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ISSN 0288-8793
第
38 号
2002 . 1
テクニカルレポート
Hitachi Chemical Technical Report
■ Photec RY-3219のファインパターン形成性
Photec RY-3200シリーズは,半導体パッケージ基板の回
路形成用に開発されたものであり,種々のライン/スペー
ス,めっき厚に対応するため,7種類の膜厚から構成され
ている。表紙の写真は,Photec RY-3219を用い,無電解銅
粗化基板上にパターンを形成したものである。
上段:ライン/スペース=20/20
(µm),
レジストはく離後の銅めっきパターン
,
中段:ライン/スペース=8/8
(µm)
現像後のレジストパターン
下段:ライン/スペース=10/10
(µm),
レジストはく離後の銅めっきパターン
テクニカルレポート
第 38 号
2002年1月
巻頭言
ナノテクノロジーについて想うこと ──────────────────────────────────────── 5
田中一義
総 説
表面保護用粘着フィルムの製品動向 ──────────────────────────────────────── 7
松岡 寛
論 文
反射型カラーLCD用反射下地フィルム材料 ──────────────────────────────────── 15
鶴岡恭生・嶋崎俊勝・吉田 健
バックボード用光ファイバ配線板 ──────────────────────────────────────── 19
有家茂晴・河添 宏・高橋 淳
半導体パッケージ用感光性フィルム フォテックRY-3200シリーズ ────────────────────────── 23
市川立也・木村伯世・小澤恭子・高野真次
低ウェハ応力i線対応感光性ポリイミド ───────────────────────────────────── 27
佐々木顕浩・宮坂昌宏・廣 昌彦
製品紹介 ──────────────────────────────────────────────────── 31∼34
低複屈折光学用樹脂オプトレッツシリーズ
光学部材用ハイクリア接着シート DA-1000
リチウムイオン電池負極材
レーザビルドアップ用プリプレグ
COF/TAB用絶縁ペースト SN-9000
半導体パッケージ用感光性液状ソルダマスク SR7101G
3
Contents
Commentary ──────────────────────────────────────────────────── 5
Kazuyoshi Tanaka
Trend in Pressure Sensitive Adhesive Film for Surface Protection ──────────────────────── 7
Hiroshi Matsuoka
Undercoat Film for Reflective LCDs ─────────────────────────────────────── 15
Yasuo Tsuruoka・Toshikatsu Shimazaki・Takeshi Yoshida
Discrete and Flexible Optical-Fiber-Wiring Board for Backplane ──────────────────────── 19
Shigeharu Arike・Hiroshi Kawazoe・Atsusi Takahashi
Photosensitive Dry Film“PhoTec RY-3200 Series”for Semiconductor Package Boards ─────────── 23
Tatsuya Ichikawa・Noriyo Kimura・Kyouko Ozawa・Shinji Takano
Low Wafer Stress i-line Definable Polyimide ─────────────────────────────────── 27
Akihiro Sasaki・Masahiro Miyasaka・Masahiko Hiro
Products Guide ─────────────────────────────────────────────── 31∼34
4
巻 頭 言
ナノテクノロジーに
ついて想うこと
昨今のナノテクノロジーに対する興味は,専門外の方々でもその言葉を
京都大学大学院工学研究科
分子工学専攻・ナノ工学高等研究院
ご存じかと思うほど高まっており,すでに社会的・政治的にもよく認知さ
れているようである。産業的に見れば,その背景の一つとしてあるものは,
20世紀後半に圧倒的な成功を収めたシリコン半導体に基づくエレクトロニ
クス産業技術が飽和点にさしかかり始めていることと思える。シリコン系
半導体の集積回路は0.05µmオーダーの加工まで達成できるようになったが,
おおむねこれは現在の技術の限界であり,例えばコンピュータをさらに角
砂糖程度のサイズまで落とすことはできないとみるのが自然である。これ
を目指すためのブレークスルーには現在の集積密度の1,000倍である1,000億
個/cm2程度の達成が必須であるとされるが,そのためにはデバイスサイズ
をもう3桁(けた)程度引き下げる必要がある。例えばこのための技術を
田中一義(たなかかずよし)Kazuyoshi Tanaka
担うのがナノテクノロジーであろうということで,期待されているわけで
ある。あるいはもっと単純に,金儲けのための「打出の小槌」と思われて
最終学歴:京都大学大学院工学研究科石油
化学専攻修了
学位:工学博士(京都大学)
職歴:
1979年 米国Energy Conversion Devices
社 Research Chemist
1981年 京都大学工学部助手「導電性有機
材料の電子物性に関する研究」
1988年 京都大学工学部助教授「フラーレ
ン,カーボンナノチューブ,非晶
質炭素など炭素機能材料の電子物
性とその応用に関する研究」
1996年 京都大学大学院工学研究科教授
「量子機能材料,分子ナノテクノ
ロジー,および環境関連化学物質
の反応理論」
専門:物理化学,炭素材料科学
著書(編集および分担執筆)
:
「光・電子機能有機材料ハンドブック」,
朝倉書店(1995)
。
「The Science and Technology of Carbon
Nanotubes」
,Elsevier Science(1999)
。
「カーボンナノチューブ(化学フロンテ
ィア2)
」
,化学同人(2001)
。
「白川英樹博士と導電性高分子(別冊化
学)
」
,化学同人(2001)
。
いるかも知れない。
しかしその一方で,ナノテクノロジーの真の姿やこれを工業化するため
の方策はあまりに茫洋としていると感じられることがよくあるのではない
だろうか。それはまさにその通りで,誤解を恐れずに申し上げるならば,
単にカーボンナノチューブやオリゴDNAを「合成」し,電子顕微鏡やSTM
(走査型トンネル顕微鏡)で「見る」だけでは,それはナノテクノロジーを
支えるものとしては重要であっても,決してそれだけで本筋のナノテクノ
ロジーにとって事足れりとなるわけではないからである。特に日本のナノ
テクノロジー研究は,カーボンナノチューブを用いた若干のバルク電子デ
バイスへの応用の試みはあるものの,その多くは「おおもとの構成分子を
作る」こと,それらを「見る」「さわる」「持ち上げる」「切る」などの段階
にあるとみられる。構成分子を集積して,本格的な意味におけるナノデバ
イスに持ち込んだ例はほとんど目にしない。すなわち,
「ナノテクノロジー」
というパッケージはまだないのである。
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
5
これは当然のことで,上記の研究者たち自身がどのようなナノデバイス
を作ればよいか,それにはどういう論理を展開すればよいかという,基本
もしくはスピリットをよく把握できる段階には至っていないからである。
単にナノサイズオーダーの物質を扱っていさえすれば,「ナノテクノロジー
をやっています」と言って研究費を稼げる時代はほどなく終わりを告げる
であろう。そのようなことはもともと化学者が行ってきたことであり,彼
らがオリゴマー,あるいはやや大きいサイズの分子(最近は超分子とも言
われる)を扱うのは当たり前のことだからである。真のナノテクノロジー
開発の仕事を引き受けることができるのは,分子の電子工学を扱う全く新
種の研究者であるかも知れない。
恐らくこのような研究者はナノテクノロジーに対するミッション感覚は
もちろんのこと,それ以前にナノサイエンスとでもいうべきものに徹底的
に精通していなければならないであろう。例えば,分子数個を素子として
考える場合,これまでのシリコンバルクにおける「電流」は数個の電子の
流れとして考えねばならず,ここではトンネル効果,バリスティック(弾
道)伝導,あるいはクーロン閉塞などの量子効果をあらわに考えた回路設
計が必要となる。コンピュータに話を限定すれば,現在の古典的論理ゲー
トではなく,量子論理ゲートに移行せねばならなくなる。一方,生物体か
らも多くのヒントを借りねばならないであろうし,そのために光合成,タ
ンパク合成や細胞分裂などにおける電子過程も知悉(ちしつ)していなけ
ればならないであろう。ナノサイエンスが担うのはこういうもろもろのこ
とであり,ナノテクノロジーと同時並行的,いやむしろ先んじてこの分野
を育成することこそが急務であると考えられる。米国のナノテクノロジー
研究では,このような研究戦略がすでにwell knownである,あるいは口に
しないほど当たり前として考えているふしがしばしば感じられる。我が国
としても単にナノテクノロジーという冠言葉に幻惑されて瑣末(さまつ)
末梢部分に研究資金を投入し,挙げ句には「ナノテクの正体見たり枯れ尾
花」という揶揄(やゆ)で終わらないように,その本質を見越した骨太の
研究戦略を立てることができればと切に願うものである。
6
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U.D.C.
678.6/.7-416-408.2:621.792.053
総 説
表面保護用粘着フィルムの
製品動向
Trend in Pressure Sensitive Adhesive Film for Surface
Protection
当社 複合材料事業部 松岡 寛 Hiroshi Matsuoka
表面保護用粘着フィルムは,製品加工時あるいは保管・搬送時の傷つき防止用とし
て使用され,歩留まり向上,製法の合理化などに欠かせぬ副資材である。当社では表
面保護フィルム“ヒタレックス”を上市しており,多分野で使用されている。
本報告では,ディスプレイ関連で使用される表面保護フィルムの製品動向について,
当社の製品を例に説明する。
Pressure Sensitive Adhesive (PSA) film is attached on various industrial products to
protect their surfaces from injury derived possible during their production, handling,
storage, and transportation. It is an important subsidiary material for improving the
processability and yield.
Hitachi Chemical's PSA film series, HITALEX, have been on the market since 1972,
and have been used in a variety of application fields.
In this paper, we will introduce our new PSA films which meet the recent and future
needs for the PSA films used in the ever developing display field.
〔1〕 緒 言
〔2〕 表面保護用粘着フィルム
粘着フィルム(テープ)には,身の回りでは事務用のセロ
図1に表面保護用粘着フィルムの構造を示す。大別すると
ハンテープ,梱包用クラフトテープや電気絶縁用ビニールテ
基材フィルムと粘着剤の2つになるが,さらに巻きほぐしを
ープ,あるいは絆創膏などがあり,工業分野でもマスキング
容易にするための基材背面の剥(はく)離処理層や,粘着剤
テープや接着テープ,両面テープ,ラベルあるいは表面保護
と基材フィルムの接着性を高めるための基材の表面処理層や
用フィルムなど多くの製品が上市さ
れている。
このなかで当社は,製品を製造す
る際の傷つき防止などの目的で使用
される表面保護用途の粘着フィルム
として,ヒタレックスを1972年に上
市した。
当初は鋼板,建材や銘板などの加
工および保管時の傷つき防止用が主
粘着剤
流であった。その後,めっき工程に
下塗剤
おけるマスクや半導体ウェハのダイ
表面処理
シング時の保持用テープなどの加工
基材フィルム
補助などを目的とした製品,あるい
は配線板や半導体を製造する工程で
幅:10∼2,000mm
長さ:100∼3,000m
剥離処理
使用される高機能フィルムを開発
し,上市してきている。
本総説では,特に高性能,高機能
が要求されるディスプレイ用粘着フ
図1 表面保護用粘着フィルムの構造 粘着剤と基材フィルムのほかにも数種類の層を持つ。
ィルムの最近の製品動向について報
Fig 1 Structure of PSA film for surface protection
PSA film is composed of several layers including a base film and an adhesive layer.
告する。
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7
総 説
下塗剤層からなる多層構造をしている。表面保護用粘着フィ
ルムに使用される主な構成材料を表1に示すが,これらの各
構成材料を組み合わせることで,多種多様な被着体およびそ
の使用目的に対応する設計が可能となる。
〔3〕 ディスプレイ分野での“ヒタレックス”粘着
フィルムの使用例
ディスプレイは,テレビ以外にもコンピュータや携帯電話
粘着フィルムに使用される粘着剤は接着剤の一種と定義さ
などの各種情報機器,ビデオカメラやデジタルカメラなどに
れている 1)。物質と物質が接着するには,物質間にvan der
おいて,機器と人間とのインタフェースとして使用され,市
Waals力などの分子間力が発生していることが必要である。
場は拡大を続けている。
そのためには,分子間距離が1∼5オングストロームまで接
従来から使用されているブラウン管(Cathode Ray Tube:
近しなければならない 2),3)。しかし,通常物質の表面は目視
以下,CRTと略す)や液晶(Liquid Crystal Display:以下,
では平滑に見えても分子レベルでは凹凸が大きく,2つの表
LCDと略す)のほか,最近ではプラズマディスプレイ
面を単に接触させても,分子間力が働くほど接近する部分は
(Plasma Display Panel:以下PDPと略す)が上市され,さら
極めてわずかである。そのため,隙間を埋める材料すなわち
には有機EL(Electroluminescence)やFED(Field Emission
接着剤が必要になる 。
Display)の応用製品の開発が進められている。これらの2005
4)
一見非常に平滑に見える2枚のガラス板を,単に重ねただ
年の市場予測を表2に示すが,総計で10兆円市場になる可能
けでは接着しないが,間に水が介在すると引きはがすことが
性がある 6)。特にフラットパネルディスプレイ(Flat Panel
容易でなくなる。これは,分子レベルでの凹凸を水が埋め,
Display:以下,FPDと略す)の主力製品であるLCDやPDPで
水を介在し,分子間力が働いているからである。
は年率20%程度の伸びが期待されている。
通常の接着剤は,液状で流動性が大きく,物質の表面形状
一方,国内ではFPDへの置き換えが始まり,減少する印象
に馴染みやすくしてある。ただし,そのままではその状態を
があるCRTも,中国,インド,アフリカなどの市場の立ち上
維持することが難しいので,熱や水分(湿気)あるいは光な
がりや,国内でも2台目以降のパーソナルテレビ需要から,
どを用いて固体に相変化させ,剥離に対する抵抗力を持たせ
拡大基調は維持されると推測される。CRTを構成する部品に
ている。
シャドーマスクがあるが,当社ではシャドーマスク製造時の
これに対して粘着剤は柔軟な固体(貯蔵弾性率:≦3.3×
5)
106dyne/cm2)
であり,軽度の圧力を加えるだけで容易に変
部材のキャリアおよびエッチング時のマスク用に使用される
ヒタレックスL-5000を上市している。
形して,分子間力が発生する距離まで接近する性質を持って
さらに今後大きな伸びが期待されるLCDは,パソコンや携
いる。さらに固体としてその形状を保持し続けるのに十分な
帯電話への採用が進んでいる。LCDには液晶本体の他に様々
強度を持っているので,通常の接着剤のように硬化させなく
な光学シートが用いられており,これらの搬送や製造工程で
ても,ただちに必要な接着強度を得ることができる。また通
表面保護フィルムが傷や汚染防止などのため使用される。
常の接着剤と比較すると,接着力(粘着力)が低いので剥離
当社では本用途の粘着フィルムを上市しており,特にLCD
できるため,マスキングテープや表面保護用粘着フィルムな
用プリズムシートの表面保護用粘着フィルムで高いシェアを
どの用途がある。
持っている。さらにこの技術を展開して,光学シートや構成
次章では特にディスプレイ分野への適用を意図して開発し
部品などの接合用接着シートの開発も進めている。
た当社製品で,具体的な例を説明する。
表1 主な構成材料 粘着フィルムは多種多様な材料の組み合わせで構成されている。
Table 1 Main component materials of PSA films
PSA film is composed of various forms and chemical sorts of materials.
