第 6 回 色光のスペクトル分析

2016 年 10 月 21 日(第 9 版)
第6回
色光のスペクトル分析
1. 目的
太陽光をプリズムに通すと虹のような色の帯(スペクトル)ができる。我々が普段見ている太陽光や蛍光
灯の光は「白色光」であるが、様々な波長の光(=色)の集まりである。それらがどのような割合で混じっ
ているかを表したものをスペクトルと呼び、反対に光からスペクトルを得る手法を分光と呼ぶ。光は電磁波
の 1 種であるが、網膜で感じることができる波長は可視光と呼ばれている。可視光の波長はおよそ 400 nm
から 700 nm の範囲である(nm はナノメートルと読む、10-9 メートル)
。可視光の範囲で波長が長い部分は
赤く見え、波長が短い部分は青紫に見える。スペクトルが眼で見えるということは、特定の波長が人間の網
膜に刺激を与えて色として知覚させていることになる。生理学的には、人間の網膜には錐体細胞とよばれる
色光に反応する視細胞があり、青みの刺激に反応する S 錐体、緑みの刺激に反応する M 錐体、赤みの刺激に
反応する L 錐体があることが知られている。つまり色光はスペクトルをもつが、視細胞によって赤(R)、緑
(G)、青(B)の成分に分けられ大脳に伝えられ、それぞれの信号の割合によって色を知覚していることになる。
一方、コンピュータで色を扱う場合は、色は 3 次元の座標値で表される。よく知られている RGB 表色系
は、赤(R) = 700nm、緑(G) = 546nm、青(B) = 436nm の単色光(3 原色)の混合割合によって色を表現する。
具体的には、R,G,B の各輝度を符号なし 8 ビット整数に符号化して 1 ピクセル当たり 24 ビットの色情報と
して扱う。しかしながら現実には RGB3 原色だけでは表せない色もあるので、測色や表色の分野では、眼の
波長感度特性を詳しく調べて数値化した表色上の 3 原色である 3 刺激値 XYZ が使われる.XYZ 表色系は、色
光のスペクトルと目の感度(等色関数)を乗じたものである(式(1)-(3)参照)
。
この実験の目的は、色光のスペクトル分析を通して色を物理的に理解するとともに、観測されたスペクト
ル情報を 3 刺激値 XYZ に変換し色を定量的に扱う基礎(測色の基礎)を理解することである。
2. 実験準備
実験前に回折格子による分光の原理を調べておくこと。使用器具は、株式会社ナリカ製 簡易分光器 SP-W
とする。実験者は実験ノートの他に鉛筆と定規を各自で用意すること。
3. 実験1: 色光のスペクトルの観察と記録
3-1
実験方法
この実験では図 1 の簡易分光器 SP-W を用いて、以降に説明する色光の分光スペクトルを観察する。また
観察されたスペクトルを、簡易分光器の波長スケールとともにノートに記録しなさい。手順としては、最初
に定規を使って方眼紙に波長スケールを 10nm/2mm 刻みで書き、次いで観察されたスペクトルを鉛筆で図 2
のように描く。スペクトルは 5nm の正確さで読み取り、スペクトル強度が強い光は線を濃く、強度が弱い光
は線を薄く描くこと。スペクトル線は縦に引き、斜めや横に塗りつぶしてはならない。なおスペクトルに同
じ色が数回出現する場合があるが、これは個人の見え方の違いである。同様に赤と緑の間の広い範囲で等色
が成り立つことがある。これは等色の範囲が人によって異なるからである。この実験では個人差も含めて、
1
自分が見た色光のスペクトルを記録すること。
図1
3-2
簡易分光器 SP-W
図2
スペクトルの記録例(波長単位 nm)
白色光の観察
① 自然光
簡易分光器を窓の外に向け自然光を観察する(注意:太陽光は直接見てはならない)。自然光は連
続スペクトルになっていて、波長 400nm から 700nm までスペクトルが連続に広がっていることを確認
できるだろう。
② 蛍光灯の光
簡易分光器を蛍光灯に向けて観察する(直接見ても良い)。蛍光灯の光は自然光と同じような白色
であるがスペクトルは異なっていることが確認できるだろう。
③ ディスプレイの白色表示
パソコンを使い液晶ディスプレイに白色を作り出し観察する。まず、演習室 PC を起動し、[すべて
のプログラム」→[アクセサリ]→[ペイント]を選択する。[ペイント]が起動したら、そのウィンドウ
を全画面表示にして、キャンバス領域(白い領域)の右下のサイズ変更の□をマウスでクリックしな
がらキャンバス領域を拡大させ画面のほぼ全体を白色にする。この状態で簡易分光器を画面に近づけ
観察する。
3-3
色設定された液晶ディスプレイの観察
ペイントの[色の編集]メニューを操作して RGB の数値で色設定したディスプレイを観察しそのス
ペクトルを記録する。①②③は RGB のいずれか 1 つの値が高いので、その波長周辺にスペクトルが見
られるはずである。④⑤⑥は RGB のうち 2 つの値が高いのでそれぞれの波長周辺にスペクトルがみら
れるはずである。⑦は任意の値を設定しての実験である。
