジニアリン
日本のエンジニアリング産業が今まであまり対象としてこな
グで応えていきたい、
と。これが、今日の最後の言葉です。
かったことからして、一つのウィークポイントでもありますが、
官との連携もはかり、今後は、ぜひとも乗り越え、やっていき
林: エンジニアリング産業に限らず、技術力がコアであること
たいと思っています。
に間違いはありません。日本という国自体が人材以外に資源
がないわけですから、
やはり技術開発を進めて、世界にきらり
■
強い日本に向けて
■
と耀く技術をひとつでもふたつでも各企業が持つようにするこ
と。そしてその上でお互いの強みを持ち寄り、ひとつのシステム
渡辺: アジアでいえば、インドネシア、
ベトナム、メコン、インドで
なり、あるいは大きなシステムを作り上げていく。その時に日本
はデリー・ムンバイ。南インドは、自動車を中心に産業の集積が
だけでできるものもあるかもしれませんし、あるいはグローバ
進んでおり、
ここもインフラのニーズが高い地域です。さらに、中
ルな組み合わせになるかもしれませんが、出来ればその中心
東、
アメリカ、
イギリスの高速鉄道、
ブラジルの新幹線、重要プロ
にいるのが日本企業集団であれば望ましいと思っています。
ジェクトがたくさんあり、
そういう中で相手国と議論をしながら
具体的なプロジェクトにして、オペレーションマネジメントも含め
猪本: 本日は、グローバルな、特に、
アジアを中心とする旺盛な
てとっていくことが重要です。そのためにも、政府間での枠組み
インフラ需要に応えるために、民間企業はどのような戦略で取
づくりに努め、JBIC等の金融サポートも一生懸命やりながら、
り組んでいくのか。一方、政府は各国との関係や制度面で民
排出権取引、環境技術を生かしてインフラをつくることにも取り
間企業をどのように支援していくのか。オールジャパン体制構
組みたいと考えています。我々はこのシステム輸出がエンジニア
築への期待が高まる中、新しい官と民の役割分担をどのよう
リング産業にとっても日本経済を強くすることに影響していくと
に形づくっていくのか。そういった点において、貴重なご意見と
思いますので、我々も最大限やりたいと思います。
議論をすることができました。ありがとうございます。
竹内: ここ数年私どもでは、プログラムマネジメント&インベスト
メントパートナー、
という言葉をよく使っています。EPC事業は、
も
ちろんコアビジネスとして従来どおり遂行していきますが、
さら
に前段部門、顧客への提案力を強化して、
コントラクターの立場
のみならず、時として事業者の立場でものごとを判断していく。
また、地域開発も含む全体のプランを作成し、事業投資も積極
的に行いながら収益の安定化を目指すことで当該国の産業化
や雇用の拡大に貢献していく。それぞれの国の経済成長にも寄
与することで、結果として日本にも返ってくるだろうという期待も
あり、我々自身が当該国に身を置き、現地のニーズに応えていく
コーディネーター
猪本 有紀 (いのもと ゆうき)
丸紅経済研究所 チーフ・アナリスト
1957年生まれ
1981年 東京大学法学部卒業後、
丸紅㈱入社
1994年 丸紅オーストラリア会社 企画開発
課長兼財経総務部長代理
1999年 丸紅㈱市場業務部欧米課長
2001年 丸紅経済研究所 シニアアナリスト
2003年 丸紅経済研究所 チーフアナリスト
現在に至る
著書:
「2015年、
アジアの未来」
(2006年 東洋経済新報社)
、
「進化する香港」
(2007年 エヌ・エヌ・エー)
「
、最新総合商社
の動向とカラクリがよ〜くわかる本」
(2007年 秀和システ
ム社)
「
、資源を読む」
(2009年 日経文庫)
いずれも共著
ENAA Engineering No.126 2011.1
15
ENAA Report 2
2010 エンジニアリング産業
業界セミナー
東京:2010年11月 6日(土)13:15 〜 新霞が関ビル灘尾ホール
大阪:2010年11月20日(土)13:15 〜 天満橋OMMホール
11月6日(土)
東京、20日(土)
大阪、2会場に多数の学生を集め、
基調講演、
パネルトーク、
懇談会の3部構成で開催された。
久保田 隆(くぼた たかし)
千代田化工建設㈱ 代表取締役社長
19 4 6 年生まれ
19 6 9 年 東北 大 学工学 部 化 学工学 科 卒 業、
千 代田化 工 建 設 ㈱ 入社
19 91年 P G Fジャカルタ事 務 所 所長
19 9 5 年 海 外 第 2プロジェクト本部部 長
19 9 8 年 取 締 役 豪 亜プロジェクト総 室 長
19 9 9 年 取 締 役 海 外プロジェクト総 本部 長
2 0 01年 常 務 取 締 役 兼 執行役 員 海 外プロジェクト統 括
兼 海 外営 業 本部 長
2 0 0 4 年 取 締 役 兼 執行役 員 国内プロジェクト副 統 括
2 0 0 5 年 常務 取 締 役 兼 執行役 員 技 術 統 括
2 0 0 7年 代 表 取 締 役 社 長
(現職)
基調講演
東京会場
「未来を切り拓くエンジニアリング」
千代田化工建設㈱
久保田 隆
エンジニアリングというのはどんな
す。18世紀の産業革命以降、
最後の
回しました。
この建設に従事したのは
に楽しいものか。
そしてどれだけワクワ
2秒ほどのタイムスパンの中で生き、
爆
軍隊の中の技術部門ですが、
しっかり
クするものか。
今日は、
これを何とかし
発的に人口が増え、
強烈にエネルギー
とした計画の元に資材を集めて、
道を
て皆さんにお伝えしたいと思ってお話
を使ってきました。20世 紀 以 降、こ
造り、
橋を架け、
ローマからその領土の
しします。
れまでのエネルギー消費量の57%を
果てまで1日で行けたという程の高速
使っている。
このままいったらどうなる
道路網を完成させました。
遡れば、
この
か。
ここで我々が英知を使わなければ
時代からエンジニアリングは、
人類の
いけないし、
その英知の1つとして、
エン
社会の基盤として成り立ち、
これを非
をご存じでしょうか。
寒さを凌ぐ毛皮もな
ジニアリングの本当の意味がそこにあ
常にうまく活用して発展したのが、
大英
い、
獲物を獲るツメもない、
そんな人類を
ると思っています。
帝国と言えます。
基本的には自然界に
エネルギーと人類のかかわり
ギリシャ神話の「プロメテウスの火」
憐れんで、
神様の世界にあった「火」
が人
類に与えられたという話ですが、
そのと
16
代表取締役社長
エンジニアリングのルーツ
存在しているもの、
そしてエネルギー、
これを我々人間の生活に必要な、
ある
きの人類は考える力を持ち、
それにより
では、
ルーツはどこにあるか。
太陽の
いは有益なものに変えていく。
夢を形
素晴らしい人生を切り拓いていった。
神
沈まない国、
大英帝国時代、
ヴィクトリ
に変える産業であり、
現代で言えば、
交
話ではありますが、
いかに人類がエネル
ア女王のご主人アルバート公の功績
通や橋、
石油プラントや発電所などの
ギーを活用してきたか、
そしてその関わり
に対してメモリアルが 建立され、4本
各種エネルギー施設、
あるいはこれだ
のポイントがそこにあると思われます。
の柱の1つに Engineering が刻まれ、
け便利な生活を楽しむいろいろなも
地球の誕生は46億年前、
人類の誕
大英帝国の繁栄の礎となったとされて
のや価値を生んでいます。
生は、20万年前、30万年前と言われ
います。
かつてのローマ帝国では、
領土
ていますが、
地球が365日であれば、
人
の拡大に合わせてそれを統治するため
類はわずか20分、30分間のライフで
に今の言葉で言うと高速道路を引き
ENAA Engineering No.126 2011.1
エンジニアリングの醍醐味
次 に、
「 エンジニアリングは、何を
2010 業 界セミナー
ENAA Report 2
やっているのか」
を、
私どもの会社を例
要です。2番目は、
新しいテクノロジー
にある水はほとんどが塩水で、
真水は
にご紹介します。
カタールのLNGプラ
や要素技術の集約。3番目は、
お客様
地球上の水の1,000分の1%程。
