高齢者専用賃貸住宅賃貸借契約書解説 - 一般財団法人サービス付き

高齢者専用賃貸住宅賃貸借契約書解説
1、
はじめに
高齢者の安定居住の確保並びに居住系サービスの拡充を目指して、「住宅」「福祉」の
観点から「高齢者専用賃貸住宅」制度がスタートして3年以上が経過しました。
「住宅」「福祉」という二つの特性をもった建物であることから現場では混乱、解釈の
相違等が散見されます。
そもそも「施設」は「特定の目的を施すために設けられた建物」であり「住居」は「人
が住むための建物」であることから目的が異なります。目的が異なるので「主役」「主
語」も異なっています。
「施設」では「施す目的があり主語は施す側」にあります。一
方「住居」では「住むことが目的であり主語は住む側」にあります。
特に「賃貸住宅」においては「借地借家法」により賃借人には「借家権」が認められ
ており「借家人保護」が図られていますので留意が必要です。
特に当協会では「高齢者専用賃貸住宅」の標準化、適正化を目指してまいります。そ
のような意味で賃貸借契約書は基本通り適切に締結していただきたいと思います。
「高齢者専用賃貸住宅」は少なくとも「賃貸住宅」であることは明確であり、「入居者
の借家借地法による居住権の保護」が適用されるものと判断されます。有料老人ホー
ムにおける「利用権契約」施設における「入所契約」においては入居者の借家権につ
いて一部認めていない内容のものが散見されますが「高齢者専用賃貸住宅」はいやし
くも「賃貸住宅」である以上「入居者保護の観点から借家権の明確な保護」が必要で
あるといえます。
「有料老人ホーム」と「高齢者専用賃貸住宅」の相違を契約書の文面から「借家権」
をポイントに考えていきたいと思います。
高齢者専用賃貸住宅事業者協会としては倫理要綱に基づきより良質な高齢者居住の実
現を目指してまいります。そのため「適法」であることはもちろん「適正」であるこ
とを追及していきたいと思います。
2、
表題部
(1) タイトルが「賃貸借契約書」となっていますか?
ごく当然のことと考えられますがタイトルは「賃貸借契約書」となっているこ
とが必要です。「利用権契約書」「入所契約書」等はそもそも賃貸住宅の入居権
利形態には適さないといえます。
またタイトルが「賃貸借契約書」となっていても実質的に「利用権契約」
「入所
契約」になっている場合がありますので注意が必要です。タイトルが「賃貸借
契約」となっていても疑義がある場合、入居者の借家権の保護が十分ではない
等の場合には有料老人ホームの届け出が必要です。
また賃貸借契約には「普通賃貸借契約」「定期建物賃貸借契約」「終身建物賃貸
借契約」の三種類があります。
「普通賃貸借契約」では契約の始期と終期が決められていますが「契約更新」
することを前提とした賃貸借契約です。更新の条件を確認することが必要です。
「定期建物賃貸借契約」は予め定めた期間の到来により契約が終了する賃貸借
契約です。契約期間満了時に「契約更新」をすることはできませんので解約、
退去が前提とした賃貸借契約です。書面による契約、書面による「更新がない
ことを示した書面の交付」が条件です。高齢者の安定居住を目的とした「高齢
者専用賃貸住宅」には適さない賃貸借契約といえます。特に短期の定期建物賃
貸借契約は高齢者の安定居住には適さないといえます。
「終身建物賃貸借契約」は入居者が生涯居住することを予定した賃貸借契約で
す。貸主からの解約が厳しく制限されています。但し都道府県知事に届け出、
認可が必要な事業ですので注意が必要です。有料老人ホームにおける「終身利
用権」とは異なることに注意してください。
(2) 目的建物が明示されていますか?
当該契約における目的建物全体が特定されていることが必要です。
(3)住居表示が明示されていますか?
このことも部屋の特定と同様に賃貸住宅では必要です。施設のように「○○内」
というような表示はできません。
(4)建物構造が明示されていますか?
当該建物の構造が明示されていることが必要です。昨今では耐震問題もありま
すので明示することが必要です。
(5) 部屋が特定されていますか?
当該契約における部屋が特定されていることが必要です。居住権は占有部分に
発生するものだからです。
この結果として貸主から借主に「身体状況により部屋の移動をする」というこ
とも賃貸住宅ではできないということになります。このような場合には当事者
間による「合意解約」が必要になります。その後に移動先の部屋で新たな賃貸
借契約を締結することとなります。
(6) 占有面積が明示されていますか?
