日本ブラジル中央協会における梅田大使講演

日本ブラジル中央協会における梅田大使講演
(2015 年 2 月 23 日:東京)
ブラジル大使の梅田です。本日は貴重な講演の機会を設けていただき感謝。
現場でのエピソードを交えつつ、3つの側面から話をさせていただく。第一
点目はブラジルの政治・経済情勢、二点目はブラジルの対外関係、三点目は日
本とブラジル関係。
1.まず、第一に最近の政治・経済情勢から話をさせていただきます。
(1)大統領就任式・就任パレード
1月1日(元旦)、大統領就任式がブラジリアの連邦下院会議場で、また、就
任パレードが三権広場でおこなわれ、第二次ジルマ・ルセーフ政権(任期20
15年―18年)が発足。問題山積の船出です。
就任パレードが行われた三権広場には、今回約6千人の人が集いました。ほ
ぼ全員が与党PT(労働者党)のシンボルである「赤色」のシャツ着用。4年
前の大統領就任式には、今回の5倍の約3万人が参加。与党PT(労働者党)
党員でないブラジル人も沢山お祝いに参加。今回一緒にパレードを見ていた大
使館館員の一人は、今日は広場に多くの空きがある。4年前は三権広場全体が
人で溢れていたと述べていました。4年前は党派を超えて、ブラジル初の女性
大統領の誕生を祝い、ブラジルの更なる発展に向けてルセーフ大統領の手腕に
熱い期待が寄せられていた。今回の大統領就任式及び就任パレードは、与党P
T(労働者党)が多数のバスを手配し、党員をブラジリアに招集したとも言わ
れ、PT(労働者党)によるPT(労働者党)のための式典でした。
ルセーフ大統領は就任演説の中で、国内政治面では、政治改革、教育の充実、
社会扶助政策の継続を強調、経済面では、ビジネス・投資に有利な経済政策、
財政規律の強化、生産性向上に重点を置くと強調。対外関係では、南米・カリ
ブ諸国を重視しつつ、BRICS、米・EU・日本との関係強化に言及。
外国からの参列者は、ラテン・アメリカとアフリカ諸国の要人に加え、二期
目の就任式ということで域外国からの参加は少数。バイデン米国副大統領と李
源朝中国国家副主席の参加が注目されました。
因みに、ブラジル連邦下院議員の定員は513名ですが、下院会議場には3
百の席しかない。同会議場では、元旦の大統領就任式と就任演説、2月1日、
下院議員の就任式が開催され、多数の議員がひな壇の議長や大統領席の目の前
1
に立ったまま、参加。大統領就任式に参加した隣国の大統領に、最前列の席が
あてがわれ、ルセーフ大統領の顔を見つつ演説を聞けると期待していたが、前
に多くの人が立っていたことから、人の背中とおしりしか見えなかった由。
(2)大統領選挙と新閣僚の任命
昨年10月の大統領決選投票の結果を振り返ります。ルセーフ大統領の得票
率は51.6%、ネーベス候補(PSDB―ブラジル社会民主党)は48.4%。
その差は約3%(約3百万票)の僅差であり、実際に開票されるまでどちらが
勝利するかわからない大接戦。経済界、メディア、インテリ層の多くはネーベ
ス候補支持、低所得者層は大統領支持という基本構図。選挙結果は、ブラジル
は21世紀になって貧困層を大幅に減らすことができたとはいえ、未だに貧し
い北部や北東部と豊かな南部、南東部との格差は大きく、社会政策重視が民意。
ブラジルでは、1985年に軍事政権から民政移管され、今回が8回目の大
統領選挙。中南米の最大の大国に民主主義は着実に定着・成熟化。このことが
地域の安定に大きく寄与。
因みに、ブラジルの選挙は不正防止や文盲対策の観点から、既に1996年
から電子投票を導入、国土日本の23倍、有権者数1.4倍であるが、選挙結
果は即日判明。憲法上投票は義務(18歳以上-70歳で文字をかける人、1
6歳、17歳、70以上の人、文盲の人も希望すれば投票可能)
。今回投票率は
78.8%。投票しないと罰金(少額)に加え、パスポートを発給してもらえ
ない、公務員試験を受験できない等の罰則あり。ユニークな選挙制度。下院は
