在宅障害者とその家族の幸せな生活を支援するアプローチの

生命健康科学研究所紀要 Vol9 (2012)
研究報告
在宅障害者とその家族の幸せな生活を支援するアプローチの試み
―第 2 報―
中路純子 1)、沖 高司 2)、宮本靖義 2)、伊藤玲子 1)、粥川早苗 3)
1)
中部大学生命健康科学部作業療法学科、2)理学療法学科、3)保健看護学科
1)
中部大学生命健康科学部、2)愛知淑徳大学医療福祉学部、3)国立長寿医療センター疫学研究部
要
旨
本稿では、2011 年度に実施した評価に基づいて立案した介入プログラムを提示し、了承を得られた 2 家
族に対して行った介入過程と結果に考察を加えて報告をする。
症例 A は、複数のサービスを利用する生活スタイルであったが、機能的側面の評価に基づいた支援が
生活の場に入っていなかった。理学療法士(以下 PT)による身体機能の維持改善のプログラムの実施と並
行して、作業療法士(以下 OT)の評価に基づき、①日常の座位姿勢管理のための車椅子用座位保持シー
トの作成 ②トイレ使用時の本人と介助者双方の負担軽減のためのトイレチェアの改良 ③食事介助の方
法の統一による機能の維持・改善を提案・実施をした。
症例 B は一日を自宅で過ごす生活スタイルであり、訪問 PT を受けていたが、生活場面への評価・支援
が入らず、OT による生活の質への支援を必要としていた。日常生活の中で母親と楽しみながら行える活
動・体操の紹介と、転倒防止のための具体的な工夫を提供した。
2家族との関わりの中で、生活場面への介入は家族に負担感を与えることもあるが、ニードに沿った効果
的な支援であれば十分に受け止められることを実感した。今回の介入により、在宅障害者に対する介護や
支援には改善を加える余地が残されている現状があること、小児期からの障害に対しては、成長発達の時
期を過ぎて日々の生活介護が必要な年齢になっても、リハビリテーションスタッフによる適切な評価と介入
が機能維持と改善に向けて必要であることが示唆され、在宅障害者への支援の質の担保という課題がある
ことを我々関係者に示したと言える。
Ⅰ.はじめに
報告事例は少なくないが、小児期より障害のある
中部大学地域医療・障害者支援領域センターの
身体障害者に対する在宅生活支援に関する報告
本研究チームは、2009 年から 2012 年にかけて、
は少ない。また、小児を対象とした訪問リハビリ
春日井市在住の身体障害児者(小児期より障害の
テーションを行なっている事業所が少ないこと
ある方)の医療環境の整備を含む生活支援に関す
も、この領域の報告が少ない背景にあると思われ
る研究を行ってきた。在宅で生活をする身体障害
る。
児者において、リハビリテーション関係者による
脳性麻痺等の小児期から障害がある者は、幼少
専門的な指導が、年齢が高くなるにつれて不足し
期から様々な機能訓練等を受けており、障害程度
がちであること、訪問リハビリテーション等のサ
に応じた運動や精神の発達は見られるが、様々な
ービスを活用している事例が少なくないことは、
介助を必要とし、社会的自立に至らないことが多
本研究チームが 2009 年度に実施したアンケート
い。福祉制度の充実に伴い、各種のサービスを利
調査により明らかになっている
1)
。しかし、高
用して、施設または家庭で、家族または介助者の
齢者に対する訪問リハビリテーションに関する
支援のもとに何らかの活動に参加して過ごして
46
中路純子、沖 高司、宮本靖義、伊藤玲子、粥川早苗
いることが大半である。家族が長年築いてきた生
イ)むせない食事の実現
活スタイルがあり、対象者やその家族は、現状の
自宅と施 設利用時の食事介助の方法を統一
中で大きな不満もなく過ごしているが、介助負担
し、むせの少ない食事を実現する為に、介助方
の軽減や本人の社会的自立の促進のために、改善
法 のカードを作成することにより情報の共有
の余地はあると思われる。