占有面積とは当該契約における「居室の面積」です。実際の占有面積が記載さ
れていることが必要です。
(7) 間取りが記載されていますか?
賃貸住宅には「ワンルーム」から「1DK」
「2DK」等間取りは様々です。施
設とは異なりますので部屋ごとの間取りが異なっていることが多いので正しく
記載されていることが必要です。
(8) 設備が明示されていますか?
居室内の設備が記載されていることが必要です。備え付けの設備が正しく記載
されていることが必要です。ここでいう設備はハードをさしています。ソフト
サービスは別になります。
(9)共有部分が特定されていますか?
ここで表示される供用部分とは入居者が使用することができる部分をいいます。
共益費で使用できる範囲の部分を明示することが必要です。
(10)共用設備が明示されていますか?
高齢者専用賃貸住宅では「食堂」「キッチン」「浴室」が供用設備となっている
場合があります。このような設備で入居者が自由に使用できる設備が明示され
ていることが必要です。
(11)貸主、借主が明示されていますか?
賃貸住宅では当然のことですが「貸主」と「借主」が明示されていることが必
要です。
「貸主」とは一般的には建物所有者となりますが「一括借上げ契約」
「サブリー
ス契約」等により事業者が借上げている場合には当該事業者となります。
「借主」とは当該賃貸借契約の当事者ですが原則として「入居して居住する方」
になります。有料老人ホーム等では契約はご家族が「借主」となり入居される
方が別という場合も散見されますが賃貸住宅では「借主=入居者」であること
が原則です。
「居住権」「借家権」をもつのは契約当事者である「借主」である
からです。
(12)建物所有者が明示されていますか?
「サブリース契約」等で事業者が建物を一括借上げしている場合には建物所有
者は別となりますので本来の建物所有者が明示されていることが必要です。
(13)一時金がある場合には、その算定根拠、目的、性格、保全方法が明示されてい
ますか?
「一時金」という名目では様々なものが考えられます。
「目的」は何であるか明示する必要があります。
「目的」は前払い賃料、前払い
共益費であったり様々です。前払い賃料については保全措置の有無を確認して
ください。
「性格」は「預かり金」であるのか「一括償却する金員」であるか明示するこ
とが必要です。
「預かり金」である場合には保全措置の方法を明示しておくこと
が必要です。
「保証金」等の表示がなされている場合もありますが「預かり金」であること
が必要です。名目が「保証金」であっても一括償却するケースがありますので
注意してください。
「保証金」を一括償却することはできませんのでこのような
場合には「有料老人ホーム」としての届け出が必要です。
その他「生活支援サービス費」の一括払い、或いは「施設維持協力金」等の表
示がなされている場合がありますが賃貸住宅にはなじみません。有料老人ホー
ムとなります。
なお当協会では一時金は極力避けるものとしたいと思います。
「礼金」という場合がありますが入居時に一括償却するもので「住まわせてい
ただいてありがとうございます」という借主から支払うものです。違法ではあ
りませんが「適正」という観点から好ましくないといえます。特に2ヶ月を超
える礼金については当協会では避けるべきと判断しています。
今回の改正により一時金、6 か月以上の前払い家賃を取る場合には、その算定
根拠、保全措置を講じることが必要になります。ない場合には高円賃=高専賃と
して登録することはできなくなります。
3、
本文
(1) 使用目的は明示されていますか?
高齢者専用賃貸住宅は居住が目的です。
「施設」ではないことを明示するのも好
ましいといえます。
(2) 契約期間が明示されていますか?
賃貸借契約においては契約の始期と終期を明示することが必要です。ここでい
う契約の始期とは賃料が発生する日をさしています。契約日とは異なる場合も
あります。
「定期建物賃貸借契約」となっている場合には注意が必要です。終期
到来の際の更新条件も確認してください。
(3) 賃料・共益費等は明示されていますか?
賃料・共益費は毎月発生する金員です。生活支援サービス費は賃貸借契約に基
づく費用ではありませんが支払うことが入居の条件となっている場合には記載
されていることが好ましいといえます。
生活支援サービスは借地借家法に基づく契約とは別なので契約も別に締結すべ
きです。
賃料・共益費・生活支援サービス費を分けないで表示している場合もあります
がこのような場合には有料老人ホームに該当します。
(4) 敷金は明示されていますか?
敷金とは入居時に支払う保証金としての性格をもっています。通常は月額賃料
の数か月分となっています。また敷金は基本的に預かり金になりますので精算
方式について明確になっている必要があります。
退去時における原状回復方法が定額精算方式の場合には敷金から定額にて精算
しますのでその内容も明確になっていることが必要です。
(5) 居室内の水道光熱費の負担が明示されていますか?