その
ント建設に携わったプロジェクト。
こ
の要求は同じではなく、
個別の受注生
水を巡る問 題。さらに人口が5割、6
れはLNG(液化天然ガス)総生 産量
産であること。
それから4番目、
造られ
割増えたらどうなりますか。
水を上手に
年産4,680万トンの巨大なもので、3
るプラントは、
国内だけでなく、
グロー
使う生活パターンを作らなければいけ
プロジェクトに分かれ総 投 資 額は3
バルに通用するものであり、
国際性が
ません。
ここでも技術のインテグレー
兆5千億円。1プロジェクト当り使って
要求されること。
最後に専門知識を融
ション、
これをエンジニアリングにまと
いる資 材の重 量が約20万トン。コン
合しなければいけません。例えば、
「自
め上げて、
効率のいいシステムを作る。
クリートの量は25万立米。
使っている
分の得意分野はこれだ」
と言っても、
必
これからは一家に1台、
電気自動車を持
電気ケーブルは、約2,500キロ。東京
ず隙間ができます。
その隙間をどうま
つ時代に変わるかもしれません。
大量
と博多の2往 復分に相当するスケー
とめあげるかというのがエンジニアリ
消費社会から循環型の社会に、
どんど
ルです。必 要な資 材や機材を世界各
ングの醍醐味であり、
理系・文系を問
ん変わっていくはずです。
そこにも、
大き
国約45カ国から輸入し、港に荷揚げ
わず新たな機能を活用、
創造していく
な夢があります。
した船の数は総 数260隻。それだけ
産業であると理解していただければと
のビッグスケールのプロジェクトを行
思います。
うのも、
エンジニアリングの醍醐味で
す。
大量の資材を管理し、
正確に工事
これからのエンジニアリングの役割
メッセージ
皆さんは生まれたときから、
物があふ
れる時代に育ちました。
これからは、
あ
を遂行するために、
私どもは、
バーコー
これからの社会には、
エンジニアリ
ふれたものをいかに使わないで、
ものを
ドを活用しました。鉄にバーコードを
ングの活躍する場が広がっています。
あふれさせない快適な生活をするかと
貼り、
それを読み取るのは難しく苦労
人口の世界 的な増加、高齢 化問題。
いうことになるでしょう。
これも、
大きな
しました。さらに260隻 の 船 が 頻 繁
今、
約70億近い世界人口のうち、
半分
エンジニアリングのテーマで、
大変夢
に来ますから、
その材料が今どこにあ
以上が老齢 者の社会が 到来し、
そう
のある話だろうと私は思っています。
るかを衛星を使いながらバーコード
いう状態で快適な生活をどう送るか。
で全 部位置、数 確 定までやることが
エネルギー問題、
交通問題、
食料問題
挙げさせてもらいます。1つ目は、
常に
でき、
ほぼ98%の確率で予定通り荷
他、
いろいろな課題が出てくる。
特に、
好奇心と探求心を持って生きて行くこ
揚げできました。
英知と新しい技術を
現在大きな問題になっている化石燃
と。
いつまでも若々しい気持ちを持って
駆使しながら正確な作業を行うのも、
料消費に伴う大気中の炭酸ガス濃度。
人生を楽しんで欲しいと思います。2
エンジニアリングの醍 醐 味。
また、
カ
人口が増えるにもかかわらず、
快 適な
番目は、
情報があふれていますが、
イン
タールの夏は大変暑く、50度を超え
生活を送るために、
エネルギーの消費
ターネットで情報を集めるのではなく、
ることもあります。熱 射 病防止のため
を抑えたものづくりを徹底しなければ
生きた情報を自分の足で集めて、
それ
に、水を必ず 飲ませる作 業体 系に加
いけません。
これまた1つエンジニアリ
を自分で判断していくことが大切です。
え、母国での体 調管理の習慣なども
ングの大きな役割です。
3番目には、
人間の欲を高めることと
最後に皆さんに伝えたいことを3つ
調べ、暑さ以外の要因まで確認しな
日本は70年代 頃より環 境 保 全に
知力がなければ意味が無いと思いま
がらマネージしました。
こういう点では
取り組み、燃料のクリーン化に着手。
す。
こうしたことができたら、
世の中も
技術系ばかりでなく、
文系の方々の力
現在では、石油燃料も大変きれいに
のすごく変わる。
我々もがんばります。
さ
も必要であり、
全 体のシステムのイン
なり、
これをさらに進めながらエネル
らに皆さんにエンジニアリング業界に
フラを作る場合は、
文系の方の力も欠
ギー転換を図る。
太陽光等を使い、
最
入っていただければ、
大きな力になりま
かせません。
終的には化石燃料を使わない、
いわゆ
す。
そして、
もう1度、
日本の時代を作っ
改めてエンジニアリング産業の特性
るカーボンニュートラルなエネルギーに
ていきたいという思いを込めて、
エンジ
をまとめますと、1つは知識の集約性。
まで持っていく。
こうした時代は、
皆さ
ニアリング産業の素晴らしさを説明さ
これだけのものを造りますから、
技術
ん方の時代であり、
まさに皆さんの、
腕
せていただきました。
ご清聴ありがとう
面ではすべての業種に及ぶ知識が必
の見せどころですね。
もう1つ、地 球上
ございました。
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17
2010 業 界セミナー
林 敏和(はやし としかず)
川崎重工業㈱ 代表取締役常務
19 4 6 年生まれ
19 6 9 年 九州大学工学部卒業後、
川崎重工業 ㈱入社
2 0 0 3 年 プラントビジネスセンター副センター長
2 0 0 4 年 執行役 員プラントビジネスセンター長
2 0 0 5 年 カワサキプラントシステムズ ㈱ 代 表 取 締 役 社 長
2 010 年 川崎 重 工業 ㈱ 代 表 取 締 役 常務
官庁・団体活動 第一原子力産業グループ
(FAPIG)
副会長
基調講演
大阪会場
「エンジニアリング産業の魅力と
求められる人材」
川崎重工業㈱
林 敏和
西欧諸国では、
ひとつの産業分野とし
の産業革命を経て、
ヴィクトリア女王の
化、
さらには国際協業の推進等によりこ
て認識されているエンジニアリング産業
治世下で英国が最も繁栄した時代。
夫
の困難を克服する努力を続けています。
ですが、
我が国ではエンジニアリングに
君であるアルバート大公は1851年に産
対応する日本語訳がなかったことから、
業工芸大博覧会を開催するなど英国の
エンジニアリングビジネスの実態
必ずしも一般的に理解された概念とは
発展に貢献されましたが、
若くして亡くな
続いてエンジニアリング産業には、
ど
言えません。
学生の皆さんにも馴染みが
られました。
その功績を讃えてアルバー
のような会社があるか。
第1のグループ
薄いと思われるエンジニアリング産業の
トメモリアルが建設され、
その塔を取囲
は、
専業系です。
第2は重工系、
第3は重
成り立ち、
社会的な役割、
魅力、
将来性
む4つの像の台座には、
大英帝国の繁
電系、
第4は製鉄系、
第5はユーザー系あ
などについて具体例を交えてご紹介し、
栄を支えた4つの産業の名が刻まれまし
るいはゼネコン系、
これ以外にも多くの
エンジニアリング業界が求める人材に
た。
第一次産業はAgriculture、
農業。
第
企業があります。
専業系は、
石油精製、
石
ついてもお話ししたいと思います。
二次は、Manufactures、
工業。第三次
油化学、LNG関連などエネルギー分野
はCommerce、
商業。
そして第四次産業
を中心に事業を展開しています。
重工系
と言うべきEngineeringでありました。
当
は、
機械的なハードと組み合わせたかた
時、
我が国は江戸時代ですが、
英国では
ちでのエンジニアリングに特徴がありま
エンジニアリングとは何か
エンジニアリングについて、
小宮山元
18
代表取締役常務
東京大学総長がその本質を端的に定
既に社会の発展に不可欠の産業として、
す。
重電系は、
同じように発電機やター
義されています。
すなわち、
「社会の中に
エンジニアリングが認識されていました。
ビンなどの分野を中心としたエンジニア
細分化されたかたちで存在する知を、
一方、
我が国における近代的エンジ