材 料
部 位
特 長
天然ゴム
粘着特性良好
合成ゴム
天然ゴムより耐久性など良好
ゴム系
粘着剤
耐久性,耐熱性,透明性良好
アクリル系
PE,PP
安価,耐寒性,耐薬品性良好
その他
PVC代替など
オレフィン系
基材フィルム
PVC
伸び性,加工性良好
PET
高剛性,透明性,耐熱性良好
ポリイミド
高耐熱性
アルキル系
低汚染性
シリコーン系
剥離性良好
剥離処理剤
注)PE: polyethylene,PP: polypropylene,PVC: polyvinylchloride,PET: polyethylene telephthalate
8
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総 説
表2 世界のディスプレイ市場 年平均伸び率は約20%である。
Table 2 Worldwide market of display equipment
Annual market growth rate averages about 20%.
タイプ
2000年
2005年
伸び率
(%/年)
CRT
2.5兆円
2.8∼3兆円
3∼5
LCD
2∼2.2兆円
4.6∼5.8兆円
20∼30
PDPその他
0.2∼0.3兆円
0.5∼1.4兆円
15∼60
合計
4.5∼5兆円
8∼10兆円
15∼22
位相差板
液晶セル
ユニット
偏光板
ガラス板
液晶セル
シール材
プリズムシート
バックライト
ユニット
光拡散シート
冷陰極管
反射板
図2 LCDの概略図 多くの光学フィルムを使用している。
Fig 2 Conceptual formation of LCD
LCD includes various sorts of optical films.
LCDは1960年代に電卓の表示用として実用化がスタート
し,ノートPCおよびデスクトップPCの表示部,携帯電話,
剥離できること(粘着力が経時で上昇しないこと)である。
この2つの特性は背反するので,その両立が課題である。
カーナビから,さらには据え置きTV用にも使用されている。
当社ではすでに,表面粗さが算術平均粗さ(Ra)で50µm
LCDの構成を図2に示すが,表示精度と品質の向上のために,
を越える被着体用の粘着フィルムや,プラスチックの板に適
液晶の構造はDSM(Dynamic Scattering Mode)から,TN
した粘着フィルムを上市しているが,前者の場合は用済み後
(Twisted Nematic)を経てSTN(Super Twisted Nematic)
,さ
に剥離しようとすると,プリズムシートに無理な力がかかり
らにはTSTN(Triple Super Twisted Nematic)に変化し,駆
ひずみが発生する。また後者の場合は,使用中に粘着フィル
動方式はスタティック駆動からダイナミック駆動に,さらに
ムが部分的に浮いてしまう。
は同じダイナミック駆動でも単純マトリックス駆動からアク
ティブマトリックス駆動に変化した。LCDは図2に示すよう
に,偏光板やプリズムシート,光拡散シートなど多くの光学
シートから構成されており,当社のヒタレックス粘着フィル
ムは,プリズムシートの表面保護用として採用されてきてい
粘着フィルム
るが,さらに偏光板用の表面保護用粘着フィルムおよび感圧
型接着フィルムを開発し,上市した。
プリズムシート
(1)プリズムシート用ヒタレックスL-7300
プリズムシートは図3に示すように全面に凹凸があり,通
常の被着体と比較すると接触面積が非常に小さく,粘着フィ
ルムを張り付けにくい被着体の代表例である。したがって粘
図3 プリズムシートの形状 粘着フィルムの接触面積は小さい。
着フィルムに要求される特性は,①しっかりと張り付き,プ
Fig 3 Conceptual structure of prism sheet
Effective contact area of PSA film and the prism sheet is very small.
ロセス中剥離しない(浮かない)こと,②用済み後は容易に
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総 説
着体表面への汚染が極めて少なく,加工性,保護性能におい
一般に表面の凹凸の大きい被着体に対して粘着性を確保す
ても優れている。
るためには,粘着剤を柔軟で変形しやすくすればよい。しか
(2)ヒタレックスL-8000
し単純に粘着剤を柔軟にしても,液体のように瞬時に変形が
終了せずに張り付け後も継続的に濡れ広がり,接触面積が増
表面保護フィルムを使用する顧客では,フィルムを張り付
大するので粘着力が高くなる。つまり初期から十分な粘着力
けたまま被着体を検査する場合がある。ここで特に被着体が
を得ようとすると,経時的に粘着力が増大して用済み後の剥
光学用フィルムの場合には,表面保護フィルムにも透明性が
離が困難になる。そこで,張り付け時の圧力では容易に変形
良好で粘着剤や基材フィルム中に異物がないことが求められ
し,必要な粘着力を得た後には,粘着剤の変形が進みにくく
る。さらに,表面粗さが異なる未処理(グレア)タイプやマ
なるようにする必要がある。
ット処理(アンチグレア)タイプの光学用フィルムに対して,
次に粘着フィルムの浮きとは,加熱などに際して,基材フ
粘着力の差が小さいこと,張り付け後に加熱などの工程を経
ィルムに残留するひずみや粘着フィルムと被着体との熱膨張
ても粘着力の上昇が小さいこと,浮きが発生しないこと,な
量の差により剥離する現象である。ここで粘着剤は粘弾性体
どが求められる。
であるため,粘着力は剥離速度と剥離温度に依存する。前述
ヒタレックスL-8000ではまず透明性を確保するため,ほか
のひずみにより発生する力に対しては,非常に低速での剥離
と比較して光学特性が良好なアクリル系粘着剤を基本に,架
における粘着力を大きくすることで対策できる。これらの要
橋剤や基材フィルムの透明性も考慮して選定を行った。その
求物性を満たす粘着剤の組成および硬さと厚み,さらには基
結果,透明性(表3参照)はアクリル板なみに良好で,張り
材フィルムの硬さと厚みを最適に選定し,必要な粘着特性を
付けたままでも光学用フィルムの検査をすることが可能にな
得ることができた。
った。
次に被着体の表面粗さの影響が小さい粘着剤の開発手法に
また剥離後の被着体の表面に粘着剤の成分が残留する汚染
(のり残り)がないこと,光学シートに必要な切断,打ち抜
ついて述べる。一般に粘着力は被着体の表面粗さに依存し,
きなどの加工性を満たすこと,保護性能に優れていることな
図6に示すように被着体の表面粗さが大きくなると急激に粘
ども重要である。当社では粘着剤中の不純物の除去と,粘着
着力は小さくなる。そのため表面保護用粘着フィルムは,4
剤凝集力の最適化などにより改善を行い,ヒタレックスL-
∼5種類の粘着力グレードを用意して対応している。
この対策として粘着剤を柔軟にし,表面粗さの大きい被着
7300を開発した。
ヒタレックスL-7300はプリズムシートのような表面の凹凸
体の凹凸に対して十分に追従させれば,被着体の面粗さ依存
の大きい被着体にも良好に張り付き,かつ図4に示すように
性を小さくできる。ここで粘着剤を柔軟にするためには,ポ
張り付け後の粘着力の経時変化が小さいので,用済み後の剥
リマのガラス転移温度(Tg)を低くするか,あるいは凝(ぎ
離が容易である。また図5に示すように,低剥離速度域での
ょう)集力確保のための架橋の度合いを下げればよい。特に
粘着力を,従来のプラスチック板表面保護用粘着フィルムよ
架橋度合いの低減は効果が大きいが,逆に架橋が不十分にな
りも高くすることで,浮きの発生を防止している。さらに被
ると,のり残りや剥離性の悪化などの問題が発生する。
粘着力(mN/25mm)
150
100
50℃放置
室温(23℃)放置
50
0
0
5
10
15
処理時間(日)
図4 粘着力の経時変化(L-7300) 室温での上昇率は約10%と小さい。
Fig 4 Change in adhesion strength with the time elapsed after assembly (L-7300)
The increase at room temperature is as small as 10% even after 15 days.
10
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20
総 説
3.5
3.0
L-7300
粘着力(N/25mm)
2.5
2.0
1.5
1.0
従来品
0.5
0
0.1
1
10
100
剥離速度(m/min)
図5 粘着力の剥離速度依存性 従来品と比較し低速での粘着力を高くした。
Fig 5 Peeling-speed dependence of adhesion strength
L-7300 has much higher adhesion strength especially at the lower peeling-speed range.
表3 透明性 L-8000は良好な透明性を持つ。
Table 3 Transparency of L-8000
L-8000 has good transparency comparable to an acrylic polymer plate.
L-8000
L-7300
アクリル板
92
90
93
ヘイズ(%)
3
33
1
小←粘着力→大
項 目
可視光透過率(%)
小←表面粗さ→大
図6 粘着力の表面粗さ依存性 表面粗さが大きいと粘着力は小さくなる。
Fig 6 Surface roughness dependence of adhesion strength
Adhesion strength decreases as the surface is rougher.
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11
総 説
凝集力を確保できる柔軟な粘着剤を開発した。
一般にアクリルポリマは合成に使用するモノマの反応性に
差があり,共重合したポリマ中に均一にモノマが分散しな
L-8000の粘着特性を表4に示すが,表面粗さ依存性を小さ
い7)。そのため,架橋に関与する極性基の分散も不均一にな
くすることができた。また,経時的に粘着力が上昇しにくく
り,部分的に凝集力が低下する。そこで,のり残りを防止す
(図7)
,高温加熱による粘着力の上昇も小さい(図8)とい
う優れた剥離性を得ることができた。
るためには過剰に架橋する必要があるが,それでは硬い部分
ができて柔軟性が低下する。そこでヒタレックスL-8000では,
(3)ヒタレックスDA-1000
光学用途の表面保護フィルム用粘着剤を開発する一方で,
粘着剤の官能基を均一に分散させ,少量の架橋剤でも十分な
180
160
80℃放置
粘着力(mN/25mm)
140
65℃放置
120
室温(23℃)放置
100
80
60
40
20
0
0
5
10
15
20
25
30
35
処理時間(日)
図7 粘着力の経時変化(L-8000) 80℃でも上昇率は約50%である。
Fig 7 Change in adhesion strength with the elapsed after assembly (L-8000)
The increase even after 15 days at 80℃ is not more than 50%.
200
粘着力(mN/25mm)
150
100
50
0
0
50
100
150
200
処理温度(℃)
図8 粘着力の処理温度依存性(L-8000) 張り付け後10分では粘着力の温度依存性はほとんどない。
Fig 8 Characteristics of adhesion on treatment temperature
Adhesion is not depend on temperature 10 minuets after attached to application.
12
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
総 説
表4 未処理およびマット処理タイプの光学用フィルムに対する粘着力(L-8000) 表面粗さが異なってもほとんど
粘着力は変動しない。
Table 4 Adhesion strength of L-8000 to optical film with a flat or mat surface
Adhesion strength is independent of surface roughness.
粘着力(mN/25mm)
表面粗さ
(算術平均:Ra)
(µm)
オートクレーブ
処理
オートクレーブ
処理+加熱処理
備 考
初期
未処理タイプ
0.03
130
100
120
浮き,
のり残りなし
マット処理タイプ
0.3
110
120
150
浮き,
のり残りなし
被着体
その技術の応用として部材の接合用の感圧接着シートを開発
した。以下に特長を述べるが,光学フィルムや光ディスクの
(4)電磁波遮蔽(へい)フィルム
マルチメディア時代のテレビとしてPDPが注目をされてい
る。これは高輝度(200cd/m 2以上)で,高解像度の画質を,
張り合わせ用などの分野への展開を図っている。
より大型で薄くて,軽量なディスプレイで実現するという要
DA-1000Xの特長は,
①透明性が優れており(表5)
,紫外線領域でも高い光
求に対して,特に40∼60インチのサイズではPDPが最も量産
線透過率を有している(図9)ことから,次世代DVD用
性に適しているためである8)。
への応用が可能である。
しかしPDPは発光にプラズマ放電を利用しているため電磁
②各種の被着体に対し高い接着性を有している(表6)
波や近赤外線の発生量が大きい。電磁波に関してはVCCI(情
ことから,感圧接着剤として様々な応用が可能である。
報処理装置等電磁波障害自主規制)の放射電界強度規格を満
表5 透明性 DA-1000は良好な透明性を持つ。
Table 5 Transparency of DA-1000
DA-1000 has good transparency comparable to an acrylic polymer plate.
