男女共同参画セミナー/坂本由美子氏 講演内容 (PDF)

山辺町男女共同参画推進セミナー
講師:山形新聞社報道部
記者 坂本
由美子氏
日
時:平成22年11月29日(月)13時30分~
場
所:山辺町役場3階大会議室
皆さんこんにちは。山形新聞の坂本と言います。前に役場にお世話になってましたので、議会
取材ですとか町の取材でお世話になった方の顔がちらほら見えますが、今日は宜しくお願いしま
す。
山辺町を担当させていただいていたのは平成16年なんですけれども、その中で凄く印象に残
っている事で一番大きなことは、今町の顔にもなっている「あがすけダンス」です。あの年ちょ
うど誕生するところから取材させて頂いて、その年の5月の連休明けの日立市との姉妹都市の調
締の時に初披露されて、ものすごく素晴らしかったですし、皆さんの盛り上がりだったり、踊り
手が1,000人になったという取材をさせていただいて本当に楽しい思い出でした。その後も
白山スキー場の「花文字大作戦」なども継続して取材させていただいて、山辺の方というのはう
ちの新聞社の中でも有名なんですけれども、皆さん凄く地域の事が好きで、一生懸命住民活動や
地域づくりをされている方が、職員の方もそうですし町民の方に多くて、思わず取材に行きたく
なるような町だったので、そういう所に呼んでいただいて、本当に今日はありがとうございます。
今日は山形新聞の子育ての取材をしているという観点で男女共同参画について紹介してみたい
と思いますが、私がお話をする前に、新聞記者の仕事がどういう仕事なのかというところからち
ょっとお話させていただければと思います。
新聞記者というのは二種類いまして、私のような外に出て取材をして記事を書く報道の記者の
ほかに、内勤で、報道記者が書いた記事を、見出しを付けたりレイアウトをするという仕事をし
ている整理記者がいます。その二種類の記者によって新聞紙面が作られています。山形新聞の場
合だと報道部の中でもいろいろ担当が分かれていて、県内12支社に記者が配属されているのも
そうなんですが、本社報道部の中でも今私がいる山形市政班とか、モンテディオなどを取材する
スポーツ班、夕刊の文化欄を担当している文化班、それから私が前にいた社会部ですね、事件・
事故・裁判を取材する。県政の取材をする県政班とかその他に論説を書く論説委員とか、コラム
も論説委員が担当しているんですけれど、更にその記者たちが書いてきた原稿をチェックする立
場のデスクと呼ばれる人達がいて、そのチェックを経てその原稿が整理部に回っていって、整理
部のデスク、整理記者のチェックを経て紙面になるという仕組みで新聞が作られています。私が
所属している山形市政班というのは、山形市を中心に山辺町と中山町がエリアになってまして、
議会取材と行政取材、それから町ダネ取材というのを主にやっています。その他に山形市の公設
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の市場にお邪魔して、毎週水曜日に掲載している市場情報というのがあるんですけれども、今の
旬の食べ物が何かとかそういう取材もしています。ちなみに今は「ふじりんご」がピークだそう
で今年は小玉、夏の暑さで小さいですけど非常に味がいいそうなのでお買い得かも知れません。
うちの会社も女性記者が非常に増えまして、私は平成10年入社なのですが、その頃にはまだ
私で4代目の女性記者で、入社当時で5~6人しかいなかったんですが、今は新規採用する記者
の半分が女性記者になっていますので、20数名いるようになりました。今山辺町を担当させて
いただいている柳沢という記者も女性ですし、その前も歴代女性記者が担当させていただいてい
たかと思います。同じように男女の別なく社内では働いていますし、夜勤とか泊まりだったり、
早朝、深夜の呼び出しなども性別に関係なく仕事をしています。
私は子育てや男女共同参画の専門記者というわけではないんですが、たまたま特に入社した時
に数少なかった女性記者だということもあって、男女共同参画の取材が回ってくる回数が多かっ
たり、それから2005年から「山形わいわい子育て」という紙面を担当させていただいてる関
係でいろいろ取材するようになりました。専門的な知識はおそらく皆さんの方が詳しいと思うの
ですが、今日はその中で気付いたことや感じたことをお話させていただきたいと思います。
子育ての取材をするようになってもう5年以上になるんですが、その中でだんだん強く思うよ
うになっているのは、子育て支援・少子化対策というのは、男女共同参画とは切っても切り離せ
ない話なんだなということです。両方同時に考えていかないと根本的な少子化対策というのはな
らないのかなと考えています。そういう観点で考えると平成20年に特集記事を書いたフランス
の少子化対策。これは子育てをめぐる環境の取材をしてきたのですが、非常に参考になる取材で
した。お配りした資料の一番のところから見ていきます。山形新聞は地方紙なんですが、山形放
送と協力して、だいたい年に1回「海外の先進地に学ぶ」という取材をしています。今回のフラ
ンスの少子化対策の取材もその中で行っています。まず資料の①を見てみていただきたいのです
が、フランスは以前は日本と同じように深刻な少子化の状況にあったんですが、その後V字回復
を遂げた国として非常に有名な国です。この出生率のグラフを見ると、フランスが赤い実線なん
ですけれども、ちょうどV字の回復をしているのが分かります。一方の日本は青い実線なんです
がどんどん下がっていって、最近ちょっと上がっているとはいえ、やはり深刻な状況には変わり
ありません。
この取材のきっかけになったのが「パリの女は生んでいる」という本。結構日本でも売れたの
で、もしかしたらお読みになった方がいらっしゃるかも知れませんが、フランス人男性と結婚し
てパリに住んでいて子育てをしているという、翻訳家の中島さおりさんが書いた本がきっかけに
なって、そこからフランスに住んでいる日本人女性をコーディネーター兼通訳さんとしてお願い
して取材をしました。フランスが何故少子化に歯止めをかけられたのかというと、せっかくなの
でこの話もしたいんですが、一番大きいのが資料②にありますが、1972年から政権が変わっ
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ても続いている手厚い家族政策です。ちょうど一枚目の紙の真ん中の所にあります。妊娠7ヶ月
目に、例えば、これ当時2008年10月のユーロで計算しているので、今は日本円にするとも
うちょっと下がっていますけれども、7ヶ月目で13万円貰えるとかですね。子供が増えるに従
って家族手当が増えていく。これは3人であれば家族手当だけで月6万円貰えます。その他に子
供が3人以上いると国鉄が家族全員誰でも3割引きで使えるとかですね。ホテルの宿泊施設が3
割引きだったりする大家族パスというのがあったり、出産費が、公立病院で産めば保険加入が条
件ですが、無料なんですよね。最初からお金がかからない。検診も全て無料です。これもちょっ
とびっくりしました。それから育児休暇中に月8万円ちょっと出るところとか、子育てするには
