景気後退の予兆か - Goldman Sachs

情報提供資料
GSAM 会長
2012年5月
ジム・オニールの視点
フィラデルフィア連銀 製造業景況指数。
景気後退の予兆か、景気回復前の一時的な悪材料か?
今週末に Viewpoint を書くつもりはなかったのですが、いくつかの予定が思ったより早く終わったので、ロンド
ンに戻ってきました。明らかに、1 つ 2 つお話しておかなければならないことがあります。
先週末に申し上げた通り、この 1 週間のうちに、S&P 株価指数が昨年秋以来のトレンドライン内に留まるか否か
が注目されていましたが、その答えは、はっきり「ノー」と出ました。指数は月曜日のニューヨーク市場の引け
でトレンドラインを割込み、状況は時間の経過とともに、悪化して行きました。それから、先週の Viewpoint に
米国でのハードスケジュールの出張があると申し上げましたが、3 週間前の米国出張の際に聞いた情報に加えて、
景気の先行きについてのグッドニュースを期待していました。ニューヨーク、ボストン、ロサンゼルス、サンフ
ランシスコ、メンロパーク、そしてサクラメントと、猛スピードでの移動中には、確かに多くの安心材料を集め
ることができました。しかし、木曜日に発表された 5 月のフィラデルフィア連銀の製造業景況指数には、がっか
りしました。この指標は米国経済の現況をいち早く的確に示す先行指標と考えられているので、何か悪いことが
起こっている可能性を示唆していたからです。本当にそうなのでしょうか。あるいは、米国市場(そして、米国
ビジネスの信頼感調査ともども)、欧州での異常事態に、再び過剰反応したのでしょうか。これについては、も
う少し詳しく述べましょう。
ギリシャの選挙は、まだ 4 週間先
出張中の面談の 1 つは、影響力の大きい投資家とのものでしたが、先方は、同僚の投資担当者すべてに自己紹介
をさせ、そしてギリシャがいつ頃ユーロから離脱しそうかについての予測を披露させました。これは楽しくもあ
り、興味深くもある試みでした。
意見を述べた 11 人のうち、2 人が、6 月 17 日の再選挙から 8 日以内に、1 人が 2012 年の遅い時期に、3 人が
2013 年の遅い時期に離脱するとし、4 人はユーロに留まるとしました。残りの 1 人は、何と、選挙の前に離脱と
の見方でした。
どこに行っても、話題はギリシャのことばかりです。大変多くの投資家にお会いし、その多くは、米国の最大級
の面々でしたが、ほとんどどの質問も、ユーロ圏に関するものでした。時が経つにつれ、ギリシャがユーロに留
まるかどうかと聞かれると、「通りを歩いている人に聞いてはいかがでしょう」と答えるようになりました。皆
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さんのお答えが、私の回答に負けず劣らず、有益なものだったからです。ただ、私からお伝えしたのは、3つの
ことです。1つめは、先週も書きましたが、ギリシャの有権者には、単純明快な選択肢が与えられていることで
す。つまり、金融支援を受けるに先立って(そしておそらく追加支援と景気刺激支援をも受けるでしょう)誓約
書に署名するか、またはそうしないか(つまり、ユーロからさようならするか)です。 お会いした多くの方々
は、政策立案者たちが、市場を沈静化させるために、「今もっとやるべきこと」をやっていないことへの懸念を
表明されていました。実のところ、欧州のリーダーたちが行うべきは、ギリシャの有権者に、注意深くかつ明解
に考えるよう促すことです。そう考えると、これができないことが、今週末のG8の声明に今ひとつ力がなかった
理由です。合理的に考えるとはっきりしているのは、もしギリシャの有権者が、ある意味、欧州通貨同盟(EMU)
に対して「イエス」と解釈できるような投票を行えば、外部から景気刺激支援策の提案もあるということです。
2つめには、もちろん、非常に不安定な状況が国から国へと伝染するリスクはかなり高いとは言っても、
(欧州中
央銀行(ECB)による大量の流動性の供給といった)思い切った政策を打ち出すならば、それがファイアウォー
ルとなると思われることです。3つめは、これが一番議論を呼びそうですが、先週書きました通り、中長期的に
みれば、フランスの選挙結果とそれに続くドイツの政策対応の方が、欧州地域にとっては、ギリシャの選挙より
も大きな意味を持つであろうということです。おそらく、このように考えれば、ドイツのショイブレ財務大臣が
高い賃金水準への方向転換を行ったこと、ならびにドイツ中央銀行が、当面インフレが2%を上回る可能性を認
めたことは、いずれも前向きな展開と理解されるべきだということを、繰り返しお伝えしたいと思います。同様
に、ノルトライン・ヴェストファリア州の選挙結果からすると、欧州地域全域が同じ格付けを得てユーロ建て欧
州共同債を発行する可能性はますます高まったと思われます。経済歴史学者ニオール・ファーガソンが英国のサ
ンデータイムズ紙にそのような内容の記事を掲載していたのを見ましたが、私も同意見です。
欧州。ギリシャ以外の問題
ここまで書いてきたことを踏まえて明らかであると思われるのは、先週のような市場の状況が、さらに 4 週間も
続くとは思われないということです。これまで明らかに市場を席巻してきた危機の伝染を防ぐために、何らかの
政策が打ち出されなければなりません。
ギリシャに次いで危機的な状況にあるのがスペインです。この国の努力に対しては、多くの政策立案者たちが好
意的なコメントを寄せているので、事態を鎮める何らかの措置が講じられることが期待できると思っています。
第 1 四半期の欧州地域の GDP 成長率は、非常に興味深い結果となりました。前四半期対比で変化がなかったこ
とで、マスコミが表立っては景気後退だと書き立てることができないことが興味深いのではなく、変化しなかっ