項 目
DA-1000X
L-7300
アクリル板
可視光透過率(%)
93
90
93
ヘイズ(%)
2
33
1
100
DA-1000
透過率(%T)
従来品
50
0
200
300
400
500
600
700
波長(nm)
図9 光線透過率 (DA-1000) 紫外線領域でも良好な透明性がある。
Fig 9 Light transmittance of DA-1000
DA-1000 dose not less its transparency even in the UV region.
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
13
総 説
表6 各種被着体に対する接着力(DA-1000) プラスチック,ガラス,
金属に対して良好な接着力を持つ。
Table 6 Adhesion strength of DA-1000 to various materials
DA-1000 has good adhesion to various plastics, glass, and metals.
項 目
DA-1000
180°ピール接着力
(N/25mm)
アクリル板
8.8
ガラス板
9.4
PC板
6.2
PET
7.0
SUS430BA
4.9
アルミ板
11.0
図1
1 電磁波遮蔽フィルムの拡大写真
導電性細線メッシュにより透明
性を確保している。
足する必要がある。家庭用テレビにPDPを使用するためには,
特に厳しい規格(クラスB)取得が要求されているが,現在
Fig 11 Magnified photograph of conductive-mesh film screen
Narrow line width allows for high light transmittance.
はPDPに破損防止などの目的で設置したフィルタ(前面板)
に電磁波遮蔽機能も持たせている。
当社ではこの電磁波遮蔽フィルムを上市している。図1
0に
PDPの概要を,図1
1にエッチングにより形成した銅のメッシ
ュ構造を示すが,本構造により高い電磁波遮蔽機能と高透明
性を両立させている9)∼17)。
〔4〕 結 言
本報ではディスプレイ関連で使用する粘着フィルムを中心
に説明したが,このほかにもIVH付き配線板のプレス時に使
用する,離型性とIVH部分の樹脂の封止性を兼ね備えたRSシ
リーズや,FPCスポットめっき時に使用するマスクフィルム
として,PVC代替基材フィルムを用いたFPシリーズ,また半
導体用途では,QFNやCSPなどのモールド時に使用する離型
用フィルムRMシリーズなどを上市した。
今後とも新分野への展開を進めるために,各種被着体に対
する粘着性の向上や,経時変化と汚染の低減,また基材フィ
PDP用
フィルタ
ルムに関しては,耐熱性や加工性の改善や環境対応の推進な
どを進め,広範な顧客ニーズに対応した製品を開発したい。
反射
防止
PDPパネル
モジュール
ガ
ラ
ス
参考文献
1 )JIS Z 0109
電磁波遮蔽
フィルム
2 )中尾,外:日立化成テクニカルレポート,1,53-58(1982)
3 )G.M.Barrow(訳者:藤代)
:物理化学,東京化学同人(1976)
4 )日本粘着テープ工業会:粘着ハンドブック(1985)
近赤外
吸収
5 )北崎:粘着剤と粘着加工の概要,接着の技術,15,1-6(1995)
6 )日経マイクロデバイス編:フラットパネルディスプレイ2001,日
経マイクロデバイス別冊,日経BP社
7 )P.J.Flory(訳者:岡,外)
:高分子(上)
(1977)
8 )登坂,外:日立化成テクニカルレポート,32,21-24(1999)
9 )米国特許 6,086, 979
10)米国特許 6,197, 408B1
11)米国特許 6,207, 266B1
12)特開平10-41682
13)特開平11-45676
図1
0 PDPの概要 パネルの前面に電磁波遮蔽フィルムをもつ。
Fig 10 Conceptual structure of PDP
PDP is equipped with EMI shielding film screen at the panel module front.
14
14)特開平11-45677
15)特開平11-45678
16)特開平11-233992
17)特開2000-323891
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
U.D.C.
666.162-408.2:[678.6/.7-419:535:361.2]:535.757.06
反射型カラーLCD用反射下地フィルム材料
Undercoat Film for Reflective LCDs
鶴岡恭生*
嶋崎俊勝*
Yasuo Tsuruoka
*
吉田 健
Toshikatsu Shimazaki
Takeshi Yoshida
反射型カラーLCDには,表面に微細な凹凸を設けた拡散反射板が内蔵される。この
拡散反射面に入射する外光を散乱反射させることによって,良好な表示を得る。主要
な課題は,光利用効率の向上と光干渉の防止である。材料面および製造工程面からこ
れらの課題を検討し,凹凸形状を設計・制御した反射下地フィルム材料を開発した。
このフィルム材料は,反射特性に優れる拡散反射板を均一安定に形成することが可能
である。さらに,ガラス基材に張り着けて反射金属膜を成膜する簡便な工程で,拡散
反射板を形成することができる。
Reflective color LCDs have a built-in diffuse reflecting substrate with a fine rugged
surface to randomly reflect and scatter the incident light in order to produce a clear picture. The main challenges in designing for such LCDs reflectors are how to improve
light reflecting efficiency and prevent light interference. We investigated these problems from the material and manufacturing-process point of view and developed new
undercoat film for reflectors. This film has an optimally designed and controlled uneven
surface that provides seamless and stable reflectors with excellent reflection properties.
Reflectors can be easily produced by mounting the film on LCD substrates and evaporating the metal layer on the film.
透過型LCDは背面に配置するバックライトを光源とするが,
〔1〕 緒 言
反射型LCDは,周囲の外光を反射させて表示を行う。バック
情報通信のインフラが整備され,携帯端末が急速に普及し
1
ライトを使用しないので,消費電力を約 ―
10 に節約できる。ま
てきた。ここに使用されるディスプレイには薄型,軽量,低
た,直射日光の下ではさらに鮮明な表示になり,携帯端末用
消費電力並びにフルカラーが求められている。これらの要求
のディスプレイに適する。電卓などで実用化されている反射
を満足するディスプレイに,反射型カラー液晶ディスプレイ
型モノクロLCDに対し,反射型カラーLCDではカラーフィル
がある(図1)
。液晶ディスプレイ(以下,LCDと略す)は,
2
タに約 ―
3 の光が吸収されてしまう。そこで,実用に耐えうる
自分では発光しないため,外部光源を利用して表示を行う。
明るさを得るには,外光を有効に反射させる構造が望まれる。
偏光板
位相差板
ガラス基材(前面)
液晶層
配向膜
透明電極
平坦化膜
カラーフィルタ
拡散反射板
反射金属膜
ガラス基材
(背面)
反射下地層
図1 反射型カラーLCDの構造 2枚のガラス基板を重ね合わせた構造を有し,拡散反射板は背面ガラス基材内側表面に配置される。
Fig. 1 Schematic structure of reflective color LCD
Reflective color LCD is mainly composed of a polarizer, a retardation film, a liquid crystal cell (LC cell), and a diffusing reflector on the
inner surface of the lower glass substrate for the LC cell.
*
当社 総合研究所
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
15
このためには,様々な方向から反射型カラーLCDに入射する
外光を,目にとどく有効角度に反射する反射板が必要になる。
このような反射板は光を拡散するのを目的とするので,拡散
反射板と呼ばれている。
〔3〕 光学特性
当社では,数種の反射下地層フィルム材料を用途別に開発
した。
本稿では,拡散反射板を製造するための,当社で開発した
本報ではそのうちの2種(タイプ①,タイプ②)について
反射下地フィルム材料について,その特性と利用法を述べ
紹介する。1つは,反射型カラーLCDの画素サイズや画面サ
る。
イズ,基材面取り方向に制限されることなく使用できるよう
にしたタイプ①である。
〔2〕 拡散反射板の原理と要求機能
もう一方は,反射特性を重視したタイプ②である。
拡散反射板は,その表面に微細な凹凸形状がある反射下地
拡散反射板の反射特性は,反射下地層の凹凸形状により定
層の上に,金属膜を重ねた構造になっている。表面に凹凸形
まる。したがって,反射下地層の凹凸形状の制御で,得られ
状を備えている理由は,身近にある鏡を用いて説明すると以
る拡散反射板の反射特性を変えることができる。図3に,タ
下のようになる。凹凸形状をさらに細分して様々な傾斜角度
イプ①の代表例とタイプ②の代表例の各反射特性を示す。い
を持つ微小な平面鏡の集合とする。ここで,傾斜角度がθの
ずれも光線入射角度が±20度の範囲で高いゲインが得られる。
1つの微小な鏡を考える。この鏡は,図2に示すとおり,目
線方向から2θの入射角度の光を目線に返す 1)。傾斜角度が
様々な微細な平面鏡が連続して配置されることにより,様々
20
散反射板に凹凸があるのは,様々な傾斜角度の鏡を連続して
得るためである。このことは,拡散反射板の凹凸形状を効率
よく並べ,かつその傾斜角度分布を最適化することにより,
外光を効率よく目線方向に反射することが可能になることを
示唆する。
視観者
ゲイン(反射光量/白色板反射光量)
な入射角度の光を目線方向に反射することが可能になる。拡
18
タイプ①
16
タイプ②
14
12
10
8
6
4
2
外光
0
0
5
10
15
20
25
30
光線入射角度(度)
液晶セル内
屈折率 n=1.5
2θ
図3 反射下地フィルム材料のタイプ①,タイプ②による拡散反射
板の反射特性 各タイプとも代表例である。反射特性の微調整を反射下地フ
ィルム材料で行える。
Fig. 3 Reflection characteristics of two types of diffusing reflectors
Both are typical examples.The reflection characteristics of both diffusing
reflectors can be finely tuned by changing the random rough shapes of undercoat film.
θ
図2 液晶素子内の光線挙動と拡散反射板の傾斜角度の関係 LCD素
子の各部材は屈折率が約1.5なので,入射光が大気との界面で屈折を生じる。
Fig. 2 Behavior of incident light depending on the slope angle distribution in
the diffusing reflector in LCD
Because the material in LCD has a refractive index (n) of 1.5, the incident
light is refracted at the interface between the material and the air (n=1).
また,モアレや分光の対策として,タイプ①ではランダム
な凹凸形状にした。タイプ②では反射型カラーLCDの画素サ
イズに合わせ凹凸形状を設計することで対策した。
〔4〕 反射下地フィルム材料の構造
携帯端末の使用条件では,±30度の範囲から反射型カラー
反射下地フィルム材料の構造を図4に示す。ベースフィル
LCDに入射する外光が多い。一方,にじみのない表示を得る
ム,3.5µmの反射下地層と保護フィルムを積層した,3層構造
ために,拡散反射板は,図1に示すとおり反射型カラーLCD
のフィルムである3)。また,反射下地フィルム材料は,巻物
の背面ガラス基材の内側に形成される。外光の拡散反射板へ
の形態で作製されているため,保管・運搬が容易である。
の入射角度を考えると,反射型カラーLCD素子の屈折率が約
拡散反射板の反射特性を決定する凹凸形状は,ベースフィ
1.5である2)ことから図2に示すとおり,大気との界面で入射
ルムに備わっている。反射下地層の凹凸形状は,ベースフィ
光は屈折し,入射角と屈折率の“スネルの法則”から拡散反
ルムの凹凸形状を反転した形となってガラス基材に転写され
射板への入射角度2θは±20度の範囲に集まる。
る。したがって,ベースフィルムの凹凸形状を安定に作製す
以上のことから,拡散反射板の凹凸形状を決定する反射下
ることが,拡散反射板の反射特性を再現性よく安定に製造す
地層には,傾斜角度θに±10度の範囲を多く含む凹凸形状面
るための条件となる。ベースフィルムの凹凸形状を精度よく
が必要である。さらに,モアレや分光の各現象にも,その対
作るためには,凹凸形状に精密加工した円柱状の金型を押し
策が必要である。
当てる方法を用いている。この方法の開発により,標準偏差
0.4%で反射特性を再現する反射下地フィルム材料が可能にな
った。
16
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
ベースフィルム 55µm
反射下地層 3.5µm
保護フィルム
図4 反射下地フィルム材料の断面構造 反射下地フィルム材料は,巻物の形態で製造されている。
Fig. 4 Cross-section of undercoat film
The undercoat film is produced in a rolled-up form.