リングに進出している傾向があります。
社会的目的達成のために結集する能
ニアリングは、1950年頃、
戦後の復興
ユーザー系は、
それぞれ自らが蓄えてき
力、
ないし行為」
である。
そういう意味で
に伴う装置産業の設備投資とともに本
たプロセスノウハウやユーザーとしての
は、
エジプトのピラミッド、
中国の万里の
格化し、1960年から70年にかけて世
経験をベースとして事業を展開しており、
長城、
ローマの水道橋を建設した古代
界展開を拡大しました。
ゼネコン系は、
ビルや橋梁などの社会イ
の技術者たちは優れたプロジェクトマ
その後、1990年からは韓国、
中国を
ンフラをベースにしてエンジニアリング
ネージャーであり、
それらの構造物は、
そ
はじめとする新興国企業の台頭や為替
を展開しています。
また、
エンジニアリン
の時代の最先端技術を結集したエン
相場の変動などにより、
厳しい競争にさ
グでは、
設計する能力、E(Engineering)
ジニアリングの成果であると言えます。
らされていますが、
現在、
日本のエンジニ
と必 要な資 機材を調達する能力、P
近代的な意味でエンジニアリングが
アリング産業は、
プロジェクト遂行のた
(Procurement)
、
さらにその資機材を組
産業として認知されたのは、18世紀末
めの国際的な高い信頼や技術の差別
ENAA Engineering No.126 2011.1
み立て建設する能力、
C(Construction)
ENAA Report 2
といったEPC機能を統合管理する能力
るシステムです。30万規模の都市では1
い技術を必要とし、
一社一国の技術で
であるプロジェクトマネジメントによって
日約250トンの生活ごみと約9万トンの
は対応困難なケースが多く、EPC能力
有機的に統合し、
所期の目的を合理的
下水が排出されます。
中国を含む多くの
とプロジェクトマネジメント能力を駆使し
かつ経済的に達成していきます。
それら
新興国ではゴミは埋め立て、
下水は河川
て社会に細分化された技術や製品を有
の目的は、
時により港湾や都市の建設、
放流が主流です。
これらは温暖化ガスで
機的に統合するエンジニアリング産業
工場や発電所の建設、
鉄道や輸送など
あるメタンガスの排出、
細菌の発生によ
の役割は今後ますます大きくなります。
の社会インフラシステムの建設であった
る衛生問題、
地下水汚染や海洋の汚染
循環型社会、
低炭素社会の構築に向け
りします。
と多くの問題が発生しています。
我々は
て先導的な役割を担うのはエンジニアリ
都市ごみをガス化し、
セメント工場の燃
ング産業の使命と確信しています。
エンジニアリングの魅力
料に使い、
灰は原料として活用するシス
エンジニアリング産業はプロセス設
次に、
当社が取り組んだプロジェクト
テムを開発しました。
これにより、
セメント
計、
ハード設計、
配管、
電装設計から調
の実例を通じてその魅力をご紹介しま
工場周辺の町では(そういう町が中国
達、
建設に関わる技術、
工程、
品質、
コス
す。
最初にドーバー海峡トンネルの実現
や東南アジアでは結構多いのですが)
、
トあるいは契約、
税務などを含めた総合
です。
これは、
イギリス・フランス双方から
従来方式の4分の1程度の設備費で、
都
管理能力を有する知識集約型産業であ
TBMという掘削機でトンネルを掘り進
市ゴミの衛生処理が可能となりました。
ります。
従って、
理科系、
文科系を問わず、
め、
貫通させるプロジェクトです。
当社は、
中国のみならず、
世界の温暖化ガス削減
人財こそが会社の最大の財産でありま
フランス側の大手ゼネコンからTBMの
への貢献が期待される本システムは、
今
す。
日揮のグループ代表である重久さん
設計、
製作、
運転、
保守点検などを請け
年の春、UNIDO(国際連合工業開発
がよく言われていますが、
「エンジニアリ
負いました。
マシンは、1基総重量2千ト
機関)
が 新興国の環境改善に貢献す
ング会社の競争力の源泉は優れたプロ
ン、2本トンネルを掘るため、2基合わ
る新技術 としてその普及を推奨するブ
ジェクトマネージャーをどれだけ持ってい
せると4千トンという巨大なメカ・モグラ
ルースカイアワードにノミネートされ、
上
るか。
財産はプロジェクトマネージャーの
です。
この2基のマシンが英仏国境を越
海バンコク博覧会でも国連館において
量と質による」
というのは名言です。
えて掘り進み、
トンネル貫通まで掘り進
講演会の開催とパネルの掲示が行われ
この業界で働くことは、
グローバルで
んだ部分はフランス統治下のイギリス領
ました。
今後は都市ゴミのみならず、
下水
世の中に役に立つ、
あるいは新興国の
という扱いになりました。
フランスの幹部
汚泥も無害化するゼロエミッション、
エ
発展に貢献するプロジェクトに参画す
は、
過去に逆のケースはあったが、
川崎
コタウンシステムの開発に取り組み、
標
るチャンスもあります。
国内外の力を合
重工のおかげではじめてフランスがイギ
準サイズのセメントプラント1基で30万
わせて業務を遂行する。
そういう意味で
リス領を統治できたと喜び、
お礼にワイ
人都市を廃棄物ゼロの街へ変えていく。
は、
やり遂げたときの達成感は非常に
ンシャトーに招待され、
我々が生まれた
こうしたエンジニアリングビジネスの展
大きいものがあります。
国内外の多くの
時のワインを飲ませていただいたことは
開を通して、
地球環境の未来と人々の幸
プロフェッショナルとチームを組み、
困
忘れられない思い出です。
せに貢献するような事業展開をしていき
難を克服し、
自らも成長していくというこ
たいと考えています。
とは人生における大きな財産となりま
次に当社が中国で進めているセメン
ト工場の省エネ合弁事業についてお話
しします。
セメント工場から出される排ガ
スの熱エネルギーを回収し、
セメント工
エンジアリング産業の将来と
求められる人材
す。
失敗を恐れず、
新しいことに挑戦す
る積極性を持った人材、
困難にもあきら
めずにチームのなかで夢に向かって執
場が必要とする電力の30%を発電する
人類は地球温暖化、
人口増加に伴う
念を持った人材、
コミュニケーション能
システムです。
中国セメント業界の年間
食料問題や水質汚染問題などの課題を
力を持ち、
異文化対応能力を持った人
の電力使用量を1,700メガワット削減に
解決するために、
水素チェーンや再生エ
材、
チームワークを発揮できる人材、
そう
貢献。
これは、
大型の石炭火力発電所
ネルギーによる低炭素社会の構築、
水
いった方々にぜひ、
エンジニアリングビ
の2基ないしは3基分に相当し、CO2
循環再生システムや低環境負荷化輸送
ジネスに挑戦してほしい。
実社会では全
に換算すると年間1,100万トンの削減に
システムなど、
これまでの社会システムや
体最適の視点で目的に向かって自分の
貢献しました。
今後3 〜 4年間でさらに
インフラシステムを一新するシステムの
能力だけでなく、
周りの英知を結集すべ
2,000万トンとなります。
開発に世界的レベルで取り組まなけれ
く努力をする人が求められます。
これから
ばいけません。
こうしたシステムは、
幅広
の皆さんのご活躍を祈念します。
次に新興国の水質汚染問題を解決す
ENAA Engineering No.126 2011.1
19
2010 業 界セミナー
業界セミナーパネルトーク
若手社員によるパネルトーク
「本日は、計画された偶然性 。
キャリアは過去の偶然の経験から生まれるという、
現在、
注目されて
いる言葉がありますが、
そういう視点からも、
エンジニアリング業界で働く魅力やその仕事のもつ意義を
浮き彫りにしたいと思います」
と、
冒頭語るパネルトークのナビゲーターのみずぼ情報総研 江淵氏。
基調講演の後行われたパネルトークでは、
東京・大阪会場ともに各4名の若手社員がパネラーと
して、
学生に熱いメッセージを送った。
東京
会場
みずほ情報総研㈱ 江淵 弓浩
コンサルティング業務部 上席調査役
労働政策、
人的資源管理のコンサ
ルテーションを担当。10年来、
人材