比例代表制であり、上院は各州から3名。
昨年10月末の大統領選挙後、新大臣の指名は、11月中旬の財務大臣、企
画予算大臣、中央銀行総裁の3名(いわゆる経済チーム)
、12月初旬の開発商
工大臣、農務大臣を除き遅れに遅れ、元旦の就任式に何とか間にあわせた。ブ
ラジルには、日本の2倍の39大臣ポストが存在。国会議員(下院513名、
上院81名)を有する政党が28、連立与党は10の政党で構成。大臣決定の
遅延理由は、大臣ポストを巡る政党間の駆け引きに時間を要することに加え、
今回はペトロブラス汚職疑惑の捜査が進行中であり、政治家の関与も浮上して
いることから、大統領としては人選を慎重にせざるを得なかった。13名が留
任。ルセーフ大統領の政治支持基盤は弱く、議会運営は難しい。2月22日の
時点では、2015年予算は国会の承認を得ておらず、暫定予算。
因みに、ポルトガル語では、PRESIDENTE(大統領)という単語はあるが、
男性形でも女性形でも同じ形の PRESIDENTE であり,ルセーフ大統領誕生後
広まっている PRESIDENTA は文法的には間違いとされています。ルセーフ大
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統領は、4年前大統領就任当初、自分を PRESIDENTA と呼ぶよう要請。新閣
僚の中で、レヴィ財務大臣のみが PRESIDENTE を使っている由。
なお、ブラジルでは、政治任用ポストが連邦政府、国有企業、研究機関など
に2万5千以上存在。連邦政府の局長以上のポストも大臣が交代すれば、外務
省や国防省など一部の例外があるが、多くの省庁で1月以降順次交代。このこ
とは、特に大統領選挙の年、ブラジル政府は11月頃から2月のカーニバルが
終了する頃までの間、機能しないといわれる理由の一つ。
各国政府、企業はブラジル政府との意思疎通に苦労。米の民間企業はブラジ
リア対策要員を配置。因みに日本大使館は、イタマラチ(外務省)、国防省(含
む陸空海軍)、開発商工省、農業省、ANVISA(国家衛生監督庁)、中央銀
行、軍警察、大統領府と緊密な意思疎通を図ってきたが、農業省、開発商業省
のように大臣が交代した省については、幹部も総替えであり、人的な関係を再
構築する必要性があります。
(3)ペトロブラス汚職疑惑(ペトロブラス元幹部(複数)が同社と契約を希
望する企業に賄賂を要求し、政治家に裏金としてわたっていた疑惑)
ペトロブラス(半官半民の石油会社)は、従業員数8万人、取引会社数2万
社以上、国内投資全体の中でペトロブラス関連投資の占める割合は10%以上
のブラジルを代表する企業。株の51%はブラジル政府が保有。ペトロブラス
汚職疑惑は、既にブラジル全体の信用を傷つけています。そもそもペトロブラ
ス社は原油価格の急激な低下を前に、一層の合理化に加え、開発コストの高い
プレサル開発計画の見直しが必要な状況でした。採算ラインは、一バレル40ド
ル(注 2014 年 11 月JOGMEC試算)ともいわれています。
その上に、不正疑惑の捜査が昨年春から進行中。昨年11月以降14名の経
済人・ペトロブラス関係者が既に逮捕。政治家も与野党40数名が捜査対象と
いわれており、検察による起訴と氏名の公表は近いとの報道。株がNYに上場
されていることから、米証券取引委員会(SEC)、米司法省も調査を開始。米
国投資家が集団訴訟を提起。
損失の規模(一説には886億へアル、約4兆円)も含め全容は未だ不明。
現時点ブラジル政治・経済に与える影響を推し量るのは時期尚早。しかしなが
ら、ペトロブラスの株価の時価総額は、5100億レアル(08年5月、約2
3兆円)で1280億レアル(2015年1月、5.7兆円)の4分の1まで
低下。フォスター前総裁はじめ理事会メンバーは、2月6日に交代。新総裁の
氏名(ベンデイーネ氏、ブラジル銀行総裁)が公表され、株価は更に低下。大
