英 語 教 育

英語教育
Vol. 59 No. 4 2007
主幹 佐野 正之
巻 頭 言
文法の指導は?
明治学院大学教授 ● 佐藤 寧
最近,大学のみならず中学,高校の英語の授業で「文法」をていねいに教えること
が少ないような気がする。この20年間のオーラル・コミュニケーション重視の風潮が
そのような事態を引き起こしたのであろう。たしかに,中学,高校で文法をていねい
に教えることは,授業時間の多くをその説明に費やすため,コミュニケーション能力
育成の妨げになることも事実であろう。結果として,いわゆる受験校は別にして,文
うら
法の学習を塾や予備校に任せてきた憾みがある。
他方,特に中学校を中心に,外国語(英語)
学習においては基礎・基本の習得が重要
であると主張されてきた。しかしながら基礎・基本とは何かを具体的に考えると,結
局のところ発音,語彙,文法に落ち着くような気がする。「文法」
の用語に抵抗のある
方には「文型」と言ってもよいが,両者は同義ではない。この数年,大学生に英作文
を教えていて感じることは,学生のまさにこの文法知識の欠如である。ここで言うと
ころの「文法」は,話者が母語に関して持つ内在化された知識のことで,その理論と
しての文法のことではない。この意味では,いわゆる学校文法が扱う基本的な文法知
識の定着が重要である。例えば,単数と複数の区別,定冠詞と不定冠詞の違い,3単
現の“s”
,あるいは時制の問題など。
私は,5年ほど前からイタリア語を学んでいる。独学ではなかなか話せるようにな
らないので,週に一度イタリア語の学校に通い,その他の日はラジオとテレビでイタ
リア語の講座を聞くことにしている。特に,ラジオ講座は基本的な文法を教えてくれ
るのでイタリア語を理解するうえではとても有難い。イタリア語の文法書を買い求め,
辞書を片手に,
『ピノキオ』
(Pinocchio)を読み終え,目下『星の王子様』
(Il Piccolo
Principe)
を読んでいる。中学・高校では,コミュニケーションを重視しつつも文法の
指導を疎かにしないことが,基礎・基本を重視した学習になると思うが,いかがであ
ろうか?
リスニング指導の一工夫
リスニング指導と留意点
東京国際大学教授 新里 眞男
リスニング指導の一工夫
を知っていることにもある。だからこそ,その教
理解できたなどの実感を得させることである。
師が使う英語が適切なリスニング教材になる。こ
どうしたら,そのような成功体験を与えられる
のようなリスニング活動なら,どんどん量を増や
だろうか。先に述べた(4)のように,ある目的が果
したい。もちろん,発音,スピード ,表情,ジェ
たされれば,細かいところまで理解しなくてもよ
スチャーなどに留意して,生き生きとしたリスニ
いという姿勢を持つことも役立つが,その他,リ
1.リスニング指導の現状
いう文法項目だったら,一連の動作の中で,たっ
ング活動になるような工夫が必要である。
スニング活動にいくつかの small steps を設ける
現行の学習指導要領で実践的コミュニケーショ
た今ド アを開けたその光景が連想されるような指
さらに,教師が文法項目や教科書の本文の内容
ことが考えられる。絵やイラストの利用,穴埋め
ン能力の育成が目標となっていること,また,大
導をすることがやはり大切なのである。基本的に
を簡単な英語で紹介していくOral Introduction プリントの活用,同じ内容について少しずつ難し
学入試センター試験でもリスニングが導入された
は,このような指導が積み重なってリスニング力
の手法があるが,これは,生徒のリスニング力を
い英語になっていくといった複数のリスニング教
こともあり,リスニングは一層重視されている。
につながるのである。
高めるうえで格好のものである。これができるの
材を用意するとよい。
(2) リスニングの基礎体力作り
しかし,残念ながら,リスニングの指導は量を
は実際に日常的にそのクラスを担当している英語
たくさん聞かせるだけという無手勝流が今でも主
リスニング力の育成にはちょっと遠回りだが,
教師しかいないことを自覚して,意識的に練習し,
3.リスニング指導の留意点
流だ。それも教科書本文をくり返し聞かせたり,
英語の音声的な特徴を理解させ,その特徴を捉え
積極的に取り入れたい。
英語は教科であると同時に,実際に使用される
リスニング用の練習問題をやらせたりするだけの
た音読ができるようにすることがリスニングの基
ことが多い。果たして,それだけでリスニング能
礎体力作りにつながる。音の脱落,同化やリズム
中・高生になると,なぜか自分の能力に否定的
留意したい。というのは,リスニングという技能
力が伸びるのだろうか。そこには,リスニング活
など,英語の音声的な特徴を理解させ,くり返し
になるようだ。同じ英文を聞いても,小学生なら
はテスト形式に乗りやすいこともあり,聞いて楽
動はあってもリスニング指導はないのではないか。
発音練習させるのである。例えば,I went to the
ば1割でもわかれば「わかった,わかった!」と
しむという指導より,どちらかと言うとリスニン
park yesterday. であれば,to the の部分は軽く速
喜ぶところを,彼らは9割わかっても「全然わか
グテストの連続のような指導になってしまいがち
2.リスニング指導に必要なもの
く言えるような練習をくり返すのである。このよ
らない」と反応する。中・高生は,リスニングで
だからである。これは歌や映画を教材として使っ
では,どのような指導をすればリスニング力が
うな発音ができれば,同じような英語を聞き取れ
は,細かい部分を含めて全て理解できないとダメ
ても同じである。どうも聞き取りテストになって
伸びるのか。特に,学校での英語の授業では,ど
るようになるという道理である。
だと思っているのだ。この辺の姿勢を変えること
しまう。少なくとも,聞いて理解した英語を活用
(3) リスニングの機会を増やす
(4)
目的を明確にしたリスニング
言葉である。このことをリスニング指導の際にも
がリスニング指導のポイントとなる。
してさらなるコミュニケーション活動につなげて
英語の授業が他の教科の授業と違うのは,教材
そのためには,与えられたリスニング活動の目
ほしい。
が教科書の中だけにあるのではなく,授業中に教
的を意識して,これは概要がわかればよい,これ
もう一つ留意したいことがある。それはリスニ
まず,考えなくてはならないのは,耳からの導
師が使う英語,生徒が使う英語も教材になること
はある情報が得られればよい,などと生徒に伝え
ングの評価である。指導の例(4)で述べたように,
入を大切にすることである。語彙や文法を導入す
である。特に教師が英語で発話する挨拶,短いお
ることが大切である。そして,生徒には,リスニ
リスニング指導では,全てを完璧に聞き取ること
るとき,音声ではなく文字に依存することが多い。
話,指示,説明,コメント ,注意,ほめ言葉など
ングは必ずしも全てを理解する必要はないという
はふつう求められていない。中学校高学年になれ
つまり,新出語彙も文法も文字で説明される。そ
は格好の教材になる。英語教師はこのことをもっ
考え方を持ってもらいたい。
ば特にそうである。それなのに,評価テストとな
の説明のあとで音声に慣れさせる活動を行うが,
と意識して,積極的に英語を使うべきである。
(5)
成功体験から動機付けへ
ると,聞いたピースについて,あたかも読解の総
すでに生徒の頭の中では文字情報が圧倒していて,
教師が使う英語は一般に Classroom English と
リスニングというプロセスは,生徒の頭の中で
合問題的に,何でもかんでも質問されるものがあ
学習している語彙や文法項目を音声言語の一部と
呼ばれているが,これは指示や簡単なコメント に
進行するため,実際にそれが働いているかどうか
る。例えば,概要理解を見る問題と,ある語句や
して捉えることが難しくなる。したがって,文字
限定されない。ちょっとした物語や体験談,ニュ
は直接的には見えにくい。漫然と聞いている場合
文が聞き取れたかどうかを見る問題が同居してい
から音声という方向での指導が中心になってしま
ースへのコメントなども含まれる。これらに,既
もあれば,聞いていないのに聞いている振りをす
るような問題である。生徒は聖徳太子ではないの
う。これは,フォニックスしかり,音読しかりで
習の語彙や文型などを計画的,段階的に取り入れ
ることもできる。だからこそ,リスニング活動へ
で,「総合リスニング問題」は避けたい。
ある。
ていき,聞いて理解できるレベルを次第に上げて
の強い動機付けが大切になる。では,どのように
大切なのは,音を聞いて意味を理解すること,
いくのである。生徒が使う Classroom English も
してそのような強い動機付けを行うことができる
音と意味の直接的な関係,つまりacoustic image
時々改訂版を出し,学習レベルに合ったものを使
のか。
を打ち立てることである。例えば,sweater と聞い
わせたい。
大切なのは,やはり,聞いて理解できたという
たら「セーター」という日本語が浮かぶのではな
教師の英語を聞かせるメリットは,教師なら生
成功体験をたくさん与えることだ。つまり,情報
く,ふかふかしたセーターそのものが目に浮かぶ
徒が理解できる英語のレベルを知っていることで
が得られた,話のあらましが理解できた,joke が
ように導入する。He has just opened the door. と
ある。また,どんな内容なら生徒が興味を持つか
わかって笑うことができた,登場人物の気持ちが
のような効果的な指導法が可能なのだろうか。以
下にリスニング指導の例を示すことにする。
(1) 耳からの導入
英語教育・2007年第4号
2
3
リスニング指導の一工夫
リスニング指導の一工夫
(2)
穴埋め式
プラス1のリスニング
大阪府岸和田市立春木中学校教諭 原田 洋行
1.はじめに
(1) 「内容読解」の前に教科書を見ずに本文を2回
1
資料
授業で経験された方(教師・学生・生徒として)
も多いと思います。私自身もそうでした。5語ず
つや7語ずつなど,一定の単語数でブランクを作
り,語数とは関係なく聞き取ってほしい単語を穴
埋めにします。 これは(4)で応用編として使うこ
とになります。
Take Me Out to the Ball Game
※著作権上の都合により,歌詞の掲載は
省略させていただきます。
この仕事に就いてから今年度で12年目になりま
聞かせ,1回目,2回目とも聞いたあとに30秒
す。Listeningとの関わりを考えてみると,自分自
時間を取り,聞き取れた単語を授業で使用して
身の授業スタイルの変遷とともに関わり方が深く
いるハンド アウト の裏に書かせています(今後,
英語の歌を聞いて,聞き取れた単語を書き込ん
なっているような気がします。最初の授業スタイ
専用のハンド アウト を作る予定)。 聞き取った
でいくものです。評判がよいと言えばよいのです
ルは,伝統的と言われる「文法訳読式」。いわゆる
語を全て英語で書かせるのが理想ですが,生徒
が,続けていくうちに問題点が浮かんできました。
文法用語が飛び交い,「読んで訳して」タイプの授
の学力差も考慮し,カタカナでの書き込みもOK
使われる曲が,どちらかと言えばテンポがゆっく
業でした。授業をしていく中で,
「自分の授業の形
にしています。
りで聞き取りやすいものになるということです。
(以下続く)
(3)
Write Down式
① 単語( ) 意味( )
英文( )
はこれでいいのだろうか。」「自分の求めていたも
(2) 「音読練習」の際に,CDで教科書本文を聞か
同じフレーズを使っていても,ジャンル(例えば
のはこんな授業なのか。」と考え続けました。ここ
せ,さらに教師が音読し,音の連結・上げ下げ
PopsとHeavy Metal)によっては全く聞き取れな
何年かでようやく1つの形が見えつつあります。
を生徒に意識的に聞かせるようにしています。
いことも起こり得ます。
資料 2
途中経過になりますが,皆様の参考になればと思
「音読練習(指名)」終了後には,もう一度,(1)
使う音源が教科書本文なのか英語の歌なのかで,
います(過去に発表したことと内容が多少重なり
と同じ作業をくり返します。教科書を何度も見
生徒の興味の持ち方も変わってきます。しかし,
ます)。
ているということもありますが,書き込める単
わずかながらでも成功体験を積ませていくことを
2.Listening指導の位置付け
語の数・正確さは,ほぼ全員上がっています。
考えると,教科書本文を使うべきではないかと思
授業の中心は教科書の内容を理解(確認)
したう
この方法を始めた当初はほとんど単語を聞き取
います。使用頻度のバランスをうまくとることも
えでの「音読」です。Listeningは音読指導の一部
ることができなかった生徒も,徐々にではありま
必要でしょう。
[Script]
