金属腐食の分担電流 モニタリング装置の 開発

金属腐食の分担電流 モニタリング装置の 開発
"本研究では、 DAQボードを用い
て金属腐食の分担電 流測定装置を試作
し、溶接部の腐食分 布測定に応用して定
量的な解析を行うこ とができました。"
- 北海道大学 工 学研究科, 伏見 公志氏
課題:
本課題では、水溶液 環境におかれたさま ざまな金属材料上に おける腐食反応の分 担状況を解析あるい はモニタリングする ことを目的として、
DAQボードと LabVIEW、そ してDAQmx Baseを組み合わ せた測定装置を開発 した。
ソリューション:
本研究では、用途に 応じて2種類の装置 を試作した。
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お客様名:
北海道大学 工学研 究科 - 伏見 公 志氏
北海道大学 工学研 究科 - 安住 和 久氏
北海道大学 工学研 究科 - 長沼 淳 氏
背景
現代文明は、各種 の建築物や機器を形 づくる様々な材料が 長期にわたり安全に 使用できることによ り維持されている。 しかし多くの金属材
料は熱力学的に「さ びる」運命にある。 この「さびる」速度 をいかに遅くして製 品寿命を延ばすか が、現代文明にとっ て避けることのでき
ない課題となる。金 属の腐食は、原子状 態の金属原子がイオ ンあるいは酸化物の 状態に変化する「酸 化反応」と、酸素や 水分解が関与する
「還元反応」の組合 わさった「電気化学 反応」として理解さ れている。このプロ セスでは電子がやり 取りされるため、反 応速度を「電流」と
して測定することが できる。実際の金属 腐食では、材料組成 の違いや環境によっ て部分的に「酸化反 応」と「還元反応」 が分担され、腐食が
進行することが多 い。そこで本課題で は、水溶液環境にお かれたさまざまな金 属材料上における腐 食反応の分担状況を 解析あるいはモニタ
リングすることを目 的として、DAQ ボードと LabVIEW、そ してDAQmx Baseを組み合わ せた測定装置を開発 した。
ソリューション
図1に基本的な装 置の構成を示す。水 溶液環境中で腐食し ている金属上では、 腐食反応(アノード 反応)とこれにより 生成した電流を消費
するカソード反応が 同時に起こる(これ を「カップリング」 という)。このよう な反応の空間的な分 布状況を知るため に、試料を幾つかの
小片に分割し、それ ぞれの間に流れる電 流を測定する。ただ し、試料で起こる反 応は試料と水溶液の 間の電気化学的電位 差で大きく変化する
ため、各試料片は同 じ電位に保つ必要が ある。このため、各 試料片をオペアンプ を用いて仮想接地 し、電子回路から見 て0 Vとなるよう
にする。またこのと き各試料から流れる 電流が、オペアンプ により電圧に変換さ れて出力される。こ の電圧をDAQボー ドで読み込み、各試
料の分担電流を測定 することができる。 また各試料から外部 に電流が流れない状 態にすると(開回路 状態)、試料と溶液 の間の電位差は試料
表面で起きているア ノード反応とカソー ド反応の相対的な大 きさで決まるように なる。すなわち、開 回路状態の試料電位 を測定することによ
り、試料表面の腐食 状態に関する情報が 得られる。これを 「浸漬電位測定」と いう。溶液の電気化 学的電位は「参照電 極」を用いて測定す
る。本装置では、一 定時間間隔で「分担 電流測定」と「浸漬 電位測定」を切り替 えて測定するため、 低抵抗の Photo-MOS リレーを用いて回路
内部の接続状態を変 えている。このリ レーの制御用にデジ タルI/Oを使用し ている。
本研究では、 用途に応じて2種類 の装置を試作した。 装置Aは10分割し た試料を想定してお り、溶接部の腐食速 度分布測定やすきま
腐食計測に用いてい る(図2)。多数の 測定/制御端子が必 要なので、DAQ ボードとしてNI PCI-6229を 用いた。制御ソフト ウェアは Windows上の
LabVIEWによ り開発した。電気化 学系では電流値が n Aからm A程 度まで大きく変化す るため、A Dコン バータの分解能は高 い方が望ましい。 NI
PCI- 6229は16 bit分解能を持 ち、増幅率可変のプ リアンプが内蔵され ているのが選定理由 である。また外来ノ イズを低減するため
