肺縦隔外科 胸の内部には、心臓、大血管、気管、食道、リンパ節などから

肺縦隔外科
胸の内部には、心臓、大血管、気管、食道、リンパ節などからなる縦隔(じゅ
うかく)という部分があり、それをはさんで左右に肺があります。これらの臓
器は肋骨などの骨や筋肉などからなる胸壁で保護されています。当科では縦隔
のうち心大血管以外と肺および胸壁の疾患を対象に治療を行っています。
肺ガン
肺ガンの種類
肺ガンは顕微鏡で見たガン細胞の形により、腺ガン・扁平上皮ガン・大細胞
ガン・小細胞ガンに大きく分類されます。小細胞ガンはこの中でもその性質が
特徴的で、手術の適応となるケースはまれです。そのほかの腺ガン・扁平上皮
ガン・大細胞ガンを、総括して非小細胞肺ガンと呼びます。
肺ガンの治療方針
肺ガンの治療法として手術・抗ガン剤による化学療法・放射線治療などがあ
ります。肺ガンの進行度(広がり)や全身の状態(年齢や体力、ほかの病気の
有無など)を考えて、それぞれの治療法を選択していきます。ガン細胞が肺の
中にとどまる I 期や肺の入り口(肺門)までにとどまる II 期は手術が標準治療
となります。III 期に関しては、一部を除き、手術のみの治療の意義はすくない
と考え、抗ガン剤による化学療法や放射線治療を組み合わせて行っています。
しかし、標準的治療として一定の結論にはいたっていません。
肺ガンの手術方法
ガン細胞が肺の中にとどまる I 期や肺の入り口(肺門)までにとどまる II 期
は手術が標準治療となります。標準的な手術法(切除範囲)は、肺葉切除(右
肺の 1/3 あるいは左肺の 1/2 になります)と縦隔リンパ節郭清です。ここでいう
標準的な手術法というのは、効果と安全性が確認されているもので、肺ガンの
細胞を一括して切除することを目的としています。また、手術前に体の外から
さまざまな画像診断で得られた情報が正しいかどうかを、手術中肉眼的に、あ
るいは、手術後に取り出した肺を顕微鏡で調べて、ガン細胞の広がりを再検討
します。この結果から追加の治療が必要かどうか判断します。
最近では、CT などの画像の解像度が大変よくなり、比較的早期の肺ガン、あ
るいは小さな肺ガンが見つかるようになりました。このように小さい腫瘍の場
合、手術の前にあらかじめ細胞を採取して検査し、ガンの診断を確定すること
が困難であるため、診断と治療をかねて手術を行なう場合があります。このよ
うに手術前にはっきりと診断のつかないケースは年ごとに増え、肺ガン手術例
の 50%を占めるようになってきています。比較的早期の肺ガンに関しては、そ
れぞれのケースを充分に検討し、残存肺機能などを考慮して、積極的に縮小手
術も試みています。
また、麻酔の方法や手術後の痛みに対するコントロールの方法が進歩し、肺
の手術は安全に行われるようになりました。最近では、以前のような背中の後
ろまで広がる傷ではなく、前側方の 15cm ほどの小さな傷、あるいは、胸腔鏡と
いうカメラを併用することによりさらに小さな傷で、手術を行っています。
転移性肺腫瘍
転移性肺腫瘍とは、肺以外の悪性腫瘍が肺に転移をおこしたものを指します。
基本的には、もともとの腫瘍組織の性質をもち、原発性の肺ガンとは区別され
ます。しかし実際には体の外からはその区別がつきにくいことがしばしばあり
ます。
治療方針
転移性肺腫瘍の多くは多発性であり、血行性の遠隔転移の一つと考え、体全
体にガン細胞が広がっていると判断して、抗ガン剤による化学療法などが妥当
と考えます。
しかし、もとの組織の腫瘍の性質により、手術を行うことにより、長期生存
(延命)あるいは治癒が期待できるケースがあることがわかってきました。そ
の代表が大腸ガンであり、種々の条件を満たしたもの(肺以外、特に元の部分
(原発巣)に目に見えるガン細胞がないことや手術に耐えうる体力があること
など)には、手術を行います。手術法としては楔状切除や区域切除など比較的
小さな範囲の切除を行います。
縦隔腫瘍
左右の肺に挟まれた部分を縦隔といいます。ここには心臓、食道、気管、大
きな血管などがあり、それらの間を脂肪が埋めています。この部分には、さま
ざまな種類の腫瘍が発生し、まとめて縦隔腫瘍といいます。70%は良性であり、
奇形種や神経からできた腫瘍がその代表で、手術により治癒します。残りの 30%
が悪性で、胸腺腫・悪性胚細胞腫瘍・悪性リンパ腫などがその代表です。
胸腺腫
胸腺は心臓の前にある免疫をつかさどる組織ですが、ここから発生するのが
胸腺腫です。胸腺腫は悪性腫瘍と良性腫瘍の中間に位置する腫瘍で、重症筋無
力症や特別な貧血などを合併することが多いことが知られています。この腫瘍
の治療は基本的に手術ですが、周囲の組織へのしみこみ具合から複合的な治療
を必要とすることがあります。肺ガンに比べ比較的ゆっくりした進行ですので、
手術後も長期間の経過観察が必要です。
悪性胚細胞腫瘍
この腫瘍は睾丸にできる腫瘍とまったく同じ特徴をもった腫瘍で、広い年齢
層に発生します。胚細胞腫瘍には良性の成熟奇形種(70%)と悪性の胚細胞腫瘍
(30%)があります。前者は手術で治癒しますが、後者は組織型により性質が異
なりますが、病理学的診断(顕微鏡で組織を見て診断する)がつけば抗ガン剤
による化学療法が第一選択となります。
悪性リンパ腫
縦隔はリンパ組織が豊富であり、肺ガンにおいても転移を起こしやすい部位
です。肺ガンの転移とは異なり、縦隔のリンパ節から直接発生する悪性腫瘍が
悪性リンパ腫です。いろいろな組織型がありますが、診断がつけば、治療は抗
ガン剤による化学療法・放射線療法で、手術はあまり意義がないことがわかっ
ています。ただし、その診断のために手術が行われるケースは多く見うけられ
ます。
自然気胸、肺嚢胞(ブラ)
自然気胸や肺嚢胞(ブラ)などの良性疾患に対しては積極的に胸腔鏡手術を
行なっています。胸部の肋骨の間に 5~10mm 程度の穴を 3 カ所程開けて、胸腔
鏡という内視鏡を胸腔内に挿入し、テレビモニターで胸腔内を観察しながら行
う手術です。胸腔鏡下手術は従来の開胸手術と比較して、手術創が小さく低侵
襲であり、①美容的に優れている。②肋間筋の障害や術後疼痛が少ない。③従
来の開胸手術よりも早期に退院できる。などの利点があります。原発性肺癌や
転移性肺癌など悪性疾患の場合も病気の進行度や患者さんの状態によっては、
胸腔鏡を併用した手術を行っています。