統領の道義的責任(文官長の時、ペトロブラス経営審議会議長。大統領として
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の役員任命責任)は大きく、大統領は弾劾(インピーチメント)に値するとの
意見もでだしている
ブラジルは世界汚職ランキングで69位。ブラジルの中長期発展の観点から
は、この事件を契機に抜本的意識改革を期待。
(4)経済状況
残念ながら、経済状況も芳しくない。2014年の経済成長率はほぼゼロ。
中銀によるエコノミストに対するアンケート調査(2月13日)では、本年度
の成長見通しはマイナス0.42%、明年1.5%です。インフレは1月の消
費者物価指数が、前年同月比6.69%と中銀目標圏の上限である6.5%を
超過。輸出に占める一次産品の占める割合は、この十年間に大幅に上昇(07
年32%-14年48%)。工業製品の競争力は低下。
昨年以降、中国経済減速の影響を受けて、一次産品価格(鉄鉱石、トウモロ
コシ等)が低迷。ブラジルの貿易収支は14年ぶりに赤字に転落。伯経済の中
国依存は増大(09年より最大の貿易相手国、世銀試算によると中国の成長率
が1%低下すると、ブラジルの成長率に2年で0.8%マイナス影響)。
持続的な経済成長を達成するためにブラジルが国内で取り組むべき課題は、
(ア)財政再建(公的債務総額の対GDP比は60%超、他の新興国では30%)
、
(イ)インフレ対策、
(ウ)産業競争力・労働生産性を高めるための構造改革の
3つ。レビィ財務大臣を中心とする経済チームは、1月以降本格的に始動し、
財政規律の改善が最優先事項との姿勢を明確にし、電力価格引下げのための補
助金の終了、ガソリンに対する減税措置の終了、各省予算(暫定)の3分の1
カット等の歳出削減、歳入増加策を発表。
ルセーフ大統領も、1月末の閣議において、財政健全化政策は今後の雇用創
出、所得向上、社会政策維持のために必要と支持。内外のビジネス界も歓迎。
インフレについては、中銀が金利引き上げサイクルを加速させて対応中(現在
政策金利12.25%)。ブラジル経済の根源的課題である産業競争力強化、労
働生産性向上ためには、人材育成に加え、
「ブラジル・コスト」とよばれる複雑
な税制、過剰な労働者優遇政策への取り組みが不可欠。
(5)水不足問題
経済低迷に追い打ちをかけるように深刻化しつつあるのが水不足問題。特に
3年間水源地の少雨に起因するサンパウロ州の水不足が深刻。既に節水対策、
一部地域における給水制限を開始。このまま推移すると、4月以降は本格的給
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水制限をせざるを得ない状況。また、水力発電不足から電力供給にも危機感。
サンパウロ州は、ブラジル全体GDP約3割を占める経済の中心であり、市民
生活に加え、ブラジル経済全体への深刻な影響が懸念。日本として支援できる
ことの有無を含め検討中。
(6)最新の支持率
ペトロブラス不正疑惑、経済的低迷、水不足等を背景として、最新の世論調
査(2月ダータ・フォーリャ)では、ルセーフ大統領の支持率は急落(昨年1
2月42%-今年2月23%)。アルキミン・サンパウロ知事の支持率も大きく
低下(昨年12月48%-今年2月38%)。
このように低い大統領支持率は2013年6月のデモ発生後、支持率が6
5%から30%に急落して以来の低い数字。ルセーフ大統領にとっては、大統
領選挙でルセーフ大統領を支援した低所得層にも不支持が広がっていることは
大きなショック。電気代、ガソリンなどの公共料金の値上げの動きも支持率低
下に影響。財政健全化路線を維持しつつ、支持率上昇を図ることは容易でない。
人も国も試練を乗り越えて、初めて大きく成長する。大統領にとってこの1
年は、間違いなく困難な年。ブラジルは次の発展に向けて、試練に立ち向かう
時期を迎えています。
(7)ブラジルのよい点