を図る。
本研究では、小児期より障害のある身体障害者の
在宅生活をより豊かにするために、リハビリテーション
1)症例 B
① 症例の概要
関係者に求められるものを検討することを目的とし、
50 歳代、女性、後天性脳性麻痺(痙直型四肢
本人およ び家族の承諾を得て、生活および心身機
麻痺)。身体障害者手帳 2 級を保持。屋内での
能の評価と介入を開始した。
移動は四つ這いで可能であり、日常生活動作は
多くのことが自立しているが、移動・準備に関
Ⅱ.方法
しては介助が必要である。1 週間に 1 回の訪問
1.研究対象
PT を利用している。母親は、立位・移動と日
2011 年度の研究協力者 3 家族に対して介入プ
ログラムを提示し、介入希望が得られた 2 家族と
した。
2.介入方法及びプログラム
2011 年度の評価結果に基づき介入プログラム
を作成し、チームメンバーである医師、理学療法
士、作業療法士が必要に応じ診察及び訪問、指導
にあたった。
介入プログラム と対象者の概要は以下のとお
りである。
1)症例 A
① 症例の概要
30 歳代、男性、脳性麻痺(アテトーゼ型四肢
中活動の改善を希望していた。
② 介入プログラム
ア)安全な立位の確保
トイレを一人で利用する際の安全性を確保
するために、足元を滑りにくくする工夫をす
る。
イ)体重のコントロール
安全な立位を維持するために、体重のコン
トロールのための工夫をする。
ウ)日中活動の確保
認知機能や運動機能の維持を目的に、軽い
負担で可能な活動を提案する。
2.倫理的配慮
麻痺)。身体障害者手帳 1 級を保持。寝返りがか
本研究における 一連の調査及び介入は、中部大
ろうじて可能な程度の運動機能で、ダンドリン
学生命健康科学部倫理 委員会の承認を得ている。
ナトリウム(末梢性筋弛緩薬)を服用している。
(承認番号230002)
2 週間に 1 回の外来 PT を受けている。日常生活
動作は全介助。本人及び母親は食事とトイレに
Ⅲ.経緯及び結果
関する介助方法・動作の改善を希望している。
1)症例 A
② 介入プログラム
ア)負担の少ない排泄動作の確立
介入期間は、2012 年 4 月から 11 月であった。
① 負担の少ない排泄動作の確立に向けて
ポータブルトイレに姿 勢保持用の改良 を加
排便時に車椅子から便器へ移乗することと姿
える事と、外来 PT プログラムで姿勢保持の練
勢保持の介助の際に、母親の身体的な負担が大き
習を行うことにより、本人と母親の双方の身体
いため、トイレでの排便から、風呂場の脱衣所で
的な負担の軽減を図る。
の排便へと切り替え、風呂用に設置したリフター
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在宅障害者とその家族の幸せな生活を支援するアプローチの試み―第2報―
を利用 するためにポータブル トイレを導入して
介助者が関わっており、筋緊張の変動を理解した
いた。しかし、筋緊張の亢進があるために座位保
介助方法が周知されていない状況があり、改善さ
持が困難で、排便時に必要な前傾姿勢を保つため
れるべき環境要因の一つであると思われた。A さ
には母親が支え続ける必要があった。(図 1)。
んは、筋緊張の変動があるが咬反射がなく、食物
の捕食・咀嚼・嚥下はコントロールできる部分が
多くあった。しかし、後頚部の筋緊張が高くなる
と、これらは困難となった。体幹でのバランス能
力の不足分を頚部・四肢の末梢の動きで補うため、
活動時のバランスの安定が、頚部・四肢の過緊張
を防ぐことにつながる。以前よりも嚥下が困難に
なってきているのは、A さんの特徴的な運動が長
図1
トイレ動作に必要な母親の介助の様子
年にわたり積み重なった結果、後頚部の過緊張が
母親には、脊柱管狭窄症と変形性膝関節症があり、
強くなってきたからであると考えられた。今後の
これらの介助方法は非常に負担であった。また、