家が必要だろうということで住宅手当も子育て世帯には支給されます。低所得者の家庭であれば、
新学期に教科書とか鞄とか服とか運動着とかそういう物が必要であろうということで、新学期手
当という、そういった備品を買うためのお金が出ます。幼稚園から高校までは、公立であれば授
業料も無料だそうです。給食費だけ有料なんですけれども、これも全部親の収入によって決まる
ということでしたので、低所得の親の場合は無料で学校に高校卒業まで通わせることができると
いう制度が整っていました。こういう手厚い家族政策というのは政権が変わってもずっと変わら
ずに続いてきたそうです。その継続的な政策というのが非常に効果があったと政府関係者は話し
ていました。
と、もう一つ、フランスが子育てしやすい国と言われる理由の一つが託児システムの充実です。
1枚目の紙の一番下の方に書いてあるんですけれども、日本だと幼児の保育の役割が保育園と専
業主婦に集約されているんですが、フランスでは自宅で子供を預かる保育ママですとか、ベビー
シッター、それから無料で利用できる幼稚園、これは2歳の時から利用できます。このように、
いろんな選択肢があって、一番利用されているのが保育ママです。この紙の2ページ資料④に書
いてありますが、一番多くの家族で保育ママが利用されています。保育園の率をみてもらうと9%
と非常に少ないのですが日本だと21%が保育園に行ってます。山形だともうちょっと上がって
28%になっています。共働きの率の高さからだと思います。それからそういういろんなシステ
ムがあるので、日本だと今待機児童の問題が、特に都市部で問題になってますけれども、フラン
スでは子供が預けられなくて働けないという親の姿は、まずないと聞いています。
資料⑤にまとめてあるんですが、一番人気の保育ママというのは、これは最近山形市でも制度
を始めましたけれども、預かる人の自宅で子供3人まで預かることができるというシステムです。
家庭的な雰囲気の中で幼児期を過ごすことができるというのが施設保育とは違うメリットの部分
なんですけれども、保育の知識を、研修を積んで国の許可を受けた保育ママという人達が仕事を
しています。保育ママを取材していて驚いたことの一つに給料の高さなんですけれども、自宅で
できる仕事で保育ママ、それぞれで料金が違うそうで、その保育ママをどうやって決めるかとい
うと、親がそれぞれ面接をして決めるんだそうです。保育園の場合だと、日本は普通自治体が窓
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口になっていますけれども、フランスは自己責任の国なので、親が自分で面談して決める。料金
についても待遇も場所も、施設の設備の状況も、全て親が判断して決めるそうです。私が取材し
た保育ママは比較的富裕な層の子どもを預かっているということもあって、ちょっと高い人だっ
たんだろうとは思うんですが、土日は休みで週に5日間、定員ぎりぎりの3人を預かって、月2,
190ユーロでした。これは当時のレートで月収34万円なんです。今だと円高なのでだいたい
25万円ぐらいなのですが、それでも相当高いと思いました。自宅でできて、週休2日で、しか
も自分に子供がいる場合、子育てをしながらできる仕事。それでこれだけの給料を貰えるという
のは、保育ママ自身の仕事と子育ての両立支援にもなる、非常にいい仕事だと思いましたし、保
育ママとかベビーシッターというのも人気の職業なんだそうで、私が取材した保育ママの娘さん
はベビーシッターをしていて、将来的には保育ママになりたいので、その勉強も兼ねてベビーシ
ッターの仕事をしていると話していました。ベビーシッターの仕事もまわりの他の職業に比べる
と結構高いほうです、と話していたので、保育の仕事というものの給料の高さに驚きました。そ
れは親が全額負担しているのではなくて、それも所得に応じて政府から助成金が出るので、親の
負担もそんなになく預けられるようでした。
山形市でも昨年度から保育ママの事業が始まったんですが、最初保育ママ6名で始めて、夏ぐ
らいから申し込みを始めたんですけれども、当初は様子見をする人がすごく多くて、利用者が1
人とか0という状況が続いたんですが、途中から、うちでも密着取材なんていうのをしたんです
けれども、大人気になってしまって、今はもう満員の状態です。定員の空くのを待っている状態
になっています。今年度からは山形市は保育ママの人数を増やしていますし、おそらく来年度以
降も少し増やすような形になるのではないかと思っています。
フランスだとその他に下宿をさせる制度なども結構あるので、下宿をさせている学生に低料金
で子供の面倒を見てもらうシステム等もあって、いろんな保育の形というのが、女性が仕事と家
庭を両立すること、女性だけじゃないんですけれども、子供を持つことを可能にしていると思い
ました。
その結果なんですが、この2ページ目の資料⑥下のグラフを見ていただきたいのですが、フラ
ンスの女性は子育て世代も高い割合で仕事を続けることができてますので、ちょうど30~40
歳あたりの子育て世代の時もほとんど落ち込まずに働き続けることができています。日本だとち
ょっと下がっていますが、これが2003年のちょっと古い数字なんですけれど、日本の平均だ
と60%ぐらいなんです。山形県は共働き率が高いので、この当時で77%で止まっていました。
こういうふうにしてフランスは母親が子育て中にも働ける環境が整っているので、各家庭の経済
力が上がって、子供を持つという良い循環に繋がっているようです。
少子化が続いた原因として今はあまり言われなくなりましたが、女性が社会進出したからだ、
というふうなお話を聞いた事がある方もいらっしゃると思いますが、フランス政府はむしろ逆で
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あると言っていました。女性が社会進出することを手助けすることが、少子化対策になると話し
ていましたし、先進国ではその考えが一般的になっています。フランスが日本に比べて子供を生
み育てやすいかということを考えた時に、今紹介した制度の他に気がついたのが子育ての負担感
です。日本だと子育ては母親がするべきものだとか、母親が全てを犠牲にして子供の為に生きる
べきだ、なんていう風潮が今でもまだ強いように思うんですけれども、フランスでは全くそうで
はありません。
「当たり前だ」とか「人生を捧げるべきだ」というふうに言われないことが非常に
楽だと、取材のきっかけになった本を書いた中島さおりさんも言っていました。
「パリの女は生ん
でいる」という本を書いた中島さおりさんはフランス人男性と結婚して、パリ市内で2人の子供
を育てた経験の持ち主なんですけれども、資料⑧にちょっとまとめてあるんですが、フランスで
なぜ子供が増えていると思いますか?と中島さんに聞いた時に最初にあげたのが「負担感の違い」
ということでした。中島さん曰く、フランスの女性は1人の女性として生きていて、そして子供
もいる。でも日本の女性は子供を持つと女性から母親にならなければならなくなって、子育ての
全てを引き受けなければならなくなって、そして負担はあるし仕事は続けにくいし、子育てに専