以上ブラジルが現在直面している困難について説明。これだけの説明に終わ
れば、だれもブラジルに投資しようとは考えない。多くの困難に直面している
ブラジルも事実だが、同時にブラジルは多くの素晴らしい点、日本にとって掛
け替えのない国であるのも事実。6点説明したい。
(イ)1点目は、ブラジルは自由・民主主義という基本的価値を有し、寛容性
と多様性に富んだ社会であること。
ブラジルでは、軍政から民政化されて30年を迎え、表現・報道の自由は確
保され、効率性の問題はあるが統治機構は安定。司法も独立し、民主主義は社
会に根付いている。人種、宗教は多様であり、寛容性に富み、人種差別が世界
で一番少ない社会。ブラジルは、治安は悪いが、イスラム過激派によるテロや
周辺国との国境紛争はない。
9月の独立記念パレードは象徴的。白い人、黒い人、アジア系の人、大柄な
人、小柄な人など人種・体格・性別もバラバラの人達が、入り混じって楽しそ
うに行進。ブラジルならではの行進。
(ロ)2点目は、ブラジルは世界有数の親日国であるとういうこと。
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ブラジルが親日である理由は二つ。一つは、ブラジルにおける約160万人
の日系社会と日本における約19万人のブラジル人の存在。このことは、日本
とブラジル両国にとって掛け替えのない「外交資産」。特にブラジルの日系社会
は、日本人・日本に対するブラジル社会の信頼感を醸成、また、柔道や日本食
など日本文化の普及にも大きな貢献。
もう一つの要因は、過去に日本とブラジルは幾つかの共同開発プロジェクト
(鉄鋼のウジミナス、パルプのセニブラ、アルミニウムのアルブラス、造船の
イシブラス、農業のセハード開発)を実施したこと。特に、日本技術者と日本
人入植者がブラジル関係者と協力し、
「不毛の地」であった「セハード」という
広大な地域を耕作可能地に変え、今やブラジルは世界最大の農業生産国のひと
つに躍進。日本の協力ついては、今も多くのブラジル人が感謝。
(ハ)3点目は、ブラジルは資源・食糧生産国として、日本の資源・食糧安全
保障にとって不可欠の国であること。
ブラジルの人口・国土は世界第5位。世界最大の食料輸出国(大豆、トウ
モロコシ、鶏肉、コーヒーなど)。大きな食料生産余力。鉄鉱石、レアアース・
レアメタル、深海油田における石油の生産。
(ニ)4点目は、市場、投資先として魅力的な国であること。
ブラジルのGDPは世界第7位。この経済規模はアセアン10か国の総計と
ほぼ同じ。国内消費市場としても、世界第7位(米、中、日、独、英、仏、伯
の順))である。鉄道、港湾等インフラが不足しており、投資の余地は大きい。
昨年11月、GEのCEOはインタビューの質問に対し、
「ブラジルが多くの問
題に直面しているのは事実だが、GEは短期的利益のみならず、中長期的観点
から投資している。ブラジルには大きなポテンシャルがある」と回答。
(ホ)5点目は、ルセーフ政権はこの1月以降、12年の労働者党政権下で初
めて本格的な財政改革に取り組んでいること。また、金融システム(外貨準備
高、不良債権比率、金融機関の自己資本比率)は健全で外部からのショックに
強固であろうということ。
(ヘ)6点目は、この10年間に経済社会開発は着実に進展。例えば、高所得
者・中間層はこの10年で7.9千万人(03年)から1.5億人(2014
年)に拡大。正規雇用及び教育の拡大、貧富の格差(ジニ係数(0.6(01
年)―0.53(2013年)も依然高いものの改善。
2.ブラジルの対外政策。
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(1)中南米情勢
ここ10年、中南米全体の域外国との関係の最大の変化は、米のプレゼンス
減少と中国のプレゼンスス増大。ラテン・アメリカ33か国中、12か国が台
湾との関係を維持。現在中国・台湾間で縄張り争いに関する停戦合意があり、
