マリ(西アフリカ)での業務経験 工化54 原田 良志

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マリ(西アフリカ)での業務経験
化学系関東常盤会 原田 良志(工化54年卒) 行うもので、当社は必要な資機材について現地
調査・設計業務を担当した。新生児死亡の多く
は感染症が原因であり、その予防は保健行政の
重要な事業である。当該計画により予防接種の
普及に必要なワクチン用コールド・チェーンの
整備が行われた。
図1 マリ国の位置図
マリは今までに筆者が渡航した中で特に印象
深い国の一つである。この「マリ」と首都「バ
マコ」にはそれぞれこの土地、この国らしい意
味があるが想像できるだろうか。
2008 年4月に初めて訪れたマリはとてつも
写真1 予防接種を受ける新生児
なく暑かった。首都バマコに着いたその日から
住民の多くは農業に従事しており人口も農村
あまりの暑さでしばらくの間寝ることができな
部に散開していることから、予防接種の普及に
かった。朝方になると涼しいが、昼間の太陽光
は地域住民が予防接種を受けるためのアクセス
で蓄熱した大地と建物が夜間に放熱するので温
の改善が必須である。末端の保健医療施設であ
度はなかなか下がらない。では暑い時期を避け
る保健センターの助産師は、バイクで運転手と
た方がよいかというと、雨期にはマラリアを媒
ペアを組んで遠隔地の集落に向かい、予防接種
介する「蚊」も発生するので、訪問するなら乾
と妊産婦の検診を同時に行う。保健センターの
季(11∼4月)の方がよいらしい。5月に入る
運営は地域社会に任されており、住民は毎月い
と雨が降り始め、木々が芽吹いて気温も下がり
くらかの保険料を負担することで成り立ってい
しのぎやすくなる。5∼12 月とされる雨期の
る。冷蔵庫の駆動には通常電気を使うが農村部
集中豪雨は、ニジェール川を氾濫させ6ヵ月間
では電気が普及していないところが多いので、
にわたる洪水を引き起こす。マリの国土は日本
冷媒にアンモニアを使う灯油またはガス式の冷
の約3倍、人口は 1,390 万人で、地域住民の多
蔵庫(熱吸収型)を使う。燃料の入手が困難な
くは農業・遊牧に従事する。
遠隔地域には太陽光発電装置を装備した。現金
マリの渡航は我が国の協力による「予防接種
収入の乏しい地域住民にとり、燃料代がかから
体制整備計画」の計画策定に必要なデータ収集
ないのは大きな利点である。ソーラーパネルで
を行うことを目的とした。事業の内容はマリ国
起電した電気を蓄電して電源とする。蓄電池は
全域の予防接種体制の改善のための機材調達を
シール型で 13 年間(標準状態)の期待寿命が
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あるが、高温下では5年程度に短くなることと、
ン・ルージュ」がおすすめ。隣国セネガルが発
コストが割高であることが課題である。安価で
祥と言われるが、魚の出汁で炊き込んだ飯は味
軽量、長寿命の蓄電池の開発は、開発途上国の
わい深い。ルージュ(赤)の他にソースの色が
エネルギー事情の改善のためにも大いに必要と
薄いブラン(白)もあるが、どちらもおいしい。
されている。
一方、マリと言えば奇祭で知られるドゴン族
が有名になったが、他にもジェンネのモスク等
多くの観光資源がある。同モスクは粘土で作っ
ているので雨水で削られた部分を定期的に修復
する必要がある。そのための足場なのか、梁が
建物から突き出ており独特な威容を形作る。
写真4 チャブジェン・ルージュ
マリでは 1960 年代から気候変動により、雨
期が短くなり乾燥が進んでいる。そのために水
を多く使う稲作から乾燥に強いミレット(雑穀)
に転換せざるをえないという。さらに近年では
ニジェール川の水量不足により伝統的な内水面
魚業の魚獲高が従来の半分にまで落ち込むな
写真2 ジェンネのモスク(世界遺産)
ど、渇水が深刻な影響を与えている。砂漠化し
マリで地方を訪問すると必ず供されるのが緑
た大地に風が吹いて砂嵐になることもあり、施
茶である。小さなガラスカップに炭で沸かした
設の屋内に砂塵が堆積していた。
お茶を注ぎ、たっぷり砂糖を入れて回し飲みを
する。カラカラに乾いた風土には、煮出した緑
茶の苦みと砂糖の甘さがなぜかよく合う。
写真5 ニジェール川と川船
さて冒頭の話に戻ると現地のバンバラ語でマ
リは「かば」、バマコは「わに」の意味である。
首都近辺では見かけないが、トゥンブクトゥー
にはゾウやワニのような野生動物が生息してい
写真3 伝統的な建物の外観(ジェンネ)
るらしい。今このあたりはサバンナで乾燥して
マリの「食」では、川魚カピタンに野菜と米
いるが、先史時代には密林のジャングルであっ
を濃厚なソースで炊き込んだ料理、
「チャブジェ
たのだろうかと当時を想像するのも楽しい。
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