念したらしたで、
「お前に任せてあるから」ということで、その重圧に押しつぶされそうになって
しまうと。もし自分が日本で子育てをしていたら出来なかったかも知れないと中島さんは話して
いましたし、日本のママ友だちとお話をする時もその大変さに驚いていました。フランスだと、
子育てに専念していると「子供から離れた方がいいわよ」とか「あなたも、社会参加したほうが
いいわよ」と言われるそうで、専業主婦の方でも子供を預けて旦那さんとデートをするというの
は当たり前なんだそうです。週に1回ぐらい子供を預けて食事に行く、というのは一般的な家庭
だそうで、そういう時はご近所同士預け合って、何か怪我をしたり、そういう時は文句を言わな
いような、それはお互い自己責任でというムードだそうなので、お互いに預けるということに抵
抗がないと話していました。
「子供を育てるのは母親の役割だ」という考えがないので、普通に子育てしてるだけで、褒め
られるんだそうです。君はなんておむつ替えがうまいんだとか、君はとてもいい母親だから子供
達も僕も幸せだとか。さすがフランス人だと思ったんですけど、ちょいちょい褒めてくれるんだ
そうです。毎日何か一つは褒めてくれるし、やっぱり愛の国なので「愛してるよ」と言うことも
多いようで、同じように家事や子育てを負担してても褒めてもらえると気が楽だと話していまし
た。今日は男性が多いので是非皆さん、ご自宅に帰ったら褒めていただければと思います。
中島さんの言葉ですごく印象的だったのが、日本では子供の為に母親が我慢して当たり前、犠
牲になって当たり前という考え方ですが、フランスでは「母親自身が輝いていなかったら子供を
幸せに出来ない」という考え方が主流なんだそうです。
「親が我慢して自分を犠牲にしているよう
なところで子供は健全に育たないわよ」などとまわりにも言われるので、そういう空気が非常に
子育てしやすいし、子育てして楽しいと思えるし、それを見ている子供達がまた子育てしたいと
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思う循環になっているんじゃないかと中島さんは話していらっしゃいました。
それから中島さん自身、通訳とか翻訳の仕事を続けながら子育てをしているんですけれども、
女性のキャリアと子育てのバランスについても、バランスがとれるか聞いてみました。子育てを
しながら働いている女性と子育てをしていないで仕事だけに集中している女性とでは掛けている
時間が違うので、極論を言えば両立はしないだろうと中島さんは言ってました。しかし、どのく
らいキャリアを諦めればどのくらい子育てに集中できるか、というその度合いを自分で選ぶこと
が出来ると話していました。自分が子育てをしたい時期であれば子育ての方を集中して、仕事を
サブでやって、その時期が過ぎればまた仕事の量を増やして子供の時間を持ってというふうに選
べるけれども、まだ日本はゼロか100かというところがあるような気がして、その両方をやろ
うとすると非常に負担が大きくなるのかなと思いました。
このフランスの取材の時ははだいたい10日間フランスに滞在してきたんですが、その中でも、
地下鉄で移動したり、タクシーを使ったり、街歩きをする時間もあったんですが、その中で気が
ついたのはやはり子供が多い国だというので、ベビーカーを押して歩いている人の多さです。向
こうのベビーカーはすごく大きいんですね。身体が大きくなるからというのもあると思うんです
が、道幅がそんなに広くないところに、ベビーカーを押したママたちが2人入ってきたりしても、
必ずほかの人がよけるんですよね。日本だとベビーカーの方が「じゃあ通ってから、後から」と
なってしまいがちですが。東京の方に結婚して行った知り合いの中で、満員電車の時間帯に子供
を病院に連れていかなければならなくて、電車に乗り込んだら、
「あなたは暇なんだから降りて、
空いてから来なさい」と言われてすごくショックだったと言ってました。フランスではエレベー
ターなどでも、満員のエレベーターにベビーカーが乗ろうとすると、それまで乗っていた人が降
りてベビーカーを乗せるんだそうです。普通にドアを開けてくれるし、そうしたことが当り前の
世の中になるというのも、子育てしやすい世の中になるんだろうと思いました。
それから、子育てと仕事を両立する上で重要なのが、女性の両立で考えると、男性の家事、育
児参加だと思うんですが、この点で日本とフランスをちょっと比較してみます。資料⑨をご覧く
ださい。ここに日本だと共働きで夫婦のみの世帯の男性、女性、フランスだと専業主婦を含めた
全世帯なので、まったく同じ数字ではないので単純比較はできないんですが、日本の場合だと男
性が25分、女性が3時間。フランスだとこれもやはり女性の方が長いですけれども、男性が女
性の半分くらい家事をしていることがこの数字からは分かります。ここにはない数字なんですが、
別のデータで1週間あたりの家事時間、これ各国を調べたものがあるんですが、1週間あたりの
家事時間男女合計およそ10時間、という総時間はほとんどの国が変わらなかったんですが、男
性が担っている時間に差が出ました。トータル10時間は変わらないんですけれども、アメリカ
人男性は3時間26分、スウェーデン男性3時間21分、ノルウェー、ドイツの男性も3時間を
超えていたんですが、1週間で日本人男性は48分、1週間なので平均すると相当短いというの
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がわかります。日本人男性の家事時間が短いというのは諸外国でも結構有名な話だそうで、韓国
も同じように短いそうです。公式なデータではないんですが、1日当たりの韓国人男性の家事時
間、日本では共働き世帯で25分でしたけど、韓国のあるデータでは1日5分という数字もある
そうで、おそらくほとんどの男性が家事をしていなくて、一部のしている男性のおかげで5分を
なんとか確保しているんだろうと思いました。
この観点で身近なデータを見ていきたいんですが、細かくて申し訳ないですが、資料⑪をご覧
ください。モノクロの資料なので相当見にくいんですけど、次ページの資料⑫から抜粋した記事
のグラフが出ているので、こちら資料⑫を見ていただいても大丈夫ですね。これは平成22年の
1月に山形市が行った男女共同参画の関する市民の意識実態調査の中から、共働き家庭について
の結果を抜粋したものです。一番上のグラフから見ていきます。調査では具体的な家事の内容を
誰が主にしているのか、というものを聞いています。この一番上の誰が主にしているのかの横棒
グラフを見てもらいたいのですが、一番上から3番目の食事の準備というのは75%が妻で、夫
婦平等というのが9.7%、夫が主にしているという家庭が1.1%でした。その上の食事の後
片付け、これは主に夫がしていると答えた家事の中で、一番夫のしている割合が高いものだった
んですが、それでも主に夫がしていると回答した家庭は5.8%に留まりまして、これも同じよ
うに妻が主にしていました。一番上の育児なんですが、これは夫婦平等と答えた家庭が一番多か
った分類なんですけれども、夫婦平等と答えたのは34.6%で、妻が50.9%、夫が主にし