さらに,次項で述べる反射下地フィルム転写法による反射
(4)タイプ①の反射下地フィルム材料で製造される拡散反射
下地層製造工程と,反射型カラーLCD製造工程とを考慮して,
板は,微視的にランダムな直径2∼6µm,高さ0.1∼0.5µmの凹
以下で述べる4点の工夫を構造に加えてある。
凸形状をランダムに配置した。これにより,反射型カラー
(1)反射下地層には,i線(365nm)に主感度をもつネガ型
LCDの画素サイズや画面サイズ,ガラス基材面取り方向に制
レジストを使用し,露光で凹凸形状を固定できるように材料
限されることなく,多種多様な反射型カラーLCD製造に使用
を選択した。さらに,ベースフィルムを張り合わせた状態で
できるようになり,モアレや分光の発生が抑制できる特長を
露光を行えるように,ベースフィルムのi線透過率を97%に
得た。一方,タイプ②の反射下地フィルム材料では,反射型
設計した。つまり露光で凹凸形状を固定する間,ベースフィ
カラーLCDの画素サイズに合わせた凹凸形状を設計し,モア
ルムが張り合わされているので凹凸形状が安定し,再現性の
レや分光の発生を抑制した。このタイプもパターンの継ぎ目
よい反射板が得られる。
をなくしたので,ガラス基材との位置合わせを必要としな
(2)円柱状の金型を回転させながら,ベースフィルムに押し
当てて凹凸形状を連続して形成することで,パターンの継ぎ
目をなくし,製造される拡散反射板に連続した凹凸形状を得
い。
〔5〕 反射下地層製造プロセス
られるように設計した。これにより反射下地層製造工程でガ
ラス基材との位置合わせを必要としない特長を備えた。
反射下地フィルム材料による反射下地層形成方法について
述べる。図5に反射下地層形成方法の概略を示す。
(3)反射下地層は,反射型カラーLCDパネルの内部構成材料
反射下地フィルム材料の保護フィルムをはがし,ガラス基
となる。そのため,
カラーフィルタや透明電極,
配向膜などの
材にラミネータ(熱圧着ロール)で張り合わせる。次に露光
反射型カラーLCD製造工程でかかる温度履歴に耐える必要が
して凹凸形状を固定した後,ベースフィルムを剥
(はく)
離す
ある。また,市場では透過と反射の両方で使用したいという
る。最後に反射下地層の形成されたガラス基材を焼成する3)。
要求もある。そのためには,反射下地層の可視光線透過率が
この方法の特長は,ベースフィルムの凹凸面のレプリカ形状
高いことが好ましい。そこで,
反射下地層には高耐熱,
高可視
を一括して光硬化するので,凹凸形状が安定して得られる点
光透過性感光性ネガ型レジストを新規に開発して使用した。
にある。以下に各工程を順を追って述べる。
反射下地フィルム材料
1.5m/min
i線
120mJ/cm2
ベースフィルム
熱圧着ロール
120∼140℃
保護フィルム
ガラス基材
保護フィルム剥離
ラミネート
露光
ベースフィルム剥離,
焼成
図5 反射下地層製造プロセスの概略 湿式プロセスを使用せずに,熱圧着ロールを用いて,反射下地層をガラス基材上に転写できる。
Fig. 5 Manufacturing process of diffusing reflectors
The undercoat layer can be transferred on glass substrate by using a heat press roll.
日立化成テクニカルレポート No.38
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17
(1)ガラス基材への反射下地フィルム材料の張り合わせ
370mm×470mmのガラス基材に拡散反射板を作製し,光線
ガラス基材の表面を洗浄したのち,ラミネータを用いて保
入射角度25度で表示面各個所の反射光量を測定した。その結
護フィルムを剥離しながら反射下地フィルム材料を張り合わ
果,標準偏差は1.9%と小さかった。タイプ②も,同様に均一
す。ラミネート温度は120∼140℃,ラミネート速度は
性が高いことがわかった。図7にタイプ②のSEM写真像を示
1.5m/minである。その際,ガラス基材は50℃程度に予備加熱
す。
しておくことが望ましい。
(2)露 光
ガラス基材上に反射下地フィルム材料を張り合わせた状態
で,i線を120mJ/cm2照射して光硬化させる。照射は反射下
地フィルム側から,あるいはガラス基材側からのどちらから
でもよい。この工程の目的は,設計した凹凸形状の保持と焼
成時の熱だれの防止にある。その結果,反射特性の安定性と
再現性に優れた拡散反射板が得られる。露光機を使用しても
よいが,一般に使用されている安価な低圧水銀灯でも光硬化
できる。また,ガラス基材の必要な部分にだけ凹凸形状を作
りたいという場合には,フォトマスクを使用して部分的に硬
化し,現像することによって可能になる。
(3)ベースフィルムの剥離
ベースフィルムを3∼30m/minで剥離し,ガラス基材表面に
凹凸形状を露出させる。剥離に要する力は10N/mと小さく,
30µm
簡単にはがすことができる。
(4)焼 成
剥離後に260℃のオーブン中で30分焼成する。焼成は,ネ
図7 拡散反射板の凹凸形状・タイプ②
タイプ②はタイプ①よりも反
ガ型レジストの光硬化後のさらなる硬化により架橋密度を上
射特性を重視しており,図3のようにより広い光線入射角度まで対応できる。
げるのが目的である。
タイプ①と同様に表面凹凸形状には継ぎ目がない。
以上の4工程で,ガラス基材上に反射下地層を形成できる。
拡散反射板は,反射下地層上にアルミニウムや銀などの光反
射率の高い金属をスパッタ法や真空蒸着法などで成膜して得
る。
Fig. 7 Randomly controlled rugged shape on diffusing reflector ②
Compared with Type①, Type② has a good refractive gain over a wider
range of incident-light angles as shown in Figure 3. The surface of reflector
Type② is also seamlessly rugged.
〔6〕 面内均一性
反射下地フィルム材料を用いた拡散反射板の微細な凹凸形
状は,肉眼では均一に見える。図6は,タイプ①の凹凸形状
のSEM写真像である。面内の凹凸の形状や配置は,微視的に
はランダムで不均一あることがわかる。
〔7〕 結 言
新しく開発した,反射型カラーLCD用拡散反射板を製造す
るための反射下地フィルム材料は,以下の特長を有する。
(1)反射下地層にネガ型レジストを使用し,凹凸形状を備え
るベースフィルムを張り合わせたまま光硬化するので,反射
特性の安定性と再現性が高い。
(2)継ぎ目がないので,製造される拡散反射板に連続した凹
凸形状が得られ,ガラス基材とのアライメントを必要としな
い。
(3)ランダムな凹凸形状,あるいは反射型カラーLCDの画素
サイズに合わせた凹凸形状とすることで,光線入射角度±20
度の範囲の反射光量が大きく,かつモアレや分光にも対策し
た,良好な光学特性を得ることを可能にした。
(4)張り合わせ・露光(光硬化)
・ベースフィルムの剥離・
焼成の4工程で反射下地層の形成を行うことができるので,
量産が容易である。
現在,反射型カラーLCD分野のみならず,新たな市場で活
用されることを期待し,上下あるいは左右に異方性の反射特
性を備えた反射下地フィルム材料の開発を進めている。
30µm
参考文献
図6 拡散反射板の凹凸形状・タイプ①
表面の凹凸形状に継ぎ目のな
1)K.Tsuda, et al :“Design of reflector with rough surface for High
Reflective TFT-LCD (HR-TFT)”AM-LCD'98, pp.105-108(1998)
いランダム性を与えてある。
Fig. 6 Randomly controlled rugged shape on diffusing reflector ①
The surface of the reflector is randomly and seamlessly rugged.
2)超先端電子技術開発機構:
“超先端電子技術開発促進事業”成果報
告書,pp.539-551(1997)
3)日立化成:特開2000-047199
18
日立化成テクニカルレポート No.38
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U.D.C.
[621.315.616.96:539.557]:621.3.049-73:681.7.068.2
バックボード用光ファイバ配線板
Discrete and Flexible Optical-Fiber-Wiring Board for Backplane
有家茂晴*
河添 宏*
Shigeharu Arike
**
高橋 淳
Hiroshi Kawazoe
Atsusi Takahashi
情報通信分野における近年のデータ通信需要の増加により,通信用システムでは電
気信号に代わり,大容量のデータ転送が可能な光信号が用いられ始めた。その中でも,
光部品間またはドーターボード間を接続するバックボードとして,複数の光ファイバ
を平面状に配線したフレキシブル型光ファイバ配線板が北米で使用され始めている。
これに対し,当社では,マルチワイヤ配線板(MWB)製造技術で培ってきたワイ
ヤ配線技術を元に,光ファイバ配線板の配線設計および製法を検討してきた。この配
線は光ファイバを布線機で1本ずつシート状接着剤表面に配線するので,交差配線が
可能である。さらに減衰の小さい光通信用途の石英ファイバを用いているため,伝送
損失は光コネクタ込みで平均0.23dB,最大0.58dBと小さい。また,等長配線化パター
ンによって配線長差を±1mm/600mmに制御でき,市販の多心コネクタ付きファイバ
ーコードと同等レベルの特性を持つことを確認した。
In recent years, to cope with the increasing demand for high speed and large volume
data transfer in the communications system, the optical signal capable of transferring a
much greater volume of data has begun to prevail in place of the electrical signal. In
particular, discrete and flexible optical-fiber-wiring boards are now being introduced in
North America to the backplane which connects between optical devices or daughter
boards.
To meet such demand, Hitachi Chemical has been studying the design and production
of such optical-fiber-wiring boards on the basis of our production technology of the
MultiWire Board (MWB). This discrete wiring board enables cross-wiring since optical
fibers are laid separately on the surface of an adhesive sheet with a special wiring
machine. Using quartz fibers of lower attenuation, the transmission loss including the
optical connector, is as small as 0.23 dB on the average and 0.58 dB at the maximum.
The difference in the wiring length can be controlled within ±1 mm / 600 mm by using
equal-length wiring patterns, which is the same level as that of the commercial multifiber codes with connectors.
102
近年のデータ通信需要の飛躍的な増加に対し,電気信号に
よるこれまでの通信用システムではデータ処理速度に限界が
見え始めている。これらのシステムでは多量のデータが集中
するため,信号の高周波数化によるデータ転送速度の向上が
図られている。ところが,比較的長い距離に多量の信号を伝
送しなければならないドーターボードやバックボードでは,
高周波信号の減衰が大きく,通信用データ処理装置の能力を
制限する状況となっている(図1)
。このため,これらのシ
ステムの能力を向上することを目的に,隘(あい)路となる
配線板の電気信号の一部を,大容量データの転送に有利な光
データ伝送量(Gbit/s・回線)
〔1〕 緒 言
信号の波長≒信号伝送が可能な距離
光信号領域
10
光ファイバ
配線板
チップ
1
光ファイバケーブル
CSP, BGA
ドーター
ボード バック
MCM
ボード
10−1
10−2
電気信号領域
10−3 −3
10
信号に変更したシステムが開発されてきた。
10−2
10−1
1
ユ
ニ
ッ
ト
間
10
102
伝送距離(m)
一方,光信号を伝達する媒体としては光導波路と光ファイ
図1 データ伝送量と伝送距離の関係
膨大なデータを扱う通信システ
バがあるが,光導波路は10cm以上の距離を伝達する場合には
ムやサーバ,ルータなどでは能力アップが必要となり,比較的距離のある部分
減衰が大きく,また交差配線ができず,配線の自由度が少な
に高速データ転送可能な光信号を適用するため,光ファイバ配線板が使用され
い等の欠点がある(表1)
。このため,減衰の小さな光ファ
始めている。
イバを用いて人手による配線方法が採用されているが,光フ
Fig. 1 Relation between data transmission ability and the length of signal line
In the electronic systems such as a telecommunications system, routers, and
servers, which deal with a vast amount of data, discrete optical-fiber-wiring
boards began to be used for relatively long transmission lines to improve the
system performance.
ァイバ数が増加すると結線作業が煩雑で,かつ誤配線の可能
性があり,また配線自体が嵩(かさ)高くなる。
その解決策の1つとして,光ファイバをフレキシブル基板
*
当社 総合研究所 **当社 下館事業所
日立化成テクニカルレポート No.38
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19
表1 光ファイバと光導波路の比較 光ファイバは伝送損失が少ないた
表2 光ファイバ配線板の材料 光ファイバ,保護フィルムは用途に応じ
め比較的遠距離を結ぶ配線に適する。
て選択できる。
Table 1 Comparison between optical fibers and planer light wave circuits
The optical fiber is suitable for relatively long distance wiring because of its
low transmission loss.
Table 2 Materials for the discrete optical-fiber-wiring board
Optical fibers and protective films can be selected according to the end application.
項 目
信
号
線
の
特
徴
配
線
の
特
徴
光ファイバ
光導波路
分 類
材質と
断面形状
石英,プラスチック
(円形)
←コア
石英,プラスチック
(矩形)
←コア
伝送損失
石英<0.001dB/m
プラスチック<0.4dB/m
約10dB/m
形成法
接着剤上への配線
フォトリソグラフィー
分岐
困 難
容 易
交差
容 易
困 難
位置精度
101∼102µm
10−1∼100µm
内 容
シングル
モード
光ファイバ
(石英,φ250µm) マルチ
モード
保護フィルム
接着剤
コア径:φ10µm
屈折率分布:Step Index
コア径:φ50µm,62.5µm
屈折率分布:Graded Index
ポリイミド
難燃仕様,厚み:25,50,75µm
PET
厚み:50,75µm
粘着剤
厚み:250µm
非粘着剤
難燃仕様,厚み:200µm
を示す。配線は直線と円弧の組み合わせと交差配線が可能で
上に平面状に配線し,端部に光ファイバ用コネクタを取り付
ある。このため,信号分配用の交差配線が可能となる。また,
けた光ファイバ配線板が提案されている。この基板は,平面
等長配線パターンを追加することと,CAD上で配線長を容易
状で嵩張らず,かつ煩雑な配線結線作業と誤配線を回避でき
に算出できるため,等長配線設計が容易であり,作製した基
る特長を持っており,IT産業の先進地域である北米ではバッ
板は配線長差を実測値ベースで±1mm/600mmに制御できた。
クボードとして使用されつつある 1),2)。本報告では,当社で
さらに,光ファイバ端部では市販の多心用光コネクタの配
20年余り生産してきたマルチワイヤ配線板3),4)の技術を生か
線ピッチ(250µm)に合わせた束線状の配線が可能であり,
し,数値制御
(NC)
方式で動作し,超音波と荷重を併用する布
取り付けが容易となる。
線機を用いて光ファイバを配線した基板を紹介する5)。
〔2〕 光ファイバ配線板の概要
光ファイバ配線板の構造を図2に示す。まず接着剤付きの
ベースフィルムに光ファイバを布線機で固定し,その上にカ
バーフィルムをかぶせる。次に光ファイバ端部を露出させ,
用途に応じた光コネクタを取り付ける。相手側のコネクタと
接続しやすいように,基板は柔軟なフレキシブル型としてい
る。
カバーフィルム
(保護フィルム)
光ファイバ
接着剤
図3 光ファイバ配線板の外観 光ファイバは平面に固定され,端部には
端末部分
無処理または
コネクタ付き
図2 光ファイバ配線板の構造
市販コネクタの取り付けが可能。
ベースフィルム(保護フィルム)
導波路とは異なり交差配線が可能であ
Fig. 3 Appearance of the discrete optical-fiber-wiring board
Optical fibers are fixed on a flat plane, and commercially available connectors
are fitted to the terminals.