1. A: Did you go to the park yesterday?
B: Yes, I did. When I went there, my friends were
playing baseball.
2. A: Did you go to Nara last fall?
B: Yes, I did. When I went there, I visited Horyu-ji.
3. A: Did you go to Osaka last year?
B: Yes, I did. When I went there, I visited Osaka-jo.
(Sunshine English Course Book 2, p.20)
(4)
Listen and Make Sentence式
という姿勢をとっています。セクションごとの基
すが,聞き取れる単語の数が増えていきました
(そ
本的な授業の流れと所要時間は下図のようになり
れと同時に教科書の音読も上達しました)。
この方法の土台になるのは(2)の「穴埋め式」で
ます。
また,次に紹介する英語の歌を使って聞き取れ
す。(2),
(3)では聞き取ったものを書き込んで終
た単語を書き込む作業よりも,生徒は自分自身の
わりでしたが,ここでは聞き取れた単語自体と意
練習の成果や成長をすぐに確認でき,満足感・達
味を書き,その単語で単文を作ります。聞き取り,
成感を感じると思います。
書き込ませる単語によっては1年生からでも使え
4.過去のListening指導の実践
るとは思いますが,どちらかと言えば2年生後半
以上の5つがこれまで使用してきたものです。
この他にも,以前は英語の歌を使い,Warm-up
からではないでしょうか。ハンド アウトのイメー
特に,(3)∼(5)に関してはまだまだ改良をしてい
として行っていました。いくつかのタイプがあり
ジ
(資料1)を参照してください。使用曲は“Take
くと同時に,4領域のバランスのとれた指導を今
ます。
Me Out to the Ball Game”です。
後も目指していかなければと思っています。
新出単語の確認
↓
(文法の説明)
↓
内容読解・説明
↓
新出単語の再確認
↓
内容の再確認
↓
音読練習
↓
音読指名
1∼1.5 時 間
(1) カウント式
1時間
(5)
Plus One式
導入段階から使えるものとして,ある1つの単
教科書(SUNSHINE)のリスニング問題(Let’s
語や語句がその歌の中で何回出てきたかを数えさ
ListenやListening Taskなど)にPlus Oneの質問を
せるものです。例えば,The Beatlesの“Love Me
追加します。例えば,2年,p.20のLet’s Listenは
3.現在のListening指導
Do”で出てくるLoveや,“Yellow Submarine”の
「対話を聞き,内容に合う絵を選ぶ」ものです(資
以前は,新出単語の(再)確認,内容読解の直前,
Yellow Submarineなどです。非常に簡単な方法な
料2)。そこに,「いつの話か」と質問を追加しま
音読練習の前後に教科書本文を何度も聞かせるだ
ので,生徒からの評判もなかなかよかったです。
す
(答えは,1. → yesterday 2. → last fall 3. → last
けで終わっていました。現学年では,2つのこと
教えていただいた八幡泰輔先生(現在,岸和田市教
year)。生徒が慣れてくれば,質問をさらに追加す
を取り入れています。
育委員会)に感謝です。
ることもできます。
参考文献 菅 正隆「菅先生に聞こう! 授業の悩みQ&A
〈第19回〉
」,
『英語教育』
(2006年10月号,p.53)大修館書店
英語教育・2007年第4号
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リスニング指導の一工夫
授業への参加意欲を高める活動
∼イングリッシュシャワーへの挑戦∼
福岡県北九州市立田原中学校教諭 長木 英徳
1.年間約90時間のリスニング?
3.ペラペラ読めば,スラスラ聴ける
(1)
リーディングステージ
公立中学校では,1年間の英語の授業時数が105
リスニング指導の一工夫
(2)
Q&Aステージ
ス英語の発音の対比や,両国の文化を比較しなが
次に,隣同士のペアでQとAに別れます。リー
ら鑑賞できる作品です。もちろん,生徒が字幕無
ディングスピード が上がれば,20秒間で5枚前後
しでも聞き取れる場面が数多くあります。
のQ&Aができます。短い答えでOKとするものか
ら,きちんと文章で答えるものまで,時折要求レ
5.エコノミーに授業を進めるために
ベルを変化させています。カード の質問内容が全
リスニングとリーディングの両方の効果を高め
て異なっており,リーディング側の生徒のスピー
るために,教科書の本文を ( ) で抜いてディク
単位時間設定されています。各時間,英語のみで
1年生の6月から3年生まで継続している活動
ド も上がっているので,当然答える側の生徒は,
テーションをするようにしています。最小限の単
授業を進めたと仮定すると,生徒は約90時間のリ
の1つが,「ペラペラカード 」です。
高いリスニング力が要求されます。1年生の1学
語レベルの ( ) 抜きから,フレーズの ( ) 期段階でも,工夫すれば30種類以上の質問ができ
抜きまでのレベルがあります。音声CDではスピー
スニングをする計算になります。しかし,練習問
題を行う時間などを考えると,生徒がリスニング
カード 例 1 ( 1 年生 1 学期 リーディング用)
ますので,単純に答えを暗記していても,聞き取
ド の変化をつけることが難しいので,ALTに読ん
に取り組んでいる時間は,実際にはどのくらいな
1. That is our classroom.
れなければ応答できません。評価は,毎学期1∼
でもらったり,自分で読んだりしています。聞き
のでしょうか?
3回の個別面接テストで,リーディングとリスニ
取らせたい単語はゆっくり読むことも,逆に,速
ングの評価をしています。リスニング評価が高い
く読むこともできます。また,初めて本文を聞く
2. She is our English teacher.
2.いきなり英語で…?
3. I don’t come to school every day.
生徒は,やはり,リーディングの評価も高いよう
ときに,
( )
抜きのディクテーションから始め
本市では,全小学校でALTによる英会話体験学
です。
ると,リスニングへの集中力が高まり,その後の
習が取り入れられ,中学校入学時には,1年生の
音読練習までの時間が短縮され,節約した時間は
教科書の3分の2程度までの内容を体験していま
B4判の色画用紙に,基本文や覚えさせたい英
4.映画の活用
別の活動時間に当てることができます。いわゆる
す。もちろん,月2回程度ですから定着まではで
文を印刷し,単語カード のように切って生徒に持
映画は,音声だけでなく,背景の文化や情景ま
きていませんが,小学生の間に英会話を約80時間
たせています。授業の始めに,表示が大きくて見
で描き出すので,教材としてとても適しています。
も聞き取ろうと呼びかけ,リスニング力と授業へ
体験しています。
やすいスポーツ用のタイマーを前に置き,決めら
メディアがDVDになって,巻き戻しや頭出しの無
の集中力の向上に努めさせました。
そこで,1年生の1学期は中学校英語への移行
れた時間内に何枚読めるかを競わせます。読みに
駄な時間が無くなり,授業に活用する機会がとて
期と捉え,前半の5月までは,教科書を使わずに,
慣れてくると,20秒間に10枚以上のカード を読め
も増えました。DVDは,英語字幕にしたり,字幕
6.授業基礎技術の再確認
小学校の体験を復習できるゲームやスピーチなど
るようになり,リーディングスピード がかなり向
をOFFにしたりできるので,授業場面での活用方
Oral Introductionの手法は,題材と新文型の導
のコミュニケーション活動で授業を進めました。
上しました。できるだけ新出の単語を取り入れた
法の幅がとても広がります。
入に利用しています。英語教授法の中でも,基礎・
ALT がJTE に代 わ っ ただ けな の で,Classroom
英文を扱うことで,読める単語を増やすことにも
私が授業で好んで使っているのは,以下の作品
基本と位置付けられる技術です。既習の文型や単
Englishだけでなく,活動の説明や指示もジェス
貢献しました。
です。
語に置き換えることで,生徒の耳からの理解が進
チャー混じりの英語で通しました。 「先生はどう
次の段階では,カード の内容をQ&A形式にし
・
『シンプソンズ』(The Simpsons)
み,概要把握の向上が狙えます。
して日本語を使わないの?」と生徒に聞かれるこ
て,イント ネーションも要求しています。
ともありましたが,
「小学校のときは,ALTの先生
カード 例 2 ( 1 年生 1 学期 Q&A用)