ているという家庭は0.3%でした。その上で、真ん中の家事時間を見てもらうと、共働き世帯
の一日あたりの家事時間、女性が一番多かったのが2時間以上4時間未満。その次は4時間以上
6時間未満だったんですけれども、男性で一番多かったのが1時間以上2時間未満でした。それ
とほぼ同じくらいの割合で0分というのが21%で続いていたのが非常に特徴的だったと思いま
す。共働き家庭でも、このグラフからも分かるように、女性が家事全般を行っているということ
がここから読み取れます。その結果何が起こっているかというと、一日の睡眠時間というところ
を読んで欲しいんですが、これも共働き世帯なんですが、8時間以上のところを比較するとわか
りやすいと思うんですが、男性は8時間以上寝てらっしゃる方が19.4%いるのに対して、女
性は9.9%と少なくなっていました。全般的に女性の方が男性よりも睡眠時間が短い傾向があ
って、ここまでの数字から読み解くと、共働きの世帯でも女性が中心的に家事や育児を行ってい
て、その時間が長いために睡眠時間が短くなっているということになってしまいます。
こうするとお母さんだけが大変で、お父さんは空いた時間にテレビを観たり趣味をしていると
思われがちなんですが、ここでまた一番下の数字のグラフを見てもらいたいんですが、男女の労
働時間のデータになります。いずれも常勤の労働者ということで示してあります。これでみると
女性が一番多いのが8時間以上9時間未満。これが46.2%で最も多くて、10時間以上が3
0.7%したが、男性の場合は10時間以上50.7%で一番多かったです。ページの一番下の
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ところに男女のアンケート、山形市の調査ではない総務省のアンケート調査結果なんですが、1
週間あたりの労働時間、30歳から34歳でみると、男性が48時間なのに対して女性が36時
間なので、男性の方が相当長く働いていることがわかります。これは1週間で12時間差があり
ますので、日曜日だけ休みだとすると、週6日で割れば1日2時間、男性の方が長く働いている
ことになります。そうするとやはりお父さんの仕事が大変で家に帰ってくるのは何時頃になるん
だろうか、ということになってきます。うちの会社の笑い話で、子供が小さい時に、遅くまで働
いているもんですから、3歳の息子に、
「おじさん、また来てね。
」と言われたそうです。俺が建
てた家なんだ。お前は俺の子供なんだと悲しくなったと話していましたが、けれども、ママのお
友達というような意識しか子どもに抱かれないぐらい、子供に会えない男性は非常に日本は多い
と思います。
家事をやりたくても、帰ってきた頃には家族は食事を終えていて、子どもはお風呂に入ってい
て、もう寝ていて、寝顔しか見たことがないなんていうお父さんたちは非常に多いと思います。
特に子育て世代というのは働き盛りの年代でもあるので、特に帰る時間が遅いこともあると思い
ます。そういうことが結果的に女性の家事、育児負担につながってしまっているので、社会全体
で考えることが必要です。経済支援も大事なんですけれども、今やっとワークバランスの重要性
を言われ始めましたが、そういったことも合わせて考えていかなければならないんだろうと思い
ます。
そういう社会の中で、やりがいを持って打ち込んでいた仕事を続けながら、子育てができない
女性というのに、取材を通じて数多く会ってきました。やりがいを持って仕事をやってきたんだ
けれども、子育てがあるから辞めなければならなくなったとか、睡眠時間毎日5時間でなんとか
やりくりしているという女性が結構たくさんいます。そういう女性たちの声を聞いて凄く思った
んですけど、多くの若者が将来結婚して子供も欲しいと思ってると思うんですが、好きな仕事に
就いて仕事も一生懸命やっている中で、いざそれをやろうとすると、子供も家庭も子育ても全部
欲しいといった時に、男性は比較的手に入りやすいんですけれども、それを女性がやろうとした
時に、
「ちょっとそれは無理なんじゃないの」とか「ちょっとそれは都合がいいんじゃないか、わ
がままなんじゃないか」って言われる。言われなくても、そんなふうにとられてしまう風潮がま
だあるのかなと思います。その中で、それを全部同時にやろうとすると、どうしても自分だけが
大変になってしまって、結果的に夫婦内不和になってしまったり、などという話をよく聞きます。
先ほど紹介したフランスの取材の中で非常に印象的だったのが、家事や育児は誰がするんです
か?とフランス人男性にお聞きしたら、どうしてそんな質問をするのか分からないと言われまし
て、日本では共働きでも女性が家事や育児をしてるんですって言ったら、そのフランス人男性が、
「家事や育児は夫婦でシェアするものだ。分け合うものだ」と言ったことです。今のフランス人
男性はそういう考えの人が多いそうなんですけれども、30年、40年前、今のおじいちゃん、
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おばあちおゃん世代の男性というのは、全くそういったことはなかったそうです。ちょうどその
リビングにおじいちゃんがいたので、
「おじいちゃんの時もそうでしたか?」と聞いてみたら、
「そ
んなことはない。男が子育てするなんて。男が台所に立つなんて」と言っていました。そういう
認識の世代だったそうですけれど、おじいちゃん世代の女性たちが、家事のしない男性を、向こ
うは離婚率が高いので相当厳しく、教育したんだそうです。自分の旦那さんを変えるか、それが
無理だった場合、息子さんを教育したそうです。そうやっていった結果、次の自分達の息子の時、
30年でこんなにこんなに変わるんだとすごく感動しました。今日本では子育ての中心を女性が
担ってますので、もしかしたらそういう社会運動を始められる機会なんじゃないかなと思ってい
ます。是非、子育て中のお母さんたちには、息子さんがいたら家事も育児もできるような、仕事
と両立できるような人に育てたら、次の世代の子育て環境は変わっていると思います。
そういうふうに、家事や育児を男女が分け合えるような世の中になればいいなと思いますが、
現実的に労働時間が違う点があります。フランス人男性は日本人男性よりも労働時間が短いんで
すよね。午後7時前には帰って来ていましたし、フランスを取材している時に、労働時間短いん
だなということを実感する場面が結構ありました。パリ市内にある有名デパートも、日曜日は休
みなんですね。日本では稼ぎ時だと思うんですが休みでした。それと、24時間営業のコンビニ
もないんですよ。山辺にもたくさんあると思うんですけど、フランスにはなくて、我々すごく不
便だったんです。10日間しか滞在期間が無かったので、毎日取材が夜9時くらいに終わって、
ホテルに帰ってきて、そこから食事しようというとコンビニはないし、スーパーは終わってるし。
じゃあ飲食店探そうというと飲食店も閉まってるんですよ。どうしようかなと思って探すと、寿
司屋とかタイ料理屋のフォーのお店とか、
アジア系の店だけ開いてるんです、
カレー屋さんとか。