マネジメントについて当協 会 活 動
に取り組む経験を持つ。
11/6
中国のプロジェクトでは、
プラントを管理
する建屋の建設のスケジュールコントロー
ルを担当。
米国のクライアントと現地スタッ
フをまとめていく、
難しさとやりがいを実
感。
海外でさまざまな国の人と仕事ができ
るのが業界の魅力。
いろいろなことに興味
を持って取り組んでいきたい。
松本 綾子 : 東洋エンジニアリング㈱
海外プロジェクト統括本部 プロポーサル本部
2006年入社(エネルギー社会・環境科学専攻
出身)
焼却灰を溶融して再利用できるごみ処
理プラントの設計を担当。
失敗体験も先輩
や現場の運転員の方々の協力で解決し、
いい経験になっている。
いろいろな人と出
会えると思ったことが入社の動機で、
実際
ワクワクの毎日です。
アメリカ南部、
中国、
インドネシア、
マレー
シアなどの排煙脱硫装置等の建設を担
当。
営業としての役割は、
現地のエンジニア
リング会社と契約スキームを作成し、
テクニ
カルな条件を提示し、
コストを計算し、
管理
井手 千清 : JFEエンジニアリング㈱
都市環境本部 環境プラント事業部 設計部
2008年入社(資源工学系専攻出身)
を行っていくこと。
事務系出身者が大いに
活躍できるフィールドだと思う。
先日アフリカのザンビアから帰ってきた。
20年後に国全体の電化率35%を目指して
いるが、
電線をどう敷くかなど現地調査を
行い、
大まかな計画を提案し、
概ね了承さ
れた。
自分の発想で社会に貢献できること
が醍醐味だと思う。
徳永 良介 :日本工営㈱
プラント事業部 電気技術部
2004年入社(理工学部電気工学科出身)
20
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福島 広樹 : 三菱重工業㈱
環境化学プラント事業部 営業部
排脱・CO2グループ
2008年入社(国際関係学部出身)
ENAA Report 2
大阪
会場
11/2 0
独自製品を多数持つ面白そうな会社だ
なと思い、
入社。
設計から調達、
建設、
メン
テナンスまで、
ユーザーの視点で経済性と
操作性を考慮しながら提案を行っている。
仕事には波があるが、
開き直れる環境が
あることが、
エンジニアリング業界の特長
であり、
醍醐味だと感じている。
野中 曜:クラレエンジニアリング㈱
プラント設計部
2007年入社(化学工学専攻出身)
現在、2月に行われるプラントの試運転
の準備をしているが、
自分が設計したもの
が現場で実物として仕上がったのを見た
ときの達成感は凄かった。
イメージが違う
設計を行ったときは、
そのリカバリーに先
輩が夜遅くまで付き合ってくれた。
先輩の
マネジメント業務をしたかったことが入
社の動機。
現在は、
半導体工場の物流設
備のエンジニアリングを担当。
この業界の
魅力は、
チャンスが大きいこと。
そして大切
なのは、
自分を飾らないこと。
現場では、
自
分ひとりではできないことがあり、
人の力を
いかに借りていくかが問われることがある
からだ。
鶴見 友樹 : 鹿島建設㈱
エンジニアリング本部 生産研究施設第3生産・研
究施設グループ
2005年入社(機械工学専攻出身)
優しさとあきらめないということの重要性
を認識した。
佐藤 慶介 : ㈱NIPPO
エネルギー事業本部 エネルギー事業部
機械設計グループ
2007年入社(機械工学科出身)
10年前に比べ女性が増え、
同時に女性
が海外の現場に行く機会も増えた。
アジア
から中東と、
グローバルで活躍している。
ま
た、
業務は、
ますます多角化しており、
太陽
熱やスマートグリッドなどの新分野にも取
り組んでいるので、
さらに楽しみとチャンス
が大きく広がっていると思う。
堀川 愛子 : 日揮㈱
技術開発本部 技術推進部
2004年入社
(工学部化学工学システム科出身)
各企業とエンジニアリング業界への理解を
さらに深める懇談会。
本年の業界セミナーには、
日本全国から昨年以上に多数の学生が参加。
基調講演、
パネルトークの後、
学
生とエンジニアリング企業との懇談会が行われた。
学生は参加全企業との交流を図り、
企業それぞれの特
性、
エンジニアリング産業の魅力や将来性を肌で実感。
各企業の担当社員の説明を熱心に聞き入る学生
の姿が多く見られた。
(文責:事務局)
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1
建設が進む大間原子力発電所リポート
資源の有効利用と電力の安定供給をめざす
フルMOX発電所
陸奥湾を挟みながら、津軽海峡に向かっ
放水口から水中放流されます」
全 発 電 量 の 約3分 の1を プ ル ト ニ ウ ム が
て突き出すようにして西に津軽半島、東に
と、大間原子力発電所の立地環境と概要
担っているが、フルMOXでは、主にプル
下北半島がある。その下北半島にある大間
を、J-POWER(電源開発)大間原子力建
トニウムを燃焼することにより、限りあ
町は、本州最北端の町として、またマグロ
設所の山田所長代理が語る。
るウラン資源をさらに有効活用すること
の一本釣りの地としても知られている。
大間原子力発電所は、下北半島の突端、
本州最北端となる大間岬から西海岸を4キ
が可能となる。
「大間原子力発電所の基本仕様は従来の
ABWRと同じですが、全炉心でMOX燃料
ロ程行ったところに位置し、天気のよい
大間原子力発電所では、改良型沸騰水
を利用することから、あらかじめ設備上
日には、函館、さらには北海道最南端の
型 軽 水 炉(ABWR) を 採 用 し て い る が、
の設計対応を行い、ウラン燃料の原子炉
松前までを一望することができる。本州
その大きな特徴はなんといっても、使用
と同様、十分な安全性を確保しています。
最北端の大間町は、北海道最南端の松前
済燃料を再処理して得られるプルトニウ
しかし、新たに特別な設備を追加するよ
よりも北に位置し、冬季の平均気温は0℃
ムとウランを混合したMOX(ウラン・プ
うなことはしていません。まず、制御棒
以下、平均風速は6m以上という、厳しい
ルトニウム混合酸化物)燃料を全炉心で
による原子炉停止のバックアップとして
自然環境も特徴である。
利用できる点にある。
ホウ酸水を注入する設備がありますが、
「ご存知のようにABWRは、柏崎刈羽原
このタンク容量を増やして停止能力を高
子力発電所をはじめ、日本全国の9地点で
めています。また、一部制御棒の中性子
「大間原子力発電所の敷地は面積約130
採用・計画され、これまでの実績等により、
吸収効果を高めたり、異常発生時の原子
万㎡で、東西に約1km、南北に約1.4km
安全性・信頼性にも優れ、進化を遂げて
炉内の圧力上昇を抑制するための主蒸気
のかまぼこ状の形をしています。敷地の
きました。また、既存の原子力発電所で
逃がし安全弁の容量を大きくしています」
標高は10m〜40m程のなだらかな海岸段
はMOX燃料を全炉心の3分の1程度まで利
と、そのフルMOXのための安全対策につ
丘と海岸沿いの10m程の平坦地になって
用できますが、大間においては、MOX燃
いて山田所長代理は語る。
おり、敷地中央の段丘の一部を掘削し造
料の割合を柔軟に変えることが可能です。
成した土地に原子炉建屋、タービン建屋、
当初は、MOX燃料の割合を全炉心の3分
コントロール建屋、サービス建屋などの
の1程度以下から開始し、段階的に割合を
主要建屋が並びます。また、すでに工事
増やしながら最終的に『全炉心でのMOX
大間原子力発電所建設プロジェクトに
は済んでおりますが、物揚岸壁には3,000t
燃料利用(フルMOX)
』を目指していく
おいては、地元からの誘致活動から本格
クラスの船が接岸可能。冷却用海水は、
予定です」
的な工事着手までの過程で、炉型の変更、
津軽海峡に面した原子力発電所
22
最大の特徴は、
全炉心でのMOX燃料利用
港湾内の取水口から取水し、港湾の西護
現在の原子炉(軽水炉)でも、発電の
岸前面の沖合い約120m、水深約12mの
過程でプルトニウムが生成・燃焼され、
ENAA Engineering No.126 2011.1