① 赤(R)255, 緑(G)0, 青(B)0
② 赤(R)0, 緑(G)255, 青(B)0
③ 赤(R)0, 緑(G)0, 青(B)255
④ 赤(R)255, 緑(G)255, 青(B)0
⑤ 赤(R)0, 緑(G)255, 青(B)255
⑥ 赤(R)255, 緑(G)0, 青(B)255
⑦ 任意の数値の組み合わせ(設定した RGB 値をノートに記録すること)
2
4. 実験 2: 3 刺激値 XYZ への変換
実験 2 では分光スペクトルから 3 刺激値 XYZ までの変換を行う。これは測色の原理の実験でもある。
4-1
3 刺激値 XYZ と測色の原理
測色とは、色を数値化し客観的に見る方法である。測色は対象となる物体に光を照射しその反射光のスペ
クトル強度を計測し、等色関数を乗じて XYZ 表色系(3 刺激値 XYZ)に変換することを言う。XYZ 表色系は
CIE(国際照明委員会)が定める標準的な表色系である。3 刺激値 XYZ が得られれば、L*a*b*系や RGB 系、
CMYK 系、マンセル系など用途にあった表色系に変換できるので、コンピュータを使って色を伝達したり、
コンピュータグラフィクスを加工したり、プリンターで印刷することができる。
3 刺激値とは XYZ の 3 値によって表される値で、ある色と等色するのに必要な 3 原色光の混合量によって
色を表す。
X:赤みの度合い(輝度なし)
Y:緑みの度合いと輝度をもつ
Z:青みの度合い(輝度なし)
もちろんこのような輝度をもたない色光は現実には存在しない。そのため XYZ は 3 原色ではなく 3 刺激値
と呼ばれている。
等色関数は、分光スペクトルを 3 刺激値 XYZ へ変換するために必要な関数である。図 3 は CIE 国際照明委
員会によって示されている標準観測者の等色関数である。x̅は赤みの刺激の感度、y̅は緑みの刺激の感度、z̅
は青みの刺激の感度である。
図 3 XYZ 表色系における等色関数
3
色光の計測の場合、色光光源のスペクトルである放射量相対分光分布E(λ)に等色関数を式(1)のように施
すことにより 3 刺激値 XYZ に変換される。つまり式(1)は [眼の感度]×[色光のスペクトル]と考えること
ができる。なお式(2)の K は比例係数である。
780
X = K∫
x̅(λ)E(λ)dλ
380
780
Y = K∫
y̅(λ)E(λ)dλ
380
780
z̅(λ)E(λ)dλ
Z = K∫
380
・・・式(1)
K = 683(lm/W)
・・・式(2)
一方、色光ではなく物体色を測色する場合は、式(3)式(4)を用いる。
780
X = K∫
S(λ)x̅(λ)R(λ)dλ
380
780
Y = K∫
S(λ)y̅(λ)R(λ)dλ
380
780
Z = K∫
S(λ)z̅(λ)R(λ)dλ
380
・・・式(3)
K=
100
780
∫380 S(λ)y̅(λ)dλ
・・・式(4)
ここでS(λ)は物体を照らすための照射光の分光分布、R(λ)は物体からの反射光のスペクトルである分光
立体角反射率である。つまり式(3)は[照射光の分光分布]×[眼の感度] ×[物体の反射スペクトル]と考え
ることができる。表 1 は[照射光の分光分布]×[眼の感度]に相当する数値表である。S(λ)は測色用の照射
光源標準光源の分光分布が当てられている。表 1 の(1)列はスペクトルの波長、(2)列はS(λ)x̅(λ)、(3)列は
S(λ)y̅(λ)、(4)列はS(λ)z̅(λ)である。この表と計測された反射光スペクトルR(λ)が分かれば物体色を 3 刺激
値 XYZ に変換することができる。なお Y は 0≦Y≦100 である。
表 1 照明光源の分光分布
4
4-2 実験方法
本実験では、物体色の測色を行う。簡易分光器ではスペクトル強度を数値化して取り出せないので、あ
らかじめ測色器で計測された色票とその分光スペクトル分布 R(λ)を与えるのでその値を用いて実験す
る。
まず、Excel を起動し、表1の値を入力する(図 4)
。入力範囲は 400nm から 700nm とする。入力が終わ
ったら入力誤りを確かめるために(2)列(3)列(4)列の合計値のチェックを行う。(2)列の合計は 1042.84、
(3)列は 1064.41、(4)列は 1256.22 である。次に、図 5 の例のように、等色関数のグラフを描く。次に(5)
列に R(λ)を入力し、図 6 の例のようにスペクトルのグラフを描く。グラフにはグラフのタイトル、目
盛、縦軸横軸の名称を入れること。
最後に、図 4 のエクセル表に式(3)の計算が求まるように手を加え、X,Y,Z の値をそれぞれ求め実験ノー
トに記録しなさい。
図4
Excel による 3 刺激値 XYZ 計算表
5
図 5 等色関数のグラフ
色票dkg24の分光スペクトル分布R(λ)
0.1000
0.0900
スペクトル強度R(λ)
0.0800
0.0700
0.0600
0.0500