アジアの人はたぶん働き者なんでしょうね。そういうところが多かったです。あとはパブなんか
はありましたけれども、ちょうどホテルの近くにあるところはそんな状況でした。それを見て思
ったんですが、日本というのはコンビニも地方にもありますし、いつでもすごく便利なんですけ
れども、その便利さを追求してした結果、深夜労働の人や、無休の状況を生んでしまって、労働
時間を長くしてしまっているのかなと思いまして、消費者の考え方も変えていかなければいけな
いのかなと思いました。
ここからちょっと話を山形県内の取材に戻したいと思いますので、ここで休憩を入れたいと思
います。5分間休憩して2時15分からの再開で大丈夫でしょうか。
そろそろまた始めたいと思います。私が担当している子育てのページというのは、ちょうどこれ
今朝の朝刊なんですけれども、中の方にある「山形わいわい子育て」というページで、毎週1ペ
ージ特集をしています。これは「冬を前に小児科との上手な付き合い方」というので特集してい
ます。その他にもやわらかいネタから硬いネタまでいろいろ扱うんですけれど、
「森のキャンプ」、
お父さんなしでお母さんと3歳以下の子供だけでやるキャンプで、県内で初めて今年の9月にあ
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ったんですが、その様子ですとか、祖父母世代の子育て、孫育てですね。山形県内、おじいちゃ
ん、おばあちゃんの協力なしでは子育てできない状態だと思うので、そのおじいちゃん、おばあ
ちゃんの子育ての中でのポイントというか留意点というかですね。孫育てに追われているおじい
ちゃん、おばあちゃんがたぶん県内ですごく多いと思うんですけれども、おじいちゃん、おばあ
ちゃんもたまに孫を預けて、自分の時間を持ってね、なんていうことでアドバイスされていまし
たけれど、そういう取材をしている中で、今途中で資料追加で配布していただいた、
「仕事と子育
ての両立」のテーマを時々取り上げています。山形県は共働き率が高いですので、そうテーマの
取材をしています。今お配りした新聞の特集、あとで詳しく読んでいただければと思うんですけ
れども、ここでは従業員の仕事と子育ての両立に積極的な企業の事例を紹介しています。そうし
た企業の中で山形県内で有名なところの一つに、寒河江市の「日東ベスト」さんがります。昭和
44年の頃から事業所内託児所を設置しています。缶詰等を作っているラインが忙しくて、たと
えば今日は夜8時なで稼働しなければならないとなれば、会社の都合で稼働時間を延長するのだ
からということで、託児所の時間も延ばすんだそうです。従業員の方がお父さんが勤めていても
使って良いので、お父さんと手をつないで朝通園してくる子供達の姿もあって、お父さんたちも
すごく喜んでいるという話を聞きました。それが、優秀な人間を企業に持ってくるための、人材
確保のためのポイントだとお話をされていらっしゃいました。
それから最近だと有名なのが、荘内銀行さんですね。例えば旦那さんが荘内銀行の社員じゃな
くても、学校の先生をしていらしゃって山形から最上地方へ転勤になった、そういう時これまで
だと単身赴任だったと思うんですけれども、家族で一緒に行きたいということで奥さんも希望を
出して、旦那さんの勤務地について行けるんだそうです。県内だけでも相当店舗がありますし仙
台にも支店がありますから、これだといつも家族が一緒にいられる状況を作れるなと思いました。
また、子育てに集中したい時期は正社員ではない立場で早く帰れたり、フルで働きたいとなれば
正社員に戻れる制度もありました。自分で選べるんです。本当に驚きました。
そういう企業を取材していて思ったのは、従業員の子育て支援に積極的な企業というのは従業
員を単なる労働力ではなくて、大切な人材としてみているということです。この人に辞めてもら
っては困る、この人材を生かすにはどうしたらいいか、どこまで譲れるかということで考えてい
るようです。その人材をどう生かせば自分達の企業のプラスになるのかというのを戦略的に考え
ていらっしゃいました。そういう企業にとっては性別というのは単なる個性でしかなく、そうい
う意味で女性差別というのはこういう職場にはないと思いました。実際働いている人は「そんな
きれいごとだけじゃないわよ」とおっしゃってましたけれども、他の所に比べれば相当そうだと
思います。女性の方がその職場に向いていると評価される職場で、特にそういう取り組みが進ん
でいるようでした。手先の器用さを求められるとか、接客商売であるとかそういうころですね。
荘内銀行の従業員は6割が女性なんだそうです。なのでこれは重要な労働力だということで考え
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ていらっしゃいましたし、山形市のパレスグランデールという結婚式場に話を移しますが、あそ
こも今年事業所内託児所ができました。結婚式という一生に一度の大切なセレモニーを扱うスタ
ッフとして、やはり経験がある人にかなわない。その経験がある方に結婚を機に辞められてしま
うと、せっかく育った人を失ってしまうことになるのはもったいないということで、積極的な子
育て支援を始めたそうです。特に結婚して出産した経験のある従業員というのは、これから結婚
式を挙げようとする若いカップル、これから家庭を持って子供を持とうという人たちですので、
その方々を支援するには最適な経験の持ち主であると話していました。最近は子供を産んでから
結婚式を挙げる方もいらっしゃいますけど、そういう時のフォローであるとか、子連れのお客様
へのフォローというのも素晴らしいのだそうです。そこはもう完全に子育て経験がキャリアにな
る職場なんだなと思いました。
この特集記事の中にもあるんですが、庄内地方に、子育て家庭のための雑誌があるんですけれ
ども、山形市内だとフリーペーパーの「マーメイド」とかですね。そういった雑誌やフリーペー
パーの編集には、女性が、子育て中のお母さんたちが非常に多く関わっていらっしゃいました。
全部女性スタッフというところもありました。そういうふうに女性の子育て経験がキャリアにな
る仕事もありますし、たとえば私達のような職業では、よく流行りものの特集をしたりするんで
すけれど、そうすると男性の、私達ぐらいから上の年代の人というのは、この職業に就いてもう
長いので、自分で日用品などの買い物をしていないので、今何が売れているのか、分からなかっ
たりして、そうすると奥さんに教えてもらったりすることもあるんですよね。女性たちの場合、
口コミのネットワークの強さもありますから、情報収集は得意です。それから「ホームセンター
ジョイ」さんも子育て支援に一生懸命な企業なんですけれども、商品を買いに来るお客さまが女
性が多いので、陳列の仕方であるとか、こういう商品が欲しいんだっていう情報を、リサーチし
なくても女性従業員たちが掴んできてくれるというのは強みになっているようでした。
従業員の仕事と子育ての両立に積極的になるように、企業が変わっていくために必要なのが、
やはりトップの考え方だと思います。民間企業というのはトップの判断で決まってきますので、
トップがどういうふうに考えるかにかかっています。荘内銀行さんも変わり始めたのは、前の町