1. Who is your homeroom teacher?
だって英語し か使わなかっただろう。」 と答える
と納得し,中学校でも英語だけで授業が進むこと
に違和感はないようでした。
2. Do you come to school every day?
小学校で経験していない文字指導とリーディン
グに関しては6月から取り組みました。5月末ま
でに1学期の内容をほぼ含んだ活動を行っている
3. What do you want now?
ので,教科書の英文を通して,文字と音声が結び
「困難校」に勤めていたときに,せめて単語だけで
1話が20分ほどで完結するので,ちょっとした
時間で使うことができます。親子や子ども同士の
7.おわりに
対話部分を概要把握に使っています。クリスマス
私が教員になった当時は,ALTが導入され,
「イ
編は,文化背景をよく描いていますので,本来の
ングリッシュシャワー」がキーワード になった頃
クリスマスの様子を説明するときに便利です。
でした。小学校でも英語が取り上げられ,教育機
・
『遠い空の向こうに』(October Sky, 1999)
器やメディアが発展している昨今, 「リスニング
教科書にも教材として使用されていますので,
力を高める指導のポイントは?」と聞かれたとき
該当する場面を見せて,会話の概要を聞き取らせ
に,
「まず聞こうとする態度,次に,リーディング
る活動をさせています。
スピード かな?」と答えるようにしています。
つくのにあまり抵抗無く進めることができました。
やはり,授業の始めにスピード リーディングの
内容や頻度の差があるにし ても,英会話体験が
練習をして,カード が上手に読める段階まで高め
アメリカとイギリスに別れて育った双子(1人
90%以上の小学校で導入されている昨今,中学校
ます。
2役)の主人公が偶然出会って,別れた両親を仲直
初期の学習形態も変化せざるを得ないと思います。
りさせるストーリーです。アメリカ英語とイギリ
・
『ファミリー・ゲーム』
(The Parent Trap, 1998)
英語教育・2007年第4号
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9
Teacher's Forum
Teacher's Forum
英語を使う意欲を引き出す
工夫と実践
Oral Introductionを
使ってのリスニング指導
千葉県松戸市立和名ヶ谷中学校教諭 奥山 賢二
東京都世田谷区立喜多見中学校教諭 田島 久士
1.はじめに
題はやらなくても,英語の歌は毎日のように聞い
中学校では,教材を全てOral Introduction(口頭
以下が,Part BのOral Introductionである。
多くの先生方は,日々,目の前の生徒たちの意
て歌っている生徒が実際に何人もいます。また,
導入)することが望ましい。しかし,対話文が多
欲を引き出し,彼らに英語を使わせようと苦労さ
家族がその歌のレコード やCDを持っていると,そ
く,また,いろいろな題材内容が含まれている現
れ,またそのために研修に励んでいらっしゃるこ
こでコミュニケーションがとれ,家族で歌って楽
行の検定教科書ではなかなか難しい。
とと思います。私もその一人です。今回は私が試
しんでいる家庭もあります。
一方,生徒にリスニング力をつけるためには,
行錯誤の末,現在実践している手応えのある方法
かつて私も中学生のときに「英語の歌を格好よ
筆者はOral Introductionというか,生徒とのやり
まず,生徒のやる気を引き出すために“Kenji
れました。それを擦り切れるまで何度も聞き,ま
れない)。
Points”
(私の名前がケンジなので)というポイン
ねて歌っていました。1曲歌えるようになると大
本稿では,上述したようにいろいろな教材・題
ト カード を活用しています。歌を歌っても,質問
きな自信にもなり,今の私のリスニングやスピー
材内容が含まれている教科書をもとに,最近授業
に答えても,発表しても,必ずポイント が入るシ
キングの力にもなっていると思っています。
で実践したOral Introductionを報告する。
ステムです。生徒たちは行った活動に対して何ポ
4.教室で学び,教室外でも使う
教材は,Total English 2( 学校図書)のLesson 3,
イントもらえるか,とても楽しみにしています。
授業中の会話はもちろんのこと,学校生活の中
Part Bである。
活動のあと,私に英語で“How many points?”
でも英語を使わせたいので,あらかじめ学校とい
(ピクチャーカード を見せながら)
This is Shun. Where is he going to go? Now
he is on the plane. He is talking to the woman
next to him. He is asking her a question. Why?
He can’t understand some of the English
announcement. He asks,“What time will this
plane arrive in London? Will we arrive at
10:50?” The woman answers,“No, we won’t.
We will arrive at 10:15.”The woman asks Shun,
“Is this your first visit to the U.K.?”Shun says,
“Yes.”This is Shun’s first visit to London. Why
will he go to London? What will he do there?
He will meet a friend in London. It will be
exciting.
とたずねてきます。そこで私が例えば“20 points!"
うシチュエーションで使えそうな表現をプリント
と答えると,生徒はそれを聞き取り,カード に印
して配っています(例“I have a question.”“How
Woman : No, we won’t. We’ll arrive at 10:15.
Is this your first visit to the U.K.?
Introductionで導入したあと,次のようなタスク
を付けます。スピード のある活動ではこちらも素
do you say ∼ in English?”“I’m sorry I didn’t
Shun : Yes. I’ll meet one of my friends in London.
早くポイントを与えていきます。1枚のカード が
do my homework.”
など)。そこで私は教室の内外
Woman : How exciting! You’ll love London.
てCDを聞かせた。筆者はCDを聞かせる場合は,で
一杯になると,生徒たちは新しいカード を手に入
を問わず,常に英語で答えてくれる変な(?)
日本人
きるだけ必然性があり,かつオーセンティックに
れ る ため に,必 ず“Excuse me, Mr. Okuyama.
でいるようにしています。廊下でも“Hello.”と声
Shun: Will you go to London, too?
Woman : Yes, I will. But I won’t stay in London.
I’ll go home to Liverpool tonight.
を紹介させていただきます。
く歌いたい」と思っていました。その当時,私の
とりを重視するOral Interactionが一番望ましい
2.ポイントカード の活用
父親がラジオから流れる歌をテープに録音してく
と考えている(ただし,ここではそれについては触
Shun: Excuse me, will we arrive at 10:50?
このようにPart Bの本文6行目までをOral
「女の人もロンド ンに行くのか?」を与え,はじめ
近いときにのみ,聞かせることにしている。その
Give me a point card,
をかけられれば,必ず“Hello.”と応答します。こ
場合,必ずタスクを与えて,「聞きっ放し」になら
please.”
とたずねなければなりません。ポイント は
れをくり返すことが英語を話す意欲を持続させ,
この教材を全てOral Introductionで導入しよう
ないように気をつけている。
けちけちせずにたくさん与えます。そうすること
また育てることにもなっていると信じています。
とすれば,できないわけではない。しかし,直前
生徒とやりとりをしながら教材を導入すれば,
で早くポイントがたまり,クラス全員が何回も私
教室外でも,生徒がよく教科連絡を“Excuse me,
のPart Aが以下のような「機内放送」であったた
生徒の反応を見ながらできる。つまり,教師が聞
と会話することになります。ここで一人ひとりの
may I talk to you?
め,敢えて本文の導入を途中までとし,タスク(必
かせる英語をコントロールすることができる。一
発音なども確認できます。なお,カード は学期ご
1-3. What should we bring for the next class?”
ずしも英語で与える必要はない)を与えた。
方,生徒自身だけでも英語を聞き取る練習も必要
とに回収し,「コミュニケーションへの関心・意
と聞いてきます。
欲・態度」の観点評価の参考にします。
5.おわりに
Welcome aboard flight 201 to London.
flight time will be about 12 hours.
3.歌を通しての英語学[楽]習
生徒たちが意欲的に英語を使うために,我々英
May I talk to you?
I’m a student of the class
である。教材をよく研究して,どのような方法で
Our
導入するのかを考える。併せて,どこを生徒に自
力で英語を理解させるのかも考える。 ただ単に
私の毎回の授業の中で,生徒たちが楽しみにし
語教師は,生徒たちに常に魅力ある授業を提供し,
Please put your bags in the compartments
above your seat or under the seat in front of you.
ている活動の1つに歌があります。歌は毎月変わ
実際に使う場面を増やすよう工夫し,さらに根気
After dinner, we will show two movies. Thank
いだろう。また,最後にリンキングなどの聞き取
りのポイントも,折に触れて指導することが必要
ることになっていて,内容は新しい文法事項を含
強く使わせていくことが大切だと考えています。
you and enjoy your flight.