嚥下機能の維持・改善のためには、後頚部の過緊
A さんは、利用しているショートステイ先では緊
張を伴うような運動の軽減を図る必要があった。
張のために排便が出来ず、いつでもだれにでもで
きる介助方法と、A さんがそれに慣れることも課
Aさんの食事の方法について
・「むせ」の予防
・咀嚼・嚥下の機能の維持
題であると思われた。これらのことから、母親の
♥
を目的として、食事の方法の
提案をします。
基本の姿勢
介助負担軽減と A さんが母親の介助を必要とし
ないで排便できることを目的とし、トイレチェア
の改良を行うこととした。トイレチェアは、A さ
んが前傾姿勢を取り、体幹前面で支えて姿勢を自
分で保てるようにした(図 2)。A さんは、体幹前
・リラックスしている
・首や足が、まっすぐの位置にある
面で支えることの経験がなく、2 週間に1回の外
・首と足の緊張が強い
・左右が非対称になっている
♥ 首の位置は、
上を向きすぎな
い
来 PT ではこの姿勢を獲得するための機能訓練を
並行して実施した。
♥ 口の中が
空になってから
入れる
♥ 首の位置は、
上を向いて緊張
している
♥ 口の中に
上からどんどん
入れる
♥
図2
改良したトイレチェア
① むせない食事の実現に向けて
介助は座って、同じ目の高さでしましょう
図3
食事介助の方法のカード
そのために、家庭での食事介助で常に気をつける
A さんは嚥下が困難になりつつあり、デイ・サ
べき事として、姿勢を整えることと、頭の位置が
ービスやショートステイ利用時にはむせること
後傾して反り返らないことの 2 点に絞り、母親に
が頻繁であった。施設利用時には A さんに複数の
可能な範囲で取り組んでもらうことと、利用頻度
48
中路純子、沖 高司、宮本靖義、伊藤玲子、粥川早苗
の高いデイ・サービスでの食事介助も同様の方法
で実施してもらうことを徹底するため の手段と
して、食事の介助方法のカード作りを行った。食
事の介助方法のカードは、パウチでコーティング
し(図 3)、施設利用時にも見やすいように車椅子
の後面に吊り下げられるようにした。施設との支
援計画の見直し時に、母親から説明及び介助方法
の徹底を申し出てもらうことにした。
食事動作の改善に必要な日常的な過緊 張 のコ
ントロールを徹底するために、車椅子に座位保持
シートを付けることが効果的であると考えた。体
図5
幹部でのバランス 能力を最大限に使用すること
未着用(左)
で、頚部・四肢の末梢部の過緊張を軽減できる。
座位保持シートにより、坐骨での体重支持と両坐
骨への体重の分散の補助をした(図 4)。
座位保持シート
着用(右)
2)症例 B
介入は、2012 年 5 月と 7 月の 2 回の家庭訪問
により行った。
① 安全な立位の確保に向けて
B さんは日常生活の多くのことが自立しており、
母親は週 3 日程度、家屋に隣接する仕事場で仕事
をしている。その間は、一人でトイレを利用する
こともある。B さんの生活動作の中で、トイレと
洗 面所の利用時の立位において転倒の危険性が
あり、過去にその経験もある。洗面所は、膝立ち
のままで使用可能であるため、常に立位になる必
要はないが、トイレでは便器への移乗とズボンの
図4
座位保持シート
上げ下ろしのために立位保持が必要になる。B さ
トイレチェア、座位保持シートは、本人の使用
んは足部に尖足位での変形があり、膝立ち位から
感も良く、母親からも楽になったとの感想があっ
立位になる過程が不安定であり、体幹・股関節の
た。また、座位保持シート着用後は、過緊張で足
伸展位での保持能力も不足しているために、立位
が跳ね上がること が少なくなり落ち着いている
保持は手すり等の補助が必要である。トイレには
(図 5)。このような一連の関わりの中で、体重支
手すりの設置はされていたが便器への移乗動作
持の方法に関する本人の意識が高まった。A さん
