気象レーダーにより観測された2011年霧島山(新燃岳)の噴煙エコー

SVC070-P15
2011/05/23
連合大会
気象レーダーにより観測された2011年霧島山(新燃岳)の噴煙エコー
新堀敏基*・福井敬一† (*気象研究所・ †地磁気観測所)
Eruption Cloud Echo from Shinmoe-dake Volcano in 2011 Observed by Weather Radars
Toshiki SHIMBORI* and Keiichi FUKUI† (*Meteorological Research Institute, †Kakioka Magnetic Observatory)
はじめに
2011年1月19日01時30分以降,新燃岳噴火による噴煙が気象レーダーでも捉えられている.ここでは,気象庁が主に降水観測を目的として運用している
種子島,福岡および鹿児島空港に設置された気象ドップラーレーダーで観測された噴煙エコーについて,エコー頂高度の時間変化を中心に報告する.
1.種子島,福岡,鹿児島空港レーダーの概要
噴煙エコーが観測された各レーダーと新燃岳の位置関係を図1に示す.種
子島および福岡気象ドップラーレーダー(以下,種子島レーダーと福岡レー
ダー)は新燃岳から140 km以上の遠距離にあるのに対し,鹿児島空港気
象ドップラーレーダー(以下,鹿児島空港レーダー)は約20 kmの近距離に
ある.いずれも,降水観測を目的としてCバンド(波長5.6 cm)を利用してお
り,一定仰角の全方位観測(PPI観測)を,定められた走査パターンにした
がって仰角を変えながらボリュームスキャンしている.気象レーダーでは,
がって仰角を変えながらボリュ
ムスキャンしている.気象レ ダ では,
大気の屈折率と地球の曲率のため,レーダーサイトから離れるほどより上
空を観測することになる.図2に各レーダーの観測仰角と高度の関係を示
す.例えば,新燃岳から南東方向に流れる噴煙のPPI観測による高さは,
新燃岳直上の噴煙柱より,種子島レーダーでは低く,福岡および鹿児島空
港レーダーでは高くなる.また,気象レーダーは比較的細いビーム幅をもっ
たペンシルビームで観測しているが,ターゲットまでの距離が遠くなると
ビーム幅も広がり,一仰角でより大きなボリュームを観測することになる(図
3).今回噴煙エコーが観測された仰角についてビーム幅の広がりは,新燃
岳直上で種子島レーダーは約2600 m,福岡レーダーは約3100 mに達す
るのに対し,鹿児島空港レーダーは約200 mと1桁小さくエコー頂高度の精
度がよいと考えられる.
Fukuoka
Kagoshima
Airport
Tanegashima
種子島レーダー
図1 レーダー配置図
同心円は20 kmごと
新燃岳のS4°E,141 km(海抜290.5 m)
送信周波数:5350 MHz
ビーム幅(垂直):1.03°
回転数:4 rpm
観測間隔:10 min
海抜2.0 km CAPPI(定高度水平断面図)
21:10
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21:30
21:40
21:50
22:00
A-B間鉛直断面図
10km asl
21:10
21:20
21:30
21:40
21:50
22:00
A
5km asl
B
0
1月26日の噴煙エコーは,07時31分にごく小規模な噴火が発生し中規模
噴火になった15時から見え始め 継続的に27日05時まで観測された(一例
噴火になった15時から見え始め,継続的に27日05時まで観測された(
例
を図5に示す).その後,15時41分の爆発に伴う噴煙エコーが18時頃まで
確認された.28日02時10分から再び見え始めた噴煙エコーは,04時20分
以降29日00時まで新燃岳周辺に弱い降水エコーがかかったため不明と
なった.ただし,28日12時47分の爆発的噴火は検知された.29日08時40
分を最後に連続的な噴煙エコーは観測されなくなり,2月1日07時54分の爆
発以降は散発的な噴煙エコーが捉えられている.今期間発生した13回の
爆発的噴火のうち,10回で噴煙エコーを検出した.現在種子島,福岡レー
ダーによる噴煙エコーの検知回数は減少しているが,観測されるエコー強
度に変化はみられない.