んだも の(例えば 3 単現はThe Beatlesの“She
また,我々が英語やその文化についてより深く勉
Loves You”
,関 係 代名 詞who は Eric Clapton の
強し,より洗練されたEnglish Speakerになるとい
今年度,このPart Aは実際には教育実習生が授
“Blue Eyes Blue”など)や,TVなどで耳慣れた歌
う姿勢は生徒たちの英語学習のよき手本になると
業を行ったが,筆者自身も以前,Part Bで行った
強く信じています。
ようなやり方で指導した。
を取り上げています。家に帰ったとき,勉強や宿
(Lesson 3, Part A)
「リスニング問題集」をやっていても,力はつかな
であることを記しておきたい。
英語教育・2007年第4号
10
11
日本英語教育研究所報(206)
第55回 中村英語教育賞 入選論文発表
講 評
審査副委員長 和田 稔
第 1 位:該当者なし
第 2 位:Is Dictation Effective in Developing Second Language Learners’
Listening Skills and Vocabulary?: An Action Research Report
ここでは,入選した2つの論文を取り上げ,内
ションを授業で継続的に行えば,学習者の聞き取
容を要約・解説する。そのうえで,それぞれの論
り能力と語い習得が向上するであろう」というこ
神奈川県立有馬高等学校 甲斐 順
文のすぐれた点と改善すべき点を,5名の審査員
とである。
の評価に基づいて示す。2つの入選論文を審査員
ディクテーションは2種類行われた。 「部分的
の評価と突き合わせることによって,これから研
ディクテーション」(partial dictation)と「完全
究を行う際の参考にしていただきたい。
ディクテーション」
(full dictation)
である。これら
第 3 位:読解プロセスの理解と読解ストラテジーの使用を促す指導
北海道札幌工業高等学校 松本 広幸
◆審 査 員◆
佐野 正之
(審査委員長・横浜国立大学名誉教授)
なお,応募論文についての全体的コメント,審
2種類のディクテーションを,5月から12月にか
査経過は審査委員長の佐野正之氏の「概評」(本号
けて授業中に計画的に行った。つまり,約8か月
p.12)を読んでいただきたい。
に及ぶ「指導」(intervention)が行われたのであ
和田 稔
(同副委員長・明海大学教授)
今回の入選論文は,第1位は「該当者なし」,第
る。これだけの期間にわたる「指導」は成果を検
松本 青也
(愛知淑徳大学教授)
2 位 は“Is Dictation Effective in Developing
証するのに十分であろう。研究仮説を検証するた
山岡俊比古
(兵庫教育大学教授)
Second Language Learners’ Listening Skills and
めに,「指導」の前後に聞き取りテストと語いテス
萬谷 隆一
(北海道教育大学教授)
Vocabulary?: An Action Research Report”
(神奈
トを行った。聞き取りテストの結果を分析すると,
川県立有馬高等学校 甲斐 順教諭),第3位は『読
聞き取り能力の向上は見られなかった。しかし語
解プロセスの理解と読解ストラテジーの使用を促
いテストの結果からは,語い習得にかなりの向上
す指導』(北海道札幌工業高等学校 松本広幸教
が見られた。つまり,仮説は半ば実証され,半ば
諭)である。
実証されなかったという結果であった。このよう
な結果が本研究の最も重大な課題である。
第 2 位論文
報告」に終わり「論文」とは言えないのです。
まずはじ めに,“Is Dictation Effective in De-
〈審査員の評価〉
員は全員で論文を精読し,テーマの「独創性・発
また,論理性の不備を指摘された論文もありま
veloping Second Language Learners’ Listening
想力」「内容の充実度」「構成力」「表現力」「応用
した。まず,扱う問題や用語の定義を明確にする
Skills and Vocabulary?: An Action Research Re-
性・実用性」などの観点から評価し,第一次審査
と同時に,他の文献や研究の成果も参考にして議
port”
について研究内容を要約し,そのうえでその
を行いました。
論を進め,結論は質的な証拠や数値的な証拠を挙
特徴(すぐれた点と改善すべき点)を検討する。
その結果,ほとんどの論文が,現場の疑問を研
げる必要があります。問題によっては,結果を統
研究の焦点を当てているのは実践研究として
究の起点としており,「発想力」の観点からは高い
計的に処理しないと説得力に欠けると指摘された
〈内容〉
適切である。
評価を得ています。
「教師による研究は,実践から
論文もありました。
本研究は,ディクテーション(dictation)が「聞き
問題を発見するのが一番だ」とする私の主張と合
以上の検討を経て選ばれた3論文について,第
取り」
(listening)能力と「語い」
(vocabulary)習得
概 評
審査委員長 佐野 正之
今回は10篇もの力作が寄せられました。審査委
● すぐれた点
(1)アクション・リサーチとして手固い研究手法
は高く評価できる。
(2)ディクテーションという実行性の高い指導に
(3)英文が簡潔で理論的である。
致するもので嬉しく思いました。
二次審査を行いました。その結果,上記の2論文
に効果的かどうかをアクション・リサーチ(ac-
● 改善すべき点
次の「内容の充実度」という観点では,論文に
が選ばれました。甲斐論文は,実践を理論的に検
tion research)の手法を用いて実践し,検討した報
指導効果の検証に問題がある。指導の前後に
より,かなりの差が出ました。中には「論文とは
証しようとした点で,また,松本論文は先行研究
告である。
行った聞き取りテストも語いテストも異なる種類
言えない」と厳しい評価を受けたものもありまし
を再実験して指導法の効果を論じたという点で興
研究の動機は,教えている生徒(=高校2年生)
のテストであったため,そのテスト結果をもとに
た。具体的に言うと,「論文」に必要な目的意識や
味深い研究でした。ただ,甲斐論文については事
が「聞き取り」能力と「語い」習得に問題がある
指導効果を比較することには無理がある。
論理性が不足しているということです。目的に関
前調査などに,また,松本論文に関しては結果の
という教師の実践を通しての問題認識である。こ
して言うと,
(1)扱う問題に関わる要因や本質を分
妥当性の判断に改善の余地があるとの意見があり,
のような「問題発見」
(problem identification)はア
第 3 位論文
析的に探求し発見するか,
(2)問題解決の効果的な
残念ながら今年は,第1位論文は「該当者なし」
クション・リサーチの特長である。研究は「事前
次に,
『読解プロセスの理解と読解ストラテジー
方策について証拠を挙げて提案するか,という要
という判定になりました。ただ,全体的に見れば,
調査」
(preliminary investigation)
で問題を再認識
の使用を促す指導』の研究内容を要約し,そのう
素が不可欠です。別の言い方をすれば,自分や仲
年々,研究の量も質も向上しているので,来年度
したうえで,本格的な実践・検証へと進んでいく。
えでその特徴(すぐれた点と改善すべき点)をまと
間が行った活動や指導を紹介するだけでは,
「実践
に期待しています。
研究仮説(research hypothesis)
は, 「ディクテー
めて示す。
英語教育・2007年第4号
12
13
第55回 中村英語教育賞 入選論文
〈内容〉
〈審査員の評価〉
本研究は,L2としての英語の学習者の読解力向
● すぐれた点
上の阻害要因はテキスト の解読(decoding)に過
研究テーマの設定,研究のプロセス,データの
度に依存し,読解プロセスについて正しく理解し
処理など研究手法がよく考えられている(ただし,
ていないことであるという広く一般に認められて
この点については審査員の中で意見が分かれてい
いる問題認識を出発点としている。つまり,先行
て,その研究手法に強い疑いを持つ審査員がいる
研究ですでに指摘されている読解についての課題
ことを付け加えておく)。
を出発点として,その課題を日本人英語学習者に
も認め,問題点の改善方法を探る実践を行ったと
● 改善すべき点
いうことである。甲斐論文とは研究の出発点が対
第2位
Is Dictation Effective in Developing Second Language
Learners’ Listening Skills and Vocabulary?:
An Action Research Report
神奈川県立有馬高等学校教諭 甲斐 順
(1)研究テーマの設定,研究計画,データの処理な
照的である。
どの点で研究の形式が先行していて,実践(=
研究では,読解プロセスについて適切な指導を
指導)の実態が不明確である。
行うことにより学習者の理解を促すことと,読解
(2)実践(=指導)として英語による関連文献を読
スト ラテジーの使用を促す指導を行うことにより
む方法が用いられているが,この方法が効果的
生徒の読解力の向上が図れることを実証すること
とは思われない。読解プロセスを理解する練
を目指した。前者(読解プロセスの理解を促す指
習,読解ストラテジーを使用する練習などを行
導)は,
(1)読解の一般的定義,
(2)読解プロセスの
う必要があるであろう。
説明,(3)読解に影響を与える要因,(4)テキスト
(3)指導の時間が短すぎて,指導の効果を検証する
構成,
(5)解読の重要性,について英語の文章を読
のは慎重であるべきではないか。
むことを通して行った。後者(読解スト ラテジーの
(4)実験対象者が工業高等学校の生徒であるが,生
使用を促す指導)は,(1)読解ストラテジーとは何
徒たちの英語力の程度,教科書を使った読解指
か,(2)要旨を捉えるスト ラテジー,(3)予測する
導の実態などが説明されていないため,指導の
スト ラテジー,
(4)スキミングとスキャニング,
(5)
成果については疑問が残る。
習熟度の高い読み手が用いるストラテジー,につ
いての説明を英文で読むことで行った。
* * * * * * *
実験対象者は高校1年生約80名で,英語Ⅰ(3単
位)の授業の中で実験は行われた。実施時数は,前
今回の入選論文は,研究主題設定など多くの点
後のテスト等も含めて約20時間であり,読解プロ
で対照的である。研究を進めるにあたってどのよ
セスの理解を促す指導を約8時間,読解スト ラテ
うなアプローチをとるべきか,両論文を比較して
ジーの使用を促す指導を約8時間行った。指導の
読むことによりいろいろと学ぶことがあると思わ
前後に読解テストと読解方略質問紙調査を行い,
れる。
指導効果を検証した。検証には有意差検定や共分
散構造分析など,かなり高度の分析法が用いられ
た。その結果,読解プロセスの指導も読解スト ラ
テジーの指導も,英文読解力を向上させるのに効
果があったことが実証された。
Dictation is one of the techniques in second
language(L2)classrooms. Compared with
language testing, there is little research on
this technique in L2 learning although it is
very common in L2 classrooms. In order to
tation as an individual topic and internationally
see its effectiveness in listening and vocabulary, I conducted action research on dictation. After the intervention, students seemed to show an improvement in vocabulary
and they recognized the effectiveness of dictation in listening and vocabulary. In conclusion, iteration of action research on dictation is needed in L2 learning research.
1. Introduction
Dictation is a technique used in both second language(L2)learning and testing. In
particular, its effectiveness in language test-
through a long history.(p.1)
there is hardly any research which looks into the
effect of dictation on second language learning, the
use of dictation as one of the favourite language
teaching and learning methodologies has gone
In fact, we cannot find“dictation”in the subject index of Ellis’(1994)824-page book on L2
acquisition research.
Although the word ap-
pears in the subject index of the thicker book
on L2 teaching and learning edited by Hinkel
(2005), there is little mention of it in the book.
For this reason, I would like to report the
action research on the effectiveness of dictation in developing L2 learners’ listening skills
and vocabulary that I conducted in one class
where I taught English as an L2.
ing has very often been discussed. There
seems to be a consensus that“Dictation is
an integrative test in that it simultaneously
assesses a range of skills, including listening,
tion”as“a technique used in both language
and involves processing in real time”
teaching and language testing in which a pas-
(Davies et al. 1999, p.44)
.
In contrast, the technique seems less attractive in L2 learning research although it
is employed in L2 classrooms around the
world. As Chiang(2004)puts it:
Although not many writers have written on dic-
sage is read aloud to students or test takers,
2. Dictation
Richards and Schmidt(2002)define“dicta-
with pauses during which they must try to
write down what they have heard as accurately as possible”(p.157). However, this exact format is not always used in classrooms in
Japan.