時に足元のマットが滑ったり、まくれて足が引っ
と筆者らの合言葉は、「二つのお尻で座る!」で
かかるなどするために、
ある。
非常に危険な状況がみられた。母親もそのこと
を気にかけて、マットの種類をいろいろと工夫は
していたが、安全を確保することができていなか
った(図 6 左)。
5 月の訪問時に、ホームセンター等で購入可能
なジョイントマットをトイレマットとして床面
49
在宅障害者とその家族の幸せな生活を支援するアプローチの試み―第2報―
にぴったりと敷き 詰めることで足元の安定を確
きることを示し、肩甲帯の可動性と体幹の回旋運
保することを提案し、OT が選定したマットを提
動を目的とした体操の提案と、手工芸を楽しみつ
供した(図 6 右)。部分的に取替えて水洗可能で
つ認知機能・上肢機能の維持等を目的としたアク
あるので清潔を保つこともでき、母親の受け入れ
ティビティを紹介した。母親は B さんのために努
も良かった。B さんの母親は、本研究に協力的で
力をする人で、自らの工夫で日常的に体操をして
あったが、筆者らが生活に介入することについて
いたが、体力的にも大変で、十分に動かせなかっ
は、戸惑いを見せることもあり、5 月訪問時には、
た。しかし、少しの工夫で楽に効果的に体幹・上
ジョイントマットの提案のみを行った。
肢を動かせることを知り、喜んでいた。また、自
由な織り方が可能である「さをり織り」を紹介し、
その導入の活動としての紙細工を紹介した(図 7)。
細く切った紙を縦糸と横糸のように織り込み、色
の組み合わせで表情を出すことができる。「両手
の使い方の練習になり、出来上がったものを工夫
すると作品ができる。」と、母親も B さんも活動
図 6 トイレのマットの提案前(左)、提案後(右)
を楽しむことができ、意欲を見せていた。
② 体重コントロールと日中活動の確保に向けて
B さんは日中のほとんどの時間を居間のソファ
ーに座ってテレビを見て過ごしており、これとい
った活動をしない。50 代となり、体力も衰える年
齢に差し掛かっており、体型も太り気味である。
立位が不安定な B さんの日常生活動作の自立状
況の維持のためにも、体重のコントロールと、運
動能力の維持は必要であると思われた。母親もそ
の事に対する意識も高く、2011 年度に評価で訪問
した際にも食事制限の工夫について聞いていた。
図7
その後、1 食 500kg カロリーに抑えた宅配メニュ
ーの利用により、家族全員の減量が成功している
とのことであったが、B さんの減量は、まだ十分
ではなかった。
トイレマットの使用状況の確認と、日中活動の
さをり織り作品例(右上)
提案した紙細工(左下)
3)COPM による評価について
本研究では、COPM により、介入前後の本人と
家族の達成感の変化の評価を計画しており、2011
年度の初回評価時には実施をしていた。しかし、
提案のために 2 回目の訪問を 7 月に実施した。マ
改善を希望している項目に対する評価点の基準
ットの使用感は良く、ホームセンターで数種類の
となる価値観に変化が見られ、介入前は控えめな
商品を購入して楽しみつつ工夫をされていた。B
判定であったが、介入後では現状をより厳しく捉
さんの動作時の運動の特徴として、体幹の回旋が
えている傾向が感じられ、効果判定に使用するに
殆ど見られず、肩甲帯の動きも十分ではなく、身
は信頼性がないと判断をした。
体機能の維持・改善のためにこれらの動きは必要
な要素であると思われた。そこで、タオルを用い
ることで、より効果的に肩関節の可動性を確保で
Ⅳ.考察
2 組の家族の協力により、在宅生活を快適に過
50
中路純子、沖 高司、宮本靖義、伊藤玲子、粥川早苗
ごすことを目的とした介入を行い、それぞれの家
ることは専門家に対して失礼であると認識して
族に満足感を提供することができた。また、リハ
いることもわかった。B さんの母親は 80 代に手