田頭取がいらっしゃってからだと話をしていました。こういうトップに対する働きかけというの
を行政の方であるとか、今日議員さんもたくさん来ていらっしゃるので、是非していただけたら
嬉しいと思いますし、企業にとってメリットがあるという部分をアピールしてもらえないでしょ
うか。
企業側のメリットという意味では、男性の育児休暇取得促進を、今、国で進めてますけど、現
実的には殆ど取れない現状ですよね。育児休暇を取ったことがある従業員を調査した大学の先生
がいらしゃいまして、育児休暇を3ヶ月取得した男性などのですね。女性に比べれば短い期間の
ことが多いんですが、育児休業を取ったことのある男性は子育てが楽しくて、子供に会いたくて
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早く帰りたいから、残業しないで、決まった仕事を定時内で終わして帰るようになる。というデ
ータがあるそうです。そうすると企業側にとっては必要のない残業代をカットできるというメリ
ットもあるので、是非、取れるような職場環境になればいいなと思います。
それから家事や育児の経験というのは、さっき挙げたような、直接いかせる仕事があるという
ことの他に、いろんなことがらを、たとえば料理をしながら泣いてる子供をあやして、洗濯しな
がらと、いろんなことを同時進行で優先順位をつけて捌ける能力にもなってくると思うんです。
こういう能力というのは多くの職業で必要とされることだと思うので、そういう経験が無駄にな
らないんだと多くの女性に思ってもらえるような社会になればいいと思います。
私自身、人生無駄になることはないと実感しています。さっき経歴で紹介していただいたよう
に、私は山形大学理学部の出身でして、卒業論文では新庄市の雪の酸性度の研究をしていたんで
す。酸性の物質が雪の中をどういうふうに移動していくのかというような研究をしていて、それ
が、就職しようと思ったら、ちょうど2000年の年が就職氷河期と呼ばれていたんですが、私
はその2年前に就職した年代ですが、当時第2次ベビーブームの方々が大学浪人などで私たちの
世代にスライドしてきていて当人数が多い時代ではあったんですけど、今のように男女共同参画
という意識はあまりなかったせいか、環境系の企業に就職しようとして資料請求の電話を会社に
かけたら、
「あなたが受けるの?うちは女性の総合職採らないから、あなたが受けるのなら資料代
もったいないから送りません」とか女性を採らないというので会社訪問も受け付けてもらえない
こともありました。たまたま、殆どが男性の職場を受けようとしたのもあったと思うのですが。
それで就職がなかなか決まらなくて、就職浪人しようかどうしようか、という時にちょうど大学
の先生から「新聞記者だったらいろんな分野を取材するから、もしかしたらその環境とか、地球
のこととか、勉強したことが役に立つんじゃないか」とアドバイスされて、急きょ新聞社を受け
ることにしました。ちょうど新庄の雪の研究もしていましたし、地元に就職できればいいなと思
ってましたので、山形新聞社を受けたらたまたま受かって、今に至っています。入社してみたら、
新聞記者は、経済学部や政治学部、文学部を卒業した人がほとんどで、理系の私なんかスタート
ラインは知識が全くない状況ですけれど、今長くやってきて、理学論文の書き方と新聞記事の書
き方がすごく似ていることにだんだんと気付いてきました。新聞記事はリードと呼ばれる一番最
初の段落に一番大事なことが書いてあり、後から説明するというスタイルです。そのやり方が理
学論文も同じで、うちの学科は、大学時代にレポートをたくさん書かせる学科だったので、そう
いう経験が無駄にならなかったと思いました。また、数字ですとか事実で事柄を立証していくあ
たり、調べて裏付けしていくあたりも、理学論文と新聞記事の似ているところだと思いました。
いろんな経験がどこで生きてくるかわからないというのは、自分でも思っています。
新聞記者の仕事だと、女性であることや、子育ての経験が直接役立ったり、武器になったりす
ることはなかなかないと思うんですが、女性といってもそれぞれ性格も違いますし。私なんかは
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ずっと独身で結婚もしてないし子供も持たない状況ですし。ですが、それでも世の中の半分が女
性なので、その視点や、生活者の視点というのを持って取材できる記者がいるというのは、悪い
ことではないと思います。その視点の部分でいえば、非常にデリケートな問題としてセクハラの
問題も時々新聞紙上に登場しますが、女性の方がより現実的な問題として捉えることができるも
のなのかなと思っています。私自身も前にセクハラの記事を書いたことがあって、これは訪問介
護の現場でホームヘルパーの女性が、利用者やその家族からセクハラを受けているという記事で
した。これはヤフーのニュースにも紹介されて結構話題になったんですが、2005年の4月に
話を聞いて5月の掲載だったと思うんですけれど、介護関係に詳しい友人から最初「こういうセ
クハラがあるんだって」と聞いたところからの始まりでした。アンケート調査の結果があるとい
うので調べると、それは、天童市内に住むケアマネージャーの男性が山形県内のヘルパー400
人にアンケートをした結果、4割がセクハラを受けたことがあると回答したという結果でした。
これが1%であれば、ちょっとどうなのかなと思ったと思うんですが、400人の4割というの
は相当大きい数字なので、これはもしかして本当なんじゃないかと思って取材を始めました。取
材の際も、デリケートな問題なので取材拒否に遭うことが多くて、デリケートな問題だからこそ
たくさんの人から聞かなきゃいけないんですけど、事業所を電話帳で調べて電話をして「こうい
うアンケート結果があるんですが、お話を聞かせていただけませんか」と言うと「ふざけるな!!」
と電話を切られたりですとか、
「そんなことは絶対にありません。あなたは何を調べているんです
か!」と言うところもあって。そういう拒否反応を見て、ないところももちろんあると思うんで
すけれど、これは相当数あるんじゃないかなっという思いを強めながら、取材を進めました。相
当数取材をしたと思います。実際に身体を触られたことがあるという女性の方からもお話を聞く
ことができました。その内容というのが、卑猥な言葉を言われたとか、身体を触られたというこ
とに留まらなくて、おじいさんの介護に行っててその息子さんに押し倒されたり、そういう話も
ありました。最初は衝撃を受けましたし、まさかそんなことがあるなんてという気持ちもあった
んですが、いろんな人から話を聞くうちに「やっぱりこれはごく一部にしても、ある話なんじゃ
ないか」というふうに思いを固めていきました。会社の上の方とも、記事にするかしないかとい
うことで相当協議をしたんですが、結果記事にする決断をしました。女性が取材したことがわか
るように私の実名を出して、署名入りで連載を書きました。400人のうちの4割が「ある」と
答えたというアンケートを核にしながら、自分で取材したものを足して書きました。この時、私