た理由と、ドイツが予想を上回ってプラス 0.5%であった点が興味深いのです。ここから分かるのは、第 1 四半
期に関しては、欧州地域の方が英国よりも力強い成長を遂げたということです。この点が、実に興味深いのです。
もちろん、私を含む多くは、英国政府が公式に発表する GDP を信頼していません。さまざまな情報や最新の公
式失業率発表からは、まったく違う見方ができます。英国経済も前途多難であるのかもしれませんが、公式の
GDP 発表が示すほど弱くはないと思われます。
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中国
米国出張では、中国に関する質問もたくさん頂戴しました。ボストンでは、わずか 1 時間ばかりのうちに、中
国に関するまったく異なる 2 つの哲学的な議論をしました。個人顧客向けの朝食会でのスピーチの後に、参加者
のひとりが、私の話は、中国共産党をまったく理解していない等の理由でまったく無益であったと発言されまし
た。この方は、非常にご立腹であったので、半ばこの方に襲われるかと思った程です。その後の昼食を交えての
大手投資家の方々との会合では、有力者のひとりが、もはや新たに適切な都市インフラ構築が可能であるのは、
非民主主義国においてのみであり、このことは社会や経済成長に非常に有益なことであると発言されました。
中国からの経済関連指標がこのところ期待はずれのものである点については、引き続き多くの議論がなされまし
た。これに関して私が先週発言したことについて、少し記載したいと思います。金融環境に関する指標等、中国
に関する有用データを追っている者にとって、中国の経済成長が鈍化しつつあることは、おそらくコンセンサス
が示す以上に明らかでした。それで、当社(ここでは、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントのこ
とを指します)では、先週まで、2012 年(および 2013 年)についてコンセンサス対比低い GDP 成長予測をし
ていました。最近のデータの「混乱」の原因の 1 つは、証券会社などにいる人たちが、4 月の工業生産実績に関
する評価を 3%程度見誤ったことです。予想値が 12.2%だったのに対し、実績は 9.3%だったのです。これは大き
な見込み違いで、色々な意味でおかしなことです。しかし、米国出張中皆様にお話ししたのは、もし小売売上高
の伸びが 10%を下回るようであれば、それこそ懸念材料であるということでした。実際の伸びは 14.2%でした。
「大局」的な見地からは、工業生産の伸びに対して、小売売上高の伸びが相対的に高いことは、中国国内での経
済のバランスシフトが上手く行っているシグナルです。工業生産の鈍化が、経済のすべてのセグメントで繰り返
し起こらない限り、なぜ工業生産の伸びが弱いことを過度に心配しなくてはならないのか、とても納得できませ
ん。世界が今中国に望んでいるのは、生産を減らすことと消費を増やすことです。そして、まさにそれが今起こっ
ていることなのです。但し、GDP の全般的なペースを見ると、コンセンサスが予測したよりは少しゆっくりと
起こっているようです。
私が付け加えたい最後のポイントは、多くの欧米諸国とは違って、中国が経済や金融環境を刺激するアプローチ
やツールを、多く持っていることです。温家宝首相のコメントから判断すると、これからさらなる措置が取られ
そうです。(エネルギー効率の高い自動車の利用を定着させることが、先週発表されたようです)
ロシア、BRICs で唯一予想を上回る
出張期間中、新聞は繰り返しその前の週に発表された中国の経済データについて、それ以上書けないほどネガ
ティブな記事を書き立てており、また、ブラジルやインド(これは本当に期待はずれでした)から発信された最
新情報も期待はずれであったことに焦点を当てていました。しかし、皮肉なことに、ロシアの第 1 四半期の GDP
の伸びが、予想を上回るプラス 4.9%だったことを採り上げたものは、ほとんど見当たりませんでした。この報
道があったために、何人かのアナリストが、2012 年通年のロシアの成長予測を上方修正したほどだったのにも
拘らず、そういう状況だったのです。プーチン大統領からの新たな政策実施のシグナルはまだありません。今年
の中盤に開かれるサンクトペテルブルクでの年次国際経済フォーラムに参加する予定ですが、そこで政策に関わ
る考え方を聴けるのではないかと期待しています。もし、それがなければ、かなり失望することになると思いま
す。
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日本も予想を上回った
とても皮肉なことに、G7(先進 7 ヵ国)及び BRICs 諸国のうちで、ほとんどの人々ができれば避けようとして
いる 2 つの国、つまり日本とロシアが、第 1 四半期は、目立って予想を上回る成長を見せました。日本の GDP
は、予想よりも格段に強い年率換算 4.1%を記録しました。もし、あなたが、他の惑星から来た人で、地球で起
こっているこのような状況を知ったなら、この星ではすべてが順調だと思うでしょうし、日本以外の国は、日本
の好調を喜ぶべきと思うでしょう。第 1 四半期の好調さは個人消費に牽引されたものであり、対照的に設備投資
と輸出は、弱い伸びとなっています。(私がお話ししているのは、米国ではなく、日本のことについてです。)
フィナンシャル・タイムズがこの日本のデータに関して掲載した長い記事によると、GDP に占める個人消費の
比率は 71%だったそうです。このことを、非常に低い貯蓄率と考え併せて下さい。そうすると、最近の日本は、
米国よりも米国らしく見えます。例外はもちろん、考えられないほどの円高ですが。
米国では、一体何が起きているのか?
