ステアリング用等速ジョイント(CSJ)

NTN TECHNICAL REVIEW No.73(2005)
[ 製品紹介 ]
ステアリング用等速ジョイント(CSJ)
Constant Velocity Steering Joint (CSJ)
山 崎 健 太*
Kenta YAMAZAKI
自動車のステアリング設計レイアウトの自由度を大幅
に向上する,最大作動角48°まで使用可能な,軽量・
コンパクトでガタのないステアリング専用等速ボール
ジョイントを開発した.
In a cars steering system, Close or Cardan joints typically were used. However, because of the
nature of non-constant velocity joints, we are required to use two joints with special geometrical
construction to obtain constant velocity performance. To improve this situation, a new constant
velocity steering joint (CSJ) has been developed.
This paper reports the summary of the concept, design and characteristics of the new joint. Adding
the original idea to the reliable know-how of constant velocity universal joint, a smooth and nonbacklash feeling has been achieved.
において等速で滑らかな作動を実現する,世界初のス
1. まえがき
テアリング専用ボールタイプ等速ジョイント『CSJ』
を開発した.本稿では,『CSJ』の特長と基本的な機
自動車のステアリング装置に使用されるジョイント
能試験結果を紹介する.
として,従来クロスジョイント(カルダンジョイント
とも呼ばれる)(図8参照)が使われている.このジ
ョイントは等速ジョイントではないため,1ジョイン
2. 従来の技術
トで大きな角度をとると回転角速度変動とそれに伴う
トルク変動が発生し,ステアリングフィーリングを悪
ステアリング用ジョイントには,回転方向ガタが無
化させる.これを回避するために,2個のジョイント
く滑らかに作動し,作動角が大きくかつコンパクトで
を設定角度が等しくなるように組み合わせ,さらに,
あることが要求される.現在,ステアリング用等速ジ
互いの回転角速度変動を打ち消し合う回転方向位相に
ョイントとしては,クロスジョイントを2個組合せ,
配置することで等速性を確保している.
センタリング機構を持つことで 1ジョイントで等速性
近年,車両の小型・軽量化と室内スペースを両立す
を発揮するダブルカルダンジョイント(D-CJ)(図9参
るため,益々エンジンルーム内のスペースが少なくな
照)が量産されているが,大きさと重さ,さらに捩り
り,等速性の確保を目的とするステアリングレイアウ
剛性が低いなどの課題があった.また,D-CJには2
ト(2ジョイントの角度合わせ)が採りづらくなって
つのタイプ(疑似等速タイプと完全等速タイプ)があ
きている.
り,設定角度以外では等速性が損なわれたり,首振り
NTN では,ドライブシャフトで実績のある等速ジ
角度の範囲が狭いなどの欠点を持っていた(表1参
照).
ョイントのノウハウと独自構造により,全作動角領域
*自動車商品本部
等速ジョイント技術部
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ステアリング用等速ジョイント(CSJ)
持ち上げられ,ボール溝すきまが詰められる機構とし
3. CSJの構造
た.この構造では,長期にわたる使用により各部品の
CSJの基本構造は,ドライブシャフト用として多
接触部に僅かな摩耗が発生しても,ばね作用により自
用されているBJ(トラックオフセットタイプの固定
動的にすきま詰めされるため,ガタのない状態を維持
式等速ジョイント)と同様である.但し,通常のBJ
することができる.
は,アウタレース及びインナレースに形成されたボー
さらに,各部品の形状及び各部すきまの最適化を図
ル溝とボールとの間には僅かなすきまが存在し回転方
り,それに合わせてばね力を適正化することにより,
向ガタが発生するため,ガタを嫌うステアリング用と
全角度領域での回転方向ガタ詰めと円滑な回転作動の
しては不適当である.また,ガタ詰を目的としてボー
両立を図った.
ル溝とボール間の隙間を締代設定とすると,組付けら
れない問題がある.
4. 各種性能特性
これらの背反する問題点を解決する手段として,ジ
4. 1 回転方向ガタ
ョイント内部にプランジャとスフェリカルプレートを
追加した(図1参照).シャフト先端にばねとボール
D-CJとの比較結果を図3に示す.
をセットにしたプランジャを設け,ボールがばね力に
CSJは,ガタがなく,現行のステアリング用ダブ
よりケージに嵌合されたスフェリカルプレートを押圧
ルカルダンジョイント(D-CJ)と比較して,高い捩り
する構造としたことで,図2に示すように,内輪のみ
剛性を示す.