る。
Fig. 2 Structure of the discrete optical-fiber-wiring board
Cross-wiring is possible for this board, which is different from the planer light
wave guide.
〔3〕 光ファイバの布線技術
図4に光ファイバ配線板用布線機の写真を示す。布線機の
平面方向の動作は数値制御されており,基板を固定するテー
表2に使用材料を示す。光ファイバは外径が250µmのもの
ブルはX方向,ヘッドはY方向に動作する。また,光ファイ
であれば配線が可能であり,損失が小さく,通信分野で一般
バの配線方向に合わせてZ軸を中心にヘッドを回転させるこ
的に使用される仕様の石英製ファイバや,市販の各種光コネ
とで円弧配線が可能となる。
クタを利用できる。保護フィルムとなるベースおよびカバー
図5に布線の原理を示す。光ファイバは,布線ヘッドと配
フィルムは,難燃性を考慮してポリイミドを使用しているが,
線される基板の相対速度に応じて布線機のヘッドから送り出
ポリエステル(PET)も適用可能である。なお,現行品は接
され,ファイバ固定治具で接着剤に固定される。このファイ
着剤に粘着性のものを用いているが,基板端部に粘着剤が残
バ固定治具には荷重と超音波振動が加えられるため,粘着剤
るため,非粘着性で難燃性のものを新たに開発している。
のほかに非粘着性の材料にも光ファイバを固定することが可
図3にモデルパターンで作製した光ファイバ配線板の外観
20
能となる。また,ファイバ固定治具の先端を特殊な形状に加
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
工することで,隙間のない束線状に光ファイバを配線できる。
非粘着性の材料にも光
ファイバを接着可能
超音波振動
と荷重
図6は布線した光ファイバの束線の交差部分であり,隣接し
ている光ファイバには外観上の損傷は見られなかった。
ファイバ固定治具
スタート
地点
進行方向
ファイバカッター
交差点
光ファイバ
接着材
基材
ファイバ固定治具
特殊加工の治具で,ファイバ直径と
ほぼ同じピッチ
(250µm)
に光ファイ
バを配線可能
図4 光ファイバを布線中の専用布線機
布線機の動作は数値制御であ
り,円弧部分において布線機ヘッドは布線の方向に合わせて回転する。
Fig. 4 Specially designed wiring machine head for optical fibers
The wiring machine is numerically controlled. Its wiring head turns at arc
position according to the designed wiring pattern.
〔4〕 光伝送特性
図5 布線の原理と束線配線のための改良点 先端部分を特殊加工した
ファイバ固定治具には超音波振動と荷重がかけられ,光ファイバを接着剤表面
に固定させる。
Fig. 5 Principle of wiring and the refinement for 250µm pitch wiring
Ultrasonic vibration and load are applied to the fiber fixing device having a
special shape. Optical fibers are fixed on the adhesive surface.
図8には各種端末処理の方法と特徴を示す。それぞれに長
次に,光ファイバ配線板の重要な特性の1つである伝送損
所と短所があるが,大量に作製する場合は2番目の端面研磨
失を測定した。図7には2種類の光ファイバについて,曲げ
法が好ましい。この方法を用いて,図3に示したモデルパタ
半径に対する半円あたりの伝送損失を調べた結果を示す。半
ーンの光ファイバ配線板に多心の光コネクタを取り付け,光
径10mm未満では,伝送損失が小さいはずのシングルモード
コネクタを含めた損失(挿入損失)を調べた(図9)
。コネ
の方がマルチモードより伝送損失が大きい。これは,シング
クタは市販の多心MTコネクタであり,250µmピッチで4心お
ルモードはコアと屈折率の異なるクラッドとの界面での全反
よび12心の2種を用いたが,12心コネクタの平均の挿入損失
射でコア内部に光を閉じ込めているが,曲率半径が小さいと
(0.34dB)は4心コネクタ(0.16dB)より大きく,最大値は
全反射せずにクラッドへ光が漏れるためと推定している。な
0.58dBであった。測定した光ファイバ配線板は,曲率半径
お,半径が15mm以上であれば損失はほとんどなく,いずれ
20mmの設定であるため伝送損失は0.1dB程度である。そこで,
の光ファイバも実用上無視できる伝送損失(0.1dB以下)と
図9の測定値のばらつきは光コネクタに起因すると考えら
なることを確認した。
れ,その主な要因は光ファイバの位置決め精度と固定するコ
光ファイバ:外径φ250µm,クラッド径:125µm,シングルモードファイバ(コア径:9.5µm at 1.3µm)
図6 250µmピッチ配線交差部と分岐配線の光ファイバ 束線状に布線された光ファイバの交差点部分においても損傷は見られない。
Fig. 6 Crossing and arc pattern of 250µm pitch as wired
The surface of the optical fibers has no damage at the crossing points of 250µm pitch parallel wiring.
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
21
ネクタの穴加工精度であると推定している。なお,市販の多
25
4心MTコネクタ
(11個で平均0.16dB,最大0.40dB)
心コネクタ付きファイバコードの保証値(0.7dB以内)を満
足しているため,実用上は問題のないレベルであることを確
20
12心MTコネクタ
(3個で平均0.34dB,
最大0.58dB)
度 数
認できた。
10
10
半円当たりの伝送損失(dB/turn)
15
測定波長:1.31µm
光ファイバは
シングルモード
曲げ半径
シングルモード
5
半円パターン
1
0
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
12心MTコネクタ
挿入損失(dB)
マルチモード
図9 多心コネクタ付き光ファイバ配線板の挿入損失
0.1
0.01
光ファイバの
接続部の損失
(0.04−0.08dB)
5
10
15
20
25
光ファイバの曲げ半径(mm)
多心MTコネク
タを取り付けた光ファイバ配線板(配線数:80本)の挿入損失は平均で
0.23dB,最大で0.58dBと小さい。
Fig. 9 Insertion loss of optical fiber boards with multiconductor connectors
The insertion loss of optical fiber boards (number of wirings : 80) fitted with
14 MT connectors is as small as 0.23 dB on the average and 0.58dB at the
maximum.
図7 配線パターンと伝送損失の関係 半径が15mm以上では約0.1dBと
実用上無視できるレベルである。
Fig. 7 Relationship between the radius of semicircle fiber pattern and the
transmission loss
Transmission loss is negligible for the practical use when the curvature
radius of the optical fiber is 15mm or more.
〔5〕 結 言
電気信号に代わり大容量データ転送が可能な光信号を対象
として,光ファイバを伝送路とする配線板を開発した。この
基板は,柔軟性のあるフィルムベースの構造で,伝送損失の
1. パッチコード融着法:品質保証済みのパッチコードコネクタを融着機で溶接
アーク放電
OFB
コネクタ付き
パッチコード
コネクタ
○コネクタ部は品質保証済み
○熟練技術が不要
×接続部分に別途補強材が必要
小ロットプロトタイプ
への適用
小さな光通信用光ファイバをNC駆動の布線機で平面状に配線
し,ファイバ端部には市販の光コネクタの取り付けが可能で
ある。従来の複数の光ファイバによる接続と比較して,結線
作業が容易で,誤配線を防ぐことができ,組み込まれる装置
の高密度化が可能となる。今後,進展が期待される情報通信
関連でのインフラ向けの装置用途への適用が期待できる。
2. 端面研磨法:ファイバをフェルール(帯金)に接着固定し,端面を研磨
○研磨治具の最適化により多数
個の一括作業が可能
×研磨用の専用治具と熟練技術
が必要
OFB
コネクタ
大ロット品への適用
参考文献
1)Jeff Montgomery : Optical backplanes show dynamic growth potential, Integrated Communications Design, Vol.1, pp. 27-28(1999)
2)Jennifer Sorosiak : Flexible Optical Circuits, Fiberoptic Product
News,10, pp. 45-47(1999)
3. その他:メカニカルスプライサなども可能
○取り付けが容易
×高価で嵩高い
3)
:日立化成テクニカルレポート,18,pp. 11-16(1992)
4)生井:絶縁被覆銅線を用いた高密度多層配線板における信号伝播
図8 光ファイバ配線板
(OFB)
の各種端末処理法と特徴
一般的な方
法でコネクタの接合が可能である。
Vol. 4,No.6,pp. 523-527(2001)
Fig. 8 Different types of terminal treatment and their features
Connectors can be fitted to fiber terminals by the conventional methods.
22
遅延時間の高精度制御技術設計,エレクトロニクス実装学会誌,
5)有家:光インターコネクション用光ファイバ配線板,PWBEXPO
専門技術セミナーテキストPWB-9,pp. 21-41(2001)
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
U.D.C.
774.021.5:621.3.049.774-758.3.002.34
半導体パッケージ用感光性フィルム フォテック RY-3200シリーズ
Photosensitive Dry Film“PhoTec RY-3200 Series”for Semiconductor Package Boards
市川立也* Tatsuya Ichikawa
小澤恭子* Kyouko Ozawa
木村伯世* Noriyo Kimura
高野真次* Shinji Takano
電子機器の小型化,軽量化・高機能化に伴い,半導体パッケージ基板(以下,PKG
基板と略す)の高密度化が急速に進んでいる。このPKG基板に対応するための回路形
成用感光性フィルム(以下,D/Fと略す) RY-3200シリーズを開発した。RY-3200シリー
ズは,7種類の感光層厚を設定し,
(1)
2層支持フィルムの使用によるレジストサイ
ドウォールのぎざつきの低減,
(2)
新規バインダポリマの使用による高密着性と低は
く離残り性の両立,
(3)
平滑保護フィルムの使用によるラミネート時のボイドの低減,
を実現しており,PKG基板の回路形成用として最適な材料である。
The circuits of semiconductor package boards (SCPB) are becoming finer and denser
as electronic devices are required to be smaller, lighter, and more multifunctional. We
have developed the RY-3200 series which can be applied to the formation of SCPB circuits. The RY-3200 series consist of seven types classified by the photosensitive layer
thickness to meet any possible requirement. They feature: (1) less indentation at the
resist sidewall edge by using a special two layer support film, (2) high adhesion with
less stripping residue by using a new binder polymer, and (3) less inclusion of voids during lamination by using a smoother cover film. The RY-3200 series will be very useful for
the formation of SCPB circuits.
め 5),Et後のL/S=30/30(µm)が確実に形成できずにショー
〔1〕 緒 言
トとなる。これを改善するためには感光層の膜厚を薄くする
近年,携帯電話やノート型パソコンなどの電子機器の小
型化,軽量化,高機能化に伴い,これらに搭載する半導体素
子も高集積化,高速化が要求されている。今後この傾向はい
っそう強まり,ITを駆使した機器に展開されることが予想さ
れる 1)∼3)。同時にBGA(Ball Grid Array)
,CSP(Chip Size
Package)などのPKG基板の高密度化も急速に進んでいる。
「2001年度版日本実装技術ロードマップ」4)によると2010年
必要があるが,20µmより薄くするとラミネートの際にボイ
ドが発生する。
本報では,上記の問題を解決したRY-3200シリーズを開発
したので,その開発経緯と特性について報告する。
〔2〕 RY-3200シリーズの開発
2.
1 感光層の膜厚
にはライン/スペース(以下,L/Sと略す)が15/15(µm)の
感光層の膜厚については,めっきの厚み,基板表面の凹凸
基板量産化が予想されている。これらのPKG基板の回路形成
などの点から種々の厚みの要求があるため,表1に示す7種
法としては,セミアディティブ(以下,SAと略す)法および
類の膜厚を設定した。
エッチング(以下,Etと略す)法が用いられている。
2.
2 はく離残りの改良
この動向に対応するため,当社では先にRY-3000シリーズ
パターンめっき後のはく離残りの例を図1に示す。また,
(RY-3025,RY-3030およびRY-3040)を上市しているが,年々
進む高密度化に伴い以下の問題が発生している。
図1 パターンめっき後のは
く離残り SA法でL/S=20/20
(1)SA法
a.
L/S≦30/30(µm)になるとはく離残りが発生する。
b.
レジストサイドウォールがぎざつき,パターンめっ
(µm)の場合の例である。
Fig. 1 Stripping residue after pattern plating
An example of L/S=20/20(µm)
pattern in the semiadditive process.
