加熱沸騰と減圧沸騰

埼玉工業大学
テーマ L09:
機械工学学習支援セミナー(小西克享)
加熱沸騰と減圧沸騰-1/2
加熱沸騰と減圧沸騰
大気圧のもとで水を加熱すると,水温が上昇しやがて沸騰し始めます.沸騰している状
態の水温(沸点,もしくは沸騰点という)は 100℃で,水が蒸発しきるまで一定のままで
す.このように,外部から熱量を与えて液体を沸騰させる方法を加熱沸騰と呼ぶことにし
ます.図に示すように,加熱沸騰では,水温の変化が飽和して沸点に到達することから,
熱力学では沸点のことを飽和温度といいます.
沸点はどんな圧力でも一定というわけではなく,周囲の圧力が下がると沸点は低下し,
圧力が増加すると沸点も増加します.そこで,一切加熱することなく外気の圧力のみをど
んどん下げると,やがて液体の内部では沸騰現象が起こります.このように,周囲の圧力
を下げる(減圧する)ことで液体を沸騰させる方法を減圧沸騰といいます.沸騰した状態
からさらに圧力を下げようとしても発生した蒸気が減圧分を補うため,圧力は飽和してし
まいます.減圧沸騰では,圧力の変化が飽和して一定となることから,熱力学ではこの圧
力のことを飽和圧力(もしくは飽和蒸気圧)といいます.
水温
飽和温度
∥
沸点
圧力
100℃
0.1013MPa のとき
20℃のとき
沸騰
23.392hPa
飽和圧力
沸騰
加熱時間
減圧時間
水の減圧沸騰
水の加熱沸騰
沸騰状態の液体の圧力と温度は飽和温度と飽和圧力(飽和蒸気圧)の状態にあるといえ
ます.飽和温度と飽和圧力(飽和蒸気圧)の関係を示した表は,
「飽和表」と呼ばれ,温度
を横軸に取ったグラフは,「蒸気圧曲線」といいます.飽和温度と飽和圧力(飽和蒸気圧)
の関係は液体の種類によって異なります.
水の飽和表(圧力基準)
参考:
(新版)機械工学便覧 A6 熱工学(日本機械学会編)より抜粋
圧力
MPa
0.02
0.07
0.1
0.10133
0.15
0.2
温度
℃
60.059
89.96
99.63
100.00
111.37
120.23
比体積, m3/kg
ν'
ν"
0.00101719
7.64977
0.00103612
2.36473
0.00104342
1.69373
0.00104371
1.67300
0.00105303
1.15904
0.00106084 0.885441
比エンタルピ kJ/kg
h'
h"
r=h"-h'
251.453 2609.9 2358.4
376.768 2660.1 2283.3
417.510 2675.4 2257.9
419.064 2676.0 2256.9
467.125 2693.4 2226.2
504.700 2706.3 2201.6
r


h 

h 
比エントロピ kJ/(kgK)
s'
s"
r/T=s"-s'
0.83207 7.90943 7.07735
1.19205 7.48040 6.28834
1.30271 7.35982 6.05711
1.30687 7.35538 6.04851
1.43361 7.22337 5.78976
1.53008 7.12683 5.59675
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加熱沸騰と減圧沸騰-2/2
0.25
圧力 [MPa]
0.2
0.15
0.1
0.05
0
60
70
80
90
100
110
120
130
温度 [℃]
水の蒸気圧曲線
液体を蒸発させるには,蒸発潜熱(気化熱ともいう)が必要です.加熱沸騰では,蒸発
潜熱を直接与えているのに対して,減圧沸騰では熱は与えていないため,減圧すると沸騰
して液体が蒸発する理由は理解しにくいものです.実は,減圧沸騰では,液体は外気から
熱を奪い,それでも足りない分は,自分自身の持つ熱を自己放熱することで蒸発潜熱に当
てているに過ぎません.したがって,減圧中に液体の温度は少しずつ低下することになり
ます.液体の量が極端に少ない場合は,沸騰中に液温が氷点まで下がって凍ってしまうこ
ともあります.
加熱沸騰では,加熱を途中で止めると沸騰は停止してやがて液温は下がり始めます.減
圧沸騰の場合も同様に,減圧を途中で止めると沸騰は停止してやがて容器内の気体の圧力
は上がり始めます.容器内で減圧沸騰を継続するには,減圧をし続ける必要があり,その
間,減圧装置(真空ポンプほか)を駆動させる動力が必要です.一方で,ノズルを用いて
高圧高温水を減圧させると,減圧沸騰の原理から瞬間的に大量の熱量を放出して一挙に温
度を下げることができます.たとえば,水を 5 気圧 150℃から大気圧へ減圧すると 100℃ま
で下がります.この仕組みをエンジンのラジエーターに応用すると装置の小型化が可能で
あり,沸騰冷却形エンジンに応用することができます.
http://www.sit.ac.jp/user/konishi/JPN/L_Support/SupportPDF/Boiling.pdf
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