Indeed, instead of using their own
voices for dictation, many Japanese L2 teach-
英語教育・2007年第4号
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Table 1. Mean Scores for Three Tests
M
1st Term-end Listening Test
8.89
2nd Term-end Listening Test
5.72
2nd Term-end Dictation Test
4.47
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
1st Term-end
2nd Term-end
2nd Term-end
Listening Test
Listening Test
Dictation Test
Figure 1. Mean Scores for Three Tests
The result of 1TLT shows high mean
scores. However, the result of 2TLT was
unfavorable. At first glance, the students
decreased their listening skills. Although
the tests seemed similar, some differences
existed. The passage of 1TLT(115 words)
was shorter than that of 2TLT(179 words).
The passages were recorded by different assistant language teachers. Some students
said they had felt the passage of 2TLT a little faster. Table 2 displays the percentage
of correct answers of 2TLT.
Table
2. The Percentage of Correct Answers of 2TLT
Q1 Q2 Q3 Q4 Q5
69% 50% 83% 47% 36%
The percentages of correct answers to questions 2, 4 and 5 are much lower than questions 1 and 3. On analysis, it was found that
although the second questions of the two tests
were negative questions, students had to listen more carefully to the story of 2TLT because it was complicated. While the multiple-
gave them dictation tests on the single new
words of each lesson.
8. Reflection
I observed that most students tackled the
dictation tasks seriously. I noticed that it
had encouraged the students to pay more
attention to the spelling of each word.
In December I gave them a 4,000-wordlevel test to measure knowledge of vocabulary. 33 students took it. 2 students who took
the previous one were absent. On average,
they knew about 2,489 words, with a maximum of 3,333 words and a minimum of 1,700
words. The result showed a massive increase of their average vocabulary from
1,502 words to 2,489 words. This may result
in the different level of the tests or a 3,000word-level vocabulary book the students
had. They had to memorize 544 words on 97
pages to take three examinations in the intervention session.
As for listening skills, all students took a
listening test at the 1st term-end exam, which
consisted of 5 questions with 3 choices about
a passage( see Appendix B ).
At the 2nd
term-end exam, they took a dictation test in
addition to a listening test similar to the 1st
term ( see Appendix C ).
Students were
able to listen to each test twice from a loud
speaker.
Each correct answer to the question of
both listening tests was given a score of 2 for
a possible total score of 10. Also, each correct response of the dictation test was given
a score of 1 for a possible total score of 5.
The mean score of the 1st term-end listening
test( 1TLT )was 8.89; the 2nd term-end listening test(2TLT)5.72 and the 2nd term-end
dictation test( 2TDT )4.47. Table 1 gives
the mean scores for the three tests and Figure 1 shows it.
Mean Score
ying English. 34 out of 36 students answered the multiple-choice questionnaire on a
scale of 1( agree strongly )to 4( disagree
strongly)
. The following is the students’ result in the survey:
・39% disliked English.
・60% disliked learning English.
・63% disliked learning vocabulary.
・85% disliked learning English grammar.
・30% disliked reading English aloud.
・70% disliked reading English silently.
・50% disliked speaking English.
・58% disliked listening to English.
・80% did not prepare lessons.
・78% did not review lessons.
In May I collected data on the students’
English ability.
I gave them a 2,000-wordlevel test to measure knowledge of vocabulary. 35 students took it. On average, they
knew about 1,502 words, with a maximum of
1,867 words and a minimum of 867 words.
6. Hypothesis
Since dictation measures integrative skills,
using this technique in class frequently
should develop the students’ listening skills
and their vocabulary size.
7. Plan Intervention
I gave the students two dictations from
May to December: partial and full dictations. While the full dictation encouraged L2
learners to write down all of what they have
heard, the partial dictation inspired them to
fill in the blanks of the sentence or passages
printed on the sheet.
I used partial dictation in the“Warm-up"
section of each new lesson of the textbook
and to review some sections(see Appendix
A). With regard to the full dictation, I told
the students to write down what I said or
what they heard on the CD player. I also
ers employ recorded cassette or CD material
in their classrooms. Only a few read passages aloud to encourage their students to
write down what they have heard.
In L2 teaching, dictation is employed almost exclusively to improve students’ listening skills(For example, Harmer 1991). In
addition to measuring listening skills, language testing has made it clear that dictation is effective in measuring other language
skills such as auditory discrimination, auditory memory span, spelling, recognition of
sound segments, familiarity with the grammatical and lexical patterning of the language, and overall textual comprehension
(Heaton 1989). Therefore, there is a possibility that the use of dictation in L2 classrooms will lead to the improvement of additional skills besides just listening.
3. Class Description
The class where I carried out the action
research consisted of 36 second-year students(10 boys and 26 girls)learning English
as an L2 at Arima Senior High School in the
Kanagawa Prefecture. I taught them English for four hours a week, using Genius English Course II, the textbook published by
Taishukan.
4. Problem Identification
The textbook was beyond the students’
understanding. When I asked some questions in English in class, most students could
not answer them. It seemed that the students had difficulty in listening and vocabulary.
5. Preliminary Investigation
From April to May, I observed that the
students were obedient but did not prepare
for each class. Some were not motivated.
In May, I conducted a survey to find out
about the students’ attitudes toward stud-
英語教育・2007年第4号
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choices of questions 4 and 5 of 1TLT consisted of one word, those of 2TLT were made
up of sentences. Reading the sentences
must have burdened the students with answering the questions of 2TLT. Therefore,
these differences probably influenced the
students’ performances.
As mentioned above, the mean score of
2TDT was 4.47. It is considered rather high,
because the possible total score was 5. This
may be because the students had only to fill
in the five blanks of a passage(see Appendix C). All students succeeded in filling in
the first two blanks of the passage. 22 out
of 36 students got a perfect score; 9 students
got a score of 4 and 5 students got 3. Errors
of 14 students(i.e., in total, 19 errors)were
analyzed. Table 3 shows the number of errors in the 2TDT.
Table 3. The Number of Errors in the 2TDT
errors
N
correct answers
went
1
what
it
1
he
his
2
him
1
she
1
you
1
6
say
said
1
stay
1
sed
1
sad
1
sent
1
cent
1
same
The table shows that some students had difficulty in discriminating sounds at the end of
correct words. For instance, some students
wrote down“his”or“him”instead of the
correct answer“he”in the fourth blank of
the passage. It is surprising that six stu-
dents filled in the fifth blank with the word
“say,” where they should have written
“said.”
In December I asked the class to complete
a questionnaire similar to the previous one.
Only 21 students completed it. 81% of them
answered that the dictation was effective in
improving their listening skills and 90% recognized it to be effective in increasing the
amount of their vocabulary. A student commented, “I was able to improve my listening
skills because I listened and wrote down at
the same time.” Another commented, “I
could memorize words in dictation.”
9. Outcomes
The students seemed to show vocabulary
improvement and many of them recognized
the effect of dictation in developing listening
skills and vocabulary, although I was unable
to collect the same number of questionnaires
at the post-intervention as I had at the preintervention. Since the results of the listening tests were mixed, we cannot declare
that dictation is effective in increasing listening skills. However, most importantly, in
the intervention session the students tackled
the dictation tasks so seriously that they
paid careful attention to the spelling of each
word.
10. Conclusion
Although this action research was not as
fruitful as expected, it provided me with the
chance to reflect on my class and the effect
of dictation. Wallace(1998)claims that the
aim of action research is“not to turn the
teacher into a researcher, but to help him or
her to continue to develop as a teacher,
using action research as a tool”
(p.18). As
Burns(2005)suggests, one of the strengths
of action research is its iterative, or cyclical,
nature. Iteration will help improve professional action and expand the scope of the
study. Since dictation has been the Cinderella of L2 learning research, teachers and researchers in the field should pay more attention to it.
Testing. Cambridge: University of Cambridge Local Examinations Syndicate.
・Ellis, R. 1994. The Study of Second Language Acquisition. Oxford: Oxford University Press.
・Harmer, J. 1991. The Practice of English Language
.London and New York: Longman.
Teaching
(2nd Ed.)
・Heaton, J. B. 1989. Writing English Language Tests
(2nd Ed.). London and New York: Longman.
・Hinkel, E.(Ed.)2005. Handbook of Research in Second Language Teaching and Learning. New Jersey:
Lawrence Erlbaum Associates.
・Richards, J. C. and R. Schmidt. 2002. Longman Dictionary of Language Teaching and Applied Linguistics(3rd Ed.). London: Pearson Education.
・Wallace, M. J. 1998. Action Research for Language
Teachers. Cambridge: Cambridge University Press.
References
・ Burns, A. 2005. Action Research. In E. Hinkel
( Ed.) Handbook of Research in Second Language
Teaching and Learning( pp.241-256). New Jersey:
Lawrence Erlbaum Associates.
・Chiang, O. K. 2004. Report on the Action Research
Project on English Dictation in a Local Primary
School. Hong Kong Teachers’ Centre Journal. Vol.2.
pp.1-21.
・Davies, A., Brown, A., Elder, C., Hill, K., Lumley,
T. and T. McNamara. 1999. Dictionary of Language
英語教育・2007年第4号
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19
Appendix A Sample of Partial Dictation
(Script)
Justin, Sachiko and Emi are good friends at school. One day a party was held in their city.
Lesson 4 Warm-up
So they decided to go there. At first, Justin didn’t enjoy the party, because he couldn’t talk to
Listen to the CD and fill in the blanks.
anyone. He said the key to good communication was to be confident. After Sachiko heard this,
)by Lion Express!
Emi’s friend: Wow, a ( (
she introduced him to one of her friends, Keiko. Justin and Keiko talked about their school,
families, hobbies and sports. They looked very happy. Justin got a note with her telephone
).
number from Keiko before he left the party. He said to her,“Thank you very much. I had a
Emi: Lion Express?
Emi’s friend: They are new. (
). I’ve got to buy it.
Emi: You bought(
).
very good time today. I will call you tomorrow. See you. Good night.”
Questions:
Emi’s friend: I know, but it’s Lion Express.
1. Where was the party held?
Emi: Okay.
2. Why didn’t Justin enjoy the party at first?
Emi’s friend: Emi, can I borrow(
)?
Emi: I lent you(
3. Who introduced Justin to Keiko?
). And I
(
4. Whose telephone number did Justin get?
),too.
5. When will Justin call her?
Emi’s friend: I know. I’ll(
) next weekend. I promise.
It’s because(
). My parents don’t
(
).
Emi: (
Appendix C 2nd Term-end Listening and Dictation Tests and Script
).
Emi’s friend: Yes, I am. I don’t have any money.
英語Ⅱ 2 学期期末試験
Emi: Well, you(
). Wait until
(
).