これまでの経緯、
長期に亘る準備と変更
配置計画の見直しなど長期に亘り様々な
困難を経験している。
コミュニティ・エンジニアリング❶
「このプロジェクトは、昭和51年、大
5.5mの基礎工事が開始された。この基礎
間町の商工会から原子力発電所の適地か
のうち上部の配筋は中央マットモジュール
どうかといった調査の請願があり、昭和
と呼ばれ、建屋の横の作業エリアにて、太
58年から立地環境調査を行い、翌年に大
さ38mmの 鉄 筋 を 円 周 方 向 に20cm間 隔
間町議会で誘致決議に至ったところから
で、放射状に320本、それを5段重ねて組
始まりました。平成6年に漁業補償交渉が
み立てる。さらに原子炉圧力容器基礎台な
解決し、いよいよという段階で、当初計
どをしっかり固定するための基礎ボルトも
画のATR(新型転換炉)実証炉の主に経
一体で組み込んだうえで、5月に、大型ク
種系統試験も始まり、25年12月には燃料
済性の観点から、平成7年に原子力委員会
レーンを使って重さ約600tの中央マット
が装荷されてプラントの総合試験に入り、
はATR実証炉計画を中止し、フルMOX-
モジュールを据え付けた。7月にはABWR
平成26年11月の営業運転開始をめざす予
ABWRへの変更を決定し、当社はこれを
の特徴である鉄筋コンクリート製格納容器
定です」
受 け 入 れ ま し た。 そ の 後、 平 成11年 に
の内張り鋼板の下部分(直径約29m、高さ
と、工事の今後の計画を語るのは、大間
原子炉設置許可申請を行いましたが、地
約21m)の吊り込みも大型クレーンを使っ
原子力建設所の浦島所長。さらに、環境
権者が600人近くにも及ぶという稀有な
て行われた。工事の総合進捗率は、平成
保全や安全への取り組みには万全を期し
ケースであったこともあり、一部用地の
22年12月末現在約30%。予定通り順調
ていく姿勢も付け加える。
取得を断念し、原子炉建屋などの配置計
に進んでいる。
画を見直し平成16年に再度原子炉設置許
「今でこそ、大間といえばマグロといわ
また、大間特有の冬季季節風や雪対策
れるようになりましたが、元来、大間地区
可申請を提出することとなりました」と、
として、原子炉建屋では全天候型建設工
は、磯場の根付けの漁業が盛んで、真昆布
これまでを振り返りながら語る。
法を採用。建屋の鉄骨支柱を先行して組
のほかアワビやウニも豊富です。原子力発
み上げて開閉式の仮屋根やシートで覆い、
電所からの温排水を利用して、あわびの種
が改訂され、審査中であった大間が新指
天候の変化に左右されずに安定的かつ計
苗育成を行っていく計画もあり、エネル
針での適用第1号となるなど審査期間も長
画的な工事を実現。原子炉圧力容器など
ギーの安定供給での貢献と地域産業への貢
期化し、その2年後の平成20年4月に設置
大型機器を搬入する際には、仮屋根を開
献も検討していきたいと考えています。ま
許可を受けるに至った。そして、翌5月に
閉して対応していく。
た、毎月発行している広報誌などで工事の
さらに平成18年には耐震設計審査指針
第1回工事計画認可が下りたことから、本
平成26年の運転開始に向けて
格的な工事に着手したという。
状況を地元の皆様にお知らせしています。
安全を第一にいかに工事を進めているか、
大間原子力発電所の電気出力は138万
また、工事がどのくらい進んでいるかを
3000kW。 発 生 し た 電 気 は、J-POWER
知っていただくと同時に、原子力発電やフ
が建設・保守する大間幹線(約61km)を
ルMOXによる原子燃料サイクルの意義を
平成20年5月の着工により、まず、サー
通じ、東北電力㈱東通原子力発電所まで
さらにご理解いただきながら、地域の皆様
ビス建屋の基礎掘削からスタートし、平
送られ、そこからは東北電力㈱むつ幹線
と共に歩む姿勢を、今後も大切にしていき
成21年1月には、主要建屋の基礎掘削へ
を経由して送電される。
たいと考えています」
順調に進む建設と
大間ならではの特徴
移る。この年の秋には、原子炉建屋基礎
「平成23年には、原子炉圧力容器を搬
平成26年の運転開始時は、海外で再処
部分を地表面から約25mまで掘りさげ、
入し、建屋内部の機器の据付工事にも本
理したプルトニウムを使うことが予定さ
岩盤検査も行われた。
格的に取り組んでいきます。24年夏ころ
れているが、2回目の燃料交換以降は、大
さらに、平成22年の春からは、岩盤上
には、原子炉建屋以外は建屋形状がほぼ
間原子力発電所と同じく下北半島にある
に設置される鉄筋コンクリート製の厚さ
出来上がり、また、機械・電気設備の各
六ヶ所村の日本原燃㈱再処理工場から回
建設工事予定
平成23年冬ごろ
平成24年夏ごろ
完成予想図(運転開始時)
ENAA Engineering No.126 2011.1
23
収されたプルトニウムを使い、同じく六ヶ
全炉心でのMOX燃料利用〔フルMOX〕
られる原子燃料サイクルの確立の実現の
所村のMOX燃料工場で加工された燃料を
による発電を目指す大間原子力発電所は、
ために大きな役割を果たすことが期待さ
利用していく構想だ。
将来に亘るエネルギーの安定確保に求め
れている。
2
青森県庁を訪ねて
青森県の
エネルギー産業振興戦略について
こととなります」
として注目を集めている。また、最近の
と、語るのは、青森県エネルギー総合対
トピックでは、昨年度、東京都及び千代
策局の松橋次長。さらに、平成24(2012)
田区と『再生可能エネルギー地域間連携
青森県は、原子燃料施設や原子力発電
年にはリサイクル燃料備蓄センターの運
に関する協定』を結び、六ヶ所村二又風
所の建設などを通じて現在まで、およそ4
転開始が予定されているが、近年の青森
力発電所の生グリーン電力を東京新丸の
半世紀に亘って、国のエネルギー政策に
県は、風力、地熱、木質バイオマス等に
内ビルに供給し、都市のCO2削減に貢献
貢献してきた歴史を持つ。
おいても高いエネルギーポテンシャルを
するなどの取組があげられる。
核燃料サイクル、
原子力燃料の集積地として
「昭和59年、原子燃料サイクル施設の立
地要請を電気事業連合会から要請を受け
たことが始まりです。青森県では、安全
確保を第一義に地元の意向や国の政策上
24
お話をお伺いした松橋次長
誇っている。
風力発電と太陽光発電の拡大、
雇用への貢献
加えて、風力発電は、雇用創出の面で
も期待されている。これまでは、県外の
風力発電事業者が、青森県の風力発電の
ポテンシャルに着目してアプローチして
の位置づけを確認しながら、60年に立地
特に、豊かな自然環境を背景に、青森
きているが、青森県の地場企業による風
協力要請を受諾し、協定を締結。現在で
県の稼動中の風力発電施設は、平成22年
力発電事業への参入、メンテナンス分野
は、六ヶ所村には建設計画中も含め、ウ
3月末現在で200基で北海道に次いで全国
への参入が進んできており、今後、さら
ラン濃縮工場や再処理工場などの関連施
第2位、発電設備容量は29万2,540kWで
なる雇用の創出が期待されている。
設が集積しています。その隣には、55基
全国第1位となっている。青森県では、平
また、太陽光発電分野で特に興味深い
の石油タンクを有する石油備蓄基地があ
成18年に『青森県風力発電導入推進アク
のは、平成20年度に青森県が太陽エネル
り、日本の約1週間分の石油を備蓄してい
ションプラン』を策定し、導入目標を平
ギーのポテンシャルについて調査したと
ます。また、東北電力の東通原子力発電
成22年 に は30万kW、 平 成27年 に は45
ころ、東京より八戸市の方が日照時間が
所は平成17年より運転を開始。県内で2
万kWと定めているが、現在、平成22年
長いとの結果が得られたことである。八
番目となる大間の原子力発電所の工事も
目標はほぼ達成されている状況にある。
戸地域における太陽光のポテンシャルの
平成20年に着工、さらに、東京電力の東
風力発電設備は、下北半島の六ヶ所村に
高さには、県内外から大きな期待が寄せ
通原子力発電所も着工を予定し、将来的
約80基が集中しており、特に六ヶ所村二
られているところであり、東北電力では、
には県内で3つの原子力発電所が稼動する
