皮膚疾患と金属アレルギー

2006年
(平成18年)1月5日(毎月3回5・15
・25日発行)
兵 庫 保 険 医 新 聞
(昭和43年6月12日第三種郵便物認可)
第1478号
皮膚疾患と金属アレルギー
診 内 研
よ り 408
兵庫医科大学皮膚科助教授
方法や判定、および結果の解釈に一定の
はじめに
夏秋
優
金属アレルギーによって生じる皮膚・
チテスト用の試薬を乗せたフィンチャン
粘膜疾患は、表1に示すように数多い。
バーを背中に貼って、 4
8時間後にはず
その中には、アクセサリーかぶれのよう
し、72時間後と7日後に判定する。判定
に金属と皮膚との直接接触によって生じ
はICDRG(国際接触皮膚炎研究班)基
る接触皮膚炎の他に、金属含有量の多い
準に従って行うが、試薬の種類や貼布部
食品が経口摂取されたり、歯科金属のよ
位、貼布季節、患者さんの体質(汗かき
うに体内に存在する金属によって生じる
など)によって偽陽性や偽陰性反応を生
金属アレルギーも含めることができる。
じる可能性がある。また、結果の判定に
ここでは、金属アレルギーの診断や皮膚
は医師の経験によって、ある程度の個人
疾患との関わりについて簡単に述べる。
差が出ることを念頭に置く必要がある。
金属アレルギーによって
生じる皮膚疾患
臨床的な問題
兵庫県保険医協会
078・393・1801
Fax078・393・1802
先生講演
表1
金属アレルギーによって生じる
可能性のある皮膚・粘膜疾患
修練を要する。図3に示すように、パッ
・舌炎、口内炎、口唇炎
・接触皮膚炎
・貨幣状湿疹、汗疱状湿疹
・偽アトピー性皮膚炎
・扁平苔癬
・掌蹠膿疱症
図1
身近な金属による接触皮膚炎
臨床的に金属アレルギーが問題となり
一般的な金属アレルギーとしては、ニ
やすい疾患として、汗疱状湿疹や貨幣状
ッケルやコバルトなどで作られたイヤリ
湿疹、扁平苔癬、掌蹠膿疱症などを挙げ
ングやネックレスなどのアクセサリー類
ることができる。これらの皮膚疾患は慢
による接触皮膚炎が日常的によく経験さ
性、難治性に経過することが多く、金属
れる。しかし、最近ではファッションの
アレルギー以外にC型肝炎ウイルスや薬
変化に伴ってジーンズのボタンやベルト
剤、病巣感染などによっても生じるが、
のバックル
(図1)
、ピアスなどによる接
時に歯科金属が原因となる例がある。そ
触皮膚炎が多くなっている。また、皮革
のため、原因検索として金属パッチテス
製品やセメントに含まれるクロムによる
トを行う機会も多い。そしてその結果に
接触皮膚炎も時に見られる。以前はマー
よっては、歯科金属除去を勧めることも
キュロクロム(赤チン)による水銀アレ
ある。
ルギーが多かったが、 近年は稀となっ
しかし、パッチテスト陽性の金属が必
た。また、最近は電子体温計が用いられ
ずしも除去を必須とするものではないこ
ることが多いので、以前ほどではないが
と、そして歯科金属の除去によって皮膚
水銀アレルギーの人が水銀体温計の破損
疾患が治癒しない可能性があることや、
によって全身に激しい皮膚炎を生じるこ
歯科金属以外にも種々の原因があり得る
とがあり、注意が必要である。
こともあらかじめ十分に説明する必要が
その他、ニッケルやクロム、コバルト
ある。実際に筆者は、パッチテストで複
を多く含む食品の摂取によって汗疱状湿
数の金属で陽性反応が得られたにもかか
疹を生じる例や、アトピー性皮膚炎が悪
わらず、義歯の調整だけで治癒した口唇
化する場合がある
(参考文献①)。
部扁平苔癬の症例を経験している(参考
金属アレルギーの発症機序
金属アレルギーは通常、遅延型過敏反
金属パッチテストに関する問題点を表
2にまとめた。種々の問題点を指摘して
ルハンス細胞によって皮膚所属リンパ節
おいたが、これらを参考にして診断や患
内のT細胞に抗原呈示されることで感作
者指導を行っていただきたい。特に、歯
が成立する。その後、特異的な金属抗原
科金属の除去に関してはパッチテスト結
の侵入に対して感作T細胞が活性化さ
果を安易に解釈せず、慎重な対応を要す
れ、種々のサイトカインを産生すること
る。本稿が金属アレルギーの診断や理解
によって、4
8
~72
時間後にピークとなる
に少しでもお役に立てば幸いである。
金属アレルギーの診断
金属アレルギーの診断にはパッチテス
ト
(貼布試験)
が必須である。パッチテス
図2
ベルトのバックルが原因
遅延型過敏反応の発症機序
おわりに
経皮的に侵入した金属抗原が表皮ランゲ
炎症反応が惹起されるのである。
ジーンズのボタンが原因
文献②)。
応の機序によって生じる
(図2)。まず、
図3
パッチテストの方法
参考文献
①足立厚子ほか臨床皮膚科48:
241,
1994
②Nat
s
uakiM.e
t
.
al
.
r
onDe
r
mat
ol
Envi
6:
93,
1999
トは手技そのものは簡便であるが、実施
表2
(10)
金属パッチテストの問題点
1)パッチテスト結果の信頼性(偽陽性、偽陰性)は?
*亜鉛、マンガン、スズなどでは偽陽性(刺激反応)がでやすい。
*暑い時期や汗かきの人では偽陽性がでやすい。
*メーカーによって金属試薬の濃度、基剤の設定が異なる。
*パッチテストの手技、判定に熟練した皮膚科医が行わないと、正し
い結果が得られない。
2)パッチテスト陽性の金属は接触を避けるべきか?
*パッチテスト陽性でも皮膚症状のでない人がいる。
*汗をかく時期は金属がイオン化して接触皮膚炎を生じやすい。
3)パッチテスト陽性の歯科金属を除去すべきか?
*患者さんに多大な経済的、身体的、精神的負担をかける。
*歯科金属を除去しても皮膚症状が軽快しない例がある。
*試薬をのせたフィンチャンバー
を背中に貼り、絆創膏で固定。
*48時間後に絆創膏をはがして、
72時間後、7日後に判定する。
【お詫びと訂正】本紙12月15日付6面
から4行目と、2段目上から2行目の
「COPDのプライマリケア」の記事中、
「213人」は「242人」の誤りです。お
患者数に誤りがありました。1段目下
審査・指導相談日
詫びして訂正いたします。
● 1月1
2日(木)15時~
● 兵庫県私学会館
※医科は事前予約制 078-393-1803黒木まで 歯科は随時 078-393-1809まで
※文書による査定・減点相談も行っています。月刊保団連同封の
「保険審査相談用紙」をご利用ください。
保険診療の請求事務・
再審査請求・
指導・
監査などのご相談やお問い合わせは 0
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