December 8, 2006
1 リスニング
Emi’s friend: Oh, please...
放送を聴いて,No. 1 ∼No. 5の質問に対する答えとして最も適切なものを a ∼ c の中から一つず
つ選び,その記号を解答用紙に書きなさい。英文と質問は2度繰り返します。
st
Appendix B 1 Term-end Listening Test and Script
(10点)
英語Ⅱ 1 学期期末試験
June 30, 2006
1 リスニング
No. 1
a. Emi.
b. Yasuko.
c. Hatsue.
No. 2
a. Emi.
b. Yasuko.
c. Hatsue.
No. 3
a. In Yamato.
b. In Ebina.
c. In Zama.
No. 4
a. She got them from her friend.
放送を聴いて,No. 1 ∼No.5の質問に対する答えとして最も適切なものを1∼3の中から一つず
b. She got them from her boss.
つ選び,その番号を解答用紙に書きなさい。英文と質問は2度繰り返します。
c. Her parents paid for the tickets.
(10点)
No. 1
1. At school.
2. In the city.
No. 2
1. Because he couldn’t talk to anyone.
No. 5
b. Because her friend’s parents paid for the tickets.
3. In the village.
2. Because he lost his key.
a. Because she wanted to see if her friend wanted the tickets.
c. Because she was not rich enough to buy the tickets.
2 ディクテーション
3. Because he was confident.
No. 3
1. Sachiko.
2. Emi.
3. Nobody.
放送を聴いて,空所に適切な 1 語を補いなさい。英語は2度繰り返します。( 5 点)
No. 4
1. Sachiko’s.
2. Emi’s.
3. Keiko’s.
Jack said to Emily,“I’ll pay you back next weekend.”
No. 5
1. Today.
2. Tonight.
3. Tomorrow.
(
)
(
)believe(
)
(
)
(
)?
英語教育・2007年第4号
20
21
(Script) 1
第55回 中村英語教育賞 入選論文
第3位
Emi is a high school student who lives in Yamato. She likes to go shopping with her best
friend, Yasuko, who goes to another high school, when they have free time. Yasuko lives in
読解プロセスの理解と
読解ストラテジーの使用を促す指導
Ebina and is a great fan of Lion Express, a musical group. She has all of the Lion Express’ CDs
and has recorded them on her music player. She always says the guitarist of the group is great,
but Emi doesn’t think so.
Today Emi had a phone call from her aunt, Hatsue, living in Zama. Hatsue said she got two
北海道札幌工業高等学校教諭 松本 広幸
concert tickets of Lion Express from her boss of the company where she works and asked Emi
whether she wanted them. Then Emi answered,“I’d like to go to, but I can’t decide it now,
because I have a friend who loves Lion Express. I will ask her if she wants the tickets or not.
She may have already got the concert tickets, because her parents are very rich and always
pay for anything she wants. I’ll call you back later. Thank you, Aunt!”
Questions:
1. Who is a great fan of Lion Express?
2. Who doesn’t think the guitarist of the group is great?
3. Where does Hatsue live?
4. How did her aunt get the concert tickets?
5. Why did Emi tell her aunt that she would call her back?
(Script) 2
Jack said to Emily,“I’ll pay you back next weekend.” Can you believe what he said?
1.はじめに
3.実験授業
近年,文部科学省が提唱する「使える英語」教
3.1 概要
育についての議論が盛んであるが,リーディング
2006年4月から7月にかけて,勤務校の1年生
は「使える英語」の基礎技能として極めて重要で
約80人(2クラス)に対して実験授業を行った。英語
ある。一般に,習熟度が低い第2言語(L2)
の学習
Ⅰ
(3単位)の授業の枠組みで,実施時数は前後の
者は,テキスト の解読(decoding)に過度に偏り,
テスト等も含めて約20時間であった。内訳として,
読解プ ロセ スに つ い て誤 った 理解 をし てい る
前半に読解プロセスの理解を促す指導を約8時間,
(Carrell, 1988)。この傾向は,L2の読解力を養成す
後半に読解ストラテジーの使用を促す指導を約8
る上で大きな阻害要因となる。「使える」
レベルの
時間行った。使用教材については,読解に関する
読解力を養成するために多読が重視されているが,
専門書より独自に編集した。なお,授業は日本語
この傾向を克服することによって,より効果的な
で行った。
多読指導が可能になると思われる。
3.2 展開
2.研究の背景
基本的な授業展開として,生徒に自分で読解を
先行研究においては,読解プロセスの適切な理
させた後,内容について説明した。併せて,母国
解を促すこと,および読解ストラテジーの効果的
語での読解との比較において,生徒自身に英文読
な使用を促すことの重要性が示されている。読解
解について考えさせた。
プロセスの理解に関して,読み手の読解プロセス
読解プロセスの理解を促すために,
(1)読解の一
についての内的モデル(リーディング・コンセプ
般的定義,(2)読解プロセスの説明,(3)読解に影
ション)は,読解力に影響を及ぼす要因のひとつで
響を与える要因,(4)テキスト構成,および(5)解
ある(Devine, 1988)
。さらに,読解プロセスを相互
読の重要性,について指導を行った。
作用的であると捉える意識(相互作用的リーディ
(1)読解の一般的定義に関して,次の一節を含
ング・コンセプション)の形成は,読解力を高める
むテキストを用いた。この中で,読解は単なる受
だけではなく読解ストラテジーの協調的使用を促
動的スキルではなく,先行知識を活用した能動的
す(Matsumoto, 2006)
。また,習熟度の高いL2学習
なプロセスである点を強調した。ここでは,自己
者は読解ストラテジーを効果的に使用しているの
の日本語読解と英語読解の違いについて考えさせ
で,読解スト ラテジーの指導により読解力が向上
た。後者の場合にはテキストの解読のみに陥って
することは広く支持されている(Barnett, 1988,
いないかどうか,また言語が違っても読解プロセ
1989; Fitzgerald, 1995; Grabe, 1991 )
。こ れ らの
スは基本的に同じではないかなどを尋ねた。多く
先行研究から,読解プロセスの理解を促す指導,
の生徒は,英語の読解はテキストの解読とほぼ同
および読解ストラテジーの使用を促す指導を併せ
義であり,読解プロセスについては考えたことが
て行った。
ないと答えた。
英語教育・2007年第4号
22
23
(3)読解に影響を与える要因として,「読み手」,
What is Reading Comprehension?
Some people think that reading is a passive skill. But,
in reality, reading is an active information-seeking process in which readers relate information in the text to
what they already know. Good readers read for
meaning: They do not waste time decoding each letter
or each word in the text. Instead, they make predictions, and interpret what is meant.
[Revised from Rubin & Thompson, 1994]
「テキスト」,および「環境」の3範疇に属する各
項目を提示した。
Key Factors Affecting the Reading Comprehension Process
Factors within
the Reader
続いて,
(2)読解プロセスの説明のために次のテ
linguistic
competence
キストと図を使用した。少し専門的になるが,3
つのモデルを提示したうえで,読解プロセスをう
た。ここでは,日本語と英語の読解がどのモデル
で最もよく説明されるかについて質問した。多く
の生徒は,日本語の場合には相互作用モデルで説
明できるが,英語の場合には解読に偏るのでボト
Factors within the
Environment
home influences
on language base
word difficulty
and on prior
knowledge
word imagery
(abstract vs.
concrete)
decoding
ability
まく説明しているのは相互作用モデルであるとし
Factors within
the Text
parents or teachers
available
Reading Models: Explanations of the
Reading Process
Now the three most common models are the bottomup, top-down, and interactive models. The bottom-up
model emphasizes the material being read. Proponents of this model believe that the material being read
is more important to the process of reading than the
person who reads the material.
The top-down model emphasizes the reader. Proponents of this model believe that the reader is more
important to the process of reading than the material
being read. This is because readers usually have some
prior knowledge about the topic. Using prior knowledge, the reader makes predictions about the meaning
of the material.
The interactive model was developed to describe the
reading process as both bottom-up and top-down. Most
experts believe that reading comprehension is a process of constructing meaning by using various information sources. In this model, the reader strategically
shifts between the text and his prior knowledge.
[Revised from Shanker & Ekwall, 2002]
direct instruction
ー,(4)スキミングとスキャニング,および(5)習
prior knowledge
or experience
paragraph
relationships
appropriate
materials
熟度の高い読み手が用いるストラテジー,につい
した。テキスト構成の知識は,要旨の理解のため
に重要である(Carrel, 1987)。ここでは,論説文お
よび物語文の基本的なテキスト構成について,経
験的に考えさせた。
Text Organization
Essay
ちらに重点を置くのかを方略的に変える。ここで,
Introduction
(background information)
topic sentence
(s)
Discussion
main idea(s)
supporting details
causality, comparisons,
examples, metaphors,
citations, data, ...
Conclusion
concluding comment
(s)
Story
Setting(s)
Characters
Problem(s)
Events
Resolution
Goal
スト ラテジーを使用することは読解に役立つとい
(5)解読の重要性について,次のテキストを用い
うことを強調した。
て説明した。近年の読解研究では,相互作用モデ
Reader
Top-down Processing
(Concept-driven)
ルの枠組みの中で自動化されたボトムアップ処理
Bottom-up Processing
(Text-driven)
が強調されている(Birch, 2002)。多くの生徒は英
文読解を時間のかかる解読と捉えがちであるが,
Text
自動化された解読スキルを身につけるために,意
識的に解読スピード を上げてみることは有効かも
Environment
しれない点を指導した。
A Representation of the Interactive Model
では,予測がどのような読解においても不可欠で
あり,文脈的ヒントと先行知識の協働作業に基づ
くことを説明した。また,予測をストラテジーと
して意識的に行うために,タイトルや見出し,写
真や挿絵,図表なども有効活用するように勧めた。
Making Inferences
Making inferences is fundamental to comprehension.
Good readers infer what is going to happen next, and
revise their inferences as they read.
Inferences are based on the thoughtful use of prior
knowledge. Topic clues provide the basis for inferences because readers use their prior knowledge about the topic.
All comprehension requires some inferences. Therefore, making inferences is a very important reading
strategy.