又風力発電所は、世界初の蓄電池併設型
平 成23年 度 の 運 転 開 始 を 目 指 し、 出 力
ENAA Engineering No.126 2011.1
コミュニティ・エンジニアリング❷
1,500kWのメガソーラー〈八戸太陽光発
電所〉を建設中である。
といえる。
―新青森間が開業し、東京から青森まで
「国の施策に従って、安全第一の原則を
の移動時間が大幅に短縮された。春には、
青森県では、エネルギー分野のポテン
守っています。住民の意識についての対
新車両「はやぶさ」が投入されると、さ
シャルを産業振興、地域振興に活かして
応は、事業者が誠意を持ってしていただ
らにスピードアップする。世界遺産でも
いくため、平成18年に『青森県エネルギー
くのが前提ですが、昭和59年の原子燃料
ある風光明媚な白神山地や十和田湖、八
産業振興戦略』をとりまとめたところであ
サイクル施設の要請があってから、県と
甲田山も含めた豊かな農林水産資源。ま
り、化石燃料への依存率を80%から43%
しても勉強してきた経緯があります。国
た、春の桜祭り、夏には、青森のねぶた、
に、電力利用率を17%から31%に引き上
や事業者が会合や説明に回り、私自身も
弘前ねぷた、五所川原の立ちねぶた、昔
げるとの目標を掲げ、再生可能エネルギー
原子力含め核燃料サイクルが必要ですと
ながらの武者行列がみられる八戸の三社
の開発と発展に積極的に取り組んでいる。
いう講演をしたことがあり、そのなかで、
大祭など、四季折々の祭事。さらに、生
県民の皆様からもいろんな意見をいただ
産高日本一を誇るりんご、にんにく、ご
きましたから、そういう意味では、議論
ぼうなど。こうした自然や農産物などを
と勉強を他の県に比べてしてきた歴史が
ベースに、新幹線と同時に高いエネルギー
あります」
ポテンシャルを推進力としながら、青森
と、語る松橋次長。
県は、いま、豊かな未来へ向けて走り出
エネルギー事業の課題と
未来へのステップ
風力発電では、景観の問題があげられ、
原子力関連では、その必要性や安全性に
ついての県民の理解もポイントのひとつ
3
さて、平成22年12月に東北新幹線八戸
している。
北海道・本州間電力連系設備―函館変換所を訪ねて
北海道と本州の架け橋として
広域における電力系統の効率運用を支える
一般に略して北本連系と呼ばれてい
る、 北 海 道・ 本 州 間 電 力 連 系 設 備 は、
J-POWER(電源開発)が保有する北海道
と本州間を結ぶ電力流通設備。北海道側
て連系されている。
電力連系の必要性と
運用開始までの流れ
東日本と西日本による周波数の違いがあげ
られます。そのため、地域毎に分かれてい
ては効率のよい運用が難しいことから電力
の連系が図られてきました。九州と本州を
では、函館から車で1時間ほどの七飯町に
運用が開始されたのは、昭和54年。島
結ぶ関門連系線、四国と本州を結ぶ中四幹
函館変換所がある。七飯町には、新日本
国である日本には、本州と九州、四国と
線(現在は本四連系線)
、さらに周波数が
三景の一つにも選ばれた大沼国定公園が
本州の間にもこうした電力連系があるが、
50Hz⇔60Hzに変換される佐久間周波数変
あり、名曲「千の風になって」の発祥の
本州と北海道間は津軽海峡に隔てられて
換所等については、連系が比較的容易で早
地ともいわれている。その函館変換所か
いたため、他に比べて連系が遅れた。
くから行われてきました。一方、北海道と
ら、津軽海峡を経て本州側の青森県下北
「日本の電力系統の特徴は、地理的に島
本州は津軽海峡に隔てられ、海底ケーブル
半島の上北変換所までが、直流送電によっ
で分かれ、海峡で分断されていることと、
で長距離をつなぐために長い間技術的、経
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25
コミュニティ・エンジニアリング❸
済的に実現が困難でしたが、これらの課題
ように海峡を横断する紀伊水道直流連系
を克服可能な直流連系技術ができたことに
設備は架空線と海底ケーブルを合わせ約
よって、ようやく昭和54年に本州と北海
100kmですから、北本連系は国内では一
道の連系が実現しました。これにより、北
番長い直流連系設備となります」
海道から九州まで日本全体に及ぶ電力の広
域運営が可能になりました」
とによって、主に4つの効果が得られる。
と、背景について語るのは、J-POWER 北
その1番目は、地域間の相互融通による供
本連系電力所牧野所長。
給予備力の節減。2番目は、発電所利用効
当初は、15万kWで運転を開始し、半
率の向上、発電コストの低減。3番目は周
年後に変換ユニットを直列に増設し、倍
波数変動や電圧低下などの低減、電力品
の30万kWに増強した。さらに、やや時
質の維持・向上。そして、4番目は、異常
間をおき、平成5年には双極化することに
渇水、需要の急増など、災害時に緊急に
うに積まれたサイリスタバルブが3台あ
よって、一気に60万kWへの増強を実現、
電力を流すことで非常事態の緩和に繋が
る。 そ の モ ジ ュ ー ル 内 に は、 直 径8cm、
双極を有効に活用することによって、状
ることなどだ。
電流容量1200Aの大容量のサイリスタが
サイリスタバルブ
況に応じた柔軟な運転と最適な電力融通
また、直流送電のメリットの第1は、経
あり、1台のサイリスタバルブ当たり合計
を行うことが可能となり、現在に至って
済性。交流送電線の電線6本に対し直流で
216個の半導体素子が直列に接続されて
いる。
は3〜4本と電線数が少なく、建設費が安
いる。バルブ3台で直流25万V、30万kW
価となる。津軽海峡を横断しなければな
の交直交換を実現し、第1極と第2極の合
らない北本連系設備では、長いケーブル
計で60万kWまでの電力変換を可能とし
「北海道電力からの連系点として山ひと
送電区間があるため、特に経済的なメリッ
ている。また、平成5年に設置された2極
つ越えたところに七飯発電所があり、函
トは大きくなる。さらに安定度が確保さ
側の直流フィルターは、コンデンサを油
館変換所を経て架空線で、函館空港の東
れ、直流は周波数の変換も可能なこと、
タンクの中に組み込みパッケージ化して、
側の古川ケーブルヘッドへ。そこから海
高速制御ができ、運用がしやすいことな
従来に比して5分の1にコンパクト化され
底ケーブルで津軽海峡を渡り本州まで、
どがあげられる。特に、起動停止に1秒も
るなど技術革新の成果が随所に見られる。
直線にすると20km程の距離ですが、海底
かからず、電力融通の方向も瞬時に切り
また、函館変換所に隣接して、十勝川・
や潮流の関係で西に迂回しているルート
替えることが可能である。こうした高速
石狩川にある発電所の運用をコントロー
のため、長さは43km。本州に渡ると、佐
性は、事故発生時の周波数制御に威力を
ルする北地域制御所があり、マイクロ波
井ケーブルヘッドがあり、建屋のなかに
発揮し、最適制御をかけて北海道及び本
無線や光ファイバー回線を介して有機的
架空線を引込んでケーブルと接続し、さ
州側の周波数を迅速に安定化させること
に結ばれている。ここでは、1チーム3名、
らに約100km離れた上北変換所まで運ば
ができる。
5チーム体制で、大雪山からの雪水を集め
北本連系の概要
れ、そこで交流に変換されます。本州側
から北海道側に電力が送られる場合は逆
のルートになります。海底ケーブルが敷
きめ細かな監視制御と
効率的な運用を目指して
て電力を起こす十勝川水系の8水力発電
所、石狩川水系の2水力発電所、本州と北
海道にまたがる北本連系設備、さらに道
かれた津軽海峡のいちばん深いところは
交流と直流の変換は世界最大級のサイ
央と道東を結ぶ送電設備の監視制御を行
約300m。ケーブルは3本あり、水深の倍
リスタを使用して行われている。平成5年
いながら、今日も、天候や環境の変化に
の600m間隔で敷設されています。直流
に増設された第2極側の施設内に入ると
応じて刻一刻と目まぐるしく変化してい
区間の長さはトータルで約167km。同じ
大きな金属の箱(モジュール)が櫓のよ
く電力の安定供給を支えている。
