∼男の意地∼

メルマガ連載企画
『まきおが出会った愛すべき人々』
2009 年 10 月号
求人開拓に奔走するリクルーティングアドバイザー、通称「まきお」が立ち会った再就職活動の様々なエピソードを
毎月 1 話お伝えしています。再就職活動には、十人十色のドラマがあります。
涙・怒り・笑い・驚き、そして、愛のあるこのノンフィクションドラマを皆さんと共有できればと思っています。
非常に強い台風が近づいた先日、雨の中を会社へ向かって歩いていると、
どこからともなく金木犀(キンモクセイ)の香りが漂ってきました。
秋を感じさせる花、金木犀の花言葉は【謙遜、真実】。
空気が汚染されていると花が咲かないとも言われているそうです。
春は沈丁花(ジンチョウゲ)、夏は梔子(クチナシ)、そして秋の金木犀と
季節の移ろいを香りで知らせてくれる木々・・・。
温暖化で生態系が崩れつつある昨今、
こんなに素敵な日本の四季をなくさないよう皆さんもできるエコから始めましょう。
さて、今月の「まきおが出会った愛すべき人々」は、
家族に伝えられなかった一言を持っていた会員さんのお話です。
〜男の意地〜
「年収は絶対に現状を維持したいんです!一円たりとも落とすことは考えていません。」
大手グループの金融部門で債権回収・営業を経験した 53 歳の F さんは、
登録日から何度もこの言葉を繰り返していました。
自分のキャリアにぴったりな求人がでても、希望年収に合わないということで、敬遠したり、
経験は全くないが、年収が良いという理由で経営企画職の求人に応募したりと、
担当カウンセラーの意見など一切聞き入れませんでした。
もちろん、書類選考は不合格の連続・・・。
それでもFさんはあきらめる気配などなく、年収欄を見ては応募するか、しないかを決めていました。
3 回目の面談日、担当カウンセラーはFさんに聞きました。
「あなたの気持ちを大事にしたかったから今まで聞かなかったんだけれど、
なぜそんなに年収にこだわるのか教えてくれませんか?」
Fさんは黙ったままうつむいてしまい、結局最後まで教えていただけずにいました。
そんな事が何度も続いたある日、Fさんから、同業種のB社で内定を頂いたという電話が入りました。
ただその電話口の声は、非常に暗く落ち込んだ口調だったのです。
「前年収より 100 万円も低いんです・・・。この内定はお断りしようと思っています。
こんなんじゃ、家族に話せませんよ・・・・。」
ボソッと言った言葉にカウンセラーはハッとしました。
「Fさん、もしかしてご家族に今回早期退職した事をお話されていないのではないですか?」
「今の生活が壊れるのが怖くて、妻にも息子にも全く話をしていません。
再就職が決まったら、引き抜かれたから転職したと言いたかったんです。かっこいい男でいたかったんです。」
Fさんは、肩を落として今迄話さなかった理由をポツリポツリと語りだしました。
「あなたの男としてのお気持ちはわかります。でも、家族にちゃんとお話してください。
再就職は、家族の協力も重要なんですよ。」
その夜、Fさんは家族とじっくり話し合いました。そこには片意地を張ったFさんはいませんでした。
話し終えた後、奥様と息子さんが微笑んでFさんにこういったそうです。
「どんなことがあっても、お父さんについていくから安心して。大丈夫よ、家族じゃない。」
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