きがこれに追随するために,最終的な回路のサイド
ウォールにぎざつきが発生する。
(2)Et法
×500
感光層の膜厚が厚くなるに従いEt部の液回りが悪化するた
0000
15kV
100µm
表1 感光層の膜厚 RY-3200では7種類の膜厚を設定した。
Table 1 Photosensitive layer thickness
The RY-3200 series come in seven thicknesses.
品 名
RY-3206
RY-3210
RY-3215
RY-3219
RY-3224
RY-3229
RY-3237
膜厚
(µm)
6
10
14
19
24
29
37
*
当社 感光性フィルム事業部 感光性フィルム開発グループ
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
23
D/Fの光硬化機構を図2に示す。図2のように硬化後のフィ
低
多
ルム中にはバインダポリマ側鎖のカルボン酸基が残存してい
②
る。通常はく離液には強アルカリ水溶液が50℃前後で使用さ
①
成されて親水性となり水を吸収する結果,膨潤してはく離が
起こる。この膨潤性が強いほどはく離片は細かくなり,ライ
はく離残り
後のD/F中のカルボン酸基とはく離液が中和反応し,塩が形
細線密着性
れているが,はく離の機構を図3に示す。図3において硬化
②
ン間のはく離残りは少なくなる。
しかし一般的にこの膨潤性を強くすると,低温弱アルカリ
性の現像液でも硬化後のD/Fが膨潤して密着性が低下する。
①
PKG基板用のD/Fには,高密着性と低はく離残り性の両方が
高
要求されており,低温弱アルカリ性下では膨潤しにくく,高
温強アルカリ性下では膨潤しやすい組成にする必要がある。
我々は,膨潤力はバインダポリマのカルボン酸基量,疎水性,
ガラス転移温度(Tg)に依存すると考え,バインダポリマの
検討により両特性の両立を試みた。検討結果の概念図を図4
少
少
多
カルボン酸基量
図4 細線密着性,
はく離残りとバインダポリマ因子の関係の概念図
①:高Tg,疎水性大 ②:低Tg,疎水性小
高Tg化,疎水化(①)と,カルボン酸基増量により,高細線密着性と低はく
に示す。図4にしたがって,バインダポリマのカルボン酸基
離残りの両立が可能となる。
量の増量と同時に,共重合成分の疎水化と高Tg化を適用し,
Fig. 4 Conceptual figure indicating the influence of binder polymer factors on
adhesion and the amount of stripping residue
①: Higher Tg, higher hydrophobicity ②: Lower Tg, lower hydrophobicity
A combination of higher carboxylic acid group content and ① results in higher adhesion with less stripping residue.
密着性とはく離残り性を共に改善できた(図5)
。カルボン
酸基量を増量しても,低親水性化と高Tg化により,低温弱ア
ルカリ性下での膨潤力を抑制できていると考える。
バインダポリマ
M
M
M
M
露 光
COOH
COOH
COOH
M
COOH
COOH
M
COOH
M
M
架橋剤
露光前
露光後
図2 D/Fの光硬化機構 光硬化後にカルボン酸基が残存する。
Fig. 2 Photocuring mechanism of photosensitive D/F
Carboxylic acid groups will remain after photocuring.
H2O
M
COOH
M
COOH
M
はく離
(NaOH aq.)
COOH
H2O
M
+
Na
ー
COO
M
M
+
H2O
Na
ー
COO
COO
M
H2O
露光後
Fig. 3 Stripping mechanism
Water absorption by the film causes expansion and resultant stripping.
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
ー
M
+
Na
はく離液中(膨潤)
図3 はく離の機構 水分の吸収により膨潤し,はく離が起こる。
24
H2O
H2O
2.
4 ラミネート時のボイドの低減
2.
3 レジストサイドウォールのぎざつきの低減
レジストサイドウォールのぎざつきは,露光時の支持フィ
感光層厚が15µm以下のD/Fでは,ラミネート時のボイド多
ルム中の滑剤による光散乱が原因で発生する。しかし滑剤を
発により回路欠損が発生することが判明している(図8)。
除去すると,滑り性が悪化し,ロール状の製品として巻き取
これは,現行の保護フィルムの表面に通称「フィッシュアイ」
れない。巻き取り性は支持フィルムの片側の表面に滑剤があ
と呼ばれる突起があり,その部分の感光層が押されて薄くな
れば維持できると考え,図6に示す2層構造の支持フィルム
るために発生する。しかし,Hi-RCシステム用D/F6)に使用さ
の使用により滑剤濃度の低減を図ることにした。その結果,
れている平滑保護フィルムの使用により,ボイドの発生を使
図7のように上記の特性を両立できた。この2層支持フィル
用可能範囲にまで低減できることがわかった(図9)
。この
ムは,SA法およびEt法に使用される,感光層の膜厚が29µm
平滑保護フィルムは,ボイドが特に問題となるRY-3206,RY-
以下の6品種に適用している。
3210,RY-3215に適用している。
図5 新規バインダポリマ使用品のはく離後のめっき形状
図1と同
図8 ボイドによるレジスト形状の欠陥 L/S=50/50
(µm)保護フィ
じL/S=20/20(µm)の場合であるが,はく離残りは全くない。
ルムの表面の突起によって起こる。
Fig. 5 Pattern plating profile using dry film with newly developed binder polymer
There is no stripping residue in L/S=20/20 (µm) pattern.
Fig. 8 Defects of resist profile caused by voids L/S=50/50 (µm)
Voids originate from the“fish eye”on the cover film.
滑剤
従来の支持フィルム
2層支持フィルム
図6 新規2層支持フィルムの構造 滑剤が片側の表面にあれば,フィルムの巻き取りに支障はない。
Fig. 6 Structure of a new two layer support film
Low friction agent on only one side of the film is needed for mechanical winding.
従来の支持フィルム使用
2層支持フィルム使用
図7 支持フィルムを変更した場合のパターンめっき形状 L/S=30/30(µm),めっき厚:10µm,はく離後2層支持フィルムを使用することによりめっき
のサイドウォールはストレートになる。
Fig. 7 Pattern plating profiles using two types of support film L/S=30/30 (µm), Deposition height : 10µm, after stripping
The sidewall line of pattern plating is straight with no indentation when the new two layer support film is used (right).
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
25
これらの新技術を組み合わせて,感光層厚の異なる各種用
10,000
途向けの7種の品種からなるRY-3200シリーズを設定した。
従来からあるRY-3000シリーズに比較し,解像度,密着性,
1,000
ぎざつきの低減などのすべての実用特性において優れている
ボイド(個 /m2)
従来の保護フィルム
100
ことを確認した。今後は本シリーズの適用をさらに促進させ
たい。
10
平滑保護フィルム
1
0.1
0.05
0
0
10
20
30
感光層膜厚(µm)
図9 感光層膜厚とボイド数の関係
平滑保護フィルムの使用によりエ
アボイドの発生を大幅に低減できる。
Fig. 9 Relationship between photosensitive layer thickness and the number of
voids
The number of voids decreases drastically with smoother cover film.
〔3〕 RY-3200の一般特性
図1
0 RY-3219のレジスト形状ガラスネガ使用,L/S=8/8
(µm)
Fig. 10
RY-3200シリーズの一般特性を表2に示す。表2より,RY-
Resist profile of RY-3219 using glass phototool, L/S=8/826 (µm)
3200シリーズは従来品のRY-3000シリーズと比較し,解像度,
密着性,レジストサイドウォールのぎざつきの低減において
優れていることがわかる。なお,一例としてRY-3219のレジ
参考文献
スト形状を図1
0に示す。
1)西山和夫:デジタル家電の実装ニーズと半導体パッケージング技
〔4〕結 言
術,エレクトロニクス実装学会誌, Vol.4, No.3, 166-169(2001)
2)大久保光晃:超ファインパターン対応ビルドアップ基板,電子材
今後よりいっそうの市場拡大が予想される半導体パッケー
料,2000年10月号, 72-75(2000)
ジ基板の回路形成用に最適な感光性フィルムRY-3200シリー
3)近野泰:電子回路産業の動向,エレクトロニクス実装技術 2001
ズを開発した。まず高細線密着性と低はく離残り性を両立さ
年 臨時増刊号, 19-22(2001)
せるため,バインダポリマに着目し,高Tg化と疎水化,なら
4)2001年度版日本実装技術ロードマップ, JEITA(2001)
びにカルボン酸基量の最適化を実施し,両立を可能とした。
5)石川力:超ファインライン対応感光性フィルムの設計,第12回回
さらに2層支持フィルムを採用してレジストサイドウォール
路実装学術講演大会講演論文集,回路実装学会, 31-32(1998)
のぎざつきの低減,また平滑保護フィルムの採用によりラミ
6)南好隆:高密度配線板用感光性フィルム,日立化成テクニカルレ
ネート時のボイドの低減を達成した。
ポート No.33, 23-27(1997-7)
表2 フォテック RY-3200シリーズの一般特性 従来からあるRY-3000シリーズに比べ,RY-3200シリーズはすべての実用特性において優れている。
Table 2 Characteristics of“PhoTec RY-3200 series”
The new RY-3200 series are superior to conventional RY-3000 series in terms of all practical properties.
項目
RY-3206
RY-3210
RY-3215
RY-3219
RY-3224
RY-3229
RY-3237
RY-3025
RY-3030
RY-3040
用途*1
Et
Et
Et
Et, SA, P
Et, SA, P
Et, SA, P
Et, P
Et, P
Et, P
Et, P
推奨中心 ST
(x/41)
14
14
14
17
17
17
17
20
20
20
*2
感度
(mJ/cm2)
120
65
65
100
100
100
100
70
90
85
*2
密着性
(µm)
8
10
12
10
12
15
20
15
15
25
*2
解像度
(µm)
8
10
12
18
18
18
20
22
25
25
レジストサイドウォールのぎざつき
少
少
少
少
少
少
多
多
多
多
時間
(s)
8
13
20
25
25
35
55
35
40
43
形状
(mm)
40
30
25
15
30
25
15
30
40
40
はく離性*3
注)*1:Et: エッチング法,SA: セミアディティブ法,P: 銅-はんだまたはスズめっき法
*2:推奨中心 STでの値,フィルムネガ使用
*3:浸漬試験,温度: 50℃, NaOH濃度: RY-3206, 3210, 3215: 2.0wt%,
RY-3219, RY-3025, RY-3030, RY-3040: 2.5wt%, RY-3224, RY-3229, RY-3237: 3.0wt%
*1:Et:
Etching process, SA: Semiadditive process, P: Pattern plating of copper and tin or tin/lead
at the recommended ST, using film phototool
*3:Dipping test, temperature: 50℃, concentration of NaOH: RY-3206, 3210, 3215: 2.0wt%,
RY-3219, RY-3025, RY-3030, RY-3040: 2.5wt%, RY-3224, RY-3229, RY-3237: 3.0wt%
*2:Values
26
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
U.D.C.
774.021.5:678.675'74'5
低ウェハ応力i線対応感光性ポリイミド
Low Wafer Stress i-line Definable Polyimide
佐々木顕浩*
Akihiro Sasaki
*
廣 昌彦
宮坂昌宏*
Masahiro Miyasaka
Masahiko Hiro
近年のシリコンウェハの大径化,薄型PKGに対応するため,半導体用途の感光性ポ
リイミドには,硬化後のウェハの反り(ウェハ応力)がより小さいことや,高パター
ン精度・解像性が求められている。これらの特性を達成するため,ポリイミド前駆体
のi線透過性が高く,イミド化後の熱膨張係数が小さいベースポリマを設計した。そ
して,このポリマに感光性基を導入し,感光特性と硬化膜物性を評価した結果,高感
度,高解像度,高耐熱性,低ウェハ応力などの特長を併せ持つ材料であることを確認
した。本報はこの開発材の材料設計と代表的な特性をまとめたものである。
In order to cope with the recent technical trend; larger size wafer production and
thinnner packaging, a new photodefinable polyimide is demanded that can produce
smaller wafer curvature (wafer stress) after curing and also can attain higher pattern
accuracy and finer pattern performance. For this purpose, we have designed a new base
polyimide with high i-line transparency as a precursor and a low coefficient of thermal
expansion after curing. After introducing of a photosensitive group into this polymer,
we evaluated the patterning performance and cured film properties of the polyimide.
We found that this material has the advantages of high sensitivity, high resolution, high
heat resistance, and low thermal expansion, which resulting in low wafer stress. This
paper describes the material design and the typical characteristics of this newly developed material.