賃貸住宅では居室内の水道光熱費は入居者負担となります。そのことが明示さ
れていなければ共益費に含まれることになりますがその場合であっても明示さ
れていることが必要です。
(6) 鍵の貸与について明示されていますか?
居室の鍵は基本的に入居中に限り入居者に貸与されるものです。数、番号等に
ついて正しく貸与されていることが必要です。
また「居室の鍵」がない場合には賃貸住宅としての性能を備えているとは言い
難いので有料老人ホームと言った方がいいと思います。
(7) 入居中における禁止事項が明示されていますか?
賃貸住宅では自由に生活できることが原則ですが禁止事項がある場合には限定
列挙されていることが必要です。一般的には「ペット飼育禁止」等が考えられ
ます。しかし、外出や飲酒の制限など社会通念に照らしてあまり禁止事項が多
い場合には「住宅」とは考えにくいので「有料老人ホーム」
(=入居者の管理を
行う)として届け出るべきです。
(8) 貸主への通知義務範囲が明示されていますか?
一般的に入居中は自由に生活できるのが賃貸住宅です。自由を制限する借主か
ら貸主への通知義務については限定列挙されていることが必要です。
(9) 入居中における修繕義務と費用負担が明示されていますか?
一般的に入居中には修繕が必要な場合が考えられます。自然損耗については賃
料に含まれるとされていますが「故意または重大な過失」による損害の修繕義
務は入居者の負担となります。
(10)契約の解約条項が明示されていますか?
賃貸住宅では入居者に居住権が保証されており有料老人ホーム等にみられる
利用権とはことなり貸主からの一方的な解約は原則できないとされています。
したがって解約条項が限定列挙されていることが必要です。なお賃貸借契約
において解約条項は当事者間においては有効とされますが紛争の場合には借
家人保護が前提となりますので注意してください。
入居中における部屋の移動についても解約に該当しますので注意が必要です。
(11)解約条項は妥当・適正なものですか?
解約条項が社会通念に照らして合理的、妥当、適正と考えられるものである
か判断してください。入居者が高齢者であることからも例えば「要介護にな
った場合には解約する」というような契約は公序良俗に反します。このよう
な場合には賃貸住宅ではありませんので、一時的な利用権が付いた有料老人
ホームのようなものとなります。
(12)解約方法、期間が明示されていますか?
貸主、借主からの解約方法(文書による、口頭による等)並びに解約期間と
期間中の賃料等の取扱について明示されていることが必要です。
(13)契約期間満了後の更新方法が明示されていますか?
普通賃貸借契約では契約期間満了後の更新方法を明示しておく必要がありま
す。再度賃貸借契約を締結するのか自動更新であるのかその際の費用の有
無・金額等が明示されていることが必要です。
(14)明け渡し時の原状回復方法が明示されていますか?
賃貸住宅では訴訟になりやすい事項なので確認が必要です。実費精算する場
合には入居時、退去時とも立ち会って確認することが明示されていることが
必要です。定額精算方式の場合には内容、金額が妥当なものであるか確認す
ることが必要です。
(15)甲の物件立ち入り条項が明示されていますか?
賃貸住宅では借主は居住件により保護されており居室内への貸主の立ち入り
は原則として認められていません。社会通念に照らして真にやむを得ない場
合に限定されるべきです。火災等の事故により緊急を要する場合、或いは借
主の要請による場合等を限定列挙すべきです。
(16)連帯保証人の責任・義務について明示されていますか?
連帯保証人は借主に連帯して貸主に対して賃料債務に責任を負うものです。
形式的になっていないか確認が必要です。
(17)身元引受人の責任・義務について明示されていますか?
身元引受人は借地借家法、民法の要請によるものではなく高齢者の賃貸住宅
入居に際して新たに定義されたものです。そのため責任・義務の内容は個々
の契約により決定されます。一般的には借主の身元を引き受けること、退去
時の残荷の処理権限等をもつこととされていますが責任・義務が明示されて
いることが必要です。
(18)管理方法、委託先が明示されていますか?
賃貸住宅の管理運営方法については様々なケースがあります。大家さんが全
般を管理している場合、賃料回収のみ管理会社に委託している場合、賃料回
収に止まらず入居開始から入居中、退去について全般の管理運営を委託して
いる場合まで様々です。管理運営方法、管理主体、連絡方法を明示している
ことが必要です。