北本連系設備連系区間図(提供:J−POWER 電源開発)
26
こうして北海道と本州が連系されたこ
ENAA Engineering No.126 2011.1
Pastorale
海洋写真家
中村 庸夫
なかむら つねお
Marine Photographer : Tsuneo Nakamura
パストラーレ
『スペース・ニードル(シアトル)
』
最近は世界一の高さを目指す「東京スカイツリー」
の話題
地上159mの展望台からは、
シアトル市街地のほか、標高
が何かと多いが、
こちらはアメリカ西海岸の、
シアトルの中心
4803mの雪に覆われたマウントレーニエ(Mount Rainier)
部の高台に聳えるタワーのSpace Needle 。
や、1980 年に大噴火したセント・ヘレンズ火山、
ピュージェッ
1962年の万国博覧会に合わせて建設されたもので、高さ
184.4mは、アメリカ大陸の、
ミシシッピー川より西にある建築
ト湾に浮かぶ島々などが一望できる。
物としては当時、
一番の高さを誇った。
しかし、
世界一の高さ
2000年に補修工事が行われたが、その費用は建設費の
約5倍で2,100万ドルだったそうで、
インフレ率を加味しても
を目指したわけではなく、
エッフェル塔の312.3mや、東京タ
高額だった。
ワー 333mなどには遠く及ばなかった。
この半世紀の間にもっと高い建造物がシアトル中心部に
タワーのデザインはエドワード・カールソンが考えた、
大き
出来てしまったが、
高層ビル群から離れた場所に建造された
な気球を地面と結びつける構想と、
ジョン・グラハムの「空飛
事が幸いし、
現在でも非常に目立つランドマークである事に
ぶ円盤」構想があった。万国博覧会のテーマが「21世紀」で
変わりは無い。
あった事から、最終的にこれらのアイディアをミックスして、
19世紀末、シアトルはゴールド・ラッシュに湧くアラスカへ
ビクター・ステインブリュークら12 名の設計チームが、
構造的
の船の中継点として発展し、近年は大自然を満喫するアラ
に可能なこの案を作り上げたもの。
スカ方 面 へ の
資金難などから決定が遅れ、着工から1年足らずの短期
クル ーズ の 基
間で 完 成させ、建 築 費用は450万ドル(3.7億円)
。しかし、
点となり、毎 週
同じワシントン州にあり、
風で崩壊したタコマ・ナロウズ橋の
末 に はSpace
教訓から風洞実験が繰り返され、90m/sの風速に耐えられ、
36m/sの風でも塔の先端は16mmしか揺れない設計だそう
だ。M9.0クラスの地震に耐えられるように設計された結果、
1965年に起きたM6.8の地震ではトイレの水が漏れ出した
被害だけで済んでいる。
Needleの 高 さ
より 全 長 の 長
い大 型 客 船 が
次々に出港して
行く。
ENAA Engineering No.126 2011.1
27
ENAAレポート
PMの世界における最近の動向
̶ グローバルPM協会の動きとP2Mの世界貢献 ̶
日本プロジェクトマネジメント協会 理事長
田中
弘
筆者は、2010年に、
日本プロジェクトマネジメント協会(PMAJ)
理事長として、
また、
ヨーロッパ拠点のプ
ロジェクトマネジメント(PM)
研究者として、
香港、
ウクライナ(2回)
、
フランス(2回)
、
ノルウェイ、
米国、
トル
コならびにインドでPM関連の講義・講演・交流を延べ90日間にわたって実施した。
そのなから、
グローバルPM協会の動向、ENAA発P2Mの世界貢献を中心に動向を報告する。
1
最近の世界PM動向のキーワード
過去1年で顕著になった世界PM動向をヘッドライン的に紹介
すると次のようになる。
①インフラ系PMの地位・能力整備度の上昇
(IT等)ライトウェイトPMからインフラ、エンジニアリング等ヘ
ビイウェイトPMへ
②サステナビリティー関連(環境・新エネルギー)PMの機会急増
しかしPM界の対応が間に合わず
③ヨーロッパでプログラムマネジメントへの注力が急増
P2Mにも注目
④ヨーロッパでは各層でPM振興メカニズム強化
日本のベンチマーク先は米国ではなくヨーロッパ
テナビリティー関連プロジェクトこそPMの最大の機会である、
という論調が主催者側から今年も繰り返された。
⑤原点回帰
PMの原点はインフラプロジェクトである。ここ数年、北米のIT
プロジェクトマネジメントは完全な飽和状態になり(テーマがな
い)、PMIは急速にパイを広げているインフラプロジェクトのPM
と云いだした。
本大会においてENAAはPMIとの協力協定を更新した。1979
年に協定を締結しているENAAは、IPMA(後記)
がPMIとの協力
協定を停止しているので、PMIの最古のパートナーとなっており、
PMIの信頼が高い。
3
2
IPMA 世界大会2010(イスタンブール)
PMI北米世界大会2010(ワシントンDC)
2010年10月8日より12日迄、米国ワシントンDC近 郊Gaylord
National Conference Centerで開 催されたPMI( Project
Management Institute)
北米世界大会2010にENAA代表として、
ENAA小西部長、
東洋エンジニアリング和田氏と共に参加した。
2009年に半減した参加者数はこの大会では2,700名にまで
回復し、
基調講演にBill Clinton元大統領を招くなど華麗な大会と
なった。
今大会の傾向や論調は次のようなことであった。
①第一線のプロジェクトマネジャーへのナレッジとスキル向上機会の提供
個人の協会であるPMIとして、例年通り、視線はPMプロフェッショ
ナルに合わせて発表テーマを選んで広範なナレッジや実践事例
を提供している。ここ2年で大企業のPMI支持は大幅に減ってお
り、殊更個人の大会の色彩が強い。また、様々な討議型・ワーク
ショップ型セッションやスキルアップセミナーを用意していた。
②「アジャイル」Agile
アジャイル(Agile)というPM手法がある。もともと「俊敏」な、
という意味で15年ほど前にITシステム開発で生みだされたもの
で、初めから正確な定義ができない、顧客あるいは商品要求事
項に、顧客と摺り合わせ(アイテレーション)を繰り返し、スパイ
ラルサイクルで対応しながら開発を行う手法であるが、今大会
では、アジャイルの意味を広げて、
イノベーション誘発の大会の
テーマの一種として掲げられ、関連発表も多かった。
③プログラムマネジメント
09年に増してプログラムマネジメントとポートフォリオマネジメン
トに関連した発表が増えていた。PMI会員にもプログラムマネジ
メントの概念上の理解は進んでいると思われるが、実践からは
遠い会員がほとんどであろう。この点ではプログラムマネジメン
トが完全な実践段階に入っているヨーロッパよりはるかに遅れ
ている。
④サステナビリティー
クリントン元大統領の基調講演でも、強い言及があったが、
サス
28
PMI Presidentと更新協定調印後
ENAA Engineering No.126 2011.1
世界のPM協会連 盟組 織であるIPMA(International Project
Management Association)世界大会は2010年11月1日から3日
までトルコ共和国イスタンブール市で開催され、IPMAと協力協定
を有するPMAJから筆者が、ENAAから栗林課長が出席した。
IPMAの主たる基盤はヨーロッパとアジアの一部(中国、
インド、
中央アジア)
であるが、
活動規模が小さな協会も含めて60カ国が
加盟している。
大会は、
加盟国その他合計70カ国から約700名が
参加したが、
この大会では世界のPM史上で初めてとなる、
現職国
家元首、
トルコ首相Recep Tayyip Erdo侃an氏が来賓であったた
め、
開会式のみはトルコ国内から約3,500名が動員されて、
開会式
のみでは世界史上最大の大会となった。
Erdo侃an首相は、
トルコで大型インフラ開発が同時進行するな
かで、
トルコ国の成長にとって現在が正念場であること、PMの強
い基盤を以て国の開発に当たる必要があると30分の大演説を展
開され、
満場の嵐のような拍手を誘った。
但し、