図4上段に連続噴火の期間にあたる1月26日06時~28日06時について,
遠望観測の噴煙高度と比較した結果を示す.合成レーダーで観測されたエ
コー頂高度は 遠望観測よりも高めに出ている これは 火山灰雲全体を
コー頂高度は,遠望観測よりも高めに出ている.これは,火山灰雲全体を
分析していることの他に,新燃岳から遠距離のためビーム幅の広がりが大
きいことや観測仰角間の高度に開きが生じていることが関係している可能
性がある.次節では近接の鹿児島空港レーダーを分析して,エコー頂高度
の精度を確認する.
赤線は噴煙エコーが観測された仰角
レーダー気象観測指針(1976)より
2.種子島・福岡合成レーダーによる噴煙エコー頂高度の時間変化(1月19日~4月30日)
鹿児島空港レーダー(空域モード)
新燃岳のS51°W,20 km(海抜310.7 m)
送信周波数:5370 MHz
ビーム幅(垂直):0.62°
回転数:2, 4 rpm切替
観測間隔:6 min
※観測レンジは120 km
※他に,悪天時に運用の飛行場モードあり
図2 各レーダーの観測仰角と観測高度の関係
図3 ビーム幅の広がりの概念図
1月19日から4月30日までに種子島・福岡合成レーダーで観測された10分
ごとの噴煙エコー頂高度と最大エコー強度を図4に示す.エコー頂高度はし
きい値12 dBZe以上の最高仰角高度とその一つ上の仰角高度を内挿して
求めている(レーダー観測技術資料54 (2006)).噴煙のエコー頂高度は,
火口直上で測るか,火山灰雲全体で測るかが問題になるが,ここでは§3
で鹿児島空港レーダーとの比較を行うため気象レーダーで捉えられる火山
灰雲全体を分析対象とした.新燃岳周辺の20 km四方で分析した火山噴火
予知連絡会会報108(印刷中)と比較すると,検知率は上昇するが,エコー
頂高度の最大値に大きな差異は見られない.
福岡レーダー
新燃岳のN16°W,176 km(海抜982.7 m)
送信周波数:5355 MHz
ビーム幅(垂直):1.01°
回転数:4 rpm
観測間隔:10 min
※仰角1.2°,2.8°と6.5°以上は,
※150 kmレンジによる観測のみ
20km
22:10
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22:50
23:00
A
B
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22:50
23:00
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05:00
04:10
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04:40
04:50
05:00
図5 種子島・福岡合成レーダーで観測された噴煙エコーの一例
(1月26日 21時10分~27日05時00分)
図4 種子島
種子島・福岡合成レーダーによる火山灰雲全体の噴煙エコーの時間変化
福岡合成レ ダ による火山灰雲全体の噴煙
の時間変化
(上)噴煙エコー頂高度(青線)と遠望観測による噴煙高度(黒線)の比較(1月26日06時~28日06時).縦軸は新燃岳の火口標高(1421 m)を基準にした高さ.
●は雲などにより不明となるまでに確認された高さ.種子島レーダーは,26日10時30分~17時10分,27日09時00分~10時40分の間,保守のため運用休止.
28日04時20分以降は弱い降水エコーのため,噴煙エコーは不明.
(中)噴煙エコー頂高度の時間変化(1月19日00時~4月30日24時).縦軸は海抜,点線は新燃岳の標高を示す.
(下)同期間の最大エコー強度の時間変化
3.鹿児島空港レーダーによる噴煙エコー頂高度との比較(1月26日06時~28日06時)
前節でクローズアップした1月26日06時~28日06時について,鹿児島空港
レーダーで観測された6分ごとの噴煙エコー頂高度を,種子島・福岡合成
レーダー(図4)と比較した結果を図6に示す.鹿児島空港レーダーではこの
間,仰角13.7°まで観測されており,対応する高度は新燃岳直上では火口
縁上3.7 kmに留まるが,§2と同様に火山灰雲全体をターゲットとするとそ
の高度は 時的に最高7 1 kkm(海抜8.5
の高度は一時的に最高7.1
(海抜8 5 kkm)まで達していた.また,背の
)まで達していた また 背の
高い噴煙が初めに連続して観測された26日16時06分~18時36分のエ
コー頂高度は平均5.5 km(海抜6.9 km)であり,これは17時31分に撮像さ
れたひまわり7号(MTSAT-2)に基づき発表された航空路火山灰情報
(VAA2011/9号)の噴煙高度22000 ft(海抜6.7 km)と概ね合っていた.