ビリテーション関係者としての客観的な評価と
が届く年齢であり、権利に対する考え方などは世
しても、生活上の改善を見ることができた。
代によって価値観が異なるものである。若いリハ
2 家族共に、外来 PT と訪問 PT を受けていた
ビリテーション関係者がこの感覚の違いを汲み
が、生活スタイルそのものに対する介入が不足し
取れるかどうかが問われていることを強く感じ
ており、在宅障害者に対する介護や支援に、さら
た。
に改善を加える余地が残されている現状がある
4)
生活の場面への介入に家族は当惑をし、いくら
は訪問看護ステーシ
かの負担感を持ったことを感じ取ったが、ニード
ョンの小児の受け入れが少なく、在宅小児のリハ
に沿った効果的な支援であれば十分に受け止め
ビリテーションの担い手が不足していると述べ
られることも実感した。小児期より障害のある身
ているが、成人期の脳性麻痺者のリハビリテーシ
体障害者の家族は、長い年月を介護してきた経験
ョンも、小児期からの発達の特徴や、家族が過ご
があり、生活スタイルが安定した状況にある。介
してきた時間を理解する必要があるために、人材
助方法などを変化させることは、家族が変化に適
育成が求められる。本研究の介入結果は、成長発
応するためのエネルギーを要することである。筆
達の時期を過ぎて、日々の介護が必要であると思
者らは、対象家族のこの様な状況を感じ取り、い
われる年代になっても、リハビリテーションスタ
かに効果的な方法が提供できるかの工夫が大切
ッフによる適切な評価と介入が生活支援に有効
であることを、本研究により確認をした。また、
であることを示した。
リハビリテーション関係者による支援は、利用者
ことを示している。三宅
A さんの家族は、活動的で、複数のサービスを
の生活を支えるためにあり、利用者の価値観や希
利用する生活スタイルであったが、A さんの機能
望を反映するために、相談をしながら進められる
的 側面の評価に基づいた支援が生活の場に入ら
べきである。しかし、これらのことが現場では十
ず、PT・OT による評価・コーディネートの必要
分に実施されていないことが考えられ、利用者は、
性があった。また、A さんは、親元を離れて施設
リハビリテーション関係者に何を期待できるの
で生活をする日が来ることを念頭に現在の生活
かが分からないままに利用をしている状況が予
を送っており、今後、機能を維持しながら充実し
想された。訪問リハビリテーションも、病院で行
た生活を送ることを支援するためには、家族に対
われる機能訓練の出張版としての位置づけにあ
する支援と専門的知識の提供だけではなく、多く
り、生活を支援するものであるとの認識が持てな
の時間を過ごしているデイ・サービス、ショート
いために、生活の場面への介入に戸惑いを感じた
ステイ先の施設においても、理解と支援が必要不
と考える。
可欠であると実感をした。
COPM による再評価において母親の評価点が
B さんは、一日を自宅で過ごしており、身体機
厳しくなった理由として考えられることは、介入
能に対する訪問 PT を受けていたが、生活場面へ
に時間を要したため、初回評価から 1 年近くの時
の評価・支援が入らず、OT による生活の質への
間が経過したことと、筆者らの介入により、現状
支援を必要としていた。また、訪問するスタッフ
に対する現実的な評価をするようになったこと
により提供されるサービスに違いがあり、母親は
が考えられた。初回評価時点では、家族の思いを
その事実にいくらかの感想を持っている事を 7 月
十分に汲み取れておらず、支援できることに対す
の訪問時に把握することができたが、希望を述べ
る具体的イメージを伝えられなかったが、介入す
51
在宅障害者とその家族の幸せな生活を支援するアプローチの試み―第2報―
2)
る過程で、母親のニーズが掘り起こされたのでは
援システム
ないかと考える。
ことが、課題である。
の実質的な機能の維持向上を図る