[Revised from Duffy, 2003]
て指導を行った。
(1)読解ストラテジーとは何かについて,次の一
節を含むテキストを使用した。読解ストラテジー
に関しては,先の授業で簡単に紹介している。こ
(4)テキスト構成について,次の表を用いて説明
報源を活用するが,テキスト情報と先行知識のど
めに,次の一節を含むテキストを使用した。ここ
を捉えるスト ラテジー,(3)予測するスト ラテジ
[Revised from Gipe, 2005]
た。相互作用モデルの中では,読み手は多様な情
続いて,
(3)予測するストラテジーを指導するた
ために,(1)読解ストラテジーとは何か,(2)要旨
sentence
structure
interests and
attitudes
なお,「方略的」読解についても予備的に導入し
the author is trying to say about the topic. Finding the
main idea is a very powerful reading strategy.
[Revised from Rubin, 2001]
授業の後半で,読解ストラテジーの使用を促す
knowledge of
key vocabulary
text
ample
knowledge of
organization
opportunities to
text organization
(story vs. essay) read
ムアップモデル的であると答えた。
Decoding Ability
When a reader approaches text to construct meaning, decoding ( bottom-up processing )occurs naturally.
Decoding is a process of taking words in print and
changing them to spoken words.
The reader who has to devote too much attention to
decoding cannot attend to constructing meaning. On
the other hand, readers who identify words quickly
and automatically do not have to focus on decoding,
and can give their full attention to constructing meaning.
[Revised from Gipe, 2005]
こでは,L2学習者にとって読解ストラテジーを用
いるとはどのようなことか説明した。
(4)スキミングとスキャニングについて,次のテ
Skill or Strategy?
What is a skill and what is a strategy? A skill is
something that you do automatically without thought.
In reading, recognizing letters or words instantly is a
skill.
In contrast, a strategy is something that you do with
efforts. Good readers use many strategies. For instance, making inferences is a strategy because readers are thoughtful in using context clues and prior
knowledge.
[Revised from Duffy, 2003]
キストを使用して,このような読み方が非常に方
略的である旨を説明した。
に,次の一節を含むテキストを使用した。ここで
Skimming and Scanning
Skimming and scanning are reading strategies to
achieve specific objectives.
Skimming involves looking through a passage quickly to get a general idea of the content when a reader
needs to decide if the passage is interesting or
informative.
Scanning involves looking for specific information
very quickly when a reader needs to look up phone
numbers, time tables, specific dates, and so on.
は,要旨を捉える読み方が非常に効果的なストラ
最後に,
(5)習熟度の高い読み手が用いる代表的
テジーであることを強調した。また,前述のテキ
ストラテジーについて紹介した。
(2)要旨を捉えるスト ラテジーを指導するため
スト構成とも関わるが,論説文では主題文を見つ
けることが要旨の理解に不可欠である点も強調し
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
10.
11.
12.
13.
た。
The Main Idea of a Paragraph
The main idea of a paragraph is the central thought
of the paragraph. All the sentences in the paragraph
should develop the main idea.
To find the main idea of a paragraph, you must find
what common element the sentences share. Some essay writers place the main idea at the beginning of a
paragraph in the form of a topic sentence. However, in
literature, the main idea is not directly stated.
There is a widely used procedure that is helpful in
finding the main idea of a paragraph. You must determine what the topic of the paragraph is and what
Common Strategies Used by Skilled Readers
Setting a purpose of reading
Previewing the text
Predicting what the text is about
Connecting the text to prior knowledge
Summarizing information
Making inferences
Re-reading
Guessing the meaning of new words
Checking comprehension
Playing attention to text organization
Using logical clues like in short
Judging if the purpose of reading was achieved
Thinking about what was learned from the text
[Revised from Grabe & Stoller, 2002]
英語教育・2007年第4号
24
25
3.3 研究仮説
よって研究仮説(1)は肯定され,読解プロセスの
指導の効果を検証するために,次の研究仮説を
理解と読解ストラテジーの使用を促す指導の併用
設定した。
は,英文読解力を向上させた。ただし,自己評価
・文章を読んで全体としての意味を捉えるプロセス
・意味を理解することに集中できる
の中で,語彙力および文法力の不足が読解を妨げ
・自分の知識と照らし合わせながら考えるプロセス
・大事なところがどこかわかる
・いろいろな情報に着目してそれらをまとめるプロセ
・主題文を捉えられる
(1) これらの指導は,英文読解力を向上させる。
(2) これらの指導は,読解スト ラテジーの使用を
ているとの回答が約30パーセント 見られた。この
量的,質的に向上させる。
結果は,習熟度が低いL2の読解指導において,解
読が重要であることをあらためて示している。
3.4 インスト ルメント
最初と最後の数時間の授業で,記述式の読解力
4.2 研究仮説(2) 読解ストラテジーの使用
テスト(Rubin, 2001; 別テスト )と読解方略質問紙
表2は,読解方略質問紙調査間の有意差検定の
調査(Matsumoto, 2005; 同一形式)を実施した。ま
結果である。35項目中9項目において,5パーセ
た,最後の授業では,読解プロセスの理解と英文
ント 水準以下の有意差が見られた。この結果は,
読解の達成度について自由記述で自己評価しても
生徒の読解ストラテジー使用が量的に向上したこ
らった。
とを示す。
読解力テストと読解方略質問紙調査の結果につ
No.
読解
ストラテジー
3
いて,指導前後で比較した。研究仮説(1)の検証の
ために2回の読解力テスト間で有意差検定を行っ
た。研究仮説(2)の検証のために,2回の読解方略
4
12
ついて共分散構造分析(注1)した。また,それぞれの
仮説検証の補助的手段として,達成度についての
4.1 研究仮説(1) 英文読解力の向上
表1は,読解力テスト 間の有意差検定の結果で
パーセント水準以下の有意差が見られた。この結
表 1 読解力テスト間の有意差検定結果
平均点
標準偏差
指導前
14.05
18.45
指導後
26.90
20.37
t 値
−4.155
.000
・わからない単語の意味を推測できる
・読解プロセスについて考えたことがなかったが,今は
・いろいろな情報を使える
・頭の中で映像化できる
その知識を活用している
・単語力がついた
・相互作用モデルのような読解方法を取っていなかっ
・熟語や慣用句がわかる
たが,今はやっている
・英文を読むことに慣れた
・以前は単語をつなげていたが,今は主題を捉えて先を
図1は,各読解方略質問紙調査についての共分
・文章構成や要旨について以前は考えなかったが,今は
散構造分析の結果である。読解ストラテジー間の
考えるようになった
関係性についてMatsumoto( 2005)の構築モデル
を用いて分析したが,標準化係数で表される潜在
Topic
sentences
2.34
2.70
1.04
1.08
−2.132
.035
由を表4にまとめるが,この中でいくつかの読解
変数(注2)間の関係性は概して指導後の方が強い。
ストラテジーの使用が報告された。
次に,指導前後の標準化係数の差について検定
Paraphrasing
2.65
3.14
1.08
1.17
−2.735
研究仮説(2)に関して,読解プロセスの理解と読
を行ったが,表5はその結果を示す。差の統計量
解ストラテジーの使用を促す指導の併用は,読解
の絶対値が1.96以上であれば5パーセント水準で
ストラテジー使用を量的に向上させた。また,生
有意とされるが,「検索的行動」から「意味の整
徒が読解とは相互作用的であるという意識を持っ
理」の関係性においてのみ有意差が見られた。
Typographical
features
2.81
3.22
1.02
1.11
−2.388
.007
.018
−3.353
.001
20
Formal
schema
2.21
2.53
.65
.90
−2.554
.012
26
Forward
inferences
2.46
2.82
.98
1.00
−2.298
.023
29
Guessing
meaning
2.78
3.10
.95
1.01
−2.096
.038
33
Interpreting
information
2.85
3.20
1.07
1.06
−2.093
.038
34
Interpreting
ambiguities
2.46
2.87
1.03
1.15
−2.376
.019
て,読解ストラテジーを使用したと解釈できる。
図 1 各読解方略質問紙調査の共分散構造分析結果
意味の構築
No.および読解ストラテジーは補遺「読解方略質問紙調査」
の項目に対応
5段階評定
(最高5/最低1)
,
平均点と標準偏差:上段が指
導前,下段が指導後
有意確率
・次に起こる内容について予測できる
・トップダウンとボトムアップ両方のプロセス
また,自己評価における英文読解力の向上の理
.84
1.12
果は,生徒の英文読解力の向上を示す。
・自分の知識と関連付けられる
・単語の意味から文章の内容を予測するプロセス
有意
確率
2.46
2.99
ある。指導後の平均点は約13点上昇しており,1
・文と文を関連付けられる
・文と文を関連付けて内容を理解するプロセス
t 値
Content
schema
4. 結果と考察
ス
標準
偏差
19
自己評価を活用した。
・文章全体として理解できる
平均点
質問紙調査の同一項目間で有意差検定を行い,か
つ各調査における読解ストラテジー間の関係性に
表 4 英文読解力向上の理由
予測するようになった
表 2 読解方略質問紙調査間の有意差検定結果
3.5 データ分析
表 3 読解プロセスの理解と以前と異なる
理解についての記述
1問10点(合計100点)
自己評価において,約60パーセントの生徒が読
自己評価では,約70パーセントの生徒が以前よ
した。また,約70パーセントの生徒がその理解は
りも英文内容をよく理解できると回答した。同様
以前と異なると回答した。表3に顕著な記述をま
に,約40パーセントの生徒が以前よりも時間をか
とめるが,これらの記述から,英文読解は解読で
けずに英文を読めると回答した。これらの結果は,
あるだけではなく相互作用的であるという意識が
生徒の英文読解力の向上を裏付けている。
形成されたと解釈できる。
解プロセスについて自分なりに理解できると回答
19,33,34
推測的操作
.551
.678
4,26,27,29,32
.496
.251
.732
.889
読解調整
意味の整理
13,22
21,23,24,30,31,35
.726
.883
テキスト操作
.940
.837
解が無効
.648
1,2,3,5,9,10,11,20,25
.524
.657
検索的行動
読解補助
6,7,28
8,12,14,15,16,17,18
楕円 : 潜在変数,長方形 : 読解ストラテジー,矢印 : 関係の方向性
上段 : 指導前の標準化係数,下段 : 指導後の標準化係数
英語教育・2007年第4号
26
27
補遺
参考文献
・Barnett, M. A.(1988). Reading through context: How
real and perceived strategy use affects L2 comprehension. The Modern Language Journal, 72, 150-162.