Echo top
図7に最も近い観測時刻の噴煙エコー頂高度を比較した散布図を示す.種
子島・福岡合成レーダーと比較して,鹿児島空港レーダーでは,
(i) エコー頂高度は800 m程度低く,この差は高度に強く依存しない
図7 鹿児島空港レーダー(横軸)と
(ii) 正の相関があり,噴煙高度の細かな時間変化は合っている
種子島・福岡合成レーダー(縦軸)の
という特徴が見られた.(i)に関して,各レーダーのエコー頂高度の精度を,
噴煙エコー頂高度
新燃岳の東約7.5 km地点上空にエコー頂が確認された図8を例に考える.
観測期間:1月26日06時~28日06時
図6 噴煙エコー頂高度の比較(1月26日06時~28日06時)
この地点は種子島,福岡,鹿児島空港の各レーダーサイトからそれぞれ
rは相関係数,bは回帰係数を表す.
橙線:鹿児島空港レーダー
橙線:鹿児島空港レ
ダ
140 kkm, 180 kkm, 26 kkm離れており,最大観測仰角のビーム幅の広がりは
離れており 最大観測仰角のビ ム幅の広がりは
ダ
直線回帰(赤線)は,種子島レーダーが
青線:種子島・福岡合成レーダー(図4と同じ)
欠測のデータ(灰色)は除外した.
約2500 m, 3200 m, 300 mになる.合成レーダーのビーム幅として小さい
縦軸は新燃岳の火口標高を基準にした高さ(海抜-1421 m).
方の種子島レーダーで考えても,ビーム中心下方の半値幅1250 mの中に,
26日15時以前の鹿児島空港レーダーは擬似エコーの可能性があり,噴煙エコーは不明.
差分800 mおよび鹿児島空港レーダーの全幅300 mはすべて収まっており,
噴煙エコー頂高度の精度は鹿児島空港レーダーによる観測値±100 m程
図8(→) 鹿児島空港レーダーで観測された噴煙エコーの一例(上:海抜8.2 km,下:2.0 km CAPPI)
1月27日04時18分55秒(仰角1.7°)~04時22分29秒(28.5°)のPPI画像から作成,ただし17.4°以上はノーエコー.
度の誤差で決まると考えられる.今回の比較において,エコー頂高度の差
円はレーダーサイトを中心とする20 kmの等距離線.矢印(赤色)はエコー頂を指す.
が800 m程度になる定量的な原因については引続き,調査が必要である.
まとめと今後の課題
種子島,福岡および鹿児島空港レーダーで観測されている新燃岳からの噴煙エコーを分析した.鹿児島空港レーダーに対して種子島・福岡合成レーダー
ではエコー頂高度が高めに出ることについては新燃岳とレーダーサイトの距離の違いに由来するビーム幅の広がりで説明可能であり,火山に近接した
レ ダ を活用することによりエコ 頂高度の精度を上げることができると考えられる 遠望観測による噴煙高度との差異については 噴煙高度を火口直
レーダーを活用することによりエコー頂高度の精度を上げることができると考えられる.遠望観測による噴煙高度との差異については,噴煙高度を火口直
上で測るか,火山灰雲全体で測るかの問題があり,各レーダーによる噴煙エコー頂高度の比較においても注意する必要がある.
気象レーダーで観測される噴煙エコーは,ターゲットまでの距離や粒径分布の違いなどにより噴煙のすべてが捉えられているわけではない.噴煙エコー
の特性を押さえるためには,同時に観測されているドップラー速度データや波長の異なるXバンドレーダーによる分析結果などと比較検討することが重要
である.また,気象庁降灰予報のために運用している火山灰移流拡散モデルへの噴煙エコー頂高度の利用については,秋の気象学会で報告予定である.
謝 辞
本研究は,平成22年度科学技術振興調整費による「平成23年霧島山新燃岳噴火に関する緊急調査研究」の一部として行われている.気象レーダーの解
析には田中恵信氏・鈴木 修氏・山内 洋氏により気象研究所で開発・改良された「Draft」を使用しました.この場を借りてお礼申し上げます.