中国との外交関係樹立の動きは止まっている。しかしながら、中国の圧倒的経
済力と積極的な働きかけにより、実質的には中国の勝利でほぼ決着がしたとい
ってよい。
(2)ブラジル・中国関係
ブラジル経済の中国依存もこの十年で増大。伯経済のこの10年の発展は、
中国の成長に伴う一次産品価格の高騰が大きく貢献。伯にとって中国は09年
以降最大の貿易相手国。ブラジル製大豆、トウモロコシ、鉄鉱石の最大市場。
中国にとっても、ブラジルからの食料、鉱物資源の安定供給は不可欠。両国は
経済面では強い相互補完関係。中国・ブラジル間の貿易額は、日・ブラジル間
の約6倍(約900億ドル)。
中国は、ブラジルを食料・原材料の供給先、中国製品の市場としての重要性
に加え、BRICSの一員、中南米における大国ブラジルの政治的利用価値を
認識し、ブラジルへの働きかけを強化。元旦の大統領就任式への李源朝国家副
主席の出席(4年前は閣僚級)はブラジル重視のメッセージ。ブラジルの新聞
では、経済関係緊密化、中国への関心の高まりを反映し、中国関連報道(主に
事実報道)が急増。サッカーもトップ選手(代表クラス選手)が中国リーグへ
移籍する時代。世銀の試算では、中国の成長が1%落ちると、伯の成長は2年
間0.8%影響を受ける由。
習近平国家主席は、昨年7月、ブラジルを国賓として訪問し、56の二国間
協力文書に署名(含む大陸横断鉄道の建設、自動車分野の投資、宇宙分野の協
力拡大等)。また、それに先立ちブラジルで開催されたBRICS首脳会合で「新
開発銀行の創設」
(本部上海)にも合意。新開発銀行に関して、ブラジル政府関
係者は、欧米が主導する既存国際金融秩序への挑戦はブラジルにとっても有益
との考えを共有。
また、ウクライナ問題、クリミヤ問題等に対するブラジルの立場はこれまで
非常に曖昧です。BRICSのメンバー(露、中)への配慮という面もあろう
が、結果として、露や中国寄りの立場。ブラジル人の有識者の中には、中国と
行動を共にすることは、中国の世界戦略に利用されるだけであるとの意見や、
民主主義や自由を尊重しないロシアや中国と何を達成しようと考えているのか
といった意見もありますが、少数です。今後、ロシアや中国はBRICSの政
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治利用を強める可能性。
ブラジルは、日本とともに G4 として、安保理常任理事国入りを目指していま
すが、主要国際問題に立場を明らかにし、責任を負う用意はできていないとの
声が国内にあります。但し、今年になり、国際問題に能動的に対応しようとの
変化の兆しがみられます。米との関係改善の動きもそうであるが、イスラミッ
ク・ステイツの蛮行に対する非難声明を発出。非難と遺族に対する哀悼の意の
表明に加え、「表現の自由」の重要性も訴えています。
なお、昨年7月の習近平国家主席のアルゼンチン訪問、本年2月のフェルナ
ンデス・アルゼンチン大統領の中国訪問を通じて合意された内容(通貨スワッ
プ110億ドル、入札なしインフラ建設のために100億ドル融資)は、ブラ
ジルにおいてアルゼンチンに対する「不信感」と中国に対する「警戒感」を呼
び起こしています。
(3)ブラジル・米国関係
米との関係は、2013年秋、米がジルマ大統領の携帯電話を盗聴している
と暴露された後、冷却(同年9月に予定されていたルセーフ大統領訪米の中止)。
昨年のワールドカップ、元旦の大統領就任式出席のため、バイデン副大統領が
ブラジルを訪問。本年中(9月)の大統領訪米(国賓)の実現に向けての調整
を開始。米は、明確に口にしないが、中国によるニカラグアでの運河建設、ベ
ネズエラ、ボリビア、エクアドル、アルゼンチンなど反米国家へのテコ入れ、
本年1月、第一回中・CELAC閣僚会議の開催(5年間に6千人の政治家招
待、中国・CELAC特別借款(百億ドル)の活用等を合意)を通じた中南米
全体への勢力圏拡大の動きに対し、強い不快感。
