膵臓がん治療ガイドライン

わかりやすい悪性腫瘍の話
膵臓がん
2014.1.14
膵臓の治療
前号では、膵臓がんの 5 年生存率は、部位別のがんの中でも低く、治療が難しいこと
をお話ししました。
その理由は、胃がんや大腸がんのように早期発見することが難しく、また、膵臓が薄い
臓器でその中にできたがんが 2~3cm であっても外に出てしまい、診断時には手術が不可
能になるケースが多いからです。
また、治療が難しい理由として 3 つあります。第一の理由は、一つ一つの細胞が抵抗性
を持っていて放射線が効きにくいこと。第二に腫瘍が周囲に神経に沿って早い段階で浸
潤すること。第三に肝臓などに遠隔転移しやすく、大腸がんと比べ原発巣がそれほど大
きくなくても肝臓に目に見えない微小な転移が始まるからです。
今回は、近年効果を上げている標準的な治療、先進医療、免疫細胞療法について概要を
お話しします。
膵臓がんが膵臓内部にとどまっているⅠ~Ⅲ期と膵臓外部に出てしまったⅣa 期で切除
可能な場合は、手術が行われ手術後に化学療法の補助療法が併用されます。
従来は、Ⅳa 期やⅣb 期の切除できない場合は、抗がん剤治療か化学放射線治療(抗がん
剤と放射線治療の併用)が主流でしたが、最近は、高精度な放射線治療や粒子線治療と
の併用や、免疫細胞療法(先進医療・先端医療)の併用も行われ生存率を高めています。
膵臓がん治療ガイドライン
日本膵臓学会「膵癌診療ガイドライン 2013」より
わかりやすい悪性腫瘍の話
膵臓がん
2014.1.14
手 術
切除手術は根治をめざす唯一の治療法で、再発防止のために手術後に抗がん剤治療を行
うことで治療成績が向上してきました。
膵臓は、膵頭部、膵体部、膵尾部の 3 つの部位に分けられますが、2 つの手術方式があり
ます。
① 尾側膵切除術
膵体部、膵尾部と一緒に膵尾部の先にある脾臓を切除するもので、膵頭部が残るため
そこでつくられた膵液は手術前と同じように十二指腸に分泌されます。
② 膵頭十二指腸切除術
尾側膵切除術に比べかなり複雑で、切除するのは、膵頭部、十二指腸、胆のう、胆管
の一部、胃の一部です。切除した後は、胃と小腸をつなぎ、更に残した膵臓を小腸に
つなぎ膵液が腸内に流れ込むようにします。また、小腸と胆管をつないで胆汁が小腸
に流れ込むようにします。
膵体・膵尾部
肝
胃
脾
胆のう
胃
膵
小腸
十二指腸
膵頭十二指腸切除術の図
藤田保険衛生大学病院
HPより
1. 抗がん剤治療
膵臓にできたがんが、周囲の大事な血管にくっついていると手術ができません。
その場合には、化学療法と、化学放射線療法の 2 つが選択されます。
ステージⅣb では、基本的に化学療法になります。1997 年以降ゲムシタビン(商品
名はジェムザール)が登場し、標準的な膵臓の抗がん剤治療として確立されました。
最近では、ゲムシタビン単独、ゲムシタビンと新薬(分子標的薬のエルロニチブな
ど)の組み合わせ、S-1 という経口薬単独の 3 つ方法で治療成績が向上しています。
手術後の再発予防の化学療法もこれらの薬剤が有効とされています。
また、手術前に化学療法を行い、腫瘍を小さくして切除率を高め、かつ転移を想定
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膵臓がん
2014.1.14
して手術前にその適用を決める目的の術前補助療法として期待されています。
2. 放射線治療
有効的な抗がん剤と最新の放射線治療装置による化学放射線療法が治療後の 5 年生
存率を 10%台以上に高めている報告も出ています。
前項のゲムシタビンという抗がん剤(2001 年に保険承認)が、放射線治療の効きを
良くする作用があります。また、膵臓のような薄い臓器にも正確に照射できる高精
度の放射線治療装置が膵臓がんの標準治療として成果を上げています。
強度変調放射線治療装置
膵臓がんのゲムシタビン製剤
(ジェムザール)
(トモセラピー) 相澤病院提供
熊本日日新聞社 ホームページ医療Qより
粒子線治療
近年、先進医療として行う粒子線治療(陽子線、重粒子線)施設が増加し、膵臓が
んに有効な治療法として有効性が期待されています。
陽子線、重粒子線は体内に入るとある一定の深さで完全に止まり、その際に大きな
エネルギーを出してがん病巣にだけに線量を集中させ、がん細胞の二重のらせん構
造もつ遺伝子を直接破壊します。 現在、神戸大学医学部付属病院と兵庫県立粒子
線医療センターや、放射線医学総合研究所で臨床試験が進行中です。
従来のX線治療と比べ身体への負
担が少なく、
他のがんとくらべ放射
線が効きにくい膵臓がんも照射制
御技術の進歩で多い線量が可能と
なりました。
X線は 45 グレイが限界でしたが、
70 グレイまで可能で、抗がん剤
と併用して治療成績を上げている
施設が出始めました。
相澤病院の小型陽子線治療装置
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膵臓がん
2014.1.14
3. 免疫細胞療法
膵臓がんの標準治療としての手術・放射線治療・化学療法に加え、第 4 の治療法として
先進医療や自由診療として行われ、その成果が期待されている免疫細胞療法について概
略を紹介します。
免疫細胞療法とは、自己の免疫細胞を体外で培養させ体内に戻す療法です。
がんが進行すると免疫細胞の活性が低下します。そこで、体外で免疫細胞を増やし活性
化させ体内に戻し、体内の免疫力を強化し、がん細胞に確実な攻撃を仕掛けてがんの進
行を阻止する方法です。
自身の細胞なので、まれに一過性の発熱を伴う程度で、副作用の心配がなく通院で治療
が可能です。免疫細胞療法は、条件が適合すれば、標準治療と併用することで、相乗効
果が期待できるとされています。
●高活性化NK細胞免疫療法(NK細胞を増やすことで体の免疫力を増強する)
●活性化リンパ球療法(T細胞を増やすことで体の免疫力を増強する)
●樹状(ジュジョウ)細胞療法
樹状細胞とは、体内にもともと存在し、枝のような突起をもつ細胞で、からだの中に
いるがん細胞を見つけ出し、がん細胞の目印(抗原)を正確に認識し周りにいるリン
パ球を中心とした免疫細胞に知らせ、攻撃するよう命令します。
樹状細胞のもととなる細胞(リンパ球の中の単球)を体内から取り出し、樹状細胞に
育て、がんの目印を認識させ体内に戻して治療します。
●ペプチドワクチン療法
がん細胞というのは、特異的なタンパク質を作ります。ペプチドワクチン療法は、そ
のタンパク質を利用して、患者さんの免疫力のうち「がん細胞だけを攻撃する免疫力」
を高めようという治療法です。