ナバックレター 養鶏版Vol.20

ナバックレター
養鶏版Vol.20
次のマイコトキシン対策は?(1)
Tom Vanderborght, Impextraco NV, Belgium
マイコトキシン(カビ毒)は、糸状菌(カビ)が産生する二次代謝産物で、動物や人間には有毒な物質です。推定300種ものマイ
コトキシンが、私たちの健康に害を及ぼしています。分析方法の進歩により、その数が今後ますます増えていくのは確実と言え
るでしょう。
マイコトキシンは、マイコトキシン症と呼ばれる疾病を引き起こします。マイコトキシンの毒性は、摂取量、曝露期間、動物種
と品種、年齢、性別、そして健康状態に依存しますが、それ以外にも飼育密度、基礎疾患、気温などの要因が関係しています。
マイコトキシンを産生するカビは、植物や作物中で増殖し、収穫前(圃場カビ)または貯蔵作物中(貯蔵カビ)にマイコトキシン
を産生します。また、飼料の貯蔵条件が不適切であると、最終製品においてもマイコトキシンが発生することがあります。
カビはマイコトキシンを産生するばかりでなく、農作物にも被害を与えます。国連食糧農業機関(FAO)は、全世界の農作物の
約25%がマイコトキシンに汚染されていると推定しています。
予防と対策
カビの発育に適した条件がそろっている状況で、マイコトキシンの発生を防ぐことは非常に困難です。しかし、効果的な予防戦
略によって、マイコトキシンの産生を確実に抑制することができます。防虫・防カビはもちろん、前回の作物残渣の適切な処理、
適正な輪作、種子の選択(種子の品質、抵抗性品種)、適切な栽植密度、適正な施肥などによる予防措置は収穫前から講じること
ができます。穀物を傷つけないように条件の良い適期に収穫し、腐敗した穀物、湿った穀物を取り除き、良質なものだけをでき
るだけ速やかに貯蔵する、それが非常に防虫・防カビを有効にします。さらに、貯蔵中の温度、湿度、害虫・げっ歯類の駆除
および効果的な防カビ剤の使用もマイコトキシンの予防に役立ちます。
しかし、ここで注意しなければならないのは、今、予防をしても、既に存在しているマイコトキシンを除去することはできない
ということです。作物からマイコトキシンを除去する方法については数多くの試験が実施されてきました。問題は、試験には
経費がかかりそれが経済的損失につながること、そして、これら原材料の嗜好性や栄養価を損なう可能性があるということです。
これまでに実施された方法には以下のようなものがあります。高温高圧下のアンモニア処理(アフラトキシンには有効だが、
フモニシンにはあまり効果がなく、毒性化合物を生成)、オゾン、塩素ガス、水酸化アンモニウム、過酸化水素、塩酸および
二酸化硫黄ガスによる処理(DON[デオキシニバレノール]に対して)、ホルムアルデヒド(ゼアラレノンに対して)、焙焼、加熱
(DONに有効)、UVによる色選別(アフラトキシンに対して)などです。また、脱穀、精白、篩分けなども行ってきました。
しかし、これらの方法のほとんどに何らかの欠陥があることから、現在は使用されていません。
マイコトキシン結合剤の使用
20年ほど前、いわゆる「マイコトキシン結合剤」の使用によりマイコトキシン対策に新たな可能性が見出されました。Phillips
ら(1988)によって発表された、粘土の結合特性に関する初期の科学的研究の一つです。
Phillipsらは、アルミナ、シリカ、アルミノケイ酸塩という粘土を構成する主要な化学物質群から38種類の吸着剤を試験し、
含水アルミノケイ酸ナトリウム・カルシウム(HSCAS)と呼ばれるフィロケイ酸塩粘土の1種がアフラトキシンB1に対して
高い親和性を持つことを明らかにしました。
実際、広いpH域(2〜10)、37℃未満においてアフラトキシン-HSCAS複合体の安定性は良好であり、生体内におけるこの
ような結合剤の有効性を裏付けています。また、その後の研究により、HSCASが鶏や七面鳥など、様々な家禽のアフラトキ
シン症の予防にきわめて有効である可能性が示されています。
しかし、ゼアラレノンおよびオクラトキシンAに対するHSCASの有効性は限定されており、また、トリコテセン系マイコトキ
シン(T-2トキシン、ジアセトキシシルペノール、デオキシニバレノール等。ボミトキシンとしても知られている)の対策には
まったく無効であると考えられています。
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別のタイプの含水アルミノケイ酸塩であるゼオライトのアフラトキシンに対する結果は一定していません。一部の試験管内の