に、装置全体を恒温 装置を兼ねたシール ドボックスに収め た。化学反応の速度 は温度によって変化 するため、NI PCI-6229で 溶液温度測定とペル
チェ冷却器のo n/of f制御を 行い、水溶液の温度 を25 ℃に維持し ている。
装置Bは4分 割した試料とノート パソコンの使用を想 定してDAQボード にNI USB- 6009を採用した (図3)。NI USB-6009は 多くのアナログおよ
びデジタル入出力端 子を持つが、分担電 流測定、浸漬電位測 定、リレー制御、測 定系の環境制御のた めにこれらのほとん どの端子を使ってい る。NI
USB- 6009は安価で入 力レンジ切替付き 14 bit分解能 のADコンバータを 持つが、これは差動 入力時のみ有効であ り、また入力イン
ピーダンスが低くオ ペアンプによる外部 バッファ回路を必要 とするなど制約が大 きかった。制御ソフ トウェアは DAQmx Base 2.0を 用い、MacOS X
10.4上でC 言語で作成した。 Mac OS Xは Cコンパイラや IDE、perl、 rubyなど開発環 境が標準添付されて おり、UNIX系 OSとしては格段に
使いやすい。
図1. 測定装置の 概要
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図2. 測定装置A の写真
図3. 測定装置B の写真
測定結果例
装置Aを、ステン レススチールの基材 を異種金属で溶接し た試料の腐食分布状 況測定に応用した結 果の例を図2に示 す。各試料の面積は
1×1cmで、溶接 部付近を切り出して 9個の試料片(1つ の溶接材#0と8個 の基材#1-7)を 調整し、樹脂に埋め 込んだ状態で工業用 水相当水溶液(希釈
食塩水)に浸漬し た。工業用水中では 海水等と比較して腐 食速度が小さく、浸 漬後150 ks程 度から腐食電流が顕 在化し、アノード電
流(腐食反応)とカ ソード電流(水溶液 中にとけ込んだ酸素 の還元反応)を分担 する試料に分かれて いる様子がわかる。 腐食試料におけるア
ノード電流はいった ん増加した後減少に 転じている。これは 腐食試料表面ではま ず金属の溶解反応が 起こり、ついで溶解 した金属イオンが表
面に腐食生成物(い わゆる錆)を形成し て腐食反応をある程 度抑制することを表 している。図4で は、このような反応 が幾つかの試料片で
順次起こっているこ とがわかった。腐食 反応は主に#2、 #3 の試料で持続 的に起こっており、 一方カソード反応は #0と#4で優先的
に分担されている。 従って、これらの部 分で腐食しやすい、 あるいはカソード反 応が起こりやすい特 異的な条件が存在す ることが予想され
る。特に基材では、 同じ材料であるにも かかわらずアノード とカソードに役割が 分担され、全体とし ての腐食速度を高め ていることがわか る。
図5に各試料の 分担電流の経時変化 を、図6に腐食試験 後の試料の写真を示 す。アノード電流が 流れていた試料で錆 が形成され、カソー
ド電流が流れていた 試料では錆があまり 形成されていないこ とが確認できる。
図4. 溶接したス テンレス鋼のを工業 用水中に浸漬した際 の分担電流の分布状 況
図5. 試料片毎の 分担電流の経時変化
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図6. 浸漬実験後 の試料の腐食状況
まとめ
本研究では、 DAQボードを用い て金属腐食の分担電 流測定装置を試作 し、溶接部の腐食分 布測定に応用して定 量的な解析を行うこ
とができた。本装置 はこの他にもすきま 腐食環境中の腐食速 度分布解析、塗膜被 覆材の端面腐食の解 析などに用いてい る。本装置は多チャ
ンネルのアナログ入 力、デジタル出力を 必要とすることか ら、マルチファンク ションDAQボード を有効に活用するこ とができた。また装
置としてはDAQ ボードのアナログ出 力を用いて多チャン ネル同時分極測定も 可能な構成となって おり、様々な電気化 学系への応用が可能 である。
お客様情報:
北海道大学 工学研 究科
伏見 公志氏
図2. 測定装置A の写真
法律関連事項
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