先週発表されたデータの中では、5 月のフィラデルフィア連銀製造業景況指数のマイナス 5.8%という数字が、
非常に気になりました。この数値は、米国出張の間に聞いた話や、他のデータのニュアンスと、真反対のものだっ
たからです。そして、もちろん、予想を上回った 4 月の米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数
の後に発表された数字だったことも影響しています。フィラデルフィア連銀製造業景況指数は、米国全体を対象
とする ISM による調査結果を占う最も優れた先行指標だとする見解(私も含めて)があります。もし、このこと
が 2 週間後の 6 月 1 日に発表される ISM の発表によって確認されると、非常に失望感が大きく、かつ懸念され
る事態となります。そして、当然ながら、すでにご紹介した通り、市場は、フィラデルフィア連銀製造業景況指
数のマイナスという結果を好感しませんでした。
こうした混乱の最中に、フィラデルフィア連銀製造業景況指数は、多分にドイツの ZEW(欧州経済センター)
景況感指数に似ているのではという疑念が大きくなっています。つまり、先行きの悪い展開を示すものではない
かということです。2011 年 8 月の市場の大混乱に続く 2011 年 9 月に、フィラデルフィア連銀製造業景況指数は
落ち込みました。しかし、後から見ると、それは非常に不正確なものとなりました。実際には、この指標は、反
対の方向を示す指標であったのです。ですから、同じことが、もう一度起こる可能性もあると思うのです。6 月
の ISM の発表が出るまでは、神のみぞ知るということではありますが。
先週の出張中には、この突然の製造業の弱さを裏付けるようなものについては、何も情報がありませんでした。
あったとすれば、人気が高まりつつある「アメリカ製造業の再生」というテーマを証明するような情報で、これ
については多くのニュースを聞きました。あるいは、シェールガスや住宅市場の回復に関わる前向きなニュース
も、多く耳にしました。
もちろん、大手米国金融機関が今直面している問題は、非常に高い注目を集めています。 この問題によって、
市場が寒々としたムードになる可能性もなくはありませんが、お会いした投資家のどなたからも、あるいは、ビ
ジネス関連のどんなニュースを見ても、そのような印象は受けませんでした。先週申し上げた通り、金融機関の
損失に関するニュースが、最近流行の包括報道(さまざまな他の報道と一緒くたに報道される形式のニュース)
の中で採り上げられるのは、残念な状態です。おそらく、こうした傾向は、大きな商業銀行が、過去 10 年あま
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り果たしてきた多目的かつ総合的な金融機関としての役割ではなく、むしろ(電気、ガス等の)公共事業体的な
役割を期待されている証かもしれません。
ともかく、やきもきしながらも、次の週を楽しみに待つことにしましょう。政策立案者たちやギリシャの有権者
が、われわれと同様のやきもき感を感じてくれることを望みつつ。
ところで、「チェルスキー*」の優勝を、謹んでお祝いしたいと思います。
*(訳者注)
ロンドンに籍を置くイングランド・プレミアリーグのクラブチーム、チェルシーFC を指す。5 月 19 日
に行われたサッカーの欧州チャンピオンズリーグ決勝で、ドイツのバイエルン・ミュンヘンを下して初優勝。オー
ナーは、ロシアの大富豪アブラモヴィチ氏。
ジム・オニール
ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント会長
(原文:5月21日)
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本資料に記載されているゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)会長ジム・オニール(以
下「執筆者」といいます。)の意見は、いかなる調査や投資助言を提供するものではなく、またいかなる金融商
品取引の推奨を行うものではありません。執筆者の意見は、必ずしもGSAMの運用チーム、ゴールドマン・サッ
クス経済調査部(執筆者の前在籍部署)、その他ゴールドマン・サックスまたはその関連会社のいかなる部署・
部門の視点を反映するものではありません。本資料はゴールドマン・サックス経済調査部が発行したものではあ
りません。追記の詳細につきましては当社グループホームページをご参照ください。
本資料は、情報提供を目的として、GSAM が作成した英語の原文をゴールドマン・サックス・アセット・マ
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