米の伯との関係正常化努力、キューバとの国交正常化に向けた動き等も中南
米全体との関係改善をにらんだ米の中南米への関与政策の表れ。ブラジル国民
の大半は、米国が好き。マイアミへの買い物旅行、不動産の購入。
「国境なき科
学」プログラムに基づく、約2万5千人のブラジル人留学生。ブラジルのビエ
イラ新外務大臣は、前駐米大使。関係改善に向けた政治メッセージ。
いずれにせ、中南米では、両国とも公言しないが、米中間の勢力争いが静か
にではあるが、露骨な形で展開されています。
3.日本とブラジルの二国間関係。
(1)ここ数年の日本・ブラジル関係を振り返りたい。04年の小泉総理の訪
伯。05年ルーラ大統領の訪日に続き、08年は、移住百周年・日伯交流年と
して、ブラジル各地で官民一体となった式典が行われました。皇太子殿下が訪
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伯され、9日間で8都市を訪問。ブラジリアでは、皇太子殿下は、当時のルー
ラ大統領夫妻に迎えられ、大統領府での交流式典に出席。麻生日伯議連会長を
はじめ11名の国会議員も訪伯。日本においても記念式典が開催され、日本側
は天皇皇后両陛下、皇太子殿下、3権の長、日伯議員連盟代表、ブラジル側か
らは政府代表としてルセーフ文官長(現大統領)が出席。その際、ルセーフ文
官長は、同行していたサイトウ空軍司令官に対し、
「日系人であるあなたがブラ
ジルの空軍司令官であること、また、こうして式典に一生に出席していること
を誇りに思う」と語った由。2008年は、日本とブラジルが「特別な絆」を
有していることを再認識する上で、間違いなく「大きな節目の年」でした。
2011年のルセーフ大統領の就任式には、麻生議連会長が出席。2014
年には、FIFAワールドカップが64年ぶりにブラジルで開催され、日本代
表チームの応援に一万人近いファンがブラジルを訪れました。2014年8月
初め安倍総理ご夫妻(現役総理10年ぶり)が訪伯された。周辺情報を総合す
ると、ルセーフ大統領は、日本に対し親近感を有し、安倍総理、麻生副総理に
好感を有しています。
(2)今年、2015年は外交関係樹立120周年を迎え、ルセーフ大統領の
訪日、皇族の訪伯を期待。2013年6月の大規模デモ発生のため訪日を延期
せざるを得なかったこともあり、大統領は訪日に強い関心を有しています(日
程調整はまだ)。皇族のブラジル御訪問の可能性は高いと考えています。
120周年に関連し、ブラジル各地で100以上の行事が予定されています。
2月14日早朝サンパウロのカーニバルでは、アギア・デ・オーロというチー
ムが日本をテーマとして取り上げ、デザイナーのコシノ・ジュンコさん、青森
県五所川原市の「ねぶた」も参加(サンパウロでのカーニバルに出場した14
チームのうち4位の成績)。なお、120周年記念の親善大使には、ジーコと歌
手のマルシアさんです。また、特別事業として3つの事業を企画。①9月12
日、サンパウロのF1競技場での「花火ショー」。②農業のセハード開発、製鉄
のウジミナス、アマゾンアルミ、パルプのイシブラス、造船のイシブラスとい
った「日伯共同プロジェクトに関する巡回展示会」(伯国内7-8か所)、③イ
ブラプエラ公園内の「日本館改修」である。この3事業のために寄付金をお願
いしており、55社(2月13日現在)から協力頂いていることに心より感謝。
来年2016年8月、南米大陸で初のオリンピック・パラリンピックがリオ
で開催。4年後2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催され
ることから、リオは特別の意味を持ちます。
(3)現在、大使館では安倍総理の訪伯のフォローアップに取り組んでいる。
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二つの柱がある。一つは、伯側と合意・発表した共同声明に盛り込まれた内容