が図の右方向に移動し,ボールが外輪に接触するまで
内輪
シャフト
バンド
CSJ
外輪
スフェリカル
プレート
プランジャー
バンド
ケージ ボール
+
ブーツ
CSJ
D-CJ
図1 構造図
Structure
捩りトルク
スフェリカルプレート
0
軸方向変位
プランジャ
-
-
0
捩れ角度
+
図3 回転方向ガタ(ジョイント角度30°)
Rotational back lash
図2 ガタ詰め機構説明図
Structure to reduce rotational play
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NTN TECHNICAL REVIEW No.73(2005)
4. 2 回転トルク
運転時間
目標寿命
目標寿命×2
D-CJとの比較結果を図4に示す.
CSJの回転トルクは僅かにD-CJより大きいが許容
範囲内でありトルク変動がないため,ステアリング用
試験結果
条件 A
不具合なし
条件 B
不具合なし
ジョイントに適した特性を持つ.
図5 耐久試験結果
Endurance test results
+
CSJ
捩りトルク
回転トルク
D-CJ
未破損
開発目標
0
0
60
120
180
240
回転角度 deg
300
360
±0
103
104
図4 回転トルク(無負荷時)
(ジョイント角度30°)
Rotating torque
105
106
107
捩り回数
図6 両振り捩り疲労試験結果(ジョイント角度48°)
Torsional fatigue strength
5. 耐久性及び強度
図5に耐久試験結果,図6,図7に強度試験結果を
破損トルク
示す.
耐久・強度とも目標レベルを十分満足しており,実
用に供し得ると判断する.
開
発
目
標
6. 各種ステアリング用等速ジョイントとの
比較結果
0
CSJは,他社製ダブルカルダンジョイントと比較
して軽量・コンパクトであり,かつ許容作動角度も大
を大幅に改善可能である.
表1 ステアリング用等速ジョイント比較
Comparison of constant velocity steering joint
外
径
重
量
占有体積
作動角度
φ64 mm
A社製
B社製
ダブルカルダンジョイント ダブルカルダンジョイント
φ61.5 mm
φ70 mm
441g
970g
830g
160 cm3
327 cm3
270 cm3
0〜48 deg
0〜47 deg
(全域完全等速) (疑似等速タイプ)※
10
20
30
ジョイント角度
40
図7 静捩り試験結果
Static torsion strength
きいため,ステアリングシステムのレイアウト自由度
CSJ
0
40〜48 deg
(完全等速タイプ)
※設定角度を外れると等速性が損なわれる.
-86-
50
ステアリング用等速ジョイント(CSJ)
7. まとめ
自動車のステアリング専用等速ジョイントとして開
発したCSJは,従来のBJに対してジョイント内部に
独自の予圧付与機構を追加すると共に内部すきまなど
1
3
の最適化を図り,最大許容作動角度 48度までの全作
2
動角度範囲において回転方向バックラッシュの抑制と
滑らかな回転作動の両立を実現し,さらに十分な耐久
性と強度を有した,ステアリングシステムに最適な等
1軸受
2クロススパイダ
3軸受シール
4ヨーク
4
速ジョイントとすることができた.
CSJは,ジョイント1個でも等速でスムーズな回転
伝達を確保できることから,カルダンジョイント2個
使いに必要なジョイント角度合わせと回転方向位相合
1)
図8 クロスジョイント(カルダンジョイント)
Crose joint (Cardan joint)
わせが不要であり,かつ,ダブルカルダンジョイント
と比較して軽量・コンパクト化を図ったことで,ステ
アリング装置の設計レイアウト自由度を大幅に改善す
ソケット
ることができる.今後,自動車のさらなる高機能化や
アウタシール
インナシール
ソケットヨーク
センタリングポール
コンパクト化のニーズにおいて,ステアリングシステ
ムを成立させ得る唯一の等速ジョイントとして期待に
ニードルローラ
チューブヨーク
応えられるものと確信している.
ベアリング
カップ
カップリングヨーク
ブッシュ
ソケットヨーク
ニードル
ローラ
参考文献
1)社団法人 自動車技術会 自動車技術ハンドブック
設計編(1991)
スパイダ
図9 ダブルカルダンジョイント1)
Double cardan joint
執筆者近影
山崎
健太
自動車商品本部
等速ジョイント技術部
-87-