は記者8年目で、29歳の時でした。新聞記者の仕事をしていると自分が書いた記事に対して批
判をされることが日常的にあるんですけれども、書き方だったり、何で書いたのか、ということ
だったり。そういうことに8年目である程度慣れている状況でも、この時に受けた反響というの
は大きいものでした。ヤフーに紹介されたこともあってヤフーの記事から、うちのホームページ
にきたアクセス数も相当数でしたし、電話も、手紙、FAXもたくさんいただきました。ものす
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ごく痛烈に批判された方もいらっしゃいました。
「私も同じヘルパーをしてるけど、そんなこと絶
対にありません。あなたは同じ女性として名誉を棄損するんですか」とか。一番辛かったのが、
実際にヘルパーさんに手伝いに来てもらっているという両手が不自由な高齢の男性からの電話で
した。
「私は今ヘルパーさんに受話器を持ってもらってあなたに電話しています。私がどうやって
セクハラできるというんですか。あなたが書いた記事のせいで、私達ヘルパーさんに来てもらっ
ている人みんなが、あいつらいやらしいこと言ってるとかしてるとか、そういう目で見られるん
ですよ」というふうに、30分近くにわたってお話をされました。それは自分でも今でも忘れら
れない電話です。凄く辛かったですし、当然自分の書いた記事で、その人のやったことではない
けれども、傷つけてしまったことは間違いないわけですよね、名誉なり存在なりを。自分の書い
た記事のせいで嫌な思いをさせてしまった人がいる。
「セクハラごときでなんだ!」というような
批判もありました。でも一方で、
「よく書いてくれた。私もそういう目に遭っていて、でも誰にも
言えなかった」「所長に相談したけど全然取り合ってくれなかった」
「そのぐらい減るもんじゃな
いだろうって言われて取り合ってくれなかった」
「我慢すればいいだろうって言われて辛かった」
という声もありました。
「たかがセクハラだろう」という人もいましたが、セクハラ自体人権的に
許されることではないというのも当然のことなんですが、そういうことに留まらず、介護ヘルパ
ーという重要な仕事の現場で、これから超高齢化社会に向かっていく中で、私も含め多くの人が
ヘルパーの方の助けを借りながら自分の住みなれた自宅で老いていく、老いていきたい中で、そ
の大事な仕事をする方の職場環境が劣悪なままでは、なり手がいなくなってしまったり、なって
もすぐ辞めてしまったりということが起きてしまっては、介護制度そのものにひびいてくるので
はないかと思いました。山形県はそういう在宅介護を受けている方がたくさんいらっしゃいます
ので、そういう状況にあってはいけないという気持ちがあって記事にしました。書いた記事でい
やな思いをさせてしまった方がたくさんいらっしゃると思うんですけれども、自分自身もものす
ごく批判されて辛い時期もありましたが、今振り返っても、あの記事はあの時に書いてよかった
と思っています。
それから取材活動の中で、女性たちが働く職場の理解について悩んでいる人の声を結構聞きま
す。今はずいぶん理解が進んで、理解のある方が多くなったと思うんですが、それでもまだ、職
場の中に「女性には残業を断られるから大事な仕事を任せられない」とか「子どもの病気で急に
休まれても困る」とかお話をされる方がいらっしゃるのですが、これは先程お話したように、男
性が女性に育児家事の負担をお願いしている状況があるからで、男女同じように、もし分け合っ
ていたら男性も同じように子供の病気の時に休んだりするので、女性だからということが言われ
なくなるんじゃないかと思っています。
職場に全く迷惑をかけないでしていくというのはなかなかできないことだと思うんですけれど、
みんなで協力し合っていけるような風潮になっていけばいいなと思いますし、少しずつそういう
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ふうになってきているとは思っています。父親が育児に関わることというのは、共働き世帯だけ
じゃなくて専業主婦世帯も含めて、何より子供に良い影響を与えるんじゃないかと思っています。
もちろんそれはお父さん自身にとってもすごくいいことだと思いますし。夫が月に60時間以上
残業する家庭では、妻が鬱になり子供が不登校になる可能性が高まるという話があります。これ
は山形新聞の今年の1月25日に掲載された記事で、不登校の高校生のカウンセリングをしてい
るKTC総合教育研究所の所長をしている森薫さんという方の原稿なのですが、ちょっと資料も
ないので読みたいと思います。
『不登校の経験を持つ高校生のカウンセリングをしていて感じるのは、父性の希薄さです。子育
てには、父性と母性のバランスが欠かせません。母性はすべてを包み込む優しさであり、父性は
母子密着を切断する役割を担います。
このバランスが崩れると、母と子で母子カプセルが形成されることになります。母親は、過保
護によって子供の手足を奪い、過干渉によって子供の頭を奪っていきます。子供は自分で考える
ことも行動することもできず、母親への依存なしには生きていけなくなってしまうのです。これ
はある意味で、ソフトな虐待と言えるのではないでしょうか。
母子依存に支配された男性は、たとえ縁があって結婚しても、自立した家庭を築くことができま
せん。母親への依存を断ち切れないため、妻の不信を買い、夫婦カプセルを形成することができ
ないのです。そうなると、妻は夫に向き合うことうをあきらめ、子供を母子カプセルに閉じ込め、
子供への依存度を高めることになってしまいます。新たな母子依存の出現です。この母子依存の
連鎖が、引きこもりやニート、結婚しない若者を生みだす元凶ともなっているのです。連鎖を断
ち切らない限り、日本の核家族の病理は拡大再生産されるでしょう。
それには「男は仕事、女は家事・育児」という性別分業論を乗り越え、夫がきちんと妻に向き
合い、妻を「孤育て」に追い込まないための努力が必要です。夫が月に60時間以上の残業をす
る家庭では、妻がうつになり、子供が不登校になる可能性がぐっと高まると言われています。
夫よ、家庭に帰れ!父性の復権なしに、日本を救う道はありません。
』
こういう「日本を支える子育て」という連載の中で書かれたものなんですけれども、本当に、
男性が早く帰れるように、各職場でも社会の働き方というのを変えていかなければならないんだ
ろうなと思っています。それでも今現実的に早く帰れなくて、子育てや家事に関われないお父さ
んがたくさんいらっしゃると思うんですが、そういうお父さんたちにもできることがあると思い
ます。それはお母さんを支えることだと思うんですね。先程のフランス人男性の「ありがとう」
というのもそうだと思うんですけれども、お母さんたちが日々、どんな気持ちで子育てをしてい
るのかを伝える、すてきなエッセイがあるので、これも資料にないですが、朗読したいと思いま
す。これは今年3月の先程紹介した「山形わいわい子育て」に掲載したものです。全国のエッセ
イコンクールで、朝日町の伊藤由佳さんという32歳のお母さんが、5名の最優秀賞の中の一人