これらのことは、在宅生活への支援の質を担保
する課題がリハビリテーション関係者にあるこ
Ⅵ.謝辞
とを示し、訪問・外来のリハビリテーションを受
本研究にあたりご協力をいただきました 2 人の
けているからといって、十分な支援が提供されて
ご本人とそのご家族の皆様に深く感謝いたしま
いるわけではない現状を示した。
す。
Ⅴ.まとめ
引用文献
我々は 2009 年から春日井市在住の身体障害児
1)沖高司、中路純子、他:身体障害児を取り巻
者の医療環境の整備による生活の支援について
く医療環境について―春日井市在住の肢体不自
調査・介入を行ってきた。その中で知り得たこと
由児者を対象としたアンケート結果を通して―、
について振り返ってみたい。
中部大学健康科学研究所紀要
春日井市内の多くの対象者が愛知県心身障害
Vol.6
p9-p17 、
2010
者コロニーに依存しながらも、緊急時に受診する
2)沖高司、中路純子、他:障害児者に対する保
病院に不安を抱えており、学齢期を過ぎると PT
険医療支援システムの構築に向けて―春日井市
や OT との接点が少なくなり、身体機能や日常生
内の診療所へのアンケート調査を通して―、中部
活活動の維持にも困難を抱えていることが分か
大学健康科学研究所紀要 Vol.7
った
1)
p55-p60、2010
。医療機関の受診は、関係機関への協力
3)中路純子、沖高司、他:在宅障害者とその家
申請や親の会への情報提供により改善が期待さ
族の幸せな生活を支援するアプローチの試み―
れるものの、身体障害児者の診療に必要な専門知
第1報―、中部大 学健康科学研究所紀要 Vol.8
識の提供を根気よく行う必要性を示唆した
2)
。
在宅障害者への介入により、家族のニードに沿
p68-74
4)三宅孝史:在宅における小児リハビリテーシ
った生活支援の必要性と、本人・家族にとって負
ョンの職域―OT の立場から―
―在宅障害児に
担が少なく、心身機能維持を視野に入れた介助や
(者)に対する作業療法と社会的問題の実情―、
生活の方法・福祉機器の利用は、PT・OT による
理学療法
第 38 巻第 8 号
Title
The trial of the approach which
p599-p600,2011
適切な評価に基づいて行われる必要があること
もわかった 3)。
:
在宅障害者の生活支援には生活の場面への介
supports a fortunate life of a disabled person
入が必要であるが、十分には実施されていない現
who being home and its family ―The second
状があることと、本人と家族の思いを受け入れな
report―
がら現実に即した介入・支援をする能力が、リハ
Author(s) : Junko Nakaji1),Takashi Oki1),
ビリテ ーション関係者に求められていることが
Sanae Kayukawa1),Yasunori Miyamoto1),
わかった。
Reiko Itou1),
調査お よび生活上の問題に対する介入実施を
Address(es) : 1)Department of Occupational
踏まえて、今後は連携可能な医療機関やリハビリ
Therapy ,College of Life Health Sciences,
テーションスタッフとの質的交流を行い、身体障
Chubu University,
害児者の地域生活を支援するための地域医療支
Kasugai , Aichi 487-8501 Japan
1200 Matsumoto-cho ,
52
中路純子、沖 高司、宮本靖義、伊藤玲子、粥川早苗
Keywords:Adult who have severe handicaps,
Disabled person who being home, fortunate life
53