〔1〕 緒 言
〔2〕 ベースポリマの設計
半導体素子の信頼性向上のため,半導体表面保護膜(バッ
バッファーコート感光性ポリイミドは,図1に示すプロセ
ファーコート膜)として,ポリイミドが多く用いられている。
スにより処理される。そこでベースポリマの構造設計では,
最近ではワンマスクプロセスを含めたプロセスの簡略化が可
まず露光時に用いられるi線(365nm)ステッパに対応する
能な感光性ポリイミドに移行が進んでいる。
ため,ポリイミド前駆体の状態では高i線透過性であること,
一方,メモリやマイクロプロセッサなど主要デバイスの生
そして硬化後には低熱膨張性となることが必要と考えた。
産性向上のためにシリコンウェハの大型化が,また情報機器
用デバイスの薄型PKGに対応するためにシリコンウェハの薄
型化が進んでいる。これらの技術動向において予想される問
題点の1つは,シリコンウェハとバッファーコート材(ポリ
イミドなどの有機材料)の熱膨張係数差によるシリコンウェ
処理プロセス
ポリイミドの状態
感光性ポリイミド塗布
OH
N
ハの反りが大きくなることである。熱膨張係数を比較すると
O
シリコンウェハは3×10 ・℃ であるのに対し,一般的なポ
露光・現像
リイミドは3∼5×10 −5・℃ −1であり,一桁(けた)違う値で
ドライエッチ
−6
−1
特性への影響を考えると好ましくないものである。
本報では,このような課題に対し,硬化後のウェハ応力が
P
O
高i線透過性
OH
N
ある。この熱膨張係数差から生じるウェハの反りは,製造工
O
O
程での加工不良,搬送不良,割れの要因,あるいはデバイス
必要特性
P
P
硬化
O
O
N
HO
O
小さく,かつi線ステッパでの加工性にも優れる低応力感光
N
性ポリイミドを設計・開発したので,以下これについて報告
低熱膨張性
(Rod-like構造)
O
する。
図1 感光性ポリイミド処理プロセスの概略 ポリイミド前駆体では高
i線透過性であり,硬化後は低熱膨張性となるベースポリマを設計した。
Fig. 1 The outline of the photosensitive polyimide processing
High i-line transparency of the precursor and low coefficient of thermal
expansion after curing is expected of a new polyimide.
*
当社 総合研究所
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
27
O
N
H
高i線透過性
非連続芳香環構造,
ねじれ構造
O
N
H
P
P
O
O
:共役を断ち切る構造
O
低熱膨張性
直線構造,平面構造
N
O
O
O
O
N
N
N
図2 i線対応低ウェハ応力感光性ポリイミドの分子設計
Y
X
O
O
O
高i線透過性には非共役芳香環構造,ねじれ構造を導
入し,低ウェハ応力とするため,イミド化後に直線構造となるような分子設計を行った。
Fig. 2 Design of molecular structure for highly i-line compatible low wafer stress polyimide
A discontinuous π system and twisted structure was introduced into the aromatic system to attain high i-line transparency;
straight line structure after thermal imidization was designed to attain low wafer stress.
ウェハ応力は,基本的には式(1)で表される1)熱応力で,
シリコンウェハとポリイミド膜間に生じると考えた。
σt =(αF−αS(T
) f−T)
E f・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
(1)
〔3〕 HD-LSXBのウェハ応力
シリコンウェハ上にHD-LSXBと,比較のためHDMS製品i
σt:熱応力,αF:ポリイミドの熱膨張係数,αS:シリコンウ
線対応感光性ポリイミド(PL-3708)をそれぞれ塗布,プリ
ェハの熱膨張係数,T f:ポリイミドのガラス転移温度,T :測定
ベークし,硬化,冷却過程におけるウェハ応力を測定した結
温度,E f:ポリイミド膜の2軸の弾性率
果を図3に示す。ここでウェハ応力は,シリコンウェハ上に
この式より,低ウェハ応力化にはポリイミドの熱膨張係数,
ポリイミド前駆体膜またはポリイミド膜を形成し,シリコン
ガラス転移温度または弾性率を低くすることが有効であるこ
ウェハの反り量からウェハ応力を算出する装置(KLA-Tencor
とがわかる。この中で,ガラス転移温度と弾性率を低くする
社製FLX-2320)を用いて求めた。
と本来要求される重要な特性や機械的強度が低下すると考
え,熱膨張係数を低くすることとした。
40
▲(加熱),△(冷却)
:PL-3708
●(加熱),○(冷却)
:HD-LSXB
熱膨張係数を低くするためにはポリイミド主鎖の直線構造
化が有効である2)。これまで当社(現日立化成デュポンマイ
を直線的構造とした低熱膨張タイプPIX-L110SXほかを開発・
上市している。しかしながら,このような既知材料ベースで
ネガ型感光性ポリイミドにしてi線露光すると,膜表面に近
い部分だけが光硬化し,現像後の基板面近くの寸法がマスク
30
ウェハ応力(MPa)
Wafer stress (MPa)
クロシステムズ:以下,HDMSと略す)は,ポリイミド主鎖
20
冷却過程
10
寸法よりも広がり,高精度なパターンが得られない問題があ
った3)。この原因は主として,ポリイミド前駆体のi線透過
0
加熱過程
性が低いことにある。
ポリイミド前駆体の光透過性は,①テトラカルボン酸部位
−10
0
とジアミン部位とのドナー・アクセプタ性,②立体因子,③
100
200
300
π電子共役系の広がりなどの影響を受ける4)。なお吸収波長
域の短波長化に有効な脂肪族系やフッ素系ポリイミドは,耐
図3 ウェハ応力の温度プロファイル
熱性や接着性に問題があったため,今回は用いなかった。
熱膨張係数差が小さいため低ウェハ応力である。
そこで,ポリイミド前駆体のi線透過性が高く,イミド化
後に直線構造(低熱膨張係数,低ウェハ応力)となる,図2
に示すような非フッ素系芳香族ポリイミド構造を設計した。
400
温度(℃)
Temperature(℃)
HD-LSXBはシリコンウェハとの
Fig. 3 Temperature profiles of the wafer stress
HD-LSXB has smaller difference in the coefficient of thermal expansion from
the silicon wafer, resulting in lower wafer stress.
すなわちポリイミド前駆体構造内のπ電子共役系が短くなる
ように,非連続芳香環構造や芳香環間でねじれ構造をとるよ
HD-LSXBは冷却開始温度(400℃)からウェハ応力が発生
うにした。このことによって,ポリイミド前駆体での高i線
しているが,冷却過程におけるウェハ応力の増加量が小さく,
透過性と硬化後の低熱膨張性が可能になると考えた。このよ
最終的な室温におけるウェハ応力は低く,10MPa程度であっ
うに設計したポリイミドをベースに,これまでの蓄積により
た。昇温による熱硬化の間に応力は緩和されているが,ガラ
ネガ型感光性ポリイミドとした開発材HD-LSXBについて以下
ス転移温度と推定される温度からの冷却過程でウェハ応力が
述べる。
蓄積することから,前述の式(1)に従う熱応力であること
が確認できた。硬化後の膜質は,表1に示すようにガラス転
移温度が400℃以上,弾性率が7.0GPaおよび線熱膨張係数が
10×10 −6・℃ −1であったことから,設計どおりに低熱膨張性
28
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
化ができ,このことによって低ウェハ応力となったことが確
認できた。
低熱膨張性は,ポリマ主鎖を図2のように膜面内配向させ
〔4〕 HD-LSXBの硬化後膜質
HD-LSXBの硬化膜物性を表1に示す。HD-LSXBは,半導体
ることで得られたと考えるが,この面内配向度は光学異方性
に広く使用されている非感光性ポリイミドPIX-3400よりも,
(複屈折)を測定することにより確認した1)。一般的なポリイ
さらに引張り強度,伸びなどに優れ,かつ低熱膨張性である。
ミドであるベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
また,比誘電率も低いという特長を有している。
(BTDA)とジアミノジフェニルエーテル(DDE)からなるポ
リイミドの硬化膜(熱膨張係数:43×10−6・℃−1)の複屈折1)
(0.013)に比べ,HD-LSXBの硬化膜の複屈折は0.160であり,
非常に高い値であった。このことから,HD-LSXBは設計どお
りポリマ分子が面方向に高度に配向しているために低熱膨張
性となったことが確認できた。
表1 HD-LSXBの膜物性 HD-LSXBは非感光性ポリイミドと同等以上の
膜物性を有している。
Table 1 Film properties of HD-LSXB
HD-LSXB has physical properties superior to those of non-photosensitive
polyimide.
項 目
Items
HD-LSXB
PIX-3400
引張り強度(MPa)
Tensile strength(MPa)
300
152
引張り伸び(%)
Elongation(%)
20
15
弾性率(GPa)
Elastic modulus(GPa)
7.0
2.7
線熱膨張係数(×10−6・℃−1)
Coefficient of thermal expansion(×10−6・℃−1)
10
55
ガラス転移温度(℃)
Glass transition temperature(℃)
>400
296
重量減少温度(1%)
(℃)
1% weight loss temperature(℃)
410
450
>500
>500
2.9
3.2
HD-LSXBの硬化温度とウェハ応力の関係を図4に示す。
350−400℃の範囲では高温ほど低ウェハ応力である。比較に
用いたHDMS製品i線対応感光性ポリイミド(PL-3708)に比
べ,いずれの硬化温度においても低応力であった。さらに,
硬化後膜厚とウェハ応力の関係を調べた結果を図5に示す。
HD-LSXBは実用硬化後膜厚5µm,10µmのいずれにおいても
10MPa程度の低いウェハ応力であった。
ウェハ応力(MPa)
Wafer stress (MPa)
40
30
*
接着性(h)
Adhesion(h)
PL-3708
20
比誘電率(1KHz, 50%RH, 23℃)
Dielectric constant(1KHz, 50%RH, 23℃)
HD-LSXB
*基板:SiO2,PCT:125℃,2×105Pa,碁盤目試験
*Substrate:
10
0
325
350
375
400
SiO2, PCT: 125℃, 2×105Pa, Cross-cut test
425
〔5〕 HD-LSXBのパターン化プロセスとパターン性
硬化温度(℃)
Curing temperature (℃)
薄膜仕様および厚膜仕様
(硬化後の最終膜厚が5µmと10µm)
*硬化後の膜厚は10µm
*Cured film thickness is 10µm
として樹脂分濃度や感光剤配合を調整・検討し,最終的なパ
図4 硬化温度とウェハ応力 硬化温度により,ウェハ応力は変化するが,
ターン化するための代表的プロセス条件を表2に示す。塗布
350−400℃の温度範囲では低ウェハ応力である。
条件はいずれも大型ウェハ塗布時に求められる低速スピン速
Fig. 4 Curing temperature and wafer stress
Although the wafer stress for HD-LSXB varies in the curing temperature
range of 350ー400 ℃, it is smaller compared with that for PL-3708.
度2,000r/minで均一な塗膜形成が可能であった。200mmウェ
ハ面内の膜厚ばらつき(σ)は0.1µmであった。i線ステッ
パでの露光量100∼200mJ/cm 2により現像後の残膜率90%以
上が得られ,高感度,高コントラストであった。厚膜仕様
(プリベーク後膜厚20µm)の現像後のライン&スペース断面
40
ウェハ応力(MPa)
Wafer stress (MPa)
SEM写真を図6に示す。4µmライン&スペースが開口してお
り,高アスペクトパターンが得られた。
30
良好なパターン性が発現した理由をポリマ側鎖感光性基の
PL-3708
光反応性から調べた。光熱量反応解析装置(Photo DSC,セイ
20
コーインスツルメント製SSC/5200-PDC121)を用い,光重合
HD-LSXB
熱から光反応率を求めた。なお,比較として低i線透過性の
低熱膨張ポリイミドを用いた。その結果を図7に示す。HD-
10
LSXBに比べ,低熱膨張ポリイミドの光反応速度は遅かった。
0
この結果から,ベースポリマのi線透過性が感光性基の反応
0
5
10
15
硬化後膜厚(µm)
Film thickness after curing (µm)
図5 硬化後膜厚とウェハ応力
速度に影響を与えていると推定される。
実用的な膜厚である5µm,10µmにおい
て低ウェハ応力である。
Fig. 5 Film thickness and wafer stress
The wafer stress for HD-LSXB is lower than that for PL-3708 in the practical
film thickness of 5ー10µm.
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
29
表2 パターン形成プロセス条件の一例 50
Table 2 Example of patterning process conditions
塗布
Coating
薄膜仕様
Thin film
specification
厚膜仕様
Thick film
specification
1,000r/min, 10s
2,000r/min, 10s
80℃, 100s
95℃, 100s
95℃, 100s
110℃, 100s
プリベーク後膜厚
Film thickness after prebaking
10µm
20µm
露光(i線ステッパ)
Exposure(i-line stepper)
100mJ/cm2
200mJ/cm2
現像(パドル法)
Development(Puddle method)
30s×2
60s×2
現像後膜厚
Film thickness after development
9µm
19µm
開口マスク寸法(L&S)
Opening mask size(L&S)
3µm
4µm
プリベーク
Prebaking
熱硬化(拡散炉,窒素雰囲気)
Post baking
(Diffusion tube, N2atomosphere)
硬化後膜厚
Film thickness after post baking
HD-LSXB
40
反応率(%)
Conversion rate (%)
プロセス
Process
30
20
低熱膨張ポリイミド
10
0
0
2
4
6
8
10
i線照射時間(min)
i-line exposure time (min)
図7 i線照射時間と光反応率
HD-LSXBは既存の低熱膨張ポリイミド
に比べ,感光性基の光反応速度が速い。
Fig. 7 Photo conversion rate and i-line exposure time
Compared with the conventional polyimide with low coefficient of thermal
expansion, HD-LSXB has higher photo reaction rate.
400℃, 60min
5µm
10µm
〔6〕 結 言
半導体素子の表面保護膜用低ウェハ応力i線対応感光性ポ
リイミドを,ポリマの硬化前光透過性と,硬化後の面内配向
性を考慮した設計とすることにより開発した。
開発したHD-LSXBは,高い感度と高い解像度を有し,硬化
膜特性(特に低ウェハ応力性と低誘電性)にも優れているこ
とから,今後求められる300mmウェハプロセスや,薄型パッ
ケージ用途に適したi線対応感光性表面保護膜材料として期
待できる。
参考文献
1)M. Ree et al.:J. Appl. Phys. 75 (3), 1 February, 1410-1419(1994)
2)金城,外:熱硬化性樹脂, Vol.8, No.4, 22-35(1987)
3)鍛治,外:i線ステッパ対応感光性ポリイミドPL-3708, 日立化成
テクニカルレポート, 27, 15-18(1996)
4)N. N. Rukhiyada et al.:Vysokomol. Soedin. Ser. A34 (3), 91-98
(1992)
図6 現像後のSEM写真 プリベーク後膜厚20µmでライン&スペース4µm
のパターンが得られる。
Fig. 6 SEM photograph after development
4µm line and space was obtained at 20µm thickness of prebaked film.