の実施、二つ目の柱は、総理から指示のあった日系社会との連携強化です。
(イ)共同声明
共同声明に関しては、第一に防衛・安全保障分野での交流強化。総理訪伯後、
史上初めて防衛交流の名のもとに、制服組の本格的交流が開始。昨年7月の南
米初の大使館への防衛駐在官の配置、8月の木原防衛政務官の訪伯に続き、ブ
ラジル側からは、12月に陸軍少将一行が訪日。今年は、佐官クラスの交流に
加え、自衛隊幹部の訪伯が予定されています。
経済分野に関しは、2009年から2013年までの5年間に伯に進出した
日本企業数は倍増し、現在約7百社。80年代終わりから90年代初めの経済
危機の時代にブラジルから撤退した企業が再進出したケースや新規企業もあり
ます。昨年から日本商工会議所やJETROへの投資照会は減っているようで
すが、この5年間は投資ブームの再来の感あり。多くの大企業はブラジルに展
開済。中小企業に海外展開の一つの選択肢としてブラジルを検討いただきたい。
大使館では、日本再興の一端を担う観点から、日本企業支援を優先業務とし
て取り組んでいます。特に農業インフラ、医療機器・医薬品、造船、投資環境
整備の面で協力を強化。伯側との関係では、特に産業人材育成面での技術協力
を実施中。また、緊急の課題として、サンパウロの「水不足問題」に関し、い
かなる協力が可能か相談を開始しています。
日ブラジル間には、いくつかの対話のフレイムがありますが、両国の経済界
リーダーで構成される日伯賢人会議は、両国首脳に進展状況や改善すべき点を
直接報告する機会を有しています、また、日伯経済合同委員会は、日本とブラ
ジルで協力を強化すべき分野についてお互いの考えを率直に語る場であり、非
常に有益な委員会です。
(ロ)日系社会との連携強化
日系社会との連携強化策については、現在国会で審議されている来年度予算
案の中に盛りだくさんの項目が盛り込まれています。160万人の日系社会は、
日伯両国にとって大きな「外交資産」です。ブラジル各地の日系団体は、日本
文化の継承・普及のために日本祭りの開催など様々な取り組みを実施。日本政
府としても、移住者対策に加え、日本文化普及の担い手としての日系社会の役
割に焦点を当てて連携を強化することが重要。また、日系社会は世代交代が進
み、3世以降の世代が中心になってきています。1世、2世と異なり、日本や
日本語を知らない若い日系人が増えており、彼らに、自分自身のルーツに関心
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を持ち、誇りを持って日本文化を学べる機会を増やすことが重要な時代。
このような観点から、来年度予算には、日系人の若者や指導者を日本に招へ
いする予算の拡充、JICAボランティアの倍増、日本祭り支援、日本語学習支
援拡充などが含まれています。
更には、総理や皇族がブラジルに来訪される際、若い人達に直接触れ合う機
会を増やすこと、また、今年の120周年の機会に日本の伝統芸術、最先端の
音楽や技術に触れてもらう機会をできるだけ増やすことも重要との考え。
日本には、約19万人の日系ブラジル人住んでいます。天皇陛下は、200
8年日伯交流年・移住百周年記念式典のお言葉の中で、
「ブラジルにおいて日本
からの移住者が温かく受け入れられたのと同様に、日本の地域社会において。
日々努力を積み重ねている日系人の人があたたかく迎えられることが大切であ
ると思います」と述べられた。彼らも日本とブラジルを結ぶ大切な財産です。
彼らの日本社会への貢献も大きなものがあり、引き続き、温かい目で応援して
いただければと思います。
日本とブラジル関係強化のために皆様の協力をお願いし、私の話を終わりと
させていただきます。
ご清聴ありがとうございました。(了)
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