試験では有望でしたが、高濃度のゼオライトを添加した飼料で得られた結果は期待に反するものでした。
Ramosら(1996)は、透水性土壌の改良に使用される天然の遮水材であるナトリウムベントナイトの有効性についても検討
しました。ナトリウムベントナイトは、ペレット飼料製造時に結合剤としても使用されます。Ramosらの所見及び他の研究者
のデータから、ベントナイトは、ゼアラレノン、オクラトキシンA、ニバレノールには効果がないと考えられましたが、アフ
ラトキシンについては反対の結果が得られています。
様々な種類の有機物の熱分解によって生成される不溶性粉末である活性炭の使用に関する研究も行われています。活性炭は、
フモニシンB1またはオクラトキシンAなどのマイコトキシンとの結合に有効であることが試験管内において実証されています
が、生体内でははっきりした効果が示されませんでした。さらに活性炭では、ビタミンやミネラル類、薬物など他の飼料成分
と非選択的に結合する可能性があることが懸念されています。
コレスチラミンは陰イオン交換樹脂で、血中コレステロール濃度上昇の抑制に使用されています。腸管内で胆汁酸と結合し、
その後肝臓におけるコレステロールから胆汁酸への変換を促進することによって作用します。Ramosら(1996)は、コレス
チラミンがゼアラレノンと結合することを確認しており、また、他の研究者はフモニシンに対する有効性を証明しました。
しかし、コレスチラミンは比較的大量に必要とされることから(例:ゼアラレノンの場合で、飼料1メトリックトン[1000 kg]
当たり10 kg以上)、使用した場合は経済的にかなりの負担となります。
最後に、ポリビニルピロリドン(ビニルポリマー)をデオキシニベレノールに汚染された豚用飼料1トン当たりに2kg使用して
も、状況の改善はみられませんでした。
Saccharomyces cerevisiae
Stanleyら(1993)は、アフラトキシン汚染の場合にはSaccharomyces cerevisiae(出芽酵母)が有効であることを報告し、
マイコトキシンと結合しているのはその細胞壁であると結論しました。Santinら(2003)は、ブロイラーにおいてオクラトキ
シンに対する酵母細胞壁の効果について検討しました。その結果から、オクラトキシンはブロイラーの摂餌量、増体量、飼料要
求率に悪影響を及ぼすことが示されましたが、これらのパラメータは酵母細胞壁によっても改善されませんでした。
Yiannikourisら(2004)は、試験管内における酵母細胞壁とゼアラレノンの相互作用に関する研究を行いました。そして、
ゼアラレノンと酵母細胞壁の複合体形成機序は弱い非共有結合によるもので、結合型というよりはむしろ吸着型の相互作用で
あると、結論付けました。
結合剤の限界
入手可能な種々の発表論文に基づいて確認された、主な「マイコトキシン結合剤」の限界については、以下の通りです。
●有効性が数種類のマイコトキシンに限られる
一般的には、結合剤はアフラトキシンなどのいわゆる極性マイコトキシンに対して有効です。これは、極性マイコトキシンは
その化学構造上、効率的に結合できるという事実によるものです。トリコテセン系など、それ以外のマイコトキシンには、ゼロ
ではないにしても、結合能はほとんどありません。
● 試験管内で有効性を示しても生体内で有効とは限らない
試験管内試験は単純化された特殊な条件下で実施されるもので、実際に消化管内で起こることを示すものではありません。pH
の変化や、飼料や酵素分泌との相互作用などのパラメータを考慮に入れなければ、誤った結論を導いてしまう危険性があります。
実際に結合剤とマイコトキシン間に弱い非共有結合が形成されている場合には、「環境」条件の変化によってマイコトキシンが
遊離することがあります。
● マイコトキシンに特異的ではないものもある
マイコトキシンに特異的ではない結合剤は、ビタミンやミネラル類、薬物など、その他の飼料成分と相互作用します。これは、
マイコトキシンに対する効果を減弱し、畜産動物の生産成績にも影響します。
(次号に続く)
これは「International Poultry Production Vol.18,No.1」を翻訳したものです。
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