30
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
製品
紹介
低複屈折光学用樹脂
オプトレッツシリーズ
レンズに,特殊アクリル樹脂(日立
た新しい光学用プラスチックを開発
によりレンズを安価に大量に製造で
化成 OZ-1310,OZ-1330)は低複
しました。この光学用プラスチック
きるため,CD,DVD,LBP,液晶
屈折性という特長を持っており,主
は,成形時にも複屈折をほとんど生
プロジェクタなどの各種レンズに用
に回折格子に用いられています。
じず(図1)
,従来のアクリル樹脂
光学用プラスチックは,射出成形
に比べて吸水率も低いといえます。
一方,今後の光ディスクの高容量
いられています。
代表的光学用プラスチックには環
化,LBPの高精細化,液晶プロジェ
さらに,高屈折率,高耐熱性という
状ポリオレフィン樹脂とアクリル樹
クタの高明度化などの技術動向に対
特長も併せ持っています(表1)
。
脂があります。環状ポリオレフィン
して,低吸水性と低複屈折性を両立
このたび開発した新規光学用プラ
樹脂は吸水性が低いという特長を生
させたプラスチックが要望されてい
スチックは,今後大きな需要の伸び
かして主に対物レンズに用いられて
ます。しかし,現状では,この要望
が予想される高容量DVD,高精細
います。汎用アクリル樹脂は高色相
を満足する光学用プラスチックはま
LBPなどの各種レンズに使用してい
という特長を備えており主に撮影系
だ存在しません。
ただけるものと期待しています。
(化成品事業部)
そこで,当社は上記特性を両立し
表1 開発品の基本的特性
汎用アクリル ポリオレフィン
開発品
OZ-1310
図1 射出成形品の偏光板間に配置した
写真 開発品は,成形品に複屈折がほとんど
ないため,透過光の漏れがありません。
項 目
単位
開発品
OZ-1330
OZ-1310
汎用アクリル
ポリオレフィン
飽和吸水率
%
0.12
1.2
1.2
2.2
<0.01
複屈折
nm
10
5
5
50
80
透過率
(650nm)
%
89
92
91
91
90
Tg
℃
128
110
130
108
140
荷重たわみ温度
℃
125
90
115
100
122
屈折率
(d線)
―
1.6028
1.5091
1.5048
1.4960
1.531
低複屈折,低吸水性の両立が可能です。さらに高屈折率,高耐熱性も兼ね備えています。
注)本表の特性値は,日立化成で測定した代表値であり,保証値ではありません。
色差∆E*
近年LCD,
PDPなどのフラットディ
スプレイ市場が急速に成長していま
す。これらディスプレイに使用され
る光学シートは,光学シート間の光
散乱を防止し,高い光透過性を得る
目的や光学シートの固定目的で,必
要に応じて接着する必要があります。
ハイクリア接着シートDA-1000は
このような用途に適した高透明性を
備え,異種光学シートに対しても高
い接着信頼性を持つ感圧型接着シー
トです。DA-1000の接着剤には架橋
密度の高い高弾性アクリル樹脂を新
規開発し,優れた特性を得ました。
主な特長
(1)透明性が優れており,高い光線
透過率を有しています(表1)
。
(2)各種材料に対し高い接着性を備
えています(表1)
。
(3)耐熱,耐湿性に優れています
(図1)
。
DA-1000は光学シート同士,光学
シートとガラス板の接着,光学製品
の固定などへの展開が期待されてい
ます。
(複合材料事業部)
接着力(N/25mm)
光学部材用ハイクリア接着シート
DA-1000
30
25
20
60℃95%RH
15
−40℃
10
5
0
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
95℃
目標値
0
100
200
300
400
500
600
700
800
900
1,000
目標値
60℃95%RH
95℃
−40℃
0
100
200
300
400
500
600
処理時間(h)
700
800
900
1,000
図1 DA-1000の耐熱,耐湿性評価(PETフィルムとガラス板の接着) DA-1000は耐熱,
耐湿試験において,接着力低下,色差変化の少ない優れた特性を備えています。
表1 ハイクリア接着シートDA-1000の特性
単位
試験項目
各種被着体に
対する接着力
光学特性
DA-1000
アクリル板
ガラス板
8.8
9.4
ポリカーボネート板
PETシート
ステンレス板
6.2
7.0
4.9
N/25mm
アルミニウム板
可視光透過率
ヘイズ
%
備考
粘着力測定条件
・はく離角度:180°
・はく離速度:0.3m/min
・測定温度:23℃
11.0
92.9
1.8
注)本データは測定値であり,保証値ではありません。
日立化成テクニカルレポート No.38
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31
製品
紹介
リチウムイオン電池負極材
携帯電話,ノートパソコンなどの
携帯電子機器は年々小型・軽量化,
高性能化が進み,その電源に使用さ
れているリチウムイオン電池はいっ
そうの大容量化,高負荷化が要求さ
れています。当社ではこれらの要求
に対応するため,高性能なリチウム
イオン電池用の黒鉛系負極材を開発
しました。
開発材は高結晶性の黒鉛からなる
疑似等方性の塊状粒子で,粒子内部
(a)粒子外観
にnm∼µmオーダーの細孔を有して
います(図1)
。この特徴的な構造
の粒子が優れたリチウムイオン電池
の負極特性を実現します。
主な特長
(1)大きな充放電容量が確保できま
す。
(2)急速放電特性に優れます(図
2)
。
(3)高電極密度での容量低下が小さ
く,電池の大容量化に有利です。
(b)粒子断面
(複合材料事業部)
図1 開発材の粒子形状
400
電極密度:1.4×103kg/m3
充 電:0.3mA/cm2定電流, 0Vカットオフ
放 電:定電流, 1.0Vカットオフ
350
開発材
放電容量(Ah/kg)
300
250
鱗片状天然黒鉛
球状黒鉛
200
150
0
0
2.0
4.0
6.0
放電電流密度(mA/cm2)
8.0
図2 放電電流密度と放電容量の関係
32
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
10.0
製品
紹介
レーザビルドアップ用プリプレグ
レーザビルドアップ用プリプレグ
携帯電話用途などのプリント配線
ーザビルドアップ用プリプレグを開
板には薄型化のための高強度化と,
発しました。このプリプレグはガラ
は,樹脂中に無機フィラーを高充填
価格競争のための低コスト化が要求
スクロスを補強材として用いている
(てん)することで,ガラスリッチ
されています。樹脂付き銅箔(はく)
もので,強度的に優れており,価格
部と樹脂リッチ部の熱分解性 の差
を始めとし,現在ビルドアップ材と
的にも有利な材料です。
を小さくしたもので,安定したレー
して使用されている材料は,絶縁樹
プリプレグをビルドアップ材とし
ザ加工が可能です。また,面内のガ
脂層に補強材がなく,コスト的にも
て使用する場合,面内のガラス密度
ラス密度の差を小さくした高開繊ク
プリプレグと比較して高いことか
の差により,局所的に熱分解性の差
ロスを使用したタイプでは,さらに
ら,これらの要求に対応することが
が生じるため,レーザ加工によるバ
安定したバイアホール形状が得られ
困難になってきています。
イアホール形成が安定してできない
ます。
(電子基材事業部)
という問題点がありました。
これらの状況に対応するため,レ
表1 レーザビルドアップ用プリプレグの特徴
項 目
単位
GEA-679F
GEA-67BE
GEA-679N
GEA-67N
特長
―
高Tg・高剛性
ハロゲンフリー
高Tg
―
使用クロス
―
高開繊クロス
一般クロス
高開繊クロス
一般クロス
高開繊クロス
高開繊クロス
公称厚
mm
0.06
0.06
0.06
0.06
0.06
0.06
樹脂分
%
66∼70
66∼70
65∼69
65∼69
56∼60
60∼64
硬化時間
s
90∼140
90∼140
100∼140
100∼140
120∼170
90∼140
ガラス転移温度
(TMA)
℃
160∼170
160∼170
140∼150
140∼150
173∼183
120∼130
GPa
260∼320
260∼320
350∼410
350∼410
400∼460
310∼370
GPa
30∼32
30∼32
23∼25
23∼25
24∼26
23∼25
―
―
プリプレグ性能
硬化物物性
引張り強度*)
*)
弾性率
備考
―
無機フィラー入り
無機フィラー入り
*)従来型ビルドアップ材では,引張り強度は20∼150GPa,弾性率は2∼12GPa
注)本データは実測値であり,保証値ではありません。
(a)GEA-679F
(b)GEA-67BE
図1 バイアホール
(φ0.1mm)
の断面写真(レーザ加工条件:周波数500Hz, パルス幅16µsec, 8ショット)
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
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製品
紹介
COF/TAB用絶縁ペースト
SN-9000
LCDパネルはデジタル情報ネット
ワーク社会の発展には不可欠であ
うに厳しい折り曲げにも耐えられ,
を可能にしています。
回路の補強効果が高く,高密度実装
(化成品事業部)
り,よりいっそうの大型化,高精細
化および狭額縁化が要求されていま
ドライバの実装方式は従来のTABか
らCOFへ移行しつつあり,COFに用
いられる絶縁ペーストには微細な回
路の絶縁性および折り曲げ時の補強
性に優れることが求められていま
す。今回開発したSN-9000は,特殊
な可とう化成分で変性したポリイミ
30
折り曲げ可能回数(平均値)
す。これらの要求を達成するために
25
25
20
15
10
8
4
5
ド系樹脂,高反応性エポキシ樹脂お
0
よび表面処理フィラを複合化した絶
縁ペーストで,高印刷精度,低温硬
従来材+基材
SN-9000+基材
基材
図1 0.1R-180°
折り曲げ試験(基材:50µmピッチCOF)
化性,液状封止材との高密着性およ
び高伸び率を有しております(表
表1 SN-9000の特性
1)
。また,COF製造工程中のスズ
項 目
測定条件
単位
SN-9000
めっき工程では保護膜にスズがもぐ
印刷性
流れ出し距離
µm
98
198
る現象がありますが,SN-9000は低
硬化条件
―
℃/min
120/90
150/60
温硬化とすることでこの問題を解決
液状封止材密着性
90°
ピール
N/m
>1,000
300
しました。SN-9000は図1に示すよ
引張り破断伸び
引張り試験
%
191
27
従来材
半導体パッケージ用
感光性液状ソルダマスク SR7101G
電子機器の薄型軽量化,高性能化
に伴い,半導体パッケージには多ピ
性,電気特性などの高信頼性が要求
されています。
ン化,狭ピッチ化および高速化が求
「SR7101G」はエラストマを用い
められています。その対応として,
ることで低弾性化を実現したハロゲ
(2)HAST(High Accelerated Stress
端子がエリア状に形成されたBGA
ンフリー型感光性液状ソルダマスク
Test)耐性などの電気絶縁性に優れ
(Ball Grid Array)が実用化されてき
であり,耐熱衝撃性,電気絶縁性お
ました。BGA用配線板に使用される
よび高解像性が要求されるフリップ
(3)高い解像性を有しています。
感光性液状ソルダマスクには耐熱
チップ実装に対応できます。
(4)ハロゲン系化合物を使用してい
れた耐熱衝撃性を示します。
います。
ない環境対応材料です。
表1 SR7101Gの一般特性例
項 目
単位
SR7101G
感度
mJ/cm2
450
ビア解像性
µm
43
はんだ耐熱性
―
良好
HAST耐性
Ω
1×1012
PCT性
―
良好
(電子基材事業部)
試験条件
超高圧水銀灯
ネガマスクビア径50µm
*
*
TCT耐性
サイクル
≧200
反り高さ
mm
5
240℃/10s/3回/水溶性フラックス
131℃/85%RH/5.3V/200h
L&S 30µm
121℃/100%RH/288h
−55℃×15min←
→125℃×15min
膜厚:70µm
基材:銅箔(120×120mm,厚み35µm)
誘電率
―
4.0
JIS C 6487
誘電正接
―
0.025
JIS C 6487
ガラス転移温度
℃
97
TMA法
弾性率
MPa
2,100
DMA法
引張り強さ
MPa
58
ASTM D-882
引張り伸び
%
3.2
ASTM D-882
*
はく離,クラックなし
34
主な特長
(1)硬化膜の機械特性が向上し,優
日立化成テクニカルレポート No.38
(2002-1)
20µm
図1 SR7101Gの走査型電子顕微鏡写真
化 成 品 事 業 部
医 薬 品 事 業 部
自動車部品事業部
複合材料事業部
半導体材料事業部
表示材料事業部
電子基材事業部
電子部品事業部
感光性フィルム事業部
オプト事業推進部
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編集委員
岡 村 昌 彦
中 山 忠 光
本 源 一
矢 野 健
大 森 英 二
前 川 麦
景 山 晃
藤 岡 厚
太 田 共 久
横 澤 舜 哉
中 村 吉 宏
川 口 邦 雄
南 好 隆
田 口 矩 之
須 佐 憲 三
小 泉 泰 伸
村 形 哲
日立化成テクニカルレポート 第38号
発 行 2002年1月
発
行
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