表 5 標準化係数の差についての検定結果
関係の方向性
差の 有意差
統計量
推測的操作
意味の構築
1.107
なし
意味の整理
意味の構築
−1.053
なし
テキスト操作
推測的操作
.102
なし
検索的行動
意味の整理
1.964
あり
テキスト操作
検索的行動
−.881
なし
読解調整
テキスト操作
読解補助
テキスト操作
―
―
.412
なし
研究仮説(2)に関して,読解ストラテジー使用が
質的に向上したと結論付けるのは難しい。ただし,
生徒が多様な読解ストラテジーを協調的に使用し
たために,読解ストラテジー間の関係性が強まっ
たと解釈できる。
結果として,読解プロセスの理解と読解スト ラ
テジーの使用を促す指導の併用は,読解スト ラテ
ジー使用を量的に向上させたが,質的な面では結
論を導くに至らなかった。
5. まとめ
本研究においては,比較的短期間の指導にも拘
らず,読解力の向上および読解ストラテジー使用
の量的な向上が見られた。習熟度の低いL2学習者
の読解指導においては,読解プロセスの適切な理
解を促す指導,および読解ストラテジーの効果的
な使用を促す指導の組み合わせが有効であろう。
また,生徒が読解とは相互作用的であるという意
識を持ち始め,多様な読解スト ラテジーを協調的
に使用したと解釈できる。このことから,相互作
用的リーディング・コンセプションの形成と読解
スト ラテジーの使用には重要な関係性があると思
われる。
注
1.構成概念間の因果関係を調べる手法で,現在広く利用
されている。
2.実測値として直接観測できない変数で,モデル構築時
に仮定される構成概念として扱われる。
・ Barnett, M. A. ( 1989 )
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Foreign language reading, theory and practice.
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読解力テスト
Reading Comprehension Test 1
Reading Comprehension Test 2
英語教育・2007年第4号
28
29
読解方略質問紙調査
書 評
『21世紀の英語科教育』
樋口 晶彦 島谷 浩 編著
読解プロセスの理解と英文読解の達成度についての自己評価
教師にはpersonality,profession,policyという
ます高まっている」という認識から,語彙の量と
3つのPに関する認識と素養が必要である。最初
質の問題,意図的学習と偶発的学習の留意点など
の2つは教育活動の起動力として日々充実すべき
について具体的に述べる。第6∼9章は,個別技
基礎能力である。最後のPは教育環境の不備と教
能の指導に関わり,学習指導要領の趣旨に添った
育政策の改変について批判的に考え,改善を図る
活動例を紹介する。「聞くことの指導」では,プロ
ために必要である。例えば,本質的に非実践的な
セスを困難にする要因を挙げ,指導の事前,事中,
場である教室で,「実践的」を求めることがいかに
事後のあり方を例示する。「話すことの指導」で
非実践的で非現実的なことか,学習者が習得すべ
は,プロセスを5段階で捉え,特に,発話の内容,
きコミュニケーション能力に「実践的」という冠
言語形式と機能,流暢さの前に正確さを重要な条
を着けることにどれほどの道理と意義があるのか
件と考え,諸活動を紹介する。
「読むことの指導」
など,一考するだけで,指導のベクトルは異なっ
では,コミュニケーション能力の中で読む技能の
てくる。
重要性が増してきているという認識に基づき,音
本書のベクトルは「21世紀の」という冠に込め
読の意義と指導過程における位置付けについて再
られているが,現行の学習指導要領を踏まえたう
認識を促すとともに,読解のプロセス,テキスト
えで,21世紀という「グローバル社会を担ってい
の種類と読むことの目的,読み方の種類や方法を
く子どもたちには共通媒体としての外国語能力と
例示する。「書くことの指導」では,基本的技能の
異文 化 理解 能力 はま すま す重 要に なる だ ろ う
習得から自由英作文作成の指導までを視野に入れ,
(p.219)」という認識に立ち,九州地区の大学や教
最新の学習者コーパスに基づく研究の結果を踏ま
育機関で英語教育の研究と実践に携わる気鋭の学
えながら論じている。このタスクの最後に,
「母語
究達が,各自の専門分野を担当執筆した論説集で
話者の書いた英文との比較」が項目には挙げてあ
ある。このベクトルは,日本におけるCLTという
るものの本文から欠落しているのは,よい着想だ
グローカリズム(=グローバリズムとローカリズ
けに勿体ない。
ムの結合)の調和のある発展はいかにあるべきか
第10∼11章,「評価とテスト」「基本的統計処理
に関して考える機会を与える。
とテスト・データ分析」では,教師として正しく
本書は全18章から成り,「従来の『英語科教育』
理解しておくべき評価法・統計法について詳述す
の 内 容 に 加 え て,早 期 英 語 教 育,CALL,e-
る。以下,第12∼18章は,
「ティーム・ティーチン
Learning,統計処理,教材作成などITを利用した
グ」「年間カリキュラム及び学習指導案」「早期英
英語教育も包含する」
(p.iii)
。最初の2章,
「21世
語教育」「異文化理解教育」「CALL」「CALLの簡
紀の外国語教育」「英語教授法の史的変遷」でベク
易体験」「各種検定試験」と続く。CALLに関する
トルの方向付けをし,第3章「コミュニケーショ
2つの章からは,類書にはない情報が得られる。
ン能力」でベクトルの力の特質をHymesやCanale
本書は,教師論,学習者論,第2言語習得論の
によって力説する。できれば,Hallidayの“the
章を言挙げしていない。必要に応じて補う必要が
meaning potential”やWiddowsonの“capacity”
あるが,随所に新所見や新情報を垣間見せ,著者
論,Bachmanの“language competence”にも言及
達の英語教育に寄せる意気込みを感じさせてくれ
してほしい章である。
る。その熱意は読者自身の学習指導上のベクトル
第4∼9章は指導論に当てられる。まず「音声
を反省させたり,鼓舞したりするに違いない。
の指導」では,国際的な通用性という観点から,
(兵庫教育大学名誉教授 青木 昭六)
特に,かぶせ音素の指導を強調する。次の「語彙
[A 5 判・304頁 定価2,940円(本体2,800円)
の指導」では,「今日,語彙力育成の重要性はます
発行:開隆堂出版]
英語教育・2007年第4号
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英 語 教 育 時 評
英語教育にも3Rsを
筆者の勤務する大学は附属の中学,高校が併設
されており,大学で教鞭を執りながら,週に2日
この附属中・高で教えている。今年度より初めて
中学生も受け持つことになり,図らずも「中・高・
大の連携」を個人的に実践することになった。
その中で痛感したのは,いかに既習事項が身に
ついていないかということだ。高校生は中学で,
大学生は高校で習ったはずのことがすっかり抜け
落ちている。気がつくと,昨日中学で教えたこと
を今日大学で教えているということさえある。
しかし,中学から大学までの英語教育のカリ
キュラムを考えると,生徒を責める気にはなれな
い。中学,高校では限られた時間内に教えるべき
内容をこなすのに精一杯である。知識は与えられ
るが,練習時間に乏しい。一度教えたことは,新
しい単元に入るとほとんど触れられない。かくし
て生徒の頭には,有機的につながりのない断片的
な知識が残ることになる。
普段使わない外国語を身につけるためには,大
量のインプット,定着のためのインテイク,それ
を自ら使ってみるアウト プット というサイクルが
欠かせない。さらに大切なのは「くり返し」やる
ことである。しかし学校では,インテイクやアウ
ト プットのための活動がふんだんに行われている
とは言い難い。「くり返し」の大切さはわかるが,
実施する余裕がない。
そこで,環 境問 題では 定着し ている 3Rs( Reduce, Reuse, Recycle)という考えを英語教育にも
応用してはどうだろうか。すなわち,導入部分を
Reduceし,優れた教材をReuseし,大切な学習事
項をRecycleするのである。
まずは日本語による導入や解説をReduceし,イ
ンテイクやアウト プット のための時間を確保する。
中学ではかなりこうした動きが見られるが,高校
の英語Ⅰ,Ⅱやリーディングでは,英文和訳や解
説にいまだ多くの時間が取られている。時には,
金谷他(2004)が薦める「和訳先渡し」を実施し
てはどうか。浮いた時間を,Read & Look up,
Overlapping,Shadowing,ペアによる音読など,
さ
まざまな音読活動をさせてインテイクを図る。ア
ウト プット 活動として,教科書を閉じさせてから,
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記憶に残っているキーワード を生徒に言わせる。
次に生徒をペアにし,お互いに読んだ内容を口頭
で再現させる。最後に読んだ内容について,感想
や意見を英語で書かせる。
次に教材のReuseを考えてみてはどうだろう。
長(1997)は,既習である下級学年の教科書を使っ
てのDictationを提案している。持ち上がりの学年
を受け持つ場合,前年度に使った教科書はさまざ
まに活用できる。文法事項や語彙の復習,速読の
教材にしてもよい。読んだばかりの教材では難し
いShadowingなどの活動も,既に学習した“i−
1”の教材ならやりやすくなる。
さらに既習事項はRecycleするようにしたい。使
わないものは忘れるのである。北原延晃先生(東京
都狛江市立狛江第一中学校)はいつも文法事項の
リサイクルを心がけ,生徒がつまずいたら必ず「基
本に立ち返る」ように指導している。語彙指導も
同様である。1回の単語テストでは定着しない。
岡田(2007)はSpaced Rehearsalという考えに基づ
き,間隔を置いて同じ単語を3回以上テストでき
るように計画して実施したところ,定着率が大き
く向上したことを報告している。
知識を与えるだけでは,英語ができるようには
ならない。スポーツのように,基礎トレーニング
が大切だ。だから,先生の出番をReduceして,生
徒のトレーニング時間を確保してあげてほしい。
さらに,教材をReuseし,既習事項をRecycleする
ことで,先生は労力の無駄が省けるし,生徒には
「くり返し」が保障されるのではないかと思う。
(聖徳大学講師 笠原 究)
参考文献
岡田 順子『効果抜群 語彙の定着をさらに促進する単語テ
スト集』アルク出版 2007
長 勝彦『英語教師の知恵袋
(上・下巻)
』開隆堂 1997
金谷 憲,高知県高校授業研究プロジェクト・チーム
『高校
英語教育を変える 和訳先渡し授業の試み』三省堂 2004
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