批判的社会理論における労働と承認の問題

(様式 10)
学外研究制度成果報告書
2014 年
10 月 9 日
立命館大学長 殿
所属: 産業社会学部/研究科 職名:
教授
氏名: 日暮雅夫
印
このたび学外研究を終了しましたので、下記のとおり報告いたします。
研 究 課 題 批判的社会理論における労働と承認の問題
2013 年 8 月 3 日 ~ 2014
研究期間
年 9 月 25 日 (
滞在先国名
(複数ある場合は
全て記入してく
ださい)
①
②
研 究 日 程
概
要 ③
ヵ月間)
☑ 国外のみ
□ 国内のみ
□ 国内_ヵ月、国外_ヵ月
アメリカ合衆国
期
12
間
2013年
~
8月
2014 年
~
8 月 11 日
年
月 ~
滞在都市名
2014 年
ニューヨーク
8 月
2014 年 9 月
京都
25 日
年
月
④
年
月 ~
年
月
⑤
年
月 ~
年
月
⑥
年
月 ~
年
月
研究機関名
コロンビア大学哲学部
立命館大学
1.実施概要:研究方法や、上記研究日程に即して実施した概要を記述してください。
2013 年 9 月からコロンビア大学哲学部で、アクセル・ホネット教授の政治哲学講義と、大学院の承認論セミ
ナーに参加した。前者では、政治哲学の社会契約説、ドイツ・フランスの社会主義思想について研究した。承
認論セミナーでは、ヘーゲル哲学の主要研究文献について討議した。その他、オフィス・アワーの時にホネッ
ト教授を訪ね、ディスカッションを行った。講義は 12 月初旬に終了した。
2013 年 12 月 20 日から 2014 年 1 月 3 日までの一時帰国では、法政大学出版局とのハーバーマスの翻訳につい
ての打ち合わせ、研究の資料収集を行った。
2014 年 1 月中旬に、フレデリック・ニューハウザー教授と面談し、春学期に、教授のヘーゲル哲学講義に参
加した。さらに、3 月下旬からニュー・スクール・フォア・ソシアル・リサーチ・ユニヴァーシティ政治学部の
ナンシー・フレイザー教授のフェミニズムについてのセミナーに参加した。
5 月 15 日から 29 日までの一時帰国では、立命館大学の研究室・図書館で資料収集を行った。その後はコロン
ビア大学図書館で資料収集したり、自主的な研究会に参加した。
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(様式 10)
.研究成果の概要:研究成果について、概要を記入してください。
2013 年 9 月から 12 月まで、コロンビア大学哲学部で、アクセル・ホネット教授の政治哲学講義と大学院の承
認論セミナーに参加し、オフィス・アワーに尋ね討論を行った。ルソー、カント、ヘーゲル、さらにドイツ・フ
ランスの社会主義思想(プルードン、フーリエ、マルクス)が扱われていた。そこではリベラリズムの思想の展
開が検討された。つまり、ホッブズ、ロック、ルソーにおいて、近代における自立した個人を前提としてどのよ
うに社会が形成されるのか、が問題とされた。さらに、リベラリズムの枠組みがヘーゲル法哲学において、否定
的自由として解釈され、反省的自由、社会的自由に批判的に発展させられると論じられた。その後、リベラリズ
ムを批判するものとしてドイツ・フランスの社会主義思想が取り上げられ、プルードン、フーリエ、マルクスに
は、ホネット教授の承認論と関連させられた新しい解釈が試みられた。
ホネット教授の大学院の「政治/道徳理論における承認」セミナーにおいては、最近の著名なヘーゲル研究書
が検討された。ロバート・ブランダム『哲学における理性』では、ヘーゲルの精神概念が、コミュニケーション
的共同体と解釈されていた。ロバート・ピピン『ヘーゲルの実践哲学』では、精神と承認の関係が論じられてい
た。フレデリック・ニューハウザー『ヘーゲル社会理論の基礎』では、ヘーゲル法哲学が否定的自由・道徳的自
由・社会的自由の展開として把握された。
その講義・セミナーは 12 月初旬に終了した。
2013 年 12 月 20 日から 2014 年 1 月 3 日までの一時帰国では、法政大学出版局とのハーバーマスの翻訳につい
ての打ち合わせ、研究の資料収集を行った。
2014 年 1 月中旬に、フレデリック・ニューハウザー教授と面談し、1 月下旬から 5 月初旬の春学期に、教授の
ヘーゲル哲学講義に参加した。ニューハウザー教授の講義は、カント、フィヒテのドイツ観念論の基本的問題設
定から出発して、ヘーゲルの『精神現象学』、『法哲学』の主要な内容を検討するというものだった。『精神現
象学』論では、『現象学』が、意識が対象を把握しようとして長い遍歴を行う過程として説明された。「自己意
識」論では、自己意識の欲望は対象を撤廃しようとしてできないのに対して、真の欲望は対象が他の自己意識と
なった時にのみ満たされる、という構造が説明された。
『法哲学』論では、ヘーゲル自由論の基本的構造が明らかとされた。つまり、ヘーゲルは自由を、形式的な法
的自由、あるいは内面的な道徳的自由としてのみ捉えるのではなく、社会的「制度」において具体的に展開され
たものとして捉えているというのである。この「制度」としての自由論は、ホネットとも共有されており、現代
的な自由論として受容しうるものである。ヘーゲルの制度としての自由は具体的に、家族、市民社会、国家にお
けるものであることが説明された。
さらに 3 月下旬からニュー・スクール・フォア・ソシアル・リサーチ・ユニヴァーシティ政治学部のナンシ
ー・フレイザー教授のフェミニズムについてのセミナー「フェミニズム哲学と『主人の道具』」に参加した。こ
のセミナーは、支配階級の思想を「主人の道具」とするアンドレ・ローデの論説を導きの糸として、現在多様に
展開している諸思想を取り上げるというものだった。そこではリベラリズム、マルクス主義、精神分析、ポスト
植民地主義、実存主義、ポスト構造主義、批判理論等の諸理論が批判的に取り上げられた。またセミナー冒頭で、
フレーザーの最新の論文「マルクスの隠れ家の背後で」が配られ、彼女の最新の関心を知ることができた。
その他各種のカンファレンスに参加した。4 月にセイラ・ベンハビブのカンファレンス「『権利を持つ権利』
から『人道主義的理由の批判』へ」(ニュー・スクール・ユニヴァーシティ)、5 月に雑誌「コンスタレーショ
ンズ」のカンファレンス(ニュー・スクール・ユニヴァーシティ)、ニューヨーク市立大学の「レフトフォーラ
ム」に参加した。
5 月 15 日から 29 日までの一時帰国では、立命館大学の研究室・図書館で資料収集を行った。
その後はコロンビア大学図書館で資料収集し、自主的な研究会に参加した。なお、学外研究中の作業として、
共訳ハーバーマス『自然主義と宗教の間』(法政大学出版局)を入校し、「後書き」の一部を執筆し索引項目を
作った。これは 2014 年秋に出版予定である。
氏 名
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日暮雅夫