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に選ばれたエッセイです。紹介します。
『まだ長男が3歳、次男が1歳だったある日。私は幼い二人を連れて、食堂で食事をとっていた。
店内はお昼のピークを過ぎ、人がまばらになった頃。私は食べ終えて席を立ち始めた長男に声を
かけつつ、次男に食事を与えていた。おとなしくしていない長男と、なかなか食べ終わらない次
男。子ども達にかける私の声に、イライラが溶け始めていた。
その時隣のテーブルを片付けていた店員のおばちゃんが声をかけてきた。「子どもさん、いく
つ?」
「3歳と1歳です。
」「かわいいねえ。」
「ありがとうございます。
」子供たちを褒めてもらっ
たのが嬉しくて、私も思わず笑顔がこぼれた。イライラした気持ちが、ふっと緩んだ。そんな私
に、おばちゃんはさらに声をかけてくれた。
「お母さん。若いのに頑張って子育てして、エライね。」
次の瞬間、私は一瞬何が起こったのかわからなかった。笑顔のおばちゃんは、子ども達ではなく
て私の頭を撫でたのだ。よしよし、とでもいうように優しく。
「いえいえ」謙遜して答えようと思
ったのに、予想外の出来事に言葉が出なかった。かわりに、私の目からはポロポロと涙がこぼれ
た。母親としての無駄な気負いが解けて流れて、ただただ温かい気持ちに包まれるようだった。
おばちゃんはうんうんと頷きながら「お母さん、頑張ってね。
」と言い残し、自分の仕事に戻っ
ていった。
考えてみたら、母親としての自分が褒められたのは、これが初めてだった。どんなに若くても
新米でも、
「母親」なんでもできて普通なのだ。幼い子供を騒がせないのは、母親として当たり前。
逆に子どもが騒げば、母親が悪いと責められる。私は、いつ責められるのではないかと気を張っ
て、疲れてイライラばかりしていた。そんな私を責めずに受け止めてくれたおばちゃんの優しさ
が、嬉しかった。
あれから、私はあの時の「よしよし」に支えられている。母親として自信を失くしそうな時、
イライラしてしまう時、私はおばちゃんを思い出す。思い出の中のおばちゃんは、今も温かくて、
思い出すだけで、また頑張れる気持になるのだ。
お母さん達は、みんな頑張っている。皆がしていることだけど、みんな立派だ。世の中がもっ
と、頑張っているお母さん達をほめてあげるようになったらいいと思う。お母さん達に褒め言葉
をかけてくれる人が増えたら、幸せなお母さんが増えると思うから。そして幸せなお母さんから
は、幸せな子どもが育ってくれるんじゃないかと思うから。
』
こういうエッセイがあったんですけれども、本当に、他人を褒めるということはなかなか難し
いことだと思うんですが、こんなふうに気を張り詰めて子育てしているお母さん達を、娘さんで
もいいですし、直接褒めるのが照れるという時は子どもさんを褒めるのも、お母さん達すごく喜
ぶので、是非、褒めてあげたり、頑張ってるねというふうに声をかけてもらえたらなと思います。
介護も同じだと思うんですけれど、仕事だと頑張ったら評価されることも多いと思うんですが、
なかなか家事・育児・介護というのは、やって当たり前というふうに言われるところがあって、
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是非それを、家庭の中にいる人であれば余計に、家族以外に褒めてくれる人がいないと思うので、
褒めてもらいたいなと思います。そういうふうにして、お互いに尊敬し合うというのが、本当の
意味での男女共同参画なのではないかなと感じています。この食堂のおばちゃんのような「よし
よし」の輪、是非広げてもらいたいと思います。
最後に、せっかく皆さんに読んで頂いたので、新聞の活用方法というのを、先にお配りした資
料の一番最後の方に、資料⑬ということで付けてあるので、紹介したいと思います。
新聞は右肩下がりなんて言う人もいますが、私自身は新聞がなくなることはないと思っていま
す。特に今、電子書籍などがありますけれど、紙という媒体が消えることっていうのは、おそら
くないだろうなと思っています。新聞の可能性はたくさんあると思います。その中で皆さんは新
聞を読んでらっしゃる方々だと思うんですが、ご存知の方も多いと思うんですけれど、いくつか
ポイントを紹介したいと思います。
新聞がいかに便利かという宣伝なんですけれど、まず最初に、一番大事なことが先頭のリード
と呼ばれる段落に凝縮されていることです。これ今日の一面ですね。更に大事なことは見出しに
取っている、忙しければ見出しだけパーっと流し読みをして、次にリード(一段落目)だけを読
んで、ニュースの概要をつかむことができます。リードは長くても200字ないと思いますので、
非常に短いものです。それから大事なニュースほど大きく扱うということです。ニュースの大き
さを見れば今日何が一番大事かということが分かります。これ、左側の「できたぞ地域のうた」
というのはうちの社物なので、こういう大きい扱いになってますが、これがなければ中国の話で
すよね。同じ行数でも扱いが違うのと大きさが違うというのがあるんです。同じ100行の原稿
でも小さく扱ってるのもありますし、大事なニュースは40行でも一番大きく扱います。扱いの
大きさでニュース価値を判断できるので、ここは、インターネットに載るニュースなどとは区別
できるところです。
それから、紙面が限られてて、毎日同じ分量の紙面しかありませんので、何が山形県にとって
大事なニュースなのかというのを選んで掲載している点です。また、ほかのメディアに比べて、
一つの事柄を継続して報じるという特徴があるものだと思います。さっきの大事なニュースを選
んで掲載しているという辺りが新聞の売りでもあると思うんですが、インターネットが普及して
世の中にはありとあらゆる情報があって、若い年代はネットがあるからいらないと言うんですけ
れど、そうすると自分の興味あることしか見なくなってしまうんですよね。世の中全般的なこと
というのが分からなくなってしまう傾向があると思いますので、そういう意味では、新聞という
のは、何を読むべき、知るべきニュースは何なのかを新聞社が選んでくれていますので、便利な
ツールだと思います。あと、入り組んでいる問題については解説的に報じることも特徴です。こ
の中国の6か国緊急会合の提案についても解説記事がついています。うちの新聞でも時々ニュー
ス解説というのを掲載していますし、選挙の記事なども解説記事を付けていますので、そういう
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のが新聞の一番の売りかなというふうに思います。あとは過去に遡って調べやすいという記録性
がありますので、この部分も非常に大きい売りかなと思っています。特に山形新聞は地域の話題
にかなり力を入れて掲載していますので、小さい記事でも載っています。他の新聞に載らないよ
うな記事でも載っていますので、また今後も山形新聞ご愛読いただければと思います。今日は長
い間お付き合いいただいてどうもありがとうございました。
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