この大規模動員は
急遽なされたようで、
会場の動線やセキュリティーはこれまた世界
PM大会史上最大の混乱を来たしたが、
みな平然としていたのは
トルコらしい。
大会の発表トラック数は25にも及んだ。PMI大会と異なり、
発
表されるテーマは完全にインフラプロジェクト寄りであり、
エンジニ
アリング関連テーマもある。
一方、IT関連はほぼ皆無である。
プログ
ラムマネジメント関連の発表でも質の高いものがいくつかあった。
筆者は、
大会初日午後の全体(プレナリー)
セッションに設けら
れた基調パネルで他の世界リーダー 4名と共にパネラーを務め、
また、
発表セッションではウクライナ財務大臣Fedir Yakoshenko
教授、
ウクライナPM協会長Sergey Bushshuyev教授との共著論
文「ウクライナ政府におけるP2Mに基づくイノベーションプログラ
ム」
の発表を行った。
パネル登壇の指名は当日朝なされ、
下打ち合
わせは全く無しの現場合わせで実演されたが(これはPMの世界
大会では常識)
大変ダイナミックかつ楽しい討論となった。
トラック発表は、
一律20分間の持ち時間で、
質疑応答まで含ま
Report
れる、
という発表者にも議長にもなかなかタフな場であるが、
どの
セッションでも発表者はきちんと仕上げてきており、
成熟度の高さ
がうかがわれた。
IPMA首脳とは数回意見交換を行ったが、PMAJ/ENAAとのよ
り踏み込んだ交流への期待が述べられた。
トルコ首相の来賓スピーチ
4
田中(筆者)の発表
P2M世界へ
P2M ‒「プロジェクトマネジメント標準ガイドブック」
はENAA
の調査研究事業の成果として2001年に国内外向けに発刊され、
その後P2Mの普及と人材育成はPMAJに委託されている。
国内で
P2M資格者は約7千名に達しているが、海外でも着実にP2M研
修修了者が増え、
世界大競争時代で複雑性と多様性が支配する
ヨーロッパを中心に新たな付加価値を生む仕組み創り、
あるいは
体制改革のフレームワークとしての期待が高まっている。
代表的な
P2M活用案件を紹介する。
①P2Mウクライナで政府公式イノベーション・スタンダードに
2010年11月、
ウクライナ財務省は、
ヤヌコビッチ大統領、アザ
ロフ首相の承認を得て、フィオドル・ヤロシェンコ財務大臣の公
式声明により、P2Mを、同国財政再建と新経済成長戦略策定
に向けたイノベーション推進のための公式スタンダードとして採
用した。すでに大臣・副大臣以下局長・次長クラスまで、また、
53の省庁の主計官がPMAJ理事長による研修を了えている。
ウクライナでは他に有力国立大学、国営企業、競争力ある私企
業などでP2Mが熱心に学ばれており、P2M人口は2千名を越
えP2M大国となっている。P2Mの理解度も極めて高く、日本で
行ってないような応用研究も盛んである。
編集後記
②フランスの経営大学院大学をハブとしてのグローバルP2M教育
P 2 M の 海 外 教 育 拠 点はフランスの 経 営 大 学 院 S K E M A
Business Schoolである。同校はビジネススクールの規模・教
授数でフランス最大であるが、プロジェクトマネジメント系の専
攻課程で世界一の競争力を持っている。同校はMBAを含む修
士課程生と博士課程生向けに正規講座としてP2Mを教えてい
る。同学の学生は地元EUのみではなく、アフリカ、中東、中南
米、
(日本を除く)アジア全域から集まるので、ここでのP2M教
育はグローバル教育の効果を有している。40名ほどの受講学
生が6組にわかれてのP2Mプログラムマネジメント活用演習で
は、自由な発想に基づいた素晴らしいテーマが展開される。中
国、
インド、
マレーシア、中東諸国、中央アジアとアジア全域から
の学生がいるのに日本人学生の在籍記録は皆無で、ここでも日
本は蚊帳の外である。
③フィリピン商工会議所研修
昨年度から財団法人海外技術者研修協会の委託でフィリピン
商工会議所選抜研修生団の2週間のP2M研修を行っている。
フィリピン全域から集まる研修生に対して、PMの基礎に始ま
り、新事業企画、地域起こし等イノベーションを支える知識体
系を、講義と演習で教えるもので、研修生の評価が高い。今年
も1月末から東京で研修を行う。
④Global Indiaに向けて:インド企業はP2Mでレベルアップ
インドでも2000年代前半の単発のP2M講演に続いて、2008
年に2回の半日P2Mエクゼクティブセミナーを実施していたが、
2010年12月にはこれを本格化して国営企業の部長職以上41
名が参加しての1日P2Mセミナー+ワークショップを開催し、大
変好評であった。インドでは通常のPM研修は盛んであるが、新
競争力を創るブレークスルー型の体系には馴染みがなく、今年
からの定期的なP2M研修とP2M資格認定を要望されている。
*********
このようにENAA発のP2Mは、
世界での日本の存在感が薄く
なっていくなかで、
年々しっかりと枝を伸ばしている。
しかし、
今後の
海外でのP2Mの成長はひとえにENAA賛助会員企業からのイン
プットご提供にかかっている。
生みの親としてグローバル市民権を
有する子供であるP2Mの養育をよろしくお願いしたい。
ENAA Engineering 2011
No.126
【広報部会「広報誌編集分科会」
】
「それは元日の朝のことだった」(2011年1月3日朝日新聞朝刊、1面、34面)
鳥取県琴浦町、
看板工房を営むAさんがいつもと
同じ午前6時前に目を覚ました。
おおみそかから降
り続けた雪。
その時、
トントントン、
入口のサッシを
たたく音。
開けると50歳くらいの女性が真っ青な
顔で立っていた。
「すみませんが、
トイレを貸してもら
えませんか。
」
国道9号線で、
豪雪のため車1000台が立ち往生し
ているのだ。
16年前、
阪神大震災に遭遇した経験のあるDさん
は、
「バナナいりませんか。
」
と声をかけて歩いた。
町
の人達は、
一日中車列に向かい続けたという。
喫茶店を営むCさんは、
トイレを借りに来る人に温
かいコーヒーをふるまった。
員 : 浅川 時生
委
(日揮)
(鹿島建設)
(IHI)
坂田 文彦 (荏原製作所)
塚原 義智
これって「プロジェクトチーム」
ですよね。
プロマネ
が誰だったかは定かではありませんが、
チーム員一
人一人が自分の役目をはっきりと理解して、
一糸乱
れず行動したものと想像できます。
「ぬくもりがつながって」と34面の見出しが読め
「こりゃ大変だ。
」Aさんはお手のものの看板作り、 ます。
ベニヤ板に「トイレ」
と書いて国道脇と自宅/仕事
エンジニアリングに携わる者、
この気持ちが大事で
場に立てかけた。
赤ちゃんを連れた若い女性がミ
すね。
つまり、
ルク用のお湯が欲しいと。Aさんの息子はお湯と 「Cool Head but Warm Heart」
(英国の
一緒に毛布を手渡す。
新古典派経済学者アルフレッド・マーシャルの言
パン屋のBさんは、
母親に「ありったけの米を炊い
てくれ。
」公民館から大きな釜を2つ借り、
自宅に
あった1俵半の米を全部炊き出し、
近所の女性に
役場に集まってもらっておにぎりを作った。
分 科 会 長 : 笠原 文東
副分科会長 : 藤村 久夫
(大林組)
広常 雅也 (JFEエンジニアリング)
古賀 敏博 (石油資源開発)
事
発
務
大久保 澄
(大成建設)
岸本 健夫
(千代田化工建設)
宮脇 邦彦
(東洋エンジニアリング)
河野 浩一
(三菱重工業)
局 : 小倉 三枝子
行 : 財団法人 エンジニアリング振興協会
〒105-0003
葉、
そして私の座右の銘)
ですよね。
東京都港区西新橋一丁目4番6号
大変遅くなりましたが、
新年明けましておめでとうご
ざいます。
本年もよろしくお願い申し上げます。
TEL. 03-3502-4441 FAX. 03-3502-5500
http://www.enaa.or.jp/
制
作 : 東洋美術印刷株式会社
(笠原 文東)
ENAA Engineering No.126 2011.1
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