0.0400
0.0300
0.0200
0.0100
400
410
420
430
440
450
460
470
480
490
500
510
520
530
540
550
560
570
580
590
600
610
620
630
640
650
660
670
680
690
700
0.0000
波長λ [nm]
図6
色票 dkg24 の分光スペクトル分布 R(λ)
4-3 xy 色度座標への変換
一つの色を表すために 3 つの値が必要であると説明したが、色そのものは RGB 原色の混合比で決まるの
で、RGB 全ての光の強さの和を 1 として R と G の光の相対比を使えば、残りの B の相対比は自動的に決ま
6
り、2 つの数値で色を決めることができる。この考え方は XYZ 刺激値にも当てはまる。XYZ 表色系では Y の
みが輝度情報を持つので数値と色の関連がわかりにくい。そこで XYZ 表色系から絶対的な色合いを表現す
るための xyY 表色系が考案された。式(5)に従って 3 刺激値 XYZ は xy 座標空間に変換することができる。
なお xyY の Y は輝度あるから 3 刺激値 XYZ の Y をそのまま使う。
X
X+Y+Z
Y
y=
X+Y+Z
Z
z=
=1−x−y
X+Y+Z
x=
・・・式(5)
図 7 に xy 色度図を示す。例えば x=0.33 の部分は赤みの混色量が約 33%であることを示し、y=0.33 の
部分は緑みの混色量が約 33%であることを示している。(x, y)=(0.33, 0.33)は、z=1-x-y=0.33 なので、z
も約 33%になり、RGB 混合比は等しくなり白色である。ここは白色点と呼ばれ、最も彩度が低い無彩色とな
る部分である。図 8 は xy 色度図とスペクトルの関係を説明した図である。曲線の部分はスペクトル軌跡と
呼ばれ、長波長側から短波長に向かって赤・橙・黄・緑・青・藍・青紫といった色相を表している。彩度は
中心の白色点からその側に向かって高くなる。
前節の実験で得られた 3 刺激値 XYZ を式(5)によって xy 色度に変換し、x, y, z、および Y を実験ノート
に記録しなさい。次いで与えられたスペクトル R(λ)が xy 色度図のどの部分であったかを確認して実験ノ
ートに記録しなさい。
スペクトル軌跡
(色相)
図 7 xy 色度図(カラー表示)
図8
7
xy 色度図(スペクトル軌跡)
5. レポート報告事項
レポートは適切に章立てし、その中に下記の報告を行うこと。
① 回折格子による分光について原理を説明しなさい。
② 実験 1 のスペクトルのスケッチは、色光ごとに方眼紙をレポートに切り貼りしなさい。そしてそれ
ぞれの色光と観察結果にどんな関係があるか考察で説明しなさい。
③ 太陽光と蛍光灯について,同じ白色に見える色光であってもスペクトルが異なるのはなぜか考察で
説明しなさい。
④ 実験 2 の色票スペクトルの 3 刺激値 XYZ の変換の結果(図 4、図 5、図 6 に相当する図)を載せなさ
い。さらに、x, y, z、および Y を報告し、xy 色度図との関係について考察で説明しなさい。
⑤ 色票の 3 刺激値 XYZ を RGB(各 8bit)に変換しなさい。そして、なぜ 3 刺激値 XYZ から RGB への変換
が必要なのか考察で説明しなさい。レポートに色票を貼り付けること。
XYZ から RGB への変換
XYZ 表色系から RGB 表色系への変換は式(6)で与えられる。
3.241
−1.537 −0.4986 𝑋
𝑅′
(𝐺′) = (−0.9692
1.876
0.0416 ) (𝑌 )
𝑍
0.0556 −0.2040
1.051
𝐵′
・・・式(6)
一般にコンピュータ内の色表現は、RGB の各輝度を符号なし 8 ビット整数(0~255)に符号化して扱
う。式(7)によって RGB 各色をガンマ補正(Windows はγ=2.2、Macintosh はγ=1.8)を施し 255 段階に量子
化する。floor[]は整数化である。Rw,Gw,Bw はそれぞれ Rw=100.0, Gw=100.0, Bw=99.29 である。D65 光
源における白色点の RGB 値である。
1
𝑅′ 𝛾
𝑅 = 𝑓𝑙𝑜𝑜𝑟 [( ) × 255]
𝑅𝑤
1
𝐺′ 𝛾
𝐺 = 𝑓𝑙𝑜𝑜𝑟 [( ) × 255]
𝐺𝑤
1
𝐵′ 𝛾
𝐵 = 𝑓𝑙𝑜𝑜𝑟 [( ) × 255]
𝐵𝑤
・・・式(7)
式(7)で得られた RGB 値を Windows のペイントなどのソフトウェアで色指定すると、色票に近い色が表示さ
れるだろう。しかし完全に一致しない場合もある。これはディスプレイの特性によるものである。ディス
プレイの発色と印刷物の色彩を一致させるにはカラーマッチングと呼ばれる技術を使う。興味があればぜ
ひ調べてみてほしい。
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